説明

9,10−デヒドロ−12,13−デソキシエポチロン誘導体の調製方法

本発明は式(I)のエポチロン誘導体(式中R1及びR2は互いに独立して水素または保護基であり、且つR3はメチルまたはトリフルオロメチルである)の新規調製方法を含んで成り、それは式(IV)のデソキシエポチロン誘導体(式中Rはメチルまたはトリフルオロメチルである)の合成における有用な前駆体である。式(IV)のデソキシエポチロンは腫瘍細胞の成長を阻害するので新規抗癌剤の候補対象を確実にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は式
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ互いに独立して水素または保護基であり、且つR3はメチルまたはトリフルオロメチルである)
のエポチロン(epothilone)誘導体の新規調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
式Iのエポチロン誘導体は式
【化2】

(式中、R3はメチルまたはトリフルオロメチルである)
の9,10-デヒドロ-12,13-デソキシ(desoxy)エポチロン誘導体の調製において使用され得る。
【0003】
式IVの9,10-デヒドロ-12,13-デソキシエポチロンは、腫瘍細胞の成長を阻害することによって、新規抗癌剤の候補対象を確実にする(Danishefsky等., J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 2899-2901;国際特許出願No. WO 2004/018478 A2)。
【0004】
同一著者(Danishefsky等)は以下のスキーム1に記載されるエポチロン誘導体の調製方法を報告している。
【化3】

【0005】
この方法によれば、式1のオレフィン-前駆体は、式2のGrubbsII触媒の存在中で、式3のそれぞれのエポチロン誘導体に78%の収率で変換される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、技術的規模で実施可能な代替合成法を見出す試みの中で、選択性及び環化工程の収率を更に改良することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、以下に概説するような本発明の方法により、この目的が達成され得ることが見出された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
他に断りのなり限り、以下の定義は本明細書において発明を説明するために使用される多様な用語の意味及び範囲を説明及び定義するために発表される。
【0009】
本明細書でR1及びR2の文脈において使用される用語である保護基は、ヒドロキシ保護基の意味を有する。
【0010】
適切なヒドロキシ保護基は、トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、tert-ブチルジメチルシリル(TBS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、tert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)、及びジエチルイソプロピルシリル(DEIPS)から成る群から選定されるトリ低級アルキルシリル基であり、好適にはメトキシメチル(MOM)、(2-メトキシエトキシ)メチル(MEM)、ベンジルオキシメチル(BOM)及びβ-(トリメチルシリル)-エトキシメチル(SEM)から成る群から選定されるトリエチルシリル(TES)及びtert-ブチルジメチルシリル(TBS)、またはアルコキシアルキル基、或いはアセチル(Ac)、α-クロロアセチル及びベンゾイル(Bz)から成る群から選定されるアシル基である。
【0011】
好適なヒドロキシ保護基は、トリ低級アルキルシリル基であり、トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、tert-ブチルジメチルシリル(TBS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、tert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)、及びジエチルイソプロピルシリル(DEIPS)から成る群から選定され、トリエチルシリル(TES)及びtert-ブチルジメチルシリル(TBS)を有するものが特に好適である。
【0012】
用語"低級アルキル"とは、単独または他の基との組み合せにあり、分岐した、または直鎖の一価の1〜6個の炭素原子、好適には1〜4個の炭素原子のアルキルラジカルを言う。この用語は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、s-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ペンチル、3-メチルブチル、n-ヘキシル、2-エチルブチル等のラジカルによって更に例示される。
【0013】
本発明の方法は式
【化4】

