説明

2,3−ジハロビフェニレン誘導体、その前駆化合物及び製造方法

【課題】有機半導体等の電子材料の合成原料として利用が可能な2,3−ジハロビフェニレン誘導体の前駆化合物であるテトラハロビフェニル誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】テトラハロベンゼンと2−ハロアリール金属試薬をパラジウム及び/又はニッケル触媒存在下で反応するテトラハロビフェニル誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な2,3−ジハロビフェニレン誘導体及びその前駆体である新規なテトラハロビフェニル誘導体、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜トランジスタに代表される有機半導体デバイスは、省エネルギー、低コスト、及びフレキシブルといった無機半導体デバイスにはない特徴を有することから近年注目されるようになった。有機薄膜トランジスタは有機半導体活性相、基板、絶縁相、電極等数種類の材料から構成されるが、中でも電荷のキャリアー移動を担う有機半導体活性相は該デバイスの中心的な役割を有している。この有機半導体活性相を構成する有機材料のキャリアー移動能により半導体デバイス性能が左右される。
【0003】
ペンタセン等の棒状構造のアセン類はアモルファスシリコン並みの高いキャリアー移動度を有し、優れた半導体デバイス特性を発現することが報告されている(非特許文献1参照)。棒状構造のアセン類の原料として、2,3−ジブロモナフタレン及び2,3−ジブロロモアントラセンが用いられている(非特許文献2参照)。しかし、2,3−ジブロモナフタレンの合成には毒性を有するヘキサクロロシクロペンタジエンを用いる必要があり環境上好ましくない(非特許文献3参照)。また2,3−ジブロモアントラセンはその合成に多工程を要し、低収率となる問題があった(非特許文献2及び4参照)。さらにこのような原料から合成されるアセンはその強い凝集性のため溶解性が低いため、半導体活性相の形成を塗布法により経済的に行う方法には適さない。
【0004】
一方、ビフェニレン構造を持つ化合物はアセン類とは異なり適度の凝集性及び溶解性を有することから、塗布による半導体活性相の形成が可能な有機半導体活性相構成材料の原料として期待されている。
【0005】
ビフェニレン誘導体を製造する方法として、ジブロモビフェニルをn−ブチルリチウムを用いてジリチオ化し、塩化亜鉛/塩化銅(II)若しくは塩化銅(II)で処理する反応が知られている(非特許文献5参照)。しかし、この方法は原料として目的の反応箇所以外にもハロゲンを有するビフェニルを用いた場合、選択的なジリチオ化が困難であり、目的反応箇所以外のハロゲンもリチオ化されてしまう、という問題がある。又、2,3−ジヨードビフェニレンの合成方法がヴォルハートらにより開示されている(非特許文献6参照)。しかし、この方法は多工程から成ることに加え、その前駆体である2,3−ビス(トリメチルシリル)ビフェニレン合成において光照射下で高価なシクロペンタジエニルコバルトジカルボニルを触媒とし(7.5モル%)、ビス(トリメチルシリル)アセチレンを多量に用いることから経済的に好ましくない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「ジャーナル オブ アプライド フィジックス」、(米国)、2002年、92巻、5259〜5263頁
【非特許文献2】「オルガニック レターズ」、(米国)、2000年、2巻、85〜87頁
【非特許文献3】「ジャーナル オブ オルガニック ケミストリー」、(米国)、1983年、48巻、2364〜2366頁
【非特許文献4】「シンセシス」、1988年、628〜630頁
【非特許文献5】「ジャーナル オブ ケミカル ソサイエティー、パーキン トランザクション 1」(英国)、2001年、159〜165頁
【非特許文献6】「ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイエティー」、(米国)、1985年、107巻、5670〜5687頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術が有する問題点に鑑み、新規な2,3−ジハロビフェニレン誘導体及びその前駆体となる新規なテトラハロビフェニル誘導体、並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。特に、本発明はフッ素等の置換基を選択的に有することが可能な2,3−ジハロビフェニレン誘導体の提供を目的とし、さらに塗布法による半導体活性相の形成が可能な有機半導体相構成材料の原料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、新規な特定の2,3−ジハロビフェニレン誘導体、及びそれを製造する特定の方法を見出し、本発明を完成させた。さらに本発明者らは、該特定の2,3−ジハロビフェニレン誘導体の前駆体となる新規なテトラハロビフェニル誘導体を見出し、且つそれを製造する特定の方法を見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明者らは、新規な特定の2,3−ジハロビフェニレン誘導体、及びその前駆化合物である新規な特定のテトラハロビフェニル誘導体、並びにそれらの製造方法を見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0010】
