説明

9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックス

【課題】下向及び横向姿勢に加えて、立向姿勢溶接においても、良好なスラグ剥離性及び耐溶接欠陥性を有し、更に優れたビード形状の平滑性を得ることができる9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスを提供する。
【解決手段】Ni:60質量%以上を含有するワイヤとの組合せで使用する9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスであって、フラックス組成が、フラックス全質量あたり、Al:15乃至40質量%、SiO:5乃至35質量%、ZrO:5乃至25質量%、MgO:5乃至25質量%、CaCO:5乃至25質量%、及び金属Al:1乃至7質量%を含有する共に、CaFを5質量%以下に抑制し、残部が、金属Fe、NaO及び不可避不純物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化天然ガスのように極低温液体用貯蔵タンクの建造材料に使用される9%Ni鋼のサブマージアーク溶接に用いる焼結型フラックスに関し、特に立向溶接姿勢で溶接ができ、且つ下向及び横向姿勢にも適用可能であり、良好なスラグ剥離性を有するとともに、優れた耐欠陥性及びビードの平滑性を得ることができる9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、極低温液体用貯蔵タンクの建造材料として使用される9%Ni鋼の溶接においては、高温割れ防止のため、入熱が比較的低い被覆アーク溶接法が適用されていた。その後、耐高温割れ性が優れたワイヤが開発され、溶接建造物の施工能率向上を目的に下向又は横向姿勢溶接を適用する箇所へのサブマージアーク溶接法適用が増加している。
【0003】
一方、立向姿勢の溶接においては施工能率向上のため、自動TIG溶接が適用され、一部自動MAG溶接化が進められてきている。しかしながら、現地施工において、溶接ガスの入手が困難な地域では、未だに被覆アーク溶接法に頼らざるを得ない状況である。
【0004】
そこで、溶接ガスを入手できない現地での施工能率向上のため、サブマージアーク溶接方法を立向上進溶接に適用できる溶接材料の開発が要望されている。
【0005】
従来、低温用鋼のサブマージアーク溶接材料については立向姿勢で溶接を行った場合、溶融金属が凝固過程で重力により流動するため、ビード形状は不安定になりやすく、凸状となり、溶接ビードをグラインダで平滑にする必要がある等の問題点があった。
【0006】
そのため、例えば、特許文献1には、フラックス全質量に対し、Al:31乃至60質量%、CaF:10乃至40質量%、SiO:1乃至10質量%、NaO:0.1乃至5質量%、金属Al:1乃至10質量%を含有し、その他はCaCO、CaO、MgO、金属Mn及び不可避不純物である低温用鋼のサブマージアーク溶接用フラックスが開示されている。
【0007】
特許文献1の技術は、フラックス組成を上記範囲に規制することにより、下向及び横向姿勢に加えて立向姿勢溶接においても、アーク安定性、スラグ剥離性、耐溶接欠陥性及びビード形状の向上を図ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−039761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の技術は、立向姿勢溶接におけるアーク安定性、スラグ剥離性及び耐溶接欠陥性は向上するものの、溶接ビードの平滑性については不十分である。特に、特許文献1のサブマージアーク溶接用フラックスは、ビード長手方向の形状が不連続になり易いという問題点がある。このため、立向姿勢の溶接において、スラグ剥離性、耐溶接欠陥性及びビード形状の安定性(平滑性)の全てを十分に満足することができるようなサブマージアーク溶接用のフラックスの開発が望まれている。
