説明

3−MCPD−FSが低減化された食用油脂の製造方法

【課題】3−MCPD−FSが低減化された食用油脂の製造方法を提供する。
【解決手段】食用油脂の製造方法において、油脂の脱臭工程を190〜230℃の温度範囲で行うことを特徴とする3−MCPD−FS(3-chloro-1,2-propanediol forming substances)が低減化された食用油脂の製造方法、及び該製造方法によって製造された3−MCPD−FSが低減化された食用油脂。これにより、従来の食用油脂に比べて、3−MCPD−FSの含量が顕著に減少し、かつ、味や色相などの品質が維持された食用油脂を製造できる。従って、該3−MCPD−FSの存在によって、憂慮された遺伝毒性及び発ガン性の危険が顕著に低くなり、安全でありつつも品質にすぐれる望ましい食用油脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用油脂の製造方法に係り、さらに具体的には、遺伝毒性または発ガン危険性のある3−MCPD−FS(3-chloro-1,2-propanediol forming substances)が低減化された食用油脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3−MCPD−FS(3-chloro-1,2-propanediol forming substances)とは、3−MCPD(3-chloro-1,2-propanediol)を生成する物質の総称であって、大きく見て、四種の物質、すなわち、3−MCPD、グリシドール(glycidol)、そしてそれら物質に脂肪酸が結合された形態である結合型3−MCPD並びに結合型グリシドールがこれに該当する。食用油脂では、脂肪酸が結合された形態の3−MCPD−FSが検出される。
【0003】
結合型3−MCPDは、3−MCPD脂肪酸エステル(monoesters and diesters with higher fatty acids)を意味するものであり、脂肪及び塩(塩化ナトリウム)を含む食品の製造時または加工時に、自然に生成されると知られており、菓子類(ビスケット)、パン類(ドーナッツ)、ポテトフライ、炒りコーヒー、炒り麦芽など、多様な食品で3−MCPDと共に検出される。
【0004】
また、結合型3−MCPDは、低温で酸を媒介体として加工された漬けたオリーブやサバなどからも検出され、特に、精製オリーブ油を含んだ植物性油脂からも検出されると報告された(非特許文献1)。結合型3−MCPDの毒性と体内での生理学的特性とについて正確に知られているわけではないが、一部ヨーロッパ国家では、結合型3−MCPDが3−MCPDに転換する可能性があるので、結合型3−MCPDの低減化の必要性が提起された。
【0005】
3−MCPDは、無色または薄黄色の化学物質であり、植物性蛋白質がアミノ酸と脂肪とに分解されるときに残存する脂肪が、グリセリンと脂肪酸とに加水分解される過程で、微量のグリセリンが塩酸と反応して生成されるクロロプロパノール類系の一種である。3−MCPDの人体に対する有害性は、発ガン性はないと知られているが、動物実験によれば、不妊や精子生産減少の可能性並びに遺伝毒性を有している(非特許文献2)。さる1996年、韓国を始めとする東南アジア諸国だけではなく、西洋諸国でも多量消費されているインスタント麺類のスープ及び醤油、酸分解HVP(hydrolyzed vegetable protein)などから3−MCPDが検出されて問題になり、醤油での3−MCPD含量を、EUが0.02ppm、カナダが1.0ppm、オーストラリアが0.2ppm、韓国では0.3ppmに制限している。
【0006】
結合型グリシドールとは、グリシドールという物質に脂肪酸が1つ結合されたものであり、結合型グリシドール自体に係わる安全性については、現在明確に明らかにされているわけではないが、人体内で消化及び分解されてグリシドールが遊離する可能性があり、グリシドールは、国際ガン研究機関(IARC)で、人体に発ガン危険性がある(2A群)と分類されており、最近、ヨーロッパ及び日本を中心に加工食品中に含まれている結合型グリシドールの安全性について議論がなされている。現在、食品中に含まれている結合型グリシドールの場合、グリシドールだけを分析する公認された方法が知られておらず、グリシドールを3−MCPDに転換させた後、3−MCPDの総量で計算する方法が使われており、3−MCPD含量の10〜60%ほどがグリシドールから由来すると報告されている(非特許文献3)。
【0007】
かような有害性があるか、または有害の可能性がある3−MCPD−FS物質の生成メカニズムは、まだ多種のものが知られていないが、2004年にHAMLETらは、結合型3−MCPDの3−MCPDへの転換メカニズムを次の通り提示した(非特許文献4)。食品の製造加工過程で、加熱によるトリアシルグリセロール(triacylglycerol)と塩との反応で、1,3または1,2−ジアシルグリセロールが生成され、中間体であるシクロアシルオキソニウム(cyclic acyloxonium)イオンを経て、加水分解及び塩素置換反応によって、結合型3−MCPDである1,2−ジアシル−3−クロロプロパン−1,2−ジオールなどが生成され、さらに加水分解反応によって、1または2−アシル−3−クロロプロパン−1,2−ジオールが生成された後、加水分解反応によって、3−MCPDに転換される。かような3−MCPD−FSの生成メカニズムの反応式を図1に示した。