説明は、2,3−ジハロビフェニレン誘導体、その前駆体となるテトラハロビフェニル誘導体、及びそれらの製造方法の順に行う。
【0011】
(2,3−ジハロビフェニレン誘導体)
まず、本発明の2,3−ジハロビフェニレン誘導体について述べる。
【0012】
本発明の2,3−ジハロビフェニレン誘導体は下記一般式(1)で表される。
【0013】
【化1】

(ここで、置換基X及びXは同一又は異なって、臭素又はヨウ素を示し、R〜Rは同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基若しくはハロゲン化アルキル基、炭素数4〜20のアリール基、炭素数3〜30のトリアルキルシリル基、又はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれるハロゲン原子を示す。なお、R〜Rの内、任意の二以上のものは互いに結合することができる。但し、R〜Rが水素原子である時、X及びXは同時にヨウ素ではない。R、R、R、Rが水素原子である時、X、X、R、及びRが同時に臭素ではない。)
本発明の一般式(1)の置換基について、さらに述べる。
【0014】
置換基X及びXは、好ましくは臭素であり、特に好ましくは共に臭素である。
【0015】
置換基R〜Rにおける、炭素数1〜20のアルキル基は特に限定されず、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ネオペンチル基、オクチル基、ドデシル基等を挙げることができ;炭素数1〜20のハロゲン化アルキル基は特に限定されず、例えばトリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、パーフルオロヘキシル基等を挙げることができ;炭素数4〜20のアリール基は特に限定されず、例えばフェニル基、p−トリル基、p−フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、p−(トリフルオロメチル)フェニル基、ピリジニル基、テトラフルオロピリジニル基、2−チエニル基、2,2’−ビチエニル−5−基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、ビピリジニル基等を挙げることができ;炭素数3〜30のトリアルキルシリル基は特に限定されず、例えばトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリブチルシリル基、トリオクチルシリル基、トリイソブチルシリル基を挙げることができる。
【0016】
なお、置換基R〜Rの内、任意の二以上のものが互いに結合した場合、その結合は置換基を有しないベンゼン環を除き、特に限定はなく、例えば、置換基を有するベンゼン環、置換基を有してもよいシクロヘキサン環、置換基を有してもよいチオフェン環等を挙げることができる。
【0017】
置換基R〜Rにおけるハロゲン原子は、好ましくはフッ素である。
【0018】
さらに、特に好ましくは、置換基R〜Rは水素原子及び/又はフッ素である。
【0019】
但し、R〜Rが水素原子の場合、X及びXは同時にヨウ素であることはない。さらに、R、R、R、Rが水素原子である時、X、X、R、及びRが同時に臭素であることはない。
【0020】
本発明の一般式(1)で示される2,3−ジハロビフェニレン誘導体に特に限定はなく、例えば以下の化合物を挙げることができる。
【0021】
【化2】

(テトラハロビフェニル誘導体)
次に、本発明の一般式(1)で示される2,3−ジハロビフェニレン誘導体の前駆化合物であるテトラハロビフェニル誘導体について述べる。
【0022】
本発明の一般式(1)で示される2,3−ジハロビフェニレン誘導体の前駆化合物であるテトラハロビフェニル誘導体は下記一般式(2)で示される化合物である。
【0023】
【化3】

(ここで、置換基X及びXは同一又は異なって、臭素、塩素又はヨウ素を示し、X及びXは同一又は異なって、臭素又はヨウ素を示し、R〜R12は同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基若しくはハロゲン化アルキル基、炭素数4〜20のアリール基、炭素数3〜30のトリアルキルシリル基、又はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれるハロゲン原子を示す。R〜R10の内、任意の二以上のものは互いに結合することができる。)
