説明

3−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノン、その調製及び使用

本発明は、3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-1-プロパノンの調製、および、医薬である(+)-(S)-N-メチル-3-(1-ナフチルオキシ)-3-(2-チエニル)プロピルアミンオキサレート(商品名Duloxetine[登録商標])を調製するためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-1-プロパノンの調製及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノアルコール1(図1)[(1S)-3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)プロパン-1-オール]は、医薬である[(+)-(S)-N-メチル-3-(1-ナフチルオキシ)-3-(2-チエニル)プロピルアミンオキサレート−商品名Duloxetine[登録商標]]の調製において求められていた中間体である。この中間体の調製にこれまで使われてきた方法は複雑であり、また、高価で且つ不安定な試薬を必要とする。さらに、純粋な化合物を調製するのには、技術的に複雑なクロマトグラフィーが必要である。例えば、EP 273658 A1; Liu et.al., Chirality 2000, 12 (1), 26-29; Wheeler et.al, J. Labelled Comp. Radiopharm. 1995, 36(3), 213-23; US 5362886, EP 457559, Deeter et al , Tet. Lett. 1990, 31(49), 7101-4; EP 0650965; L.A. Sorbera, R.M. Castaner, J. Castaner, Drugs of the Future 2000, 25(9): 907-916を参照されたい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って本発明の目的は、より簡単且つより経済的なDuloxetine[登録商標]の調製方法を利用可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、異性体的に純粋な化合物1を得るための、新規且つ経済的な製法を記載するものである。本発明による製法は、新規なケトン5(図1)[3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-1-プロパノン]を、共通してあずかる中間体として使用し、これからアミノアルコール1が、鏡像選択的還元によって得られる。Duloxetine[登録商標]を得るためのこのあとのアミノアルコール1の反応は、当業者には周知であり、EP 0457559 A2に記載されている製法(1-フルオロナフタレンとの反応)と同じようにして行うことができる。
【0005】
本発明は、3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-1-プロパノン(図1、化合物5)及びその酸付加塩に関する。化合物5の酸付加塩は、化合物5と無機酸若しくは有機酸との反応の生成物である。この目的に特に適した酸は、塩酸、硫酸、燐酸、蓚酸、フマル酸、マレイン酸、及び酢酸である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
ケトン5又はアミノアルコール1の調製の出発化合物は、チオフェンまたは2-アセチルチオフェンであることができる。図1は、ケトン5の3つの調製経路(経路1〜経路3)を図示するものであるが、その経路を以下に説明する。
【0007】
経路1
化合物4は、アセチルチオフェン、ホルムアルデヒド、及びジメチルアミンから出発する古典的なマンニッヒ反応により得られる(EP 0457559 A2の実施例1)。モノメチルアミノケトン5は、化合物4と過剰量のメチルアミンとを反応させるレトロマイケル/マイケル反応により得られる。
【0008】
経路2
化合物6は、アセチルチオフェン、ホルムアルデヒド、及びメチルアミンからの古典的なマンニッヒ反応により得られる(Blicke; Burckhalter; JACSAT; J. Amer. Chem. Soc.; 64; 1942; 451, 453)。モノメチルアミノケトン5は、化合物6と過剰量のメチルアミンとを反応させるレトロマイケル/マイケル反応により得られる。
【0009】
経路3
化合物7は、3-クロロプロピオニルクロリドによるチオフェン8の古典的なフリーデル-クラフツ・アシル化により得られる(El-Khagawa, Ahmed M.; El Zohry, Maher F.; Ismail, Mohamed T.; PREEDF; Phosphorus Sulfur; EN; 33; 1987; 25-32に記載されている)。モノメチルアミノケトン5は、メチルアミンとの反応により得られる。
【0010】
本発明はさらに、ラセミ体または鏡像異性純粋体にあるN-メチル-3-(1-ナフチルオキシ)-3-(2-チエニル)プロピルアミン又はその酸付加塩の調製のための、3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-1-プロパノン又はその酸付加塩の使用に関する。特に好ましくは、(+)-(S)-N-メチル-3-(1-ナフチルオキシ)-3-(2-チエニル)プロピルアミンオキサレート(Duloxetine[登録商標])の調製に使用する。
【0011】
本発明はさらに、第一段階において3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-1-プロパノン又はその酸付加塩を中間体として調製し、続いてこの中間体を対応するアルコールに還元する、ラセミ体又は好ましくは鏡像異性純粋体にあるN-メチル-3-(1-ナフチルオキシ)-3-(2-チエニル)プロピルアミン又はその酸付加塩の調製法に関する。
【0012】
この還元は、ラセミ化条件下で、又は、鏡像選択的に行うことができる。好ましいのは、鏡像選択的還元、特に、生成物としてS-鏡像体1を与える還元である。
