説明

4−クロロベンゼンスルホン酸及び4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法

本発明は、2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸を、硫酸の存在で100〜300℃の温度で反応させて4−クロロベンゼンスルホン酸に変換することを含む、2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸からの4−クロロベンゼンスルホン酸の製造法に関する。さらに本発明は、上記の4−クロロベンゼンスルホン酸の製造法を含む、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸を、硫酸の存在で100〜300℃の温度で反応させて4−クロロベンゼンスルホン酸に変換することを含む、2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸からの4−クロロベンゼンスルホン酸の製造法に関する。
【0002】
さらに本発明は、上記の4−クロロベンゼンスルホン酸の製造法を含む4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法に関する。
【0003】
4,4’−ジクロロジフェニルスルホンは、特にポリアリーレンエーテルスルホン合成の際のモノマーとして使用される。商業的に重要な例は、ポリエーテルスルホン(4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンと4,4’−ジクロロジフェニルスルホンとの重合)、ポリスルホン(ビスフェノールAと4,4’−ジクロロジフェニルスルホンとの重合)及びポリフェニレンスルホン(4,4’−ジヒドロキシビフェニルと4,4’−ジクロロジフェニルスルホンとの重合)である。それゆえ、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンはこれらの工業用プラスチックを製造するための中心的な構成単位である。
【0004】
ポリアリーレンエーテルスルホン製造のための出発材料としては高純度の4,4’−ジクロロジフェニルスルホンが有利であり、それというのも、例えば耐化学薬品性及び温度耐久性、高い寸法安定性及び難燃性といった所望の生成物特性を有する直鎖の非角状ポリマーは、専ら4,4’−異性体からのみ生じるためである。
【0005】
4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法は従来技術から公知である。公知の方法には特に、モノクロロベンゼン及びスルホン化剤から出発して、一般には単離されない中間生成物としての4−クロロベンゼンスルホン酸を経由した製造が含まれる。
【0006】
DE2252571には、220〜260℃の温度で圧力反応器中で、生じた反応水の分離除去下での、モノクロロベンゼン及び硫酸からのジクロロジフェニルスルホンの合成が記載されている。
【0007】
US2,593,001には、芳香族スルホン酸と芳香族化合物との反応によるジアリールスルホンの連続的な製造法が記載されており、その際、反応水は、向流でガス状で添加される芳香族化合物によって、反応帯域から連続的に除去される。
【0008】
US2,971,985には、SO3、ジメチルスルフェート及びモノクロロベンゼンを使用したジクロロジフェニルスルホンの合成が開示されている。
【0009】
ジクロロジフェニルスルホンを製造するための合成の際には、所望の4,4’−ジクロロジフェニルスルホンのみならず、基本的に種々の量の2,4’−及び3,4’−異性体も生じる。ここで、これらの異性体をまとめて以下で、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの不適当な異性体と称する。重合で使用可能な4,4’−ジクロロジフェニルスルホンを得るためには、これを極めて純粋な形(通常は>99.0質量%)で単離する必要がある。
【0010】
ジクロロジフェニルスルホン異性体の混合物は、例えば、アルコールを用いた、又はアルコールからの晶析により後処理することができ、それによって所望の4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの高められた純度が得られる。EP−A279387には、このような再結晶による精製法が記載されている。
【0011】
不適当な異性体を分離するためのもう1つの方法は、US4,876,390に記載されているクロマトグラフィーによる異性体混合物の分離である。
【0012】
重合に適していない不所望な4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの不適当な異性体、及び副生成物として生じるモノクロロベンゼンスルホン酸の異性体、即ち2−クロロベンゼンスルホン酸、3−クロロベンゼンスルホン酸及び4−クロロベンゼンスルホン酸の残留については、全く言及されていない。
【0013】
