説明

AABB−ポリ(デプシペプチド)生分解性ポリマー及び使用方法

本発明は、生物医学的応用に好適な材料特性を有するα−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸から構成される生分解性ポリマーの一クラスであるAABB−ポリ(デプシペプチド)(AABB−PDP)を提供する。このようなAABB−PDPは、エステル官能性とアミド官能性とが交互に存在することを特徴とするアミノ酸ベースのポリ(エステルアミド)(PEA)のファミリーに属する。各基本単位につき4個のエーテル基を含むことで、こうしたポリマーは生物的又は非生物的加水分解作用により迅速に分解され、分散した生物活性剤を制御された送達速度で放出し、非毒性であり、易消化性の分解産物を生じ、且つ溶液重縮合により製造が容易である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
[0001]デプシペプチド(「デプシ」は、ギリシャ語のエステルに由来する)は、エステル結合及びアミド結合の双方からなる化学構造である(図1)(J.Zhang,et al. Biomaeromolecules(2007)8:3015−3024)。デプシペプチドの化学構造はアミノ酸から「改変」されたように見えもするが、しかしながら、実際にはデプシペプチドは特定の乳酸菌中に天然に存在する。さらに、デプシペプチドは主として環状形態であり、創薬においては抗癌剤としての可能性が研究されている。
【0002】
[0002]ポリ(デプシペプチド)(PDP)は、生物医学的応用に好適な材料特性を備えたα−アミノ酸とα−ヒドロキシ酸とから構成される生分解性ポリマークラスに相当する。PDPは、エステル官能性とアミド官能性とが交互に存在することを特徴とするアミノ酸ベースのポリ(エステルアミド)(PEA)ファミリーに属する。いくつかの研究グループがポリデプシペプチド(AB−PDP)の合成に注目している(J.Helder及びFeijen J. Macromol.Chem.Rapid Comm.(1986)7:193)。これらのポリマーは加水分解により生体適合性の化学物質に分解可能であるため、薬物送達及び組織工学において応用される可能性がある(Ohya Y,et al.「Cell attachment and growth on films prepared from poly(depsipeptide−co−lactide)having various functional groups」、J.Biomed.Mater.Res.、Part A(2003)6(1):79−88)。
【0003】
[0003]AB型ポリデプシペプチドに関しては、2つの合成手法、すなわち、a)対応するジ、トリ、又はそれ以上の高級デプシペプチドの溶液重縮合によるもの(M.Yoshida et al. Makromol.Chem.Rapid Commun.,(1990)11:337)、及びb)環状モノマー、例えば、α−ヒドロキシ酸とα−アミノ酸とから構成される六員複素環式化合物のモルホリン−2,5−ジオンの開環重合によるもの(P.J.A In’t Veld et al. J.Poly.Sci.、Part A:Polym.Chem.(1994)32:1063)が報告されている。第一のAB−PDP合成方法は多段階のペプチド合成を利用し、複雑で高コストである。有機スズ触媒の存在下でモルホリン−2,5−ジオンを溶融重合することによる第2の方法は、より容易で低コストであるが、モルホリン−2,5−ジオンなどのモノマーの収率が低くなり(α−アミノ酸につき最高30%)、場合によっては、不都合な機械的特性をもたらしたり、又は合成を制限したりする低分子量のオリゴマー又はポリマーが形成される。
【0004】
[0004]その優れた血液及び組織適合性(compatibily)により生物医学的応用に好適な材料であることが分かっているPEAファミリーの別のメンバーは、疎水性α−アミノ酸、脂肪族ジオール及びジカルボン酸などの非毒性構成要素からなる規則性AABB型生体類似性ポリ(エステルアミド)(AABB−PEA)である(K.DeFife et al. Transcatheter Cardiovascular Therapeutics−TCT 2004 Conference、ポスタープレゼンテーション、Washington DC、2004)。規則性AABB-PEAはまた、生物分解プロファイルも呈する(G.Tsitlanadze,et al. J Biomater.Sci.Polymer Edn.(2004)15:1−24)。かかるPEAの制御された生体酵素分解及び非特異的分解速度の低さにより、規則性AABB-PEAは薬物送達用途に魅力的となっている。
【0005】
[0005]生体類似性PEAのこれらの特性は、広く用いられているポリ乳酸(PLA)及びポリグリコール酸(PGA)などの脂肪族ポリエステルに勝る利点を提供する。PLA及びPGAの巨大分子中の脂肪族エステル基は速い加水分解速度に寄与するが、PLA及びPGAの高分子表面は、不十分な接着及び細胞成長を示すことが知られている;その一方で、良好な接着及び細胞成長特性は、有益な細胞−生体材料相互作用の重要な指標であると考えられる(Cook,AD,et al. J.Biomed.Mater.Res.、(1997)35:513−523)。
【0006】
[0006]しかしながら、体内の全ての環境が内因性の生体酵素を有するとは限らない。従って、当該技術分野におけるこうした進歩にもかかわらず、薬物送達用途に好適なPEAポリマーファミリーの新規のより良好なメンバー、特に、生物的又は非生物的加水分解作用により迅速に分解され、分散した生物活性剤を制御された送達速度で放出し、非毒性であり、易消化性の分解産物を生じ、且つ製造が容易なポリマーが必要とされている。
【0007】
[発明の概要]
[0007]従って一実施形態において、本発明は、一般構造式(I)により表される化学式を有するAABB−ポリデプシペプチド(AABB−PDP)であって、
【化1】



式中、nは約5〜約150の範囲であり;
少なくとも1個のRは、以下の式(III)(式中、RはH又はCHであり、Rは、(C〜C12)アルキレン又は(C〜C12)アルケニレンから独立して選択される)のO,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)の残基から独立して選択され、その他のRは、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、α,ω−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−(C〜C)アルカン、治療用二酸の飽和又は不飽和残基、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができ;
n個の各単位におけるRは、水素、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、(C〜C10)アリール(C〜C)アルキル、及び−(CHSCHからなる群から独立して選択され;及び
は、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、(C〜C)アルキルオキシ、(C〜C20)アルキレン、構造式(II)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環状断片、飽和又は不飽和治療用ジオール残基、及びそれらの組み合わせからなる群から独立して選択される;
【化2】



AABB−PDPを含むか、
又は構造式(IV)により表される化学式を有するAABB−PDPであって、
【化3】



式中、nは約5〜約150の範囲であり、mは約0.1〜0.9の範囲であり;pは約0.9〜0.1の範囲であり;
少なくとも1個のRは、以下の式(III)のO,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)の残基から独立して選択され、式(III)中、RはH又はメチルであり、Rは、(C〜C12)アルキレン及び(C〜C12)アルケニレンから独立して選択され、その他のRは、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、α,ω−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−(C〜C)アルカン、治療用二酸の飽和又は不飽和残基、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができ;
は、水素、(C〜C12)アルキル、(C〜C10)アリール又は保護基からなる群から独立して選択され;
m個の各モノマーにおけるRは、水素、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、(C〜C10)アリール(C〜C)アルキル、及び−(CHSCHからなる群から独立して選択され;
は、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、(C〜C)アルキルオキシ、(C〜C20)アルキレン、構造式(II)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環状断片、飽和又は不飽和治療用ジオールの残基及びそれらの組み合わせからなる群から独立して選択され;及び
は、(C〜C20)アルキル及び(C〜C20)アルケニルからなる群から独立して選択される;
AABB−PDPを含む、分解性ポリマー組成物を提供する。
【0008】
[0008]別の実施形態において、本発明は、少なくとも1つの生物活性剤が中に散在する本発明のAABB−PDP組成物を含む外科的デバイスを提供する。かかる外科的デバイスは、AABB−PDP組成物中に散在する生物活性剤を送達するための固形インプラント、粒子、及び外科的デバイスの表面の少なくとも一部分上の組成物のコーティングを含む。
【0009】
[0009]さらに別の実施形態において、本発明は、構造式(III)
【化4】



(式中、RはH又は−CHであり、Rは、(C〜C12)アルキレン及び(C〜C12)アルケニレンから独立して選択されるアシルである)により表される化学式を有するO,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)の調製方法を提供し、前記方法は、
a)塩化水素アクセプター及び触媒として作用する塩基性有機溶媒中でアシルの酸二塩化物を形成するステップと、
b)溶媒の存在下で酸二塩化物を乾燥酢酸エチル中のグリコール酸又は乳酸と相互作用させて固形O,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)生成物を形成するステップと、
c)b)で形成された固形O,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)生成物を溶媒から回収するステップと、
を含む。
【0010】
[0010]なお別の実施形態において、本発明は、生物活性剤を対象に送達する方法を提供し、前記方法は、中に分散した生物活性剤を含む本発明のAABB−PDP組成物を対象に生体内投与するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、(デプシペプチド)の化学構造式を表す図である。示される中心部分は、ラクチド残基又はグリコリド残基と称される。
【図2】図2は、O,O’−アジポイル−ビス−(グリコール酸)(化合物1.1)のKBr法でのFR−IRスペクトルを示す走査である。
【図3】図3は、d6−DMSO/CCl(1:3v/v)混合液中におけるジエステル二酸(化合物1.1)の300MHz H NMRスペクトルを示す走査である。
【図4】図4は、O,O’−アジポイル−ビス−グリコール酸の活性ジ−p−ニトロフェニルエステル(化合物2.1)のKBr法でのFTIRスペクトルを示す走査である。
【図5】図5は、d6−DMSO/CCl(1:3v/v)混合液中における活性ジエステル(化合物2.1)の300MHz H NMRスペクトルを示す走査である。)
【図6】図6は、KBrプレート上のCHCl溶液からのPDP 4−GA−Phe−8フィルムのFTIRスペクトルを示す走査である。
【図7】図7は、DMSO−d/CCl中のPDP 4−GA−Phe−8の300MHz H−NMRスペクトルを示す走査である。
【図8A】図8A及び図8Bは、本発明のAABB−PDP試料4−GA−Leu−12(図8A)及び4−GA−Phe−8(図8B)の示差走査熱量計(DSC)サーモグラム(データは各2回の走査に基づく)を示す走査である。
【図8B】図8A及び図8Bは、本発明のAABB−PDP試料4−GA−Leu−12(図8A)及び4−GA−Phe−8(図8B)の示差走査熱量計(DSC)サーモグラム(データは各2回の走査に基づく)を示す走査である。
【図9】図9は、様々なpH値におけるAABB−PDP 4−GA−Leu−12(灰色のバー)と規則性PEAポリマー8−Leu−6(白色のバー)との加水分解速度(電位差滴定データから)を示す棒グラフである。電位差滴定装置及び0.02NのNaOH水溶液を使用して、エステル結合の加水分解後に放出されたカルボキシル基を自動滴定した。
【0012】
[発明の詳細な説明]
[0020]本発明は、規則性脂肪族二酸含有AABB−PEAポリマーと比較して加水分解速度が著しく向上した新規タイプの脂肪族AABB−ポリ(デプシペプチド)(AABB−PDP)ポリマー組成物の発見に基づく。本発明のAABB−PDPは、O,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)の活性ジ−p−ニトロフェニルエステルを、ビス−(α−アミノ酸)−a,ω−アルキレンジエステルのジ−p−トルエンスルホン酸塩と重縮合することにより合成される。
【0013】
[0021]ビス(α−アミノ酸)−a,ω−アルキレン−ジエステルは、活性重縮合(APC)に有用なジアミンモノマーの一種であり、本質的に2つの脂肪族エステル連結を含む。かかるエステル基は、生体エステラーゼを含む様々なエステラーゼにより酵素的に認識され得る。ジアミンモノマーは、例えば活性脂肪族二酸エステルと縮合すると、エステル及びアミド官能性を含むとともに基本鎖単位の骨格中にアルキレン鎖を含む規則性AABB-PEA巨大分子となる。
【0014】
[0022]それに対し、本発明のAABB−PDP組成物の合成に用いられる二酸型化合物は、少なくとも1つの非毒性の脂肪性脂肪族同族体(non−toxic fatty aliphatic homolog)である以下の式(III)のO,O’−ジアシル−ビス(アルファヒドロキシ酸)を含み、これは、非毒性の短鎖脂肪族二酸の残基とグリコール酸又は乳酸とから構成される。このような二酸型化合物はまた、本質的に2個のエステル基も含み、これらは生物的(酵素的)加水分解によっても、及び非生物的加水分解によっても、容易に開裂し得る。従って、本発明のAABB−PDP組成物(以下の式I及び式IV)は、これまでに公知のPEAポリマーと比較してポリマーの基本鎖単位中により多くのエステル基−合計4個−を有する。これらのさらなるエステル基により、脂肪族二酸の残基から構成されるPEAポリマーと比べてさらに速い生分解性がもたらされる。加えて、本発明のAABB−PDP組成物、その粒子及びコーティングは、非生物的(化学的)加水分解により消化されることができる。
【0015】
[0023]以下の式(IV)の本発明のAABB−PDPポリマー組成物は、第2のアミノ酸ベースのモノマー残基、例えばC末端が保護されたL−リジンベースのモノマーを含むことができ、このモノマーがモノマー骨格にさらなる脂肪族残基を提供することにより、ポリマーにさらなる鎖の柔軟性がもたらされる。
【0016】
[0024]従って一実施形態において、本発明は、一般構造式(I)により表される化学式を有するAABB−ポリデプシペプチド(AABB−PDP)であって、
【化5】



