説明

5’−グアノシン一リン酸生産能が向上されたコリネバクテリアおよびそれを用いた5’−グアノシン一リン酸の生産方法

【課題】本発明は、野生型より高いリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有して向上したATP生産能を示す新規微生物を用いて5’−グアノシン一リン酸を生産する方法に関する。
【解決手段】また、新規微生物が開示される。前記の方法は、内在的活性よりもリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性が増進され、ATPを高収率で生産するコリネバクテリア(Corynebacteria)菌株の微生物を培養する段階;培養液からXMPを生産する段階;培養液にXMPアミノ化活性を有する酵素または微生物を添加する段階;および培養液からGMPを収得する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内在的リンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性よりも高い活性を有することによって、ATPをより高い収率で生産できるコリネバクテリア菌株(Corynebacteria strain)に関する。また、本発明は、アミノ化活性を有する酵素または微生物と共にコリネバクテリア菌株を用いる5’−グアノシン一リン酸の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5’−グアノシン一リン酸(5'-guanosine monophosphate:以下、“GMP”という)は、イノシン一リン酸(inosine monophosphate:以下、“IMP”という)のような香味増進剤として広く使用される食品添加剤である。GMPは、うま味を引き出し、その使用は、また使用されるグルタミン酸一ナトリウム(MSG)に左右される。これは、普通にIMPと共に使用され、MSGのうま味の強さを増加させる。
【0003】
今まで知られているGMPの製造方法の例には、(1)酵母RNAの酵素的分解法、(2)GMPへの直接微生物発酵法、(3)グアノシンへの微生物発酵に続いて化学的リン酸化する方法、(4)グアノシンへの微生物発酵に続いて酵素的リン酸化する方法、(5)キサントシン5’−一リン酸(xanthosine 5’-monophosphate:以下、“XMP”という)への微生物発酵に続いてコリネバクテリア菌株によってGMPに転換する方法、(6)XMPへの微生物発酵に続いてアミナーゼ活性を有するエシェリキア・コリ(Escherichia coli)によってXMPをGMPに転換する方法が含まれる。このうち、方法(1)は、物質供給の困難さがあり、経済的に無益であり、方法(2)は、GMPの膜透過性によって低い収率の短所がある。したがって、他の方法が産業的適用で広く用いられる。
【0004】
XMPを生産してGMPに転換させる方法(6)に対して、補助因子としてATPを供給するのが重要である。XMPのGMPへの転換で使用されるATPの大部分は、XMP生産菌株から供給される。転換アプローチで、キシレンは重要な役割を果たすが、なぜならば、これはATPおよびXMPに対する膜透過性を増加させるためである。培地中のキシレンは、ATPおよびXMPがGMP生産菌株に浸透するようにしてXMPをGMPに転換させるようにする。したがって、GMP生産のアプローチは、ATP生産性を増加させる戦略である。
【0005】
XMPのGMPへの転換は、下記の反応式によって表される。
XMP+ATP+NH−−−−−−−−−−−−>GMP+AMP+PPi
XMPアミナーゼ
【0006】
すなわち、一次的にXMP生産菌株によってXMPを生産し、これをXMPアミナーゼ活性を有する酵素または微生物の存在下でGMPに転換させるGMP生産過程において、補助因子として作用するATPの持続的な供給は必須的である。したがって、XMP生産菌株のATP生産能を増進させるのは非常に重要である。転換過程で生産されたAMPは、ATP生産のための基質として再使用される。事実上、アデニンベースのヌクレオチドは、ATPの生産のためにリサイクルされる。
【0007】
したがって、XMP生産菌株の増加されたATP生産は、高収率のGMP生産のために必要である。リンゴ酸デヒドロゲナーゼの活性は、ATPの生産に莫大な影響を及ぼす。しかし、GMP生産収率を増加させるためのリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性増進のために考案された微生物および方法に対する言及は先行文献のどこにもなかった。
【0008】