本発明の一般式(2)の置換基について、さらに述べる。
【0024】
置換基X及びXは、好ましくは臭素であり、特に好ましくは共に臭素である。
【0025】
置換基X及びXは、好ましくはヨウ素であり、特に好ましくは共にヨウ素である。即ち、一般式(2)で示されるテトラハロビフェニル誘導体のX及びXが係る好ましい形態を採ることにより、一般式(1)で示される2,3−ジハロビフェニレン誘導体のより好ましい前駆化合物として用いられることができる。
【0026】
置換基R〜R12における、炭素数1〜20のアルキル基は特に限定されず、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ネオペンチル基、オクチル基、ドデシル基等を挙げることができ;炭素数1〜20のハロゲン化アルキル基は特に限定されず、例えばトリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、パーフルオロヘキシル基等を挙げることができ;炭素数4〜20のアリール基は特に限定されず、例えばフェニル基、p−トリル基、p−フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、p−(トリフルオロメチル)フェニル基、ピリジニル基、テトラフルオロピリジニル基、2−チエニル基、2,2’−ビチエニル−5−基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、ビピリジニル基等を挙げることができ;炭素数3〜30のトリアルキルシリル基は特に限定されず、例えばトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリブチルシリル基、トリオクチルシリル基、トリイソブチルシリル基を挙げることができる。
【0027】
なお、置換基R〜R12の内、任意の二以上のものが互いに結合した場合、その結合は特に限定はなく、例えば、置換基を有していてもよいベンゼン環、置換基を有してもよいシクロヘキサン環、置換基を有してもよいチオフェン環等を挙げることができる。
【0028】
置換基R〜R12におけるハロゲン原子は、好ましくはフッ素である。
【0029】
さらに、特に好ましくは、置換基R〜R10は水素原子及び/又はフッ素であることが特に好ましい。
【0030】
本発明の一般式(2)で示される2,3−ジハロビフェニレン誘導体の前駆化合物であるテトラハロビフェニル誘導体に特に限定はなく、例えば以下の化合物を挙げることができる。
【0031】
【化4】

(2,3−ジハロビフェニレン誘導体製造方法)
次に、本発明の一般式(1)で表される2,3−ジハロビフェニレン誘導体の製造方法について述べる。なお、製造方法として異なる2種類の方法について述べる。
【0032】
(2,3−ジハロビフェニレン誘導体製造方法 − その1)
本発明の一般式(1)で表される2,3−ジハロビフェニレン誘導体は一般式(2)で示されるテトラハロビフェニル誘導体から製造することができる。
【0033】
即ち、一般式(2)で表されるテトラハロビフェニル誘導体をアリールリチウムを用いて置換基X及びXをジリチオ化し、さらに銅化合物と反応させることにより、一般式(1)で表される2,3−ジハロビフェニレン誘導体を製造することができる。
【0034】
一般式(2)の置換基X及びXのジリチオ化に用いるアリールリチウムは特に限定されず、置換基X及びXを選択的にジリチオ化できるものであれば良い。具体例として、例えば、フェニルリチウム、p−フルオロフェニルリチウム、m−フルオロフェニルリチウム、o−フルオロフェニルリチウム、p−クロロフェニルリチウム、3,5−ジフルオロフェニルリチウム、p−(トリフルオロメチル)フェニルリチウム、1,1’−ビフェニル−4−リチウム、1−ナフチルリチウム等を挙げることができ、好ましくはp−フルオロフェニルリチウムである。係る、アリールリチウムの調製は、対応するアリール基を有するハロゲン化アリールをn−ブチルリチウム等のアルキルリチウムを用いてハロゲンをリチオ化することで調製することができる。
【0035】
一般式(2)で示されるテトラハロビフェニル誘導体のジリチオ化反応は、好ましくは溶媒中で実施する。用いる溶剤に特に限定はなく、例えばテトラヒドロフラン(以後、THFと略す)、ジエチルエーテル、ジオキサン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン等を挙げることができ、好ましくはTHFである。又、これら溶剤は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良い。係るジリチオ化反応において、用いるアリールリチウムの量は一般式(2)で示されるテトラハロビフェニル誘導体に対し、1.2〜3.8当量の範囲であり、好ましくは1.8〜3.2当量の範囲である。ジリチオ化反応の温度は−110〜20℃であり、好ましくは−100〜−50℃である。反応時間は0.5〜120分の範囲であり、好ましくは1〜30分である。