式中、nは約5〜約150の範囲であり;
少なくとも1個のRは、以下の式(III)のO,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)の残基から独立して選択され、式(III)中、RはH又はメチルであり、Rは、(C〜C12)アルキレン又は(C〜C12)アルケニレンから独立して選択され、その他のRは、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、α,ω−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−(C〜C)アルカン、治療用二酸の飽和又は不飽和残基、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができ;
n個の各単位におけるRは、水素、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、(C〜C10)アリール(C〜C)アルキル、及び−(CHSCHからなる群から独立して選択され;及び
は、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、(C〜C)アルキルオキシ、(C〜C20)アルキレン、構造式(II)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環状断片、飽和又は不飽和治療用ジオール残基、及びそれらの組み合わせからなる群から独立して選択される;
【化6】



AABB−PDPを含むか、
又は構造式(IV)により表される化学式を有するAABB−PDPであって:
【化7】



式中、nは約5〜約150の範囲であり、mは約0.1〜0.9の範囲であり;pは約0.9〜0.1の範囲であり;
少なくとも1個のRは、以下の式(III)のO,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)の残基から独立して選択され、式(III)中、RはH又はメチルであり、Rは、(C〜C12)アルキレン及び(C〜C12)アルケニレンから独立して選択され、その他のRは、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、a,ω−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−(C〜C)アルカン、治療用二酸の飽和又は不飽和残基、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができ;
は、水素、(C〜C12)アルキル、(C〜C10)アリール又は保護基からなる群から独立して選択され;
m個の各モノマーにおけるRは、水素、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、(C〜C10)アリール(C〜C)アルキル、及び−(CHSCHからなる群から独立して選択され;
は、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、(C〜C)アルキルオキシ、(C〜C20)アルキレン、構造式(II)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環状断片、飽和又は不飽和治療用ジオールの残基及びそれらの組み合わせからなる群から独立して選択され;及び
は、(C〜C20)アルキル及び(C〜C20)アルケニルからなる群から独立して選択される;
AABB−PDPを含む、生分解性ポリマー組成物を提供する。
【0017】
[0025]例えば一実施形態では、式(III)においてRは、H(グリコール酸の残基中のものとして)及びCH(D−、L−又はD,L−ラクチド中のものとして)から選択される。
【0018】
[0026]別の実施形態では、Rは、(CH、(CH、及び(CHからなる群から独立して選択される。
【0019】
[0027]さらに別の実施形態において、Rは、(C〜C)アルキル及び(C〜C)アルケニルからなる群から独立して選択され、好ましくは−(CH−である。
【0020】
[0028]本発明の組成物におけるAABB−PDPポリマーは重縮合体である。このような重縮合体ポリマーの記述においては、式(IV)中の「m」及び「p」の比は無理数として定義される。さらに、「m」及び「p」は、各々、任意の重縮合体に収まる範囲をとるため、かかる範囲を整数の対によって定義することはできない。各ポリマー鎖は、全てのビス−アミノ酸ジオール(i)及びアディレクショナル(adirectional)アミノ酸(例えばリジン)モノマー残基(ii)が、二酸モノマー残基(iii)によってそれ自身と、又は互いに連結されるという規則により共に連結された一連のモノマー残基である。従って、i−iii−i;i−iii−ii(又はii−iii−i)及びii−iii−iiの線形の組み合わせのみが形成される。次には、それらの組み合わせの各々が、二酸モノマー残基(iii)によってそれ自身と、又は互いに連結される。従って各ポリマー鎖は、整数のモノマーi、ii及びiiiから構成される統計的な、しかしランダムではない一連のモノマー残基である。しかしながら、一般に任意の実際的な平均分子量の(すなわち、十分な平均長さの)ポリマー鎖については、式(IV)中のモノマー残基「m」及び「p」の比は整数(有理整数)ではない。さらに、全ての多分散型コポリマー鎖の縮合体について、全ての鎖にわたり平均した(すなわち平均鎖長に対して正規化した)モノマーi、ii及びiiiの数は、整数ではない。従って、比は無理数(すなわち、有理数でない任意の実数)の値しかとることができないことになる。無理数は、この用語が本明細書で用いられるとき、n/j(式中、n及びjは整数である)の形ではない比から導かれる。
【0021】
[0029]本明細書で使用されるとき、用語「アミノ酸」及び「α−アミノ酸」は、アミノ基と、カルボキシル基と、R基、通常はペンダント、例えば本明細書で定義されるR基とを含む化学的化合物を意味する。本明細書で使用されるとき、用語「生体α−アミノ酸」は、合成に用いられる1つ又は複数のアミノ酸が、フェニルアラニン、ロイシン、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、メチオニン、又はそれらの混合物から選択されることを意味する。しかしながら、AABB−PDPの向きはアディレクショナル(図2において矢印により示されるとおり頭−頭)であることに留意しなければならない。それに対して公知のAB−PDPでは、ポリマー骨格中のα−アミノ酸の向きはディレクショナルである(従来の頭−尾)。ひいては、本発明のAABB−PDPはAB−PDPより低い免疫原性を示すものと予想される。
【0022】
[0030]加えて、式(IV)の「p」のモノマーには従来にはないアミノ酸が形成され、ここでは脂肪族部分Rがポリマー骨格内に挿入され、ポリマーにさらなる柔軟性を提供する一方、場合によりカルボキシル基(RがHであるとき)など、ペンダント基において官能性を提供する。
【0023】
[0031]本明細書で使用されるとき、用語「生物活性剤」は、本発明の組成物のポリマー骨格に組み込まれた治療用ジオール又は二酸、並びに本発明の組成物のポリマー中に分散される本明細書に開示されるとおりの生物活性剤を包含する。本明細書で使用されるとき、用語「分散した」は、本発明のAABB−PDPポリマーに混合され、そこに溶解され、それとホモジナイズされ、及び/又はそれと共有結合され、例えば、本発明の組成物のポリマー中の官能基と、又はポリマー粒子の表面と結合される生物活性剤を指して用いられる。かかる生物活性剤としては、限定なしに、小分子薬物、ペプチド、タンパク質、DNA、cDNA、RNA、糖、脂質及び全細胞を挙げることができる。生物活性剤は、種々の治療目標及び投与経路に適合させるのに好適な様々な粒径及び構造を有するポリマー粒子に付与することができる。
【0024】
[0032]用語「生分解性」は、本発明のAABB−PDP組成物について記載するために本明細書で使用されるとき、そこで用いられるポリマーが、体内の通常の機能において非生物的(化学的)プロセス及び生物的酵素プロセスにより無害な産物に分解可能であることを意味する。本発明のポリマー中には、グリコール酸又はアジピン酸残基によって形成された分極したエステル結合が存在するため、本発明のAABB−PDPポリマーは高い非特異的化学的加水分解速度を示す。この特性は、血流中など、生体酵素(例えば、プロテアーゼ及びエステラーゼ)の濃度が無視できる程低い生体内部位に植え込まれるデバイスの分解に重要であると考えられる。それに対し、規則性PEAポリマーにおけるアミド連結基は、アミド結合を高速で切断するのに生体酵素−アシラーゼ−の触媒作用を必要とする。
【0025】
[0033]場合により、ポリマーのアミノ末端は、任意の他の酸含有生体適合性分子とコンジュゲートを形成することによりアセチル化されるか、又はその他の方法でキャッピングされ、それにより無制限に有機酸、非生物活性の生物製剤、及び本明細書に記載されるとおりの生物活性剤を含んでもよい。一実施形態において、ポリマー組成物全体、及びそれで作製される任意の粒子は、実質的に生分解性である。
【0026】
[0034]一代替例では、本発明のポリマーの製造に用いられる少なくとも1つのα−アミノ酸は、生体α−アミノ酸である。例えば、RがCHPhのとき、合成に用いられる生体α−アミノ酸は、L−フェニルアラニンである。代替例においてRがCHCH(CHである場合、ポリマーは生体α−アミノ酸のL−ロイシンを含む。本明細書に記載されるとおりのモノマー中のRを変えることにより、他の生体α−アミノ酸、例えば、グリシン(RがHであるとき)、アラニン(RがCHであるとき)、バリン(RがCH(CHであるとき)、イソロイシン(RがCH(CH)CHCHであるとき)、フェニルアラニン(RがCHであるとき)、又はメチオニン(Rが−(CHSCHであるとき)、及びそれらの組み合わせを用いることもできる。さらに別の代替的実施形態において、本発明のAABB−PDP組成物中に含まれる様々なα−アミノ酸は、全てが本明細書に記載されるとおりの生体α−アミノ酸である。
【0027】
[0035]別の代替例では、全てのRが、上記の式(III)のO,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)の残基から独立して選択され、式中、RはH又はメチルであり、Rは、(C〜C12)アルキレン又は(C〜C12)アルケニレンから独立して選択される。
【0028】
[0036]さらに別の実施形態において、本明細書では、Rは、(C〜C)アルキレン又は(C〜C)アルケニレンから独立して選択されることが好ましい。
【0029】
[0037]なお別の実施形態において、本発明のAABB−PDPポリマー組成物の粒子は、生体内注入時に生体内で凝集することにより、中に分散している生物活性剤を周囲組織/細胞に局所送達するための時限放出型ポリマーデポーを形成する粒径である。PEAポリマーからの粒子の製造方法は当該技術分野において公知であり、米国特許出願公開第20060177416号明細書に記載されている。
【0030】
[0038]本発明のAABB−PDP組成物は、本明細書に記載されるとおりその中に組み込む構成要素を選択することにより、限定はされないが、所望の制御された分解速度又は細胞接着傾向を含む様々な特性を提供するように構成することができる。例えば、本明細書に記載される合成方法に従えば、化学部分が結合することのできる官能性AABB−PDPは、ポリマー骨格に、遊離官能基(例えば、リジン、グルタミン酸、又は1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン)を提供する部分か、又は不飽和部分(例えば、活性フマレート又は式(III)により表されるモノマー(式中、用いられるジオールは不飽和))を組み込むことによって合成することができる。
【0031】
[0039]本明細書で使用されるとき、「治療用ジオール又は二酸」は、合成的に生成されたものであろうと、又は天然に(例えば、内因的に)存在するものであろうと、ヒトなどの哺乳類個体において、その哺乳類に投与したとき治療効果又は緩和効果を有する形で生物学的過程に影響を及ぼす任意のジオール又は二酸分子を意味する。
【0032】
[0040]本明細書で使用されるとき、用語「治療用二酸の残基」は、かかる治療用二酸のうち、その二酸の2個のカルボキシル基を除く部分を意味する。本明細書で使用されるとき、用語「治療用ジオールの残基」は、治療用ジオールのうち、そのジオールの2個のヒドロキシル基を除く部分を意味する。その「残基」を含む対応する治療用二酸又はジオールが、ポリマー組成物の合成に用いられる。治療用二酸又はジオールの残基はポリマー骨格に組み込まれ、生分解によりポリマーの骨格から制御された形で放出されると、生体内で(又は同様のpH、水性媒体等の条件下で)対応するジオール又は二酸に再構成される。二酸又はジオールの放出速度は、組成物の特定のAABB−PDPの分解特性、及び本明細書に記載されるとおりの、特定の生体内植込み部位に存在する生物的及び/又は非生物的酵素に依存する。
【0033】
[0041]本明細書で使用されるとき、用語「生物活性剤」は、本明細書に開示されるとおりの、ポリマー骨格に組み込まれない生物活性剤を意味する。1つ又は複数のかかる生物活性剤は、場合により本発明のAABB−PDP組成物中に分散させてもよい。本明細書で使用されるとき、用語「分散した」は、ポリマー骨格に組み込まれていない生物活性剤を指して用いられ、すなわちその生物活性剤が、本発明の組成物中のAABB−PDPポリマーに混合され、そこに溶解され、それとホモジナイズされ、及び/又はそれと共有結合されることを意味する。例えば生物活性剤は、組成物のポリマー中の官能基に対して、又はポリマー粒子又は粒子若しくは医療用デバイス上のコーティングの表面に対して付着させることができる。骨格に組み込まれた治療用ジオール及び二酸を、ポリマー骨格に組み込まれていないもの(その残基として)と区別するため、かかる分散した治療用ジオール及び二酸は本明細書では「1つ又は複数の生物活性剤」と称され、以下に記載されるとおり、ポリマーコンジュゲート中に含まれるか、又はその他の形で他の生物活性剤と同様にポリマー組成物中に分散していてもよい。
【0034】
[0042]用語「分解性の」は、本発明のAABB−PDP組成物に用いられるポリマーについて記載するため本明細書で使用されるとき、そのポリマーが、通常の生体機能において酵素加水分解により無害な生成物に分解可能であることを意味する。本明細書の実施例4に示されるとおり、エステル結合(分子1個につき4つ)が開裂すると、易消化性の分解産物、すなわち2モルのデプシペプチドと1モルの二酸とが容易に形成される。ポリマー骨格に天然に存在する治療用二酸がある場合、分解産物は再構成される二酸及び/又はジオールをさらに含む。
【0035】
[0043]本発明の組成物中のAABB−PDPポリマーは、典型的にはアミノ基で終端する鎖である。場合により、これらのアミノ末端は、任意の他の酸含有生体適合性分子とコンジュゲートを形成することによりアセチル化されるか、又はその他の形でキャッピングされ、それにより無制限に有機酸、非生物活性の生物製剤、及び本明細書に記載されるとおりの生物活性剤を含んでもよい。一実施形態において、AABB−PDP組成物全体は、例えば生体酵素により生分解可能である。
【0036】
[0044]本発明の各AABB−PDPは、O,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)の少なくとも1つの活性ジ−p−ニトロフェニルエステルを使用して製造されるが、場合により、治療用ジオール化合物はまた、骨格に本発明のAABB−PDPを組み込むための、治療用ジオールモノマーのビス(α−アミノ酸)ジエステル、又は治療用二酸モノマーのビス(カーボネート)の調製にも使用することができる。かかる治療用ジオールとしては、天然に存在する治療用ジオール、例えば、動脈の再狭窄及び腫瘍増殖の予防に有用な天然の内因性ホルモンである17−β−エストラジオールが挙げられる(Yang,N.N.,et al.. Science(1996)273:1222−1225;S.Parangi et al Cancer Res.(1997)57:81−86;及びT.FotsisNature(1994)368:237−239)。かかる内因的に存在する治療用ジオール分子の安全性プロファイルは、シロリムスなどの同様の有用性を有する合成分子及び/又は非内因性分子と比べて優れていると考えられる。
【0037】
[0045]17−β−エストラジオールの残基を含む本発明のAABB−PDPポリマーが粒 子の製造に用いられ、それらの粒子が、例えば経皮経管冠動脈形成術(PTCA)に従い患者に植え込まれると、生体内で粒子から放出される17−β−エストラジオールは、患者における植込み後再狭窄を予防するのに役立ち得る。しかしながら、17−β−エストラジオールは、本発明に係るAABB−PDPポリマーの骨格に組み込むことのできる治療特性を備えたジオールの一例に過ぎない。一態様では、任意の生物活性ステロイド−ジオール含有第一級、第二級又はフェノール性ヒドロキシル基を本目的のために用いることができる。本発明で使用される生物活性ステロイドジオールから作製することのできる多くのステロイドエステルは、欧州特許第0127 829 A2号明細書に開示されている。
【0038】
