説明

3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体、及びその製造方法

【課題】立体構造を持つポリマー−金属複合構造体を製造でき、金属複合化過程で生体分子を変性させない3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法の提供。
【解決手段】反応基Xを備えた光硬化性樹脂を用いて光造形法によりポリマー構造体を形成し、これを反応基Xと結合する反応基X’を備えた金属含有ナノ粒子の液中に浸漬して、反応基Xと反応基X’との結合によりポリマー構造体上に金属含有層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体及びその製造方法に関する。更に詳細には、本発明は、全長が100nm〜100μm程度の構造体である細胞や生体分子の操作デバイス、体内薬物送達デバイス等の作製に簡便かつ好適に用いることができる3次元ポリマー−金属複合構造体の製造方法と、この方法によって形成された3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーを用いて形成された微細な3次元構造体、即ち3次元ポリマーマイクロ構造体が、例えば細胞膜穿孔用ナノニードルや、その他の細胞や生体分子の操作デバイス、あるいは体内薬物送達デバイスとして利用されている。そして、このような3次元ポリマーマイクロ構造体においては、多様な目的から、構造体の全部又は一部を金属複合化することが試みられている。
【0003】
従来、ポリマーと金属との複合微細構造デバイスを形成する技術として、例えば下記の非特許文献1に開示されるように、基板上に形成したフォトレジスト等のポリマー層の上に、マスクを通してスパッタリングや蒸着、めっきによって金属層を形成し、その後に、化学的溶解や集束イオンビーム等により構造体を切り出す手法がある。
【0004】
一方、これとは異なる手法として、例えば下記の特許文献1、2、あるいは非特許文献2に開示されるように、2光子吸収によるマイクロ光造形法と無電解めっきを併用する手法も知られている。2光子吸収によるマイクロ光造形法では、ある波長のフェムト秒パルスレーザーを、その半分程度の波長の光で硬化する特性を有する光硬化性樹脂中に集光し、焦点中心部のみで2光子吸収を誘起し、直径100nm程度の範囲内でポリマーを硬化させる。この集光点を光硬化性樹脂中で3次元的に走査することで、任意の3次元ポリマー構造体を形成できる。
【0005】
特許文献1、2及び非特許文献2では、更に、このポリマー構造体に予め電子供与体を添加し、あるいはポリマー構造体の形成後に還元剤に浸漬し、その後に無電解めっき浴に浸漬することにより、ポリマー構造体上に金属膜を析出させる手法が示されている。又、電子供与体を添加した光硬化性樹脂と、電子供与体無添加の光硬化性樹脂とを部位毎に使い分けて複合構造を形成し、その後に無電解めっき浴に浸漬することで、ポリマー構造体の特定部位にのみ金属膜を形成する手法も示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−253354号公報。
【特許文献2】特開2007−69406号公報。
【0007】
【非特許文献1】Dan Sameoto, See-HoTsang, M. Parameswaran, “Polymer MEMS processing for multi-userapplications”Sensors and ActuatorsA: Physical 134(2007), pp.457-464。
【非特許文献2】Richard A. Farrer,Christopher N. LaFratta, Linji Li,Julie Praino, Michael J. Naughton, Bahaa E.A. Saleh, Malvin C. Teich, andJohn T. Fourkas,“Selective Functionalization of 3-D PolymerMicrostructures”J. Am. Chem. Soc.,2006, 128, pp.1796-1797。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記非特許文献1に開示するプロセスでは多数の工程が必要であり、成膜や露光、切り出しに用いる装置も大型であるため、設置スペース、コストが増大するという問題点があった。又、このプロセスは平面基板にしか適用できず、任意の立体的構造を持つ3次元構造体を形成できないという問題もあった。
【0009】
次に、上記特許文献1、2及び非特許文献2に開示する方法では無電解めっきを用いるので、加温雰囲気中で酸あるいはアルカリ溶液に構造体を浸漬しなければならない。従って、細胞や生体分子の操作デバイス、あるいは薬物送達デバイス作製のために、光硬化性樹脂中に核酸やタンパク等の生体分子を混合して構造体を形成する場合、これらの生体分子を変性させてしまうという問題があった。更に、金属膜が形成された部位と金属膜が形成されていない部位とを有するポリマー構造体を作製可能であるとは言え、光硬化性樹脂中に電子供与体を添加しているか否かによって金属膜形成の可否が決まるため、ポリマー構造体の部位毎に異なる種類の金属膜を形成することはできないという課題があった。
【0010】
そこで本発明は、常温・常圧下で少ない工程数により簡易に実施できる製造方法であって、任意の立体的構造を持つポリマー−金属複合構造体を製造でき、しかも金属複合化の過程において生体分子を変性させることがない3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法を提供することを、解決すべき第1の課題とする。
【0011】
更に本発明は、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体上の任意の部位ごとに異種金属の含有層を形成できる製造方法を提供することを、解決すべき第2の課題とする。
【0012】
更に本発明は、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体上の任意の部位のみに金属の含有層を形成できる製造方法を提供することを、解決すべき第3の課題とする。
【0013】
