説明

67kDaラミニン・レセプターを用いた薬物のスクリーニング方法及びそれにより得られる薬物

【課題】67kDaラミニン・レセプターを用いた薬物の新規なスクリーニング方法及びそれにより得られる薬物を提供する。
【解決手段】被験化合物と67kDaラミニン・レセプターとの結合の度合いを定性的または定量的に測定し、その測定結果より被験化合物が67kDaラミニン・レセプターに結合する場合にはその被験化合物が細胞増殖抑制作用、血管新生阻害作用、癌細胞の転位活性阻害作用、神経保護作用、抗アレルギー作用、抗動脈硬化作用、及び/または、クロイツフェルトヤコブ病感染阻害作用を有する薬物であると判断する工程を含む、細胞増殖抑制作用、血管新生阻害作用、癌細胞の転位活性阻害作用、神経保護作用、抗アレルギー作用、抗動脈硬化作用、及び/または、クロイツフェルトヤコブ病感染阻害作用を有する薬物のスクリーニング方法、並びに、それにより得られる薬物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は67kDaラミニン・レセプターを用いた薬物のスクリーニング方法及びそれにより得られる薬物に関する。
【背景技術】
【0002】
67kDaラミニン・レセプター(以下、「67LR」と称することもある。)は、295個のアミノ酸をコードするmRNAから翻訳された37kDa前駆体蛋白質が、細胞内で脂肪酸等によるアシル化重合反応を受けてホモ二量体またはヘテロ二量体化により67kDaとなった蛋白質であり、それがインテグリン類とともに細胞膜表面へ移行してはじめてラミニン・レセプターとして機能する(非特許文献1および2)。
【0003】
また、37kDa前駆体蛋白質は、リボソーム関連蛋白質p40として蛋白合成に関与していることが、さらには多剤耐性関与蛋白質(MGr1−Ag)として報告されていたものと同一であることが明らかにされている(非特許文献3)。このラミニン・レセプターの多くの癌細胞での高発現というデータにより、汎腫瘍特異的移植抗原としてのT細胞の免疫原として、腫瘍胎児抗原であると見なされている(非特許文献4)。ラミニン・レセプターは既に67LR以外に10数種類報告されているが、その中でも67LRの癌との関連が強く示唆されている。
【0004】
67LRは多くの癌において癌細胞での検出の有無から、ヒト癌患者の悪性度を示す重要な予後因子として知られており(非特許文献5〜9)、動物モデル等では癌細胞の増殖、移動、浸潤、転移等に関与することが示唆されている。
【0005】
たとえば、乳癌患者においては67LRポジティブの患者の生存率はネガティブな患者より有為に低いことが報告されている。67LRのリガンドであるラミニンの発現は予後には影響ないが、レセプター67LRの発現は予後に負の結果をもたらすことが示されている(非特許文献5)。
【0006】
これらの知見を下に、67LRの発現を抑制することで抗腫瘍効果を示すことを期待して行われた実験が幾つか報告されている。67LRのアンチセンスRNAを癌細胞株に導入して作製した67LR低発現細胞株は、元の親株細胞よりもマウスのインビボにおいて有為に腫瘍増殖能の低下並びに転移能の低下が起こり、その結果マウス個体の生存率が改善することが報告されている(非特許文献9)。
【0007】
さらには、低67LR発現細胞株は親株よりも腫瘍血管新生の低下並びに血管新生促進因子であるVEGFの産生そのものも低下していることが報告されている(非特許文献10)。同様に、67LRに対する抗体を用いた腫瘍転移実験においても、アンチセンス実験と同様な効果が見とめられている(非特許文献11)。
【0008】
非腫瘍関連においても、67LRの機能について幾つか報告がなされている。虚血動物モデルにおいて誘導される新生血管の増生が67LRと結合するラミニン由来ペプタイド(システイン−アスパラギン酸−プロリン−グリシン−チロシン−イソロイシン−グリシン−セリン−アルギニン)や、EGF由来ペプタイド(システイン−バリン−イソロイシン−グリシン−チロシン−セリン−グリシン−アスパラギン酸−アルギニン−システイン)によって抑制されることが報告されている(非特許文献12)。
【0009】
血管内皮細胞に対する剪断力によって誘導される動脈硬化との関与が指摘されているeNOS発現とNO産生が、67LRと結合するラミニン由来ペンタペプタイド(チロシン−イソロイシン−グリシン−セリン−アルギニン)によって抑制することが報告されている(非特許文献13)。
【0010】
最近の報告では、67LRがクロイツフェルトヤコブ病の病因と考えられているプリオン蛋白質のレセプターとして働き、プリオンが結合してインタナリゼーションされることが、その結合とインタナリゼーションが膜ドメインを欠いたミュータント67LRの分泌によって阻害されることが報告されている(非特許文献14)。
【0011】
67LRはまた、T細胞のサブセットであるCD45RO+/CD45RA−のメモリー細胞のCD4+CD8−またはCD4−CD8+のサブセット群で発現していることが報告され、67LRの免疫系への作用が示唆されている(非特許文献15)。
【0012】
67LRのmRNA発現に関する報告も幾つか存在する。癌抑制因子であるp53や抗癌因子であるTNF−アルファー、IFN−ガンマーによってその発現が抑制されることが報告されている(非特許文献16)。ただし、このような多用な機能に関与すると推定されている67LRに対する低分子化合物の報告はない。
【0013】
一方、カテキン類のうち、エピガロカテキンガレート(以下、「EGCG」と称することもある。)は、茶のカテキンの約50%を占める主用成分である。他に、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピカテキン(以下それぞれ、「EGC]、「ECG]、「EC」と称することもある)等が含まれる。
【0014】
茶は古来より薬として用いられて来た古い歴史があり、近代よりその効能と成分の関係が解析されてきた。そのうちEGCGは1947年、A.Bradfieldらによって発見された成分である(非特許文献17)。
【0015】
EGCGを含めて茶のカテキン類の生理作用としては、抗酸化、抗癌、血漿コレステロール上昇抑制、血圧上昇抑制、血小板凝集抑制、血糖上昇抑制、痴呆予防、抗潰瘍、抗炎症、抗アレルギー、抗菌・抗虫歯、抗ウイルス、解毒、腸内フローラ改善、消臭等が報告されている(非特許文献18)。
【0016】
