説明

3級アミンの製造方法

【課題】液状及びガス状の原料との反応により効率よく3級アミンを製造する方法の提供。
【解決手段】触媒層が充填された塔型反応器の底部から液状及びガス状の原料を供給して反応させ、塔頂部より排出させる3級アミンの製造方法であって、
前記塔型反応器として、触媒層として2段以上のハニカム状触媒層を有しており、前記2段以上のハニカム状触媒層間に空間部を有しており、該空間部において、気体及び液体の一部又は全部の逆流を防止する手段となる整流部がハニカム状触媒層に接触しない状態で設置されているものを使用する3級アミンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム状触媒を用いて、アルコールと1級又は2級アミンとを原料として、対応する3級アミンを効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牛脂、ヤシ油、パーム油等を原料とする脂肪族アミンは、家庭用、工業用分野において重要な中間体である。特に脂肪族3級アミンは、第4級アンモニウム塩、両性界面活性剤等に誘導されて、繊維柔軟仕上げ剤、帯電防止剤、リンス剤、その他洗浄剤等幅広い用途に利用されている。
3級アミンの製造分野、特に、触媒の存在下にアルコールと1級又は2級アミンとを反応させて3級アミンを製造する際に、効率良く3級アミンを製造する方法が検討されている。
【0003】
フィルムの表面上に触媒金属を付着させたフィルム触媒を用いる方法が特許文献1に開示されている。この反応方法では、粉末触媒をアルコール中に懸濁させて反応を行う場合に比べて、攪拌や、触媒の濾過分離が不要である。また、反応性ガスを反応器に供給する方法として、孔径Dが0.3〜200mmの供給口を用いる方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ハニカム触媒の間に静的混合素子を設置し、個々のハニカム触媒層に導入することで、物質移動や熱交換を促進させる方法が開示されている。静的混合素子により、ハニカム触媒層間での気体及び液体の混合が促進されることが予想される。
【0005】
しかしながら、非特許文献1〜4に見られるように、モノリス触媒に気体及び液体を並流で上昇させる反応においては、反応塔内の滞留時間分布は完全混合型となることが指摘されており、投入した気体及び液体の一部はショートパスしたり、一部は反応塔内に長時間留まったりすることで過剰反応の原因となることが示唆される。さらに、ガス分散性を高めるだけでは、完全混合型の滞留時間分布は改善できないことも開示されている。
したがって、モノリス触媒に気体及び液体を並流で上昇させる反応において、いまだ効率的な反応を行う方法が開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−94800号公報
【特許文献2】特開1986−291044号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】川上 幸衛 他, 化学工学論文集 13 (1987) 318.
【非特許文献2】Patrick, R.H. et al., AIChE. J. 41 (1995) 649.
【非特許文献3】Thulasidas, T.C. et al., Chem. Eng. Sci. 54 (1999) 61.
【非特許文献4】Sederman, A.J. et al., Catal. Today 128 (2007) 3.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、塔型反応器を用いた反応方法であり、原料成分を塔底部から供給し、反応物等を塔頂部から取り出すアップフロー型の反応において、ハニカム型触媒の存在下、液状及びガス状の原料との反応により効率よく3級アミンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、触媒層が充填された塔型反応器の塔底部から液状及びガス状の原料を供給して反応させ、塔頂部より排出させる3級アミンの製造方法であって、 前記塔型反応器として、触媒層として2段以上のハニカム状触媒層を有しており、前記2段以上のハニカム状触媒層間に空間部を有しており、該空間部において、逆流防止手段となる整流部がハニカム状触媒層に接触しない状態で配置されているものを使用する3級アミンの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塔型反応器を用いた反応方法であり、液状及びガス状の原料成分をそれぞれ塔底部から供給し、反応物等を塔頂部から取り出すアップフロー型の反応において、下流側から上流側(塔頂部から塔底部側)への逆混合が抑制されることから、気体と液体のハニカム状触媒層内でのショートパスや滞留時間の増加による過剰反応が抑制される。
したがって、ハニカム状触媒層のセル(細管流路)全体を有効に活用することができるため、ガス状のアミン供給量を低減することができ、目的とする3級アミンを効率的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の製造方法を実施するための製造装置と製造フローの概念図。
【図2】本発明の製造方法を実施するための別実施形態の製造装置と製造フローの概念図。
【図3】本発明の製造方法で使用するハニカム状触媒層の一例を示す斜視図。
【図4】図4(a)、(b)、(c)は、図2の製造装置に付設された供給ノズルの縦方向の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<塔型反応器>
本発明の3級アミンの製造方法で用いる塔型反応器の一例を図1、図2により説明する。図1と図2の塔型反応器1は、図1の原料供給部(ガス供給装置)2と、図2の原料供給部(液状原料及びガス状原料の混合供給ノズル)2Aが異なるほかは同一のものである。図2は、塔型反応器1の内部構造は略している。
塔型反応器1は、塔型容器11内に上下方向に5段のハニカム状触媒層12a〜12eを有している。
ハニカム状触媒層の段数は2段以上であればよく、好ましくは3段以上であり、4段以上が更に好ましく、10段以上又は20段以上であってもよい。
また1段(1層)のハニカム状触媒層が1つのハニカム状触媒層の成型体からなるものであってもよいし、複数のハニカム状触媒層の成型体を組み合わせたものであってもよい。
【0013】
