説明

6位高アセチル化セルロースジアセテート及びその製造方法

【課題】 写真材料や光学材料等として利用できる光学的特性に優れたアシル基総置換度の高いセルロース混合アシレートの原料等として有用な6位高アセチル化セルロースジアセテートを得る。
【解決手段】 本発明の6位高アセチル化セルロースジアセテートは、アセチル総置換度をDSt、6位アセチル置換度をDS6としたとき、下記の関係式(1)及び(2)を満足し、且つ6%粘度が40〜600mPa・sである。
2.0≦DSt<2.6 (1)
0.400≧DS6/DSt≧0.531−0.088×DSt (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学異性体分離剤等の原材料、フィルム、特に写真材料や光学材料等として利用できるアシル基総置換度の高いセルロース混合アシレートの原料等として有用な新規な6位高アセチル化セルロースジアセテート、及び6位高アセチル化セルロースジアセテートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステルは光学的特性に優れるため、種々の光学用フィルムなどとして利用されている。例えば、液晶テレビに代表されるフラットパネルディスプレイに用いられる液晶表示装置に使用される偏光板は、一般に、セルロースエステルフィルムで形成された偏光板用保護フィルム(偏光膜用保護フィルム)と偏光膜との貼り合わせにより得られる。このような光学用フィルムはその液晶素子の駆動方法により種々の光学特性(光透過性、屈折率等)が要求され、例えばVA(Vertical Alignment)型の液晶素子では面方向と厚さ方向の屈折率の制御が求められ、面方向の複屈折率を上げることが求められる。それらを制御する一手段として、フィルムの延伸が挙げられる。セルロースエステルの中で、セルロースアセテート(酢酸セルロース)はそれ自体の延伸性は小さく、フィルムの面内および厚さ方向の屈折率制御の範囲は限られる。一方、セルロースアセテートが持つアセチル基よりも炭素数の多い置換基を導入することで、延伸性が付与される。例えばアセチル基よりも炭素数の多いプロピオニル基をさらに導入した酢酸プロピオン酸セルロースなどのセルロース混合脂肪酸エステル(特に、アセチル基を含むセルロース混合脂肪酸エステル)は、高い延伸比でフィルムの延伸が可能となる。それによって制御できる屈折率の範囲が拡大し、光学用フィルムとして適用できる範囲も拡大する。すなわち、延伸する用途に対してはセルロース混合脂肪酸エステルの方がセルロースアセテートよりも好適に用いることができる。
【0003】
従来、セルロースの水酸基に複数のアシル基(例えば、アセチル基とアセチル基以外のアシル基)が導入されているセルロース混合アシレートは知られている。例えば、特開2002−322201号公報には、セルロースの水酸基の水素原子が、置換もしくは無置換の芳香族アシル基と置換もしくは無置換の脂肪族アシル基で置換されているセルロース混合酸エステル化合物が開示されており、このセルロース混合酸エステル化合物によれば、光学的等方性、透明性、耐水性、寸度安定性に優れたフィルムを形成可能であることが記載されている。この文献の実施例ではセルロースベンゾエートトリフルオロアセテート等が合成されている。
【0004】
特開2006−328298号公報には、セルロースエステルを主とする組成物を溶融して製膜した光学フィルムであって、該セルロースエステルが下記式(1)及び(2)を満たす光学フィルムが開示されている。
式(1) 2.4≦X+Y≦2.9
式(2) 0.3≦Y≦1.5
(式中、Xは酢酸による置換度を表し、Yは芳香族カルボン酸による置換度を表す)
この文献の実施例では、セルロースを原料とし、これに2種のカルボン酸を反応させてセルロースアセテートベンゾエート等のセルロース混合アシレートを合成している。しかし、この反応は不均一条件下での反応であり、均一に反応が進行しない。また、セルロース表面で反応性の高い方のカルボン酸が反応し、その後、反応性の低い方のカルボン酸が反応すると考えられる。さらに、生成するセルロースエステル誘導体は、アセチル基リッチな誘導体、ベンゾイル基リッチな誘導体等、分子間のばらつきが大きい組成物となる。その結果、生成物間で溶媒に対する溶解度が異なり、相分離を起こしたり、ドープとした場合に濁りを生じる、濾過がしにくい、濾過ができない、分子間置換度分布が大きくなる等の不利な特徴を持つ組成物が得られる。
【0005】
特開2007−199392号公報および特開2007−199391号公報には、特定の光学特性を有するセルロースアシレートフィルムが開示されている。しかし、これらの文献では、グルコース骨格の6位のベンゾイル基置換度が高いものしか得られておらず、2位及び3位に選択的にベンゾイル基を導入したものは得られていない。
【0006】
このように、従来、セルロースの水酸基にアセチル基とアセチル基以外のアシル基が導入されているセルロース混合アシレートは知られているものの、グルコース骨格の6位のアセチル置換度が極めて高く、グルコース骨格の2位及び3位はアセチル基以外のアシル基の置換度が高く、且つアシル基総置換度が高いセルロース混合アシレートは知られていない。このような置換基の分布を有するセルロース混合アシレートは、これまでにない特異的な光学的特性を発揮するものと期待できる。
【0007】
上記のような置換基の分布を有するセルロース混合アシレートを製造する方法としては、セルロースアセテートを原料とし、遊離の水酸基にアセチル基以外のアシル基を導入する方法、セルロースアセテートの6位の水酸基に優先的にアセチル基を導入し、次いで2位及び3位にアセチル基以外のアシル基を導入する方法が考えられる。しかしながら、原料として用いるセルロースアセテートのアセチル基のグルコース環内における置換分布が非常に重要となる。すなわち、グルコース骨格の水酸基がすでにアセチル基で置換されている場合は、その部分に他のアシル基を導入することは難しいため、上記の方法をとる場合は、原料としてグルコース環内のアセチル基の分布が制御されたセルロースアセテートを用いることが必要となる。特に、6位アセチル置換度の高いセルロースアセテートが原料として有利であると考えられる。
【0008】
なお、セルロースアセテートにはセルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースモノアセテートがあり、このうち、セルローストリアセテートとセルロースジアセテートが工業上重要である。一般に、アセチル置換度が2.6以上のものをセルローストリアセテートと称し、アセチル置換度が2以上2.6未満のものをセルロースジアセテートと称している。セルロースアセテートの物性はアセチル置換度や重合度により大きく変化するため、それらを調整することにより種々の用途に利用することが可能となる。
【0009】
上記のような6位アセチル置換度の高いセルロースアセテートとしては、アセチル総置換度が高いものについては下で述べるように公知である。しかし、6位のアセチル置換度が高く、アセチル総置換度はさほど高くなくアセチル基以外のアシル基をある程度導入できる余地があり、しかも分子量の比較的高いセルロースアセテートは知られていない。
【0010】
例えば、特開2005−97621号公報には、通常のセルロースアセテートの合成方法では、2位または3位のアセチル置換度の方が6位のアセチル置換度よりも高くなることが記載されている。そして、セルロースアシレートを改良し、フィルムとしたときのフィルムの厚み方向のリターデーションを低い値とする技術が開示されており、2位、3位及び6位のアセチル置換度の合計が2.67以上であり、2位及び3位のアセチル置換度の合計が1.97以下であり、且つ6位のアセチル置換度が0.85以上0.98以下であるセルロースアセテートが記載されている。また、特開2005−68438号公報には、セルロースアシレートを改良し、経時安定性にすぐれ、実用可能なドープ濃度領域において粘度の低いセルロースアシレート溶液を調製する技術が開示されており、2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以上1.90以下であり、且つ6位のアシル置換度が0.88以上に調整されたセルロースアシレートが記載されている。しかし、これらのセルロースアシレートはアシル基総置換度が高いので、2位及び3位にアセチル基以外のアシル基を導入する余地が小さい。また、これらのセルロースアシレートは、何れも、反応条件として硫酸触媒の量を減らして、酢化反応の時間を長くすることで得ている。しかしながら、このような反応条件を用いた場合には触媒硫酸量が少ないため、生成したセルロースアシレートは置換度の分布が大きいものであり、不溶解物量が多く、また光学フィルムにした場合に光学的な異物が多いものが得られる。さらに、セルロースアシレートのアシル化及び加水分解工程においては触媒硫酸量が少ないため、加水分解速度も遅く、加水分解工程の時間が長くなり、このため生成したセルロースアシレートの分子量が低下し易いという問題点もあった。
