説明

4−フルオロプロリン誘導体の製造方法

【課題】医薬の重要中間体である4−フルオロプロリン誘導体の実用的な製造方法を提供する。
【解決手段】4−ヒドロキシプロリン保護体を有機塩基と「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の存在下にトリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させることによりなる。本製造方法の特徴は、フッ素置換で必要となるフッ素源[フッ素アニオン(F-)]の存在下にトリフルオロメタンスルホニル化を行うことにより、目的とする4−フルオロプロリン誘導体が極めて高い収率で得られることにある。また本発明で使用するフッ素源である「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」、特に「トリエチルアミンとフッ化水素からなる塩または錯体」は、大規模での入手が容易なだけでなく安価に利用することもできるため、実用的な製造方法という観点からも有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の重要中間体である4−フルオロプロリン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明で対象とする4−フルオロプロリン誘導体の従来の代表的な製造方法を以下に挙げる。1)4−ヒドロキシプロリン保護体をDAST[(C252NSF3]で脱ヒドロキシフッ素化する方法(非特許文献1)と、2)4−ヒドロキシプロリン保護体をトリフルオロメタンスルホン酸無水物で対応するトリフルオロメタンスルホン酸エステル誘導体に変換し、該エステル誘導体を単離した後、テトラエチルアンモニウムフルオリド(18F)でフッ素置換する方法(非特許文献2)が報告されている。
【非特許文献1】Tetrahedron Letters(英国),1998年,第39巻,第10号,p.1169−1172
【非特許文献2】Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals(米国),1983年,第20巻,第4号,p.453−461
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、医薬の重要中間体である4−フルオロプロリン誘導体の実用的な製造方法を提供することにある。
【0004】
非特許文献1の製造方法では、非常に高価で且つ大量の取扱いに不向きなDASTを使用する必要があった。
【0005】
一方、非特許文献2の製造方法は、4−ヒドロキシプロリン保護体を一旦、中間体であるトリフルオロメタンスルホン酸エステル誘導体に誘導し、該エステル誘導体を単離した後に、フッ素置換を行うものであるが、収率が十分ではなく、またフッ素化剤として、大規模での入手が困難なテトラエチルアンモニウムフルオリドを使用する必要もあった。
【0006】
この様に、4−フルオロプロリン誘導体を実用的に製造できる方法が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、4−ヒドロキシプロリン保護体を有機塩基と「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の存在下にトリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させることにより、4−フルオロプロリン誘導体が、従来技術よりも格段に高収率で製造できることを見出した。
【0008】
本発明の製造方法では、先ず4位のヒドロキシル基が立体化学を保持した状態でトリフルオロメタンスルホニル化され、引き続いて生成したトリフルオロメタンスルホン酸エステル誘導体のフッ素置換が立体反転で進行する(スキーム1を参照)。
【0009】
【化7】

本製造方法の特徴は、フッ素置換で必要となるフッ素源[フッ素アニオン(F-)]の存在下に、トリフルオロメタンスルホニル化を行い、トリフルオロメタンスルホニル化反応と、フッ素置換とを同時に進行させることにある。この方法によって、目的とする4−フルオロプロリン誘導体の収率が劇的に向上することがわかった。
【0010】
非特許文献2の製造方法の様に、中間体であるトリフルオロメタンスルホン酸エステル誘導体を一度、単離してからフッ素置換を行う方法(この方法を「ステップbyステップ法」という)では、反応の変換率および選択率が低く、目的とする4−フルオロプロリン誘導体を収率良く得ることが難しい(比較例2を参照)。これとは別に、トリフルオロメタンスルホニル化の終点を見計らい、その後、同一反応器内にフッ素源を加えてフッ素置換を行う方法(この方法を「ワンポット法」という)でも、満足な収率で目的物を得ることは難しい(比較例1を参照)。
【0011】
すなわち、本発明は、一般式[1]
【0012】
【化8】

[式中、Rは二級アミノ基の保護基を表し、R1はカルボキシル基の保護基を表し、*は不斉炭素を表す]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体を有機塩基と「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の存在下にトリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させることにより、一般式[2]
【0013】
【化9】

[式中、Rは二級アミノ基の保護基を表し、R1はカルボキシル基の保護基を表し、*は不斉炭素を表し、反応を通して4位の立体化学は反転し、2位の立体化学は保持される]で示される4−フルオロプロリン誘導体を製造する方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、一般式[1]
【0015】
【化10】

