説明

3次元表示媒体およびそれを用いた3次元表示装置

【課題】アップコンバージョン蛍光方式において良質な3次元画像を表示できる3次元表示媒体および3次元表示装置を提供する。
【解決手段】本発明の3次元表示媒体11は、3次元画像を表示する表示媒体であって、多孔体と多孔体に分散された少なくとも1種の蛍光体とを含み、蛍光体は、波長が異なる複数の励起光12aおよび12bによって励起されて励起光よりも短波長の光を発する蛍光体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元表示媒体、およびそれを用いた3次元表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元情報を表示する方法としては、液晶ディスプレイなどを用いて左眼画像と右眼画像とを投射して両眼視差によって立体感を得る方法や、多視点の画像を投射して立体感を得る方法などがある。これらの方法は、2次元画像を擬似的に3次元画像として観察者に認識させるものであるため、忠実な立体感を表示するには充分ではない。立体画像を空間に表示させ、前後、左右、上下から自由に観察できる忠実な立体画像を表示する方法として、体積走査法(奥行き標本化法)が知られている。
【0003】
体積走査法の1つの方式として、アップコンバージョン蛍光方式がある。この方式では、2段階吸収による蛍光体のアップコンバージョン現象を用いて、表示する対象物に沿った形状で蛍光体を発光させ、3次元の画像を表示する(たとえば非特許文献1)。非特許文献1の方式では、フッ化物ガラスに蛍光体を析出させたものを表示媒体として用いている。そして、この表示媒体に別々の方向から2つの異なる波長のレーザ光を入射して1点で交差させることによって、その1点のみを発光させる。また、アップコンバージョン発光する蛍光体微粒子を透明な液体や透明な樹脂に分散させた表示媒体も提案されている(特許文献1)。
【0004】
これらの方法では、蛍光体を励起させるそれぞれのレーザ光を同期させながら水平及び垂直方向に走査していくことによって、立体的な画像を表示できる。
【特許文献1】特開2006−249254号公報
【非特許文献1】“A Three-color, Solid-State, Three-Dimensional Display” Elizabeth Downing, Lambertus Hesselink, John Ralston, Roger Macfarlane, P.1185-1188, SCIENCE, Vol.273, 30 August 1996.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の方式では、蛍光体が、緻密な固体または液体中に分散されている。この場合、蛍光体から発せられた光は、緻密な固体または液体を通って表示媒体の外部に出射し、観察者に到達する。したがって、緻密な固体または液体による屈折の影響によって、観察する方向によって3次元画像が歪んで画質が低下するという課題があった。
【0006】
また、固体や液体などの媒質は、屈折率の波長依存性(波長分散)を有しており、波長によって屈折率の値が異なる。そのため、カラーの3次元画像を表示する場合、各発光色の波長で屈折の効果が異なって色ずれが発生し、カラーの3次元画像の画質が低下するという課題があった。
【0007】
このような状況において、本発明は、アップコンバージョン蛍光方式において良質な3次元画像を表示できる3次元表示媒体を提供することを目的の1つとする。さらに、本発明は、その3次元表示媒体を用いた3次元表示装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の3次元表示媒体は、3次元画像を表示する表示媒体であって、多孔体と前記多孔体に分散された少なくとも1種の蛍光体とを含み、前記蛍光体は、波長が異なる複数の励起光によって励起されて前記励起光よりも短波長の光を発する蛍光体である。
【0009】
また、本発明の3次元表示装置は、3次元画像を表示する3次元表示装置であって、3次元表示媒体と、前記3次元表示媒体に励起光を照射する複数の光源とを備え、前記3次元表示媒体が、本発明の3次元表示媒体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の3次元表示媒体では、蛍光体の支持体として多孔体を用いている。多孔体の実効的な屈折率は、多孔体を構成する材料自体の屈折率よりも小さい。そのため、本発明によれば、屈折率の影響による画質低下が少ない表示媒体が得られる。また、多孔体の屈折率の波長依存性は、多孔体を構成する材料自体の屈折率の波長依存性よりも小さい。そのため、本発明によれば、屈折率の波長分散による画質低下が少ない表示媒体が得られる。
