説明

3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法

【課題】本発明は、冷媒、発泡剤、洗浄剤、溶剤、エッチング剤、エアゾール等の機能材料又は生理活性物質、機能性材料の中間体、高分子化合物のモノマーとなりうる、3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法を提供する。
【解決手段】1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに、気相中、「ルテニウム、ニッケル、ロジウム、イリジウム、鉄、オスミウム、コバルトから選ばれる少なくとも1種の遷移金属を担体に担持した触媒、又は当該遷移金属の酸化物」、「銅及びマンガンの酸化物」、又は「パラジウムと、ビスマス、亜鉛、銅、銀、ランタン、鉛、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、マグネシウム、錫、砒素から選ばれる少なくとも1種の元素を担体に担持した触媒」の存在下、水素を用いて水素化させることで、高選択率で3,3,3−トリフルオロプロペンを得ることが可能である。廃棄物処理も容易であり、工業的に有利な製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒、発泡剤、洗浄剤、溶剤、エッチング剤、エアゾール等の機能性物質又は生理活性物質、機能性材料の中間体、高分子化合物のモノマーとなりうる、3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明の対象となる3,3,3−トリフルオロプロペン及びその誘導体については数多く研究されている。例えば、特許文献1では、1,1,1,3−テトラクロロプロパンにフッ化水素を反応させて3,3,3−トリフルオロプロペンを製造する際、気相中、フッ化クロム担持の活性アルミナ触媒及び/又はリン酸担持のアルカリ土類金属フッ化物触媒の存在下、フッ化水素によりフッ素化反応時、あるいはフッ素化反応後、酸素又は酸素含有ガスを全原料供給量に対し、5〜30モル%添加することを特徴とする方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2では、3,3,3−トリフルオロプロペンの製造において、1,1,1,3−テトラハロプロパン及び該1,1,1,3−テトラハロプロパンに対して理論的過剰量の無水フッ化水素を、コバルト、クロム鉄等の遷移金属化合物を用い、約200℃以上の温度で反応させる方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献3も特許文献2と同様、気相中、ハロゲン化炭化水素をオキシフッ化クロム触媒の存在下でフッ素化反応を行い、3,3,3−トリフルオロプロペンを製造する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献4において、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを出発原料とし、一旦、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとした後、パラジウム触媒存在下、ギ酸アンモニウム等を共存させて水素化することで、3,3,3−トリフルオロプロペンを製造する方法が開示されている。
【0006】
非特許文献1には、トリフルオロメチルオキシランの熱分解反応により、3,3,3−トリフルオロプロペンを得る製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−108726号公報
【特許文献2】特開平1−168347号公報
【特許文献3】特開昭59−080332号公報
【特許文献4】米国特許第6958424明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】P. G. Kevin et.al.,Organometallics、19巻、944−946頁、2000年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
3,3,3−トリフルオロプロペンの製造については、多くの場合、気相中、ハロゲン化炭化水素に対し、フッ化水素を用いてフッ素化反応を行う方法が開示されている。特許文献1−3の方法も好ましい方法ではあるが、一般的に高い反応温度が要求されること、取り扱いが危険なフッ化水素を用いる必要があるという安全上の問題のほか、目的物である3,3,3−トリフルオロプロペンの他に、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン等のフッ素化プロパンや、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン等との分離精製が難しく、装置的な負荷が大きくなる等、改良すべき点があり、必ずしも好ましいものではなかった。