前記2段階の転換に優先してGMP収率を増加させるためにXMP生産菌株のATP生産を増加させるのが重要であるということを念頭に置いて、本発明者らは、集中的な研究を行い、増加させる遺伝子を発見した。また、XMPアミナーゼと共に使用する場合、遺伝子の2つのコピーを並んで運ぶ組換えベクターで形質転換されたコリネバクテリア菌株は、XMPおよびATPを高収率で生産することができ、したがって、GMP生産も増加させることを明らかにした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、内在的リンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性よりも高い活性を有することによって、ATPを高収率で生産できるコリネバクテリア菌株を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、前記形質転換された微生物を培養する段階;前記培養物でXMPを生産する段階;前記培養物にXMPアミノ化活性を有する酵素または微生物を添加する段階;および前記培養物からGMPを収得する段階を含むGMPの生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、一態様により、本発明は、内在的リンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性よりも増進されることによって、ATPを高収率で生産できるコリネバクテリア菌株に関する。本発明のコリネバクテリア菌株は、内在的リンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性よりも高いリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を有することによって、ATP生産が向上するように変形される。
【0012】
本願で使用される用語“リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(malate dehydrogenase)”は、脱水素化によるリンゴ酸のオキザロ酢酸への転換を促進する酵素を意味する。この酵素は、乳酸デヒドロゲナーゼと共に生物の非常に広い領域で発見され、その活性のために補助因子として、普通乳酸デヒドロゲナーゼを伴うDPNおよびNADを必要とする。本発明によるコリネバクテリア菌株において、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性は増加されてATPを高収率で生産し、その結果、GMP生産能の増大を招く。
【0013】
本願で使用されたような用語“内在的活性(endogenous activity)”は、野生型微生物中の関心のある酵素活性を表そうとするものである。用語“内在的活性よりも高い活性”は、酵素それ自体による活性増加からもたらされたものでもまたは、内在的遺伝子または外来遺伝子による活性増加からもたらされたものでも、内在的変種の活性と比較して増加された酵素活性を意味する。例えば、酵素活性の増加は、これに制限されないが、遺伝子コピー数の増加または減少、関心のあるプロモーターの代替、変形または突然変異などをはじめとする、技術分野において十分公知の任意の方法によって達成しても良い。
【0014】
本発明によりその活性を増加させようとする標的酵素であるリンゴ酸デヒドロゲナーゼは、コリネバクテリアのmqo遺伝子によってエンコードされる。mqo遺伝子と生物学的に同一であるとか、符合する限り、任意の変異体または類似体が本発明で使用されても良い。すなわち、遺伝子の活性がmqo遺伝子の活性と実質的に同一であるとか、類似する場合、mqo遺伝子の範囲内に属する任意の遺伝子が本発明で有用である。有利には、本発明に有用な遺伝子は、mqo遺伝子配列と好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性、より一層好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有する。より有利には、リンゴ酸デヒドロゲナーゼは、配列番号7のヌクレオチド配列によってエンコードされる。遺伝子コピーの増加は、外来遺伝子の導入および/または内在的遺伝子の増幅によって達成され得る。遺伝子のコピー数は、必要および目的に応じて当業者によって容易に決定され得る。内在的遺伝子の増幅は、また、当業界に公知の方法、例えば、圧力下で適当な選択培地で培養する方法を用いて行うことができる。好ましい例において、リンゴ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を運ぶベクターをコリネバクテリア菌株へ導入して、内在的活性よりも増進された活性を有する形質転換された微生物を生成した。
【0015】