原則的に、これらの不所望な異性体はプロセスからの排出後に排除することができる。この排除は、晶析の母液の一部を排出することにより、又は不適当な異性体を母液から分離除去した後に行うことができる。いずれによっても、装入原料に関するプロセスの収率は大幅に低下する。その上さらに廃棄処理のためのコストが発生する。これに関連して、環境保護の観点(塩素化芳香族化合物の適切な廃棄処理)を無視することはできない。
【0014】
従って、不適当な異性体をジクロロジフェニルスルホン合成から排除するのではなく、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンに変換して収率を向上させることが極めて重要である。
【0015】
アリールスルホンから出発した異性化反応が、従来技術から自体公知である。Zhurnal Organicheskoi Kimii, 1976, 12 (2), 397及び1976, 13 (6), 1204において、V. A. Kozlovらは、92.3%硫酸中でのトリルフェニルスルホン及びキシリルフェニルスルホンの異性化及び分解について報告している。しかしながら、ジクロロジフェニルスルホン合成からの不適当な異性体から4,4’−ジクロロジフェニルスルホンへの変換は、この方法では不可能である。
【0016】
本発明の課題は、上記の欠点を有しないか又は比較的わずかな程度で有する4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法を提供することであった。
【0017】
特に、副生成物として生じる2,4’及び/又は3,4’−ジクロロジフェニルスルホンを4,4’−ジクロロジフェニルスルホンに変換することにより、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの公知の製造法の収率を向上させることが望ましい。
【0018】
上記課題は、本発明による4−クロロベンゼンスルホン酸の製造法、及び本発明による4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法により解決される。有利な実施態様は、特許請求の範囲及び以下の明細書から引用できる。有利な実施態様の組合せは、本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0019】
ここで、モノクロロベンゼンからの4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法は、本発明による2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸からの4−モノクロロベンゼンスルホン酸の製造法を含む。
【0020】
本発明による2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸からの4−モノクロロベンゼンスルホン酸の製造法は、2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸を、硫酸の存在で100〜300℃の温度で反応させて4−クロロベンゼンスルホン酸に変換することを含む。
【0021】
本発明による2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸からの4−モノクロロベンゼンスルホン酸の製造法の個々の工程、及び本発明によるモノクロロベンゼンからの4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法の個々の工程について、以下に詳説する。
【0022】
4−クロロベンゼンスルホン酸の製造法
モノクロロベンゼンスルホン酸は、2−クロロベンゼンスルホン酸、3−クロロベンゼンスルホン酸又は4−クロロベンゼンスルホン酸として、又は前記化合物のうち2つ又は3つからの混合物として存在し得る。本発明の範囲内で、前記異性体のうち少なくとも2つを含む混合物が、モノクロロベンゼンスルホン酸の異性体混合物と称される。
【0023】
本発明は、2−クロロベンゼンスルホン酸から出発して、又は3−クロロベンゼンスルホン酸から出発して行うことができ、その際、2−クロロベンゼンスルホン酸から出発した反応が有利である。2−クロロベンゼンスルホン酸と3−クロロベンゼンスルホン酸と場合により4−クロロベンゼンスルホン酸とを含む混合物から出発した、即ち異性体混合物から出発した該方法の実施も同様に有利である。
【0024】
さらに、一方では4−クロロベンゼンスルホン酸と、他方では2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸とからの混合物から出発して該方法を実施することもできる。2−クロロベンゼンスルホン酸を含むモノクロロベンゼンスルホン酸の異性体混合物から出発する反応が特に有利である。
【0025】
該反応を4−クロロベンゼンスルホン酸を含むモノクロロベンゼンスルホン酸の異性体混合物から出発して行う場合には、該反応を異性体混合物中での4−クロロベンゼンスルホン酸の割合の増大下に行う。