[0046]加えて、テストステロン又はコレステロールをベースとする合成ステロイドジオール、例えば、4−アンドロステン−3,17ジオール(4−アンドロステンジオール)、5−アンドロステン−3,17ジオール(5−アンドロステンジオール)、19−ノル5−アンドロステン−3,17ジオール(19−ノルアンドロステンジオール)が、本発明に係るAABB−PDPポリマーの骨格への組み込みに好適である。さらに、本発明のAABB−PDP組成物の調製に用いるのに好適な治療用ジオール化合物としては、例えば、アミカシン;アムホテリシンB;アピサイクリン;アプラマイシン;アルベカシン;アジダムフェニコール;バンベルマイシン(類);ブチロシン;カルボマイシン;セフピラミド;クロラムフェニコール;クロルテトラサイクリン;クリンダマイシン;クロモサイクリン;デメクロサイクリン;ジアチモスルホン;ジベカシン、ジヒドロストレプトマイシン;ジリスロマイシン;ドキシサイクリン;エリスロマイシン;フォーチミシン(類);ゲンタマイシン(類);グルコスルホン ソラスルホン;グアメサイクリン;イセパマイシン;ジョサマイシン;カナマイシン(類);ロイコマイシン(類);リンコマイシン;ルセンソマイシン;リメサイクリン;メクロサイクリン;メタサイクリン;ミクロノマイシン;ミデカマイシン(類);ミノサイクリン;ムピロシン;ナタマイシン;ネオマイシン;ネチルマイシン;オレアンドマイシン;オキシテトラサイクリン;パロマイシン;ピパサイクリン;ポドフィリン酸2−エチルヒドラジン;プリマイシン;リボスタマイシン;リファミド;リファンピン;ラファマイシンSV(rafamycin SV);リファペンチン;リファキシミン;リストセチン;ロキタマイシン;ロリテトラサイクリン;ラサラマイシン(rasaramycin);ロキシスロマイシン;サンサイクリン;シソマイシン;スペクチノマイシン;スピラマイシン;ストレプトマイシン;テイコプラニン;テトラサイクリン;チアンフェニコール;テイオストレプトン(theiostrepton);トブラマイシン;トロスペクトマイシン;ツベラクチノマイシン;バンコマイシン;カンジシジン(類);クロルフェネシン;デルモスタチン(類);フィリピン;フンギクロミン;カナマイシン(類);ロイコマイシン(類);リンコマイシン;ルヴセンソマイシン(lvcensomycin);リメサイクリン;メクロサイクリン;メタサイクリン;ミクロノマイシン;ミデカマイシン(類);ミノサイクリン;ムピロシン;ナタマイシン;ネオマイシン;ネチルマイシン;オレアンドマイシン;オキシテトラサイクリン;パラモマイシン;ピパサイクリン;ポドフィリン酸2−エチルヒドラジン;プリイシン(priycin);リボスタマイシン(ribostamydin);リファミド;リファンピン;リファマイシンSV;リファペンチン;リファキシミン;リストセチン;ロキタマイシン;ロリテトラサイクリン;ロサラマイシン;ロキシスロマイシン;サンサイクリン;シソマイシン;スペクチノマイシン;スピラマイシン;ストレプトン;オトブラマイシン(otbramycin);トロスペクトマイシン;ツベラクチノマイシン;バンコマイシン;カンジシジン(類);クロルフェネシン;デルモスタチン(類);フィリピン;フンギクロミン;メパルチシン(meparticin);ミスタチン(mystatin);オリゴマイシン(類);エリマイシンA(erimycinA);ツベルシジン;6−アザウリジン;アクラシノマイシン(類);アンシタビン;アントラマイシン;アザシタジン;ブレオマイシン(類) カルビシン;カルジノフィリンA(carzinophillin A);クロロゾトシン;クロモムシン(chromomcin)(類);ドキシフルリジン;エノシタビン;エピルビシン;ゲムシタビン;マンノムスチン;メノガリル;アトルバシ(atorvasi) プラバスタチン;クラリスロマイシン;ロイプロリン(leuproline);パクリタキセル;ミトブロニトール;ミトラクトール;モピダモール;ノガラマイシン;オリボマイシン(類);ペプロマイシン;ピラルビシン;プレドニムスチン;ピューロマイシン;ラニムスチン;ツベルシジン;ビネシン(vinesine);ゾルビシン;クメタロール;ジクマロール;エチルビスクムアセテート;エチリジンジクマロール(ethylidine dicoumarol);イロプロスト;タプロステン;チオクロマロール;アミプリローズ;ロムルチド;シロリムス(ラパマイシン);タクロリムス;サリチルアルコール;ブロモサリゲニン;ジタゾール;フェプラジノール;ゲンチシン酸;グルカメタシン(glucamethacin);オルサラジン;S−アデノシルメチオニン;アジスロマイシン;サルメテロール;ブデソニド;アルブテアル(albuteal);インジナビル;フルバスタチン;ストレプトゾシン;ドキソルビシン;ダウノルビシン;プリカマイシン;イダルビシン;ペントスタチン;メトキサントロン(metoxantrone);シタラビン;リン酸フルダラビン;フロクスウリジン;クラドリイン(cladriine);カペシタビエン(capecitabien);ドセタキセル;エトポシド;トポテカン;ビンブラスチン;テニポシドなどが挙げられる。治療用ジオールは、飽和ジオール又は不飽和ジオールのいずれかであるように選択され得る。
【0039】
[0047]本発明のPEAポリマー組成物中のアミド連結基の調製に用いることのできる好適な天然に存在する治療用二酸及び合成の治療用二酸としては、例えば、バンベルマイシン(類);ベナゼプリル;カルベニシリン;カルジノフィリンA;セフィキシム;セフィニノックス(cefininox) セフピミゾール;セフォジジム;セフォニシド;セフォラニド;セフォテタン;セフタジジム;セフチブテン;セファロスポリンC;シラスタチン;デノプテリン;エダトレキサート;エナラプリル;リシノプリル;メトトレキサート;モキサラクタム;ニフェジピン;オルサラジン;ペニシリンN;ラミプリル;キナシリン;キナプリル;テモシリン;チカルシリン;Tomudex(登録商標)(N−[[5−[[(1,4−ジヒドロ−2−メチル−4−オキソ−6−キナゾリニル)メチル]メチルアミノ]−2−チエニル]カルボニル]−L−グルタミン酸)などが挙げられる。天然に存在する治療用二酸は、安全性プロファイルが合成の治療用二酸より優れていると考えられる。治療用二酸は、飽和二酸又は不飽和二酸のいずれであってもよい。
【0040】
[0048]上述の治療用ジオール及び二酸の、腫瘍阻害薬、細胞障害性代謝拮抗薬、抗生物質などとしての化学的特性及び治療上の特性は当該技術分野において公知であり、その詳細な説明は、例えば「The Merck Index」の第13版(Whitehouse Station,N.J.,米国)に掲載されている。
【0041】
[0049]生分解性AABB−PDPポリマーは、ポリマー分子1個につき1つから複数のα−アミノ酸を含むことができ、好ましくは約20,000Da〜約80,000Daの範囲の重量平均分子量を有する。特に、本明細書の実施例に記載されるとおり製造されるポリマーは、分子量が約35,000Da〜46,000Daの範囲であり、M/Mが1.36〜1.46である。
【0042】
[0050]さらに別の実施形態において、本発明は、1つ又は複数の生物活性剤を対象の体内の局所部位に制御された形で送達するための方法を提供する。この実施形態において、本発明の方法は、対象の体内部位に、中に少なくとも1つの生物活性剤が分散したポリマー粒子の分散体として構成された本発明のAABB−PDPを注入するステップを含む。注入された粒子は凝集してサイズの大きくなった粒子ポリマーデポーを形成し、この凝集塊は個々の粒子を徐々に放出し、個々の粒子が酵素作用により分解されることで、1つ又は複数の分散生物活性剤が約1週間〜約6ケ月の期間にわたり生体内に制御された形で放出される。
【0043】
[0051]本発明のAABB−PDPポリマーの粒子の分散体は、例えば、皮下、筋肉内、又は臓器などの体内部位に注入することができる。サイズが約19〜約27ゲージの範囲の薬用シリンジ針を通過可能なサイズのポリマー粒子、例えば平均粒径が約1μm〜約200μmの範囲のポリマー粒子を体内部位に注入することができ、それらは凝集してデポーを形成するサイズの大きくなった粒子を形成することで、1つ又は複数の分散した生物活性剤を局所的に分配する。他の実施形態において、生分解性ポリマー粒子は、全身的な標的化された時限放出のために循環中に入る生物活性剤の担体として機能する。かかる目的に対し、約10nm〜約500nmの範囲のサイズの本発明のポリマー粒子が循環中に直接入る。
【0044】
[0052]1つ又は複数の生物活性剤は、ポリマー担体と化学的に連結することなくポリマーマトリックス中に分散させてもよく、また、1つ又は複数の生物活性剤又は被覆分子を、広範な種類の好適な官能基を介して生分解性ポリマーと共有結合させることも企図される。例えば、遊離カルボキシル基は、ヒドロキシ基、アミノ基、又はチオ基などの、生物活性剤又は被覆分子上の相補的な(complimentary)部分との反応に用いることができる。広範な種類の好適な試薬及び反応条件が、例えば、「March’s Advanced Organic Chemistry,Reactions,Mechanisms,and Structure」、第5版、(2001);及び「Comprehensive Organic Transformations」、第2版、Larock(1999)に開示されている。
【0045】
[0053]他の実施形態において、1つ又は複数の生物活性剤は、構造(I)及び構造(IV)のポリマーのいずれかと、アミド、エステル、エーテル、アミノ、ケトン、チオエーテル、スルフィニル、スルホニル、又はジスルフィド連結を介して連結され得る。かかる連結は、好適に官能化された出発物質から、当該技術分野において公知の合成手順を用いて形成することができる。
【0046】
[0054]例えば、一実施形態においてポリマーは、ポリマーの遊離カルボキシル基(例えば、COOH)を介して生物活性剤と連結され得る。具体的には、構造式(I)又は構造式(IV)の本発明のAABB−PDP組成物は、生物活性剤のアミノ官能基又はヒドロキシル官能基と反応し、それぞれアミド連結又はエステル連結を介して結合した生物活性剤を有する生分解性ポリマーを提供することができる。別の実施形態において、ポリマーのカルボキシル基は、ベンジル化されるか、又はハロゲン化アシル、アシル無水物/「混合」無水物、又は活性エステルに変換されることができる。他の実施形態において、ポリマー分子の遊離NH末端はアシル化されてもよく、それにより生物活性剤がポリマーの遊離末端に結合するのではなく、ポリマーのカルボキシル基のみを介して結合することが確実となる。
【0047】
[0055]本明細書に記載されるとおりの1つ又は複数の水溶性被覆分子、例えば、ポリ(エチレングリコール)(PEG);ホスファチジルコリン(PC);ヘパリンを含むグリコサミノグリカン;キトサン、アルギン酸塩及びポリシアル酸を含む多糖;ポリセリン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、ポリリジン及びポリアルギニンを含むポリ(イオン性又は極性アミノ酸)、並びにターゲッティング分子、例えば、抗体、抗原及びリガンドは、粒子生成後にAABB−PDP組成物から形成される粒子外側のポリマーとコンジュゲートを形成して生物活性剤が占有しないように活性部位をブロックしたり、又は当該技術分野において公知のとおり粒子の送達を特定の体内部位に標的化したりすることもできる生物活性剤である。単一の粒子上のPEG分子の分子量は、約200〜約200,000の範囲の実質的に任意の分子量であってよく、従って粒子に結合する各種のPEG分子の分子量は様々であり得る。
【0048】
[0056]或いは、生物活性剤又は被覆分子は、リンカー分子を介して、又は本明細書に記載されるとおりの2個以上のポリマー分子を架橋結合することにより、ポリマーに結合することができる。実際には、生分解性ポリマーの表面疎水性を改善し、酵素活性化に対する生分解性ポリマーのアクセスし易さを改善し、及び生分解性ポリマーからの生物活性剤の放出プロファイルを改善するため、リンカーを利用して生物活性剤が生分解性ポリマーと間接的に結合され得る。特定の実施形態において、リンカー化合物としては、約44〜約10,000、好ましくは44〜2000の分子量(Mw)を有するポリ(エチレングリコール);セリンなどのアミノ酸;1〜100の繰り返し数のポリペプチド;及び任意の他の好適な低分子量ポリマーが挙げられる。リンカーは、典型的には生物活性剤をポリマーと約5Å〜最大約200Åだけ分離する。
【0049】
[0057]さらに別の実施形態において、リンカーは式W−A−Qの二価ラジカルであり、式中、Aは、(C〜C24)アルキル、(C〜C24)アルケニル、(C〜C24)アルキニル、(C〜C20)アルキルオキシ、(C〜C)シクロアルキル、又は(C〜C10)アリールであり、W及びQは、各々独立して、−N(R)C(=O)−、−C(=O)N(R)−、−OC(=O)−、−C(=O)O、−O−、−S−、−S(O)、−S(O)−、−S−S−、−N(R)−、−C(=O)−(式中、各Rは独立してH又は(C〜C)アルキルである)である。
【0050】
[0058]上記のリンカーについて記載するために用いるとき、用語「アルキル」は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ヘキシルなどを含む直鎖状又は分枝鎖状炭化水素基を指す。
【0051】
[0059]上記のリンカーについて記載するために用いて本明細書で使用されるとき、「アルケニル」は、1つ又は複数の炭素−炭素二重結合を有する直鎖状又は分枝鎖状ヒドロカルビル基を指す。
【0052】
[0060]上記のリンカーについて記載するために用いて本明細書で使用されるとき、「アルキニル」は、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を有する直鎖状又は分枝鎖状ヒドロカルビル基を指す。
【0053】
[0061]上記のリンカーについて記載するために用いて本明細書で使用されるとき、「アリール」は、6個〜最大14個の範囲の炭素原子を有する芳香族基を指す。
【0054】
[0062]特定の実施形態において、リンカーは、約2個〜最大約25個のアミノ酸を有するポリペプチドであってもよい。使用が企図される好適なペプチドとしては、ポリ−L−グリシン、ポリ−L−リジン、ポリ−L−グルタミン酸、ポリ−L−アスパラギン酸、ポリ−L−ヒスチジン、ポリ−L−オルニチン、ポリ−L−セリン、ポリ−L−スレオニン、ポリ−L−チロシン、ポリ−L−ロイシン、ポリ−L−リジン−L−フェニルアラニン、ポリ−L−アルギニン、ポリ−L−リジン−L−チロシンなどが挙げられる。
【0055】
[0063]線状ポリマーポリペプチドコンジュゲートは、ポリペプチド骨格上の潜在的な求核剤を保護し、ポリマー又はポリマーリンカー構成体を結合するための1つの反応基のみを残すことにより作製される。脱保護は、ペプチドの脱保護について当該技術分野で公知の方法(例えば、Boc、及びFmoc化学)に従い実施される。
【0056】
[0064]本発明の一実施形態において、生物活性剤は、レトロ−インベルソ又は部分的レトロ−インベルソペプチドとして提供されるポリペプチドである。
【0057】
[0065]他の実施形態において、生物活性剤は、マトリックス中で光架橋可能な型のポリマーと混合されてもよく、架橋結合後、その材料を分散させる(粉砕する)ことにより、約0.1〜約10μmの範囲の平均粒径を有する粒子が形成される。
【0058】
[0066]リンカーは、最初にポリマー又は生物活性剤若しくは被覆分子に結合させることができる。合成中、リンカーは、保護されていない形態であっても、又は当業者に公知の様々な保護基を使用して、保護された形態であってもよい。保護されたリンカーの場合、最初にリンカーの未保護の末端がポリマー又は生物活性剤若しくは被覆分子と結合され得る。次に保護基が、飽和ポリマー骨格にはPd/H水素化を使用して、不飽和ポリマーには弱酸性又は塩基性加水分解を使用して、又は当該技術分野において公知の任意の他の一般的な脱保護方法を使用して脱保護され得る。次に脱保護されたリンカーが、生物活性剤若しくは被覆分子、又はポリマーと結合され得る。
【0059】
[ポリマー−生物活性剤連結]
[0067]一実施形態において、本明細書に記載されるとおりの本発明のAABB−PDP組成物の作製に用いられるポリマーは、そのポリマーに直接連結した1つ又は複数の生物活性剤を有する。ポリマーの残基は、1つ又は複数の生物活性剤の残基と連結することができる。例えば、ポリマーの1つの残基を、生物活性剤の1つの残基と直接連結することができる。ポリマー及び生物活性剤は、各々1つの空いている原子価を有することができる。或いは、2個以上の生物活性剤、複数の生物活性剤、又は異なる治療若しくは緩和活性を有する生物活性剤の混合物をポリマーと直接連結することができる。しかしながら、各生物活性剤の残基はポリマーの対応する残基と連結され得るため、1つ又は複数の生物活性剤の残基の数は、ポリマーの骨格に組み込まれた少なくとも1個のジオール又は二酸生物活性剤を有するポリマーの残基上の空いている原子価の数に対応し得る。
【0060】
[0068]本明細書で使用されるとき、「ポリマーの残基」は、1つ又は複数の空いている原子価を有するポリマーのラジカルを指す。ポリマーの任意の合成を実現可能な原子、複数の原子、又は官能基(例えば、ポリマー骨格又はペンダント上のもの)は、ラジカルを生物活性剤の残基と結合するときに実質的に保持される。加えて、任意の合成を実現可能な官能基(例えば、カルボキシル)をポリマー上に(例えば、ペンダント基として、又は鎖終端としてポリマー骨格上に)生じさせて空いている原子価を提供することができ、但しこれは、骨格治療剤の生物活性が、ラジカルを生物活性剤の残基と結合したときに実質的に保持されることを条件とする。所望の連結に基づき、当業者は、本発明で用いられるポリマーを当該技術分野において公知の手順を用いて誘導体化するために使用することのできる好適に官能化された出発物質を選択することができる。
