説明

3,3−ジフェニルプロピルアミンを得る方法

本発明は、一般式(I)の3,3−ジフェニルプロピルアミン、特にフェソテロジン、並びにそれらの鏡像異性体、溶媒和物及び塩を得る方法であって、一般式(V)(式中、RはC−Cアルキルであり;R及びRは各々独立してH又はC−Cアルキルを表すか、あるいは一緒になって、窒素と結合して3〜7員環を形成しているものである)の化合物におけるエステル基に対する酸基の化学選択的還元を含んでなる、方法に関する。また、本発明は、式(V)の化合物並びにそれらの鏡像異性体、溶媒和物及び塩に関する。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3,3−ジフェニルプロピルアミン、特にフェソテロジン並びにそれらの鏡像異性体、溶媒和物及び塩を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ムスカリン受容体アンタゴニストとして作用し、尿失禁及び他の過活動膀胱の症状の治療に有用である3,3−ジフェニルプロピルアミンが知られている。この化合物には、N,N−ジイソプロピル−3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロピルアミンが含まれ、その(R)鏡像異性体はトルテロジンとして知られている。
【0003】
同様な構造を有する別の化合物として、トルテロジンの主要代謝産物である5−ヒドロキシメチルトルテロジンがある(Nilvebrant等、Pharmacol.Toxicol、1997、81(4)、169−172)(強力なムスカリン受容体アンタゴニスト(WO94/11337))
【化1】

【0004】
WO99/058478は、前記トルテロジンの主要代謝産物のフェノールエステル、とりわけフェソテロジンとして知られているイソ酪酸2−((R)−3−N,N−ジイソプロピルアミノ−1−フェニルプロピル)−4−(ヒドロキシメチル)フェニルエステルの治療上の有用性を記載している。また、前記公報は、それらの塩の形成、特にフマル酸フェソテロジンの形成を記載している。
【化2】

【0005】
フェソテロジンの合成について、WO94/11337に記載されている合成方法には、反応スキーム1に示されるものが含まれている。前記方法は、酸性媒体中でのカップリングによるジヒドロクマリン中間体の形成、低収率で生じる転換;続いてブロモ誘導体を有機マグネシウム化合物と反応させた後、ヒドロキシルへ還元させて生じるヒドロキシメチル基の導入を含んでなる。
【0006】
【化3】

【0007】
前記の方法は、有機マグネシウム化合物及びニッケルラネーなどの取扱が難しい試薬をさらに使用する長時間で高価な合成であるため、欠点が多い。
【0008】
反応スキーム2及び3に示されているようなフェソテロジンを得るための別法が、特許出願WO99/58478に記載されている。前記方法は、フェニルマグネシウム化合物を添加して、アミド基の加水分解後にジフェニルプロパン酸のキラル誘導体を生じさせ、第3級アミドの形成と続いての還元により、3,3−ジフェニルプロピルアミノ誘導体中間体を生じさせる、キラルアミドの形成を含んでなる(反応スキーム2)。
【0009】
【化4】

【0010】
ブロモ誘導体のヒドロキシメチル基への変換は、メタレーション、炭酸化及び続いての得られたカルボキシル基の還元のプロセスによりおこなわれる。最後に、ベンジル基の水素化によるフェノールの脱保護及びそれに続いてのエステル化によりフェソテロジンが生じる(反応スキーム3)。
【0011】
【化5】

【0012】
この合成でも、多数の合成工程が使用され、そして高コストのキラル試薬が使用されるため、この方法を工業的に適用するのは困難である。
【0013】
この同じ特許出願WO99/58478は、フェソテロジンを得るための反応工程数がより少ない合成法についても記載している。この方法は、ヘック(Heck)反応及びマイケル(Michael)型付加におけるフェニルリチウムの添加を含んでなる。しかしながら、2−ブロモアニソール誘導体はそれほど入手し易い原料ではなく、さらに、工業化を困難にするパラジウム(Pd)試薬の使用が必要である。さらに、全プロセスでの収率は低いか、あるいは中程度である(反応スキーム4)。
【0014】
【化6】

【0015】
異なる手法が、欧州特許EP1289929B1に記載されている。この手法では、最初に酸性媒体中でカップリングを実施してラセミ中間体としてジヒドロクマリンを形成する合成経路を用いている。つぎに、前記中間体を立体選択的分解に付して好適な鏡像異性体を得る。続いて、この鏡像異性体を還元的アミノ化によりジイソプロピルアミンを導入して還元することにより、ラクトール誘導体とする。この方法は、所用時間がより短時間であるが、依然多くの合成工程を必要とする。さらに、還元剤としてアルミニウムt−ブトキシドを使用することが、毒性及びプロセス対して付加コストがかかるというかなりの問題となる(反応スキーム5)。
【0016】
【化7】

【0017】
WO2007/138440は、ジヒドロクマリン中間体の形成を経る合成経路を記載しており、それはトルエン及びトルエン/塩酸中での長時間の還流の条件を必要とする反応によるものであり、収率は低い(反応スキーム6)。
【0018】
【化8】

