説明

3−メチルガリク酸3,4−ジオキシゲナーゼ遺伝子導入によるPDCの生産

【課題】シリンガアルデヒドからPDCを工業的スケールで発酵生産する方法を提供する。
【解決手段】3MGA 3,4−ジオキシゲナーゼ(DesZ)と、特定の塩基配列を有するベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(LigV2)と、別の特定のアミノ酸配列を含むバニリン酸・シリンガ酸ディメチラーゼ(VanA,VanB)遺伝子とを含む組換えベクター;形質転換体;及びPDCの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニンの低分子分解物であるシリンガアルデヒドなどから、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を発酵生産するための組換えベクター、形質転換体、及びそれを用いる2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(以下、「PDC」と略す場合がある)の工業的製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物主要成分であるリグニンは、芳香族高分子化合物として植物細胞壁に普遍的に含まれており、樹木では30% 、イネやトウモロコシ稈では15%を占めるバイオマス資源である。その他にも植物は多様な芳香族化合物を構成成分として含んでいる。しかし、リグニンを主成分とする植物由来の芳香族成分は化学構造が多様な成分で構成されている事や複雑な高分子構造を持つため有効な利用技術が開発されていない。従来の利用技術として挙げられるのは、リグニンを主成分とする植物由来の芳香族成分をアルカリ分解などの化学分解で生成する低分子芳香族分解物から、香料原料であるバニリンを分離製造する実用化技術がある。しかし、化学分解で生成するバニリン以外の多量の低分子芳香族物質の有効な利用方法はないのが現状である。そのため製紙工程で大量に生成するリグニンは有効利用される事無く重油の代替え品として燃焼されている。
【0003】
今日の石油化学工業の発展を支えたのは、多様な化学成分の混合物である原油を触媒分解と分溜によってベンゼンやエチレンなどの単一な中間物質に一旦変換し、それらを原料に多様な機能性プラスチックスを製造するという原理である。この石油化学工業の発展を支えた基本原理は、化学構造の多様さや複雑な高分子構造を持つリグニンなど植物芳香族成分の利用技術においても適用可能な普遍的原理である。リグニンを主成分とする植物由来の芳香族成分利用の技術を開発する上で、石油化学の触媒分解に相当するプロセスとして、リグニンなど植物芳香族成分の加水分解や酸化分解、可溶媒分解などの化学的分解法や、超臨界水や超臨界有機溶媒による物理化学的分解法など多くの低分子化技術が既に数多く研究され開発されている。しかしもう一つの技術である、各種分解法により生成する植物成分由来低分子混合物から、様々な機能性プラスチックス原料や化学製品の原料と成りうる有用な単一の中間物質(石油化学においてはエチレンやベンゼン) への変換分離技術は開発されていなかった。この技術が開発されれば、リグニンを主成分とする植物由来の芳香族成分利用が、石油化学に匹敵する技術として発展する可能性がある。_
【0004】
本発明者らは、リグニンの分解物であるバニリン、シリンガアルデヒド、バニリン酸、シリンガ酸、プロトカテク酸、又はその混合物等から、バイオリアクターにより、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸に変換する方法を報告している。図1に、これらの分解物からPDCへの変換経路の一例を示す。リグニン分解物であるシリンガアルデヒドやシリンガ酸などを効率良く酸化して、2−ピロン−4,6−ジカルボン酸に変換する酵素は重要であり、現在この酸化反応は、ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ(LigV2)、バニリン酸・シリンガ酸ディメチラーゼ(VanA, VanB)遺伝子、プロトカテク酸4,5−ジオキシゲナーゼ(LigA,LigB又はPmdA, PmdB)遺伝子、4−カルボキシ−2−ヒドロキシムコン酸−6−セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(LigC又はPmdC)遺伝子などがその役割を果たしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−278549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すでに従来発明で、シリンガアルデヒド、シリンガ酸から、2-ピロン−4,6-ジカルボン酸の発酵生産が可能になっているが、中間代謝物質である3−O−メチルガリック酸(3MGA)が蓄積することで2-ピロン−4,6−ジカルボン酸生産量の減少が起こっていた。3MGAが夾雑していると、その毒性により菌の生育が阻害されたり、GA等との重合物により培養液が着色され、精製品質に悪影響が及ぼされる。一方で、3MGAのPDCへの変換効率を向上できれば、収量が増加し、経済的に有利である。そこで、本発明では、3MGAを2-ピロン−4,6−ジカルボン酸へと変換する3MGA 3,4−ジオキシゲナーゼ(DesZ)をコードする遺伝子を追加することで、効率的に2−ピロン−4,6-ジカルボン酸を発酵生産することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
植物芳香族成分の低分子化処理混合物に含まれる、シリンガアルデヒド、シリンガ酸から、効率的に単一の中間物質2-ピロン−4,6−ジカルボン酸に変換する発酵生産プロセスを構築した。従来は2−ピロン−4,6−ジカルボン酸までの変換に必要な遺伝子(LigV2, LigV, PobA, VanAB, LigABC)を適当なプロモーター配列の下流に連結した遺伝子組換えベクターおよびそれを保有する形質転換体細胞を作製し発酵生産を行ったが、本発明ではさらにDesZを有するベクターを同一の形質転換体細胞に共存させた。DesZはLigABよりも3MGAに対して約17倍高いジオキシゲナーゼ活性を示すことから、LigAB単独時よりもシリンギル核リグニン由来芳香族化合物からの効率的な2−ピロン−4,6−ジカルボン酸の量産プロセスが確立できた。
【0008】
すなわち、
(1)本発明は、好ましくはプロモーターとターミネーターとの間に、下記のDNA分子
(a−1)配列番号1記載の3MGA 3,4−ジオキシゲナーゼ(DesZ)遺伝子のDNA分子;
(a−2)配列番号2記載の3MGA 3,4−ジオキシゲナーゼ(DesZ)のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(a−3)配列番号1記載のDNA分子又はその相補配列からなるDNA分子と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ3MGA 3,4−ジオキシゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;又は
(a−4)配列番号2記載のアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ3MGA 3,4−ジオキシゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;
を含む組換えベクターを提供する。
【0009】
(2)本発明はさらに、好ましくはプロモーターとターミネーターとの間に、下記のDNA分子群を有する(1)に記載の組換えベクターを提供する:
ここで、前記DNA分子群は、(b)LigV2遺伝子と、(c)VanAB遺伝子及び/又はVanA及びVanB遺伝子との組み合わせから成る群より選ばれ;
(b)LigV2遺伝子は下記のいずれかのDNA分子であり、
(b−1)配列番号3記載のDNA分子;
(b−2)配列番号4記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(b−3)配列番号3記載のDNA分子又はその相補配列からなるDNA分子と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;又は
(b−4)配列番号4記載のアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子、
(c)VanA及びVanB遺伝子はそれぞれ下記のいずれかのDNA分子であり、
(c−1)配列番号5及び7記載のDNA分子;