(式中、R1、R2及びR3は上記に定義した通りである)
の、式
【化5】

(式中、Aは単結合または二重結合であり、R4はフェニルまたは1〜5個の互いに独立して選定された低級アルキル基で置換されたフェニルであり、且つR5はシクロヘキシルまたはフェニルの意味を有し)のルテニウム(Ru)触媒の存在中、且つ有機溶媒の存在中でのオレフィン-前駆体の環化を含んで成る。
【0014】
"閉環メタセシス"反応として公知であるこの環化反応は、好適には式III
(式中、Aは単結合または二重結合であり、R4は2,4,6-トリメチルフェニルまたは2,6-ジイソプロピルフェニルであり、且つR5はシクロヘキシルまたはフェニルである)
のルテニウム触媒と一緒に行われ得る。
【0015】
好適にはAは二重結合である。
【0016】
より好適には、ルテニウム触媒は、式中、A、R4及びR5は以下の意味を有する:
a) Aは二重結合であり、R4は2,4,6-トリメチルフェニルであり、且つR5はシクロヘキシルである、
b) Aは二重結合であり、R4は2,4,6-トリメチルフェニルであり、且つR5はフェニルである、
c) Aは単結合であり、R4は2,4,6-トリメチルフェニルであり、且つR5はシクロヘキシルであり、または
d) Aは二重結合であり、R4は2,6-ジイソプロピルフェニルであり、且つR5はシクロヘキシルである、
式III の化合物から選定される。
【0017】
最適には、環化は式III
(式中、Aは二重結合を意味し、R4は2,4,6-トリメチルフェニルであり、且つR5はシクロヘキシルである)のルテニウム触媒、または式III (式中、Aは単結合を意味し、R4は2,4,6-トリメチルフェニルであり、且つR5はシクロヘキシルである)のルテニウム触媒の存在中で実施される。
【0018】
使用される反応条件は、当業者が閉環メタセシス反応に普通に適用するであろう一般的な方法である。
【0019】
従って、当該反応は、トルエン、塩化メチレン、ベンゼン及びメシチレンから成る群から選定される適切な有機溶媒中で実施され、好適にはトルエン中で実施される。
【0020】
反応温度は、好都合には20℃〜165℃、好適には80℃〜120℃、最適には100℃〜110℃の範囲内で選定される。
【0021】
本発明の方法において使用される触媒の量は、基質に対して0.1〜15モル%の範囲内、好適には基質に対して1〜5モル%の範囲内である。
【0022】
好適には、当該反応は"二重付加(double addition)"方法(すなわち沸騰している溶媒にシリンジポンプの補助により基質溶液及び触媒溶液を100分以内で同時に付加することを意味する)の形態でも実施することができる(完全に付加した後の基質濃度=10 mM)。
【0023】
式Iのオレフィン-前駆体は、以下のスキーム2(Danishefsky等., J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 2899-2901)またはUS-Al 2004/0053910によって調製され得る。
【化6】

【0024】
式IIのルテニウム触媒は、以下のスキーム3(S.P.Nolan, Organometallics 1999, 18, 5416-5419)によって調製され得る。
【化7】

【0025】
更に本発明は式
【化8】

(式中、R3はメチルまたはトリフルオロメチルである)
の、本明細書で定義したデソキシエポチロン誘導体の調製方法における使用に関する。
【0026】
これは、例えば、チアゾール部位を導入し、その後、脱保護することによる以下のスキーム4(US-Al 2004/0053910)によって達成され得る。
【化9】

【0027】
Wittig試薬(ステップ1)による反応は、塩基条件下、例えばn-ブチルリチウム(N-BuLi)またはカリウムヘキサメチルジシラザン(KHMDS)等の塩基を用いることによって、テトラヒドロフランのような極性溶媒中で、−78℃〜室温までの温度範囲で実施され得る。
【0028】
保護基の脱保護は、酸性条件または軽度の塩基性条件下で実施される。好適には、当該脱保護は、酸性条件下で実施される。例えば、シリルエーテルは、HFによってピリジン中で開裂することができる。メトキシメチル(MOM)等のエーテル基は、濃HClを用いて、メタノール中で開裂することができる。アシル基がヒドロキシ保護基として使用される場合、水性メタノール中のK2CO3(アセチル基のため)、またはピリジン(α-クロロアセチル基のため)または水性メタノー中のNaOH(ベンゾイル基のため)等の軽度の塩基性条件が適用され得る。
【0029】
従って、本発明は上記定義した方法に関し、ここで式Iの化合物は式
【化10】

(式中、R3はメチルまたはトリフルオロメチルである)のデソキシエポチロン誘導体に変換され、当該方法は塩基性条件下で式
【化11】

のWittig試薬による式Iの化合物の反応、その後の保護基の脱保護を更に含んで成ることを特徴とする。
【0030】
好適には、本方法は9,10-デヒドロエポチロンDまたは9,10-デヒドロ-12,13-デソキシエポチロンBである式
【化12】

