ALCパネル及びそのアンカー金具
【課題】 アンカー金具の引抜き強さを高める。また、アンカー金具の剛性を高め、コストを低減する
【解決手段】 補強鉄筋の複数本の鉄筋4,4に溶接固定されて該補強鉄筋とともにALCパネル1に埋設され、該ALCパネル1の外部から螺合部材200が螺合されるALCパネルのアンカー金具10において、螺合部材200が螺合される筒状部11と、複数本の鉄筋4,4に溶接固定されるプレート部14とが、筒状部11の基端からみた全周囲でプレート部14へ向けて斜めに下る斜面部16を介して連結されている。
【解決手段】 補強鉄筋の複数本の鉄筋4,4に溶接固定されて該補強鉄筋とともにALCパネル1に埋設され、該ALCパネル1の外部から螺合部材200が螺合されるALCパネルのアンカー金具10において、螺合部材200が螺合される筒状部11と、複数本の鉄筋4,4に溶接固定されるプレート部14とが、筒状部11の基端からみた全周囲でプレート部14へ向けて斜めに下る斜面部16を介して連結されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ALCパネル(軽量気泡コンクリートパネル)及びそのアンカー金具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜6には、外部から螺合部材が螺合する筒状部が、プレート部に直接立設されてなるALCパネルのアンカー金具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−199941号公報
【特許文献2】特開平1−22004号公報
【特許文献3】特開平1−22005号公報
【特許文献4】特開平1−234210号公報
【特許文献5】特開平4−62801号公報
【特許文献6】特開2000−64433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のアンカー金具は、それを埋設したALCパネルからの引抜き強さがさほど高くないという問題があった。この引抜き強さを高めるには、プレート部を大型化したり、厚肉化したりすることが有効であるが、コストが上がることになる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、次の手段(1)(2)をとったものである。
(1)補強鉄筋の複数本の鉄筋に溶接固定されて該補強鉄筋とともにALCパネルに埋設され、該ALCパネルの外部から螺合部材が螺合されるALCパネルのアンカー金具において、螺合部材が螺合される筒状部と、複数本の鉄筋に溶接固定されるプレート部とが、筒状部の基端からみた全周囲でプレート部へ向けて斜めに下る斜面部により連結されていることを特徴とする。
【0006】
前記斜面部の面積が1600mm2 以上であり、かつ、斜面部の裾野が隣接する2本の鉄筋の間に収まるとともに、斜面部のプレート部に対する傾斜角度が6〜45度であり、前記プレート部が少なくとも前記2本の鉄筋に溶接されるものであることが好ましい。斜面部の面積が1600mm2 未満であると、引抜き強さを高める効果が少なくなる。斜面部の面積が2000mm2 以上であると、より好ましい。一方、斜面部の裾野が大きすぎて、隣接する2本の鉄筋の間に収まらないと、アンカー金具の鉄筋への固定が難しくなる。斜面部のプレート部に対する傾斜角度が6度未満或いは45度超であると、引抜き強さを高める効果が少なくなる。プレート部が少なくとも前記2本の鉄筋に溶接されるものであれば、引抜き強さが高くなる。
【0007】
前記斜面部の裾野の平面形状は、特に限定されないが、円形、楕円形、四角形又は三角形を例示することができる。これが円形又は楕円形の場合、斜面部は円錐状又は楕円錐状となる。これが四角形又は三角形の場合、斜面部は四角錐状又は三角錐状とすることができる。
【0008】
前記プレート部と斜面部とが、鋼板のプレス成形により一体形成されていることが好ましい。剛性を高めることができ、また、コストを低減できるからである。但し、斜面部をプレート部とは別体形成し、斜面部をプレート部に溶接等により固定したものでもよい。
【0009】
前記プレート部及び斜面部の板厚は1.6〜4.0mmであることが好ましい。剛性確保とコスト低減とを両立できるからである。但し、斜面部を別体形成する場合には、斜面部の反筒状部側の面は傾斜している必要はなく、プレート部に載せて固定すべくプレート部と平行に形成することができる。
【0010】
(2)上記(1)又は(1)以降で説明した態様のアンカー金具が、そのプレート部において補強鉄筋の少なくとも2本の鉄筋に溶接固定されて、該補強鉄筋とともに埋設されているALCパネル。
【発明の効果】
【0011】
請求項1〜6に係る発明によれば、斜面部が、アンカー金具にかかる引抜き荷重をALC母材の広い範囲に分散させるとともに、アンカー金具の剛性を高めるため、アンカー金具の引抜き強さを高めることができる。
上記効果に加え、特に請求項4又は5に係る発明によれば、プレート部と斜面部とが鋼板のプレス成形により一体形成されていることにより、剛性を高めることができ、また、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1,2のアンカー金具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図2】実施例1,2のアンカー金具を埋設したALCパネルを示し、(a)は断面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図3】比較例1,2のアンカー金具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図4】比較例1,2のアンカー金具を埋設したALCパネルを示し、(a)は断面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図5】実施例3,4のアンカー金具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図6】実施例3,4アンカー金具を埋設したALCパネルを示し、(a)は断面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図7】比較例3,4i,4iiのアンカー金具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図8】比較例3,4i,4iiのアンカー金具を埋設したALCパネルを示し、(a)は断面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図9】実施例5のアンカー金具