ハニカム状触媒層12aの下側と、ハニカム状触媒層12a〜12eの間には空間部13a〜13eが存在しており、空間部13a〜13eには、それぞれ整流部14a〜14eが設置されている。
整流部は、少なくとも空間部13b〜13eに整流部14b〜14eが設置されていればよい。空間部13aの整流部14aは設置してもよいし、設置しなくてもよいが、設置した方がハニカム状触媒層12aに導入される気体の分散状態が安定化されやすいので好ましい。
【0014】
ハニカム状触媒層は、例えばハニカム状触媒層12a、12bを連続して設置して1組の触媒層として(空間部13bを形成しない)、ハニカム状触媒層12c、12d、12eを連続して設置して1組の触媒層として(空間部13d、13eを形成しない)、2つの組の間にのみ空間部を設けて、その空間部にのみ又はその空間部とハニカム状触媒層12a、12bの組み合わせの下側の空間部に整流部を設置するようにしてもよい。
ハニカム状触媒層を10段以上、20段以上設置する場合にも、2段、3段、4段以上の触媒層を1組にまとめ、各組の間に形成した空間部又は最下段の組の下にある空間部に整流部を設置するようにしてもよい。
以下において、ハニカム状触媒層と、空間部及び整流部について説明する。
【0015】
〔ハニカム状触媒層〕
ハニカム状触媒層12a〜12eを構成するハニカム状触媒は、内径数mm〜数十mmの管を束ねた集合体や、セル密度が1平方インチ当り数十〜数百セルのハニカム構造体を支持体として、その表面に触媒が固定化された成型体である。
ハニカム状触媒は、互いに平行に形成された多数のセル(細管流路)を有しているものである。セルの形状(幅方向の断面形状)は特に制限はなく、一般的な三角形、四角形、六角形、或いは平板と波板を積層した形状(特開2009−262145号公報の図3、特開2008−110341号公報の図6に示されているような形状であり、セルの形状は、1つの角部が丸みを帯び、2辺が曲線を含む略三角形である)等が用いられる。
個々のセルの幅方向における断面積は、液体状及びガス状の反応物の通過を容易に行わせる目的から、0.01cm2以上が好ましく、0.03cm2以上がより好ましく、0.05cm2以上がさらに好ましい。また反応物とハニカム状触媒との接触効率を高める観点から、100cm2以下が望ましく、50cm2以下がより好ましく、10cm2以下がさらに好ましい。
【0016】
ハニカム状触媒の製造方法については特に制限はなく、ハニカム構造体の支持体内壁に厚さ500μm以下の薄膜状に触媒を固定化することが好ましい。
反応物及び生成物が触媒膜内部を移動する過程は拡散支配であり、500μm以下の薄い薄膜状の触媒膜とすることで、触媒膜外部との間での物質移動を促進し、触媒膜内部まで有効に活用できると共に、触媒膜内部での中間反応物の過反応を抑制することができる。特に100μm以下の厚さであることが、副反応を抑制し、反応の選択性を高めることができるため好ましく、50μm以下であることがより好ましい。厚さの下限は、触媒膜の強度確保及び強度面の耐久性を得るために、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、1μm以上が更に好ましく、5μm以上が更に好ましい。
【0017】
上記のハニカム構造体の支持体表面に触媒を薄膜状に固定する手段としては、従来公知の方法を用いることができ、例えばスパッタ等の物理蒸着法、化学蒸着法、溶液系からの含浸法の他に、バインダを使ったブレード、スプレイ、ディップ、スピン、グラビア、ダイコーティング等、各種塗工法が挙げられる。
【0018】
支持体は、塔型反応器内でハニカム状構造を形成できるものであれば制限はなく、予めハニカム形状に成型されたものや、図2に示す平板51と波板52を積層してセル53を形成し、ハニカム状構造としたもの等が用いられる。
材質は、金属箔、セラミック等の無機材料等の一般的なハニカム構造体用の材料が使用できる。薄膜状触媒の厚みの均一性を向上する観点から、平板状の支持体に触媒を固定化する加工を行った後、ハニカム形状に成型することが好ましく、加工性のよい金属箔が好適に用いられる。
【0019】
ハニカム状触媒を構成する活物質としては、特に限定されるものではなく、公知のものを利用することができるが、一般に周期律表の第5族元素、第6族元素、第7族元素、第8族元素、第9族元素、第10族元素、第11族元素、第12族から選ばれる金属種を好適に用いることができる。
例えば第11族であるCu単独あるいはこれに第5族のNb、第6族のCrやMo、第7族のMn、第8族のFeやRu、第9族のCoやRh、第10族のNi、Pd、並びにPt、第12族のZn等の金属元素を加えた2成分以上の金属を含むものが挙げられ、CuとNiを含有するものが好ましく用いられる。また、これらの活物質をさらにシリカ、アルミナ、チタニア、ゼオライト、シリカ−アルミナ、ジルコニア、珪藻土等の担体に担持させたもの等も用いられる。
本願発明のハニカム状触媒を構成する活物質が第11族元素と他の元素を含むものであるとき、第11族元素と他の元素の合計量の質量比(第11元素の質量/他の元素の合計質量)比は、3級アミンを効率良く生産する観点から、好ましくは0.1/1〜100/1、より好ましくは1/1〜50/1、更に好ましくは3/1〜30/1である。
【0020】
ハニカム状触媒の内部には、それ単独では活物質として作用しないが、活物質を固定化して薄膜状の触媒膜を形成するためのバインダを含有していてもよい。
バインダとしては、活物質同士又は支持体表面への結着性の他に、反応環境に耐え、さらに反応系に悪影響しないような、耐薬品性や耐熱性等の性質を有する高分子あるいは無機化合物が挙げられる。
例えば、カルボキシメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリ四フッ化エチレンやポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリイミド樹脂、ポリイミドアミド樹脂等の高分子化合物、あるいはシリカ、アルミナ、チタニア、シリカ−アルミナ、ジルコニア等の無機化合物ゾル等が挙げられる。
ハニカム状触媒の製造方法において、活物質とバインダとの配合割合は、支持体表面への結着性及び活物質の活性の観点から、活物質100質量部に対して、バインダ10〜80質量部が好ましく、15〜60質量部がより好ましく、20〜30質量部が更に好ましい。
【0021】
ハニカム状触媒の内部構造は、触媒膜を構成する活物質の種類や触媒膜の作製方法等に大きく依存するが、緻密な連続相を形成していてもよいし、多孔質であってもよい。