[式中、Rは二級アミノ基の保護基を表し、R1はカルボキシル基の保護基を表し、*は不斉炭素を表す]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体をトリエチルアミンと「トリエチルアミンとフッ化水素からなる塩または錯体」の存在下にトリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させることにより、一般式[2]
【0016】
【化11】

[式中、Rは二級アミノ基の保護基を表し、R1はカルボキシル基の保護基を表し、*は不斉炭素を表し、反応を通して4位の立体化学は反転し、2位の立体化学は保持される]で示される4−フルオロプロリン誘導体を製造する方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、式[3]
【0018】
【化12】

[式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を表す]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体をトリエチルアミンと「トリエチルアミンとフッ化水素からなる塩または錯体」の存在下にトリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させることにより、式[4]
【0019】
【化13】

[式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を表す]で示される4−フルオロプロリン誘導体を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法が従来の製造技術に比べて有利な点を以下に挙げる。非特許文献1の製造方法に対しては、DASTの様な非常に高価で且つ大量の取扱いに不向きな試薬を使用する必要がない。非特許文献2の製造方法に対しては、テトラエチルアンモニウムフルオリドの様な大規模での入手が困難な試薬を使用する必要がなく、また目的とする4−フルオロプロリン誘導体を極めて高い収率で得ることができる。また本発明で使用するフッ素源である「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」、特に「トリエチルアミンとフッ化水素からなる塩または錯体」は、大規模での入手が容易なだけでなく安価に利用することもできるため、実用的な製造方法という観点からも有利である。さらに本発明の製造方法は選択性が高く分離の難しい不純物を殆ど副生しないため、4−フルオロプロリン誘導体を工業的に製造するための極めて有効な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の4−フルオロプロリン誘導体の製造方法について詳細に説明する。
【0022】
本製造方法は、一般式[1]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体を有機塩基と「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の存在下にトリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させることによりなる。本反応を通して4位の立体化学は反転し、2位の立体化学は保持される。従って4−ヒドロキシプロリン保護体の4R/2R体からは4−フルオロプロリン誘導体の4S/2R体が得られ、同様に4S/2R体からは4R/2R体が、4R/2S体からは4S/2S体が、4S/2S体からは4R/2S体がそれぞれ得られる。
【0023】
一般式[1]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体の二級アミノ基の保護基Rとしては、ベンジルオキシカルボニル(Z)基、tert−ブトキシカルボニル(Boc)基、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基、3−ニトロ−2−ピリジンスルフェニル(Npys)基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル[Z(OMe)]基等が挙げられる。その中でもベンジルオキシカルボニル(Z)基およびtert−ブトキシカルボニル(Boc)基が好ましく、特にtert−ブトキシカルボニル(Boc)基がより好ましい。
【0024】
一般式[1]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体のカルボキシル基の保護基R1としては、メチル(Me)基、エチル(Et)基、tert−ブチル(t−Bu)基、トリクロロエチル(Tce)基、フェナシル(Pac)基、ベンジル(Bzl)基、4−ニトロベンジル[Bzl(4−NO2)]基、4−メトキシベンジル[Bzl(4−OMe)]基等が挙げられる。その中でもメチル(Me)基およびエチル(Et)基が好ましく、特にメチル(Me)基がより好ましい。
【0025】
一般式[1]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体は、第4版 実験化学講座 22 有機合成IV 酸・アミノ酸・ペプチド(丸善、1992年、p.193−309)を参考にして、市販の4−ヒドロキシプロリンから製造することができる。また二級アミノ基の保護基Rとカルボキシル基の保護基R1の組み合わせによっては市販されているものがあり、これらを使用することもできる。また式[3]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体[二級アミノ基の保護基Rがtert−ブトキシカルボニル(Boc)基、カルボキシル基の保護基R1がメチル(Me)基]は、非特許文献1に従い、4−ヒドロキシプロリンメチルエステルの塩酸塩から製造することができる。一般式[1]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体の不斉炭素の立体化学としては、4位と2位がそれぞれ独立にR体またはS体を採ることができ、立体化学の組み合わせとしては、4R/2R体、4S/2R体、4R/2S体または4S/2S体があり、各立体異性体のエナンチオマー過剰率(%ee)またはジアステレオマー過剰率(%de)としては、特に制限はないが、通常は90%eeまたは90%de以上のものを使用すればよく、95%eeまたは95%de以上が好ましく、特に97%eeまたは97%de以上がより好ましい。
【0026】
トリフルオロメタンスルホン酸無水物の使用量としては、特に制限はないが、通常は一般式[1]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体1モルに対して1モル以上を使用すればよく、1〜5モルが好ましく、特に1〜3モルがより好ましい。
【0027】
有機塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、ピリジン、2,3−ルチジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、3,4−ルチジン、3,5−ルチジン、2,4,6−コリジン、3,5,6−コリジン等が挙げられる。その中でもトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、3,5−ルチジンおよび2,4,6−コリジンが好ましく、特にトリエチルアミンがより好ましい。