【0011】
特開2002−338601号公報及び特開2003−201301号公報には、セルロースを溶媒中で触媒の存在下、酢酸又は無水酢酸と反応させてセルロースアセテートを合成し、得られたセルロースアセテートを、熟成(加水分解)時の水分量を10モル%以下とすることにより、触媒硫酸量が多い場合でも分子間又は分子内のアセチル置換度を調整でき、2位のアセチル置換度を2DS、3位のアセチル置換度を3DS、6位のアセチル置換度を6DSとしたとき、下記の関係式を満足するセルロースアセテートが得られることが記載されている。
2DS+3DS>1.80
3DS<2DS
6DS>0.80
【0012】
このようなセルロースアセテートは、アセチル置換度の分布が均一であり(アセチル基が均一に分布しており)、置換度が例えば2.636〜2.958という高置換度セルローストリアセテートであっても溶媒に対する溶解性が高いという特徴を有する。しかし、これらのセルロースアセテートは、2位及び3位のアセチル置換度が高いため、2位及び3位にアセチル基以外のアシル基を導入する余地が小さい。
【0013】
【特許文献1】特開2002−322201号公報
【特許文献2】特開2006−328298号公報
【特許文献3】特開2007−199392号公報
【特許文献4】特開2007−199391号公報
【特許文献5】特開2005−97621号公報
【特許文献6】特開2005−68438号公報
【特許文献7】特開2002−338601号公報
【特許文献8】特開2003−201301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、写真材料や光学材料等として利用できる光学的特性に優れたアシル基総置換度の高いセルロース混合アシレート(特に、6位のアセチル置換度が極めて高く、2位及び3位はアセチル基以外のアシル基の置換度が高く、且つアシル基総置換度が高いセルロース混合アシレート)の原料等として有用なセルロースジアセテート、すなわち6位のアセチル置換度が高く、アセチル総置換度はさほど高くなく(従って2位及び3位にはアセチル基以外のアシル基をある程度導入できる余地があり)、しかも分子量の比較的高い新規な6位高アセチル化セルロースジアセテートを提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、写真材料や光学材料等として利用できる光学的特性に優れたアシル基総置換度の高いセルロース混合アシレート(特に、6位のアセチル置換度が極めて高く、2位及び3位はアセチル基以外のアシル基の置換度が高く、且つアシル基総置換度が高いセルロース混合アシレート)の原料等として有用な6位高アセチル化セルロースジアセテートを工業的に効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、以下の知見を得た。セルロースアセテートの合成方法の基本的な原理は、宇田他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。代表的な合成方法は、無水酢酸(アセチル基供与体)−酢酸(溶媒)−硫酸(触媒)による液相酢化法である。具体的には、木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸で前処理した後、予め冷却した酢化混液に投入して酢酸エステル化し、セルロースアセテートを合成する。上記酢化混液は、一般に、溶媒としての酢酸、アセチル基供与体(エステル化剤)としての無水酢酸および触媒としての硫酸を含む。無水酢酸は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。酢化反応終了後に、系内に残存している過剰の無水酢酸の加水分解およびエステル化触媒の一部の中和のために、中和剤(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム、亜鉛またはアンモニウムの炭酸塩、酢酸塩または酸化物)の水溶液を添加する。従来の方法では、得られたセルロースアセテートを少量の酢化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、50〜90℃に保つことにより、熟成し、所望のアセチル置換度および重合度を有するセルロースアセテートまで変化させている。そして、所望のセルロースアセテートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記のような中和剤を用いて完全に中和するか、あるいは、中和することなく、水または希酢酸中にセルロースアセテート溶液を投入(あるいは、セルロースアセテート溶液中に、水または希酢酸を投入)してセルロースアセテートを分離し、洗浄および安定化処理によりセルロースアセテートを得ていた。特開平11−5851号公報には、アセチル化反応において少ない硫酸量を選択することにより6位置換度が比較的高いセルロースアセテートが得られる旨が開示されている。しかし、そのような低硫酸条件において製造したセルロースアセテートは、溶液において白濁を生じたり、溶解性が良好ではないとの問題が生じる場合がある。アセチル化の反応は、固相であるセルロース原料がアセチル化を受けて少しずつ溶解しながら進行する。低硫酸条件下での反応では、先に溶解した部分と後で溶解した部分とに質的な違いが生じ、その結果、不均質なセルロースアセテートが製造されたと考えることができる。
【0017】
一般に、セルロースアセテートの反応ではアセチル化工程であっても、加水分解工程(熟成工程)においてもエステル化(アセチル化)及び加水分解反応とβ―グルコシゴ結合の分解反応(解重合反応)は同時に進行する。β―グルコシド結合の分解反応によりセルロースエステルの分子鎖は切断され短くなり、すなわち分子量は小さくなる。前記の特開2002−338601号公報及び特開2003−201301号公報は興味深い。これらの先行文献の開示によれば、6位置換度が高いセルロースアセテートを得るためには加水分解時の水分量を少なくすればよい。すなわち前記の熟成反応(加水分解反応)ではセルロースに結合したアセチル基は水の作用を受けて、酢酸とセルロースに結合した水酸基に分解される。この反応は水分を必要とするので、水分量が少ない場合は反応速度が極端に低下して、生産効率が低下するので一般的には50モル%以上の水分量で行われるのが特開2002−338601号公報及び特開2003−201301号公報が開示される前の技術常識であった。前記特開2002−338601号公報及び特開2003−201301号公報は、セルローストリアセテートであれば、熟成(加水分解)反応での水分量をアセチル供与体の10モル%未満とすることで6位置換度が高いセルローストリアセテートが得られることを開示している。そして、セルロースアセテートの総置換度を小さくして所望のセルロースジアセテートとするためには加水分解を進行させることにより総置換度を調整することが従来から行われている。したがって、前記特開2002−338601号公報及び特開2003−201301号公報の技術を参酌した場合は、熟成工程(加水分解反応)での水分量を少なくし、かつ加水分解を長くすることで6位置換度が高いセルロースジアセテートを得ることができることになる。
【0018】
しかしながら、この方法をとった場合には、分子量が予想以上に低下して、分子量が高く且つ6位アセチル置換度が高いセルロースジアセテートを得ることができないことが判明した。すなわち、前記公報に記載されている技術では触媒硫酸量はほぼ通常の触媒硫酸量であり加水分解反応の反応時間もそれほど長いものではないにも拘らず分子量が低下することが判明した。本発明者はこの原因を検討した結果、熟成反応での水分量を小さくすると熟成工程で解重合(β−グルコシド結合分解反応)の反応速度が大きくなることを見出した。この結果、グルコース環内置換度分布での6位置換度を向上させるために、加水分解反応での水分量を小さくすることは、総置換度が比較的小さいセルロースジアセテートを得るために必要な長時間での加水分解反応で、セルロースアセテートの分子鎖は解重合により低下してしまい、分子量が大きくかつ6位アセチル置換度が大きいセルロースジアセテートが得られない。
【0019】
