説明

3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドの製造方法

【課題】 3−ハロ−ペンタフルオロプロペンから、3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドを選択性よく、高収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、下記一般式:
XCF−CF=CF
(式中、XはCl、Br又はIである。)で表される3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを10〜40℃の温度で酸素ガスと接触させて酸化して、下記一般式:
[化1]


(式中、XはCl、Br又はIである。)で表される3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドを得る工程を含む、ことを特徴とする3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドは、電解質膜等を製造するためのモノマーの原料として用いられる、重要な中間体である。
【0003】
3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドの前駆体である3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを酸化する方法としては、これまでにも種々の方法が報告されている。例えば、酸化のために用いる酸化剤として、特許文献1では、過塩素酸ナトリウム水溶液を用いている。また、非特許文献1では、メタノールと過酸化水素水の混合酸化剤を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−167120号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「Journal of Fluorine Chemistry」、 2001年、108巻、p.1−5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した過塩素酸ナトリウム水溶液や過酸化水素水のような酸化剤を用いる場合、いずれの方法においても、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンと、酸化剤としての水溶液と、を充分に混合するために水溶性の有機溶媒や多量の界面活性剤等を用いる必要があり、廃水処理などの点で改善の余地があった。また、これらの濃縮された酸化剤は非常に危険なため取り扱いが難しく、大量合成に向いていないものであった。
【0007】
更に、3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドから電解質膜等を製造するための原料モノマー〔FSOCFCFOCF(CFX)COF〕を生成するための反応は禁水反応であるため、上記の方法で得られたエポキシドは乾燥を行う必要があり、水を使用せずに酸化可能な方法が望まれるところである。
【0008】
そして、用いる酸化剤の種類によっては、生成する3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドにアルカリ性物質や酸フルオリド等の不純物が含まれる場合がある。アルカリ性物質や酸フルオリド等の不純物が含まれていると、電解質膜等を製造するための原料モノマーであるFSOCFCFOCF(CFX)COF(式中、XはCl、Br又はIである。)で表されるモノマーを製造する場合に、下記式:
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、XはCl、Br又はIである。)で表される反応の妨げとなるため、上記アルカリ性物質や酸フルオリド等の不純物を除去する工程が必要となり、生産性の点で改善の余地があった。そこで、本発明者等は、上記反応を収率よく行うためには、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを酸化する反応は、中性条件で行われることが望ましいと考えた。
【0011】
本発明は、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンから、3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドを選択性よく、高収率で製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記一般式:
XCF−CF=CF
(式中、XはCl、Br又はIである。)で表される3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを10〜40℃の温度で酸素ガスと接触させて酸化して、下記一般式:
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、XはCl、Br又はIである。)で表される3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドを得る工程を含む、ことを特徴とする3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドの製造方法である。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドの製造方法は、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを10〜40℃の温度で酸素ガス(分子状酸素)と接触させて酸化する工程を含む。
