説明

ADAM−TSプロテアーゼの活性を測定するためのチオペプトリドの使用

本発明は、ADAM−TSプロテアーゼの活性を測定するための基質としての、式R−(Xaa)n−Pro−X−Gly−S−Y−Z−Gly−(Xaa)m−R1(I)で示されるチオペプトリドの使用、およびADAM−TSプロテアーゼ調節因子、より詳しくは阻害剤を発現する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ADAM−TSプロテアーゼの活性を測定するための基質としての、式R−(Xaa)n−Pro−X−Gly−S−Y−Z−Gly−(Xaa)m−R1(I)で示されるチオペプトリド(thiopeptolide)の使用、およびADAM−TSプロテアーゼ調節因子、特に阻害剤を発現する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節軟骨マトリックスが無傷であることは、動物や人の体のあらゆる関節が機能するための決定的な必要条件である。関節軟骨が損傷すると、骨関節症(変形性関節症)やリウマチのような関節炎の病気が引き起こされ、これらは、罹患した動物またはヒトにおいて機能不全を引き起こし、最終的に動かなくなることを特徴とする。
【0003】
障害のあるマトリックスが分解することを特徴とするさらなる疾患の中に、多様な形態のがん、特に腫瘍の転移も含める必要がある。
【0004】
以前から、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が軟骨中のアグリカンおよびコラーゲンの分解に関与することが知られている。このようなマトリックスメタロプロテアーゼとしては、たとえばマトリキシン(matrixin)群が挙げられ、これはMMP−1、2等からMMP−16までのあらゆる既知のMMPを含む。さらなる群、すなわちADAM−TS−ファミリーのプロテアーゼ(Nagase,H.等(2003),Arthritis Research Therapy,5,94〜103)も同様に、組織マトリックスの分解に決定的に関与しており、それにより軟骨マトリックスへの障害が引き起こされる。これらのプロテアーゼ、特にADAM−TS1、ADAM−TS4およびADAM−TS5(「アグリカナーゼ」とも称される)の活性は、骨関節症、リウマチおよびがんのような障害のあるマトリックスの分解を特徴とする疾患の原因である。ADAM−TSは、特にプロテオグリカンを切断することができるが、その他のマトリックス成分、例えばヒアルロナンまたはコラーゲンも切断することができる。ADAM−TS1、4、5および11、加えてADAM−TS13のさらなる作用は、炎症性のプロセス、血管形成、細胞移動、および血液凝固または血液凝集において重要である(Apte,S.S.(2004),The International Journal of Biochemistry&Cell Biology,36,981〜985)。
【0005】
それゆえに、罹患する危険性がある組織またはすでに罹患した組織(例えば軟骨組織または血液)の疾患に関与するプロテアーゼの酵素活性を検出し得ることは、一方で医薬研究の重要な仕事である。しかしながら、他方で、一種の、複数種の、または全ての関連プロテアーゼを阻害することができる医薬を開発することも特に重要である。
【0006】
関与したプロテアーゼの酵素(タンパク質分解)活性は、関連プロテアーゼと、適切な高分子量のマトリックス成分(例えばプロテオグリカンまたはコラーゲン)とをインキュベートし、分解産物の形成を測定することによってインビトロで測定することができる。
【0007】
ヘテロジニアスな分解産物、すなわち例えばコラーゲンフラグメントやタンパク質フラグメントを単離し定量するために、特異的な切断部位の抗体認識やマススペクトロメトリーによる検査のような必要な手法をきちんと作成する様々な方法が当業者において利用可能である。
【0008】
これまで、例えば、天然アグリカンの球間ドメインにおける重要な構造要素を含む組換え型の基質を用いて、ADAM−TS4の活性を測定できると云われている。分子量72kDaの組換えアグリカンは、COS細胞で発現する。アグリカナーゼ活性の測定は、高分子量アグリカン分子の使用に加えて、さらなる精巧な工程を必要とし、例えば構造要素、すなわちCD5のシグナル配列、M1モノクローナル抗体測定のためのFLAGエピトープ、ヒトIgG1のヒンジ領域、上記の組換え基質のためのcDNA(そのベクターなどを含む)であり、EP0785274や、Hoerber,Chr.等(2000)Matrix Biology,19,533〜543でも詳細に記載されている。
【0009】