(c−2)配列番号6及び8記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(c−3)配列番号5及び7記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号5及び7記載のDNA分子又はそれぞれの相補配列からなるDNA分子と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつシリンガ酸、バニリン酸に対してディメチラーゼ活性を有する2本のポリペプチドをコードするDNA分子;又は
(c−4)配列番号6及び8記載のアミノ酸配列の変異体、即ち、配列番号6及び8記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつシリンガ酸、バニリン酸に対してディメチラーゼ活性を有する2本のポリペプチドのいずれか一方又は両方をコードするDNA分子。
【0010】
(3)本発明はさらに、任意的にプロモーターとターミネーターとの間に、d)LigA遺伝子、(e)LigB遺伝子、(f)LigC遺伝子及びその組み合わせから成る群より選ばれるDNA分子群を有する(1)又は(2)に記載の組換えベクターを提供する:
ここで、前記DNA分子群は、;
(d)LigA遺伝子は下記のいずれかのDNA分子であり、
(d−1)配列番号9記載のDNA分子;
(d−2)配列番号10記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(d−3)配列番号9記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号9記載のDNA分子又はその相補配列からなるDNA分子と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼαサブユニット活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;又は
(d−4)配列番号10記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号10記載のアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼαサブユニット活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子(αサブユニット);
(e)LigB遺伝子は下記のいずれかのDNA分子であり、
(e−1)配列番号11記載のDNA分子;
(e−2)配列番号12記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(e−3)配列番号11記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号11記載のDNA分子又はその相補配列からなるDNA分子と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼβサブユニット活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;又は
(e−4)配列番号12記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号12記載のアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼβサブユニット活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子(βサブユニット);
(f)DNA分子(LigC遺伝子)は下記のいずれかのDNA分子であり、
(f−1)配列番号13記載のDNA分子;
(f−2)配列番号14記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(f−3)配列番号13記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号13記載のDNA分子又はその相補配列からなるDNA分子と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;又は
(f−4)配列番号14記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号14記載のアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子。
【0011】
(4)本発明はさらに、任意的にプロモーターとターミネーターとの間に、下記のDNA分子群を有する(1)〜(3)のいずれかに記載の組換えベクターを提供する:
ここで、前記DNA分子群は、(g)PmdA遺伝子、(h)PmdB遺伝子、(i)PmdC遺伝子及びその組み合わせから成る群より選ばれ;
(g)PmdA遺伝子は下記のいずれかのDNA分子であり、
(g−1)配列番号15記載のDNA分子;
(g−2)配列番号16記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(g−3)配列番号15記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号15記載のDNA分子又はその相補配列からなるDNA分子と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼαサブユニット活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;又は
(g−4)配列番号16記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号16記載のアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼαサブユニット活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;
(h)PmdB遺伝子は下記のいずれかのDNA分子であり、
(h−1)配列番号17記載のDNA分子;
(h−2)配列番号18記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(h−3)配列番号17記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号17記載のDNA分子又はその相補配列からなるDNA分子と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼβサブユニット活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;又は
(h−4)配列番号18記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号18記載のアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつプロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼβサブユニット活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;
(i)DNA分子(PmdC遺伝子)は下記のいずれかのDNA分子であり、
(i−1)配列番号19記載のDNA分子;
(i−2)配列番号20記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(i−3)配列番号19記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号19記載のDNA分子又はその相補配列からなるDNA分子と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ4−カルボキシ−2−ヒドロキシムコン酸−6−セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;又は
(i−4)配列番号20記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号20記載のアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ4−カルボキシ−2−ヒドロキシムコン酸−6−セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子。
【0012】
(5)本発明はさらに、任意的にプロモーターとターミネーターとの間に、下記のDNA分子群を有する(1)〜(4)のいずれかに記載の組換えベクターを提供する:
ここで、前記DNA分子群は、(j)LigV遺伝子、(k)PobA遺伝子及びその組み合わせから成る群より選ばれ;
(j)LigV遺伝子は下記のいずれかのDNA分子であり、
