説明

4芯単一モード光ファイバおよび光ケーブル

【課題】光ファイバ断面内における空孔数の増大やコアの屈折率分布の多層化を抑制しつつ、隣接コア間のクロストーク特性の改善を可能とする4芯単一モード光ファイバおよび光ケーブルを提供すること。
【解決手段】クラッド部1断面内に4個のコア部2を正方格子状または直線状に配置し、前記クラッド部1断面内の隣接する各コア部2間の中央に、各コア部2の実効断面積の低減が1%未満となる断面積およびクラッド部1の屈折率よりも小さい屈折率を有する低屈折率領域3を配置することにより、光ファイバ断面内における空孔数の増大やコア部の屈折率分布の多層化を行うことなく、隣接するコア間のクロストーク特性を5割〜1割以下にまで低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単一モード光通信に供する、単一モード光ファイバおよび光ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
データ通信の急速な普及に伴い、伝送容量の更なる拡大に対する要望は年々高まる一方にある。このため、様々な多重化技術を用いることにより、光ファイバ1心当たりの伝送容量を拡大する検討が盛んに行われている。また、アクセスネットワークやデータセンタ等における光通信設備の増大も問題となっており、大量の光ファイバを効率良く処理する技術についても重要性が高まりつつある。
【0003】
このような背景を踏まえ、同一のクラッド断面内に複数のコアを配置することにより、光ファイバ1心当たりの空間多重効率を向上させる多コア光ファイバ技術が提案されている(非特許文献1、2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した多コア光ファイバ技術では、隣接するコア間のクロストークの累積による伝送品質の劣化が問題となる。このため、非特許文献1では、多数の空孔を配置してコア部を形成することにより、また、非特許文献2では、各コアの屈折率分布を多層化することによりクロストーク特性を改善する技術が開示されている。しかしながら、これらの先行技術では、光ファイバの断面構造、もしくは屈折率分布が複雑化する傾向となり、製造上の困難性が増大するといった課題があった。
【0005】
本発明は以上のような背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、光ファイバ断面内における空孔数の増大や、コアの屈折率分布の多層化を抑制しつつ、隣接コア間のクロストーク特性の改善を可能とする4芯単一モード光ファイバおよび光ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の4芯単一モード光ファイバでは、同一のクラッド部断面内に4個のコア部を正方格子状または直線状に配置し、前記クラッド部断面内の隣接する各コア部間の中央に適切な断面積および屈折率を有する低屈折率領域を配置することにより、前記課題を解決するための手段としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の4芯単一モード光ファイバによれば、隣接するコア部間に適切な断面積および屈折率を有する低屈折率領域を配置したため、隣接するコア間のクロストーク特性を5割〜1割以下にまで低減できるといった効果を奏する。
【0008】
また、光ファイバ断面内における空孔数の増大やコア部の屈折率分布の多層化を行うことなく、上述のクロストーク特性の改善を可能としたため、光ファイバの製造性を飛躍的に向上できるといった効果も奏する。
【0009】
また、隣接するコア間のクロストーク特性の改善を可能としたため、限られた断面内におけるコアの多重効率も向上できるといった効果も奏する。
【0010】
また、本発明の4芯単一モード光ファイバにおけるクロストークの低減技術では、低屈折率領域のコア部の直径に対する比率を、各コア部の実効断面積の低減が1%未満となるように設定するため、各コア部を伝搬可能な光強度の減少や、光ファイバ同士の接続特性の劣化も回避できるといった効果も奏する。
【0011】
更に、本発明の4芯単一モード光ファイバにおけるクロストークの低減技術は、各コア中心に対する断面内の電界分布の非対称性を生じないように適用することが可能である。具体的には、各コア中心に対し、その同心円状の位置に3個または4個の低屈折率領域を等間隔に配置することにより、各コアの電界分布のコア中心に対する対称性を保持することが可能であるため、高速・長距離伝送で問題となる偏波モード分散の累積を低減するといった効果も奏する。
【0012】