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図10】実施例5のアンカー金具を埋設したALCパネルを示し、(a)は断面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図11】実施例6のアンカー金具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図12】実施例6のアンカー金具を埋設したALCパネルを示し、(a)は断面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図13】実施例7のアンカー金具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図14】実施例7のアンカー金具を埋設したALCパネルを示し、(a)は断面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図15】上記ALCパネルの全体を示し、(a)は側面図、(b)は引張側配筋図、(c)は圧縮側配筋図である。
【図16】上記ALCパネルの平面図である。
【図17】上記ALCパネルのアンカー引抜き試験を示し、(a)は試験の概要を示す斜視図、(b)は実施例における荷重の作用を示す断面図、(c)は比較例における荷重の作用を示す断面図である。
【図18】アンカー金具の傾斜部の変更例(主筋間隔80mmの場合)を示す平面図及び正面図である。
【図19】アンカー金具の傾斜部の変更例(主筋間隔80mmの場合)を示す平面図及び正面図である。
【図20】アンカー金具の傾斜部の変更例(主筋間隔100mmの場合)を示す平面図及び正面図である。
【図21】アンカー金具の傾斜部の変更例(主筋間隔100mmの場合)を示す平面図及び正面図である。
【図22】アンカー金具の傾斜部の変更例(裾野の形状)を示す平面図である。
【図23】アンカー金具の傾斜部の変更例(傾斜線)を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
複数本の鉄筋に溶接固定されて該鉄筋とともにALCパネルに埋設され、該ALCパネルの外部から螺合部材が螺合されるALCパネルのアンカー金具において、螺合部材が螺合される筒状部と、複数本の鉄筋に溶接固定されるプレート部とが、筒状部の基端からみた全周囲でプレート部へ向けて斜めに下る斜面部を介して連結されてなるものである。
【実施例】
【0014】
[実施例及び比較例のアンカー金具]
図1及び図2に示す実施例1のアンカー金具10は、外部から螺合部材200(図2)が螺合される筒状部11と、複数本の補強鉄筋に溶接固定されるプレート部14とが、筒状部11の基端からみた全周囲部位でプレート部14へ向けて斜めに下る斜面部16を介して連結されてなるものである。
筒状部11は、長さ52mm、外直径19.1mm、筒厚1.6mmの鋼管12と、長さ10mm、M12のナット13とが溶接連結されてなる、長さ62mmのものである。但し、後述する斜面部16の高さ8mmが加わるため、プレート部14の筒状部側の面からナット13の先端までの高さは70mmである。
プレート部14は、厚さ2.3mmの鋼板のプレス成形により四隅が斜めになった略ひし形に打ち抜かれてなる、上下高さ80mm、左右長さ300mm、厚さ2.3mmのものであり、次の斜面部16を除く部位である。
斜面部16は、前記厚さ2.3mmの鋼板のプレス成形により、プレート部14の中心部位に筒状部側へ張出し成形されて一体形成されたものであり、高さ8mm、頂部の直径28mm、裾野部の直径62mmの円錐状の斜面部(筒状部側の面)である。斜面部16の面積は、約2650mm2 である。張出し成形によって、斜面部16の厚さは2.3mmよりも若干薄い。
また、頂部内には、平坦な取付部18が形成されており、直接的にはこの取付部18に筒状部11の鋼管12の基端が溶接固定されることにより、筒状部11がプレート部14の筒状部11側の面に対して直角をなすように立設されている。
アンカー金具10は、防錆のためにメッキ処理されるが、そのメッキ液が筒状部11内に出入りしやすいように、取付部18には直径6mm程度の孔18aが形成されている。そして、筒状部11からメッキ液を抜いた後には、この孔18aと、ナット13の孔とを塞ぐように発泡ゴム製の蓋体19が接着されている。
【0015】
同じく図1及び図2に示す実施例2のアンカー金具10は、プレス成形する鋼板の厚さが3.2mmであり、よってプレート部14の厚さが3.2mmであり、斜面部16の厚さが3.2mmより若干薄い点においてのみ実施例1と相違し、その他は実施例1と共通するものである。
【0016】
図3及び図4に示す比較例1のアンカー金具110は、螺合部材が螺合される筒状部111と、複数本の補強鉄筋に溶接固定されるプレート部114とが、直接連結されてなるものである。
筒状部111は、長さ60mm、外直径19.1mm、筒厚1.6mmの鋼管112と、長さ10mm、M12のナット113とが溶接連結されてなる、長さ70mmのものである。
プレート部114は、厚さ2.3mmの鋼板のプレス成形により四隅が斜めになった略ひし形に打ち抜かれてなる、左右長さ300mm、上下高さ80mm、厚さ2.3mmのものである。
このプレート部114の中心に、筒状部111の鋼管112の基端が溶接固定されることにより、筒状部111がプレート部114の筒状部側の面に対して直角をなすように立設されている。
アンカー金具110のメッキ処理については実施例1と同じであり、そのメッキ液が筒状部111内に出入りしやすいように、プレート部114の中心には直径6mm程度の孔114aが形成されている。蓋体119についても実施例1と同じである。
【0017】
同じく図3及び図4に示す比較例2のアンカー金具110は、前記プレス成形する鋼板の厚さが3.2mmであり、よってプレート部114の厚さが3.2mmである点においてのみ比較例1と相違し、その他は比較例1と共通するものである。
【0018】
図5及び図6に示す実施例3のアンカー金具20は、プレート部14の外形が上下高さ80mm、左右長さ120mmの長方形である点においてのみ図1及び図2に示す実施例1と相違し、その他(プレート部14の厚さ2.3mm、筒状部11、斜面部16等)は実施例1と共通するものである。
【0019】
同じく図5及び図6に示す実施例4のアンカー金具20は、プレス成形する鋼板の厚さが3.2mmであり、よってプレート部14の厚さが3.2mmであり、斜面部16の厚さが3.2mmより若干薄い点においてのみ実施例3と相違し、その他は実施例3と共通するものである。
【0020】