更に本発明は、これらの製造方法の結果物である有用な3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体を提供することを、解決すべき第4の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、反応基Xを備えた光硬化性樹脂を用いて、光造形法により任意の立体的構造を持つ微細なポリマー構造体を構成し、
次いで前記ポリマー構造体を、前記反応基Xと結合する反応基X’を備えると共に任意の金属を含有する金属含有ナノ粒子の水性媒体溶液又は水性媒体分散液である金属複合化処理液中に浸漬して、ポリマー構造体上の反応基Xと金属含有ナノ粒子上の反応基X’とを結合させることにより、
ポリマー構造体上に金属含有層を形成する、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法である。
【0015】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、反応基Yを備えた光硬化性樹脂を用いて、光造形法により任意の立体的構造を持つ微細な第1部材を形成する第1部材形成工程と、前記第1部材を包含する領域に反応基Zを備えた光硬化性樹脂を位置させて、光造形法により、任意の立体的構造を持つと共に第1部材に接続する微細な第2部材を形成する第2部材形成工程とを含むことにより、前記第1部材と第2部材が包含された一体的成形品である微細なポリマー構造体を構成し、
次いで前記ポリマー構造体を、(1)前記反応基Yとは特異的に結合するが前記反応基Zとは結合しない反応基Y’を備えると共に金属Aを含有する金属含有ナノ粒子の水性媒体溶液又は水性媒体分散液である第1金属複合化処理液と、(2)前記反応基Zとは特異的に結合するが前記反応基Yとは結合しない反応基Z’を備えると共に金属Bを含有する金属含有ナノ粒子の水性媒体溶液又は水性媒体分散液である第2金属複合化処理液に順不同でそれぞれ浸漬して、あるいは前記第1金属複合化処理液と第2金属複合化処理液との混合液に浸漬して、反応基Yと反応基Y’、反応基Zと反応基Z’をそれぞれ特異的に結合させることにより、
ポリマー構造体の第1部材に金属Aを含有する金属含有層を形成し、第2部材に金属Bを含有する金属含有層を形成する、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法である。
【0016】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、反応基Yを備えた光硬化性樹脂を用いて、光造形法により任意の立体的構造を持つ微細な第1部材を形成する第1部材形成工程と、前記第1部材を包含する領域に反応基Zを備えた光硬化性樹脂を位置させて、光造形法により、任意の立体的構造を持つと共に第1部材に接続する微細な第2部材を形成する第2部材形成工程とを含むことにより、前記第1部材と第2部材が包含された一体的成形品である微細なポリマー構造体を構成し、
次いで前記ポリマー構造体を、(3)前記反応基Yとは特異的に結合するが前記反応基Zとは結合しない反応基Y’を備えると共に任意の金属を含有する金属含有ナノ粒子の水性媒体溶液又は水性媒体分散液である第3金属複合化処理液に浸漬して、もしくは、(4)前記反応基Zとは特異的に結合するが前記反応基Yとは結合しない反応基Z’を備えると共に任意の金属を含有する金属含有ナノ粒子の水性媒体溶液又は水性媒体分散液である第4金属複合化処理液に浸漬して、反応基Yと反応基Y’、もしくは、反応基Zと反応基Z’のいずれか一方の組合わせに係る反応基を特異的に結合させることにより、
ポリマー構造体の第1部材もしくは第2部材のいずれか一方のみに金属含有層を形成する、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法である。
【0017】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第1発明〜第3発明のいずれかにおいて、前記光造形法で用いる照射光が、光硬化性樹脂中の照射領域において多光子吸収を発生させる照射光である、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法である。
【0018】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記第1発明〜第4発明のいずれかにおいて、前記光硬化性樹脂が備える反応基X、Y、Z及び前記金属含有ナノ粒子が備える反応基X‘、Y’、Z’の内の1以上の反応基が、水性媒体溶液又は水性媒体分散液中で加水分解によって脱離する保護基によって保護されている、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法である。
【0019】
(第6発明の構成)
上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、前記第1発明〜第5発明のいずれかにおいて、前記金属含有ナノ粒子に含有される金属が、金、銀及び磁性体金属から選ばれる1種又は2種以上の金属である、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法である。
【0020】
(第7発明の構成)
上記課題を解決するための本願第7発明の構成は、前記第1発明〜第6発明のいずれかにおいて、光造形法によるポリマー構造体の構成過程、及び水性媒体溶液又は水性媒体分散液中での反応基の結合反応が0℃〜40℃の温度範囲内で行われ、及び/又は、pH7〜9のpH範囲内で行われる、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法である。
【0021】
(第8発明の構成)
上記課題を解決するための本願第8発明の構成は、下記の(5)〜(8)のいずれかに該当する、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体である。
【0022】
(5)光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第1部材と、光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第2部材とを包含した一体的成形品である微細なポリマー構造体であって、
前記第1部材には金属Aを含有する金属含有層が形成されており、
前記第2部材には金属Bを含有する金属含有層が形成されている。
【0023】