また、アグリカン分子のより短いフラグメントの使用も記載されている。WO00/05256では、これらのペプチドフラグメントは、20〜40個のアミノ酸のビルディングブロックからなる可能性があることが報告された。しかしながら、特に不利な点は、20個未満のアミノ酸しか含まないペプチドは、アグリカナーゼで変換できないことである。これは、すでに確認できている(実験の章を参照)。
【0010】
マトリキシンファミリーのプロテアーゼを測定するために、従来技術によれば、合成で容易に得ることができる低分子量の分子をプロテアーゼの基質として切断して、酵素(タンパク質分解)活性を測定することができ、ここにおいて、これらの基質の特定の性質のために、例えば切断により、通常は可視光または紫外線波長の範囲内の定量することができる光学的なシグナルが放出される。
【0011】
よく知られた例としては、(7−メトキシクマリン−4−イル)アセチル−Pro−Leu−Gly−Leu−3−(2’,4’−ジニトロ−フェニル)−L−2,3−ジアミノプロピオニル−Ala−Arg−NH2(ベイケム(Bachem),ハイデルベルグ,ドイツ)が挙げられ、これはKnight,C.G.等(1992)FEBS,296,263〜266に記載されており、特定のマトリックスメタロプロテイナーゼによって切断されるため、酵素活性を算出するのに用いることができる測定可能な蛍光シグナルを放出する。従って、(7−メトキシクマリン−4−イル)アセチル−Pro−Leu−Gly−Leu−3−(2’,4’−ジニトロフェニル)−L−2,3−ジアミノ−プロピオニル−Ala−Arg−NH2を、プロテアーゼMMP−3およびMMP−8を用いて変換可能であるかを確認することができる(実験の章を参照)。また、このタイプのその他多くの基質を、MMP−3、および、MMP−8で変換することも可能である。
【0012】
また、チオペプトリド類の物質由来のある種の基質は、コラゲナーゼ、および膜結合型のマトリックスメタロプロテイナーゼによって変換されることも記載されている(EP0149593およびUS2002/0142362を参照)。しかしながら、N末端からアグリカナーゼ切断部位までの16個のアミノ酸にトランケーションされたペプチドのアグリカナーゼによる切断はもはや起こらなくなる。
【0013】
また、いくつかの実験において、より短い鎖からなるペプチドの、たとえそれらが配列Glu−Alaを含む場合でも、ADAM−TSでは切断不可能であることも明らかにされた。それに対して、その他のプロテアーゼファミリーの一族の、例えばマトリキシンまたはカテプシンは、オリゴペプチドを切断できることが見出されている。
【0014】
オリゴペプチドは化学合成で容易に入手できるため、このような実験においてオリゴペプチドを使用することが特に望ましい。オリゴペプチドのさらなる利点は、個々のペプチドビルディングブロックを化学修飾できることであり、例えば、ペプチドの切断を分光分析(例えば比色分析)によって直接的または間接的に追跡できるような発色基に連結させることもできる。
【0015】
それに相当する手段で、阻害剤を添加する前に計測された関連プロテアーゼのタンパク質分解活性と、阻害剤を添加した後の活性とを比較することによって、酵素阻害剤または活性化剤の効果を容易に測定することも可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
それらの一例は、チオペプトリドの、R−Pro−X−Gly−S−Y−Z−Gly−R1(EP0149593)であり、これは脊椎動物のコラゲナーゼによって切断され、さらにアセチル−プロリル−ロイシル−グリシル−[2−メルカプト−4−メチル−ペンタノイル]−ロイシル−グリシル−エチルエステル(US2002/0142362)であり、これはある種のマトリキシンによって切断され、既知の方法(例えばDTNBとの反応)によって定量することができる遊離のSH基を形成する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、式(I)のR−(Xaa)n−Pro−X−Gly−S−Y−Z−Gly−(Xaa)m−R1で示されるチオペプトリドは、ADAM−TSプロテアーゼによって、特にADAM−TS1、ADAM−TS4、ADAM−TS5、ADAM−TS11および/またはADAM−TS13、とりわけADAM−TS1、ADAM−TS4またはADAM−TS5によって切断されるため、遊離のSH基を介して容易に検出することができることが今や見出された。これは、ADAM−TSが、16個未満のアミノ酸単位しか含まないペプチドでは切断できないという従来技術の報告からすれば、なおさら驚くべきことである。
【0018】
従って本発明の一形態は、式:
R−(Xaa)n−Pro−X−Gly−S−Y−Z−Gly−(Xaa)m−R1 (I)
[式中、