当業界に公知され、コリネバクテリア属微生物に属する限り、任意の菌株が制限なく本発明で使用され得る。好ましくは、本発明に有用なコリネバクテリア菌株の例としては、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、およびブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(Brevibacterium lactofermentum)が含まれるが、これらに制限されない。詳細には、コリネバクテリア菌株中で、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス ATCC 6872、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes) FERM BP−1539、コリネバクテリウム・グルタミクム ATCC 13032、コリネバクテリウム・グルタミクム R、ブレビバクテリウム・フラバム ATCC 14067、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム ATCC 13869およびこれらの誘導体がある。好ましいのは、コリネバクテリア・アンモニアゲネス KCCM−10530から形質転換されたコリネバクテリウム・アンモニアゲネス KCJ−1304である。
【0016】
ATPを高収率で生産できる微生物を生成するために、mqo遺伝子を運ぶ組換えベクターが使用され得る。
【0017】
本願で使用される用語“mqo遺伝子”は、“リンゴ酸:キノン酸化還元酵素(malate:quinone oxidoreductase)”遺伝子の略語であって、リンゴ酸をオキサロ酢酸に酸化させる役割を果たすリンゴ酸オキサロ酢酸をコードする遺伝子を意味する。
【0018】
mqo遺伝子を運ぶ限り、任意の通常的組換えベクターが本発明で制限なく使用され得る。好ましいのは、pDZ−mqoである。本発明の好ましい例において、配列番号7を含有するmqo遺伝子を用いて組換えpDZ−mqoベクターを構築した(図1参照)。
【0019】
本願で使用されたような用語“ベクター”は、外部遺伝物質を適合な宿主細胞に運ぶ媒介体(vehicle)として使用されるDNA分子を意味し、転移遺伝子が宿主ゲノムと組換わるように許容する調節要素を含有するDNA作製物である。好ましくは、本発明によるmqoベクターを運ぶ組換えベクターは、図1の切断地図に示された構造を有することができる。
図1の切断地図によって示されたベクターは、コリネバクテリアに順次にまたは、同時に導入され得る。本発明の好ましい実施態様により、組換えベクターは、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス KCCM−10530中に形質転換された後、選択培地で培養して2つのコピーのmqo遺伝子を相同組換えを介して宿主のゲノムに統合させ、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス KCJ−1304と命名したコリネバクテリウム・アンモニアゲネス突然変異体を生成する。これを受託番号 KCCM10972Pとして寄託した。
【0020】
本発明のまた他の態様により、本発明は、mqo遺伝子を運ぶ組換えベクターで形質転換されたコリネバクテリア菌株に関する。コリネバクテリア由来のmqo遺伝子は、当業界に公知の形質転換法を用いて制限なく使用され得る。好ましくは、mqo遺伝子はベクターにクローン化されて細胞中に形質転換される。
【0021】
形質転換には当業界に公知の任意の方法が使用され得る。本願に使用されたような用語“形質転換”とは、外部DNAの導入、ゲノム統合および発現による細胞の遺伝的変更を意味する。一般的な形質転換方法には、CaCl沈殿法、CaCl方法にDMSO(ジメチルスルホキシド)を使用することによって効率を高めたハナハン(Hanahan)方法、電気穿孔法、リン酸カルシウム形質移入法、原形質体融合法、シリコンカーバイド繊維媒介形質転換法、アグロバクテリウム媒介形質転換法、PEGを用いた形質転換法、デキストラン硫酸塩、リポフェクタミン、および乾燥/抑制媒介形質転換法などがある。本発明によるpDZ−mqoを用いた形質転換は、前記例などに限定されず、当業界に公知の任意の方法を制限なく使用して行うことができる。
【0022】
コリネバクテリウム・アンモニアゲネスに図1の切断地図に示された構造を有するベクターpDZ−mqoが導入された受託番号KCCM10972P菌株は、これを選択培地で培養することによって、2つのコピーのmqo遺伝子が内在的遺伝子を相同組換えによって置換されることによって2つのコピーのmqo遺伝子がゲノム内に挿入されている菌株である。
【0023】
