Aβの効果を低減する方法およびそのための組成物
本発明は、ニューロン細胞死およびタウリン酸化などのAβの効果の抑制に関する方法および材料を提供する。例えば、本発明は、Aβ効果(例えば、哺乳動物におけるニューロン細胞死)を抑制するためのポリペプチド類、ポリペプチド類を含有する組成物、トランスジェニック動物、および方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2004年8月11日に出願された米国特許仮出願第60/600,987号、2004年10月22日に出願された同第60/621,596号および2005年1月4日に出願された同第60/641,683号に対する優先権を主張する。すべての出願は、引用により本明細書に組み込まれる。
【連邦政府の支援による研究または開発に関する記載】
【0002】
本発明は、NIHの助成番号ES010042及びES008089により与えられた連邦政府の支援によってなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【発明の背景】
【0003】
一般に、本発明は、Aβの効果(例えば、ニューロン細胞死)の低減に関与する方法および材料に関する。
【0004】
アルツハイマー病(AD)は、β−アミロイド(Aβ)蓄積およびプラーク形成、微小管結合タンパク質タウの異常なリン酸化および凝集、ならびに大量のニューロン減少を特徴とする。ADの遺伝型ならびに充分な動物モデル及びインビトロデータにおいて同定された変異は、ADの発症を誘発する主要な因子として、Aβおよびこれが由来するポリペプチドであるアミロイド前駆体タンパク質(APP)を強く示す(Hardy及びSelkoe,Science,297:353−356(2002))。β−セクレターゼ及びγ−セクレターゼによるAPPの切断によりAβが生成する。α−セクレターゼによるAPPの切断は、Aβ配列内で起こり、したがってAβ形成が妨げられ、一方でNH2末端が生成し、sAPPαと称する分泌ポリペプチドが生成する(Eschら、Science 248(4959):1122−1124,1990)。
【0005】
内生タウのリン酸化およびインビボニューロン減少などの主要なAD神経病理であるAβ誘導は、まだ納得のいく立証がされていない。実際、APPの変異型形態を過剰発現するマウスでは高レベルのAβが蓄積されるが、これらは、ADにおいて観察されるタウリン酸化または深刻なニューロン減少を示さない(Irizarryら、J.Neuropathol.Exp.Neurol.,56:965−973(1997);Irizarryら、J.Neurosci.,17:7053−7059(1997));及びTakeuchiら、Am.J.Pathol,157:331−339(2000))。
【発明の簡単な概要】
【0006】
一実施態様では、本発明は、Aβ効果の低減または抑制に有用な単離されたペプチドであって、該ペプチドは、式A−B−C−Dを含み、式中、Aは、アミノ酸残基D、E、N及びQからなる群から選択され;式中、Bは、アミノ酸残基A、T、S、G及びPからなる群から選択され;式中、Cは、アミノ酸残基E、D、N及びQからなる群から選択され;式中、Dは、アミノ酸残基F及びYからなる群から選択され;該ペプチドは、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制し、及び該ペプチドは、4〜16の間の残基長である。好ましい型では、該ペプチドはポリペプチド安定化単位をさらに含む。
【0007】
別の実施態様では、該ペプチドは、さらにアミノ酸残基をカルボキシ末端またはアミノ末端のいずれかに、前記ペプチドの式が、X−A−B−C−D−Zとなるように含み、式中、X及びZは、DAEFと連続的なsAPPαタンパク質配列由来の残基である。好ましくは、該ペプチドは、DAEF(配列番号:2)、EVKMDAEFR(配列番号:3)、VKMDAEFR(配列番号:4)、EADF(配列番号:5)、SEVKMDAEFR(配列番号:1)、R9DAEF(配列番号:6)、及びacDAEF(配列番号:2)からなる群から選択される。
【0008】
別の実施態様では、本発明は、Aβの効果の低減および抑制に有用な単離されたペプチドであって、該ペプチドは、DAEF(残基597〜600)を含むsAPPα配列の単離された4〜16残基セグメントを含む。
【0009】
別の実施態様では、本発明は、哺乳動物細胞に、Aβの効果が低減または抑制されるような有効量の本発明のペプチドを供給する工程を含む、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制する方法である。
【0010】
別の実施態様では、本発明は、哺乳動物細胞に、ニューロン細胞死が抑制されるような有効量の本発明のペプチドを供給する工程を含む、ニューロン細胞死を抑制する方法である。
【0011】
別の実施態様では、本発明は、Aβの効果を低減させる能力を有する化合物を同定する方法である。脳組織を、Aβペプチドの存在下で試験化合物と接触させる工程およびAβの効果を測定する工程を含み、好ましくは、Aβの効果を低減させる試験化合物の能力を、Aβの効果を低減させる本発明のペプチドの能力と比較する工程をさらに含む。
【0012】
特に定義のない限り、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が関連する技術分野における当業者が一般的に理解しているものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様または等価な方法および材料が、本発明の実施または試験において使用され得るが、好適な方法および材料は下記のものである。矛盾する場合は、定義を含む本明細書に支配される。また、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定を意図しない。
【0013】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な記載から、および特許請求の範囲から自明となろう。
【0014】
本出願書類は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面(1つまたは複数)を有するこの特許出願公開公報の複写は、請求および必要な費用の支払いを行うと、特許庁によって提供される。
【発明の詳細な説明】
【0015】
(概説)
本発明は、Aβの効果、例えば、ニューロン細胞死およびタウリン酸化などを低減または抑制することに関連する方法および材料に関する。例えば、本発明は、ポリペプチド類、ポリペプチド類を含有する組成物、トランスジェニック動物、およびAβの効果(例えば、哺乳動物におけるニューロン細胞死)を抑制するための方法を提供する。かかるポリペプチド類及びポリペプチド類を含有する組成物は、アミノ酸配列を細胞に、Aβの効果が低減または抑制されるように提供するために使用され得る。Aβの効果を低減または抑制することにより、科学者達が、ADの発症においてAβ以外のポリペプチド類の関与を調べることが可能となり得る。また、Aβの効果を低減または抑制することは、臨床医が、ADを患っているかまたはADの発症のリスクがあるヒトを処置することが可能になる。例えば、本明細書において提供されるポリペプチドはAD患者に、未処置のAD患者において典型的に観察されるニューロン細胞死またはタウリン酸化が、処置されたAD患者において低減または抑制されるように投与され得る。
【0016】
以下の本発明のポリペプチドの記載は、Aβの効果を低減または抑制するのに特に有用なsAPPαの特定のポリペプチド断片を我々が見出したことから導かれたものである。このポリペプチドSEVKMDAEFR(配列番号:1)は、sAPPα配列の残基592〜601である。我々は、該10残基ペプチド内の4残基のペプチドDAEFが、それ自体でAβの効果を低減または抑制するのに充分であることを見出した。この出願で使用する残基番号システムは、APP695を基準にしている。Swiss Prot P05067−4を参照。(また、Kangら、Nature 325:733−736,1987;Lemaireら、Nucl.Acids Res.17:517−522,1989も参照のこと)。これは、脳内の主要なアイソフォームであり、したがって、我々が選択する番号付けシステムの基準とする。
【0017】
(本発明のポリペプチド)
この記載の一態様では、下記式:
A−B−C−D(配列番号:24)
(式中、Aは、アミノ酸残基D、Eならびに保存的置換、例えば、N及びQからなる群から選択され;
式中、Bは、アミノ酸残基Aならびに保存的置換、例えば、T、S、G及びPからなる群から選択され;
式中、Cは、アミノ酸残基E、Dならびに保存的置換、例えば、N及びQからなる群から選択され;及び
式中、Dは、アミノ酸残基Fならびに保存的置換、例えば、Yからなる群から選択され;
該ペプチドは、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制する)
で規定される4〜16残基ポリペプチドを特色とする。
【0018】
「保存的置換(conservative substitutions)」によって、我々は、側鎖の特徴に従ってアミノ酸をグループ分けすることを意図する。保存的置換の予測は、充分な程度の自由度が明らかに存在する大きなタンパク質の構造領域について容易に行われ得る。最良の方法は、進化的変異の研究から誘導される。2つのよく知られた方法はPAM250及びBlosumである(Dayhoff,M.O.ら、Atlas of Protein Sequence and Structure 5(3):345−352,National Biomedical Research Foundation,Washington,1978;Henikoff,S.及びHenikoff,J.G.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915−10919,1992を参照のこと)。
【0019】
以下は、本発明の好ましいペプチド類の1つを含む残基について、PAM250及びBlosum法によって予測される最も保存的な置換を表にまとめたものである。
【0020】
【表1】
【0021】
本発明のポリペプチドは、4〜16の間の残基長のアミノ酸である。好ましくは、該ポリペプチドは10〜4の間のアミノ酸残基長である。以下に記載のように、さらなる安定化ペプチド類を該分子のいずれかの終端に付加することが望まれることがあり得る。その実施態様では、ポリペプチド全体は、実際には16アミノ酸より長くなり得る。
【0022】
以下に記載するように、数種類の様式で該ポリペプチドの終端を修飾することが望まれることがあり得る。これらの修飾もまた、上記及び下記のポリペプチドの範囲に含まれる。例えば、アセアレート(acealated)終端を提供することが望まれることがあり得る。さらに、前記の本発明のポリペプチド類を、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制するその能力に影響しない様式で修飾することが望まれることがあり得る。これらの卑小な修飾もまた、本発明のポリペプチドの範囲内である。
【0023】
本発明の好ましい形態では、該ポリペプチドは、式;A−B−C−D
(式中、Aは、アミノ酸残基D及びEからなる群から選択され;
式中、Bは、アミノ酸残基Aからなる群から選択され;
式中、Cは、アミノ酸残基E及びDからなる群から選択され;ならびに
式中、Dは、アミノ酸残基Fからなる群から選択される)
によって規定される。
【0024】
本発明の特に好ましい形態では、ポリペプチドは、本質的に上記の本発明の実施態様のいずれかにおいて規定されるA−B−C−Dからなる。
【0025】
本発明の他の実施態様では、該ポリペプチドは下記式によって規定され:
X−A−B−C−D−Z
式中、X及びZは、DAEF(配列番号:2)と連続的なsAPPα由来の残基である。「連続的な(contiguous)」により、我々は、残基が、天然に存在するDAEF(配列番号:2)配列(残基597〜600)と自然状態で接することを意味する。例えば、ポリペプチドEVKM(配列番号:23)−ABCDは、アミノ酸残基EVKM(残基593−596)が、天然に(natively)存在するDAEF配列と接するため、本発明のペプチドであり得る。ABCD−Rは、同じ理由のため本発明のペプチドであり得る。
【0026】
好ましい実施態様では、該ポリペプチドは、以下のsAAPα断片または修飾された断片:SEVKMDAEFR(配列番号:1)、SEVKMDAEF(配列番号:7);EVKMDAEFR(配列番号:3);VKMDAEFR(配列番号:4);DAEF(配列番号:2)、acDAEF(配列番号:2)、MEADF(配列番号:8)、EADFR(配列番号:9)、EAEF(配列番号:10)、またはEADF(配列番号:5)の1つを含むか、または該断片の1つからなるものであり得る。該ポリペプチドは、DAEF(配列番号:2)セグメントを含むsAPPαの任意の4〜16残基断片であり得る。
【0027】
本発明に対する他の実施態様では、該ポリペプチドは、上記の保存的アミノ酸置換を有する先の配列の任意の1つを含み得る。
【0028】
また、本明細書において提供されるポリペプチド類は、ポリペプチド安定化単位を含有し得る。本明細書で用いられる用語「ポリペプチド安定化単位」は、該ポリペプチドに共有結合または非共有結合したとき、哺乳動物の血清内での該ポリペプチドの安定性を増大させる、及び/又は細胞内への該ポリペプチドの取り込みを助長し得る化学的部分をいう。
【0029】
数多くのプロテアーゼ類が、血清内の分子に接近可能であり、これらの分子を破壊または代謝し得る。ポリペプチド安定化単位は、本明細書において提供されるポリペプチド類の脳内への侵入を助長することに加え、その酵素的分解を低減または抑制し得る。ポリペプチド安定化単位は、アミド結合もしくはペプチド結合などの共有結合によって、またはアビジンとビオチン間などの相互作用によって、他のポリペプチドに結合されたポリペプチドであり得る。該結合としては、制御された加水分解速度で脳内で切断される結合、例えば、−S−S−、エステル、または立体障害エステル(stearically hindered ester)が挙げられ得る。
【0030】
安定化単位はまた、アルキル(メチレン)、アルコキシ(エーテル)、またはグリコールの鎖であり得るリンカーによって結合させてもよい。また、該ポリペプチドはポリペプチド安定化単位に、ポリエチレングリコールリンカーによって結合させ得る。上記のように、リンカーとしては、−S−S−などの脳内で切断される結合が挙げられ得る。これらの場合において、安定化されるポリペプチドとポリペプチド安定化単位とが、より大きなキメラポリペプチドを形成し得る。
【0031】
ポリペプチド安定化単位として使用され得るアミノ酸配列の例としては、制限されず、血漿タンパク質トランスフェリン、トランスフェリンの断片、トランスフェリン受容体に対する抗体(例えば、OX26または8D3)、インスリン、インスリン受容体に対する抗体(例えば、8314)(Colomaら、Pharm.Res.,17:266−74(2000))、IGF−1、IGF−2、及びカチオン化されたアルブミンが挙げられる。いくつかの実施態様では、ポリペプチド安定化単位はハプテン以外の部分であり得る。例えば、ポリペプチド安定化単位はDNP以外の部分であり得る。
【0032】
ポリペプチド安定化単位は、細胞および/または脳内へのポリペプチドの取り込みを助長し得る。ポリペプチド安定化単位は、親油性−親水性バランスを増大させるため、およびBBBを構成する脳内皮細胞の脂質膜を越える単純な受動拡散を達成するのを補助するために機能し得る。例えば、ステアリン酸などの長鎖脂肪酸(好ましくは炭素数16個未満)、またはステリル(steryl)アルコールなどの長鎖アルコール(好ましくは炭素数16個未満)が、好ましいものであり得る。かかるポリペプチド安定化単位の例としては、制限されず、HIV−1のTatタンパク質の塩基性ドメイン(例えば、Tat49〜57;RKKRRQRRR(配列番号:11)、L−もしくはD−アルギニンの9量体(R9)、または他のペプトイドアナログ、例えば、グアニジン頭部基と主鎖との間に6個のメチレンのスペーサーを含有するもの(Wenderら、PNAS,97:13003−13008(2000))が挙げられる。ポリペプチド安定化単位として使用され得る他のアミノ酸配列または部分は、PCT/US99/23731;Larasら、Org.Biomol.Chem.3:612−618,2005;Misraら、J.Pharm.Pharmaceut.Sci.6(2):252−273,2003;Dalpiazら、Science 24:259−269,2005;Queleverら、Org.Biomol.Chem.3:2450−2457,2005,及びPCT/EP02/02234に見出され得る。
【0033】
安定化された単位は、血液脳関門を越える受容体(受容体媒介性輸送−RMT)を利用するものであり得る(Pardridge,NeuroRX 2:3−14,2005)。例としては:輸送またはトランスフェリン受容体(TfR)抗体、(好ましくは、完全にヒトのMAb);インスリンまたはインスリン受容体抗体(好ましくは、完全にヒトのMAb);1型スカベンジャー受容体(SR−VI)(修飾されたLDL);リポソーム類(ペグ化された(pegylated)イムノリポソーム類)(Pardridge,Meth.Enzymol.373:507−528,2003);ナノ粒子(Olivier,NeuroRx 2:108−119,2005;Olivierら、Pharm.Res.19:1137−1143,2002);IGF−1;IGF−2;カチオン化されたアルブミン;及びHIVのTatタンパク質が挙げられる。
【0034】
ポリペプチド安定化単位は、血液脳関門を越えるペプチドの輸送媒介性透過を達成する天然の脳輸送体の基質となり得(Tsuji,NeuroRx 2:54−62,2005)、担体媒介性輸送−CMTとしても知られ(Pardridge,前出,2005)、これは、溶質担体(SLC)遺伝子ファミリー(100遺伝子を超える)の輸送体を利用するものであり得る(Pardridge,前出,2005)。これらの輸送体としては:L系(大型、中性アミノ酸−F、Y、L)輸送体ファミリー;ヘキソース(グルコース)輸送体ファミリー;モノカルボキシレート(短鎖脂肪酸)輸送ファミリー)有機アニオン輸送ファミリー;有機カチオン輸送ファミリー;アスコルビン酸輸送ファミリー(ある種のヘキソース輸送体を含む、Dalpiazら、Eur.J.Pharm.Sci.24:259−269,2005;Manfrediniら、J.Med.Chem.45:559−562,2002;Manfrediniら、Bioorg.Med.Chem.12:5453−5463,2004;Queleverら、Org.Biomol.Chem.3:2457−2457,2005,PCT WO02/070499);ペプチド(エンケファリン、レプチン、グレリン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)輸送ファミリー;及びSLC遺伝子ファミリーの未だキャラクタライズされていない輸送体が挙げられ得る。
【0035】
ポリペプチド安定化単位は、ATP結合カセット(ABC)タンパク質の大ファミリーを含む能動排出輸送(Active Efflux Transport)ファミリーの一構成員、例えば、p−糖タンパク質(多剤耐性;MDR;ABC−Bl遺伝子)ポンプまたはBBBにおいて重要な役割を果たす他のポンプ(Vaalburgら、Toxicol.Appl.Pharmacol.,2005;de Boerら、Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.43:629−656,2003;Fromm,Trends Pharmacol.Sci.25:423−429,2004)によって、該ポリペプチドが脳から排出されることを妨げ得る。
【0036】
ポリペプチド安定化単位としては、化学的送達系またはレドックス送達系、例えば、ジヒドロニコチニル部分(Larasら、Org.Biomol.Chem.3:612−618,2005)または1,4−ジヒドロトリゴネリネート(trigonellinate)部分(Bodor,Ann.NY Acad.Sci.507:289−306,1987;Bodor及びBuchwald,Adv.Drug Deliv.Rev.36:2290−254,1999;Bodorら、Science 257:1698−1700,1992)が挙げられ得る。
【0037】
いくつかの研究により、プロリン残基は、ペプチダーゼ類に対してより抵抗性であることが示唆されている(Yaron及びNaider,Crit.Rev.Biochem.Mol.Biol.28:31−81,1993;Vanhoofら、Faseb.J.9:736−744,1995;Cunningham及びO’Connor,Biochim.Biophys.Acta 1343:160−186,1997)。したがって、ポリペプチド安定化単位は、1つまたはそれ以上のプロリンアミノ酸残基であり得る。かかる残基は、NH2末端残基、COOH末端残基、または両方であり得る。実際、研究の1つでは、NH2−またはCOOH−末端の終端へのアミノ酸アラニン、プロリン、プロリン(APP)またはPPAの付加により、短いペプチド断片が安定化されることが示された(Walkerら、J.Pept.Res.62:214−226、2003)。アミノ酸APPは、単一のPよりも大きな安定性を付与したPPよりも大きな安定性を付与した。また、NH2末端の終端の保護は、COOH終端よりも大きな安定性を付与し、カルボキシペプチダーゼ類よりもアミノペプチダーゼ類の方が多くあるという考えと一致した。実際、アミノ酸APPの付加は、アミド化またはアセチル化よりも大きな安定性を付与し、エキソペプチダーゼ類が遊離NH2末端に接近するのを完全に抑制する環化とほぼ同様に有効であった(Walker,前出,2003)。かかる安定性残基は、N末端残基またはC末端残基であり得る。例えば、DAEF配列を含有するポリペプチドのN末端は、2つのプロリン残基であり得る。いくつかの実施態様では、ポリペプチドは、N末端プロリン残基とC末端プロリン残基の両方を含有するものであり得る(例えば、PPDAEFPP(配列番号:12)、PDAEFPP(配列番号:13)、PPDAEFP(配列番号:14)、及びPDAEFP(配列番号:15))。
【0038】
APPにおけるスウェーデン変異(Nに対してK595及びLに対してM596)は、APP残基596と597間の結合においてβ−セクレターゼによる切断をもたらす。したがって、β−セクレターゼ切断部位を含むペプチドにおいて、この変化を組み込むことは、同時に、DAEF(配列番号:2)を含有する、より小さな神経保護ペプチドの生成が助長され、β−セクレターゼが競合的に阻害される。
【0039】
ポリペプチド安定化単位は、アミノ酸配列またはアミノ酸残基以外の化学的部分であり得る。例えば、ポリペプチド安定化単位は、安定化させるポリペプチドに共有結合または非共有結合したポリ(エチレングリコール)、ポリ(スチレンマレイン酸)、非天然のアミノ酸(例えば、アルギニンアナログ及びリシンアナログ(Kennedyら、J.Peptide Res.,55:348−358(2000);Argolyn Bioscience,Inc.)、エステル類(例えば、芳香族ベンゾイルエステル類もしくは分枝鎖第3級ブチルエステル類)、脂肪酸もしくはコレステロールエステル、アミド基、アビジンもしくはストレプトアビジン、またはビオチン化学基であり得る。いくつかの実施態様では、脂質二重層内に挿入されたポリ(エチレングリコール)を有するか、または有しないリポソーム類またはイムノリポソーム類(Huwylerら、PNAS,93:14164−69(1996)及びCerlettiら、J.Drug Target,8:435−46(2000))が、ポリペプチド安定化単位として、及びポリペプチド類を脳内に輸送するための方法として使用され得る。例えば、トランスフェリン受容体に対する抗体を含有するリポソームが、ポリペプチド安定化単位として使用され得る。フェニルアラニンのトリメチル化を含むメチル化、アセチル化、アシル化、アルキル化、ハロゲン化、及びグリコシル化などの修飾が、ポリペプチドを安定化させるため、及びバイオアベイラビリティを増大させるために使用され得る。これら及び他の修飾は、脂質の溶解度(脂質化)またはカチオン化を増大するための機能を果たし得る。N−アシル化またはピログルタミル残基によるアミノ末端の修飾は、該ポリペプチドをタンパク質分解性切断から保護し得る。
【0040】
本発明のポリペプチド類は、実質的に純粋であり得る。ポリペプチドに関して本明細書で用いられる用語「実質的に純粋な」は、該ポリペプチドが、自然状態では会合している他のポリペプチド類、脂質、炭水化物および核酸を実質的に含まないことを意味する。例えば、実質的に純粋なポリペプチドは、その天然の環境から取り出されており、少なくとも60パーセント純粋である任意のポリペプチドである。ポリペプチドに関して本明細書で用いられる用語「実質的に純粋な」はまた、化学的に合成されたポリペプチド類及びポリペプチド組成物を包含する。典型的には、実質的に純粋なポリペプチドは、非還元性ポリアクリルアミドゲル上に、単一の主要バンドをもたらす。
【0041】
ビタミンC(アスコルビン酸−「AA」)輸送系は、これを利用しない場合はBBBを越えることができない薬物を脳内に輸送するために利用され得る(Dalpiazら、Eur.J.Pharm.Sci.24:259−269,2005;Manfrediniら、J.Med.Chem.45:559−562,2002;Manfredini,Bioorg.Med.Chem.12:5453−5463,2004;Queleverら、Org.Biomol.Chem.3:2450−2457,2005,PCT WO02/070499)。この系の利点は、脳内で潜在的に達成され得る高濃度のAA−ペプチドコンジュゲートである。SVCT2系の利点は、普通の食事をしている人における低レベルの競合性天然のアスコルビン酸リガンド、及び脳を浸している(bathing)DSF内へのコンジュゲートの直接送達である。GLUT1系の利点は、非常に高い輸送能(Tsuji,NeuroRx 2:54−62,2005)、脈絡叢毛細管の表面積と比べて脳毛細管の非常に高い表面積が、より高い輸送能および、より重要なことには薬物がニューロンに接近するのに拡散するために必要とされるさらにより短い間隔距離(<50マイクロメートル)を提供し(Pardridge,NeuroRx 2:3−14,2005)、すべてのニューロンが薬物に接触されるのを確実にすることである。GLUT1系の不都合点は、血糖正常の人における相対的に高濃度のD−グルコースがAA−リンカー−ペプチドコンジュゲートの輸送と競合し得ることである(Agusら、J.Clin.Invest.100:2842−2848,1997)。PCT WO 02/070499には、エステル、チオエステルまたはアミド結合によってリンカーのカルボキシル基に結合している−OH、−SHまたは−NH基を有する活性物質を含有するAA−リンカー−薬物コンジュゲートが記載されている。
【0042】
好ましいAA系ポリペプチド安定化単位の一例は、アスコルビン酸もしくは6−ハロ−アスコルビン酸または薬学的に許容可能な誘導体およびリンカーを含む。リンカーは、(i)該ペプチドに対する連結を提供するための化学基を有する部分(ii)AAの5−または6−OHに対する連結を提供するための化学基および(iii)スペーサー単位を含有するものであり得る。該連結の一方または両方は、代謝に不安定な、例えば、エステルまたはチオエステルであり得る(そのため、神経保護ペプチドが脳内に放出され得る)。リンカーはペプチドに、α−カルボキシルもしくはα−アミノ基を介して、または任意の側鎖基(例えば、−OH、−NH2、−SH、−COOH、フェノール性−OH)を介して結合され得る。リンカーはまた、相対的に代謝に安定な、例えばアミド結合であり得る。スペーサー単位は、任意の数のメチレンの鎖であり得るが、好ましくは16未満で、任意選択で、リンカーの一部に結合された神経保護ペプチドが脳内に放出され得るような1つまたはそれ以上の代謝により切断され得る結合、例えば−S−S−を含有する。リンカーの一部が神経保護ペプチドに結合されたままである任意の状況において、このリンカーの一部は、その全体が生物学的に活性、すなわち神経保護性となるように選択されなければならず、理想的には、その全体が該ペプチド単独よりも活性となるように選択されなければならない。
【0043】
AA系ポリペプチド安定化単位の一例は、Ra−AA(エステル結合によってAAの5−及び/又は6−OHに結合される)であり、式中、(1a)R=HO(CH2)xCO−及びa=1もしくは2及びx=1〜16である、または(1b)H2N(CH2)xCO−及びa=1もしくは2及びx=1〜16である。
【0044】
AA系ポリペプチド安定化単位の別の例は、上記のとおりであって、式中、(2a)R=HO(CH2)y−S−S−(CH2)zCO−及びy=1〜15、Z=1〜15及びy+zは、好ましくは16より大きくない、または(2b)R=H2N(CH2)y−S−S−(CH2)zCO−及びy=1〜15、z=1〜15及びy+zは、好ましくは16より大きくない。
【0045】
好適な神経保護ペプチド−ポリペプチド安定化単位は、以下のように選択される:(i)一連の活性な神経保護ペプチド類または該ペプチドにおそらく、代謝に安定に結合されたリンカーの任意の一部を含有する神経保護ペプチドの誘導体(上記の例1bの場合では、−HN(CH2)xCO2Hであり得、または例2bでは、−HN(CH2)ySHであり得る)は、この出願書類のどこかに記載した適当なアッセイを用いることにより選択され得る、(ii)これらは、適当な保護試薬およびカップリング試薬を用い、アスコルビン酸に化学的にカップリングさせ得る、(iii)得られたコンジュゲートを、GLUT1及びSVCT2輸送体によって細胞膜を越えて輸送するその能力についてインビトロで試験し、(iii)次いで、この出願書類のどこかに記載したようにしてインビボで試験し得る、及び(iv)許容可能なインビボ効力、活性および作用持続期間を有するコンジュゲートが、追加調査およびさらなる開発のために選択され得る。
【0046】
任意の方法を用いて、実質的に純粋なポリペプチドが得られ得る。例えば、アフィニティクロマトグラフィー及びHPLCならびにポリペプチド合成技術などの一般的なポリペプチド精製技術が使用され得る。また、任意の材料が、実質的に純粋なポリペプチドを得るための供給源として使用され得る。例えば、野生型またはトランスジェニック動物由来の組織が、供給源材料として使用され得る。また、目的の特定のポリペプチドを過剰発現するように遺伝子操作された培養細胞を用いて、実質的に純粋なポリペプチドが得られ得る。ポリペプチドは、該ポリペプチドが親和性マトリックス上に捕捉されるのを可能にするアミノ酸配列を含むように設計され得る。例えば、c−myc、血球凝集素、ポリヒスチジンまたはFlag(商標)タグ(Kodak)などのタグが、ポリペプチド精製を補助するために使用され得る。かかるタグは、該ポリペプチド内のどこにでも、例えば、カルボキシルまたはアミノ末端にいずれかに挿入され得る。有用であり得る他の融合体としては、該ポリペプチドの検出を補助する酵素、例えば、アルカリホスファターゼが挙げられる。
【0047】
(処置方法)
他の1つの態様において、本発明は、ニューロン細胞死を抑制するための方法を特徴とする。該方法は、ニューロン細胞をポリペプチドと接触させることを含み、該ポリペプチドは、本発明のアミノ酸配列を含む。ニューロン細胞は海馬の細胞であり得る。上記のように、該ポリペプチドは、好ましくは16〜4のアミノ酸残基長であり、該ポリペプチドは、ポリペプチド安定化単位を含有し得る。
【0048】
本明細書において提供されるポリペプチド類は、Aβの効果を低減、阻害または抑制することにより、ニューロン細胞死を抑制する。例えば、本発明のポリペプチドは、Aβ誘導性タウリン酸化のレベルを少なくとも20パーセント低減させるために使用され得る。本明細書において提供されるポリペプチド類はまた、哺乳動物においてAβ効果を引き起こすAβの能力を低減させ得る。例えば、本発明のポリペプチドは、哺乳動物内で細胞(例えば、ニューロン)を死滅させるAβの能力を低減させるために使用され得る。Aβ効果を引きこす、Aβの効果における低減またはAβの能力における低減は、完全な低減(例えば、100パーセント低減)または不完全な低減(例えば、100パーセント未満の低減)であり得る。例えば、該実施態様では、低減は、20パーセントまたはそれ以上の低減であり得る。別の実施態様では、低減は40パーセントであり得る。
【0049】
Aβ効果としては、制限されず、タウリン酸化、神経細線維もつれの形成、ニューロン細胞死、ニューロンの機能不全、シナプスの減少、酸化的ストレスによる細胞の損傷、及び小グリア細胞活性化が挙げられる。かかる効果は、一般的な分子生物学技術を用いて検出または測定され得る。例えば、抗リン酸化抗体によるイムノブロッティングおよび免疫細胞化学技術を用い、タウリン酸化が評価され得る(Augustinackら、Acta Neuropathol.,103:26−35(2002))。電子顕微鏡検査、チオフラビンS組織化学、及び銀染色を用い、タウ病理の進行した病期が検出され得る(Greenberg及びDavies,PNAS,87:5827−31(1990)、Bancherら,Brain Res.,477:90−99(1989)、及びUchiharaら、Acta Neuropathologica,102:462−6(2001))。免疫細胞化学技術を用い、酸化的ストレス(Abeら、J.Neurosci.Res.,70:447−50(2002)、ならびにButterfield及びLauderback,Free Radic.Biol.Med.,32:1050−60(2002))、小グリア細胞活性化(Sasakiら、Acta Neuropathol,94:316−22(1997)及びEgenspergerら、Brain Pathol,8:439−47(1998))、シナプスの減少(Tiraboschiら、Neurology,55:1278−83(2000)、Qinら、Acta Neuropathol,107:209−15(2003)、及びHatanpaaら、J.Neuropathol.Exp.Neurol,58:637−43(1999))、ならびにニューロン細胞死(Suら、Neuroreport,5:2529−33(1994)及びStadelmannら、Am.J.Pathol.,155:1459−66(1999))が検出され得る。DNAに結合したときエチジウムホモ二量体によって放たれる蛍光の測定は、哺乳動物内でのニューロン細胞死を検出するために使用され得る。アポトーシスと一致する形態学的特徴(例えば、クロマチンの凝集)を探すためのNissl染色と組み合わせたTUNELにより、アポトーシスプロセスにより死亡しつつあるニューロンが検出され得る(Shengら、J.Neuropathol.Exp.Neurol.,57:323−28(1998)及びPomplら、Arch Neurol.,60:369−76(2003))。電気生理学を用い、ニューロンの機能不全を暗示し得る長期増強作用の不足が検出され得る(Trincheseら、Ann.Neurol.,55:801−14(2004))。
【0050】
いくつかの実施態様では、本明細書において提供されるポリペプチドまたは組成物は、Aβによって通常誘導されるAβ効果の程度(例えば、ニューロン細胞死の量)が低減された条件下の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、サル、またはヒト)に投与され得る。本明細書に記載のように、Aβの効果における低減またはAβ効果を引き起こすAβの能力における低減は、完全な低減(例えば、100パーセント低減)または不完全な低減(例えば、100パーセント未満の低減)であり得る。例えば、低減は20パーセントまたは40パーセントの低減であり得る。
【0051】
本明細書において提供されるポリペプチド類または組成物は、局所または全身の処置のいずれが所望されるか及び処置される領域に応じて、いくつかの方法によって投与され得る。例えば、本明細書において提供されるポリペプチドまたは組成物は、経口、皮下、くも膜下、脳室内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内または頭蓋内に投与され得る。投与は、即効的(例えば、注射により)であり得るか、またはある期間にわたって行われるもの(例えば、低速注入または低速放出製剤の投与により)であり得る。中枢神経系の組織の処置では、本明細書において提供されるポリペプチド類または組成物は、注射または注入によって脳脊髄液中に、好ましくは、血液脳関門を越える透過を促進できる1種類またはそれ以上の薬剤とともに投与され得る。かかる薬剤の例としては、制限されず、血漿タンパク質トランスフェリン、トランスフェリン受容体に対する抗体(例えば、OX26)、インスリン、IGF−1、IGF−2、カチオン化されたアルブミン、HIV−1のTatタンパク質の塩基性ドメイン(例えば、Tat49〜57)、L−もしくはD−アルギニンの9量体(R9)、または他のペプトイドアナログ、例えば、グアニジン頭部基と主鎖との間に6個のメチレンのスペーサーを含有するもの(Wenderら、PNAS,97:13003−13008(2000))が挙げられる。経口投与では、本明細書において提供されるポリペプチド類または組成物は、粉剤もしくは顆粒剤、水もしくは非水性媒体中での懸濁剤もしくは溶液、カプセル、サシェ剤、または錠剤に製剤化され得る。かかる製剤には、増粘剤、香味剤、希釈剤、乳化剤、分散助剤、または結合剤が組み込まれ得る。
