説明

AMPA受容体増強剤

本発明は、式Iの化合物


またはその製薬的に許容できる塩に関し、精神障害および神経障害などのグルタミン酸機能低下に関連する状態の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
グルタミン酸は、中枢神経系における主要な興奮性神経伝達物質である。AMPA受容体は、選択的アクティベーターであるα−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソオキサゾールプロピオン酸(AMPA)に対するその感受性に基づいて同定された3種類のグルタミン酸受容体イオンチャンネルのサブタイプのうちの1つである。AMPA受容体は、直接的および間接的な機構により、グルタミン酸に対する細胞応答を媒介する。グルタミン酸またはAMPAにより活性化されると、AMPA受容体イオンチャネルは、ナトリウムイオン(Na)およびカルシウムイオン(Ca2+)を、チャネル孔を通して直接透過させる。
【背景技術】
【0002】
AMPA受容体を介してグルタミン酸により活性化されるイオンチャネルの電流は、一過性である。電流の経時変化は、脱感作と呼ばれるグルタミン酸結合の間に引き起こされる不応状態、および不活性化をもたらす、イオンチャンネルの結合部位からのグルタミン酸の除去速度によって調整される。AMPA受容体を介したイオンの流入は、脱感作を阻害する化合物、または不活性化の速度を低下させる化合物のいずれかにより増大させることができる。AMPA受容体においてグルタミン酸刺激性のイオンの流入を増大させる化合物は、正のAMPA受容体アロステリック調節因子、またはAMPA受容体増強剤として知られている。AMPA受容体は、中枢神経系における速い興奮性伝達を媒介する上で極めて重要な役割を果たしているので、AMPA受容体の機能を増大させる分子は、多くの治療標的を有している。さらに、アロステリック的にAMPA受容体を増強させる化合物は、インビトロおよびインビボにおいてシナプス活性を増大させることが示されている。このような化合物はまた、ラット、サル、およびヒトにおいて、学習および記憶を増強させることが示されている。
【0003】
いくつかの国際特許出願公報(特許文献1、特許文献2、および特許文献3を参照のこと)は、例えば、AMPA増強剤として、ならびに精神障害および神経障害のような様々な障害、および性機能障害を処置するために有用な特定のスルホンアミド誘導体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第98/33496号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/68592号パンフレット
【特許文献3】国際公開第01/90057号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、効力およびより高い安全域を増加させたAMPA受容体増強剤が必要とされている。本発明の式Iの化合物は、記憶(短期および長期の両方)および学習能力を向上させることにも有用であり得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、式Iの化合物
【化1】