【0036】
ジリチオ化された一般式(2)示されるテトラハロビフェニル誘導体を銅化合物と反応させる際に用いる銅化合物は特に限定されず、ジリチオ化物と反応するものであれば良い、具体例として、例えば塩化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(II)、酢酸銅(II)、アセチルアセトナート銅(II)等の2価銅、又は塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、酢酸銅(I)等の1価銅等を挙げることができ、好ましくは2価銅であり、特に好ましくは塩化銅(II)である。
【0037】
ジリチオ化された一般式(2)示されるテトラハロビフェニル誘導体と銅化合物との反応は、好ましくは溶媒中で実施する。用いる溶剤に得に限定はなく、例えばTHF、ジエチルエーテル、ジオキサン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げることができ、好ましくはTHFである。又、これら溶剤は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良い。係る銅化合物との反応において、用いる銅化合物の量は一般式(2)で示されるテトラハロビフェニル誘導体に対し、0.8〜10.0当量の範囲であり、好ましくは1.5〜4.0当量の範囲である。係る銅化合物との反応の温度は−110〜50℃であり、好ましくは−100〜20℃である。反応時間は1〜24時間であり、好ましくは2〜16時間である。
【0038】
(2,3−ジハロビフェニレン誘導体製造方法 − その2)
また、別の方法として、本発明の一般式(1)で表される2,3−ジハロビフェニレン誘導体は一般式(2)で示されるテトラハロビフェニル誘導体を、銅又は銅化合物と反応させることで製造することもできる。
【0039】
該反応で用いられる銅又は銅化合物は特に限定されず、ヨウ素又は臭素と反応するものであれば良い。具体例として、例えば銅、塩化銅(I)、臭化銅(I),ヨウ化銅(I)、臭化銅(II),ヨウ化銅(II)を挙げることができ、好ましくは銅である。また、この銅は亜鉛及び/又はスズとの合金であっても何ら差し支えなく使用することができる。なお、係る銅及び/又は銅合金の形状としては粉体状が好ましい。この銅、銅合金又は銅化合物との反応は溶媒を用いて、若しくは用いないで実施することができる。溶媒を用いる場合、その溶媒例としてN,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、アセトニトリル又はジメチルスルホキサイド等の極性溶媒を挙げることができる。係る銅又は銅化合物との反応において、用いる銅又は銅化合物の量は一般式(2)で示されるテトラハロビフェニル誘導体に対し、1〜50当量、好ましくは5〜30当量の範囲であり、反応温度は30〜250℃、好ましくは50〜250℃であり、反応時間は1〜120分、好ましくは3〜80分である。かくして得られた、本発明の一般式(1)で表される2,3−ジハロビフェニレン誘導体は、さらに精製することができる。精製する方法は特に限定されず、例えばカラムクロマトグラフィー、再結晶化、あるいは昇華による方法を挙げることができる。
【0040】
(テトラハロビフェニル誘導体製造方法)
さらに、本発明の一般式(2)で示されるテトラハロビフェニル誘導体の製造方法につ
いて述べる。
【0041】
本発明の一般式(2)で示されるテトラハロビフェニル誘導体は下記一般式(3)で示されるテトラハロベンゼンと下記一般式(4)で示される2−ハロアリール金属試薬をパラジム及び/又はニッケル触媒存在下で反応させることで製造することができる。
【0042】
【化5】

(ここで、Xは臭素又はヨウ素を示し、Xは臭素又はヨウ素を示し、その他の記号は一般式(2)で示される記号と同意義を示す。)
【0043】
【化6】

(ここで、MはMg、B、Zn、Sn又はSiのハロゲン化物、ハイドロオキサイド、アルコキサイド又はアルキル化体を示し、Xは臭素又はヨウ素を示し、その他の記号は一般式(2)で示される記号と同意義を示す。)
本発明の一般式(3)で示されるテトラハロベンゼンの置換基Xは、好ましくはヨウ素である。
【0044】
本発明の一般式(4)で示される2−ハロアリール金属試薬の置換基MはMg、B、Zn、Sn又はSiのハロゲン化物、ハイドロオキサイド、アルコキサイド又はアルキル化体であり、上記のパラジウム及び/又はニッケル触媒と反応し、パラジウム及び/又はニッケルと置換できる基である限り特に限定はなく、例えば、MgCl、MgBr、B(OH)、ZnCl、ZnBr、Si(Bu−n)又はSn(Bu−n)を挙げることができ、好ましくはB(OH)又はZnClである。