【0026】
本発明によれば、該反応の際の温度は100〜300℃である。ここで、この本発明による温度を種々の方法で調節することができる。特に、出発化合物であるモノクロロベンゼンスルホン酸と硫酸とを相応する温度で混合することができる。特に、反応温度を下回る温度で混合物を調製し、次いでこの混合物を加熱することも可能である。ここで、100〜300℃の範囲内の温度に達することが本発明において重要である。
【0027】
温度は、4−クロロベンゼンスルホン酸形成の選択率及び速度に影響を及ぼす。有利には、反応の温度は150℃〜250℃、特に170℃〜210℃、特に有利には180〜200℃である。4−クロロベンゼンスルホン酸形成の選択率は、上記の範囲内で特に高い。同時に、形成速度も十分に高い。
【0028】
該反応の持続時間は広い期間にわたって変動してよい。該反応の持続時間とは、その範囲内で本発明による条件が満たされるような時間であると理解される。該反応の期間は、有利には5分〜12時間、特に15分〜3時間、特に有利には30分〜2時間である。
【0029】
使用される硫酸の量は、広範囲にわたって変動してよい。しかしながら、モノクロロベンゼンスルホン酸に対する硫酸のモル比が少なくとも1である場合に、4−クロロベンゼンスルホン酸の収率に関して有利であることが判明した。有利には、硫酸は、モノクロロベンゼンスルホン酸の量に対して1〜100、特に2〜20、特に有利には3〜15のモル比で使用される。
【0030】
有利には、使用される硫酸の濃度は、使用される硫酸の全質量に対して75〜93質量%、特に80〜90質量%、特に有利には83〜87質量%である、この濃度範囲を保持することによって、4−クロロベンゼンスルホン酸の高い収率及び十分に高い反応速度がもたらされる。硫酸の質量%の表記は、通常は、硫酸とこの硫酸中に含まれる水との全質量に対するものであると理解されるべきである。従って、100質量%までの差分は水に由来するものであり、記載された範囲での水の存在は4−クロロベンゼンスルホン酸の形成を助長する。
【0031】
ここで、本発明による方法の範囲内で該反応が硫酸中で行われる場合に有利である。ここで、該反応は硫酸中で液相で行われる。有利な一実施態様において、該反応は硫酸及び出発化合物以外の液体化合物の不在で行われる。これにより、硫酸の不所望な希釈及び活性の低減を回避することができる。
【0032】
該反応は、有利には強力な混合下に行われる。混合法として、全ての慣用の方法、特に撹拌が該当する。混合は該反応の前及び/又は間に行うことができる。さらに、該反応の実施に関しては、反応を液相で実施するための当業者に公知の全ての方法が考慮され、その際、反応器材料の選択に関しては反応条件を考慮する必要がある。該反応を実施するための有利な実施態様は、撹拌槽型反応器、又は引き続く滞留時間反応器を有するスタティックミキサーである。
【0033】
4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法
本発明による一実施態様において、上記の4−クロロベンゼンスルホン酸の製造法は、モノクロロベンゼンから出発する4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法に組み込まれる。これによって4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法の収率が向上する。
【0034】
従って本発明の一対象は、本発明による4−クロロベンゼンスルホン酸の製造法を含む、モノクロロベンゼンから出発する4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法である。4−クロロベンゼンスルホン酸の製造法の範囲内に記載された全ての有利な実施態様を、有利に4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法に組み込むことができる。必要条件は単に、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法が中間生成物としての4−クロロベンゼンスルホン酸を経由して進行することのみである。
【0035】
該反応の範囲内で、中間生成物としての4−クロロベンゼンスルホン酸を経由して進行する、モノクロロベンゼンからの4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの全ての製造法において、所望の4,4’−ジクロロジフェニルスルホンと、不適当な異性体である2,4’−ジクロロジフェニルスルホン及び3,4’−ジクロロジフェニルスルホンの双方のうち少なくとも1つ、通常はそのいずれもと、さらに通常は2−クロロベンゼンスルホン酸、3−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は4−クロロベンゼンスルホン酸とからの混合物が生じる。
【0036】
