説明

6−O−置換ケトライド誘導体

【課題】 エリスロマイシン耐性肺炎球菌及び化膿連鎖球菌に対する強い抗菌力を有する新たなケトライド誘導体を提供すること。
【解決手段】 式
【化3】


(式中Rは、水素原子又はフッ素原子を示す。)で表される6−O−置換ケトライド誘導体又はその医薬上許容される塩である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗生物質エリスロマイシンの新規誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
エリスロマイシンAは、グラム陽性菌、マイコプラズマなどに起因する感染症の治療薬として広く使用されている抗生物質である。しかし、エリスロマイシンは胃酸で分解されるため、体内動態が一定しないという欠点があった。そこで酸に対する安定性を増した誘導体が検討され、その結果、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、ロキシスロマイシンなどの体内動態の安定したマクロライド剤が開発されてきた。外来の呼吸器感染症を治療領域とするこれらマクロライド剤は、特に臨床分離頻度が高く致死性である肺炎球菌並びに咽頭炎の起因菌である化膿連鎖球菌に対し強い抗菌活性を有する必要がある。更に、近年市中肺炎からペニシリン耐性或いはエリスロマイシン耐性の肺炎球菌及び化膿連鎖球菌が高頻度に分離されている事から耐性肺炎球菌及び化膿連鎖球菌に有効である事も重要となっている。
【0003】
これまでの広範な研究の結果、エリスロマイシン耐性肺炎球菌並びにエリスロマイシン耐性化膿連鎖球菌の両方に対し有効なマクロライドとしてAgouridasらは1995年にテリスロマイシン(特許文献1)を、次いでOrらは1998年にセスロマイシン(特許文献2)を相次いで見出した。その後、更に薬効増強が図られた2−フルオロケトライド(特許文献3)が報告されている。
【0004】
しかしながら、耐性菌に対する抗菌力の点でまだ課題が残っている。
【0005】
【特許文献1】EP680967号公報
【特許文献2】WO98/09978号公報
【特許文献3】WO02/32919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、エリスロマイシン感受性肺炎球菌のみならず、ペニシリン及びエリスロマイシン高度耐性肺炎球菌及び化膿連鎖球菌に対しても優れた抗菌活性を有する6−O−置換ケトライドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、エリスロマイシンのケトライド誘導体について種々検討した結果、6位酸素上に、プロパルギル基末端にアミノ基を含有するピリミジルイソキサゾリル基を導入したケトライド誘導体が優れた抗菌活性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、式
【0009】
【化2】

