説明

7−カルボキシメチルオキシ−3’,4’,5−トリメトキシフラボン一水和物、その製造方法及び用途

【課題】本発明は、大腸を含む胃腸管保護作用を有する7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンの薬学的定量形の製造に適切な非吸湿性生成物である7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物、その製造方法及び用途に関するものである。
【解決手段】本発明による7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物は、大腸を含む胃腸管保護作用を有していて、吸湿性が無く通常的な室内湿度条件下でも取扱い及び保管が容易であり、薬剤製造時に使用する場合、活性化合物を一貫性をもって包含するようにできる。また、本発明の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を製造する方法は、合成全体の様々な工程段階を短縮させることができ、メチル化反応を加圧条件下で行う必要がなく穏和な条件で化合物を製造でき、別途の再結晶またはクロマトグラフィーのような精製過程が必要ないので大量製造が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物、その製造方法及び用途に関するものである。より詳細には、大腸を含む胃腸管において保護活性を有する7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンの定量的用量の調製(preparation of metered dose)に適切な非吸湿性生成物である7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物、その製造方法及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
式2で表わされる7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンは、大腸を含む胃腸管において保護活性があることが知られている(WO 98/04541、大韓民国特許第96-30494号)。このフラボンは、胃炎または胃潰瘍等の胃腸管疾病および潰瘍性大腸炎またはクローン病等の炎症性腸疾病において治療的効果を示した。
【0003】
【化1】

【0004】
本発明者らは、前記式2で表わされる7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンは、吸湿性があることを発見した。医薬の各服用量には一定量の活性化合物が含有されていなければならない。しかし、活性化合物が、周囲から水分を吸収する傾向を意味する吸湿性である場合には、一定量の活性化合物が一貫性をもって定量的用量に対応させることは容易ではない。また、吸湿性がある物質は、取扱い及び保存条件における困難性を生じる。すなわち、医薬として製造するには大きな問題がある。したがって、本発明者らは、吸湿性のない活性成分の安定な形態を発見すべく努力した。
【0005】
7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンの合成方法は、2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノンから出発する全9工程からなるスキーム1に示すように、WO 98/04541(韓国特許第96-30494号)において記載されている。
【0006】
【化2】

【0007】
前記合成方法は、種々の異なる置換基の誘導体を製造するのに有用である。しかし、出発物質に使用される2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノンが高価な物質であるため、工業的生産には非経済的であり、さらに、長い9つの反応工程および低い収率を考慮すれば、ますます悪くなる。。また、ヒドロキシル基の保護基に使用されるベンジル基を除去するために、パラジウム触媒(Pd/C)の存在下で加圧水素ガスがスキーム1において二回用いられる。この水素化反応には、前記の加圧ガスを扱うための特殊な装置が必要であり、パラジウム触媒がまた極めて高価であり、工程を複雑かつ非経済的にしている。水素ガス及び触媒の産業的利用はまた危険でもある。
【0008】
スキーム2に示すように、大韓民国特許第99-41205号において、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンの他の製造方法が記載されている。
【0009】
【化3】

【0010】
前記工程では、塩基条件下で式3の化合物をメチル化試薬と反応させた。式3の炭素-3'と炭素-5のヒドロキシル基をメトキシ基に転換させて酸処理し、式3aの化合物を得た。ジメチルホルムアミドおよび炭酸カリウムとヨードメタン中の式3の3',5,7-トリヒドロキシ-4'-メトキシフラボン-7-ルチノシドの混合物を、60℃で48時間密閉容器中で攪拌し、式3の炭素-3'と炭素-5のヒドロキシル基をメトキシ基に転換させた。その後、得られた化合物を酸処理し、式3aの化合物を得た。
【0011】
その後、式3aの化合物の炭素-7のヒドロキシル基をアルキルオキシカルボニルメチルオキシ基に転換させ、式3bの化合物を得た。カルボキシル基の脱保護により式2の化合物を得た。
【0012】
前記のメチル化は、非常に大きい圧力をもたらす密閉容器中で行われなければならないので、特別の装置を必要とし、危険を伴う。したがって、化合物の大量生産は非効率的である。式3aの化合物から式3bの化合物を製造するためには、カラムクロマトグラフィーによる精製が不可欠である。したがって、前記の製造方法は危険および高い費用と危険を招く。
【0013】
そこで、本発明者らは、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物が、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン無水物よりも定量的用量の調製に一層適切な非吸湿性化合物であることを見出し、経済的で、便利であり、大量生産に適しており、かつ、高価なカラムクロマトグラフィーの精製工程を使用しない、その合成方法、を確立した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、通常的または過酷な室内湿度下で化学的に安定な非吸湿性物質であることにより特徴づけられる、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物、その製造方法及び用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、下記の式1で表わされる、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を提供する。
【0016】
【化4】

【0017】
また、本発明は、下記の式1aで表わされる、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン溶媒和物を提供する。
【0018】
【化5】