Rは、H、またはN保護基であり、好ましくはカルボキシルの基であり、特にC1〜C5−アルキルの、とりわけC1〜C3−アルキルのものであり、特に好ましくはアセチル基であり、
Xaaは、任意の天然に存在するアミノ酸であり、
n、mは、同一または異なって、0〜2415の整数、好ましくは0〜35の整数、特に0〜14の整数、とりわけ0〜11の整数であり、格別好ましくは0であり、
Xは、Leu、Ile、Phe、Val、Gln、Alaであり、
Zは、Leu、Ile、Phe、Val、Gln、Alaであり、
1は、末端のアミド、カルボキシルまたはエステル基、好ましくはC1〜C5−アルキルの、特にC1〜C3−アルキルのものであり、とりわけエチルエステルであり、
S−Yは、式
【化1】

(式中、R2は、天然に存在するアミノ酸の側鎖であり、特に、
−CH2CH(CH32
−CH(CH3)C25
−CH265
−CH(CH32、または
−CH3である)である]
で示されるチオペプトリドまたはその塩、ADAM−TSプロテアーゼの基質としての使用に関する。
【0019】
適切なN保護基は、通常、慣用のアミノ酸保護基のいずれのものであってよく、例えば、Fmoc(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)、Mtt(4−メチルトリチル)、Pmc(2,2,5,7,8−ペンタメチルクロマン−6−スルホニル)、tBu(t−ブチル)、Boc(t−ブチルオキシカルボニル)、Tos(トシル)、Mbzl(4−メチルベンジル)、Bom(ベンジルオキシメチル)、2−クロロ−Z(2−クロロベンジルオキシカルボニル)またはFor(ホルミル)が挙げられ、これらは、例えばベイケム配送サービス社(Bachem Distribution Services GmbH,ヴァイル・アム・ライン)から得ることができる。
【0020】
特に好ましい式(I)で示されるチオペプトリドは、
Xは、LeuまたはAlaであり、
Zは、Leu、AlaまたはPheであり、そして
2は、−CH2CH(CH32であるものである。
【0021】
その他の好ましい実施態様において、(Xaa)nおよび/または(Xaa)mは、配列番号2に示されるアミノ酸配列に相当し、これはヒトアグリカンのアミノ酸配列を示す。
【0022】
さらなる好ましいチオペプトリドは、以下の構造:
Ac−Pro−Leu−Gly−S−Y−Leu−Gly−OC2H5
(式中、R2は、CH2CH(CH32であり、Acは、一般的に、アセチル基である)、または、
Ac−Pro−Leu−Gly−S−Y−Phe−Gly−OC2H5
(式中、R2は、CH2CH(CH32である)、または、
Ac−Pro−Ala−Gly−S−Y−Phe−Gly−OC2H5
(式中、R2は、CH2CH(CH32である)、または、
Ac−Pro−Ala−Gly−S−Y−Ala−Gly−OC2H5
(式中、R2は、CH2CH(CH32である)
を有する。
【0023】
本発明において、あらゆる既知のADAM−TSプロテアーゼが適切であり、例えばADAM−TSプロテアーゼ1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19および/または20である。好ましくは、ADAM−TSプロテアーゼ1、4、5、11および/または13であり、特にADAM−TSプロテアーゼ1、ADAM−TSプロテアーゼ4またはADAM−TSプロテアーゼ5である。
【0024】
本発明に係る使用は、ADAM−TSプロテアーゼの活性を測定するため、ADAM−TSプロテアーゼを精製するため、ADAM−TSプロテアーゼをコードするヌクレオチド配列のファンクショナルクローニングのため、ADAM−TSプロテアーゼ調節因子、特にADAM−TSプロテアーゼ阻害剤を発現するため、または損傷した組織マトリックスに関連する病気、特に変形性関節症、リウマチ、がん、炎症、血管形成、細胞移動、血液凝固および/もしくは血液凝集、とりわけ変形性関節症、リウマチもしくはがんの、発病または進行を観察するために、特に適している。これら全ての方法において、例えばADAM−TSプロテアーゼの酵素的精製の間に、またはADAM−TSプロテアーゼをコードする遺伝子を一般的に既知の発現ベクターにクローニングした後に、最終的にADAM−TSプロテアーゼの活性を、本明細書で記載したチオペプトリドを用いて計測する。
【0025】
それゆえに、本発明はまた、ADAM−TSプロテアーゼの活性を定量する方法であって、本方法は次:
(a)ADAM−TSプロテアーゼと、式Iで示される、または上記で詳述されたチオペプトリド基質とをインキュベートすること、および
(b)ADAM−TSプロテアーゼの活性計測または測定を行うこと、
の工程を含む方法に関する。
【0026】
適切で好ましいADAM−TSプロテアーゼは、上記で詳述されたADAM−TSプロテアーゼである。好ましくは、活性計測または測定は、分光測光法で行われる。