(6)反応基Yを備えた光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第1部材と、反応基Zを備えた光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第2部材とを包含した一体的成形品である微細なポリマー構造体であって、
前記第1部材には、前記反応基Yと特異的に結合する反応基Y’を備えると共に金属Aを含有する金属含有ナノ粒子が、反応基Yと反応基Y’との結合に基づいて結合することにより、金属Aを含有する金属含有層が形成されており、及び、
前記第2部材には、前記反応基Zと特異的に結合する反応基Z’を備えると共に金属Bを含有する金属含有ナノ粒子が、反応基Zと反応基Z’との結合に基づいて結合することにより、金属Bを含有する金属含有層が形成されている。
【0024】
(7)光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第1部材と、光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第2部材とを包含した一体的成形品である微細なポリマー構造体であって、
前記第1部材、第2部材のいずれか一方のみに金属含有層が形成されている。
【0025】
(8)反応基Yを備えた光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第1部材と、反応基Zを備えた光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第2部材とを包含した一体的成形品である微細なポリマー構造体であって、
前記第1部材には、前記反応基Yと特異的に結合する反応基Y’を備えると共に任意の金属を含有する金属含有ナノ粒子が、反応基Yと反応基Y’との結合に基づいて結合することにより、金属を含有する金属含有層が形成されており、もしくは、
前記第2部材には、前記反応基Zと特異的に結合する反応基Z’を備えると共に任意の金属を含有する金属含有ナノ粒子が、反応基Zと反応基Z’との結合に基づいて結合することにより、金属を含有する金属含有層が形成されている。
【発明の効果】
【0026】
第1発明〜第7発明によれば、常温・常圧下で少ない工程数により簡易に実施できる製造方法であって、任意の立体的構造を持つポリマー−金属複合構造体を製造でき、しかも金属複合化の過程において生体分子を変性させることがない3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法を提供することができる。
【0027】
第2発明によれば、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体上の任意の部位ごとに異種金属の含有層を形成することができる。
【0028】
第3発明によれば、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体上の任意の部位のみに金属含有層を形成することができる。なお、第3発明においては、第1部材と第2部材とを包含した一体的成形品である微細なポリマー構造体を原料体として構成した後、この原料体を第3金属複合化処理液と第4金属複合化処理液のいずれに浸漬するかを選択することによって、金属含有層を第1部材上に形成するか、第2部材上に形成するかを自在に選択できるという原料体のユティリティ上の利点がある。
【0029】
第4発明によれば、任意形状の3次元ポリマー構造体を100nm以下の分解能で作製することができる。
【0030】
第5発明によれば、光造形において、光硬化性樹脂が備える反応基X、Y、Zあるいは金属含有ナノ粒子が備える反応基X‘、Y’、Z’が3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造前に無駄に消費されることを防ぐことができる。
【0031】
第6発明によれば、金、銀及び磁性体金属から選ばれる1種又は2種以上の金属を含有する金属含有層を備えた3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体を提供できる。例えば、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体が細胞膜穿孔用ナノニードルである場合、そのニードル先端部に金や銀の金属含有層を形成すれば、ニードル先端部へのレーザー光の照射により衝撃波やキャビテーションバブルを発生させ、細胞膜穿孔を容易かつ確実にすることができる。更に、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体が、体内や液中で移動可能なドラッグデリバリー用デバイスであって、少なくとも1つの薬品充填用部位と搬送用部位から構成される場合、その搬送用部位に磁性体金属を含有する金属含有層を形成すれば、外部からの磁気力によって、このデバイスを容易かつ確実に体内あるいは液中で移動させることができる。
【0032】
本発明では、第7発明のように、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造プロセスを非常にマイルドな条件で実施可能であるため、光硬化性樹脂に生体分子が含まれる場合においても、生体分子の変性を抑えることができる。なお、「光硬化性樹脂に生体分子が含まれる場合」とは、例えば、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体を、細胞膜に穿孔し細胞内の目的物質を採取するデバイスとして構成する場合に、DNAや抗原タンパク等の生体分子を予め光硬化性樹脂に含ませておき、当該生体分子を目的物質の捕捉剤として利用する場合等が例示される。
【0033】
第8発明によれば、第1発明〜第7発明に係る製造方法の結果物である有用な3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体が提供される。即ち、任意の形状の微細なポリマー構造体と金属含有層からなる3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体を効率よく実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る製造方法の一実施例のプロセスを示す。
【図2】反応基の保護基による保護の一具体例を示す。
【図3】金属含有ナノ粒子の一具体例を示す。
【図4】金属含有層の形成を確認する光学顕微鏡観察像である。