例えば、スパッタ法や化学蒸着法等により支持体表面上に形成した薄膜である場合は緻密な連続相とすることができ、粉末状の活物質を使って湿式又は乾式の塗工等の方法により支持体表面上に形成した場合は多孔質とすることができる。
【0022】
塔型反応器内にハニカム状触媒を充填してハニカム状触媒層を形成するときは、
(I)平板と波板形状のフィルム状触媒を積層したものを円筒状に丸めたり、短冊状に加工したりして得たハニカム状触媒(さらに必要に応じて、円筒等の適当な容器にハニカム状触媒を充填したもの)を装填する方法、
(II)予め塔型反応器の内径に合う形で成型されたハニカム状触媒(さらに必要に応じて、円筒等の適当な容器にハニカム状触媒を充填したもの)を充填する方法等を適用することができる。
また、ハニカム状触媒層は、反応液の触媒層中での滞留時間分布が拡がるのを防止する観点から、反応流体の流動方向と平行な細管流路を有することが好ましい。
【0023】
多管式熱交換器タイプの塔型反応器を用いる場合、チューブ側の内部にハニカム状触媒を装填し、ハニカム状触媒を装填していないシェル側に熱媒体を流し、反応部分の温度を制御することができる。
また、図1に示すように、塔型或いは多管式熱交換器型の反応器1と、緩衝槽3を組み合わせ、循環ポンプ35を介して液体原料を循環させながら、ガスを連続的に反応器1に導入し、反応済みのガスを緩衝槽3で分離することで、連続式で反応を進行させることができる。
【0024】
〔空間部と整流部〕
塔型反応器1における空間部13a〜13eは、最下段のハニカム状触媒層12aの下の空間、ハニカム状触媒層12a〜12eの上下に隣接するハニカム状触媒層同士の間に形成されている。これらの空間部に整流部を設置することにより、上下に隣接するハニカム状触媒層への液体と気体の逆混合の一部又は全部を抑制することができ、通常、完全混合流れとなる塔型反応器内の流れを押出し流れに近づけることができる。したがって、ハニカム状触媒層と空間部及び整流部を構成単位として、これを塔型反応器内に複数設置することが好ましい。
【0025】
整流部14a〜14eは、空間部13a〜13eに設置され、上下に隣接するハニカム状触媒層のいずれにも接触していない。
整流部14a〜14eとハニカム状触媒層12a〜12eとの間隔は、上下に隣接するハニカム状触媒層への液体と気体の逆混合を防止する観点から、0.5mm以上が好ましく、1mm以上がより好ましく、2mm以上が更に好ましい。また、反応器内における触媒層の充填効率を高める観点から、999mm以下が好ましく、499mm以下がより好ましく、199mm以下が更に好ましい。
整流部14a〜14eとハニカム状触媒層12a〜12eとの間隔は、上下に隣接するハニカム状触媒層への液体と気体の逆混合を防止する観点から、整流部の上段のハニカム状触媒層との間隔と整流部の下段のハニカム状触媒層との間隔は1/1000〜1000/1であることが好ましく、1/100〜100/1であることがより好ましく、1/10〜10/1であることが更に好ましく、等しいことが更に好ましい。
また、最下段のハニカム状触媒層12aの下の空間部に整流部14aを設置することで、最下段のハニカム状触媒層12aから下の空間部13aへの逆混合を抑制することができるので更に好ましい。一方、最上段のハニカム状触媒層12eの上の空間に対しても、整流部を設置することで、最上段のハニカム状触媒層12eの上の空間からの逆混合を抑制することができるのでより好ましい。
【0026】
空間部13a〜13eの長さは、上下に隣接するハニカム状触媒層への液体と気体の逆混合を防止する観点から、5mm以上が好ましく、10mm以上がより好ましく、20mm以上が更に好ましい。また反応塔内における触媒層の充填効率を高める観点から、1000mm以下が好ましく、500mm以下がより好ましく、200mm以下が更に好ましい。上限は、塔型反応器1の大きさとハニカム触媒層の充填段数を考慮して決定される。なお、空間部13a〜13eの間隔は、整流部を設置した後に形成される空間部(整流部を除いた空間部)の間隔である。
また、触媒層を3段以上設置した場合、複数の空間部が形成されるが、それぞれの空間部の長さは同じであっても異なっていてもよい。
【0027】
空間部13a〜13eに設置された整流部14a〜14eは、下流側(塔型反応器1の頂部側)に設置したハニカム状触媒層に接する空間部内の気体及び液体の一部又は全部が、上流側(塔型反応器1の底部側)に設置したハニカム状触媒層に接する空間部内に流入するのを防ぐ効果(逆流防止効果)を得るためのものである。
【0028】
整流部は、気体及び液体の流通に対する圧力損失が小さいものであれば特に限定されないが、貫通した複数の流路(穴)を有し、気体及び液体共に流通可能であり、近接する流路間での水平方向の移動を抑制できるものが好ましい。貫通した複数の流路(穴)を有する整流部は、気泡が整流部の流路を下から上に通過する間、気泡がその流路に栓をするような働きをすることで、液体が整流部の流路を上から下に逆流することを抑制するように作用するものである。より具体的には多孔板、薄板によって鉛直方向の流路が三角形、四角形、六角形状等に仕切られたハニカム構造体、2枚のメッシュ間に球状、円柱状等の規則充填物が充填されたもの等が好ましい。加工が容易であり、均一な円形の流路を持つ多孔板が特に好ましい。
一つの空間部に2箇所以上の整流部を設置してもよく、複数の整流部は貫通した複数の流路を有していれば整流部間は接触していてもよいし、離れていてもよい。また、同じ種類の整流部を用いてもよいし、異なる種類の整流部を用いてもよい。
整流部の穴径に関しては、塔型反応器1内の気泡の最大径と同程度以下であることが望ましく、8mm以下が好ましく、7mm以下がより好ましく、6mm以下が更に好ましい。また、反応終了時に塔型反応器1内に残存する反応物量を低減する観点から、0.5mm以上が好ましく、2mm以上がより好ましく、3mm以上が更に好ましい。
【0029】
整流部は、多孔板やハニカム厚板等を用いることができる。また、その開口率は、整流部の種類に応じて1〜100%近い範囲のものを選択することが出来る。
【0030】