【0027】
分光測光法による測定において、通常、検出試薬が用いられるが、この場合チオール基の検出試薬が用いられる。この点について有利であることが証明されているものは、4,4’−ジチオジピリジン、またはエルマン試薬としても知られている特に5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)である。けれども、その他のあらゆる適切なチオール反応性試薬も使用可能であり、ヨードアセトアミド、例えば5−ヨードアセトアミドフルオレセイン(5−IAF)、マレイミド、例えばフルオレセイン−5−マレイミド、またはその他のチオール−反応性試薬、例えばN,N’−ジダンシル−L−シスチンもしくは5−(ブロモメチル)フルオレセインなどである。これらのタイプの試薬は、例えばインビトロジェン社(Invitrogen GmbH,カールスルーエ)から入手することができる。
【0028】
前記チオペプトリドを用いて、適切な分析系で、特に簡単にADAM−TSプロテアーゼ調節因子を発現することが可能である。調節因子は、本発明によれば、特にADAM−TSプロテアーゼ活性化剤及び特にADAM−TSプロテアーゼ阻害剤を意味する。
【0029】
それゆえに、本発明のさらなる形態は、ADAM−TSプロテアーゼ調節因子、特にADAM−TSプロテアーゼ阻害剤を発現する方法であって、該方法が以下:
(a)ADAM−TSプロテアーゼと、式Iで示される、または上記で詳述されるチオペプトリド基質とを、試験化合物の存在下でインキュベートすること、および
(b)ADAM−TSプロテアーゼの活性に対する該試験化合物の影響を計測または測定すること、
の工程を含む、上記方法に関する。
【0030】
適切で好ましいADAM−TSプロテアーゼは、上記で詳述されたADAM−TSプロテアーゼである。好ましくは、活性計測または測定は、上記で詳述されているように分光測光法で行われる。その結果、上述の化合物はチオール基の検出試薬として適切であり、特に4,4’−ジチオジピリジンまたは5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)が適切である。
【0031】
試験化合物は、化学的な、生化学的に、天然に存在するまたは合成の、高または低分子量の、考えられるあらゆる化合物が可能である。試験化合物は、化学物質ライブラリーの形態で利用可能にするのが特に有利であり、このようなライブラリーから、本発明の方法を用いて、望ましい化合物、例えば試験されるADAM−TSプロテアーゼの阻害剤を発現することができる。
【0032】
さらなる好ましい実施態様において、本発明の方法は、所望の化合物の発現および単離を特に容易にするアレイ上で行われる。同様に、本発明の方法を実施するためにロボットを使用することによって、さらに便利になり、かつスループット性が向上するため、特に有利である。必要に応じて小型のプレートの凹所(「ウェル」)と組み合せたマイクロフルイディック技術を用いて、分析系を小型化し、さらに自動化することも可能であり、その結果これは特に有利である。本方法は、一般的に、ADAM−TSプロテアーゼ調節因子、特にADAM−TSプロテアーゼ阻害剤に関するハイスループットスクリーニングで用いられる。
【0033】
本発明の方法に基づく本発明のその他の形態は、医薬の製造であって、これは以下:
(a)上述のADAM−TS調節因子、特に阻害剤を発現するための方法を行うこと、
(b)工程(a)において適切であることが見出された試験物質を単離すること、および
(c)工程(b)で単離した試験物質を、1種またはそれ以上の製薬上許容できるキャリアーまたはアジュバントを用いて製剤化すること、
の工程を含む、上記製造に関する。
【0034】
本発明の方法を用いて見出された医薬的に活性な化合物、好ましくは阻害剤は、損傷した組織マトリックスに関連する疾患、特に変形性関節症、リウマチ、がん、炎症、血管形成、細胞移動、血液凝固および/または血液凝集、とりわけ変形性関節症、リウマチまたはがんを治療するのに特に適している。
【0035】
製薬上許容できるキャリアーまたはアジュバントとしては、医薬製剤に一般的に用いられるあらゆる既知の物質が適切である。
【0036】
キャリアーまたはアジュバントの例としては、投与様式に応じて、塩化ナトリウム溶液、具体的には生理食塩液(0.9%濃度の塩化ナトリウム溶液)、脱塩水、安定剤、例えばプロテアーゼ阻害剤もしくはヌクレアーゼ阻害剤、好ましくはアプロチニン、ε−アミノカプロン酸もしくはペプスタチンA、またはマスキング剤、例えばEDTA、ゲル調合物、例えば白色ワセリン、低粘度パラフィンおよび/もしくは黄蝋が挙げられる。
【0037】