のデソキシエポチロン誘導体の調製のために使用され得る。
【0031】
また更なる態様では、本発明は式
【化13】

(式中、A、R4及びR5は上記定義の通りである)
のルテニウム触媒の、式
【化14】

(式中、R1及びR2は、互いに独立して水素または保護基であり、且つR3はメチルまたはトリフルオロメチルである)のエポチロン誘導体の調製のための使用に関する。式IVのデソキシエポチロン誘導体は腫瘍細胞の成長を阻害することによって、新規抗癌剤の候補対象を確実にする。それらは特に多剤耐性癌細胞株の成長を阻害する。それらは好適には固形腫瘍の処置に有用である。更に、式IVのデソキシエポチロン誘導体が任意の増殖性疾患、自己免疫性疾患(リウマチ性関節炎及び感染症等)を治療及び予防するためにも有用であり得る。
【0032】
以下の実施例は、本発明を更に限定することなく、本発明を説明する。
【0033】
実施例
略語
r.t.=室温、
ImH2MeS=l,3-ビス-(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン、
ImMes=l,3-ビス-(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリリデン(imidazolylidene)、
ImH2Pr=l,3-ビス-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン、
RCM=閉環メタセシス。
【0034】
【表1】

【実施例1】
【0035】
[RuCl2(PCy3)(ImH2MeS)(3-フェニル-インデニリデン(indenylidene))]
383.0 mg (1.08 mmol)のl,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-イミダゾリジニウム(imidazolidinium)クロライド(Aaron Chemistry GmbH, D-85386 Echingから商業的に入手可能)及び0.67 ml (1.14 mmol)のカリウムtert.-ペンチラート(トルエン中1.7 M)の懸濁物を25 mlのヘキサン中で懸濁し、そして50℃で、10分間加熱した。16 mlのヘキサン中の500.0 mg (0.54 mmol)の[RuCl2(PCy3)2(3-フェニル-インデニリデン)](Umicore AG, D-63457 Hanau-Wolfgangから商業的に入手可能)の懸濁物を付加し、そして得られた赤色の懸濁物を50℃で、18時間攪拌した。反応混合物を蒸発し乾燥させ、そして単離した粗産物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/ジエチルエーテル6:4)で精製し、257.0 mg (50%)の表題の化合物を、赤色結晶として得た。MS:948.3 (M+)。31P-NMR (121 MHz, C6D6): 25.8 ppm; 1H-NMR (300 MHz, C6D6): 1.00-1.40 (m, 18H); 1.45-1.64 (m, 6H); 1.65-1.95 (m, 6H); 1.80 (s, 3H); 2.23 (s, 6H); 2.38 (s, 3H); 2.85 (s, 3H); 2.87 (s, 3H); 3.10-3.45 (m, 4H); 6.02 (s, 1H); 6.47 (s, 1H); 6.97 (s, 2H); 7.05-7.35 (m, 6H); 7.84 (s, 1H, Ru=CCH); 7.89 (m, 2H); 9.16 (m, 1H). Anal, C54H69N2Cl2PRuの理論値: C, 68.34; H, 7.33; N, 2.95。実測値: C, 68.61; H, 7.32; N, 2.68。
【実施例2】
【0036】
[RuCl2(PCy3)(ImMes)(3-フェニル-インデニリデン)]