【0016】
本明細書中で、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンは、下記一般式:
XCF−CF=CF
(式中、XはCl、Br又はIである。)で表される化合物である。XはCl又はBrであることが好ましい。
【0017】
本明細書中で、3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドは、下記一般式:
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、XはCl、Br又はIである。)で表される化合物である。XはCl又はBrであることが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法は、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを10〜40℃の温度で酸素ガスと接触させて酸化する工程を含むものである。このように比較的低温で酸化を行うことにより、副生成物の生成を抑制することができ、収率よく3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドを得ることができる。
【0021】
3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを高温で酸素ガスと接触させて酸化した場合、下記式:
【0022】
【化4】

【0023】
(式中、XはCl、Br又はIである。)で表される反応により、3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシド以外の副生成物が多量に生成し、収率よく3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドを得ることができない。
【0024】
ところで、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンに類似した構造を有するヘキサフルオロプロピレンを酸素ガスと接触させて酸化して、ヘキサフルオロプロピレンオキシドを製造する場合、高温で酸素ガスと反応させても多量の副生成物は生成されない。
しかしながら、本発明者らが検討したところ、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンから3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドを得る場合には、高温で酸素ガスと反応させた場合、上述したように副生成物が多量に生成して、収率が著しく低下することがわかった。また、驚くべきことに、10〜40℃という比較的低温で酸素ガスと接触させて酸化を行うことによって3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドの収率を劇的に向上させることができることが見出された。
すなわち、10〜40℃の温度で酸素ガスと接触させて酸化することで優れた収率が得られるという知見は、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンから3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドを得る場合に特有のものであり、本発明者らによって見出された新たな知見である。
【0025】
本発明の製造方法は、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを酸素ガスと接触させて酸化するものである。酸素ガスと接触させて酸化することで、水溶性の有機溶媒や界面活性剤を使用しなくても3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを収率よく酸化することができ、廃水処理の際等に有利である。また、酸化を中性条件で行うことができるため、アルカリ性物質や酸フルオリド等の不純物の生成を抑制することができる。
【0026】
3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを10〜40℃の温度で酸素ガスと接触させて酸化する工程は、反応容器内で行うことができる。本発明の製造方法は、例えば、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを仕込んだ反応容器内に酸素ガスを導入し、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを10〜40℃の温度で酸素ガスと接触させて酸化するものであることが好ましい。反応容器内には、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンからなる液相部分と、任意の気体からなる気相部分が存在する。上記酸素ガスの反応容器内への導入は、反応容器内の気相又は液相部分から行うことが好ましい。安全性が高く、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンとの接触効率がよい点で、液相部分から酸素ガスを導入することが好ましい。