【0010】
(式中Rは、水素原子又はフッ素原子を示す。)
で表される6−O−置換ケトライド誘導体又はその医薬上許容される塩である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の化合物は、ペニシリン及びエリスロマイシン耐性肺炎球菌及び化膿連鎖球菌に対して優れた抗菌力を有することから本発明の化合物は、ヒトにおけるペニシリン、エリスロマイシン耐性肺炎球菌及び化膿連鎖球菌感染症の治療剤として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、医薬上許容される塩とは、細菌感染症の化学療法および予防において使用される塩を意味する。それらは、たとえば酢酸、プロピオン酸、酪酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、ステアリン酸、コハク酸、エチルコハク酸、ラクトビオン酸、グルコン酸、グルコヘプトン酸、安息香酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ラウリル硫酸、リンゴ酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、アジピン酸、システイン、N−アセチルシステイン、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、ヨウ化水素酸、ニコチン酸、シュウ酸、ピクリン酸、チオシアン酸、ウンデカン酸、アクリル酸ポリマー、カルボキシビニルポリマーなどの酸との塩を挙げることができる。
【0013】
本発明の6−O−置換ケトライド誘導体は、経口投与又は非経口投与され、成人を治療する場合で50〜1000mgであり、これを1日2〜3回に分けて投与する。この投与量は、患者の年齢、体重および症状によって適宜増減することができる。
【0014】
経口投与する場合は、賦形剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、界面活性剤、可塑剤、着色剤、矯味矯臭剤などを混合して、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤などの製剤として投与され、非経口投与する場合は、注射剤、点滴剤などの製剤として投与される。製剤化する際には、通常の製剤化の方法が使用できる。
【実施例】
【0015】
次に、実施例及び試験例にて本発明を更に詳細に説明する。
【0016】
実施例1
5−O−デソサミニル−3,11−ジデオキシ−2−フルオロ−11−アミノ−6−O−[3−(3−(2−アミノピリミジン−5−イル)イソキサゾリル−5−イル)−2−プロピニル]−3−オキソエリスロノリドA 11,12−サイクリックカーバメートの合成
(a)5−ヨード−3−(2−アミノピリミジン−5−イル)イソキサゾールの合成
(1)2−アミノピリミジン−5−カルボキサアルデヒド1.60g(13mmol)、ヒドロキシルアミン塩酸塩0.99g(14.3mmol)及びピリジン1.15ml (14.3mmol)をエタノール50mlに懸濁させ室温で一晩攪拌した。反応混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液15mlを加え濾過した。濾物を水で洗浄した後乾燥させ、2−アミノピリミジン−5−アルドキシム2.10gを得た。
【0017】
1H−NMR(300 MHz, DMSO-d6) d (ppm) 6.98 (s, 2H),7.96 (s, 1 H),8.42 (s, 2 H),10.95 (s, 1 H)
【0018】
(2)上記(1)で得た2−アミノピリミジン−5−アルドキシム2.10g (15.2mmol)、酢酸エチル100ml、トリブチルエチニルスズ3.95ml(d 1.09, 13.7mmol)、炭酸水素ナトリウム3.19g(38mmol)、水5ml、N-クロロコハク酸イミド2.03g(15.2mmol)を順次加え、室温で2時間攪拌した。反応混合物に水50mlを加え沈殿物を濾過した。濾液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び5%塩化ナトリウム水溶液で洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾過した後濾液を減圧濃縮し、得られた残渣にヘキサンを加え析出した沈殿物を濾過した後、母液を減圧濃縮してトリ−n−ブチル−{[3−(2−アミノピリミジン−5−イル)]イソキサゾール−5−イル}スズの粗生成物6.11gを得た。この粗生成物6.11gをTHF 30mlに溶解し、ヨウ素5.0g(19.7mmol)を一度に加えた。反応混合物を室温で45分攪拌した後反応混合物を6%チオ硫酸ナトリウム水溶液に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を5%塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾過した後濾液を減圧濃縮し、残渣にヘキサンを加え析出した沈殿を濾取した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:0〜1:1)により精製し、5−ヨード−3−(2−アミノピリミジン−5−イル)イソキサゾール 0.74gを得た。
【0019】
1H−NMR(300 MHz, DMSO-d6) d (ppm) 7.20 (s, 2 H),7.30 (s, 1 H),8.66 (s, 2 H)
【0020】
(b)WO9921871号公報及び米国特許第6124269号公報に記した方法により合成した5−O−デソサミニル−3,11−ジデオキシ−2−フルオロ−11−アミノ−3−オキソ−6−O−プロパルギルエリスロノリドA 11,12−サイクリックカーバメート2.0g (3.05mmol)、上記(a)の(2)で得た5−ヨード−3−(5−アミノピリミジン−2−イル)イソキサゾール0.88g (3.05mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムクロリド(II) 0.15g (0.15mmol)、アセトニトリル20ml、トリエチルアミン4mlを混合し、系内をアルゴン置換した後60度で2時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却し、酢酸エチル20mlを加え飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び5%塩化ナトリウム水溶液で洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾過した後濾液を減圧濃縮して得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール:25%アンモニア水=19:1:0.1)により精製した後、イソプロピルアルコールにより再結晶を行い標記化合物 1.55g(収率62%)を得た。
【0021】
MS(ESI) m/z 837.3[M+Na]+