本発明者はさらに検討を進めた結果、加水分解反応での反応温度(熟成温度)及びアセチル化触媒の量も生成するセルロースジアセテートの分子量に大きな影響を与えることを見出した。すなわち、熟成温度が高くなると解重合速度が大きくなり、セルロースジアセテートの分子量が低下し易いこと、アセチル化触媒の量が少ない場合は加水分解の時間が長くなりすぎ場合により分子量の低下を引き起こし、アセチル化触媒の量が多くなると熟成温度に対する解重合速度の変化の度合いが大きくなり、解重合速度が大きくなり、分子量が低下することを見出した。本発明はこれらの知見に基づき、さらに検討を重ねて完成したものである。
【0020】
すなわち、本発明は、アセチル総置換度をDSt、6位アセチル置換度をDS6としたとき、下記の関係式(1)及び(2)を満足し、且つ6%粘度が40〜600mPa・sである6位高アセチル化セルロースジアセテートを提供する。
2.0≦DSt<2.6 (1)
0.400≧DS6/DSt≧0.531−0.088×DSt (2)
【0021】
本発明は、また、アセチル総置換度が2.6以上のセルローストリアセテートを、酢酸中、前記セルローストリアセテート100重量部に対して0.56〜8.44重量部のアセチル化触媒と、前記酢酸に対して22モル%以上50モル%未満の水の存在下、40〜90℃の温度で加水分解して、6位アセチル置換度の高いセルロースジアセテートを得る工程を含む6位高アセチル化セルロースジアセテートの製造方法を提供する。
【0022】
この製造方法において、セルロースを溶媒中で触媒の存在下、アセチル化剤と反応させてアセチル総置換度が2.6以上のセルローストリアセテートを合成する工程、及び前記工程で得られたセルローストリアセテートを、酢酸中、前記セルローストリアセテート100重量部に対して0.56〜8.44重量部のアセチル化触媒と、前記酢酸に対して22モル%以上50モル%未満の水の存在下、40〜90℃の温度で加水分解して、6位アセチル置換度の高いセルロースジアセテートを得る工程とを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の6位高アセチル化セルロースジアセテートは、アセチル総置換度がさほど高くなく、且つアセチル総置換度に対する6位アセチル置換度の比率が高いため、さらにアシル化することにより、アシル基総置換度の高いセルロース混合アシレート(特に、6位のアセチル置換度が極めて高く、2位及び3位のアセチル基以外のアシル基置換度が高く、且つアシル基総置換度が高いセルロース混合アシレート)に誘導できる。このようなアシル基総置換度の高いセルロース混合アシレートは、特異的な置換基分布を有することから、優れた光学的特性(例えば、フィルム化して延伸した場合の配向複屈折や光弾性係数に係る特性)を発揮するため、写真材料や光学材料等として利用できる。
【0024】
本発明の6位高アセチル化セルロースジアセテートの製造方法によれば、上記のような写真材料や光学材料の原材料等として有用な6位高アセチル化セルロースジアセテートを工業的に効率よく製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[6位高アセチル化セルロースジアセテート]
本発明の6位高アセチル化セルロースジアセテートは、アセチル総置換度をDSt、6位アセチル置換度をDS6としたとき、下記の関係式(1)及び(2)を満足し、且つ6%粘度が40〜600mPa・sであるという特徴を有する。
2.0≦DSt<2.6 (1)
0.400≧DS6/DSt≧0.531−0.088×DSt (2)
【0026】
アセチル総置換度DStは2.0以上2.6未満であるが、好ましくは2.10以上2.51以下、さらに好ましくは2.20以上2.50以下である。アセチル総置換度(DSt)が低すぎると、これを原料としてアシル化する際に有機溶媒に溶解しにくくなって取扱性が低下するとともに、次のアシル化の反応設計が煩雑になりやすい。アセチル総置換度が高すぎると、アセチル基以外のアシル基を導入できる量が減少し、光学特性に優れたセルロース混合アシレートを得ることが困難となる。
【0027】
アセチル総置換度に対する6位アセチル置換度の割合(DS6/DSt)の上限は0.400であるが、製造の容易さの点から好ましくは0.370(より好ましくは0.360)である。アセチル総置換度に対する6位アセチル置換度の割合(DS6/DSt)が「0.531−0.088×DSt」の値より小さい場合には、6位に存在するアセチル基の割合が相対的に小さいため、アシル化することにより、6位のアセチル置換度が極めて高く且つ2位及び3位のアセチル基以外のアシル基置換度が高いセルロース混合アシレートを得ることが困難になる。
【0028】
本発明の6位高アセチル化セルロースジアセテートにおいて、6位アセチル置換度DS6としては、0.745以上(例えば、0.745〜0.900)が好ましく、より好ましくは0.750以上(例えば、0.750〜0.850)である。
【0029】
アセチル総置換度DSt、6位アセチル置換度DS6は、本発明の6位高アセチル化セルロースジアセテートから誘導されるセルロース混合アシレートをフィルム化した場合に求められるリターデーション等の性能に応じて選択することができる。
【0030】
本発明の6位高アセチル化セルロースジアセテートのグルコース環の2,3,6位の各アセチル置換度は、手塚(Tezuka, Carbonydr. Res. 273, 83(1995))の方法に従いNMR法で測定できる。すなわち、セルロースジアセテート試料の遊離水酸基をピリジン中で無水プロピオン酸によりプロピオニル化する。得られた試料を重クロロホルムに溶解し、13C−NMRスペクトルを測定する。アセチル基の炭素シグナルは169ppmから171ppmの領域に高磁場から2位、3位、6位の順序で、そして、プロピオニル基のカルボニル炭素のシグナルは、172ppmから174ppmの領域に同じ順序で現れる。それぞれ対応する位置でのアセチル基とプロピオニル基の存在比から、元のセルロースジアセテートにおけるグルコース環の2,3,6位の各アセチル置換度を求めることができる。アセチル置換度は、13C−NMRのほか、1H−NMRで分析することもできる。
【0031】
セルロースアセテートの平均置換度を求める最も一般的な方法は、ASTM−D−817−91(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定方法である。ASTMに従い求めた酢化度(結合酢酸量)を、次式で置換度に換算してもよい。
DS=162×AV×0.01/(60−42×AV×0.01)
上記式において、DSはアセチル総置換度であり、AVは酢化度(%)である。なお、換算して得られる置換度の値は、前記のNMR測定値との間に若干の誤差が生じることが普通である。換算値とNMR測定値とが異なる場合は、NMR測定値を採用する。また、NMR測定の具体的方法によって値が相違する場合は、上記手塚の方法によるNMR測定値を採用する。
【0032】
本発明の6位高アセチル化セルロースジアセテートの6%粘度は40〜600mPa・sであるが、好ましくは40〜400mPa・s、さらに好ましくは40〜280mPa・s、特に好ましくは45〜200mPa・s程度である。6%粘度が40mPa・sより小さいと、これをアシル化してセルロース混合アシレートを製造した場合、フィルム化が困難となり好ましくない。6%粘度が600mPa・sを超えると、ドープ粘度が高くなり、溶融キャストによるフィルム化が困難となるため好ましくない。なお、アセチル総置換度DStが2.0のセルロースジアセテートの場合、6%粘度40mPa・sは粘度平均分子量33730に相当し、6%粘度600mPa・sは粘度平均分子量62268に相当する。また、アセチル総置換度DStが2.6のセルロースジアセテートの場合、6%粘度40mPa・sは粘度平均分子量37180に相当し、6%粘度600mPa・sは粘度平均分子量68640に相当する。
【0033】
6位高アセチル化セルロースジアセテートの6%粘度は下記の方法で測定できる。
【0034】
三角フラスコに乾燥試料3.00g、95%アセトン水溶液を39.90g入れ、密栓して約1.5時間攪拌する。その後、回転振盪機で約1時間振盪して完溶させる。得られた6wt/vol%の溶液を所定のオストワルド粘度計の標線まで移し、25±1℃で約15分間整温する。計時標線間の流下時間を測定し、次式により6%粘度を算出する。
6%粘度(mPa・s)=流下時間(s)×粘度計係数
【0035】
粘度計係数は、粘度計校正用標準液[昭和石油社製、商品名「JS−200」(JIS Z 8809に準拠)]を用いて上記と同様の操作で流下時間を測定し、次式より求める。
粘度計係数={標準液絶対粘度(mPa・s)×溶液の密度(0.827g/cm3)}/{標準液の密度(g/cm3)×標準液の流下秒数(s)}
【0036】