【0011】
本発明の3次元表示装置は、上記3次元表示媒体を用いているため、屈折率および屈折率の波長分散による画質低下を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の3次元表示媒体および3次元表示装置について例を挙げて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態および実施例に限定されない。以下の説明では、特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。
【0013】
[3次元表示媒体]
本発明の3次元表示媒体は、3次元画像を表示する媒体である。この3次元表示媒体は、多孔体と、その多孔体に分散された少なくとも1種の蛍光体とを含む。
【0014】
蛍光体は、波長が異なる複数の励起光によって励起されて励起光よりも短波長の光を発する。すなわち、蛍光体は、複数の励起光によって励起されてアップコンバージョン発光する。
【0015】
アップコンバージョン発光の一例について図1を用いて説明する。一例の蛍光体粒子は、図1(a)に示すように、波長λ1の励起光1および波長λ2の励起光2によって励起され、励起されたエネルギー準位から基底状態に戻る際に波長λ3の光を発する。波長λ3は、波長λ1およびλ2よりも短い。
【0016】
希土類元素としてエルビウム(Er)を含む蛍光体の一例について、図1(b)を用いて説明する。波長1500nmの励起光の照射によって、エルビウムが、基底状態115/2からエネルギー準位が高い状態113/2へ移動する。そして、波長850nmの励起光の照射によって、さらにエネルギー準位が高い状態43/2へ励起される。このように励起されたエルビウムが基底状態に戻る際に、波長545nmの可視光を発する。本発明で用いる蛍光体微粒子は、アップコンバージョン発光を生じる元素(たとえば希土類元素)を含有している。励起光を赤外光とし、可視光で画像表示を行うことによって、励起光と画像表示の発光とが重ならないため、良好な画像表示を実現できる。
【0017】
本発明の表示媒体は透明であることが好ましい。表示媒体が不透明であると、表示品質が低下する恐れがある。具体的には、表示媒体は、可視光領域である波長430nm〜680nmにおける透過率が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、特に、透明感の高い表示品質を得るには、波長430nm〜680nmにおける透過率が70%以上であることが好ましい。また、波長が400nm〜700nmの範囲において上記の透過率を有することがさらに好ましい。なお、この明細書において、透過率とは、光路長が1cmのときの透過率を意味する。
【0018】
本発明の表示媒体は、多孔度(空隙率)が30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。特に、屈折率の影響が小さくて高い表示品質を得るには、多孔度が80%以上であることが好ましい。なお、多孔度は、たとえば、表示媒体である多孔体の密度を測定し、多孔体の骨格を構成する材料の比重を用いて算出することができる。
【0019】
本発明の表示媒体は、波長588nmにおける屈折率が1以上1.3以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましい。特に、屈折率の影響が小さくて高い表示品質を得るには、波長588nmにおける屈折率が、1.1以下であることが好ましい。なお、波長588nmは、ヘリウムのd線の波長である。
【0020】
本発明の表示媒体は、少なくとも一部に、励起光の少なくとも1種を吸収する透光性の物質が配置されていてもよい。励起光を吸収する物質は、フィルム状であってもよいし、シート状であってもよいし、板状であってもよい。
【0021】
[多孔体]
多孔体は、空隙部と、固体からなる骨格部とによって構成される。そのため、多孔体に占める骨格部の割合を小さくすることによって、多孔体の実効的な屈折率を低減できる。また、屈折率の割合を小さくすることによって、屈折率の波長分散も低減できる。本発明の3次元表示媒体で用いられる多孔体は、透光性であり、透明であることが好ましい。
【0022】
本発明で用いられる多孔体の一例として、図2の構造が挙げられる。多孔体25の骨格は、微粒子(一次微粒子)26が連結することによって構成される。微粒子26の粒径は、光散乱を低減するために、光の波長よりも充分に小さいことが必要であり、1nm〜100nmの範囲にあることが好ましい。また、骨格間の空隙部のサイズも、光の散乱を低減するために、1nm〜100nmの範囲にあることが好ましい。