【0019】
したがって、当該技術分野に属する方法に関連する問題を解決し、より費用対効果の優れた試薬や原料を用いて合成プロセスを改善し、さらに下記目的物を得る合成経路の工程数を減少できる、フェソテロジン及び3,3−ジフェニルプロピルアミン類似物を得る別法を提供する必要がある。前記方法が工業的規模で適用でき、良好な収率及び品質で所望の生成物を提供できなければならないことは有益である。
【発明の概要】
【0020】
本発明は、当該技術分野の上記した種々の合成に存在する問題の全て又は一部分を克服する、3,3−ジフェニルプロピルアミン、特にフェソテロジンを得るための別法を提供する課題を解決することを目的としている。
【0021】
本発明の上記目的は、驚くべきことに、一般式(V)(以下で定義する)の化合物におけるエステル基に対する酸基の化学選択的還元により、一般式(I)(以下で定義する)の3,3−ジフェニルプロピルアミン、それらの鏡像異性体、溶媒和物又は塩を効率的に得ることができるという本発明者等の知見により達成される。さらに、前記一般式(V)の化合物は、エステル化反応により好適に得ることができる。
【0022】
同様に、本発明は、市販の又は容易に入手できる製品から、一般式(I)(以下で定義する)の3,3−ジフェニルプロピルアミン、それらの鏡像異性体、溶媒和物又は塩を得るための方法も提供する。この方法は、まず、一般式(II)(以下で定義する)の化合物と一般式(III)(以下で定義する)の化合物との間のフリーデル・クラフツ型芳香族親電子置換反応をおこなって、一般式(IV)(以下で定義する)の化合物を得て;必要に応じて、一般式(IV)の化合物を加水分解して一般式(IV‘)(以下で定義する)の酸を得て;その後、前工程で得た化合物をヒドロキシル基のエステル化反応に付して一般式(V)の化合物を生じさせ;最後に、一般式(V)の化合物を化学選択的還元に付して一般式(I)の化合物(フェソテロジンが含まれる)を得ることを含んでなる。前記転換を反応スキーム7に示す。
【0023】
【化9】