有利な一実施態様において、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法は、少なくとも以下の工程:
(a)モノクロロベンゼンを、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンと、2,4’−ジクロロジフェニルスルホン及び3,4’−ジクロロジフェニルスルホンから選択された少なくとも1の化合物とを含む混合物に変換し、その際、中間生成物として4−クロロベンゼンスルホン酸が生じる工程、
(b)4,4’−ジクロロジフェニルスルホンを工程(a)において得られた混合物から少なくとも部分的に分離する工程、
(c)2,4’−ジクロロジフェニルスルホン及び/又は3,4’−ジクロロジフェニルスルホン並びに場合により4,4’−ジクロロジフェニルスルホンを、硫酸の存在で、モノクロロベンゼンスルホン酸からの異性体混合物へと分解する工程、
(d)同時にか又は引き続き、工程(c)において得られたモノクロロベンゼンスルホン酸からの異性体混合物を、本発明による2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸からの4−クロロベンゼンスルホン酸の製造法により4−クロロベンゼンスルホン酸に変換する工程、及び
(e)工程(d)において得られた4−クロロベンゼンスルホン酸を、工程(a)による再度の反応下に少なくとも部分的に返送する工程
を含む。
【0037】
上記工程(a)は、モノクロロベンゼンから、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンと、2,4’−ジクロロジフェニルスルホン及び3,4’−ジクロロジフェニルスルホンから選択された少なくとも1の化合物とからの混合物への変換に関する。原則的に、本発明による方法の範囲内で、モノクロロベンゼンから出発し、かつ中間生成物としての4−クロロベンゼンスルホン酸を経由して進行する、公知の全ての4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法が該当する。相応する方法は当業者に公知である。
【0038】
通常は、モノクロロベンゼンとスルホン化剤との反応は、4−クロロベンゼンスルホン酸の形成下に行われる。しかしながらこの場合、それ自体不所望な副生成物として、上記のモノクロロベンゼンスルホン酸の不適当な異性体が必ず生じる。次いで、4−クロロベンゼンスルホン酸及び異性体である2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸とモノクロロベンゼンとが反応して4,4’−ジクロロジフェニルスルホンに変換され、その際、上記のジクロロジフェニルスルホンの不適当な異性体が形成される。モノクロロベンゼンスルホン酸の形成を、単離されない中間生成物として行うこともできる。
【0039】
有利な第一の実施態様において、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造は、向流塔中での4−クロロベンゼンスルホン酸とモノクロロベンゼンとの反応により行われ、その際、反応水は塔底にガス状で添加される芳香族化合物により連続的に塔頂を経由してストリッピングされる。4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの合成に関して、塔頂で4−クロロベンゼンスルホン酸又は硫酸を添加することもできる。後者は塔内でモノクロロベンゼンと反応してまずモノクロロベンゼンスルホン酸に変換され、これは引き続き同様にモノクロロベンゼンと反応してジクロロジフェニルスルホンに変換される。相応する方法は例えばUS2,593,001に記載されており、その内容はこれをもって全範囲が取り入れられる。
【0040】
第二の有利な実施態様において、ジクロロジフェニルスルホンの製造は、SO3、ジメチルスルフェート及びモノクロロベンゼンの使用下に行われる。この場合、まず穏やかな条件で、SO3とジメチルスルフェートとが2:1のモル比で反応する。ここで、SO3の一部はジメチルスルフェートと反応して、相応するポリスルフェートに変換される。残りのSO3は、生じる液体中に溶解した状態で残存する。この混合物は引き続き100℃を下回る温度でモノクロロベンゼンと混合される(SO3 2モル及びジメチルスルフェート1モルにつき、モノクロロベンゼン2モル)。溶解したSO3、ジメチルピロスルフェート及びモノクロロベンゼンから、ジクロロジフェニルスルホン1モル及びモノメチルスルフェート2モルが生じる。この反応混合物は引き続き水中に通される。ジクロロジフェニルスルホンが沈殿する。これは濾別、乾燥される。相応する方法は例えばUS2,971,985に記載されており、その内容はこれをもって全範囲が取り入れられる。
【0041】
工程(a)の範囲内で、引き続き場合により反応生成物の後処理を当業者に公知の方法で行うことができる。後処理とは、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの回収及び場合により後精製と理解される。相応する方法は、工程(a)の実施様式に依存し、かつ同様に当業者に公知である。