なお、反応容器内で上記酸化を行う場合、酸素ガスを反応容器内に導入する前に、反応容器内の気体を排出して一旦真空状態にしてから酸素ガスを導入することが好ましく、酸素ガスの導入開始時には、反応容器内の液相以外の部分は実質的に真空状態であってもよい。
【0027】
反応容器内の液相は、実質的に3−ハロ−ペンタフルオロプロペンのみからなるものであってもよいし、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンと後述する溶媒とからなるものであってもよいし、本発明の効果を損なわない範囲で、他の液体を含んでいてもよい。
反応容器内の気相は、酸素ガスを含むことが好ましい。安全性の観点から、気相は、酸素ガスと、酸素ガス以外の気体と、を含んでいることが好ましい。反応容器内の気相は、酸素濃度が0.01〜40モル%であることが好ましく、0.1〜30モル%であることが好ましい。酸素ガス以外の気体としては特に限定されないが、窒素ガス等の不活性ガスであることが好ましい。
【0028】
反応容器内に酸素ガスを導入する場合、酸素ガスと酸素ガス以外の気体とを含む混合ガスを反応容器内に導入してもよい。安全性の観点からは、混合ガスの酸素濃度は0.01〜40モル%であることが好ましく、0.1〜30モル%であることがより好ましい。上記混合ガスに含まれる酸素ガス以外の気体は特に限定されないが、窒素ガス等の不活性ガスであることが好ましい。
【0029】
酸素ガスは、分割して導入してもよいし、連続的に導入してもよいが、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンと酸素の爆発限界に入らないように気相部分の酸素分圧を一定以下に保ちながら、分割して酸素ガスを導入することが好ましい。分割して酸素ガスを導入する場合には、反応容器内の気相の酸素濃度が0.01〜40モル%となるようにすることが好ましく、0.1〜30モル%となるようにすることがより好ましい。
【0030】
本発明の製造方法で用いる酸素ガスの量は、3−ハロ−ペンタフルオロプロペン1モルに対して0.001〜10モルであることが好ましく、0.01〜5モルであることがより好ましい。
【0031】
酸化する際の圧力は、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンの仕込み量、温度、溶媒を使用する場合には溶媒の種類、などの反応条件によって異なるので、特に限定されないが、例えば、上記酸化は、0.01〜5MPaの圧力下で行うことが好ましい。
【0032】
酸化反応の時間については、反応速度が、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンの仕込み量、反応温度、任意で用いられる溶媒の種類、アルデヒドの種類等に依存するので特に限定されないが、通常、0.01〜50時間程度とすればよく、十分に反応を進行させるためには、0.1〜15時間程度とすることが好ましい。
【0033】
本発明の3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドの製造方法は、回分式、連続式の何れの方法でも行うことができる。特に、内部の撹拌が可能な密閉式の加圧反応器を用いて行うことが好ましい。
【0034】
3−ハロ−ペンタフルオロプロペンと酸素ガスとの接触は、下記一般式(1):
RCHO (1)
(式中、Rは1価の電子吸引性炭化水素基である。)で表されるアルデヒドの存在下で行うことが好ましい。上記アルデヒドの存在下で、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンと酸素ガスとの接触を行うことによって、選択性よく目的とする3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドを製造することができる。
【0035】
上記アルデヒドの存在下で3−ハロ−ペンタフルオロプロペンと酸素ガスとの接触を行う方法としては、例えば、反応容器中に上記アルデヒド及び3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを仕込み、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンと酸素ガスとを接触させる方法が挙げられる。上記アルデヒドの存在下で酸化を行う場合、上記アルデヒドと3−ハロ−ペンタフルオロプロペンとを接触させて酸化を行うことが好ましい。
【0036】
上記一般式(1)で表されるアルデヒドにおいて、Rは、1価の電子吸引性炭化水素基であり、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよい。該電子吸引性炭化水素基の炭素数は、1〜50であることが好ましく、1〜20であることがより好ましく、1〜5であることが更に好ましい。「電子吸引性炭化水素基」は、分子内で水素を標準としたとき、他から電子を引きつける傾向のある炭化水素基である。該炭化水素基としては、アルキル基等の脂肪族炭化水素基;フェニル基等の芳香族炭化水素基;等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0037】