また他の一つの様態として、本発明は、(a)前記リンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性が内在的活性よりも増加されることによってATP生産能が向上されたコリネバクテリア属由来の微生物を培養する段階;(b)前記培養液からXMPを生産する段階;(c)前記培養液にXMPアミノ化活性を有する酵素または微生物を添加する段階;および(d)前記培養液からGMPを収得する段階を含むGMPの生産方法に関する。本発明は、前述された形質転換された微生物を用いてXMPを高収率で生産した後、XMPアミナーゼまたはXMPアミノ化活性を有する微生物の存在下でGMPに転換させる。好ましくは、形質転換された微生物は、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性が内在的活性よりも増加されたコリネバクテリア属由来の微生物である。
【0024】
本発明においてXMPまたはGMPを生産できる菌株の培養に使用される培地は、当業界で通常的に使用される培地が制限なく使用され得る。好ましくは、培地は、炭素源としてグルコースおよび任意選択で様々なその他の炭素源を含む。関心の微生物の培養に使用するために、培地はその微生物の成長のための要件を満たさなければならない。コリネバクテリア菌株に対する培養培地は公知されている(例えば、文献[Manual of Methods for General Bacteriology. American Society for Bacteriology. Washington D.C.、USA,1981]参照)。コリネバクテリア菌株に有用な炭素源には、グルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロースのような糖および炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ヤシ油などのようなオイルおよび脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、リノレン酸のような脂肪酸、グリセロール、エタノールのようなアルコール、酢酸のような有機酸が含まれる。これらの炭素源は、個別的にまたは混合物として使用され得る。培地で使用され得る窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、牛肉抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆粕のような有機窒素源、および尿素、および無機化合物、例えば、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムが含まれる。窒素源も個別にまたは混合物として使用することができる。リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウム、または相応するナトリウム塩がリン源として使用することができる。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩を含有することができる。また、前記物質に加えてアミノ酸および/またはビタミンのような必須成長物質が使用され得る。また、培養培地に適切な前駆体などが使用され得る。前記の原料などは、培養過程において培養物に適切な方式によって回分式または連続式に添加され得る。
【0025】
水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアのような塩基性化合物または、リン酸または硫酸のような酸性化合物を使用して培養物のpHを調節することができる。また、脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を使用して培養中に気泡の生成を防止することができる。好気状態を維持するために培養物内に酸素または酸素含有気体(例えば、空気)を注入するか、嫌気状態を維持するために窒素、水素または二酸化炭素気体を注入することができる。培養温度は、普通20℃〜45℃、好ましくは30℃〜35℃である。培養は、XMPまたはGMPの生成量が最大で得られる時まで継続する。このような目的で普通10〜160時間が要求される。
【0026】
本発明に有用なXMPアミノ化活性を有する微生物は、エシェリキア・コリ(E.coli)であり得る。XMPアミノ化活性を有するエシェリキア・コリを培養する方法は、当業界で通常的に使用されるエシェリキア・コリの培養方法を制限なく使用することができる。エシェリキア・コリ培養用培地は、様々な栄養分としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムのような各種無機窒素源およびペプトン、NZ−アミン、牛肉抽出物、酵母抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類または魚粉、脱脂大豆ケーキ、または、大豆粕のような有機窒素源、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどのような無機化合物が含まれ得る。必要により、ビタミンおよび栄養要求性塩基が添加され得る。培養は、好気的条件下で、例えば、振盪培養または、通気攪拌培養によって30〜45℃、好ましくは37〜40℃の温度で行うことができる。培地のpHは、培養中に中性水準で維持することが好ましく、培養は1〜2日間行うことができ、前記培養によって培地中にXMPアミノ化活性を有する微生物が蓄積され得る。