加えて、本発明の4芯単一モード光ファイバによれば、コア間距離Λおよび最小クラッド厚rの構造条件を、コアの規格化周波数Vおよびモードフィールド径の関係から導出することにより、任意の屈折率分布を有するコアを用いた4芯単一モード光ファイバに対しても適用できるといった効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の4芯単一モード光ファイバの断面構造を示す概念図である。
【図2】本発明の4芯単一モード光ファイバにおける、規格化電力結合係数の低屈折率領域の規格化屈折率に対する依存性を示す図面である。
【図3】本発明の4芯単一モード光ファイバにおける、規格化電力結合係数の低屈折率領域の規格化直径に対する依存性を、規格化屈折率を関数として示す図面である。
【図4】本発明の4芯単一モード光ファイバにおける最小クラッド厚rを、波長1310nmにおけるモードフィールド径および規格化周波数Vの関数として記述した図面である。
【図5】本発明の4芯単一モード光ファイバにおける最小クラッド厚rを、波長1550nmにおけるモードフィールド径および規格化周波数Vの関数として記述した図面である。
【図6】本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、低屈折率領域の規格化屈折率を0.995とした場合の最小コア間距離Λを、波長1310nmにおけるモードフィールド径および規格化周波数Vの関数として記述した図面である。
【図7】本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、低屈折率領域の規格化屈折率を0.995とした場合の最小コア間距離Λを、波長1550nmにおけるモードフィールド径および規格化周波数Vの関数として記述した図面である。
【図8】本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、低屈折率領域の規格化屈折率を0.692とした場合の最小コア間距離Λを、波長1310nmにおけるモードフィールド径および規格化周波数Vの関数として記述した図面である。
【図9】本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、低屈折率領域の規格化屈折率を0.692とした場合の最小コア間距離Λを、波長1550nmにおけるモードフィールド径および規格化周波数Vの関数として記述した図面である。
【図10】本発明の4芯単一モード光ファイバにおける、実効断面積の相対変化の規格化屈折率に対する依存性を、低屈折率領域の規格化直径を関数として示す図面である。
【図11】本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、各コア部の外周に配置される低屈折率領域を3個とした場合の断面構造を示す概念図である。
【図12】本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、各コア部の外周に配置される低屈折率領域を4個とした場合の断面構造を示す概念図である。
【図13】本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、各コア部の外周に配置される低屈折率領域を4個とした場合の別の断面構造を示す概念図である。
【図14】本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、クラッド構造を非円の長方形構造とした場合の断面構造を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の4芯単一モード光ファイバおよび光ケーブルの実施の形態について図面を用いて説明する。
【0015】
図1は本発明の4芯単一モード光ファイバの断面構造を示す概念図である。本発明の4芯単一モード光ファイバは、屈折率がncladで直径がDであるクラッド部1と、前記屈折率ncladよりも大きな屈折率を有する4個のコア部2と、隣接するコア部2の中央に配置された屈折率がnpitで直径がdである3個または4個の低屈折率領域3とを有する。
【0016】
ここで、前記各コア部2は前記クラッド部1断面内にコア中心間の距離がΛとなるよう等間隔に正方格子状(図1(a))または直線状(図1(b))に配置され、前記コア部2の中心から前記クラッド部1の外周までの最小距離を最小クラッド厚rとして定義する。また、前記クラッド部1の屈折率ncladは、前記低屈折率領域3の屈折率npitよりも大きい。
【0017】
尚、本発明の実施の形態では同一クラッド内のコア数を4個に限定して説明するが、同一クラッド内に包含するコアの数は、後述するコア間距離Λ、最小クラッド厚r、およびコア部の規格化周波数Vの3構造条件を満たしていれば、任意の数として設定することが可能である。