このうち、抗癌作用は非常に多く報告されており、抗変異作用、抗発癌プロモーション作用、抗腫瘍増殖抑制作用、抗浸潤・転移阻害作用、抗血管新生阻害作用がある。最近の報告では、EGCGは白血病細胞のDNA合成を阻害しアポトーシスを誘導することが(非特許文献19)、またEGCGが乳癌細胞株の増殖を抑制することが報告されている(非特許文献20)。
【0017】
さらには、EGCGが正常細胞と比べて癌細胞の増殖を強く抑制するなどの報告がなされている(非特許文献21)。
【0018】
浸潤・転移に関しては、カテキン類がマトリゲルを用いた浸潤試験で高転移性細胞の浸潤を抑制することが、また、癌細胞のフィブロネクチンやラミニンへの接着をEGCGが阻害することが報告されている(非特許文献22−24)。
【0019】
さらに、これらカテキン作用の分子レベルの解析が最近報告されてきている。たとえば、EGCGは癌との関連が示唆されているHer−2抗原高発現細胞の増殖を濃度依存的に抑制する。その作用機序はHer−2のリン酸化抑制によるその下流シグナル伝達の阻害だと報告されている(非特許文献25)。
【0020】
また、腫瘍増殖と密接な関連がある血管新生をEGCG等カテキンが阻害することが報告されている。そのメカニズムはカテキンが血管内皮細胞の増殖因子であるVEGFのレセプターVEGFR−1のリン酸化を抑制することにあると示されている。これはカテキンの抗酸化・抗ラジカル活性には依存しないと報告されている(非特許文献26)。
【0021】
同様に、他の増殖因子であるPDGF−BBによる血管平滑筋細胞でのPDGF−Rベータのリン酸化をカテキン類が抑制することで、血管の肥厚を抑制することが報告されている(非特許文献27)。
【0022】
さらに、EGF−2によるインビボでの血管新生並びに内皮細胞の増殖をEGCGが抑制することが報告されている(非特許文献28)。EGCGがアポトーシスを誘導するFas蛋白質と結合するという報告があるが(非特許文献29)、上記EGCGの作用がFasを関与したものなのか明らかにされておらず、他にEGCGと相互作用する因子の存在が示唆されている。
【0023】
カテキンには抗腫瘍効果以外にも、種々の生理作用が分子レベルで明らかになってきている。EGCGは肝細胞でのグルコース産生を抑制し、かつインスリンレセプターとIRS−1のチロシンリン酸化を促進することで抗糖尿病的作用が報告されている(非特許文献30)。
【0024】
また、パーキンソン モデル マウスにおいてEGCGは強く神経保護作用を示す報告から(非特許文献31)、多くの神経障害を抑制することが期待されている。アレルギーの要因である好塩基球でのFcイプシロンRIの発現をEGCGやそのメチル化体が抑制することを(非特許文献32)、さらには軟骨においてIL−1ベータによって誘導されるCOX−2やNO合成酵素2の発現をEGCGが抑制することが報告されている(非特許文献33)。
【0025】
しかし、本発明者らが知る限り、EGCGが67LRを介して細胞増殖抑制因子等として機能すること、また、67LRをターゲットとして細胞増殖抑制作用等を有する低分子化合物の薬物スクリーニングに利用可能なことに関しては、今まで一切報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】Biochemistry,1995,34:11276−11287
【非特許文献2】J.Cell.Biochem,1998,69:244−251
【非特許文献3】Cell.Mol.Life Sci.,2002,59:1577−1583
【非特許文献4】Anticancer Research,1999,19:5535−5542
【非特許文献5】Breast Cancer Research and Treatment,1998,52:137−145
【非特許文献6】Clinical Cancer Research,1997, 3:227−231
【非特許文献7】Clinical Cancer Research,1996, 2:1777−1780
【非特許文献8】J.Natl.Cancer Inst,1991,83:29−36
【非特許文献9】Breast Cancer Research and Treatment,1998,52:137−145
【非特許文献10】British Journal of Cancer,1999,80:1115−1122
【非特許文献11】Cancer Letters,2000,153:161−168
【非特許文献12】Jpn.J.Cancer Res.,1999,90:425−431
【非特許文献13】Am.J.Pathol,2002,160:307−313
【非特許文献14】J.Biol.Chem.,1999,274:15996−16002
【非特許文献15】EMBO J,2001,20:5863−5875
【非特許文献16】J.Immunol,1999,163:3430−3440
【非特許文献17】Biochem.Biophys.Res.Commun.,1998,251:564−569
【非特許文献18】J.Chem.Soc.,1947,32:2249
【非特許文献19】茶の機能、村松敬一郎ら編、学会出版センター、2002
【非特許文献20】Int.J.Mol.Med.,2001,7:645−652
【非特許文献21】J.Cell.Biochem.,2001,82:387−398
【非特許文献22】Arch.Biochem.Biophys,2000,376:338−346
【非特許文献23】Cancer Lett.,1995,98:27−31
【非特許文献24】Cell Biol.Int.,1993,17:559−564
【非特許文献25】Cancer Lett.,2001,173:15−20
【非特許文献26】Cancer Res.,2002,62:652−655
【非特許文献27】Cancer Res,2002,62:381−385
【非特許文献28】FASEB J,2002,16:893−895
【非特許文献29】Nature,1999,389:381
【非特許文献30】Biochem.Biophys.Res.Commun,2001,285:1102−1106
【非特許文献31】J.Biol.Chem.,2002,277:34933−34940
【非特許文献32】J.Biol.Chem.,2002,277:30574−30580
【非特許文献33】J.Agric.Food Chem,2002,50:5729−5734