またはその製薬的に許容できる塩を提供する。
【0007】
本発明は、医薬として使用するための式Iの化合物を提供する。さらに、本発明は、患者におけるグルタミン酸受容体の機能を増強させる方法を提供し、この方法は、かかる資料を必要とする前記患者に有効量の式Iの化合物またはその製薬的に許容できる塩を投与する過程から成る。
【0008】
加えて、本発明は、統合失調症、統合失調症に関連する認知障害、アルツハイマー病、アルツハイマー型認知症、軽度認識障害、パーキンソン病、またはうつ病の患者を治療する方法をさらに提供し、この方法は、そのような治療を必要とする患者に有効量の式Iの化合物またはその製薬的に許容できる塩を投与する過程から成る。
【0009】
別の態様によれば、本発明は、統合失調症、統合失調症に関連する認知障害、アルツハイマー病、アルツハイマー型認知症、軽度認識障害、パーキンソン病、またはうつ病を治療する医薬の製造のための式Iの化合物またはその製薬的に許容できる塩の使用を提供する。
【0010】
本発明は、式Iの化合物またはその製薬的に許容できる塩、および製薬的に許容できる担体、希釈剤、または賦形剤から成る、医薬組成物をさらに提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で使用される場合、用語「グルタミン酸受容体の機能を増強させる」とは、グルタミン酸または作用薬に対するグルタミン酸受容体、例えば、AMPA受容体の反応性がいくらか向上することを指し、グルタミン酸に対するAMPA受容体の急速脱感作または不活性化を阻害することを含むが、それらに限定されない。
【0012】
グルタミン酸受容体の機能の増強剤の作用を介して、式Iの化合物およびその製薬的に許容できる塩によって様々な状態を治療または予防できる。グルタミン酸受容体の機能の増強剤によって処置される種々の障害を記載している国際公開第98/33496号パンフレットおよび国際公開第01/68592号パンフレットを参照のこと。かかる状態としては、精神障害および神経障害等、例えば、アルツハイマー病のような認知障害および神経変性障害;アルツハイマー型認知症、老人性認知症;加齢に起因する記憶障害;遅発性ジスキネジー、パーキンソン病のような運動障害;薬物誘発性状態(例えば、コカイン、アンフェタミン、アルコール誘発性の状態)の好転;うつ病;注意力欠如障害;注意欠陥多動性障害;統合失調症等の精神病;薬物誘発性精神病などの精神病に関連する認知障害、発作、および性機能障害など、グルタミン酸機能低下に関連するものが挙げられる。本発明は、これらの状態の各々、さらに、国際公開第98/33496号パンフレットおよび国際公開第01/68592号パンフレットに記載されるそれらの障害を治療するための式Iの化合物の使用を提供する。式Iの化合物はまた、記憶(短期および長期の両方)および学習能力を向上させるのに有用であってもよい。
【0013】
当業者なら、認知には種々の「領域」が存在することを理解する。これらの領域としては、短期記憶、長期記憶、作業記憶、実行機能、および注意力が挙げられる。本明細書で使用される場合、用語「認知障害」は、短期記憶、長期記憶、作業記憶、実行機能、および注意力が挙げられるがこれらに限定されない認知領域のうち、1つ以上の欠損により特徴づけられる任意の疾患が含まれることを意味する。さらに、用語「認知障害」には、以下の特定の障害;加齢に関連する認知衰退、軽度認知障害、アルツハイマー病、認知症、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病による認知症、レビー小体認知症、薬剤誘発性持続性認知症、アルコール誘発性持続性認知症、アルコール誘発性認知障害、AIDS誘発性認知症、学習障害、心臓バイパス手術および移植に起因する認知障害、発作、脳虚血、脊髄損傷、頭部外傷、周生期低酸素症、心不全、および低血糖性神経損傷、血管性認知症、多発梗塞性認知症、筋萎縮性側索硬化に関連する認知障害、および多発性硬化症に関連する認知障害が挙げられるが、これらに限定されないことが理解される。軽度認知障害とは、臨床所見および時間とともにアルツハイマー認知症に対する軽度認知障害を示す患者の進行に基づき、アルツハイマー病に関連する認知症の潜在的な前駆期と定義されている(Morrisら,Arch.Neurol.,58,397−405(2001);Petersenら,Arch.Neurol.,56,303−308(1999))。
【0014】
「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」第4版(DSM−IV)(1994年、米国精神医学会、ワシントンD.C.)に、本明細書で述べた障害の多くを同定するための診断用手段が記載されている。当業者は、疾病および関連保健問題の国際統計分類第10版(ICD−10)(1992年、世界保健機関、ジュネーブ)に記載のものを含む、本明細書に記載の障害に関する他の用語、分類、および分類体系が存在すること、そして、それらの専門用語および分類体系は医学の進歩に伴い発展することを認識している。
【0015】
本発明は、式Iによって定義される化合物の製薬的に許容できる塩を含む。本発明の化合物は酸性基を有し、そのため、多くの任意の有機および無機塩基と反応して、製薬的に許容できる塩を形成する。本明細書で使用される場合、用語「製薬的に許容できる塩」とは、生体に対して実質的に毒性のない、式Iの化合物の塩を指す。かかる塩としては、Journal of Pharmaceutical Science,66,2−19(1977)に列挙され、当業者に公知である、製薬的に許容できる塩が挙げられる。
【0016】
式Iの化合物は、例えば、国際公開第98/33496号パンフレットに記載される以下の類似の手順で調製することができる。より具体的には、式Iの化合物は以下に記載されるスキーム、方法および実施例に記載されるように調製することができる。試薬および出発物質は、当業者が容易に利用可能である。
【0017】
実施例およびアッセイに使用される略語、記号および用語は、以下の意味を有する:AcOH=酢酸、DCM=ジクロロメタン、DMAP=ジメチルアミノピリジン、DME=ジメトキシエタン、DMF=N,N−ジメチルホルムアミド、DMSO=ジメチルスルホキシド、(dppf)=1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、e.e.=鏡像異性体過剰、EtN=トリエチルアミン、EtOAc=酢酸エチル、EtOH=エタノール、GC=ガスクロマトグラフィ、1H NMR=プロトン核磁気共鳴分析法、HPLC=高速液体クロマトグラフィ、MS=質量分析、TfO=トリフルオロメタンスルホン酸無水物。
【0018】
(調製)
(調製1)
4−ヒドロキシ−3−ヨード−安息香酸エチル
【化2】