【0010】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、下向及び横向姿勢に加えて、立向姿勢溶接においても、良好なスラグ剥離性及び耐溶接欠陥性を有し、更に優れたビード形状の平滑性を得ることができる9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスは、ワイヤ全質量あたりNi:60質量%以上を含有するワイヤとの組合せで使用する9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスであって、フラックス組成が、フラックス全質量あたり、Al:15乃至40質量%、SiO:5乃至35質量%、ZrO:5乃至25質量%、MgO:5乃至25質量%、CaCO:5乃至25質量%、及び金属Al:1乃至7質量%を含有する共に、CaFを5質量%以下に抑制し、残部が、金属Fe、NaO及び不可避不純物であることを特徴とする。
【0012】
更に、金属Ti:0.1乃至5質量%を含有することが好ましい。
【0013】
また、本発明の9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスは、立向溶接姿勢のサブマージアーク溶接に使用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、良好なスラグ剥離性及び耐溶接欠陥性を有し、更に優れたビード形状の平滑性を有する9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】溶接姿勢が下向の場合における溶接母材の形状及びサイズを示す図であり、そのうち(a)は正面図であり、(b)は開先形状を示す断面図であり、(c)は積層要領を示す模式図である。
【図2】溶接姿勢が横向の場合における溶接母材の形状及びサイズを示す図であり、そのうち(a)は正面図であり、(b)は開先形状を示す断面図であり、(c)は積層要領を示す模式図である。
【図3】溶接姿勢が立向上進の場合における溶接母材の形状及びサイズを示す図であり、そのうち(a)は正面図であり、(b)は開先形状を示す断面図であり、(c)は積層要領を示す模式図である。
【図4】ビード形状評価基準のうち最大凹凸変動の判定基準を示す図であり、そのうち(a)は正面図であり、(b)は断面図である。
【図5】ビード形状評価基準のうち最大幅変動の判定基準を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、フラックス成分を種々調整し、Alの他、MgO、CaCO、ZrO等の高融点酸化物を主成分とすることにより、下向及び横向姿勢でのビード形状の平滑化に有効であることはもちろん、立向溶接姿勢においてもビード形状の平滑化に有効であることを見出した。更に、本発明者らは、CaFについてはビードの波目を細かくする効果があるものの、所定量を超えて含有されるとビード形状が不連続となりやすく、またブローホールも増加する傾向を見出した。本発明者らはこれらの知見に基づいて本発明を完成させた。以下、本発明に係る9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスの成分添加理由及び組成限定理由について説明する。
【0017】
Al:15乃至40質量%
フラックス中のAlはスラグ形成剤として作用し、溶融スラグの凝固温度及び粘性を上げるのに有効な成分である。フラックス中のAlが15質量%未満では立向姿勢溶接において溶融スラグのビード保持力不足となり、ビードが凸状となったり、溶け落ちが発生する。一方、Alが40質量%を超える場合は、スラグの粘性が高くなりすぎて流動性が悪くなるため、スラグ巻き込みが発生する。更に、Alが40質量%を超えると、下向及び横向姿勢においてはビードの波目が粗くなる他、ポックマークが発生する。
【0018】
より好ましい範囲は、Al:20乃至35質量%である。この範囲においては、特に立向溶接において溶融スラグのビード保持力が更に一層適切となり、ビード形状が安定して平滑化するため、より一層、良好なビード外観を得ることができる。
【0019】
SiO:5乃至35質量%
フラックス中のSiOは5乃至35質量%とする必要がある。フラックス中のSiOは溶融スラグの凝固温度を高くする。また立向姿勢においてビードの保持力を高め、ビード形状を安定させる効果がある。SiOが5質量%未満では、溶融スラグのビード保持力不足のためビード形状が不安定となる。一方、SiOが35質量%を超えると溶融スラグの粘性が高くなり過ぎ、スラグの剥離性が悪化し、スラグ巻き込みが発生する。
【0020】
より好ましい範囲は、SiO:10乃至25質量%である。この範囲においては、スラグ剥離性が向上し、特に立向姿勢において、更に一層、良好なスラグ剥離性が得られると共に、ビード形状が安定して平滑化するため、良好なビード外観を得ることができる。この範囲においては下向及び横向姿勢溶接時のビード形状も安定する。SiOについては、珪砂、水ガラスの他、珪石灰等の複合酸化物からも添加することができる。