整流部として多孔板を用いる場合、多孔板の面積に対する開口率は多孔板の穴径と関係するため、逆混合抑制効果を得る観点から、開口率は70%以下が好ましく、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは50%以下であり、特に好ましくは45%以下である。また、多孔板を気液が通過するときの圧力損失を小さく抑えるという観点と、塔型接触装置1内で流れの停滞部が生じないようにするという観点から、多孔板の面積に対する開口率は1%以上が好ましく、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上であり、特に好ましくは31%以上である。
多孔板の面積に対する開口率は具体的には1〜70%が好ましく、10〜60%がより好ましく、20〜50%が更に好ましく、31〜45%が特に好ましい。
【0031】
整流部として多孔板を用いる場合、多孔板の厚みは、気体及び液体の流動に対する変形を抑制する観点から0.5mm以上が好ましく、より好ましくは0.8mm以上、さらに好ましくは1mm以上であり、圧力損失の抑制、加工性や質量の増加を抑制する観点から、20mm以下が好ましく、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは5mm以下である。
【0032】
整流部としてハニカム厚板を用いる場合、開口率は100%近いものもある。この場合、液体の逆混合を抑制するために重要な因子は整流部の穴径であり、開口率は大きくてもよい。ハニカム厚板には様々な製法、様々な製品があり、穴とピッチのサイズの選択の自由度が大きいため、開口率の小さいものを用いることもできるが、その場合、ハニカム厚板を気液が通過するときの圧力損失を小さく抑えるという観点と、塔型接触装置10内で流れの停滞部が生じないようにするという観点から、ハニカム厚板の開口率は1%以上が好ましく、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上であり、特に好ましくは31%以上である。
整流部としてハニカム厚板を用いる場合には、ハニカム厚板の板厚で強度が維持される。ハニカム厚板の厚さは、強度の観点から5 mm以上が好ましく、より好ましくは10 mm以上、さらに好ましくは20mm以上であり、塔型反応器1内の空間を有効に活用するという観点から、1つのハニカム構造体高さの25%以下の厚さであることが好ましい。
【0033】
<原料の供給手段>
図1及び図2に示す塔型反応器1内に液状のアルコールとガス状の1級アミン又は2級アミンを供給するとき、図1に示すようにそれらを別々に導入することもできるが、図2に示すようにそれらを同一空間に導入し、隘路を通過させた後、塔型反応器1内に供給することが好ましい。
【0034】
図1の塔型反応器1は、塔底部の内側に設けられたガス供給装置2からガス状原料を導入し、別途ライン25から液状原料を導入する。
図2の塔型反応器は、隘路を通過させて供給するものであり、塔型反応器1の底部自体に隘路を形成する方法、液状のアルコールの供給ライン23と、ガス状の1級アミン又は2級アミンの供給ライン25を1つのラインにして、そのライン内に隘路を形成する方法を適用することができる。
図2の実施形態では、塔型反応器1の塔底部の外側に付設した供給ノズル2A(図4参照)を使用して供給する方法について説明する。なお、図2では、供給ノズル2Aは塔型反応器1の外側に設置されているが、内側に設置されていてもよい。
図1の塔型反応器1においても、塔底部の内側に設けられたガス供給装置2に代えて、図2の塔型反応器1の供給ノズル2Aを設置することができる。このとき供給ノズル2Aは、図1の塔型反応器1の塔底部の内側及び外側のいずれかに設置することができる。
【0035】
図4(a)で示す供給ノズル2Aを使用したとき、ライン23から供給されたガス状の1級アミン又は2級アミンと、ライン25から供給された液状のアルコールは、供給ノズル2A内の同一空間2aに導入されて混ざり合って混合相となっている。
その後、隘路2bを通過して、隘路2bと比べるとより大きな内径を有する塔型容器1内に拡がった状態で噴射されることで、混合相流中の気泡が分散され、大きい気泡と微細気泡の混合状態が形成される。
【0036】
図4(b)で示す供給ノズル2Aを使用したとき、ライン23から供給されたガス状の1級アミン又は2級アミンと、ライン25から供給された液状のアルコールは、供給ノズル2内の同一空間2aに導入されて混ざり合って混合相となっている。
その後、隘路2bを通過して、隘路2bと比べるとより大きな内径を有する塔型容器1内に拡がった状態で噴射される。
このとき、隘路2bの出口に正対し、かつ間隔をおいて配置された衝突板(噴流防止板)2dを設けておくと、衝突板2dに混合相が衝突することで、図4(a)の供給ノズル2Aと比べると、混合相流中の気泡分散作用がより高められ、大きい気泡と微細気泡の混合状態が形成される。
【0037】
衝突板2dの直径は、隘路2bの直径(d1)と同等以上の大きさにすることが好ましく、ノズル出口からの距離が大きくなるほど、衝突板2dの直径も大きくなるように調整することが好ましい。衝突板2dの直径は、塔型反応器1の内径と等しくすることもできる。その場合、ガス・液の流通をよくするための貫通孔を有する多孔板等を用いることができる。例えば、衝突板2dとノズル出口との距離(H)と隘路2bの直径(d1)の比率(H/d1)は100以下が好ましく、より好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下、特に好ましくは5以下である。
なお、衝突板2dは、例えば、カップ状のもので、底面が衝突板2dとなり、周面は混合相流が通過可能な構造になったものを使用することができる。
【0038】
図4(c)で示す供給ノズル2Aを使用したとき、ライン23から供給されたガス状の1級アミン又は2級アミンと、ライン25から供給された液状のアルコールは、供給ノズル2A内の同一空間(第1空間2a)に導入されて混ざり合って混合相となっている。
その後、隘路2bを通過して、隘路2bと比べるとより大きな内径を有する第2空間2cに至り、さらに第2空間2cと比べるとより大きな内径を有する塔型容器1内に拡がった状態で噴射されることで、図4(a)の供給ノズル2Aと比べると、混合相流中の気泡分散作用がより高められ、大きい気泡と微細気泡の混合状態が形成される。
第1空間2aから隘路2bまではテーパー状の内壁面で、少しずつ内径が小さくなるようにされており、隘路2bから第2空間2cを通ったノズル出口までは、テーパー状の内壁面で、少しずつ内径が大きくなるようにされている(ベンチュリー形状)。
図4(c)では第1空間2aと第2空間2cの内径は同一であるが、いずれか一方の内径を大きくすることもできる。