4−ヒドロキシ−安息香酸エチル(102.2g、0.61mol)を、65℃でAcOH(200mL)に溶解した。ICl(100g、0.61mol)を、AcOH(500mL)溶液に滴下して添加した。添加後、65℃で6時間、混合物を撹拌する。混合物を氷/水に注ぎ、濾過し、固体を水で洗浄した。CHClに固体を溶解し、MgSOでそれを乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮した。残渣をCHClで溶出するシリカゲルクロマトグラフィに供し、131.3gの4−ヒドロキシ−3−ヨード−安息香酸エチルを得た(収率74%)。MS(ES):m/z=291.1[M−H]。
【0019】
(調製2)
4−ヒドロキシ−3−シアノ−安息香酸エチル
4−ヒドロキシ−3−ヨード−安息香酸エチル(45g、154.1mmol)を、DMSO(125mL)に溶解した。CuCN(15.17g、169.5mmol)を添加した。混合物を100℃で一晩撹拌した。冷却後、混合物を氷/水に注いだ。得られた固体を濾過し、水で洗浄し、減圧下で乾燥した。固体をEtOAcに溶解した。セライト(登録商標)を通して濾過した。MgSOで乾燥させ、溶媒を除去して、22.36gの3−シアノ−4−ヒドロキシ−安息香酸エチルを得た(収率76%)。MS(ES):m/z=190.0[M−H]。
【0020】
(調製3)
3−シアノ−4−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−安息香酸エチル
3−シアノ−4−ヒドロキシ−安息香酸エチル(22.36g、117.1mmole)を、0℃で無水CHCl(400mL)に溶解した。EtN(24.3mL、175.6mmol)、DMAP(2.14g、17.5mmol)を添加し、TfO(49.5g、175.6mmol)を滴下した。室温で2時間、混合物を撹拌した。減圧下で混合物を濃縮し、残渣を、ヘキサン/EtOAc4:1を溶出するシリカゲルクロマトグフィに供し、34.99gの3−シアノ−4−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−安息香酸エチルを得た(収率92%)。MS(ES):m/z=190.0[M−H]。
【0021】
(調製4)
2−フェニル−1−プロピルアミンHCl
窒素下でオートクレーブ水素化装置に、水湿潤5%パラジウム炭素(453g)、エタノール(6.36L)、2−フェニルプロピオニトリル(636g、4.85mol)および最終濃度(12M)の塩酸(613g、5.6mol)を入れた。混合物を迅速に撹拌し、水素で75psi(約517.1kPa)〜78psi(約537.8kPa)に加圧した。混合物を、3時間、50℃〜64℃に加熱した。反応混合物を減圧し、濾過して、2つのロットの濾液を得た。各々、減圧下で濾液を約400mLに濃縮した。各ロットに、メチルtert−ブチルエーテル(MTBE)(各2.2L)を加えた。沈殿物を一晩、撹拌した。固体を濾過し、新しいMTBE(100mL)で洗浄し、一晩乾燥させた。ロットを混合し、白色粉末として2−フェニル−1−プロピルアミンHCl(634.4g、76.2%)を得た。遊離塩基の1H NMR分析:1H NMR(CDCl3,300MHz)d7.32(m,2H),7.21(m,3H),2.86(m,2H),2.75(m,1H),1.25(d,3H,J=6.9),1.02(br s,2H)。
【0022】
(調製5)
(2R)−2−フェニルプロピルアミンリンゴ酸塩
【化3】