(j−1)配列番号21記載のDNA分子;
(j−2)配列番号22記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(j−3)配列番号21記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号21記載のDNA分子又はその相補配列からなるDNA分子と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;又は
(j−4)配列番号22記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号22記載のアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;
(k)PobA遺伝子は下記のいずれかのDNA分子であり、
(k−1)配列番号23記載のDNA分子;
(k−2)配列番号24記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(k−3)配列番号23記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号23記載のDNA分子又はその相補配列からなるDNA分子と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつp-ヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;又は
(i−4)配列番号24記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号24記載のアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつp-ヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子。
【0013】
(6)本発明は、前記3MGA 3,4−ジオキシゲナーゼ遺伝子が、スフィンゴビウム・パウシモビリス(Sphingobium paucimobilis)SYK-6株由来である、(1)〜(5)のいずれか1に記載の組換えベクターを提供する。
(7)本発明は、(1)〜(6)のいずれか1に記載の組換えベクターを含む形質転換体を提供する。
(8)本発明は、(7)に記載の形質転換体を培養し、該培養物からPDCを採取することを特徴とする、PDCの製造方法を提供する。
(9)本発明は、(1)〜(6)のいずれか1に記載の組換えベクターの発現により得られるタンパク質を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、化学構造の多様性や複雑な高分子構造を持ち利用が困難なリグニンなどの植物芳香族成分の加水分解や酸化分解、可溶媒分解などの化学的分解法や、超臨界水や超臨界有機溶媒による物理化学的分解法などの低分子化技術で生成する、シリンガアルデヒド、シリンガ酸、バニリン、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、バニリン酸、p-ヒドロキシ安息香酸、プロトカテク酸等の混合物から、微生物機能を利用することにより、単一の化合物、2-ピロン−4,6-ジカルボン酸を発酵生産することを可能とした。
特に、従来発明では変換が不十分であったシリンガアルデヒド、シリンガ酸からの効率的な変換を実証した。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】シリンガアルデヒド、バニリン又はp-ヒドロキシベンズアルデヒドからPDCへの変換工程図である。
【図2】DesZの塩基配列である。
【図3】DesZのアミノ酸配列である。
【図4】組換えベクターpJBV2Zの作製方法を示す図である。
【図5】実施例2におけるPDCの生産を示すTLCである。
【図6】実施例2における培養時間に対するPDCの生成濃度を示すグラフである。
【図7】実施例3におけるPDCの生産を示すTLCである。
【図8】実施例3における培養時間に対するPDCの生成濃度を示すグラフである。
【図9】比較例1におけるPDCの生産を示すTLCである。
【図10】比較例2におけるPDCの生産を示すTLCである。
【図11】比較例2における培養時間に対するPDCの生成濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、シリンガアルデヒドやシリンガ酸などといったリグニン分解物からPDCを製造するプロセスを触媒するための酵素遺伝子を含む組換えベクターを提供する。本発明の組換えベクターは、具体的には、3−O−メチルガリック酸(3MGA)を2−ピロン−4,6-ジカルボン酸へと酸化することで、シリンガアルデヒドやシリンガ酸からPDCを製造するプロセスを触媒する配列番号1に示す塩基配列から成る3MGA 3,4−ジオキシゲナーゼ(DesZ)遺伝子を含むことを特徴とする。DesZ遺伝子配列は既知配列であり、Accession Number: AB110976として登録され、スフィンゴビウム・パウシモビリス(S. paucimobilis)SYK-6株に由来する(J. Bacteriol 2004 186(15):4951-9)。
【0017】
本発明の組換えベクターはさらに好ましくは、DesZ遺伝子に加え、シリンガアルデヒドをシリンガ酸に変換するバニリン、シリンガアルデヒド・p−ヒドロキシベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ(LigV2)遺伝子(配列番号3)と、シリンガ酸を3−O−メチルガリック酸に変換するバニリン酸・シリンガ酸ディメチラーゼ(VanA, VanB)遺伝子(配列番号5、配列番号7)とを含む。このように、本発明に係る組換えベクターはDesZ遺伝子と、LigV2遺伝子と、VanA及びVanB遺伝子とを含むことで、シリンガアルデヒド→シリンガ酸→3GMA→PDCに至る変換過程を触媒できる。
【0018】
また、本発明の組換えベクターはさらに好ましくは、3MGAを、DesZほど効率的ではないが、PDCへと酸化する、プロトカテク酸4,5−ジオキシゲナーゼ(LigA,LigB又はPmdA, PmdB)遺伝子、4−カルボキシ−2−ヒドロキシムコン酸−6−セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(LigC又はPmdC)遺伝子を更に含んでよい。これにより、シリンガアルデヒド→シリンガ酸→3GMA→PDCに至る変換過程はなお一層触媒される。
【0019】
なおさらに、本発明の組換えベクターは好ましくは、リグニン分解物であるバニリンをバニリン酸へと酸化する、あるいはリグニン分解物であるp−ヒドロキシベンズアルデヒドをp−ヒドロキシ安息香酸へと酸化する、あるいはシリンガアルデヒドをシリンガ酸へと酸化するベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ(LigV)遺伝子、及び/又はp−ヒドロキシ安息香酸をプロトカテク酸へと酸化するp-ヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ(PobA)遺伝子を更に含んでよい。これにより、バニリン→バニリン酸→プロトカテク酸(PCA)→PDCに至る変換過程や、p−ヒドロキシベンズアルデヒド→p−ヒドロキシ安息香酸→PCA→PDCに至る変換過程は一層触媒される。
【0020】
DesZ、VanA, VanB, LigA, LigB, LigC, LigV, PobA遺伝子及びその遺伝子産物は全て公知である。VanA, VanB はそれぞれ特開2005-278549号公報に記載の配列番号1、2、3で示されるDNA分子からなる遺伝子に相当し、LigA、LigB、LigCは、それぞれ、同公報に記載の配列番号14、16、18で示されるDNA分子からなる遺伝子に相当し、LigVは同広報に記載の配列番号21で示されるDNA分子からなる遺伝子に相当する。また、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440由来のPobA遺伝子は、Accession No.NC 002947としてNCBIに登録されている。これらの各遺伝子には、上記の各配列番号又はAccession No.で特定されたDNA分子の他に、そのDNA分子と相補的な塩基配列からなるDNAと高ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつそのDNA分子と同一の活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子も含まれる。
【0021】