【0019】
本発明の前記式1で表わされる、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物は、前記式2で表わされる、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン無水物の一水和物であり、それと同様の薬効を有している。具体的には、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン無水物が大腸を含む胃腸管に対する保護活性を有していることがWO 98/04541(大韓民国特許第96-30494号)に記載されている。そして、本発明の式1の化合物も大腸を含む胃腸管に対する保護活性を有している。例えば、本発明の化合物は、トリニトロベンゼンスルホン酸で誘導される炎症性大腸疾患モデルに経口投与または直腸投与された場合に、抗大腸炎効果を示した。また、本発明の化合物は損傷した胃粘膜においても保護効果を示した。
【0020】
また、本発明の前記式1の化合物は、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン無水物と対照的に吸湿性を示さなかった。実験例1で説明するように、同一条件下(25℃、相対湿度75%)で7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物とそれに対応する無水物を放置した場合に、無水物は4.6%重量が増加した。これは無水物が水分を吸収して一水和物に転換しことを示している。また、溶媒和物、特にエタノール溶媒和物が、25℃、相対湿度75%の同一条件下で一水和物に転換することが観察された。しかし、本発明の一水和物は、重量変化を示さなかった。これは、本発明の一水和物が、吸湿性のない安定な物質であることを示している。
【0021】
したがって、本発明の一水和物化合物は、定量的用量が活性化合物の一定量を一貫して維持することができ、このことは、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンを有効成分として含有する医薬の製造における大きな利点である。同じものを含有する医薬の取扱い及び保管が容易であるということは、本発明の化合物の他の利点である。
【0022】
また、本発明は、スキーム3に示すように、下記式3の3',5,7-トリヒドロキシ-4'-メトキシフラボン-7-ルチノシドを出発物質として用いた、下記式2の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンの合成方法を提供する。
【0023】
【化6】

【0024】
(式中、R'は、エチル、メチル、t-ブチル、ベンジル、トリクロロエチルおよびシリルからなる群から選択されるカルボキシル保護基である)
【0025】
また、本発明は、スキーム4で示すように、前記スキーム3の工程4から得た式2の化合物を、水を含む媒質中で撹拌する工程により特徴づけられる、式1の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の製造方法を提供する。
【0026】
【化7】

【0027】
また、本発明は、スキーム5に示すように、前記スキーム3の工程4から得た式2の化合物を加湿雰囲気下で放置する、式1の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の製造方法を提供する。
【0028】
【化8】

【0029】
また、本発明は、下記のスキーム6に示すように、前記スキーム3の工程4から得た式2の化合物を、無水アルコール中で撹拌して式1aの7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン溶媒和物を得る工程、および式1aのこの溶媒和物を加湿雰囲気下で放置する工程を含む、式1の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の製造方法を提供する。
【0030】
【化9】

