説明

9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの製造法

【課題】
本発明は、高純度で色相が良好な9,9-(ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニルフルオレノンを工業的に安定して高収率で製造することができ、且つ経済的に有利な製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】
(a)フルオレノンとフェノキシエタノールとを、減圧反応させて目的物を含む反応混合液を得る反応工程(b)得られた反応混合液にアルカリを加えた後、反応混合液を加温濃縮して濃縮液を得、未反応のフェノキシエタノールを分離回収する濃縮工程(c)分離回収されたフェノキシエタノールを再度原料として反応工程に循環するフェノキシエタノール循環工程(d)濃縮液に抽剤を加えて9,9-(ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニルフルオレノンを有機相に分配した後、水相を分離する抽出工程(e)上記有機相を冷却して、目的物の結晶を析出させた後、結晶を濾過回収する晶析濾過工程とを含む9,9-(ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニルフルオレノンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、変性アクリル樹脂等の原料として有用な9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどのフルオレン誘導体は、耐熱性、透明性に優れ、高屈折率を備えたポリマー(例えばエポキシ樹脂、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等)を製造するための原料として有望であり、光学レンズ、フィルム、プラスチック光ファイバー、光ディスク基盤、耐熱性樹脂やエンジニヤリングプラスチックなどの素材原料として期待されている。
【0003】
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの製造方法としては、硫酸とチオールを触媒としてフルオレノンとフェノキシエタノールとを反応させ、得られた反応液を低級脂肪族アルコールに溶解させた後、水を添加して9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを析出させる方法(特許文献1)が開示されている。また、このようにして析出した9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンをろ過により回収し、ろ液から蒸留により低級脂肪族アルコールを除去し、その釜残液に水を添加してフェノキシエタノール層を分離させるフェノキシエタノールの回収方法(特許文献2)が開示されている。しかし、これらの方法では得られた結晶中に触媒由来の硫黄分が混入している為、製品の着色や純度低下などの問題がある。また、ろ液からフェノキシエタノールを回収する為に煩雑な操作を行う必要がある。
【0004】
この改善法として、硫酸とチオールを触媒としてフルオレノンとフェノキシエタノールとを反応させて得られた反応液に、水と相溶し難い溶媒及び水を加えて有機相から9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを回収する方法(特許文献3、特許文献4)、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを含む有機相をイオン交換樹脂処理する方法(特許文献5)が開示されているが、いずれの方法においても硫黄分が残存し、製品の色相や純度低下などの問題を完全に解決するまでには至っていない。
【0005】
また、硫酸とチオールを触媒としてフルオレノンとフェノキシエタノールとを反応させて得られた酸性反応液にアルカリ水溶液を添加した後、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンと硫酸塩とを共沈させる方法(特許文献6)が開示されている。しかし、この方法では、一旦濾過回収された共沈物から9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンと硫酸塩を分ける為に、抽剤で再溶解し目的物を有機相に分配した後、晶析、濾過によりを9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを回収しており、工業的に煩雑な濾過回収操作を複数回行う必要がある。
【0006】
硫酸を使用しない方法として、金属交換型モンモリロナイトを使用する方法(特許文献7)が開示されている。しかし、この方法では、使用されているモンモリロナイトが非常に高価であると共に、大量入手が困難である。また反応収率を上げるためには、助触媒としてβ‐メルカプトプロピオン酸等のチオール類を使用するため、製品中に硫黄分が混入する。よって、高純度の製品を得るには硫黄分を除くために精製を繰り返す必要がある。
【0007】
また、ヘテロポリ酸の存在下、フルオレノンとフェノキシエタノールとを反応をさせて9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを得る方法において、反応液に水と有機溶剤からなる抽剤を用いて目的物を有機相に分配させて回収する方法(特許文献8)が開示されている。しかし、この方法では、反応液中に、水への溶解度が高い未反応のフェノール類を多く含むため、分液性が悪化し、色相や純度低下の原因となる場合がある。