【0018】
また図1では、一例として前記低屈折率領域3が円形である場合を図示しているが、低屈折率領域3では後述する断面積条件が満たされていれば良く、楕円、正方形、長方形など、任意の形状を設定することが可能である。尚、以下の実施の形態では、本発明の4芯単一モード光ファイバのコア部2は、直径が2aで、前記クラッド部1に対する比屈折率差がΔのステップ型の屈折率分布を有するものと仮定する。
【0019】
図2は本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、コア部2の半径aを4μm、コア部2のクラッド部1に対する比屈折率差Δを0.32%、コア間距離Λを30μm、低屈折率領域3の直径をd=aとしたときに、波長1550nmにおける規格化電力結合係数の低屈折率領域3の規格化屈折率npit/ncladに対する依存性について示した図面である。ここで、電力結合係数は隣接するコア間における電力結合の度合いを表す係数であり、図2の縦軸は低屈折率領域3が存在しない場合の係数で規格化した数値を示す。
【0020】
図2から、規格化屈折率を0.995以下とすることにより、規格化電力結合係数を0.5以下に低減できることが分かる。また、低屈折率領域3が空気となる場合、規格化屈折率は約0.692となる。従って、図2から、規格化電力結合係数は約12%まで低減できることが分かる。
【0021】
図3は本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、規格化電力結合係数の低屈折率領域3の規格化直径d/2aに対する依存性を、規格化屈折率を関数として示した図面である。尚、縦軸の規格化電力結合係数は波長1550nmにおける計算結果を示し、コア部2の半径a、コア部2の比屈折率差Δ、およびコア間距離Λは、それぞれ図2と同様の4μm、0.32%、および30μmとした。図中の実線および一点鎖線は、それぞれ低屈折率領域3の規格化屈折率が0.995および0.692の場合の結果を示す。
【0022】
図3から、規格化屈折率が0.995である場合、規格化直径を0.60以上とすることにより規格化電力結合係数を0.5以下に低減できることが分かる。同様に、規格化屈折率が0.692の場合、規格化直径を0.12以上に設定することにより、規格化電力結合係数を0.5以下に低減でき、また、規格化直径を0.54以上に設定することにより、規格化電力結合係数を0.1以下に低減できることが分かる。
【0023】
ここで、電力結合係数の低下は、低屈折率領域3が各コア部2の電界分布の広がりを抑制し、隣接するコア部間における電界分布の重なり量が低減されたことに起因する。この、電界分布広がりの抑制効果は、低屈折率領域3のクラッド部1に対する屈折率の変化量を低屈折率領域3の全体に対して積分した係数に概ね比例する。従って、図2および図3に示した電力結合係数の低減効果を得るためには、同等の屈折率変化を同等の面積に亘って付与すれば良い。このため、本発明の4芯単一モード光ファイバにおける低屈折率領域3は、円形以外の任意の形状をとることが可能となる。
【0024】
図4に本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、波長1625nmにおける閉じ込め損失を0.001dB/km以下とする最小クラッド厚rを、波長1310nmにおけるモードフィールド径および規格化周波数Vの関数として示す。図中の4本の一点鎖線は、最小クラッド厚rが36〜48μmとなる時の結果を示す。
【0025】
尚、波長λにおける規格化周波数Vは、コアの半径aおよび比屈折率差Δを用いて、
V≡(2πa/λ)ncore(2Δ)1/2 (1)
で定義される。ここで、ncoreはコア部2の屈折率である。また、0.001dB/kmの閉じ込め損失は、100km伝送後の閉じ込め損失の累積量が0.1dB以下となることに相当する。
【0026】
図4中の実線は波長1625nm、曲げ半径30mmにおける曲げ損失が0.1dB/100巻きとなる条件を示し、実線より右側の領域で0.1dB/100巻き以下の曲げ損失特性が実現できる。また、図4中の破線は実効遮断波長が1260nmとなる条件を示し、破線よりも左側の領域で1260nm以下の実効遮断波長が実現できる。尚、これらの曲げ損失特性および実効遮断波長特性は、従来の汎用単一モード光ファイバの規格値として、非特許文献3に推奨された値に等しい。
【0027】