図7及び図8に示す比較例3のアンカー金具120は、プレート部114の外形が上下高さ80mm、左右長さ120mmの長方形である点においてのみ図3及び図4に示す比較例1と相違し、その他(プレート部114の厚さ2.3mm、筒状部111等)は比較例1と共通するものである。
【0021】
同じく図7及び図8に示す比較例4iのアンカー金具120は、前記プレス成形する鋼板の厚さが3.2mmであり、よってプレート部114の厚さが3.2mmである点においてのみ比較例3と相違し、その他は比較例3と共通するものである。
【0022】
同じく図7及び図8に示す比較例4iiのアンカー金具120は、前記プレス成形する鋼板の厚さが4.5mmであり、よってプレート部114の厚さが4.5mmである点においてのみ比較例3と相違し、その他は比較例3と共通するものである。
【0023】
図9及び図10に示す実施例5のアンカー金具30は、プレート部14の外形が上下高さ300mm、左右長さ110mmの長方形であり、その下から40mmの位置に筒状部11及び斜面部16の中心が位置する点においてのみ図1及び図2に示す実施例1と相違し、その他(プレート部14の厚さ2.3mm、筒状部11、斜面部16等)は実施例1と共通するものである。
【0024】
図11及び図12に示す実施例6のアンカー金具40は、プレート部14の外形が上下高さ120mm、左右長さ160mmの長方形であり、その下から40mmの位置に筒状部11及び斜面部16の中心が位置する点においてのみ図1及び図2に示す実施例1と相違し、その他(プレート部14の厚さ2.3mm、筒状部11、斜面部16等)は実施例1と共通するものである。
【0025】
図13及び図14に示す実施例7のアンカー金具50は、プレート部14の外形が上下高さ80mm、左右長さ120mmの長方形であり、その上縁及び下縁に前記鋼板を反筒状部側の面に折り幅9mmに折り重ねたヘム折り部15が設けられた点においてのみ図1及び図2に示す実施例1と相違し、その他(プレート部14の厚さ2.3mm、筒状部11、斜面部16等)は実施例1と共通するものである。
【0026】
[上記アンカー金具を埋設したALCパネルの製造]
さて、図15及び図16に示すように、上記の実施例1〜7、比較例1〜4iiの各アンカー金具を補強鉄筋2に溶接固定し、これらを埋設したALCパネル1を製造した。ALCパネル1の外寸法は、長さ1800mm、幅600mm、厚さ100mmである。
補強鉄筋2は、風力等の押圧力を受けるために圧縮側となるALCパネル1の表面付近に埋設される圧縮側配筋3と、逆に引張側となるALCパネルの裏面付近に埋設される引張側配筋6とが、連結筋9で連結されて、かご形に構成されている。
圧縮側配筋3は、パネル長さ方向に延びる6本の主筋4と、パネル幅方向に延びる6本の副筋5とで格子状に組まれたもので、主筋4相互の鉄筋中心間距離は、図16に示したとおりである。アンカー金具を溶接固定するのは、主として圧縮側配筋3の主筋4のうちのパネル幅方向中央を挟む2本であり、その2本の主筋4の鉄筋中心間距離は80mmである(後述する変更例のように100mmの例もある)。
引張側配筋6は、パネル長さ方向に延びる8本又は6本の主筋7と、パネル幅方向に延びる6本の副筋8とで格子状に組まれたもので、主筋7相互の鉄筋中心間距離は、図16に示したとおりである。
両主筋4,7の直径は5mm又は7mmであり、圧縮側配筋3の主筋4とALCパネルの表面との間は15mmであり、引張側配筋6とALCパネルの裏面との間も15mmである。各実施例及び比較例における両主筋4,7の配筋については、後述する表1に記載している。
【0027】
そして、ALCパネルの下端から80mm上に筒状部の中心が位置するように、圧縮側配筋3のうちのパネル幅方向中央を挟む2本に、実施例1〜7、比較例1〜4iiの各アンカー金具を溶接固定した。同様に、ALCパネルの上端から80mm下に筒状部の中心が位置するように、圧縮側配筋3のうちのパネル幅方向中央を挟む2本に、実施例1〜7、比較例1〜4iiの各アンカー金具を溶接固定した。
実施例1〜7のアンカー金具10,20,30,40,50は、斜面部16の裾野が圧縮側配筋3の主筋4のうちのパネル幅方向中央を挟む2本の間に収まるようにして、該2本にプレート部14が溶接固定された。さらに、実施例1,2及び比較例1,2のアンカー金具10,110は、図2及び図4に示すように、該2本のほかその両側の2本にもプレート部14,114が同図(b)中に黒丸で示す溶接箇所で溶接固定された。実施例3,4及び比較例3,4i,4iiのアンカー金具20,120は、図6及び図8に示すように、該2本のみにプレート部14,114が同図(b)中に黒丸で示す溶接箇所で溶接固定された。実施例5のアンカー金具30は、図10に示すように、該2本のみにプレート部14が同図(b)中に黒丸で示す溶接箇所で溶接固定された。実施例6のアンカー金具40も、図12に示すように、該2本のみにプレート部14が同図(b)中に黒丸で示す溶接箇所で溶接固定された。実施例7のアンカー金具50は、図14に示すように、該2本のみにプレート部14が実施例1と同じく溶接固定された。
【0028】
次に、アンカー金具が溶接固定された補強鉄筋を型枠(図示略)にセットし、該型枠にALCスラリーを流し込み、半硬化したALCケーキを脱型してパネル状にワイヤ切断し、さらにオートクレーブ養生して、図15及び図16に示すALCパネル1を得た。
【0029】
[アンカー引抜き試験]
上記のように製造したALCパネル1について、JIS A 5416−2007「軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル)」の「9.6埋設部品の引抜き強さ試験」に準拠して、アンカー引抜き試験を行った。詳しくは、図17にアンカー引抜き試験の概要を示すように、試験体のALCパネルを、アンカー引抜き試験用の反力架台に、アンカー金具が埋設されている端部を支持部から300mm持出し、片持ちの状態で設置した。その後、アンカーに油圧ジャッキを用いて引張りの荷重をパネルのアンカー部が破壊するまで載荷した。載荷速度は毎秒100N〜200Nとし、最大引張荷重を測定した。その結果を、次の表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1において、「配筋」の左から1番目の数字は圧縮側の主筋4の本数、2番目の数字は引張側の主筋7の本数、3,4番目の数字はこれらの主筋の直径(0.1mm刻み)、をそれぞれ表している。例えば「68−50」は、圧縮側の主筋4が6本、引張側の主筋7が8数、これらの主筋4,7の直径が5.0mm、という意味である。なお、ナット13の先端からALCパネル1の裏面(引張側)までのALC母材のかぶりは(主筋4の直径が変わっても計算上)15mmであるが、主筋の曲がりや取付誤差等により数mmのバラツキがある。
【0032】