【0008】
更に、陽イオン交換樹脂の存在下、フルオレノンとフェノキシエタノールとを、反応系の液相中の水分濃度を0.1重量%以下に脱水しつつ反応させる方法(特許文献9)が開示されており、汎用の方法であっても高純度のフルオレノン誘導体を単離できることが記載されている。しかし、この方法では、反応液中の水分濃度を管理する必要があり、反応規模が大きくなる程、管理が難しく煩雑となる、また、それにより収率や純度が低下する場合がある。また、本発明者らが確認したところによれば、反応を有効に進める為にはスルホン酸基を有する強酸性イオン交換樹脂を用いる必要があり、単に汎用の精製操作を組み合わせただけでは、イオン交換樹脂から溶出する不純物の影響で光学用途材料として必要な色相や純度が得られない場合がある。
【0009】
前述したように、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンは、近年、例えば光学ポリカーボネート樹脂の原料として用いられており、これらの用途においては、従来にもまして、反応副生成物や硫黄成分を含まず、着色のない高純度の製品を高収率で、安価に製造することが求められている。
【0010】
一般に、フルオレノンとフェノキシエタノールとの反応において、高純度の製品を得るためには、反応工程において、副生成物を低減することが求められる。それ以外に得られた反応混合物の中和工程や、得られた生成物の精製工程を実行する事により、ある程度、副生成物を低減することができる。また、着色のない製品を得るためには、得られた反応混合物の中和工程や、得られた生成物の精製工程における種々の処理条件が重要な意味をもつ。
【0011】
通常、反応温度が低いほど副生成物の生成は抑制されるが、反応速度の低下は免れない。又、得られた反応混合物の中和工程や、得られた生成物の精製工程を実行することにより、製品の純度の向上、副生成物の低減や着色の低減は達成されるが、製品の収率は低下する場合がある。従って、着色のない高純度の製品を高収率で得るためには、製造工程すべてにわたって、最適の操作条件を有する工程を、最適に組み合わせることが重要であり、そのような最適の製造方法を見出すことが強く求められている。
【0012】
【特許文献1】特開平7−165657
【0013】
【特許文献2】特開平10−17517
【0014】
【特許文献3】特開平10−45655
【0015】
【特許文献4】特開平10−45656
【0016】
【特許文献5】特開平10−45654
【0017】
【特許文献6】特開2005−104898
【0018】
【特許文献7】特開2000−191577
【0019】
【特許文献8】特開2007−19738
【0020】
【特許文献9】特開2009−46416
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、フルオレノンとフェノキシエタノールとの縮合反応による9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの製造において、樹脂原料として好適に用いることができる高純度で色相が良好な9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを、工業的に安定して高収率で製造することができ、且つ経済的有利に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、反応工程、濃縮工程、フェノキシエタノール循環工程、抽出工程および晶析濾過工程をそれぞれ最適なものにすると共に、これらを最適に組み合わせることによって、残留フェノキシエタノールや副生成物のほか、微量成分であるナトリウム分や、硫黄分の含量等が極めて少なく、樹脂原料、特に光学製品用樹脂原料として優れた9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを安定して容易に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
即ち、本発明は、
(a)フルオレノンとフェノキシエタノールとを、酸触媒の存在下に、減圧反応させて9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを含む反応混合液を得る反応工程と
(b)得られた反応混合液にアルカリを加えた後、このようにアルカリを加えた反応混合液を加温濃縮して濃縮液を得ると共に、未反応のフェノキシエタノールを分離回収する濃縮工程と、
(c)分離回収されたフェノキシエタノールを再度原料として反応工程に循環するフェノキシエタノール循環工程と、
(d)上記濃縮液に、水及び水と分液可能な有機溶媒とからなる抽剤を加えて9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを有機相に分配した後、水相を分離する抽出工程と、
(e)上記有機相を冷却して、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶を析出させた後、この結晶を濾過回収する晶析濾過工程と
を含むことを特徴とする9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、フルオレノンとフェノキシエタノールとの縮合反応による9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの製造において、高純度で色相が良好な9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを工業的な実施に好適で、且つ経済的有利に製造する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明をその実施の形態とともに記載する。