また、非特許文献3によれば、従来の汎用単一モード光ファイバの波長1310nmにおけるモードフィールド径の最小値は8μmとして推奨されている。図4から波長1310nmにおける規格化周波数Vを2.00〜2.73の範囲に、最小クラッド厚rを36〜44μmの範囲に設定することにより、従来の汎用単一モード光ファイバと同等の曲げ損失特性および実効遮断波長特性を実現し、かつ波長1310nmで8.0〜11.0μmとなるモードフィールド径を実現できることが分かる。
【0028】
図5に本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、波長1625nmにおける閉じ込め損失を0.001dB/km以下とする最小クラッド厚rを、波長1550nmにおけるモードフィールド径および規格化周波数Vの関数として示す。図中の3本の一点鎖線が、最小クラッド厚rが32〜40μmとなる時の結果を示す。また、図中の実線および破線は、図4と同様にそれぞれ曲げ損失および実効遮断波長の条件を示す。但し、図5では実効遮断波長を1500nmとして検討した。
【0029】
図5から、波長1550nmにおける規格化周波数Vを2.00〜2.66の範囲に、最小クラッド厚rを33〜40μmの範囲に設定することにより、従来の汎用単一モード光ファイバと同等の曲げ損失特性を実現し、かつ1500nm以下の実効遮断波長特性と、波長1550nmで9.0〜11.0μmとなるモードフィールド径とを実現できることが分かる。
【0030】
図6に本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、低屈折率領域3の規格化屈折率を0.995とした場合の最小コア間距離Λを、波長1310nmにおけるモードフィールド径および規格化周波数Vの関数として示す。図中の6本の一点鎖線は、最小コア間距離Λが42〜62μmとなる時の結果を示す。尚、低屈折率領域3の規格化直径は0.6とし、本実施の形態では100km伝送後のクロストークが−30dBとなる条件として最小コア間距離Λを導出した。図中の実線および破線は、それぞれ曲げ損失特性および実効遮断波長特性であり、図4と同様の特性条件を示している。
【0031】
図6から、波長1310nmにおける規格化周波数Vを2.00〜2.73の範囲に、最小コア間距離Λを43〜58μmの範囲に設定することにより、従来の汎用単一モード光ファイバと同等の曲げ損失特性および実効遮断波長特性を実現し、かつ波長1310nmで8.0〜11.0μmとなるモードフィールド径を実現できることが分かる。
【0032】
従って、図4および図6より、波長1310nmにおける規格化周波数Vを2.00〜2.73、最小クラッド厚rを36〜44μm、最小コア間距離Λを43〜58μm、低屈折率領域3の規格化屈折率を0.995以下、低屈折率領域3の規格化直径を0.6以上の範囲に設定することにより、従来の汎用単一モード光ファイバと同等の曲げ損失特性および実効遮断波長特性を実現し、かつ波長1310nmのモードフィールド径が8.0〜11.0μmとなる4芯単一モード光ファイバを実現できることが分かる。また、この時のクラッド外径Dは、正方格子状の配列を用いる場合は133〜170μmに、直線状の配列を用いる場合は201〜262μmになる。
【0033】
図7に本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、低屈折率領域3の規格化屈折率を0.995とした場合の最小コア間距離Λを、波長1550nmにおけるモードフィールド径および規格化周波数Vの関数として示す。図中の5本の一点鎖線は、最小コア間距離Λが36〜52μmとなる時の結果を示す。尚、低屈折率領域3の規格化直径は0.6とし、本実施の形態では100km伝送後のクロストークが−30dBとなる条件として最小コア間距離Λを導出した。図中の実線および破線は、それぞれ曲げ損失特性および実効遮断波長特性であり、図5と同様の特性条件を示している。
【0034】
図7から、波長1550nmにおける規格化周波数Vを2.00〜2.66の範囲に、最小コア間距離Λを38〜52μmの範囲に設定することにより、従来の汎用単一モード光ファイバと同等の曲げ損失特性を実現し、かつ波長1500nm以下の実効遮断波長特性と、波長1550nmで9.0〜11.0μmとなるモードフィールド径とを実現できることが分かる。
【0035】
従って、図5および図7より、波長1550nmにおける規格化周波数Vを2.00〜2.66、最小クラッド厚rを33〜40μm、最小コア間距離Λを38〜52μm、低屈折率領域3の規格化屈折率を0.995以下、低屈折率領域3の規格化直径を0.6以上の範囲に設定することにより、従来の汎用単一モード光ファイバと同等の曲げ損失特性を実現し、かつ波長1500nm以下の実効遮断波長特性と、波長1550nmで9.0〜11.0μmとなるモードフィールド径とを実現できることが分かる。また、この時のクラッド外径Dは、正方格子状の配列を用いる場合は120〜154μmに、直線状の配列を用いる場合は180〜236μmになる。