[式中、
はC−Cアルキルであり;
はCN、COOR及びCONR(式中、
はH、Cl及びC−Cアルキルから選択されるものであり;
及びRは各々独立してH及びC−Cアルキルから選択されるものである)から選択されるものであり;
及びRは、各々独立してH及びC−Cアルキルから選択されるものであるか、あるいは、一緒になって、窒素と結合して3〜7員環を形成しているものである]。
【0024】
全体として、本発明により提供されるような方法は、当該技術分野の方法よりも合成工程数をかなり減少でき、さらに、非常に簡単な工程で高収率が達成される利点がある。同様に、この方法は、毒性がなく、安価で有害でない反応剤から出発して、3,3−ジフェニルプロピルアミン、特にフェソテロジンを、良好な収率及び製剤品質で提供できる。これらの全ては、方法の総コストを減少させ、商業的に関心あるものとし、工業レベルでの実施を実現可能にすることに役立つ。
【0025】
したがって、一つの態様によれば、本発明は、一般式(I)の3,3−ジフェニルプロピルアミン、それらの鏡像異性体、溶媒和物又は塩を得る方法であって、一般式(V)の化合物をエステル基に対する酸基の化学選択的還元に付することを含んでなる方法に関する。特に好ましい実施態様によれば、前記方法は、フェソテロジンを得ることを目的とする。
【0026】
別の態様によれば、本発明は、上記したような一般式(II)及び(III)(以下で定義する)の化合物から、一般式(I)(以下で定義する)の3,3−ジフェニルプロピルアミン、それらの鏡像異性体、溶媒和物又は塩を得る方法に関する。
【0027】
さらに別の態様によれば、本発明は、一般式(I)の3,3−ジフェニルプロピルアミンを得るのに有用な一般式(V)の化合物、それらの鏡像異性体、溶媒和物又は塩に関する。好ましい実施態様によれば、本発明は、フェソテロジンを得るのに特に有用な式(Va)(以下で定義する)の化合物、それらの鏡像異性体、溶媒和物又は塩に関する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
定義
本明細書において使用されている用語「C−Cアルキル」は、炭素原子数1〜8の直鎖又は分岐鎖アルカン由来のラジカル、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソプロピル、イソブチル等を指す。
【0029】
また、本発明は、本明細書に記載の化合物の「塩」を提供する。具体的には、この塩は、酸付加塩、塩基付加塩又は金属塩であることができ、当業者に既知の従来の化学プロセスにより、塩基部分又は酸部分を含む親化合物から合成できる。このような塩は、一般的に、例えば、水中、有機溶媒中又は水と有機溶媒との混合物中、前記化合物の遊離酸又は塩基の形態のものを化学量論量の好適な塩基又は酸と反応させることにより調製される。エーテル、酢酸エチル、エタノール、アセトン、イソプロパノール又はアセトニトリルなどの非水性媒体が一般的に好ましい。酸付加塩の具体例としては、例えば、無機酸付加塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩など、有機酸付加塩、例えば、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩などが挙げられる。塩基付加塩の具体例としては、例えば、無機塩基塩、例えば、アンモニウム塩、及び有機塩基塩、例えば、エチレンジアミン、エタノールアミン、N,N−ジアルキレンエタノールアミン、トリエタノールアミン、グルタミン、塩基性アミノ酸塩などが挙げられる。金属塩の具体例としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩及びリチウム塩が挙げられる。
【0030】
塩は、薬学的に許容し得るものであってもなくてもよい。薬学的に許容できない塩は、薬学的に許容し得る塩を得るための手段として使用することができる。
【0031】
同様に、本明細書に記載の化合物は、遊離塩基又は酸の形態、あるいは塩の形態で得ることができる。両方の場合において、結晶形態(両方とも遊離化合物又は溶媒和物(例えば、水和物、アルコール和物等として))で得ることができる。両方の形態とも、本発明の範囲に含まれる。溶媒和法は、一般的に当該技術分野において知られている。
【0032】
化合物は、同じ結合配列により結合した同じ原子により形成されているが互いに交換できない異なる三次元構造を有するとき、例えば、鏡像異性体又はジアステレオ異性体などの「立体異性体」である。
【0033】
上記のスキームから明らかであるように、一般式(IV)、(IV’)、(V)、(Va)及び(I)の化合物は、少なくとも一つの不斉中心を含んでなり、したがって、空間配置(R)又は(S)を有する鏡像異性体を生じることができる。前記化合物の個々の鏡像異性体全て及びそれらの混合物、例えば、それらのラセミ混合物は、本発明の範囲に含まれる。前記個々の鏡像異性体は、従来技術により分離できる。本発明は、前記一般式(IV)、(IV’)(V)、(Va)及び(I)の化合物の鏡像異性体の混合物、例えば、それらのラセミ混合物を用いておこなわれるが、実際には、式(I)の単一の鏡像異性体を得ることが好ましい。したがって、本発明の方法は、好ましくはそれらの混合物から鏡像異性体を分離することを含んでなる。この分離は、本発明の方法の中間体(一般式(IV)、(IV’)(V)又は(Va)の化合物)のいずれかにおいて、あるいは最終生成物(一般式(I)の化合物)について行うことができる。
【0034】
同様に、置換基に応じて、一般式(IV)、(IV’)、(V)、(Va)及び(I)の化合物は、複数の不斉中心を有することができ、したがって、ジアステレオ異性体を生じることができる。前記化合物の個々のジアステレオ異性体全て及びそれらの混合物、例えば、ラセミ混合物、は本発明の範囲に含まれる。個々のジアステレオ異性体は、従来の方法により分離できる。
【0035】
用語「薬学的に許容し得る」は、生理学的に許容され、通常ヒトに投与したときに、アレルギー反応あるいはこれに類似の副作用、例えば、胃の不快感、めまいなどを生じない分子的実体及び組成物に関する。好ましくは、本明細書で使用されている用語「薬学的に許容し得る」は、動物及びより詳細にはヒトに使用することが、国の監督官庁により認可されたか、あるいは米国薬局方や別の一般的に認められている薬局方に挙げられていることを意味する。薬学的に許容し得る塩は、薬学的に許容されない塩から得ることができる。
【0036】
特記のない限りは、本発明の化合物には、一つ以上の同位体標識原子が存在することで異なる化合物も含まれる。具体的には、本明細書で定義されている構造を有する化合物は、少なくとも一つの水素がデューテリウム若しくはトリチウムで置換されているか、又は少なくとも一つの炭素が13C若しくは14Cに富む炭素で置換されているか、又は少なくとも一つの窒素が15Nに富む窒素で置換されていることを除いて、本発明の範囲に入る。
【0037】
一般式(IV)の化合物を得る
一般式(II)の化合物は、出願WO2007/017544の実施例1に従うか、又はChemistry Letters、1995、1121−2;Organic Chemistry and Biochemistry、1995、40(3)、190−5及びTetrahedron、2000、56、4893−4905などの当該技術分野において記載されている方法により容易に得ることができる。
【0038】
一般式(III)の化合物は、公知であり、市販されている。
【0039】
一般式(II)のプロピレンフェニルアミンと一般式(III)の二置換芳香族炭化水素との反応は、式(III)の化合物に存在する芳香環のオルト位のフリーデル・クラフツ型親電子置換反応であり、前記フリーデル・クラフツ型芳香族親電子置換反応の触媒として作用する酸を含んでなる反応媒体中で実施される。実質的にいずれの種類の酸も使用できる。この反応は、一般的に高収率、典型的には70%乃至90%の間で起こり、したがって、前記一般式(II)及び(III)の化合物を用いて実施されるときの本発明により提供される式(I)の化合物を得るための方法を高総収率とするのに役立つ。
【0040】
特定の実施態様によれば、前記酸は無機酸である。使用できる無機酸の具体例としては、臭化水素酸、過塩素酸、硫酸、塩酸、リン酸等及びそれらの混合物が挙げられるが、これらには限定されない。前記無機酸は溶液又は水性懸濁液の形態で使用することができる。
【0041】
別の特定の実施態様によれば、前記酸は、有機酸であり、強有機酸が有利である。使用できる有機酸の具体例としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸などのスルホン酸等及びそれらの混合物が挙げられるが、これらには限定されない。
【0042】
別の特定の実施態様によれば、反応媒体は、一種以上の無機酸及び一種以上の有機酸を含んでなる。より具体的な実施態様によれば、反応媒体は、臭化水素酸、過塩素酸、硫酸、塩酸、リン酸及びそれらの混合物からなる群から選択される無機酸並びに有機酸、例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸等及びそれらの混合物を含んでなる。
【0043】
反応は、好適な反応媒体中で実施される。特定の実施態様によれば、前記反応媒体は、触媒として作用する酸の他に、溶媒、例えば、酢酸又はアルコール、例えば、炭素原子数1〜5のアルコールを含んでなる。
【0044】
特定の実施態様によれば、反応媒体は、溶媒としての酢酸と、触媒としての硫酸とを含んでなる。別の特定の実施態様によれば、反応媒体は、溶媒としてのアルコール、例えば、エタノール又はイソプロパノールと、触媒としての硫酸とを含んでなる。
【0045】
一般式(II)の化合物と一般式(III)の化合物との間の芳香族親電子置換反応は、種々の条件で実施される。
【0046】
したがって、特定の実施態様によれば、一般式(II)及び(III)の間の芳香族親電子置換反応は、一般式(II)の化合物1当量当たり一般式(III)の化合物1〜6当量を用いて、無機酸、例えば、過塩素酸、硫酸、塩酸、リン酸又はそれらの混合物、好ましくは硫酸を含んでなる反応媒体中、溶媒、例えば、アルコール(例えば、エタノール又はイソプロパノール)又は好ましくは酢酸の存在下で、80℃から還流温度の間の温度、好ましくは還流温度で実施される。
【0047】
別の特定の実施態様によれば、一般式(II)及び(III)の化合物の間の親電子芳香族置換反応は、一般式(II)の化合物1当量当たり一般式(III)の化合物1乃至6当量と、有機酸、例えば、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等、好ましくはトリフルオロメタンスルホン酸と、溶媒、例えば、酢酸とを用いて、60℃から還流温度の間の温度、好ましくは60℃から90℃の間で実施される。
【0048】
一般式(IV)の化合物は、キラル炭素を有し、したがって、その単離された(R)若しくは(S)鏡像異性体の形態又は前記鏡像異性体の混合物の形態で存在することができる。本明細書で使用されている用語「「鏡像異性体の混合物」又は「エナンチオメリック混合物」は、ラセミ混合物と、鏡像異性体のいずれか一つに富んだ混合物を含む。得られた一般式(IV)の化合物の(R)及び(S)鏡像異性体は、必要に応じて、鏡像異性体の混合物のための従来の分離法により、例えば、分別結晶、従来のクロマトグラフィー法等により分離できる。特定の実施態様によれば、本発明により提供される方法により得られる一般式(IV)の化合物は、鏡像異性体の混合物の形態、例えば、ラセミ混合物の形態で得ることができる。したがって、必要に応じて、得られる鏡像異性体の混合物は、その対応する鏡像異性体に(光学)分割して所望の鏡像異性体を得ることができる。特定の実施態様によれば、前記鏡像異性体は、鏡像異性体2−[(1R)−3−N,N−ジイソプロピルアミン−1−フェニルプロピル]−4−カルボキシフェノール((R)−IV’a)である。
【化10】