【0026】
(反応工程)
本発明による方法によれば、反応工程において、フルオレノンとフェノキシエタノールとを、酸触媒の存在下に、減圧反応させて9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを含む反応混合液を得る。
【0027】
得られた反応混合液は、目的物である9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、未反応のフェノキシエタノール、触媒の他に、副生成物として、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの異性体や9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの二量体、三量体、ビスフェノール類、トリスフェノール類等を含む。
【0028】
本発明に用いられるフルオレノンは特に限定されるものではないが、高純度で着色が少なく、更には溶媒溶解時の透過率が高いフルオレノンを用いることにより反応および精製が容易でフルオレン誘導体を効率よく製造することができ、好ましい。
【0029】
本発明におけるフェノキシエタノールの使用量は特に限定されるものではないが、フルオレノンに対してフェノキシエタノールを過剰量用いることにより、収率および反応効率を向上させることができる。具体的には、フルオレノン1モルに対して、2〜50モル、好ましくは3〜20モル、さらに好ましくは5〜15モルである。フェノキシエタノールの使用量が少ないと副生成物の増加により純度、収率が低下傾向にあり、フェノキシエタノールが多すぎると経済的でない。
【0030】
本発明において、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲でトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素溶媒等の溶媒共存下で減圧反応することもできる。通常溶媒非共存下で反応する。
【0031】
本発明において用いられる酸触媒は特に限定されるものではないが、例えば、硫酸、チオール類、ヘテロポリ酸、イオン交換樹脂、その他の無機固体触媒(金属酸化物、金属硫化物、リン酸、粘土鉱物、ゼオライト、カオリンなど)などが挙げられる。これらは1種または2種以上の混合物として用いられる。これらのうち、反応終了後ろ過等の簡単な操作で反応混合液から触媒を分離可能なこと、また、触媒を充填した流通式反応装置による連続反応が可能なことから、ヘテロポリ酸、イオン交換樹脂が好ましい。更には、触媒からの溶出物が少なく、色相が良好で高純度な目的物を得ることができることから、ヘテロポリ酸が特に好ましい。
【0032】
本発明において特に好ましく用いられるヘテロポリ酸とは、一般的には異なる2種以上の酸化物複合体からなる複合酸化物酸、およびこれらのプロトンの一部もしくはすべてを他のカチオンで置き換えたものである。ヘテロポリ酸は、例えば、リン、ヒ素、スズ、ケイ素、チタン、ジルコニウムなどの元素の酸素酸イオン(例えば、リン酸、ケイ酸)とモリブデン、タングステン、バナジウム、ニオブ、タンタルなどの元素の酸素酸イオン(例えば、バナジン酸、モリブデン酸、タングステン酸)とで構成されており、その組み合わせにより種々のヘテロポリ酸が可能である。具体的には、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、リンバナドモリブデン酸などが例示される。ヘテロポリ酸は無水物であってもよく、結晶水含有物であってもよい。また、ヘテロポリ酸は活性炭、アルミナ、シリカ−アルミナ、ケイソウ土などの担体に担持した形態で用いてもよい。これらのヘテロポリ酸は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0033】
ヘテロポリ酸の使用量は特に限定されるものではないが、充分な反応速度を得るには、フルオレノンに対して、0.0001重量倍以上、好ましくは0.001〜30重量倍、更に好ましくは0.01〜5重量倍である。
【0034】
本発明における反応温度は使用するフェノキシエタノール量、酸触媒の種類や減圧度により異なるが、30〜150℃であり、好ましくは90〜150℃、更に好ましくは100〜140℃である。反応温度が150℃より高いと副生成物の増加により純度、収率が低下する。また、製品の着色が生じ好ましくない。反応温度が30℃より低いと反応が進行しないかまたは反応が完結するのに長時間を要するため好ましくない。
【0035】
本発明における減圧度は、通常、39×10Pa以下であり、好ましくは14×10Pa以下、更に好ましくは6.7×10〜0.3×10Paである。減圧度が39×10Paより高い場合、反応温度を150℃より高くしなければ反応が進行しないか、または、反応が完結するのに長時間を要するため好ましくない。共沸脱水溶媒を用いた還流脱水反応の場合、常圧で150℃以下で反応する場合もあるが、この場合、反応が完結するのに長時間を要するため好ましくない、また、反応スケールが大きくなるほど反応時間が長くなる傾向があり、それに伴い副生成物も多くなるため好ましくない。本発明の方法においては反応時の容積効率が向上すると共に、反応時間が短縮される。また、設備や反応スケールの影響が小さく副生成物の生成を低く抑えることができるため、精製が容易であり、品質の安定した製品を得ることができる。