【非特許文献34】Free Radical Biology & Medicin,2002,33:1097−2002
【発明の概要】
【0027】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、67LRが細胞増殖抑制作用、血管新生阻害作用、癌細胞の転移活性阻害作用、神経保護作用、抗アレルギー作用、抗動脈硬化作用、及び/または、クロイツフェルトヤコブ病感染阻害作用を有する薬物のターゲットとして使用可能なことを見出し本発明を完成するに至った。
【0028】
即ち本発明は下記の通りである。
1.67kDaラミニン・レセプターと結合するカテキン類であって、該67kDaラミニン・レセプターと結合することにより癌細胞の増殖または転移活性を阻害するカテキン類。
2.ガロイル基を有するカテキン類である前項1記載の化合物。
3.エピガロカテキンガレート(EGCG)及びその3−メチル置換体、並びにエピカテキンガレート(ECG)から選ばれる少なくとも1である前項1または2記載の化合物。
4.癌細胞が67kDaラミニン・レセプターを強発現している細胞である前項1から3のいずれか1項に記載の化合物。
5.前項1から4のいずれか1項に記載の化合物を含む細胞増殖抑制剤。
6.前項1から4のいずれか1項に記載の化合物を含む血管新生阻害剤。
7.前項1から4のいずれか1項に記載の化合物を含む癌細胞の転移活性阻害剤。
8.前項1から4のいずれか1項に記載の化合物を含む抗癌剤。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1の表面プラズモン共鳴センサによる測定結果を示す図である。
【図2】実施例1の細胞増殖試験の結果を示す図である。
【図3】実施例1の細胞増殖試験の結果を示す図である。
【図4】実施例2のフローサイトメトリーによる解析結果を示す図である。
【図5】実施例3の細胞増殖試験の結果を示す図である。
【図6】実施例3の表面プラズモン共鳴センサによる測定結果を示す図である。
【図7】実施例4の表面プラズモン共鳴センサによる測定結果を示す図である。
【図8】実施例4の細胞増殖試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下本発明について詳細に説明する。
【0031】
本発明は、67LRをターゲットとする薬物の新たなスクリーニング方法を提供するものである。
【0032】
本発明の一つの態様としては、被験化合物と67LRとの結合の度合いを定性的または定量的に測定し、その測定結果より被験化合物が67LRに結合する場合にはその被験化合物が細胞増殖抑制作用、血管新生阻害作用、癌細胞の転移活性阻害作用、神経保護作用、抗アレルギー作用、抗動脈硬化作用、及び/または、クロイツフェルトヤコブ病感染阻害作用を有する薬物であると判断する工程を含む、細胞増殖抑制作用、血管新生阻害作用、癌細胞の転移活性阻害作用、神経保護作用、抗アレルギー作用、抗動脈硬化作用、及び/または、クロイツフェルトヤコブ病感染阻害作用を有する薬物のスクリーニング方法が挙げられる。
【0033】
本発明で用いられる67LRはそれ自体公知の蛋白質であり、例えば、GenBank Accession No.NM_002295登録cDNA配列をもとに、常法に従い本蛋白質をコードする配列を挟み込むようにして種々のライブラリーをテンプレートとしてPCRを行うことで、67LRのcDNAを取得することが容易に可能である。また、ここで得られたcDNAを市販の種々のvectorに蛋白発現が可能な形で挿入することで、容易に本蛋白質を発現する細胞株構築ならびに本蛋白質本体の取得が可能である。これ以外にいくつかのcDNA取得と蛋白質発現の報告がある(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,1988,85:6394,H.Youら、British Journal of Cancer,1999,80:1115−1122,K.Satohら,Biochemistry,1995,34:11276−11287,T.H.Landowskiら)。
【0034】
なお、67LRは、遺伝子としては37kDaの40Sリボソーム結合蛋白質であるが、膜に発現する場合には67kDaとなることが知られている。本発明においては、膜に発現する場合には67kDaとなる蛋白質であって、ラミニンと結合する接着性を有する蛋白質であれば、すべて本発明における67LRとして定義され、完全な蛋白質だけでなく、その部分ペプチドを用いることも可能である。また、67LRは、スクリーニングの手段に応じて、例えば、精製した蛋白質として、可溶型蛋白質として、担体に結合させた形態として、また、他の蛋白質との融合蛋白質として、適宜用いることができる。
【0035】
本発明においては被験化合物と67LRとを結合させることにより、細胞増殖抑制作用、血管新生阻害作用、癌細胞の転移活性阻害作用、神経保護作用、抗アレルギー作用、抗動脈硬化作用、及び/または、クロイツフェルトヤコブ病感染阻害作用を有する薬物をスクリーニングする。このとき、被験化合物の形態としては、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、生物抽出物、植物抽出物、精製または粗精製蛋白質、ペプチド、非ペブチド性化合物、合成低分子化合物、天然化合物、遺伝子ライブラリー等、通常薬物のスクリーニングに使用される形態であれば良く、特に制限はされない。
【0036】
被験化合物と67LRとの結合は、被験化合物の形態に応じて適した手段が選択されるが、例えば、被験化合物を67LR発現細胞培養液中へ添加する方法等で行うことができる。
【0037】
上記のようにして、被験化合物と67LRとの結合の度合いを測定するが、ここで用いられる測定方法は、定性的手段及び定量的手段のいずれも用いることが可能である。結合度合いを測定する手段の一例としては、後述の実施例で示すような表面プラズモン共鳴センサを用いる方法が挙げられる。
【0038】
こうして結合度合いを測定した結果、被験化合物が67LRに実質的に結合する場合には、その被験化合物が、細胞増殖抑制作用、血管新生阻害作用、癌細胞の転移活性阻害作用、神経保護作用、抗アレルギー作用、抗動脈硬化作用、及び/または、クロイツフェルトヤコブ病感染阻害作用を有する薬物であると判定される。なかでも、本発明のスクリーニング方法は、細胞増殖抑制作用、血管新生阻害作用、及び/または、癌細胞の転移活性阻害作用を有する薬物のスクリーニングに用いることが好適である。