【0031】
より詳細には、本発明の式1で表される7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の製造方法は、下記工程:1)式3の3',5,7-トリヒドロキシ-4'-メトキシフラボン-7-ルチノシドの炭素-3'のヒドロキシル基をメトキシ基に転換させて、酸処理する工程;2)得られた化合物を、カルボキシル基が保護されたα-ハロアセテートと反応させる工程;3)式5の7-アルキルオキシカルボニルメチルオキシ-5-ヒドロキシ-3',4'-ジメトキシフラボンの炭素-5のヒドロキシル基をメトキシ基に転換する工程;4)カルボキシル基の保護基を脱保護して7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンを得る工程;および5)得られた化合物を、水を含む媒質と接触させるかまたは加湿雰囲気下に放置する工程からなる。
【0032】
また、本発明の式1で表される7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の他の製造方法は、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンを無水アルコールと反応させて7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンの溶媒和物を得る工程および加湿雰囲気下で生成物を放置する工程からなる。
【0033】
詳細には、本発明の式1で表される7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の製造方法は、下記工程:
(1)式3の化合物を塩基存在下でメチル化試薬と反応させて炭素-3'のヒドロキシル基をメトキシ基に変換した後、酸処理して式4の化合物を製造する工程(工程1)、
(2)式4の化合物を塩基存在下でカルボキシル基が保護されたα-ハロアセテートと反応させて式5の化合物を得る工程(工程2)、
(3)式5の化合物をメチル化試薬と反応させて炭素-5のヒドロキシル基をメトキシ基に変換し、式6の化合物を得る工程(工程3)、
(4)式6の化合物の脱保護を行い、式2の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンを得る工程(工程4)、及び
(5)式2の化合物を、水を含む媒質中で撹拌するかまたは湿潤下で放置して、式1の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンの一水和物を製造する工程(工程5)
からなる。
【0034】
工程5において、式2の化合物は、水を含む媒質中で攪拌する代わりに、無水アルコールと反応させて7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンの溶媒和物を得た後、加湿雰囲気下で放置することもできる。
【0035】
(工程1)
工程1では、式3の3',5,7-トリヒドロキシ-4'-メトキシフラボン-7-ルチノシドを溶媒中で塩基存在下においてメチル化試薬と反応させ、炭素-3'のヒドロキシル基をメトキシ基に変換し、5,7-ジヒドロキシ-3',4'-ジメトキシフラボン-7-ルチノシドを製造する。
【0036】
このとき、反応溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びアセトンからなる群から選択される、極性のプロトンを解離させない非プロトン性溶媒(aprotic solvent)でなければならない。塩基は、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び炭酸ナトリウムからなる群から選択する。メチル化試薬は、ヨードメタン(CH3I)およびジメチル硫酸((CH3)2SO4)からなる群から選択することができる。反応温度は0℃〜150℃であり、より好ましくは0℃〜90℃である。
【0037】
前記メチル化から得られた生成物は、再結晶またはシリカゲルクロマトグラフィーのようなさらなる精製をすることなく、そのまま使用できる。
【0038】
本発明の製造方法によれば、式2の炭素-5のヒドロキシル基よりも反応性が大きい炭素-3'のヒドロキシル基をメトキシ基に変換させた。従来の式1の化合物を製造する方法は、密閉容器内で長時間行われるメチル化(収率76%)からもたらされる圧力を扱うための特別の装備を必要とし、両方のヒドロキシル基をメトキシ基に変換する。しかし、本発明の製造方法では、メチル化を大気圧下において高い収率(82%)で行うことができる。
【0039】
第二に、上記で得た粗化合物を溶媒中で酸処理して、式4の5,7-ジヒドロキシ-3',4'-ジメトキシフラボンを得る。
【0040】
このとき、反応溶媒は、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アルコール水溶液または水からなる群から選択される。酸処理には、塩酸または硫酸を使用できる。反応温度は、0℃〜100℃が好ましい。
【0041】
(工程2)
工程2では、式4の5,7-ジヒドロキシ-3',4'-ジメトキシフラボンは、溶媒中、塩基存在下において、カルボキシ基が保護されたα-ハロアセテートと反応させ、式5の7-アルキルオキシカルボニルメチルオキシ-5-ヒドロキシ-3',4'-ジメトキシフラボンを製造する。
【0042】
このとき、反応溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドまたはアセトンなどの、極性のプロトンを解離させない非プロトン性溶媒である。塩基は、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び炭酸ナトリウムなどの無機塩基;ナトリウムメトキシド及びナトリウムエトキシドからなる群から選択されるアルコールの金属塩;水素化ナトリウムなどのアルカリ金属水素化物;および水素化カルシウムなどのアルカリ土類金属の水素化物からなる群から選択され、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは炭酸ナトリウムのうちの1種であることが好ましい。カルボキシル基の保護基を有するα-ハロアセテート(R'-OCOCH2X、ここでR'はエチル、メチル、t-ブチル、ベンジル、トリクロロエチルまたはシリル基であり、Xは塩素、臭素またはヨウ素である)としては、エチルブロモアセテート、メチルブロモアセテートまたはt-ブチルブロモアセテートが好ましく使用される。
【0043】
(工程3)
工程3においては、式5の化合物をメチル化試薬と反応させることによって、炭素-5のヒドロキシル基をメトキシル基に変換して、式6の7-アルキルオキシカルボニルメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンを得る。
【0044】
前記メチル化は、工程1に記載されているのと同じ方法で行なう。
【0045】
前記メチル化から得られた化合物は、再結晶またはシリカゲルクロマトグラフィーなどの精製過程なしに次の反応にそのまま使用できる。
【0046】
(工程4)
工程4において、式6の化合物を脱保護し、式2の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンを得る。
【0047】
脱保護の方法の反応条件は、式6の化合物のカルボキシル基のための保護基であるR'の特性に依存して異なる。例えば、保護基がエチルまたはメチルの場合には、化合物を酸またはアルカリ水溶液で処理し、保護基がベンジル基の場合には、パラジウム触媒存在下で水素雰囲気により処理する。保護基がt-ブチル、ベンジルまたはシリル基の場合には、酸で処理し、保護基がトリクロロエチルの場合には酸存在下において亜鉛で処理する。
【0048】
(工程5)
工程5では、式2の化合物を、水を含有する媒質中で撹拌するか湿潤下に放置して、式1の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を得る。
【0049】
また、式2の化合物を無水アルコールと反応させ、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンの溶媒和物を得た後、加湿雰囲気下に放置して式1の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を得る。
【0050】
水を含有する媒質として、エタノールまたはアセトンが使用される。工程4で得た結晶を水性媒質中で撹拌して、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を得る。
【0051】
無水アルコールとしては、エタノールが好ましい。また、無水物または溶媒和物を加湿雰囲気下で放置して、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を得ることもできる。
【0052】
本発明の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の製造方法は、前記目標化合物の基本骨格として、天然から容易に得られる式3の3',5,7-トリヒドロキシ-4'-メトキシフラボン-7-ルチノシドを使用することにより、全合成の長い工程を短縮させる。また、本発明の製造方法は、大韓民国特許第99-41205号に記述された製造方法とは異なり、常圧下で、再結晶またはクロマトグラフィーのなどの特別な精製過程なしに、式3の化合物のメチル化が行われる。したがって、本発明の製造方法は、圧力を制御するための特別の装備を必要とせず、穏和な条件下で大量生産することができるので、実用的価値が高い。
【0053】
また、本発明は、式1で表わされる7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を有効成分として含む医薬組成物を提供する。本発明の化合物を有効成分として含む医薬組成物は、粘膜保護効果および抗大腸炎効果を示すため、大腸を含む胃腸管の保護及び胃腸疾患の処置のための効果的に使用できる。特に、胃炎、胃潰瘍、潰瘍性大腸炎およびクローン病のための保護剤および予防剤として使用できる。
【0054】