【0036】
図8に本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、低屈折率領域3の規格化屈折率を0.692とした場合の最小コア間距離Λを、波長1310nmにおけるモードフィールド径および規格化周波数Vの関数として示す。図中の5本の一点鎖線は、最小コア間距離Λが40〜56μmとなる時の結果を示す。尚、低屈折率領域3の規格化直径は0.55とし、本実施の形態では100km伝送後のクロストークが−30dBとなる条件として最小コア間距離Λを導出した。図中の実線および破線は、それぞれ曲げ損失特性および実効遮断波長特性であり、図4と同様の特性条件を示している。
【0037】
図8から、波長1310nmにおける規格化周波数Vを2.00〜2.73の範囲に、最小コア間距離Λを41〜56μmの範囲に設定することにより、従来の汎用単一モード光ファイバと同等の曲げ損失特性および実効遮断波長特性を実現し、かつ波長1310nmで8.0〜11.0μmとなるモードフィールド径を実現できることが分かる。
【0038】
従って、図4および図8より、波長1310nmにおける規格化周波数Vを2.00〜2.73、最小クラッド厚rを36〜44μm、最小コア間距離Λを41〜56μm、低屈折率領域3の規格化屈折率を0.692以下、低屈折率領域3の規格化直径を0.55以上の範囲に設定することにより、従来の汎用単一モード光ファイバと同等の曲げ損失特性および実効遮断波長特性を実現し、かつ波長1310nmのモードフィールド径が8.0〜11.0μmとなる4芯単一モード光ファイバを実現できることが分かる。また、この時のクラッド外径Dは、正方格子状の配列を用いる場合は130〜168μmに、直線状の配列を用いる場合は195〜256μmになる。
【0039】
図9に本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、低屈折率領域3の規格化屈折率を0.692とした場合の最小コア間距離Λを、波長1550nmにおけるモードフィールド径および規格化周波数Vの関数として示す。図中の4本の一点鎖線は、最小コア間距離Λが36〜48μmとなる時の結果を示す。尚、低屈折率領域3の規格化直径は0.55とし、本実施の形態では100km伝送後のクロストークが−30dBとなる条件として最小コア間距離Λを導出した。図中の実線および破線は、それぞれ曲げ損失特性および実効遮断波長特性であり、図5と同様の特性条件を示している。
【0040】
図9から、波長1550nmにおける規格化周波数Vを2.00〜2.66の範囲に、最小コア間距離を36〜48μmの範囲に設定することにより、従来の汎用単一モード光ファイバと同等の曲げ損失特性を実現し、かつ1500nm以下の実効遮断波長特性と、波長1550nmで9.0〜11.0μmとなるモードフィールド径とを実現できることが分かる。
【0041】
従って、図5および図9より、波長1550nmにおける規格化周波数Vを2.00〜2.66、最小クラッド厚rを33〜40μm、最小コア間距離Λを36〜48μm、低屈折率領域3の規格化屈折率を0.692以下、低屈折率領域3の規格化直径を0.55以上の範囲に設定することにより、従来の汎用単一モード光ファイバと同等の曲げ損失特性を実現し、かつ1500nm以下の実効遮断波長特性と、波長1550nmで9.0〜11.0μmとなるモードフィールド径とを実現できることが分かる。また、この時のクラッド外径Dは、正方格子状の配列を用いる場合は117〜148μmに、直線状の配列を用いる場合は174〜224μmになる。
【0042】
図10に本発明の4芯単一モード光ファイバにおける、実効断面積の相対変化の規格化屈折率に対する依存性を、低屈折率領域3の規格化直径を関数として示す。尚、計算波長は1550nmで、縦軸の相対変化は低屈折率領域3が存在しない場合の実効断面積を基準として算出した。
【0043】
図10から、低屈折率領域3の付与に伴う実効断面積の縮小量は1%未満であり、十分小さな値であることが分かる。一般に、光ファイバ中を伝搬可能な光強度は当該光ファイバの実効断面積に比例して増加すると考えられる。また、光ファイバの接続損失は主に、光ファイバ中心軸の軸ずれ量と、モードフィールド径の不整合とによって生じることが知られている。本発明の4芯単一モード光ファイバでは、低屈折率領域3の付与に伴う実効断面積およびモードフィールド径の縮小はほとんど無視できるので、本発明の、4芯単一モード光ファイバにおける伝搬可能光強度の低下、および接続損失の劣化もほとんど無視できると考えられる。