【0010】
また、特許文献4の方法では、触媒として高価なパラジウム触媒を用いていることや、反応系内にギ酸アンモニウム等のホルメート塩を更に共存させる必要があること、また、液相中の反応であることなどから、連続反応による工業的な製造を想定した場合、有効な方法とは言えなかった。
【0011】
非特許文献1の方法では、熱分解反応のみで目的物である3,3,3−トリフルオロプロペンが得られることから、有用な方法ではあるが、出発原料であるトリフルオロメチルオキシランや触媒であるレニウム触媒が高価であることからも工業的な製造を採用するには難があった。
【0012】
上述のように、本発明の目的物である3,3,3−トリフルオロプロペンを大量生産に採用される工業的製造法としては必ずしも満足できる方法ではなく、該目的物を工業的規模で、実施が容易である製造方法の確立が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに、気相中、特定の触媒存在下、水素(H2)を用いて水素化することで、3,3,3−トリフルオロプロペンを高選択的で製造できる製造方法を見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は以下の[発明1]〜[発明4]に記載する、3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法を提供する。
[発明1]
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに、気相中、
(A)ルテニウム、ニッケル、ロジウム、イリジウム、鉄、オスミウム、コバルトから選ばれる少なくとも1種の遷移金属を担体に担持した触媒、又は当該遷移金属の酸化物、
(B)銅及びマンガンの酸化物、
又は
(C)パラジウムと、ビスマス、亜鉛、銅、銀、ランタン、鉛、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、マグネシウム、錫、砒素から選ばれる少なくとも1種の元素を担体に担持した触媒
の存在下、水素(H2)を用いて水素化することを特徴とする、3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法。
[発明2]
遷移金属の担持量が、担体に対して0.1〜20質量%である、発明1に記載の方法。
[発明3]
反応温度が150℃〜300℃である、発明1又は2に記載の方法。
[発明4]
水素の量が、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン1モルに対し、1〜5モルである、発明1乃至3の何れかに記載の方法。
【0015】
ハロゲン化オレフィン類に対する水素化等による還元反応(還元的脱ハロゲン反応)は、数多くの文献で良く知られているが、オレフィン部位(二重結合部位)にハロゲン原子が結合している化合物に対し、ハロゲン原子を選択的に水素に変換する(このことを「還元する」とも言う。)反応条件を見出すことは極めて難しい。また、オレフィン部位に強力な電子求引性的性質を有する置換基であるトリフルオロメチル基が結合している場合、還元反応を行う際、予期せぬ結果が得られることが多い。
【0016】
従来技術として、オレフィン部位にハロゲン原子が結合している化合物に対し、水素を用いて還元する方法がいくつか知られている。例えば、下記の非特許文献によれば、フッ素化オレフィンに対し、パラジウム触媒存在下、水素を用いて水素化をすることで、フッ素化アルカンが生成することが知られている。
【0017】
【化1】

【0018】
また、下記の特許文献によると、フッ素化アルカンの製造方法として、フッ素化オレフィンを出発原料とし、水素ガス等の還元剤を作用させてフッ素化プロパンを製造する方法が知られている。具体的にはヘキサフルオロプロペンに対し、パラジウム担持活性炭(Pd/C)を触媒として水素で還元させることにより、ヘキサフルオロプロパンを88.6〜93.2%の変換率で生成していることを開示している。
【0019】
【化2】

【0020】
このように、ハロゲン化オレフィンに対して水素を反応させると、ハロゲン化プロパンが優先的に生成しやすい。従来技術において、特許文献1−3のように、ハロゲン化オレフィンを出発原料として用いずに、ハロゲン化飽和炭化水素を用いて製造している例が多く、このことはハロゲン化オレフィンを原料とした場合、目的とするハロゲン化オレフィンを効率よく得ることが難しいとする傾向があるものと推測される。
【0021】
実際に、本発明者らが本願発明の出発原料である1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対し、白金、レニウム、又はパラジウムを活性炭に担持した触媒(Pt/C、Re/C、又はPd/C)存在下、水素を作用させたところ、目的物である3,3,3−トリフルオロプロペンは殆ど生成・単離できず、3,3,3−トリフルオロプロパンが高い選択率で得られた(後述の比較例参照)。