【0039】
図4(a)〜(c)で示された供給ノズル2Aにおいては、混合相流中の気泡分散作用を高める観点から、隘路2bの内径(d1)と、隘路2bに至るアルコールとガス状の1級アミン又は2級アミンの混合相の供給路における最大径(d2)の比率(d1/d2)が0.01〜0.9の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.3、さらに好ましくは0.03〜0.3の範囲である。
最大径(d2)は、図4(a)、(b)では空間2aの内径であり、図4(c)では第1空間2aの最大径である。
【0040】
供給ノズル2Aからガス状及び液状原料が供給される塔型反応器1の内径は、図4(a)〜(c)で示された供給ノズル2Aの隘路2bの内径(d1)の3〜500倍であることが好ましく、70〜400倍がより好ましく、130〜300が更に好ましい。
【0041】
図4(a)、(b)で示す供給ノズル2Aでは、長さLと内径d2の比率(L/d2)は1〜5が好ましく、より好ましくは1.2〜2である。適度な圧力損失を付与することで、ガス分散効果を発揮し易くなりる観点から好ましくは1以上であり、より好ましくは1.2以上である。圧力損失が過大にならない観点から好ましくは5以下であり、より好ましくは2以下である。
図4(c)で示す供給ノズル2Aでは、上記したベンチュリー形状であることから、前記比率(L/d2)は1未満でもよい。
【0042】
上記したとおり、液状とガス状の反応原料の供給経路を縮小した後に拡大させることにより、液体と気体の混合相流中の気泡を分散させ、大きい気泡と微細気泡の混合状態を形成させることができる。このため、ガスの液中への溶解が促進されると共に、混合相流がハニカム状触媒層を通過するとき、触媒セル全体を有効に活用することができるようになる。
【0043】
<塔型反応器を用いた3級アミンの製造方法>
本発明の3級アミンの製造方法は、上記した図1、図2に示すような塔型反応器を使用する製造方法であるが、3級アミンの製造工程の一部のみに塔型反応器を使用する製造方法でもよいし、3級アミンの製造工程の全部に塔型反応器を使用する製造方法でもよい。
【0044】
図1及び図2で示す塔型反応器1を使用して3級アミンを製造するとき、3級アミンの生成反応は、
(i)アルコールの脱水素反応によるアルデヒドの生成反応、
(ii)アルデヒドと原料アミンの付加反応及び脱水反応、
(iii)付加反応及び脱水反応により生じたイミン、及び/又はエナミンが水素還元され3級アミンが生成する反応、
が順に進行することにより行われる。また、反応(ii)は反応(i)又は反応(iii)で用いた触媒を用いなくても進行する.
上記の反応(i)〜(iii)は、それぞれの反応を同一の反応器で行うこともできるし、別々の反応器で独立させて行うこともできる。
また、反応(i)終了後、別の反応器で反応(ii)を反応(i)及び(iii)から独立させて行い、その後、反応(ii)での生成物を、反応(i)を行っている反応器中の反応物に加え、反応(i)と同時に反応(iii)を行うことができる。
反応(ii)を図1、図2に示す塔型反応器1とは別の反応器で行う場合は、1級及び2級アミンは塔型反応器1に供給しなくてもよい。
さらに本発明におけるアルコールと1級又は2級アミンとの反応条件は、反応物、生成物及び触媒の種類によっても異なる。
【0045】
図1及び図2により、本発明の3級アミンの製造方法を説明する。本発明の塔型反応器1を用いた3級アミンの製造方法は、塔型反応器1内部に装填されたハニカム状触媒層12a〜12e全体に十分に液供給を行って、液に濡れない部分いわゆるドライスポットの発生を抑制できるアップフロー方式で行う。
【0046】
塔型反応器への1級又は2級アミンの供給方法としては、例えば、塔型反応器にガス状の1級又は2級アミンを供給する方法と、液状の原料に1級又は2級アミンの一部又は全部を溶解させた後に供給する方法が挙げられる。
1級又は2級アミンがガス状の場合は、予め水素、窒素及び/又は希ガス等と混合して供給する方法と、水素、窒素及び/又は希ガス等とは別々に供給する方法が挙げられる。その中でも1級又は2級アミンは、水素、窒素及び/又は希ガス等と混合して共に供給する事が触媒の活性を保つ上で好ましい。
【0047】
塔型反応器への気体の供給方法としては、例えば、液中に単管から気体を噴射する方法や、多管ノズルあるいは直管状もしくは曲管状の多孔ノズルから気体を噴射する方法、液体と気体を静止型混合器に通す方法、塔型反応器の塔下部に設置した流路を狭めたノズルに、液体と気体を同時に供給する方法(図2の供給ノズル2Aを備えた塔型反応器を使用する方法)等が挙げられる。中でも流路を狭めたノズルに、液体と気体を同時に供給する方法は、比較的気体流量が多い条件でも気体-液体間の物質移動性が高く、相乗効果が期待できる観点から好ましい。
液状の原料に1級又は2級アミンの一部又は全部を溶解させた後、塔型反応器に供給する方法としては、例えば液状原料を有する攪拌槽内に、ガス状又は液状の1級又は2級アミンを供給して溶解させる気泡攪拌法や、気泡塔、段塔、充填塔、濡れ壁、スプレー塔等の一般的な溶解方法を利用する方法が挙げられる。
【0048】
反応開始時には、緩衝槽3内には原料アルコールが入っている。緩衝槽3内の原料アルコールは、外部循環用ポンプ35を作動させ、開閉弁(電磁弁等)33を開いた状態で、ライン25を通して塔型反応器1の塔底部から供給される。
原料タンク5内の1級及び/又は2級アミンは、開閉弁(電磁弁等)31を開いた状態でライン21から供給し、同時に原料タンク6内の水素(及び窒素又は、希ガス)は、開閉弁(電磁弁等)32を開いた状態でライン22から供給する。1級及び/又は2級アミンと水素ガスはライン23にて一つになってガス状となり、塔型反応器1に供給される。
図1の塔型反応器1を使用した場合には、塔底部のガス供給器2に供給される。
図2の供給ノズル2Aを備えた塔型反応器1を使用した場合、或いは図1の塔型反応器1に供給ノズル2Aを設置した塔型反応器を使用用した場合は、ガス状の1級アミン又は2級アミンと液状のアルコールは、供給ノズル2A内の同一空間に導入されて混ざり合って混合相となった後、隘路を通過して塔型反応器内部に噴射される。
【0049】
本発明の製造方法において、図4(a)〜(c)で示す供給ノズル2Aを用いて気体及び液体原料を供給するときの隘路2bでのガス空塔速度は、高いほど気泡中の微小気泡の割合が増大するため、標準状態体積換算で0.01Nm/s以上が好ましく、2Nm/s以上がより好ましく、3Nm/s以上が更に好ましい。