【図5】金属含有層の形成を確認する走査電子顕微鏡観察像である。
【図6】3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体を用いたデバイスの一具体例の使用状態を示す。
【符号の説明】
【0035】
1 基板
2 光硬化性樹脂
3 第1部材
4 光硬化性樹脂
5 第2部材
6 溶液
7 金属含有層
8 3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体
9 金属複合化ナノニードル
10 ポリマー構造体
11 ニードル先端部
12 金属含有層
13 細胞
14 細胞膜
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
次に、本発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。
【0037】
〔3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法〕
本発明に係る3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法は、以下の第1の製造方法〜第3の製造方法を包含する。これらの製造方法に関連する「光硬化性樹脂」、「光造型法」、「ポリマー構造体」、「金属複合化処理液」、「金属含有ナノ粒子」、「金属含有層の形成」の各概念については、詳しくは後述する。
【0038】
(第1の製造方法)
3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の第1の製造方法は、要するに微細なポリマー構造体を構成し、そのポリマー構造体上に金属含有層を形成する方法である。
【0039】
この第1の製造方法の内容をより具体的に述べれば、反応基Xを備えた光硬化性樹脂を用いて、光造形法により任意の立体的構造を持つ微細なポリマー構造体を構成し、
次いで前記ポリマー構造体を、前記反応基Xと結合する反応基X’を備えると共に任意の金属を含有する金属含有ナノ粒子の水性媒体溶液又は水性媒体分散液である金属複合化処理液中に浸漬して、ポリマー構造体上の反応基Xと金属含有ナノ粒子上の反応基X’とを結合させることにより、
ポリマー構造体上に金属含有層を形成する、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法である。
【0040】
上記の第1の製造方法において、ポリマー構造体が持つ「立体的構造」とは、要するに3次元の空間的構造を持つ限りにおいて限定されず、例えば球状、ブロック状、棒状、ニードル状等の立体的構造の他、リング状、コイル状、筒状、又はこれらの形状単位が複合された複雑形状の立体的構造も含まれ、更に、非常に薄い板状又はシート状の構造でも実質的に厚さを持つ限りにおいて包含される。この点は、後述の第2及び第3の製造方法においても同様である。なお、第2及び第3の製造方法における第1部材、第2部材の「立体的構造」も同上の概念である。
【0041】
又、第1の製造方法において、「水性媒体」とは、水からなる溶媒を言い、あるいは、水と親水性溶媒との混合溶媒であって親水性溶媒の混合比がタンパク質等の生体分子を変性させない程度に低い溶媒を言う。この点も、後述の第2及び第3の製造方法において同様である。
【0042】
更に、第1の製造方法において、好ましくは、光造形法によるポリマー構造体の構成過程、及び水性媒体溶液又は水性媒体分散液中での反応基の結合反応を、0℃〜40℃の温度範囲内で行い、及び/又は、pH7〜9のpH範囲内で行うことができる。この点も、後述の第2及び第3の製造方法において同様である。
【0043】
(第2の製造方法)
3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の第2の製造方法は、要するに第1部材と第2部材を包含する一体的成形品である微細なポリマー構造体を構成し、その第1部材には金属Aを含有する金属含有層を形成し、第2部材には前記金属Aとは異なる金属Bを含有する金属含有層を形成する方法である。
【0044】
この第2の製造方法の内容をより具体的に述べれば、反応基Yを備えた光硬化性樹脂を用いて、光造形法により任意の立体的構造を持つ微細な第1部材を形成する第1部材形成工程と、前記第1部材を包含する領域に前記反応基Yとは異なる反応基Zを備えた光硬化性樹脂を位置させて、光造形法により、任意の立体的構造を持つと共に第1部材に接続する微細な第2部材を形成する第2部材形成工程とを含むことにより、前記第1部材と第2部材が包含された一体的成形品である微細なポリマー構造体を構成し、
次いで前記ポリマー構造体を、(1)前記反応基Yとは特異的に結合するが前記反応基Zとは結合しない反応基Y’を備えると共に金属Aを含有する金属含有ナノ粒子の水性媒体溶液又は水性媒体分散液である第1金属複合化処理液と、(2)前記反応基Zとは特異的に結合するが前記反応基Yとは結合しない反応基Z’を備えると共に金属Bを含有する金属含有ナノ粒子の水性媒体溶液又は水性媒体分散液である第2金属複合化処理液に順不同でそれぞれ浸漬して、あるいは前記第1金属複合化処理液と第2金属複合化処理液との混合液に浸漬して、反応基Yと反応基Y’、反応基Zと反応基Z’をそれぞれ特異的に結合させることにより、
ポリマー構造体の第1部材に金属Aを含有する金属含有層を形成し、第2部材に金属Bを含有する金属含有層を形成する、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法である。
【0045】
上記の第2の製造方法において、「第1部材を包含する領域に反応基Zを備えた光硬化性樹脂を位置させる」とは、(a)反応基Zを備えた未硬化の光硬化性樹脂中に既に形成された第1部材を浸す形態、あるいは(b)既に形成された第1部材の一部に接触する状態で反応基Zを備えた未硬化の光硬化性樹脂を位置させる形態、等を言う。この点は、後述の第3の製造方法において同様である。
又、第2の製造方法において、「第1部材と第2部材が包含された一体的成形品」とは、(a)それぞれ一定の形状の第1部材と第2部材が一定の位置関係で直接に接合された状態にある成形品、(b)それぞれ一定の形状の第1部材と第2部材が、両者の中間に他の部材を介在させた状態で接合された状態にある成形品、(c)それぞれ一定の形状の第1部材と第2部材が、直接に接合されることなく、それらの一部又は全部が基材である他の部材に埋設されている状態、等を言う。この点も、後述の第3の製造方法において同様である。