【0036】
その他の反応条件は特に限定されるものではないが、通常、フルオレノンとフェノキシエタノールと酸触媒とを反応装置に仕込み、空気中又窒素、ヘリウムなど不活性ガス中、減圧下で加熱攪拌することにより行うことができる。反応中、フェノキシエタノールが反応系外に留出する場合は、留出したフェノキシエタノールをそのまま系外に除去しても良いし、留出水と分離して反応系内に戻しながら反応を行うこともできる。反応はバッチ方式でも連続方式でもよい。
【0037】
(濃縮工程)
本発明によれば、濃縮工程において、反応終了後の反応混合液中にアルカリを添加した後、例えば、添加したアルカリおよびその反応物を除去することなく、加熱濃縮により未反応のフェノキシエタノールを留去して濃縮液を得る。
【0038】
得られた濃縮液中のフェノキシエタノールの残存量は特に限定されるものではないが、通常、濃縮液の10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。濃縮液中に残存するフェノキシエタノール量が多い場合、抽出工程において分液性が悪くなり好ましくない。また発生する排水中にフェノキシエタノールが混入する為、排水のTOC(全有機炭素)、COD(化学的炭素要求量)、BOD(生物学的酸素要求量)およびフェノール含量等が高くなることから、環境負荷が高くなり好ましくない。また晶析工程においてフェノキシエタノールが残存すると製品の色相悪化の原因となり好ましくない。
【0039】
濃縮条件は特に限定されるものではないが、通常、減圧下、170℃以下、好ましくは30〜160℃、更に好ましくは50〜160℃の温度で実施される。濃縮温度が高いとフルオレノン誘導体が分解され、収率低下の原因となる場合がある。
【0040】
本発明に用いられるアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩、アンモニアなどが挙げられ、好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、特に水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリは固体のまま添加しても良いが、通常水溶液として添加する。アルカリの使用量は触媒の効果を失活させる量以上であれば特に限定されるものではないが、通常、触媒1当量に対し0.9〜2.0当量好ましくは1.0〜1.5当量である。アルカリ量が多いと製品中にアルカリが残存し着色の原因となる場合がある。アルカリ量が少ないと濃縮中に副生成物が生成し純度および収率が低下する場合がある。
【0041】
アルカリを添加することなく反応混合液中から未反応のフェノキシエタノールを濃縮した場合、残存する触媒や触媒からの溶出物の影響により副生成物の生成が促進され、純度低下、色相悪化および収率低下の原因となるが、本発明においては、前述のアルカリを添加することにより、製品の純度や収率を低下させることなく、加熱濃縮により未反応のフェノキシエタノールを留去し回収することができる。また、反応後に反応混合液から触媒を分離した場合や触媒充填装置による連続反応を行なった場合においても同様に、アルカリを添加した方が色相、純度および収率が良好な製品を得ることができる。
【0042】
(フェノキシエタノール循環工程)
本発明によれば、濃縮工程で回収されたフェノキシエタノールを特別な処置を施すことなく、その少なくとも一部、好ましくは50〜100%、特に好ましくは全部を前記反応工程における原料として循環して戻す。本発明で回収されるフェノキシエタノールは、通常99%以上の純度があり、副生成物や分解物等の不純物の蓄積がないか、蓄積が極めて少ないため、繰り返し循環させて用いることができる。
【0043】
本発明では、収率および反応効率の向上の目的で用いられる過剰のフェノキシエタノールを、無駄にすることなく、簡単な操作で再利用できることから、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを経済的有利に製造することができる。また廃棄物が減り、環境負荷を低減できる。
【0044】
(抽出工程)
本発明によれば、次いで、濃縮工程で得られた濃縮液に水および水と分液可能な有機溶剤からなる抽剤を加えて、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを有機相に分配させた後、水相を分離する。
【0045】
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを抽出する工程は通常の方法で行われる。すなわち、前記濃縮液に、水および水と分液可能な有機溶媒を添加し、必要に応じて攪拌下に、好ましくは高められた温度、具体的には有機相が均一になる温度に加熱し、攪拌することにより9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを有機相に分配する。この際、水と、この水と分液可能な有機溶媒の添加は、同時でも良いし、何れか一方を後から添加しても良い。
【0046】