【0023】
多孔体の屈折率は、以下に示す式(1)で表される。この式(1)に基づき、骨格を構成する材料、粒子の粒径、および多孔体の孔径などを制御することによって、多孔体の屈折率を調整することが可能である。
(np2−1)/(np2+2)=P×(nb2−1)/(nb2+2)・・・(1)
式(1)において、npは多孔体の屈折率であり、nbは多孔体の骨格を構成する材料の屈折率である。また、Pは充填率であり、多孔体の全容積中における骨格を構成する材料の占める割合(体積比)である。なお、多孔体の多孔度は1−Pで表わされる。
【0024】
図3に、多孔体の多孔度と屈折率との関係を示す。図3では、多孔体の骨格を構成する材料として、酸化シリコン(屈折率1.45)、フッ化カルシウム(屈折率1.43)およびフッ化マグネシウム(屈折率1.38)を用いた例について示している。なお、屈折率は、波長588nmにおける値である。
【0025】
図3で示されるように、多孔体の屈折率は、骨格を構成する材料によって変化する。透明なバルク材料では、波長588nmにおける屈折率の最小値は、約1.4である。多孔体の屈折率は、その屈折率よりも小さく、空気の屈折率にできるだけ近いことが好ましい。多孔度(空隙率)が30%以上の多孔体では、バルク材料では実現できない約1.3以下の屈折率を得ることができる。多孔体の多孔度を50%以上とすることによって、屈折率を1.2以下とすることができる。特に、屈折率の影響が小さくて高い表示品質を得るには多孔度が80%以上であることが好ましい。多孔度を80%以上とすることによって、多孔体の屈折率を1.1以下とすることができ、空気の屈折率に近くなる。
【0026】
本発明で用いられる多孔体としては、エアロゲルが好ましく、透明なエアロゲルが特に好ましい。エアロゲルは、ゾル・ゲル合成によって形成でき、網目骨格を有する。エアロゲルは、無機微粒子または有機微粒子が凝集した多孔体である。エアロゲルを構成する一次微粒子の粒径は数nm〜数十nmであり、空隙のサイズは、数nmから数十nmである。エアロゲルは、ゾル・ゲル反応で合成され溶媒を含むゲルから、超臨界乾燥によって溶媒を除去することによって、形成できる。この方法によれば、密度が非常に低く、屈折率が低い多孔体を容易に得ることができる。例えば、シリカ(SiO2)であれば、密度が300kg/m3以下で、多孔度が80%以上であり、屈折率が1.1以下の透明な多孔体が得られる。
【0027】
エアロゲルは、ゾル・ゲル合成によって形成される点で、利点を有する。アップコンバージョン発光する蛍光体粒子は、アップコンバージョン発光する希土類元素等を母材に担持させることによって構成されている。ゾル・ゲル反応で多孔体を形成する際に、それらの蛍光体微粒子を材料に混合しておくことによって、多孔体の骨格を形成する微粒子と蛍光体粒子の表面とが反応する。そのため、その方法によれば、蛍光体粒子と多孔体との結合性を高めるとともに、蛍光体粒子の分散性を高めることができる。その結果、機械的な強度に優れる3次元表示媒体が得られる。
【0028】
また、エアロゲルの骨格を構成する粒子を、蛍光体粒子としてもよい。蛍光体粒子の母材の材料を用いてエアロゲルを形成する際に、母材の材料に希土類元素を混合しておくと、蛍光体粒子が凝集した多孔体を形成できる。例えば、シリカによってエアロゲルを形成する場合、骨格を形成する原料であるテトラメトキシシランに希土類元素を混合してゾル・ゲル反応を行い、ゲルを得ればよい。このゲルを超臨界乾燥することによって、蛍光性を有する多孔体が得られる。なお、希土類元素は、例えばエルビウム元素であれば、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−トリアセタトエルビウム(III)や酢酸エルビウム(III)、塩化エルビウム(III)、硝酸エルビウム(III)、エルビウム(III)イソプロポキシド、エルビウム(III)アセチルアセトネートといった化合物の形態で添加してもよい。また、他の希土類元素についても同様に、化合物の形態で添加するのが好ましい。
【0029】
また、本発明で用いる多孔体は、超臨界乾燥以外の乾燥方法でゲルを乾燥することによって形成してもよい。たとえば、表面を撥水処理することにより乾燥時の表面張力による応力を低減することによって乾燥を行い、多孔体を形成してもよい。
【0030】
[蛍光体]