本発明の6位高アセチル化セルロースジアセテートの粘度平均重合度は、例えば137〜253、好ましくは137〜236、さらに好ましくは137〜220であり、特に142〜206の範囲が好ましい。
【0037】
粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。なお、溶媒はセルロースジアセテートの置換度などに応じて選択できる。例えば、メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶液にセルロースジアセテートを溶解し、所定の濃度c(2.00g/L)の溶液を調製し、この溶液をオストワルド粘度計に注入し、25℃で粘度計の刻線間を溶液が通過する時間t(秒)を測定する。一方、前記混合溶媒単独についても上記と同様にして通過時間t0(秒)を測定し、下記式に従って、粘度平均重合度を算出できる。
ηrel=t/t0
[η]=(lnηrel)/c
DP=[η]/(6×10-4
(式中、tは溶液の通過時間(秒)、t0は溶媒の通過時間(秒)、cは溶液のセルロースジアセテート濃度(g/L)、ηrelは相対粘度、[η]は極限粘度、DPは平均重合度を示す)
【0038】
本発明の6位高アセチル化セルロースジアセテートとしては、アセチル総置換度の均一なセルロースジアセテートであるのが好ましい。アセチル総置換度の均一性を評価するのに、セルロースジアセテートの分子間置換度分布曲線或いは酢化度分布曲線の最大ピークの半値幅の大きさを指標とすることができる。セルロースジアセテートの分子間置換度分布曲線の最大ピークの半値幅としては、0.150以下が好ましく、より好ましくは0.140以下であり、特に0.130以下が好ましい。
【0039】
なお、「半値幅」は、置換度を横軸(x軸)に、この置換度における存在量を縦軸(y軸)としたとき、チャートのピークの高さの半分の高さにおけるチャートの幅であり、分布のバラツキの目安を表す指標である。すなわち、「置換度単位」とは、置換度をx軸の単位とすることを意味する。例えば、x軸を置換度(総置換度)単位とし、ピークの高さの半分に対応する置換度が、それぞれ、2.6および2.8であるとき、置換度単位の半値幅は2.8−2.6=0.2である。
【0040】
このような組成分布半値幅は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)分析により求めることができる。すなわち、異なる置換度を有する複数のセルロースエステルを標準試料として用いて所定の測定装置および測定条件でHPLC分析を行い、これらの標準試料の分析値を用いて作成した較正曲線[セルロースエステルの存在量と、置換度との関係を示す曲線、通常、二次曲線(特に放物線)]から、本発明のセルロースエステルの組成分布半値幅を求めることができる。
【0041】
より具体的には、組成分布半値幅は、所定の処理条件で測定したHPLC(逆相HPLC)におけるセルロースエステルの溶出曲線の横軸(溶出時間)を置換度(0〜3)に換算することにより得ることができる。
【0042】
溶出時間を置換度に換算する方法としては、例えば、特開2003−201301号公報(段落番号[0037]〜[0040])に記載の方法などを利用できる。例えば、溶出曲線を置換度(分子間置換度)分布曲線に変換する際には、複数(例えば、4種以上)の置換度の異なる試料を用いて、同じ測定条件で溶出時間を測定し、溶出時間(T)から置換度(DS)を求める換算式(変換式)を得てもよい。すなわち、溶出時間(T)と置換度(DS)との関係から、最小二乗法によりキャリブレーションカーブの関数(通常は、下記の2次式)を求める。
【0043】
DS=aT2+bT+c
(式中、DSはエステル置換度であり、Tは溶出時間であり、a、bおよびcは変換式の係数である)
【0044】
そして、上記のような換算式により求めた置換度分布曲線(セルロースエステルの存在量を縦軸とし、置換度を横軸とするセルロースエステルの置換度分布曲線)において、認められた平均置換度に対応する最大ピーク(E)に関し、以下のようにして組成分布半値幅を求める。すなわち、ピーク(E)の低置換度側の基部(A)と、高置換度側の基部(B)に接するベースライン(A−B)を引き、このベースラインに対して、最大ピーク(E)から横軸に垂線をおろす。垂線とベースライン(A−B)との交点(C)を決定し、最大ピーク(E)と交点(C)との中間点(D)を求める。中間点(D)を通って、ベースライン(A−B)と平行な直線を引き、分子間置換度分布曲線との二つの交点(A’、B’)を求める。二つの交点(A’、B’)から横軸まで垂線をおろして、横軸上の二つの交点間の幅を、最大ピークの半値幅とする。
【0045】
このような組成分布半値幅は、試料中のセルロースエステルの分子鎖について、その構成する高分子鎖一本一本のグルコース環の水酸基がどの程度エステル化されているかにより、保持時間(リテンションタイムとも称される)が異なることを反映している。したがって、理想的には、保持時間の幅が、(置換度単位の)組成分布の幅を示すことになる。しかしながら、高速液体クロマトグラフには分配に寄与しない管部(カラムを保護するためのガイドカラムなど)が存在する。それゆえ、測定装置の構成により、組成分布の幅に起因しない保持時間の幅が誤差として内包されることが多い。この誤差は、上記の通り、カラムの長さ、内径、カラムから検出器までの長さや取り回しなどに影響され、装置構成により異なる。
【0046】
このため、前記セルロースエステルの組成分布半値幅は、通常、下記式で表される補正式に基づいて、補正値Zとして求めることができる。このような補正式を用いると、測定装置(および測定条件)が異なっても、同じ(ほぼ同じ)値として、より正確な組成分布半値幅を求めることができる。
【0047】
Z=(X2−Y21/2
(式中、Xは所定の測定装置および測定条件で求めた組成分布半値幅(未補正値)、Yは前記Xと同じ測定装置および測定条件で求めた総置換度3のセルロースエステルの組成分布半値幅を示す)
【0048】
上記式において、「総置換度3のセルロースエステル」とは、セルロースのヒドロキシル基の全てがエステル化されたセルロースエステル(例えば、セルローストリアセテートでは酢化度62.5%のセルローストリアセテート)を示し、セルロースのアシル化後であって、熟成前において得られる脱アシル化されていない完全置換物に相当し、実際には(又は理想的には)組成分布半値幅を有しない(すなわち、組成分布半値幅0の)セルロースエステルである。
【0049】
上記の通り、セルロースジアセテートの分子間置換度分布曲線は、逆相HPLCにおけるセルロースジアセテートの溶出曲線を得て、溶出曲線の横軸(溶出時間)をアセチル総置換度(0〜3)に換算することにより得ることができる。逆相HPLCの処理条件は以下の通りである。
【0050】
溶媒組成:クロロホルム/メタノール(9/1、v/v):メタノール/水(8/1、v/v)=20:80から、クロロホルム/メタノール(9/1、v/v)へ、28分間のリニアグラジエント
カラム:ノバパックフェニル、3.9×150mm(Waters製)
カラム温度:30℃
流速:0.7ml/分
試料濃度:2mg/ml
注入量:20マイクロリットル
検出器:エバポレイティブ光散乱検出器(ELSD−MK−III、Varex製)
ドリフトチューブ温度:80℃
ガス流量:2.1SLPM
【0051】
本発明の6位高アセチル化セルロースジアセテートにおいては、硫酸根の含有量が該6位高アセチル化セルロースジアセテートに対して、例えば100重量ppm以下(例えば1〜100重量ppm)、好ましくは70重量ppm以下(例えば1〜70重量ppm)、さらに好ましくは50重量ppm以下(例えば1〜50重量ppm)である。硫酸根の含有量が多いと、製品乾燥時や経時変化で製品の色味が黄色に着色するなどの問題を生じることがある。また、機能阻害を起こす要因になる可能性がある。
【0052】
ここでいう硫酸根は、結合硫酸、非結合の硫酸、硫酸塩、硫酸エステル、硫酸錯体などの形でセルロースジアセテート(6位高アセチル化セルロースジアセテート)中に存在している硫酸根の全量を意味する。セルロースジアセテート中の硫酸根の含有量は、絶乾状態の試料(セルロースジアセテート)を1300℃の電気炉で焼成し、昇華した亜硫酸ガスを10重量%過酸化水素水にトラップし、電量測定法によって定量する(SO42-換算の値)ことにより測定できる。単位はセルロースジアセテートに対する重量ppmである。電量滴定法の分析条件は以下の通りである。電量滴定法に用いる機器として、例えば、三菱化学製の商品名「TOX−10Σ」などが挙げられる。
温度:1100℃
試料量:20±2mg
燃焼ガス:酸素ガス(99.7%以上)
通気量:アルゴン200ml/min、酸素150ml/min
燃焼管:石英ガラス管(内管内径13mm、外管内径22mm)