【0045】
一般式(4)で示される2−ハロアリール金属試薬は公知の方法により得ることができる。たとえば、アリールジハロゲン置換体をイソプロピルマグネシウムブロマイド等のグリニャール試薬、あるいはn−ブチルリチウム等の有機リチウム試薬によりハロゲン/金属交換反応を行った後、塩化亜鉛あるいはトリメトキシボラン等と反応させることで調製することができる。なお、トリメトキシボランと反応させた時は、酸性水溶液でさらに処理することでB(OH)基を導入することができる。
【0046】
一般式(3)で示されるテトラハロベンゼンと一般式(4)で示される2−ハロアリール金属試薬の反応に用いる触媒はパラジウム及び/又はニッケル触媒であれば特に限定されず、例えば、パラジウム触媒の具体例として、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム/トリフェニルホスフィン混合物、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム、ジアセタトビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロ(1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)パラジウム、酢酸パラジウム/トリフェニルホスフィン混合物、酢酸パラジウム/2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)−1,1’−ビフェニル混合物等を挙げることができ;ニッケル触媒の具体例として、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、ジクロロ(1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)ニッケル等を挙げることができる。中でも、好ましい触媒は0価のパラジウム化合物であり、特に好ましい触媒はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムである。又、これら触媒は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良い。
【0047】
反応における、一般式(4)の2−ハロアリール金属試薬使用量は一般式(3)のテトラハロベンゼンに対し、0.8〜2.2当量であり、好ましくは1.0〜1.8である。又、反応に用いられるパラジウム及び/又はニッケル触媒の量は一般式(3)のテトラハロベンゼンに対し、0.1モル%〜20モル%であり、好ましくは0.5モル%〜10モル%である。
【0048】
反応は、好ましくは溶媒中で実施する。用いる溶媒に特に限定はなく、具体例として、THF、ジエチルエーテル、ジオキサン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、エタノール、水等を挙げることができ、又、これら溶剤は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良い。例えば、トルエン/エタノール/水のような3成分系でも使用することができる。
【0049】
反応の温度は10〜100℃であり、好ましくは30〜90℃である。反応時間は0.5〜72時間であり、好ましくは1〜15時間である。
【0050】
通常、一般式(3)のテトラハロベンゼンの様な多ハロゲン置換ベンゼンを一般式(2)で示されるテトラハロビフェニル誘導体の原料に用いると、原料及び生成物の脱ハロゲン反応が起こり目的とする前駆化合物を得ることは難しい。しかしながら、本発明は、本発明の2−ハロアリール金属試薬及び触媒を用いることにより、脱ハロゲン反応を抑制し、選択的にクロスカップリング反応を促進し、目的物とする一般式(2)で示されるテトラハロビフェニル誘導体を効率的に得ることができる。ひいては一般式(1)で示される2,3−ジハロビフェニレン誘導体を選択的且つ効率的に得ることができる。加えて、本発明により、フッ素等の置換基を有する該テトラハロビフェニル誘導体、ひいてはフッ素等の置換基を有する該2,3−ジハロビフェニレン誘導体を選択的且つ効率的に得ることができる。
【0051】
本発明の一般式(1)で示される2,3−ジハロビフェニレン誘導体は、電子ペーパー及び有機EL等のフレキシブルディスプレイ、あるいはICタグ用のトランジスタの有機半導体材料の原料として、さらに有機半導体レーザー材料の原料として利用することができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明は一般式(1)で示される新規な2,3−ジハロビフェニレン誘導体、及びそれを製造する新規な方法、並びに該2,3−ジハロビフェニレン誘導体の前駆体となる新規なテトラハロビフェニル誘導体、及びそれを製造する新規な方法を提供する。さらに、本発明によりフッ素等の置換基を有する2,3−ジハロビフェニレン誘導体、及びその前駆化合物であるテトラハロビフェニル誘導体を提供できる。