【0022】
【化3】

【0023】
以上のことから、オレフィン部位にハロゲン原子が結合している化合物に対し、ハロゲン原子のみを選択的に水素に変換し、高選択的かつ高収率で目的物が得ることは非常に困難であると考えられた。
【0024】
ところが、本発明者らが鋭意検討を行った結果、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対し、気相中、「(A)ルテニウム、ニッケル、ロジウム、イリジウム、鉄、オスミウム、コバルトから選ばれる少なくとも1種の遷移金属を担体に担持した触媒、又は当該遷移金属の酸化物」、「(B)銅及びマンガンの酸化物」、又は「(C)パラジウムと、ビスマス、亜鉛、銅、銀、ランタン、鉛、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、マグネシウム、錫、砒素から選ばれる少なくとも1種の元素を担体に担持した触媒」(以下、本明細書において「A触媒」、「B触媒」、「C触媒」とも言う。)の存在下、水素を用いて水素化を行うことで、オレフィン部位に結合しているハロゲン原子の選択的な還元が優先的に進行し、3,3,3−トリフルオロプロパンを殆ど副生することなく、3,3,3−トリフルオロプロペンを高い選択率で製造できるという、工業的規模で製造する方法としてきわめて簡便で、実用的に有利な知見を得た。
【0025】
また、水素化を行う際、モル比等の反応条件を調整することで、更に高い選択率で該目的物を得るという、製造における好ましい条件も見出した。
【0026】
なお、目的物である3,3,3−トリフルオロプロペンは、沸点が比較的低く、非凝縮性の水素や塩化水素との混合物では、室温で、かつ常圧(0.1MPa)下では殆どが気体(ガス)として存在する。流通式気相反応器や耐圧反応容器を用いて生成した3,3,3−トリフルオロプロペンを含む粗体は、0℃未満、具体的には沸点以下に冷却したコンデンサーに流通させ、過剰の水素や塩化水素等を除き、気体を凝集することにより得ることができる。粗体は微量の酸等を水洗し、蒸留分離等を行い精製することができる。
【0027】
このように、本発明は工業的に実施可能で容易な製造条件において、従来技術よりも高い収率で目的化合物が製造可能である。環境負荷もかからず、高い生産性で目的とする3,3,3−トリフルオロプロペンを製造できることとなった。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを出発原料とし、気相中、「(A)ルテニウム、ニッケル、ロジウム、イリジウム、鉄、オスミウム、コバルトから選ばれる少なくとも1種の遷移金属を担体に担持した触媒、又は当該遷移金属の酸化物」、「(B)銅及びマンガンの酸化物」、又は「(C)パラジウムと、ビスマス、亜鉛、銅、銀、ランタン、鉛、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、マグネシウム、錫、砒素から選ばれる少なくとも1種の元素を担体に担持した触媒」の存在下、水素(H2)を用いて水素化することにより、3,3,3−トリフルオロプロペンを効率良く製造することができる。本発明で開示した反応は、関連する技術分野において全く開示されておらず、選択性が非常に高い。出発原料も工業的にも容易に製造できることから、製造面での優位性もあり、非常に優れた製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明の出発原料である、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、特に限定されないが、例えば特開平9−194404号公報、特開平10−067693号公報に記載の方法により得ることができる。
【0030】
なお、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンはトランス体(E体)及びシス体(Z体)が得られるが、本発明において特に制限はなく、トランス体、もしくはシス体の混合物、又はそれぞれ単独、どちらでも使用できる。
【0031】
本発明のA触媒に係る遷移金属のうち、具体的には、ルテニウム、ニッケル、ロジウム、イリジウムが好ましい。
【0032】
また、ここで述べた触媒のうち、用いる担体としてはアルミナ、フッ素化アルミナ、フッ化アルミニウム、活性炭、ジルコニア、フッ化カルシウム、シリカ等が使用される。
【0033】
A触媒のうち、遷移金属を担体に担持した触媒の具体的な例としては、ルテニウム/活性炭(Ru/C)、ニッケル/活性炭(Ni/C)、ロジウム/活性炭(Rh/C)、イリジウム/活性炭(Ir/C)等が挙げられる。
【0034】
また、本発明では、B触媒を用いることができる。B触媒の具体的な例としては、詳細は後述するが、酸化銅(II)及び酸化マンガン(IV)等が挙げられる。