【0061】
[0069]本明細書で使用されるとき、「構造式(*)の化合物の残基」は、1つ又は複数の空いている原子価を有する本明細書に記載されるとおりの構造式(I)又は構造式(IV)のAABB−PDP組成物のラジカルを指す。化合物の任意の合成を実現可能な原子、複数の原子、又は官能基(例えば、ポリマー骨格、ペンダント又は末端基上のもの)は、取り除いて空いている原子価を提供することができ、但しこれは、ラジカルの結合時に骨格治療剤の生物活性が実質的に保持されることを条件とする。加えて、任意の合成を実現可能な官能基(例えば、カルボキシル)を式(I)及び式(IV)の化合物上(例えば、ポリマー骨格又はペンダント基上)に生じさせて空いている原子価を提供することができ、但しこれは、骨格治療剤の生物活性が、ラジカルを生物活性剤の残基と結合したときに実質的に保持されることを条件とする。所望の連結に基づき、当業者は、式(I)及び式(IV)のAABB−PDP組成物を当該技術分野において公知の手順を用いて誘導体化するために使用することのできる好適に官能化された出発物質を選択することができる。
【0062】
[0070]例えば、生物活性剤の残基は、構造式(I)又は構造式(IV)のAABB−PDP組成物の残基と、アミド(例えば、−N(R)C(=O)−又は−C(=O)N(R)−)、エステル(例えば、−OC(=O)−又は−C(=O)O−)、エーテル(例えば、−O−)、アミノ(例えば、−N(R)−)、ケトン(例えば、−C(=O)−)、チオエーテル(例えば、−S−)、スルフィニル(例えば、−S(O)−)、スルホニル(例えば、−S(O)−)、ジスルフィド(例えば、−S−S−)、又は直接(例えば、C−C結合)の連結(式中、各Rは独立してH又は(C〜C)アルキルである)により連結することができる。かかる連結は、好適に官能化された出発物質から当該技術分野において公知の合成手順を用いて形成することができる。所望の連結に基づき、当業者は、当該技術分野において公知の手順を用いて構造式(I)又は構造式(IV)のAABB−PDP組成物の任意の残基を誘導体化し、それにより生物活性剤の所与の残基をコンジュゲート化するのに好適な官能性の出発物質を選択することができる。生物活性剤の残基は、構造式(I)又は構造式(IV)の化合物の残基上にある合成を実現可能ないずれの位置と連結されてもよい。加えて、生物活性剤の2個以上の残基をAABB−PDP組成物と直接連結してもよい。
【0063】
[0071]ポリマー分子と連結することのできる生物活性剤の数は、典型的にはポリマーの分子量及びポリマーに組み込まれた骨格生物活性剤の数に依存し得る。例えば、構造式(I)の化合物について(式中、nは約5〜約150、好ましくは約5〜約70、最高約150である)、生物活性剤をポリマーの骨格、ペンダント基又は末端基と反応させることにより、生物活性剤分子(すなわち、その残基)をポリマー(すなわち、その残基)と直接連結することができる。本発明のAABB−PDP組成物における生物活性剤の連結部位の数は、従ってポリマーに組み込まれた骨格治療用ジオール又は二酸の数だけ減る。不飽和ポリマーでは、ポリマー骨格に組み込まれた治療用ジオール又は二酸残基それ自体がいかなる二重(又は三重)結合も含まないならば、生物活性剤はポリマー中の二重(又は三重)結合とも反応することができる。従って、エストラジオールが骨格に組み込まれる場合、反応中に生物活性剤が骨格ジオール又は二酸残基(すなわち、エストラジオール)の二重結合と結合することを防ぐため、ポリマー組成物の二重結合において生物活性剤を連結することは推奨されない。
【0064】
[0072]AABB−PDP組成物では、それが粒子の形態であっても、又は粒子ではない形態であっても、生物活性剤は、当該技術分野において公知の、及び本明細書において以下に記載されるとおりのいくつかの方法のうちのいずれかを用いて、化学結合なしにポリマー中に「入れ込む」ことにより分散させるのではなく、ポリマーと直接共有結合させることができる。生物活性剤の量は、概して、ポリマー組成物に対して約0.1%〜約60%(w/w)の生物活性剤、より好ましくは約1%〜約25%(w/w)の生物活性剤、さらにより好ましくは約2%〜約20%(w/w)の生物活性剤である。生物活性剤の割合は、以下でより詳細に考察するとおり、所望の用量及び治療対象の病態に依存し得る。
【0065】
[0073]本発明のAABB−PDP組成物は、例えば、吸入薬、インプラント又は局所若しくは全身注射液の形態で生体内に直接投与したときに、生物活性剤についての独立した送達系として機能することに加え、様々なタイプの外科的デバイスの製造に使用することができる。この実施形態において、本発明は、少なくとも1つの生物活性剤が中に散在する本発明のAABB−PDP組成物を含む外科的デバイスを提供する。かかる外科的デバイスは、固形インプラント、粒子、及び外科的デバイスの表面の少なくとも一部分にある組成物のコーティングを含む。外科的デバイスを構成するAABB−PDP組成物は生分解され、従ってポリマーの骨格から放出された、及び/又はポリマー中に分散した1つ又は複数の生物活性剤を制御された形で周囲組織に送達する。
【0066】
[0074]一実施形態において、本発明のAABB−PDP組成物は、任意の所望の表面積のパッド、シート又はラップの形態で製造することができる。例えば、ポリマーは、織り上げられるか、又は不規則な向きの繊維からなる薄いシートとして形成されてもよい。かかるパッド、シート及びラップは、多くのタイプの創傷被覆材において使用することができ、それにより様々な病態を、例えば創傷部位において内因性の治癒過程を促進することにより治療することができる。創傷被覆材中のポリマー組成物は時間が経つと生分解され、骨格治療用ジオール又は二酸を含め、散在した生物活性剤を放出し、それが創傷部位の標的細胞に吸収され、そこで細胞内において細胞質ゾル、核、若しくはその双方の中で作用するか、又は生物活性剤は細胞表面受容体分子に結合し、細胞に侵入することなく細胞応答を惹起する。或いは、ポリマー組成物から放出される生物活性剤は、例えば生物活性ステントの被覆材として用いられるとき、創傷被覆材又はインプラントが置かれている環境と接触することにより創傷部位において内因性の治癒過程を促進する。
【0067】
[0075]本発明のAABB−PDP組成物に用いられるポリマー中の分散体に企図される生物活性剤としては、抗増殖薬のラパマイシン及びその類似体又は誘導体のいずれか、パクリタキセル又はそのタキセン(taxene)類似体又は誘導体のいずれか、エベロリムス、シロリムス、タクロリムス、又はその〜リムスと命名される薬物ファミリーのいずれか、及びスタチン、例えば、シンバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、ロスバスタチン、ゲルダナマイシン、例えば17AAG(17−アリルアミノ−l7−デメトキシゲルダナマイシン);エポチロンD及び他のエポチロン、17−ジメチルアミノエチルアミノ−17−デメトキシ−ゲルダナマイシン及び熱ショックタンパク質90(Hsp90)の他のポリケチド阻害薬、シロスタゾールなどが挙げられる。
【0068】
[0076]本発明のAABB−PDP組成物及びそれから作製される粒子中に分散させるのに好適な生物活性剤はまた、一酸化窒素などの、内皮細胞により内因的に産生される治療効果を有する天然創傷治癒剤の内因性産生を促進するものから選択されてもよい。或いは、分解時にポリマーから放出される生物活性剤は、内皮細胞による自然の創傷治癒過程を促進する直接的な活性を有してもよい。これらの生物活性剤は、一酸化窒素を供与し、輸送し、若しくは放出し、内因性の一酸化窒素レベルを上昇させ、一酸化窒素の内因性合成を刺激し、又は一酸化窒素合成酵素の基質として機能するか、又は平滑筋細胞の増殖を阻害する任意の薬剤であり得る。かかる薬剤としては、例えば、アミノキシル、フロキサン、ニトロソチオール、硝酸塩及びアントシアニン;アデノシンなどのヌクレオシド並びにアデノシン二リン酸(ADP)及びアデノシン三リン酸(ATP)などのヌクレオチド;アセチルコリン及び5−ヒドロキシトリプタミン(セロトニン/5−HT)などの神経伝達物質/神経調節物質;ヒスタミン並びにアドレナリン及びノルアドレナリンなどのカテコールアミン;スフィンゴシン−1−リン酸塩及びリゾホスファチジン酸などの脂質分子;アルギニン及びリジンなどのアミノ酸;ブラジキニン、サブスタンスP及びカルシウム遺伝子関連ペプチド(CGRP)などのペプチド、並びにインスリン、血管内皮増殖因子(VEGF)、及びトロンビンなどのタンパク質が挙げられる。
【0069】
[0077]様々な生物活性剤、生物活性剤のコーティング分子及びリガンドは、ポリマーコーティング又は粒子の表面に結合、例えば共有結合させることができる。標的抗体、ポリペプチド(例えば抗原)及び薬物などの生物活性剤は、ポリマーコーティング又は粒子の表面と共有結合的にコンジュゲート化され得る。加えて、抗体若しくはポリペプチドを結合するためのリガンドとしてのコーティング分子、例えばポリエチレングリコール(PEG)、又は粒子の表面上の結合部位をブロックする手段としてのホスファチジルコリン(PC)は、粒子と表面でコンジュゲート化することにより、粒子が投与される対象体内における標的外の生体分子及び表面に付着することを防ぐことができる。
【0070】
[0078]例えば、小さいタンパク様モチーフ、例えば細菌タンパク質AのBドメイン及びタンパク質Gの機能的に等価な領域は、Fc領域により抗体分子と結合し、ひいてはそれを捕捉することが知られている。かかるタンパク様モチーフは、生物活性剤として本発明のAABB−PDP組成物と、特に本明細書に記載されるポリマー粒子の表面と結合することができる。かかる分子は、例えば、標的リガンドとして用いられる抗体を結合し、又は抗体を捕捉して血流に流されないよう前駆体細胞又は捕捉細胞を保持しておくリガンドとして働き得る。従って、タンパク質A又はタンパク質Gの機能領域を用いてポリマーコーティングと結合することのできる抗体タイプは、Fc領域を含むものである。捕捉抗体は、ひいてはポリマー表面の近傍で前駆体細胞、例えば前駆細胞と結合してそれを保持すると同時に、好ましくはポリマー中の成長培地に供される前駆体細胞は、様々な因子を分泌し、対象の他の細胞と相互作用する。加えて、ブラジキニンなどの、ポリマー粒子中に分散した1つ又は複数の生物活性剤は、前駆体細胞を活性化し得る。
【0071】
[0079]加えて、ポリマー組成物が投与される対象体内において前駆体細胞を結合し、又は血流から前駆内皮細胞(PEC)を捕捉しておく生物活性剤は、公知の前駆体細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体である。例えば、内皮細胞の表面を標識することが報告されている相補性決定基(CD)としては、CD31、CD34、CD102、CD105、CD106、CD109、CDw130、CD141、CD142、CD143、CD144、CDw145、CD146、CD147、及びCD166が挙げられる。これらの細胞表面マーカーは様々な特異性を有し得るとともに、特定の細胞/発生タイプ/段階に対する特異性の程度は、多くの場合、完全には特徴付けられない。加えて、抗体を産生させているこれらの細胞マーカー分子は、特に同じ系統の細胞:内皮細胞の場合には単球上のCDと(抗体認識に関して)重複する。循環内皮前駆細胞は、何らかの形で(骨髄)単球から成熟内皮細胞に至る発生経路に従う。CD106、CD142及びCD144は、いくらかの特異性を伴い成熟内皮細胞を標識することが報告されている。CD34は、現在、前駆内皮細胞に特異的であることが知られており、従って現行では、活性薬剤を局所送達するためにポリマー粒子を植え込む部位において血液に流されないよう前駆内皮細胞を捕捉するのに好ましい。かかる抗体の例としては、単鎖抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片、Fab断片、IgA、IgG、IgM、IgD、IgE及びヒト化抗体、及びそれらの活性断片が挙げられる。
【0072】
[0080]以下の生物活性剤及び小分子薬物は、本明細書に記載されるとおり、生物活性剤を局所送達するための時限放出性の生分解性ポリマーデポーを形成するサイズであっても、又は体循環に入り込むサイズであっても、本発明のAABB−PDP組成物中に分散させるのに特に有効である。本発明のAABB−PDP組成物中に分散した生物活性剤及び使用方法は、対象とする疾患、若しくはその症状の治療におけるそれらの好適な治療効果又は緩和効果について、又は細胞若しくは組織培養物内、又は生体内でのかかる効果のインビトロ試験のために設計された実験におけるそうした効果について選択され得る。
【0073】
[0081]一実施形態において、好適な生物活性剤としては、限定されないが、時限放出型として提供されるとき、創傷治癒を促進し、若しくはそれに寄与する様々なクラスの化合物が挙げられる。かかる生物活性剤としては、特定の前駆体細胞を含め、本発明の組成物中の生分解性ポリマーにより保護及び送達され得る創傷治癒細胞が挙げられる。かかる創傷治癒細胞としては、例えば、周皮細胞及び内皮細胞、並びに炎症治癒細胞が挙げられる。かかる細胞を生体内のポリマーデポーの部位に動員するため、本発明に用いられる本発明のAABB−PDP組成物及びその粒子並びに使用方法は、例えば「細胞接着分子」(CAM)と特異的に結合する、かかる細胞に対する抗体などのリガンド及びより小さい分子のリガンドを含むことができる。創傷治癒細胞の例示的リガンドとしては、細胞間接着分子(ICAM)と特異的に結合するもの、例えば、ICAM−1(CD54抗原);ICAM−2(CD102抗原);ICAM−3(CD50抗原);ICAM−4(CD242抗原);及びICAM−5;血管細胞接着分子(VCAM)、例えばVCAM−1(CD106抗原);神経細胞接着分子(NCAM)、例えばNCAM−1(CD56抗原);又はNCAM−2;血小板内皮細胞接着分子PECAM、例えばPECAM−1(CD31抗原);内皮白血球接着分子(ELAM)、例えばLECAM−1;又はLECAM−2(CD62E抗原)などが挙げられる。
【0074】
[0082]別の態様において、好適な生物活性剤としては細胞外マトリックスタンパク質が挙げられ、これは、本発明のAABB−PDP組成物に用いられるポリマー粒子中に分散させることができる、例えば、共有結合的又は非共有結合的に結合させることができる巨大分子である。有用な細胞外マトリックスタンパク質の例としては、例えば、通常タンパク質(プロテオグリカン)と連結されるグリコサミノグリカン、及び線維状タンパク質(例えば、コラーゲン;エラスチン;フィブロネクチン及びラミニン)が挙げられる。細胞外タンパク質の生体模倣体もまた使用することができる。これらは通常、アルギン酸塩及びキチン誘導体などの、非ヒト性だが生体適合性の糖タンパク質である。かかる細胞外マトリックスタンパク質及び/又はそれらの生体模倣体の特異的断片である創傷治癒ペプチドもまた使用することができる。
【0075】
[0083]タンパク様成長因子は、本発明のAABB−PDP組成物中への分散及び本明細書に記載される使用方法に好適な別のカテゴリーの生物活性剤である。かかる生物活性剤は、例えば、血小板由来増殖因子BB(PDGF−BB)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、上皮成長因子(EGF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、チモシンB4;並びに様々な血管新生因子、例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、腫瘍壊死因子β(TNF−β)、及びインスリン様成長因子−1(IGF−1)など、創傷治癒の促進及び当該技術分野で公知のとおりの他の疾患状態において有効である。これらのタンパク様成長因子の多くは市販されており、又は当該技術分野において公知の技法を用いて組換え産生することができる。
【0076】
[0084]或いは、様々な生体分子をコードする遺伝子を組み込んだベクター、特にアデノウイルスベクターを含む発現系を、時限放出送達のために本発明のAABB−PDP組成物及びその粒子中に分散させることができる。かかる発現系及びベクターの調製方法は当該技術分野において公知である。例えば、タンパク様成長因子を本発明のAABB−PDP組成物中に分散させることができ、それによりその成長因子を、ポリマーデポーを形成するサイズの粒子を選択することにより局所送達で所望の体内部位に投与するか、又は循環中に入り込むサイズの粒子を選択することにより全身に投与することができる。成長因子、例えば、VEGF、PDGF、FGF、NGF、並びに進化的及び機能的に関係性のある生物製剤、並びにトロンビンなどの血管新生酵素もまた、本発明の組成物における生物活性剤として使用することができる。
【0077】
[0085]薬物は、人工的に合成されたものも、又は天然で合成されたものも、本発明のAABB−PDP組成物中への分散及び本明細書に記載される使用方法に好適なさらに別のカテゴリーの生物活性剤である。かかる薬物としては、例えば、抗菌薬及び抗炎症剤並びに特定の治癒促進薬、例えば、ビタミンA及び脂質過酸化の合成阻害薬が挙げられる。