【0008】
食用油脂の場合は、精製過程中に高温条件で、原料や水に含まれている微量の塩素化合物が油脂と反応して生成されると知られており、特に、高温で行われる脱臭工程で急増すると知られている。
【0009】
食用油脂は、一般的に、図2に示したフローチャートのように、原料油脂は、脱ガム、脱酸、脱色、脱臭のような工程を順次に経る精製過程を介して完成されて製品化される。ところで、かような精製過程中で脱臭工程は、遊離脂肪酸、グリセロール、酸化生成物、炭化水素、農薬のような揮発性物質を除去し、最終的に油脂の異味や異臭の除去を目的とする。脱臭は、回分式、半連続式または連続式で行われ、油脂を240℃以上の高温に加熱しつつ、2〜10mmHgの真空状態で、水蒸気を吹き入れてトリアシルグリセロール以外の成分を揮発させて除去する。また、油脂に残っている可能性のある金属を除去するために、クエン酸のような金属除去剤を添加して錯塩を生成させた後で濾過して除去する過程を行う。脱臭工程を適切に行えば、油脂の遊離脂肪酸は0.05%以下になり、酸化生成物は、過酸化物価でもって測定が行えないほどに減り、異味あるいは異臭が除去され、食用に適切な油脂を提供できる。
【0010】
かような食用油脂の製造のために、必須に行われる脱臭工程を経た精製油脂は、3−MCPD−FSが0.3〜13ppmレベルで検出されると知られている(非特許文献3)。
【0011】
かような有害な3−MCPD−FSを低減化するために、一部食品、特に、動植物蛋白質を塩酸によって加水分解させて製造する酸分解醤油の製造時に、塩酸の濃度を調節して3−クロロ−1,2−プロパンジオール(MCPD)の含量を最小化した醤油の製造方法が知られている(特許文献1)。しかし食用油脂で、3−MCPD−FSを低減化する方法は、全く知られていないのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】韓国特許公開1999−0075193号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Seefelder, W. et al., Esterss of 3-Chloro-1, 2-propanediol(3-MCPD) in Vegetable Oils: Significance in the Formation of 3-MCPD, Food Additives & Contaminants. Part A, Chemistry, Analysis, Control, Exposure & Risk Assessment 4: pp. 391-400(2008)
【非特許文献2】Hamlet, C. G. et al., Chloropropanols and Chloroesters, in Process-Induced Food Toxicants: Occurrence, Formation, Mitigation, and Health Risks, edited by Richard H. Stadler and David R. Lineback, John Wiley & Sons, Inc., pp. 175-214(2009)
【非特許文献3】ILSI Europe Report 2009, 3-MCPD esters in food products. In ILSI workshop, Brussels, Belgium
【非特許文献4】Hamlet C. G. et. al, Generation of monochloropropanediols(MCPDs) in model dough systems. 1. Leavened doughs. Journal of Agriculture and Food Chemistry, 2004, 52, pp. 2059-2066
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このために、本発明者らは、人体に対する有害性の恐れがある3−MCPD−FSの量が低減化された食用油脂を製造するために研究した結果、3−MCPD−FSの含量が急増する脱臭工程の温度を調節すれば、3−MCPD−FSの生成を顕著に抑制しつつも、脱臭工程の目的とする効果を得ることができ、味、色相などの品質が維持された食用油脂を得ることができるということを明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0015】
従って、本発明の目的は、食用油脂の味、色相のような品質が維持されつつ、3−MCPD−FSが低減化された食用油脂を製造する方法を提供することである。
【0016】
また、本発明の他の目的は、前記方法で製造された品質がすぐれ、かつ、3−MCPD−FSが低減化された食用油脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明は、食用油脂の製造方法において、油脂の脱臭工程を190〜230℃の温度範囲で行うことを特徴とする、3−MCPD−FS(3-chloro-1,2-propaendiol forming substances)が低減化された食用油脂の製造方法を提供する。