【0046】
(第3の製造方法)
3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の第3の製造方法は、要するに第1部材と第2部材を包含する一体的成形品である微細なポリマー構造体を構成し、その第1部材もしくは第2部材のいずれか一方のみに金属含有層を形成する方法である。
【0047】
この第3の製造方法の内容をより具体的に述べれば、反応基Yを備えた光硬化性樹脂を用いて、光造形法により任意の立体的構造を持つ微細な第1部材を形成する第1部材形成工程と、前記第1部材を包含する領域に前記反応基Yとは異なる反応基Zを備えた光硬化性樹脂を位置させて、光造形法により、任意の立体的構造を持つと共に第1部材に接続する微細な第2部材を形成する第2部材形成工程とを含むことにより、前記第1部材と第2部材が包含された一体的成形品である微細なポリマー構造体を構成し、
次いで前記ポリマー構造体を、(3)前記反応基Yとは特異的に結合するが前記反応基Zとは結合しない反応基Y’を備えると共に任意の金属を含有する金属含有ナノ粒子の水性媒体溶液又は水性媒体分散液である第3金属複合化処理液に浸漬して、もしくは、(4)前記反応基Zとは特異的に結合するが前記反応基Yとは結合しない反応基Z’を備えると共に任意の金属を含有する金属含有ナノ粒子の水性媒体溶液又は水性媒体分散液である第4金属複合化処理液に浸漬して、反応基Yと反応基Y’、もしくは、反応基Zと反応基Z’のいずれか一方の組合わせに係る反応基を特異的に結合させることにより、
ポリマー構造体の第1部材もしくは第2部材のいずれか一方のみに金属含有層を形成する、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法である。
【0048】
〔光硬化性樹脂〕
光硬化性樹脂とは、未硬化状態では液体であるが、紫外線や可視光線等の光を照射することにより重合が開始され、硬化する樹脂のことを言う。
【0049】
一般的に、光硬化性樹脂は、液状のモノマーあるいはオリゴマーに、光重合開始剤、希釈剤、停止剤、光吸収剤、フィラー等を混合したものである。このようなモノマーあるいはオリゴマーとしては、ウレタンアクリレ−ト系、エポキシアクリレ−ト系、アクリレ−ト系、エポキシ系、ビニルエーテル系、オキセタン系が挙げられる。
【0050】
本発明において用いる光硬化性樹脂の種類は限定されないが、後述の実施形態において示すように、微細構造体を作成するため、硬化収縮の少ないエポキシ系あるいはオキセタン系であって、フィラー等の光散乱性微粒子を含まない光硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0051】
〔光造形法〕
光造形法とは、液状の光硬化性樹脂に光を照射して硬化させることにより、3次元構造体を作製する手法である。3次元構造体における任意の形状・構造を形成する手法は限定されないが、一般的には、液状の光硬化性樹脂に光を照射して硬化させ、硬化部分の上に新たな液状の樹脂を積層して順次硬化させていくことで、任意の3次元構造体を作製する手法が挙げられる。又、後述のように、多光子吸収の利用等によって積層工程を省く手法も挙げられる。
【0052】
光造形法は、更に詳細には、光吸収の様式と、光の走査手法と、光硬化性樹脂の積層手法によって区別される。
【0053】
光吸収の様式による分類としては緑〜紫外領域の波長の1光子を吸収して硬化するタイプが一般的であるが、例えば特開2001−158050号公報に示されるように、赤外領域のパルスレーザーを照射することにより同時に2個以上の多光子吸収を発生させ、波長以下の微小な分解能で硬化させる多光子吸収マイクロ光造形法もある。
【0054】
光の走査手法による分類としては、集光した点状の光をガルバノミラーや音響光学素子を用いて走査して硬化させる手法、マスクシートや、液晶フィルター、デジタルミラーデバイスにより、平面的に光のパターンを作り出し、面的に露光して硬化させる手法がある。
【0055】
光硬化性樹脂の積層手法としては、樹脂の液面が雰囲気中に露出している自由液面法と、樹脂の液面上に光透過性の薄板を配置して液面を均一に保つ規制液面法と、多光子吸収の利用などによって焦点以外の部分での硬化を抑制することにより積層工程を省く手法に分類される。
【0056】
本発明においては上記いずれの手法も用いることができるが、後述の実施形態では、極めて微細なデバイスを効率的に作成するため、光吸収の様式として多光子吸収を利用し、積層工程を省く手法を実施した。
【0057】
〔金属含有ナノ粒子〕
金属含有ナノ粒子は、例えば外径が1nm〜1μm程度の微細な金属粒子を含有し、かつ、ポリマー構造体を構成する光硬化性樹脂が備える反応基と特異的に結合する反応基を備える。従って金属含有ナノ粒子は、通常、金属粒子と、これに結合した有機分子(あるいは金属粒子を内包したポリマー粒子)からなり、この有機分子あるいはポリマー粒子が、光硬化性樹脂の備える反応基と特異的に結合する反応基を備える。
【0058】
金属粒子を構成する金属の種類は限定されないが、金、銀、磁性体金属が好ましく例示される。前記した第2の製造方法では、金属Aを含有する金属含有ナノ粒子と、金属Aとは異なる金属Bを含有する金属含有ナノ粒子が併用される。
【0059】
〔金属含有層の形成〕
第1の製造方法〜第3の製造方法においては、金属複合化処理液中で、ポリマー構造体上に(あるいは、ポリマー構造体の第1部材、及び/又は、第2部材上に)、金属含有ナノ粒子が層状に結合してなる金属含有層が形成される。従って、金属含有層は表面コーティング層の状態で形成される。
【0060】
光硬化性樹脂が備える反応基と、金属含有ナノ粒子が備える反応基とは、互いに特異的に結合する反応基である必要がある。このように特異的な結合性を有する反応基の組合わせとしては、周知あるいは公知の組合わせに係るものを任意に採用できるが、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、チオール基、リン酸基等の酸性基と、アミノ基、イミノ基、マレイミド基等の塩基性基との組合わせが挙げられる。又、アミノ基とイソチオシアネート基との組合わせ、アミノ基とNHS基との組合わせ、チオール基とマレイミド基との組合わせ、ビオチンとアビジンとの組合わせ、ビオチンとストレプトアビジンとの組合わせ、DNAと相補的DNAとの組合わせ、等も例示できる。
【0061】