【0044】
図11は本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、各コア部2の外周に配置される低屈折率領域3を3個とした場合の断面構造の概念図を示し、また、図12および図13は本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、各コア部2の外周に配置される低屈折率領域3を4個とした場合の断面構造を示すものである。
【0045】
長距離・高速光伝送では、偏波モード分散の累積による伝送特性の劣化が問題となる。一般に、中心軸に対して対称性を有する光ファイバでは、光ファイバ断面内の応力歪みの増大による偏波モード分散の増加を低減することができる。従って、図11乃至図13に示したように、本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、各コア部2の外周に配置される低屈折率領域3を、コア中心から同心円状に等間隔に3個または4個配置することにより、偏波モード分散の増加を抑圧した4芯単一モード光ファイバを実現することが可能となる。
【0046】
図14は本発明の4芯単一モード光ファイバにおいて、クラッド構造を非円の長方形構造とした場合の断面構造を示すものである。これまでの実施の形態ではクラッド部1が直径Dの円形を有することとしたが、本実施の形態の4芯単一モード光ファイバは、上述のコア部2の規格化周波数V、コア間距離Λ、および最小クラッド厚rの全ての構造条件を満たしていれば実現することが可能である。
【0047】
従って、図14に示すように、例えば長方形のクラッド部1において、4個のコア部2をクラッド部1に直線状に配置し、前記長方形の長径がクラッド直径Dとなるように、前記長方形の短径が最小クラッド厚rの2倍以上となるようにすれば、これまでの実施の形の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0048】
また、非特許文献4によれば、コア直径が2aでコアの比屈折率差がΔであるステップ型コアの規格化周波数Vとモードフィールド径2Wは、
W/a=0.65+1.619V-1.5+2.879V-6 (2)
により記述できることが開示されている。
【0049】
また、非特許文献5によれば、上述のステップ型屈折率分布における規格化周波数Vは、任意の屈折率分布に対する拡張規格化周波数Tとして、
2=2(2π/λ)2∫{n2(r)−n2(∞)}rdr (3)
に書き直せることが開示されている。
【0050】
ここで、n(r)は半径rの点における屈折率、n(∞)はクラッドの屈折率を表す。従って、本発明の実施の形態に示した、モードフィールド径と規格化周波数Vに対する最小コア間距離Λの関係、およびモードフィールド径と規格化周波数Vに対する最小クラッド厚rの関係は、任意の屈折率分布を有するコア部2に対しても適用することが可能である。
【0051】
以上に説明したように、本発明の4芯単一モード光ファイバによれば、隣接するコア間に適切な断面積および屈折率を有する低屈折率領域を配置したことにより、長距離・高速光伝送に好適な伝送特性および接続特性を保持したまま、隣接するコア間のクロストーク特性を5割〜1割以下にまで低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0052】
1:クラッド部、2:コア部、3:低屈折率領域。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0053】
【非特許文献1】"Multi-core holey fibers for the long-distance (>100km) ultra large capacity transmission", K. Imamura, et al., in Proc. OFC'09, OTuC3 (2009).
【非特許文献2】"Length Dependence of Cutoff Wavelength of Trench-Assisted Multi-Core Fiber", Y. Arakawa, et al., in Proc. OECC'11, 6C2-5 (2011).
【非特許文献3】"Characteristics of a single-mode optical fibre and cable", ITU-T, Recommendation G.652.
【非特許文献4】"Loss analysis of single-mode fiber splices", D. Marcuse, Bell Sys. Tech. J, vol. 56, no. 5, p. 703 (1976).