【0013】
この還元は、例えば鏡像選択性を達成するためにキラルなリガンドで修飾されたNaBH4若しくはLiAlH4を使用する古典的な鏡像選択的水素化方法を使用して、又は、遷移金属含有水素化触媒を使用して化学的に行うことができるし、或いは、例えば微生物特に細菌若しくは真菌のデヒドロゲナーゼを用いる酵素的還元を使用して行うこともできる。
【実施例】
【0014】
経路1
5gのジメチルアミノケトン4を塩酸塩として最初に25mLのエタノールに投入し、次いで20当量のメチルアミン(水中40%)を滴下で加え、この混合物を6時間60〜70℃で撹拌する。反応が終点に達した後、エタノールの一部を除去し、生成物5を、白色の結晶性固体として得る(収量、塩酸塩として3.45g)。
【0015】
経路2
5gのジケトン6を塩酸塩として最初に25mLのエタノールに投入し、次いで20当量のメチルアミン(水中40%)を滴下で加え、この混合物を6時間70〜80℃で撹拌する。反応が終点に達した後、エタノールの一部を除去し、生成物5を、白色の結晶性固体として得る(収量、塩酸塩として3.87g)。
【0016】
経路3
5gのクロロケトン7を最初に25mLのTHFに投入し、次いで20当量のメチルアミン(水中40%)を滴下で加え、この混合物を6時間30〜40℃で撹拌する。反応が終点に達した後、大部分のTHFを除去し、生成物5を、白色の結晶性固体として単離する(収量、塩酸塩として4.10g)。
【0017】
経路1〜3では、メチルアミン水溶液は、気体又は液化メチルアミンで置き換えることもできる。
【0018】
モノメチルアミノケトン5の塩酸塩としての分光分析データ[( )内は、13C NMR (D2O, 125 MHz)のスピンエコー多重度]:
δ (ppm)= 188.5 (s), 140.4 (s), 139.2 (d), 137.8 (d), 131.9 (d), 46.9 (t), 37.3 (t), 36.0 (q)。
【0019】
1H NMR (D2O, 500 MHz):
δ (ppm) = 8.00 (m, 1H), 7.95 (m, 1H), 7.25 (m, 1H), 3.40 (m,2H), 2.75 (m, 2H), 2.62 (s, 3H)。
【0020】
化合物1を得るための化合物5の還元(図1)
NaBH4(ラセミ体)
最初に5gのメチルアミノケトンを20mlのエタノールに投入し、次に0.8当量のNaBH4を20℃で少しずつ加えた。この混合物を6時間撹拌した後、水による後処理を行った。ラセミ体のモノメチルアミノアルコール1を、黄白色固体として得た(収量:3.9g)。
【0021】
1H NMR (500 MHz, CDCl3)
δ(ppm)= 2.1 (m, 2H), 2.5 (s, 3H), 2.9 (m, 2H), 4.5 (br s, 2H), 5.25 (m, 1H), 6.94 (m, 1H), 7.00 (m, 1H), 7.22 (m,1H)。
【0022】
13C NMR (125 MHz, CDCl3)
δ(ppm) = 35.4, 36.3, 49.7, 71.4, 122.5, 123.8, 126.6, 149.3。
【0023】
EP 0457559 A2、実施例1Bにあるようにして行った(鏡像選択的に)LiAlH4(キラルに修飾された)
化合物1の収率は74%で、鏡像体純度は鏡像体過剰率72%であった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明によるモノメチルアミノケトン5の3つの調製経路(経路1〜経路3)を図示するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-1-プロパノン及びその酸付加塩。
【請求項2】
3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-1-プロパノン塩酸塩。
【請求項3】
N-メチル-3-(1-ナフチルオキシ)-3-(2-チエニル)プロピルアミン又はその酸付加塩の調製のための、3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-1-プロパノン又はその酸付加塩の使用。
【請求項4】
(+)-(S)-N-メチル-3-(1-ナフチルオキシ)-3-(2-チエニル)プロピルアミンオキサレート(Duloxetin[登録商標])の調製のための、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-1-プロパノン又はその酸付加塩が(1S)-3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)プロパン-1-オール又はその酸付加塩に還元される、請求項3に記載の使用。
【請求項6】
3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-1-プロパノン又はその酸付加塩を中間体として調製する、(+)-(S)-N-メチル-3-(1-ナフチルオキシ)-3-(2-チエニル)プロピルアミンオキサレート(Duloxetin[登録商標])の調製法。
【請求項7】
3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)-1-プロパノン、又はその酸付加塩を、(1S)-3-メチルアミノ-1-(2-チエニル)プロパン-1-オール又はその酸付加塩に還元する、請求項6に記載の調製法。
【請求項8】
前記還元を、微生物のデヒドロゲナーゼを使って行う、請求項7に記載の調製法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−515878(P2006−515878A)
【公表日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500570(P2006−500570)
【出願日】平成16年1月15日(2004.1.15)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000237
【国際公開番号】WO2004/065376
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】