さらなる適切な添加剤は、例えば洗浄剤、例えばトリトンX−100(Triton X−100)またはデオキシコール酸ナトリウムであり、さらにポリオール、例えばポリエチレングリコールもしくはグリセロール、糖類、例えばスクロースもしくはグルコース、両性イオン性化合物、例えばアミノ酸、例えばグリシン、もしくは特に、タウリンもしくはベタイン、および/またはタンパク質、例えばウシ血清アルブミンもしくはヒト血清アルブミンも挙げられる。特に好ましくは、洗浄剤、ポリオール、および/または両性イオン性化合物である。
【0038】
好ましくは、生理学的な緩衝溶液は、約6.0〜8.0のpHを有し、特に約6.8〜7.8のpHを有し、とりわけ約7.4のpHを有し、および/または約200〜400ミリオスモル/リットルの容量オスモル濃度、好ましくは約290〜310ミリオスモル/リットルの容量オスモル濃度を有する。医薬のpHは、一般的に、適切な有機または無機緩衝液、例えば好ましくはリン酸緩衝液、トリス緩衝液(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、HEPES緩衝液([4−(2−ヒドロキシ−エチル)ピペラジノ]メタンスルホン酸)またはMOPS緩衝液(3−モルホリノ−1−プロパンスルホン酸)を用いて調整される。一般的に、適切な緩衝液の選択は、所望の緩衝液のモル濃度に応じてなされる。注射および注入用の溶液としては、例えばリン酸緩衝液が適切である。
【0039】
本発明のさらなる形態はキットであり、本キットは、式Iで示される、または上記で詳述された本発明のチオペプトリド基質、および上述のようなADAM−TSプロテアーゼに基づき、必要に応じて、1またはそれ以上の緩衝液、例えばTNCB緩衝液を含む(実施例を参照)。緩衝液は、安定化するか、または本発明の方法を行うための反応媒質としての機能を果す。好ましくは、本キットは、チオール基の検出試薬をさらに含み、例えば少なくとも1種の上述の検出試薬、特に4,4’−ジチオジピリジンおよび/または5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)をさらに含む。本キットのさらなる構成要素は、本発明の方法、特に活性分析を行うための使用に関する説明書であってもよい。
【0040】
以下の記述と実施例は、本発明を詳細に説明することを目的とし、本発明をそれらに制限するためではない:
配列表
配列番号1は、式(I)で示されるチオペプトリドに相当する。
配列番号2は、アグリカンのコアタンパク質前駆体(軟骨−特異的なプロテオグリカンのコアタンパク質、CSPCPまたはコンドロイチン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質1)のアミノ酸配列を示す。
【実施例】
【0041】
実施例1(比較例)
分析条件
ヒト組換えMMP−3およびMMP−8タンパク質、MMP−3cdおよびMMP−8cdの触媒ドメインを、例えばバイオモル・インターナショナルL.P.(Biomol International L.P.,ペンシルベニア州,米国)から購入した(それぞれカタログ番号SE−109およびSE−255)。同様に、ADAM−TS1およびADAM−TS4プロテアーゼのトランケーションされた形態も、例えばインヴィテック・バイオテクノロジー&バイオデザイン社(Invitek,Gesellschaft fur Biotechnik&Biodesign mbH,ベルリン,ドイツ)から購入することができた(それぞれカタログ番号30400402および30400102)。
【0042】
緩衝液および溶液の調製
TNCB緩衝液
100mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(HClでpH7.5に調整)
100mMのNaCl
10mMのCaCl2・2H2
0.015%のBrij35。
【0043】
基質溶液:
DMSO中10mMの基質(表を参照)。
使用直前に、基質ストック溶液(2μL)を、H2O(130μL)で希釈した。
【0044】
酵素溶液
MMP−3cd(2.3μg/mL)、MMP−8cd(0.6μg/mL)、ADAM−TS−1(2.3μg/mL)およびADAM−TS−4(3.3μg/mL)を、TNCB緩衝液で希釈した。
【0045】
分析手順
酵素溶液(10μL)をH2O(10μL)と混合し、基質溶液(10μL)を添加することによって反応を開始させた。
【0046】
蛍光分析
テカン(TECAN)のスペクトラフルオロ・プラス(Spectrafluor Plus)蛍光装置で蛍光の励起/発光を測定した(表を参照)。これは、それぞれの場合ごとに5分間の蛍光測定を必要とした。
【0047】
【表1】

【0048】
予想通りに、かつ最先端の技術に従っても、ADAM−TSはMMP基質を変換しなかった。