【非特許文献5】"光ファイバとファイバ形デバイス", 川上, 他, 培風館, (1996).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッド部断面内に4個のコア部を正方格子状または直線状に配置し、
前記クラッド部断面内の隣接する各コア部間の中央に、各コア部の実効断面積の低減が1%未満となる断面積およびクラッド部の屈折率よりも小さい屈折率を有する低屈折率領域を配置した
ことを特徴とする4芯単一モード光ファイバ。
【請求項2】
屈折率がncladで直径がDであるクラッド部と、規格化周波数がVで直径が2aである4個のコア部と、屈折率がnpitで直径がdである低屈折率領域とを有し、
前記各コア部を前記クラッド部断面内にコア間距離Λが等間隔となるように正方格子状または直線状に配置し、かつ前記低屈折率領域を前記クラッド部断面内の隣接する前記各コア部間の中央に配置し、
波長1310nmにおける前記規格化周波数Vを2.00〜2.73の範囲、前記コア部の中心から前記クラッド部の外周までの最小クラッド厚rを36〜44μmの範囲、前記コア間距離Λを43〜58μmの範囲、前記屈折率npitの前記屈折率ncladに対する比率npit/ncladを0.995以下の範囲、前記直径dの前記直径2aに対する比率d/2aを0.6以上の範囲、前記直径Dを133〜262μmの範囲にそれぞれ設定した
ことを特徴とする4芯単一モード光ファイバ。
【請求項3】
屈折率がncladで直径がDであるクラッド部と、規格化周波数がVで直径が2aである4個のコア部と、屈折率がnpitで直径がdである低屈折率領域とを有し、
前記各コア部を前記クラッド部断面内にコア間距離Λが等間隔となるように正方格子状または直線状に配置し、かつ前記低屈折率領域を前記クラッド部断面内の隣接する前記各コア部間の中央に配置し、
波長1550nmにおける前記規格化周波数Vを2.00〜2.66の範囲、前記コア部の中心から前記クラッド部の外周までの最小クラッド厚rを33〜40μmの範囲、前記コア間距離Λを38〜52μmの範囲、前記屈折率npitの前記屈折率ncladに対する比率npit/ncladを0.995以下の範囲、前記直径dの前記直径2aに対する比率d/2aを0.6以上の範囲、前記直径Dを120〜236μmの範囲にそれぞれ設定した
ことを特徴とする4芯単一モード光ファイバ。
【請求項4】
屈折率がncladで直径がDであるクラッド部と、規格化周波数がVで直径が2aである4個のコア部と、屈折率がnpitで直径がdである低屈折率領域とを有し、
前記各コア部を前記クラッド部断面内にコア間距離Λが等間隔となるように正方格子状または直線状に配置し、かつ前記低屈折率領域を前記クラッド部断面内の隣接する前記各コア部間の中央に配置し、
波長1310nmにおける前記規格化周波数Vを2.00〜2.73の範囲、前記コア部の中心から前記クラッド部の外周までの最小クラッド厚rを36〜44μmの範囲、前記コア間距離Λを41〜56μmの範囲、前記屈折率npitの前記屈折率ncladに対する比率npit/ncladを0.692以下の範囲、前記直径dの前記直径2aに対する比率d/2aを0.55以上の範囲、前記直径Dを130〜256μmの範囲にそれぞれ設定した
ことを特徴とする4芯単一モード光ファイバ。
【請求項5】
屈折率がncladで直径がDであるクラッド部と、規格化周波数がVで直径が2aである4個のコア部と、屈折率がnpitで直径がdである低屈折率領域とを有し、
前記各コア部を前記クラッド部断面内にコア間距離Λが等間隔となるように正方格子状または直線状に配置し、かつ前記低屈折率領域を前記クラッド部断面内の隣接する前記各コア部間の中央に配置し、
波長1550nmにおける前記規格化周波数Vを2.00〜2.66の範囲、前記コア部の中心から前記クラッド部の外周までの最小クラッド厚rを33〜40μmの範囲、前記コア間距離Λを36〜48μmの範囲、前記屈折率npitの前記屈折率ncladに対する比率npit/ncladを0.692以下の範囲、前記直径dの前記直径2aに対する比率d/2aを0.55以上の範囲、前記直径Dを117〜224μmの範囲にそれぞれ設定した
ことを特徴とする4芯単一モード光ファイバ。
【請求項6】
前記低屈折率領域が、前記各コア部の同心円状の位置に等間隔に3個または4個配置される
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の4芯単一モード光ファイバ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の4芯単一モード光ファイバを少なくとも1本用いたことを特徴とする光ケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2013−88457(P2013−88457A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225743(P2011−225743)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人情報通信研究機構、『革新的光ファイバ技術の研究開発』委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】