実施例1と比較例1とで最大引張荷重を比較すると、比較例1では9393Nであったのに対し、実施例1では18%以上増加して11000Nを超えた。実施例2と比較例2との比較、実施例3と比較例3との比較、実施例4と比較例4iとの比較でも、各実施例で最大引張荷重が増加した。実施例4は、プレート部の厚さが倍に近い比較例4iiに迫る最大引張荷重であった。
このように、各実施例1〜4で最大引張荷重が増加し、すなわち引抜き強さが高まった理由は、各実施例では、筒状部11とプレート部14とが、筒状部11の基端からみた全周囲でプレート部14へ向けて斜めに下る斜面部16を介して連結されていることにより、
(1)各比較例では、図17(c)に矢印で示すように、荷重がプレート部114からALC母材へパネル厚さ方向に伝わるのに対して、各実施例では、図17(b)に矢印で示すように、プレート部14については比較例と同様であるが、斜面部16からALC母材へは筒状部11の全周囲のALC母材に広がるように伝わって、荷重がより広く分散すること、
(2)斜面部16が断面2次モーメントを増加させて、斜面部16及びプレート部14の全体剛性を高める結果、荷重がプレート部14の端まで分散しやすいこと、
によるものと推認できる。
また、実施例5〜7でも高い最大引張荷重が得られており、上記斜面部16が寄与していると考えられる。
【0033】
[斜面部の変更例]
各実施例1〜7の斜面部16は、高さ8mm、頂部の直径28mm、裾野部の直径62mmの円錐状である点において共通であったが(斜面部16の厚さのみが異なる)、この斜面部16は、図18〜図23に示す変更例のように、高さ、頂部の直径、裾野部の直径、プレート部に対する傾斜角度、面積、傾斜線、平面形状等を変更することができる。
【0034】
まず、図18〜図21に示す斜面部16の変更例は、高さ、頂部の直径、裾野部の直径、プレート部14に対する傾斜角度、面積を変更した例であり(平面形状は円形で変更なし)、そのうちの図18及び図19は、圧縮側配筋3の主筋4のうちのパネル幅方向中央を挟む2本の主筋4の鉄筋中心間距離が80mmである場合の斜面部16の変更例、図20及び図21は該2本の主筋4の鉄筋中心間距離が100mmである場合の斜面部16の変更例である。
【0035】
・図18(a)の斜面部16は、高さ3mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径75mm、傾斜角度6.5度、面積約4060mm2 である。
・図18(b)の斜面部16は、高さ13mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径75mm、傾斜角度26.1度、面積約4500mm2 である。
・図19(c)の斜面部16は、高さ3mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径50mm、傾斜角度12.1度、面積約1620mm2 である。
・図19(d)の斜面部16は、高さ13mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径50mm、傾斜角度42.9度、面積約2160mm2 である。
・図20(e)の斜面部16は、高さ3mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径75mm、傾斜角度6.5度、面積約4060mm2 である。
・図20(f)の斜面部16は、高さ13mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径75mm、傾斜角度26.1度、面積約4500mm2 である。
・図21(g)の斜面部16は、高さ3mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径50mm、傾斜角度12.1度、面積約1620mm2 である。
・図21(h)の斜面部16は、高さ13mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径50mm、傾斜角度42.9度であり、面積約2160mm2 である。
【0036】
次に、図22に示す斜面部16の変更例は、平面形状(少なくとも裾野部の平面形状)を変更した例である。いずれも、斜面部16の面積は約1600mm2 以上である。
・図22(a)の斜面部16は、裾野部の平面形状を楕円形にして、全体形状を楕円錐状としたものである。
・図22(b)(c)の各斜面部16は、裾野部の平面形状を四角形にして、全体形状を四角錐状としたものである。
・図22(d)の斜面部16は、裾野部の平面形状を三角形にして、全体形状を三角錐状としたものである。
【0037】
次に、図23に示す斜面部16の変更例は、斜面部16の上面の傾斜線を変更した例である。いずれも、斜面部16の面積は約1600mm2 以上である。
・図23(a)は、傾斜線を凸曲線としたものである。
・図23(b)は、傾斜線を凹曲線としたものである。
【0038】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【符号の説明】
【0039】
1 ALCパネル
2 補強鉄筋
3 圧縮側配筋
4 主筋
5 副筋
6 引張側配筋
7 主筋
8 副筋
9 連結筋
10 アンカー金具
11 筒状部
12 鋼管
13 ナット
14 プレート部
15 ヘム折り部
16 斜面部
18 取付部
18a 孔
19 蓋体
20 アンカー金具
30 アンカー金具
40 アンカー金具
50 アンカー金具
【技術分野】
【0001】
本発明は、ALCパネル(軽量気泡コンクリートパネル)及びそのアンカー金具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜6には、外部から螺合部材が螺合する筒状部が、プレート部に直接立設されてなるALCパネルのアンカー金具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−199941号公報
【特許文献2】特開平1−22004号公報
【特許文献3】特開平1−22005号公報
【特許文献4】特開平1−234210号公報
【特許文献5】特開平4−62801号公報
【特許文献6】特開2000−64433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のアンカー金具は、それを埋設したALCパネルからの引抜き強さがさほど高くないという問題があった。この引抜き強さを高めるには、プレート部を大型化したり、厚肉化したりすることが有効であるが、コストが上がることになる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、次の手段(1)(2)をとったものである。