S. P. Nolan, Organometallics 1999, 18, 5416-5419の類似方法では、1.55 g (4.33 mmol)のl,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-塩化イミダゾリウム(Strem Chemicals Inc., D-77672 Kehlから商業的に入手可能)及び2.70 ml (4.59 mmol)のカリウムtert.-ペンチラート(トルエン中1.7 M)の懸濁物を、20 mlのヘキサン中に懸濁し、そして50℃で、10分間加熱した。2.00 g (2.17 mmol)の[RuCl2(Pcy3)2(3-フェニル-インデニリデン)]を付加し、そして得られた赤色懸濁物を50℃で、15時間撹拌した。当該反応混合物を室温に冷却し、形成した茶色の結晶をろ過し、そして40 mlのペンタンで洗浄した。当該結晶を30 mlのジクロロメタンに溶解した。30 mlの水を付加し、そして有機層を分離し、そしてNa2SO4で乾燥させた。オレンジ色の溶液を蒸発し乾燥させ、そして単離された赤色の結晶を30 mlのペンタンで洗浄し、そして真空下で乾燥させて、2.05 g (81%の収率)の表題の化合物を得た。MS: 946.3 (M+)。31P-NMR (121 MHz, C6D6): 27.4 ppm。1H-NMR (300 MHz, C6D6): 1.00-1.40 (m, 18H); 1.47-1.68 (m, 6H); 1.70-1.84 (m, 3H); 1.80 (s, 3H); 1.85-1.95 (m, 3H); 2.04 (s, 3H); 2.20 (s, 3H); 2.24 (s, 3H); 2.45-2.60 (m, 3H); 2.65 (s, 3H); 2.67 (s, 3H); 6.03 (s, 1H); 6.16 (s, 2H); 6.47 (s, 1H); 6.95 (s, 2H); 7.10-7.37 (m, 6H); 7.85 (s, 1H); 7.87-7.93 (m, 2H); 9.12 (d, 1H, J=6.8 Hz)。Anal, C54H67N2Cl2PRuの理論値:C, 68.48; H, 7.13; N, 2.96; Cl, 7.49。実測値:C, 68.71; H, 7.11; N, 3.77; Cl, 7.37。
【実施例3】
【0037】
(3S,6R,7S,8S)-3,7-ビス-(tert-ブチル-ジメチル-シラニルオキシ)-4,4,6,8-テトラメチル-5-オキソ-デカ-9-エン酸(Z)-(S)-l-アセチル-4-メチル-ヘプタ-3,6-ジエニルエステル
【0038】
10 mlのジクロロメタン中の238.0 mg (1.42 mmol)の(Z)-(S)-3-ヒドロキシ-6-メチル-ノナ-5,8-ジエン-2-オン(SJ. Danishefsky等., J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 2899-2901;SJ. Danishefsky等., US 2004/0053910 Alの類似方法で調製された)の氷冷溶液に 188.8 mg (1.51 mmol)の4-ジメチルアミノ-ピリジン及び296.0 mg (1.51 mmol)のl-(3-ジメチル-アミノプロピル)-3-エチルカルボジイミドハイドロクロライドを付加した。10分以内に、10 mlジクロロメタン中の473.0 mg (0.95 mmol)の(3S,6R,7S,8S)-3,7-ビス-(tert-ブチル-ジメチル-シラニルオキシ)-4,4,6,8-テトラメチル-5-オキソ-デカ-9-エン酸(SJ. Danishefsky等., J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 2899-2901; SJ. Danishewsky等., US 2004/0053910 Alの類似方法で調製された)の溶液を付加し、そして得られたピンク色の溶液を室温で16時間撹拌した。当該反応混合物を蒸発し乾燥させて、得られた粗産物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル 4:1)で精製し、574.0 mg (93%)の表題の化合物を、99.5%の純度で、無色のオイルとして得た(HPLC法 :Chirobiotic V カラム、4.6 x 250 mm、溶媒A:n-ヘキサン、B:エタノール、A/B 95/5〜50/50の勾配で5分以内、そして50/50で4分以内、流速0.5 ml/分、18℃、210 nm。保持時間:5.8分)。MS: 668.6 (M+NH4+)。