【0021】
ZrO:5乃至25質量%
フラックス中のZrOは、スラグ剥離性を良好にするのに有効な成分である。ZrOが5質量%未満ではこの効果が得られず、スラグがビードに焼付く等、スラグ剥離性が悪い。一方、ZrOが25質量%を超えると溶融スラグの流動性が低下し、スラグ巻き込みが発生しやすくなる。
【0022】
より好ましい範囲は、ZrO:10乃至20質量%である。この範囲においては、スラグ剥離性が向上し、特に立向姿勢において、更に一層、良好なスラグ剥離性が得られると共に、ビード形状が安定して平滑化するため、良好なビード外観を得ることができる。
【0023】
MgO:5乃至25質量%
フラックス中のMgOは、スラグの凝固温度を上昇させる効果があり、長手方向のビード形状安定性に有効な成分である。この効果は5質量%未満では得られず、立向姿勢においてはビード溶け落ちが多発する。一方、MgOが25質量%を超えるとスラグの凝固が早期に完了するためビード形状が凸状となり、スラグ巻き込みが発生し易くなる他、スラグ剥離性が悪化する。
【0024】
より好ましい範囲は、MgO:10乃至20質量%である。この範囲においては、スラグ剥離性が向上し、特に立向姿勢において更に一層、良好なスラグ剥離性が得られると共に、ビード形状が安定して平滑化するため、良好なビード外観を得ることができる。
【0025】
CaCO:5乃至25質量%
フラックス中のCaCOは、5乃至25質量%とする必要がある。CaCOは溶融分解し、CaO及びCOガスになるが、COガスが溶接アーク雰囲気中の水蒸気分圧を低減し、溶接金属中の水素量を低減すると共にブローホールを低減する効果がある。またCaOが溶融スラグの凝固温度を上げる効果があり、ビード形状が安定する。CaCOが5質量%未満の領域では、上記効果が得られない他、ビード形状は凸状となる。一方、CaCOが25質量%を超える領域ではスラグ剥離性が低下する。
【0026】
より好ましい範囲は、CaCO:10乃至20質量%である。この範囲においては、スラグの凝固温度が更に上昇し、一層、ビード形状が安定して平滑化するため、良好なビード外観を得ることができる。
【0027】
金属Al:1乃至7質量%
金属Alは、脱酸剤としてフラックス中に添加することにより、溶接金属中の酸素量を著しく低下させ、ブローホールの発生を抑制する効果を有する成分である。金属Alは、フラックス全重量あたり1質量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス全重量あたり7質量%を超えると、スラグ剥離性が悪化する。金属Alは、単体又はFe‐Al合金等により、フラックス中に添加することができる。
【0028】
より好ましい範囲は、金属Al:2乃至5質量%である。この範囲においては、更に一層、良好なスラグ剥離性及び更なる耐ブローホール性能を両立できる。
【0029】
CaF:5質量%以下
従来のサブマージアーク溶接用フラックスには必須成分としてCaFが添加されていたが、本発明においてはCaFを5質量%以下に抑制する。CaFはアークを安定させ、ビードの波目を細かくする効果があるものの、スラグの凝固温度及び粘性を下げる効果があるため、特に立向姿勢の溶接においては長手方向のビード形状が不安定になり、ビードが溶け落ちしやすくなる。この傾向はフラックス中のCaFが5質量%を超えると顕著に現れることから、CaFは5質量%以下に抑制する必要がある。
【0030】
金属Ti:0.1乃至5質量%
Tiはスラグの凝固温度を上昇させ、横向及び立向溶接時にビードの溶け落ちを抑制する効果をもつ。金属Tiは、フラックス全重量あたり0.1質量%未満であるとその効果を十分に得ることができない。一方、フラックス全重量あたり金属Tiが5質量%を超えるとスラグ剥離性が悪化する。よって、金属Tiを含有する場合は、0.1乃至5質量%とする。金属Tiは単体あるいはFe−Ti等で添加される。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により、本発明の効果を具体的に説明する。まず、フラックス原料を調整し、これに固着剤として水ガラスを添加して造粒した後、焼結することにより、下記表1に示す種々の化学組成を有するサブマージアーク溶接用焼結型フラックスを作製した。
【0032】
【表1】