【0027】
本発明において、GMPは前記培養によってXMPが生産された培養液をXMPアミノ化活性を有するエシェリキア・コリ培養液に添加してXMPをGMPに転換させることによって製造され得る。XMPのGMPへの転換は、キシレンのようなXMPの膜透過性を増加させる物質を培地中に添加してXMPがGMP生産菌株内によく流入するようにした後、XMPをGMPに転換させることによって行える。XMPの膜透過性を増加させる物質は、当業界で良く知られている。このような化合物の例示には、キシレンのような疎水性物質(例えば、トルエン、ベンゼン、酢酸エチル)、界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンステアリルアミン、セチルトリメチルアンモニウム臭化物、カチオンFB、カチオンF2−40Eなどの陽イオン性界面活性剤、ナトリウムオレイルアミド硫酸、ニューレックス(Newrex)TABおよびラビゾール80などの陰イオン性界面活性剤)、金属イオン(例えば、カルシウム、マグネシウムイオン)などが含まれるが、これらに限定されるのではない。前記したXMPの細胞膜透過性を増進させる物質の使用量は、選択される物質に応じて変われるし、当業者ならば、適切に調節して使用することができる。
【0028】
これで、生産されたGMPは、培養培地中で排出されるか、細胞中に含まれていることができる。本発明のGMPを生産する方法は、細胞または培養培地からGMPを回収する段階を含む。細胞または培養培地からGMPを回収する方法は、当業界でよく知られている。前記のGMP回収方法には、ろ過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化およびHPLCなどが使用され得るが、これらの例に限定されるのではない。
【0029】
本発明において使用される用語“グアノシン一リン酸(guanosine monophosphate)”とは、グアノシンとリン酸が結合したヌクレオチドの一つであって、核酸を構成し、その位置に応じて5’−フォーム、3’−フォームおよび2’−フォームの3種類に分かれる。本発明で生産される5’−グアノシン一リン酸は、無色の針状結晶であって、生体内に遊離(free)状態で存在する。分子式は、C1014Pであり、グアニル酸二ナトリウム、グアニル酸二カリウムおよびグアニル酸カルシウムのようなその塩形態であるグアノシン一リン酸は、キノコの味があり、核酸系調味料として使用される物質である。好ましくは本発明は、形質転換された微生物を用いてこのようなGMPを高収率で得ることができる方法を明らかにし、従来の微生物を用いた方法よりもGMPの濃度が約8.5%増加されることを確認した。
【発明の効果】
【0030】
本発明による組換えベクターで形質転換されたコリネバクテリア菌株は、増進されたリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を示して増加した収率でATPを生産する。XMPからGMPへの転換反応に適用する場合、本発明の形質転換菌株は通常的な微生物に比べてより高い生産能でGMPを生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、pDZベクターに2つのコピーのmqo遺伝子を挿入した組換えpDZ−mqoベクター構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下で本発明を実施例を介してより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本発明を例示的に実施するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるのではない。
【0033】
実施例1:XMP生産菌株コリネバクテリウム・アンモニアゲネスKCCM−10530由来mqoのクローニングおよびゲノム統合のための組換えベクター(pDZ−mqo)の構築
mqo遺伝子のヌクレオチド配列(NCBI ID_3345228)をNIHジェンバンク(GenBank)のデータから得た。前記の配列に基づいて2対のプライマー(配列番号1〜4)を合成した。