本発明で用いられる蛍光体粒子の好ましい一例は、蛍光を発する物質(元素等)が母材にドープされた付加型の蛍光体粒子である。蛍光を発する物質の種類やドープ量によって、発光の強さや色を調整できる。また、多孔体に分散する際に、多孔体の原料と母材とが反応しやすい組み合わせとすることによって蛍光体の担持状態の良好な表示媒体を得ることができる。
【0031】
蛍光を発する物質としては、2種以上の異なる波長の励起光によって励起されてアップコンバージョン発光することが可能であり、かつ所定の範囲の波長の光によって励起される物質が用いられる。
【0032】
本発明で用いられる蛍光体粒子の好ましい一例は、希土類元素を含有している蛍光体粒子である。多くの希土類元素は、励起状態において複数のエネルギー準位を持ち、2種以上の異なる波長の光によって励起されてアップコンバージョン発光する。一般的には、希土類元素として、3価のイオンとなる希土類元素を選択して用いることができる。中でも、エルビウム(Er)、ホロミウム(Ho)、プラセオジム(Pr)、ツリウム(Tm)、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、ユウロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)およびセリウム(Ce)からなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素が好ましい。
【0033】
たとえば、3価のプラセオジムイオン(Pr3+)は、波長1014nmと波長840nmの励起光によって、波長605nmと636nmの光を発する。また、3価のエルビウムイオン(Er3+)は、波長1500nmと波長850nmの励起光によって、波長545nmの光を発する。また、3価のツリウムイオン(Tm3+)は、波長800nmと波長1120nmの励起光によって、波長480nmの光を発する。
【0034】
本発明で用いられる蛍光体粒子は、イッテルビウム(Yb)を含有していてもよい。Ybは光に対する感度が良好であるため、増感剤として機能する。
【0035】
本発明の3次元表示媒体でカラー表示する場合には、複数の発光色を示す蛍光体粒子を用いるか、または互いに異なる発光色を示す複数の蛍光体微粒子を用いることが好ましい。すなわち、多孔体中に、複数の発光色を示す1種の蛍光体粒子を分散させるか、または、それぞれ単一の発光色を示す複数の蛍光体粒子を分散させるかすることが好ましい。特に、三原色(赤・緑・青)の発光色を示す3種類の蛍光体粒子を用いることが好ましい。そのような蛍光体粒子を用いることによって、カラー表示を容易にできる。
【0036】
本発明の表示媒体に含まれる少なくとも1種の蛍光体は、互いに異なる発光色を示す複数種の蛍光体を含んでもよい。たとえば、複数種の希土類元素を含有する蛍光体粒子を用いてもよい。その場合、励起光の波長が異なる希土類元素を用いることが好ましい。本発明の表示媒体では、複数の赤外光を走査することによって3次元画像を表示する。そのため、ほぼ同一の波長の光によって励起されてアップコンバージョン発光する希土類元素を複数用いると、各色の発光画素を別々に移動させることが困難になる。
【0037】
複数の励起光で希土類元素を励起してアップコンバージョン発光させるには、それらの励起光の波長が異なるようにする必要がある。具体的には、励起光の波長は、互いに±5nm以上異なることが好ましく、±10nm以上異なることがより好ましい。
【0038】
励起光の波長は、赤外領域であることが好ましく、少なくとも700nm〜2000nmの範囲にある。励起光の波長は、たとえば700nm〜1800nmの範囲にあり、一例では800nm〜1600nmの範囲にある。一方、発光波長は、400nm〜700nmの範囲の可視域にあることが好ましい。
【0039】
本発明で用いられる蛍光体粒子の母材は、アップコンバージョン発光が可能な状態で希土類元素を担持できるものである。例えば、希土類元素と反応して錯体やデンドリマを形成する有機物または無機物を用いてもよい。蛍光体粒子の母材の好ましい一例は、発光可能な状態で希土類元素を含有することができる無機物である。
【0040】
無機物の母材としては、発光効率の観点から、励起光の吸収が少ない材料が好ましい。具体的には、フッ化物や塩化物といったハロゲン化物、酸化物、硫化物や、これらの化合物を成分として有するガラス材料などが好ましい。蛍光体の好ましい一例は、希土類元素を含有し、母材がハロゲン化物または酸化物である。
【0041】
ハロゲン化物としては、例えば、塩化バリウム、塩化鉛、フッ化鉛、フッ化カドミウム、フッ化ランタン、フッ化イットリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウムや、これらの混合化合物をあげることができる。