【0078】
[0086]様々な抗生物質を生物活性剤として本発明のAABB−PDP組成物中に分散させることで、感染症を予防又は制御することにより自然治癒過程を間接的に促進することができる。好適な抗生物質としては、アミノグリコシド抗生物質又はキノロン又はセファロスポリンなどのβ−ラクタムなどの多くのクラス、例えば、シプロフロキサシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、エリスロマイシン、バンコマイシン、オキサシリン、クロキサシリン、メチシリン、リンコマイシン、アンピシリン、及びコリスチンが挙げられる。好適な抗生物質は文献に記載されている。
【0079】
[0087]好適な抗菌薬としては、例えば、Adriamycin PFS/RDF(登録商標)(Pharmacia and Upjohn)、Blenoxane(登録商標)(Bristol−Myers Squibb Oncology/Immunology)、Cerubidine(登録商標)(Bedford)、Cosmegen(登録商標)(Merck)、DaunoXome(登録商標)(NeXstar)、Doxil(登録商標)(Sequus)、Doxorubicin Hydrochloride(登録商標)(Astra)、Idamycin(登録商標)PFS(Pharmacia and Upjohn)、Mithracin(登録商標)(Bayer)、Mitamycin(登録商標)(Bristol−Myers Squibb Oncology/Immunology)、Nipen(登録商標)(SuperGen)、Novantrone(登録商標)(Immunex)及びRubex(登録商標)(Bristol−Myers Squibb Oncology/Immunology)が挙げられる。一実施形態において、ペプチドはグリコペプチドであってもよい。「グリコペプチド」は、バンコマイシンなどの、場合によりサッカライド基と置換された多環状ペプチドコアにより特徴付けられるオリゴペプチド(例えばヘプタペプチド)抗生物質を指す。
【0080】
[0088]このカテゴリーの抗菌薬に含まれるグリコペプチドの例は、「Glycopeptides Classification,Occurrence,and Discovery」、Raymond C.Rao及びLouise W.Crandall著、(「Bioaetive agents and the Pharmaceutical Sciences」第63巻、Ramakrishnan Nagarajan編、Marcal Dekker,Inc刊)に見ることができる。グリコペプチドのさらなる例は、米国特許第4,639,433号明細書;米国特許第4,643,987号明細書;米国特許第4,497,802号明細書;米国特許第4,698,327号明細書、米国特許第5,591,714号明細書;米国特許第5,840,684号明細書;及び米国特許第5,843,889号明細書;欧州特許第0 802 199号明細書;欧州特許第0 801 075号明細書;欧州特許第0 667 353号明細書;国際公開第97/28812号パンフレット;国際公開第97/38702号パンフレット;国際公開第98/52589号パンフレット;国際公開第98/52592号パンフレット;並びにJ.Amer.Chem.Soc.(1996)118:13107−13108;J Amer.Chem.Soc.(1997)119:12041−12047;及びJ.Amer.Chem.Soc.(1994)116:4573−4590に開示されている。代表的なグリコペプチドとしては、A477、A35512、A40926、A41030、A42867、A47934、A80407、A82846、A83850、A84575、AB−65、アクタプラニン、アクチノイジン、アルダシン、アボパルシン、アズレオマイシン、バルヒミエイン(Balhimyein)、クロロオリエンチエイン(Chloroorientiein)、クロロポリスポリン、デカプラニン、−デメチルバンコマイシン、エレモマイシン、ガラカルジン、ヘルベカルジン、イズペプチン、キブデリン、LL−AM374、マンノペプチン、MM45289、MM47756、MM47761、MM49721、MM47766、MM55260、MM55266、MM55270、MM56597、MM56598、OA−7653、オレンチシン(orenticin)、パルボジシン、リストセチン、リストマイシン、シンモニシン(Synmonicin)、テイコプラニン、UK−68597、UD−69542、UK−72051、バンコマイシンなどとして特定されるものが挙げられる。用語「グリコペプチド」又は「グリコペプチド抗生物質」はまた、本明細書で使用されるとき、糖部分が存在しない上記に開示される一般的なクラスのグリコペプチド、すなわちアグリコン系のグリコペプチドを含むことも意図される。例えば、弱い加水分解によりバンコマイシン上のフェノールに付加された二糖類部分を除くと、バンコマイシンアグリコンが得られる。また、用語「グリコペプチド抗生物質」の範囲には、アルキル化誘導体及びアシル化誘導体を含め、上記に開示される一般的なクラスのグリコペプチドの合成誘導体も含まれる。加えて、さらなるサッカライド残基、特にアミノグリコシドがバンコサミンと同様の方法でさらに付加されているグリコペプチドが、この用語の範囲内にある。
【0081】
[0089]用語「脂質化グリコペプチド」は、具体的には、脂質置換基を含むよう合成的に修飾されているグリコペプチド抗生物質を指す。本明細書で使用されるとき、用語「脂質置換基」は、5個以上の炭素原子、好ましくは、10個〜40個の炭素原子を含む任意の置換基を指す。脂質置換基は、場合により、ハロ、酸素、窒素、硫黄、及び亜リン酸塩から選択される1個〜6個のヘテロ原子を含む。脂質化グリコペプチド抗生物質は、当該技術分野において公知である。
【0082】
[0090]抗炎症生物活性剤もまた、本発明のAABB−PDP組成物中に分散させるのに有用である。治療対象の体内部位及び疾患に応じて、かかる抗炎症生物活性剤としては、例えば鎮痛薬(例えば、NSAIDS及びサリシクレート(salicyclate))、ステロイド、抗リウマチ剤、胃腸剤、抗痛風製剤、ホルモン(グルココルチコイド)、点鼻製剤、点眼製剤、点耳製剤(例えば、抗生物質とステロイドとの併用)、呼吸器用薬剤、並びに皮膚用及び粘膜用薬剤が挙げられる。「Physician’s Desk Reference」、2005年版を参照のこと。具体的には、抗炎症剤としては、化学的に(11θ,16I)−9−フルロ(fluro)−11,17,21−トリヒドロキシ−16−メチルプレグナ−1,4−ジエン−3,20−ジオンとして表されるデキサメタゾンを挙げることができる。或いは、抗炎症生物活性剤はシロリムス(ラパマイシン)であるか、又はそれを含んでもよく、シロリムスは、ストレプトマイセス・ハイグロスコピカス(Streptomyces hygroscopicus)から単離されたトリエンマクロライド抗生物質である。
【0083】
[0091]本発明の組成物及び方法に含まれるポリペプチド生物活性剤はまた、「ペプチド模倣物」も含むことができる。本明細書で「ペプチド模倣物」又は「ペプチドミメティクス」と称されるかかるペプチド類似体は、鋳型ペプチドと類似した特性により製薬業界において一般に用いられており(Fauchere,J.(1986)Adv.Bioactive agent Res.,15:29;Velber及びFreidinger(1985)TINS,392頁;及びEvans et al.(1987)J.Med.Chem.,30:1229)、通常、コンピュータ化された分子モデリングを用いて開発される。加えて、ペプチド内の1つ又は複数のアミノ酸の置換(例えば、L−リジンに代えてD−リジン)が、より安定したペプチド及び内因性ペプチダーゼに抵抗性を有するペプチドの生成に用いられ得る。或いは、インベルソペプチドと称される、生分解性ポリマーと共有結合した合成ポリペプチドを、D−アミノ酸から調製することもできる。ペプチドが天然ペプチド配列と逆方向に構築されるとき、それはレトロペプチドと称される。一般に、D−アミノ酸から調製されたポリペプチドは、酵素加水分解に対して極めて安定している。レトロ−インベルソ又は部分的レトロ−インベルソポリペプチドについては、保存された生物活性の多くの例が報告されている(米国特許第6,261,569 B1号明細書及び同明細書中の文献;B.Fromme et al, Endocrinology(2003)144:3262−3269。
【0084】
[0092]本発明を用いて広範な種類の疾患又はその症状を予防又は治療し得ることは直ちに明らかである。
【0085】
[0093]場合により少なくとも1つの生物活性剤を担持する本発明のAABB−PDP組成物及びそのポリマー粒子が調製された後、組成物は凍結乾燥され得るとともに、その乾燥組成物は、投与前に適切な媒体中に懸濁され得る。
【0086】
[0094]少なくとも1つの生物活性剤の任意の好適な有効量は、植込み用のステント、眼内ディスク(intraocular disc)などの医療用デバイス上のポリマーコーティング中、又は生体内に導入されたその粒子から形成されるデポー中のものを含め、AABB−PDP組成物から時間とともに放出されてもよい。生物活性剤の好適な有効量は、典型的には、例えば、特定のAABB−PDPポリマー及びその中に組み込まれる治療用骨格ジオール又は二酸の濃度、存在する場合には、粒子又はポリマー/生物活性剤の連結タイプに依存し得る。典型的には、最高約100%の1つ又は複数の骨格ジオール又は二酸及び任意の1つ又は複数の生物活性剤が、生体内でポリマーデポーを形成する本明細書に記載されるとおり循環を回避するサイズのポリマー粒子から放出され得る。具体的には、その最高約90%、最高75%、最高50%、又は最高25%が、ポリマーデポーから放出され得る。典型的にポリマーデポーからの放出速度に影響する要因は、ポリマー/骨格治療剤の性質及び量、ポリマー/生物活性剤の連結タイプ、並びに製剤中に存在するさらなる物質の性質及び量である。
【0087】
[0095]上記のとおり本発明のAABB−PDP組成物が作製されると、続く投与のために組成物が製剤化される。使用される製剤に応じて、例えば、肺内、胃腸内、皮下、筋肉内、中枢神経系内、腹膜内又は臓器内送達による任意の好適な投与経路を用いることができる。注射又は吸入について、組成物は概して、水、生理食塩水、グリセロール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、エタノール等の、経口、粘膜又は皮下送達に適した1つ又は複数の「薬学的に許容可能な賦形剤又は媒体」を含む。加えて、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝物質、香味料などの補助物質が、かかる媒体中に存在し得る。
【0088】
[0096]例えば、鼻腔内投与製剤及び経肺製剤は、通常、鼻粘膜に対する刺激作用も、又は線毛機能の著しい妨害も引き起こすことのない媒体を含む。本発明では、水、水性生理食塩水又は他の公知の物質などの希釈剤を用いることができる。肺内投与製剤はまた、限定はされないが、クロロブタノール及び塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤を含んでもよい。鼻粘膜による吸収を高めるために界面活性剤が存在してもよい。
【0089】
[0097]直腸坐薬及び尿道坐薬について、媒体組成物は、従来の結合剤及び担体、例えば、カカオ脂(テオブロマオイル)又は他のトリグリセリド、エステル化、水素化及び/又は分留により修飾された植物油、グリセリンゼラチン、ポリアルカリ性グリコール、様々な分子量のポリエチレングリコールとポリエチレングリコールの脂肪酸エステルとの混合物を含む。
【0090】
[0098]経膣送達について、本発明のAABB−PDP組成物は、ポリエチレントリグリセリドの混合物を含むものなどのペッサリー基剤中に配合するか、又はトウモロコシ油若しくはゴマ油などの油中に、場合によりコロイド状シリカを含んで懸濁することができる。例えば、Richardson et al., Int.J Pharm.(1995)115:9−15を参照のこと。
【0091】
[0099]特定の送達方法に使用するのに適した媒体のさらなる考察については、例えば、「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」、Mack Publishing Company、Easton,Pa.、第19版、1995を参照のこと。当業者は、特定の本発明のAABB−PDP又はその粒子に使用するのに適切な媒体及び投与方法を容易に判断することができる。
【0092】
[0100]或いは、本発明のAABB−PDP組成物は、生物活性剤を生体内の植込み部位に送達するための医療用デバイス上のコーティングとして構成されてもよい。例えば、本組成物を使用して、本明細書に記載されるとおりの生物活性剤を周囲組織又は細胞に迅速に送達するため血管ステント又は眼内用ディスクの表面の少なくとも一部分を被覆することができる。眼科用薬剤を送達するための、PEAポリマーファミリー(例えば、固形ディスクの形態か、又はかかるディスク上のコーティングとしての、本発明のAABB−PDPポリマー及び組成物)のポリマーを含む眼内用デバイスの作製及び使用方法は、米国特許出願公開第20070292476号明細書に開示されているとおりである。
【0093】
[0101]ヒトに加え、本発明のAABB−PDP組成物はまた、様々な哺乳類患者、例えば、ペット(例えば、ネコ、イヌ、ウサギ、及びフェレット)、家畜(例えば、ブタ、ウマ、ラバ、乳牛及び肉用牛)並びに競走馬に対する生物活性剤の獣医学的な投与に用いられる送達媒体としても意図される。
【0094】
[0102]一実施形態において、本発明で使用されるAABB−PDP組成物は、1つ又は複数の骨格治療用ジオール又は二酸及び/又は目的とする分散した生物活性剤の「有効量」を含む。すなわち、症状の予防、低減、又は解消に十分な治療応答又は緩和応答をもたらす量のかかる薬剤が組成物中に組み込まれる。正確な所要量は、他の要因の中でも特に、組成物を投与する対象;対象の年齢及び全般的な状態;対象の免疫系能力、所望する治療又は緩和応答の程度;治療若しくは検査対象の病態の重症度;選択された1つ若しくは複数の特定の生物活性剤並びに組成物の投与方法に応じて異なり得る。当業者は適切な有効量を容易に判断することができる。従って、「有効量」は、日常的な試験を通じて決定され得る比較的広い範囲の中にある。例えば、本発明の目的上、有効量は典型的には、用量当たりの送達される活性薬剤が約1μg〜約100mg、例えば約5μg〜約1mg、又は約10μg〜約500μgの範囲であり得る。
【0095】
[0103]製剤化されると、本発明のAABB−PDP組成物は様々な方法で投与することができる。一実施形態において、分子又は粒子の懸濁液が、標準的な技法を用いて経口的に、経粘膜的に、又は皮下若しくは筋肉内注射によるなどして投与される。例えば、粘膜送達法については、経鼻、経肺、経膣及び経直腸技法を含め、「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」、Mack Publishing Company、Easton,Pa.、第19版、1995、並びに欧州特許第517,565号明細書を参照されたく、及び経鼻投与の技法についてはIllum et al.、J. Controlled Rel.(1994)29:133−141を参照されたい。1つ又は複数の生物活性剤を含有するAABB−PDP組成物を含む外科的デバイスが、植込み型固形物、例えば、動脈ステント又は眼内用ディスクとして、又はかかる外科的デバイス上のコーティングとして構成され得る。かかる植込み型装置は、当該技術分野において公知の技法を用いて外科的に挿入される。
【0096】
[0104]投薬治療は、本発明のAABB−PDP組成物の単回投与であってもよく、又は当該技術分野において公知のとおりの頻回投与スケジュールであってもよい。投薬レジメンはまた、少なくとも一部において、対象の必要性により決定され、医師の判断に依存し得る。さらに、疾患の予防が求められる場合、AABB−PDP組成物(粒子の形態のもの、又はそうではないもの)は、概して原発性疾患発現より前、すなわち対象とする疾患の症状が現れる前に投与される。治療、例えば症状又は再発の軽減が求められる場合、AABB−PDP組成物は概して原発性疾患発現後に投与される。
【0097】
[0105]製剤は、経口、皮下又は粘膜送達の研究用に開発された数多くの動物モデルにおいてインビボ試験を行うことができる。例えば、覚醒ヒツジモデルが、物質の経鼻送達試験用に当該技術分野で認知されているモデルである。Longenecker et al.、J Pharm.Sci.(1987)76:351−355及びIllum et al.、J Controlled Rel.(1994)29:133−141を参照のこと。AABB−PDP組成物は、概して粉末状の凍結乾燥形態であり、鼻腔に吹き込まれる。当該技術分野において公知のとおり標準的な技術を用いて、血液試料を生物活性剤についてアッセイすることができる。
【0098】
[0106]別の実施形態において、本発明は、本発明のAABB−PDPポリマーを含む外科的デバイスを提供する。
【0099】
[0107]さらに別の実施形態において、本発明は、構造式(III)
【化8】