【0052】
鼻腔内送達について、これは、ペプチド類を血流内に注射の必要性なく送達する方法である。ある種の薬物とともに、該送達は、血液脳関門を迂回するため、及び嗅神経および三叉神経による脳透過を達成するために使用され(sued)得る。該送達では、鼻腔内液状製剤がスプレーとして使用され得るかまたは粉末であり得、いずれも、制御された粒径をもたらすために機械的システムを用いて投与され得る。任意選択で、該送達は、定量エアロゾル系などの定量用量形態であり得る(Frey,Drug.Deliv.Tech.2(5):46−49,2002;DiPietrio及びWolley,Manufact.Chem.,pp.19−22,2003を参照のこと)。該用量は、1種類またはそれ以上の賦形剤、例えば、凝集阻害剤;電荷調整剤;pH調整剤;分解酵素阻害剤;粘膜溶解性または粘液除去(mucus clearing)剤;膜透過増強剤、例えば、界面活性剤;血管拡張剤;密着結合調節剤;送達用ビヒクルまたは担体など含んでいてもよい。
【0053】
埋め込み可能な薬物注入系および脳神経外科用カテーテルを配置できることは、脳への直接的な薬物送達を可能にする。これにより、全身性薬物副作用、末梢での薬物代謝および不活化、血清タンパク質結合、ならびに血液脳関門透過が回避される(Harbaugh,Psychopharmacol.Bull.22:106−109,1986)。かかる系は、全身性安定性およびBBB透過が特に問題であるペプチド系薬物に、理想的に適したものであり得る。脳脊髄液(CSF)は、利用可能な区画(accessible compartment)内に含まれ、脳全体を浸しており、それを薬物送達のための理想的な標的としている。カテーテルは、CSFが脳室から腹膜内に流れるのを可能にする脳室腹腔短絡術として、水頭を有する患者の側脳室内に常套的に配置される。脳室吻合術は、バンコマイシン及びゲンタマイシンなどの抗生物質を感染した患者のCSFに送達するために使用される(Morrisonら、J.Neurooncol. 11:65−69,1991)。また、tPAは、側脳室内に脳室造瘻術によって、脳室内出血の処置として送達されている(Deutschら、Surg.Neurol.61−460−463,2004)。また、脳室内注入は、腫瘍の処置のための化学療法剤を用いて行われる(Dakhilら、Cancer Treat.Rep.65:401−411,1981;Fleischhackら、Clin.Pharmacokinet.44:1−31,2005)。またさらに、カテーテルは、腰内臓神経のくも膜下腔の空間内に配置され、痙縮および慢性の痛みの処置のためのバクロフェンまたはモルヒネを送達する埋め込み可能なポンプ(Medtronic,Minneapolis,MN)に結合される。
【0054】
本明細書に記載のポリペプチドまたは任意の組成物を送達するための好ましい方法の1つは、化合物を直接脳室内に、脳室造瘻術によって注射または注入を行うことである。投薬は、0.01μg〜1mg/体重kgであり得、毎日、毎週1回またはそれ以上またはより低頻度で行われ得る。化合物は側脳室内に、注射、または埋め込み可能なポンプを連続的に用いることによって送達され得る。ポンプは、皮下に鎖骨下窩内に埋め込まれ得、設定された速度の化合物をカテーテルによって脳室造瘻術レザバーに、及び側脳室内に送達し得る。該化合物の投与は等容量的であり得る、すなわち、投与される化合物の容量に相当するCSFの量が、化合物注射の前に取り出される。化合物は、生理食塩水中に溶解および/または希釈させ得る。あるいはまた、化合物を人工脳脊髄液(147mM Na、2.88mM K、127mM Cl、1.0mM リン酸塩、1.15mM Ca、1.10mM Mg、1.10mM SO4、23.19mM HCO3、5,410mg/Lグルコース;300mOsm/kg)中で希釈してもよい。
【0055】
任意の方法を用いて、本明細書において提供されるポリペプチドまたは組成物を製剤化し、その後、投与し得る。投薬は、一般的に、処置される疾患状態の重篤度および応答性に依存性であり、処置過程は、数日間〜数ヶ月間、または治癒が奏効するか、もしくは疾患状態の減衰が達成されるまで持続させる。常套的な方法を用いて、最適な投薬量、投薬方法論、および反復率が決定され得る。最適な投薬量は、個々のポリペプチド類の相対的な効力に応じて異なり得、一般的に、インビトロおよび/またはインビボ動物モデルにおいて有効であることがわかったEC50値に基づいて概算され得る。典型的には、投薬量は、体重1kgあたり約0.01μg〜約100gであり、毎日、毎週1回またはそれ以上またはより低頻度で与え得る。成功裡の処置後、疾患状態の再発を防ぐため、患者に維持療法を受けさせるのが望ましいことがあり得る。例えば、好ましい経口用量は200〜4000mgであり得、好ましくは、1日あたり4回の用量に分割する。
【0056】
(組成物)
本明細書において提供されるポリペプチド類は、さらなる成分を含有するポリペプチド組成物に製剤化され得る。例えば、本明細書において提供されるポリペプチドは、ポリペプチド安定化分子と組み合わされ得る。ポリペプチド組成物に関して本明細書で用いられる用語「ポリペプチド安定化分子」は、該組成物が哺乳動物の血清に曝露されたとき、該ポリペプチド組成物内での該ポリペプチドの安定性を増大させる化学的部分をいう。ポリペプチド安定化分子は、本明細書において提供されるポリペプチド類の酵素的分解を低減または抑制し得ることに加え、脳内へのその侵入を助長し得る。ポリペプチド安定化分子の例としては、制限されず、リポソーム類、イムノリポソーム類(例えば、トランスフェリンに結合する抗体などの抗体含有リポソーム類)、血漿タンパク質トランスフェリン、トランスフェリンの断片、トランスフェリン(transferring)受容体に対する抗体(例えば、OX26)、インスリン、IGF−1、IGF−2、及びカチオン化されたアルブミンが挙げられる。ポリペプチド安定化分子は、細胞および/または脳内への該ポリペプチドの取り込みを助長し得る。これらの例としては、制限されず、HIV−1のTatタンパク質の塩基性ドメイン(例えば、Tat49〜57)、L−もしくはD−アルギニンの9量体(r9)、または他のペプトイドアナログ、例えば、グアニジン頭部基と主鎖との間に6個のメチレンのスペーサーを含有するもの(Wenderら、PNAS、97:13003−13008(2000))が挙げられる。いくつかの実施態様では、ポリペプチド安定化分子はハプテン以外の部分であり得る。例えば、ポリペプチド安定化分子はDNP以外の部分であり得る。
【0057】
ポリペプチド安定化分子は、ポリペプチド組成物内のポリペプチドに結合された(例えば、共有結合もしくは非共有結合された)もの、または結合されていないものであり得る。例えば、組成物は、該組成物内で該ポリペプチド類に結合されていないポリペプチド安定化分子を含有し得る。該組成物は、1種類またはそれ以上の(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10種、またはそれ以上)異なるポリペプチド安定化分子を含有し得る。例えば、組成物は、DAEFポリペプチドおよび3種の異なるポリペプチド安定化分子を含有し得る。いくつかの実施態様では、組成物のポリペプチドは同一であり得る。他の実施態様では、いくつかの異なるポリペプチド調製物が組成物内に存在し得る。例えば、組成物は、各々が異なるアミノ酸配列を有するポリペプチド類を2、3、4、5、6、7、8、9、10種、またはそれ以上を含有し得る。
【0058】
ポリペプチド安定化分子は、治療上許容可能なものであり得る。ポリペプチド安定化分子に関して本明細書で用いられる用語「治療上許容可能な」は、哺乳動物(例えば、ラット、マウス、サル、またはヒト)に投与したとき、その哺乳動物に対して有意な毒性を誘導しないポリペプチド安定化分子をいう。標準的な試験プロトコルを用いて、分子が、哺乳動物に投与したとき有意な毒性を誘導するか否かを判定し得る。
【0059】
本明細書において提供されるポリペプチド類の1つまたはそれ以上を含有する組成物は、1つまたはそれ以上の薬学的に許容可能な担体、例えば、薬学的に許容可能な溶媒、懸濁剤、または任意の他の薬理学的に不活性なビヒクルを含有し得る。薬学的に許容可能な担体は、液状または固体であり得、所望のかさ、粘稠度、ならびに他の適切な輸送および化学的性質が提供されるように意図された投与の計画された様式により選択され得る。典型的な薬学的に許容可能な担体としては、制限されず、水;生理食塩水溶液;結合剤(例えば、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトースおよび他の糖類、ゼラチン、または硫酸カルシウム);滑沢剤(例えば、デンプン、ポリエチレングリコール、または酢酸ナトリウム);崩壊剤(例えば、デンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)が挙げられる。
【0060】
医薬組成物は、上記に開示したペプチド類の1つまたはそれ以上を含み得る。本発明により記載される化合物から医薬組成物を調製するために、不活性で薬学的に許容可能な担体は、固形または液状のいずれかであり得る。固体調製物としては、粉剤、錠剤、分散可能な顆粒剤、カプセル、カシェ剤および坐剤が挙げられる。粉剤および錠剤は、約5〜約95パーセントの活性な化合物で構成され得る。好適な固体担体は、当該技術分野で知られており、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖またはラクトースである。錠剤、粉剤、カシェ剤およびカプセルは、経口投与に適した固体投薬形態として使用され得る。薬学的に許容可能な担体および種々の組成物の製造方法の例は、A.Gennaro(編),Remington’s Pharmaceutical Sciences,第18版,(1990),Mack Publishing Co.,Easton,Paに見られ得る。
【0061】
液状調製物としては、液剤、懸濁剤および乳剤が挙げられる。例は、非経口注射、または経口液剤、懸濁剤および乳剤用の甘味剤および乳白剤の添加のための水または水−プロピレングリコール溶液であり得る。液状調製物はまた、鼻腔内投与のための液剤を含み得る。
【0062】
吸入に適したエアロゾル調製物は、溶液および粉末形態の固形物を含み得、これは、不活性な圧縮ガス、例えば、窒素などの薬学的に許容可能な担体と組み合わせてもよい。また、経口または非経口投与いずれかのために、使用直前に、液状調製物に変換されることが意図される固体調製物も含まれる。かかる液状形態としては、液剤、懸濁剤および乳剤が挙げられる。また、本発明の化合物は、経皮的に送達可能なものであり得る。経皮用組成物は、クリーム、ローション、エアロゾルおよび/またはエマルジョンの形態をとり得、この目的のために当該技術分野において慣用的なマトリックス型またはレザバー型の経皮用パッチ内に含め得る。また、本発明の化合物は、皮下送達可能なものであり得る。
【0063】
好ましくは、医薬調製物は単位投薬形態である。かかる形態において、調製物は、活性化合物の適切な量、例えば、所望の目的を達成するための有効量を含有する、適当な大きさにした単位用量に再分される。単位用量の調製物中の活性化合物の量は、特定の適用に従って、約0.01mg〜約1000mg、好ましくは約0.01mg〜約750mg、より好ましくは約0.01mg〜約500mg、最も好ましくは約0.01mg〜約250mgで異なり得るか、または調整し得る。用いられる実際の投薬量は、患者の要件および処置される状態の重篤度に応じて異なり得る。具体的な状況のための適正な投薬レジメン(regimen)の決定は、当該技術分野の技量の範囲内である。都合上、全1日投薬量は、必要に応じて、1日の間で複数の部分に分割して投与してもよい。本発明の化合物および/または薬学的に許容可能なその塩の投与の量および頻度は、担当医師が患者の年齢、状態および体格ならびに処置される症状の重篤度などの要素を考慮した判断に従って調節される。経口投与のための典型的な推奨1日投薬レジメンは、1〜4回に分けた用量で約0.04mg/日〜約4000mg/日の範囲であり得る。
【0064】
(化合物の同定)
本発明は、本明細書に記載された効果などのAβの効果の低減させる能力を有する化合物を同定するための方法および材料を提供する。例えば、本明細書において提供される方法および材料を用いて、Aβによって誘導されるニューロン細胞死のレベルを低減させることができる化合物が同定され得る。一実施態様では、細胞(例えば、脳組織または脳薄片)を、Aβペプチドの存在下で試験化合物と接触させ得、Aβの効果レベルが測定され得る。この測定されたレベルを、試験化合物の不存在下でAβペプチドと接触させた対照細胞を用いて測定されたレベルと比較し得る。対照細胞で観察されるものと比べて、より少ないAβ効果(例えば、ニューロン細胞死)が、試験化合物およびAβペプチドと接触させた細胞で観察されるならば、試験化合物は、Aβの効果を低減させる能力を有し得る。
【0065】
かかる低減の陽性対照は、DAEF含有ポリペプチド(例えば、SEVKMDAEFR(配列番号:1)、SEVKMDAEF(配列番号:7)、EVKMDAEFR(配列番号:3)、VKMDAEFR(配列番号:4)、DAEF(配列番号:2)または任意の本発明のポリペプチド類)およびAβペプチドと接触させた細胞であり得る。他の対照としては、未処理の細胞および/またはβ−アミロイド1〜42またはリバース(reverse)Aβ(Aβ42〜1)で処理した細胞が挙げられ得る。いくつかの実施態様では、試験化合物を、脳薄片培養物において、sAPPα、SEVKMDAEFRまたはDAEFのものと同等の効果を誘導するその能力について評価する。
【0066】
任意の試験化合物が使用され得る。例えば、試験化合物は、ポリペプチド、脂質、エステル、トリグリセリド、ステロイド、脂肪酸、または小さな分子であり得る。いくつかの実施態様では、試験化合物は、DAEF含有ポリペプチド(例えば、SEVKMDAEFR(配列番号:1)、SEVKMDAEF(配列番号:7)、EVKMDAEFR(配列番号:3)、VKMDAEFR(配列番号:4)、またはDAEF(配列番号:2))などのポリペプチドの構造および/または機能を模倣するように設計された分子であり得る。例えば、試験化合物は、DAEF含有ポリペプチドのペプチド模倣物(peptidomimetic)であり得る。かかるペプチド模倣物は、アミド結合イソスター(isoter)および/または他のペプチド主鎖修飾を含有し得る。例えば、ヘテロ原子が、タンパク質分解性分解を妨げるために使用され得る。いくつかの場合(cased)では、ペプチド模倣物は、例えば、αヘリックスおよび/またはβシートなどの二次構造特性を有し得る。例えば、Gellman,SH,Acc.Chem.Res.,31:173−180(1998)を参照のこと。任意の方法を用いて、別途概説されたものを含む、候補ペプチド模倣物化合物が設計され得る。(Fisher,PM,Curr.Protein Pept.Sci.,4(5):339−56(2003)ならびにPatch及びBarron,Curr.Opinion Chem.Biol.,6:872−877(2002))。いくつかの実施態様では、多数のペプチド模倣物化合物のコンビナトリアルライブラリーを作製し得る。これらの場合において、例えば、比色または蛍光読み出しに基づくハイスループットアッセイを用い、Aβの効果を低減させる能力を有する化合物が同定され得る。他の場合では、試験化合物のライブラリーをアレイの形態で提供し、化合物を同定するためのハイスループットスクリーニングに供し得る。例えば、Goodmanら、Biopolymers,60:229−245(2001)及びal−Obeidiら、Mol.Biotechnol.,9:205−223(1998)を参照のこと。
【0067】
Aβの効果を低減もしくは抑制し得るか、または哺乳動物においてAβ効果を引き起こすAβの能力を低減させ得る試験化合物は、一般的な分子生物学技術を用いて得られ得る。例えば、Aβ効果を検出または測定するための本明細書において提供される技術は、Aβ効果を低減させる能力を有するポリペプチド類を同定するために使用され得る。一実施態様では、細胞(例えば、培養されたニューロン)を、試験ポリペプチドで前処理した後、Aβで処理する。処理された細胞を、次いで、細胞死について評価する。試験ポリペプチドで前処理した細胞が、試験ポリペプチド前処理していない対照細胞よりも少ない細胞死を示すならば、試験ポリペプチドは、Aβ効果を誘導するAβの能力を低減させるポリペプチドであり得る。
【0068】
本明細書において提供される試験ポリペプチドの各アミノ酸残基は、20個の通常の(conventional)アミノ酸残基のうちの1つであり得る。いくつかの実施態様では、該ポリペプチド類は、ポリペプチド内に組み込まれ得る修飾されたアミノ酸残基または任意の他の化学構造の1つまたはそれ以上、例えば、制限されないが、オルニチン、シトルリン、ε−アミノヘキサン酸、ヒドロキシル化アミノ酸(例えば、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン、(5R)−5−ヒドロキシ−L−リシン、アロ−ヒドロキシリシン、または5−ヒドロキシ−L−ノルバリン)、グリコシル化アミノ酸(例えば、D−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノース、D−グルコサミン、D−ガラクトサミン、もしくはその組合せを含有するアミノ酸)、2−アミノアジピン酸、3−アミノアジピン酸、β−アラニンもしくはβ−アミノプロピオン酸、2−アミノ酪酸、4−アミノ酪酸、6−アミノカプロン酸、2−アミノヘプタン酸、2−アミノイソ酪酸、3−アミノイソ酪酸、2−アミノピメリン酸、2,4−ジアミノ酪酸、デスモシン、2,2−ジアミノピメリン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸、N−エチルグリシン、N−エチルアスパラギン、イソデスモシン、アロ−イソロイシン、N−メチルグリシン、N−メチルイソロイシン、6−N−メチルリシン、N−メチルバリン、ノルバリン、ノルロイシン、アルギニンのオルニチン修飾、アルギニンのシトルリン修飾、単一もしくは複数の脱酸素化を伴うβ−D−ガラクトピラノシル−5−ヒドロキシ−L−リシン、および単一もしくは複数の脱酸素化を伴う2−O−α−D−グルコピラノシル−β−D−ガラクトピラノシル−5−ヒドロキシ−L−リシンを含有し得る。また、アミノ酸残基または化学構造の1つまたはそれ以上のヒドロキシル基をフッ素に置き換えてもよい。例えば、3−フルオロプロリンを創出するために3−ヒドロキシプロリンのヒドロキシ基をフッ素に置き換えることができ、または4−フルオロプロリンを創出するために4−ヒドロキシプロリンのヒドロキシ基をフッ素に置き換えることができる。さらに、アミノ酸残基または化学構造は、C−またはS−またはO−グリコシド結合を有するものであり得る。単一のポリペプチドが、かかるアミノ酸残基および化学構造の任意の組合せを含有し得る。例えば、単一のポリペプチドが、12個の通常のアミノ酸残基、8個のヒドロキシル化アミノ酸、2個のグリコシル化アミノ酸、および1個のオルニチンを任意の順序で含有し得る。
【0069】
典型的には、本明細書において提供される試験ポリペプチドは、アミド結合(−CONH−)によって連結されたアミノ酸残基を含有する。いくつかの実施態様では、ポリペプチドは、他の結合、例えば、制限されないが、N−メチル化(−CONMe−)、N−アルキル化(−CONR−)、または還元(−CH2NH−)によって修飾されたものなどの修飾されたアミド結合、ならびに等配電子体(イソスター)結合、例えば、メチレンエーテル結合(−CH2O−)、メチレンチオエーテル結合(−CH2S−)、ビニル基結合(−CH=CH−)、エチレン基結合(−CH2CH2−)、ケトメチレン基結合(−COCH2−)、チオアミド結合(−CSNH−)、及びスルホン結合(−CH2SO−)によって連結されたアミノ酸残基または化学構造を含有し得る。単一のポリペプチドは、結合の任意の組合せによって連結されたアミノ酸残基または化学構造の配列を含有し得る。例えば、単一のポリペプチドは、全くアミド結合のみによって、またはアミド結合、メチレンエーテル結合およびスルホン結合の組合せによって連結されたアミノ酸残基の配列を含有し得る。
【0070】
本明細書において提供される試験ポリペプチド類は、遊離のN−及びC−末端を有するように線状ポリペプチド類であり得る。該ポリペプチド類は、ジスルフィド結合を含有するように遺伝子操作されたものであり得るか、または別途記載(Egletonら、Peptides 18:1431−39(1997)ならびにIwai及びPluckthun、FEBS Lett.,459(2):166−72(1999))のように環化されるように設計されたものであり得る。例えば、DAEF配列を含有するポリペプチドは、1つまたはそれ以上のジスルフィド結合が該ポリペプチド内に形成されるように、2個またはそれ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上)のシステイン残基を含有し得る。ジスルフィド結合を含有するポリペプチド類は、ジスルフィド結合を欠く類似のポリペプチド類よりも分解に対してより安定であり得る。2つまたはそれ以上のポリペプチド類が、ヒドラジド架橋によって連結され得る。ヒドラジド架橋は、カルボキシペプチダーゼ活性による分解を防御し得る。ポリペプチド類は、該ポリペプチドが環化されるようにジスルフィド架橋(例えば、2個のD−ペニシラミン残基による)を含有し得る。環化されたポリペプチド類は、環化されていない類似のポリペプチド類よりも分解に対してより安定であり得る。
【0071】
本明細書において提供される試験ポリペプチド類は、さらなるアミノ酸配列、例えば、一般的にタグとして用いられるもの(例えば、ポリ−ヒスチジンタグ、mycタグ、GFPタグ、及びGSTタグ)を含有し得る。例えば、DAEF配列を含有するsAPPαポリペプチドの50アミノ酸断片は、蛍光ポリペプチド(例えば、GFP)のアミノ酸配列を含有し得る。
【0072】
任意の型の細胞が使用され得る。例えば、1つの好ましい実施態様では、ニューロン細胞培養物または脳組織試料(例えば、脳薄片)が使用され得る。また、該方法はインビボまたはインビトロで行われ得る。例えば、マウス内のニューロン細胞を、試験化合物をマウスの脳内に注射することにより、試験化合物と接触させ得る。
【0073】
Aβペプチドは、任意の型のAβペプチド、例えばヒトβアミロイド1〜42であり得る。また、任意の方法を用いて、細胞をAβペプチドと接触させ得る。例えば、Aβペプチドを、培養中の細胞に投与し得る。いくつかの実施態様では、細胞を、Aβペプチドをエンコードする核酸を含有する細胞によって発現されるAβペプチドと接触させ得る。例えば、ニューロン細胞は、Aβペプチドを放出することがわかっているAPP配列をエンコードする核酸を含有するように設計され得る。任意の方法を用いて、Aβの効果を低減させる試験化合物の能力を評価し得る。例えば、本明細書に記載のものなどの染色手法は、細胞死を評価するために使用され得る。
【0074】
本明細書において提供される方法および材料はまた、神経保護性ポリペプチド、例えば、TTR及びIGF−2などの発現を増大できる化合物を同定するために使用され得る。例えば、細胞(例えば、脳組織または脳薄片)を試験化合物と接触させ得、神経保護性ポリペプチドをエンコードする核酸の発現レベルを、該ポリペプチドレベル及び/又はmRNAレベルを測定することにより決定することができる。任意の方法がポリペプチドレベルを測定するために使用され得、例えば、制限されないが、ELISA手法、抗体染色手法、及び生物学的活性アッセイが挙げられる。また、任意の方法がmRNAレベルを測定するために使用され得、例えば、制限されないが、RT−PCR技術および発現アレイ技術が挙げられる。
【0075】
ポリペプチドまたはmRNAの発現のレベルを、試験化合物と接触させていない対照細胞について測定されたポリペプチドまたはmRNAの発現レベルと比較し得る。対照脳組織で観察されるものと比べて、より少ないポリペプチドまたはmRNA発現が試験化合物と接触させた細胞で観察されるならば、試験化合物は、Aβの効果を低減させる能力を有し得る。かかる低減の陽性対照は、DAEF含有ポリペプチド(例えば、SEVKMDAEFR(配列番号:1)、SEVKMDAEF(配列番号:7)、EVKMDAEFR(配列番号:3)、VKMDAEFR(配列番号:4)、またはDAEF(配列番号:2))と接触させた細胞であり得る。他の対照としては、未処理の細胞(例えば、未処理の脳組織)が挙げられ得る。
【0076】
神経保護性ポリペプチドをエンコードする核酸の発現レベルを増大させる試験化合物の有効性は、試験化合物と接触させた細胞で観察される発現レベルをDAEF含有ポリペプチドと接触させた細胞で観察される発現レベルと比較することにより測定され得る。DAEF含有ポリペプチドと接触させた細胞で観察されるものと比べ、試験化合物と接触させた細胞で同等または高いレベルの発現が観察されることは、試験化合物が、神経保護性ポリペプチド発現の強力な活性化物質であることを示し得る。
【0077】
本明細書において提供される方法および材料は、sAPPαの存在に応答して、細胞によるその発現を改変させることができるポリペプチドの発現を増大または減少できる化合物を同定するために使用され得る。例えば、細胞(例えば、ニューロン細胞)を、試験化合物と接触させ、試験化合物と接触させていない対照細胞による該ポリペプチドの発現と比べて、sAPPαの存在に応答した細胞によるその発現を改変させることができるポリペプチドの改変された(例えば、増大または減少した)発現が示されているか否かを調べるために評価し得る。かかるポリペプチド類の例としては、制限されず、TTRポリペプチド類及びIGF−2ポリペプチド類が挙げられる。ポリペプチドの発現の増加または減少は、ポリペプチドレベル及び/又はmRNAレベルを測定することにより決定され得る。
【実施例】
【0078】
(実施例1−方法および材料)
(動物)
Tg2576マウスを、既報のHsiaoら、Science,274:99−102(1996))のとおりにして作出した。簡単には、これらは、二重変異K670N及びM671L(スウェーデン変異)を有し、プリオンタンパク質プロモーターによって駆動されるヒトアミロイド前駆体タンパク質695を含む。この試験では、トランスジェニック及び非トランスジェニック対照マウスを、C57B6/SJL種畜に対して戻し交配したC57B6/SJL N2世代Tg2576マウスから作製した。マウスを12及び18ヶ月齢で致死させた。
【0079】
(海馬器官型培養物)
C57B6/SJLマウスの子に対し、生後第15日に麻酔して断頭した。脳を取り出し、氷冷解剖(dissecting)培地(50%最少必須培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)、50%ハンクス平衡塩溶液(Invitrogen)、25mM HEPES、及び36mMグルコース)中に入れた。両方の海馬を解剖顕微鏡下で解剖し、Mcllwainティッシュチョッパーにて400μmに切断した。薄片をばらばらにし、6ウェル培養プレート内に保持した30mm直径及び0.4μmフィルター孔サイズを有するフィルターインサート(Millipore,Billerica,MA)上に配置した。最初の3日間、薄片を、B−27サプリメント、1mMグルタミン及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を加えたNeurobasal培地中に維持した。続いて、抗生物質を含まない培地を用い、培地を3日毎に交換した。器官型培養物を加湿インキュベーター内に、37℃で5%O2及び5%CO2中、14〜21日間維持した。
【0080】
細胞死および生存能力を、生薄片において、Molecular Probes’ Live/Dead Kitの蛍光プローブを用いて測定した。カルセインAM(1:400)及びエチジウムホモ二量体(1:1000)含有リン酸緩衝生理食塩水中で40分間のインキュベーション後、薄片を、Nikon Diaphot 200倒立顕微鏡により200×倍率で、Bio−Rad MRC−1024 Laser Scanning Confocalシステム(Hercules,CA)を用いて可視化した。ニューロン野の無作為の画像を、各プローブの発光スペクトルにおいて取り込み、Scion Imageソフトウェア(Frederick,MD)を用いて生細胞および死細胞の数を定量した。各薄片について、ニューロン野を含む少なくとも3つの領域をイメージングし、死滅のパーセントを調べた。死滅のパーセントは、EthD−1陽性細胞の数をEthD−1及びカルセインAM陽性細胞の総数で除算して算出した。
【0081】
(TUNEL及びNissl染色による細胞死の検出)
1つの処置あたり3例の動物由来の海馬薄片の凍結切片を、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介型dUTPニック末端標識(TUNEL)で染色した。DNA断片化を有する細胞を、DNA内へのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)−12−dUTPのターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ取り込みによって測定した(In Situ Cell Death Detection kit,Roche Biochem,Indianapolis,IN)。他の切片は酢酸クレシルバイオレットで染色し、健常な核を有するニューロンならびに凝縮および凝集したクロマチンを有するニューロンをニューロン野内で計測した。
【0082】
(免疫組織化学)
マウスをCO2で致死させ、速やかに、心臓を介してリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を灌流した。右半球を4%パラホルムアルデヒド(PFA)中に一晩固定し、30%スクロース中に浸漬させ、OCT包埋培地中で凍結させた。海馬薄片を4%PFA中で20分間固定し、30%スクロース中で一晩インキュベートし、OCT包埋培地中で凍結させた。10μmの幅の凍結切片を海馬から採取した。死後ヒト組織をホルマリン固定し、10μmに切断し、抗原回復のために10分間、10mM Trisバッファー(pH 1)中で煮沸した。IGF−2及びTTRは、IGF−2(F−20)またはTTR(C−20;Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)に対するポリクローナル抗体の1:200希釈物により検出された。ホスホ−BAD(Serl 12;Cell Signaling,Beverly,MA)、及びBAD(Stressgen,Victoria,British Columbia)は、それぞれのポリクローナル抗体の1:250希釈物により検出された。リン酸化されたタウは、モノクローナルAT8抗体(1:200;Research Diagnostics,Flanders,NJ)及び抗ホスホ−タウ(Thr231)(1:500;Calbiochem,San Diego,CA)により検出された。対照として、免疫前ウサギもしくはマウスIgG(Vector Laboratories,Burlingame,CA)またはヤギIgG(Santa Cruz)を、一次抗体の代わりに用いた。ビオチン化抗ヤギIgG、抗ウサギIgG、または抗マウスIgGを二次抗体として用いた。最後に、Vectastain Elite ABCキット(Vector)及びAlexa Fluor 488または568(Molecular Probes,Eugene,OR)のいずれかにコンジュゲートさせたチラミドを用い、抗体染色を可視化した。抗NeuN(1:250;Chemicon International,Temecula,CA)及び4G8(1:250;Signet,Dedham,MA)を、Alexa Fluor 488にコンジュゲートさせた抗マウスIgG二次抗体とともに用い、NeuN及びAβを検出した。DNA結合色素ToPro3(Molecular Probes)またはHoechst 33258(Sigma,St.Louis,MO)を用いて核を可視化した。Bio−Rad Laser Scanning Confocalシステムまたはエピ蛍光(Zeiss,Thornwood,NY)のいずれかを用いて切片をイメージングした。代表的な図を、3例のAPPSwマウス及び3例の非トランスジェニック対照、海馬薄片の1処理につき3例の動物、または4例のヤギIgG及び4例の抗TTR抗体注入マウスから得た。
【0083】
(電子顕微鏡)
50μM AβまたはリバースAβで24時間の処理後、海馬薄片培養物を、0.1M Sorensonsリン酸塩バッファー(pH 7.4)中2%PFA/2.5%グルタルアルデヒドの混合物で1時間固定し、次いで、同じバッファー中2%四酸化オスミウムにおいて1時間、後固定した。次いで、薄片を、エタノール系列で脱水し、Eponエポキシ樹脂内に包埋した。極薄切片をReichert−Jungミクロトームにて切断し、銅グリッド上に配置し、慣用濃度の酢酸ウラニル及びクエン酸鉛で染色した。Philips CM120電子顕微鏡により顕微鏡写真を撮影した。
【0084】
(処理)
β−アミロイド1〜42及びリバースAβ(Aβ42〜1)を、BACHEM(Torrance,CA)から入手した。これらのポリペプチド類を0.1%NH3OHに222μMで溶解した。処理のため、Aβを50μMで、B−27サプリメント及び1mMグルタミンを加えたNeurobasal培地中で37°Cにて24時間凝集させた。次いで、薄片培養培地を除去し、薄片を、1mLの25μMもしくは50μM Aβ、リバースAβ、またはビヒクルで24時間処理した。ヒトTTR(Calbiochem)またはIGF−2(Peprotech,Rocky Hill,NJ)を薄片に、Aβ処理とともに3μM(TTR)または500nM(IGF−2)の最終濃度で添加した。sAPPαは、既報(Mattsonら、Neuron,10:243−254(1993))のとおりにして調製した。
【0085】
特に記載のない限り、すべてのsAPPα処理は、1nMで、Aβ添加前に48時間行った。TTR(C−20)またはIGF−2(F−20;4μg/mL;Santa Cruz)またはsAPPα(6E10;10μg/mL;Chemicon)に対する抗体を薄片に、sAPPα処理とともに添加した。ヤギIgG(4μg/mL;Santa Cruz)またはマウスIgG1(10μg/mL;Chemicon)を、対照として添加した。sAPPαのカルボキシル末端領域の10アミノ酸断片(APP695の592〜601;SEVKMDAEFR;配列番号:1;Sigma)を、sAPPαと同じプロトコルに従って付加した。
【0086】
SiRNAを、マウスmRNA配列に基に、Ambion Silencer siRNA Construction Kit(Austin,TX)を用いて創出した。数種類のsiRNAを、各サイレンス化遺伝子についてインビトロ転写によって創出した。ビヒクル、またはAmbion siPORTアミントランスフェクション薬剤中でポリアミン類と組み合わせた25nM siRNAを用いたsAPPα処理の前に、トランスフェクションを4時間37℃で行った。トランスフェクションは、1mMグルタミン(Invitrogen)を含むNeurobasal培地中で行った。成功裡のmRNA標的配列は以下のとおりである。
【0087】
【化1】
【0088】
(マイクロアレイ解析)
全RNAを、ビヒクルまたは1nM sAPPαのいずれかで24時間処理した雄非トランスジェニックマウスの海馬薄片から抽出した。全RNAをTrizol(Invitrogen,Carlsbad,CA)により単離し、既報(Stein及びJohnson,J.Neurosci.,22:7380−7388(2002))のとおりにしてcRNAを合成するために使用した。
【0089】
15μgの断片化したcRNAを、16時間45℃で、MG−U74Av2アレイ(Affymetrix,Santa Clara,CA)にハイブリダイズさせた。Affymetrix Microarray Suite 5.0を用いてスキャンし、各遺伝子の相対存在度を強度シグナル値から解析した。有意に変化した遺伝子を、各比較でウィルコクソンのサインランク検定を用いて測定した。p値<0.01を有するプローブセットを増大/減少と称し、0.01<p値<0.05の範囲のp値を有するプローブセットをわずかに増大/減少と称し、残りのプローブセットを変化なしと称した。変化なし=0、わずかな増大/減少=1/−1、及び増大/減少=2/−2(Li及びJohnson,Physiol.Genomics,9:137−144(2002))であるさらなるレベルのランキングを用いて多数の比較を組み入れた。最終のランクは、9つの比較のランクの合計に等しいものであり、該値は、海馬薄片における3×3の比較で、−18〜18までで異なった。増大または減少した遺伝子発現の最終の測定値のカットオフ値は、増大した遺伝子ではランク≧9及びFC≧1.2、ならびに減少した遺伝子ではランク≦−9及びFC≦−1.2と設定した。遺伝子発現の強度値を平均=0及び分散=1に対して標準化し、Affymetrix Data Mining Toolの自己組織化マップ(SOM)アルゴリズムを用いてクラスター化した。