本発明の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物は、種々の経路を通じて有効な量で投与できる。本発明の前記組成物は、薬学的に許容し得る担体をさらに含有する。より詳細には、滅菌溶液、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、懸濁剤、シロップ剤、坐薬及び浣腸などの公知の剤形のための薬学的に許容し得る担体は、いかなるものでも前記組成物のために使用可能である。一般的な担体としては、澱粉、ミルク、糖、特定のクレイ、ゼラチン、ステアリン酸、タルク、植物油、ガム、グリコール類等の賦形剤またはその他の公知の賦形剤を含むことができる。また、矯味剤、着色添加剤及び他の成分が含まれ得る。本発明の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を有効成分として含む組成物は、経口投与形態、注射、坐薬および浣腸の剤型により投与できるが、必ずしもこれらに限定されない。特に、一般に使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤等の稀釈剤または賦形剤と共に混合することにより、経口投与または静脈投与のために調製することができる。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤及びカプセル剤である。このような固形製剤は、1種または2種以上の好適な賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、ショ糖または乳糖、ゼラチン等を混ぜて調製する。また、単純な賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの潤滑剤を使用することができる。経口投与のための液状製剤は、懸濁液、溶液、乳濁液およびシロップであり、水および流動パラフィンなど一般に使用される単純な稀釈剤に加えて、湿潤剤、甘味剤、芳香剤及び保存剤などの種々の賦形剤を含むことができる。
【0055】
また、静脈投与のための製剤は、滅菌水溶液、非水溶性賦形剤、懸濁液、乳濁液、坐薬または浣腸が含まれる。非水溶性賦形剤および懸濁液は、1種または2種以上の活性化合物に加えて、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、オレイン酸エチルなどの注射可能なエステル等を含むことができる。坐薬は、1種または2種以上の活性化合物に加えて、ウィテプゾル(witepsol)、マクロゴール、トゥイーン61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロール、ゼラチン等が使用できる。
【0056】
本発明の医薬組成物の有効投与量は、体重、年齢、性別、健康状態、食事、投与頻度、投与方法、排泄および疾病の重篤度にしたがって決定することができる。一般的に、化合物の有効投与量は、好ましくは1〜1000mg/kgであり、1日あたり1回〜3回投与される。正確な用量、投与方法及び服用回数は、医薬製剤の特性により決定することができる。
【0057】
本発明の化合物の分子構造は、赤外分光法、紫外分光法、核磁気共鳴スペクトル、質量分析、熱重量分析(TGA)および、化合物の元素分析理論値と実測値との比較により確認される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の例1で製造した、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の熱重量分析結果を示したグラフである。
【図2】本発明の例2でエタノール水溶液を使用して製造した、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の熱重量分析結果を示したグラフである。
【図3】本発明の例2でアセトン水溶液を使用して製造した、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の熱重量分析結果を示したグラフである。
【図4】本発明の例3で製造した、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンエタノール溶媒和物の熱重量分析結果を示したグラフである。
【図5】本発明の比較例で製造した、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン無水物の熱重量分析結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下の実施例に示すように、本発明の実際的な好ましい態様が説明される。しかしながら、当業者は、この開示を考慮すれば、本発明の思想および範囲内において、改変および改善をなし得ることが理解されるであろう。
[実施例]
【0060】
〈例1〉 7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物
(工程1) 5,7-ジヒドロキシ-3',4'-ジメトキシフラボン
3',5,7-トリヒドロキシ-4'-メトキシフラボン-7-ルチノシド1kgと炭酸カリウム454gを10℃でジメチルホルムアミドに溶解し、加熱して90℃で8時間撹拌した。反応溶液を室温に冷却した。この溶液に、ヨードメタン1kgを添加して、室温で12時間攪拌した。反応完了後、酢酸エチル及びジクロロメタン(3:2)の混合溶液50lをこれに加えた。得られた溶液を30分間撹拌した後、ろ過した。ろ過した固体にメタノール5.2lと濃塩酸5kgとを添加し、次いで加熱して8時間65℃で還流させた。反応混合物を常温に冷却した。沈殿した固体をろ過により回収し、少量のメタノールで洗浄し、所望の化合物を得た(黄色固体、426g、収率:82%)。
【0061】
1H NMR (DMSO-d6, 400MHz):δ 3.833(s, 3H), 3.862(s, 3H), 6.18(d, 1H), 6.49(d, 1H), 6.93(s, 1H), 7.08(d, 1H), 7.52(d, 1H), 7.63(dd, 1H), 10.82(s, 1H), 12.88(s, 1H)
IR(KBr):1636, 1590 cm-1
【0062】
(工程2) 7-t-ブチルオキシカルボニルメチルオキシ-5-ヒドロキシ-3',4'-ジメトキシフラボン
前記工程1で製造した、化合物のうち425gを4lのジメチルホルムアミドに溶解した。この溶液に、炭酸カリウム243gとt-ブチルブロモアセテート258gを室温で添加した。得られた溶液を5時間室温で撹拌した。反応完了後、水を添加して酢酸エチルで抽出した。有機層を水及び食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧蒸留により除去した。酢酸エチルおよびヘキサン(体積比=1:3)の混合溶液を残渣に加えて撹拌した後、ろ過により生成物を回収して、目的化合物を得た(567g、収率:98%)。
【0063】
1H NMR (DMSO-d6, 400MHz):δ1.45(s, 9H), 3.84(s, 3H), 3.86(s, 3H), 4.81(s, 2H), 6.34(d, 1H), 6.77(d, 1H), 7.02(s, 1H), 7.10(d, 1H), 7.55(d, 1H), 7.67(dd, 1H)
【0064】
(工程3) 7-t-ブチルオキシカルボニルメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン
前記工程2で製造した化合物のうち330gを30℃でジメチルホルムアミド6lに溶解した。炭酸カリウム426gをこの溶液に添加して、3時間撹拌した。反応溶液を室温に冷却し、ヨードメタン330gをゆっくりと添加して室温で17時間攪拌した。反応完了後、水を添加して過量の酢酸エチルで抽出した。有機層を水及び食塩水で洗浄して、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒は減圧下で除去した。生成した固体に酢酸エチル3lを添加して1時間還流撹拌し、室温に冷却した。ろ過により生成物を回収し、目的化合物を得た(324g、収率:95%)。
【0065】
1H NMR (DMSO-d6, 400MHz):δ1.45(s, 9H), 3.82(s, 3H), 3.83(s, 3H), 3.86(s, 3H), 4.82(s, 2H), 6.51(d, 1H), 6.76(s, 1H), 6.81(d, 1H), 7.08(d, 1H), 7.49(d, 1H), 7.60(dd, 1H)
【0066】
(工程4) 7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン
前記工程3で製造した、化合物のうち266gとp-トルエンスルホン酸172gをクロロホルムとトルエン(1:1、v/v) の混合溶液1lに添加した。3時間加熱還流させた後、室温に冷却した。生成物をろ過し、水及びアセトンで洗浄して乾燥させた。乾燥させた結晶をクロロホルムとメタノール(3:1、v/v)の混合溶液8l中で粉砕し、さらに2時間室温で撹拌した。上記の洗浄過程をもう1回繰り返した。目的化合物220gを得た(収率:95%)。
【0067】
1H NMR (DMSO-d6, 400MHz):δ3.82(s, 3H), 3.83(s, 3H), 3.86(s, 3H), 4.85(s, 2H), 6.52(d, 1H), 6.77(s, 1H), 6.85(d, 1H), 7.08(d, 1H), 7.50(d, 1H), 7.65(dd, 1H), 13.15 (br s, 1H)
【0068】
(工程5) 7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物
前記工程4-1で製造した、化合物220gを95%のエタノール4lに添加して4時間撹拌した。沈殿生成物をろ過して目的化合物を得た(225g、収率:98%)。
【0069】
1H NMR (DMSO-d6, 400MHz):δ3.82(s, 3H), 3.83(s, 3H), 3.86(s, 3H), 4.85(s, 2H), 6.52(d, 1H), 6.77(s, 1H), 6.85(d, 1H), 7.08(d, 1H), 7.50(d, 1H), 7.65(dd, 1H), 13.15 (br s, 1H)