【0039】
後述の実施例に示すように、細胞増殖抑制作用、血管新生阻害作用、癌細胞の転移活性阻害作用、神経保護作用、抗アレルギー作用、抗動脈硬化作用、及び/または、クロイツフェルトヤコブ病感染阻害作用を有することが示唆されているガロイル基を有する化合物が、67LRに結合し、その細胞増殖を著しく抑制している。
【0040】
このことから、ガロイル基を有する化合物は、67LRを介して細胞増殖因子として機能することが示唆され、さらに、ガロイル基を有する化合物と同様に67LRに結合する物質は、ガロイル基を有する化合物と同様の作用、すなわち、細胞増殖抑制作用、血管新生阻害作用、癌細胞の転移活性阻害作用、神経保護作用、抗アレルギー作用、抗動脈硬化作用、及び/または、クロイツフェルトヤコブ病感染阻害作用を有すると考えられる。
【0041】
従って、本発明のスクリーニング方法において、67LRと結合する被験化合物は、細胞増殖抑制作用、血管新生阻害作用、癌細胞の転移活性阻害作用、神経保護作用、抗アレルギー作用、抗動脈硬化作用、及び、クロイツフェルトヤコブ病感染阻害作用を有する薬物であると判断できる。
【0042】
なお、上記で挙げたガロイル基を有する化合物としては、エピガロカテキン ガレート及びその3−メチル置換体やエピカテキン ガレート等のガロイル基を有するカテキン類、ガロイル基を有するポリフェノール類、トリガロイルグルコース、ペンタガロイルグルコース、ストリクチニン、ピロガロール等が挙げられ、好適には、エピガロカテキン ガレートが挙げられる。
【0043】
次に本発明のスクリーニング方法として、別の態様について説明する。
【0044】
本発明における別の態様としては、67LRに加え、さらにガロイル基を有する化合物を用いた薬物のスクリーニング方法を提供する。すなわち、ガロイル基を有する化合物及び被験化合物と67LRとの結合の度合いを定性的または定量的に測定し、その測定結果より被験化合物と67LRとの結合の度合いが、ガロイル基を有する化合物と67LRとの結合の度合いを上回る場合には、その被験化合物がガロイル基を有する化合物が有する薬理学的作用と同一の作用を有する薬物であると判断する工程を含む、薬物のスクリーニング方法が挙げられる。
【0045】
また、ガロイル基を有する化合物の67kDaラミニン・レセプターに対する結合と、被験化合物の67kDaラミニン・レセプターに対する結合とを競合させた結果、被験化合物の67kDaラミニン・レセプターへの結合するサイトと、ガロイル基を有する化合物の67kDaラミニン・レセプターへの結合するサイトとが、同一の場合には、その被験化合物は、ガロイル基を有する化合物が有する薬理学的作用と同一の作用を有する薬物であると判断する工程を含む、薬物のスクリーニング方法が挙げられる。
【0046】
後述の実施例に示すように、67LRに対するモノクローナル抗体は、ガロイル基を有する化合物の67LRへの結合を阻害し、その結果ガロイル基を有する化合物の細胞増殖抑制効果を阻害している。逆に、ガロイル基を有する化合物は抗67LR抗体の67LRへの結合を阻害している。即ち、ガロイル基を有する化合物の結合部位と抗体認識部位が重なっている。このことから、ガロイル基を有する化合物及び被験化合物を、67LRへの競合反応に供することにより、被験化合物がガロイル基を有する化合物と同一のサイトに結合する場合には、その被験化合物はガロイル基が有する化合物が有する作用と同一の作用を有すると考えられる。
【0047】
本発明の別の態様である、ガロイル基を有する化合物を使用しないスクリーニング方法についての詳細な説明を前述したが、それらの記載は、ガロイル基を有する化合物を使用する本発明の態様の場合にも適用される。なお、ここで述べる本発明の態様においてスクリーニングに供されるガロイル基を有する化合物は、例えば、後述の実施例に示すようにPBS等のBufferで適宜希釈して使用することが可能である。また、被験化合物とガロイル基を有する化合物とを、67LR発現細胞培養液中へ添加することによりそれらの競合反応をおこさせる場合において、被験化合物とガロイル基を有する化合物の添加順序に特に制限はない。
【0048】
上記のようにしてスクリーニングされた薬物は、細胞増殖抑制作用、血管新生阻害作用、癌細胞の転移活性阻害作用、神経保護作用、抗アレルギー作用、抗動脈硬化作用、及び/または、クロイツフェルトヤコブ病感染阻害作用により予防及び/または治療し得る疾患のための薬物として使用可能である。これらの疾患のうち、本発明において最も好適な疾患としては癌が挙げられる。
【0049】
なお、本発明においては、一旦薬物がスクリーニングによって選択された後は、その薬物は通常の化学合成方法等により製造することが可能である。また、薬学的に許容され得る担体を配合することも可能である。すなわち、本発明においては、上記で示したスクリーニング方法により得られる薬物を、化学合成方法によって製造する工程、及び、薬学的に許容される担体を配合する工程を含む、医薬組成物の製造方法、並びに、当該製造方法により得られる医薬組成物もその要旨に含まれる。
【0050】
医薬組成物として用いる場合において、薬学的に許容される担体としては、例えば、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定化剤などが挙げられ、これらと薬物とを適宜組合わせて製剤化して提供することが可能である。また、患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、経口的投与も可能であり、薬物に応じて、また、患者の体重や年齢、症状等により適宜選択することができる。投与量についても同様に、薬物に応じて、または、患者の体重や年齢、症状等に応じて、適当な投与量を選択することが可能である。なお、被験化合物がDNAによりコードされ得るものであれば、当該DNAを遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも可能である。
【0051】