【0033】
母材及びワイヤは、夫々、下記表2及び表3に示す化学組成を有するものを使用した。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
下向溶接は、下記表4に示す溶接条件にて行った。下向溶接における溶接母材の形状及びサイズは図1に示す。図1(a)は、溶接姿勢が下向の場合における溶接母材の形状及びサイズを示す正面図であり、図1(b)は開先形状を示す断面図であり、図1(c)は積層要領を示す模式図である。
【0037】
【表4】

【0038】
横向溶接は、下記表5に示す溶接条件にて行った。横向溶接における溶接母材の形状及びサイズは図2に示す。図2(a)は、溶接姿勢が横向の場合における溶接母材の形状及びサイズを示す正面図であり、図2(b)は開先形状を示す断面図であり、図2(c)は積層要領を示す模式図である。
【0039】
【表5】

【0040】
立向溶接は、下記表6に示す溶接条件にて行った。立向溶接における溶接母材の形状及びサイズは図3に示す。図3(a)は、溶接姿勢が立向上進の場合における溶接母材の形状及びサイズを示す正面図であり、図3(b)は開先形状を示す断面図であり、図3(c)は積層要領を示す模式図である。
【0041】
【表6】

【0042】
以上の評価結果を表7に示す。下向、横向、立向の各溶接姿勢によりサブマージアーク溶接を実施し、ビード形状及びスラグ剥離性(溶接作業性)を求め、更に、溶接部の放射性透過試験を実施した。
【0043】
【表7】

【0044】
ビード形状の評価は図4及び図5に示すように溶接長500mmにおいて判定視野を30×30mmとし、クレータ部及びスタート部から50mmまでを除くビード中央部の高さの凹凸変動及び横方向のビード幅変動が最大となる位置で判定を行った。図4は、最大凹凸変動の判定基準を示す図であり、そのうち(a)は正面図であり、(b)は断面図である。図5は、最大幅変動の判定基準である。凹凸と横幅の判定視野の位置は夫々独立とし、表8の判定基準を用い、凹凸変動差、横幅変動差の判定結果のうち低位の判定レベルのものを判定結果に採用した。
【0045】
【表8】

【0046】
スラグ剥離性は、スラグハンマーによる11回未満の打突によりビード全長に渡ってスラグが完全に剥離したものを◎とし、スラグハンマーによる10回の打突を行った後、開先部分等にスラグが若干残るものの、11乃至20回未満のスラグハンマーによる打突で全て除去可能であったものを○とし、スラグハンマーでは全てのスラグ除去が困難であったものの、チッパー等のスラグ剥離専用の道具によりスラグが容易に剥離できたものを△とし、上記道具を使用しても完全にスラグ除去できなかったものを×とした。
【0047】
また溶接部については放射性透過試験を実施し、JIS Z 3106を判定基準に用いて耐欠陥性を評価した。即ち、放射性透過試験では、溶接継手の透過試験におけるきずの像の分類方法について、丸いブローホール及びこれに類するきずを第1種、細長いスラグ巻込み、パイプ、溶込み不良、融合不良及びこれに類するきずを第2種、割れ及びこれに類するきずを第3種とした。なお、第1種のきずか第2種のきずかの区別が困難なきずについては、それらを第1種のきず又は第2種のきずとしてそれぞれ独立に分類し、そのうち分類番号の大きい方をそのきずの種別と分類番号とした。第1種のきず点数は下記の手法に従って求めた。即ち、第1種のきず点数の測定では、板厚が20mmであるので、試験視野の大きさは10mm×10mmとした。きずが試験視野の境界線上にかかる場合は、視野外の部分も含めて測定した。第1種のきずが1個の場合のきず点数は、きずの長径の寸法に応じて下記表9の値を用いた。きずが2個以上の場合のきず点数は、試験視野内に存在する各きずのきず点数の総和とした。
【0048】
【表9】

【0049】
第1種のきずの像の分類は、下記表10に従った。表10中の数値は、試験視野内でのきず点数の許容値を示した。但し、きずの長径が母材の厚さの1/2を超えるときは4類とした。
【0050】
【表10】

【0051】
第2種のきずの像の分類は、下記表11に従った。試験視野の大きさは第1種と同じである。なお、1類と分類された場合でも、溶込み不良又は融合不良があれば2類とした。
【0052】
【表11】