【0090】
(注入)
18ヶ月齢のAPPSwマウスに、イソフルランガス麻酔系で深く麻酔し、定位固定装置(Stoelting,Wood Dale,IL)内に配置した。切除を行って頭蓋を露出させ、Dremelドリルを用いて頭骨に孔をあけた。Alzet Brain Infusion Kit(Alzet,Cupertino,CA)のカニューレを定位的に、APPSwマウスの右海馬内に埋め込み(ブレグマに対する座標:前後軸=−2.7mm,内外方向=−3.0mm,及び背腹方向=−3.0mm)、シアノアクリレートで所定の位置にセメント固定した。200μLの100μg/mLヤギIgGまたは抗TTR抗体(C−20,Santa Cruz)を含む浸透圧ポンプ(Alzet)を、皮下の中肩甲部(mid-scapular)領域内に挿入した(流速0.5μL/時間)。処理液を、150mM NaCl、1.8mM CaCl2、1.2mM MgSO4、2.0mM K2HPO4、及び10.0mMグルコースを含有する人工CSF(pH7.4)中で希釈した。頭皮を縫合し、マウスをそのホームケージに戻した。2週間後、ヤギIgG及び抗TTR注入マウスを致死させ、速やかに心臓を介して氷冷PBSを、その後4%PFAを、灌流した。
【0091】
(立体解析学)
4例のヤギIgG及び4例の抗TTR抗体注入マウスを、海馬全体を50μmの厚さで切片にした。第6切片毎にクレシルバイオレットで染色し、CA1錐体ニューロン野内の健常な核およびインタクトな核を有するニューロンを、光学的分画採取(fractionator)技術(West及びGundersen,1990)を用いて計測した。凝集したクロマチンを保有するCA1錐体ニューロン野内の細胞を個々に計測した。計測は、Zeiss Axioplan 2顕微鏡(Gottingen,Germany)において1000×倍率で行った。各光学的解剖器具は、拡張排除ライン(extended exclusion line)、19μmの高さ、ならびに3μmの上部及び下部ガードゾーンを有する30×30μm計算盤から構成された。ニューロン及び核濃縮細胞の総計測数は、CA1全体の体系的無作為試料採取から、Microbrightfield Stereo Investigatorソフトウェア(Colchester,VT)を用いて得た。
【0092】
(統計学的解析)
示したすべての実験データは、少なくとも3回繰返したものとした。結果を平均±SEMとして示す。特に記載のない限り、統計学的有意性は、対応のない(unpaired)両側スチューデントt検定を用いて決定し、p値<0.05を有意であるとみなした。
【0093】
(実施例2−Aβは、器官型海馬培養物においてニューロン死を誘導する)
器官型海馬培養物は、海馬の構造を維持し、成熟シナプス特性、例えば、別途(Bahr,J.Neurosci.Res.,42:294−305(1995)及びMullerら、Brain Res.Dev.Brain Res.,71:93−100(1993))記載のような長期増強作用を有するシナプス結合を含んだ。典型的には胚の脳に由来する解離培養物と比べ、薄片は、インタクトな成体脳のより関連性のあるモデルを表す。したがって、このモデルを用い、sAPPαによるAβ誘導性のニューロン毒性および保護を試験した。2週間後、培養状態で、アンモン角(CA)ニューロン野は保存され、分裂後期ニューロンマーカーNeuNで陽性に染色された。
【0094】
エチジウムホモ二量体(EthD−1)は、インタクトな原形質膜を有する生細胞から消去される膜不透過性DNA結合色素である。カルセインAMは、機能性細胞内エステラーゼを有する生細胞において蛍光を発する細胞不透過性色素である。リバースAβで処理した生薄片をEthD−1及びカルセインAMとともにインキュベートすると、海馬のニューロン野内の多くのニューロンがカルセインAMに対して陽性に染色されたが、EthD−1で陽性に染色されたのはほんの少数であった。しかしながら、25μMもしくは50μM Aβのいずれかでの処理により、膜完全性を失ったニューロン(EthD−1陽性)の数の劇的な増加がもたらされた。
【0095】
ニューロン死と一致して、リバースAβではなく、25μMもしくは50μM Aβいずれかでの処理によりDNA鎖破断がもたらされ、これは、TUNELによって示された。レーザー走査共焦点システムからの透過イメージにより、TUNEL陽性細胞はニューロン野内に位置することが示された。最後に、アポトーシスの割合を、Nissl染色した薄片のCAニューロン野内で測定した(図1)。健常なニューロンでは、クロマチンが分散し、クレシルバイオレットで強く染色されなかった。しかしながら、アポトーシスの重要な特徴であるクロマチンの凝集が起こった死滅中の細胞では、強い染色が観察された。25μMもしくは50μM Aβでの処理により、クロマチンの凝集を伴うニューロンの割合の有意な増加がもたらされた。1nM sAPPαでの48時間の前処理により、Aβ誘導性TUNEL染色および核濃縮が抑制された(図1)。
【0096】
(実施例3−Aβはタウリン酸化を誘導する)
モノクローナル抗体AT8は、時として、対合したらせん状のフィラメント(PHF)として凝集するリン酸化タウを認識する。そのエピトープは、アミノ酸202にリン酸化セリンを含む。AD患者内の多くのニューロンは、AT8抗体によって認識されるPHFを含有する。ビヒクル及びリバースAβ処理海馬薄片は、門部周囲および放射線維層内の一部の細胞のAT8染色を示した。また、これらの細胞の一部は、マウスIgGを一次抗体として用いた場合、陽性に染色され、この染色が、非特異的抗原の存在またはマウスIgG様タンパク質の発現によるものであり得ることを示す。しかしながら、対照マウスIgGでは、海馬のニューロン野内での染色は起こらなかった。AT8抗体での染色では、ビヒクルまたはリバースAβ処理薄片のCAまたは歯状回海馬のニューロン野において、陽性に染色されたニューロンはほとんどもたらされなかった。対照的に、25μM Aβまたは50μM Aβで処理した場合、海馬のニューロン野内の多くのニューロンがAT8陽性であった。これらのニューロンはまた、EthD−1でも陽性に染色され、Aβ誘導性細胞の損傷を示す。AT8染色により、AD患者において起こるタウ病理と類似するタウのニューロン細胞体および樹状細胞での再分布が示された。さらに、多くのAT8陽性ニューロンにより、ニューロンの変性と一致する数珠状形成(beaded)プロセスが示された。sAPPαでの前処理により海馬のニューロン野内でのAβ誘導性AT8染色が抑制された。
【0097】
トレオニン231においてリン酸化されたタウに関して陽性のニューロンを含むビヒクルまたはリバースAβ処理薄片はなかった。しかしながら、25μM Aβまたは50μM Aβで処理した薄片では、いくつかのニューロンがその細胞体内および過程(process)においてホスホ−タウ(Thr−231)に対して陽性に染色された。これらのニューロンはまた、ニューロンの変性を示す広範性のNeuN染色および濃縮した核を有した。1nM sAPPαでの前処理により、ホスホ−タウ(Thr−231)のAβ誘導性蓄積が抑制された。ホスホ−タウ(Thr−231)に関するイムノブロットを、50μM リバースAβ、50μM Aβ、及び1nM sAPPα+50μM Aβで処理した薄片において行った。各処理には、4例の動物に由来する16個の薄片を含めた。免疫組織化学結果と同様、50μM Aβでの処理により、海馬薄片内でのリン酸化タウのレベルが増大した。Aβ誘導性タウリン酸化は、1nM sAPPαでの前処理によって抑制された。電子顕微鏡検査により、50μM Aβで処理した海馬薄片由来のいくつかのニューロンの細胞質内で、長いまっすぐなフィラメントの存在が示された。フィラメントの多くは対合しており、直径が約15〜29nmで、多くの場合、凝集したクロマチンを伴う断片化された核に隣接して観察された。一部の対合したフィラメントは、早期もつれ形成と一致して、約60〜120nmの周期性で捩れていた。これらのフィラメントは、50μM リバースAβで処理した薄片においては観察されなかった。
【0098】
高レベルのAβは、マウス海馬薄片において、タウリン酸化、対合したフィラメントの形成、及びニューロン死を誘導した。しかしながら、変異型APPを過剰発現し、マイクロモルレベルのAβを含むマウスは、これらの病理を発現しない。これが神経保護性ポリペプチドの発現によるものであるか否かを調べるため、APPSwを過剰発現するマウス系統を調べた。
【0099】
(実施例4−神経保護性遺伝子およびポリペプチドは、老齢APPSwマウスでは増加しているが、AD患者では増加していない)
ADにおける遺伝子発現レベルとは対照的に、数種類の成長因子およびトランスチレチン(TTR、アミロイド分離(sequestration)ポリペプチド)のmRNAレベルは、12ヶ月齢APPSwマウスにおいて上方調節される(表1)。簡単には、12ヶ月齢の雄非トランスジェニック(n=2)マウス及びAPPSwマウス(n=2)由来の海馬を、本明細書に記載のオリゴヌクレオチド解析用に加工処理した。変化の平均倍数を2×2クロス(cross)から算出し、有意に変化した遺伝子を、各比較でウィルコクソンのサインランク検定を用いて調べた。p値<0.001を有するプローブセットを増大/減少と称し、0.001<p値<0.005の範囲のp値を有するプローブセットをわずかに増大/減少と称し、残りのプローブセットを変化なしと称した。変化なし=0、わずかな増大/減少=1/−1、及び増大/減少=2/−2であるさらなるレベルのランキングを用いて多数の比較を組み入れた。最終のランクは、4つの比較のランクの合計に等しいものであり、該値は、−8〜8までで異なった。増大または減少した遺伝子発現の最終の測定値のカットオフ値は、増大した遺伝子ではランク≧4及びFC≧1.5、ならびに減少した遺伝子ではランク≦−4及びFC≦−1.5と設定した。
【0100】
インスリン様成長因子2は、APPSwマウスにおいて、6ヶ月齢(プラーク前;Stein及びJohnson,J.Neurosci.,22:7380−7388(2002))ならびに12ヶ月齢(プラーク後;表1)の両方で上方調節される。12ヶ月齢では、インスリンは、APPSwマウスの海馬内で11倍上方調節される(表1)。IGF−2及びインスリンの両方が、IGF−1受容体に結合し得、BADリン酸化において最高点に達する生存経路を活性化し得る。
【0101】
【表2−1】
【0102】
【表2−2】
【0103】
【表2−3】
【0104】
【表2−4】
【0105】
タンパク質レベルでは、12ヶ月齢APPSwマウスは、海馬の細胞外空間および特にニューロン野周囲で、劇的に増大したレベルのTTR及びIGF−2を有した。また、IGF−2は、一部のニューロンの周囲およびニューロン過程に局在する。BADは、その非リン酸化状態においてプロアポトーシス性ポリペプチドである。しかしながら、セリン112または136においてリン酸化されると、BADポリペプチド類は、14−3−3タンパク質に結合し、抗アポトーシス性BCL−2ファミリーメンバーであるBCL−2及びBCL−XLを放出する。ホスホ−BAD(112)の免疫組織化学により、非トランスジェニック対照と比較した場合、海馬のニューロン野のNeuN陽性ニューロン内での増加が示された。対照的に、海馬のニューロン内の全BADのレベルは、非トランスジェニックとAPPSwマウスとの間で変化はなかった。
【0106】
ADでは、これらの変化の多くは起こらず、実際は、反対であり得る。例えば、全BADのレベルは、AD側頭皮質内で増加し得る(Kitamuraら、Brain Res.,780:260−269(1998))。他方において、免疫組織化学により、海馬の錐体ニューロン内において、対照(n=5)とAD(n=6)患者との間で変わらない全BADのレベルが示された。IGF−2レベルは、海馬のニューロン野の錐体ニューロンの周囲で検出可能であり、対照とAD患者との間で一貫して異ならなかった。TTRレベルは、AD患者のCSF内で低下していることが示されている(Serotら、J.Neurol.Neurosurg.Psychiatry,63:506−508(1997))。TTRは、死後脳の免疫組織化学によって検出したとき、対照またはAD患者の海馬のニューロン野内または周囲でほとんどないし全く観察されなかった。しかしながら、TTR沈着物は、すべてのAD患者の海馬内で多くのAβプラークと同時局在した。AD患者においてAβプラークを染色するIGF−2及び対照ヤギIgGは、いずれも観察されなかった。また、AD患者の海馬内のまばらに存在するニューロンには、TTRと同時局在する高レベルの細胞内Aβが含まれた。垂直な切片により、AβとのTTRの明確な同時局在が示された。これらの結果は、5例の対照(平均年齢=71.4±2.9歳)及び6例のAD患者(平均年齢=77.3±3.8歳)から得られたものを代表する。
【0107】
(実施例5−sAPPα駆動型の遺伝子およびポリペプチド発現)
マウスモデルとヒトADとの大きな違いの1つは、完全長APPの過剰発現であり、これは、マウスにおいて5倍またはそれ以上であり得る(Hsiaoら、Science,274:99−102(1996))。したがって、ADの場合と異なり、APPのすべての切断生成物は、おそらく、変異型APPを過剰発現するマウスモデルにおいて上方調節される。本明細書において示すように、sAPPαは、Aβ誘導性タウリン酸化およびニューロン死を防御し得る。したがって、APPSwマウスにおける高レベルのsAPPαは、神経保護性TTR、IGF−2、及びホスホBADの増大レベルの一因であり得る。
【0108】
簡単には、4例のAPPSwマウス及び4例の非トランスジェニック対照に由来の切除された海馬を、溶解バッファー(50mM Tris、150mM NaCl、1mM EDTA、1%NP40、1M PMSF、3mMベンズアミジン、200μMロイペプチン、20μMアプロチニン、100μMオルトバナジン酸ナトリウム、2mMジチオトレイトール)中で個々にホモジナイズした。12000×gで10分間遠心分離した後、可溶性画分を採取した。全タンパク質レベルを、ビシンコニン酸(BCA)比色アッセイ(Pierce,Rockford,IL)を用いて測定した。SDS−還元バッファー(50mM Tris、10%グリセロール、2%SDS、0.1%ブロモフェノールブルー、pH 6.8)を組織ライセートに添加し、試料を95°Cまで10分間加熱した。1ウェルあたり50μgの全タンパク質を載置し、7.5%SDS−PAGEゲル上で分離した。ゲルをポリビニリデンジフルオリド膜に移し、膜を、sAPPαに対するモノクローナル抗体である6E10(Chemicon)の1:200希釈物を用いてイムノブロッティングした。ホースラディッシュペルオキシダーゼ−コンジュゲート抗マウスIgG抗体(1:2000)及びSuperSignal West Pico化学発光性基質(Pierce)を用いてバンドを可視化した。バンドを、Molecular Dynamics 300 A Computing Densitometer(Sunnyvale,CA)を用いて定量した。海馬のsAPPα濃度を推定するため、標準曲線をsAPPαに関して作成し、23μLの推定マウス海馬容積を用いた(海馬の重量に対して)。
【0109】
非トランスジェニックマウスは、海馬内で事実上、検出不可能なレベルのsAPPαを有することがわかったが、APPSwマウスは、有意に高い量を有した(図2)。4G8抗体は、完全長APP及びAβに結合するが、sAPPαには結合せず、図2に示すようなバンドは認識しない。しかしながら、APPSwマウスにおいて、完全長APPを表す約130kDaにおける弱いバンドが、6E10及び4G8抗体によって認識された。このバンドは、sAPPαのバンドと比べて弱く、APPの大部分がα−またはβ−セクレターゼによって切断されることを示す。イムノブロッティングを用い、APPSwマウス海馬内のsAPPαの平均濃度は、1.2±0.7μMであると測定された。
【0110】
次に、器官型海馬薄片をビヒクルまたは1nM sAPPαで24時間処理し、RNAを単離し、オリゴヌクレオチドマイクロアレイ解析を行った。試料は、ビヒクル(n=3)またはsAPPα(n=3)で処理した薄片で構成されるものであった。各試料は、4例の動物由来の8〜12個の薄片をプールしたものとした。変化の平均倍数を3×3比較から算出した。sAPPαでの処理により、45個の遺伝子およびESTの発現レベルにおける有意な増加(ランク≧9)がもたらされた(表2)。sAPPα処理によって有意に減少した遺伝子またはESTはなかった。成体APPSwマウスと同様に、ttrは、最大倍数変化(8.9倍)を伴う遺伝子の1つであった。また、igf−2及びインスリン様成長因子結合タンパク質2(igfbp2)のmRNAレベルは、sAPPαによって増大した。アポトーシス阻害、解毒およびレチノール輸送などの保護経路に関与する数種類の他の遺伝子が、sAPPαによって上方調節された(表2)。
【0111】
【表3−1】
【0112】
【表3−2】
【0113】
免疫組織化学により、1nM sAPPα処理海馬薄片の細胞外空間内で、TTR及びIGF−2の両方における劇的な増加が示された。ポリペプチドレベルは、海馬のニューロン野周囲で最高のようであった。IGF−2における増大と一致して、及び成体APPSwマウスと同様に、ホスホBADのレベルは、sAPPα処理海馬薄片のNeuN陽性ニューロン内で増大した。
【0114】
海馬薄片培養物においてsAPPα処理によって増大した遺伝子の相対発現レベルを、6ヶ月齢および12ヶ月齢の非トランスジェニック及びAPPSwマウスの発現プロフィールとともにクラスター化した。自己組織化マップ(SOM)のクラスター化により、4つのクラスターが得られた。クラスター4(図3、右下パネル)は、ビヒクル処理薄片、6ヶ月齢対照マウス及び12ヶ月齢対照マウスにおいて低発現レベルを、ならびにsAPPα処理薄片、6ヶ月齢APPSwマウス及び12ヶ月齢APPSwマウスにおいて高発現レベルを有する遺伝子およびEST類を含む。したがって、これは、sAPPαによってエキソビボ及びおそらくインビボで増大する遺伝子のクラスターである。このクラスター内の遺伝子としては、ttr、igf−2、及びigfbp2が挙げられる(図3)。
【0115】
(実施例6−TTR及びIGF−2はAβ毒性に対するsAPPα誘導性保護に関与する)
器官型海馬培養物を、エチジウムホモ二量体(EthD−1)及びカルセインAMで処理し、ともにインキュベートした。Aβ誘導性EthD−1染色を海馬のニューロン野のNeuN陽性ニューロン内で行った。ここで、各蛍光プローブで染色された細胞の数を計測し、EthD−1陽性であり、したがって膜完全性を失った細胞のパーセントとして示した(%死滅;図4)。25μMまたは50μM Aβいずれかでの処理により、50μMリバースAβ処理と比べ、死滅のパーセントにおける劇的な増加がもたらされた。1nM sAPPαでの48時間の前処理は、Aβ誘導性死を完全に防御した。Aβとともに添加したとき、3μM TTRもまたAβを完全に防御したが、500nM IGF−2の外的添加はAβを一部防御した(図4A)。さらに、sAPPαのCOOH末端の17アミノ酸を認識する抗体(抗体6E10)の添加により、sAPPαの保護効果が抑制された。この領域は、Aβ配列の一部を含み、α−セクレターゼ対β−セクレターゼによって切断されるAPPに特有である。また、この配列の部分に対応する10アミノ酸断片での処理により、sAPPαの保護効果が模倣される(図4A)。
【0116】
TTR及びIGF−2はともに分泌タンパク質であるため、これらに対して生成させた抗体を添加することにより、これらの機能を妨害することが可能である。sAPPαとの対照ヤギIgGの添加では、Aβに対するsAPPα誘導性保護は妨害されなかった。しかしながら、TTRまたはIGF−2に対して指向される抗体の添加は、sAPPαによる保護を抑制した(図4B)。このことを支持して、TTRまたはIGF−2のsiRNAノックダウンにより、Aβに対するsAPPα誘導性保護が一部抑制された(図4C)。IGF−2は、IGF−1受容体を活性化してBADのリン酸化を引き起こすことにより、細胞を保護し得る。例えば、IGF−1RのsiRNAノックダウンによってもまた、sAPPαによる保護が抑制された(図4C)。すべてのノックダウンを免疫組織化学によって確認し、IGF−2またはIGF−1RのいずれかのsiRNAが、sAPPαによって誘導されるBADリン酸化を抑制した。TTRポリペプチド類またはIGF−2ポリペプチド類のいずれかの阻害またはノックダウンにより保護が有意に阻止されたという事実は、TTRポリペプチド類及びIGF−2ポリペプチド類の両方の誘導が、Aβに対する最大保護に関与することを示す。
【0117】
(実施例7−TTRはAPPSwマウスを神経変性から保護する)
Aβの分離を抑制するための試みにおいて、TTRに対する抗体を、APPSwマウス海馬のCA1領域内に直接注入した。浸透圧ポンプを用い、2週間の期間にわたって抗TTR抗体の連続的な注入を行った。これにより、注入を受けた海馬の細胞外空間内に抗TTR抗体の劇的な沈着がもたらされたが、注入を受けなかった海馬ではもたらされなかった。対照ヤギIgGの注入ではヤギIgG沈着はもたらされなかった。またさらに、抗TTR抗体を注入されたAPPSwマウスは、ヤギIgGまたは注入を受けなかった海馬と比べた場合、海馬のニューロン野内および周囲で著しく増大されたレベルのAβを示した。これは、抗TTR抗体が、AβのTTRポリペプチド結合を破壊し、局所的に増大されたAβ負荷をもたらしたことを示す。抗TTR注入された海馬内の多くのプラークを、Aβ及び抗TTR抗体で同時染色し、APPSwマウスにおいてTTRポリペプチド類がAβプラークにインビボで結合することが示された。非トランスジェニックマウスは、その海馬において、なんら検出可能なTTRポリペプチドを生成または保有しなかった。実際、非トランスジェニックマウス内への抗TTR抗体の注入は、該抗体またはAβのいずれの蓄積ももたらさず、タウリン酸化は検出され得なかった。
【0118】
CA1ニューロン野周囲でAβ蓄積を引き起こすことに加え、抗TTR抗体の注入は、多くのCA1ニューロン内でタウリン酸化をもたらした。AT8抗体に関して免疫陽性のいくつかのニューロンが、抗TTR注入された海馬のCA1野内に存在したが、ヤギIgG注入されたまたは注入を受けなかった海馬では、陽性に染色された細胞はなかった。AT8陽性ニューロンは、多くの場合、変性を示す濃縮した核を含んだ。Thr231においてリン酸化されたタウを認識する抗体もまた、抗TTR注入された海馬においてCA1ニューロンを染色した。これらのリン酸化タウ陽性ニューロンは、ニューロンマーカーNeuNで同時染色された。ホスホ−タウ(Thr231)陽性細胞の数および染色の強度は、ヤギIgG及び注入を受けなかった海馬では改変されなかった。
【0119】
CA1において抗TTR抗体注入後、アポトーシス性細胞が増加し、健常なニューロンの総数が減少したか否かを調べるため、光学的分画装置を用いた不偏立体解析を行った。アポトーシス性ニューロンは、インビボ神経系において72時間以内に消去される(Huら、J.Neurosci.,17:3981−3989(1997))。このことにもかかわらず、2週間のヤギIgGの連続的注入後、濃縮した核を有する一部の細胞をCA1錐体ニューロン野内で計測した。抗TTR抗体の注入により、CA1内の濃縮した核を有する細胞の総数が有意に増大した(表3及び図5A)。対照として、注入なしの対照マウスでは、濃縮核の細胞は観察され得なかった。ニューロンのアポトーシスの増大と一致して、CA1錐体ニューロンの総数は、ヤギIgGを注入されたマウスと比べ、抗TTR抗体を注入されたマウスにおいて17.1±5.3%有意に減少した(表2及び図5B)。
【0120】
【表4】
【0121】
要約すると、ADは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の異常なプロセッシング及びβ−アミロイド(Aβ)の蓄積によって引き起こされ得る。しかしながら、変異型APPを過剰発現するマウスは、そのヒト疾患の特徴であるタウリン酸化またはニューロン減少を示さない。本明細書に記載のように、Aβ処理によってタウのリン酸化およびニューロン死がもたらされるようにマウス海馬のエキソビボモデルを開発した。対照的に、α−セクレターゼ切断APP(sAPPα)は、これらのAβ誘導性病理を防御し、いくつかの神経保護性遺伝子の発現レベルを増大させる。トランスチレチン及びインスリン様成長因子2のsAPPα駆動型発現は、器官型海馬培養物におけるAβ誘導性ニューロン死に対する防御に関与する。APPSwを過剰発現するマウスの海馬内へのトランスチレチンに対する抗体の長期注入により、Aβの増加、タウリン酸化、ならびにCA1ニューロン野内でのニューロン減少及びアポトーシスがもたらされる。したがって、トランスチレチンの発現の上昇は、sAPPαによって媒介され、ADにおいて観察される多くの神経病理の発現からAPPSwマウスを保護する。このモデル系は、インタクトな脳の構造および化学をより厳密に表し、凝集したAβが、ADの主要な病理学的特徴のいくつかを誘導し得ることを示した。また、本明細書において提供される薄片培養物により、科学者達が、Aβにより内生タウのリン酸化およびニューロン死をもたらされる正確な機構を探求することが可能となり得る。
【0122】
また一方、Aβは、タウリン酸化およびアポトーシスをマウス海馬のエキソビボモデルにおいて誘導する能力がある。これらの病理はまた、Aβ−結合タンパク質TTRに対して指向される抗体をAPPSwマウス内に注入した場合、インビボでも観察される。本明細書に提示する結果は、sAPPα代用(replacement)またはsAPPα誘導経路の活性化は、Aβの毒性およびADの発症の抑制を補助し得ることを示す。
【0123】
(実施例8−成体ヒト由来の器官型皮質培養物において誘導された神経病理学および保護)
(被験体)
難治性癲癇を有し、側頭葉切除を受けるために選出された4例の患者を、この試験のために集めた。これらの患者は、多くの場合、硬化症を伴う海馬を有する。しかしながら、上に重なっている側頭皮質は正常である。被験体の年齢は、20〜49歳の範囲であった。脳組織は、すべての患者からインフォームドコンセントを伴って入手した。
【0124】
(ヒト器官型培養物)
脳組織を、大きなインタクトな一部分において電気焼灼器によって取り出した。側頭皮質から得た組織は、およそ3cm×2cm×1.5〜2cmであった。取り出した直後、組織を、CO2非依存性移送保持用培地である氷冷Neuregen−I培地(Brainbits,Springfield,IL)中に入れ、組織培養研究室に移送した。各脳回ができるだけインタクトに維持され、皮質層が保存されるように、メスで組織を切断して約0.5〜1cm3塊を作製する前に髄膜を除去した。前述のように、切除は、脳回の長軸に対して垂直に白質に沿って行った(Verwerら、Exp.Gerontol.,38:167−172(2003))。ビブラトームを用い、脳回の長軸に対して垂直な平面で400μm厚の薄片を切断した。したがって、すべての皮質層および少量の白質が薄片内に含まれた。あるいはまた、海馬から通常通りに得た小組織片を、Mcllwainティッシュチョッパーを用いて400μmに切断した。2つ以下の薄片を、6ウェル培養プレート内に保持した30mm直径および0.4μmフィルター孔サイズを有するフィルターインサート(Millipore,Billerica,MA)上に配置した。最初の12時間は、薄片を、B−27サプリメント、0.5mMグルタミン及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を含む1〜1.2mLのNeurobasal培地中に維持した。続いて、培地を2日毎に、抗生物質を含まない1mLの培地を用いて交換した。器官型培養物を加湿インキュベーター内に、37℃で5%O2、5%CO2及び90%N中、4〜28日間維持した。
【0125】
細胞死および生存能力を、生薄片において、Molecular Probes’ Live/Dead Kitの蛍光プローブを用いて測定した。カルセインAM(1:400)及びエチジウムホモ二量体(1:1000)含有リン酸緩衝生理食塩水中で40分間のインキュベーション後、薄片をNikon Diaphot 200倒立顕微鏡により200×倍率で、Bio−Rad MRC−1024 Laser Scanning Confocalシステム(Hercules,CA)を用いて可視化した。無作為の画像を、各プローブの発光スペクトルにおいて取り込み、Scion Imageソフトウェア(Frederick,MD)を用いて生細胞および死細胞の数を定量した。少なくとも3つの領域をイメージングし、各薄片について死滅のパーセントを調べた。死滅のパーセントは、EthD−1陽性細胞の数をEthD−1及びカルセインAM陽性細胞の総数で除算して算出した。
【0126】
(処理)
β−アミロイド1〜42及びリバースAβ(Aβ42〜1)を、BACHEM(Torrance,CA)から入手した。これらのペプチドを0.1%NH3OHに222μMで溶解した。処理のため、AβまたはリバースAβを50μMで、B−27サプリメント及び0.5mMグルタミンを加えたNeurobasal培地中に37℃にて24時凝集させた。次いで、薄片培養培地を除去し、薄片を、1mLの25μMもしくは50μMのAβ、リバースAβまたはビヒクルで24時間処理した。ヒトTTR(Calbiochem)を、Aβ処理とともに薄片に0.03、0.3及び3μM TTRの最終濃度で添加した。sAPPαはSigma(St.Louis,MO)から入手した。特に記載のない限り、すべてのsAPPα処理は、1nMで、Aβの添加前に48時間行った。sAPPαのカルボキシル末端領域の10アミノ酸断片(APP695の592〜601;SEVKMDAEFR)を、sAPPαと同じプロトコルに従って付加した。各患者から異なる量の組織を得たため、すべての患者に対してすべての処理を行ったとは限らなかった。
【0127】
(TUNEL染色による細胞死の検出)
皮質薄片の凍結切片を、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ−媒介型dUTPニック末端標識(TUNEL)及び抗NeuN抗体で染色した。DNA断片化を有する細胞を、DNA内へのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)−12−dUTPのターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ取込みによって調べた(In Situ Cell Death Detectionキット、Roche Biochem,Indianapolis,IN)。600×倍率での共焦点解析によって、薄片1つあたり少なくとも3つの無作為の画像を作成した。次いで、TUNEL陽性、NeuN陽性、ならびにTUNEL及びNeuNの両方が陽性の細胞の数を定量した。
【0128】
(免疫組織化学)
薄片を4%PFA中に20分間固定し、30%スクロース含有リン酸緩衝生理食塩水中で一晩インキュベートし、OCT包埋培地中で凍結させた。10μmの幅を有する凍結切片を各薄片から採取した。リン酸化されたタウを、モノクローナルAT8抗体(1:200;Research Diagnostics,Flanders,NJ)及び抗ホスホ−タウ(Thr231)(1:500;Calbiochem,San Diego,CA)により検出した。対照として、免疫前ウサギまたはマウスIgG(Vector Laboratories,Burlingame,CA)を一次抗体の代わりに用いた。ビオチン化抗ウサギIgGまたは抗マウスIgGを二次抗体として用いた。Vectastain Elite ABCキット(Vector)及びAlexa Fluor 488または568(Molecular Probes,Eugene,OR)のいずれかにコンジュゲートさせたチラミドを、抗体染色を可視化するために使用した。抗NeuN(1:250;Chemicon International,Temecula,CA)を、Alexa Fluor 647にコンジュゲートさせた抗マウスIgG二次抗体とともに用い、ニューロンマーカーNeuNを検出した。Bio−Rad Laser Scanning Confocalシステムまたはエピ蛍光(Zeiss,Thornwood,NY)のいずれかを用いて切片をイメージングした。
【0129】
(統計学的解析)
結果を平均±SEMとして示す。統計学的有意性は、対応のない両側スチューデントのt検定を用いて決定し、p値<0.05を有意であるとみなした。
【0130】
(結果)
成体ヒトの側頭皮質由来の薄片を、培地中に4〜21日間維持した。エチジウムホモ二量体(EthD−1)は、インタクトな原形質膜を有する生細胞から消去される膜不透過性DNA結合色素である。カルセインAMは、機能性細胞内エステラーゼを有する生細胞において蛍光を発する細胞不透過性色素である。培養状態で最初の3日間に、多数のEthD−1陽性細胞が対照薄片において観察された。これらは、おそらく、外科処置またはその後の薄片化の際に損傷された細胞である。第4日までに、EthD−1陽性細胞の割合は、平均レベル20%に低下した。多数のカルセインAM陽性細胞が、培養中の21日間に存在した。カルセインAM細胞の大部分は直径がおよそ20μmであった。また、多くの細胞がニューロンマーカーNeuNで陽性に染色され、大きな皮質ニューロンの存在を示す。
【0131】
薄片にてADをモデル化する試みにおいて、薄片を凝集させたAβで処理した。50μM Aβでの処理により、膜完全性を失った細胞の数の劇的な増加がもたらされた。1nM sAPPαで48時間の前処理により、Aβ誘導性EthD−1染色が抑制された。50μM Aβでの処理により、死滅のパーセントが有意に増大され、一方、1nM sAPPαでの前処理により、Aβ誘導性死が有意に防御された(図6A)。sAPPαのCOOH末端領域に対応する10アミノ酸断片もまた、4例の被験体において有意な保護を示した(p値<0.05;図6A)。また、1例の被験体由来の試料を、4アミノ酸断片(DAEF;配列番号:2)で処理した。この断片は、50μM Aβ毒性を防御した(図6A)。
【0132】
また、50μM Aβでの処理により、DNA鎖破断がもたらされ、これは、TUNELによって示された。これらのTUNEL陽性細胞の多くは、NeuNで同時標識された。1nM sAPPαでの前処理により、TUNEL陽性ニューロンにおいてAβ−誘導性の増加が抑制された。
【0133】
TUNELに対して染色されたNeuN及びTUNEL陽性細胞の合計の割合(%TUNEL)を1例の被験体について定量した。また、NeuN及びTUNELで同時染色された全NeuN陽性細胞の割合を調べた(図6B)。全TUNEL陽性細胞の割合およびTUNEL陽性であるニューロン割合はともに、Aβでの処理後に増大した(図6B)。
【0134】
TTRポリペプチド発現はsAPPαによって誘導され、Aβ毒性からの保護に関与する。0.3または3μM TTRポリペプチドでのヒト皮質薄片の同時処理は、Aβ誘導性EthD−1染色を防御したが、0.03μM TTRポリペプチドでは防御されなかった(図6C)。
【0135】
モノクローナル抗体AT8は、Ser202においてリン酸化されたタウを認識し、ADにおける早期および成熟もつれを染色するために一般に使用されている。50μM リバースAβで処理した皮質薄片は、AT8陽性細胞を全く保有しなかった。しかしながら、50μM Aβでの処理では、早期タウ病理に特徴的な細胞体樹状突起の再分布を伴ういくつかのAT8陽性細胞がもたらされた。50μMリバースAβで処理した薄片は、NeuN陽性細胞の過程(process)内で、Thr231においてリン酸化された一部のタウを示したが、細胞体では示されず、タウの通常な分布と一致した。対照的に、50μM Aβでの処理では、高レベルの体性ホスホ−タウ(Thr231)を有するいくつかのNeuN陽性ニューロンがもたらされた。1nM sAPPαでの前処理により、Aβ誘導性タウリン酸化が抑制された。また、50μM Aβで1週間処理した薄片の電子顕微鏡検査では、樹状突起に見られるもつれ様構造を有する少数のニューロンが示された。
【0136】