【0035】
更に、C触媒の具体的な例としては、パラジウム−ビスマス/活性炭(Pd―Bi/C)、パラジウム−ビスマス/アルミナ(Pd―Bi/Al23)、パラジウム−ビスマス/ジルコニア(Pd−Bi/ZrO2)、パラジウム−鉛/活性炭(Pd―Pb/C)、パラジウム−鉛/アルミナ(Pd−Pb/Al23)、パラジウム−鉛/ジルコニア(Pd−Pb/ZrO2)等が挙げられる。
【0036】
ここで担体として用いる活性炭は、木材、木炭、椰子殻炭、パーム核炭、素灰等を原料とする植物系、泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭等を原料とする石炭系、石油残滓、オイルカーボン等を原料とする石油系または炭化ポリ塩化ビニリデン等の合成樹脂系がある。これら市販の活性炭から選択し使用することができ、例えば、瀝青炭から製造された活性炭(東洋カルゴン製BPL粒状活性炭)、椰子殻炭(日本エンバイロケミカルズ(株)製、粒状白鷺GX、G2X、SX、CX、XRC、東洋カルゴン製PCB)等が挙げられるが、これらに限定されない。形状、大きさも通常粒状で用いられるが、球状、繊維状、粉体状、ハニカム状等、反応器に適合すれば良く、当業者が適宜選択し使用することができる。本発明において使用する活性炭は比表面積の大きな活性炭が好ましい。活性炭の比表面積ならびに細孔容積は、市販品の規格の範囲で十分であるが、それぞれ400m2/gより大きく、0.1cm3/gより大きいことが望ましい。またそれぞれ800〜3000m2/g、0.2〜1.0cm3/gであればよい。さらに活性炭を担体に用いる場合、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性水溶液に常温付近で10時間程度またはそれ以上の時間浸漬するか、活性炭を触媒担体に使用する際に慣用的に行われる硝酸、塩酸、フッ酸等の酸による前処理を施し、予め担体表面の活性化ならびに灰分の除去を行うことが望ましい。
【0037】
A触媒のうち、遷移金属を担体に担持した触媒の調製方法は特に限定されないが、硝酸塩、塩化物等の可溶性化合物を溶解した溶液に担体に含浸させるか、スプレーし、次いで乾燥した後、金属塩の担持された担体を加熱下においてフッ化水素、塩化水素、塩化フッ化炭化水素等と接触させることで、担持させた金属または担体の一部または全部をハロゲン修飾させることで得られる。
【0038】
担体をフッ素化する方法はどの様な方法でも良いが、例えば、フッ素化アルミナは乾燥用や触媒担体用として市販されているアルミナに加熱しながら気相でフッ化水素を流通させたり、または常温付近でフッ化水素水溶液をスプレーしたり、その水溶液に浸漬し、次いで乾燥することで調製することができる。
【0039】
本発明において、A又はC触媒における金属の担持量は、担体に対して0.05〜40質量%、好ましくは0.1〜20質量%が適当である。
【0040】
なお、2種以上の遷移金属を担体に担持する場合、主組成とする遷移金属に対して上述の範囲に調製するのが好ましい。
【0041】
また、C触媒のうち、パラジウムと元素の総量に対する元素の添加量は5〜75質量%、好ましくは10〜50質量%である。
【0042】
活性炭に担持させる金属の可溶性化合物としては、水、メタノール、エタノール、アセトン等の溶媒に溶解する該当金属の硝酸塩、塩化物、オキシ塩化物、酸化物等が挙げられる。
【0043】
B触媒における具体的な例としては、実施例に示すように、銅及びマンガンの酸化物を主組成とする触媒、すなわち「酸化銅(II)及び酸化マンガン(IV)を主組成とする触媒」が挙げられる。この触媒における酸化銅(II)に対する酸化マンガン(IV)の含有割合としては、通常、質量比で酸化銅(II):酸化マンガン(IV)=1:0.3〜6.0であるが、好ましくは1:0.5〜5.0である。なお、この酸化物にその他の金属酸化物、例えば酸化クロム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化銀等が含有されたものであってもよい。この場合、触媒全体における酸化銅(II)及び酸化マンガン(IV)の質量割合が60質量%以上、好ましくは70質量%以上となるように調整すると良い。
【0044】
なお、この触媒は、公知の方法を参考に当業者が調製することができるが、市販されているものを用いても良い。
【0045】
水素(H2)の使用量は、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン1モルに対して通常化学量論量の1モル以上を用いれば良いが、好ましくは2〜30モルである。係る水素の圧力は、流通式で反応を行う場合には、大気圧以上の条件で行えば良く、所望の反応を効率良く行うには0.1〜5.0MPa(絶対圧基準。以下同じ)が好ましく、実用性を考慮すると、特に0.1〜2.0MPaがより好ましい。バッチ式で行う場合には、大気圧より高い条件が好ましく、0.2〜10MPaが好ましく、実用性を考慮すると、特に0.5〜5.0MPaがより好ましい。バッチ式では塩化水素が発生するので、受酸剤として水酸化ナトリウム等の塩基を共存させることが好ましい。