本発明においては、67LRと結合する化合物であって、ガロイル基を有する化合物が該67LRに結合するサイトと同一のサイトで結合する化合物も本発明のその要旨に含まれる。これらは、後述の実施例に示すように、67LRに対するモノクローナル抗体は、ガロイル基を有する化合物の67LRへの結合を阻害し、その結果ガロイル基を有する化合物の細胞増殖抑制効果を阻害していること;逆に、ガロイル基を有する化合物は抗67LR抗体の67LRへの結合を阻害していること;即ち、ガロイル基を有する化合物の結合部位と抗体認識部位が重なっていることにより、十分裏付けられている。これらの化合物は、ガロイル基を有する化合物が有する作用と同一の作用を有することが考えられるため、細胞増殖抑制剤、血管新生阻害剤、癌細胞の転移活性阻害剤、すなわち、抗癌剤としての使用が可能である。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
材料および方法
(1).細胞および細胞培養
本実験に用いたヒト肺がん細胞株A549(ATCC Number:CCL−185)は10%ウシ胎児血清(FBS)(Bio Source International,Camarillo,CA)添加ERDF培地(極東製薬)で37℃、水蒸気飽和した5%CO条件下で継代、維持した。ERDF培地1L中に1.125gのNaHCO(和光純薬,Osaka,Japan)を加えた。細胞は対数増殖期で培養維持した。
【0054】
ヒトバーキットリンパ腫細胞株DND39は、5%FBS添加RPMI−1640培地(Nissui,Japan)で37℃、水蒸気飽和した5%CO条件下で継代、維持した。RPMI−1640培地中には100U/mLペニシリン(Meiji pharmaceutical Company,Tokyo,Japan)、100mg/mLストレプトマイシン(Meiji pharmaceutical Company)、12.5mM NaHCO(和光純薬)、そして10mM HEPES(和光純薬)を添加した。
【0055】
(2).緑茶カテキン
緑茶カテキンepigallocatechin−3−0−gallate(EGCG)、epicatechin−3−0−gallate(ECG)、epigallocatechin(EGC)、epicatechin(EC)、catechin(C)、epigallocatechin−3−(3−0−methyl)−gallate(EGCG3″Me)は5mMの濃度となるようにリン酸バッファー(PBS)に溶解した。使用する際には適宜解凍して用いた。PBSは、超純水1Lに対し、NaCl(Nacalai tesque,Inc.)8.0g、KCl(Nacalai tesque,Inc.)0.2g、NaHPO(Nacalai tesque,Inc.)1.15g、KHPO(Nacalai tesque,Inc.)0.2gを溶解し調製した。
【0056】
CaffeineおよびquercetinはNacalai tesque,Inc.より購入し、前者はPBSに後者はジメチルスルホキシド(DMSO)(Nacalai tesque,Inc.)に5mMの濃度となるように懸濁し調製した。
【0057】
(3).試薬および機器
トリパンブルー(和光純薬)を1%の濃度となるようにPBSに懸濁し、121℃、20分オートクレーブ滅菌した。All−trans−retinoic acid(ATRA)はSigma(St.Louis,MO)より購入しエタノールに溶解した。
【0058】
RNA抽出に用いたTRIzolはInvitrogen(Carlsbad,CA)より購入した。0.1%ジエチルピロカーボネート(DEPC)水はSigma(St.Louis,MO)から購入した。RNA溶解に用いたDEPC溶液はDEPCが終濃度0.1%となるように蒸留水に加えて2時間攪拌した後、オートクレーブして調製した。
【0059】
Oligotex−dT30およびヒト胎盤由来RNaseインヒビターはTakara(Kyoto,Japan)より、Moloney murine leukemia virus(MMLV)−逆転写酵素はAmersham Pharmacia Biotech(Buckinghamshire,UK)より購入した。プライマー等のオリゴヌクレオチドはBIOSYNTHESIS(Japan)に合成を依頼した。Taq DNA polymeraseはFermentas(Vilnius,Lithuania)、Ex TaqはTakaraより購入した。Polymerase chain reaction(PCR)はGeneAmp PCR System2400(Parkin−Elmer,Tokyo,Japan)を使用した。アガロースはウルトラピュアアガロース(Sawaday Technology,Tokyo,Japan)を使用した。
【0060】
クローニングのベクターは、pTARGETM Mammalian Expression Vector System(Promega,Madison,WI)を用いた。精製にはQIAGEN Plasmid Midi Kitまたは、EndoFree Plasmid Maxi Kit(ともにQIAGEN)を用いた。
【0061】
LB培地はBacto Tryptone(Becton Dickinson,Sunnyvale,CA)10gおよびBacto Yeast Extract(DIFCO LABORATORIES,Detroit,MI)5g、NaCl 5gを超純水で1Lに溶解し、オートクレーブした。60℃に冷ましてから、150mg/mLのアンピシリン(アンピシリンナトリウム(和光純薬)を150mg/mLとなるように超純水に溶解後、フィルター滅菌した)を1000mL加えた。LBプレートはBacto Tryptone 2g、Bacto Yeast Extract 1g、NaCl 2g、Bacto Agar(DIFCO)5g加え、超純水200mLに溶解しオートクレーブした。60℃に冷ましてから、150mg/mLのアンピシリンを200mL加え、10mL dish(Falcon)に10mLずつ分注した。Isopropyl−b−D(−)−thiogalactopyranoside(IPTG)は和光純薬より購入し、0.1Mになるように調製した。
【0062】
5−Bromo−4−chloro−3−indolyl−b−D−galactopyranoside(X−gal)(和光純薬)を20mg/mLとなるようにN−N−dimethyl−formamide(和光純薬)に溶解した。SOCは、Bacto Tryptone 3g、Bacto Yeast Extract 0.75g、NaCl 0.078g、KCl 0.027g、HOを全量が148.5mLになるまで加えた。この溶液をオートクレーブした。これとは別にオートクレーブした2M Mg2+液(12.324gのMgSO・7HO、10.165gのMgCl・6HOを超純水に混ぜ50mLにした)を1.5mL加えた。この溶液100mLに1mLの2Mグルコースを加えて作成した。