【0018】
本発明はまた、前記製造方法によって製造された3−MCPD−FSが低減化された食用油脂を提供する。
【0019】
本発明(1)は、食用油脂の製造方法において、油脂の脱臭工程を190〜230℃の温度範囲で行うことを特徴とする、3−MCPD−FS(3-chloro-1,2-propanediol forming substances)が低減化された食用油脂の製造方法である。
本発明(2)は、前記油脂が、大豆油、トウモロコシ油、菜種油、米糠油、紅花油、ひまわり油、綿花種油、落花生油、オリーブ油、パーム油、ヤシ油、加工油脂、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする、本発明(1)に記載の製造方法である。
本発明(3)は、前記加工油脂が、ジアシルグリセロール含量が10%以上であることを特徴とする、本発明(1)に記載の製造方法である。
本発明(4)は、前記脱臭工程が、油脂を190〜230℃の温度に加熱し、2〜10mmHgの真空状態で、水蒸気を吹き入れて異味または異臭の成分を揮発によって除去することを特徴とする、本発明(1)に記載の製造方法である。
本発明(5)は、前記温度が、190〜210℃であることを特徴とする、本発明(4)に記載の製造方法である。
本発明(6)は、本発明(1)〜本発明(5)のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された3−MCPD−FSが低減化された食用油脂である。
本発明(7)は、前記3−MCPD−FSの含量が、0.3ppm以下であることを特徴とする、本発明(6)に記載の食用油脂である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法によれば、従来の食用油脂に比べて、3−MCPD−FSの含量が顕著に減少しつつも、味や色相などの品質が維持された食用油脂を製造できる。従って、本発明は、3−MCPD−FSの存在によって憂慮されていた遺伝毒性及び発ガン性の危険が顕著に低くなり、安全でありつつも品質が優秀な食用油脂を提供できるため望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】3−MCPD−FS(3-chloro-1,2-propanediol forming substances)の生成メカニズムを示した反応式である。
【図2】一般的な食用油の精製過程を示したフローチャートである。
【図3】本発明の一つの態様において製造された食用油脂中の3−MCPD−FS含量に係わるGC/MS(gas chromatography mass spectrometry)分析結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明では、食用油脂に、一般的に0.3〜13ppmの濃度で存在する3−MCPD−FS(3-chloro-1,2-propanediol forming substances)の含量が低減化された食用油脂を製造するために研究した結果、食用油脂の一般的な精製過程中の脱臭過程で、温度を所定のレベルに低くする場合、所望の脱臭効果を得て、色相及び味において、適切な品質の食用油脂を得つつも、3−MCPD−FSの含量が顕著に低くなりうることを発見した。それにより、人体に有害性があると憂慮される3−MCPD−FSの含量を低くした食用油脂を提供できることになった。
【0023】
従って、本発明の一側面によれば、本発明は、食用油脂の製造方法において、油脂の脱臭工程を、190〜230℃の温度範囲で行うことを特徴とする3−MCPD−FSが低減化された食用油脂の製造方法を提供する。
【0024】
前記油脂は、植物性油脂であって、例えば、大豆油、トウモロコシ油、菜種油、米糠油、紅花油、ひまわり油、綿花種油、落花生油、オリーブ油、パーム油、ヤシ油、加工油脂またはそれらの組み合わせであるが、それらに限定されるものではない。
【0025】
前記油脂で、加工油脂としてジアシルグリセロール含量が10重量%以上のものを使用する場合、顕著な3−MCPD−FS低減効果を得ることができ、本発明による食用油脂の製造方法が効果的に利用されうる。これは、油脂の一般的な組成であるトリアシルグリセロールが加水分解されてジアシルグリセロールになった後、中間体を経て3−MCPD−FSが形成されるので、ジアシルグリセロールの含量が高い油脂であるほど、3−MCPD−FS生成が多くなるので、ジアシルグリセロールの含量が高い油脂であるほど、3−MCPD−FS低減の必要性がさらに必要であるためである。
【0026】
前記脱臭工程は、原料油脂を190〜230℃の温度に加熱しつつ、2〜10mmHgの真空状態で水蒸気を吹き入れ、異味あるいは異臭の成分を揮発によって除去することによってなされうる。前記3−MCPD−FSの低減効果の側面において、脱臭工程の温度は、190〜210℃であることが望ましい。前記温度範囲に及ばない場合には、十分な脱臭効果を得られず、前記温度を超える場合、3−MCPD−FS低減効果が低くなりうる。