【0049】
鏡像異性体の混合物の分割は、好ましくは一般式(IV)の化合物に存在するアミノ基で塩を形成できる光学活性酸を使用することにより実施できる。前記形成された塩はジアステレオマーであるので、それらの分離を可能にする互いに異なる溶解度を有することができ、沈殿したジアステレオマー塩を濾過し、塩基性又は酸性媒体中でその中和を行うことによるか、又は母液から回収(意図する鏡像異性体で形成された塩が溶液に残存するものである場合)し、続いて中和することにより、所望の鏡像異性体を結晶化し、続いて回収することができる。
【0050】
理論上は、一般式(IV)のアミンでアステレオマー塩を形成できる任意の光学活性酸を使用できる。前記酸の具体例としては、例えば、L−酒石酸、D−10−カンファースルホン酸、D−ジトルイル酒石酸、(R)−(−)−アセトキシルフェニル酢酸等の使用が挙げられるが、これらには限定されない。
【0051】
一定の条件において、一般式(II)及び(III)の化合物間の反応は、R置換基の加水分解で起こる。したがって、式(III)[式中、RはCOOR(但し、RはCl又はC−Cアルキルである)であるか、又はRはCONR(但し、R及びRは各々独立してH又はC−Cアルキルであることができる)である]の化合物から出発して、一般式(IV)[式中、Rはカルボン酸基(COOH)である]の化合物を生じさせることができる。また、一般式(III)(式中、RはCNである)の化合物から出発して、一般式(IV)(式中、Rは、反応条件に応じてカルボン酸基又は第一級アミドである)の生成物を生じさせることもできる。
【0052】
一般式(IV’)の化合物を得る
一般式(IV)[式中、RはCN又はCOOR基(但し、RはCl又はC−Cアルキル)であるか、RはCONR(但し、R及びRは各々独立してH又はC−Cアルキルであることができる)である]の化合物は、最初に前記したエステル化前の工程として、RがCOOH基である化合物に転換される必要がある。これらの化合物は、塩基又は酸加水分解条件で、一般式(IV’)の対応の化合物(一般式(IV)(式中、RはCOOHである)の化合物)に転換できる。
【0053】
塩基加水分解条件の具体例としては、塩基、例えば、NaOH又はKOHを使用し、水性媒体中又は水/溶媒(但し、溶媒は、アルコール、例えば、炭素原子数1〜5のアルコール、例えば、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)等、グリコール(例えば、エチレングリコール等)、エーテル、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等であることができる)混合物を含んでなる媒体中、室温(約18〜22℃)から選択された溶媒の還元温度の間の温度で行うことが挙げられるが、これらには限定されない。
【0054】
酸加水分解条件の具体例としては、酸、例えば、塩酸、硫酸等を使用し、水性媒体中又は水/溶媒混合物(但し、溶媒は、アルコール、例えば、炭素原子数1〜5のアルコール、例えば、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)等、エーテル、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等、及び一般的に水と完全に又は混和性であり、加水分解され易い基を有しない任意の溶媒であることができる)を含んでなる媒体中、室温から選択した溶媒の還元温度の間の温度で行うことが挙げられるが、これらには限定されない。
【0055】
一般式(V)の化合物を得る
一般式(IV)(RはCOOHである)の化合物、すなわち、一般式(IV’)の化合物をエステル化反応に付して一般式(V)の化合物を生じさせることができる。エステル化反応は、酸性媒体中又は塩基性媒体中、当業者に知られている従来の方法により実施できる。
【0056】
前記エステル化反応は、フェノール基と反応してエステルが得られる、カルボン酸、エステル、酸塩化物、酸無水物又は他の活性酸誘導体を用いて実施できる。エステル化反応に有用な試薬には、以下に示すものが挙げられるが、これらには限定されない。
【化11】