【0046】
流通式の接触時間は、通常0.1〜300秒、好ましくは1〜60秒である。バッチ式の反応時間は、特に制限はないが、通常は72時間以内であるが、触媒系、基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料が殆ど消失した時点を反応の終点とすることが好ましい。
【0047】
本発明において、溶媒を別途加えることができる。溶媒としては反応に関与しないものであれば特に制限はなく、例えば水、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、α,α,α−トリフルオロトルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール等のエーテル類が挙げられる。その中でもn−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランが好ましく、特にn−ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランがより好ましい。また、これらの溶媒は1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0048】
本発明において、反応圧力は特に限定はないが、常圧または加圧条件下で、0.1〜2MPa、好ましくは0.1〜0.5MPaで実施できる。
【0049】
反応温度は特に限定はないが、通常、50〜600℃、好ましくは100〜350℃である。反応温度50℃よりも低ければ反応は遅く実用的ではない。反応温度が600℃を超えると触媒寿命が短くなり、また、反応は速く進行するが分解生成物等が生成し、3,3,3−トリフルオロプロペンの選択率が低下することがある。
【0050】
本発明で用いる反応器は、常圧もしくは加圧下で反応を行うことができる。加圧下で反応を行う場合、温度、圧力に耐えるものであれば材質に特に制限はなく、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラス等を内部にライニングした反応器、もしくはガラス容器を使用することができる。ステンレス鋼、鉄等が内壁となっている反応容器も用いることができるが、本発明において、反応に伴い、塩化水素ガスが発生することから、金属がこれらにより腐食されたりすることがあるので、耐食性のモネル、インコネル、ハステロイ等の金属を用いることがより好ましい。
【0051】
また、本発明の方法で得られた3,3,3−トリフルオロプロペンは、常温・常圧で気体として存在する。反応後に得られた気体を、冷却したコンデンサーに流通させた後、該気体を捕集容器で捕集させて液化させた後、必要に応じて水洗による脱酸、乾燥処理等を行い、さらに精密蒸留することで高純度の3,3,3−トリフルオロプロペンを得ることができる。
【0052】
本発明では当業者が適宜調整することにより、連続的、又は半連続的もしくはバッチ式で行うことができる。
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施態様に限られない。ここで、組成分析値の「%」とは、反応混合物を直接ガスクロマトグラフィー(特に記述のない場合、検出器はFID)によって測定して得られた組成の「面積%」を表す。
[実施例]
[調製例1]ニッケル/活性炭の調製
300mlナス型フラスコに活性炭(三菱化学カルゴン(株)製ダイヤソープG4−8)40gを正確に秤取り、そこに予め塩化ニッケル1.8gを溶解した24%塩酸100gを投入し2日間静定した。金属含浸活性炭をエバポレーターにて減圧乾燥した。オイルバスの温度を150℃以上まで徐々に上げて水分を除去した。
[調製例2]パラジウム/活性炭の調製
500mlナス型フラスコに活性炭(日本エンバイロケミカルズ(株)製粒状白鷺G2X:4/6-1)100gを正確に秤取り、そこに約20%硝酸水溶液を約150ml添加した。3時間程度静置し、予め活性炭の硝酸処理を行った。塩化パラジウム(II)0.834gを24%塩酸50gに溶解し塩化パラジウム(II)塩酸溶液を調製し、硝酸処理活性炭に投入し2日間静定した。金属含浸活性炭をエバポレーターにて減圧乾燥した。オイルバスの温度を150℃以上まで徐々に上げて水分を除去した。
[調製例3]パラジウム−ビスマス/活性炭の調製
500mlナス型フラスコに活性炭(日本エンバイロケミカルズ(株)製粒状白鷺G2X:4/6-1)100gを正確に秤取り、そこに約20%硝酸水溶液を約150ml添加した。3時間程度静置し、予め活性炭の硝酸処理を行った。別の300mlビーカーで硝酸ビスマス(III)五水和物を1.160gと約30%硝酸水溶液200mlを混合し、湯浴中で完全に溶解した。塩化パラジウム(II)0.834gを24%塩酸50gに溶解し塩化パラジウム(II)塩酸溶液を調製し、硝酸ビスマス(III)溶液と混合後硝酸処理活性炭に投入し2日間静定した。金属含浸活性炭をエバポレーターにて減圧乾燥した。オイルバスの温度を150℃以上まで徐々に上げて水分を除去した。