また、塔型反応器内部のハニカム状触媒へのガス導入を安定化させるため、250Nm/s以下が好ましく、より好ましくは100Nm/s以下、更に好ましくは50Nm/s以下である。
【0050】
本発明の製造方法においては、図4(a)〜(c)で示す供給ノズル2Aを備えた塔型反応器1に供給するときの液状のアルコールとガス状の1級アミン又は2級アミンの混合相の供給圧力は、十分な気泡の分散効果を得る観点から、ゲージ圧で0.005MPa以上が好ましく、より好ましくは0.01MPa以上、さらに好ましくは0.02MPa以上である。また、ガス状原料の凝縮を抑制する観点から、0.9MPa以下が好ましく、より好ましくは0.2MPa以下、さらに好ましくは0.1MPa以下である。
【0051】
原料のアルコールとしては直鎖状又は分岐鎖状の、炭素数6〜36の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールが好ましく、炭素数8〜22の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールがより好ましく、炭素数10〜18の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールが更に好ましく、炭素数12〜14の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールが特に好ましく、例えばヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オレイルアルコール等や、これらの混合アルコール等、またチーグラー法によって得られるチーグラーアルコールや、オキソ法によって得られるオキソアルコール及びゲルベアルコール等が挙げられる。
【0052】
原料の1級又は2級アミンとしては、脂肪族1級又は2級アミンが好ましく、炭素数1〜24の脂肪族1級又は2級アミンがより好ましく、炭素数1〜12の脂肪族アミンがより好ましく、炭素数1〜4の脂肪族アミンが更に好ましく、炭素数1〜2の脂肪族アミンが更に好ましい。脂肪族1級又は2級アミンとしては、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、ドデシルアミン、ジドデシルアミン等が挙げられる。
【0053】
塔型反応器1の塔底部から供給された1級及び/又は2級アミンと水素ガス、アルコールは、順にハニカム状触媒層12a〜12eを経由する過程で反応される(連続相は液体である)。
この過程において、空間部13a〜13eに設置された整流部14a〜14eの作用により、液体及び液体が逆流することが防止されるため、反応効率が高められる。なお、塔型反応器1内での反応に際しては、ジャケットや内部に設置した熱交換用配管により、温度コントロールすることが好ましい。
【0054】
塔型反応器1内にて反応した反応生成物や未反応のアルコールは、ライン24からアルコールが入っている緩衝槽3に送られる。この段階では、緩衝槽3内は、アルコール、反応物の混合物が存在することになる。
【0055】
その後は、同じ手順で原料タンク5の1級及び/又は2級アミン、原料タンク6の水素ガス(及び窒素又は、希ガス)及び緩衝槽3内の内容物(混合物)を塔型反応器1の底部に供給して反応を行い、これを循環させて反応を継続させる。
なお、1級及び/又は2級アミンを塔型反応器1ではなく、緩衝槽3に供給することで塔型反応器1では反応(i)及び(iii)を進行させ、緩衝槽3にて反応(ii)を独立して進行させることもできる。
【0056】
緩衝槽3内の未反応のガス状1級又は2級アミン及び水分は、導管26aを通し、開閉弁(電磁弁等)34を開いた状態でライン27から連続的に排出する。
導管26aから排出される成分中には、上記の他にアルコール及び/又は生成した3級アミンの蒸気又はミスト状成分等が含まれることがあるため、それらについては充填塔4内で凝縮液化させ、ライン26bから緩衝槽3に戻す。
【0057】
本発明の製造方法においては、ガス状反応物の標準状態体積換算での供給量G(Nm3/Hr)は、塔型反応器1に充填された触媒の活性により異なり、触媒の活性に応じてガス供給量を制御することが好ましい。
またガス供給量Gと液体状のアルコール又はアルコールと反応物の混合物の供給量L(m3/Hr)をとの比、G/Lは、ガス状反応物の滞留時間の観点から0.1以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、1以上が特に好ましい。また未反応で流出するガスを低減する観点から50以下が好ましく、30以下がより好ましく、20以下が特に好ましい。
【0058】
本発明の製造方法においては、触媒反応場の圧力は絶対圧で0.013〜0.3MPaであることが好ましく、更に0.04〜0.25MPaが好ましく、0.1〜0.2MPaが最も好ましい。反応場の圧力を低く維持することで、反応の過程で副生する水分を反応系外に排出することが促進され、反応の進行を促進し、触媒の活性を保つことができる。常圧以下の反応では、真空設備等の設備負荷が大きくなる。
反応温度は触媒の種類により異なるが、150〜300℃の温度で反応させることが好ましく、更に160〜250℃の温度が好ましい。反応温度を適正範囲で行うことで、反応速度が制御でき、副反応を抑制することができる。
【0059】
本発明の製造方法においては、塔型反応器1の出入口における圧力損失の差圧がゲージ圧で0.2MPa以下であることが好ましい。圧力損失が前記範囲内であると、副反応が抑制され、歩留まりが良くなることや、ガス状の1級又は2級アミンが液化し難くなるため、加熱管理が容易になる。
本発明の製造方法においては、効率良く3級アミンを製造する観点より、反応液中の未反応のアルコールが0〜5質量%になるまで反応を行うことが好ましく、0.1〜3質量%になるまで反応を行うことがより好ましく、0.5〜2質量%になるまで反応を行うことが更に好ましい。
【0060】
本発明の製造方法によれば、ガス状の1級又は2級アミンを液状のアルコールに対して効率よく反応させることができ、目的とする3級アミンを高効率で製造することができる。