【0042】
一実施態様において、反応混合物の分離は、水の添加及び生じる2つの液相の分離により行われる。水相は未反応のモノクロロベンゼンスルホン酸を含有している。水は蒸発され、モノクロロベンゼンスルホン酸は装入原料として回収される。次いで、主にモノクロロベンゼンとジクロロジフェニルスルホンとからなる有機相からジクロロジフェニルスルホンを単離することができる。相応する方法は例えばUS4,937,387に記載されており、その内容はこれをもって全範囲が取り入れられる。ジクロロジフェニルスルホンの不適当な異性体の分離に関しては、工程(b)を参照のこと。
【0043】
2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸とモノクロロベンゼンとのさらなる反応により、不所望の異性体である2,4’−ジクロロジフェニルスルホン及び/又は3,4’−ジクロロジフェニルスルホンが生じる。
【0044】
工程(a)に引き続き、工程(b)の範囲内で4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの分離が行われる。
【0045】
この4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの分離は不可欠であり、それというのも、これはすでに最終的に本発明により得られる最終生成物の大部分であり、工程(c)におけるさらなる反応から実質的に排除すべきであるためである。工程(c)〜(e)は、特に工程(a)の収率の向上に寄与する。
【0046】
4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの相応する分離法は当業者に公知である。この分離は、上記の通り例えばクロマトグラフィーにより行うことができる。有利には、この分離は例えばEP279387に記載されているような晶析により行われ、その内容はこれをもって全範囲が取り入れられる。
【0047】
ここで、2,4’−ジクロロジフェニルスルホン及び/又は3,4’−ジクロロジフェニルスルホン並びに場合により2−クロロベンゼンスルホン酸、3−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は4−クロロベンゼンスルホン酸を含有する、少なくとも部分的に4,4’−ジクロロジフェニルスルホンが除去された混合物を、さらなる後処理なしに工程(c)へ供給することが有利である。しかしながらもう1つの別の実施態様において、中間工程において2−クロロベンゼンスルホン酸、3−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は4−クロロベンゼンスルホン酸を分離し、かつ4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの不適当な異性体のみを工程(c)に供給し、かつ分離されたモノクロロベンゼンスルホン酸を方法において再利用することも可能である。
【0048】
工程(b)に引き続いてかつ工程(c)が実施される前に、有利にはクロロベンゼンの分離が行われる。クロロベンゼンの相応する分離法は当業者に公知であり、その際、特に蒸留が好適である。これにより、さらなる反応によって不所望なさらなるクロロベンゼンスルホン酸がモノクロロベンゼンから生じることが妨げられる。
【0049】
引き続き、工程(c)において、2,4’−ジクロロジフェニルスルホン及び/又は3,4’−ジクロロジフェニルスルホンが、硫酸の存在で、モノクロロベンゼンスルホン酸からの異性体混合物の形成下に分解される。
【0050】
有利には、工程(c)で使用される硫酸は、使用される硫酸の全質量に対して90〜100質量%、特に有利には93〜100質量%、特に94〜98質量%、極めて特に有利には96質量%の濃度を有している。有利には、反応は硫酸中で液相で行われる。
【0051】
工程(c)の温度は広範囲にわたって変動してよい。しかしながら、硫酸での分解は少なくとも100℃の温度で実施されることが有利であり、それというのも、さもなくば分解速度が低すぎてしまうためである。有利には、工程(c)は100℃〜300℃、特に140℃〜250℃、特に有利には160℃〜230℃の温度で実施される。
【0052】
原則的に、工程(c)による反応の持続時間は広い期間にわたって変動してよい。該反応の持続時間とは、その範囲内で本発明による条件が満たされるような時間であると理解される。該反応の期間は、有利には5分〜12時間、特に15分〜3時間、特に有利には30分〜2時間である。
【0053】
使用される硫酸の量は、広範囲にわたって変動してよい。しかしながら、ジクロロジフェニルスルホンに対する酸のモル比が少なくとも1である場合に有利であることが判明した。有利には、硫酸はジクロロジフェニルスルホンの量に対して1〜100、特に2〜20、特に有利には3〜15のモル比で使用される。
【0054】