上記1価の電子吸引性炭化水素基は、1個又は2個以上の置換基を含んでいてもよい。このような置換基としては、−NO、−SOF、−CHO、−SOCl、−SOH、−COH、−COF及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0038】
上記1価の電子吸引性炭化水素基にフッ素原子が含まれる場合、フッ素原子の数については特に限定はなく、パーフルオロ基であってもよいし、一部の水素原子のみがフッ素原子で置換されたフルオロ基であってもよい。
【0039】
上記一般式(1)で表されるアルデヒドとしては、例えば、下記一般式(3):
(CFn3(CHm3CHO (3)
(式中、Xは、H、ハロゲン原子、−NO、−SOF又は−CHOであり、n3は0〜20の整数、m3は0〜3の整数である)で表される化合物、下記一般式(4):
F(CFO)n4CHO (4)
(式中、n4は1〜50の整数である)で表される化合物、下記一般式(5):
F(CFO)n5CFCHO (5)
(式中、n5は1〜50の整数である)で表される化合物、下記一般式(6):
CF(CFO[CF(CF)CFO]n6CF(CF)CHO (6)
(式中、n6は0〜4の整数である)で表される化合物、下記一般式(7):
(X(CFn7(CHm7CCHO (7)
(式中、Xは、H、ハロゲン原子、−NO、−SOF又は−CHOであり、n7は0〜20の整数、m7は0〜3の整数である。3個の(X(CFn7(CHm7)は、同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。)で表される化合物、下記一般式(8):
(X(CFn8(CHm8CFCHO (8)
(式中、Xは、H、ハロゲン原子、−NO、−SOF又は−CHOであり、n8は0〜20の整数、m8は0〜3の整数である。2個のX(CFn8(CHm8は、同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。)で表される化合物、及び、下記一般式(9):
【0040】
【化5】

【0041】
(式中、R〜Rは、同一又は異なって、H、F、Cl、Br、−NO、又は、−(CF(CH基(但し、Xは、H、ハロゲン原子、−NO、−SOF又は−CHOであり、mは0〜3の整数、lは0〜20の整数である)であって、R〜Rの少なくとも一つは、−(CF(CHCHO基(l及びmは上記に同じ)である)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0042】
上記した各アルデヒドにおいて、ハロゲン原子は、F、Cl、Br又はIであることが好ましい。
【0043】
上記一般式(9)で表されるアルデヒドにおいて、−(CF(CH基が二個以上含まれる場合には、それぞれの基は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。なお、−(CF(CHCHO基以外に、これと同一又は異なる−(CH(CF基が1個含まれる場合には、両者は、パラ位に存在することが好ましい。
【0044】
上記アルデヒドの中でも、一般式(3):
(CFn3(CHm3CHO (3)
(式中、Xは、H、ハロゲン原子、−NO、−SOF又は−CHOであり、n3は0〜20の整数、m3は0〜3の整数である)で表される化合物が入手容易さの点で好ましく、特に、X(CFn10(CHm10CHO(式中、Xは、H又はFであり、n10は1〜20の整数、m10は0〜3の整数である)で表される化合物が好ましい。上記一般式(3)で表される化合物において、n3は1〜10の整数であり、m3は0〜3の整数であることが好ましく、n3は1〜5の整数であり、m3は0であることがより好ましい。Xはハロゲン原子であることが好ましく、Fであることがより好ましい。
本発明の製造方法において、上記アルデヒドとしては、具体的には、CFCFCHO、H(CFCFCHO、及び、H(CFCFCHOからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0045】
上記アルデヒドは、一種を単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0046】
上記アルデヒドの使用量は、3−ハロ−ペンタフルオロプロペン1モルに対して0.01〜50モルであることが好ましく、0.1〜20モルであることがより好ましい。
【0047】
本発明の製造方法は、無溶媒又は溶媒中で行うことができる。無溶媒で反応を行う場合には、反応容器中に直接3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを導入すればよい。溶媒を用いる場合には、溶媒を入れた反応容器中に、気相部分又は液相部分から3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを導入することが好ましい。3−ハロ−ペンタフルオロプロペンと酸素とを効率良く反応させる点からは、溶媒中で反応を行うことが好ましい。
【0048】
溶媒としては、無極性溶媒及び極性溶媒の何れを用いてもよい。
【0049】
無極性溶媒としては、n−ヘキサン、四塩化炭素、パーフルオロジメチルシクロブタン、フルオロトリクロロメタン、クロロホルム、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロ(トリフルオロメチル)シクロペンタン等の環状含フッ素化合物;下記一般式(2):
(CF(2)