要約すると、これらの結果は、癲癇患者から取り出した皮質組織は、器官型薄片培養物として21日間まで維持され得ること、およびヒト皮質のAβ処理は、細胞膜完全性の減損、ニューロンのDNA断片化およびタウリン酸化をもたらすことを示す。Aβは、タウリン酸化、およびもつれ様構造が電子顕微鏡検査によって確認され得るニューロンの細胞体樹状突起の区画に対する再分布を誘導した。sAPPαでの前処理により、これらの神経変性変化が抑制された。この保護は、10アミノ酸sAPPα断片によって模倣される。また、TTRポリペプチドそれ自体が、正常ヒトCSFにおいて見られるTTR0.3μM以上の濃度でAβ毒性を防御し得る(Schwarzmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.,91:8368−8372(1994))。これらの結果は、脳においてsAPPα、sAPPαの断片および/またはTTRポリペプチドの量が増加することにより、ADの発症が遅滞または予防され得ることを示す。これらの結果はまた、Aβが、ヒト薄片培養物において、ADと関連する神経変性を誘導し得ることを示す。開発したこのエキソビボモデルは、組織が、(a)動物ではなくヒトである、(b)胚性、胎児性または早期生後ではなく成体である、(c)切除されたものではなくインタクトである、および(d)トランスジェニック、不死化または腫瘍性ではなく遺伝子学的に正常であるという点において、他のモデルと比べ、ADに対して特に重要である。
【0137】
(実施例9−マウス海馬薄片培養物におけるポリペプチド保護)
(海馬の器官型培養物)
C57B6/SJLマウスの子に対し、生後第15日に麻酔して断頭した。脳を取り出し、氷冷解離培地(50%最少必須培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)、50%ハンクス平衡塩溶液(Invitrogen)、25mM HEPES、及び36mMグルコース)中に入れた。両方の海馬を解剖顕微鏡下で解剖し、Mcllwainティッシュチョッパーにて400μmに切断した。薄片をばらばらにし、6ウェル培養プレート内に保持した30mm直径および0.4μmフィルター孔サイズを有するフィルターインサート(Millipore,Billerica,MA)上に配置した。最初の3日間、薄片を、B−27サプリメント、1mMグルタミン及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を加えたNeurobasal培地中に維持した。続いて、抗生物質を含まない培地を用い、培地を3日毎に交換した。器官型培養物を加湿インキュベーター内に、37℃で5%O2及び5%CO2中、14〜21日間維持した。
【0138】
細胞死および生存能力を、生薄片において、Molecular Probes’ Live/Dead Kitの蛍光プローブを用いて測定した。カルセインAM(1:400)及びエチジウムホモ二量体(1:1000)含有リン酸緩衝生理食塩水中で40分間のインキュベーション後、薄片を、Nikon Diaphot 200倒立顕微鏡により200×倍率で、Bio−Rad MRC−1024 Laser Scanning Confocalシステム(Hercules,CA)を用いて可視化した。ニューロン野の無作為の画像を、各プローブの発光スペクトルにおいて取り込み、Scion Imageソフトウェア(Frederick,MD)を用いて生細胞および死細胞の数を定量した。各薄片について、ニューロン野を含む少なくとも3つの領域をイメージングし、死滅のパーセントを調べた。死滅のパーセントは、EthD−1陽性細胞の数をEthD−1及びカルセインAM陽性細胞の総数で除算して算出した。
【0139】
(処理)
β−アミロイド1〜42及びリバースAβ(Aβ42〜1)を、BACHEM(Torrance,CA)から入手した。これらのペプチドを0.1%NH3OHに222μMで溶解した。処理のため、Aβを50μMで、B−27サプリメント及び1mMグルタミンを加えたNeurobasal培地中で37°Cにて24時間凝集させた。次いで、薄片培養培地を除去し、薄片を1mLの25μM Aβまたはビヒクルで24時間処理した。sAPPαのカルボキシル末端領域に対応するタンパク質断片(Sigma−Genosys,The Woodlands,TXによって合成)を1nMの最終濃度まで、Aβの添加の48時間前に添加した。
【0140】
(結果)
器官型海馬培養物を、エチジウムホモ二量体(EthD−1)及びカルセインAMで処理し、ともにインキュベートした。各蛍光プローブで染色された細胞の数を計測し、EthD−1陽性であり、したがって膜完全性を失った細胞のパーセントとして示した(%死滅、図7)。25μM Aβでの処理により、ビヒクルでの処理と比べ、死滅のパーセントの劇的で有意な増加がもたらされた。1nM のsAPPαのカルボキシル−末端領域の部分に対応する10アミノ酸断片(APP770の667〜676;SEVKMDAEFR(配列番号:1))での48時間の前処理により、Aβ誘導性死が完全に防御された。この防御は、カルボキシルアルギニンを除去した場合(SEVKMDAEF(配列番号:7))、維持された。しかしながら、アルギニンとフェニルアラニンの両方の除去(SEVKMDAE(配列番号:22))では、Aβに対する防御が反転された。アミノ末端の終端において、セリン除去(EVKMDAEFR(配列番号:3))とセリン及びグルタミン酸除去(VKMDAEFR(配列番号:4))の両方を有する断片は、25μM Aβ処理を有意に防御した(図7)。1nMの4アミノ酸断片(DAEF)での海馬薄片の前処理もまた、Aβ誘導性細胞死を防御するのに充分であった(図7)。
【0141】
(実施例10−インビボポリペプチド保護)
以下の実験は、sAPPα及び10アミノ酸断片(SEVKMDAEFR(配列番号:1))が、マウスの海馬内への定位注射により、インビボでAβ誘導性毒性に抗する細胞生存経路を活性化する能力を試験するために行った。乱雑化した(scrambled)形態の10アミノ酸断片を用い、経路活性化が該ペプチド配列に依存性であることを示した。
【0142】
(定位注射)
10週齢B6/SJLマウスの海馬の右側に、sAPPα、10アミノ酸断片または乱雑化した10量体を推定1nM海馬内濃度まで、定位的に注射した。反対側には人工脳脊髄液を注射した。各注射は、10分の間にわたって送達させる1.5mLの溶液で構成した。手術の48時間後、マウスに冷PBSを灌流し、その海馬を切除し、後のRNA抽出用に安定化溶液中で保存した。
【0143】
(量的PCR)
RNAを海馬の試料から抽出し、DNアーゼ処理し、逆転写した。次いで、cDNAを、SYBRグリーンを用いてRoche LightCyclerシステムにおいて行う定量的リアルタイムPCRに使用した。また、各RNA試料の一部を非RT伝統的PCR反応に使用し、DNA侠雑物の不存在を確認した。
【0144】
(免疫組織化学)
注射の48時間後、マウスを4%PFAで灌流した。脳を回収し、半側切除し、4%PFA中で一晩固定した。次いで、これらを30%スクロース中に24時間浸漬し、凍結し、切片にした。注射部位の形態学的確認のため、切片をクレシルバイオレットで染色した。他の切片を、ヤギ抗TTR及びビオチン化二次抗体で染色すると、TTRタンパク質発現、及び核マーカーとしてToPro3が示された。非特異的染色のための対照は、ヤギIgGを用いて行った。
【0145】
(結果)
1nM sAPPα及び10アミノ酸断片はともに、成長因子IGF2及びIGFBP2の発現における増大を誘導し(図8、9及び10)、これにより、Aβ毒性がインビトロで防御され得る。また、sAPPα及び10アミノ酸断片により、処理した海馬内でTTRのレベルの増大がもたらされ、これによって、Aβを分離されることにより毒性が防御され得る。これらの結果は、Aβ毒性に抗する神経保護的経路(例えば、図11を参照)は、マウスにおいてインビボで活性化され得ることを示す。これらの結果はまた、神経保護的経路の活性化が、アルツハイマー病の予防における処置として使用され得ることを示す。
【0146】
(実施例11(予言的)−Aβの効果を低減させる能力に関するインビボまたはインビトロでの化合物の同定)
試験化合物を、インビボまたはインビトロである脳組織に適用する。また、脳組織を、外的に適用するか脳組織内の細胞によって発現されるAβと接触させる。簡単には、培養のための脳組織を得るため、実施例8に記載のようにして、脳組織を大きなインタクトな一部分(ほぼ3cm×2cm×2cm)において電気焼灼器によって取り出す。
【0147】
脳組織を試験化合物と接触させた後、細胞死および/または細胞生存能力を、生薄片で、例えばMolecular Probes’ Live/Dead Kitの蛍光プローブを用いて測定する。カルセインAM(1:400)及びエチジウムホモ二量体(1:1000)含有リン酸緩衝生理食塩水中で40分間のインキュベーション後、薄片を、例えば、Nikon Diaphot 200倒立顕微鏡により200×倍率で、Bio−Rad MRC−1024 Laser Scanning Confocalシステム(Hercules,CA)を用いて可視化する。無作為の画像を、各プローブの発光スペクトルにおいて取り込み、Scion Imageソフトウェア(Frederick,MD)を用いて生細胞および死細胞の数を定量する。各薄片について、少なくとも3つの領域をイメージングし、死滅のパーセントを調べる。死滅のパーセントは、EthD−1陽性細胞の数をEthD−1及びカルセインAM陽性細胞の総数で除算して算出する。場合によっては、細胞死をTUNEL染色によって調べる。簡単には、皮質薄片の凍結切片を、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ−媒介型dUTPニック末端標識(TUNEL)及び抗NeuN抗体で染色する。DNA断片化を有する細胞を、DNA内へのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)−12−dUTPのターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ取込みによって調べる(In Situ Cell Death Detectionキット、Roche Biochem,Indianapolis,IN)。600×倍率での共焦点解析によって、薄片1つあたり少なくとも3つの無作為の画像を作成する。次いで、TUNEL陽性、NeuN陽性、ならびにTUNEL及びNeuNの両方が陽性の細胞の数を定量する。
【0148】
細胞死のパーセントを、試験化合物の不存在下でAβと接触させた対照脳組織で測定された細胞死のパーセントと比較する。Aβのみと接触させた脳組織で観察されるものと比べ、試験化合物およびAβと接触させた脳組織で少ない細胞死が観察されるならば、試験化合物は、Aβの効果を低減させる能力を有し得る。かかる低減の陽性対照は、DAEF含有ポリペプチド(例えば、SEVKMDAEFR(配列番号:1)、SEVKMDAEF(配列番号:7)、EVKMDAEFR(配列番号:3)、VKMDAEFR(配列番号:4)、またはDAEF(配列番号:2))とAβとに接触させた脳組織である。他の対照としては、未処理の脳組織およびβ−アミロイド1〜42またはリバースAβ(Aβ42〜1)で処理した脳組織が挙げられる。
【0149】
試験化合物およびAβと接触させた脳組織で観察された細胞死のパーセントを、DAEF含有ポリペプチド及びAβと接触させた脳組織で観察された細胞死のパーセントと比較することにより、Aβの効果を低減させる試験化合物の有効性を調べる。DAEF含有ポリペプチド及びAβと接触させた脳組織で観察されるものと比べ、試験化合物およびAβと接触させた脳組織で観察される同等または低いレベルの細胞死は、試験化合物がAβの効果の強力なインヒビターであることを示し得る。
【0150】
(実施例12(予言的)−Aβの効果を低減させる能力に関する化合物の同定)
試験化合物を、インビボまたはインビトロである脳組織に適用する。簡単には、培養のための脳組織を得るため、実施例8に記載のようにして、脳組織を大きなインタクトな一部分(ほぼ3cm×2cm×2cm)において電気焼灼器によって取り出す。
【0151】
脳組織を試験化合物と接触させた後、TTR及びIGF−2などの神経保護性ポリペプチドをエンコードする核酸の発現レベルを、該ポリペプチドレベル及び/又はmRNAレベルを測定することにより決定する。簡単には、ELISAを用いて神経保護性ポリペプチド発現のレベルが測定され、一方、RT−PCRまたは発現アレイ技術(例えば、Affymetrix(Santa Clara,CA)から入手可能なアレイ)を用いて、神経保護性ポリペプチドをエンコードする核酸のmRNA発現のレベルが測定される。
【0152】
ポリペプチドまたはmRNAの発現のレベルを、試験化合物と接触させていない対照脳組織について決定された該ポリペプチドまたはmRNAの発現レベルと比較する。対照脳組織で観察されるものと比べて、より少ないポリペプチドまたはmRNA発現が試験化合物と接触させた細胞で観察されるならば、試験化合物は、Aβの効果を低減させる能力を有し得る。かかる低減の陽性対照は、DAEF含有ポリペプチド(例えば、SEVKMDAEFR(配列番号:1)、SEVKMDAEF(配列番号:7)、EVKMDAEFR(配列番号:3)、VKMDAEFR(配列番号:4)、またはDAEF(配列番号:2))と接触させた脳組織である。他の対照としては未処理の脳組織が挙げられる。
【0153】
神経保護性ポリペプチドをエンコードする核酸の発現レベルを増大させる試験化合物の有効性は、試験化合物と接触させた脳組織で観察された発現レベルを、DAEF含有ポリペプチドと接触させた脳組織で観察された発現レベルと比較することにより決定される。DAEF含有ポリペプチドと接触させた脳組織で観察されるものと比べ、試験化合物と接触させた脳組織で同等または高いレベルの発現が観察されることは、試験化合物が、神経保護性ポリペプチド発現の強力な活性化物質であることを示し得る。
【0154】
(実施例13−ポリペプチド類の評価)
図12A及びBは、種々の処理条件下での細胞死のパーセントを示す一組の棒グラフである。図12Aに関して、テトラペプチドDAEF単独およびそのNH2末端の終端上に修飾をしたものは、海馬薄片培養物においてAβ誘導性死に対する防御を示す。
【0155】
各処理での死滅のパーセントを、膜透過性EthD−1陽性細胞の数ならびにカルセインAMで陽性に染色された生細胞の数を計測することにより、生海馬薄片のニューロン野において定量した。データを平均±SEM(1処理あたりn=3〜5薄片)として示す。Aβは、死滅のパーセントの有意な増加をもたらすが、1nMのテトラペプチド(DAEF)は、Aβ誘導性毒性を防御する。アセチル化DAEF(配列番号:2)は、Aβに対する有意な防御を示す。また、テトラペプチド(R(9)−DAEF)のNH2末端の終端への9個のアルギニンの付加により、Aβ誘導性細胞死が有意に防御される。さらに図12Aに関して、# ビヒクルと比べてp値<0.01、* 25μM Aβと比べてp値<0.05、対応のない両側t−検定。
【0156】
(結果)
器官型海馬培養物を、エチジウムホモ二量体(EthD−1)及びカルセインAMで処理し、ともにインキュベートした。エチジウムホモ二量体(EthD−1)は、インタクトな原形質膜を有する生細胞から消去される膜不透過性DNA結合色素である。カルセインAMは、機能性細胞内エステラーゼを有する生細胞において蛍光を発する細胞不透過性色素である。ここで、各蛍光プローブで染色された細胞の数を計測し、EthD−1陽性であり、したがって膜完全性を失った細胞のパーセントとして示した(%死滅、図)。25μM Aβでの処理により、ビヒクルでの処理と比べ、死滅のパーセントの劇的で有意な増加がもたらされた。1nMの該4量体での48時間の前処理により、Aβ誘導性死が完全に防御された。この防御は、NH2末端の終端がアセチル化されている場合(アセチル−DAEF)は維持されたが、この分子は、非修飾テトラペプチドと同程度には防御しなかった。最後に、9個のアルギニンをそのNH2末端の終端上に保有するように修飾したテトラペプチド(R(9)−DAEF)もまた、Aβ処理を有意に防御した。
【0157】
(実験手順)
(海馬の器官型培養物)
C57B6/SJLマウスの子に対し、生後第15日に麻酔して断頭した。脳を取り出し、氷冷解離培地(50%最少必須培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)、50%ハンクス平衡塩溶液(Invitrogen)、25mM HEPES、及び36mMグルコース)中に入れた。両方の海馬を解剖顕微鏡下で解剖し、Mcllwainティッシュチョッパーにて400μmに切断した。薄片をばらばらにし、6ウェル培養プレート内に保持した30mm直径および0.4μmフィルター孔サイズを有するフィルターインサート(Millipore,Billerica,MA)上に配置した。最初の3日間、薄片を、B−27サプリメント、1mMグルタミン及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を加えたNeurobasal培地中に維持した。続いて、抗生物質を含まない培地を用い、培地を3日毎に交換した。器官型培養物を加湿インキュベーター内に、37℃で5%O2及び5%CO2中、14〜21日間維持した。
【0158】
細胞死および生存能力を、生薄片において、Molecular Probes’ Live/Dead Kitの蛍光プローブを用いて測定した。カルセインAM(1:400)及びエチジウムホモ二量体(1:1000)含有リン酸緩衝生理食塩水中で40分間のインキュベーション後、薄片を、Nikon Diaphot 200倒立顕微鏡により200×倍率で、Bio−Rad MRC−1024 Laser Scanning Confocalシステム(Hercules,CA)を用いて可視化した。ニューロン野の無作為の画像を、各プローブの発光スペクトルにおいて取り込み、Scion Imageソフトウェア(Frederick,MD)を用いて生細胞および死細胞の数を定量した。各薄片について、ニューロン野を含む少なくとも3つの領域をイメージングし、死滅のパーセントを調べた。死滅のパーセントは、EthD−1陽性細胞の数をEthD−1及びカルセインAM陽性細胞の総数で除算して算出した。
【0159】
(処理)
β−アミロイド1〜42及びリバースAβ(Aβ42〜1)を、BACHEM(Torrance,CA)から入手した。これらのペプチドを0.1%NH3OHに222μMで溶解した。処理のため、Aβを50μMで、B−27サプリメント及び1mMグルタミンを加えたNeurobasal培地中で37°Cにて24時間凝集させた。次いで、薄片培養培地を除去し、薄片を1mLの25μM Aβまたはビヒクルで24時間処理した。該ペプチド及び修飾ペプチド(Sigma−Genosys,The Woodlands,TXによって合成)を1nMの最終濃度まで、Aβの添加の48時間前に添加した。
【0160】
図12Bは、各処理での死滅のパーセントを、膜透過性EthD−1陽性細胞の数およびカルセインAMで陽性に染色された生細胞の数を計測することにより、生海馬薄片のニューロン野において定量したものを示す。データを平均±SEM(1処理あたりn=3〜5薄片)として示す。Aβは、死滅のパーセントの有意な増加をもたらすが、1nMのテトラペプチド(DAEF、配列番号:2)は、Aβ誘導性毒性を防御する。DのD−異性体[(dD)AEF]、AのD−異性体[D(dA)EF]またはFのD−異性体[DAE(dF)]を含有するテトラペプチド化合物は、Aβ誘導性死を有意に防御しない。交換されたアミノ酸アスパラギン酸およびグルタミン酸およびCOOH−末端に結合させたアミド基(EADF(配列番号:5)−アミド)を有する化合物は、有意にAβ誘導性死を防御するが、NH2−末端上にアセチル基を有するEADF(配列番号:5)配列(アセチル−EADF(配列番号:5))は防御しない。図12Bに関して、# ビヒクルと比べてp値<0.05、* 25μM Aβと比べてp値<0.05、対応のない両側t−検定。
【0161】
(結果)
器官型海馬培養物を、エチジウムホモ二量体(EthD−1)及びカルセインAMで処理し、ともにインキュベートした。エチジウムホモ二量体(EthD−1)は、インタクトな原形質膜を有する生細胞から消去される膜不透過性DNA結合色素である。カルセインAMは、機能性細胞内エステラーゼを有する生細胞において蛍光を発する細胞不透過性色素である。ここで、各蛍光プローブで染色された細胞の数を計測し、EthD−1陽性であり、したがって膜完全性を失った細胞のパーセントとして示した(%死滅、図)。25μM Aβでの処理により、ビヒクルでの処理と比べ、死滅のパーセントの劇的で有意な増加がもたらされた。1nMの該4量体での48時間の前処理により、Aβ誘導性死が完全に防御された。この防御は、アミノ酸D、A及びFの代わりにD−異性体を用いることにより消去された。
【0162】
(実験手順)
(海馬の器官型培養物)
C57B6/SJLマウスの子に対し、生後第15日に麻酔して断頭した。脳を取り出し、氷冷解離培地(50%最少必須培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)、50%ハンクス平衡塩溶液(Invitrogen)、25mM HEPES、及び36mMグルコース)中に入れた。両方の海馬を解剖顕微鏡下で解剖し、Mcllwainティッシュチョッパーにて400μmに切断した。薄片をばらばらにし、6ウェル培養プレート内に保持した30mm直径および0.4μmフィルター孔サイズを有するフィルターインサート(Millipore,Billerica,MA)上に配置した。最初の3日間、薄片を、B−27サプリメント、1mMグルタミン及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を加えたNeurobasal培地中に維持した。続いて、抗生物質を含まない培地を用い、培地を3日毎に交換した。器官型培養物を加湿インキュベーター内に、37℃で5%O2及び5%CO2中、14〜21日間維持した。
【0163】
細胞死および生存能力を、生薄片において、Molecular Probes’ Live/Dead Kitの蛍光プローブを用いて測定した。カルセインAM(1:400)及びエチジウムホモ二量体(1:1000)含有リン酸緩衝生理食塩水中で40分間のインキュベーション後、薄片を、Nikon Diaphot 200倒立顕微鏡により200×倍率で、Bio−Rad MRC−1024 Laser Scanning Confocalシステム(Hercules,CA)を用いて可視化した。ニューロン野の無作為の画像を、各プローブの発光スペクトルにおいて取り込み、Scion Imageソフトウェア(Frederick,MD)を用いて生細胞および死細胞の数を定量した。各薄片について、ニューロン野を含む少なくとも3つの領域をイメージングし、死滅のパーセントを調べた。死滅のパーセントは、EthD−1陽性細胞の数をEthD−1及びカルセインAM陽性細胞の総数で除算して算出した。
【0164】
(処理)
β−アミロイド1〜42及びリバースAβ(Aβ42〜1)を、BACHEM(Torrance,CA)から入手した。これらのペプチドを0.1%NH3OHに222μMで溶解した。処理のため、Aβを50μMで、B−27サプリメント及び1mMグルタミンを加えたNeurobasal培地中で37°Cにて24時間凝集させた。次いで、薄片培養培地を除去し、薄片を、1mLの25μM Aβまたはビヒクルで24時間処理した。該ペプチド及び修飾ペプチド(UW Biotechnology Peptide Synthesis Facility,Madison,WIによって合成)を1nMの最終濃度まで、Aβの添加の48時間前に添加した。
【0165】
(実施例14−海馬内へのポリペプチドの注射)
図13は、海馬内へのsAPPα10量体の定位注射が、正常マウス脳でTTRの発現を誘導することを示す一組の染色の顕微鏡写真を示す。sAPPα由来の1nMのデカペプチドは、以前に、Aβ毒性に抗して器官型海馬薄片培養物を保護することが示されていた。人工脳脊髄液(CSF)で調製した1.5μLの15.3nM溶液の注射を行い、海馬内においての1nMの最終濃度に近似させた。反対側には人工CSFのみを注射し、対照として用いた。TTRの免疫組織化学では、デカペプチドの注射により、反対側のCSF注射海馬(図13A)と比べ、CA1海馬のニューロン(図13B)内および周囲でTTRの量の増大が示された。DNA結合色素ToPro3を用いて核を可視化した(青)。予備データでもまた、sAPPαおよび該4量体の注射によりTTRの増大が示された。
【0166】
(他の実施態様)
本発明を、その詳細な説明に関して説明したが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲に規定される本発明を例示することが意図され、その範囲を制限することを意図しないことを理解されたい。他の態様、利点および変形は、以下の特許請求の範囲の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】表示したポリペプチドで処理した海馬薄片のニューロン野内のNissl染色されたニューロンについてアポトーシスのパーセントをプロットした棒グラフである。データを1処理あたり3薄片の平均±SEMとして示す。*は、50μMリバースAβ処理と比べてp値<0.05を示す。#は、25μM Aβ処理と比べてp値<0.05を示す。
【0168】
【図2】6E10抗体を用いた、トランスジェニック及び非トランスジェニックマウス由来の組織のイムノブロットの写真を含む。図2はまた、sAPPαの相対強度レベルをプロットした棒グラフを含む。値を平均±SEM(n=4)として示す。*は、非トランスジェニックマウスと比べてp値<0.05を示す。
【0169】
【図3】自己組織化マップ(SOM)である。海馬薄片培養物において1nM sAPPαによって有意に増大された(ランク≧9)遺伝子およびESTの発現レベルを、クラスター化し、発現のパターンを特定した。発現パターンは、ビヒクル処理(n=3)及びsAPPα処理(n=3)海馬薄片、6ヶ月齢非トランスジェニック対照(n=3)及びAPPSw(n=3)マウス、ならびに12ヶ月齢非トランスジェニック対照(n=2)及びAPPSw(n=2)マウスにおいて調べた。遺伝子の各クラスターの平均発現レベルを縦座標にプロットしている(白丸)。他方の線(白くない丸)は、各クラスターの標準偏差を示す。クラスター4(右下パネル)は、sAPPα処理によってならびに6及び12ヶ月齢APPSwマウスにおいて上方調節された遺伝子を示す。
【0170】
【図4】図4A、B及びCは、TTR及びIGF−2ポリペプチドがsAPPα誘導型のAβに対する防御に関与することを示す棒グラフである。各処理での死滅のパーセントを生海馬薄片のニューロン野において、膜透過性EthD−1陽性細胞の数ならびにカルセインAMで陽性に染色された生細胞の数を計測することにより定量した。データを平均±SEM(1処理あたりn=3〜5薄片)として示す。図4Aにおいて、生海馬薄片は表示のとおりに処理した。6E10は、sAPPαのCOOH末端領域に対して指向される抗体である。sAPPα断片は、sAPPαの保護効果を模倣することがわかったsAPPαのCOOH−末端断片である(SEVKMDAEFR,配列番号:1)。*は、50μMリバースAβと比べてp値<0.05を示す;#は、50μM Aβと比べてp値<0.01を示す;**は、1nM sAPPα+マウスIgG+25μM Aβと比べてp値<0.05を示す;##は、25μM Aβと比べてp値<0.05を示す。図4Bにおいて、生海馬薄片は、ビヒクル、AβまたはsAPPα+Aβとともに、表示した抗体(ヤギIgG、抗TTRまたは抗IGF−2)で処理した。*は、対応するビヒクル処理薄片と比べてp値<0.01を示す;#は、1nM sAPPα+ヤギIgG+25μM Aβと比べてp値<0.01を示す。図4Cにおいて、生海馬薄片は、ビヒクル、Aβ、またはsAPPα+Aβとともに、TTR、IGF−2またはインスリン様成長因子−1受容体(IGF−1R)配列を標的化するsiRNA分子で処理した。*は、対応するビヒクル処理薄片と比べてp値<0.05を示す;#は、1nM sAPPα+乱雑化したGADPH+25μM Aβと比べてp値<0.05を示す。
【0171】
【図5】図5Aは、ヤギIgG(n=4)及び抗TTR(n=4)注入マウスの、注入を受けたCA1錐体ニューロン野内の濃縮した核を有する細胞の総数をプロットした棒グラフである。*はp値<0.01を示す(両側ウィルコクソンのサインランク検定)。図5Bは、ヤギIgG(n=4)及び抗TTR(n=4)注入マウスにおけるCA1ニューロンの総数をプロットした棒グラフである。*はp値<0.05を示す(両側ウィルコクソンのサインランク検定)。
【0172】
【図6】図6Aは、表示のとおりに処理した皮質薄片での死滅のパーセントをプロットした棒グラフである。各処理での死滅のパーセントを生皮質薄片において、膜透過性EthD−1陽性細胞の数ならびにカルセインAMで陽性に染色された生細胞の数を計測することにより定量した。データを平均±SEM(n=4被験体)として示す。*は、50μMリバースAβと比べてp値<0.05を示す;#は、50μM Aβと比べてp値<0.05を示す。図6Bは、表示した処理での、TUNEL陽性である全細胞のパーセント(%TUNEL)またはTUNEL及びNeuNの両方が陽性であるNeuN陽性細胞のパーセント(%TUNEL/NeuN)をプロットした棒グラフである。データは、単一の被験体のものであり、平均±SEM(1処理あたりn=2〜4薄片)として示す。図6Cは、表示した処理での死滅のパーセントをプロットした棒グラフである。各処理での死滅のパーセントは生皮質薄片において、膜透過性EthD−1陽性細胞の数ならびにカルセインAMで陽性に染色された生細胞の数を計測することにより定量した。データは3例の被験体のものであり、平均±SEMとして示す。
【0173】
【図7】表示した処理での海馬薄片培養物における死滅のパーセントをプロットした棒グラフである。データを平均±SEM(1処理あたりn=3〜7薄片)として示す。#は、ビヒクルと比べたp値<0.01を示す;*は、25μM Aβと比べてp値<0.01を示す;対応のない両側t−検定。
【0174】
【図8】図8は、海馬の処理側および対照側におけるIGFBP2の発現の相対レベルにおける変化倍数をプロットした棒グラフである。レベルをβ−アクチンレベルに対して標準化した。乱雑化実験での試料の数は3であり、一方、他の実験での試料の数は4であった。
【0175】
【図9】海馬の処理側および対照側におけるプロラクチン受容体の発現の相対レベルにおける変化倍数をプロットした棒グラフである。レベルをβ−アクチンレベルに対して標準化した。
【0176】
【図10】海馬の処理側および対照側におけるIGF2の発現の相対レベルにおける変化倍数をプロットした棒グラフである。レベルをβ−アクチンレベルに対して標準化した。
【0177】
【図11】提案される神経保護的経路の図表である。
【0178】
【図12】図12A及びBは、表示した処理での海馬薄片培養物における死滅のパーセントをプロットした棒グラフである。
【0179】
【図13】図13A及びBは、海馬内へのsAPP10量体の定位注射の海馬内へのsAPPαデカペプチドの定位注射後のTTR免疫染色を示す一組の顕微鏡写真である。
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2004年8月11日に出願された米国特許仮出願第60/600,987号、2004年10月22日に出願された同第60/621,596号および2005年1月4日に出願された同第60/641,683号に対する優先権を主張する。すべての出願は、引用により本明細書に組み込まれる。
【連邦政府の支援による研究または開発に関する記載】
【0002】
本発明は、NIHの助成番号ES010042及びES008089により与えられた連邦政府の支援によってなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【発明の背景】
【0003】
一般に、本発明は、Aβの効果(例えば、ニューロン細胞死)の低減に関与する方法および材料に関する。
【0004】
アルツハイマー病(AD)は、β−アミロイド(Aβ)蓄積およびプラーク形成、微小管結合タンパク質タウの異常なリン酸化および凝集、ならびに大量のニューロン減少を特徴とする。ADの遺伝型ならびに充分な動物モデル及びインビトロデータにおいて同定された変異は、ADの発症を誘発する主要な因子として、Aβおよびこれが由来するポリペプチドであるアミロイド前駆体タンパク質(APP)を強く示す(Hardy及びSelkoe,Science,297:353−356(2002))。β−セクレターゼ及びγ−セクレターゼによるAPPの切断によりAβが生成する。α−セクレターゼによるAPPの切断は、Aβ配列内で起こり、したがってAβ形成が妨げられ、一方でNH2末端が生成し、sAPPαと称する分泌ポリペプチドが生成する(Eschら、Science 248(4959):1122−1124,1990)。
【0005】
内生タウのリン酸化およびインビボニューロン減少などの主要なAD神経病理であるAβ誘導は、まだ納得のいく立証がされていない。実際、APPの変異型形態を過剰発現するマウスでは高レベルのAβが蓄積されるが、これらは、ADにおいて観察されるタウリン酸化または深刻なニューロン減少を示さない(Irizarryら、J.Neuropathol.Exp.Neurol.,56:965−973(1997);Irizarryら、J.Neurosci.,17:7053−7059(1997));及びTakeuchiら、Am.J.Pathol,157:331−339(2000))。
【発明の簡単な概要】
【0006】
一実施態様では、本発明は、Aβ効果の低減または抑制に有用な単離されたペプチドであって、該ペプチドは、式A−B−C−Dを含み、式中、Aは、アミノ酸残基D、E、N及びQからなる群から選択され;式中、Bは、アミノ酸残基A、T、S、G及びPからなる群から選択され;式中、Cは、アミノ酸残基E、D、N及びQからなる群から選択され;式中、Dは、アミノ酸残基F及びYからなる群から選択され;該ペプチドは、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制し、及び該ペプチドは、4〜16の間の残基長である。好ましい型では、該ペプチドはポリペプチド安定化単位をさらに含む。
【0007】
別の実施態様では、該ペプチドは、さらにアミノ酸残基をカルボキシ末端またはアミノ末端のいずれかに、前記ペプチドの式が、X−A−B−C−D−Zとなるように含み、式中、X及びZは、DAEFと連続的なsAPPαタンパク質配列由来の残基である。好ましくは、該ペプチドは、DAEF(配列番号:2)、EVKMDAEFR(配列番号:3)、VKMDAEFR(配列番号:4)、EADF(配列番号:5)、SEVKMDAEFR(配列番号:1)、R9DAEF(配列番号:6)、及びacDAEF(配列番号:2)からなる群から選択される。
【0008】
別の実施態様では、本発明は、Aβの効果の低減および抑制に有用な単離されたペプチドであって、該ペプチドは、DAEF(残基597〜600)を含むsAPPα配列の単離された4〜16残基セグメントを含む。
【0009】
別の実施態様では、本発明は、哺乳動物細胞に、Aβの効果が低減または抑制されるような有効量の本発明のペプチドを供給する工程を含む、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制する方法である。
【0010】
別の実施態様では、本発明は、哺乳動物細胞に、ニューロン細胞死が抑制されるような有効量の本発明のペプチドを供給する工程を含む、ニューロン細胞死を抑制する方法である。
【0011】
別の実施態様では、本発明は、Aβの効果を低減させる能力を有する化合物を同定する方法である。脳組織を、Aβペプチドの存在下で試験化合物と接触させる工程およびAβの効果を測定する工程を含み、好ましくは、Aβの効果を低減させる試験化合物の能力を、Aβの効果を低減させる本発明のペプチドの能力と比較する工程をさらに含む。
【0012】
特に定義のない限り、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が関連する技術分野における当業者が一般的に理解しているものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様または等価な方法および材料が、本発明の実施または試験において使用され得るが、好適な方法および材料は下記のものである。矛盾する場合は、定義を含む本明細書に支配される。また、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定を意図しない。
【0013】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な記載から、および特許請求の範囲から自明となろう。
【0014】
本出願書類は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面(1つまたは複数)を有するこの特許出願公開公報の複写は、請求および必要な費用の支払いを行うと、特許庁によって提供される。
【発明の詳細な説明】
【0015】
(概説)