【0042】
酸化物は、水分等に対して安定であり、耐環境性が高い点で好ましい。酸化物としては、例えば、酸化イットリウム(Y23)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化シリコン(SiO2)、酸化タンタル(Ta23)、酸化ジルコニウム(ZrO2)や、これらの混合化合物が挙げられる。これらは、エアロゲルと化学的に結合することによって、安定な表示媒体を形成する。
【0043】
さらに、本発明における蛍光体微粒子の平均粒径は、1nm〜100nmの範囲にあることが好ましく、1nm〜50nmに範囲にあることがより好ましい。平均粒径が小さすぎると蛍光体粒子の合成が困難である。また、平均粒径が大きすぎると、光散乱が生じて表示された画質が低下する可能性がある。なお、平均粒径は、電子顕微鏡による観察写真から100個から200個の蛍光体粒子を任意に抽出し、それぞれの最大径を平均した値とする。
【0044】
蛍光体粒子の合成方法に、特に限定はない。例えば、ガス中蒸発法、スパッタリング法、ガラス結晶化法、化学析出法、逆ミセル法、ゾル・ゲル法、水熱合成法、共沈法、スプレー法、または燃焼法といった方法によって合成してもよい。
【0045】
母材中における希土類元素のドープ量は、種々の条件(希土類元素の種類、母材の種類、必要とされる発光の程度など)に応じて決定される。
【0046】
[3次元表示装置]
本発明の3次元表示装置は、3次元画像を表示する装置である。この3次元表示装置は、3次元表示媒体と、3次元表示媒体に励起光を照射する複数の光源とを備える。そして、3次元表示媒体が、上記本発明の3次元表示媒体である。
【0047】
本発明の3次元表示装置は、励起光の照射位置を制御する制御手段をさらに備えてもよい。
【0048】
本発明の3次元表示装置は、3次元画像が表示される側に配置され励起光を吸収する透光性の物質をさらに備えてもよい。この場合、3次元画像が表示される側とは反対側から励起光が照射されてもよい。
【0049】
[実施形態1]
実施形態1では、本発明の3次元表示装置の一例について説明する。実施形態1の3次元表示装置10の構成を、図4に模式的に示す。
【0050】
3次元表示装置10は、表示媒体(3次元表示媒体)11と、赤外光源12aと、赤外光源12bとを含む。赤外光源12aは励起光13aを出射し、赤外光源12bは励起光13bを出射する。
【0051】
表示媒体11は、アップコンバージョン発光する蛍光体粒子が分散された多孔体からなる。表示媒体11は、本発明の3次元表示媒体である。
【0052】
表示媒体11には、異なる方向から励起光13aと励起光13bとが照射される。この2つの励起光が交差した点では、蛍光体がアップコンバージョン発光し、発光画素14となる。励起光13aと励起光13bとを同期させながら水平方向および垂直方向に走査することによって、発光画素14が立体的に移動する。このようにして、3次元の画像を表示できる。
【0053】
赤外光源は、表示媒体11の周囲に配置される。赤外光源の数は、2以上であり、通常、偶数である。例えば、1つの赤外光源が1つの波長の赤外光のみを発するとすると、2段階吸収で発光するアップコンバージョン発光では、1色の発光を得るのに2つの赤外光源が必要になり、3色の発光を得るのに6つの赤外光源が必要となる。
【0054】
赤外光源としては、例えば半導体レーザを用いることができる。また、図8に示すように、複数の半導体レーザ(赤外光源)がアレイ上に配置されたレーザアレイを用いてもよい。
【0055】
制御手段は、赤外光源から発せられた励起光の照射位置を制御する。例えば、制御手段は、赤外光源12aおよび12bを移動させることによって励起光13aおよび13bの照射位置を制御してもよい。また、図7に示すように、ミラーを用いて励起光の照射位置を制御してもよい。また、励起光の制御手段は、アレイ状の赤外光源から出射された励起光の同期をとりながら励起光を制御してもよい。
【0056】
表示媒体11の多孔体の構造を、図5に模式的に示す。この構造において、エアロゲルなどの多孔体20は、主に微粒子22によって構成されている。アップコンバージョン発光する蛍光体粒子21は、骨格の一部となったり、骨格に担持されたりしている。このような多孔体は、エアロゲルの製造において、ゾル・ゲル反応の原料に、またはゾル・ゲル反応の反応系に、蛍光体粒子を添加することによって形成できる。表示媒体11が、単一の発光色を示す蛍光体のみを含有する場合には、単色の3次元画像を表示できる。表示媒体11が、複数の発光色を示す複数の蛍光体を含有する場合には、カラーの3次元画像を表示できる。3色の蛍光体粒子を用いた多孔体の一例を、図6に模式的に示す。多孔体30において、3色の蛍光体粒子31a、31bおよび31cは、骨格の一部となったり、骨格に担持されたりしている。