【0053】
本発明の2,3−ジハロビフェニレン誘導体はホモカップリング反応が可能であるためビ(ビフェニレン)構造を持つ化合物の原料として有用であり、塗布による半導体活性相の形成が可能な有機半導体活性相構成材料の原料として利用することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0055】
生成物の同定にはH−NMRスペクトル及びマススペクトルを用いた。なお、H−NMRスペクトルは日本電子製JEOL GSX−270WB(270MHz)を用いて、マススペクトル(MS)は日本電子製JEOL JMS−700を用いて、試料を直接導入し、電子衝突(EI)法(70エレクトロンボルト)を用いて測定した。
【0056】
反応における溶媒は市販の脱水溶媒をそのまま用いた。
【0057】
実施例1 (4,5−ジブロモ−2,2’−ジヨードビフェニルの合成)
一般式(3)で示されるテトラハロベンゼンとして、1,2−ジブロモ−4,5−ジヨードベンゼンを「シンレット」、2003年、29〜34頁に記載されている方法を参考に、1,2−ジブロモベンゼンから合成した。
【0058】
一般式(4)で示されるアリール金属試薬を次の方法で得た。窒素雰囲気下、300mlシュレンク反応容器に1,2−ジヨードベンゼン8.13g(24.6mmol)及びTHF35mlを加えた。この溶液を−70℃に冷却し、イソプロピルマグネシウムブロマイド(関東化学製、0.65M)のTHF溶液40ml(26mmol)を滴下した。30分間かけて−65℃まで温度を上げた後、その温度で塩化亜鉛(シグマ−アルドリッチ製、1.0M)のジエチルエーテル溶液26ml(26mmol)を滴下した。溶液を徐々に室温まで昇温した後、生成した白色スラリー液を減圧濃縮し白色固体を得た。
【0059】
得られた白色固体に、1,2−ジブロモ−4,5−ジヨードベンゼン10.08g(20.6mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成製)691mg(0.597mmol)、及びTHF56mlを添加した。加熱還流条件で3時間反応を実施した後、容器を水冷し3N塩酸20mlを添加することで反応を停止させた。反応後の混合液を減圧濃縮し、溶媒を留去した。析出した固体を濾液が中性になるまで水で洗浄し、さらにヘキサンで洗浄した。この得られた混合物を減圧乾燥した後、トルエン22mlを用いて、再結晶で精製した。析出した固体を濾過し、トルエン2ml及びヘキサン8mlで洗浄した。減圧乾燥後、4,5−ジブロモ−2,2’−ジヨードビフェニルの白色固体を得た(7.58g,収率65%)。
融点:177〜179℃(分解)
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.16(s,1H),7.93(d,J=
7.8Hz,1H),7.43(s,1H),7.42(t,J=7.6Hz,1H),7.17〜7.06(m,2H)
MS m/z: 564(M,25%),437(M−I,80),310(M−2I,26),150(M−(2Br+2I),100)
H−NMRスペクトルを図1に示した。
【0060】
実施例2 (4,5,4’,5’−テトラブロモ−2,2’−ジヨードビフェニルの合
成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に1,2−ジブロモ−4,5−ジヨードベンゼン1.01g(2.06mmol)及びTHF4mlを加えた。この溶液を−63℃に冷却し、イソプロピルマグネシウムブロマイド(関東化学製、0.65M)THF溶液3.3ml(2.1mmol)を滴下した。−63℃で40分間熟成後、その温度で塩化亜鉛(シグマ−アルドリッチ製、0.5M)のTHF溶液4.3ml(2.2mmol)を滴下した。溶液を徐々に室温まで昇温した後、生成した白色スラリー液を減圧濃縮した。得られた白色固体に、1,2−ジブロモ−4,5−ジヨードベンゼン882mg(1.80mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成製)92mg(0.079mmol)、及びTHF7mlを添加した。加熱還流条件で5時間反応を実施した後、容器を水冷し3N塩酸20mlを添加することで反応を停止させた。全体を減圧濃縮し、溶媒を留去した。析出した固体を濾液が中性になるまで水で洗浄した。
【0061】
得られた固体を減圧乾燥した後、トルエン3mlを用いて再結晶で精製した。4,5,4’,5’−テトラブロモ−2,2’−ジヨードビフェニルの白色固体を得た(641mg,収率49%)。
融点:193〜195℃.