LigV2は特願2009-221306に記載されている新規遺伝子である。LigV2は、添付の図1においてLigVが触媒する酸化反応、すなわちシリンガアルデヒドからシリンガ酸への反応、及びp-ヒドロキシベンズアルデヒドからp-ヒドロキシ安息香酸への反応を、LigVよりも効率良く進行させる。
【0022】
LigV2遺伝子は、配列番号3や4の配列情報に基づいて、一般的遺伝子工学的手法により製造、取得することができる。具体的には、本発明の遺伝子が発現される微生物、例えばスフィンゴビウム・パウシモビリス(S. paucimobilis)SYK-6株より、常法に従ってゲノムDNAライブラリーを調製し、該ライブラリーから、本発明遺伝子に特有の適当なプローブ等を用いて所望クローンを選択することにより製造することができる。上記において、SYK-6株からの全RNAの分離、mRNAの分離及び精製、ゲノムDNAの取得及びそのクローニングなどは、いずれも常法に従って行うことができる。
【0023】
LigV2遺伝子をゲノムDNAライブラリーからスクリーニングする方法も、特に制限されず、通常の各種方法に従うことができる。具体的方法としては、例えば、目的の該酸配列に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法など、及びこれらの組合せを例示することができる。
【0024】
上記方法において用いられるプローブとしては、本発明の遺伝子の塩基配列に関する情報をもとにして化学合成されたDNAなどが一般的に使用できる。また、本発明の遺伝子の塩基配列情報に基づき設定したセンス・プライマー及びアンチセンス・プライマーを、スクリーニング用プローブとして用いることができる。
【0025】
本発明の遺伝子の取得に際しては、PCR法(Science,230,1350(1985))によるDNA増幅法が好適に利用できる。増幅させたDNA断片の単離精製は、常法に従って行うことができる。例えばゲル電気泳動法などが挙げられる。上記方法に従って得られる本発明の遺伝子は、常法、例えばジデオキシ法(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,74,5463(1977))、マキサム−ギルバート法(Methods in Enzymology,65,499(1980))などに従って、その塩基配列を決定することができる。また、簡便には、市販のシークエンスキットなどを用いて、その塩基配列を決定することができる。
【0026】
PmdA、PmdB及びPmdC遺伝子も特願2009-221306に記載され、LigA遺伝子、LigB遺伝子、LigC遺伝子と同様に、プロトカテク酸を効率良くPDCに変換する。したがって、本発明の組換えベクターは、LigA遺伝子と、LigB遺伝子と、LigC遺伝子とを含む代わりに、あるいはそれに加えて、PmdA、PmdB及びPmdC遺伝子又はその変異体を含んでよい。
配列番号14に示すPmdA遺伝子(プロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ αサブユニット遺伝子)は、プロトカテク酸 4,5-環を開裂し、プロトカテク酸を4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒドに変換するジオキシゲナーゼのα-サブユニットをコードし、配列番号16に示すPmdB遺伝子(プロトカテク酸4,5-ジオキシゲナーゼ βサブユニット遺伝子)は、該酵素のβ-サブユニットをコードする。PmdA遺伝子及びPmdB遺伝子の塩基配列はいずれも、Accession No.AF459635としてNCBIに登録されている。また、配列番号18に示すPmdC遺伝子(4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子)は、4-カルボキシ-2-ヒドロキシムコン酸-6-セミアルデヒドを開環してPDCに変換するデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子であり、Accession No.AF305325としてNCBIに登録されている。
【0027】
PmdA、PmdB、及びPmdC遺伝子は、例えば、コマモナス属 E6株(Comamonas sp. E6)から、コマモナス・テストステロニ BR6020株由来のゲノム(Accession NO.AF305325)を参考にして、PCR法〔Science,230,1350(1985)〕によるDNA/RNA増幅法を用いて獲得することができる。かかるPCR法の採用に際して使用されるプライマーは、コマモナス・テストステロニ BR6020株由来の遺伝子の配列情報に基づいて適宜設定でき、これは常法に従って調製できる。
【0028】
本明細書において、「高ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。高ストリンジェントな条件としては、同一性が高いDNA同士がハイブリダイズし、それより同一性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、例えば、Molecular cloning a Laboratory manual 2nd edition(Sambrookら、1989)に記載の条件が挙げられる。具体的には、通常のサザンハイブリダイゼーションにおける洗浄の条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSで相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0029】
本明細書において、「1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列」とは、注目の配列番号のアミノ酸配列と等価のアミノ酸配列を意味し、具体的には、好ましくは1〜20個のアミノ酸、より好ましくは1〜10個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を意味し、付加には、両末端への1個〜数個のアミノ酸の付加が含まれる。
【0030】
本発明に係る遺伝子群を挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に制限されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNAなどが挙げられる。
プラスミドDNAとしては、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pET21、pET28、pGEX−4T、pQE−30、pQE−60などの大腸菌宿主用プラスミド、pUB110、pTP5などの枯草菌用プラスミド、YEp13、YEp24、YCp50などの酵母宿主用プラスミド、pBI221、pBI121などの植物細胞宿主用プラスミドなどが挙げられる。ファージDNAとしてはλファージなどが挙げられる。更に、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0031】
本発明に係る遺伝子群をベクターに挿入するには、まず、本発明に係る各遺伝子を有する精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0032】
本発明に係る遺伝子群は、その遺伝子群の機能が発揮されるようにベクターに組み込むことができる。すなわち、ベクターは、本発明に係る各遺伝子、プロモーター、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(シャイン・ダルガノ配列)などを含むように調製することができる。選択マーカーとしては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子などを使用することができる。
【0033】
プロモーターとしては、大腸菌などの宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例えばtrpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーターなどの大腸菌由来のものやT7プロモーターなどのファージ由来のものが用いられる。更に、tacプロモーターなどのように人為的に設計改変されたプロモーターを用いてもよい。
【0034】
本発明に係る遺伝子群を含む組換えベクターを、当該遺伝子群が発現し得るように宿主中に導入することにより、形質転換することができる。形質転換の方法としては、プロトプラスト法、コンピテントセル法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0035】