【0063】
DNAシーケンサーはABI PRISM 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems,Tokyo,Japan)を用い、その際、ABI PRISM BigDyeTM Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kits Version 2.0(Applied Biosystems)を用いた。Template Suppression Reagent(TSR)はApplied Biosystemsより購入した。
【0064】
遺伝子導入には、FuGENETM6 Transfection Reagent(Roche Diagnistics Gmbh,Mannheim,Germany)を用いて行った。
【0065】
フローサイトメトリー解析用の抗ヒトLaminin Receptor抗体はNEOMARKERS(Fremont,CA)より購入した。ネガティブコントロール抗体のマウスIgM抗体はZymed Laboratories,Inc.,San Francisco,CA)を用いた。Fluorescein isothiocyanate(FITC)標識抗マウスIgMヤギ抗体はSouthern Biotechnology Associates,Inc(Birmingham,AL)より購入した。
フローサイトメーターには、FACSCalibur(Becton Dickinson)を使用した。
【0066】
(4).RNA抽出およびcDNA合成
あらかじめ1mM ATRAで37℃、24時間処理した細胞をPBSで洗浄した後、1 x 10cellsに対し1mLのTrizolを加えて速やかに懸濁して完全に溶解させた。室温に5分間静置後、0.2mLのクロロホルムを添加して激しく転倒攪拌した。室温に3分間静置後、12000xg、4℃で15分間遠心した。遠心上清に0.5mLの2−プロパノールを添加して激しく転倒攪拌し、室温に10分間静置後、12000xg、4℃で10分間遠心した。この上清を除去し、1mLの75%エタノールで沈殿をリンスした。12000xg、4℃で5分間遠心後、上清のエタノールを出来る限り除去し、沈殿したトータルRNAを20mLのDEPC水に溶解させた。cDNA合成は以下に示すようにした。まず、10mgのトータルRNAに0.5mg/mLの(dT)20プライマーを1mL加え、70℃に10分間置いた後、直ちに氷冷することでアニーリングを行った。次に、10mM dNTPを2mL、RNase inhibitorを0.1mL、MMLV−逆転写酵素に添付された5xバッファーを4mL加え、DEPC水で全量が20mLとなるようにした。この混合液を37℃に1時間置きcDNAを合成し、97℃に5分間置き酵素を失活させた。
【0067】
(5).67kDa Laminin receptor(67LR)発現ベクターの構築
DND39細胞を1mM ATRAで37℃、24時間処理した後、RNA抽出を行いcDNAを合成した。Full−length cDNA(Yow et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,85:6394−6398(1988))を参考にしてプライマーを作成した[H−LamininR−F;5’−ATGTCCGGAGCCCTTGATGTCC−3’(配列番号1)、H−LamininR−R;5’−TTAAGACCAGTCAGTGGTTGCTC−3’(配列番号2)]。プライマーは20mMに調整した。
【0068】
合成したcDNA 1mL、Ex Taq 0.1mL、10 x Taqバッファー2mL、2.5mM dNTP 1.6mL、プライマーをおのおの0.5mL、dH0 14.3mLを懸濁して、PCRを行った。条件は、初期変性95℃で5分間、変性反応94℃で30秒間、アニーリング58℃で30秒間、伸長反応72℃で30秒間行い、変性反応、アニーリングおよび伸長反応を25サイクル行った。1.2%アガロースゲルで電気泳動を行い、目的のバンドをWizard SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega)を用いて精製した。このシーケンスを行い、目的ものであることを確認した。T4 DNA Ligase 10 x buffer 1mL、pTARGETM Vector 1mL、T4 DNA Ligase 1mLおよびPCR産物2.82mL、dH0 4.18mL加えて4℃に一晩置きライゲーションを行った。以下は、サブクローニングと同様の操作を行った。コロニーPCRで正逆判定を行い、コロニーを白金耳で拾ってLB培地に移し、37℃、150rpmで一晩振とう培養した。これを集菌し、EndoFree Plasmid Maxi Kitで精製した。このシーケンスを行い、67LRであることを確認した。
【0069】
(6).67LRの一過性発現系の構築
構築した67LR発現ベクター(pTARGET−hLamininR)をFuGENETM6 Transfection Reagentを用いてA549細胞に導入した。詳細は以下に述べるとおりである。細胞を1 x 10cells/mL(10%FBS−ERDF培地)に調整して播き込んだ。24時間、37℃に置き細胞を接着させた後、チューブに新たにERDF培地を取りFuGENETM6(遺伝子量の3倍)を直接加え、穏やかに混ぜた。次にpTARGET−hLamininRを加え穏やかに混ぜ、室温に30分間置いた。これを、培地中に加え48時間、37℃に置いた。培地で洗浄後、新鮮な培地に変えた。
【0070】
(7).67LR強制発現細胞に及ぼす各種成分の影響
67LR一過性発現細胞に対して、各種成分を種々の濃度添加し、5%FBS含有ERDF培地で37℃、48時間処理した。処理後、細胞数の計測およびトリパンブルー染色法による生存率の測定を行った。
また、EGCG前処理に関しては、終濃度10μg/mL(1%FBS含有ERDF培地)の抗67LR抗体を37℃、30分間処理した後、EGCG処理を行い、抗体処理細胞に対する影響も検討した。ネガティブコントロールとしてマウスIgMでも同様の処理を行った。
【0071】
(8).67LR強制発現細胞に対する各種成分の結合性解析