【0053】
硫酸根の含有量の低い6位高アセチル化セルロースジアセテートは、例えば、6位高アセチル化セルロースジアセテートの製造工程において硫酸以外のアセチル化触媒を用いたり、反応系に供給する酢酸及び水の量を調整することにより得ることができる。
【0054】
[6位高アセチル化セルロースジアセテートの製造]
本発明の6位高アセチル化セルロースジアセテートの製造方法は、アセチル総置換度が2.6以上のセルローストリアセテートを、酢酸中、前記セルローストリアセテート100重量部に対して0.56〜8.44重量部のアセチル化触媒と、前記酢酸に対して22モル%以上50モル%未満の水の存在下、40〜90℃の温度で加水分解して、6位アセチル置換度の高いセルロースジアセテートを得る工程(加水分解工程)を含むことを特徴とする。アセチル総置換度が2.6以上のセルローストリアセテートは、セルロースを溶媒中で触媒の存在下、酢酸及び/又は無水酢酸と反応させる工程(アセチル化工程)により合成できる。なお、前記アセチル化工程の前に、セルロースをアセチル化溶媒で活性化する工程(活性化工程(前処理工程))を設けてもよい。前記本発明の6位高アセチル化セルロースジアセテートは、本製造方法により製造することができる。以下、この製造方法について詳細に説明する。
【0055】
[原料セルロース]
原料セルロースとしては、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、リンターパルプ(コットンリンターパルプなど)などの種々のセルロース源を用いることができる。これらのパルプは、通常、ヘミセルロースなどの異成分を含有している。従って、本明細書において、用語「セルロース」は、ヘミセルロースなどの異成分も含有する意味で用いる。木材パルプとしては、広葉樹パルプ及び針葉樹パルプから選択された少なくとも一種が使用でき、広葉樹パルプと針葉樹パルプとを併用してもよい。また、リンターパルプ(精製綿リンターなど)と木材パルプとを併用してもよい。本発明では重合度の高いセルロース、例えば、リンターパルプ、特にコットンリンターパルプが使用でき、セルロースとしては、少なくとも一部はリンターパルプで構成されたセルロースを使用するのが好ましい。セルロースの結晶化度の指標となるα−セルロース含有量(重量基準)は、98%以上(例えば、98.5〜100%、好ましくは99〜100%、さらに好ましくは99.5〜100%程度)である。セルロースは、通常、セルロース分子及び/又はヘミセルロース分子に結合した状態などで多少のカルボキシル基を含有しているものであってもよい。
【0056】
[活性化工程]
活性化工程(又は前処理工程)では、セルロースをアセチル化溶媒(アセチル化工程の溶媒)で処理し、セルロースを活性化させる。アセチル化溶媒としては、通常酢酸が用いられるが、酢酸以外の溶媒(塩化メチレンなど)を用いたり、酢酸と酢酸以外の溶媒(塩化メチレンなど)の混合溶媒を用いることもできる。通常、原料セルロースはシート状の形態で供給される場合が多いため、セルロースを乾式で解砕処理し、活性化処理(又は前処理)する。活性化工程で用いるアセチル化溶媒には、強酸(硫酸など)が添加されることもあるが、強酸を多く含むアセチル化溶媒で処理すると、セルロースの解重合が進行しやすくなり、重合度が低下する。例えば、常用の技術としては前処理工程で添加される強酸量(硫酸量)としては原料セルロース100重量部に対して0.1〜0.5重量部程度用いるものとされており、前処理工程で強酸(硫酸)を原料セルロース100重量部当たり0.5重量部以上用いた場合には原料セルロースの分子量低下が生じることが知られている(「酢酸繊維」、和田野基著、丸善株式会社発行)。
【0057】
活性化工程におけるアセチル化溶媒の使用量は、原料セルロース100重量部当たり、例えば10〜100重量部、好ましくは15〜60重量部程度である。活性化工程における温度は、例えば10〜40℃、好ましくは15〜35℃の範囲である。活性化工程の時間(処理時間)は、例えば10〜180分、好ましくは20〜120分である。
【0058】
[アセチル化工程]
前記活性化処理により活性化されたセルロースは、アセチル化溶媒中、アセチル化触媒の存在下、アセチル化剤でアセチル化され、セルロースアセテート(特に、セルローストリアセテート)を生成する。アセチル化触媒としては、強酸、特に硫酸が使用できる。アセチル化工程でのアセチル化触媒(特に、硫酸)の使用量は、前記活性化工程でのアセチル化触媒の使用量を含めて合算で、原料セルロース100重量部に対して1〜20重量部程度であればよく、特にアセチル化触媒が硫酸の場合には7〜15重量部(例えば7〜13重量部、好ましくは8〜13重量部、より好ましくは9〜12重量部)程度である。
【0059】
アセチル化剤としては、酢酸クロライド等の酢酸ハライドであってもよいが、通常、無水酢酸が使用される。アセチル化工程でのアセチル化剤の使用量は、例えば、セルロースの水酸基に対して1.1〜4当量、好ましくは1.1〜2当量、さらに好ましくは1.3〜1.8当量程度である。また、アセチル化剤の使用量は、原料セルロース100重量部当たり、例えば200〜400重量部、好ましくは250〜350重量部である。
【0060】
アセチル化溶媒としては、前記のように、酢酸、塩化メチレンなどが使用される。2種以上の溶媒(例えば、酢酸と塩化メチレン)を混合して用いてもよい。アセチル化溶媒の使用量は、例えば、セルロース100重量部に対して50〜700重量部、好ましくは100〜600重量部、さらに好ましくは200〜500重量部程度である。特に、セルローストリアセテートを得る場合には、アセチル化工程でのアセチル化溶媒としての酢酸の使用量は、セルロース100重量部に対して30〜500重量部、好ましくは80〜450重量部、さらに好ましくは150〜400重量部(例えば、250〜380重量部)程度である。
【0061】
アセチル化反応は、慣用の条件、例えば0〜55℃、好ましくは20〜50℃、さらに好ましくは30〜50℃程度の温度で行うことができる。アセチル化反応は、初期において、比較的低温[例えば、10℃以下(例えば、0〜10℃)]で行ってもよい。このような低温での反応時間は、例えば、アセチル化反応開始から30分以上(例えば、40分〜5時間、好ましくは60〜300分程度)であってもよい。また、アセチル化時間(総アセチル化時間)は、反応温度等によっても異なるが、例えば20分〜36時間、好ましくは30分〜20時間の範囲である。特に、少なくとも30〜50℃の温度で30分〜180分程度(好ましくは50分〜150分程度)反応させるのが望ましい。
【0062】
なお、アセチル化剤との反応によりセルローストリアセテート(一次セルロースアセテートと呼ばれることもある)が生成すると反応系が均一となり、その後も均一系を維持するため、反応系が均一なドープ(溶液)を形成した時点でアセチル化反応が終了したと判断することができる。より厳密には、アセチル化反応系ではアセチル化触媒が存在するため、該反応系では、セルロースに対するアセチル基の置換度が増大するアセチル化反応とグリコシド結合が開裂する解重合反応とが競争するが、本発明ではとりわけ、前記アセチル化反応が優先的に生じる。そのため、均一な反応系が形成されると、アセチル化反応が終了したと判断することができる。また、アセチル化反応の完了(又は終点)は加水分解反応又は加アルコール分解反応の開始(又は開始点)でもある。
【0063】
[アセチル化反応の停止]
アセチル化反応の終了後、反応系に残存するアセチル化剤を失活(クエンチ)させるため、反応系に反応停止剤を添加する。この操作により、少なくとも前記アセチル化剤(特に酸無水物)が失活させられる。前記反応停止剤は、アセチル化剤を失活可能であればよく、通常、少なくとも水を含んでいる場合が多い。例えば、反応停止剤は、水と、アセチル化溶媒(酢酸など)、アルコール及び中和剤から選択された少なくとも一種とで構成してもよい。より具体的には、反応停止剤としては、例えば、水単独、水と酢酸との混合物、水とアルコールとの混合物、水と中和剤との混合物、水と酢酸と中和剤との混合物、水と酢酸とアルコールと中和剤との混合物などが例示できる。
【0064】
中和剤としては、塩基性物質、例えば、アルカリ金属化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属カルボン酸塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のナトリウムアルコキシドなど)、アルカリ土類金属化合物(例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム等のアルカリ土類金属カルボン酸塩;マグネシウムエトキシド等のアルカリ土類金属アルコキシドなど)などを使用できる。これらの中和剤の中でも、アルカリ土類金属化合物、特に、酢酸マグネシウム等のマグネシウム化合物が好ましい。中和剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、中和剤によりアセチル化触媒(硫酸等)の一部が中和される。