2−フェニル−1−プロピルアミンHCl(317.2g、1.85mol)、乾燥エタノール(2.0L)およびNaOHビーズ(75.4g、1.89mol)を、さらなるエタノール(500mL)で洗浄し、窒素下で乾燥させた3L丸底フラスコに入れた。混合物を1.6時間、撹拌した。濾過し、L−リンゴ酸(62.0g、0.462mol、0.25当量)のエタノール(320mL)溶液を添加し、黄色の濾液に滴下した。溶液を75℃まで加熱し、次いで、30分間、75℃で撹拌した。熱を取り除き、溶液をゆっくりと冷却した。得られた濃厚な沈殿物を、一晩撹拌した。沈殿物を濾過し、エタノール(325mL)で洗い、減圧下で乾燥させて、(2R)−2−フェニルプロピルアミンリンゴ酸塩(147.6g、39.5%)を白色結晶固体として得た。遊離塩基である、2−フェニル−1−プロピルアミンのキラルGC分析により、R−異性体において豊富な83.2%のe.eが示される(立体配座は市販の2−フェニル−1−プロピルアミンとの分光分析的な比較により割り当てられる)。1H NMR(CDCl,300MHz)d7.32(m,2H),7.21(m.3H),2.86(m,2H),2.75(m,1H),1.25(d,3H,J=6.9),1.02(br s,2H)。
【0023】
(2R)−2−フェニルプロピルアミンリンゴ酸塩(147.1g、83.2%e.e.)の1325mLエタノールおよび150mLの脱イオン水中のスラリーを、固体が溶解するまで加熱還流(約79.2℃)した。均一な溶液を撹拌しながらゆっくりと一晩冷却した。沈殿物を冷却(0℃〜5℃)し、濾過した。回収した固体を、エタノール(150mL)で洗い、35℃で乾燥させて、白色粉末として(2R)−2−フェニルプロピルアミンリンゴ酸塩(125.3g、85.2%回収)を得た。遊離塩基である、(2R)−2−フェニルプロピルアミンのキラルGC分析により、R異性体に富む96.7%のe.e.が示された。1H NMR(CDOD,300MHz)d7.32(m,10H),4.26(dd,1H,J=3.6,9.9),3.08(m,6H),2.72(dd,1H,J=9.3,15.3),2.38(dd,1H,J=9.3,15.6),1.33(d,6H,J=6.6)。
【0024】
(調製6)
((2R)−2−フェニルプロピル)[(メチルエチル)スルホニル]アミンの調製
【化4】

CHCl(1000mL)中の(2R)−2−フェニルプロピルアミンリンゴ酸塩(200g、0.494mol)の撹拌したスラリーに1.0N NaOH(1050mL、1.05mol)を添加した。混合物を室温で1時間撹拌した。有機相を分離し、CHClリンス液(200mL)を含む3.0L丸底フラスコに重力式濾過した。得られた有機塩基である、(2R)−2−フェニルプロピルアミンを共沸蒸留により乾燥させた。透明な濾液を600mLの容量まで、単蒸留ヘッドでの蒸留を介して大気圧で濃縮した。ヘプタン(1000mL)を添加し、次いで、溶液を大気圧で再度、600mLまで窒素パージを用いて濃縮して、最終的に109℃のポット温度で、蒸留率を上昇させた。
【0025】
溶液を撹拌しながら窒素下で室温まで冷却して、透明な無色の(2R)−2−フェニルプロピルアミンのヘプタン溶液(600mL)を得た。この溶液に、4−ジメチルアミノピリジン(6.04g、0.0494mol)、トリエチルアミン(200g、1.98mol)、およびCHCl(500mL)を添加した。混合物を、透明な溶液が得られるまで室温で撹拌した。この溶液を5℃まで冷却した。撹拌しながら、塩化イソプロピルスルホニル(148g、1.04mol)のCHCl(250mL)溶液を、2時間かけて滴下して添加した。混合物を16時間かけて室温まで徐々に昇温させた。
【0026】
撹拌した混合物を8℃まで冷却し、次いで、2N HCl(500mL)を滴下して添加した。有機相を分離し、水(1×500mL)および飽和NaHCO(1×500mL)で抽出した。有機相を単離し、(NaSO)で乾燥させ、重力濾過した。濾液を減圧下で濃縮して、((2R)−2−フェニルプロピル)[(メチルエチル)スルホニル]アミン(230g、96%)を淡黄色油として得た。1H NMR(CDCl,300MHz)d7.34(m,2H),7.23(m,3H),3.89(br t,1H,J=5.4),3.36(m,1H),3.22(m,1H),3.05(m,1H),2.98(m,1H),1.30(d,3H,J=7.2),1.29(d,3H,J=6.9),1.25(d,3H,J=6.9)。
【0027】
(調製7)
[(2R)−2−(4−ヨードフェニル)プロピル][(メチルエチル)スルホニル]アミン
【化5】