【0057】
多孔体を構成する微粒子の材料としては、エアロゲルを形成できる材料を用いることができ、透明性が高いエアロゲルを形成できる材料が好ましく用いられる。たとえば、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al23)、酸化チタン(TiO2)、またはこれらの混合物が好ましい。また、有機材料を用いてもよく、透明性が高い樹脂で且つ重縮合反応で得られる樹脂が好ましく、たとえばフェノール系樹脂やメラミン系樹脂が好ましい。
【0058】
表示媒体中の蛍光体粒子の含有量は、特に限定されない。一般に、蛍光体粒子の含有量が低いほど発光強度が小さくなり、蛍光体粒子の含有量が多いほど発光強度が大きくなる。ただし、蛍光体粒子の含有量が多すぎると、蛍光体粒子によって散乱が生じるので、発光強度が低下する可能性がある。蛍光体粒子の含有量は、アップコンバージョン発光の発光強度等を考慮し、用途に応じて調整される。
【0059】
[実施形態2]
実施形態2では、本発明の3次元表示装置の他の一例を示す。実施形態2の3次元表示装置60の構成を、図7に模式的に示す。
【0060】
3次元表示装置60は、表示媒体(3次元表示媒体)61と、赤外光源62aおよび62bと、フィルム65と、ミラー66aおよび66bとを備える。
【0061】
表示媒体61は、円筒状であり、多孔体と、多孔体に分散された蛍光体粒子とからなる。赤外光源62aおよび62bからは、互いに波長が異なる励起光(赤外光)63aおよび63bが出射される。出射された励起光63aおよび63bは、制御手段(ミラー66aおよび66b)で進行方向を制御され、表示媒体61内で交わる。励起光63aと励起光63bとの交点が、発光画素64となる。
【0062】
フィルム65は、表示媒体61の上面に配置されている。フィルム65は、赤外光を吸収するフィルムである。フィルム65は、発光に寄与しなかった励起光を吸収するとともに、反射などによって生じた不要な迷光による発光を抑制する。また、フィルム65を表示媒体65に接着することによって、表示媒体65の取り扱い性や耐衝撃性を向上させることも可能である。
【0063】
[実施形態3]
本発明の3次元画像表示装置の他の一例を、図8に示す。図8の表示装置70は、表示媒体71と、赤外光源72aおよび72bと、フィルム77とを備える。
【0064】
表示媒体71は、直方体状であり、多孔体と、多孔体に分散された蛍光体粒子とからなる。赤外光源72aおよび72bからは、波長が異なる励起光(赤外光)73aおよび73bが出射される。赤外光源72aおよび72bは、それぞれ、アレイ状に配置された半導体レーザを備え、複数の励起光を同時に出射できる。表示装置70では、赤外光源72aおよび72bから出射される励起光の同期をとって発光画素の位置が制御される。
【0065】
フィルム77は、赤外光を吸収するフィルムである。励起光73aおよび73bの一部は、散乱等によって観察者78の方へ進行するが、フィルム77は、そのような励起光を吸収する。また、フィルム77は、表示媒体71の取り扱い性および耐衝撃性をさせる。
【0066】
[実施形態4]
実施形態4では、本発明の3次元表示装置の他の一例について説明する。実施形態4の3次元表示装置80を図9に示す。3次元表示装置80は、表示媒体81と、フィルム82と、赤外光源(図示せず)とを備える。
【0067】
表示媒体81は、円筒状の形状を有する。励起光83aおよび83bは、赤外光源から出射され、制御手段によって制御されて、表示媒体81の底面から表示媒体81の内部に照射される。表示媒体81の外周面には、赤外光を吸収するフィルム82が配置されている。励起光83aおよび83bの一部は散乱等によって観察者の方に進行するが、フィルム82はそのような励起光を吸収する。また、フィルム82は、表示媒体81の取り扱い性および耐衝撃性をさせる。
【0068】
[実施形態5]
実施形態5では、本発明の3次元表示装置の他の一例について説明する。実施形態5の3次元表示装置90を図10に示す。3次元表示装置90は、表示媒体91と、フィルム92aおよび92b(ハッチングを付して示す)と、赤外光源(図示せず)とを備える。
【0069】