本発明は、Aβの効果、例えば、ニューロン細胞死およびタウリン酸化などを低減または抑制することに関連する方法および材料に関する。例えば、本発明は、ポリペプチド類、ポリペプチド類を含有する組成物、トランスジェニック動物、およびAβの効果(例えば、哺乳動物におけるニューロン細胞死)を抑制するための方法を提供する。かかるポリペプチド類及びポリペプチド類を含有する組成物は、アミノ酸配列を細胞に、Aβの効果が低減または抑制されるように提供するために使用され得る。Aβの効果を低減または抑制することにより、科学者達が、ADの発症においてAβ以外のポリペプチド類の関与を調べることが可能となり得る。また、Aβの効果を低減または抑制することは、臨床医が、ADを患っているかまたはADの発症のリスクがあるヒトを処置することが可能になる。例えば、本明細書において提供されるポリペプチドはAD患者に、未処置のAD患者において典型的に観察されるニューロン細胞死またはタウリン酸化が、処置されたAD患者において低減または抑制されるように投与され得る。
【0016】
以下の本発明のポリペプチドの記載は、Aβの効果を低減または抑制するのに特に有用なsAPPαの特定のポリペプチド断片を我々が見出したことから導かれたものである。このポリペプチドSEVKMDAEFR(配列番号:1)は、sAPPα配列の残基592〜601である。我々は、該10残基ペプチド内の4残基のペプチドDAEFが、それ自体でAβの効果を低減または抑制するのに充分であることを見出した。この出願で使用する残基番号システムは、APP695を基準にしている。Swiss Prot P05067−4を参照。(また、Kangら、Nature 325:733−736,1987;Lemaireら、Nucl.Acids Res.17:517−522,1989も参照のこと)。これは、脳内の主要なアイソフォームであり、したがって、我々が選択する番号付けシステムの基準とする。
【0017】
(本発明のポリペプチド)
この記載の一態様では、下記式:
A−B−C−D(配列番号:24)
(式中、Aは、アミノ酸残基D、Eならびに保存的置換、例えば、N及びQからなる群から選択され;
式中、Bは、アミノ酸残基Aならびに保存的置換、例えば、T、S、G及びPからなる群から選択され;
式中、Cは、アミノ酸残基E、Dならびに保存的置換、例えば、N及びQからなる群から選択され;及び
式中、Dは、アミノ酸残基Fならびに保存的置換、例えば、Yからなる群から選択され;
該ペプチドは、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制する)
で規定される4〜16残基ポリペプチドを特色とする。
【0018】
「保存的置換(conservative substitutions)」によって、我々は、側鎖の特徴に従ってアミノ酸をグループ分けすることを意図する。保存的置換の予測は、充分な程度の自由度が明らかに存在する大きなタンパク質の構造領域について容易に行われ得る。最良の方法は、進化的変異の研究から誘導される。2つのよく知られた方法はPAM250及びBlosumである(Dayhoff,M.O.ら、Atlas of Protein Sequence and Structure 5(3):345−352,National Biomedical Research Foundation,Washington,1978;Henikoff,S.及びHenikoff,J.G.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915−10919,1992を参照のこと)。
【0019】
以下は、本発明の好ましいペプチド類の1つを含む残基について、PAM250及びBlosum法によって予測される最も保存的な置換を表にまとめたものである。
【0020】
【表1】
【0021】
本発明のポリペプチドは、4〜16の間の残基長のアミノ酸である。好ましくは、該ポリペプチドは10〜4の間のアミノ酸残基長である。以下に記載のように、さらなる安定化ペプチド類を該分子のいずれかの終端に付加することが望まれることがあり得る。その実施態様では、ポリペプチド全体は、実際には16アミノ酸より長くなり得る。
【0022】
以下に記載するように、数種類の様式で該ポリペプチドの終端を修飾することが望まれることがあり得る。これらの修飾もまた、上記及び下記のポリペプチドの範囲に含まれる。例えば、アセアレート(acealated)終端を提供することが望まれることがあり得る。さらに、前記の本発明のポリペプチド類を、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制するその能力に影響しない様式で修飾することが望まれることがあり得る。これらの卑小な修飾もまた、本発明のポリペプチドの範囲内である。
【0023】
本発明の好ましい形態では、該ポリペプチドは、式;A−B−C−D
(式中、Aは、アミノ酸残基D及びEからなる群から選択され;
式中、Bは、アミノ酸残基Aからなる群から選択され;
式中、Cは、アミノ酸残基E及びDからなる群から選択され;ならびに
式中、Dは、アミノ酸残基Fからなる群から選択される)
によって規定される。
【0024】
本発明の特に好ましい形態では、ポリペプチドは、本質的に上記の本発明の実施態様のいずれかにおいて規定されるA−B−C−Dからなる。
【0025】
本発明の他の実施態様では、該ポリペプチドは下記式によって規定され:
X−A−B−C−D−Z
式中、X及びZは、DAEF(配列番号:2)と連続的なsAPPα由来の残基である。「連続的な(contiguous)」により、我々は、残基が、天然に存在するDAEF(配列番号:2)配列(残基597〜600)と自然状態で接することを意味する。例えば、ポリペプチドEVKM(配列番号:23)−ABCDは、アミノ酸残基EVKM(残基593−596)が、天然に(natively)存在するDAEF配列と接するため、本発明のペプチドであり得る。ABCD−Rは、同じ理由のため本発明のペプチドであり得る。
【0026】
好ましい実施態様では、該ポリペプチドは、以下のsAAPα断片または修飾された断片:SEVKMDAEFR(配列番号:1)、SEVKMDAEF(配列番号:7);EVKMDAEFR(配列番号:3);VKMDAEFR(配列番号:4);DAEF(配列番号:2)、acDAEF(配列番号:2)、MEADF(配列番号:8)、EADFR(配列番号:9)、EAEF(配列番号:10)、またはEADF(配列番号:5)の1つを含むか、または該断片の1つからなるものであり得る。該ポリペプチドは、DAEF(配列番号:2)セグメントを含むsAPPαの任意の4〜16残基断片であり得る。
【0027】
本発明に対する他の実施態様では、該ポリペプチドは、上記の保存的アミノ酸置換を有する先の配列の任意の1つを含み得る。
【0028】
また、本明細書において提供されるポリペプチド類は、ポリペプチド安定化単位を含有し得る。本明細書で用いられる用語「ポリペプチド安定化単位」は、該ポリペプチドに共有結合または非共有結合したとき、哺乳動物の血清内での該ポリペプチドの安定性を増大させる、及び/又は細胞内への該ポリペプチドの取り込みを助長し得る化学的部分をいう。
【0029】
数多くのプロテアーゼ類が、血清内の分子に接近可能であり、これらの分子を破壊または代謝し得る。ポリペプチド安定化単位は、本明細書において提供されるポリペプチド類の脳内への侵入を助長することに加え、その酵素的分解を低減または抑制し得る。ポリペプチド安定化単位は、アミド結合もしくはペプチド結合などの共有結合によって、またはアビジンとビオチン間などの相互作用によって、他のポリペプチドに結合されたポリペプチドであり得る。該結合としては、制御された加水分解速度で脳内で切断される結合、例えば、−S−S−、エステル、または立体障害エステル(stearically hindered ester)が挙げられ得る。
【0030】
安定化単位はまた、アルキル(メチレン)、アルコキシ(エーテル)、またはグリコールの鎖であり得るリンカーによって結合させてもよい。また、該ポリペプチドはポリペプチド安定化単位に、ポリエチレングリコールリンカーによって結合させ得る。上記のように、リンカーとしては、−S−S−などの脳内で切断される結合が挙げられ得る。これらの場合において、安定化されるポリペプチドとポリペプチド安定化単位とが、より大きなキメラポリペプチドを形成し得る。
【0031】
ポリペプチド安定化単位として使用され得るアミノ酸配列の例としては、制限されず、血漿タンパク質トランスフェリン、トランスフェリンの断片、トランスフェリン受容体に対する抗体(例えば、OX26または8D3)、インスリン、インスリン受容体に対する抗体(例えば、8314)(Colomaら、Pharm.Res.,17:266−74(2000))、IGF−1、IGF−2、及びカチオン化されたアルブミンが挙げられる。いくつかの実施態様では、ポリペプチド安定化単位はハプテン以外の部分であり得る。例えば、ポリペプチド安定化単位はDNP以外の部分であり得る。
【0032】
ポリペプチド安定化単位は、細胞および/または脳内へのポリペプチドの取り込みを助長し得る。ポリペプチド安定化単位は、親油性−親水性バランスを増大させるため、およびBBBを構成する脳内皮細胞の脂質膜を越える単純な受動拡散を達成するのを補助するために機能し得る。例えば、ステアリン酸などの長鎖脂肪酸(好ましくは炭素数16個未満)、またはステリル(steryl)アルコールなどの長鎖アルコール(好ましくは炭素数16個未満)が、好ましいものであり得る。かかるポリペプチド安定化単位の例としては、制限されず、HIV−1のTatタンパク質の塩基性ドメイン(例えば、Tat49〜57;RKKRRQRRR(配列番号:11)、L−もしくはD−アルギニンの9量体(R9)、または他のペプトイドアナログ、例えば、グアニジン頭部基と主鎖との間に6個のメチレンのスペーサーを含有するもの(Wenderら、PNAS,97:13003−13008(2000))が挙げられる。ポリペプチド安定化単位として使用され得る他のアミノ酸配列または部分は、PCT/US99/23731;Larasら、Org.Biomol.Chem.3:612−618,2005;Misraら、J.Pharm.Pharmaceut.Sci.6(2):252−273,2003;Dalpiazら、Science 24:259−269,2005;Queleverら、Org.Biomol.Chem.3:2450−2457,2005,及びPCT/EP02/02234に見出され得る。
【0033】
安定化された単位は、血液脳関門を越える受容体(受容体媒介性輸送−RMT)を利用するものであり得る(Pardridge,NeuroRX 2:3−14,2005)。例としては:輸送またはトランスフェリン受容体(TfR)抗体、(好ましくは、完全にヒトのMAb);インスリンまたはインスリン受容体抗体(好ましくは、完全にヒトのMAb);1型スカベンジャー受容体(SR−VI)(修飾されたLDL);リポソーム類(ペグ化された(pegylated)イムノリポソーム類)(Pardridge,Meth.Enzymol.373:507−528,2003);ナノ粒子(Olivier,NeuroRx 2:108−119,2005;Olivierら、Pharm.Res.19:1137−1143,2002);IGF−1;IGF−2;カチオン化されたアルブミン;及びHIVのTatタンパク質が挙げられる。
【0034】
ポリペプチド安定化単位は、血液脳関門を越えるペプチドの輸送媒介性透過を達成する天然の脳輸送体の基質となり得(Tsuji,NeuroRx 2:54−62,2005)、担体媒介性輸送−CMTとしても知られ(Pardridge,前出,2005)、これは、溶質担体(SLC)遺伝子ファミリー(100遺伝子を超える)の輸送体を利用するものであり得る(Pardridge,前出,2005)。これらの輸送体としては:L系(大型、中性アミノ酸−F、Y、L)輸送体ファミリー;ヘキソース(グルコース)輸送体ファミリー;モノカルボキシレート(短鎖脂肪酸)輸送ファミリー)有機アニオン輸送ファミリー;有機カチオン輸送ファミリー;アスコルビン酸輸送ファミリー(ある種のヘキソース輸送体を含む、Dalpiazら、Eur.J.Pharm.Sci.24:259−269,2005;Manfrediniら、J.Med.Chem.45:559−562,2002;Manfrediniら、Bioorg.Med.Chem.12:5453−5463,2004;Queleverら、Org.Biomol.Chem.3:2457−2457,2005,PCT WO02/070499);ペプチド(エンケファリン、レプチン、グレリン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)輸送ファミリー;及びSLC遺伝子ファミリーの未だキャラクタライズされていない輸送体が挙げられ得る。
【0035】
ポリペプチド安定化単位は、ATP結合カセット(ABC)タンパク質の大ファミリーを含む能動排出輸送(Active Efflux Transport)ファミリーの一構成員、例えば、p−糖タンパク質(多剤耐性;MDR;ABC−Bl遺伝子)ポンプまたはBBBにおいて重要な役割を果たす他のポンプ(Vaalburgら、Toxicol.Appl.Pharmacol.,2005;de Boerら、Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.43:629−656,2003;Fromm,Trends Pharmacol.Sci.25:423−429,2004)によって、該ポリペプチドが脳から排出されることを妨げ得る。
【0036】
ポリペプチド安定化単位としては、化学的送達系またはレドックス送達系、例えば、ジヒドロニコチニル部分(Larasら、Org.Biomol.Chem.3:612−618,2005)または1,4−ジヒドロトリゴネリネート(trigonellinate)部分(Bodor,Ann.NY Acad.Sci.507:289−306,1987;Bodor及びBuchwald,Adv.Drug Deliv.Rev.36:2290−254,1999;Bodorら、Science 257:1698−1700,1992)が挙げられ得る。
【0037】
いくつかの研究により、プロリン残基は、ペプチダーゼ類に対してより抵抗性であることが示唆されている(Yaron及びNaider,Crit.Rev.Biochem.Mol.Biol.28:31−81,1993;Vanhoofら、Faseb.J.9:736−744,1995;Cunningham及びO’Connor,Biochim.Biophys.Acta 1343:160−186,1997)。したがって、ポリペプチド安定化単位は、1つまたはそれ以上のプロリンアミノ酸残基であり得る。かかる残基は、NH2末端残基、COOH末端残基、または両方であり得る。実際、研究の1つでは、NH2−またはCOOH−末端の終端へのアミノ酸アラニン、プロリン、プロリン(APP)またはPPAの付加により、短いペプチド断片が安定化されることが示された(Walkerら、J.Pept.Res.62:214−226、2003)。アミノ酸APPは、単一のPよりも大きな安定性を付与したPPよりも大きな安定性を付与した。また、NH2末端の終端の保護は、COOH終端よりも大きな安定性を付与し、カルボキシペプチダーゼ類よりもアミノペプチダーゼ類の方が多くあるという考えと一致した。実際、アミノ酸APPの付加は、アミド化またはアセチル化よりも大きな安定性を付与し、エキソペプチダーゼ類が遊離NH2末端に接近するのを完全に抑制する環化とほぼ同様に有効であった(Walker,前出,2003)。かかる安定性残基は、N末端残基またはC末端残基であり得る。例えば、DAEF配列を含有するポリペプチドのN末端は、2つのプロリン残基であり得る。いくつかの実施態様では、ポリペプチドは、N末端プロリン残基とC末端プロリン残基の両方を含有するものであり得る(例えば、PPDAEFPP(配列番号:12)、PDAEFPP(配列番号:13)、PPDAEFP(配列番号:14)、及びPDAEFP(配列番号:15))。
【0038】
APPにおけるスウェーデン変異(Nに対してK595及びLに対してM596)は、APP残基596と597間の結合においてβ−セクレターゼによる切断をもたらす。したがって、β−セクレターゼ切断部位を含むペプチドにおいて、この変化を組み込むことは、同時に、DAEF(配列番号:2)を含有する、より小さな神経保護ペプチドの生成が助長され、β−セクレターゼが競合的に阻害される。
【0039】
ポリペプチド安定化単位は、アミノ酸配列またはアミノ酸残基以外の化学的部分であり得る。例えば、ポリペプチド安定化単位は、安定化させるポリペプチドに共有結合または非共有結合したポリ(エチレングリコール)、ポリ(スチレンマレイン酸)、非天然のアミノ酸(例えば、アルギニンアナログ及びリシンアナログ(Kennedyら、J.Peptide Res.,55:348−358(2000);Argolyn Bioscience,Inc.)、エステル類(例えば、芳香族ベンゾイルエステル類もしくは分枝鎖第3級ブチルエステル類)、脂肪酸もしくはコレステロールエステル、アミド基、アビジンもしくはストレプトアビジン、またはビオチン化学基であり得る。いくつかの実施態様では、脂質二重層内に挿入されたポリ(エチレングリコール)を有するか、または有しないリポソーム類またはイムノリポソーム類(Huwylerら、PNAS,93:14164−69(1996)及びCerlettiら、J.Drug Target,8:435−46(2000))が、ポリペプチド安定化単位として、及びポリペプチド類を脳内に輸送するための方法として使用され得る。例えば、トランスフェリン受容体に対する抗体を含有するリポソームが、ポリペプチド安定化単位として使用され得る。フェニルアラニンのトリメチル化を含むメチル化、アセチル化、アシル化、アルキル化、ハロゲン化、及びグリコシル化などの修飾が、ポリペプチドを安定化させるため、及びバイオアベイラビリティを増大させるために使用され得る。これら及び他の修飾は、脂質の溶解度(脂質化)またはカチオン化を増大するための機能を果たし得る。N−アシル化またはピログルタミル残基によるアミノ末端の修飾は、該ポリペプチドをタンパク質分解性切断から保護し得る。
【0040】
本発明のポリペプチド類は、実質的に純粋であり得る。ポリペプチドに関して本明細書で用いられる用語「実質的に純粋な」は、該ポリペプチドが、自然状態では会合している他のポリペプチド類、脂質、炭水化物および核酸を実質的に含まないことを意味する。例えば、実質的に純粋なポリペプチドは、その天然の環境から取り出されており、少なくとも60パーセント純粋である任意のポリペプチドである。ポリペプチドに関して本明細書で用いられる用語「実質的に純粋な」はまた、化学的に合成されたポリペプチド類及びポリペプチド組成物を包含する。典型的には、実質的に純粋なポリペプチドは、非還元性ポリアクリルアミドゲル上に、単一の主要バンドをもたらす。
【0041】
ビタミンC(アスコルビン酸−「AA」)輸送系は、これを利用しない場合はBBBを越えることができない薬物を脳内に輸送するために利用され得る(Dalpiazら、Eur.J.Pharm.Sci.24:259−269,2005;Manfrediniら、J.Med.Chem.45:559−562,2002;Manfredini,Bioorg.Med.Chem.12:5453−5463,2004;Queleverら、Org.Biomol.Chem.3:2450−2457,2005,PCT WO02/070499)。この系の利点は、脳内で潜在的に達成され得る高濃度のAA−ペプチドコンジュゲートである。SVCT2系の利点は、普通の食事をしている人における低レベルの競合性天然のアスコルビン酸リガンド、及び脳を浸している(bathing)DSF内へのコンジュゲートの直接送達である。GLUT1系の利点は、非常に高い輸送能(Tsuji,NeuroRx 2:54−62,2005)、脈絡叢毛細管の表面積と比べて脳毛細管の非常に高い表面積が、より高い輸送能および、より重要なことには薬物がニューロンに接近するのに拡散するために必要とされるさらにより短い間隔距離(<50マイクロメートル)を提供し(Pardridge,NeuroRx 2:3−14,2005)、すべてのニューロンが薬物に接触されるのを確実にすることである。GLUT1系の不都合点は、血糖正常の人における相対的に高濃度のD−グルコースがAA−リンカー−ペプチドコンジュゲートの輸送と競合し得ることである(Agusら、J.Clin.Invest.100:2842−2848,1997)。PCT WO 02/070499には、エステル、チオエステルまたはアミド結合によってリンカーのカルボキシル基に結合している−OH、−SHまたは−NH基を有する活性物質を含有するAA−リンカー−薬物コンジュゲートが記載されている。
【0042】
好ましいAA系ポリペプチド安定化単位の一例は、アスコルビン酸もしくは6−ハロ−アスコルビン酸または薬学的に許容可能な誘導体およびリンカーを含む。リンカーは、(i)該ペプチドに対する連結を提供するための化学基を有する部分(ii)AAの5−または6−OHに対する連結を提供するための化学基および(iii)スペーサー単位を含有するものであり得る。該連結の一方または両方は、代謝に不安定な、例えば、エステルまたはチオエステルであり得る(そのため、神経保護ペプチドが脳内に放出され得る)。リンカーはペプチドに、α−カルボキシルもしくはα−アミノ基を介して、または任意の側鎖基(例えば、−OH、−NH2、−SH、−COOH、フェノール性−OH)を介して結合され得る。リンカーはまた、相対的に代謝に安定な、例えばアミド結合であり得る。スペーサー単位は、任意の数のメチレンの鎖であり得るが、好ましくは16未満で、任意選択で、リンカーの一部に結合された神経保護ペプチドが脳内に放出され得るような1つまたはそれ以上の代謝により切断され得る結合、例えば−S−S−を含有する。リンカーの一部が神経保護ペプチドに結合されたままである任意の状況において、このリンカーの一部は、その全体が生物学的に活性、すなわち神経保護性となるように選択されなければならず、理想的には、その全体が該ペプチド単独よりも活性となるように選択されなければならない。
【0043】
AA系ポリペプチド安定化単位の一例は、Ra−AA(エステル結合によってAAの5−及び/又は6−OHに結合される)であり、式中、(1a)R=HO(CH2)xCO−及びa=1もしくは2及びx=1〜16である、または(1b)H2N(CH2)xCO−及びa=1もしくは2及びx=1〜16である。
【0044】
AA系ポリペプチド安定化単位の別の例は、上記のとおりであって、式中、(2a)R=HO(CH2)y−S−S−(CH2)zCO−及びy=1〜15、Z=1〜15及びy+zは、好ましくは16より大きくない、または(2b)R=H2N(CH2)y−S−S−(CH2)zCO−及びy=1〜15、z=1〜15及びy+zは、好ましくは16より大きくない。
【0045】
好適な神経保護ペプチド−ポリペプチド安定化単位は、以下のように選択される:(i)一連の活性な神経保護ペプチド類または該ペプチドにおそらく、代謝に安定に結合されたリンカーの任意の一部を含有する神経保護ペプチドの誘導体(上記の例1bの場合では、−HN(CH2)xCO2Hであり得、または例2bでは、−HN(CH2)ySHであり得る)は、この出願書類のどこかに記載した適当なアッセイを用いることにより選択され得る、(ii)これらは、適当な保護試薬およびカップリング試薬を用い、アスコルビン酸に化学的にカップリングさせ得る、(iii)得られたコンジュゲートを、GLUT1及びSVCT2輸送体によって細胞膜を越えて輸送するその能力についてインビトロで試験し、(iii)次いで、この出願書類のどこかに記載したようにしてインビボで試験し得る、及び(iv)許容可能なインビボ効力、活性および作用持続期間を有するコンジュゲートが、追加調査およびさらなる開発のために選択され得る。
【0046】
任意の方法を用いて、実質的に純粋なポリペプチドが得られ得る。例えば、アフィニティクロマトグラフィー及びHPLCならびにポリペプチド合成技術などの一般的なポリペプチド精製技術が使用され得る。また、任意の材料が、実質的に純粋なポリペプチドを得るための供給源として使用され得る。例えば、野生型またはトランスジェニック動物由来の組織が、供給源材料として使用され得る。また、目的の特定のポリペプチドを過剰発現するように遺伝子操作された培養細胞を用いて、実質的に純粋なポリペプチドが得られ得る。ポリペプチドは、該ポリペプチドが親和性マトリックス上に捕捉されるのを可能にするアミノ酸配列を含むように設計され得る。例えば、c−myc、血球凝集素、ポリヒスチジンまたはFlag(商標)タグ(Kodak)などのタグが、ポリペプチド精製を補助するために使用され得る。かかるタグは、該ポリペプチド内のどこにでも、例えば、カルボキシルまたはアミノ末端にいずれかに挿入され得る。有用であり得る他の融合体としては、該ポリペプチドの検出を補助する酵素、例えば、アルカリホスファターゼが挙げられる。
【0047】
(処置方法)
他の1つの態様において、本発明は、ニューロン細胞死を抑制するための方法を特徴とする。該方法は、ニューロン細胞をポリペプチドと接触させることを含み、該ポリペプチドは、本発明のアミノ酸配列を含む。ニューロン細胞は海馬の細胞であり得る。上記のように、該ポリペプチドは、好ましくは16〜4のアミノ酸残基長であり、該ポリペプチドは、ポリペプチド安定化単位を含有し得る。
【0048】
本明細書において提供されるポリペプチド類は、Aβの効果を低減、阻害または抑制することにより、ニューロン細胞死を抑制する。例えば、本発明のポリペプチドは、Aβ誘導性タウリン酸化のレベルを少なくとも20パーセント低減させるために使用され得る。本明細書において提供されるポリペプチド類はまた、哺乳動物においてAβ効果を引き起こすAβの能力を低減させ得る。例えば、本発明のポリペプチドは、哺乳動物内で細胞(例えば、ニューロン)を死滅させるAβの能力を低減させるために使用され得る。Aβ効果を引きこす、Aβの効果における低減またはAβの能力における低減は、完全な低減(例えば、100パーセント低減)または不完全な低減(例えば、100パーセント未満の低減)であり得る。例えば、該実施態様では、低減は、20パーセントまたはそれ以上の低減であり得る。別の実施態様では、低減は40パーセントであり得る。
【0049】
Aβ効果としては、制限されず、タウリン酸化、神経細線維もつれの形成、ニューロン細胞死、ニューロンの機能不全、シナプスの減少、酸化的ストレスによる細胞の損傷、及び小グリア細胞活性化が挙げられる。かかる効果は、一般的な分子生物学技術を用いて検出または測定され得る。例えば、抗リン酸化抗体によるイムノブロッティングおよび免疫細胞化学技術を用い、タウリン酸化が評価され得る(Augustinackら、Acta Neuropathol.,103:26−35(2002))。電子顕微鏡検査、チオフラビンS組織化学、及び銀染色を用い、タウ病理の進行した病期が検出され得る(Greenberg及びDavies,PNAS,87:5827−31(1990)、Bancherら,Brain Res.,477:90−99(1989)、及びUchiharaら、Acta Neuropathologica,102:462−6(2001))。免疫細胞化学技術を用い、酸化的ストレス(Abeら、J.Neurosci.Res.,70:447−50(2002)、ならびにButterfield及びLauderback,Free Radic.Biol.Med.,32:1050−60(2002))、小グリア細胞活性化(Sasakiら、Acta Neuropathol,94:316−22(1997)及びEgenspergerら、Brain Pathol,8:439−47(1998))、シナプスの減少(Tiraboschiら、Neurology,55:1278−83(2000)、Qinら、Acta Neuropathol,107:209−15(2003)、及びHatanpaaら、J.Neuropathol.Exp.Neurol,58:637−43(1999))、ならびにニューロン細胞死(Suら、Neuroreport,5:2529−33(1994)及びStadelmannら、Am.J.Pathol.,155:1459−66(1999))が検出され得る。DNAに結合したときエチジウムホモ二量体によって放たれる蛍光の測定は、哺乳動物内でのニューロン細胞死を検出するために使用され得る。アポトーシスと一致する形態学的特徴(例えば、クロマチンの凝集)を探すためのNissl染色と組み合わせたTUNELにより、アポトーシスプロセスにより死亡しつつあるニューロンが検出され得る(Shengら、J.Neuropathol.Exp.Neurol.,57:323−28(1998)及びPomplら、Arch Neurol.,60:369−76(2003))。電気生理学を用い、ニューロンの機能不全を暗示し得る長期増強作用の不足が検出され得る(Trincheseら、Ann.Neurol.,55:801−14(2004))。
【0050】
いくつかの実施態様では、本明細書において提供されるポリペプチドまたは組成物は、Aβによって通常誘導されるAβ効果の程度(例えば、ニューロン細胞死の量)が低減された条件下の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、サル、またはヒト)に投与され得る。本明細書に記載のように、Aβの効果における低減またはAβ効果を引き起こすAβの能力における低減は、完全な低減(例えば、100パーセント低減)または不完全な低減(例えば、100パーセント未満の低減)であり得る。例えば、低減は20パーセントまたは40パーセントの低減であり得る。
【0051】
本明細書において提供されるポリペプチド類または組成物は、局所または全身の処置のいずれが所望されるか及び処置される領域に応じて、いくつかの方法によって投与され得る。例えば、本明細書において提供されるポリペプチドまたは組成物は、経口、皮下、くも膜下、脳室内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内または頭蓋内に投与され得る。投与は、即効的(例えば、注射により)であり得るか、またはある期間にわたって行われるもの(例えば、低速注入または低速放出製剤の投与により)であり得る。中枢神経系の組織の処置では、本明細書において提供されるポリペプチド類または組成物は、注射または注入によって脳脊髄液中に、好ましくは、血液脳関門を越える透過を促進できる1種類またはそれ以上の薬剤とともに投与され得る。かかる薬剤の例としては、制限されず、血漿タンパク質トランスフェリン、トランスフェリン受容体に対する抗体(例えば、OX26)、インスリン、IGF−1、IGF−2、カチオン化されたアルブミン、HIV−1のTatタンパク質の塩基性ドメイン(例えば、Tat49〜57)、L−もしくはD−アルギニンの9量体(R9)、または他のペプトイドアナログ、例えば、グアニジン頭部基と主鎖との間に6個のメチレンのスペーサーを含有するもの(Wenderら、PNAS,97:13003−13008(2000))が挙げられる。経口投与では、本明細書において提供されるポリペプチド類または組成物は、粉剤もしくは顆粒剤、水もしくは非水性媒体中での懸濁剤もしくは溶液、カプセル、サシェ剤、または錠剤に製剤化され得る。かかる製剤には、増粘剤、香味剤、希釈剤、乳化剤、分散助剤、または結合剤が組み込まれ得る。
【0052】
鼻腔内送達について、これは、ペプチド類を血流内に注射の必要性なく送達する方法である。ある種の薬物とともに、該送達は、血液脳関門を迂回するため、及び嗅神経および三叉神経による脳透過を達成するために使用され(sued)得る。該送達では、鼻腔内液状製剤がスプレーとして使用され得るかまたは粉末であり得、いずれも、制御された粒径をもたらすために機械的システムを用いて投与され得る。任意選択で、該送達は、定量エアロゾル系などの定量用量形態であり得る(Frey,Drug.Deliv.Tech.2(5):46−49,2002;DiPietrio及びWolley,Manufact.Chem.,pp.19−22,2003を参照のこと)。該用量は、1種類またはそれ以上の賦形剤、例えば、凝集阻害剤;電荷調整剤;pH調整剤;分解酵素阻害剤;粘膜溶解性または粘液除去(mucus clearing)剤;膜透過増強剤、例えば、界面活性剤;血管拡張剤;密着結合調節剤;送達用ビヒクルまたは担体など含んでいてもよい。
【0053】
埋め込み可能な薬物注入系および脳神経外科用カテーテルを配置できることは、脳への直接的な薬物送達を可能にする。これにより、全身性薬物副作用、末梢での薬物代謝および不活化、血清タンパク質結合、ならびに血液脳関門透過が回避される(Harbaugh,Psychopharmacol.Bull.22:106−109,1986)。かかる系は、全身性安定性およびBBB透過が特に問題であるペプチド系薬物に、理想的に適したものであり得る。脳脊髄液(CSF)は、利用可能な区画(accessible compartment)内に含まれ、脳全体を浸しており、それを薬物送達のための理想的な標的としている。カテーテルは、CSFが脳室から腹膜内に流れるのを可能にする脳室腹腔短絡術として、水頭を有する患者の側脳室内に常套的に配置される。脳室吻合術は、バンコマイシン及びゲンタマイシンなどの抗生物質を感染した患者のCSFに送達するために使用される(Morrisonら、J.Neurooncol. 11:65−69,1991)。また、tPAは、側脳室内に脳室造瘻術によって、脳室内出血の処置として送達されている(Deutschら、Surg.Neurol.61−460−463,2004)。また、脳室内注入は、腫瘍の処置のための化学療法剤を用いて行われる(Dakhilら、Cancer Treat.Rep.65:401−411,1981;Fleischhackら、Clin.Pharmacokinet.44:1−31,2005)。またさらに、カテーテルは、腰内臓神経のくも膜下腔の空間内に配置され、痙縮および慢性の痛みの処置のためのバクロフェンまたはモルヒネを送達する埋め込み可能なポンプ(Medtronic,Minneapolis,MN)に結合される。
【0054】
本明細書に記載のポリペプチドまたは任意の組成物を送達するための好ましい方法の1つは、化合物を直接脳室内に、脳室造瘻術によって注射または注入を行うことである。投薬は、0.01μg〜1mg/体重kgであり得、毎日、毎週1回またはそれ以上またはより低頻度で行われ得る。化合物は側脳室内に、注射、または埋め込み可能なポンプを連続的に用いることによって送達され得る。ポンプは、皮下に鎖骨下窩内に埋め込まれ得、設定された速度の化合物をカテーテルによって脳室造瘻術レザバーに、及び側脳室内に送達し得る。該化合物の投与は等容量的であり得る、すなわち、投与される化合物の容量に相当するCSFの量が、化合物注射の前に取り出される。化合物は、生理食塩水中に溶解および/または希釈させ得る。あるいはまた、化合物を人工脳脊髄液(147mM Na、2.88mM K、127mM Cl、1.0mM リン酸塩、1.15mM Ca、1.10mM Mg、1.10mM SO4、23.19mM HCO3、5,410mg/Lグルコース;300mOsm/kg)中で希釈してもよい。
【0055】
任意の方法を用いて、本明細書において提供されるポリペプチドまたは組成物を製剤化し、その後、投与し得る。投薬は、一般的に、処置される疾患状態の重篤度および応答性に依存性であり、処置過程は、数日間〜数ヶ月間、または治癒が奏効するか、もしくは疾患状態の減衰が達成されるまで持続させる。常套的な方法を用いて、最適な投薬量、投薬方法論、および反復率が決定され得る。最適な投薬量は、個々のポリペプチド類の相対的な効力に応じて異なり得、一般的に、インビトロおよび/またはインビボ動物モデルにおいて有効であることがわかったEC50値に基づいて概算され得る。典型的には、投薬量は、体重1kgあたり約0.01μg〜約100gであり、毎日、毎週1回またはそれ以上またはより低頻度で与え得る。成功裡の処置後、疾患状態の再発を防ぐため、患者に維持療法を受けさせるのが望ましいことがあり得る。例えば、好ましい経口用量は200〜4000mgであり得、好ましくは、1日あたり4回の用量に分割する。
【0056】
(組成物)
本明細書において提供されるポリペプチド類は、さらなる成分を含有するポリペプチド組成物に製剤化され得る。例えば、本明細書において提供されるポリペプチドは、ポリペプチド安定化分子と組み合わされ得る。ポリペプチド組成物に関して本明細書で用いられる用語「ポリペプチド安定化分子」は、該組成物が哺乳動物の血清に曝露されたとき、該ポリペプチド組成物内での該ポリペプチドの安定性を増大させる化学的部分をいう。ポリペプチド安定化分子は、本明細書において提供されるポリペプチド類の酵素的分解を低減または抑制し得ることに加え、脳内へのその侵入を助長し得る。ポリペプチド安定化分子の例としては、制限されず、リポソーム類、イムノリポソーム類(例えば、トランスフェリンに結合する抗体などの抗体含有リポソーム類)、血漿タンパク質トランスフェリン、トランスフェリンの断片、トランスフェリン(transferring)受容体に対する抗体(例えば、OX26)、インスリン、IGF−1、IGF−2、及びカチオン化されたアルブミンが挙げられる。ポリペプチド安定化分子は、細胞および/または脳内への該ポリペプチドの取り込みを助長し得る。これらの例としては、制限されず、HIV−1のTatタンパク質の塩基性ドメイン(例えば、Tat49〜57)、L−もしくはD−アルギニンの9量体(r9)、または他のペプトイドアナログ、例えば、グアニジン頭部基と主鎖との間に6個のメチレンのスペーサーを含有するもの(Wenderら、PNAS、97:13003−13008(2000))が挙げられる。いくつかの実施態様では、ポリペプチド安定化分子はハプテン以外の部分であり得る。例えば、ポリペプチド安定化分子はDNP以外の部分であり得る。