(1)補強鉄筋の複数本の鉄筋に溶接固定されて該補強鉄筋とともにALCパネルに埋設され、該ALCパネルの外部から螺合部材が螺合されるALCパネルのアンカー金具において、螺合部材が螺合される筒状部と、複数本の鉄筋に溶接固定されるプレート部とが、筒状部の基端からみた全周囲でプレート部へ向けて斜めに下る斜面部により連結されていることを特徴とする。
【0006】
前記斜面部の面積が1600mm2 以上であり、かつ、斜面部の裾野が隣接する2本の鉄筋の間に収まるとともに、斜面部のプレート部に対する傾斜角度が6〜45度であり、前記プレート部が少なくとも前記2本の鉄筋に溶接されるものであることが好ましい。斜面部の面積が1600mm2 未満であると、引抜き強さを高める効果が少なくなる。斜面部の面積が2000mm2 以上であると、より好ましい。一方、斜面部の裾野が大きすぎて、隣接する2本の鉄筋の間に収まらないと、アンカー金具の鉄筋への固定が難しくなる。斜面部のプレート部に対する傾斜角度が6度未満或いは45度超であると、引抜き強さを高める効果が少なくなる。プレート部が少なくとも前記2本の鉄筋に溶接されるものであれば、引抜き強さが高くなる。
【0007】
前記斜面部の裾野の平面形状は、特に限定されないが、円形、楕円形、四角形又は三角形を例示することができる。これが円形又は楕円形の場合、斜面部は円錐状又は楕円錐状となる。これが四角形又は三角形の場合、斜面部は四角錐状又は三角錐状とすることができる。
【0008】
前記プレート部と斜面部とが、鋼板のプレス成形により一体形成されていることが好ましい。剛性を高めることができ、また、コストを低減できるからである。但し、斜面部をプレート部とは別体形成し、斜面部をプレート部に溶接等により固定したものでもよい。
【0009】
前記プレート部及び斜面部の板厚は1.6〜4.0mmであることが好ましい。剛性確保とコスト低減とを両立できるからである。但し、斜面部を別体形成する場合には、斜面部の反筒状部側の面は傾斜している必要はなく、プレート部に載せて固定すべくプレート部と平行に形成することができる。
【0010】
(2)上記(1)又は(1)以降で説明した態様のアンカー金具が、そのプレート部において補強鉄筋の少なくとも2本の鉄筋に溶接固定されて、該補強鉄筋とともに埋設されているALCパネル。
【発明の効果】
【0011】
請求項1〜6に係る発明によれば、斜面部が、アンカー金具にかかる引抜き荷重をALC母材の広い範囲に分散させるとともに、アンカー金具の剛性を高めるため、アンカー金具の引抜き強さを高めることができる。
上記効果に加え、特に請求項4又は5に係る発明によれば、プレート部と斜面部とが鋼板のプレス成形により一体形成されていることにより、剛性を高めることができ、また、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1,2のアンカー金具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図2】実施例1,2のアンカー金具を埋設したALCパネルを示し、(a)は断面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図3】比較例1,2のアンカー金具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図4】比較例1,2のアンカー金具を埋設したALCパネルを示し、(a)は断面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図5】実施例3,4のアンカー金具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図6】実施例3,4アンカー金具を埋設したALCパネルを示し、(a)は断面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図7】比較例3,4i,4iiのアンカー金具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図8】比較例3,4i,4iiのアンカー金具を埋設したALCパネルを示し、(a)は断面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図9】実施例5のアンカー金具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図10】実施例5のアンカー金具を埋設したALCパネルを示し、(a)は断面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図11】実施例6のアンカー金具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図12】実施例6のアンカー金具を埋設したALCパネルを示し、(a)は断面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図13】実施例7のアンカー金具を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図14】実施例7のアンカー金具を埋設したALCパネルを示し、(a)は断面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図15】上記ALCパネルの全体を示し、(a)は側面図、(b)は引張側配筋図、(c)は圧縮側配筋図である。
【図16】上記ALCパネルの平面図である。
【図17】上記ALCパネルのアンカー引抜き試験を示し、(a)は試験の概要を示す斜視図、(b)は実施例における荷重の作用を示す断面図、(c)は比較例における荷重の作用を示す断面図である。
【図18】アンカー金具の傾斜部の変更例(主筋間隔80mmの場合)を示す平面図及び正面図である。
【図19】アンカー金具の傾斜部の変更例(主筋間隔80mmの場合)を示す平面図及び正面図である。
【図20】アンカー金具の傾斜部の変更例(主筋間隔100mmの場合)を示す平面図及び正面図である。
【図21】アンカー金具の傾斜部の変更例(主筋間隔100mmの場合)を示す平面図及び正面図である。
【図22】アンカー金具の傾斜部の変更例(裾野の形状)を示す平面図である。
【図23】アンカー金具の傾斜部の変更例(傾斜線)を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