各種成分5μMと細胞との結合性を表面プラズモン共鳴センサSPR670(Nippon Laser and Electronic Lab.,Nagoya,Japan)により測定した。測定はまず、タンパク質等の標準的な固定化法を用いて細胞を金膜(Nippon Laser and Electronic Lab.)に固定した。
【0072】
10mMの4,4−Dithio dibutyric acid;DDA(東京化成工業,Tokyo,Japan)エタノール溶液(10mLの99%エタノール中に2.38mgのDDAを溶解し、エタノールでさらに1/100に希釈した)に金膜を浸して(金の面を上に)穏やかに室温で30分間攪拌した。次に、エタノールで2回、金表面に水圧をかけないように洗浄し自己組織化膜(SA膜)を導入した。25mg水溶性カルボジイミド;EDC(和光純薬)を1mL超純水に、15mg N−hydroxysuccinimide;NHS(和光純薬)を9mL 1,4−Dioxane(Nacalaitesque,Inc.)にそれぞれ溶解した。それぞれの溶液を混合し、SA膜処理済の金膜を浸して、穏やかに室温で10分間攪拌した。これに10mLの超純水を加え、さらに室温で5分間攪拌した。超純水で2回、金表面に水圧をかけないように洗浄し、乾燥(風乾)させてカートリッジにマウントした。細胞を3 x 10cells/mL(フローバッファーであるPBS)に調整し、金膜上に20μL滴下し30分間室温において細胞を固定化した。その後、PBSで1、10、25、50μMに希釈した緑茶カテキンを注入し、表面プラズモン共鳴角度(Angle)の変化を測定することで細胞への結合性をモニターした。
【0073】
また、EGCGと抗67LR抗体との結合競合性試験は、終濃度10μg/mL(1%FBS含有ERDF培地)の抗67LR抗体を37℃、30分間処理した後、細胞を金膜に固定化し表面プラズモン共鳴センサを用いて上記同様に行った。この際、ネガティブコントロールとしてマウスIgMでも同様の処理を行い測定した。
【0074】
(9).フローサイトメトリー解析
67LRは細胞表面に発現していることが知られているので、細胞表面上に発現した67LRを抗ヒトLaminin Receptor(LR)抗体を用いたフローサイトメトリー解析により検出した。細胞を回収し、1.5mLエッペンドルフチューブで総量100μLの1%FBS−PBS中に細胞が1 x 10cells含まれるように調整し、1次抗体として抗ヒトLR抗体を終濃度10μg/mLとなるように添加した。4℃で30分間インキュベートした後、PBSで一回洗浄した。次に、2次抗体としてLR抗体のアイソタイプを認識する抗マウスIgM FITC標識抗体を総量25μLの1%FBS−PBS中で終濃度12.5μg/mLとなるように添加した。4℃で30分間インキュベートした後にPBSで2回洗浄し、再び、PBSに再懸濁しフローサイトメーターにより解析を行った。ネガティブコントロールIgM抗体を同じ濃度(10μg/mL)で反応させた。細胞表面67LR発現量はLRの蛍光強度の中央値で示した。
【0075】
また、EGCG処理が67LR細胞表面発現に及ぼす影響を検討するために、1次抗体を作用させる前に、終濃度50μMとなるように調製したEGCG添加1%FBS−PBSで細胞を処理し、37℃に30分間置いた。これを、PBSで一度洗浄した。以降は上述の作用を1次抗体から行い、測定を行った。また、EGCGを含まない1%FBS−PBSでも処理を行い、対照群とした。
【0076】
(10).統計計算
実験結果の統計処理には、Student’s,t検定を用いた。
実施例1 EGCGの細胞結合性および増殖活性に及ぼす67LR遺伝子導入の影響
67LR発現ベクター(pTARGET−hLamininR)をFuGENETM6 Transfection Reagentを用いて以下の方法によりA549細胞に導入した。細胞を1 x 10cells/mL(10%FBS−ERDF培地)に調整して播種した。24時間後、チューブに新たにERDF培地を取りFuGENETM6(遺伝子量の3倍)を直接加え、穏やかに混ぜた。次に種々の濃度でpTARGET−hLamininRを加え穏やかに混ぜ、室温に30分間置いた。これを、培地中に加え48時間、37℃に培養を継続した。この67LR一過性発現細胞に対して、EGCGを各種濃度で添加し、5%FBS含有ERDF培地で37℃、48時間処理した。処理後、細胞数の計測およびトリパンブルー染色法による生存率の測定を行った。
【0077】
結果、67LRを一過性に発現させた細胞においてEGCG濃度依存的に細胞増殖抑制が認められた。また、細胞に導入させた67LR遺伝子量に比例して細胞増殖の抑制も認められた。
【0078】
67LRは細胞膜に存在する膜タンパク質であり、この遺伝子の発現ベクターを導入した細胞でEGCGの効果が増強されたことは、EGCGの結合性が増大したためではないかと考えられる。そこで、この細胞に対するEGCGの結合性を表面プラズモン共鳴センサにより測定した。EGCGは5μMで用いた。
【0079】
まず、空ベクターを導入したA549細胞では、若干のAngleの変化(結合量)しか観察されなかったのに対し、67LR発現ベクターを導入した細胞では、0.25μg導入細胞ですでにAngleの大幅な増大が認められ、さらに0.5μg導入した細胞ではよりいっそうの増大が認められた。このことにより、67LR発現ベクター導入によりEGCGの細胞表面への結合性が増大することが示された。
【0080】
実施例1の結果を図1、図2及び図3に示す。
【0081】
実施例2 67LRの細胞表面発現量の測定
67LR発現ベクターを導入することで、EGCGの細胞表面への結合性が増大することは示された。そこで、この結合性の増大が実際に細胞膜上に67LR発現が増大したためであるかフローサイトメトリーを用いて検討した。
【0082】
まず、細胞表面の67LRの発現量の測定を行った。コントロールのA549細胞で若干の発現が認められた。この細胞に空ベクター(0.5μg)を導入した細胞ではその発現量にほとんど影響は認められなかった。ところが、67LR発現ベクター(0.5μg)を導入した細胞では、発現量が大幅に増えており、このことから、細胞表面に67LRが発現していることが明らかになった。
【0083】
さらに、EGCGがこの67LRを介して結合しているかを明白にするため、抗67LR抗体を作用させる前にEGCGを作用させた。すると、コントロール細胞で認められていた67LRの発現が見かけ上、無くなっていた。また、この現象は、空ベクターを導入した細胞でも同様であった。さらに、67LR導入細胞でも同様であった。このことは、EGCGをあらかじめ細胞に作用させることで、細胞表面の67LRにEGCGが先に結合してしまい、抗67LR抗体が細胞膜上の67LRに結合できなくなったため、みかけ上67LRの発現が検出されなかったと考えられる。