【0057】
ポリペプチド安定化分子は、ポリペプチド組成物内のポリペプチドに結合された(例えば、共有結合もしくは非共有結合された)もの、または結合されていないものであり得る。例えば、組成物は、該組成物内で該ポリペプチド類に結合されていないポリペプチド安定化分子を含有し得る。該組成物は、1種類またはそれ以上の(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10種、またはそれ以上)異なるポリペプチド安定化分子を含有し得る。例えば、組成物は、DAEFポリペプチドおよび3種の異なるポリペプチド安定化分子を含有し得る。いくつかの実施態様では、組成物のポリペプチドは同一であり得る。他の実施態様では、いくつかの異なるポリペプチド調製物が組成物内に存在し得る。例えば、組成物は、各々が異なるアミノ酸配列を有するポリペプチド類を2、3、4、5、6、7、8、9、10種、またはそれ以上を含有し得る。
【0058】
ポリペプチド安定化分子は、治療上許容可能なものであり得る。ポリペプチド安定化分子に関して本明細書で用いられる用語「治療上許容可能な」は、哺乳動物(例えば、ラット、マウス、サル、またはヒト)に投与したとき、その哺乳動物に対して有意な毒性を誘導しないポリペプチド安定化分子をいう。標準的な試験プロトコルを用いて、分子が、哺乳動物に投与したとき有意な毒性を誘導するか否かを判定し得る。
【0059】
本明細書において提供されるポリペプチド類の1つまたはそれ以上を含有する組成物は、1つまたはそれ以上の薬学的に許容可能な担体、例えば、薬学的に許容可能な溶媒、懸濁剤、または任意の他の薬理学的に不活性なビヒクルを含有し得る。薬学的に許容可能な担体は、液状または固体であり得、所望のかさ、粘稠度、ならびに他の適切な輸送および化学的性質が提供されるように意図された投与の計画された様式により選択され得る。典型的な薬学的に許容可能な担体としては、制限されず、水;生理食塩水溶液;結合剤(例えば、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトースおよび他の糖類、ゼラチン、または硫酸カルシウム);滑沢剤(例えば、デンプン、ポリエチレングリコール、または酢酸ナトリウム);崩壊剤(例えば、デンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)が挙げられる。
【0060】
医薬組成物は、上記に開示したペプチド類の1つまたはそれ以上を含み得る。本発明により記載される化合物から医薬組成物を調製するために、不活性で薬学的に許容可能な担体は、固形または液状のいずれかであり得る。固体調製物としては、粉剤、錠剤、分散可能な顆粒剤、カプセル、カシェ剤および坐剤が挙げられる。粉剤および錠剤は、約5〜約95パーセントの活性な化合物で構成され得る。好適な固体担体は、当該技術分野で知られており、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖またはラクトースである。錠剤、粉剤、カシェ剤およびカプセルは、経口投与に適した固体投薬形態として使用され得る。薬学的に許容可能な担体および種々の組成物の製造方法の例は、A.Gennaro(編),Remington’s Pharmaceutical Sciences,第18版,(1990),Mack Publishing Co.,Easton,Paに見られ得る。
【0061】
液状調製物としては、液剤、懸濁剤および乳剤が挙げられる。例は、非経口注射、または経口液剤、懸濁剤および乳剤用の甘味剤および乳白剤の添加のための水または水−プロピレングリコール溶液であり得る。液状調製物はまた、鼻腔内投与のための液剤を含み得る。
【0062】
吸入に適したエアロゾル調製物は、溶液および粉末形態の固形物を含み得、これは、不活性な圧縮ガス、例えば、窒素などの薬学的に許容可能な担体と組み合わせてもよい。また、経口または非経口投与いずれかのために、使用直前に、液状調製物に変換されることが意図される固体調製物も含まれる。かかる液状形態としては、液剤、懸濁剤および乳剤が挙げられる。また、本発明の化合物は、経皮的に送達可能なものであり得る。経皮用組成物は、クリーム、ローション、エアロゾルおよび/またはエマルジョンの形態をとり得、この目的のために当該技術分野において慣用的なマトリックス型またはレザバー型の経皮用パッチ内に含め得る。また、本発明の化合物は、皮下送達可能なものであり得る。
【0063】
好ましくは、医薬調製物は単位投薬形態である。かかる形態において、調製物は、活性化合物の適切な量、例えば、所望の目的を達成するための有効量を含有する、適当な大きさにした単位用量に再分される。単位用量の調製物中の活性化合物の量は、特定の適用に従って、約0.01mg〜約1000mg、好ましくは約0.01mg〜約750mg、より好ましくは約0.01mg〜約500mg、最も好ましくは約0.01mg〜約250mgで異なり得るか、または調整し得る。用いられる実際の投薬量は、患者の要件および処置される状態の重篤度に応じて異なり得る。具体的な状況のための適正な投薬レジメン(regimen)の決定は、当該技術分野の技量の範囲内である。都合上、全1日投薬量は、必要に応じて、1日の間で複数の部分に分割して投与してもよい。本発明の化合物および/または薬学的に許容可能なその塩の投与の量および頻度は、担当医師が患者の年齢、状態および体格ならびに処置される症状の重篤度などの要素を考慮した判断に従って調節される。経口投与のための典型的な推奨1日投薬レジメンは、1〜4回に分けた用量で約0.04mg/日〜約4000mg/日の範囲であり得る。
【0064】
(化合物の同定)
本発明は、本明細書に記載された効果などのAβの効果の低減させる能力を有する化合物を同定するための方法および材料を提供する。例えば、本明細書において提供される方法および材料を用いて、Aβによって誘導されるニューロン細胞死のレベルを低減させることができる化合物が同定され得る。一実施態様では、細胞(例えば、脳組織または脳薄片)を、Aβペプチドの存在下で試験化合物と接触させ得、Aβの効果レベルが測定され得る。この測定されたレベルを、試験化合物の不存在下でAβペプチドと接触させた対照細胞を用いて測定されたレベルと比較し得る。対照細胞で観察されるものと比べて、より少ないAβ効果(例えば、ニューロン細胞死)が、試験化合物およびAβペプチドと接触させた細胞で観察されるならば、試験化合物は、Aβの効果を低減させる能力を有し得る。
【0065】
かかる低減の陽性対照は、DAEF含有ポリペプチド(例えば、SEVKMDAEFR(配列番号:1)、SEVKMDAEF(配列番号:7)、EVKMDAEFR(配列番号:3)、VKMDAEFR(配列番号:4)、DAEF(配列番号:2)または任意の本発明のポリペプチド類)およびAβペプチドと接触させた細胞であり得る。他の対照としては、未処理の細胞および/またはβ−アミロイド1〜42またはリバース(reverse)Aβ(Aβ42〜1)で処理した細胞が挙げられ得る。いくつかの実施態様では、試験化合物を、脳薄片培養物において、sAPPα、SEVKMDAEFRまたはDAEFのものと同等の効果を誘導するその能力について評価する。
【0066】
任意の試験化合物が使用され得る。例えば、試験化合物は、ポリペプチド、脂質、エステル、トリグリセリド、ステロイド、脂肪酸、または小さな分子であり得る。いくつかの実施態様では、試験化合物は、DAEF含有ポリペプチド(例えば、SEVKMDAEFR(配列番号:1)、SEVKMDAEF(配列番号:7)、EVKMDAEFR(配列番号:3)、VKMDAEFR(配列番号:4)、またはDAEF(配列番号:2))などのポリペプチドの構造および/または機能を模倣するように設計された分子であり得る。例えば、試験化合物は、DAEF含有ポリペプチドのペプチド模倣物(peptidomimetic)であり得る。かかるペプチド模倣物は、アミド結合イソスター(isoter)および/または他のペプチド主鎖修飾を含有し得る。例えば、ヘテロ原子が、タンパク質分解性分解を妨げるために使用され得る。いくつかの場合(cased)では、ペプチド模倣物は、例えば、αヘリックスおよび/またはβシートなどの二次構造特性を有し得る。例えば、Gellman,SH,Acc.Chem.Res.,31:173−180(1998)を参照のこと。任意の方法を用いて、別途概説されたものを含む、候補ペプチド模倣物化合物が設計され得る。(Fisher,PM,Curr.Protein Pept.Sci.,4(5):339−56(2003)ならびにPatch及びBarron,Curr.Opinion Chem.Biol.,6:872−877(2002))。いくつかの実施態様では、多数のペプチド模倣物化合物のコンビナトリアルライブラリーを作製し得る。これらの場合において、例えば、比色または蛍光読み出しに基づくハイスループットアッセイを用い、Aβの効果を低減させる能力を有する化合物が同定され得る。他の場合では、試験化合物のライブラリーをアレイの形態で提供し、化合物を同定するためのハイスループットスクリーニングに供し得る。例えば、Goodmanら、Biopolymers,60:229−245(2001)及びal−Obeidiら、Mol.Biotechnol.,9:205−223(1998)を参照のこと。
【0067】
Aβの効果を低減もしくは抑制し得るか、または哺乳動物においてAβ効果を引き起こすAβの能力を低減させ得る試験化合物は、一般的な分子生物学技術を用いて得られ得る。例えば、Aβ効果を検出または測定するための本明細書において提供される技術は、Aβ効果を低減させる能力を有するポリペプチド類を同定するために使用され得る。一実施態様では、細胞(例えば、培養されたニューロン)を、試験ポリペプチドで前処理した後、Aβで処理する。処理された細胞を、次いで、細胞死について評価する。試験ポリペプチドで前処理した細胞が、試験ポリペプチド前処理していない対照細胞よりも少ない細胞死を示すならば、試験ポリペプチドは、Aβ効果を誘導するAβの能力を低減させるポリペプチドであり得る。
【0068】
本明細書において提供される試験ポリペプチドの各アミノ酸残基は、20個の通常の(conventional)アミノ酸残基のうちの1つであり得る。いくつかの実施態様では、該ポリペプチド類は、ポリペプチド内に組み込まれ得る修飾されたアミノ酸残基または任意の他の化学構造の1つまたはそれ以上、例えば、制限されないが、オルニチン、シトルリン、ε−アミノヘキサン酸、ヒドロキシル化アミノ酸(例えば、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン、(5R)−5−ヒドロキシ−L−リシン、アロ−ヒドロキシリシン、または5−ヒドロキシ−L−ノルバリン)、グリコシル化アミノ酸(例えば、D−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノース、D−グルコサミン、D−ガラクトサミン、もしくはその組合せを含有するアミノ酸)、2−アミノアジピン酸、3−アミノアジピン酸、β−アラニンもしくはβ−アミノプロピオン酸、2−アミノ酪酸、4−アミノ酪酸、6−アミノカプロン酸、2−アミノヘプタン酸、2−アミノイソ酪酸、3−アミノイソ酪酸、2−アミノピメリン酸、2,4−ジアミノ酪酸、デスモシン、2,2−ジアミノピメリン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸、N−エチルグリシン、N−エチルアスパラギン、イソデスモシン、アロ−イソロイシン、N−メチルグリシン、N−メチルイソロイシン、6−N−メチルリシン、N−メチルバリン、ノルバリン、ノルロイシン、アルギニンのオルニチン修飾、アルギニンのシトルリン修飾、単一もしくは複数の脱酸素化を伴うβ−D−ガラクトピラノシル−5−ヒドロキシ−L−リシン、および単一もしくは複数の脱酸素化を伴う2−O−α−D−グルコピラノシル−β−D−ガラクトピラノシル−5−ヒドロキシ−L−リシンを含有し得る。また、アミノ酸残基または化学構造の1つまたはそれ以上のヒドロキシル基をフッ素に置き換えてもよい。例えば、3−フルオロプロリンを創出するために3−ヒドロキシプロリンのヒドロキシ基をフッ素に置き換えることができ、または4−フルオロプロリンを創出するために4−ヒドロキシプロリンのヒドロキシ基をフッ素に置き換えることができる。さらに、アミノ酸残基または化学構造は、C−またはS−またはO−グリコシド結合を有するものであり得る。単一のポリペプチドが、かかるアミノ酸残基および化学構造の任意の組合せを含有し得る。例えば、単一のポリペプチドが、12個の通常のアミノ酸残基、8個のヒドロキシル化アミノ酸、2個のグリコシル化アミノ酸、および1個のオルニチンを任意の順序で含有し得る。
【0069】
典型的には、本明細書において提供される試験ポリペプチドは、アミド結合(−CONH−)によって連結されたアミノ酸残基を含有する。いくつかの実施態様では、ポリペプチドは、他の結合、例えば、制限されないが、N−メチル化(−CONMe−)、N−アルキル化(−CONR−)、または還元(−CH2NH−)によって修飾されたものなどの修飾されたアミド結合、ならびに等配電子体(イソスター)結合、例えば、メチレンエーテル結合(−CH2O−)、メチレンチオエーテル結合(−CH2S−)、ビニル基結合(−CH=CH−)、エチレン基結合(−CH2CH2−)、ケトメチレン基結合(−COCH2−)、チオアミド結合(−CSNH−)、及びスルホン結合(−CH2SO−)によって連結されたアミノ酸残基または化学構造を含有し得る。単一のポリペプチドは、結合の任意の組合せによって連結されたアミノ酸残基または化学構造の配列を含有し得る。例えば、単一のポリペプチドは、全くアミド結合のみによって、またはアミド結合、メチレンエーテル結合およびスルホン結合の組合せによって連結されたアミノ酸残基の配列を含有し得る。
【0070】
本明細書において提供される試験ポリペプチド類は、遊離のN−及びC−末端を有するように線状ポリペプチド類であり得る。該ポリペプチド類は、ジスルフィド結合を含有するように遺伝子操作されたものであり得るか、または別途記載(Egletonら、Peptides 18:1431−39(1997)ならびにIwai及びPluckthun、FEBS Lett.,459(2):166−72(1999))のように環化されるように設計されたものであり得る。例えば、DAEF配列を含有するポリペプチドは、1つまたはそれ以上のジスルフィド結合が該ポリペプチド内に形成されるように、2個またはそれ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上)のシステイン残基を含有し得る。ジスルフィド結合を含有するポリペプチド類は、ジスルフィド結合を欠く類似のポリペプチド類よりも分解に対してより安定であり得る。2つまたはそれ以上のポリペプチド類が、ヒドラジド架橋によって連結され得る。ヒドラジド架橋は、カルボキシペプチダーゼ活性による分解を防御し得る。ポリペプチド類は、該ポリペプチドが環化されるようにジスルフィド架橋(例えば、2個のD−ペニシラミン残基による)を含有し得る。環化されたポリペプチド類は、環化されていない類似のポリペプチド類よりも分解に対してより安定であり得る。
【0071】
本明細書において提供される試験ポリペプチド類は、さらなるアミノ酸配列、例えば、一般的にタグとして用いられるもの(例えば、ポリ−ヒスチジンタグ、mycタグ、GFPタグ、及びGSTタグ)を含有し得る。例えば、DAEF配列を含有するsAPPαポリペプチドの50アミノ酸断片は、蛍光ポリペプチド(例えば、GFP)のアミノ酸配列を含有し得る。
【0072】
任意の型の細胞が使用され得る。例えば、1つの好ましい実施態様では、ニューロン細胞培養物または脳組織試料(例えば、脳薄片)が使用され得る。また、該方法はインビボまたはインビトロで行われ得る。例えば、マウス内のニューロン細胞を、試験化合物をマウスの脳内に注射することにより、試験化合物と接触させ得る。
【0073】
Aβペプチドは、任意の型のAβペプチド、例えばヒトβアミロイド1〜42であり得る。また、任意の方法を用いて、細胞をAβペプチドと接触させ得る。例えば、Aβペプチドを、培養中の細胞に投与し得る。いくつかの実施態様では、細胞を、Aβペプチドをエンコードする核酸を含有する細胞によって発現されるAβペプチドと接触させ得る。例えば、ニューロン細胞は、Aβペプチドを放出することがわかっているAPP配列をエンコードする核酸を含有するように設計され得る。任意の方法を用いて、Aβの効果を低減させる試験化合物の能力を評価し得る。例えば、本明細書に記載のものなどの染色手法は、細胞死を評価するために使用され得る。
【0074】
本明細書において提供される方法および材料はまた、神経保護性ポリペプチド、例えば、TTR及びIGF−2などの発現を増大できる化合物を同定するために使用され得る。例えば、細胞(例えば、脳組織または脳薄片)を試験化合物と接触させ得、神経保護性ポリペプチドをエンコードする核酸の発現レベルを、該ポリペプチドレベル及び/又はmRNAレベルを測定することにより決定することができる。任意の方法がポリペプチドレベルを測定するために使用され得、例えば、制限されないが、ELISA手法、抗体染色手法、及び生物学的活性アッセイが挙げられる。また、任意の方法がmRNAレベルを測定するために使用され得、例えば、制限されないが、RT−PCR技術および発現アレイ技術が挙げられる。
【0075】
ポリペプチドまたはmRNAの発現のレベルを、試験化合物と接触させていない対照細胞について測定されたポリペプチドまたはmRNAの発現レベルと比較し得る。対照脳組織で観察されるものと比べて、より少ないポリペプチドまたはmRNA発現が試験化合物と接触させた細胞で観察されるならば、試験化合物は、Aβの効果を低減させる能力を有し得る。かかる低減の陽性対照は、DAEF含有ポリペプチド(例えば、SEVKMDAEFR(配列番号:1)、SEVKMDAEF(配列番号:7)、EVKMDAEFR(配列番号:3)、VKMDAEFR(配列番号:4)、またはDAEF(配列番号:2))と接触させた細胞であり得る。他の対照としては、未処理の細胞(例えば、未処理の脳組織)が挙げられ得る。
【0076】
神経保護性ポリペプチドをエンコードする核酸の発現レベルを増大させる試験化合物の有効性は、試験化合物と接触させた細胞で観察される発現レベルをDAEF含有ポリペプチドと接触させた細胞で観察される発現レベルと比較することにより測定され得る。DAEF含有ポリペプチドと接触させた細胞で観察されるものと比べ、試験化合物と接触させた細胞で同等または高いレベルの発現が観察されることは、試験化合物が、神経保護性ポリペプチド発現の強力な活性化物質であることを示し得る。
【0077】
本明細書において提供される方法および材料は、sAPPαの存在に応答して、細胞によるその発現を改変させることができるポリペプチドの発現を増大または減少できる化合物を同定するために使用され得る。例えば、細胞(例えば、ニューロン細胞)を、試験化合物と接触させ、試験化合物と接触させていない対照細胞による該ポリペプチドの発現と比べて、sAPPαの存在に応答した細胞によるその発現を改変させることができるポリペプチドの改変された(例えば、増大または減少した)発現が示されているか否かを調べるために評価し得る。かかるポリペプチド類の例としては、制限されず、TTRポリペプチド類及びIGF−2ポリペプチド類が挙げられる。ポリペプチドの発現の増加または減少は、ポリペプチドレベル及び/又はmRNAレベルを測定することにより決定され得る。
【実施例】
【0078】
(実施例1−方法および材料)
(動物)
Tg2576マウスを、既報のHsiaoら、Science,274:99−102(1996))のとおりにして作出した。簡単には、これらは、二重変異K670N及びM671L(スウェーデン変異)を有し、プリオンタンパク質プロモーターによって駆動されるヒトアミロイド前駆体タンパク質695を含む。この試験では、トランスジェニック及び非トランスジェニック対照マウスを、C57B6/SJL種畜に対して戻し交配したC57B6/SJL N2世代Tg2576マウスから作製した。マウスを12及び18ヶ月齢で致死させた。
【0079】
(海馬器官型培養物)
C57B6/SJLマウスの子に対し、生後第15日に麻酔して断頭した。脳を取り出し、氷冷解剖(dissecting)培地(50%最少必須培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)、50%ハンクス平衡塩溶液(Invitrogen)、25mM HEPES、及び36mMグルコース)中に入れた。両方の海馬を解剖顕微鏡下で解剖し、Mcllwainティッシュチョッパーにて400μmに切断した。薄片をばらばらにし、6ウェル培養プレート内に保持した30mm直径及び0.4μmフィルター孔サイズを有するフィルターインサート(Millipore,Billerica,MA)上に配置した。最初の3日間、薄片を、B−27サプリメント、1mMグルタミン及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を加えたNeurobasal培地中に維持した。続いて、抗生物質を含まない培地を用い、培地を3日毎に交換した。器官型培養物を加湿インキュベーター内に、37℃で5%O2及び5%CO2中、14〜21日間維持した。
【0080】
細胞死および生存能力を、生薄片において、Molecular Probes’ Live/Dead Kitの蛍光プローブを用いて測定した。カルセインAM(1:400)及びエチジウムホモ二量体(1:1000)含有リン酸緩衝生理食塩水中で40分間のインキュベーション後、薄片を、Nikon Diaphot 200倒立顕微鏡により200×倍率で、Bio−Rad MRC−1024 Laser Scanning Confocalシステム(Hercules,CA)を用いて可視化した。ニューロン野の無作為の画像を、各プローブの発光スペクトルにおいて取り込み、Scion Imageソフトウェア(Frederick,MD)を用いて生細胞および死細胞の数を定量した。各薄片について、ニューロン野を含む少なくとも3つの領域をイメージングし、死滅のパーセントを調べた。死滅のパーセントは、EthD−1陽性細胞の数をEthD−1及びカルセインAM陽性細胞の総数で除算して算出した。
【0081】
(TUNEL及びNissl染色による細胞死の検出)
1つの処置あたり3例の動物由来の海馬薄片の凍結切片を、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介型dUTPニック末端標識(TUNEL)で染色した。DNA断片化を有する細胞を、DNA内へのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)−12−dUTPのターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ取り込みによって測定した(In Situ Cell Death Detection kit,Roche Biochem,Indianapolis,IN)。他の切片は酢酸クレシルバイオレットで染色し、健常な核を有するニューロンならびに凝縮および凝集したクロマチンを有するニューロンをニューロン野内で計測した。
【0082】
(免疫組織化学)
マウスをCO2で致死させ、速やかに、心臓を介してリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を灌流した。右半球を4%パラホルムアルデヒド(PFA)中に一晩固定し、30%スクロース中に浸漬させ、OCT包埋培地中で凍結させた。海馬薄片を4%PFA中で20分間固定し、30%スクロース中で一晩インキュベートし、OCT包埋培地中で凍結させた。10μmの幅の凍結切片を海馬から採取した。死後ヒト組織をホルマリン固定し、10μmに切断し、抗原回復のために10分間、10mM Trisバッファー(pH 1)中で煮沸した。IGF−2及びTTRは、IGF−2(F−20)またはTTR(C−20;Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)に対するポリクローナル抗体の1:200希釈物により検出された。ホスホ−BAD(Serl 12;Cell Signaling,Beverly,MA)、及びBAD(Stressgen,Victoria,British Columbia)は、それぞれのポリクローナル抗体の1:250希釈物により検出された。リン酸化されたタウは、モノクローナルAT8抗体(1:200;Research Diagnostics,Flanders,NJ)及び抗ホスホ−タウ(Thr231)(1:500;Calbiochem,San Diego,CA)により検出された。対照として、免疫前ウサギもしくはマウスIgG(Vector Laboratories,Burlingame,CA)またはヤギIgG(Santa Cruz)を、一次抗体の代わりに用いた。ビオチン化抗ヤギIgG、抗ウサギIgG、または抗マウスIgGを二次抗体として用いた。最後に、Vectastain Elite ABCキット(Vector)及びAlexa Fluor 488または568(Molecular Probes,Eugene,OR)のいずれかにコンジュゲートさせたチラミドを用い、抗体染色を可視化した。抗NeuN(1:250;Chemicon International,Temecula,CA)及び4G8(1:250;Signet,Dedham,MA)を、Alexa Fluor 488にコンジュゲートさせた抗マウスIgG二次抗体とともに用い、NeuN及びAβを検出した。DNA結合色素ToPro3(Molecular Probes)またはHoechst 33258(Sigma,St.Louis,MO)を用いて核を可視化した。Bio−Rad Laser Scanning Confocalシステムまたはエピ蛍光(Zeiss,Thornwood,NY)のいずれかを用いて切片をイメージングした。代表的な図を、3例のAPPSwマウス及び3例の非トランスジェニック対照、海馬薄片の1処理につき3例の動物、または4例のヤギIgG及び4例の抗TTR抗体注入マウスから得た。
【0083】
(電子顕微鏡)
50μM AβまたはリバースAβで24時間の処理後、海馬薄片培養物を、0.1M Sorensonsリン酸塩バッファー(pH 7.4)中2%PFA/2.5%グルタルアルデヒドの混合物で1時間固定し、次いで、同じバッファー中2%四酸化オスミウムにおいて1時間、後固定した。次いで、薄片を、エタノール系列で脱水し、Eponエポキシ樹脂内に包埋した。極薄切片をReichert−Jungミクロトームにて切断し、銅グリッド上に配置し、慣用濃度の酢酸ウラニル及びクエン酸鉛で染色した。Philips CM120電子顕微鏡により顕微鏡写真を撮影した。
【0084】
(処理)
β−アミロイド1〜42及びリバースAβ(Aβ42〜1)を、BACHEM(Torrance,CA)から入手した。これらのポリペプチド類を0.1%NH3OHに222μMで溶解した。処理のため、Aβを50μMで、B−27サプリメント及び1mMグルタミンを加えたNeurobasal培地中で37°Cにて24時間凝集させた。次いで、薄片培養培地を除去し、薄片を、1mLの25μMもしくは50μM Aβ、リバースAβ、またはビヒクルで24時間処理した。ヒトTTR(Calbiochem)またはIGF−2(Peprotech,Rocky Hill,NJ)を薄片に、Aβ処理とともに3μM(TTR)または500nM(IGF−2)の最終濃度で添加した。sAPPαは、既報(Mattsonら、Neuron,10:243−254(1993))のとおりにして調製した。
【0085】
特に記載のない限り、すべてのsAPPα処理は、1nMで、Aβ添加前に48時間行った。TTR(C−20)またはIGF−2(F−20;4μg/mL;Santa Cruz)またはsAPPα(6E10;10μg/mL;Chemicon)に対する抗体を薄片に、sAPPα処理とともに添加した。ヤギIgG(4μg/mL;Santa Cruz)またはマウスIgG1(10μg/mL;Chemicon)を、対照として添加した。sAPPαのカルボキシル末端領域の10アミノ酸断片(APP695の592〜601;SEVKMDAEFR;配列番号:1;Sigma)を、sAPPαと同じプロトコルに従って付加した。
【0086】
SiRNAを、マウスmRNA配列に基に、Ambion Silencer siRNA Construction Kit(Austin,TX)を用いて創出した。数種類のsiRNAを、各サイレンス化遺伝子についてインビトロ転写によって創出した。ビヒクル、またはAmbion siPORTアミントランスフェクション薬剤中でポリアミン類と組み合わせた25nM siRNAを用いたsAPPα処理の前に、トランスフェクションを4時間37℃で行った。トランスフェクションは、1mMグルタミン(Invitrogen)を含むNeurobasal培地中で行った。成功裡のmRNA標的配列は以下のとおりである。
【0087】
【化1】
【0088】
(マイクロアレイ解析)
全RNAを、ビヒクルまたは1nM sAPPαのいずれかで24時間処理した雄非トランスジェニックマウスの海馬薄片から抽出した。全RNAをTrizol(Invitrogen,Carlsbad,CA)により単離し、既報(Stein及びJohnson,J.Neurosci.,22:7380−7388(2002))のとおりにしてcRNAを合成するために使用した。
【0089】
15μgの断片化したcRNAを、16時間45℃で、MG−U74Av2アレイ(Affymetrix,Santa Clara,CA)にハイブリダイズさせた。Affymetrix Microarray Suite 5.0を用いてスキャンし、各遺伝子の相対存在度を強度シグナル値から解析した。有意に変化した遺伝子を、各比較でウィルコクソンのサインランク検定を用いて測定した。p値<0.01を有するプローブセットを増大/減少と称し、0.01<p値<0.05の範囲のp値を有するプローブセットをわずかに増大/減少と称し、残りのプローブセットを変化なしと称した。変化なし=0、わずかな増大/減少=1/−1、及び増大/減少=2/−2(Li及びJohnson,Physiol.Genomics,9:137−144(2002))であるさらなるレベルのランキングを用いて多数の比較を組み入れた。最終のランクは、9つの比較のランクの合計に等しいものであり、該値は、海馬薄片における3×3の比較で、−18〜18までで異なった。増大または減少した遺伝子発現の最終の測定値のカットオフ値は、増大した遺伝子ではランク≧9及びFC≧1.2、ならびに減少した遺伝子ではランク≦−9及びFC≦−1.2と設定した。遺伝子発現の強度値を平均=0及び分散=1に対して標準化し、Affymetrix Data Mining Toolの自己組織化マップ(SOM)アルゴリズムを用いてクラスター化した。
【0090】
(注入)
18ヶ月齢のAPPSwマウスに、イソフルランガス麻酔系で深く麻酔し、定位固定装置(Stoelting,Wood Dale,IL)内に配置した。切除を行って頭蓋を露出させ、Dremelドリルを用いて頭骨に孔をあけた。Alzet Brain Infusion Kit(Alzet,Cupertino,CA)のカニューレを定位的に、APPSwマウスの右海馬内に埋め込み(ブレグマに対する座標:前後軸=−2.7mm,内外方向=−3.0mm,及び背腹方向=−3.0mm)、シアノアクリレートで所定の位置にセメント固定した。200μLの100μg/mLヤギIgGまたは抗TTR抗体(C−20,Santa Cruz)を含む浸透圧ポンプ(Alzet)を、皮下の中肩甲部(mid-scapular)領域内に挿入した(流速0.5μL/時間)。処理液を、150mM NaCl、1.8mM CaCl2、1.2mM MgSO4、2.0mM K2HPO4、及び10.0mMグルコースを含有する人工CSF(pH7.4)中で希釈した。頭皮を縫合し、マウスをそのホームケージに戻した。2週間後、ヤギIgG及び抗TTR注入マウスを致死させ、速やかに心臓を介して氷冷PBSを、その後4%PFAを、灌流した。
【0091】
(立体解析学)
4例のヤギIgG及び4例の抗TTR抗体注入マウスを、海馬全体を50μmの厚さで切片にした。第6切片毎にクレシルバイオレットで染色し、CA1錐体ニューロン野内の健常な核およびインタクトな核を有するニューロンを、光学的分画採取(fractionator)技術(West及びGundersen,1990)を用いて計測した。凝集したクロマチンを保有するCA1錐体ニューロン野内の細胞を個々に計測した。計測は、Zeiss Axioplan 2顕微鏡(Gottingen,Germany)において1000×倍率で行った。各光学的解剖器具は、拡張排除ライン(extended exclusion line)、19μmの高さ、ならびに3μmの上部及び下部ガードゾーンを有する30×30μm計算盤から構成された。ニューロン及び核濃縮細胞の総計測数は、CA1全体の体系的無作為試料採取から、Microbrightfield Stereo Investigatorソフトウェア(Colchester,VT)を用いて得た。
【0092】
(統計学的解析)
示したすべての実験データは、少なくとも3回繰返したものとした。結果を平均±SEMとして示す。特に記載のない限り、統計学的有意性は、対応のない(unpaired)両側スチューデントt検定を用いて決定し、p値<0.05を有意であるとみなした。
【0093】
(実施例2−Aβは、器官型海馬培養物においてニューロン死を誘導する)
器官型海馬培養物は、海馬の構造を維持し、成熟シナプス特性、例えば、別途(Bahr,J.Neurosci.Res.,42:294−305(1995)及びMullerら、Brain Res.Dev.Brain Res.,71:93−100(1993))記載のような長期増強作用を有するシナプス結合を含んだ。典型的には胚の脳に由来する解離培養物と比べ、薄片は、インタクトな成体脳のより関連性のあるモデルを表す。したがって、このモデルを用い、sAPPαによるAβ誘導性のニューロン毒性および保護を試験した。2週間後、培養状態で、アンモン角(CA)ニューロン野は保存され、分裂後期ニューロンマーカーNeuNで陽性に染色された。
【0094】
エチジウムホモ二量体(EthD−1)は、インタクトな原形質膜を有する生細胞から消去される膜不透過性DNA結合色素である。カルセインAMは、機能性細胞内エステラーゼを有する生細胞において蛍光を発する細胞不透過性色素である。リバースAβで処理した生薄片をEthD−1及びカルセインAMとともにインキュベートすると、海馬のニューロン野内の多くのニューロンがカルセインAMに対して陽性に染色されたが、EthD−1で陽性に染色されたのはほんの少数であった。しかしながら、25μMもしくは50μM Aβのいずれかでの処理により、膜完全性を失ったニューロン(EthD−1陽性)の数の劇的な増加がもたらされた。
【0095】
ニューロン死と一致して、リバースAβではなく、25μMもしくは50μM Aβいずれかでの処理によりDNA鎖破断がもたらされ、これは、TUNELによって示された。レーザー走査共焦点システムからの透過イメージにより、TUNEL陽性細胞はニューロン野内に位置することが示された。最後に、アポトーシスの割合を、Nissl染色した薄片のCAニューロン野内で測定した(図1)。健常なニューロンでは、クロマチンが分散し、クレシルバイオレットで強く染色されなかった。しかしながら、アポトーシスの重要な特徴であるクロマチンの凝集が起こった死滅中の細胞では、強い染色が観察された。25μMもしくは50μM Aβでの処理により、クロマチンの凝集を伴うニューロンの割合の有意な増加がもたらされた。1nM sAPPαでの48時間の前処理により、Aβ誘導性TUNEL染色および核濃縮が抑制された(図1)。
【0096】
(実施例3−Aβはタウリン酸化を誘導する)
モノクローナル抗体AT8は、時として、対合したらせん状のフィラメント(PHF)として凝集するリン酸化タウを認識する。そのエピトープは、アミノ酸202にリン酸化セリンを含む。AD患者内の多くのニューロンは、AT8抗体によって認識されるPHFを含有する。ビヒクル及びリバースAβ処理海馬薄片は、門部周囲および放射線維層内の一部の細胞のAT8染色を示した。また、これらの細胞の一部は、マウスIgGを一次抗体として用いた場合、陽性に染色され、この染色が、非特異的抗原の存在またはマウスIgG様タンパク質の発現によるものであり得ることを示す。しかしながら、対照マウスIgGでは、海馬のニューロン野内での染色は起こらなかった。AT8抗体での染色では、ビヒクルまたはリバースAβ処理薄片のCAまたは歯状回海馬のニューロン野において、陽性に染色されたニューロンはほとんどもたらされなかった。対照的に、25μM Aβまたは50μM Aβで処理した場合、海馬のニューロン野内の多くのニューロンがAT8陽性であった。これらのニューロンはまた、EthD−1でも陽性に染色され、Aβ誘導性細胞の損傷を示す。AT8染色により、AD患者において起こるタウ病理と類似するタウのニューロン細胞体および樹状細胞での再分布が示された。さらに、多くのAT8陽性ニューロンにより、ニューロンの変性と一致する数珠状形成(beaded)プロセスが示された。sAPPαでの前処理により海馬のニューロン野内でのAβ誘導性AT8染色が抑制された。