複数本の鉄筋に溶接固定されて該鉄筋とともにALCパネルに埋設され、該ALCパネルの外部から螺合部材が螺合されるALCパネルのアンカー金具において、螺合部材が螺合される筒状部と、複数本の鉄筋に溶接固定されるプレート部とが、筒状部の基端からみた全周囲でプレート部へ向けて斜めに下る斜面部を介して連結されてなるものである。
【実施例】
【0014】
[実施例及び比較例のアンカー金具]
図1及び図2に示す実施例1のアンカー金具10は、外部から螺合部材200(図2)が螺合される筒状部11と、複数本の補強鉄筋に溶接固定されるプレート部14とが、筒状部11の基端からみた全周囲部位でプレート部14へ向けて斜めに下る斜面部16を介して連結されてなるものである。
筒状部11は、長さ52mm、外直径19.1mm、筒厚1.6mmの鋼管12と、長さ10mm、M12のナット13とが溶接連結されてなる、長さ62mmのものである。但し、後述する斜面部16の高さ8mmが加わるため、プレート部14の筒状部側の面からナット13の先端までの高さは70mmである。
プレート部14は、厚さ2.3mmの鋼板のプレス成形により四隅が斜めになった略ひし形に打ち抜かれてなる、上下高さ80mm、左右長さ300mm、厚さ2.3mmのものであり、次の斜面部16を除く部位である。
斜面部16は、前記厚さ2.3mmの鋼板のプレス成形により、プレート部14の中心部位に筒状部側へ張出し成形されて一体形成されたものであり、高さ8mm、頂部の直径28mm、裾野部の直径62mmの円錐状の斜面部(筒状部側の面)である。斜面部16の面積は、約2650mm2 である。張出し成形によって、斜面部16の厚さは2.3mmよりも若干薄い。
また、頂部内には、平坦な取付部18が形成されており、直接的にはこの取付部18に筒状部11の鋼管12の基端が溶接固定されることにより、筒状部11がプレート部14の筒状部11側の面に対して直角をなすように立設されている。
アンカー金具10は、防錆のためにメッキ処理されるが、そのメッキ液が筒状部11内に出入りしやすいように、取付部18には直径6mm程度の孔18aが形成されている。そして、筒状部11からメッキ液を抜いた後には、この孔18aと、ナット13の孔とを塞ぐように発泡ゴム製の蓋体19が接着されている。
【0015】
同じく図1及び図2に示す実施例2のアンカー金具10は、プレス成形する鋼板の厚さが3.2mmであり、よってプレート部14の厚さが3.2mmであり、斜面部16の厚さが3.2mmより若干薄い点においてのみ実施例1と相違し、その他は実施例1と共通するものである。
【0016】
図3及び図4に示す比較例1のアンカー金具110は、螺合部材が螺合される筒状部111と、複数本の補強鉄筋に溶接固定されるプレート部114とが、直接連結されてなるものである。
筒状部111は、長さ60mm、外直径19.1mm、筒厚1.6mmの鋼管112と、長さ10mm、M12のナット113とが溶接連結されてなる、長さ70mmのものである。
プレート部114は、厚さ2.3mmの鋼板のプレス成形により四隅が斜めになった略ひし形に打ち抜かれてなる、左右長さ300mm、上下高さ80mm、厚さ2.3mmのものである。
このプレート部114の中心に、筒状部111の鋼管112の基端が溶接固定されることにより、筒状部111がプレート部114の筒状部側の面に対して直角をなすように立設されている。
アンカー金具110のメッキ処理については実施例1と同じであり、そのメッキ液が筒状部111内に出入りしやすいように、プレート部114の中心には直径6mm程度の孔114aが形成されている。蓋体119についても実施例1と同じである。
【0017】
同じく図3及び図4に示す比較例2のアンカー金具110は、前記プレス成形する鋼板の厚さが3.2mmであり、よってプレート部114の厚さが3.2mmである点においてのみ比較例1と相違し、その他は比較例1と共通するものである。
【0018】
図5及び図6に示す実施例3のアンカー金具20は、プレート部14の外形が上下高さ80mm、左右長さ120mmの長方形である点においてのみ図1及び図2に示す実施例1と相違し、その他(プレート部14の厚さ2.3mm、筒状部11、斜面部16等)は実施例1と共通するものである。
【0019】
同じく図5及び図6に示す実施例4のアンカー金具20は、プレス成形する鋼板の厚さが3.2mmであり、よってプレート部14の厚さが3.2mmであり、斜面部16の厚さが3.2mmより若干薄い点においてのみ実施例3と相違し、その他は実施例3と共通するものである。
【0020】
図7及び図8に示す比較例3のアンカー金具120は、プレート部114の外形が上下高さ80mm、左右長さ120mmの長方形である点においてのみ図3及び図4に示す比較例1と相違し、その他(プレート部114の厚さ2.3mm、筒状部111等)は比較例1と共通するものである。
【0021】
同じく図7及び図8に示す比較例4iのアンカー金具120は、前記プレス成形する鋼板の厚さが3.2mmであり、よってプレート部114の厚さが3.2mmである点においてのみ比較例3と相違し、その他は比較例3と共通するものである。
【0022】
同じく図7及び図8に示す比較例4iiのアンカー金具120は、前記プレス成形する鋼板の厚さが4.5mmであり、よってプレート部114の厚さが4.5mmである点においてのみ比較例3と相違し、その他は比較例3と共通するものである。
【0023】
図9及び図10に示す実施例5のアンカー金具30は、プレート部14の外形が上下高さ300mm、左右長さ110mmの長方形であり、その下から40mmの位置に筒状部11及び斜面部16の中心が位置する点においてのみ図1及び図2に示す実施例1と相違し、その他(プレート部14の厚さ2.3mm、筒状部11、斜面部16等)は実施例1と共通するものである。
【0024】
図11及び図12に示す実施例6のアンカー金具40は、プレート部14の外形が上下高さ120mm、左右長さ160mmの長方形であり、その下から40mmの位置に筒状部11及び斜面部16の中心が位置する点においてのみ図1及び図2に示す実施例1と相違し、その他(プレート部14の厚さ2.3mm、筒状部11、斜面部16等)は実施例1と共通するものである。
【0025】
図13及び図14に示す実施例7のアンカー金具50は、プレート部14の外形が上下高さ80mm、左右長さ120mmの長方形であり、その上縁及び下縁に前記鋼板を反筒状部側の面に折り幅9mmに折り重ねたヘム折り部15が設けられた点においてのみ図1及び図2に示す実施例1と相違し、その他(プレート部14の厚さ2.3mm、筒状部11、斜面部16等)は実施例1と共通するものである。
【0026】
[上記アンカー金具を埋設したALCパネルの製造]
さて、図15及び図16に示すように、上記の実施例1〜7、比較例1〜4iiの各アンカー金具を補強鉄筋2に溶接固定し、これらを埋設したALCパネル1を製造した。ALCパネル1の外寸法は、長さ1800mm、幅600mm、厚さ100mmである。