本発明の製造方法により、上記した原料となるアルコールと1級又は2級アミンから得られる3級アミンは、1級もしくは2級アミンの窒素原子に結合する水素原子がアルコール由来のアルキル及び/又はアルケニル基で置換されたものである。例えばドデシルアルコールとジメチルアミンから得られる、対応する3級アミンは、N−ドデシル−N,N−ジメチルアミンであり、ジメチルアミンが不均化して生じたメチルアミン及びアンモニアが反応して副生する3級アミンのN,N−ジドデシル−N−メチルアミン及びN,N,N−トリドデシルアミンと区別される。
【実施例】
【0061】
以下の例において、%及び部はそれぞれ質量%、質量部を示す。
製造例1(フィルム状触媒の製造)
フィルム状の支持体に対して、フェノール樹脂をバインダとして粉末状触媒を固定化したフィルム状触媒を調製した。
容量1Lのフラスコに合成ゼオライトを仕込み、次いで硝酸銅と硝酸ニッケル及び塩化ルテニウムを各金属原子のモル比でCu:Ni:Ru=4:1:0.01となるように水に溶かしたものを入れ、撹拌しながら昇温した。
90℃まで昇温した後、10%炭酸ナトリウム水溶液を徐々に滴下して、pH9〜10にコントロールした。
1時間の熟成後、沈殿物を濾過・水洗後80℃で10時間乾燥し、600℃で3時間焼成して粉末状触媒を得た。得られた粉末状触媒における金属酸化物の割合は50%、合成ゼオライトの割合は50%であった。
【0062】
上記粉末状触媒100部に、バインダとしてフェノール樹脂(住友ベークライト製PR−9480、不揮発分56%)を加え、フェノール樹脂の不揮発分が25部になるようにした。さらに溶剤として4−メチル−2−ペンタノンを加え、固形分(粉末状触媒及びフェノール樹脂の不揮発分)の割合が57%となるようにした。
これをペイントシェーカー(東洋精機製作所、250mLのポリ容器に触媒含有塗料164.5gと1.0mm径のガラスビーズ102gを充填)にて30分間混合分散処理して塗料化した。
銅箔(厚さ40μm、6.5cm×410cm×1枚)を支持体とし、上記塗料をバーコータにより両面に塗工後、130℃で1分間乾燥した。
乾燥したもののうちの半分を波板状に折り曲げ加工し、残りを平板状のままで、150℃で90分間硬化処理して、フィルム状触媒を上記銅箔の両面に固定化した。得られたフィルム状触媒の銅箔を除いた片面当りの固形分重量は1m2当り18.75gであった。
【0063】
製造例2(ハニカム状触媒の製造)
製造例1のフィルム状触媒を用いてハニカム状触媒を製造した。
底部にステンレス(SUS304)製の目開き5mmのメッシュが固定されたSUS304製の外径27mm、内径24.2mm、高さ80mmの円筒管をハニカム状触媒の容器として用意した。
この容器内に、製造例1で得られた硬化処理済みの平板及び波板状の触媒を交互に重ねた状態で円筒状に丸めてハニカム状となるように装填した。
この容器を、SUS304製の内径28.0mmの円筒管(塔状容器11)内に、鉛直方向に5段重ねて充填して塔型反応器1とした。
ラウリルアルコール(花王(株)製カルコール2098)820gを緩衝槽3に仕込んだ。
塔型反応器1の塔底部に接続した内径6mmの配管(ライン25)より、ラウリルアルコールを塔型反応器1に9L/Hrで導入し、緩衝槽3と塔型反応器1との間で液循環を行った。
ガス供給器2として、孔径0.025mmの金属フィルターを用い、水素ガスを標準状態体積換算で50L/Hrの流量で供給しながら、塔型反応器1内部の温度を185℃まで昇温した後、1時間保持して触媒の還元を行い、ハニカム状触媒を得た。その後、冷却し、ラウリルアルコールを抜出した。
【0064】
実施例1(N−ドデシル−N,N−ジメチルアミンの製造)
図1の製造フローにより、3級アミンを製造した。
製造例2でハニカム状触媒を製造した塔型反応器1に対して、5段の最下部(塔状容器11のハニカム状触媒層12a)の下と、ハニカム状触媒層12a〜12eの間に、外径27mm、内径24.2mm、長さ30mmの円筒を挿入して空間部13a〜13eを設けた。
さらに、空間部13a〜13eの高さ方向の中間部に、整流部14a〜14eとして、空間部13a〜13eの上面から多孔板の上面の長さが14.5mmとなるように孔径3mm、厚み1mm、開孔率33%の多孔板を固定して、3級アミン製造用の塔型反応器1を得た。
【0065】
ラウリルアルコール820gを緩衝槽3に仕込み、液流量9L/Hrで循環させた。ガス供給器2として、孔径0.025mmの金属フィルターを用いた。水素を標準状態体積換算で25L/Hrの流量で供給しながら昇温し、ジメチルアミンの供給によって反応を開始し、循環反応を行った。
反応温度は220℃まで昇温し、ジメチルアミン供給量は反応の進行に合わせて調整した。緩衝槽3より、反応液を経時的にサンプリングしてガスクロマトグラフにて分析を行い、面積百分率法にて組成を定量した。
その結果、反応液中の未反応のラウリルアルコールが1.0%になるまでに要した時間はジメチルアミン供給開始から3.8時間であり、ジメチルアミン供給積算量は、原料ラウリルアルコール1モルに対して1.21モル倍であった。また、塔型反応器1の出入口での差圧はゲージ圧で0.02MPaであった。
【0066】
実施例2
実施例1で用いた多孔板(整流部14a〜14e)を孔径2mm、厚み1mm、開孔率40%とした以外は、同様の操作により反応を行った。
その結果、反応液中の未反応のラウリルアルコールが1.0%になるまでに要した時間はジメチルアミン供給開始から4時間であり、ジメチルアミン供給積算量は、原料ラウリルアルコール1モルに対して1.22モル倍であった。また、塔型反応器1の出入口での差圧はゲージ圧で0.02MPaであった。
【0067】
実施例3
実施例1で用いたガス供給器2に換えて、塔型反応器1の塔下部に設置した流路を狭めたノズル(図4(a)で示すノズル2A。内径(d1)=1.6mm,d2=4.0mm,長さ(L)5mmの円柱形状)に、液体と気体を同時に供給する方法により、気体及び液体原料を反応塔1に供給した以外は、同様の操作により反応を行った。
その結果、反応液中の未反応のラウリルアルコールが1.0%になるまでに要した時間はジメチルアミン供給開始から4.1時間であり、ジメチルアミン供給積算量は、原料ラウリルアルコール1モルに対して1.16モル倍であった。また、塔型反応器1の出入口での差圧はゲージ圧で0.02MPaであった。
【0068】
実施例4
製造例2で用いたハニカム状触媒の容器内内に製造例1で得られた硬化処理済みの平板及び波板状の触媒を交互に重ねた状態で円筒状に丸めてハニカム状となるように装填した。
この容器を、SUS304製の内径28.0mmの円筒管(塔状容器11)内に、鉛直方向に7段重ねて充填した。なお、説明のため、図1に準じて、7段のハニカム状触媒充填容器を下から順に12a〜12gとし、同様に空間部を下から順に13a〜13gとし、整流部を14a〜14gとする。