(式中、
及びR’は各々独立してC−Cアルキルであり;
XはCl、Br、イミダゾ、チオ誘導体などの離脱基である)。
【0057】
酸性媒体中でのエステル化は、例えば、カルボン酸、触媒、例えば、p−トルエンスルホン酸、及び蒸留による反応中に形成された水を除去できる溶媒、又は溶媒と脱水剤、例えば、硫酸ナトリウム、モレキュラーシーブを使用することを含んでなる。前記反応は、一般的に溶媒の還流温度で行われる。
【0058】
エステル化は、好ましくは塩基性媒体中、有機塩基、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等を用いて、非プロトン性有機溶媒、例えば、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン(DCM)等)、エーテル(例えば、THF等)、芳香族炭化水素(例えば、トルエン等)等中、活性酸、例えば、酸クロリド、無水物等の存在下で行う。
【0059】
好ましい実施態様によれば、エステル化反応は、DCM中、室温で、トリエチルアミン及び酸クロリドを用いて行う。酸クロリドは、1乃至3当量の間の量を用いる。
【0060】
エステル化の別の好ましい態様は、無機塩基、例えば、NaOH、KOH、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを用いて、非プロトン性極性溶媒、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、THF等、及び酸クロリド中、ここでも室温で行われることを含む。
【0061】
反応中、必要とする一般式(V)のエステルと別の誘導体(ヒドロキシル基とのエステルの形成及びカルボキシル基を有する無水物の形成の結果である)の両方を検出できる。水性条件におけるこの後者のエステル−無水物型中間体は、一体的に変化して一般式(V)のエステルとなる。
【0062】
一般式(V)の化合物は、キラル炭素を有し、したがって、その単離された(R)又は(S)鏡像異性体の形態又は前記鏡像異性体の混合物の形態で存在する。得られた式(V)の化合物の(R)及び(S)鏡像異性体は、必要に応じて、鏡像異性体の混合物についての従来の分割方法、例えば、分別結晶化、従来のクロマトグラフィー法などにより分離できる。特定の実施態様によれば、本発明により提供される方法により得られる一般式(V)の化合物は、鏡像異性体の混合物の形態、例えば、ラセミ混合物の形態、又は前記鏡像異性体の一つに富む混合物の形態で得ることができる。したがって、必要に応じて、得られた鏡像異性体の混合物を対応の鏡像異性体に分割して所望の鏡像異性体を得ることができる。特定の実施態様によれば、前記鏡像異性体は、鏡像異性体 イソ酪酸2−[(1R)−3−N,N−ジイソプロピルアミン−1−フェニルプロピル]−4−カルボキシフェノール((R)−Va)である。
【化12】