補強鉄筋2は、風力等の押圧力を受けるために圧縮側となるALCパネル1の表面付近に埋設される圧縮側配筋3と、逆に引張側となるALCパネルの裏面付近に埋設される引張側配筋6とが、連結筋9で連結されて、かご形に構成されている。
圧縮側配筋3は、パネル長さ方向に延びる6本の主筋4と、パネル幅方向に延びる6本の副筋5とで格子状に組まれたもので、主筋4相互の鉄筋中心間距離は、図16に示したとおりである。アンカー金具を溶接固定するのは、主として圧縮側配筋3の主筋4のうちのパネル幅方向中央を挟む2本であり、その2本の主筋4の鉄筋中心間距離は80mmである(後述する変更例のように100mmの例もある)。
引張側配筋6は、パネル長さ方向に延びる8本又は6本の主筋7と、パネル幅方向に延びる6本の副筋8とで格子状に組まれたもので、主筋7相互の鉄筋中心間距離は、図16に示したとおりである。
両主筋4,7の直径は5mm又は7mmであり、圧縮側配筋3の主筋4とALCパネルの表面との間は15mmであり、引張側配筋6とALCパネルの裏面との間も15mmである。各実施例及び比較例における両主筋4,7の配筋については、後述する表1に記載している。
【0027】
そして、ALCパネルの下端から80mm上に筒状部の中心が位置するように、圧縮側配筋3のうちのパネル幅方向中央を挟む2本に、実施例1〜7、比較例1〜4iiの各アンカー金具を溶接固定した。同様に、ALCパネルの上端から80mm下に筒状部の中心が位置するように、圧縮側配筋3のうちのパネル幅方向中央を挟む2本に、実施例1〜7、比較例1〜4iiの各アンカー金具を溶接固定した。
実施例1〜7のアンカー金具10,20,30,40,50は、斜面部16の裾野が圧縮側配筋3の主筋4のうちのパネル幅方向中央を挟む2本の間に収まるようにして、該2本にプレート部14が溶接固定された。さらに、実施例1,2及び比較例1,2のアンカー金具10,110は、図2及び図4に示すように、該2本のほかその両側の2本にもプレート部14,114が同図(b)中に黒丸で示す溶接箇所で溶接固定された。実施例3,4及び比較例3,4i,4iiのアンカー金具20,120は、図6及び図8に示すように、該2本のみにプレート部14,114が同図(b)中に黒丸で示す溶接箇所で溶接固定された。実施例5のアンカー金具30は、図10に示すように、該2本のみにプレート部14が同図(b)中に黒丸で示す溶接箇所で溶接固定された。実施例6のアンカー金具40も、図12に示すように、該2本のみにプレート部14が同図(b)中に黒丸で示す溶接箇所で溶接固定された。実施例7のアンカー金具50は、図14に示すように、該2本のみにプレート部14が実施例1と同じく溶接固定された。
【0028】
次に、アンカー金具が溶接固定された補強鉄筋を型枠(図示略)にセットし、該型枠にALCスラリーを流し込み、半硬化したALCケーキを脱型してパネル状にワイヤ切断し、さらにオートクレーブ養生して、図15及び図16に示すALCパネル1を得た。
【0029】
[アンカー引抜き試験]
上記のように製造したALCパネル1について、JIS A 5416−2007「軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル)」の「9.6埋設部品の引抜き強さ試験」に準拠して、アンカー引抜き試験を行った。詳しくは、図17にアンカー引抜き試験の概要を示すように、試験体のALCパネルを、アンカー引抜き試験用の反力架台に、アンカー金具が埋設されている端部を支持部から300mm持出し、片持ちの状態で設置した。その後、アンカーに油圧ジャッキを用いて引張りの荷重をパネルのアンカー部が破壊するまで載荷した。載荷速度は毎秒100N〜200Nとし、最大引張荷重を測定した。その結果を、次の表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1において、「配筋」の左から1番目の数字は圧縮側の主筋4の本数、2番目の数字は引張側の主筋7の本数、3,4番目の数字はこれらの主筋の直径(0.1mm刻み)、をそれぞれ表している。例えば「68−50」は、圧縮側の主筋4が6本、引張側の主筋7が8数、これらの主筋4,7の直径が5.0mm、という意味である。なお、ナット13の先端からALCパネル1の裏面(引張側)までのALC母材のかぶりは(主筋4の直径が変わっても計算上)15mmであるが、主筋の曲がりや取付誤差等により数mmのバラツキがある。
【0032】
実施例1と比較例1とで最大引張荷重を比較すると、比較例1では9393Nであったのに対し、実施例1では18%以上増加して11000Nを超えた。実施例2と比較例2との比較、実施例3と比較例3との比較、実施例4と比較例4iとの比較でも、各実施例で最大引張荷重が増加した。実施例4は、プレート部の厚さが倍に近い比較例4iiに迫る最大引張荷重であった。
このように、各実施例1〜4で最大引張荷重が増加し、すなわち引抜き強さが高まった理由は、各実施例では、筒状部11とプレート部14とが、筒状部11の基端からみた全周囲でプレート部14へ向けて斜めに下る斜面部16を介して連結されていることにより、
(1)各比較例では、図17(c)に矢印で示すように、荷重がプレート部114からALC母材へパネル厚さ方向に伝わるのに対して、各実施例では、図17(b)に矢印で示すように、プレート部14については比較例と同様であるが、斜面部16からALC母材へは筒状部11の全周囲のALC母材に広がるように伝わって、荷重がより広く分散すること、
(2)斜面部16が断面2次モーメントを増加させて、斜面部16及びプレート部14の全体剛性を高める結果、荷重がプレート部14の端まで分散しやすいこと、
によるものと推認できる。
また、実施例5〜7でも高い最大引張荷重が得られており、上記斜面部16が寄与していると考えられる。
【0033】
[斜面部の変更例]
各実施例1〜7の斜面部16は、高さ8mm、頂部の直径28mm、裾野部の直径62mmの円錐状である点において共通であったが(斜面部16の厚さのみが異なる)、この斜面部16は、図18〜図23に示す変更例のように、高さ、頂部の直径、裾野部の直径、プレート部に対する傾斜角度、面積、傾斜線、平面形状等を変更することができる。
【0034】
まず、図18〜図21に示す斜面部16の変更例は、高さ、頂部の直径、裾野部の直径、プレート部14に対する傾斜角度、面積を変更した例であり(平面形状は円形で変更なし)、そのうちの図18及び図19は、圧縮側配筋3の主筋4のうちのパネル幅方向中央を挟む2本の主筋4の鉄筋中心間距離が80mmである場合の斜面部16の変更例、図20及び図21は該2本の主筋4の鉄筋中心間距離が100mmである場合の斜面部16の変更例である。
【0035】