水と分液可能な有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、ジ-iso-プロピルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、ジフェニルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル溶媒などが挙げられる。好ましくは芳香族炭化水素溶媒または脂肪族炭化水素溶媒であり、更に好ましくは芳香族炭化水素溶媒、特にトルエンまたはキシレンである。その使用量は、特に限定されるものではないが、経済性の点から、通常、フルオレノンに対して、0.5重量倍以上、好ましくは1〜100重量倍、更に好ましくは1〜20重量倍である。本発明では、水溶性の高いフェノキシエタノールを、濃縮工程において予め除去しているため、フェノキシエタノール存在下で抽出するよりも有機溶媒の使用量を削減できる。また、分液性も向上し、より純度の高い製品を得ることができる。更には、フェノキシエタノール存在下で抽出する場合よりも排水中のTOC、COD、BODおよびフェノール含量が低下し、環境負荷を低減できる。
【0047】
本発明に用いられる水は、特に限定されるものではないが、工業用水、水道水、イオン交換水、蒸留水などを使用することができる。製品中の微量不純物を低減するためイオン交換水、蒸留水の使用が好ましい。
【0048】
抽剤を加えて9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを有機相に分配させた混合溶液は、静置した後、分液して水相を分離する。得られた有機相は、更に水を添加した後同様の操作で複数回洗浄を行うこともできる。
【0049】
(晶析濾過工程)
本発明によれば、次いで、抽出工程で得られた有機相を冷却して、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶を析出させた後、この結晶を濾過回収する。
【0050】
この際、有機相に含まれる水分を予め脱水除去した後、晶析を行うこともできる。脱水方法は特に限定されるものではないが、例えば、脱水剤の添加による脱水、減圧脱水、溶媒との共沸脱水などが挙げられる。また、有機相が均一でない場合や結晶が析出している場合には、予め有機相を加熱し溶解させた後に、晶析を行うこともできる。加熱溶解時の温度は特に限定されるものではないが、好ましくは、55℃以上、使用する溶媒の沸点以下、より好ましくは60〜150℃、更に好ましくは70〜110℃である。溶解温度が低く、十分に溶解されないまま晶析を行った場合、製品純度の低下や色相悪化する場合がある。また樹脂原料として優れた単一の結晶形を得る事ができない場合がある。
【0051】
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶の析出温度は特に限定されるものではないが、樹脂原料として優れた単一の結晶形を得るためには、50℃以上、溶媒の沸点未満(好ましくは60〜100℃、より好ましくは70〜90℃)の温度範囲で9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶の析出を開始させる。50℃以上で結晶の析出を開始させた後は、混合物をさらに冷却してもよい。冷却終点の温度は特に限定されるものではないが、通常−20〜50℃、好ましくは0〜40℃、更に好ましくは10〜30℃である。この温度が低いと純度が低下する傾向にあり、この温度が高いと溶媒へのロス量が多くなり経済性、生産性が悪くなる。冷却速度は特に限定されるものではないが、通常、毎分0.01〜2℃、好ましくは、毎分0.1〜0.5℃である。冷却途中で、好ましくは混合物中に9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶を種晶として添加する。結晶種を添加する方法は特に限定するものではないが、通常、結晶種を準安定域幅、例えば、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの飽和溶解点の温度より1〜10℃、好ましくは1〜3℃低い温度で加える。添加される結晶種の量は、用いたフルオレノンに対して0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%、更に好ましくは0.1〜2重量%である。
【0052】
析出した結晶は濾過により回収される。得られた結晶は用いた溶媒等を用いて洗浄されてもよいし、乾燥されてもよい。かくして得られる9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶は高純度で色相が良好であり樹脂原料として優れている。なお、晶析操作は必要により複数回行っても良いが、本発明では1回の晶析操作により高純度で色相が良好な9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを得ることができる。
【0053】
(実施例)
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例中、フルオレノン残存量および純度は逆相カラム(5μm、4.6mmφ×150mm)を使用した液体クロマトグラフィー(島津製作所(株)製LC−2010C)を用い、254nmの波長で測定した面積百分率値である。
【実施例1】
【0054】
攪拌機、窒素吹込管、温度計および還流冷却器を付けたガラス製反応器に、フルオレノン50.0g(0.28mol)、リンタングステン酸1.2g、フェノキシエタノール83.0g(0.60mol)および濃縮工程で回収されたフェノキシエタノール300g(2.17mol)を加え、2.0×10Paの減圧下、温度130℃まで徐々に昇温した。その後2.0×10〜3.0×10Paの減圧下、温度130〜135℃で生成する水を反応系外に除きながら4時間攪拌して反応をおこなった。反応液を液体クロマトグラフィーで確認した結果、フルオレノンの残存量は0.3%以下であった(反応工程)。