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.17(s,2H),7.40(s,2H
)MS m/z: 722(M,40%),595(M−I,56),488(M
3Br+6,84),308(M−(2Br+2I),43),149(M−(4B
r+2I)+1,100)
H−NMRスペクトルを図2に示した。
【0062】
実施例3 (2,3−ジブロモビフェニレンの合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器にp−フルオロブロモベンゼン1.43g(8.16mmol)及びTHF50mlを添加した。この溶液を−72℃に冷却し、n−ブチルリチウム(関東化学製、1.59M)のヘキサン溶液4.8ml(7.6mmol)を滴下した。−72℃で15分間反応を行った後、−98℃に冷却しp−フルオロフェニルリチウムの溶液を調製した。
【0063】
一方、窒素雰囲気下、300mlシュレンク反応容器に実施例1で合成した4,5−ジブロモ−2,2’−ジヨードビフェニル2.00g(3.55mmol)及びTHF65mlを添加した。この溶液を−98℃に冷却し、ここにp−フルオロフェニルリチウムの溶液をキャヌラーを用いて導入した。2分間撹拌後、−97℃で塩化銅(II)1.45g(10.8mmol)を投入した。一晩かけて室温まで反応温度を上げた。3N塩酸を添加した後、トルエン(40ml)及びNaClを加えた後分相し、有機相を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮後、反応混合物をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーで精製し(溶離液;ヘキサン)、目的物を含む固体627mgを得た。ヘプタン5.8mlを用い再結晶化による精製を行い、2,3−ジブロモビフェニレンの黄色固体を得た(300mg)。さらに濾液を濃縮後、ヘキサンから再結晶化することで目的物である2,3−ジブロモビフェニレンの黄色固体を得た(57mg)。(合計収率32%)。
融点:152〜153℃
H−NMR(CDCl,21℃):δ=6.86(s,2H),6.83(dd,J=5.0Hz,2.9Hz,2H),6.70(dd,J=4.9Hz,2.9Hz,2H)
MS m/z: 310(M,73%),229(M−Br,5),150(M−2Br,100)
H−NMRスペクトルを図3に示した。
【0064】
比較例1
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に実施例1で合成した4,5−ジブロモ−2,2’−ジヨードビフェニル394mg(0.699mmol)及びTHF20mlを添加した。この溶液を−95℃に冷却し、ここにn−ブチルリチウム(関東化学製、1.59M)のヘキサン溶液0.95ml(1.5mmol)を滴下した。2分間撹拌後、−95℃で塩化銅(II)283mg(2.10mmol)を投入した。一晩かけて室温まで反応温度を上げた。3N塩酸を添加した後、トルエン5ml及びNaClを加えた後分相し、有機相を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮後、粗生成物のH NMRスペクトルを測定したが、目的の2,3−ジブロモビフェニレンのピークは非常に弱く、代わりに通常の芳香族の領域(δ=7〜8)並びにn−ブチル基のピーク強度が増大していた。
【0065】
H−NMRスペクトルを図4に示した。
【0066】
実施例4 (2,3−ジブロモビフェニレンの合成)
窒素雰囲気下、20mlシュレンク反応容器に実施例1で合成した4,5−ジブロモ−2,2’−ジヨードビフェニル150mg(0.266mmol)及び銅粉(シグマ−アルドリッチ製)417mg(6.56mmol)を添加した。20分間攪拌後、この反応容器を230℃にオイルバスに浸した。20分間、この温度下で反応させた後、室温に冷却し、トルエン抽出を行った。このトルエン溶液を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーで精製し(溶離液;ヘキサン)、2,3−ジブロモビフェニレンの黄色固体を得た(28mg、収率34%)。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】;実施例1で合成した4,5−ジブロモ−2,2’−ジヨードビフェニルのH−NMRスペクトル(CDCl,21℃)