【0028】
有機塩基の使用量としては、特に制限はないが、通常は一般式[1]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体1モルに対して1モル以上を使用すればよく、1〜30モルが好ましく、特に1〜15モルがより好ましい。
【0029】
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の有機塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、ピリジン、2,3−ルチジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、3,4−ルチジン、3,5−ルチジン、2,4,6−コリジン、3,5,6−コリジン等が挙げられる。その中でもトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、3,5−ルチジンおよび2,4,6−コリジンが好ましく、特にトリエチルアミンがより好ましい。
【0030】
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の有機塩基とフッ化水素のモル比としては、特に制限はないが、通常は100:1〜1:100の範囲のものを使用すればよく、50:1〜1:50が好ましく、特に25:1〜1:25がより好ましい。
【0031】
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の調製方法としては、特に制限はないが、通常は冷却下に有機塩基とフッ化水素を任意の割合で混合すればよい。またアルドリッチ(Aldrich、2003−2004総合カタログ)から市販されている「トリエチルアミン1モルとフッ化水素3モルからなる錯体」を利用するのが便利である。さらに反応溶媒に一般式[1]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体、有機塩基および"「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」を構成する有機塩基だけ"を予め溶解し、冷却下に"「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」を構成するフッ化水素だけ"を加えて反応器内で調製することもできる。
【0032】
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の使用量としては、特に制限はないが、通常は一般式[1]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体1モルに対してフッ素アニオン(F-)として1モル以上を使用すればよく、1〜30モルが好ましく、特に1〜15モルがより好ましい。
【0033】
反応溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。その中でもn−ヘプタン、トルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリルおよびジメチルスルホキシドが好ましく、特にトルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミドおよびアセトニトリルがより好ましい。これらの反応溶媒は単独または組み合わせて使用することができる。
【0034】
反応溶媒の使用量としては、特に制限はないが、通常は一般式[1]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体1モルに対して0.1L(リットル)以上を使用すればよく、0.2〜10Lが好ましく、特に0.3〜5Lがより好ましい。
【0035】
原料基質および各種反応剤等の仕込み方法としては、通常は反応溶媒に一般式[1]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体および有機塩基を溶解し、冷却下に先ず「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」を加え、引き続いてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を加えて反応を行えばよいが、反応溶媒に一般式[1]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体、有機塩基および"「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」を構成する有機塩基だけ"を予め溶解し、冷却下に先ず"「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」を構成するフッ化水素だけ"を加えて反応器内で「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」を調製し、引き続いてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を加えて反応を行ってもよい。ここでは反応器内に予めフッ素置換で必要となるフッ素源[フッ素アニオン(F-)]を加えておくことが望ましい。
【0036】
本反応は常圧(大気圧)下または、耐圧反応容器等を使用して密閉(加圧)下で行うことができる。後者の場合には、必要に応じて各種反応剤を加圧下で加えることもできる。
【0037】
温度条件としては、特に制限はないが、通常は−100〜+100℃の範囲内で行えばよく、−80〜+80℃が好ましく、特に−60〜+60℃がより好ましい。
【0038】
反応時間としては、特に制限はないが、通常は24時間以内の範囲で行えばよく、原料基質、各種反応剤および反応条件等により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、NMR等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を終点とするのが好ましい。
【0039】
後処理としては、特に制限はないが、通常は反応終了液をアルカリ金属の無機塩基(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム等)の水溶液に注ぎ込み、有機溶媒(例えば、トルエン、塩化メチレンまたは酢酸エチル等)で抽出することにより、目的とする一般式[2]で示される4−フルオロプロリン誘導体の粗生成物を得ることができる。また必要に応じて、活性炭処理、再結晶、蒸留またはカラムクロマトグラフィー等により、高い化学純度に精製することができる。
【0040】
さらに得られた4−フルオロプロリン誘導体の二級アミノ基の保護基Rとカルボキシル基の保護基R1を選択的に、または同時に脱保護することにより、一般式[5]
【0041】
【化14】

[式中、R1はカルボキシル基の保護基を表し、*は不斉炭素を表し、反応を通して4位および2位の立体化学は保持される]で示される4−フルオロプロリンのカルボキシル基保護体、一般式[6]
【0042】
【化15】