工程(c)の反応は、有利には好適な容器及び/又は反応器中での強力な混合下に行われる。相応する方法は当業者に公知であり、当該反応条件の顧慮下に行われる。
【0055】
工程(c)と同時に、又は工程(c)に引き続き、工程(d)の範囲内で、異性体混合物から4−クロロベンゼンスルホン酸への本発明による反応が行われる。相応する実施態様は上記されている。基本的に、有利であるとされた全ての実施態様を用いることができる。
【0056】
工程(d)は、有利には工程(c)に引き続き、反応条件の適合下に実施される。しかしながら、基本的には工程(d)と工程(c)とを同時に実施することも可能である。この場合、工程(c)の条件は、同時に、2−モノクロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−モノクロロベンゼンスルホン酸から出発する本発明による4−モノクロロベンゼンスルホン酸の製造法が実施されるように調整される。この場合当業者は、上記の有利な反応期間を加えることにより、工程(c)と(d)との組合せの期間を相応して選択する。工程(c)と(d)との同時の実施は、同一の条件下でのシーケンシャルな実施と同義である。この場合、本発明によれば、この組み合わせた工程を硫酸の存在で100℃〜300℃の温度で実施することが必要である、有利な実施態様は、4−クロロベンゼンスルホン酸の製造法の範囲内で説明されている。
【0057】
しかしながら、まず工程(c)を実施し、次いで工程(d)を実施するのが有利であり、その際、これら2つの工程は反応条件が異なる。その場合、工程(d)への移行は反応条件を変化させることによって行われる。
【0058】
従って有利には、所望の条件を工程(c)から出発して工程(d)により必要な条件へと適合させることによって、工程(c)から工程(d)への移行が行われる。この条件の適合は有利には硫酸の濃度に関連し、この濃度は工程(d)において有利には80〜90質量%、特に82〜88質量%、特に有利には83〜87質量%である。工程(c)において使用される硫酸の濃度は、有利には90〜100質量%、特に有利には93〜100質量%、特に94〜97質量%、極めて特に有利には96質量%である。硫酸の濃度の適合は、特に水での希釈、即ち水の添加により行われる。
【0059】
基本的に、工程(c)から生じる反応搬出物を単離し、次いで工程(d)の範囲内で使用することも可能である。しかしながら、工程(d)を工程(c)に引き続いて実施するのが有利である。
【0060】
工程(e)の範囲内で、引き続き、工程(d)で得られた4−クロロベンゼンスルホン酸の少なくとも部分的な返送が、有利には分離後に工程(a)による再度の反応下に行われる。それゆえに、得られた4−クロロベンゼンスルホン酸は、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの収率向上のために使用される。4−クロロベンゼンスルホン酸の分離は、有利には抽出又は沈殿により、特に有利には晶析により行われる。
【実施例】
【0061】
比較例1
2,4−ジクロロジフェニルスルホン1g(3.5ミリモル)を濃硫酸(96質量%)10ml(18.4g、180ミリモルに相当)中に懸濁させ、170℃で3時間撹拌した。
【0062】
反応時間が3時間経過した後、反応搬出物中にはジクロロジフェニルスルホン及びモノクロロベンゼンは存在していなかった。HPLC分析によれば、反応生成物は2−、3−及び4−クロロベンゼンスルホン酸からの混合物を含有していた。異性化の代わりに、専らジクロロジフェニルスルホンの分解生成物のみが得られた。ジクロロジフェニルスルホンの異性化は、この方法では不可能である。
【0063】
比較例2
2,4−ジクロロジフェニルスルホン1g(3.5ミリモル)及び3,4−ジクロロジフェニルスルホン1g(3.5ミリモル)を85%硫酸4.8g(42ミリモル)中に懸濁させ、190℃で13時間撹拌した。HPLC分析によれば、2,4’−ジクロロジフェニルスルホン0.5質量%、3,4’−ジクロロジフェニルスルホン94.5質量%及び4,4’−ジクロロジフェニルスルホン3.3質量%からなる反応生成物が得られた。
【0064】
従って、主生成物は不所望な3,4’−ジクロロジフェニルスルホンであった。4,4’−ジクロロジフェニルスルホンは極めてわずかな程度で生じるに過ぎなかった。
【0065】
実施例3
2−クロロベンゼンスルホン酸1g(5.2ミリモル)を85%硫酸4.8g(42ミリモル)中に懸濁させ、190℃で撹拌した。この反応を、10、60ないし180分後に冷却及びDMSO−D6による希釈により中断した。組成を1H−NMRにより決定した(結果を第1表に示す)。
【0066】
【表1】

【0067】
その結果、190℃で3当量の85%硫酸中の2−クロロベンゼンスルホン酸から出発して4−クロロベンゼンスルホン酸が得られたが、相応する量の3−クロロベンゼンスルホン酸は反応搬出物中には認められなかった。
【0068】