宿主としては、本発明の遺伝子群を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)などのシュードモナス属、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)などのエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などのバチルス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)などのリゾビウム属に属する細菌類の他に、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)などの酵母;シロイヌナズナ、タバコ、トウモロコシ、イネ、ニンジンなどから株化した植物細胞や該植物から調製したプロトプラスト;COS細胞、CHO細胞などの動物細胞;及び、Sf9、Sf21などの昆虫細胞が挙げられる。好ましくは、植物成分由来、化学合成もしくは石油由来のバニリン、シリンガアルデヒド、バニリン酸、シリンガ酸、プロトカテク酸、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、p-ヒドロキシ安息香酸の分解代謝酵素機能を消失せしめたいわゆるPDC代謝能を有しない、あるいは代謝能の弱い宿主が使用され、その典型例としてシュードモナス・プチダPpY1100株が挙げられる。
【0036】
形質転換体の選択は、用いたプラスミドの選択マーカー、例えば形質転換体のDNA組換えにより獲得する薬剤耐性を指標にすることができる。薬剤耐性マーカーとしては、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等が挙げられる。これらの形質転換体の中から目的の組換えベクターを含有する形質転換体の選択は、例えば遺伝子の部分的なDNA断片をプローブとして用いたコロニーハイブリダイゼーション法により行うのが好ましい。プローブの標識としては、例えば放射性同位元素、ジゴキシゲニン、酵素等を用いることができる。
【0037】
得られた形質転換体は、糖類の他、窒素源、金属塩、ミネラル、ビタミン等を含む培地を用いて適当な条件下で培養すればよい。培地のpHは、形質転換体が生育し得る範囲のpHであればよく、pH 6〜8程度に調整するのが好適である。培養は、好気的条件下で、15〜40℃、好ましくは28〜37℃で2〜7日間振盪又は通気攪拌培養すればよい。
【0038】
本発明の製造法によって得られるPDCは、生分解性のプラスチック材料、化学製品材料等として利用できる。
【実施例】
【0039】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
実施例1
1.1 DesZ遺伝子の獲得及びPDC生産のための組換えプラスミドpJBDZおよびpJBV2Zの作製
DesZ遺伝子配列は既知配列であり、スフィンゴビウム・パウシモビリス(S. paucimobilis )SYK-6株に由来し、Accession Number: AB110976で登録されている(J. Bacteriol 2004 186(15):4951-9)。DesZを含む1.7-kb SmaI-SphI断片及びそのアミノ酸配列を図2及び図3に示す。
なお、図2に示しているとおり、DesZ本来の開始コドンより手前にATGが存在するが、網掛けで示した領域にSD配列が存在するため、転写後その後ろに存在する本来のATGから翻訳が開始されると予想される。
以下で活性を確認した結果、DesZをlacプロモーター下流に存在させると、その活性を十分に発揮できることがわかった。
【0041】
DesZ遺伝子を図4に記載のとおりにして、制限酵素処理、末端の平滑化、末端の脱リン酸化、を適宜行い連結した。なお、各遺伝子はLacZ のαフラグメントとインフレームで接続されlac promoterごと切り出され、連結された。詳しくは、以下のとおりにして組換えプラスミドを作製した。
【0042】
1.2 DesZを含むpJBDZの作成
Journal of Bacteriology, 186 (15), pp. 4951-4959(2004)に記載のとおりにして作製したpBX2FからDesZを含む2.7-kb SalI-XhoI断片をpBluescriptIIKS(+)のSalI-XhoIに挿入し、組み換えプラスミドpBXSA1を作製した(図4)。pBXSA1を制限酵素SmaI及びSphIにより切断した後末端平滑化によって得られるDNA断片(1.7 kb)と、pBluescriptIISK(+)を制限酵素NotIにより切断した後末端平滑化によって得られるDNA断片とを、T4DNAリガーゼ(ロッシュ製)により結合させることにより、組み換えプラスミドpBSDZを作製した。pBSDZを制限酵素VspI及びXbaIにより切断した後末端平滑化によって得られるDNA断片と、pJB866(U82001)を制限酵素HindIIIにより切断した後末端平滑化によって得られるDNA断片とを、T4DNAリガーゼ(ロッシュ製)により結合させることにより、組み換えプラスミドpJBDZを作製した。
【0043】
1.3 LigV2を含むpSKL2ifの作成
LigV2を含むpSKL2ifは特願2009-221306に準じて作成した。簡単には、配列番号3で示すLigV2遺伝子を以下のプライマー:
uni-primer:5’-GGCGCTGAAGTCCGCCGC-3’ (配列番号25)
rev-primer:5’-CTGCAGGCCTATCTCGAGAC-3’ (配列番号26)
を用いて、PCR法により増幅させた。塩基配列を有するアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子LigV2を含む1.7kbのBamHI-PstI遺伝子断片をpBluescriptIIKS(+)のBamHI-PstIに挿入し、組み換えプラスミドpSKL2ifを作製した(図4)。PCRの反応条件は、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒〜1分間(アニーリング)、72℃で2分間(伸長)から成る反応工程を1サイクルとして、30サイクル行った後、72℃で7分間反応させた。増幅したLigV2遺伝子をpBluescriptIISK(-)のMCSに挿入し、組み換えプラスミドpSKL2ifを作製した(図4)。
【0044】
1.4 DesZ 及びLigV2を含むpJBV2Zの作成
次いで、pJBDZを制限酵素NotIにより切断した後末端平滑化によって得られるDNA断片と、pSKL2ifを制限酵素VspI及びSalIにより切断した後末端平滑化によって得られるDNA断片とを、T4DNAリガーゼ(ロッシュ製)により結合させることにより、組み換えプラスミドpJBV2Zを作製した(図4)。
【0045】
1.5 VanA, VanB, PobA, LigV, LigA,B,Cを含むpVaPoLigVABCの作成
PobA遺伝子を以下のプライマー:
uni-primer:5’-TCGAGCAATGGCAAACCCTAACAGCAGATG-3' (配列番号27)
rev-primer:5’-CTAGAGGCTTGGTGAAAAACGCCTGACCCG-3' (配列番号28)
を用いて、PCR法により増幅させた。PCRの反応条件は、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒〜1分間(アニーリング)、72℃で2分間(伸長)から成る反応工程を1サイクルとして、30サイクル行った後、72℃で7分間反応させた。PobA遺伝子を配列番号22に、アミノ酸配列を配列番号23に示す。
【0046】
増幅したPobA遺伝子をpBluescriptIISK(+)のMCSに挿入し、組み換えプラスミドpPobAを作製した。特開2005‐278549号公報の図16に記載のプラスミドpULVを制限酵素Vsp I及びHindIIIにより切断した後に末端を平滑化して得られるDNA断片と、pPobAを制限酵素HindIIIによって切断した後に末端を平滑化して得られるDNA断片とを、T4DNAリガーゼにより結合させることにより、組換えベクターpPobALigVを作製した。次いで、特開2005−278549号公報に記載のpKTVLABCを制限酵素Xba Iによって部分消化した後に末端を平滑化して得られるDNA断片をセルフライゲーションし、LigABC下流のXba Iサイトを欠損させて(サイトデリーション)、組換えベクターpDVZ21Xを作製した。pDVZ21Xを制限酵素Xba Iによって部分消化した後に末端を平滑化して得られるDNA断片と、前記の組換えベクターpPobALigVとを制限酵素Vsp I及びXho Iにより切断した後に末端を平滑化して得られるDNA断片とを、T4DNAリガーゼにより結合させることにより、組換えベクターpVaPoLigVABCを作製した(図4)。
【0047】
1.6 宿主への遺伝子の導入