【0084】
これらの結果から、67LR発現ベクターを導入することで細胞表面の67LR発現が増大することが明らかになり、EGCGの結合性の増大が67LRの細胞膜発現増大であることが示された。また、この67LRを介してEGCGは細胞へ結合することが示唆された。すなわち、67LRがEGCGの受容体であると示された。
【0085】
実施例2の結果を図4に示す。
【0086】
実施例3 EGCGの結合性および増殖抑制活性に及ぼす抗67LR抗体の影響
ここまでで、67LRを介してEGCGが細胞へ結合し、増殖抑制活性を発現していることが示された。これをより明らかにするため、今度は67LR強制発現細胞に抗67LR抗体であらかじめ処理を行った上で、EGCGの結合性および増殖抑制活性に影響が認められないか検討を行った。
【0087】
まずは、結合性に及ぼす抗体の影響を表面プラズモン共鳴センサにより検討した。抗67LR抗体を作用させると、Angleの変化量からEGCGの結合速度および結合量自体の減少が認められた。そうした効果は陰性コントロール抗体では見られなかった。
【0088】
また、EGCGのがん細胞増殖抑制に及ぼす抗体の影響も検討した。67LR強制発現細胞ではわずか0.1μMの濃度のEGCGでも増殖抑制活性が認められるが、EGCGを作用させる前に抗体処理を行ったところ、その増殖抑制効果が消失した。この時、生存率には影響は認められなかった。この結果より、EGCGの結合のみならず、増殖抑制活性も67LRへのEGCGの結合を介して行われることが示された。
【0089】
実施例3の結果を図5及び図6に示す。
【0090】
実施例4 他の茶成分の結合性および増殖抑制活性に及ぼす67LR発現の影響
EGCGが67LRを介して細胞膜に結合すること、また、がん細胞増殖抑制活性を発現していることを示してきた。この67LRを介した効果がEGCG特有のものか検討を行った。そこで、他の茶成分として、主要な緑茶カテキンとしてECG、EGC、EC、Cおよび強い抗アレルギー作用を持ち生体内で安定に存在すると報告があるEGCG3″Meを用いた。カテキン同様に様々な生理機能を有しているcaffeine、また、同様に多くの生理機能が報告されているフラバノール類の一種であるquercetinも検討した。
【0091】
まず、67LR強制発現細胞の増殖に及ぼす影響を検討した。これまでと同様に、0.5μgのpTARGET−hLamininRをA549細胞にリポフェクション法により導入し、48時間、37℃で培養後の細胞に対して各種の茶成分を終濃度5μMとなるように作用させた。この状態で、さらに37℃で48時間培養後の細胞数および生存率の測定を行った。その結果、C、EC、EGC、caffeineおよびquercetinでは遺伝子の導入の有無に関わらず、生存率および細胞数には影響は認められなかった。一方、EGCG同様にガロイル基を有しているECGおよびEGCG3″Meでは、EGCG同様な増殖抑制効果が認められた。この結果から、ガロイル基を有するような成分は67LR強制発現細胞で増殖抑制活性を発現することが示唆された。
【0092】
また、67LR強制発現細胞への各種茶成分の結合性を表面プラズモン共鳴バイオセンサにより測定した。A549細胞に対してC、EC、EGCは結合性を示さず、これは67LR強制発現細胞でも変化は認められなかった。また、caffeineおよびQuercetinも細胞結合性を示さず、強制発現細胞でも変化は認められなかった。ECGおよびEGCG″3MeはいずれもEGCGほどではないものの、細胞結合性を示しており、67LR強制発現細胞ではこの結合性が増大することが明らかになった。
【0093】
実施例4の結果を図7及び図8に示す。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、67kDaラミニン・レセプターをターゲットとする薬物の新規なスクリーニング方法が提供可能である。
【0095】
なお、本出願は、特願2003−097652号を優先権主張して出願されたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
67kDaラミニン・レセプターと結合するカテキン類であって、該67kDaラミニン・レセプターと結合することにより癌細胞の増殖または転移活性を阻害するカテキン類。
【請求項2】
ガロイル基を有するカテキン類である請求項1記載の化合物。
【請求項3】
エピガロカテキンガレート(EGCG)及びその3−メチル置換体、並びにエピカテキンガレート(ECG)から選ばれる少なくとも1である請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
癌細胞が67kDaラミニン・レセプター陽性細胞である請求項1から3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の化合物を含む細胞増殖抑制剤。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の化合物を含む血管新生阻害剤。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1項に記載の化合物を含む癌細胞の転移活性阻害剤。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか1項に記載の化合物を含む抗癌剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−248201(P2010−248201A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124569(P2010−124569)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【分割の表示】特願2005−505239(P2005−505239)の分割
【原出願日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【出願人】(800000035)株式会社産学連携機構九州 (34)
【Fターム(参考)】