【0070】
元素分析:理論値 C:59.41%、H:4.99%
実験値 C:59.46%、H:4.85%
熱重量分析(TGA)(図1参照)
【0071】
〈例2〉 7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物
(工程1) 5,7-ジヒドロキシ-3',4'-ジメトキシフラボン
前記例1の工程1と同一の方法により目的化合物を製造した。
【0072】
(工程2) 7-エチルオキシカルボニルメチルオキシ-5-ヒドロキシ-3',4'-ジメトキシフラボン
前記工程1で製造した、化合物325gをジメチルホルムアミド3.3lに溶解した。この溶液に、炭酸カリウム171gとエチルブロモアセテート137.2mlを室温で添加して、6時間撹拌した。反応完了後、酢酸エチルとヘキサン(1:1 v/v)の混合溶液に反応混合物を添加した。得られた固体をろ過により回収した後、ジクロロメタン8.25lに入れて30分間加熱還流させた。溶液を室温に冷却し、セライトパッド(celite pad)上でろ過して、減圧濃縮した。残渣を酢酸エチルとヘキサン(1:1 v/v)の混合溶液中で粉砕した。生成物をろ過し、乾燥して目的化合物を得た(401g、収率:97%)。
【0073】
1H NMR (DMSO-d6, 400MHz):δ1.22(t, 3H), 3.84(s, 3H), 3.87(s, 3H), 4.18(q, 2H), 4.93(s, 2H), 6.39(d, 1H), 6.83(d, 1H), 7.04(s, 1H), 7.12(d, 1H), 7.57(d, 1H), 7.69(d, 1H)
【0074】
(工程3) 7-エチルオキシカルボニルメチルオキシ-3',4', 5-トリメトキシフラボン
前記工程2で製造した、化合物のうち210gと炭酸カリウム575gをアセトン6lに添加して室温で3時間撹拌した。混合物にジメチル硫酸54.1mlをゆっくりと添加して撹拌しながら17時間56℃で加熱還流させた。反応完了後、溶液を室温に冷却してジクロロメタンを添加した後、セライトパッド上でろ過した。ろ液を水及び飽和食塩水で引き続いて洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させて、減圧濃縮した。得られた固体を酢酸エチル4l中に入れて、2時間還流撹拌させた。溶液を室温に冷却してろ過し、乾燥させた。生成した固体にアセトン2lを加えて、2時間56℃で還流撹拌させた。室温に冷却させてろ過し、乾燥させた。上記過程をもう1回繰り返して目的化合物を得た(220g、収率:96%)。
【0075】
1H NMR (DMSO-d6, 400MHz):δ1.32(t, 3H), 3.93(s, 3H), 3.94(s, 3H), 3.96(s, 3H), 4.31(q, 2H), 4.71(s, 2H), 6.47(d, 1H), 6.59(d, 1H), 6.94(d, 1H), 7.24(s, 1H), 7.28(d, 1H), 7.47(dd, 1H)
【0076】
(工程4) 7-カルボニルメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン
前記工程3で製造した化合物のうち165gをテトラヒドロフラン800mlに溶解させた。反応溶液に1Nの水酸化ナトリウム溶液800mlを添加して、2時間加熱還流させた。反応溶液を室温に冷却した後、酢酸エチルを反応溶液に添加して有機層を除去した。得られた水層を酢酸エチルで洗浄して、0〜5℃で1Nの塩酸水溶液で酸性化させた。生成した結晶をろ過し、乾燥させた後、水及びアセトンで洗浄した。洗浄した結晶を再度乾燥させ、クロロホルムとメタノール(3:1 v/v)の混合溶液8lに添加して、3時間室温で撹拌した。上記の洗浄過程をもう1回繰り返し、乾燥させて、目的化合物を得た(152g、収率:99%)。
【0077】
1H NMR (DMSO-d6, 400MHz):δ3.82(s, 3H), 3.83(s, 3H), 3.86(s, 3H), 4.85(s, 2H), 6.52(d, 1H), 6.77(s, 1H), 6.85(d, 1H), 7.08(d, 1H), 7.50(d, 1H), 7.65(dd, 1H), 13.15(br s, 1H)
【0078】
(工程5)(方法A) 7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物
前記工程4-1で得られた結晶のうち134gに95%のエタノール2.5lを添加して4時間撹拌した。ろ過後、結晶を60℃で5時間乾燥させて目的化合物を得た(142.6g、収率:99%)。
【0079】
1H NMR (DMSO-d6, 400MHz):δ3.82(s, 3H), 3.83(s, 3H), 3.86(s, 3H), 4.85(s, 2H), 6.52(d, 1H), 6.77(s, 1H), 6.85(d, 1H), 7.08(d, 1H), 7.50(d, 1H), 7.65(dd, 1H), 13.15(br s, 1H)
【0080】
元素分析:理論値 C:59.41%、H:4.99%
実験値 C:59.17%、H:5.10%
熱重量分析(TGA)(図2参照)
【0081】
(工程5)(方法B) 7-カルボニルメチルオキシ-3',4', 5-トリメトキシフラボン一水和物
前記工程4-1で得られた結晶のうち14gにアセトンおよび水の混合溶液400mlを添加して、4時間撹拌した。固体をろ過により回収し、60℃で5時間乾燥させて、目的化合物を得た(14.5g、収率:99%)。
【0082】
1H NMR (DMSO-d6, 400MHz):δ3.82(s, 3H), 3.83(s, 3H), 3.86(s, 3H), 4.85(s, 2H), 6.52(d, 1H), 6.77(s, 1H), 6.85(d, 1H), 7.08(d, 1H), 7.50(d, 1H), 7.65(dd, 1H), 13.15 (br s, 1H)
【0083】
元素分析:理論値 C:59.41%、H:4.99%
実験値 C:59.22%、H:5.16%
熱重量分析(TGA)(図3参照)
【0084】
〈例3〉 7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン・エタノール溶媒和物
95%のエタノールの代わりに無水エタノールを使用することにより、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンエタノール溶媒和物を製造し、60℃で3時間減圧乾燥させた。他の工程は、上記例1または例2(工程4-2)において記載されているのと同じであった。
【0085】
1H NMR (DMSO-d6, 400MHz):δ1.04(t,3H), 3.42(q,2H), 3.82(s, 3H), 3.83(s, 3H), 3.86(s, 3H), 4.85(s, 2H), 6.52(d, 1H), 6.77(s, 1H), 6.85(d, 1H), 7.08(d, 1H), 7.50(d, 1H), 7.65(dd, 1H), 13.15 (br s, 1H)
【0086】
元素分析:理論値 C:61.11%、H:5.59%
実験値 C:61.25%、H:5.32%
熱重量分析(TGA)(図4参照)
【0087】
〈比較例〉 7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン無水物
前記例3で製造された7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン エタノール溶媒和物を80℃で5時間減圧乾燥させて、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン無水物を得た。
【0088】
または、例1もしくは2において製造された7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を100℃で3時間減圧乾燥させて、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン無水物を得た。
【0089】
1H NMR (DMSO-d6, 400MHz):δ3.82(s, 3H), 3.83(s, 3H), 3.86(s, 3H), 4.85(s, 2H), 6.52(d, 1H), 6.77(s, 1H), 6.85(d, 1H), 7.08(d, 1H), 7.50(d, 1H), 7.65(dd, 1H), 13.15(br s, 1H)
【0090】
元素分析:理論値 C:62.18%、H:4.70%
実験値 C:62.15%、H:4.73%
熱重量分析(TGA)(図5参照)
【0091】
〈実験例1〉 7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物、エタノール溶媒和物及び無水物の重量変化の研究
1.7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物及び無水物の吸湿性試験
前記例1または例2で製造した7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を重量測定ボトル(weighing bottle, 直径6cm)を用いて正確に測定した。1gの7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を試料として準備した。温度が25℃に設定され、かつ相対湿度75%に維持された容器中で、試料を保管した。2、4および6時間後、ならびに1日目、3日目及び6日目に試料の重量変化を測定した。重量変化の量は、試料の最初の重量に対する百分率で計算して、その結果を表1に示した。
【0092】
また、前記比較例で製造した、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン無水物の重量変化も前記と同一の方法により測定し、その結果を表1に示した。
【0093】
【表1】