得られた反応混合液を80℃まで冷却し、29%水酸化ナトリウム水溶液0.9gを加えて1時間攪拌した後、温度150℃まで徐々に昇温しながら減圧濃縮を行ないフェノキシエタノール300gを留去した。回収されたフェノキシエタノールをガスクロマトグラフィーで分析したところ99.8%であった(濃縮工程)。
得られた濃縮液を冷却し、トルエン300g、イオン交換水70gを加え80℃で30分攪拌して目的物を有機相に分配した。この溶液を30分静置した後、水相を分液除去し有機相を回収した。更に、得られた有機相をイオン交換水60gで2回洗浄した(抽出工程)。
得られた有機相を110℃まで昇温し1時間攪拌した、この間系外に留出した水は油水分離器により分離除去した。次に、得られた有機相が均一溶液であることを確認した後に65℃まで冷却した。この溶液に9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶を種晶として0.2g添加し、65℃で2時間保温して結晶の析出を確認した。次いで、25℃まで冷却し、析出した結晶を遠心濾過した(晶析濾過工程)。
この結晶を減圧乾燥し、溶媒を除去して、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの白色結晶107.8gを得た。原料フルオレノンに対する製品収率は88.6%であり、純度は99.0%であった。また、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを230℃で2時間加熱溶解した後の溶融色相はAPHA40であり、ジオキサン溶媒中400nmでの透過率は99.5%であった。この結晶中の微量不純物は、ナトリウム=5ppb、鉄=7ppb(ICP−MS法)および硫黄=0.1ppm以下(イオンクロマトグラフ法)であった。
また、発生した排水は、COD=3000mg/L、BOD=220mg/L、フェノール分=0.1mg/L以下であり、製造に使用した全トルエン量は300g(製品1重量部に対して2.8重量部)であった。
【0055】
(比較例1)
攪拌機、窒素吹込管、温度計および還流冷却器を付けたガラス製反応器に、フルオレノン50.0g、フェノキシエタノール383g、トルエン200gおよびリンタングステン酸1.2gを仕込み、トルエン還流下生成する水を反応系外に除きながら12間攪拌して反応を行った。得られた反応混合液にトルエン350g、イオン交換水100gおよび29%苛性ソーダ水1.8gを加え80℃で30分攪拌した。この溶液を30分静置した後、水相を分液除去し有機相を回収した。更に、得られた有機相をイオン交換水60gで2回洗浄した。この有機相を減圧濃縮を行いトルエンおよびフェノキシエタノールを留去した。回収されたフェノキシエタノールをガスクロマトグラフィーで分析したところ98.3%であった。得られた濃縮液にトルエン300gを加え、20℃まで冷却し、析出した結晶をろ過、乾燥することにより9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン92.0gを得た。原料フルオレノンに対する製品収率75.6%であり、純度は97.5%であった。また、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを230℃で2時間加熱溶解した後の色相はAPHA140であり、ジオキサン溶媒中400nmでの透過率は98.3%であった。
また、発生した排水は、COD=30000mg/L、BOD=4200mg/L、フェノール分=160mg/Lであり、製造に使用した全トルエン量は850g(製品1重量部に対して9.2重量部)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)フルオレノンとフェノキシエタノールとを、酸触媒の存在下に、減圧反応させて9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを含む反応混合液を得る反応工程と
(b)得られた反応混合液にアルカリを加えた後、反応混合液を加温濃縮して濃縮液を得ると共に、未反応のフェノキシエタノールを分離回収する濃縮工程と、
(c)分離回収されたフェノキシエタノールを再度原料として反応工程に循環するフェノキシエタノール循環工程と、
(d)上記濃縮液に、水及び水と分液可能な有機溶媒とからなる抽剤を加えて9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを有機相に分配した後、水相を分離する抽出工程と、
(e)上記有機相を冷却して、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの結晶を析出させた後、この結晶を濾過回収する晶析濾過工程と
を含むことを特徴とする9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンの製造方法。
【請求項2】
反応工程において、14×10Pa以下の減圧下、90〜150℃の温度範囲で反応させることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
酸触媒がヘテロポリ酸である請求項1〜2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−74048(P2011−74048A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230198(P2009−230198)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】