【実施例1】
【0054】
エヌイーケムキャット製Ru/活性炭触媒(Ru分0.5質量%)40mlを内径20mm、長さ30cmのSUS316L製反応器に充填し、窒素を20〜30ml/min流しながら150℃〜300℃まで50℃刻みに昇温し焼成した。300℃で、1時間程度焼成し設定温度を150℃に下げ、窒素を10ml/minの流量で、そして水素を30ml/minの流量で流しながら300℃まで30℃刻みに再び昇温した。
【0055】
その後、水素を流しながら170℃まで降温し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを導入した。約1時間後に生成ガスをサンプリングしてガスクロマトグラフにより分析した。
【0056】
その結果、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン転化率は、69.7%、3,3,3−トリフルオロプロペン選択率は41.0%であった。
【実施例2】
【0057】
ホプカライト触媒KCG−1(Cu−Mnタブレット)40mlを内径20mm、長さ30cmのSUS316L製反応器に充填し、窒素を20〜30ml/min流しながら150℃〜300℃まで50℃刻みに昇温し焼成した。300℃で、1時間程度焼成し設定温度を150℃に下げ、窒素を10ml/minの流量で、そして水素を30ml/minの流量で流しながら300℃まで30℃刻みに再び昇温した。
【0058】
その後、水素を75ml/min流しながら200℃まで降温し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを導入した。約1時間後に生成ガスをサンプリングしてガスクロマトグラフにより分析した。
【0059】
その結果、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン転化率は、14.1%、3,3,3−トリフルオロプロペン選択率は93.6%であった。3,3,3−トリフルオロプロパン選択率は2.5%であった。
【実施例3】
【0060】
実施例2と同様にホプカライト触媒KCG−1(Cu−Mnタブレット)40mlを内径20mm、長さ30cmのSUS316L製反応器に充填し、処理後、水素を75ml/min流しながら290℃に設定し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを導入した。約1時間後に生成ガスをサンプリングしてガスクロマトグラフにより分析した。
【0061】
その結果、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン転化率は、71.6%、3,3,3−トリフルオロプロペン選択率は94.7%であった。3,3,3−トリフルオロプロパン選択率は2.2%であった。
【実施例4】
【0062】
調製例1で調製した触媒を40mlを内径20mm、長さ30cmのSUS316L製反応管に充填し、窒素を20〜30ml/min流しながら150℃〜300℃まで50℃刻みに昇温し焼成した。300℃で、1時間程度焼成し設定温度を150℃に下げ、窒素を10ml/minの流量で、そして水素を30ml/minの流量で流しながら300℃まで30℃刻みに再び昇温した。
【0063】
その後、水素を流しながら280℃まで降温し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを導入した。約1時間後には反応が安定したので、生成ガスをサンプリングして、ガスクロマトグラフにより分析した。
【0064】
その結果、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン転化率は8.0%、3,3,3−トリフルオロプロペン選択率が40.2%であった。3,3,3−トリフルオロプロパン選択率は3.0%であった。
【実施例5】
【0065】
調製例3で調製した触媒40mlを内径20mm、長さ30cmのSUS316L製反応器に充填し、窒素を20〜30ml/min流しながら150℃〜300℃まで50℃刻みに昇温し焼成した。300℃で、1時間程度焼成し設定温度を150℃に下げ、窒素を10ml/minの流量で、そして水素を30ml/minの流量で流しながら300℃まで30℃刻みに再び昇温した。
【0066】
その後、水素を流しながら200℃まで降温し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを導入した。約1時間後に生成ガスをサンプリングしてガスクロマトグラフにより分析した。
【0067】