(式中、X及びXは、同一又は異なって、H、F、Cl、Br又はIであり、nは1〜20の整数である)で表される含フッ素化合物、一般式:
Cl(CFCFCl)n1Cl
(式中、n1は2〜30の整数である)で示される含フッ素化合物等を例示できる。
【0050】
極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、アジポニトリル、水等を例示できる。その他に、CO、CHF、水等の超臨界流体を溶媒として用いることもできる。
【0051】
無極性溶媒、極性溶媒及び超臨界流体溶媒は単独で用いてもよいし、混合溶媒として用いてもよい。
【0052】
上記した溶媒のうちで、酸素及び3−ハロ−ペンタフルオロプロペンの溶解度が高い点で、無極性溶媒又は超臨界流体が好ましい。特に、上記一般式(2)で表される含フッ素化合物が、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンとの親和性が高く、入手容易な点でより好ましい。すなわち、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンと酸素ガスとの接触は、一般式(2)で表される含フッ素化合物からなる溶媒中で行うものであることが好ましい。
上記一般式(2)で表される含フッ素化合物は、X及びXがFであり、nが1〜20であることが好ましい。より好ましくは、X及びXがFであり、nが1〜12の含フッ素化合物である。具体的には、パーフルオロオクタン、CF(CFBr等が好ましい含フッ素化合物として例示される。
【0053】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、通常、反応容器の容量の0.01〜80%であることが好ましい。特に、3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドの収率を高くするためには、0.1〜60%であることが好ましい。
【0054】
溶媒中の3−ハロ−ペンタフルオロプロペンの濃度は特に限定されないが、通常、0.01〜70000モル/Lであることが好ましく、0.05〜7000モル/Lであることがより好ましい。
【0055】
本発明の製造方法によって得られた3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドは、蒸留操作などの一般的なガスの単離方法によって分離回収することができる。
【0056】
本発明の製造方法を実行することによって、上記酸化による3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドの選択率を95%以上、更には97%以上とすることができる。また、99%以上とすることもできる。
上記選択率は、ガスクロマトグラフィー分析により算出することができる。ガスクロマトグラフィー分析は、下記装置を用いることによって行うことができる。
装置:Clarus 500 GC ガスクロマトグラフ(DB−624)、パーキンエルマー社製
【0057】
本発明の製造方法により得られる3−クロロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドは、電解質膜等を製造するためのモノマーの原料に用いられる中間体として好適に利用できる。
【発明の効果】
【0058】
本発明の製造方法によれば、3−ハロ−ペンタフルオロプロペンから、1工程で3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドを収率よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0060】
実施例1
攪拌翼、ガス仕込み口、圧力ゲージ及び温度計を備えた100ccSUS製オートクレーブを真空にし、オートクレーブ内にC18を30mL仕込み、次いでCFCFCHOを51・4gと3−クロロ−ペンタフルオロプロペン(CPFP)を10.5g加えた。電磁弁を用いて酸素ガスを液相部から導入し、反応容器の気相圧力が0.05MPa(気相中の酸素濃度:25モル%)となるまで仕込んだ。更に、反応系の圧力低下が停止するごとに反応容器の気相部分の酸素分圧が0.05MPaとなるように酸素ガスを導入した。なお、反応温度は室温(18℃)である。
【0061】
CPFPの転化率、及び3−クロロ−ペンタフルオロプロピレンオキシド(CPFPO)の選択率をモニタリングしつつ反応を行った。転化率と選択率は、気相部分の抜き出し口から反応混合物の一部を数回抜き出し、ガスクロマトグラフィー分析によって算出した。CPFPの転化率が65%に到達した時点(反応開始からおよそ8時間)で反応を終了した。その結果、CPFPOの選択率は100%であり、副生成物の存在は確認されなかった。
【0062】
比較例1
反応温度を120℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にCPFPの酸化反応を行った。但し、酸素ガスについては反応容器の気相部分の酸素分圧が0.1MPa(気相中酸素濃度:14.3%)となるまで仕込み、反応系の圧力低下が停止する毎に反応容器の気相部分の酸素分圧が0.1MPaとなるように酸素ガスを導入した。この反応の結果、CPFPの転化率は75%に到達した時点(反応開始からおよそ6時間)で反応を終了した。その結果、CPFPOの選択率は70%であった。副生成物としてClCFCOFとCOFの合計が7.1%と、CPFPの塩素原子がフッ素原子に置き換わったCFCF=CFを6.1%確認した。