* 無水物:7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン無水物
* 一水和物:7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物
【0094】
表1に示したように、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン無水物は、時間が経過するにつれて重量が増加し、水分を吸収したことを示している。2時間後には重量が3.4%増加し、4時間後からは平均4.6%の重量増加が観察された。この結果は、一水和物への無水物形態の吸湿性により説明され得る。そして、4.6%という重量変化の程度は、無水物から一水和物への正確な質量変化に相当する。しかし、本発明の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物は同一条件下において全く重量変化を示さなかった。
【0095】
2.7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン エタノール溶媒和物の一水和物への変換試験
前記例1または例2で製造した7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を重量測定ボトル(直径6cm)を用いることにより測定した。の1gの7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を試料として準備した。温度が25℃、相対湿度75%に設定された容器中で試料を保管した。1、2、3及び6日目試料の重量を測定した。重量変化の程度は最初の重量に対する百分率として計算して、その結果を表2に示した。
【0096】
また、前記例3で製造した7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン エタノール溶媒和物の重量変化を前記と同一の方法で調べ、その結果を表2に示した。
【0097】
【表2】

* エタノール溶媒和物:7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン エタノール溶媒和物
* 一水和物:7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物
【0098】
表2に示したように、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン エタノール溶媒和物は、時間が経過するにしたがって軽くなっており、エタノール溶媒和物が一水和物に変換されている間に重量が減少したことを示している。特に、観察1日後には平均4.1%の重量減少であり、観察2日後には平均6.5%の重量減少であり、その後は一定であった。この重量変化は、エタノール溶媒和物から一水和物への重量の喪失にちょうど該当する。しかし、本発明の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物は同じ条件下で全く重量変化を示さなかった。
【0099】
したがって、本発明の一水和物は、長期間の湿気への暴露の間も空気中の水分を吸収しないので、取扱い及び保管に便利であることが確認された。よって、医薬製剤の製造にこれを使用する場合、一定量の活性化合物を一貫して含有させることができる。
【0100】
〈実験例2〉 塩酸エタノールにより誘導される胃粘膜損傷モデルにおける効果
本発明の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の、大腸を含む胃腸管における優れた保護効果を確認するために、塩酸を含むエタノールで誘導される胃粘膜損傷モデル、およびトリニトロベンゼンスルホン酸で誘導される炎症性大腸炎モデルを下記の実験に使用した。
【0101】
SD系雄性ラット(250〜350g)を24時間絶食させた。本発明の化合物を5%HPMCに懸濁させて経口投与し、1時間後に、150mM HCl-80%エタノールを1.5ml経口投与した。1時間後、ラットを犠牲にして胃を摘出して潰瘍指数を測定した。潰瘍指数は、出血病変の面積(mm)で示した(Mizui, T, 等, Jpn. J. Pharmacol. 1983年, 第33巻, 939頁)。
【0102】
対照薬物としてレバミピド[2-(4-クロロベンゾイルアミノ)-3-(2-(1H)-キノリノン-4-イル)プロパン酸](商品名:ムコスタ)を使用した。結果は、表3に示した。
【0103】
【表3】