【0065】
[熟成工程(加水分解工程)]
前記アセチル化反応を停止した後、生成したセルロースアセテート[セルローストリアセテート;アセチル総置換度が2.6以上(2.6〜3.0)のセルロースアセテート]を酢酸中で熟成[加水分解(脱アセチル化)]することにより、アセチル総置換度及び置換度分布を調整したセルロースジアセテート(6位高アセチル化セルロースジアセテート)を得ることができる。この反応において、アセチル化に利用したアセチル化触媒(特に硫酸)の一部を中和し、残存するアセチル化触媒(特に硫酸)を熟成触媒として利用してもよく、中和することなく残存した全てのアセチル化触媒(特に硫酸)を熟成触媒として利用してもよい。好ましい態様では、残存アセチル化触媒(特に硫酸)を熟成触媒として利用してセルロースアセテート(セルローストリアシレート)を熟成[加水分解分解(脱アセチル化)]する。なお、熟成において、必要に応じて新たに溶媒等(酢酸、塩化メチレン、水、アルコールなど)を添加してもよい。
【0066】
本発明の製造方法の重要な特徴は、熟成工程(加水分解工程)において、セルローストリアセテートを、酢酸中、前記セルローストリアセテート100重量部に対して0.56〜8.44重量部のアセチル化触媒と、前記酢酸に対して22モル%以上50モル%未満の水の存在下、40〜90℃の温度範囲で加水分解分解して、6位アセチル置換度の高いセルロースジアセテートを生成させる点にある。なお、この条件で熟成を行うと、分子間置換度分布が均一で(例えば、分子間置換度分布曲線の最大ピークの半値幅が前記範囲に入るような)かつグルコース環の6位アセチル置換度分布が高いセルロースアセテートを得ることができる。アセチル化触媒としては、硫酸が好ましい。なお、上記のアセチル化触媒の量、及び水の量は、バッチ反応の場合は熟成反応開始時の量を基準としたものであり、連続反応の場合は仕込み量を基準としたものである。
【0067】
本発明において、熟成工程における酢酸の量は、セルローストリアセテート100重量部に対して56〜1125重量部が好ましく、より好ましくは112〜844重量部、さらに好ましくは169〜563重量部程度である。また、熟成工程における酢酸の量は、アセチル化反応において原料として用いたセルロース100重量部に対しては、100〜2000重量部が好ましく、より好ましくは200〜1500重量部、さらに好ましくは300〜1000重量部程度である。
【0068】
本発明において、アセチル化触媒(特に硫酸)の量は、セルローストリアセテート100重量部に対して0.56〜8.44重量部であり、より好ましくは0.56〜5.63重量部、さらに好ましくは0.56〜2.81重量部、特に好ましくは1.69〜2.81重量部である。また、アセチル化触媒(特に硫酸)の量は、アセチル化反応において原料として用いたセルロース100重量部に対しては、1〜15重量部が好ましく、より好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部、特に好ましくは3〜5重量部である。アセチル化触媒の量が少ない場合は、加水分解の時間が長くなりすぎ、セルロースアセテートの分子量の低下を引き起こすことがある。一方、アセチル化触媒の量が多すぎると、熟成温度に対する解重合速度の変化の度合いが大きくなり、熟成温度がある程度低くても解重合速度が大きくなり、分子量が大きい6位高アセチル化セルロースジアセテートを得ることができなくなる。
【0069】
本発明において、水の量は、前記酢酸に対して22モル%以上50モル%未満であり、より好ましくは24モル%〜48モル%、さらに好ましくは38モル%〜48モル%の範囲である。水の量が酢酸の量に対して50モル%以上の場合には、DS6/DStの値が低下して、6位高アセチル化セルロースジアセテートを得ることができない。一方、水の量が酢酸の量に対して22モル%未満の場合には、解重合速度が著しく速くなり、分子量が大きい6位高アセチル化セルロースジアセテートを得ることが困難になるとともに、アセチル総置換度が高く(低下せず)、アセチル基以外のアシル基を導入する余地が少なくなる。
【0070】
実際のセルロースジアセテートの製造工程では、アセチル化終了後のセルローストリアセテートを単離することはなく、アセチル化終了後の反応溶液に上記反応停止剤を添加し、更に中和剤を添加してアセチル触媒の一部を中和し、残存するアセチル触媒を熟成工程における加水分解触媒として利用し、所定の量の水を加えて熟成工程を行う場合が多い。したがって、上記のセルローストリアセテート100重量部に対するアセチル化触媒、酢酸及び水の量としては、アセチル化工程が終了した段階で、原料セルロースが全て完全三置換のセルローストリアセテートに変換されているものとして、表記した数値である。実操作上は上記のセルローストリアセテート100重量部当りのアセチル化触媒、酢酸、及び水の量はアセチル化工程開始時の原料セルロースを基準に計算されるべきものであり、その場合は原料セルロース100重量部当りでは、上記のセルローストリアセテート100重量部当りのアセチル化触媒、酢酸、及び水の量に対して1.777を乗じた数値となる。
【0071】
なお、熟成で用いられるアセチル化触媒の量は、反応系に添加されたアセチル化触媒の化学当量を反応系に添加された中和剤の化学当量から除した上で、アセチル化触媒の1グラム当量を乗じた値に上記と同様に1.777を乗じた数値が原料セルロースを基準としたアセチル化触媒の量となる。
【0072】
同様に、水の量はアセチル化工程終了時に反応系に添加された水、熟成開始時に添加された水などの熟成工程時までに反応系に添加された水の量に1.777を乗じた数値が原料セルロースを基準にした水の量となる。
【0073】
酢酸の場合であれば、前処理、アセチル化工程、熟成工程で反応系に添加された酢酸の量に更に、無水酢酸が加水分解して生じた酢酸の量を加えて、1.777を乗じた数値が原料セルロースを基準にした酢酸の量となる。
【0074】
本発明において、熟成温度(加水分解温度)は40〜90℃であり、より好ましくは40〜80℃、さらに好ましくは50〜80℃、特に好ましくは60〜80℃(例えば65〜78℃)である。熟成温度が高すぎると、アセチル化触媒の量にもよるが、解重合速度が高くなり、セルロースアセテートの分子量が低下し易い。一方、熟成温度が低すぎる場合には、加水分解反応の反応速度が低下して生産性を阻害する。
【0075】
上記の熟成工程における水の量(熟成水分量)、熟成温度の組み合わせでは、熟成水分量が高めで且つ熟成温度が低めの反応条件の組み合わせが最も好ましく、熟成水分量としては前記酢酸に対して38〜48モル%で、且つ熟成温度が65〜78℃の範囲が最も好ましい。アセチル化触媒の量が多い場合には、熟成水分量および熟成温度の変化に対する解重合速度の変化を大きくする効果があるので、アセチル化触媒の量は上記の熟成水分量と熟成温度の組み合わせであれば低い方が好ましく、具体的にはセルローストリアセテート100重量部に対して1.13〜2.53重量部(セルロース100重量部に対して2〜4.5重量部)である。
【0076】
[熟成反応の停止]
所定のセルロースジアセテートを生成させた後、熟成反応を停止させる。すなわち、前記熟成(加水分解反応、脱アセチル化)の後、必要により前記中和剤(好ましくは前記アルカリ土類金属化合物、特に、水酸化カルシウム等のカルシウム化合物)を添加してもよい。反応生成物(セルロースジアセテートを含むドープ)を析出溶媒(水、酢酸水溶液など)に投入して生成したセルロースジアセテートを分離し、水洗などにより遊離の金属成分や硫酸成分などを除去してもよい。なお、水洗の際に前記中和剤を使用することもできる。このような方法により、セルロースジアセテートの重合度の低下を抑制しつつ、不溶物又は低溶解性成分(未反応セルロース、低アセチル化セルロースなど)の生成を低減できる。
【0077】