NMR(300MHz, CDCl3) δ(ppm):0.92 (t, J=7.46 Hz, 3 H) 1.13-1.19 (m, 6 H) 1.20-1.70 (m, 2 H) 1.25 (d, J=6.06 Hz, 3 H) 1.34 (d, J=6.99 Hz, 3 H) 1.52 (s, 6 H) 1.62-2.05 (m, 2 H) 1.68-1.88 (m, 2 H) 1.81 (d, J=21.45 Hz, 3 H) 2.27 (s, 6 H) 2.46 (ddd, J=12.26, 10.11, 4.19 Hz, 1 H) 2.69 (m, 1 H) 2.94 (m, 1 H) 3.19 (dd, J=10.10, 7.15 Hz, 1 H) 3.55 (m, 1 H) 3.66 (m, 1 H) 3.75 (s, 1 H) 3.77 (d, J=17.41 Hz, 1 H) 3.89 (d, J=17.41 Hz, 1 H) 4.09 (dd, J=11.00, 1.70 Hz, 1 H) 4.34 (d, J=7.31 Hz, 1 H) 5.03 (dd, J=9.63, 2.96 Hz, 1 H) 5.32 (s, 2 H) 5.75 (s,1H) 6.86 (s, 1 H) 8.74 (s, J=2 H) 8.89 (d, J=4.87 Hz, 2 H)
【0022】
実施例2
5−O−デソサミニル−3,11−ジデオキシ−11−アミノ−6−O−[3−(3−(2−アミノピリミジン−5−イル)イソキサゾリル−5−イル)−2−プロピニル]−3−オキソエリスロノリドA 11,12−サイクリックカーバメートの合成
WO9921871号公報及び米国特許第6124269号公報に記した方法により合成した5−O−デソサミニル−3,11−ジデオキシ−11−アミノ−3−オキソ−6−O−プロパルギルエリスロノリドA 11,12−サイクリックカーバメート0.255g (0.40mmol)、実施例1の(2)で得た5−ヨード−3−(2−アミノピリミジン−5−イル)イソキサゾール0.115g (0.40mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムクロリド(II) 0.028g (0.04mmol)、アセトニトリル5.2ml、トリエチルアミン1.0mlを混合し、系内をアルゴン置換した後80度で3時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、反応液を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(アセトン:ヘキサン:トリエチルアミン=10:10:0.2)により精製し、イソプロピルアルコールにて結晶化を行い標記化合物 223mg(収率70.0%)を得た。
MS(ESI) m/z 797.4[M]+
NMR(300MHz, CDCl3) δ(ppm):0.87 (t, J=7.50 Hz, 3 H) 1.16 (d, J=3.30 Hz, 3 H) 1.18 (d, J=3.00 Hz, 3 H) 1.10-1.70 (m, 2 H) 1.25 (d, J=6.60 Hz, 3 H) 1.35 (d, J=7.80 Hz, 3 H) 1.38 (d, J=6.9 Hz, 3 H) 1.49 (s, 3 H) 1.52 (s, 3 H) 1.50-1.65 (m, 1 H) 1.70-1.85 (m, 2 H) 1.85-2.00 (m, 1 H) 2.38-2.45 (m, 1 H) 2.43 (s, 6 H) 2.55-2.80 (m, 2 H) 2.96 (q, J=6.60 Hz, 1 H) 3.10-3.20 (m, 1 H) 3.31 (dd, J=10.20, 7.50 Hz, 1 H) 3.53-3.66 (m, 1 H) 3.89 (q, J=6.00 Hz, 1 H) 3.91 (s, 1 H) 3.91 (d, J=19.8 Hz, 1 H) 3.99 (d, J=19.8 Hz, 1 H) 4.37 (d, J=6.00 Hz, 1 H) 4.39 (d, J=7.20 Hz, 1 H) 5.10 (dd, J=9.60, 2.70 Hz, 1 H) 5.47 (s, 2 H) 5.95 (s, 1 H) 6.84 (s, 1 H) 8.72 (s, 2 H)
【0023】
試験例1:試験管内抗菌活性測定
被験化合物は、実施例1を化合物1、実施例2を化合物2とし、比較化合物1としてWO02/32919号公報の実施例23記載の化合物(5−O−デソサミニル−3,11−ジデオキシ−2−フルオロ−11−アミノ−6−O−[3−[3−(5−ピリミジル)イソキサゾリル−5−イル]−2−プロピニル]−3−オキソエリスロノリドA 11,12−サイクリックカーバメート)及び比較化合物2としてアジスロマイシンを選びエリスロマイシン耐性肺炎球菌及び化膿連鎖球菌に対する抗菌活性を、National Committee for Clinical Laboratory Standards (NCCLS) guidelinesに準じた微量液体希釈法による最小発育阻止濃度(MIC)で評価した。羊血液寒天培地で一夜培養した肺炎球菌及び化膿連鎖球菌をMueller-Hinton broth (MHB)で0.5 McFarand相当に懸濁し、これらを10倍に希釈(約107 CFU/ml)して接種用菌液とした。これらの菌液5 mlを3%馬溶血液添加の2価イオン濃度調整済みMHBに約5×105 CFU/mlの菌量となるように感受性試験用マイクロプレートに接種した。これらを35℃、通常環境下で20時間培養後に各化合物のMICを測定した。これら試験の結果を表1に示す。
化合物1はエリスロマイシン感受性肺炎球菌に対し比較化合物1と同様強い抗菌活性を示した。一方、エリスロマイシン耐性肺炎球菌(S.pneumoniae, erm(B))に対して化合物1は比較化合物1の16倍、化合物2は4倍優れた。耐性化膿連鎖球菌(S.pyogenes, erm(B))に対しても化合物1は比較化合物1の33倍、化合物2は16倍優れた。比較化合物2は上記2菌株に対し何れも>8μg/mlと抗菌力を持たなかった。以上の結果から本願発明の化合物は、エリスロマイシン感受性肺炎球菌に対して強い抗菌活性を有するだけではなく、エリスロマイシン耐性肺炎球菌及び化膿連鎖球菌の両方にも強い抗菌活性を有しており、抗菌剤として極めて有用であることが示された。
【0024】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】

【化1】


(式中Rは、水素原子又はフッ素原子を示す。)
で表される6−O−置換ケトライド誘導体又はその医薬上許容される塩。

【公開番号】特開2007−223900(P2007−223900A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−26389(P2004−26389)
【出願日】平成16年2月3日(2004.2.3)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】