【0063】
比較例2
電子吸引基を有するアルデヒド(CFCFCHO)を加えないこと以外は、比較例1と同様にCPFPの酸化反応を行った。即ち、オートクレーブ内に10.5gのCPFPをいれ、反応温度120℃で酸化反応を行った。加える酸素ガスは酸素分圧が0.1MPaとなるまで仕込んだ。その結果、CPFPOの選択率は43.2%であった。副生成物のClCFCOFとCOFの合計が44.5%と、CPFPの塩素原子がフッ素原子に置き換わったCFCF=CFを17.5%確認した。
【0064】
比較例3
反応温度を60℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にCPFPの酸化反応を行った。但し、酸素ガスについては反応容器の気相部分の酸素分圧が0.1MPa(気相中酸素濃度:14.3%)となるまで仕込み、反応系の圧力低下が停止する毎に反応容器の気相部分の酸素分圧が0.1MPaとなるように酸素ガスを導入した。この反応の結果、CPFPの転化率は65%に到達した時点(反応開始からおよそ8時間)で反応を終了した。その結果、CPFPOの選択率は86%であった。副生成物のClCFCOFとCOFの合計が5.4%と、CFCF=CFを3.8%確認した。
【0065】
参考例1
電子吸引基を有するアルデヒド(CFCFCHO)を加えないこと以外は、実施例1と同様にCPFPの酸化反応を行った。即ち、室温(18℃)でCPFPの酸素ガスによる酸化を試みた。加える酸素ガスは真空状態から0.1MPaまで仕込んだ。圧力低下が観られなかったため、さらに酸素ガスを0.1MPaづつ段階的に加え、反応器内全圧が2.5MPaになるまで仕込んだ。その後も圧力低下は見られず、4時間後圧力を開放し内容物を分析したところ目的のCPFPOは全く生成しておらず、GCからは原料のCPFPのピークしか確認できなかった。
【0066】
実施例2
実施例1と同様の条件で3−ブロモ−ペンタフルオロプロペンの酸化反応を行った。真空にしたSUS製オートクレーブにC18を30mL仕込み、次いでCFCFCHOを51・4gと3−ブロモ−ペンタフルオロプロペンを13.3g加えた。電磁弁を用いて酸素ガスを液相部から導入し、反応容器の気相圧力が0.05MPa(気相中の酸素濃度:25モル%)となるまで仕込んだ。更に、反応系の圧力低下が停止するごとに反応容器の気相部分の酸素分圧が0.05MPaとなるように酸素ガスを導入した。但し、酸素ガスについては反応容器の気相部分の酸素分圧が0.1MPa(気相中酸素濃度:14.3%)となるまで仕込み、反応系の圧力低下が停止する毎に反応容器の気相部分の酸素分圧が0.1MPaとなるように酸素ガスを導入した。3−ブロモ−ペンタフルオロプロペンの転化率が65%に到達した時点(反応開始からおよそ8時間)で反応を終了した。その結果、3−ブロモ−ペンタフルオロプロピレンオキサイドの選択率は97%であった。この副生成物であるBrCFCOFとCOFの合計が1.6%であり、CFCF=CFの生成はGCからは確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の製造方法により得られる3−クロロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドは、電解質膜等を製造するためのモノマーの原料に用いられる中間体として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式:
XCF−CF=CF
(式中、XはCl、Br又はIである。)で表される3−ハロ−ペンタフルオロプロペンを10〜40℃の温度で酸素ガスと接触させて酸化して、下記一般式:
【化1】

(式中、XはCl、Br又はIである。)で表される3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドを得る工程を含む、
ことを特徴とする3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドの製造方法。
【請求項2】
3−ハロ−ペンタフルオロプロペンと酸素ガスとの接触は、下記一般式(1):
RCHO (1)
(式中、Rは1価の電子吸引性炭化水素基である。)で表されるアルデヒドの存在下で行うものである請求項1に記載の3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドの製造方法。
【請求項3】
アルデヒドは、CFCFCHO、H(CFCFCHO、及び、H(CFCFCHOからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である請求項2に記載の3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドの製造方法。
【請求項4】
3−ハロ−ペンタフルオロプロペンと酸素ガスとの接触は、下記一般式(2):
(CF (2)
(式中、X及びXは、同一又は異なって、H、F、Cl、Br又はIであり、nは1〜20の整数である。)で表される含フッ素化合物からなる溶媒中で行うものである請求項1、2又は3に記載の3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドの製造方法。
【請求項5】
上記酸化は、0.01〜5MPaの圧力下で行う請求項1、2、3又は4に記載の3−ハロ−ペンタフルオロプロピレンオキシドの製造方法。