第2の製造方法や第3の製造方法においては、第1部材を金属複合化処理するための金属含有ナノ粒子には、第1部材を構成する光硬化性樹脂が備える反応基Yと特異的に結合するが、第2部材を構成する光硬化性樹脂が備える反応基Zとは結合しない反応基Y’を備えさせる必要がある。又、第2部材を金属複合化処理するための金属含有ナノ粒子には、上記Y’とは逆の結合特性を有する反応基Z’を備えさせる必要がある。
【0062】
このような関係を満たす反応基の組合わせとしては、周知あるいは公知の組合わせに係るものを任意に採用できるが、例えば下記の群を挙げることができる。
【0063】
反応基Y又はY’は、(アミノ基,イソチオシアネート基)、(アミノ基,NHS基)、(チオール基,マレイミド基)、(ビオチン,アビジン)、(ビオチン,ストレプトアビジン)、(DNA,相補的DNA)からなる組合わせの群より選ばれる。更に反応基Z又はZ’は、前記の群のうち、反応基Y/Y’として選ばれた組合わせとは異なる組合わせから選ばれる。但し、反応基Y又はY’がアミノ基である場合には、反応基Z及びZ’の組合わせにはアミノ基を含むことはできない。また、反応基Y又はY’がビオチンである場合には、反応基Z及びZ’の組合わせにはビオチンを含むことはできない。更にまた、反応基Y及びY’がDNAと相補的DNAの組み合わせであり、かつ、反応基Z及びZ’もDNAと相補的DNAの組み合わせである場合には、反応基Yと反応基Z及び、反応基Yと反応基Z’のいずれも、異なる配列でなければならない。
【0064】
〔3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体〕
本発明の3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体は、下記の(5)〜(8)のいずれかに該当するものである。特に、(5)及び(6)の3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体が好ましい。
【0065】
(5)光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第1部材と、光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第2部材とを包含した一体的成形品である微細なポリマー構造体であって、
前記第1部材には金属Aを含有する金属含有層が形成されており、
前記第2部材には金属Bを含有する金属含有層が形成されている。
【0066】
(6)反応基Yを備えた光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第1部材と、反応基Zを備えた光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第2部材とを包含した一体的成形品である微細なポリマー構造体であって、
前記第1部材には、前記反応基Yと特異的に結合する反応基Y’を備えると共に金属Aを含有する金属含有ナノ粒子が、反応基Yと反応基Y’との結合に基づいて結合することにより、金属Aを含有する金属含有層が形成されており、及び、
前記第2部材には、前記反応基Zと特異的に結合する反応基Z’を備えると共に金属Bを含有する金属含有ナノ粒子が、反応基Zと反応基Z’との結合に基づいて結合することにより、金属Bを含有する金属含有層が形成されている。
【0067】
(7)光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第1部材と、光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第2部材とを包含した一体的成形品である微細なポリマー構造体であって、
前記第1部材、第2部材のいずれか一方のみに金属含有層が形成されている。
【0068】
(8)反応基Yを備えた光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第1部材と、反応基Zを備えた光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第2部材とを包含した一体的成形品である微細なポリマー構造体であって、
前記第1部材には、前記反応基Yと特異的に結合する反応基Y’を備えると共に任意の金属を含有する金属含有ナノ粒子が、反応基Yと反応基Y’との結合に基づいて結合することにより、金属を含有する金属含有層が形成されており、もしくは、
前記第2部材には、前記反応基Zと特異的に結合する反応基Z’を備えると共に任意の金属を含有する金属含有ナノ粒子が、反応基Zと反応基Z’との結合に基づいて結合することにより、金属を含有する金属含有層が形成されている。
【0069】
〔3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体利用デバイス〕
3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体として利用できる具体的デバイスの種類は限定されないが、一例として、細胞膜穿孔用ナノニードルのニードル先端部を、前記した金属含有層の形成によって、金や銀等の金属と複合化したデバイスを挙げることができる。このデバイスは、ニードル先端部へのレーザー光の照射により衝撃波やキャビテーションバブルを発生させて、細胞膜穿孔が容易かつ確実になると考えられる。又、他の一例として、DNAや抗原タンパク等の生体分子を予め光硬化性樹脂に含ませておき、細胞膜に穿孔し細胞内の目的物質を採取するデバイスとして構成した3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体において、当該生体分子を目的物質の捕捉剤として利用する場合が挙げられる。更に他の一例として、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体が体内や液中で移動可能なドラッグデリバリー用デバイスであって、少なくとも1つの薬品充填用部位と搬送用部位から構成され、その搬送用部位に磁性体金属を含有する金属含有層を形成したデバイスを挙げることができる。このデバイスは、体内あるいは液中で、外部からの磁気力によって、容易かつ確実に、例えば一定の標的へ移動させることができる。
【実施例】
【0070】
以下に本発明の実施形態例及び実施例を説明する。本発明の技術的範囲は、以下の実施形態例及び実施例によって限定されない。