1H-NMR (300 MHz, CDCl3): -0.06 (s, 3H); 0.00 (s, 6H); 0.02 (s, 3H); 0.79 (s, 9H); 0.85 (s, 9H); 0.95 (d, 3H, J=4.5 Hz); 0.97 (d, 3H, J=4.5 Hz); 1.03 (s, 3H); 1.14 (s, 3H); 1.62 (d, 3H, J=0.8 Hz); 1.95-2.15 (m, 1H); 2.07 (s, 3H); 2.30 (dd, 1H, J= 17.0, 6.4 Hz); 2.40 (t, 2H, J=6.4 Hz); 2.52 (dd, 1H, J= 17.0, 3.2 Hz); 2.60-2.75 (m, 2H); 2.99 (quint., 1H, J=7.0 Hz); 3.77 (dd, 1H, 7.2, 2.1 Hz); 4.30 (dd, 1H, J=6.4, 3.4 Hz); 4.85-5.05 (m, 5H); 5.12 (t, 1H, J=7.2 Hz); 5.55-5.75 (m, 1H); 5.85 (ddd, 1H, J= 17.2, 10.6, 7.7 Hz). Anal, C36H66O6Si2の理論値:C, 66.41; H, 10.27。実測値: C, 66.27; H, 10.27。
【実施例4】
【0039】
(10E,13Z)-(4S,7R,8S,9S,16S)-16-アセチル-4,8-ビス-(tert-ブチル-ジメチル-シラニルオキシ)-5,5,7,9,13-ペンタメチル-オキサシクロヘキサデカ-10,13-ジエン-2,6-ジオン
【0040】
1.9 1のトルエン中の0.50 g (0.77 mmol)の(3S,6R,7S,8S)-3,7-ビス-(tert-ブチル-ジメチル-シラニルオキシ)-4,4,6,8-テトラメチル-5-オキソ-デカ-9-エン酸(Z)-(S)-l-アセチル-4-メチル-ヘプタ-3,6-ジエニルエステルの溶液を、還流で加熱した。100 mlのトルエン中の97.8 mg (0.12 mmol)の[RuCl2(PCy3)(ImH2MeS)(ベンジリデン)](Grubbs 第二世代のRCM 触媒で、Sigma-Aldrich Corp. St. Louis, MO 63103から商業的に入手できる)の溶液を付加し、そして得られた黄色の溶液を30分間、還流で撹拌した。18.06 mg (0.12 mmol)の2-メルカプトニコチン酸を付加し、そして5分後、温反応溶液をシリカゲルパッドでろ過した。ろ液を蒸発し乾燥させた。残留トルエンを除去するために、当該粗産物を60 mlのエタノールに溶かし、そして形成した溶液を蒸発し乾燥させて、409.0 mgの粗産物を59%の純度で得た(HPLC法:Chirobiotic Vカラム、4.6 x 250 mm、溶媒A:n-ヘキサン、B:エタノール、A/B 95/5〜50/50の勾配で5分以内、及び50/50で4分以内、0.5 ml/分の流速、18℃、210 nm。保持時間:出発原料5.8分、産物6.6分)。粗産物のシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル9:1)は231.5 mg (組み合せたフラクション)の表題の化合物を、オフホワイト色の固体として、93%の純度で得た(45%の収率)。M.p.:85℃。MS: 622.4 (M+)。1H-NMR (300 MHz, CDCl3):-0.15 (s, 3H); -0.10 (s, 3H); -0.03 (s, 3H); 0.00 (s, 3H); 0.75 (s, 9H); 0.83 (s, 9H); 0.93 (d, 3H, J=7.0 Hz); 1.01 (s, 3H); 1.02 (d, 3H, J=7 Hz); 1.08 (s, 3H); 1.58 (s, 3H); 2.12 (s, 3H); 2.15-2.85 (m, 2H); 2.87-2.53 (m, 2H); 2.62 (dd, 1H, J= 15.5, 2.6 Hz); 2.84 (dd, 2H, J=15.5, 8.0 Hz); 2.97 (dd, 1H, J= 15.1, 4.8 Hz); 3.84 (d, 1H, J=8.6 Hz); 4.11 (dd, 1H, J=8.6, 2.4 Hz); 4.89 (dd, 1H, J=8.5, 2.5 Hz); 5.06 (t, 1H, J=7.5 Hz); 5.20-5.30 (m, 1H); 5.52 (dd, 1H, J=16.1, 8.5 Hz)。Anal, C34H62O6Si2の理論値: C, 65.55; H, 10.03; Si, 9.02。実測値:C, 64.76; H, 9.84; Si, 8.96。
【実施例5】
【0041】
(l0E,13Z)-(4S,7R,8S,9S,16S)-16-アセチル-4,8-ビス-(tert-ブチル-ジメチル-シラニルオキシ)-5,5,7,9,13-ペンタメチル-オキサシクロヘキサデカ-10,13-ジエン-2,6--ジオン
【0042】