【0097】
トレオニン231においてリン酸化されたタウに関して陽性のニューロンを含むビヒクルまたはリバースAβ処理薄片はなかった。しかしながら、25μM Aβまたは50μM Aβで処理した薄片では、いくつかのニューロンがその細胞体内および過程(process)においてホスホ−タウ(Thr−231)に対して陽性に染色された。これらのニューロンはまた、ニューロンの変性を示す広範性のNeuN染色および濃縮した核を有した。1nM sAPPαでの前処理により、ホスホ−タウ(Thr−231)のAβ誘導性蓄積が抑制された。ホスホ−タウ(Thr−231)に関するイムノブロットを、50μM リバースAβ、50μM Aβ、及び1nM sAPPα+50μM Aβで処理した薄片において行った。各処理には、4例の動物に由来する16個の薄片を含めた。免疫組織化学結果と同様、50μM Aβでの処理により、海馬薄片内でのリン酸化タウのレベルが増大した。Aβ誘導性タウリン酸化は、1nM sAPPαでの前処理によって抑制された。電子顕微鏡検査により、50μM Aβで処理した海馬薄片由来のいくつかのニューロンの細胞質内で、長いまっすぐなフィラメントの存在が示された。フィラメントの多くは対合しており、直径が約15〜29nmで、多くの場合、凝集したクロマチンを伴う断片化された核に隣接して観察された。一部の対合したフィラメントは、早期もつれ形成と一致して、約60〜120nmの周期性で捩れていた。これらのフィラメントは、50μM リバースAβで処理した薄片においては観察されなかった。
【0098】
高レベルのAβは、マウス海馬薄片において、タウリン酸化、対合したフィラメントの形成、及びニューロン死を誘導した。しかしながら、変異型APPを過剰発現し、マイクロモルレベルのAβを含むマウスは、これらの病理を発現しない。これが神経保護性ポリペプチドの発現によるものであるか否かを調べるため、APPSwを過剰発現するマウス系統を調べた。
【0099】
(実施例4−神経保護性遺伝子およびポリペプチドは、老齢APPSwマウスでは増加しているが、AD患者では増加していない)
ADにおける遺伝子発現レベルとは対照的に、数種類の成長因子およびトランスチレチン(TTR、アミロイド分離(sequestration)ポリペプチド)のmRNAレベルは、12ヶ月齢APPSwマウスにおいて上方調節される(表1)。簡単には、12ヶ月齢の雄非トランスジェニック(n=2)マウス及びAPPSwマウス(n=2)由来の海馬を、本明細書に記載のオリゴヌクレオチド解析用に加工処理した。変化の平均倍数を2×2クロス(cross)から算出し、有意に変化した遺伝子を、各比較でウィルコクソンのサインランク検定を用いて調べた。p値<0.001を有するプローブセットを増大/減少と称し、0.001<p値<0.005の範囲のp値を有するプローブセットをわずかに増大/減少と称し、残りのプローブセットを変化なしと称した。変化なし=0、わずかな増大/減少=1/−1、及び増大/減少=2/−2であるさらなるレベルのランキングを用いて多数の比較を組み入れた。最終のランクは、4つの比較のランクの合計に等しいものであり、該値は、−8〜8までで異なった。増大または減少した遺伝子発現の最終の測定値のカットオフ値は、増大した遺伝子ではランク≧4及びFC≧1.5、ならびに減少した遺伝子ではランク≦−4及びFC≦−1.5と設定した。
【0100】
インスリン様成長因子2は、APPSwマウスにおいて、6ヶ月齢(プラーク前;Stein及びJohnson,J.Neurosci.,22:7380−7388(2002))ならびに12ヶ月齢(プラーク後;表1)の両方で上方調節される。12ヶ月齢では、インスリンは、APPSwマウスの海馬内で11倍上方調節される(表1)。IGF−2及びインスリンの両方が、IGF−1受容体に結合し得、BADリン酸化において最高点に達する生存経路を活性化し得る。
【0101】
【表2−1】
【0102】
【表2−2】
【0103】
【表2−3】
【0104】
【表2−4】
【0105】
タンパク質レベルでは、12ヶ月齢APPSwマウスは、海馬の細胞外空間および特にニューロン野周囲で、劇的に増大したレベルのTTR及びIGF−2を有した。また、IGF−2は、一部のニューロンの周囲およびニューロン過程に局在する。BADは、その非リン酸化状態においてプロアポトーシス性ポリペプチドである。しかしながら、セリン112または136においてリン酸化されると、BADポリペプチド類は、14−3−3タンパク質に結合し、抗アポトーシス性BCL−2ファミリーメンバーであるBCL−2及びBCL−XLを放出する。ホスホ−BAD(112)の免疫組織化学により、非トランスジェニック対照と比較した場合、海馬のニューロン野のNeuN陽性ニューロン内での増加が示された。対照的に、海馬のニューロン内の全BADのレベルは、非トランスジェニックとAPPSwマウスとの間で変化はなかった。
【0106】
ADでは、これらの変化の多くは起こらず、実際は、反対であり得る。例えば、全BADのレベルは、AD側頭皮質内で増加し得る(Kitamuraら、Brain Res.,780:260−269(1998))。他方において、免疫組織化学により、海馬の錐体ニューロン内において、対照(n=5)とAD(n=6)患者との間で変わらない全BADのレベルが示された。IGF−2レベルは、海馬のニューロン野の錐体ニューロンの周囲で検出可能であり、対照とAD患者との間で一貫して異ならなかった。TTRレベルは、AD患者のCSF内で低下していることが示されている(Serotら、J.Neurol.Neurosurg.Psychiatry,63:506−508(1997))。TTRは、死後脳の免疫組織化学によって検出したとき、対照またはAD患者の海馬のニューロン野内または周囲でほとんどないし全く観察されなかった。しかしながら、TTR沈着物は、すべてのAD患者の海馬内で多くのAβプラークと同時局在した。AD患者においてAβプラークを染色するIGF−2及び対照ヤギIgGは、いずれも観察されなかった。また、AD患者の海馬内のまばらに存在するニューロンには、TTRと同時局在する高レベルの細胞内Aβが含まれた。垂直な切片により、AβとのTTRの明確な同時局在が示された。これらの結果は、5例の対照(平均年齢=71.4±2.9歳)及び6例のAD患者(平均年齢=77.3±3.8歳)から得られたものを代表する。
【0107】
(実施例5−sAPPα駆動型の遺伝子およびポリペプチド発現)
マウスモデルとヒトADとの大きな違いの1つは、完全長APPの過剰発現であり、これは、マウスにおいて5倍またはそれ以上であり得る(Hsiaoら、Science,274:99−102(1996))。したがって、ADの場合と異なり、APPのすべての切断生成物は、おそらく、変異型APPを過剰発現するマウスモデルにおいて上方調節される。本明細書において示すように、sAPPαは、Aβ誘導性タウリン酸化およびニューロン死を防御し得る。したがって、APPSwマウスにおける高レベルのsAPPαは、神経保護性TTR、IGF−2、及びホスホBADの増大レベルの一因であり得る。
【0108】
簡単には、4例のAPPSwマウス及び4例の非トランスジェニック対照に由来の切除された海馬を、溶解バッファー(50mM Tris、150mM NaCl、1mM EDTA、1%NP40、1M PMSF、3mMベンズアミジン、200μMロイペプチン、20μMアプロチニン、100μMオルトバナジン酸ナトリウム、2mMジチオトレイトール)中で個々にホモジナイズした。12000×gで10分間遠心分離した後、可溶性画分を採取した。全タンパク質レベルを、ビシンコニン酸(BCA)比色アッセイ(Pierce,Rockford,IL)を用いて測定した。SDS−還元バッファー(50mM Tris、10%グリセロール、2%SDS、0.1%ブロモフェノールブルー、pH 6.8)を組織ライセートに添加し、試料を95°Cまで10分間加熱した。1ウェルあたり50μgの全タンパク質を載置し、7.5%SDS−PAGEゲル上で分離した。ゲルをポリビニリデンジフルオリド膜に移し、膜を、sAPPαに対するモノクローナル抗体である6E10(Chemicon)の1:200希釈物を用いてイムノブロッティングした。ホースラディッシュペルオキシダーゼ−コンジュゲート抗マウスIgG抗体(1:2000)及びSuperSignal West Pico化学発光性基質(Pierce)を用いてバンドを可視化した。バンドを、Molecular Dynamics 300 A Computing Densitometer(Sunnyvale,CA)を用いて定量した。海馬のsAPPα濃度を推定するため、標準曲線をsAPPαに関して作成し、23μLの推定マウス海馬容積を用いた(海馬の重量に対して)。
【0109】
非トランスジェニックマウスは、海馬内で事実上、検出不可能なレベルのsAPPαを有することがわかったが、APPSwマウスは、有意に高い量を有した(図2)。4G8抗体は、完全長APP及びAβに結合するが、sAPPαには結合せず、図2に示すようなバンドは認識しない。しかしながら、APPSwマウスにおいて、完全長APPを表す約130kDaにおける弱いバンドが、6E10及び4G8抗体によって認識された。このバンドは、sAPPαのバンドと比べて弱く、APPの大部分がα−またはβ−セクレターゼによって切断されることを示す。イムノブロッティングを用い、APPSwマウス海馬内のsAPPαの平均濃度は、1.2±0.7μMであると測定された。
【0110】
次に、器官型海馬薄片をビヒクルまたは1nM sAPPαで24時間処理し、RNAを単離し、オリゴヌクレオチドマイクロアレイ解析を行った。試料は、ビヒクル(n=3)またはsAPPα(n=3)で処理した薄片で構成されるものであった。各試料は、4例の動物由来の8〜12個の薄片をプールしたものとした。変化の平均倍数を3×3比較から算出した。sAPPαでの処理により、45個の遺伝子およびESTの発現レベルにおける有意な増加(ランク≧9)がもたらされた(表2)。sAPPα処理によって有意に減少した遺伝子またはESTはなかった。成体APPSwマウスと同様に、ttrは、最大倍数変化(8.9倍)を伴う遺伝子の1つであった。また、igf−2及びインスリン様成長因子結合タンパク質2(igfbp2)のmRNAレベルは、sAPPαによって増大した。アポトーシス阻害、解毒およびレチノール輸送などの保護経路に関与する数種類の他の遺伝子が、sAPPαによって上方調節された(表2)。
【0111】
【表3−1】
【0112】
【表3−2】
【0113】
免疫組織化学により、1nM sAPPα処理海馬薄片の細胞外空間内で、TTR及びIGF−2の両方における劇的な増加が示された。ポリペプチドレベルは、海馬のニューロン野周囲で最高のようであった。IGF−2における増大と一致して、及び成体APPSwマウスと同様に、ホスホBADのレベルは、sAPPα処理海馬薄片のNeuN陽性ニューロン内で増大した。
【0114】
海馬薄片培養物においてsAPPα処理によって増大した遺伝子の相対発現レベルを、6ヶ月齢および12ヶ月齢の非トランスジェニック及びAPPSwマウスの発現プロフィールとともにクラスター化した。自己組織化マップ(SOM)のクラスター化により、4つのクラスターが得られた。クラスター4(図3、右下パネル)は、ビヒクル処理薄片、6ヶ月齢対照マウス及び12ヶ月齢対照マウスにおいて低発現レベルを、ならびにsAPPα処理薄片、6ヶ月齢APPSwマウス及び12ヶ月齢APPSwマウスにおいて高発現レベルを有する遺伝子およびEST類を含む。したがって、これは、sAPPαによってエキソビボ及びおそらくインビボで増大する遺伝子のクラスターである。このクラスター内の遺伝子としては、ttr、igf−2、及びigfbp2が挙げられる(図3)。
【0115】
(実施例6−TTR及びIGF−2はAβ毒性に対するsAPPα誘導性保護に関与する)
器官型海馬培養物を、エチジウムホモ二量体(EthD−1)及びカルセインAMで処理し、ともにインキュベートした。Aβ誘導性EthD−1染色を海馬のニューロン野のNeuN陽性ニューロン内で行った。ここで、各蛍光プローブで染色された細胞の数を計測し、EthD−1陽性であり、したがって膜完全性を失った細胞のパーセントとして示した(%死滅;図4)。25μMまたは50μM Aβいずれかでの処理により、50μMリバースAβ処理と比べ、死滅のパーセントにおける劇的な増加がもたらされた。1nM sAPPαでの48時間の前処理は、Aβ誘導性死を完全に防御した。Aβとともに添加したとき、3μM TTRもまたAβを完全に防御したが、500nM IGF−2の外的添加はAβを一部防御した(図4A)。さらに、sAPPαのCOOH末端の17アミノ酸を認識する抗体(抗体6E10)の添加により、sAPPαの保護効果が抑制された。この領域は、Aβ配列の一部を含み、α−セクレターゼ対β−セクレターゼによって切断されるAPPに特有である。また、この配列の部分に対応する10アミノ酸断片での処理により、sAPPαの保護効果が模倣される(図4A)。
【0116】
TTR及びIGF−2はともに分泌タンパク質であるため、これらに対して生成させた抗体を添加することにより、これらの機能を妨害することが可能である。sAPPαとの対照ヤギIgGの添加では、Aβに対するsAPPα誘導性保護は妨害されなかった。しかしながら、TTRまたはIGF−2に対して指向される抗体の添加は、sAPPαによる保護を抑制した(図4B)。このことを支持して、TTRまたはIGF−2のsiRNAノックダウンにより、Aβに対するsAPPα誘導性保護が一部抑制された(図4C)。IGF−2は、IGF−1受容体を活性化してBADのリン酸化を引き起こすことにより、細胞を保護し得る。例えば、IGF−1RのsiRNAノックダウンによってもまた、sAPPαによる保護が抑制された(図4C)。すべてのノックダウンを免疫組織化学によって確認し、IGF−2またはIGF−1RのいずれかのsiRNAが、sAPPαによって誘導されるBADリン酸化を抑制した。TTRポリペプチド類またはIGF−2ポリペプチド類のいずれかの阻害またはノックダウンにより保護が有意に阻止されたという事実は、TTRポリペプチド類及びIGF−2ポリペプチド類の両方の誘導が、Aβに対する最大保護に関与することを示す。
【0117】
(実施例7−TTRはAPPSwマウスを神経変性から保護する)
Aβの分離を抑制するための試みにおいて、TTRに対する抗体を、APPSwマウス海馬のCA1領域内に直接注入した。浸透圧ポンプを用い、2週間の期間にわたって抗TTR抗体の連続的な注入を行った。これにより、注入を受けた海馬の細胞外空間内に抗TTR抗体の劇的な沈着がもたらされたが、注入を受けなかった海馬ではもたらされなかった。対照ヤギIgGの注入ではヤギIgG沈着はもたらされなかった。またさらに、抗TTR抗体を注入されたAPPSwマウスは、ヤギIgGまたは注入を受けなかった海馬と比べた場合、海馬のニューロン野内および周囲で著しく増大されたレベルのAβを示した。これは、抗TTR抗体が、AβのTTRポリペプチド結合を破壊し、局所的に増大されたAβ負荷をもたらしたことを示す。抗TTR注入された海馬内の多くのプラークを、Aβ及び抗TTR抗体で同時染色し、APPSwマウスにおいてTTRポリペプチド類がAβプラークにインビボで結合することが示された。非トランスジェニックマウスは、その海馬において、なんら検出可能なTTRポリペプチドを生成または保有しなかった。実際、非トランスジェニックマウス内への抗TTR抗体の注入は、該抗体またはAβのいずれの蓄積ももたらさず、タウリン酸化は検出され得なかった。
【0118】
CA1ニューロン野周囲でAβ蓄積を引き起こすことに加え、抗TTR抗体の注入は、多くのCA1ニューロン内でタウリン酸化をもたらした。AT8抗体に関して免疫陽性のいくつかのニューロンが、抗TTR注入された海馬のCA1野内に存在したが、ヤギIgG注入されたまたは注入を受けなかった海馬では、陽性に染色された細胞はなかった。AT8陽性ニューロンは、多くの場合、変性を示す濃縮した核を含んだ。Thr231においてリン酸化されたタウを認識する抗体もまた、抗TTR注入された海馬においてCA1ニューロンを染色した。これらのリン酸化タウ陽性ニューロンは、ニューロンマーカーNeuNで同時染色された。ホスホ−タウ(Thr231)陽性細胞の数および染色の強度は、ヤギIgG及び注入を受けなかった海馬では改変されなかった。
【0119】
CA1において抗TTR抗体注入後、アポトーシス性細胞が増加し、健常なニューロンの総数が減少したか否かを調べるため、光学的分画装置を用いた不偏立体解析を行った。アポトーシス性ニューロンは、インビボ神経系において72時間以内に消去される(Huら、J.Neurosci.,17:3981−3989(1997))。このことにもかかわらず、2週間のヤギIgGの連続的注入後、濃縮した核を有する一部の細胞をCA1錐体ニューロン野内で計測した。抗TTR抗体の注入により、CA1内の濃縮した核を有する細胞の総数が有意に増大した(表3及び図5A)。対照として、注入なしの対照マウスでは、濃縮核の細胞は観察され得なかった。ニューロンのアポトーシスの増大と一致して、CA1錐体ニューロンの総数は、ヤギIgGを注入されたマウスと比べ、抗TTR抗体を注入されたマウスにおいて17.1±5.3%有意に減少した(表2及び図5B)。
【0120】
【表4】
【0121】
要約すると、ADは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の異常なプロセッシング及びβ−アミロイド(Aβ)の蓄積によって引き起こされ得る。しかしながら、変異型APPを過剰発現するマウスは、そのヒト疾患の特徴であるタウリン酸化またはニューロン減少を示さない。本明細書に記載のように、Aβ処理によってタウのリン酸化およびニューロン死がもたらされるようにマウス海馬のエキソビボモデルを開発した。対照的に、α−セクレターゼ切断APP(sAPPα)は、これらのAβ誘導性病理を防御し、いくつかの神経保護性遺伝子の発現レベルを増大させる。トランスチレチン及びインスリン様成長因子2のsAPPα駆動型発現は、器官型海馬培養物におけるAβ誘導性ニューロン死に対する防御に関与する。APPSwを過剰発現するマウスの海馬内へのトランスチレチンに対する抗体の長期注入により、Aβの増加、タウリン酸化、ならびにCA1ニューロン野内でのニューロン減少及びアポトーシスがもたらされる。したがって、トランスチレチンの発現の上昇は、sAPPαによって媒介され、ADにおいて観察される多くの神経病理の発現からAPPSwマウスを保護する。このモデル系は、インタクトな脳の構造および化学をより厳密に表し、凝集したAβが、ADの主要な病理学的特徴のいくつかを誘導し得ることを示した。また、本明細書において提供される薄片培養物により、科学者達が、Aβにより内生タウのリン酸化およびニューロン死をもたらされる正確な機構を探求することが可能となり得る。
【0122】
また一方、Aβは、タウリン酸化およびアポトーシスをマウス海馬のエキソビボモデルにおいて誘導する能力がある。これらの病理はまた、Aβ−結合タンパク質TTRに対して指向される抗体をAPPSwマウス内に注入した場合、インビボでも観察される。本明細書に提示する結果は、sAPPα代用(replacement)またはsAPPα誘導経路の活性化は、Aβの毒性およびADの発症の抑制を補助し得ることを示す。
【0123】
(実施例8−成体ヒト由来の器官型皮質培養物において誘導された神経病理学および保護)
(被験体)
難治性癲癇を有し、側頭葉切除を受けるために選出された4例の患者を、この試験のために集めた。これらの患者は、多くの場合、硬化症を伴う海馬を有する。しかしながら、上に重なっている側頭皮質は正常である。被験体の年齢は、20〜49歳の範囲であった。脳組織は、すべての患者からインフォームドコンセントを伴って入手した。
【0124】
(ヒト器官型培養物)
脳組織を、大きなインタクトな一部分において電気焼灼器によって取り出した。側頭皮質から得た組織は、およそ3cm×2cm×1.5〜2cmであった。取り出した直後、組織を、CO2非依存性移送保持用培地である氷冷Neuregen−I培地(Brainbits,Springfield,IL)中に入れ、組織培養研究室に移送した。各脳回ができるだけインタクトに維持され、皮質層が保存されるように、メスで組織を切断して約0.5〜1cm3塊を作製する前に髄膜を除去した。前述のように、切除は、脳回の長軸に対して垂直に白質に沿って行った(Verwerら、Exp.Gerontol.,38:167−172(2003))。ビブラトームを用い、脳回の長軸に対して垂直な平面で400μm厚の薄片を切断した。したがって、すべての皮質層および少量の白質が薄片内に含まれた。あるいはまた、海馬から通常通りに得た小組織片を、Mcllwainティッシュチョッパーを用いて400μmに切断した。2つ以下の薄片を、6ウェル培養プレート内に保持した30mm直径および0.4μmフィルター孔サイズを有するフィルターインサート(Millipore,Billerica,MA)上に配置した。最初の12時間は、薄片を、B−27サプリメント、0.5mMグルタミン及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を含む1〜1.2mLのNeurobasal培地中に維持した。続いて、培地を2日毎に、抗生物質を含まない1mLの培地を用いて交換した。器官型培養物を加湿インキュベーター内に、37℃で5%O2、5%CO2及び90%N中、4〜28日間維持した。
【0125】
細胞死および生存能力を、生薄片において、Molecular Probes’ Live/Dead Kitの蛍光プローブを用いて測定した。カルセインAM(1:400)及びエチジウムホモ二量体(1:1000)含有リン酸緩衝生理食塩水中で40分間のインキュベーション後、薄片をNikon Diaphot 200倒立顕微鏡により200×倍率で、Bio−Rad MRC−1024 Laser Scanning Confocalシステム(Hercules,CA)を用いて可視化した。無作為の画像を、各プローブの発光スペクトルにおいて取り込み、Scion Imageソフトウェア(Frederick,MD)を用いて生細胞および死細胞の数を定量した。少なくとも3つの領域をイメージングし、各薄片について死滅のパーセントを調べた。死滅のパーセントは、EthD−1陽性細胞の数をEthD−1及びカルセインAM陽性細胞の総数で除算して算出した。
【0126】
(処理)
β−アミロイド1〜42及びリバースAβ(Aβ42〜1)を、BACHEM(Torrance,CA)から入手した。これらのペプチドを0.1%NH3OHに222μMで溶解した。処理のため、AβまたはリバースAβを50μMで、B−27サプリメント及び0.5mMグルタミンを加えたNeurobasal培地中に37℃にて24時凝集させた。次いで、薄片培養培地を除去し、薄片を、1mLの25μMもしくは50μMのAβ、リバースAβまたはビヒクルで24時間処理した。ヒトTTR(Calbiochem)を、Aβ処理とともに薄片に0.03、0.3及び3μM TTRの最終濃度で添加した。sAPPαはSigma(St.Louis,MO)から入手した。特に記載のない限り、すべてのsAPPα処理は、1nMで、Aβの添加前に48時間行った。sAPPαのカルボキシル末端領域の10アミノ酸断片(APP695の592〜601;SEVKMDAEFR)を、sAPPαと同じプロトコルに従って付加した。各患者から異なる量の組織を得たため、すべての患者に対してすべての処理を行ったとは限らなかった。
【0127】
(TUNEL染色による細胞死の検出)
皮質薄片の凍結切片を、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ−媒介型dUTPニック末端標識(TUNEL)及び抗NeuN抗体で染色した。DNA断片化を有する細胞を、DNA内へのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)−12−dUTPのターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ取込みによって調べた(In Situ Cell Death Detectionキット、Roche Biochem,Indianapolis,IN)。600×倍率での共焦点解析によって、薄片1つあたり少なくとも3つの無作為の画像を作成した。次いで、TUNEL陽性、NeuN陽性、ならびにTUNEL及びNeuNの両方が陽性の細胞の数を定量した。
【0128】
(免疫組織化学)
薄片を4%PFA中に20分間固定し、30%スクロース含有リン酸緩衝生理食塩水中で一晩インキュベートし、OCT包埋培地中で凍結させた。10μmの幅を有する凍結切片を各薄片から採取した。リン酸化されたタウを、モノクローナルAT8抗体(1:200;Research Diagnostics,Flanders,NJ)及び抗ホスホ−タウ(Thr231)(1:500;Calbiochem,San Diego,CA)により検出した。対照として、免疫前ウサギまたはマウスIgG(Vector Laboratories,Burlingame,CA)を一次抗体の代わりに用いた。ビオチン化抗ウサギIgGまたは抗マウスIgGを二次抗体として用いた。Vectastain Elite ABCキット(Vector)及びAlexa Fluor 488または568(Molecular Probes,Eugene,OR)のいずれかにコンジュゲートさせたチラミドを、抗体染色を可視化するために使用した。抗NeuN(1:250;Chemicon International,Temecula,CA)を、Alexa Fluor 647にコンジュゲートさせた抗マウスIgG二次抗体とともに用い、ニューロンマーカーNeuNを検出した。Bio−Rad Laser Scanning Confocalシステムまたはエピ蛍光(Zeiss,Thornwood,NY)のいずれかを用いて切片をイメージングした。
【0129】
(統計学的解析)
結果を平均±SEMとして示す。統計学的有意性は、対応のない両側スチューデントのt検定を用いて決定し、p値<0.05を有意であるとみなした。
【0130】
(結果)
成体ヒトの側頭皮質由来の薄片を、培地中に4〜21日間維持した。エチジウムホモ二量体(EthD−1)は、インタクトな原形質膜を有する生細胞から消去される膜不透過性DNA結合色素である。カルセインAMは、機能性細胞内エステラーゼを有する生細胞において蛍光を発する細胞不透過性色素である。培養状態で最初の3日間に、多数のEthD−1陽性細胞が対照薄片において観察された。これらは、おそらく、外科処置またはその後の薄片化の際に損傷された細胞である。第4日までに、EthD−1陽性細胞の割合は、平均レベル20%に低下した。多数のカルセインAM陽性細胞が、培養中の21日間に存在した。カルセインAM細胞の大部分は直径がおよそ20μmであった。また、多くの細胞がニューロンマーカーNeuNで陽性に染色され、大きな皮質ニューロンの存在を示す。
【0131】
薄片にてADをモデル化する試みにおいて、薄片を凝集させたAβで処理した。50μM Aβでの処理により、膜完全性を失った細胞の数の劇的な増加がもたらされた。1nM sAPPαで48時間の前処理により、Aβ誘導性EthD−1染色が抑制された。50μM Aβでの処理により、死滅のパーセントが有意に増大され、一方、1nM sAPPαでの前処理により、Aβ誘導性死が有意に防御された(図6A)。sAPPαのCOOH末端領域に対応する10アミノ酸断片もまた、4例の被験体において有意な保護を示した(p値<0.05;図6A)。また、1例の被験体由来の試料を、4アミノ酸断片(DAEF;配列番号:2)で処理した。この断片は、50μM Aβ毒性を防御した(図6A)。
【0132】
また、50μM Aβでの処理により、DNA鎖破断がもたらされ、これは、TUNELによって示された。これらのTUNEL陽性細胞の多くは、NeuNで同時標識された。1nM sAPPαでの前処理により、TUNEL陽性ニューロンにおいてAβ−誘導性の増加が抑制された。
【0133】
TUNELに対して染色されたNeuN及びTUNEL陽性細胞の合計の割合(%TUNEL)を1例の被験体について定量した。また、NeuN及びTUNELで同時染色された全NeuN陽性細胞の割合を調べた(図6B)。全TUNEL陽性細胞の割合およびTUNEL陽性であるニューロン割合はともに、Aβでの処理後に増大した(図6B)。
【0134】
TTRポリペプチド発現はsAPPαによって誘導され、Aβ毒性からの保護に関与する。0.3または3μM TTRポリペプチドでのヒト皮質薄片の同時処理は、Aβ誘導性EthD−1染色を防御したが、0.03μM TTRポリペプチドでは防御されなかった(図6C)。
【0135】
モノクローナル抗体AT8は、Ser202においてリン酸化されたタウを認識し、ADにおける早期および成熟もつれを染色するために一般に使用されている。50μM リバースAβで処理した皮質薄片は、AT8陽性細胞を全く保有しなかった。しかしながら、50μM Aβでの処理では、早期タウ病理に特徴的な細胞体樹状突起の再分布を伴ういくつかのAT8陽性細胞がもたらされた。50μMリバースAβで処理した薄片は、NeuN陽性細胞の過程(process)内で、Thr231においてリン酸化された一部のタウを示したが、細胞体では示されず、タウの通常な分布と一致した。対照的に、50μM Aβでの処理では、高レベルの体性ホスホ−タウ(Thr231)を有するいくつかのNeuN陽性ニューロンがもたらされた。1nM sAPPαでの前処理により、Aβ誘導性タウリン酸化が抑制された。また、50μM Aβで1週間処理した薄片の電子顕微鏡検査では、樹状突起に見られるもつれ様構造を有する少数のニューロンが示された。
【0136】
要約すると、これらの結果は、癲癇患者から取り出した皮質組織は、器官型薄片培養物として21日間まで維持され得ること、およびヒト皮質のAβ処理は、細胞膜完全性の減損、ニューロンのDNA断片化およびタウリン酸化をもたらすことを示す。Aβは、タウリン酸化、およびもつれ様構造が電子顕微鏡検査によって確認され得るニューロンの細胞体樹状突起の区画に対する再分布を誘導した。sAPPαでの前処理により、これらの神経変性変化が抑制された。この保護は、10アミノ酸sAPPα断片によって模倣される。また、TTRポリペプチドそれ自体が、正常ヒトCSFにおいて見られるTTR0.3μM以上の濃度でAβ毒性を防御し得る(Schwarzmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.,91:8368−8372(1994))。これらの結果は、脳においてsAPPα、sAPPαの断片および/またはTTRポリペプチドの量が増加することにより、ADの発症が遅滞または予防され得ることを示す。これらの結果はまた、Aβが、ヒト薄片培養物において、ADと関連する神経変性を誘導し得ることを示す。開発したこのエキソビボモデルは、組織が、(a)動物ではなくヒトである、(b)胚性、胎児性または早期生後ではなく成体である、(c)切除されたものではなくインタクトである、および(d)トランスジェニック、不死化または腫瘍性ではなく遺伝子学的に正常であるという点において、他のモデルと比べ、ADに対して特に重要である。
【0137】
(実施例9−マウス海馬薄片培養物におけるポリペプチド保護)
(海馬の器官型培養物)
C57B6/SJLマウスの子に対し、生後第15日に麻酔して断頭した。脳を取り出し、氷冷解離培地(50%最少必須培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)、50%ハンクス平衡塩溶液(Invitrogen)、25mM HEPES、及び36mMグルコース)中に入れた。両方の海馬を解剖顕微鏡下で解剖し、Mcllwainティッシュチョッパーにて400μmに切断した。薄片をばらばらにし、6ウェル培養プレート内に保持した30mm直径および0.4μmフィルター孔サイズを有するフィルターインサート(Millipore,Billerica,MA)上に配置した。最初の3日間、薄片を、B−27サプリメント、1mMグルタミン及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を加えたNeurobasal培地中に維持した。続いて、抗生物質を含まない培地を用い、培地を3日毎に交換した。器官型培養物を加湿インキュベーター内に、37℃で5%O2及び5%CO2中、14〜21日間維持した。
【0138】
細胞死および生存能力を、生薄片において、Molecular Probes’ Live/Dead Kitの蛍光プローブを用いて測定した。カルセインAM(1:400)及びエチジウムホモ二量体(1:1000)含有リン酸緩衝生理食塩水中で40分間のインキュベーション後、薄片を、Nikon Diaphot 200倒立顕微鏡により200×倍率で、Bio−Rad MRC−1024 Laser Scanning Confocalシステム(Hercules,CA)を用いて可視化した。ニューロン野の無作為の画像を、各プローブの発光スペクトルにおいて取り込み、Scion Imageソフトウェア(Frederick,MD)を用いて生細胞および死細胞の数を定量した。各薄片について、ニューロン野を含む少なくとも3つの領域をイメージングし、死滅のパーセントを調べた。死滅のパーセントは、EthD−1陽性細胞の数をEthD−1及びカルセインAM陽性細胞の総数で除算して算出した。
【0139】
(処理)
β−アミロイド1〜42及びリバースAβ(Aβ42〜1)を、BACHEM(Torrance,CA)から入手した。これらのペプチドを0.1%NH3OHに222μMで溶解した。処理のため、Aβを50μMで、B−27サプリメント及び1mMグルタミンを加えたNeurobasal培地中で37°Cにて24時間凝集させた。次いで、薄片培養培地を除去し、薄片を1mLの25μM Aβまたはビヒクルで24時間処理した。sAPPαのカルボキシル末端領域に対応するタンパク質断片(Sigma−Genosys,The Woodlands,TXによって合成)を1nMの最終濃度まで、Aβの添加の48時間前に添加した。
【0140】
(結果)
器官型海馬培養物を、エチジウムホモ二量体(EthD−1)及びカルセインAMで処理し、ともにインキュベートした。各蛍光プローブで染色された細胞の数を計測し、EthD−1陽性であり、したがって膜完全性を失った細胞のパーセントとして示した(%死滅、図7)。25μM Aβでの処理により、ビヒクルでの処理と比べ、死滅のパーセントの劇的で有意な増加がもたらされた。1nM のsAPPαのカルボキシル−末端領域の部分に対応する10アミノ酸断片(APP770の667〜676;SEVKMDAEFR(配列番号:1))での48時間の前処理により、Aβ誘導性死が完全に防御された。この防御は、カルボキシルアルギニンを除去した場合(SEVKMDAEF(配列番号:7))、維持された。しかしながら、アルギニンとフェニルアラニンの両方の除去(SEVKMDAE(配列番号:22))では、Aβに対する防御が反転された。アミノ末端の終端において、セリン除去(EVKMDAEFR(配列番号:3))とセリン及びグルタミン酸除去(VKMDAEFR(配列番号:4))の両方を有する断片は、25μM Aβ処理を有意に防御した(図7)。1nMの4アミノ酸断片(DAEF)での海馬薄片の前処理もまた、Aβ誘導性細胞死を防御するのに充分であった(図7)。
【0141】
(実施例10−インビボポリペプチド保護)
以下の実験は、sAPPα及び10アミノ酸断片(SEVKMDAEFR(配列番号:1))が、マウスの海馬内への定位注射により、インビボでAβ誘導性毒性に抗する細胞生存経路を活性化する能力を試験するために行った。乱雑化した(scrambled)形態の10アミノ酸断片を用い、経路活性化が該ペプチド配列に依存性であることを示した。
【0142】
(定位注射)
10週齢B6/SJLマウスの海馬の右側に、sAPPα、10アミノ酸断片または乱雑化した10量体を推定1nM海馬内濃度まで、定位的に注射した。反対側には人工脳脊髄液を注射した。各注射は、10分の間にわたって送達させる1.5mLの溶液で構成した。手術の48時間後、マウスに冷PBSを灌流し、その海馬を切除し、後のRNA抽出用に安定化溶液中で保存した。
【0143】
(量的PCR)
RNAを海馬の試料から抽出し、DNアーゼ処理し、逆転写した。次いで、cDNAを、SYBRグリーンを用いてRoche LightCyclerシステムにおいて行う定量的リアルタイムPCRに使用した。また、各RNA試料の一部を非RT伝統的PCR反応に使用し、DNA侠雑物の不存在を確認した。
【0144】
(免疫組織化学)
注射の48時間後、マウスを4%PFAで灌流した。脳を回収し、半側切除し、4%PFA中で一晩固定した。次いで、これらを30%スクロース中に24時間浸漬し、凍結し、切片にした。注射部位の形態学的確認のため、切片をクレシルバイオレットで染色した。他の切片を、ヤギ抗TTR及びビオチン化二次抗体で染色すると、TTRタンパク質発現、及び核マーカーとしてToPro3が示された。非特異的染色のための対照は、ヤギIgGを用いて行った。