従って、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの不適当な異性体の返送は、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの不適当な異性体の分解、及びこれに引き続く4−クロロベンゼンスルホン酸の富化下でのモノクロロベンゼンスルホン酸の異性化により可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸を、硫酸の存在で100〜300℃の温度で反応させて4−クロロベンゼンスルホン酸に変換することを含む、2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸からの4−クロロベンゼンスルホン酸の製造法。
【請求項2】
反応を、2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸並びに場合により4−クロロベンゼンスルホン酸を含むモノクロロベンゼンスルホン酸の異性体混合物から出発して行う、請求項1記載の方法。
【請求項3】
反応を、2−クロロベンゼンスルホン酸を含むモノクロロベンゼンスルホン酸の異性体混合物から出発して行う、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
反応を、モノクロロベンゼンスルホン酸の異性体混合物から出発して、4−クロロベンゼンスルホン酸の存在で、異性体混合物中での4−クロロベンゼンスルホン酸の割合の増大下に行う、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
反応の温度が150℃〜250℃、特に170℃〜210℃である、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
硫酸を、モノクロロベンゼンスルホン酸の量に対して1〜100、特に2〜20のモル比で使用する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
硫酸が80〜90質量%、特に83〜87質量%の濃度を有している、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
反応を15分〜3時間の期間にわたって行う、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8までの少なくともいずれか1項記載の方法を含む、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法。
【請求項10】
以下の工程:
(a)モノクロロベンゼンを、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンと、2,4’−ジクロロジフェニルスルホン及び3,4’−ジクロロジフェニルスルホンから選択された少なくとも1の化合物とを含む混合物に変換し、その際、中間生成物として4−クロロベンゼンスルホン酸が生じる工程、
(b)4,4’−ジクロロジフェニルスルホンを、工程(a)で得られた混合物から少なくとも部分的に分離する工程、
(c)2,4’−ジクロロジフェニルスルホン及び/又は3,4’−ジクロロジフェニルスルホン並びに場合により4,4’−ジクロロジフェニルスルホンを、硫酸の存在で、モノクロロベンゼンスルホン酸の異性体混合物の形成下に分解する工程、
(d)工程(c)と同時に、又は工程(c)に引き続き、2−クロロベンゼンスルホン酸及び/又は3−クロロベンゼンスルホン酸を、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法により4−クロロベンゼンスルホン酸に変換する工程、及び、
(e)工程(d)で得られた4−クロロベンゼンスルホン酸を、工程(a)による再度の反応下に少なくとも部分的に返送する工程
をa−b−c−d−eの順序で含む、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンの製造法。
【請求項11】
工程(c)において使用する硫酸が、90〜100質量%、特に93〜100質量%の濃度を有している、請求項10記載の方法。
【請求項12】
硫酸が、工程(d)の範囲内で、80〜100質量%、特に82〜88質量%の濃度を有している、請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
工程(d)を工程(c)に引き続いて行う、請求項10から12までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2013−521248(P2013−521248A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555397(P2012−555397)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【国際出願番号】PCT/EP2011/053010
【国際公開番号】WO2011/107465
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】