触媒として、[RuCl2(PCy3)(ImH2MeS)(ベンジリデン)]の代わりに[RuCl2(PCy3)(ImMes)(3-フェニル-インデニリデン)](109.1 mg, 0.115 mmol)が存在すること以外は、実施例4と類似の方法で、70%の純度を有する477.8 mgの粗産物(実施例4で記載のHPLC法)を単離した。当該粗産物のシリカゲルクロマトグラフィー精製(ヘキサン/酢酸エチル9:1)は、287.2 mg(組み合せたフラクション)の表題の化合物を95%の純度で得た(57%の収率)。
【実施例6】
【0043】
(10E,13Z)-(4S,7R,8S,9S,16S)-16-アセチル-4,8-ビス-(tert-ブチル-ジメチル-シラニルオキシ)-5,5,7,9,13-ペンタメチル-オキサシクロヘキサデカ-10,13-ジエン-2,6-ジオン
【0044】
200 mlのトルエン中の50.0 mg (76.8μmol)の(3S,6R,7S,8S)-3,7-ビス-(tert-ブチル-ジメチル-シラニルオキシ)-4,4,6,8-テトラメチル-5-オキソ-デカ-9-エン酸(Z)-(S)-l-アセチル-4-メチル-ヘプタ-3,6-ジエニルエステルの溶液を還流温度に加熱した。10.8 mg (11.5 μmol)の[RuCl2(PCy3)(ImH2MeS)(3-フェニル-インデニリデン)]を付加し、そして得られた黄色がかった溶液を還流で撹拌した。30分後、50 mlのサンプルを蒸発し乾燥させ、そして残留トルエンを除去し、25 mlのエタノール中に再度溶かし、そして蒸発し乾燥させて、表題の化合物を80%の純度で得た(実施例4に記載のHPLC法)。
【実施例7】
【0045】
(10E,13Z)-(4S,7R,8S,9S,16S)-16-アセチル-4,8-ビス-(tert-ブチル-ジメチル-シラニルオキシ)-5,5,7,9,13-ペンタメチル-オキサシクロヘキサデカ-10,13-ジエン-2,6-ジオン
【0046】
触媒として[RuCl2(PCy3)(ImH2Mes)(3-フェニル-インデニリデン)]の代わりに3.3 mg (3.8 μmol)の[RuCl2(PCy3)(ImH2Mes)(ベンジリデン)]が存在すること以外は実施例6と類似の方法で、表題の化合物を67%の純度で単離した(実施例4に記載のHPLC法)。
【実施例8】
【0047】
[l0E,13Z)-(4S,7R,8S,9S,16S)-16-アセチル-4,8-ビス-tert-ブチル-ジメチル-シラニルオキシ)-5,5,7,9,13-ペンタメチル-オキサシクロヘキサデカ-10,13-ジエン-2,6-ジオン
【0048】
触媒として[RuCl2(PCy3)(ImH2Mes)(3-フェニル-インデニリデン)]の代わりに、3.6 mg (3.8 μmol)の[RuCl2(PCy3)(ImMes)(3-フェニル-インデニリデン)]が存在する以外は、実施例6と類似の方法で、表題の化合物を83%の純度で単離した(実施例4に記載のHPLC法)。
【実施例9】
【0049】
(10E,13Z)-(4S,7R,8S,9S,16S)-16-アセチル-4,8-ビス-(tert-ブチル-ジメチル-シラニルオキシ)-5,5,7,9,13-ペンタメチル-オキサシクロヘキサデカ-10,13-ジエン-2,6-ジオン
【0050】
触媒として[RuCl2(PCy3)(ImH2Mes)(3-フェニル-インデニリデン)]の代わりに、10.6 mg (11.5 μmol)の[RuCl2(PCy3)(ImH2Pr)(ベンジリデン)](J.C. MoI, Adv. Synth. Catal. 2002, 344, 671-677によって調製した)が存在すること以外は、実施例6と類似の方法で、表題の化合物を49%の純度で単離した(実施例4に記載のHPLC法)。
【実施例10】
【0051】
(10E,13Z)-(4S,7R,8S,9S,16S)-16-アセチル-4,8-ビス-(tert-ブチル-ジメチル-シラニルオキシ)-5,5,7,9,13-ペンタメチル-オキサシクロヘキサデカ-10,13-ジエン-2,6-ジオン
【0052】
触媒として[RuCl2(PCy3)(ImH2MeS)(3-フェニル-インデニリデン)]の代わりに、10.7 mg (11.5 μmol)の[RuCl2(PPh3)(ImMeS)(3-フェニル-インデニリデン)](S. P. Nolan, Organometallics 1999, 18, 5416-5419によって調製した)が存在すること以外は、実施例6と類似の方法で、表題の化合物を59%の純度で単離した(実施例4に記載のHPLC法)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】