【0063】
鏡像異性体の混合物の分割は、当業者に知られている従来の方法、好ましくは一般式(V)の化合物に存在するアミノ基で塩を形成することができる光学活性酸を使用することにより行うことができる。このようにして形成された塩はジアステレオマーであるので、それらの分離を可能にする互いに異なる溶解度を有することができ、沈殿したジアステレオマー塩を濾過し、塩基性又は酸性媒体中でその中和を行うことによるか、又は母液から回収(意図する鏡像異性体で形成された塩が溶液に残存するものである場合)し、続いて中和することにより、所望の鏡像異性体を結晶化し、続いて回収することができる。
【0064】
理論上は、一般式(V)のアミンでジアステレオマー塩を形成できる任意の光学活性酸を使用できる。前記酸の具体例としては、例えば、L−酒石酸、D−10−カンファースルホン酸、D−ジトルイル酒石酸、(R)−(−)−アセトキシルフェニル酢酸等の使用が挙げられるが、これらには限定されない。
【0065】
一般式(I)の化合物を得る
一般式(V)の化合物を、一般式(V)の化合物に存在するカルボキシル(−COOH)基を選択的に還元できる(すなわち、選択的に還元するのに効果的である)還元剤を使用することにより一般式(I)の化合物を生じさせる、化学選択的還元に付することができる。
【0066】
一般式(V)の化合物は、還元剤により還元され易いカルボキシル(−COOH)基及びエステル(R−C(O)O−)基を含む。一般式(I)の化合物を生じさせるための一般式(V)の化合物の還元反応は、化学選択的でなければならず、カルボキシル基が好ましくは実質的にエステル基に影響することなく還元される。したがって、一般式(I)の3,3 ジフェニルプロピルアミンを得る方法は、当該技術分野に記載の方法よりも少ない合成工程で行われる。
【0067】
したがって、本明細書で使用されている意味において、還元は、還元剤がエステル基に対してカルボキシル基を好ましく還元するとき、化学選択的である。具体的には、カルボキシル基についての還元剤の選択性は、80%以上、有利には85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらにより好ましくは96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上である。
【0068】
この化学選択的還元反応は、種々の還元剤、例えば、水素化物、例えば、アルミニウム水素化物(AlH)等、又は好ましくはボラン(ホウ素と水素からなる化合物)、それらの誘導体若しくは前駆体を用いて実施できる。前記ボラン誘導体の具体例としては、ジボラン(B)、ボラン−テトラヒドロフラン(BH・THF)錯体[N.M.Yoon、C. S. Pak、H.C.Brown、S. Krishnamurthy及びT.P. Stocky、J. Org. Chem.、38、2786 (1973)]、ボラン−ジメチルスルフィド(BH・MeS)錯体[L.M.Braun、R.A.Braun、H. R. Crissman、M. Opperman及びR.M.Adams、J. Org. Chem.、36、2388 (1971)]などが挙げられるが、これらには限定されない。同様に、ボラン前駆体の具体例としては、反応媒体においてボラン又はジボランを生成する化合物、例えば、NaBH/I(水素化ホウ素ナトリウム/ヨウ素)、NaBH/BF(OEt)(水素化ホウ素ナトリウム/三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体)、NaBH/HCl(水素化ホウ素ナトリウム/塩化水素)等、要するに、反応媒体中でボラン又はジボランを生成する任意の還元剤が挙げられるが、これらには限定されない。
【0069】
化学選択的還元反応は、好適な溶媒、例えば、エーテル、例えば、脂肪族エーテル(例えば、ジメトキシエタン(DME)等)、環状エーテル(例えば、テトラヒドロフラン(THF)、メチル−THF、ジオキサン等)、芳香族溶媒(例えば、トルエン等)又はこのような溶媒の混合物、例えば、エーテルと芳香族溶媒との混合物(例えば、THF/トルエン)中で好適に実施される。
【0070】
前記化学選択的還元反応は、−75℃と66℃の間の温度で、15分間以上、典型的には30分間乃至12時間の時間で実施できる。これらの条件は、一般式(V)の化合物に存在するエステル基に実質的に影響することなくカルボキシル基の還元が選択的に実施されるのに共同して働く。
【0071】
好ましい実施態様によれば、化学選択的還元反応は、NaBH/Iを用いて、溶媒としてのTHF中で、初期温度0℃、続いて反応混合物を室温又は還流温度に加熱して行われる。
【0072】
一般式(I)の化合物は、キラル炭素を有し、したがって、その単離された(R)又は(S)鏡像異性体の形態又は前記鏡像異性体の混合物の形態で存在する。式(I)の化合物の(R)及び(S)鏡像異性体は、必要に応じて、鏡像異性体の混合物についての従来の分割方法、例えば、分別結晶化、従来のクロマトグラフィー法等により分離できる。特定の実施態様によれば、本発明により提供される方法により得られる一般式(I)の化合物は、鏡像異性体の混合物の形態、例えば、ラセミ混合物の形態又は鏡像異性体の一つに富んだ混合物の形態で得ることができる。したがって、必要に応じて、得られる鏡像異性体の混合物を、その対応の鏡像異性体に分割して所望の鏡像異性体を得ることができる。特定の実施態様によれば、前記鏡像異性体は、フェソテロジンとして知られている鏡像異性体 イソ酪酸R−(+)−2−(3−ジイソプロピルアミノ−1−フェニルプロピル)−4−ヒドロキシメチルフェニルである。
【0073】
鏡像異性体の混合物の分割は、当業者に知られている従来の方法、好ましくは一般式(I)の化合物に存在するアミノ基で塩を形成することができる光学活性酸を使用することにより行うことができる。このようにして形成された塩はジアステレオマーであるので、それらの分離を可能にする互いに異なる溶解度を有することができ、沈殿したジアステレオマー塩を濾過し、塩基性又は酸性媒体中でその中和を行うことによるか、又は母液から回収(意図する鏡像異性体で形成された塩が溶液に残存するものである場合)し、続いて中和することにより、所望の鏡像異性体を結晶化し、続いて回収することができる。
【0074】
理論上は、一般式(I)のアミンでジアステレオマー塩を形成できる任意の光学活性酸も使用できる。前記酸の具体例としては、例えば、L−酒石酸、D−10−カンファースルホン酸、D−ジトルイル酒石酸、(R)−(−)−アセトキシルフェニル酢酸の使用が挙げられるが、これらには限定されない。
【0075】
フェソテロジンフマル酸塩は、本発明の方法による式(I)の好ましい化合物である。
【0076】
本発明の方法の特定の実施態様によれば、RはC−Cアルキル、すなわち、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル又はt−ブチルであり;Rは好ましくはイソプロピルである。
【0077】
本発明の方法の別の特定の実施態様によれば、Rは−COOR(但し、RはH、Cl及びC−Cアルキルから選択されるものであり、好ましくはHである)である。
【0078】
本発明の方法の別の特定の実施態様によれば、R及びRは各々独立してH及びC−Cアルキル、すなわち、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル又はt−ブチルから選択されるものであり;R及びRは好ましくはイソプロピルである。
【0079】
好ましい実施態様によれば、本発明は、フェソテロジン
【化13】

、その溶媒和物又は塩を得る方法であって、
a)式(IIa)
【化14】

の化合物を一般式(III)
【化15】

[式中、
はCN、COOR及びCONR(式中、
はH、Cl及びC−Cアルキルから選択されるものであり;
及びRは各々独立してH及びC−Cアルキルから選択されるものである)
から選ばれるものである。]
の化合物と反応させて一般式(IVa)
【化16】

(式中、Rは前記した意味を有する)
の化合物を得て;
b)必要に応じて、一般式(IVa)の化合物の鏡像異性体の混合物から(R)鏡像異性体を分離し;
c)Rが一般式(IVa)の化合物においてCOOHと異なるとき、当該一般式(IVa)の化合物を加水分解に付して式(IV’a)
【化17】

の化合物を生じさせ;
d)必要に応じて、式(IV’a)の化合物の鏡像異性体の混合物から(R)鏡像異性体を分離し;
e)前記工程で得た化合物をヒドロキシル基のエステル化反応に付して化合物(Va)
【化18】

を生じさせ;
f)必要に応じて、一般式(Va)の化合物の鏡像異性体の混合物から(R)鏡像異性体を分離し;
g)前記式(Va)の化合物を化学選択的還元に付してフェソテロジンを得て;
h)必要に応じて、フェソテロジンの鏡像異性体の混合物から(R)鏡像異性体を分離し、フェソテロジンをその塩又は溶媒和物に変換する、
ことを含んでなる、方法に関する。
【0080】
別の態様によれば、本発明は、一般式(V)
【化19】