【0027】
前記脱臭工程は、加熱前に油脂に金属除去剤を付加し、前記揮発工程後に、濾過によって油脂中の金属を除去する過程をさらに行うことができる。かような金属除去工程によって、油脂中に存在しうる金属成分を除去でき、異味及び異臭をさらに除去できる。前記金属除去剤は、クエン酸、コハク酸、マレイン酸、シュウ酸などがあるが、これらに限定されるものではない。前記金属除去剤は、油脂に対して50〜2,000ppmの範囲で使われ、原料油脂の種類または金属除去剤の種類などによって変わりうる。
【0028】
前記脱臭工程は、温度範囲だけを190〜230℃に維持しさえすれば、当該食用油脂の精製方法の技術分野で、一般的に利用可能なあらゆる条件を利用でき、当該技術分野で当業者であるならば、脱臭工程の他の条件を、原料油脂の種類などによって、前記範囲ではない範囲に、適切に変更して行うこともできるであろう。
【0029】
前記本発明による食用油脂の製造方法は、前記脱臭工程以前に、食用油脂の一般的な精製過程を経ることができる。かような一般的な食用油脂の精製過程は、当該技術分野に周知されている。
【0030】
前記本発明による食用油脂の製造方法によって製造された食用油脂は、従来の食用油脂に比べて、脱臭工程で発生しうる3−MCPD−FSの含量が顕著に減少し、3−MCPD−FSによる危険性が低くなって望ましい。また、3−MCPD−FSの含量が低減化しつつも、脱臭効果もまた十分に得られ、遊離脂肪酸は、0.05%以下、酸化生成物は、過酸化物価が測定不可能なほどに低下しうる。
【0031】
従って、本発明は、他の側面において、前記本発明による製造方法で製造された3−MCPD−FSが低減化された食用油脂を提供する。
【0032】
前記食用油脂は、3−MCPD−FSの含量を0.3ppm以下に含有しうる。
【0033】
以下、本発明について、下記実施例によってさらに具体的に説明する。しかし、それら実施例は、本発明に対する理解の一助とするだけであり、いかなる意味でも、本発明の範囲がそれらによって制限されるものではない。
【実施例】
【0034】
実施例1〜3及び比較例1〜2:脱臭温度によるジアシルグリセロール高含有油脂の3−MCPD−FS低減化処理
1)ジアシルグリセロール高含有油脂組成物(対照群食用油)の製造
ジアシルグリセロール高含有油脂の組成物は、大韓民国特許公開第2004−0079402号公報に明示された実施例1及び5の方法によって、大豆油由来の脂肪酸をグリセロールと混合し、真空乾燥下で1,3−位置特異性リパーゼを利用し、エステル合成反応を実施することによって、ジグリセリドを多く含んだ液状油脂組成物を製造し、ここで収得されたジグリセリド高含有油脂の組成物を分子蒸留、脱色・脱臭し、最終的な油脂組成は、以下表1の通りである。
【0035】
【表1】

TAG:トリアシルグリセロール(triacylglycerol)
DAG: ジアシルグリセロール(diacylglycerol)
MAG: モノアシルグリセロール(monoacylglycerol)
【0036】
2)3−MCPD−FS低減化処理
前記製造されたジアシルグリセロール高含有油脂に、0.5重量%酸性白土を加え、90〜100℃で30分間処理して脱色過程を行ったジアシルグリセロール高含有脱色油2kgを原料とし、次の過程を行った。
【0037】
原料油に対して50ppmのクエン酸を添加し、下記表2のように、190℃〜260℃でそれぞれ2時間スチーム脱臭を実施した。このとき、真空度は、4〜6mmHgで行った。脱臭処理した後、常温で真空濾過し、3−MCPD−FS含量が低減化された食用油を完成した。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例4〜6及び比較例3〜4:脱臭温度変更によるパーム油の3−MCPD−FS低減化処理
前記実施例1−3と同じ方法をパーム油に適用した。パーム原油に0.5重量%酸性白土を加え、90〜100℃で30分間処理して脱色過程を行ったパーム脱色油2kgを原料とし、次の過程を行った。
【0040】
原料油に対して、50ppmのクエン酸を添加し、下記表3のように、190℃〜260℃でそれぞれ2時間スチーム脱臭を実施した。このとき真空度は、4〜6mmHgとした。脱臭処理した後、常温で真空濾過し、3−MCPD−FS含量が低減化された食用油を完成した。
【0041】
【表3】

【0042】
(実験例)
3−MCPD−FS含量の分析方法
3−MCPD−FS含量を分析するために、GC/MS(gas chromatography/mass spectrometer)を利用した。分析条件は、下記表4のような条件で行った。
【0043】
試料100mgを、t−ブチルメチルエーテル(tBME):酢酸エチル(EA)(8:2、v/v、溶媒A)に溶かした後、200ppm濃度の内部標準物質50μlと1mlのナトリウムメトキシド(NaOCH)溶液を入れた後、5〜10分間常温に放置する。内部標準物質としては、3−MCPD−dを使用した。ここに、3mlヘキサン及び酢酸:20%NaCl溶液(1:30、v/v、溶媒B)を3ml入れた後、上層部である有機溶媒層を除去した。誘導体化試薬であるフェニルボロン酸(phenylboronic acid)250μlを水層に入れた後、80℃で20分間反応させた。このとき、標準物質の誘導体化も共に進めた。常温で放冷してから、3mlヘキサンで抽出した後、ヘキサン層をGC/MSで分析した。定量分析は、196m/z(3−MCPD)と201m/z(3−MCPD−d5)とのイオンを使用し、定性子としては、147m/z(3−MCPD)と150m/z(3−MCPD−d5)とのイオンを使用した。
