説明

3−ヒドロキシ−7−スルホ−2−ナフトイック酸の製造法

【課題】3-ヒドロキシ-7-スルホ-2-ナフトイック酸を容易にかつ高収率で生産する方法を提供する。
【解決手段】2−ヒドロキシナフトイック酸を、110〜140℃において、硫酸濃度70〜90%により、スルホン化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬中間体又は染顔料の中間体として産業上有用な3−ヒドロキシ−7-スルホ−2−ナフトイック酸の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
3−ヒドロキシ−7-スルホ−2−ナフトイック酸自体は、公知の化合物である。
ところで、3−ヒドロキシ−7-スルホ−2−ナフトイック酸の製造方法においては、濃硫酸を使用し、しかも低温でスルホン化する方法が採られている(非特許文献1〜3)。
例えば、非特許文献1では、3-ヒドロキシ-2-ナフトイック酸を、濃硫酸を使用して、60℃でスルホン化を行なっており、この場合、3−ヒドロキシ−5-スルホ−2−ナフトイック酸と、3−ヒドロキシ−7−スルホ−2−ナフトイック酸との異性体の混合物が得られ、精製する場合には、何度か水から再結晶化する必要があることが記載されている(104頁実験の項目)。
また、非特許文献2では、646頁の図を参照しながら説明されており、3−ヒドロキシ−2−ナフトイック酸に対して、97%硫酸を使用して、徐々に29〜30℃に温度を上げて反応を行なっており、その場合、25%の3−ヒドロキシ−7-スルホ−2−ナフトイック酸と、75%の3−ヒドロキシ−5−スルホ−2−ナフトイック酸との混合物として得られることが記載されている。
更に、非特許文献3では、3−ヒドロキシ−2−ナフトイック酸を、濃硫酸を使用してスルホン化すると、3−ヒドロキシ−7−スルホ−2−ナフトイック酸の収量が、40%であったことが記載されている(7202頁右欄中程「合成」の項目)。
いずれの製法も、目的物である3−ヒドロキシ−7−スルホ−2−ナフトイック酸が低収率であり、かつ異性体である3−ヒドロキシ−5−スルホ−2−ナフトイック酸が副生し、分離精製しなければならない欠点がある。
【0003】
【非特許文献1】Finnish Chemical Letters 104-9,1974
【非特許文献2】製造理論 染料化学 技法堂 細田豊 645-6頁
【非特許文献3】J. Am. Chem. Soc. 104(25), 7196-7204、1982
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、3-ヒドロキシ-7-スルホ-2-ナフトイック酸を、無駄な廃棄物や異性体を副生せずに、例えば、98%を超える高収率で得られ、非常に簡単な操作で、しかも大量に生産し得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、3-ヒドロキシ-7-スルホ-2-ナフトイック酸の製造法について、鋭意研究した結果、反応温度と、硫酸濃度とを適切に選択することにより、副生物である3−ヒドロキシ−5−スルホ−2−ナフトイック酸の量を低下させつつ、3-ヒドロキシ-7-スルホ-2-ナフトイック酸を高収率で得られることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
即ち、本発明は、3-ヒドロキシ-7-スルホ-2-ナフトイック酸を製造する方法であって、2−ヒドロキシナフトイック酸を、110〜140℃において、硫酸濃度70〜90%において、スルホン化することを特徴とする方法に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の方法における3−ヒドロキシ−2−ナフトイック酸は、以下の構造式で示されるものである。
【化1】

【0007】
本発明の方法では、上記3−ヒドロキシ−2−ナフトイック酸を、特定の硫酸濃度の下で、比較的高温においてスルホン化反応を生じさせることにより、収率良く、3−ヒドロキシ−7−スルホ−2−ナフトイック酸を製造することを特徴とするものである。
【0008】
本発明の目的化合物である3−ヒドロキシ−7−スルホ−2−ナフトイック酸は、以下の式で示される化合物である。
【0009】
【化2】

なお、これまで、副生物として、スルホン酸基の位置が、5位にある3−ヒドロキシ−5-スルホ−2−ナフトイック酸が生じていたが、本発明では、そのような副生物の生成が非常に少ないという利点がある。
ここで、3−ヒドロキシ−5−スルホ−2−ナフトイック酸は、以下の式で示される化合物である。
【0010】
【化3】