【0049】
実施例2
緩衝液および溶液の調製
TNCB緩衝液(実施例1を参照)
酵素溶液:
ADAM−TS(インヴィテック・バイオテクノロジー&バイオデザイン社,ベルリン,ドイツ)
ADAM−TS−1(5μg)を2200μLで希釈し、ADAM−TS−4(5μg)を、TNCB緩衝液(600μl)で希釈した。
【0050】
基質溶液
1)DTNB溶液(5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸):
DMSO中の40mMのストック溶液を調製した:
その後、DTNBストック溶液(27.5μL)を、水(522μL)で希釈した。
2)チオペプトリド溶液:(ベイケム配送サービス社,ヴァイル・アム・ライン,ドイツ):
DMSO中の100mMのストック溶液を調製した。使用するために、チオペプトリドストック溶液(55μL)をTNCB緩衝液(500μL)で希釈した。使用直前に、DTNB(550μl)を、チオペプトリド(550μl)と混合した。
【0051】
分析手順
測定は、96−マルチウェルプレート(プレートの半分の領域、平底、透明、ポリスチレン製、番号3695)(コーニング・コースター(Corning costar,アクトン,米国))で行われた。
酵素溶液(10μL)とH2O(10μL)を混合し、基質溶液(10μL)を添加することによって反応を開始させた。
【0052】
比色分析
マイクロタイタープレート光度計:モレキュラー・デバイス(Molecular Devices,サニーベール,米国)のスペクトラマックス190(SpectraMax 190)。415nmの波長で5分間、吸収を観察した。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
化合物1の構造式
【化2】

【0056】
化合物2の構造式(比較例)
【化3】

【0057】
化合物2は、ADAM−TSで変換されなかった。しかしながら、驚くべきことに、化合物1は、ADAM−TSで変換された。
【0058】
【化4】

【0059】
【化5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
R−(Xaa)n−Pro−X−Gly−S−Y−Z−Gly−(Xaa)m−R1 (I)
[式中、
Rは、H、またはN保護基であり、好ましくはカルボキシルの基であり、特にC1〜C5−アルキルの、とりわけC1〜C3−アルキルのものであり、特に好ましくはアセチル基であり、
Xaaは、任意のアミノ酸であり、
n、mは、同一または異なって、0〜2415の整数であり、好ましくは0〜35の整数、特に0〜14の整数、とりわけ0〜11の整数であり、格別に好ましくは0であり、
Xは、Leu、Ile、Phe、Val、Gln、Alaであり、
Zは、Leu、Ile、Phe、Val、Gln、Alaであり、
1は、末端のアミド、カルボキシルまたはエステル基、好ましくはC1〜C5−アルキルの、特にC1〜C3−アルキルのものであり、とりわけエチルエステルであり、
S−Yは、式:
【化1】

(式中、R2は、天然に存在するアミノ酸の側鎖であり、特に、
−CH2CH(CH32
−CH(CH3)C25
−CH265
−CH(CH32、または
−CH3である)である]
で示されるチオペプトリドまたはその塩の、ADAM−TSプロテアーゼの基質としての使用。
【請求項2】
Xは、LeuまたはAlaであり、Zは、Leu、AlaまたはPheであり、R2は、−CH2CH(CH32であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
(Xaa)nおよび/または(Xaa)mは、配列番号2に示されるアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
チオペプトリドは、以下の構造:
Ac−Pro−Leu−Gly−S−Y−Leu−Gly−OC2H5
(式中、R2は、CH2CH(CH32であり、Acはアセチル基である)
を有することを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
チオペプトリドは、以下の構造:
Ac−Pro−Leu−Gly−S−Y−Phe−Gly−OC2H5
(式中、R2は、CH2CH(CH32であり、Acはアセチル基である)
を有することを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
チオペプトリドは、以下の構造:
Ac−Pro−Ala−Gly−S−Y−Phe−Gly−OC2H5
(式中、R2は、CH2CH(CH32であり、Acはアセチル基である)
を有することを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