【0071】
〔実施形態例〕
図1に、本発明の実施形態の一例のフローチャートを示す。
【0072】
はじめに、基板1の上に、反応基Aを有する未硬化の光硬化性樹脂2を載置し、光造形法(例えば多光子吸収を利用した光造形法)により、光硬化性樹脂2中で構造体の第1部材3を形成する。未硬化の光硬化性樹脂2を洗浄した後、反応基Aを有しない未硬化の光硬化性樹脂4を第1部材3を包含するように載置し、光造形法(例えば多光子吸収を利用した光造形法)により第1部材3に接続する第2部材5を形成して、第1部材3と第2部材5からなるポリマー構造体を得る。
【0073】
未硬化の光硬化性樹脂4を洗浄した後、反応基Aと特異的に結合する反応基A’を備えた有機分子鎖を有する金属含有ナノ粒子の溶液6に上記のポリマー構造体を浸漬することにより、第1部材3上の反応基Aと金属含有ナノ粒子上の反応基A’が結合し、第1部材3上に金属含有層7が形成される。このような金属含有層7は、第2部材5上には形成されない。余分な溶液6を洗浄した後、ポリマー構造体を基板から取り外し、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体8を得る。
【0074】
〔実施例1〕
本実施例では、2光子吸収を利用したマイクロ光造形と、金ナノ粒子を用いる。
【0075】
まず、ガラス基板(厚さ0.15mm)上に光硬化性樹脂液(SCR710、ディーメック)を載置し、下方から対物レンズで集光した中心波長756nmのフェムト秒レーザー(Tsunami、スペクトラフィジクス)を液中に照射し、ガルバノミラーにより、焦点を走査して構造体の第1の部位を形成する。
【0076】
次に、未硬化樹脂をエーテルとエタノールにより除去、洗浄し、アミノ基を含有する光硬化性樹脂を前記、第1の部位を包含するようにガラス基板上に載置し、2光子吸収を利用したマイクロ光造形により、第2の部位を形成する。
【0077】
アミノ基を含有する光硬化性樹脂は、光硬化性樹脂(SCR710)に、図2に示すシランカップリング剤(KBE-9103、信越化学)を15重量%で配合したものである。KBE-9103はアミノ基が保護されたシラン化合物である.この保護されたアミノ基は,このままでは1級アミンとしての性質を示さないため光造形中も安定であるが、水と接触すると極めて容易に加水分解し、ケトン化合物が脱離することにより、活性な1級アミンを生成する。
【0078】
形成した第2の部位の表面に金含有層を形成するために、構造体をエーテルとエタノールで戦場後、水に浸漬して、アミノ基の保護基を脱離させ、図3に示すMono-Sulfo-NHS-NANOGOLD(Nanoprobes)水溶液に浸漬する。本試薬は、直径1.4nmの金ナノ粒子にsulfo-N-ヒドロキシスクシンイミド(sulfo-NHS)基が修飾されたものである。sulfo-NHS基はアミノ基とpH7.5−8.2の水溶液中で容易に反応し、結合する。
【0079】
金ナノ粒子が結合したことを確認するために、銀増感剤を用いた。銀増感反応では、金を核として銀が生成され、銀が生成した部分は光学顕微鏡で観察すると黒い点として確認できる。図4に銀増感反応前後の構造体の光学観察像を示す。アミノ基を含有しない部位は増感前1と増感後2の色の変化が乏しいが、アミノ基を含有した部位は増感前3に対して増感後4には銀増感特有の濃い黒色を呈しており、アミノ基を含有した部位に特異的に金粒子が生成していることを示している。
【0080】
また,図5には、銀増感前後の構造体表面の走査電子顕微鏡画像を示す。アミノ基を含有しない部位では、増感前1と増感後2の表面にほとんど変化がみられないが、アミノ基を含有する部位は、増感前3は滑らかな表面をしているのに対して、増感後4は粒子が表面全体を覆っている。これは、金粒子を核として析出した銀粒子と考えられる。
【0081】
以上の結果から、本実施形態では、光造形によって作製された3次元ポリマーマイクロ構造体上の任意部位に、簡便かつ温和な工程で、金含有層を形成することができることを示した。
【0082】
〔実施例2〕
本実施例は、3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体を用いたデバイスの一具体例である金属複合化ナノニードルの使用状態を示す。
【0083】
図6に示すデバイスである金属複合化ナノニードル9は、本発明の手法により一定の形状に構成された微細なポリマー構造体10におけるニードル先端部11に、金又は銀のような金属を含有する金属含有層12を形成したものである。
【0084】
このデバイスでは、ニードル先端部11へのレーザー光の照射により、衝撃波やキャビテーションバブル(図6において、星型形状のような小図形により象徴的に示す)を発生させて、細胞13の細胞膜14に対する穿孔が容易かつ確実になると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によって、常温・常圧下で少ない工程数により簡易に実施できる製造方法であって、任意の立体的構造を持つポリマー−金属複合構造体を製造でき、しかも金属複合化の過程において生体分子を変性させることがない3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応基Xを備えた光硬化性樹脂を用いて、光造形法により任意の立体的構造を持つ微細なポリマー構造体を構成し、
次いで前記ポリマー構造体を、前記反応基Xと結合する反応基X’を備えると共に任意の金属を含有する金属含有ナノ粒子の水性媒体溶液又は水性媒体分散液である金属複合化処理液中に浸漬して、ポリマー構造体上の反応基Xと金属含有ナノ粒子上の反応基X’とを結合させることにより、
ポリマー構造体上に金属含有層を形成することを特徴とする3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法。
【請求項2】
反応基Yを備えた光硬化性樹脂を用いて、光造形法により任意の立体的構造を持つ微細な第1部材を形成する第1部材形成工程と、前記第1部材を包含する領域に反応基Zを備えた光硬化性樹脂を位置させて、光造形法により、任意の立体的構造を持つと共に第1部材に接続する微細な第2部材を形成する第2部材形成工程とを含むことにより、前記第1部材と第2部材が包含された一体的成形品である微細なポリマー構造体を構成し、