植物成分由来、化学合成もしくは石油由来のバニリン、シリンガアルデヒド、バニリン酸、シリンガ酸、プロトカテク酸のいずれかからの分解代謝酵素機能、及び2−ピロン−4,6−ジカルボン酸に対する分解酵素機能を消失せしめた微生物であるシュードモナス属細菌(Pseudomonas putida PpY1100)を、LB液体培地500mlで、28℃23時間培養し氷中で30分冷却した。4℃10分10000rpmで遠心集菌し、500mlの0℃蒸留水で温和に洗浄後再び遠心集菌した。続いて250mlの0℃蒸留水で温和に洗浄後、遠心集菌した。さらに125mlの0℃蒸留水で温和に洗浄後、遠心集菌した。集菌した微生物細胞を、10%グリセロールを含む蒸留水に懸濁し0℃にて保持した。
【0048】
1.4で作製した上記pJBV2Zと1.5で作製した上記pVaPoLigVABCを、上記PpY1100株に導入した。プラスミドpJBV2ZおよびpVaPoLigVABCを保持する株をPpY1100-V2Zplus株とした。プラスミドpVaPoLigVABCを保持する株をPpY1100-VaPo株とした。
【0049】
実施例2
シュードモナス属細菌(Pseudomonas putida PpY1100)にPDC発酵生産プラスミドpJBV2ZとpVaPoLigVABCを導入した形質転換細胞によりシリンガ酸からPDCの製造に関する実施例(5リットルの培養液での変換試験)
(1)PDCを発酵生産するための多段反応プロセスの酵素遺伝子を含む組み換えプラスミドpJBV2Zを大腸菌JM109株に形質転換し、25 mg/Lのテトラサイクリンを含むLB培地(10ml)で、37℃で18時間振とう培養し、増殖した培養細胞から組み換えプラスミドpJBV2Zを抽出した。また、組み換えプラスミドpVaPoLigVABCを大腸菌JM109株に形質転換し、25 mg/Lのカナマイシンを含むLB培地(10ml)で、37℃で18時間振とう培養し、増殖した培養細胞から組み換えプラスミドpVaPoLigVABCを抽出した。
(2)PDC代謝能を消失せしめた微生物であるシュードモナス属細菌(Pseudomonas putida PpY1100)を、LB液体培地200mlで、28℃ 24時間培養し氷中で30分冷却した。4℃ 10分10000rpmで遠心集菌し、200mlの0℃蒸留水で温和に洗浄後再び遠心集菌した。続いて150mlの0℃蒸留水で温和に洗浄後、遠心集菌した。さらに100mlの0℃蒸留水で温和に洗浄後、遠心集菌した。集菌した微生物細胞を、10%グリセロールを含む蒸留水に懸濁し0℃にて保持した。
(3)(1)のプラスミドpJBV2ZとpVaPoLigVABCを約0.05μgを含む蒸留水4μlを0.2cmのキュベットに入れ、(2)の10%グリセロールを含む蒸留水に懸濁した細胞液40μlを加え、(25μF、2500V、12msec)の条件でエレクトロポレーションにかけた。
(4)上記処理した細胞全量を10mlのLB液体培地に接種し、28℃で6時間培養した。培養後遠心によって菌体を集め25 mg/Lのカナマイシン、テトラサイクリンを含むLB平板に塗布し28℃で48時間培養し、プラスミドpJBV2ZとpVaPoLigVABCを保持するカナマイシン、テトラサイクリン耐性を示す形質転換株を得た。本菌をPseudomonas putida PpY1100-V2Zplus株と名づけた。
(5)PpY1100-V2Zplus株を、200mlのLB液体培地(25 mg/Lのカナマイシン、テトラサイクリンを含む)に接種し28℃で16時間培養し前培養菌体懸濁液とした。5 LのLB液体培地及び消泡剤(Antiform A) 3 mlを10L容量のジャーファーメンター(発酵槽)を用いて調製し、そこに培養したPpY1100-V2Zplus株の前培養菌体懸濁液50mlを混合し、28℃ 700 rpmの通気攪拌下、OD660=10〜14まで培養した(10時間〜12時間)。
(6)OD660=10〜14に達した発酵槽の培養液に、基質であるシリンガ酸50gを含む0.1NのNaOH水溶液(pH8.0に調整)500mlを、ペリスタポンプを用いて10時間かけて添加した。反応の進行に伴う2−ピロン−4,6−ジカルボン酸の生成により、培養液のpHが低下する。それを防ぐためpHセンサーに連結したペリスタポンプで5NのNaOH溶液を添加して培養液のpHを維持した。
反応の進行はThin Layer Chromatography(TLC)によって確認した。図5に示す様に、添加したシリンガ酸は基質添加36時間で殆ど消失することが確認された。反応液中の2−ピロン−4,6−ジカルボン酸定量の結果は図6に示すように約49.2mM(収率97.6%)検出された。
(7)反応終了後、発酵槽の培地をプラスチック容器(バケツ)に移した。培養液から遠心分離(6000rpm、20℃)により菌体成分を沈殿除去し、得られた上清に塩酸を加えpH3.5にし低温で保存した。2−ピロン−4,6-ジカルボン酸は、特開2008-79603号公報に示す方法に従い精製し、高純度のPDCを得た。
【0050】
実施例3
3.1 シュードモナス属細菌(Pseudomonas putida PpY1100)にPDC発酵生産プラスミドpJBV2ZとpVaPoLigVABCを導入した形質転換細胞によりシリンガアルデヒドからPDCの製造に関する実施例
(1)PDCを発酵生産するための多段反応プロセスの酵素遺伝子を含む組み換えプラスミドpJBV2Zを大腸菌JM109株に形質転換し、25 mg/Lのテトラサイクリンを含むLB培地(10ml)で、37℃で18時間振とう培養し、増殖した培養細胞から組み換えプラスミドpJBV2Zを抽出した。また、組み換えプラスミドpVaPoLigVABCを大腸菌JM109株に形質転換し、25 mg/Lのカナマイシンを含むLB培地(10ml)で、37℃で18時間振とう培養し、増殖した培養細胞から組み換えプラスミドpVaPoLigVABCを抽出した。
(2)植物成分由来、化学合成もしくは石油由来のバニリン、シリンガアルデヒド、バニリン酸、シリンガ酸、プロトカテク酸、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、p-ヒドロキシ安息香酸の分解代謝酵素機能を消失せしめた微生物であるシュードモナス属細菌(Pseudomonas putida PpY1100)を、LB液体培地200mlで、28℃ 24時間培養し氷中で30分冷却した。4℃ 10分10000rpmで遠心集菌し、200mlの0℃蒸留水で温和に洗浄後再び遠心集菌した。続いて150mlの0℃蒸留水で温和に洗浄後、遠心集菌した。さらに100mlの0℃蒸留水で温和に洗浄後、遠心集菌した。集菌した微生物細胞を、10%グリセロールを含む蒸留水に懸濁し0℃にて保持した。
(3)(1)のプラスミドpJBV2ZとpVaPoLigVABCを約0.05μgを含む蒸留水4μlを0.2cmのキュベットに入れ、(2)の10%グリセロールを含む蒸留水に懸濁した細胞液40μlを加え、(25μF、2500V、12msec)の条件でエレクトロポレーションにかけた。
(4)上記処理した細胞全量を10mlのLB液体培地に接種し、28℃で6時間培養した。培養後遠心によって菌体を集め25 mg/Lのカナマイシン、テトラサイクリンを含むLB平板に塗布し28℃で48時間培養し、プラスミドpJBV2ZとpVaPoLigVABCを保持するカナマイシン、テトラサイクリン耐性を示す形質転換株を得た。本菌をPseudomonas putida PpY1100-V2Zplus株と名づけた。
(5)PpY1100-V2Zplus株を、200mlのLB液体培地(25 mg/Lのカナマイシン、テトラサイクリンを含む)に接種し28℃で16時間培養し前培養菌体懸濁液とした。5LのLB液体培地及び消泡剤(Antiform A) 3 mlを10 L容量のジャーファーメンター(発酵槽)を用いて調製し、そこに培養したPpY1100-V2Zplus株の前培養菌体懸濁液50mlを混合し、28℃ 700 rpm/minの通気攪拌下、OD660=10〜14まで培養した(10時間〜12時間)。
(6)OD660=10〜14に達した発酵槽の培養液に、基質であるシリンガアルデヒド25 gを含む10%のEtOH水溶液(EtOHの終濃度1%)500mlを、ペリスタポンプを用いて10時間かけて添加した。反応の進行に伴う2-ピロン−4,6-ジカルボン酸の生成により、培養液のpHが低下する。それを防ぐためpHセンサーに連結したペリスタポンプで5NのNaOH溶液を添加して培養液のpHを維持した。
反応の進行はThin Layer Chromatography(TLC)によって確認した。図7に示す様に、添加したシリンガアルデヒドは基質添加22時間で殆ど消失することが確認された。反応液中の2−ピロン−4,6−ジカルボン酸定量の結果は図8に示すように約28.7mM(収率98.5%)検出された。