(式中、RはH又は−CHであり、Rは、(C〜C12)アルキレン及び(C〜C12)アルケニレンから独立して選択されるアシルである)により表される化学式を有するO,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)(本明細書の化合物1)を調製する方法であって、
a)触媒及び塩化水素アクセプターとして作用する溶媒中でアシルの酸二塩化物を形成するステップと、
b)溶媒の存在下で酸二塩化物を乾燥酢酸エチル中のグリコール酸又は乳酸と相互作用させて固形O,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)生成物を形成するステップと、
c)a)で形成された固形O,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)生成物を溶液から回収するステップと、
を含む方法を提供する。
【0100】
[0108]本発明の方法においてO,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)の調製に用いるのに好適な溶媒の例としては、例えば、ピリジン及びトリエチルアミンが挙げられる。次に固形生成物は、例えば多孔質ガラスフィルタでろ過し、塩酸で酸性化したpH2〜3の水のアリコートで洗浄することにより回収することができる。ろ液は所望の生成物を多量に含む。水性洗浄液から、それを例えば各約100mLの3〜4回分量の酢酸エチルで抽出することにより、さらなる量の生成物を回収してもよい。次にそれらの酢酸エチル部分量を加え合わせて乾燥させ、ろ過し、蒸発乾固させると、さらなる収量の目的生成物を得ることができ、粗O,O’−アジポイル−ビス−(グリコール酸)の収率は約70%もの高さとなる。精製については、生成物は酢酸エチル/ヘキサン70/30(v/v)混合液から再結晶化することができる。生成物がセバシン酸ベースの場合、生成物は水不溶性であり、水で洗浄することができる。
【0101】
[0109]以下の反応スキーム1は、式(III)の化合物(式中、R=(CH及び(CH)の合成方法を示す:
【化9】