【0044】
【表4】

【0045】
実験例1:脱臭温度によるジアシルグリセロール油脂の3−MCPD−FS含量分析
前記実施例1〜3及び比較例1〜2で、脱臭工程を経た精製された食用油脂に対して、前記3−MCPD−FS含量の分析方法によって、3−MCPD−FS含量を分析した。また、当該技術分野の一般的な方法であるAOCS(American Oil Chemist’s Society Official Method)の標準分析法によって、酸価、過酸化物価及び色価(Rovibond method)を測定した。脱臭工程前の食用油脂を対照群とした。その結果を下記表5に示した。また、実施例1で得られた精製された食用油脂に対する前記3−MCPD−FS含量分析結果を図3に示した。
【0046】
【表5】

【0047】
実験の結果、3−MCPD−FS含量は、一般的に産業現場で使われる脱臭温度である240℃以上で急増するということが分かった。210℃以下である場合では、3−MCPD−FS含量が0.3以下になることが分かる。しかし、190℃未満に温度が下がる場合には、揮発性成分が完全に除去されず、最終品質指標である酸価、過酸化物価及び色価で、満足すべきほどではない結果を示した。従って、食用油脂の最終製品の品質に影響を及ぼさずに、3−MCPD−FS含量を最小化する脱臭温度は、190〜230℃が望ましく、さらに望ましくは、190〜210℃であるということが分かる。
【0048】
実験例2:脱臭温度によるパーム油の3−MCPD−FS含量分析
前記実施例4〜6及び比較例3〜4で、脱臭工程を経た精製された食用油脂に対して、前記3−MCPD−FS含量の分析方法によって、3−MCPD−FS含量を分析した。また、当該技術分野の一般的な方法であるAOCSの標準分析法によって、酸価、過酸化物価及び色価(Rovibond method)を測定した。脱臭工程前の食用油脂を対照群とした。その結果を下記表6に示した。
【0049】
【表6】

【0050】
実験の結果、3−MCPD−FS含量は、全体的にジアシルグリセロール高含有油脂よりは、低いレベルであった。これは、前述の3−MCPD−FSの生成メカニズムから分かるように、油脂の一般的な組成であるトリアシルグリセロールが加水分解されてジアシルグリセロールになった後、中間体を経て3−MCPD−FSが形成されるので、ジアシルグリセロールの含量が高い油脂であるほど、3−MCPD−FS生成が多くなるためである。かような結果から、190〜230℃での脱臭時に、味や色相が従来の脱臭条件で処理した場合と類似しつつ、3−MCPD−FS含量を顕著に減らすことができ、特に、190〜210℃で、0.3ppm以下の油脂を得ることができるということが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂の製造方法において、油脂の脱臭工程を190〜230℃の温度範囲で行うことを特徴とする、3−MCPD−FS(3-chloro-1,2-propanediol forming substances)が低減化された食用油脂の製造方法。
【請求項2】
前記油脂が、大豆油、トウモロコシ油、菜種油、米糠油、紅花油、ひまわり油、綿花種油、落花生油、オリーブ油、パーム油、ヤシ油、加工油脂、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記加工油脂が、ジアシルグリセロール含量が10%以上であることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記脱臭工程が、油脂を190〜230℃の温度に加熱し、2〜10mmHgの真空状態で、水蒸気を吹き入れて異味または異臭の成分を揮発によって除去することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記温度が、190〜210℃であることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された3−MCPD−FSが低減化された食用油脂。
【請求項7】
前記3−MCPD−FSの含量が、0.3ppm以下であることを特徴とする、請求項6に記載の食用油脂。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−147436(P2011−147436A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164573(P2010−164573)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(508139664)シージェイ チェイルジェダン コーポレーション (12)
【Fターム(参考)】