(7)反応終了後、発酵槽の培地をプラスチック容器(バケツ)に移した。培養液から遠心分離(6000rpm、20℃)により菌体成分を沈殿除去し、得られた上清に塩酸を加えpH3.5にし低温で保存した。2-ピロン−4,6-ジカルボン酸は、特開2008-79603号広報に示す方法に従い精製し高純度のPDCを得た。
【0051】
比較例1
シュードモナス属細菌(Pseudomonas putida PpY1100)にPDC発酵生産プラスミドpVaPoLigVABCを導入した形質転換細胞によりシリンガ酸からPDCの製造に関する実施例
(1)PDCを発酵生産するための多段反応プロセスの酵素遺伝子を含む組み換えプラスミドpVaPoLigVABCを大腸菌JM109株に形質転換し、25 mg/Lのカナマイシンを含むLB培地(10ml)で、37℃で18時間振とう培養し、増殖した培養細胞から組み換えプラスミドpVaPoLigVABCを抽出した。
(2)シュードモナス属細菌(Pseudomonas putida PpY1100)を、LB液体培地200mlで、28℃ 24時間培養し氷中で30分冷却した。4℃ 10分10000rpmで遠心集菌し、200mlの0℃蒸留水で温和に洗浄後再び遠心集菌した。続いて150mlの0℃蒸留水で温和に洗浄後、遠心集菌した。さらに100mlの0℃蒸留水で温和に洗浄後、遠心集菌した。集菌した微生物細胞を、10%グリセロールを含む蒸留水に懸濁し0℃にて保持した。
(3)(1)のプラスミドpVaPoLigVABCを約0.05μgを含む蒸留水4μlを0.2cmのキュベットに入れ、(2)の10%グリセロールを含む蒸留水に懸濁した細胞液40μlを加え、(25μF、2500V、12msec)の条件でエレクトロポレーションにかけた。
(4)上記処理した細胞全量を10mlのLB液体培地に接種し、28℃で6時間培養した。培養後遠心によって菌体を集め25 mg/Lのカナマイシンを含むLB平板に塗布し28℃で48時間培養し、プラスミドpVaPoLigVABCを保持するカナマイシン耐性を示す形質転換株を得た。本菌をPseudomonas putida PpY1100-VaPo株と名づけた。
(5)PpY1100-VaPo株を、200mlのLB液体培地(25 mg/Lのカナマイシンを含む)に接種し28℃で16時間培養し前培養菌体懸濁液とした。5 LのLB液体培地及び消泡剤(Antiform A) 3 mlを10 L容量のジャーファーメンター(発酵槽)を用いて調製し、そこに培養したPpY1100-VaPo株の前培養菌体懸濁液50mlを混合し、28℃ 700 rpmの通気攪拌下、OD660=10〜14まで培養した(10時間〜12時間)。
(6)OD660=10〜14に達した発酵槽の培養液に、基質であるシリンガ酸25 gを含む0.1NのNaOH水溶液(pH8.0に調整)500mlを、ペリスタポンプを用いて10時間かけて添加した。反応の進行に伴う2−ピロン−4,6-ジカルボン酸の生成により、培養液のpHが低下する。それを防ぐためpHセンサーに連結したペリスタポンプで5NのNaOH溶液を添加して培養液のpHを維持した。
反応の進行はThin Layer Chromatography(TLC)によって確認した。図9に示す様に、DesZ不在下では、基質添加40時間が経過しても3MGAの蓄積が見られ、PDCの生産量はわずかであった。
【0052】
比較例2
シュードモナス属細菌(Pseudomonas putida PpY1100)にPDC発酵生産プラスミドpJBligV2(特願2009-221306に記載)及びpVaPoLigVABCを導入した形質転換細胞によりシリンガアルデヒドからPDCの製造に関する実施例
【0053】
(1)pJBligV2の作成
ligV2遺伝子を以下のプライマー:
uni-primer:5’-GGCGCTGAAGTCCGCCGC-3’ (配列番号25)
rev-primer:5’-CTGCAGGCCTATCTCGAGAC-3’ (配列番号26)
を用いて、PCR法により増幅させた。PCRの反応条件は、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒〜1分間(アニーリング)、72℃で2分間(伸長)からなる反応工程を1サイクルとして、30サイクル行った後、72℃で7分間反応させた。
【0054】
増幅したligV2遺伝子をpBluescriptIISK-のMCSに挿入し、組み換えプラスミドpligV2を作製した。pligV2を制限酵素Vsp I及びSal Iにより切断した後に末端を平滑化して得られるDNA断片と、pJB866(U82001)を制限酵素BamH Iにより切断した後に末端を平滑化して得られるDNA断片とを、T4DNAリガーゼ(ロシュ製)により結合させることにより、組換えベクターpJBligV2を作製した。
(2)組換えベクターpVaPoLigVABC及び組換えベクターpJBligV2の抽出
実施例1.5で作製した組換えベクターpVaPoLigVABCを大腸菌XL-1株に形質変換し、25 mg/Lのカナマイシンを含むLB培地(100 ml)にて37℃で18時間振とう培養し、増殖した培地細胞から組換えベクターpVaPoLigVABCを抽出した。また、pJBligV2(特願2009-221306)を同様に大腸菌XL-1株に形質転換し、25 mg/Lのテトラサイクリンを含むLB培地(100 ml)にて37℃で18時間振とう培養し、増殖した培養細胞から組換えベクターpJBligV2を抽出した。
【0055】
(3)シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100の集菌
シュードモナス・プチダPpY1100を、LB液体培地500 mlで、28℃で23時間培養し、氷中で30分冷却した。4℃で10分、10000 rpmで遠心集菌し、500 mlの0℃の蒸留水で温和に洗浄後、再び遠心集菌し、続いて250 mlの0℃の蒸留水で温和に洗浄後、遠心集菌し、更に、125 mlの0℃の蒸留水で温和に洗浄後、遠心集菌した。集菌したシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100の細胞を、10%グリセロールを含む蒸留水に懸濁し、0℃にて保持した。
【0056】
(4)形質転換体の作製
(1)で抽出した組換えベクターpVaPoLigVABC、及び組換えベクターpJBligV2を約0.05μgずつ含む蒸留水4μlを0.2 cmのキュベットに入れ、集菌したシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100細胞の細胞液40μlを加え、25μF、2500 V、12 mescの条件でエレクトロポレーションにかけた。
【0057】
処理した細胞全量を10 mlのLB液体培地に接種し、28℃で6時間培養した。培養後遠心によって菌体を集め、25 mg/Lのカナマイシン及びテトラサイクリンを含むLB平板に展開し、28℃で48時間培養し、組換えベクターpVaPoLigVABCとpJBligV2を保持するカナマイシン及びテトラサイクリン耐性を示す形質転換株を得た。本菌をシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100(pVaPoLigVABC,pJBligV2)株と名付けた。
【0058】
(5)形質転換体の培養
得られたシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100(pVaPoLigVABC,pJBligV2)株を、200 mlのLB液体培地(25 mg/Lのカナマイシン及びテトラサイクリンを含む)に接種し、28℃で16時間培養し、前培養菌体懸濁液とした。5 LのLB液体培地及び消泡剤(Antiform A)3 mlを10 L容量のジャーファーメンター(発酵槽)を用いて調製し、ここに、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PpY1100(pVaPoLigVABC, pJBligV2)株の前培養菌体懸濁液200 mlを混合し、28℃で500 rpmの通気攪拌下、OD660=13〜14まで10時間〜12時間培養した。この時点で、発酵槽から500 mlの培養液を三角フラスコに拭き取り、氷上で保存した。
【0059】
OD660=13〜14に達した発酵槽の培養液に、基質であるシリンガアルデヒド10 g、50 mlエタノールを含む0.1 NのNaOH水溶液(pH 8.5に調製)500 mlを、ペリスタポンプを用いて5〜7時間かけて添加し、シリンガアルデヒドが2 g/L(約11mM)の終濃度となるようにした。反応の進行に伴うPDCの生成により、培養液のpHが低下するが、それを防ぐためpHセンサーに連結したペリスタポンプで0.1 NのNaOH溶液を添加して培養液のpHを維持した。
【0060】