[式中、Rは二級アミノ基の保護基を表し、*は不斉炭素を表し、反応を通して4位および2位の立体化学は保持される]で示される4−フルオロプロリンの二級アミノ基保護体、または式[7]
【0043】
【化16】

[式中、*は不斉炭素を表し、反応を通して4位および2位の立体化学は保持される]で示される4−フルオロプロリンが製造できる。二級アミノ基の保護基Rとカルボキシル基の保護基R1の脱保護反応は、第4版 実験化学講座 22 有機合成IV 酸・アミノ酸・ペプチド(丸善、1992年、p.193−309)を参考にして行うことができる。また式[4]で示される4−フルオロプロリン誘導体[二級アミノ基の保護基Rがtert−ブトキシカルボニル(Boc)基、カルボキシル基の保護基R1がメチル(Me)基]からは、非特許文献1に従い、式[8]
【0044】
【化17】

[式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を表す]で示される4−フルオロプロリンの二級アミノ基保護体が製造できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
アセトニトリル286mLに、下記式
【0046】
【化18】

で示される4−ヒドロキシプロリン保護体55.4g(0.226mol、1.00eq)およびトリエチルアミン150.3g(1.485mol、6.57eq)を加えた。内温を−10℃に冷却して、先ずトリエチルアミン・三フッ化水素錯体110.5g[フッ素アニオン(F-)として2.056mol、9.10eq]を加え、引き続いてトリフルオロメタンスルホン酸無水物77.3g(0.274mol、1.21eq)を加え、室温で終夜攪拌した。反応の変換率および選択率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、それぞれ98.3%、92.2%であった。反応終了液を炭酸カリウムの水溶液[炭酸カリウム380.0g(2.749mol、12.16eq)と水1300mLから調製]に注ぎ込み、トルエン250mLで2回抽出した。回収有機層を10%食塩水250mLで2回洗浄し、減圧下濃縮し、真空乾燥し、下記式
【0047】
【化19】

で示される4−フルオロプロリン誘導体の粗生成物を濃褐色の油状物質として64.2g得た。粗生成物に含まれる目的化合物を19F−NMRにより内部標準法(内部標準物質:C66)で定量したところ、48.1gであり、従って収率は86%であった。4−フルオロプロリン誘導体の1H−NMRおよび19F−NMRスペクトルを下に示す(Boc基に起因する異性体の混合物として帰属)。
1H−NMR(基準物質:(CH34Si,重溶媒:CDCl3),δ ppm:1.43&1.49(s×2,トータル9H),1.95−2.55(トータル2H),3.51−3.94(トータル2H),3.75(S,3H),4.36−4.58(トータル1H),5.10−5.31(トータル1H).
19F−NMR(基準物質:C66,重溶媒:CDCl3),δ ppm:−11.27(トータル1F).
[実施例2]
アセトニトリル150mLに、下記式
【0048】
【化20】

で示される4−ヒドロキシプロリン保護体37.3g(0.152mol、1.00eq)およびトリエチルアミン131.0g(1.295mol、8.52eq)を加えた。内温を−10℃に冷却して、先ずフッ化水素18.2g(0.910mol、5.99eq)を加え、引き続いてトリフルオロメタンスルホン酸無水物51.3g(0.182mol、1.20eq)を加え、室温から40℃で終夜攪拌した。反応の変換率および選択率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、それぞれ100%、89.9%であった。反応終了液を炭酸カリウムの水溶液[炭酸カリウム94.5g(0.684mol、4.50eq)と水600mLから調製]に注ぎ込み、トルエン160mLで2回抽出した。回収有機層を15%食塩水150mLで洗浄し、水150mLで2回洗浄し、減圧下濃縮し、真空乾燥し、下記式
【0049】
【化21】

で示される4−フルオロプロリン誘導体の粗生成物を濃褐色の油状物質として40.8g得た。粗生成物に含まれる目的化合物を19F−NMRにより内部標準法(内部標準物質:C66)で定量したところ、30.9gであり、従って収率は82%であった。4−フルオロプロリン誘導体の1H−NMRおよび19F−NMRスペクトルは実施例1で得られたものと同様であった。
[比較例1]
アセトニトリル150mLに、下記式
【0050】
【化22】