(式中、
はC−Cアルキルであり;
及びRは、各々独立してH及びC−Cアルキルから選択されるものであるか、あるいは、一緒になって、窒素と結合して3〜7員環を形成しているものである)
の化合物、その鏡像異性体、溶媒和物又は塩に関する。
【0081】
一般式(V)の化合物は、一般式(I)の化合物を得るのに有用である。
【0082】
一般式(V)の化合物の特定の実施態様によれば、RはC−Cアルキル、すなわち、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル又はt−ブチルであり;Rは好ましくはイソプロピルである。
【0083】
一般式(V)の化合物の別の特定の実施態様によれば、R及びRは各々独立してH及びC−Cアルキル、すなわち、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル又はt−ブチルから選択されるものであり;R及びRは好ましくはイソプロピルである。
【0084】
式(Va)の化合物[イソ酪酸2−(3−N,N−ジイソプロピルアミン−1−フェニルプロピル)−4−カルボキシフェノール]
【化20】

は、フェソテロジンの調製に使用することができ、本発明のさらなる態様である。
【0085】
特定の実施態様によれば、式(Va)の化合物は、空間配置(R)[すなわち、この化合物は、鏡像異性体 イソ酪酸R−(+)−2−(3−N,N−ジイソプロピルアミノ−1−フェニルプロピル)−4−カルボキシフェノール]を有する。
【0086】
以下の実施例により本発明を説明するが、これらの実施例は本発明の限定な意味において考慮されるべきものではない。
【実施例】
【0087】
実施例1
2−(3−N,N−ジイソプロピルアミン−1−フェニルプロピル)−4−カルボキシフェノール(IV’a)を得る
【化21】

ジイソプロピルアミン(2.77リットル、19.65モル)及びヨウ化ナトリウム(16.95g、0.13モル)を、20/25℃で、シンナミルクロリド(1kg、6.55モル)のエタノール(3リットル/kg)溶液に投入した。この混合物を、内部温度80〜85℃で加熱した。反応条件を、この反応が終るまで3〜4時間維持した。
【0088】
混合物を、40〜45℃で冷却し、蒸留して内部容積を1.3リットルとした。次に、混合物を20〜25℃で冷却し、水(4リットル)とトルエン(3リットル)を添加し、そしてpHを1.0〜1.5に調整した。相をデカンテーションし、ジクロロメタン(4リットル)を水相に投入し、そしてpHを11.5〜12.0に再び調整した。相をデカンテーションし、有機相を水(4リットル)で洗浄した。相をデカンテーションしたら、有機相を大気圧で蒸留して内部容積を1.3リットルとした後、ヘプタン(2リットル)を投入した。
【0089】
得られた懸濁液をプレレイヤー(prelayer)により濾過し、ヘプタン(0.5リットル)で洗浄した。濾過した有機相を、大気圧で蒸留して内部容積を1.3リットルとした。
【0090】
反応混合物のアミン含量を、電位差滴定により求めた。
【0091】
酢酸(1.2リットル/kgアミン)、4−ヒドロキシ安息香酸(0.63kg/kgアミン、1当量)そしてその後硫酸(1.1リットル/kgアミン、4.5当量)を混合物に投入した。これを内部温度80〜85℃で加熱した。反応条件は、反応が終了するまで5〜6時間維持した。
【0092】
反応混合物を、35〜40℃に冷却し、水(10リットル/kgアミン)及び酢酸エチル(10リットル/kgアミン)を投入した。相をデカンテーションし、有機相を水(5リットル/kg)で洗浄した。水相をプールし、トルエン(5リットル/kgアミン)を投入し、相をデカンテーションし、n−ブタノール(10リットル/kgアミン)を水相に投入し、pHを7に調整し、デカンテーションした。
【0093】
有機相を蒸留して内部アミン容積を1.5〜2.0リットル/kgとした後、ヘプタン(8リットル/kgアミン)を投入した。結晶化した生成物を、5〜10℃で冷却し、濾過し、ヘプタン(5リットル/kgアミン)で洗浄した。次に、生成物を、オーブン中、空気循環しながら10〜12時間乾燥し、総モル収率40%で、純度が90%超の生成物を得た。
【化22】

NMR(H)DMSO:H:二重線 0.8−0.9ppm 12H、H:多重線 2.0−2.1ppm 2H、H:多重線 2.3ppm 2H、H:多重線 2.8−3.0ppm 2H、H:三重線 4.3ppm 1H、H:二重線 6.8ppm 1H、H11:多重線 7.1ppm 1H、H10−9:多重線 7.1−7.3ppm 4H、H:二重線 7.5ppm 1H、H:一重線7.8ppm 1H
NMR(13C)DMSO:20.52;20.57;30.74;36.11;39.72;48.04;114.35;125.56;126.43;128.59;128.68;129.02;129.47;129.77、145.34;157.76; 169.90
【0094】
実施例2
イソ酪酸2−(3−N,N−ジイソプロピルアミン−1−フェニルプロピル)−4−カルボキシフェノール(Va)を得る
【化23】

トリエチルアミン(0.80リットル、2.05当量)を実施例1で得られたアミノ酸(IV’a)(1kg)のジクロロメタン(5リットル)懸濁液に投入した。その後、反応温度を25〜30℃を超えさせることなく、塩化イソブチリル(0.32リットル、1.1当量)を投入した。反応条件を、反応が終るまで(1〜2時間)維持した。反応混合物を冷却し、NHCl溶液(10%)(5リットル)を投入し、pHを7に調整した。生成物を濃縮乾固して残留物を得た。純度は85%超、モル収率は95〜100%であった。
【化24】