次いで前記ポリマー構造体を、(1)前記反応基Yとは特異的に結合するが前記反応基Zとは結合しない反応基Y’を備えると共に金属Aを含有する金属含有ナノ粒子の水性媒体溶液又は水性媒体分散液である第1金属複合化処理液と、(2)前記反応基Zとは特異的に結合するが前記反応基Yとは結合しない反応基Z’を備えると共に金属Bを含有する金属含有ナノ粒子の水性媒体溶液又は水性媒体分散液である第2金属複合化処理液に順不同でそれぞれ浸漬して、あるいは前記第1金属複合化処理液と第2金属複合化処理液との混合液に浸漬して、反応基Yと反応基Y’、反応基Zと反応基Z’をそれぞれ特異的に結合させることにより、
ポリマー構造体の第1部材に金属Aを含有する金属含有層を形成し、第2部材に金属Bを含有する金属含有層を形成することを特徴とする3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法。
【請求項3】
反応基Yを備えた光硬化性樹脂を用いて、光造形法により任意の立体的構造を持つ微細な第1部材を形成する第1部材形成工程と、前記第1部材を包含する領域に反応基Zを備えた光硬化性樹脂を位置させて、光造形法により、任意の立体的構造を持つと共に第1部材に接続する微細な第2部材を形成する第2部材形成工程とを含むことにより、前記第1部材と第2部材が包含された一体的成形品である微細なポリマー構造体を構成し、
次いで前記ポリマー構造体を、(3)前記反応基Yとは特異的に結合するが前記反応基Zとは結合しない反応基Y’を備えると共に任意の金属を含有する金属含有ナノ粒子の水性媒体溶液又は水性媒体分散液である第3金属複合化処理液に浸漬して、もしくは、(4)前記反応基Zとは特異的に結合するが前記反応基Yとは結合しない反応基Z’を備えると共に任意の金属を含有する金属含有ナノ粒子の水性媒体溶液又は水性媒体分散液である第4金属複合化処理液に浸漬して、反応基Yと反応基Y’、もしくは、反応基Zと反応基Z’のいずれか一方の組合わせに係る反応基を特異的に結合させることにより、
ポリマー構造体の第1部材もしくは第2部材のいずれか一方のみに金属含有層を形成することを特徴とする3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法。
【請求項4】
前記光造形法で用いる照射光が、光硬化性樹脂中の照射領域において多光子吸収を発生させる照射光であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法。
【請求項5】
前記光硬化性樹脂が備える反応基X、Y、Z及び前記金属含有ナノ粒子が備える反応基X‘、Y’、Z’の内の1以上の反応基が、水性媒体溶液又は水性媒体分散液中で加水分解によって脱離する保護基によって保護されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法。
【請求項6】
前記金属含有ナノ粒子に含有される金属が、金、銀及び磁性体金属から選ばれる1種又は2種以上の金属であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法。
【請求項7】
前記光造形法によるポリマー構造体の構成過程、及び水性媒体溶液又は水性媒体分散液中での反応基の結合反応が、0℃〜40℃の温度範囲内で行われ、及び/又は、pH7〜9のpH範囲内で行われることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体の製造方法。
【請求項8】
下記の(5)〜(8)のいずれかに該当することを特徴とする3次元ポリマー−金属複合マイクロ構造体。
(5)光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第1部材と、光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第2部材とを包含した一体的成形品である微細なポリマー構造体であって、
前記第1部材には金属Aを含有する金属含有層が形成されており、
前記第2部材には金属Bを含有する金属含有層が形成されている。
(6)反応基Yを備えた光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第1部材と、反応基Zを備えた光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第2部材とを包含した一体的成形品である微細なポリマー構造体であって、
前記第1部材には、前記反応基Yと特異的に結合する反応基Y’を備えると共に金属Aを含有する金属含有ナノ粒子が、反応基Yと反応基Y’との結合に基づいて結合することにより、金属Aを含有する金属含有層が形成されており、及び、
前記第2部材には、前記反応基Zと特異的に結合する反応基Z’を備えると共に金属Bを含有する金属含有ナノ粒子が、反応基Zと反応基Z’との結合に基づいて結合することにより、金属Bを含有する金属含有層が形成されている。
(7)光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第1部材と、光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第2部材とを包含した一体的成形品である微細なポリマー構造体であって、
前記第1部材、第2部材のいずれか一方のみに金属含有層が形成されている。
(8)反応基Yを備えた光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第1部材と、反応基Zを備えた光硬化性樹脂からなり任意の立体的構造を持つ微細な第2部材とを包含した一体的成形品である微細なポリマー構造体であって、
前記第1部材には、前記反応基Yと特異的に結合する反応基Y’を備えると共に任意の金属を含有する金属含有ナノ粒子が、反応基Yと反応基Y’との結合に基づいて結合することにより、金属を含有する金属含有層が形成されており、もしくは、
前記第2部材には、前記反応基Zと特異的に結合する反応基Z’を備えると共に任意の金属を含有する金属含有ナノ粒子が、反応基Zと反応基Z’との結合に基づいて結合することにより、金属を含有する金属含有層が形成されている。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−6234(P2012−6234A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143724(P2010−143724)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】