で示される4−ヒドロキシプロリン保護体37.3g(0.152mol、1.00eq)およびトリエチルアミン100.0g(0.988mol、6.50eq)を加えた。内温を−20℃に冷却して、先ずトリフルオロメタンスルホン酸無水物51.3g(0.182mol、1.20eq)を加え、−20℃で1時間10分攪拌した。その後、トリエチルアミン・三フッ化水素錯体49.0g[フッ素アニオン(F-)として0.912mol、6.00eq]を加え、室温で終夜攪拌した。反応の変換率および選択率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、それぞれ42.9%、38.4%であった。反応終了液を炭酸カリウムの水溶液[炭酸カリウム94.5g(0.684mol、4.50eq)と水600mLから調製]に注ぎ込み、トルエン160mLで2回抽出した。回収有機層を15%食塩水150mLで洗浄し、水150mLで2回洗浄し、減圧下濃縮し、真空乾燥し、下記式
【0051】
【化23】

で示される4−フルオロプロリン誘導体の粗生成物を濃褐色の油状物質として37.6g得た。粗生成物に含まれる目的化合物を19F−NMRにより内部標準法(内部標準物質:C66)で定量したところ、4.2gであり、従って収率は11%であった。4−フルオロプロリン誘導体の1H−NMRおよび19F−NMRスペクトルは実施例1で得られたものと同様であった。
[比較例2]
アセトニトリル150mLに、下記式
【0052】
【化24】

で示される4−ヒドロキシプロリン保護体37.3g(0.152mol、1.00eq)およびトリエチルアミン38.5g(0.380mol、2.50eq)を加えた。内温を−15℃に冷却して、トリフルオロメタンスルホン酸無水物51.3g(0.182mol、1.20eq)を加え、−15℃で1時間30分攪拌した。反応終了液を炭酸カリウムの水溶液[炭酸カリウム15.8g(0.114mol、0.75eq)と水200mLから調製]に注ぎ込み、トルエン160mLで2回抽出した。回収有機層を15%食塩水150mLで洗浄し、減圧下濃縮し、真空乾燥し、下記式
【0053】
【化25】

で示されるトリフルオロメタンスルホン酸エステル誘導体の粗生成物を濃褐色の油状物質として56.9g得た。
【0054】
引き続いてアセトニトリル150mLに、該粗生成物全量(0.152molとする、1.00eq)およびトリエチルアミン61.5g(0.608mol、4.00eq)を加えた。内温を−10℃に冷却して、トリエチルアミン・三フッ化水素錯体49.0g[フッ素アニオン(F-)として0.912mol、6.00eq]を加え、室温で終夜攪拌した。反応の変換率および選択率をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、それぞれ66.3%、25.4%であった。反応終了液を炭酸カリウムの水溶液[炭酸カリウム73.5g(0.532mol、3.50eq)と水400mLから調製]に注ぎ込み、トルエン160mLで2回抽出した。回収有機層を15%食塩水150mLで洗浄し、水150mLで2回洗浄し、減圧下濃縮し、真空乾燥し、下記式
【0055】
【化26】

で示される4−フルオロプロリン誘導体の粗生成物を濃褐色の油状物質として35.3g得た。粗生成物に含まれる目的化合物を19F−NMRにより内部標準法(内部標準物質:C66)で定量したところ、4.4gであり、従って収率は12%であった。4−フルオロプロリン誘導体の1H−NMRおよび19F−NMRスペクトルは実施例1で得られたものと同様であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]
【化1】


[式中、Rは二級アミノ基の保護基を表し、R1はカルボキシル基の保護基を表し、*は不斉炭素を表す]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体を有機塩基と「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の存在下にトリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させることにより、一般式[2]
【化2】


[式中、Rは二級アミノ基の保護基を表し、R1はカルボキシル基の保護基を表し、*は不斉炭素を表し、反応を通して4位の立体化学は反転し、2位の立体化学は保持される]で示される4−フルオロプロリン誘導体を製造する方法。
【請求項2】
一般式[1]
【化3】


[式中、Rは二級アミノ基の保護基を表し、R1はカルボキシル基の保護基を表し、*は不斉炭素を表す]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体をトリエチルアミンと「トリエチルアミンとフッ化水素からなる塩または錯体」の存在下にトリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させることにより、一般式[2]
【化4】


[式中、Rは二級アミノ基の保護基を表し、R1はカルボキシル基の保護基を表し、*は不斉炭素を表し、反応を通して4位の立体化学は反転し、2位の立体化学は保持される]で示される4−フルオロプロリン誘導体を製造する方法。
【請求項3】
式[3]
【化5】


[式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を表す]で示される4−ヒドロキシプロリン保護体をトリエチルアミンと「トリエチルアミンとフッ化水素からなる塩または錯体」の存在下にトリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させることにより、式[4]
【化6】


[式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル基を表す]で示される4−フルオロプロリン誘導体を製造する方法。



【公開番号】特開2007−1877(P2007−1877A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180359(P2005−180359)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】