【0145】
(結果)
1nM sAPPα及び10アミノ酸断片はともに、成長因子IGF2及びIGFBP2の発現における増大を誘導し(図8、9及び10)、これにより、Aβ毒性がインビトロで防御され得る。また、sAPPα及び10アミノ酸断片により、処理した海馬内でTTRのレベルの増大がもたらされ、これによって、Aβを分離されることにより毒性が防御され得る。これらの結果は、Aβ毒性に抗する神経保護的経路(例えば、図11を参照)は、マウスにおいてインビボで活性化され得ることを示す。これらの結果はまた、神経保護的経路の活性化が、アルツハイマー病の予防における処置として使用され得ることを示す。
【0146】
(実施例11(予言的)−Aβの効果を低減させる能力に関するインビボまたはインビトロでの化合物の同定)
試験化合物を、インビボまたはインビトロである脳組織に適用する。また、脳組織を、外的に適用するか脳組織内の細胞によって発現されるAβと接触させる。簡単には、培養のための脳組織を得るため、実施例8に記載のようにして、脳組織を大きなインタクトな一部分(ほぼ3cm×2cm×2cm)において電気焼灼器によって取り出す。
【0147】
脳組織を試験化合物と接触させた後、細胞死および/または細胞生存能力を、生薄片で、例えばMolecular Probes’ Live/Dead Kitの蛍光プローブを用いて測定する。カルセインAM(1:400)及びエチジウムホモ二量体(1:1000)含有リン酸緩衝生理食塩水中で40分間のインキュベーション後、薄片を、例えば、Nikon Diaphot 200倒立顕微鏡により200×倍率で、Bio−Rad MRC−1024 Laser Scanning Confocalシステム(Hercules,CA)を用いて可視化する。無作為の画像を、各プローブの発光スペクトルにおいて取り込み、Scion Imageソフトウェア(Frederick,MD)を用いて生細胞および死細胞の数を定量する。各薄片について、少なくとも3つの領域をイメージングし、死滅のパーセントを調べる。死滅のパーセントは、EthD−1陽性細胞の数をEthD−1及びカルセインAM陽性細胞の総数で除算して算出する。場合によっては、細胞死をTUNEL染色によって調べる。簡単には、皮質薄片の凍結切片を、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ−媒介型dUTPニック末端標識(TUNEL)及び抗NeuN抗体で染色する。DNA断片化を有する細胞を、DNA内へのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)−12−dUTPのターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ取込みによって調べる(In Situ Cell Death Detectionキット、Roche Biochem,Indianapolis,IN)。600×倍率での共焦点解析によって、薄片1つあたり少なくとも3つの無作為の画像を作成する。次いで、TUNEL陽性、NeuN陽性、ならびにTUNEL及びNeuNの両方が陽性の細胞の数を定量する。
【0148】
細胞死のパーセントを、試験化合物の不存在下でAβと接触させた対照脳組織で測定された細胞死のパーセントと比較する。Aβのみと接触させた脳組織で観察されるものと比べ、試験化合物およびAβと接触させた脳組織で少ない細胞死が観察されるならば、試験化合物は、Aβの効果を低減させる能力を有し得る。かかる低減の陽性対照は、DAEF含有ポリペプチド(例えば、SEVKMDAEFR(配列番号:1)、SEVKMDAEF(配列番号:7)、EVKMDAEFR(配列番号:3)、VKMDAEFR(配列番号:4)、またはDAEF(配列番号:2))とAβとに接触させた脳組織である。他の対照としては、未処理の脳組織およびβ−アミロイド1〜42またはリバースAβ(Aβ42〜1)で処理した脳組織が挙げられる。
【0149】
試験化合物およびAβと接触させた脳組織で観察された細胞死のパーセントを、DAEF含有ポリペプチド及びAβと接触させた脳組織で観察された細胞死のパーセントと比較することにより、Aβの効果を低減させる試験化合物の有効性を調べる。DAEF含有ポリペプチド及びAβと接触させた脳組織で観察されるものと比べ、試験化合物およびAβと接触させた脳組織で観察される同等または低いレベルの細胞死は、試験化合物がAβの効果の強力なインヒビターであることを示し得る。
【0150】
(実施例12(予言的)−Aβの効果を低減させる能力に関する化合物の同定)
試験化合物を、インビボまたはインビトロである脳組織に適用する。簡単には、培養のための脳組織を得るため、実施例8に記載のようにして、脳組織を大きなインタクトな一部分(ほぼ3cm×2cm×2cm)において電気焼灼器によって取り出す。
【0151】
脳組織を試験化合物と接触させた後、TTR及びIGF−2などの神経保護性ポリペプチドをエンコードする核酸の発現レベルを、該ポリペプチドレベル及び/又はmRNAレベルを測定することにより決定する。簡単には、ELISAを用いて神経保護性ポリペプチド発現のレベルが測定され、一方、RT−PCRまたは発現アレイ技術(例えば、Affymetrix(Santa Clara,CA)から入手可能なアレイ)を用いて、神経保護性ポリペプチドをエンコードする核酸のmRNA発現のレベルが測定される。
【0152】
ポリペプチドまたはmRNAの発現のレベルを、試験化合物と接触させていない対照脳組織について決定された該ポリペプチドまたはmRNAの発現レベルと比較する。対照脳組織で観察されるものと比べて、より少ないポリペプチドまたはmRNA発現が試験化合物と接触させた細胞で観察されるならば、試験化合物は、Aβの効果を低減させる能力を有し得る。かかる低減の陽性対照は、DAEF含有ポリペプチド(例えば、SEVKMDAEFR(配列番号:1)、SEVKMDAEF(配列番号:7)、EVKMDAEFR(配列番号:3)、VKMDAEFR(配列番号:4)、またはDAEF(配列番号:2))と接触させた脳組織である。他の対照としては未処理の脳組織が挙げられる。
【0153】
神経保護性ポリペプチドをエンコードする核酸の発現レベルを増大させる試験化合物の有効性は、試験化合物と接触させた脳組織で観察された発現レベルを、DAEF含有ポリペプチドと接触させた脳組織で観察された発現レベルと比較することにより決定される。DAEF含有ポリペプチドと接触させた脳組織で観察されるものと比べ、試験化合物と接触させた脳組織で同等または高いレベルの発現が観察されることは、試験化合物が、神経保護性ポリペプチド発現の強力な活性化物質であることを示し得る。
【0154】
(実施例13−ポリペプチド類の評価)
図12A及びBは、種々の処理条件下での細胞死のパーセントを示す一組の棒グラフである。図12Aに関して、テトラペプチドDAEF単独およびそのNH2末端の終端上に修飾をしたものは、海馬薄片培養物においてAβ誘導性死に対する防御を示す。
【0155】
各処理での死滅のパーセントを、膜透過性EthD−1陽性細胞の数ならびにカルセインAMで陽性に染色された生細胞の数を計測することにより、生海馬薄片のニューロン野において定量した。データを平均±SEM(1処理あたりn=3〜5薄片)として示す。Aβは、死滅のパーセントの有意な増加をもたらすが、1nMのテトラペプチド(DAEF)は、Aβ誘導性毒性を防御する。アセチル化DAEF(配列番号:2)は、Aβに対する有意な防御を示す。また、テトラペプチド(R(9)−DAEF)のNH2末端の終端への9個のアルギニンの付加により、Aβ誘導性細胞死が有意に防御される。さらに図12Aに関して、# ビヒクルと比べてp値<0.01、* 25μM Aβと比べてp値<0.05、対応のない両側t−検定。
【0156】
(結果)
器官型海馬培養物を、エチジウムホモ二量体(EthD−1)及びカルセインAMで処理し、ともにインキュベートした。エチジウムホモ二量体(EthD−1)は、インタクトな原形質膜を有する生細胞から消去される膜不透過性DNA結合色素である。カルセインAMは、機能性細胞内エステラーゼを有する生細胞において蛍光を発する細胞不透過性色素である。ここで、各蛍光プローブで染色された細胞の数を計測し、EthD−1陽性であり、したがって膜完全性を失った細胞のパーセントとして示した(%死滅、図)。25μM Aβでの処理により、ビヒクルでの処理と比べ、死滅のパーセントの劇的で有意な増加がもたらされた。1nMの該4量体での48時間の前処理により、Aβ誘導性死が完全に防御された。この防御は、NH2末端の終端がアセチル化されている場合(アセチル−DAEF)は維持されたが、この分子は、非修飾テトラペプチドと同程度には防御しなかった。最後に、9個のアルギニンをそのNH2末端の終端上に保有するように修飾したテトラペプチド(R(9)−DAEF)もまた、Aβ処理を有意に防御した。
【0157】
(実験手順)
(海馬の器官型培養物)
C57B6/SJLマウスの子に対し、生後第15日に麻酔して断頭した。脳を取り出し、氷冷解離培地(50%最少必須培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)、50%ハンクス平衡塩溶液(Invitrogen)、25mM HEPES、及び36mMグルコース)中に入れた。両方の海馬を解剖顕微鏡下で解剖し、Mcllwainティッシュチョッパーにて400μmに切断した。薄片をばらばらにし、6ウェル培養プレート内に保持した30mm直径および0.4μmフィルター孔サイズを有するフィルターインサート(Millipore,Billerica,MA)上に配置した。最初の3日間、薄片を、B−27サプリメント、1mMグルタミン及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を加えたNeurobasal培地中に維持した。続いて、抗生物質を含まない培地を用い、培地を3日毎に交換した。器官型培養物を加湿インキュベーター内に、37℃で5%O2及び5%CO2中、14〜21日間維持した。
【0158】
細胞死および生存能力を、生薄片において、Molecular Probes’ Live/Dead Kitの蛍光プローブを用いて測定した。カルセインAM(1:400)及びエチジウムホモ二量体(1:1000)含有リン酸緩衝生理食塩水中で40分間のインキュベーション後、薄片を、Nikon Diaphot 200倒立顕微鏡により200×倍率で、Bio−Rad MRC−1024 Laser Scanning Confocalシステム(Hercules,CA)を用いて可視化した。ニューロン野の無作為の画像を、各プローブの発光スペクトルにおいて取り込み、Scion Imageソフトウェア(Frederick,MD)を用いて生細胞および死細胞の数を定量した。各薄片について、ニューロン野を含む少なくとも3つの領域をイメージングし、死滅のパーセントを調べた。死滅のパーセントは、EthD−1陽性細胞の数をEthD−1及びカルセインAM陽性細胞の総数で除算して算出した。
【0159】
(処理)
β−アミロイド1〜42及びリバースAβ(Aβ42〜1)を、BACHEM(Torrance,CA)から入手した。これらのペプチドを0.1%NH3OHに222μMで溶解した。処理のため、Aβを50μMで、B−27サプリメント及び1mMグルタミンを加えたNeurobasal培地中で37°Cにて24時間凝集させた。次いで、薄片培養培地を除去し、薄片を1mLの25μM Aβまたはビヒクルで24時間処理した。該ペプチド及び修飾ペプチド(Sigma−Genosys,The Woodlands,TXによって合成)を1nMの最終濃度まで、Aβの添加の48時間前に添加した。
【0160】
図12Bは、各処理での死滅のパーセントを、膜透過性EthD−1陽性細胞の数およびカルセインAMで陽性に染色された生細胞の数を計測することにより、生海馬薄片のニューロン野において定量したものを示す。データを平均±SEM(1処理あたりn=3〜5薄片)として示す。Aβは、死滅のパーセントの有意な増加をもたらすが、1nMのテトラペプチド(DAEF、配列番号:2)は、Aβ誘導性毒性を防御する。DのD−異性体[(dD)AEF]、AのD−異性体[D(dA)EF]またはFのD−異性体[DAE(dF)]を含有するテトラペプチド化合物は、Aβ誘導性死を有意に防御しない。交換されたアミノ酸アスパラギン酸およびグルタミン酸およびCOOH−末端に結合させたアミド基(EADF(配列番号:5)−アミド)を有する化合物は、有意にAβ誘導性死を防御するが、NH2−末端上にアセチル基を有するEADF(配列番号:5)配列(アセチル−EADF(配列番号:5))は防御しない。図12Bに関して、# ビヒクルと比べてp値<0.05、* 25μM Aβと比べてp値<0.05、対応のない両側t−検定。
【0161】
(結果)
器官型海馬培養物を、エチジウムホモ二量体(EthD−1)及びカルセインAMで処理し、ともにインキュベートした。エチジウムホモ二量体(EthD−1)は、インタクトな原形質膜を有する生細胞から消去される膜不透過性DNA結合色素である。カルセインAMは、機能性細胞内エステラーゼを有する生細胞において蛍光を発する細胞不透過性色素である。ここで、各蛍光プローブで染色された細胞の数を計測し、EthD−1陽性であり、したがって膜完全性を失った細胞のパーセントとして示した(%死滅、図)。25μM Aβでの処理により、ビヒクルでの処理と比べ、死滅のパーセントの劇的で有意な増加がもたらされた。1nMの該4量体での48時間の前処理により、Aβ誘導性死が完全に防御された。この防御は、アミノ酸D、A及びFの代わりにD−異性体を用いることにより消去された。
【0162】
(実験手順)
(海馬の器官型培養物)
C57B6/SJLマウスの子に対し、生後第15日に麻酔して断頭した。脳を取り出し、氷冷解離培地(50%最少必須培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)、50%ハンクス平衡塩溶液(Invitrogen)、25mM HEPES、及び36mMグルコース)中に入れた。両方の海馬を解剖顕微鏡下で解剖し、Mcllwainティッシュチョッパーにて400μmに切断した。薄片をばらばらにし、6ウェル培養プレート内に保持した30mm直径および0.4μmフィルター孔サイズを有するフィルターインサート(Millipore,Billerica,MA)上に配置した。最初の3日間、薄片を、B−27サプリメント、1mMグルタミン及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を加えたNeurobasal培地中に維持した。続いて、抗生物質を含まない培地を用い、培地を3日毎に交換した。器官型培養物を加湿インキュベーター内に、37℃で5%O2及び5%CO2中、14〜21日間維持した。
【0163】
細胞死および生存能力を、生薄片において、Molecular Probes’ Live/Dead Kitの蛍光プローブを用いて測定した。カルセインAM(1:400)及びエチジウムホモ二量体(1:1000)含有リン酸緩衝生理食塩水中で40分間のインキュベーション後、薄片を、Nikon Diaphot 200倒立顕微鏡により200×倍率で、Bio−Rad MRC−1024 Laser Scanning Confocalシステム(Hercules,CA)を用いて可視化した。ニューロン野の無作為の画像を、各プローブの発光スペクトルにおいて取り込み、Scion Imageソフトウェア(Frederick,MD)を用いて生細胞および死細胞の数を定量した。各薄片について、ニューロン野を含む少なくとも3つの領域をイメージングし、死滅のパーセントを調べた。死滅のパーセントは、EthD−1陽性細胞の数をEthD−1及びカルセインAM陽性細胞の総数で除算して算出した。
【0164】
(処理)
β−アミロイド1〜42及びリバースAβ(Aβ42〜1)を、BACHEM(Torrance,CA)から入手した。これらのペプチドを0.1%NH3OHに222μMで溶解した。処理のため、Aβを50μMで、B−27サプリメント及び1mMグルタミンを加えたNeurobasal培地中で37°Cにて24時間凝集させた。次いで、薄片培養培地を除去し、薄片を、1mLの25μM Aβまたはビヒクルで24時間処理した。該ペプチド及び修飾ペプチド(UW Biotechnology Peptide Synthesis Facility,Madison,WIによって合成)を1nMの最終濃度まで、Aβの添加の48時間前に添加した。
【0165】
(実施例14−海馬内へのポリペプチドの注射)
図13は、海馬内へのsAPPα10量体の定位注射が、正常マウス脳でTTRの発現を誘導することを示す一組の染色の顕微鏡写真を示す。sAPPα由来の1nMのデカペプチドは、以前に、Aβ毒性に抗して器官型海馬薄片培養物を保護することが示されていた。人工脳脊髄液(CSF)で調製した1.5μLの15.3nM溶液の注射を行い、海馬内においての1nMの最終濃度に近似させた。反対側には人工CSFのみを注射し、対照として用いた。TTRの免疫組織化学では、デカペプチドの注射により、反対側のCSF注射海馬(図13A)と比べ、CA1海馬のニューロン(図13B)内および周囲でTTRの量の増大が示された。DNA結合色素ToPro3を用いて核を可視化した(青)。予備データでもまた、sAPPαおよび該4量体の注射によりTTRの増大が示された。
【0166】
(他の実施態様)
本発明を、その詳細な説明に関して説明したが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲に規定される本発明を例示することが意図され、その範囲を制限することを意図しないことを理解されたい。他の態様、利点および変形は、以下の特許請求の範囲の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】表示したポリペプチドで処理した海馬薄片のニューロン野内のNissl染色されたニューロンについてアポトーシスのパーセントをプロットした棒グラフである。データを1処理あたり3薄片の平均±SEMとして示す。*は、50μMリバースAβ処理と比べてp値<0.05を示す。#は、25μM Aβ処理と比べてp値<0.05を示す。
【0168】
【図2】6E10抗体を用いた、トランスジェニック及び非トランスジェニックマウス由来の組織のイムノブロットの写真を含む。図2はまた、sAPPαの相対強度レベルをプロットした棒グラフを含む。値を平均±SEM(n=4)として示す。*は、非トランスジェニックマウスと比べてp値<0.05を示す。
【0169】
【図3】自己組織化マップ(SOM)である。海馬薄片培養物において1nM sAPPαによって有意に増大された(ランク≧9)遺伝子およびESTの発現レベルを、クラスター化し、発現のパターンを特定した。発現パターンは、ビヒクル処理(n=3)及びsAPPα処理(n=3)海馬薄片、6ヶ月齢非トランスジェニック対照(n=3)及びAPPSw(n=3)マウス、ならびに12ヶ月齢非トランスジェニック対照(n=2)及びAPPSw(n=2)マウスにおいて調べた。遺伝子の各クラスターの平均発現レベルを縦座標にプロットしている(白丸)。他方の線(白くない丸)は、各クラスターの標準偏差を示す。クラスター4(右下パネル)は、sAPPα処理によってならびに6及び12ヶ月齢APPSwマウスにおいて上方調節された遺伝子を示す。
【0170】
【図4】図4A、B及びCは、TTR及びIGF−2ポリペプチドがsAPPα誘導型のAβに対する防御に関与することを示す棒グラフである。各処理での死滅のパーセントを生海馬薄片のニューロン野において、膜透過性EthD−1陽性細胞の数ならびにカルセインAMで陽性に染色された生細胞の数を計測することにより定量した。データを平均±SEM(1処理あたりn=3〜5薄片)として示す。図4Aにおいて、生海馬薄片は表示のとおりに処理した。6E10は、sAPPαのCOOH末端領域に対して指向される抗体である。sAPPα断片は、sAPPαの保護効果を模倣することがわかったsAPPαのCOOH−末端断片である(SEVKMDAEFR,配列番号:1)。*は、50μMリバースAβと比べてp値<0.05を示す;#は、50μM Aβと比べてp値<0.01を示す;**は、1nM sAPPα+マウスIgG+25μM Aβと比べてp値<0.05を示す;##は、25μM Aβと比べてp値<0.05を示す。図4Bにおいて、生海馬薄片は、ビヒクル、AβまたはsAPPα+Aβとともに、表示した抗体(ヤギIgG、抗TTRまたは抗IGF−2)で処理した。*は、対応するビヒクル処理薄片と比べてp値<0.01を示す;#は、1nM sAPPα+ヤギIgG+25μM Aβと比べてp値<0.01を示す。図4Cにおいて、生海馬薄片は、ビヒクル、Aβ、またはsAPPα+Aβとともに、TTR、IGF−2またはインスリン様成長因子−1受容体(IGF−1R)配列を標的化するsiRNA分子で処理した。*は、対応するビヒクル処理薄片と比べてp値<0.05を示す;#は、1nM sAPPα+乱雑化したGADPH+25μM Aβと比べてp値<0.05を示す。
【0171】
【図5】図5Aは、ヤギIgG(n=4)及び抗TTR(n=4)注入マウスの、注入を受けたCA1錐体ニューロン野内の濃縮した核を有する細胞の総数をプロットした棒グラフである。*はp値<0.01を示す(両側ウィルコクソンのサインランク検定)。図5Bは、ヤギIgG(n=4)及び抗TTR(n=4)注入マウスにおけるCA1ニューロンの総数をプロットした棒グラフである。*はp値<0.05を示す(両側ウィルコクソンのサインランク検定)。
【0172】
【図6】図6Aは、表示のとおりに処理した皮質薄片での死滅のパーセントをプロットした棒グラフである。各処理での死滅のパーセントを生皮質薄片において、膜透過性EthD−1陽性細胞の数ならびにカルセインAMで陽性に染色された生細胞の数を計測することにより定量した。データを平均±SEM(n=4被験体)として示す。*は、50μMリバースAβと比べてp値<0.05を示す;#は、50μM Aβと比べてp値<0.05を示す。図6Bは、表示した処理での、TUNEL陽性である全細胞のパーセント(%TUNEL)またはTUNEL及びNeuNの両方が陽性であるNeuN陽性細胞のパーセント(%TUNEL/NeuN)をプロットした棒グラフである。データは、単一の被験体のものであり、平均±SEM(1処理あたりn=2〜4薄片)として示す。図6Cは、表示した処理での死滅のパーセントをプロットした棒グラフである。各処理での死滅のパーセントは生皮質薄片において、膜透過性EthD−1陽性細胞の数ならびにカルセインAMで陽性に染色された生細胞の数を計測することにより定量した。データは3例の被験体のものであり、平均±SEMとして示す。
【0173】
【図7】表示した処理での海馬薄片培養物における死滅のパーセントをプロットした棒グラフである。データを平均±SEM(1処理あたりn=3〜7薄片)として示す。#は、ビヒクルと比べたp値<0.01を示す;*は、25μM Aβと比べてp値<0.01を示す;対応のない両側t−検定。
【0174】
【図8】図8は、海馬の処理側および対照側におけるIGFBP2の発現の相対レベルにおける変化倍数をプロットした棒グラフである。レベルをβ−アクチンレベルに対して標準化した。乱雑化実験での試料の数は3であり、一方、他の実験での試料の数は4であった。
【0175】
【図9】海馬の処理側および対照側におけるプロラクチン受容体の発現の相対レベルにおける変化倍数をプロットした棒グラフである。レベルをβ−アクチンレベルに対して標準化した。
【0176】
【図10】海馬の処理側および対照側におけるIGF2の発現の相対レベルにおける変化倍数をプロットした棒グラフである。レベルをβ−アクチンレベルに対して標準化した。
【0177】
【図11】提案される神経保護的経路の図表である。
【0178】
【図12】図12A及びBは、表示した処理での海馬薄片培養物における死滅のパーセントをプロットした棒グラフである。
【0179】
【図13】図13A及びBは、海馬内へのsAPP10量体の定位注射の海馬内へのsAPPαデカペプチドの定位注射後のTTR免疫染色を示す一組の顕微鏡写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aβの効果を低減または抑制するのに有用な単離されたペプチドであって、該ペプチドは、下記式
A−B−C−D
(式中、Aは、アミノ酸残基D、E、N及びQからなる群から選択され;
式中、Bは、アミノ酸残基A、T、S、G及びPからなる群から選択され;
式中、Cは、アミノ酸残基E、D、N及びQからなる群から選択され;ならびに
式中、Dは、アミノ酸残基F及びYからなる群から選択される)
を含み、
該ペプチドは、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制し、該ペプチドは、4〜16の間の残基長である、
Aβの効果を低減または抑制するのに有用な単離されたペプチド。
【請求項2】
本質的にA−B−C−Dからなる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
ポリペプチド安定化単位をさらに含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
さらにアミノ酸残基を、カルボキシ末端またはアミノ末端のいずれかに、前記ペプチドの式が
X−A−B−C−D−Z
(式中、X及びZは、DAEFと連続的なsAPPαタンパク質配列由来の残基である)
となるように含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
前記sAPPα残基が、sAPPαの585〜595及び601〜600から選択される、請求項4に記載のペプチド。
【請求項6】
A−B−C−DがAPPスウェーデン変異に隣接し、Xが、Aと隣接する残基N−Lを含む、請求項4に記載のペプチド。
【請求項7】
前記ペプチドが、DAEF(配列番号:2)、EVKMDAEFR(配列番号:3)、VKMDAEFR(配列番号:4)、EADF(配列番号:2)、SEVKMDAEFR(配列番号:7)、R9DAEF(配列番号:2)、MEADF(配列番号:8)、EADFR(配列番号:9)、EAEF(配列番号:10)、及びacDAEF(配列番号:2)からなる群から選択される、請求項3に記載のペプチド。
【請求項8】
前記ペプチドが、PPDAEFPP(配列番号:12)、PDAEFPP(配列番号:13)、PPDAEFP(配列番号:14)及びPDAEFP(配列番号:15)からなる群から選択される、請求項3に記載のペプチド。
【請求項9】
Aβの効果を低減および抑制するのに有用な単離されたペプチドであって、該ペプチドが、DAEF(配列番号:2)(残基597〜600)を含むsAPPα配列の単離された4〜16残基セグメントを含む、Aβの効果を低減および抑制するのに有用な単離されたペプチド。
【請求項10】
式中、Aが、アミノ酸残基D及びEから選択され;
式中、Bが、アミノ酸残基Aであり;
式中、Cが、アミノ酸残基E及びDから選択され;ならびに
式中、Dアミノ酸残基がFである、
請求項1に記載のペプチド。
【請求項11】
薬学的に許容可能な担体をさらに含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項12】
薬学的に許容可能な担体をさらに含む、請求項3に記載のペプチド。
【請求項13】
薬学的に許容可能な担体をさらに含む、請求項9に記載のペプチド。
【請求項14】
哺乳動物細胞に、Aβの効果が低減または抑制されるような有効量の請求項1に記載のペプチドを供給する工程を含む、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制する方法。
【請求項15】
哺乳動物細胞に、Aβの効果が低減または抑制されるような有効量の請求項3に記載のペプチドを供給する工程を含む、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制する方法。
【請求項16】
哺乳動物細胞に、Aβの効果が低減または抑制されるような有効量の請求項8に記載のペプチドを供給する工程を含む、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制する方法。
【請求項17】
Aβの効果がAβ誘導性タウリン酸化である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記効果がニューロン細胞死である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記ペプチドがAD患者に供給される、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
哺乳動物細胞に、ニューロン細胞死が抑制されるような有効量の請求項1に記載のペプチドを供給する工程を含む、ニューロン細胞死を抑制する方法。
【請求項21】
哺乳動物細胞に、ニューロン細胞死が抑制されるような有効量の請求項3に記載のペプチドを供給する工程を含む、ニューロン細胞死を抑制する方法。
【請求項22】
哺乳動物細胞に、ニューロン細胞死が抑制されるような有効量の請求項9に記載のペプチドを供給する工程を含む、ニューロン細胞死を抑制する方法。
【請求項23】
前記ペプチドがAD患者に供給される、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
脳組織を、Aβペプチドの存在下で試験化合物と接触させる工程およびAβの効果を測定する工程を含む、Aβの効果を低減する能力を有する化合物を同定する方法。
【請求項25】
Aβの効果を低減させる試験化合物の能力を、Aβの効果を低減させる請求項1に記載のペプチドの能力と比較する工程をさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ペプチドがDAEF(配列番号:2)またはSEVKMDAEFR(配列番号:1)である、請求項25に記載の方法。
【請求項1】
Aβの効果を低減または抑制するのに有用な単離されたペプチドであって、該ペプチドは、下記式
A−B−C−D
(式中、Aは、アミノ酸残基D、E、N及びQからなる群から選択され;
式中、Bは、アミノ酸残基A、T、S、G及びPからなる群から選択され;
式中、Cは、アミノ酸残基E、D、N及びQからなる群から選択され;ならびに
式中、Dは、アミノ酸残基F及びYからなる群から選択される)
を含み、
該ペプチドは、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制し、該ペプチドは、4〜16の間の残基長である、
Aβの効果を低減または抑制するのに有用な単離されたペプチド。
【請求項2】
本質的にA−B−C−Dからなる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
ポリペプチド安定化単位をさらに含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
さらにアミノ酸残基を、カルボキシ末端またはアミノ末端のいずれかに、前記ペプチドの式が
X−A−B−C−D−Z
(式中、X及びZは、DAEFと連続的なsAPPαタンパク質配列由来の残基である)
となるように含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
前記sAPPα残基が、sAPPαの585〜595及び601〜600から選択される、請求項4に記載のペプチド。
【請求項6】
A−B−C−DがAPPスウェーデン変異に隣接し、Xが、Aと隣接する残基N−Lを含む、請求項4に記載のペプチド。
【請求項7】
前記ペプチドが、DAEF(配列番号:2)、EVKMDAEFR(配列番号:3)、VKMDAEFR(配列番号:4)、EADF(配列番号:2)、SEVKMDAEFR(配列番号:7)、R9DAEF(配列番号:2)、MEADF(配列番号:8)、EADFR(配列番号:9)、EAEF(配列番号:10)、及びacDAEF(配列番号:2)からなる群から選択される、請求項3に記載のペプチド。
【請求項8】
前記ペプチドが、PPDAEFPP(配列番号:12)、PDAEFPP(配列番号:13)、PPDAEFP(配列番号:14)及びPDAEFP(配列番号:15)からなる群から選択される、請求項3に記載のペプチド。
【請求項9】
Aβの効果を低減および抑制するのに有用な単離されたペプチドであって、該ペプチドが、DAEF(配列番号:2)(残基597〜600)を含むsAPPα配列の単離された4〜16残基セグメントを含む、Aβの効果を低減および抑制するのに有用な単離されたペプチド。
【請求項10】
式中、Aが、アミノ酸残基D及びEから選択され;
式中、Bが、アミノ酸残基Aであり;
式中、Cが、アミノ酸残基E及びDから選択され;ならびに
式中、Dアミノ酸残基がFである、
請求項1に記載のペプチド。
【請求項11】
薬学的に許容可能な担体をさらに含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項12】
薬学的に許容可能な担体をさらに含む、請求項3に記載のペプチド。
【請求項13】
薬学的に許容可能な担体をさらに含む、請求項9に記載のペプチド。
【請求項14】
哺乳動物細胞に、Aβの効果が低減または抑制されるような有効量の請求項1に記載のペプチドを供給する工程を含む、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制する方法。
【請求項15】
哺乳動物細胞に、Aβの効果が低減または抑制されるような有効量の請求項3に記載のペプチドを供給する工程を含む、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制する方法。
【請求項16】
哺乳動物細胞に、Aβの効果が低減または抑制されるような有効量の請求項8に記載のペプチドを供給する工程を含む、哺乳動物細胞においてAβの効果を低減または抑制する方法。
【請求項17】
Aβの効果がAβ誘導性タウリン酸化である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記効果がニューロン細胞死である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記ペプチドがAD患者に供給される、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
哺乳動物細胞に、ニューロン細胞死が抑制されるような有効量の請求項1に記載のペプチドを供給する工程を含む、ニューロン細胞死を抑制する方法。
【請求項21】
哺乳動物細胞に、ニューロン細胞死が抑制されるような有効量の請求項3に記載のペプチドを供給する工程を含む、ニューロン細胞死を抑制する方法。
【請求項22】
哺乳動物細胞に、ニューロン細胞死が抑制されるような有効量の請求項9に記載のペプチドを供給する工程を含む、ニューロン細胞死を抑制する方法。
【請求項23】
前記ペプチドがAD患者に供給される、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
脳組織を、Aβペプチドの存在下で試験化合物と接触させる工程およびAβの効果を測定する工程を含む、Aβの効果を低減する能力を有する化合物を同定する方法。
【請求項25】
Aβの効果を低減させる試験化合物の能力を、Aβの効果を低減させる請求項1に記載のペプチドの能力と比較する工程をさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ペプチドがDAEF(配列番号:2)またはSEVKMDAEFR(配列番号:1)である、請求項25に記載の方法。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図2】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図2】
【図11】
【公表番号】特表2008−509915(P2008−509915A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525755(P2007−525755)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【国際出願番号】PCT/US2005/028386
【国際公開番号】WO2006/031330
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(390023641)ウイスコンシン アラムナイ リサーチ フオンデーシヨン (61)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【国際出願番号】PCT/US2005/028386
【国際公開番号】WO2006/031330
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(390023641)ウイスコンシン アラムナイ リサーチ フオンデーシヨン (61)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】
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