・図18(a)の斜面部16は、高さ3mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径75mm、傾斜角度6.5度、面積約4060mm2 である。
・図18(b)の斜面部16は、高さ13mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径75mm、傾斜角度26.1度、面積約4500mm2 である。
・図19(c)の斜面部16は、高さ3mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径50mm、傾斜角度12.1度、面積約1620mm2 である。
・図19(d)の斜面部16は、高さ13mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径50mm、傾斜角度42.9度、面積約2160mm2 である。
・図20(e)の斜面部16は、高さ3mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径75mm、傾斜角度6.5度、面積約4060mm2 である。
・図20(f)の斜面部16は、高さ13mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径75mm、傾斜角度26.1度、面積約4500mm2 である。
・図21(g)の斜面部16は、高さ3mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径50mm、傾斜角度12.1度、面積約1620mm2 である。
・図21(h)の斜面部16は、高さ13mm、頂部の直径22mm、裾野部の直径50mm、傾斜角度42.9度であり、面積約2160mm2 である。
【0036】
次に、図22に示す斜面部16の変更例は、平面形状(少なくとも裾野部の平面形状)を変更した例である。いずれも、斜面部16の面積は約1600mm2 以上である。
・図22(a)の斜面部16は、裾野部の平面形状を楕円形にして、全体形状を楕円錐状としたものである。
・図22(b)(c)の各斜面部16は、裾野部の平面形状を四角形にして、全体形状を四角錐状としたものである。
・図22(d)の斜面部16は、裾野部の平面形状を三角形にして、全体形状を三角錐状としたものである。
【0037】
次に、図23に示す斜面部16の変更例は、斜面部16の上面の傾斜線を変更した例である。いずれも、斜面部16の面積は約1600mm2 以上である。
・図23(a)は、傾斜線を凸曲線としたものである。
・図23(b)は、傾斜線を凹曲線としたものである。
【0038】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【符号の説明】
【0039】
1 ALCパネル
2 補強鉄筋
3 圧縮側配筋
4 主筋
5 副筋
6 引張側配筋
7 主筋
8 副筋
9 連結筋
10 アンカー金具
11 筒状部
12 鋼管
13 ナット
14 プレート部
15 ヘム折り部
16 斜面部
18 取付部
18a 孔
19 蓋体
20 アンカー金具
30 アンカー金具
40 アンカー金具
50 アンカー金具
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強鉄筋の複数本の鉄筋に溶接固定されて該補強鉄筋とともにALCパネルに埋設され、該ALCパネルの外部から螺合部材が螺合されるALCパネルのアンカー金具において、螺合部材が螺合される筒状部と、複数本の鉄筋に溶接固定されるプレート部とが、筒状部の基端からみた全周囲でプレート部へ向けて斜めに下る斜面部を介して連結されていることを特徴とするALCパネルのアンカー金具。
【請求項2】
前記斜面部の面積が1600mm2 以上であり、かつ、斜面部の裾野が、隣接する2本の鉄筋の間に収まるとともに、斜面部のプレート部に対する傾斜角度が6〜45度であり、前記プレート部が少なくとも前記2本の鉄筋に溶接されるものである請求項1記載のALCパネルのアンカー金具。
【請求項3】
前記斜面部の裾野の平面形状が、円、楕円、四角形又は三角形である請求項1又は2記載のアンカー金具。
【請求項4】
前記プレート部と斜面部とが、鋼板のプレス成形により一体形成されている請求項1、2又は3記載のALCパネルのアンカー金具。
【請求項5】
前記プレート部及び斜面部の板厚は1.6〜4.0mmである請求項4記載のアンカー金具。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のアンカー金具が、そのプレート部において補強鉄筋の少なくとも2本の鉄筋に溶接固定されて、該補強鉄筋とともに埋設されているALCパネル。
【請求項1】
補強鉄筋の複数本の鉄筋に溶接固定されて該補強鉄筋とともにALCパネルに埋設され、該ALCパネルの外部から螺合部材が螺合されるALCパネルのアンカー金具において、螺合部材が螺合される筒状部と、複数本の鉄筋に溶接固定されるプレート部とが、筒状部の基端からみた全周囲でプレート部へ向けて斜めに下る斜面部を介して連結されていることを特徴とするALCパネルのアンカー金具。
【請求項2】
前記斜面部の面積が1600mm2 以上であり、かつ、斜面部の裾野が、隣接する2本の鉄筋の間に収まるとともに、斜面部のプレート部に対する傾斜角度が6〜45度であり、前記プレート部が少なくとも前記2本の鉄筋に溶接されるものである請求項1記載のALCパネルのアンカー金具。
【請求項3】
前記斜面部の裾野の平面形状が、円、楕円、四角形又は三角形である請求項1又は2記載のアンカー金具。
【請求項4】
前記プレート部と斜面部とが、鋼板のプレス成形により一体形成されている請求項1、2又は3記載のALCパネルのアンカー金具。
【請求項5】
前記プレート部及び斜面部の板厚は1.6〜4.0mmである請求項4記載のアンカー金具。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のアンカー金具が、そのプレート部において補強鉄筋の少なくとも2本の鉄筋に溶接固定されて、該補強鉄筋とともに埋設されているALCパネル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2011−214265(P2011−214265A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81695(P2010−81695)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】
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