【0102】
[0110]化合物1の二酸は、その活性ジ−p−ニトロフェニルエステル(本明細書の化合物2)に変換される。かかる変換の例示的プロセスが以下のスキーム2に示され、さらに本明細書の実施例1に記載される:
【化10】



【0103】
[0111]ビス(α−アミノ酸)ジエステル(化合物3)のp−トルエンスルホン酸塩の合成は、当該技術分野において公知である。かかる合成は、例えばR.Katsarava et al.(J.Polym.Sci,Part A:Polym.Chem.(1999)37:391−407)に記載され、さらに以下のスキーム3及び本明細書の実施例1に記載される:
【化11】



【0104】
[0112]AA−BB型ポリ(デプシペプチド)(AABB−PDP)の合成は、溶液活性重縮合(APC)の条件下、既に報告されている手順(Katsarava et al.、1999 上記)を適応してN,N−ジメチルアセトアミド中、酸アクセプターとしてトリエチルアミンを使用して行った。以下のスキーム4に従い活性ジエステル(化合物2)をアミノ酸誘導モノマー−ビス−(α−アミノ酸)−a,ω−アルキレンジエステル(化合物3)のジ−p−トルエンスルホン酸塩−と反応させて一般構造式I.1の化合物を得た:
【化12】



【0105】
[0113]本発明が以下の実施例によりさらに説明される。これらの実施例は、本発明の説明を意図したもので、限定することは意図していない。
【0106】
[実施例1]
モノマー合成
A.O,O’−ジアシル−ビス−(グリコール酸)(化合物1)の合成
[0114]本明細書のスキーム1に従い、O,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)を調製する触媒及びHClアクセプターとしてのピリジンの存在下で、一般構造(1)の新規AABB_ポリデプシペプチド−O,O’−ジアシル−ビス−(グリコール酸)のための出発モノマーを、二酸塩化物を乾燥酢酸エチル中のグリコール酸と相互作用させることにより合成した。
【0107】
[0115]O,O’−アジポイル−ビス−(グリコール酸)の合成:(化合物1.1):15.82g(0.2mol)のグリコール酸を500mLの乾燥酢酸エチル中に溶解し、次に約400mLの溶媒を留去して、市販のグリコール酸中に存在した水を除去した。残留溶液に対して23.9g(0.1mol)の塩化アジポイルを添加して0°Cに冷却し、50mLの同じ溶媒中の16.3mL(0.2mol)のピリジン溶液を撹拌しながら滴下して添加した。ピリジン添加の完了後、反応混合液を室温でさらに2時間撹拌した。固形生成物を多孔質ガラスフィルタでろ別し、塩酸で酸性化した200mL、pH2〜3の水で洗浄した。ろ液は所望の生成物を多量に含んでいた。水性洗浄液から、それを各約100mLの3〜4回分量の酢酸エチルで抽出することにより、さらなる量の生成物を回収した。次にそれらの酢酸エチル部分量を加え合わせてNaSOで乾燥し、ろ過し、蒸発乾固すると、さらなる収量の目的とする生成物が得られた。粗O,O’−アジポイル−ビス(グリコール酸)(化合物1.1、R=(CH)の合計収率は70%であった。精製については、酢酸エチル/ヘキサン70/30(v/v)混合液から生成物を再結晶化した。精製生成物の収率は50〜55%、融点98〜100℃であった。酸価:計算値262、実測値262;元素分析C1014(262.21):計算値 C 45.81、H 5.38;実測値 C 45.67、H 5.12。
【0108】
[0116]化合物1.1のFTIRスペクトルの走査を図2に示す。1727cm−1における広いカルボニル吸収帯は、エステル及びCOOHカルボニルの双方に起因する可能性があった。H NMRスペクトルは(その走査は図3に示す)、この仮定される構造と一致するデータを提供した。
【0109】
[0117]O,O’−セバコイル−ビス−(グリコール酸)(化合物1.2、R=(CH)の合成:合成は、アジピン酸誘導体である上記の(化合物1.1)について用いたものと同様のプロセスを用いて行った。形成された固形廃生成物をろ別し、塩酸で酸性化したpH2〜3の水と、次に蒸留水とで洗浄し、50℃で減圧乾燥した。ろ液からはそれ以上の分量の生成物は得られなかった。(ジエステル−二酸(化合物1.2)は、より疎水性の高いセバシン酸ベースであり、水不溶性であって水で洗浄することができることに留意されたい)。
【0110】
[0118]粗O,O’−セバコイル−ビス−(グリコール酸)(化合物1.2)の収率は70%であった。酢酸エチル/ヘキサン70/30(v/v)混合液から生成物を再結晶化した。精製生成物の収率は50〜55%、融点121℃〜123℃であった。酸価:計算値352、実測値352;元素分析、C1422(314.32):計算値 C 52.83、H 6.97;実測値 C 52.67、H 7.12。化合物1.2(式中、R=(CH)のFTIRスペクトルは、1727cm−1(カルボキシルCO)及び1757cm−1(エステルCO)で2つのカルボニル吸収帯を示し、仮定した構造が確認された。
【0111】
B.O,O’−ジアシル−ビス−(グリコール酸)のジ−p−ニトロフェニルエステル(化合物2)の合成
[0119]本明細書のスキーム2に示されるプロセスを用いて化合物1の二酸を化合物2の活性ジ−p−ニトロフェニルエステルに変換した。
【0112】
[0120]O,O’−アジポイル−ビス−(グリコール酸)の活性ジエステル(化合物2.1、R=(CH)の合成:250mLの乾燥トルエン中に、26.2g(0.1モル)のO,O’−アジポイル−ビス−(グリコール酸)(化合物1.1)と、27.8g(0.2モル)のp−ニトロフェノールと、32.5mLのピリジンとを懸濁し、0〜5℃に冷却した。50mLの乾燥トルエン中の14.5g(0.2モル)の塩化チオニルの溶液を反応混合液に滴下して添加し、氷浴中で温度を5℃以下に保った。塩化チオニルを全て添加した後、氷浴を取り除き、混合液を室温でさらに2時間撹拌した。形成された白色の固形物をろ別し、酸性水(HCl、pH3〜4)で洗浄し、五酸化リンの存在下40℃〜45℃で真空乾燥した。得られた活性ジエステル(化合物2.1)を酢酸エチル/クロロベンゼン50/50(v/v)混合液から再結晶化すると、収率60%の生成物、融点=162℃〜164℃となった。元素分析:C222012についての計算値(504.4)、C 52.39、H 4.00、N 5.55;実測値:C 52.48、H 3.93、N 5.64。
【0113】
[0121]ジエステル(化合物2.1)のFTIRスペクトル(Nujol)から、グリコール酸とp−ニトロフェノールとの間の活性エステル結合を示す1774cm−1の吸収帯、及びアジピン酸とグリコール酸との間の規則性のエステル結合を示す1743cm−1の吸収帯が認められたことにより、仮定した構造が確認された(図4を参照)。化合物2.1のH NMRスペクトル(図5)もまた、この仮定した構造と一致した。
【0114】
[0122]活性ジエステル(化合物2.2(R=(CH)の合成:
【化13】



【0115】
[0123]この合成反応は、アジピン酸の活性誘導体(化合物2.1)の合成に用いたものと同様の手順を用いて行ったが、但し塩化チオニルを全て添加した後、反応混合液を周囲温度で0.5時間撹拌し、次に60℃で固形生成物が完全に溶解するまで撹拌した点は異なった。一晩冷蔵後、一晩で沈殿物が形成され、次にそれをろ別して酸性水(HC1、pH3〜4)で洗浄し、五酸化リンを使用して40℃〜45℃で真空乾燥した。粗活性エステル(化合物2.2)の収率は61%、融点75℃〜80℃であった。酢酸エチル/n−ヘキサン70/30(v/v)混合液から繰り返し(5回)再結晶化すると、融点が100℃〜101.5℃に上昇した。元素分析のデータから、活性ジエステル(化合物2.2)の構造が確認された:C262812についての計算値(560.4):C 55.71、H 5.04、N 5.00;実測値:C 55.58、H 5.23、N 5.14。
【0116】
[0124]得られた生成物、化合物2.2のFTIRスペクトルからも、仮定した構造が確認された−予想どおり、この化合物のスペクトルに2つの吸収帯が認められた:そのうち1735cm−1における一つはセバシン酸とグリコール酸との間のエステル結合を示し、1774cm−1におけるもう一つはグリコール酸とp−ニトロフェノールとの間の「活性」エステル結合を示す。
【0117】
[0125]クロロベンゼン中での化合物2.2の合成:最初にこの反応を上記のとおりトルエン中で行った。しかしながら、この反応にはクロロベンゼンがより良好な溶媒であることが分かった;これにより粗生成物の収率は最高75%まで増加し、融点は84℃〜90℃に上昇した(対するトルエン中での合成時は75℃〜80℃)。酢酸エチル/n−ヘキサン(70/30(v/v))混合液から生成物を2回再結晶化した後、望ましい融点である100℃〜101.5℃が実現された。
【0118】
C.ビス(α−アミノ酸)ジエステル(化合物3)のp−トルエンスルホン酸塩の合成
[0126]合成は、既に公表されている手順に従い(Katsarava R,et al. J.Polym.Sci,Part A:Polym.Chem.(1999)37:391−407)、本明細書のスキーム3に示されるとおり行った。
【0119】
[0127]Dean−Stark装置及びオーバーヘッドスターラーに備え付けられたフラスコ中の250mLのトルエンに、L−ロイシン(0.132mol)と、p−トルエンスルホン酸一水和物(0.132mol)と、1,6−ヘキサンジオール(0.06mol)とを入れた。不均質な反応混合液を約12時間、4.3mL(0.24mol)の水が放出されるまで加熱還流した。次に反応混合液を室温に冷却し、ろ過し、アセトンで洗浄し、メタノール/トルエン2:1(v/v)混合液から2回再結晶化した。収率並びに融点は、公表されているデータと一致した。
【0120】
D.ポリマー合成
[0128]AA−BB型ポリ(デプシペプチド)(AABB−PDP)の合成を、溶液活性重縮合(APC)の条件下、既に報告されている手順(Katsarava et al.、1999 上記)を適応してN,N−ジメチルアセトアミド中、酸アクセプターとしてトリエチルアミンを使用して行った。以下のスキーム4に従い活性ジエステル(化合物2)をアミノ酸誘導モノマー−ビス−(α−アミノ酸)−a,ω−アルキレンジエステル(化合物3)のジ−p−トルエンスルホン酸塩−と反応させて一般構造式I.1の化合物を得た。
【化14】