【化1】

(式中R1及びR2は互いに独立して水素または保護基であり、且つR3はメチルまたはトリフルオロメチルである)
のエポチロン誘導体の調製方法であって、

【化2】

(式中R1、R2及びR3は上記定義した通りである)のオレフィン前駆体を式
【化3】

(式中Aは単結合または二重結合であり、R4はフェニルまたは1〜5個の互いに独立して選定された低級アルキル基によって置換されたフェニルであり、且つR5はシクロヘキシルまたはフェニルの意味を有する)のルテニウム触媒の存在中、および有機溶媒の存在中で環化することを含んで成る方法。
【請求項2】
R3がメチルであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ルテニウム触媒が式III の化合物であり、式中R4は2,4,6-トリメチルフェニルまたは2,6-ジイソプロピルフェニルであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ルテニウム触媒が式III の化合物から選定され、式中A、R4及びR5は以下の意味:
a) Aは二重結合であり、R4は2,4,6-トリメチルフェニルであり、且つR5はシクロヘキシルである、
b) Aは二重結合であり、R4は2,4,6-トリメチルフェニルであり、且つR5はフェニルである、
c) Aは単結合であり、R4は2,4,6-トリメチルフェニルであり、且つR5はシクロヘキシルである、または
d) Aは二重結合であり、R4は2,6-ジイソプロピルフェニルであり、且つR5はシクロヘキシルである、
を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ルテニウム触媒が式III の化合物であり、式中Aは二重結合であり、R4は2,4,6-トリメチルフェニルであり、且つR5はシクロヘキシルであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ルテニウム触媒が式III の化合物であり、式中Aは単結合であり、R4は2,4,6-トリメチルフェニルであり、且つR5はシクロヘキシルであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記有機溶媒がトルエン、塩化メチレン、ベンゼン及びメシチレンから成る群から選定されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応温度が20℃〜165℃の範囲で選定されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記触媒の量が、基質に対して0.1〜15 mol%の範囲にあることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
式Iの化合物を式
【化4】

(式中、R3はメチルまたはトリフルオロメチルである)
のデソキシエポチロン誘導体に変換する方法であって、式Iの化合物を式
【化5】

のWittig試薬と、塩基性条件下で反応させ、その後、保護基を脱保護することを更に含んで成ることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記デソキシエポチロン誘導体が式
【化6】

を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】

【化7】

(式中R3はメチルまたはトリフルオロメチルである)
のデソキシエポチロン誘導体の調製における、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項13】
前記デソキシエポチロン誘導体が式
【化8】

を有する、請求項10に記載の使用。
【請求項14】

【化9】

(式中Aは単結合または二重結合、R4はフェニルまたは1〜5個の互いに独立して選定された低級アルキル基で置換されたフェニル、且つR5はシクロヘキシルまたはフェニルの意味を有する)のルテニウム触媒の、式
【化10】

(式中R1及びR2は互いに独立して水素またはシリル保護基であり、且つR3はメチルまたはトリフルオロメチルである)のエポチロン誘導体を調製するための使用。
【請求項15】
前記ルテニウム触媒が式III の化合物であり、式中R4は2,4,6-トリメチルフェニルまたは2,6-ジイソプロピルフェニルであることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記ルテニウム触媒が式III の化合物であり、式中Aは二重結合であり、R4は2,4,6-トリメチルフェニルであり、且つR5はシクロヘキシルであることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
前記ルテニウム触媒が式III の化合物であり、式中Aは単結合であり、R4は2,4,6-トリメチルフェニルであり、且つR5はシクロヘキシルであることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【請求項18】
本特許請求の範囲で定義した新規の方法または使用。

【公表番号】特表2008−538368(P2008−538368A)
【公表日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507052(P2008−507052)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【国際出願番号】PCT/EP2006/061527
【国際公開番号】WO2006/111491
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】