なお、空間部13a〜13gの高さ方向の中間部には、整流部14a〜14gとして、円筒管(塔状容器11)の上面から多孔板の上面の長さが14.5mmとなるように、口径3mm、厚み1mm、開口率33%の多孔板を各円筒の内部に固定して、塔型反応器1を得た。
上記反応器の塔下部には、実施例3で用いたノズル2Aを配置した。
そして、ノズル2Aに、209℃のラウリルアルコールを1.3L/Hr、水素を標準状態体積換算で18L/Hrの流量で供給し、反応を行った。
反応中に塔型反応器出口でサンプリングしてガスクロマトグラフにて分析を行い、面積百分率法にて組成を定量した。
その結果、塔型反応器出口でのラウリルアルコールのアルデヒドへの転化率は4.6%であった。また、塔型反応器の出入口での差圧はゲージ圧で0.02MPaであった。
図1又は2の反応器1を上記反応器に換えて、ジメチルアミンの供給先を反応器1から緩衝槽3に換えて反応を行うことにより、緩衝槽3では反応(ii)が進行し、反応器1では反応(i)及び反応(iii)が進行し、N−ドデシルーN、N−ジメチルアミンを製造することができる。
【0069】
比較例1
塔型反応器1において、空間部13a〜13eを設けず、整流部(多孔板)14a〜14eを挿入していないものを用いた以外は、実施例1と同様の操作によって反応を行った。
その結果、反応液中の未反応のラウリルアルコールが1.0%になるまでに要した時間は反応開始から4時間であり、ジメチルアミン供給積算量は、原料ラウリルアルコール1モルに対して1.43モル倍であった。また、塔型反応器1の出入口での差圧はゲージ圧で0.02MPaであった。
【0070】
比較例2
塔型反応器1において、空間部13a〜13eを設けたが、空間部13a〜13eには整流部(多孔板)14a〜14eを挿入していないものを用いた以外は、実施例1と同様の操作によって反応を行った。
その結果、反応液中の未反応のラウリルアルコールが1.0%になるまでに要した時間は反応開始から5.0時間であり、ジメチルアミン供給積算量は、原料ラウリルアルコール1モルに対して1.28モル倍であった。また、塔型反応器1の出入口での差圧はゲージ圧で0.02MPaであった。
【0071】
比較例3
実施例4の塔型反応器において、円筒を充填していないものを用いた以外は、実施例4と同様の操作によって脱水素反応を行った。
その結果、塔型反応器1出口でのラルリルアルコールの転化率は3.7%であった。
【0072】
【表1】

【符号の説明】
【0073】
1:塔型反応器
2:ガス供給器
2A:供給ノズル
3:緩衝槽
4:充填塔
5:1級アミン、2級アミンの貯留タンク
6:水素タンク
11:塔状容器
12a〜12e:ハニカム状触媒層
13a〜13e:空間部
14a〜14e:整流部
31、32、33、34:開閉弁
35:循環用ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒層が充填された塔型反応器の底部から液状及びガス状の原料を供給して反応させ、塔頂部より排出させる3級アミンの製造方法であって、
前記塔型反応器として、触媒層として2段以上のハニカム状触媒層を有しており、前記2段以上のハニカム状触媒層間に空間部を有しており、該空間部において、気体及び液体の一部又は全部の逆流を防止する手段となる整流部がハニカム状触媒層に接触しない状態で設置されているものを使用する3級アミンの製造方法。
【請求項2】
反応原料が液状のアルコールとガス状の1級アミンまたは2級アミンである請求項1に記載の3級アミン製造方法。
【請求項3】
原料のアルコールが直鎖状又は分岐鎖状の、炭素数6〜36の飽和または不飽和の脂肪族アルコールである請求項1又は2記載の3級アミンの製造方法。
【請求項4】
原料の1級アミン又は2級アミンが脂肪族1級又は2級アミンである請求項1〜3のいずれか1項記載の3級アミンの製造方法。
【請求項5】
前記塔型反応器の空間部の長さが5〜1000mmである請求項1〜4のいずれか1項記載の3級アミンの製造方法。
【請求項6】
前記塔型反応器のハニカム状触媒層が3段以上充填されている請求項1〜5のいずれか1項記載の3級アミンの製造方法。
【請求項7】
前記塔型反応器の整流部が、厚み0.5〜20mm、孔径0.5〜8mmで、開口率が1〜70%の多孔板である請求項1〜6のいずれか1項記載の3級アミンの製造方法。
【請求項8】
前記塔型反応器として、さらに最下段のハニカム状触媒層の下に、気体及び液体の一部又は全部の逆流を防止する手段となる整流部が前記ハニカム状触媒層に接触しない状態で設置されているものを使用する請求項1〜7のいずれか1項記載の3級アミンの製造方法。
【請求項9】
前記塔型反応器のハニカム状触媒層を構成する触媒が、支持体となるフィルム表面にバインダを含む粉末状触媒が固定されたものをハニカム状に成型したものである請求項1〜8のいずれか1項記載の3級アミンの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1記載の3級アミンの製造方法であって、
別途設けた槽内の液状の原料を塔型反応器の塔底部に供給し、さらに別経路からガス状の原料を塔型反応器の塔底部に供給して反応させ、塔頂部より排出させる工程と、塔頂部より排出させた排出物を前記液状の原料が入った槽に導入した後、前記槽内の内容物を前記槽と前記塔型反応器の間で循環させて反応を行う3級アミンの製造方法。
【請求項11】
前記塔型反応器の触媒層が充填された塔型反応器の圧力が0.013〜0.3MPa(絶対圧)であり、150〜300℃の温度により反応を行う請求項1〜10のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項12】
前記塔型反応器の整流部とハニカム状触媒層との間隔が0.5〜999mmである請求項1〜11のいずれか1項記載の3級アミンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−144521(P2012−144521A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−272278(P2011−272278)
【出願日】平成23年12月13日(2011.12.13)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】