コリネバクテリウムKCCM−10530を鋳型としながら、高信頼DNAポリメラーゼ PfuΜltraTM(ストラタジーン(Stratagene))の存在下で前記配列番号1〜4のプライマーを使用して95℃で30秒間変性させ、55℃で30秒間アニーリングさせ;68℃で2分間伸長させることを25回繰り返した。こうして得たPCR生成物は、それぞれ2.1kbのmqo遺伝子2つのコピー(mqo−A、mqo−B)であり、これを配列番号1と2、および配列番号3と4の2つのセットをそれぞれ使用して増幅させた。

配列番号1 gctctagaATCGGTCATTCCATGAACCC
配列番号2 cgcggatccCATCGATATCGCCAACTCCA
配列番号3 cgcggatccATCGGTCATTCCATGAACCC
配列番号4 gctctagaCATCGATATCGCCAACTCCA

適合した制限酵素で処理した後に(mqo−A:XbaI+BamHI、mqo−B:BamHI+XbaI)、PCR生成物であるmqo−Aおよびmqo−Bを3片接合を介してXbaIとエビアルカリ性リン酸加水分解酵素で以前に処理したpDZベクターへ挿入した(大韓民国特許出願第10−2007−94433号参考)。最終的に、mqo遺伝子2つのコピーが連続的にクローン化された組換えpDZ−mqoベクターを得た。図1は、コリネバクテリウムゲノムに統合させるための組換えpDZ−mqoベクターの構造を示す模式図である。
【0034】
実施例2:mqo挿入された菌株の生成
前記pDZ−mqoベクターをKCCM−10530菌株に形質転換し、ゲノム上のmqo遺伝子に隣接した位置で一つのmqo遺伝子を挿入するためにゲノムと相同組換えを行った。したがって、そのゲノム上に2つのコピーのmqo遺伝子を有する、コリネバクテリウム・アンモニアゲネスKCJ−1304と命名した新規XMP生産菌株を得た。2つコピーのmqo遺伝子の連続的挿入は、2つコピーのmqo遺伝子のヌクレオチド配列の上流と下流を標的とするプライマーセット(配列5および6)を用いたPCRで確認した。

配列番号5 CTTTTCGATGACGCCCAA
配列番号6 CCACTTTATCGGGTGAGACCA

【0035】
実施例3:mqo挿入された菌株のリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性
実施例2で製造されたXMP生産コリネバクテリウム・アンモニアゲネスKCJ−1304を下記のようにリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性に対して分析した。前記菌株をバクトペプトン10g/l、バクト牛肉抽出物5g/l、バクト酵母抽出物5g/l、NaCl2.5g/l、アデニン50mg/l、およびグアニン50mg/lを含有した培地に接種し、30℃で12時間OD10が得られるまでインキュベーションさせた。細胞培養液10mlを回収して50mM HEPES、10mM 酢酸カリウム、10mM CaClおよび10mM MgClを含む緩衝液で2回洗浄し、同じ緩衝液1mlに懸濁させた。超音波粉砕機(sonicator)を用いて中断させた後、細胞溶解物を遠心分離させた。上澄液を再び遠心分離してペレットを得た後、これを緩衝液100μlに懸濁させた。この懸濁液のうち、10μlを酵素液として使用した。50mM HEPES、10mM酢酸カリウムおよび50μM2,6−ジクロロインドフェノール(Cl2Ind)を混合して反応緩衝液を製造した。ClIndは、解凍させて反応直前に混合した。前記反応混合物980μlに基質として100mMリンゴ酸10μlおよび酵素液10μlを添加した後、30℃で15分間振盪しながらインキュベーションさせた。酵素活性は、還元されたClIndの濃度を測定することによって決定した。ClIndは、600nmで22cm−1mM−1の吸収係数を有した。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示されたように、KCJ−1304は、母菌株KCCM−10530に比べてリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性が30.6%増加したことが観察された。
【0038】
実施例4:mqo挿入された菌株のATP水準
実施例2で製造されたXMP生産菌株であるコリネバクテリウム・アンモニアゲネスKCJ−1304を下記のように細胞内ATP水準に対して測定した。
母菌株コリネバクテリウム・アンモニアゲネスKCCM−10530と変異株KCJ−1304をそれぞれ下記の種培地3mlを含有する14mlチューブにそれぞれ接種し、30℃で20時間200rpmで振盪しながらインキュベーションさせた。続いて、種培養液を0.4mlの量でそれぞれ250mlコーナーバッフル(corner-baffle)フラスコ中の種培地25mlに添加した後、30℃で230rpmで20時間振盪培養した。細胞培養液をODおよび細胞内ATP水準に対して測定した。前記変異株KCJ−1304は、母菌株KCCM−10530に比べてOD当たりにより高い割合でATPを生産することが明らかになり、これは本発明の変異株が母菌株に比べてより高いGMP生産を示すことを示唆する。結果は下記の表2に要約した。