表示媒体91は、直方体状の形状を有する。励起光93aは、表示媒体91の1つの面から表示媒体91の内部に入射する。その面に対向する面には、フィルム92aが配置されている。また、励起光93bは、表示媒体91の他の面から表示媒体91の内部に入射する。その面に対向する面には、フィルム92bが配置されている。通常、励起光93aと励起光93bとは、互いに隣接する面に入射する。フィルム92aおよび92bは、散乱等によって生じた不要な赤外光を吸収する。また、フィルム92aおよび92bは、表示媒体91の取り扱い性および耐衝撃性を向上させる。
【0070】
なお、上記実施形態において、赤外光を吸収するフィルムの代わりに、赤外光を吸収する板材やシートを用いてもよい。これらの吸収体は、少なくとも1種の励起光を吸収する。これらの吸収体は、例えば、一般的な赤外カットフィルタの材料や、一般的な赤外カットフィルムの材料などで形成できる。これらの吸収体は、表示媒体に接していることが好ましい。フィルム状の吸収体は、表示媒体に密着させることが容易である点で好ましい。
【0071】
本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的な思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術範囲に包含されるものである。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0073】
[実施例1]
ゲル原料液100重量部に、ツリウム(III)をドープしたY23の粒子(粒径約30nm)を0.5重量部加えて充分に分散させた。ゲル原料液は、テトラメトキシシランとエタノールとアンモニア水溶液(0.1規定)とを、モル比で1対3対4になるように混合することによって調製した。ゲル原料液のゲル化によって、固体化したシリカ湿潤ゲルの円柱体を得た。
【0074】
このシリカ湿潤ゲル体をエタノールで洗浄(溶媒置換)した後に、二酸化炭素による超臨界乾燥を行った。超臨界乾燥は、シリカ湿潤ゲル体を液化二酸化炭素中に入れ、圧力12MPa、温度50℃の条件にした超臨界状態の二酸化炭素中に4時間置いたのち、圧力を徐々に開放して大気圧にし、その後に降温することによって行った。このようにして、蛍光体粒子を含有したシリカからなる、円柱状のエアロゲル多孔体(直径1cm)を得た。
【0075】
なお、得られた多孔体は、密度が約220kg/m3であり、空孔率は約92%であった。また、窒素吸着法であるブルナウアー・エメット・テラー(BET)法で測定した比表面積の値は約700m2/gであり、平均細孔直径は約20nmであった。また、円柱側面の中央部は、波長430nm〜680nmにおける透過率が80%以上であり、波長400nm〜700nmにおける透過率も80%以上であった。
【0076】
実施例1で作製した多孔体を表示媒体として、多孔体内で交差するように2つの励起光を照射した。励起光の照射には、波長800nm付近の半導体レーザと、波長1120nm付近の半導体レーザとを用いた。その結果、2つの励起光の交点において、波長480nm付近の青色発光が観測された。また、観察する角度によらず、屈折による発光点のずれは見られなかった。
【0077】
[実施例2]
ケイ酸ソーダの電気透析を行い、pH9〜10のケイ酸水溶液(水溶液中のシリカ成分濃度14重量%)を調製した。そのケイ酸水溶液のpHを5.5に調整したのちに、ケイ酸水溶液100重量部に、プロセオジム(III)、エルビウム(III)およびツリウム(III)をそれぞれドープした3種類のガラス粒子を、それぞれ0.2重量部混合し、分散させた。ガラス粒子には、ZBLAN(ZrF4−BaF2−LaF3−AlF3−NaF)からなる粒子を用いた。ケイ酸水溶液のゲル化によって、固体化したシリカ湿潤ゲルの板状体(厚さ1cm)を得た。
【0078】
このシリカ湿潤ゲル体に対して、ジメチルジメトキシシランの5重量%イソプロピルアルコール溶液中で疎水化処理を行った。その後、シリカ湿潤ゲル体に対して、二酸化炭素による超臨界乾燥を行って、蛍光体粒子を含有したシリカからなるエアロゲル多孔体を得た。超臨界乾燥は、実施例1の超臨界乾燥と同じ条件で行った。
【0079】
なお、得られたエアロゲル多孔体は、密度が約250kg/m3であり、空孔率は約90%であった。また、窒素吸着法であるブルナウアー・エメット・テラー(BET)法で測定した比表面積の値は約600m2/gであり、平均細孔直径は約20nmであった。また、厚さ方向の透過率は、波長430nm〜680nmで約80%以上であり、波長400nm〜700nmにおいても80%以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、様々な方向から奥行き感のある3次元の立体画像を観察できる3次元表示媒体、および3次元表示装置に適用できる。本発明は、たとえば、立体テレビ、広告、医療用ディスプレイ、立体CAD用ディスプレイといった様々な用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】アップコンバージョン発光を説明する図である。