その結果、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン転化率は、78.9%、3,3,3−トリフルオロプロペン選択率は88.7%であった。
[比較例1]
エヌイーケムキャット製Pt/活性炭触媒(Pt分0.5質量%)40mlを内径20mm、長さ30cmのSUS316L製反応器に充填し、窒素を20〜30ml/min流しながら150℃〜300℃まで50℃刻みに昇温し焼成した。300℃で、1時間程度焼成し設定温度を220℃に下げ、窒素を10ml/minの流量で、そして水素を30ml/minの流量で流しながら300℃まで30℃刻みに再び昇温した。
【0068】
その後、水素を流しながら220℃で、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを導入した。約1時間後に生成組成を分析した。
【0069】
その結果、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン転化率は99.8%、3,3,3−トリフルオロプロペン選択率が0.1%であった。3,3,3−トリフルオロプロパン選択率は99.5%であった。
[比較例2]
エヌイーケムキャット製Re/活性炭触媒(Re分0.5質量%)40mlを内径20mm、長さ30cmのSUS316L製反応器に充填し、窒素を20〜30ml/min流しながら150℃〜300℃まで50℃刻みに昇温し焼成した。300℃で、1時間程度焼成し設定温度を210℃に下げ、窒素を10ml/minの流量で、そして水素を30ml/minの流量で流しながら300℃まで30℃刻みに再び昇温した。
【0070】
その後、水素を75ml/min流しながら210℃まで降温し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを導入した。約1時間後に生成組成を分析した。
【0071】
その結果、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン転化率は14.3%、3,3,3−トリフルオロプロペン選択率が3.7%であった。3,3,3−トリフルオロプロパン選択率は94.6%であった。
[比較例3]
調製例2で調製した触媒40mlを内径20mm、長さ30cmのSUS316L製反応器に充填し、窒素を20〜30ml/min流しながら150℃〜300℃まで50℃刻みに昇温し焼成した。300℃で、1時間程度焼成し設定温度を150℃に下げ、窒素を10ml/minの流量で、そして水素を30ml/minの流量で流しながら300℃まで30℃刻みに再び昇温した。
【0072】
その後、水素を流しながら200℃まで降温し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを導入した。約1時間後に生成ガスをサンプリングしてガスクロマトグラフにより分析した。
【0073】
その結果、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン転化率は、96.0%、3,3,3−トリフルオロプロペン選択率は2.5%であった。
【0074】
以上、実施例及び比較例を表1として以下にまとめる。
【0075】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに、気相中、
(A)ルテニウム、ニッケル、ロジウム、イリジウム、鉄、オスミウム、コバルトから選ばれる少なくとも1種の遷移金属を担体に担持した触媒、又は当該遷移金属の酸化物、
(B)銅及びマンガンの酸化物、
又は
(C)パラジウムと、ビスマス、亜鉛、銅、銀、ランタン、鉛、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、マグネシウム、錫、砒素から選ばれる少なくとも1種の元素を担体に担持した触媒
の存在下、水素(H2)を用いて水素化することを特徴とする、3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法。
【請求項2】
遷移金属の担持量が、担体に対して0.1〜20質量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応温度が150℃〜300℃である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
水素の量が、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン1モルに対し、1〜5モルである、請求項1乃至3の何れかに記載の方法。

【公開番号】特開2011−168509(P2011−168509A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31867(P2010−31867)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】