【0104】
表3に示したように、本発明の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物は、胃粘膜保護剤として既知のレパミピドの少なくとも100倍の優れた胃粘膜損傷保護効果を有する。
【0105】
〈実験例3〉 TNBSにより誘導される炎症性大腸疾患における実験
柴田ら(Dig. Endosc. 1993年,第5巻,13頁)の方法を改変して使用した。7週齢の雄性SDラット(CRJ)を一日絶食させ、ラットを麻酔して、肛門に8cmの深さまでカニューレ( 直径3mm)を挿入した。50%エタノール溶液に溶解した TNBS (トリニトロベンゼンスルホン酸)を各ラットに25mg/ml注入し、ラットを、1分間尾を上にした姿勢にした。流れ出る溶液を除去し、ラットを1.5mlの生理食塩水で1回洗浄した。大腸炎誘発後、誘発の翌日から6日まで、本発明の化合物を経口投与または直腸投与した。対照薬物として、経口投与にはスルファサラジン(5-アミノサリチル酸)を、直腸投与にはプレドニゾロンを使用した。また、対照群として5%HPMCを投与した。実験7日目に各群のラットをエーテルで麻酔して解剖した。大腸を摘出した。摘出した大腸の内腔に1%ホルマリン溶液を注入して膨ませた後、その両側を互いに結んで、1%ホルマリン液で2時間固定した。全固定した大腸を長さ方向に切って、周辺の脂肪組織及び結合組織を除去した。盲腸を除去して結腸と直腸の重量を測定した。潰瘍病変および炎症領域の面積を基準にしたがって点数化した。その後、10%中性ホルマリン溶液中で固定して、一般的な方法により病変部位の組織検査を実施し、基準にしたがって点数化した。
【0106】
臨床症状:毎日、動物の臨床症状と生存を観察した。初日、実験3日目及び8日目に動物の体重を測定した。
【0107】
肉眼観察:大腸に形成された潰瘍及び病変の領域の数と幅を測定して記録した。改変したウォレス(Wallace)(Can. J. Physiol. Pharmacol., 1988年,第66巻,422頁)の方法を使用することにより、肉眼で観察される病変を点数化し、各群の平均値を比較した。ウォレスの方法(1988)による大腸損傷の基準である病変点数の基準は下記のとおりである。
【0108】
(0:正常、損傷なし、1:潰瘍を伴わない鬱血、2:潰瘍を伴わない鬱血および腸壁の肥厚、3:腸壁の肥厚を伴わない潰瘍病変1カ所、4:2カ所以上の潰瘍/炎症病変、5:二カ所以上の潰瘍/炎症病変または潰瘍/炎症病変の長さが1cm以上、6〜10:病変の長さが2cmを超過する場合、潰瘍/炎症の長さが1cm増加するごとに1点ずつ増加、例えば:潰瘍の長さが3cmの場合は7点)
【0109】
病理組織検査:直腸から盲腸まで3cm間隔で、肉眼で観察された病変部位が含まれるように、大腸の各部位を切り取って(trimmed)1個体当たり少なくとも4個の標本を作製した。標本の病理組織検査を実施して、モヤマ(Moyama)(Ann. Clin. Lab. Sci., 1990年, 第20巻, 420頁)の改変方法により点数化した。最も高い点数を各個体の点数とみなした。肉眼により病変が認められない場合は、3cm間隔で異なる個体から病変を有する他の標本を切り取った。
結果は、表4及び表5に示した。
【0110】
【表4】