チオペプトリドは、以下の構造:
Ac−Pro−Ala−Gly−S−Y−Ala−Gly−OC2H5
(式中、R2は、CH2CH(CH32であり、Acはアセチル基である)
を有することを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
ADAM−TSプロテアーゼは、ADAM−TSプロテアーゼ1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19および/または20であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
ADAM−TSプロテアーゼは、ADAM−TSプロテアーゼ1、4、5、11および/または13であり、好ましくはADAM−TSプロテアーゼ1、ADAM−TSプロテアーゼ4、またはADAM−TSプロテアーゼ5であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
ADAM−TSプロテアーゼの活性を測定するための、ADAM−TSプロテアーゼを精製するための、ADAM−TSプロテアーゼをコードするヌクレオチド配列のファンクショナルクローニングのための、ADAM−TSプロテアーゼ調節因子、特にADAM−TSプロテアーゼ阻害剤を発見するための、または損傷した組織マトリックスに関連する病気、特に変形性関節症、リウマチ、がん、炎症、血管形成、細胞移動、血液凝固および/もしくは血液凝集、とりわけ変形性関節症、リウマチもしくはがんの、発病または進行を観察するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
方法が、以下:
(a)ADAM−TSプロテアーゼと、請求項1〜7のいずれか一項に記載の式Iで示されるチオペプトリド基質とをインキュベートすること、および
(b)ADAM−TSプロテアーゼの活性計測または測定を行うこと、
の工程を含むことを特徴とする、ADAM−TSプロテアーゼの活性を定量する方法。
【請求項12】
ADAM−TSプロテアーゼは、ADAM−TSプロテアーゼ1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19および/または20であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ADAM−TSプロテアーゼは、ADAM−TSプロテアーゼ1、4、5、11および/または13であり、好ましくはADAM−TSプロテアーゼ1、ADAM−TSプロテアーゼ4、またはADAM−TSプロテアーゼ5であることを特徴とする、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
ADAM−TSプロテアーゼの活性を、分光測光法によって計測または測定することを特徴とする、請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ADAM−TSプロテアーゼを、チオール基の検出試薬の存在下で、好ましくはヨードアセトアミド、特に5−ヨードアセトアミドフルオレセイン(5−IAF)、マレイミド、特にフルオレセイン−5−マレイミド、またはN,N’−ジダンシル−L−シスチン、5−(ブロモメチル)フルオレセイン、もしくは特に4,4’−ジチオジピリジンもしくは5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)の存在下で、計測または測定することを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ADAM−TSプロテアーゼ調節因子、特にADAM−TSプロテアーゼ阻害剤を発現する方法であって、該方法が以下:
(a)ADAM−TSプロテアーゼと、請求項1〜7のいずれか一項に記載の式Iで示されるチオペプトリド基質とを、試験化合物の存在下でインキュベートすること、および
(b)ADAM−TSプロテアーゼの活性に対する該試験化合物の影響を計測または測定すること、
を含むことを特徴とする、上記方法。
【請求項17】
ADAM−TSプロテアーゼは、ADAM−TSプロテアーゼ1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19および/または20であることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ADAM−TSプロテアーゼは、ADAM−TSプロテアーゼ1、4、5、11および/または13であり、好ましくはADAM−TSプロテアーゼ1、ADAM−TSプロテアーゼ4、またはADAM−TSプロテアーゼ5であることを特徴とする、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