【0053】
きずの総合分類については下記のように行った。即ち、きずの種別が1種類の場合は、その分類を総合分類とした。きずの種別が2種類以上の場合は、そのうちの分類番号の大きい方を総合分類とした。但し、第1種のきずの試験視野に分類の対象とした第2種のきずが混在する場合で、きず点数による分類ときず長さによる分類がともに同じ分類であれば、混在する部分の分類は分類番号を一つ大きくした。このとき、1類については、第1種と第2種のきずの許容長さの1/2を超えた場合に2類に分類した。
【0054】
上記表1及び表7に示すように、実施例1乃至6はフラックス中の化学組成が適切に規制されているため、溶接時のビード形状平滑性及びスラグ剥離性が良好であり、放射性透過試験評価においても全て1種1類判定となった。
【0055】
実施例7については、フラックス中のTiの含有量が本発明範囲の下限未満であるため、実施例1乃至6に比して、ビード形状が若干不安定であった。
【0056】
実施例8については、フラックス中のTiの含有量が本発明範囲の上限を超えているため、スラグ剥離性がやや劣った。
【0057】
(比較例9及び10)
一方、比較例9は、フラックス中のAlの含有量が本発明範囲の上限を超え、SiOの含有量が本発明範囲の下限未満であるので、下向及び横向溶接ビードの波目が粗くなる他、立向溶接において、ビード形状が不安定且つスラグ巻き込みが発生した。
【0058】
比較例10は、フラックス中のAlの含有量が本発明範囲の下限未満であり、SiOの含有量が本発明の上限を超えているため、ビード形状平滑性及びスラグ剥離性が低下した他、スラグ巻き込みが発生した。
【0059】
(比較例11及び12)
比較例11は、フラックス中のZrOの含有量が本発明範囲の上限を超え、CaCOの含有量が本発明範囲の下限未満であるため、ビード形状平滑性が低下し、スラグ巻き込みが発生した。
【0060】
比較例12は、フラックス中のZrOの含有量が本発明範囲の下限未満であり、CaCOの含有量が本発明範囲の上限を超えているため、スラグ焼き付きが発生し、スラグ剥離性が低下した。
【0061】
(比較例13及び14)
比較例13は、フラックス中のMgOの含有量が本発明範囲の上限を超え、Alの含有量が本発明範囲の下限未満であるため、ビード形状が凸状となり、ビード形状平滑性が低下し、立向溶接ではスラグ巻きが発生した。また、耐ブローホール性が低下した。
【0062】
比較例14は、フラックス中のMgOの含有量が本発明範囲の下限未満であり、Alの含有量が本発明範囲の上限を超えているため、スラグ剥離性が低下した他、溶融金属の保持力が低下したことで横向及び立向溶接でのビード形状平滑性が低下した。
【0063】
(比較例15)
比較例15は、フラックス中のTiの含有量が本発明範囲の下限未満であり、CaFの含有量が本発明範囲の上限を超えているため、ビード形状平滑性が低下し、立向溶接では溶け落ちが発生した。
【0064】
(比較例16及び17)
比較例16及び比較例17は、フラックス中のMgOの含有量が本発明範囲のより好ましい範囲の下限未満であり、CaFの含有量が本発明範囲の上限を超えているため、横向及び立向溶接でのビード形状平滑性が低下し、立向溶接において溶け落ちが発生した。
【0065】
以上詳述したように、本発明によれば、9Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックス中の化学組成を適切に規制することで、下向、横向及び立向姿勢の溶接において優れたビードの平滑性、スラグ剥離性及び耐溶接欠陥性を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ全質量あたりNi:60質量%以上を含有するワイヤとの組合せで使用する9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスであって、フラックス組成が、フラックス全質量あたり、
Al:15乃至40質量%、
SiO:5乃至35質量%、
ZrO:5乃至25質量%、
MgO:5乃至25質量%、
CaCO:5乃至25質量%、
及び金属Al:1乃至7質量%を含有する共に、CaFを5質量%以下に抑制し、残部が、金属Fe、NaO及び不可避不純物であることを特徴とする9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックス。
【請求項2】
金属Ti:0.1乃至5質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックス。
【請求項3】
立向溶接姿勢のサブマージアーク溶接に使用されることを特徴とする請求項1又は2に記載の9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−25285(P2011−25285A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174004(P2009−174004)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】