【0039】
【表2】

【0040】
表2に示されたように、KCJ−1304のOD当たり細胞内ATP水準は、母菌株KCCM−10530に比べて約104%増加された。
【0041】
実施例5:mqo挿入された菌株のXMP発酵およびGMP生産
実施例2で製造されたXMP生産菌株コリネバクテリウム・アンモニアゲネスKCJ−1304をGMP生産のために下記のように培養した。母菌株コリネバクテリウム・アンモニアゲネスKCCM−10530および変異株KCJ−1304を下記種培地3mlをそれぞれ含有する14mlチューブにそれぞれ接種し、30℃で20時間200rpmで振盪しながらインキュベーションさせた。続いて、種培養液を0.4mlの量でそれぞれ250mlコーナーバッフルフラスコ中の下記生産培地32ml(本培地24ml+A培地8ml)に添加し、30℃で230rpmで96時間振盪培養した。これで生成されたXMPのGMPへの転換を行うために、下記の転換添加物およびエシェリキア・コリXMPアミナーゼをエルレンマイヤー(Erlenmeyer)フラスコに添加した後、40℃で4時間転換反応を行った。変異株KCJ−1304は、母菌株KCCM−10530に比べて転換率が増加されたと明らかになったが、これは消耗されたXMP当りGMP生成量として説明される。すなわち、本発明の変異株は、既存菌株と比較してGMP生産で向上された。結果は、下記表3に要約された。
【0042】
【表3】

【0043】
表3のデータから明らかなように、KCJ−1304は、母菌株KCCM−10530に比べて転換率が2.4%、GMP水準が8.5%増加したことが明らかになった。
種培地:グルコース30g/l、ペプトン15g/l、酵母抽出物15g/l、NaCl2.5g/l、尿素3g/l、アデニン150mg/l、グアニン150mg/l、pH7.2
生産培地(本培地):グルコース80g/l、硫酸マグネシウム10g/l、硫酸鉄20mg/l、硫酸亜鉛10mg/l、硫酸マンガン10mg/l、アデニン30mg/l、グアニン30mg/l、ビオチン100μg/l、硫酸銅1mg/l、塩化チアミン5mg/l、塩化カルシウム10mg/l、pH7.2
生産培地(A培地):リン酸一水素カリウム10g/l、リン酸二水素カリウム10g/l、尿素7g/l、硫酸アンモニウム5g/l
転換添加物:フィチン酸(phytic acid)1.8g/l、MgSO4.8g/l、ナイミーン(nymeen)3ml/l、キシレン2%、アデニン100mg/l、NaHPO7.7g/l、グルコース46g/l。
【0044】
本発明の好ましい実施態様が例示的な目的のために開示されたが、当業者は添付された請求項に開示されたような本発明のカテゴリーおよび趣旨を逸脱することなく、様々な変更、付加および代替が可能であることが理解されよう。
【0045】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型のリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性よりも高い活性を有することによって、増進されたATP生産能を示すコリネバクテリア菌株。
【請求項2】
リンゴ酸デヒドロゲナーゼの活性がmqo発現量増加によって増進されたものである請求項1に記載のコリネバクテリア菌株。
【請求項3】
図1の切断地図に示された構造を有するベクターが前記菌株に含まれるものである請求項1に記載のコリネバクテリア菌株。
【請求項4】
コリネバクテリウム・アンモニアゲネスKCCM10972Pである請求項3に記載のコリネバクテリア菌株。
【請求項5】
(a)請求項1のコリネバクテリア菌株を培養する段階;
(b)前記培養液で5’−キサントシン一リン酸(XMP)を生産する段階;
(c)前記培養液にXMPアミノ化活性を有する酵素または微生物を添加する段階;および
(d)前記培養液から5’−グアノシン一リン酸(GMP)を収得する段階を含むGMPの生産方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−511924(P2012−511924A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542008(P2011−542008)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際出願番号】PCT/KR2009/007558
【国際公開番号】WO2010/071366
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(511148961)シージェイ チェイルジェダン コーポレーション (7)
【Fターム(参考)】