【図2】本発明の3次元表示媒体を構成する多孔体の一例を示す模式図である。
【図3】多孔体の多孔度と屈折率との関係を示す図である。
【図4】本発明の3次元表示装置の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の3次元表示媒体の構造の一例を示す模式図である。
【図6】本発明の3次元表示媒体の構造の他の一例を示す模式図である。
【図7】本発明の3次元表示装置の他の一例を示す模式図である。
【図8】本発明の3次元表示装置の他の一例を示す模式図である。
【図9】本発明の3次元表示媒体の他の一例を示す模式図である。
【図10】本発明の3次元表示媒体の他の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0082】
10、60、70、80、90 3次元表示装置
11、61、71、81、91 表示媒体(3次元表示媒体)
12a、12b、62a、62b 赤外光源
13a、13b、63a、63b、73a、73b、83a、83b、93a、93b 励起光
14、64 発光画素
20 多孔体
21、31a、31b、31c 蛍光体粒子
22 微粒子
65、77、82、92a、92b フィルム
66a、66b ミラー
78 観察者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元画像を表示する表示媒体であって、
多孔体と前記多孔体に分散された少なくとも1種の蛍光体とを含み、
前記蛍光体は、波長が異なる複数の励起光によって励起されて前記励起光よりも短波長の光を発する蛍光体である3次元表示媒体。
【請求項2】
前記多孔体がエアロゲルである請求項1に記載の3次元表示媒体。
【請求項3】
多孔度が80%以上である請求項1または2に記載の3次元表示媒体。
【請求項4】
波長588nmにおける屈折率が1.3以下である請求項1または2に記載の3次元表示媒体。
【請求項5】
波長が430nm〜680nmの範囲における透過率が50%以上である請求項1または2記載の3次元表示媒体。
【請求項6】
前記蛍光体の平均粒径が、1nm〜100nmの範囲にある請求項1〜5のいずれか1項に記載の3次元表示媒体。
【請求項7】
前記蛍光体が希土類元素を含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の3次元表示媒体。
【請求項8】
前記希土類元素は、エルビウム、ホロミウム、プラセオジム、ツリウム、ネオジム、ガドリニウム、ユウロピウム、サマリウム、テルビウム、ジスプロシウムおよびセリウムからなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素である請求項7に記載の3次元表示媒体。
【請求項9】
前記少なくとも1種の蛍光体が、互いに異なる発光色を示す複数種の蛍光体を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の3次元表示媒体。
【請求項10】
少なくとも一部に、前記励起光の少なくとも1種を吸収する透光性の物質が配置されている請求項1〜9のいずれか1項に記載の3次元表示媒体。
【請求項11】
3次元画像を表示する3次元表示装置であって、
3次元表示媒体と、前記3次元表示媒体に励起光を照射する複数の光源とを備え、
前記3次元表示媒体が、請求項1〜10のいずれか1項に記載の3次元表示媒体である3次元表示装置。
【請求項12】
前記励起光の照射位置を制御する制御手段をさらに備える請求項10に記載の3次元表示装置。
【請求項13】
前記3次元画像が表示される側に配置され前記励起光を吸収する透光性の物質をさらに備える請求項11または12に記載の3次元表示装置。
【請求項14】
前記3次元画像が表示される側とは反対側から前記励起光が照射される請求項13に記載の3次元表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−292661(P2008−292661A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136632(P2007−136632)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】