【0111】
【表5】

【0112】
表4及び表5に示したように、本発明の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物は、経口投与および直腸投与により、TNBSで誘導される炎症性大腸炎モデルにおいて阻害効果を示した。また、本発明の化合物は、広く使用されている従来のスルファサラジンまたはプレドニゾロンよりも少ない用量でより優れた効果を有することが確認された。
【0113】
〈製造例1〉 坐薬
50℃で予め加温により溶解したスポシア(Suppocire)AP(Gatterfosse社)1280mgに、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物20mgを加えた後、5℃で20分間撹拌した。溶液を36℃に冷却して、プラスチック坐薬容器に注ぎ、-5〜0℃に冷却して坐薬を製造した。
【0114】
〈製造例2〉 浣腸
生理食塩水299.7gにアルギニン70mgを溶解した。この溶液に、7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物200mgを加え、充分な時間撹拌して浣腸を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、大腸を含む胃腸管保護活性を有する7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を提供する。吸湿性を有さないという特徴を有する本発明の化合物は、通常の湿度下で取扱い及び保管において利点を有する。したがって、医薬の製造には、各用量において一定量の活性成分を一定に制御することができる。また、本発明の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の製造方法は、目的化合物の基本骨格として、天然から容易に得ることができる3',5,7-トリヒドロキシ-4'-メトキシフラボン-7-ルチノシドを使用することにより、合成全体の長い工程を短縮させる。本発明は、メチル化のために大気圧という穏和な条件下で化合物を製造することを可能にし、再結晶またはクロマトグラフィーなどの特別な精製過程なしに、目的化合物を工業的に大量生産することを容易にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腸を含む胃腸管のための保護活性を有する式1で表される7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物。
【化1】

【請求項2】
式1aで表わされる7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン溶媒和物。
【化2】

【請求項3】
溶媒が、無水エタノールである、請求項2記載の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン溶媒和物。
【請求項4】
7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンの製造方法であって、
下記工程:
(1)式3の化合物を塩基存在下でメチル化試薬と反応させて炭素-3'のヒドロキシル基をメトキシ基に変換した後、酸処理して式4の化合物を製造する工程(工程1)、
(2)式4の化合物を塩基存在下でカルボキシ基が保護されたα-ハロアセテートと反応させて式5の化合物を得る工程(工程2)、
(3)式5の化合物をメチル化試薬と反応させて炭素-5のヒドロキシル基をメトキシル基に変換し、式6の化合物を得る工程(工程3);及び
(4)式6の化合物の脱保護を行い、式2の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボンを得る工程(工程4)
を含む、スキーム3において表される前記方法。
【化3】

(式中、R'は、エチル、メチル、t-ブチル、ベンジル、トリクロロエチルおよびシリルからなる群から選択される保護基である)
【請求項5】
工程1で使用される反応溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びアセトンからなる群から選択され、塩基が、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び炭酸ナトリウムからなる群から選択され、メチル化試薬がヨードメタン(CHI)およびジメチル硫酸((CHSO)からなる群から選択され、酸が塩酸および硫酸からなる群から選択される、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
反応温度が、0〜150℃である請求項4記載の製造方法。
【請求項7】
反応温度が、0〜90℃である請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
工程2で使用される塩基が、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び炭酸ナトリウムなどの無機塩基;ナトリウムメトキシド及びナトリウムエトキシドなどのアルコールの金属塩;水素化ナトリウムなどのアルカリ金属の水素化物;および水素化カルシウムなどのアルカリ土類金属の水素化物からなる群から選択される、請求項4記載の製造方法。
【請求項9】
下記のスキーム4
【化4】

に示す通りの、請求項4の工程4で得た式2の化合物を、水を含有する媒質中で撹拌する工程により特徴づけられる、請求項1の式1により表される7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の製造方法。
【請求項10】
水を含有する媒質が、エタノールまたはアセトンであることを特徴とする、請求項9記載の、請求項1の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の製造方法。
【請求項11】
下記のスキーム5
【化5】

に示す通り、請求項4記載の工程4で得た式2の化合物を加湿雰囲気下に放置する、請求項1の式1で表される7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の製造方法。
【請求項12】
下記のスキーム6
【化6】

に示す通り、スキーム3の工程4で得た式2の化合物を無水アルコール中で撹拌して式1aで表される7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン溶媒和物を得る工程、および前記溶媒和物を加湿雰囲気下に放置する工程を含む、請求項1の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の製造方法。
【請求項13】
無水アルコールが、無水エタノールである、請求項12記載の、請求項1の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物の製造方法。
【請求項14】
請求項1の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を有効成分として含有する、大腸を含む胃腸管の保護及び胃腸疾患の処置のための医薬組成物。
【請求項15】
請求項1の7-カルボキシメチルオキシ-3',4',5-トリメトキシフラボン一水和物を有効成分として含有する、大腸を含む胃腸管の保護ならびに胃炎、胃潰瘍、潰瘍性大腸炎およびクローン病などの胃腸疾患の処置のための医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−138193(P2010−138193A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51121(P2010−51121)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【分割の表示】特願2006−525281(P2006−525281)の分割
【原出願日】平成16年9月4日(2004.9.4)
【出願人】(501187848)ドン・ア・ファーム・カンパニー・リミテッド (20)
【Fターム(参考)】