こうして得られる6位高アセチル化セルロースジアセテートは、そのまま又はさらに誘導体化して、吸着剤、フィルム(光学フィルム等)、塗料、光学異性体分離剤等の用途に利用できる。また、この6位高アセチル化セルロースジアセテート又はその誘導体を他の物質や材料に添加することで機能を変化させたり新たな機能を付加することができる。特に、6位のアセチル置換度が高く、アセチル総置換度はさほど高くなくアセチル基以外のアシル基(例えば、ベンゾイル基等の芳香族アシル基、プロピオニル基等のアセチル基以外の脂肪族アシル基など)をある程度導入できる余地があり、しかも分子量が比較的高いという特徴を有するため、写真材料や光学材料等としての利用が期待される光学的特性に優れたアシル基総置換度の高いセルロース混合アシレートの原料、特に、6位はアセチル置換度が極めて高く、2位及び3位はアセチル基以外のアシル基(例えば、ベンゾイル基等の芳香族アシル基、プロピオニル基等のアセチル基以外の脂肪族アシル基など)の置換度が高く、且つアシル基総置換度が高いセルロース混合アシレートの原料として好適に使用できる。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0079】
実施例1
シート状セルロース(広葉樹パルプ)をディスクリファイナーで処理し、綿状とした。100gの綿状セルロース(含水率8.0重量%)に、32.71gの酢酸を噴霧し、よく撹拌し、温度24℃で60分静置した(活性化工程)。活性化されたセルロースに、酢酸348.98g、無水酢酸290.90g及び硫酸11.24gを混合し、15℃で20分保持した後、昇温速度0.31℃/分で反応系の温度を45℃まで昇温して70分保持し、アセチル化を行い、セルローストリアセテートを生成させた。次いで、酢酸0.19g、水78.08g及び酢酸マグネシウム9.27gを添加し、アセチル化反応を停止した。
得られた反応混合液に、酢酸0.02g、水2.86g、酢酸マグネシウム0.91gを加え、75℃で140分、熟成反応を行った。なお、熟成反応開始時における反応系内の水の量は酢酸に対して40.0モル%であり、硫酸の量は原料セルロースに対して4重量%である。反応終了後、酢酸0.15g、水23.17g及び酢酸マグネシウム7.37gを添加し、熟成反応を停止した。
反応混合液を希酢酸中に撹拌下に投入し、生成物を沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別して乾燥することにより、セルロースジアセテートを得た。得られたセルロースジアセテートのDStは2.36、DS6は0.77、6%粘度は111mPa・sであった。また、得られたセルロースジアセテートの分子間置換度分布曲線の最大ピークの半値幅を求めたところ、0.136であった。
【0080】
実施例2
シート状セルロース(広葉樹パルプ)をディスクリファイナーで処理し、綿状とした。100gの綿状セルロース(含水率8.0重量%)に、32.71gの酢酸を噴霧し、よく撹拌し、温度24℃で60分静置した(活性化工程)。活性化されたセルロースに、酢酸340.91g、無水酢酸297.76g及び硫酸11.24gを混合し、15℃で20分保持した後、昇温速度0.31℃/分で反応系の温度を45℃まで昇温して70分保持し、アセチル化を行い、セルローストリアセテートを生成させた。次いで、酢酸0.19g、水78.08g及び酢酸マグネシウム9.27gを添加し、アセチル化反応を停止した。
得られた反応混合液に、酢酸0.02g、水2.86g、酢酸マグネシウム0.91gを加え、75℃で180分、熟成反応を行った。なお、熟成反応開始時における反応系内の水の量は酢酸に対して40.0モル%であり、硫酸の量は原料セルロースに対して4重量%である。反応終了後、酢酸0.15g、水23.17g及び酢酸マグネシウム7.37gを添加し、熟成反応を停止した。
反応混合液を希酢酸中に撹拌下に投入し、生成物を沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別して乾燥することにより、セルロースジアセテートを得た。得られたセルロースジアセテートのDStは2.26、DS6は0.76、6%粘度は54mPa・sであった。また、得られたセルロースジアセテートの分子間置換度分布曲線の最大ピークの半値幅を求めたところ、0.141であった。
【0081】
実施例3
シート状セルロース(広葉樹パルプ)をディスクリファイナーで処理し、綿状とした。100gの綿状セルロース(含水率8.0重量%)に、32.71gの酢酸を噴霧し、よく撹拌し、温度24℃で60分静置した(活性化工程)。活性化されたセルロースに、酢酸340.91g、無水酢酸297.76g及び硫酸10.22gを混合し、15℃で20分保持した後、昇温速度0.31℃/分で反応系の温度を45℃まで昇温して70分保持し、アセチル化を行い、セルローストリアセテートを生成させた。次いで、酢酸0.16g、水68.59g及び酢酸マグネシウム7.80gを添加し、アセチル化反応を停止した。
得られた反応混合液に、酢酸0.02g、水2.86g、酢酸マグネシウム0.91gを加え、72℃で155分、熟成反応を行った。なお、熟成反応開始時における反応系内の水の量は酢酸に対して35.0モル%であり、硫酸の量は原料セルロースに対して4重量%である。反応終了後、酢酸0.15g、水23.17g及び酢酸マグネシウム7.37gを添加し、熟成反応を停止した。
反応混合液を希酢酸中に撹拌下に投入し、生成物を沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別して乾燥することにより、セルロースジアセテートを得た。得られたセルロースジアセテートのDStは2.41、DS6は0.78、6%粘度は108mPa・sであった。また、得られたセルロースジアセテートの分子間置換度分布曲線の最大ピークの半値幅を求めたところ、0.133であった。
【0082】
実施例4
シート状セルロース(広葉樹パルプ)をディスクリファイナーで処理し、綿状とした。100gの綿状セルロース(含水率8.0重量%)に、32.71gの酢酸を噴霧し、よく撹拌し、温度24℃で60分静置した(活性化工程)。活性化されたセルロースに、酢酸333.50g、無水酢酸304.06g及び硫酸10.22gを混合し、15℃で20分保持した後、昇温速度0.31℃/分で反応系の温度を45℃まで昇温して70分保持し、アセチル化を行い、セルローストリアセテートを生成させた。次いで、酢酸0.16g、水50.19g及び酢酸マグネシウム7.80gを添加し、アセチル化反応を停止した。
得られた反応混合液に、酢酸0.02g、水2.86g、酢酸マグネシウム0.91gを加え、65℃で250分、熟成反応を行った。なお、熟成反応開始時における反応系内の水の量は酢酸に対して25.0モル%であり、硫酸の量は原料セルロースに対して4重量%である。反応終了後、酢酸0.15g、水22.49g及び酢酸マグネシウム7.15gを添加し、熟成反応を停止した。
反応混合液を希酢酸中に撹拌下に投入し、生成物を沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別して乾燥することにより、セルロースジアセテートを得た。得られたセルロースジアセテートのDStは2.50、DS6は0.82、6%粘度は137mPa・sであった。また、得られたセルロースジアセテートの分子間置換度分布曲線の最大ピークの半値幅を求めたところ、0.128であった。
【0083】
比較例1
シート状セルロース(広葉樹パルプ)をディスクリファイナーで処理し、綿状とした。100gの綿状セルロース(含水率8.0重量%)に、32.71gの酢酸を噴霧し、よく撹拌し、温度24℃で60分静置した(活性化工程)。活性化されたセルロースに、酢酸358.51g、無水酢酸214.99g及び硫酸14.15gを混合し、15℃で20分保持した後、昇温速度0.31℃/分で反応系の温度を45℃まで昇温して70分保持し、アセチル化を行い、セルローストリアセテートを生成させた。次いで、酢酸0.28g、水89.55g及び酢酸マグネシウム13.60gを添加し、アセチル化反応を停止した。
得られた反応混合液に、酢酸0.06g、水9.14g、酢酸マグネシウム2.90gを加え、85℃で90分、熟成反応を行った。なお、熟成反応開始時における反応系内の水の量は酢酸に対して55.8モル%であり、硫酸の量は原料セルロースに対して2.5重量%である。反応終了後、酢酸0.10g、水15.81g及び酢酸マグネシウム5.03gを添加し、熟成反応を停止した。
反応混合液を希酢酸中に撹拌下に投入し、生成物を沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別して乾燥することにより、セルロースジアセテートを得た。得られたセルロースジアセテートのDStは2.47、DS6は0.74、6%粘度は138mPa・sであった。また、得られたセルロースジアセテートの分子間置換度分布曲線の最大ピークの半値幅を求めたところ、0.140であった。
【0084】
比較例2