【0011】
本発明の方法に使用される硫酸の濃度は、70〜90%、好ましくは、80〜85%である。
本発明の方法で使用される反応温度は、110℃〜140℃、好ましくは、110℃〜120℃である。
反応温度を上げると選択的に、7−位にスルホン化できるが、同時にジスルホン化物も副生する。この副生を抑えるために、硫酸濃度を下げ、70〜90%にすることにより、高収率で7−位のスルホン化物を得ることができる。
これまで、このような濃度における硫酸を使用して、しかも、高温において、スルホン化することについては、全く新しいことであった。
【実施例】
【0012】
以下、本発明について、更に、実施例を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下の実施例は、本発明の範囲を何ら限定するものでないことは言うまでもない。
【0013】
実施例1
85%硫酸400gを、1Lの三口フラスコに仕込み、120℃に達したところで、攪拌しながら、3-ヒドロキシ-2-ナフトイック酸100gを結晶のまますこしづつ加えた。120℃で、30分反応させたところで、反応液を少量取り、HPLCで分析すると、目的物である3-ヒドロキシ-7-スルホ-2-ナフトイック酸、95%、異性体である3−ヒドロキシ−5−スルホ−2−ナフトイック酸、0.9%であった。
反応液を放冷後、水1600mlを加えて希釈した。希釈液を60℃に加温して、食塩35gを加え攪拌しながら放冷した。1時間攪拌後、析出してくる結晶を濾過して集め、乾燥した。結晶を取り、HPLCで純度分析すると、99.5%であり、異性体である3−ヒドロキシ−5−スルホ−2−ナフトイック酸は、0.1%以下であった。(析出してくる結晶は、スルホン酸のナトリウム塩として回収した。)
【0014】
実施例2
実施例1と同様に、90%硫酸を使用し120℃で30分間反応した。目的物である3-ヒドロキシ-7-スルホ-2-ナフトイック酸、93.7%、異性体である3−ヒドロキシ−5−スルホ−2−ナフトイック酸、0.3%であった。
【0015】
実施例3
実施例1と同様に、70%硫酸を使用し120℃で2時間反応した。目的物である3-ヒドロキシ-7-スルホ-2-ナフトイック酸、90.6%、異性体である3−ヒドロキシ−5−スルホ−2−ナフトイック酸、1.4%であった。
【0016】
実施例4
実施例1と同様に、85%硫酸を使用し140℃で30分間反応した。目的物である3-ヒドロキシ-7-スルホ-2-ナフトイック酸、93.8%、異性体である3−ヒドロキシ−5−スルホ−2−ナフトイック酸、0.5%であった
【0017】
参考例1(Finn. Chem. Lett. 104, 1974(非特許文献1)に記載の方法)
97%硫酸100g及び3-ヒドロキシ-2-ナフトイック酸30gを、500mlの三口フラスコに仕込み攪拌しながら、反応温度を60℃に保った。そのまま、4時間反応させたところで、反応液を少量取り、HPLCで分析した。その結果、目的物である3-ヒドロキシ-7-スルホ-2-ナフトイック酸は、45%、異性体である3−ヒドロキシ−5−スルホ−2−ナフトイック酸は、41.3%であった。その後、更に2時間攪拌したが、生成比の変化は見られなかった。
【0018】
参考例2
実施例1と同様に、97%硫酸を使用し150℃で30分間反応した。目的物である3-ヒドロキシ-7-スルホ-2-ナフトイック酸、79%、異性体である3−ヒドロキシ−5−スルホ−2−ナフトイック酸、0.9%であった
【0019】
参考例3
実施例1と同様に、85%硫酸を使用し100℃で30分間反応した。目的物である3-ヒドロキシ-7-スルホ-2-ナフトイック酸、81.8%、異性体である3−ヒドロキシ−5−スルホ−2−ナフトイック酸、13.9%であった
【0020】
参考例4
実施例1と同様に、65%硫酸を使用し120℃で3時間間反応した。目的物である3-ヒドロキシ-7-スルホ-2-ナフトイック酸、39.4%、異性体である3−ヒドロキシ−5−スルホ−2−ナフトイック酸、0.9%であった
【0021】
本発明によれば、硫酸濃度と、温度とを特定の濃度及び温度とすることにより、3-ヒドロキシ-7-スルホ-2-ナフトイック酸を容易にかつ高収率で生産することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-ヒドロキシ-7-スルホ-2-ナフトイック酸を製造する方法であって、2−ヒドロキシナフトイック酸を、110〜140℃において、硫酸濃度70〜90%により、スルホン化することを特徴とする方法。

【公開番号】特開2008−280288(P2008−280288A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125610(P2007−125610)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000101123)アグロカネショウ株式会社 (19)
【Fターム(参考)】