ADAM−TSプロテアーゼの活性を、分光測光法によって計測または測定することを特徴とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ADAM−TSプロテアーゼを、チオール基の検出試薬の存在下で、好ましくはヨードアセトアミド、特に5−ヨードアセトアミドフルオレセイン(5−IAF)、マレイミド、特にフルオレセイン−5−マレイミド、またはN,N’−ジダンシル−L−シスチン、5−(ブロモメチル)フルオレセイン、もしくは特に4,4’−ジチオジピリジンもしくは5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)の存在下で、計測または測定することを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
試験化合物が、化学物質ライブラリーの形態で利用可能にすることを特徴とする、請求項16〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
方法を、アレイ上で行うことを特徴とする、請求項16〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
方法を、ロボットによって行うことを特徴とする、請求項16〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
方法を、マイクロフルイディック技術を用いて行うことを特徴とする、請求項16〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
方法は、ADAM−TSプロテアーゼ調節因子、特にADAM−TSプロテアーゼ阻害剤を得るためのハイスループットスクリーニングであることを特徴とする、請求項16〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
損傷した組織マトリックスに関連する病気、特に変形性関節症、リウマチ、がん、炎症、血管形成、細胞移動、血液凝固および/または血液凝集、特に変形性関節症、リウマチ、またはがんを治療するための医薬の製造方法であって、該方法が以下:
(a)請求項16〜25のいずれか一項に記載の方法を行うこと、
(b)工程(a)において適切であることが見出された試験物質を単離すること、および
(c)工程(b)で単離した試験物質を、1種またはそれ以上の製薬上許容できるキャリアーまたはアジュバントを用いて製剤化すること、
の工程を含むことを特徴とする、上記方法。
【請求項27】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の式Iで示されるチオペプトリド基質、ADAM−TSプロテアーゼ、および必要に応じて1またはそれ以上の緩衝液を含むキット。
【請求項28】
ADAM−TSプロテアーゼは、ADAM−TSプロテアーゼ1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19および/または20であることを特徴とする、請求項27に記載のキット。
【請求項29】
ADAM−TSプロテアーゼは、ADAM−TSプロテアーゼ1、4、5、11および/または13であり、好ましくはADAM−TSプロテアーゼ1、ADAM−TSプロテアーゼ4、またはADAM−TSプロテアーゼ5であることを特徴とする、請求項27または28に記載のキット。
【請求項30】
少なくとも1種のチオール基の検出試薬、好ましくはヨードアセトアミド、特に5−ヨードアセトアミドフルオレセイン(5−IAF)、マレイミド、特にフルオレセイン−5−マレイミド、またはN,N’−ジダンシル−L−シスチン、5−(ブロモメチル)フルオレセイン、もしくは特に4,4’−ジチオジピリジンもしくは5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)をさらに含むことを特徴とする、請求項27〜29のいずれか一項に記載のキット。

【公表番号】特表2008−543273(P2008−543273A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554503(P2007−554503)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【国際出願番号】PCT/EP2006/001184
【国際公開番号】WO2006/092203
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(399050909)サノフィ−アベンティス (225)
【Fターム(参考)】