【0121】
[0129]高分子量AABB−PDPを、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)中での(化合物2)のジエステル(化合物3)との溶液活性重縮合により合成し、ジエステルは、L−ロイシン、L−フェニルアラニン及び脂肪族ジオール、具体的にはLeu−6、Leu−8、Leu−12、Phe−6及びPhe−8をベースとした。PDPのMは35,000〜46,000の範囲であった;M/Mは1.36〜1.46の範囲であった)。選択した試料に対するAABB−PDPの構造を、FTIR(図6)、H NMR(図7)及び13C NMR、並びに元素分析データにより確認した。
【0122】
[実施例2]
[0130]形成されたポリマーAABB−PDPが水中で加水分解を受けるかどうかを調べるため、一連の試験を行った。最初に、使用に選択したジアミンモノマー(化合物3)は、L−ロイシン及び1,12−ドデカンジオールをベースとする最も長い脂肪族鎖−Leu−12を伴うものであった。ワークアップ中、反応溶液の一部を沈殿させて水で洗浄し、乾燥した;別の一部はエタノール中に沈殿させてエタノールで洗浄し、乾燥した。第3の実験では、乾燥ポリマーを水中に48時間静置し、次に乾燥した。これらの方法により調製した様々なポリマーの分子量を、PS標準を使用した0.1N LiBr/DMF中のGPCにより推定した。これらの水中での加水分解試験の結果を、以下の表1にまとめる。
【0123】
【表1】



【0124】
[0131]水中での加水分解試験の結果から、水中で分離した試料#1はM=36,000Daを有し、エタノール中で分離した試料#2はM=46,000Daを有したことが示された。より低いMの試料#1は、試料#1をエタノールで洗浄した後除去された低分子量画分(試料#3b)の存在に起因し得る。エタノールによる洗浄後に残った高分子量試料#3aのMは、エタノール中でポリマーを分離した後に得られた試料#2と同じMを有した。その後水中に室温で48時間静置したとき、試料#2はその分子量及び多分散性を維持した(試料#4により示されるとおり)。これらの実験は、本発明のPDPが、それを室温の水と接触させた後、実質的な生分解が起こらなかったことを示しており、本発明のAABB−PDPが中性条件下に水中である程度安定していることを示している。この発見により、エタノール可溶性の本発明のポリマー(短鎖ロイシンベースのモノマー−Leu−6及びLeu−8を含有するAABB−PDP)の水中での分離が可能となった。含有フェニルアラニンベースのAABB−PDPはエタノール中で分離された。
【0125】
[0132]一般式(I)により表される合成AABB−PDPのM特性を以下の表2にまとめる。
【0126】
【表2】



本発明のAABB−PDP(選択した試料8−GA−Phe−6及び8−GA−Leu−12について)の構造をFTIRにより確認した(図6)。8−GA系列のAABB−PDPは、元素分析及びNMR分析に回した。表2に列挙される全てのポリマーが、良好な皮膜形成特性を示した。
【0127】
[0133]
本発明のAABB−PDPの物理化学的、機械的、及びインビトロ生分解特性の系統的試験は進行中である。
【0128】
[実施例3]
本発明のAABB−PDPの熱的特性
[0134]本発明のAABB−PDPの2つの選択試料について、図8A及び図8Bに示すとおり、N下加熱速度10℃/分でサーモグラムを実施した。試料4−GA−Leu−12のガラス転移温度(T)は8〜13℃の範囲内にある(2回の走査によるデータ)。これらの走査したポリマーに結晶相は認められなかった。50℃〜100℃の範囲に現れた非常に幅の広い吸熱(図8A)は、ジオール残基の長い疎水性1,12−ドデカメチレン鎖により形成された疎水性ドメインの融解に起因する可能性があった。それに対し、ポリマー4−GA−Phe−8のT(図8B)は16℃〜22℃の範囲内にあり(2回の走査のデータ)、4−GA−Leu−12のものと比べて若干高い。この結果は予想されたもので、1,8−オクタンジオール残基のより短いポリメチレン鎖の存在及び巨大鎖のより高い剛性、ひいてはPheベースPEAの一体としてのより高いTに起因し得る。領域40℃〜60℃における非常に微弱な広い吸熱は(図8B)、4−GA−Phe−8分子の極めて弱い疎水性相互作用に起因した可能性がある。
【0129】
[実施例4]
AABB−PDPのインビトロ生分解試験
[0135]本発明のAABB−PDPの生体内での非特異的生分解を、電位差滴定を用いて様々なPh値で評価した(図9)。この試験にはAABB−PDP 4−GA−Leu−12を使用し、規則性PEA 8−Leu−6(式I中、R=(CH、R=(CHCH(CH)、R=(CHであり得る)の加水分解速度と比較した。自動電位差滴定装置(Metrohm−842 Titrando)及び0.02N NaOH水溶液を使用してPh値7.4、8及び9で加水分解速度を測定し、それらの速度を、1分間に消費されたマイクロモル単位のNaOH(μmole/分)で評価した。これは各ポリマーにおいて1分間に開裂したエステル結合の分量に対応する。
【0130】
[0136]図9にまとめた結果から、予想されたとおり、アルカリ性pH(8及び9)でのPDP 4−GA−Leu−12の加水分解速度がPEA 8−Leu−6の加水分解速度より高いことが分かる。PDP及び関連する構造のPEAの非特異的(化学的)なリパーゼ触媒インビトロ加水分解についての系統的試験は、現在進行中である。
【0131】
[0137]かかる試験における予備段階の結果は、本発明のポリマー中にはグリコール酸残基により形成された分極したエステル結合が存在するため、非特異的化学的加水分解の速度が高いことを示している(予備段階の結果については以下を参照のこと)。この特性は、生体酵素(例えば、プロテアーゼ及びエステラーゼ)の濃度が無視できる程低い生体内部位に植え込まれたデバイスの生分解に重要であるものと考えられる。
【0132】
[0138]AABB−PDPのポリマー骨格におけるエステル結合の濃度が高いため、リパーゼ触媒生分解の速度は高いと予想される。この結果は、本発明のポリマーを用いて作製されたデバイスであって、リパーゼ及び関連酵素の濃度が酵素切断に最適な濃度より低い血流と接触する適用(例えば、動脈ステント)を対象とするデバイスの生体内での生分解を促進するものと予想される。
【0133】
[0139]本発明のAABB−PDPの生分解は、PEAの場合より速い速度で易消化性断片を形成するものと予想される。規則性PEAのポリマー骨格の切断(加水分解)後、最初の分解産物はジオール及びアミド結合を含むN,N’−ジアシル−ビス−α−アミノ酸(化合物1.VII)であり、別のクラスの酵素−アシラーゼ(そのアミド結合の触媒的切断は、アミド結合の化学的(非特異的)加水分解よりはるかに速い)の作用下で消化されて最終産物となり得る。それに対し、本明細書で化合物1.VIIIにより示されるとおりの本発明のAABB−PDPの生分解は、容易に開裂するエステル結合を含み、易消化性分解産物、すなわち、2モルのデプシペプチド(以下の化合物1.IX)及び1モルの二酸を形成する:
【化15】



従って、本発明のAABB−PDPは、規則性PEAと比べて消化性がより高く、且つより迅速に生分解されると考えられ得る。
【0134】
[0140]全ての刊行物、特許、及び特許文献は、それらが個々に参照により援用されたかのように、参照により本明細書に援用される。本発明は、様々な特定の好ましい実施形態及び技法に関連して記載されている。しかしながら、本発明の趣旨及び範囲内に留めながら多くの変更及び修正を加え得ることは理解されなければならない。
【0135】
[0141]本発明は上記の例に関連して記載されているが、修正及び変更が本発明の趣旨及び範囲内に包含されることは理解されるであろう。従って、本発明は以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般構造式(I)により表される化学式を有するAABB−ポリデプシペプチド(AABB−PDP)であって、
【化1】



式中、nは約5〜約150の範囲であり;
式中、少なくとも1個のRは、以下の式(III)のO,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)の残基から独立して選択され、式(III)中、RはH又はメチルであり、Rは独立して(C〜C12)アルキレン又は(C〜C12)アルケニレンであり、その他のRは、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、α,ω−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−(C〜C)アルカン、治療用二酸の飽和又は不飽和残基、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができ;
n個の各単位におけるRは、水素、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、(C〜C10)アリール(C〜C)アルキル、及び−(CHSCHからなる群から独立して選択され;及び
は、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、(C〜C)アルキルオキシ、(C〜C20)アルキレン、構造式(II)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環状断片、飽和又は不飽和治療用ジオール残基、及びそれらの組み合わせからなる群から独立して選択される;
【化2】



【化3】



AABB−PDPを含むか、
又は以下の構造式(IV)により表される化学式を有するAABB−PDPであって、
【化4】



式中、nは約5〜約150の範囲であり、mは約0.1〜0.9の範囲であり;pは約0.9〜0.1の範囲であり;
少なくとも1個のRは、以下の式(III)(式中、RはH又はメチルであり、Rは、(C〜C12)アルキレン及び(C〜C12)アルケニレンから独立して選択される)のO,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)の残基から独立して選択され、その他のRは、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、α,ω−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−(C〜C)アルカン、治療用二酸の飽和又は不飽和残基、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができ;
は、水素、(C〜C12)アルキル、(C〜C10)アリール又は保護基からなる群から独立して選択され;
m個の各モノマーにおけるRは、水素、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、(C〜C10)アリール(C〜C)アルキル、及び−(CHSCHからなる群から独立して選択され;
は、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、(C〜C)アルキルオキシ、(C〜C20)アルキレン、構造式(II)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環状断片、飽和又は不飽和の治療用ジオール残基及びそれらの組み合わせからなる群から独立して選択され;及び
は、(C〜C20)アルキル及び(C〜C20)アルケニルからなる群から独立して選択される、
AABB−PDPを含む、組成物。
【請求項2】
式(III)中、RがHである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式(III)中、RがCHである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
が、(CH、(CH、及び(CHからなる群から独立して選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
式(IV)中のRが、(C〜C)アルキル及び(C〜C)アルケニルからなる群から独立して選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも1個のRが、α,ω−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−(C〜C)アルカンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも1個のRが、治療用ジオールの飽和又は不飽和残基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
中に分散した少なくとも1つの生物活性剤をさらに含む前記組成物であって、生分解されると約1週間〜約6ヶ月の期間にわたり前記生物活性剤を放出する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
分子又はポリマー粒子の液状分散体の形態で投与するように構成される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記粒子が約10nm〜約1000μmの範囲の平均粒径を有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
創傷被覆材として構成される、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
植込み型の外科的デバイスとして、又は外科的デバイスの少なくとも表面の一部分上のコーティングとして構成される、請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
眼内インプラントとして構成される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記AABB−PDPが約20,000Da〜約80,000Daの範囲の平均分子量を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
構造式(III)
【化5】



(式中、RはH又は−CHであり、Rは、(C〜C12)アルキレン及び(C〜C12)アルケニレンから独立して選択されるアシルである)により表される化学式を有するO,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)の調製方法であって、
a)塩化水素アクセプター及び触媒として作用する塩基性有機溶媒中でアシルの酸二塩化物を形成するステップと、
b)前記溶媒の存在下で前記酸二塩化物を乾燥酢酸エチル中のグリコール酸又は乳酸と相互作用させて固形O,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)生成物を含む溶液を形成するステップと、
c)b)で形成された前記固形O,O’−ジアシル−ビス−(アルファヒドロキシ酸)生成物を前記溶液から回収するステップと、
を含む、方法。
【請求項16】
がHであり、且つRが(CH又は(CHである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
が−CHであり、且つRが(CH又は(CHである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
対象に生物学的薬剤を送達する方法であって、生物学的薬剤が中に分散した請求項1に記載の組成物を前記対象に投与するステップであって、それにより前記生物学的薬剤を前記対象に生体内送達するステップを含む、方法。
【請求項19】
前記組成物が分子又は注射用ポリマー粒子の液状分散体として構成され、且つ前記投与が注射による、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物が創傷被覆材として構成され、前記生物活性剤が創傷治癒を促進する、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が植込み型の外科的デバイスとして、又は外科的デバイスの少なくとも表面の一部分上のコーティングとして構成され、前記投与が外科的植え込みによる、請求項18に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物が眼内インプラントとして構成され、前記外科的植え込みが眼内に行われる、請求項12に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−500207(P2012−500207A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523149(P2011−523149)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【国際出願番号】PCT/US2009/053618
【国際公開番号】WO2010/019716
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(505323312)メディバス エルエルシー (12)
【Fターム(参考)】