反応の進行を図10にTLCで示す。また、反応液中のPDCの定量結果を図11に示す。図11において、×はPDCを、△はシリンガ酸からPDCへの変換の中間代謝物である3-0-メチルガリク酸(3MGA)を、□はシリンガ酸(SA)を、ひし形はシリンガアルデヒド(SAL)をそれぞれ示す。反応液中の2−ピロン−4,6-ジカルボン酸定量の結果は図10、11に示すように約1.5 mMであり、収率は約14%と低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a−1)〜(a−4)のDNA分子と、
(a−1)配列番号1記載の3MGA 3,4−ジオキシゲナーゼ(DesZ)遺伝子のDNA分子;
(a−2)配列番号2記載の3MGA 3,4−ジオキシゲナーゼ(DesZ)のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(a−3)配列番号1記載のDNA分子又はその相補配列からなるDNA分子と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ3MGA 3,4−ジオキシゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;又は
(a−4)配列番号4記載のアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ3MGA 3,4−ジオキシゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;
さらには下記のDNA分子群とを含む組換えベクター:
ここで、前記DNA分子群は、(b)LigV2遺伝子と、(c)VanA及びVanB遺伝子との組み合わせから成る群より選ばれ;
(b)LigV2遺伝子は下記(b−1)〜(b−4)のいずれかのDNA分子であり、
(b−1)配列番号3記載のDNA分子;
(b−2)配列番号4記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(b−3)配列番号3記載のDNA分子又はその相補配列からなるDNA分子と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子;又は
(b−4)配列番号4記載のアミノ酸配列の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA分子、
(c)VanA及びVanB遺伝子はそれぞれ下記(c−1)〜(c−4)のいずれかのDNA分子であり、
(c−1)配列番号5及び7記載のDNA分子;
(c−2)配列番号6及び8記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(c−3))配列番号5及び7記載のDNA分子の変異体、即ち、配列番号5及び7記載のDNA分子又はそれぞれの相補配列からなるDNA分子と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつバニリン酸、シリンガ酸に対してディメチラーゼ活性を有する2本のポリペプチドをコードするDNA分子;又は
(c−4)配列番号6及び8記載のアミノ酸配列の変異体、即ち、配列番号6及び8記載のアミノ酸配列それぞれにおいて、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつバニリン酸、シリンガ酸に対してディメチラーゼ活性を有する2本のポリペプチドのいずれか一方又は両方をコードするDNA分子。
【請求項2】
さらに、d)LigA遺伝子、(e)LigB遺伝子、(f)LigC遺伝子及びその組み合わせから成る群より選ばれDNA分子群を有する請求項1記載の組換えベクター:
ここで、前記DNA分子群は、;
(d)LigA遺伝子は下記(d−1)〜(d−4)のいずれかのDNA分子であり、
(d−1)配列番号9記載のDNA分子;
(d−2)配列番号10記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(d−3)配列番号9記載のDNA分子の変異体;又は
(d−4)配列番号10記載のDNA分子の変異体;
(e)LigB遺伝子は下記(e−1)〜(e−4)のいずれかのDNA分子であり、
(e−1)配列番号11記載のDNA分子;
(e−2)配列番号12記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(e−3)配列番号11記載のDNA分子の変異体;又は
(e−4)配列番号12記載のDNA分子の変異体;
(f)DNA分子(LigC遺伝子)は下記(f−1)〜(f−4)のいずれかのDNA分子であり、
(f−1)配列番号13記載のDNA分子;
(f−2)配列番号14記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(f−3)配列番号13記載のDNA分子の変異体;又は
(f−4)配列番号14記載のDNA分子の変異体。
【請求項3】
さらに、下記のDNA分子群を有する(1)〜(3)のいずれかに記載の組換えベクター:
ここで、前記DNA分子群は、(g)PmdA遺伝子、(h)PmdB遺伝子、(i)PmdC遺伝子及びその組み合わせから成る群より選ばれ;
(g)PmdA遺伝子は下記(g−1)〜(g−4)のいずれかのDNA分子であり、
(g−1)配列番号15記載のDNA分子;
(g−2)配列番号16記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(g−3)配列番号15記載のDNA分子の変異体;又は
(g−4)配列番号16記載のDNA分子の変異体;
(h)PmdB遺伝子は下記(h−1)〜(h−4)のいずれかのDNA分子であり、
(h−1)配列番号17記載のDNA分子;
(h−2)配列番号18記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(h−3)配列番号17記載のDNA分子の変異体;又は
(h−4)配列番号18記載のDNA分子の変異体;
(i)DNA分子(PmdC遺伝子)は下記(i−1)〜(i−4)のいずれかのDNA分子であり、
(i−1)配列番号19記載のDNA分子;
(i−2)配列番号20記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(i−3)配列番号19記載のDNA分子の変異体;又は
(i−4)配列番号20記載のDNA分子の変異体。
【請求項4】
さらに、下記のDNA分子群を有する(1)〜(4)のいずれかに記載の組換えベクターを提供する:
ここで、前記DNA分子群は、(j)LigV遺伝子、(k)PobA及びその組み合わせから成る群より選ばれ;
(j)LigV遺伝子は下記(j−1)〜(j−4)のいずれかのDNA分子であり、
(j−1)配列番号21記載のDNA分子;
(j−2)配列番号22記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(j−3)配列番号21記載のDNA分子の変異体;又は
(j−4)配列番号22記載のDNA分子の変異体
(k)PobA遺伝子は下記の(k−1)〜(k−4)のいずれかのDNA分子であり、
(k−1)配列番号23記載のDNA分子;
(k−2)配列番号24記載のアミノ酸配列をコードするDNA分子;
(k−3)配列番号23記載のDNA分子の変異体;又は
(k−4)配列番号24記載のDNA分子の変異体。
【請求項5】
前記3MGA 3,4−ジオキシゲナーゼ遺伝子が、スフィンゴビウム・パウシモビリス(Sphingobium paucimobilis)SYK-6株由来である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換えベクター。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項7】
請求項6に記載の形質転換体を培養し、該培養物からPDCを採取することを特徴とする、PDCの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の組換ベクターの発現により得られたタンパク質。

【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−229425(P2011−229425A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100901(P2010−100901)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度、農林水産省、「バイオマス・マテリアル製造技術の開発」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(501186173)独立行政法人森林総合研究所 (91)
【Fターム(参考)】