シート状セルロース(広葉樹パルプ)をディスクリファイナーで処理し、綿状とした。100gの綿状セルロース(含水率8.0重量%)に、32.71gの酢酸を噴霧し、よく撹拌し、温度24℃で60分静置した(活性化工程)。活性化されたセルロースに、酢酸358.51g、無水酢酸214.99g及び硫酸14.15gを混合し、15℃で20分保持した後、昇温速度0.31℃/分で反応系の温度を45℃まで昇温して70分保持し、アセチル化を行い、セルローストリアセテートを生成させた。次いで、酢酸0.28g、水89.55g及び酢酸マグネシウム13.60gを添加し、アセチル化反応を停止した。
得られた反応混合液に、酢酸0.06g、水9.14g、酢酸マグネシウム2.90gを加え、85℃で175分、熟成反応を行った。なお、熟成反応開始時における反応系内の水の量は酢酸に対して55.8モル%であり、硫酸の量は原料セルロースに対して2.5重量%である。反応終了後、酢酸0.10g、水15.81g及び酢酸マグネシウム5.03gを添加し、熟成反応を停止した。
反応混合液を希酢酸中に撹拌下に投入し、生成物を沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別して乾燥することにより、セルロースジアセテートを得た。得られたセルロースジアセテートのDStは2.22、DS6は0.70、6%粘度は49mPa・sであった。また、得られたセルロースジアセテートの分子間置換度分布曲線の最大ピークの半値幅を求めたところ、0.149であった。
【0085】
比較例3
シート状セルロース(広葉樹パルプ)をディスクリファイナーで処理し、綿状とした。100gの綿状セルロース(含水率8.0重量%)に、32.71gの酢酸を噴霧し、よく撹拌し、温度24℃で60分静置した(活性化工程)。活性化されたセルロースに、酢酸344.95g、無水酢酸294.33g及び硫酸11.24gを混合し、15℃で20分保持した後、昇温速度0.31℃/分で反応系の温度を45℃まで昇温して70分保持し、アセチル化を行い、セルローストリアセテートを生成させた。次いで、酢酸0.19g、水98.13g及び酢酸マグネシウム9.27gを添加し、アセチル化反応を停止した。
得られた反応混合液に、酢酸0.06g、水9.14g、酢酸マグネシウム2.90gを加え、75℃で180分、熟成反応を行った。なお、熟成反応開始時における反応系内の水の量は酢酸に対して50.8モル%であり、硫酸の量は原料セルロースに対して4.0重量%である。反応終了後、酢酸0.15g、水23.17g及び酢酸マグネシウム7.37gを添加し、熟成反応を停止した。
反応混合液を希酢酸中に撹拌下に投入し、生成物を沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別して乾燥することにより、セルロースジアセテートを得た。得られたセルロースジアセテートのDStは2.28、DS6は0.73、6%粘度は175mPa・sであった。また、得られたセルロースジアセテートの分子間置換度分布曲線の最大ピークの半値幅を求めたところ、0.128であった。
【0086】
比較例4
シート状セルロース(広葉樹パルプ)をディスクリファイナーで処理し、綿状とした。100gの綿状セルロース(含水率8.0重量%)に、29.17gの酢酸を噴霧し、よく撹拌し、温度24℃で60分静置した(活性化工程)。活性化されたセルロースに、酢酸336.15g、無水酢酸279.44g及び硫酸14.24gを混合し、15℃で20分保持した後、昇温速度0.31℃/分で反応系の温度を45℃まで昇温して70分保持し、アセチル化を行い、セルローストリアセテートを生成させた。次いで、酢酸0.28g、水153.98g及び酢酸マグネシウム13.48gを添加し、アセチル化反応を停止した。
得られた反応混合液に、酢酸0.10g、水14.45g、酢酸マグネシウム4.59gを加え、90℃で190分、熟成反応を行った。なお、熟成反応開始時における反応系内の水の量は酢酸に対して89.9モル%であり、硫酸の量は原料セルロースに対して1.5重量%である。反応終了後、酢酸0.08g、水11.75g及び酢酸マグネシウム3.74gを添加し、熟成反応を停止した。
反応混合液を希酢酸中に撹拌下に投入し、生成物を沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別して乾燥することにより、セルロースジアセテートを得た。得られたセルロースジアセテートのDStは2.19、DS6は0.64、6%粘度は191mPa・sであった。また、得られたセルロースジアセテートの分子間置換度分布曲線の最大ピークの半値幅を求めたところ、0.138であった。
【0087】
比較例5
シート状セルロース(広葉樹パルプ)をディスクリファイナーで処理し、綿状とした。100gの綿状セルロース(含水率8.0重量%)に、32.71gの酢酸を噴霧し、よく撹拌し、温度24℃で60分静置した(活性化工程)。活性化されたセルロースに、酢酸377.56g、無水酢酸321.67g及び硫酸10.90gを混合し、15℃で20分保持した後、昇温速度0.31℃/分で反応系の温度を45℃まで昇温して70分保持し、アセチル化を行い、セルローストリアセテートを生成させた。次いで、酢酸0.18g、水26.96g及び酢酸マグネシウム8.57gを添加し、アセチル化反応を停止した。
得られた反応混合液に、酢酸0.09g、水25.55gを加え、65℃で270分、熟成反応を行った。なお、熟成反応開始時における反応系内の水の量は酢酸に対して20モル%であり、硫酸の量は原料セルロースに対して4.5重量%である。反応終了後、酢酸0.15g、水23.4g及び酢酸マグネシウム7.44gを添加し、熟成反応を停止した。
反応混合液を希酢酸中に撹拌下に投入し、生成物を沈殿させ、希水酸化カルシウム水溶液に浸漬した後、濾別して乾燥することにより、セルロースジアセテートを得た。得られたセルロースジアセテートのDStは2.53、DS6は0.82、6%粘度は29mPa・sであった。また、得られたセルロースジアセテートの分子間置換度分布曲線の最大ピークの半値幅を求めたところ、0.137であった。
【0088】
以上の結果を表1に示す。表1の「2.0≦DSt<2.6」及び「0.400≧DS6/DSt≧0.531−0.088×DSt」の欄において、これらの式を満足する場合は「○」、この式を満足しない場合は「×」の記号を記した。表1の「置換度分布半値幅」は「分子間置換度分布曲線の最大ピークの半値幅」を意味する。
【0089】
図1は実施例1〜4及び比較例1〜4で得られた各セルロースジアセテートのDStとDSt/DS6の値をプロットしたグラフである。縦軸はDSt/DS、横軸はDStである。図1中、□印は実施例1〜4のデータ、△印は比較例1〜4のデータである。太線で囲まれた領域が本発明の範囲である。
【0090】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】実施例1〜4及び比較例1〜4で得られた各セルロースジアセテートのDStとDSt/DS6の値をプロットしたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチル総置換度をDSt、6位アセチル置換度をDS6としたとき、下記の関係式(1)及び(2)を満足し、且つ6%粘度が40〜600mPa・sである6位高アセチル化セルロースジアセテート。
2.0≦DSt<2.6 (1)
0.400≧DS6/DSt≧0.531−0.088×DSt (2)
【請求項2】
アセチル総置換度が2.6以上のセルローストリアセテートを、酢酸中、前記セルローストリアセテート100重量部に対して0.56〜8.44重量部のアセチル化触媒と、前記酢酸に対して22モル%以上50モル%未満の水の存在下、40〜90℃の温度で加水分解して、6位アセチル置換度の高いセルロースジアセテートを得る工程を含む6位高アセチル化セルロースジアセテートの製造方法。
【請求項3】
セルロースを溶媒中で触媒の存在下、アセチル化剤と反応させてアセチル総置換度が2.6以上のセルローストリアセテートを合成する工程、及び前記工程で得られたセルローストリアセテートを、酢酸中、前記セルローストリアセテート100重量部に対して0.56〜8.44重量部のアセチル化触媒と、前記酢酸に対して22モル%以上50モル%未満の水の存在下、40〜90℃の温度で加水分解して、6位アセチル置換度の高いセルロースジアセテートを得る工程を含む6位高アセチル化セルロースジアセテートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−155555(P2009−155555A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337746(P2007−337746)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】