【図2】;実施例2で合成した4,5,4’,5’−テトラブロモ−2,2’−ジヨードビフェニルのH−NMRスペクトル(CDCl,21℃)
【図3】;実施例3で合成した2,3−ジブロモビフェニレンのH−NMRスペクトル(CDCl,21℃)
【図4】;比較例1で得られた粗生成物のH−NMRスペクトル(CDCl,21℃)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(3)で示されるテトラハロベンゼンと下記一般式(4)で示される2−ハロアリール金属試薬をパラジウム及び/又はニッケル触媒存在下で反応し、下記一般式(2)で示されるテトラハロビフェニル誘導体を製造することを特徴とするテトラハロビフェニル誘導体の製造方法。
【化1】

(ここで、置換基X及びXは同一又は異なって、臭素、塩素又はヨウ素を示し、X及びXは同一又は異なって、臭素又はヨウ素を示し、R〜R12は同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基若しくはハロゲン化アルキル基、炭素数4〜20のアリール基、炭素数3〜30のトリアルキルシリル基、又はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれるハロゲン原子を示す。なお、R〜R10の内、任意の二以上のものは互いに結合し、置換基を有していてもよいベンゼン環、置換基を有してもよいシクロヘキサン環又は置換基を有してもよいチオフェン環を形成することができる。)
【化2】

(ここで、Xは臭素又はヨウ素を示し、Xは臭素又はヨウ素を示し、その他の記号は一般式(2)で示される記号と同意義を示す。)
【化3】

(ここで、MはMg、B、Zn、Sn又はSiのハロゲン化物、ハイドロオキサイド、アルコキサイド又はアルキル化体を示し、Xは臭素又はヨウ素を示し、その他の記号は一般式(2)で示される記号と同意義を示す。)
【請求項2】
上記一般式(3)で示されるテトラハロベンゼンのXがヨウ素であり、上記一般式(4)で示される2−ハロアリール金属試薬のXがヨウ素であることを特徴とする請求項1に記載のテトラハロビフェニル誘導体の製造方法。
【請求項3】
上記一般式(4)で示される2−ハロアリール金属試薬のMがZnCl又はB(OH)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のテトラハロビフェニル誘導体の製造方法。
【請求項4】
触媒がテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のテトラハロビフェニル誘導体の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(2)で示されるテトラハロビフェニル誘導体において、置換基X及びXがヨウ素であることを特徴とするテトラハロビフェニル誘導体。
【化4】

(ここで、置換基X及びXは同一又は異なって、臭素、塩素又はヨウ素を示し、X及びXは同一又は異なって、臭素又はヨウ素を示し、R〜R12は同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基若しくはハロゲン化アルキル基、炭素数4〜20のアリール基、炭素数3〜30のトリアルキルシリル基、又はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれるハロゲン原子を示す。なお、R〜R10の内、任意の二以上のものは互いに結合し、置換基を有していてもよいベンゼン環、置換基を有してもよいシクロヘキサン環又は置換基を有してもよいチオフェン環を形成することができる。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−168624(P2011−168624A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129947(P2011−129947)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【分割の表示】特願2005−112772(P2005−112772)の分割
【原出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】