NMR(H)DMSO:H10:二重線 0.9−1.1ppm 12H、H:dd 1.2−1.3ppm 6H、H:多重線 2.2−2.4ppm 2H、H:多重線 2.6ppm 2H、H:七重線 2.9ppm 1H、H:多重線 3.2ppm 2H、H:三重線 4.2ppm 1H、H:二重線 7.1ppm 1H、H13:多重線 7.2ppm 1H、H1112:多重線 7.2−7.3ppm 4H、H:二重線 7.8ppm 1H、H:一重線 8.1 ppm 1H
NMR(13C)DMSO:18.65;18.79;19.08;19.25;33.47;34.22;40.75;43.54;50.14;122.50;126.37;127.71;128.27、128.47;128.98;132.55;135.90;143.19;150.59;167.80;174.60
【0095】
実施例3
イソ酪酸2−(3−N,N−ジイソプロピルアミノ−1−フェニルプロピル)−4−(ヒドロキシメチル)フェニルエステル(Ia)を得る
【化25】

ボランの2M THF(2.4リットル、2.0当量)溶液を、20〜25℃で、実施例2で得たエステル(Va)(1kg)のTHF(5リットル)懸濁液にゆっくりと投入した。投入が終了したら、反応温度を60〜65℃に上昇させ、条件を反応が終了するまで維持した(3〜5時間)。反応混合物を冷却し、NHCl(10%)(5リットル)溶液を投入し、pHを7に調整した。次に、酢酸エチル(5リットル)を投入し、デカンテーションした。有機相を濃縮乾固して残留物を得た。純度は85%超であり、モル収率は95〜100%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)の化合物、その鏡像異性体、溶媒和物又は塩を得る方法であって:
【化1】

(式中、
はC−Cアルキルであり;
及びRは、各々独立してH及びC−Cアルキルから選択されるものであるか、あるいは、一緒になって、窒素と結合して3〜7員環を形成しているものである)
一般式(V)
【化2】

(式中、
、R及びRは前記と同じ意味を有する)
の化合物を化学選択的還元に付すことを含んでなる、方法。
【請求項2】
前記化学選択的還元が、水素化物、ボラン、ボラン誘導体又はボラン前駆体から選択される還元剤を用いて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記還元剤が、AlH、BH・THF、BH・MeS、NaBH/I、NaBH/BF(OEt)及びNaBH/HClからなる群から選択されるものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
一般式(IV’)
【化3】

(式中、
及びRは請求項1で定義した意味を有する)
の化合物を、カルボン酸、エステル、酸クロリド、無水物又はその他任意の好適なカルボキシル化された誘導体によりヒドロキシル基のエステル化反応に付して請求項1で定義される一般式(V)の化合物を得ることをさらに含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記エステル化反応が、塩基性媒体を含んでなる反応媒体中で実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記塩基性媒体が、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン又はピリジンを含んでなる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記エステル化反応が、トリエチルアミン、酸クロリド及びジクロロメタンを含んでなる反応媒体中で実施される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
一般式(IV)
【化4】

(式中、
はCN、COOR及びCONRから選択されるものであり;ここで、
はH、Cl及びC−Cアルキルから選択されるものであり;
及びRは各々独立してH及びC−Cアルキルから選択されるものであり;
及びRは請求項1で定義される意味を有する)
の化合物を加水分解反応に付して請求項4で定義される一般式(IV’)の化合物を得ることをさらに含んでなる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
一般式(II)
【化5】

(式中、
及びRは請求項1で定義される意味を有する)
の化合物を、一般式(III)
【化6】

(式中、
は請求項6で定義される意味を有する)
の化合物と反応させて、請求項8で定義される一般式(IV)の化合物を得ることをさらに含んでなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項8、4及び1でそれぞれ定義される一般式(IV)、(IV’)、(V)又は(I)の化合物の鏡像異性体を分離することをさらに含んでなる、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記鏡像異性体が、(R)鏡像異性体である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
フェソテロジン
【化7】

、その溶媒和物又は塩を得る方法であって:
a)式(IIa)
【化8】

の化合物を、一般式(III)
【化9】

[式中、
はCN、COOR及びCONRから選択されるものであり;ここで、
はH、Cl及びC−Cアルキルから選択されるものであり;
及びRは各々独立してH及びC−Cアルキルから選択されるものである)]
の化合物と反応させて、式(IVa)
【化10】

(式中、Rは前記した意味を有する)
の化合物を得て;
b)必要に応じて、一般式(IVa)の化合物の鏡像異性体の混合物から(R)鏡像異性体を分離し;
c)Rが一般式(IVa)の化合物におけるCOOHと異なるとき、当該式(IVa)の化合物を加水分解に付して式(IV’a)
【化11】

の化合物を生じさせ;
d)必要に応じて、一般式(IV’a)の化合物の鏡像異性体の混合物から(R)鏡像異性体を分離し;
e)前記工程で得た化合物をヒドロキシル基のエステル化に付して化合物(Va)
【化12】

を生じさせ;
f)必要に応じて、一般式(Va)の化合物の鏡像異性体の混合物から(R)鏡像異性体を分離し;
g)前記式(Va)の化合物を化学選択的還元に付して式(Ia)
【化13】

の化合物を得て;
h)必要に応じて、フェソテロジンの鏡像異性体の混合物から(R)鏡像異性体を分離し、フェソテロジンをその塩又は溶媒和物に変換する、
ことを含んでなる、方法。
【請求項13】
一般式(V)の化合物、その鏡像異性体、溶媒和物又は塩:
【化14】

(式中、
はC−Cアルキルであり;
及びRは、各々独立してH及びC−Cアルキルから選択されるものであるか、あるいは、一緒になって、窒素と結合して3〜7員環を形成しているものである)。
【請求項14】
式(Va)
【化15】

で表される請求項13に記載の化合物、その鏡像異性体、溶媒和物又は塩。

【公表番号】特表2013−500305(P2013−500305A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522135(P2012−522135)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060817
【国際公開番号】WO2011/012584
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(511305427)
【氏名又は名称原語表記】CRYSTAL PHARMA,S.A.U.
【Fターム(参考)】