((2R)−2−フェニルプロピル)[(メチルエチル)スルホニル]アミン(37.1g、0.154mol)の氷酢酸(185mL)中の撹拌した室温での溶液を、濃HSO(16.0g、0.163mol)で処理し、緩やかに攪拌しながら(in a slow stream)滴下して添加し、続いて、HOリンス液(37mL)を滴下した。この溶液に、HIO(8.29g、0.0369mol)を添加し、続いて、ヨウ素(17.9g,0.0707mol)を添加した。得られた反応混合物を加熱し、それを60℃で3時間撹拌させた。HPLC分析により出発物質の消費を実証した後、反応混合物を30℃まで冷却した。NaHSOの10%水溶液(220mL)を、温度を25℃〜30℃の間に保ちながら滴下して添加した。0℃〜5℃まで冷却して、固体を得た。
【0028】
固体を吸引濾過し、HOでリンスして61.7gの粗固体を得た。固体を、温MTBE(500mL)に再溶解した。この溶液を、HO(2×200mL)および飽和NaHCO(1×200mL)で抽出した。有機相を単離し、MgSOで乾燥させ、濾過し、減圧下で約200mLの容量まで濃縮した。結晶化が始まるまで、ヘプタン(100mL)を、ゆっくりと撹拌しながら生成溶液に滴下して添加した。さらに100mLのヘプタンを添加した。得られた懸濁液を、ゆっくりと一晩、室温で撹拌させる。混合物を0℃まで冷却し、濾過した。回収した固体をヘプタンでリンスした。固体を空気乾燥させて、[(2R)−2−(4−ヨードフェニル)プロピル][(メチルエチル)スルホニル]アミン(33.7g、59.8%)を白色粉末として得た。キラルクロマトグラフィは、100%のe.e.を示す。H NMR(CDCl,300MHz)d7.66(d,2H,J=8.1),6.98(d,2H,J=8.4),3.86(br t,1H,J=5.1),3.33(m,1H),3.18(m,1H),3.06(m,1H),2.92(m,1H),1.30(d,3H,J=6.6),1.27(d,6H,J=6.6)。
【0029】
(調製8)
(2R)−プロパン−2−スルホン酸{2−[4−(4,4,5,5,−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−フェニル]−プロピル}−アミド
【化6】

[(2R)−2−(4−ヨードフェニル)プロピル][(メチルエチル)スルホニル]アミン(0.787g、2.14mmol)ビス(ピナコラート)ジボロン(0.599g、2.36mmol)、PdCl(dppf)、CHCl(0.052g、0.064mmol)およびKOAc(0.630g、6.42mmol)を、DMF(40mL)中で混合し、窒素下で10時間、80℃で加熱した。得られた暗褐色の混合物をEtOAcに注ぎ、HOおよび飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を単離し、(MgSO)で乾燥させた。濾過し、濾液をエバポレートし、次いで、残渣をクラマトグラフ溶出に供して、標題の化合物(1.0g、78%)を白色固体として得た。分析:理論値:C,58.86;H,8.23;N,3.81。実測値:C,58.84;H,8.25;N,3.96。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
1−(R)−2−シアノ−4’−[1−メチル−2−(プロパン−2−スルホニルアミノ)−エチル]−ビフェニル−4−カルボン酸
【化7】

(2R)−プロパン−2−スルホン酸{2−[4−(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン−2−イル)−フェニル]−プロピル}−アミド(50g、136.2mmol)、3−シアノ−4−トリフルオロメタンスルホニルオキシ−安息香酸エチル(40g、123.8mmol)、PdCl(dppf)・DCM(3.03g、3.71mmol)およびKOAc(36.43g、371.4mmol)のDME:EtOH:HO(200mL/200mL/200mL)溶液を、窒素下で50分間、80℃で撹拌した。反応混合物を氷水に注ぎ、それをEtOAcで抽出した。有機層を水および飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、MgSOで乾燥させ、それを濾過し、真空中で濃縮した。残渣を、ヘキサン/EtOAc4:1〜3:1で溶出するシリカゲルクロマトグラフィに付した。ヘキサン中で生成物をトリチュレートし、濾過し、乾燥させ、37.95gの1−(S)−エチル2−シアノ−4’−[1−メチル−2−(プロパン−2−スルホニルアミノ)−エチル]−ビフェニル−4−カルボキシレート(74%)を得た。MS(ES):m/z=413.1[M−H]。
【0031】
1−(R)−エチル2−シアノ−4’−[1−メチル−2−(プロパン−2−スルホニルアミノ)−エチル]−ビフェニル−4−カルボキシレート(37.95g、91.7mmol)を、EtOHおよびNaOH 2N(458mL、916mmol)水溶液中で、3時間室温で撹拌した。EtOHを除去し、EtOで水溶液を洗浄した。HCl 1Nを用いて水層を酸性化し、次いで、それをEtOAcで抽出する。有機層を、水および飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、MgSOで乾燥させ、濾過し、それを真空中で濃縮した。固体をヘキサン:MTBE 9:1中でトリチュレートし、28.4gの1−(R)−2−シアノ−4’−[1−メチル−2−(プロパン−2−スルホニルアミノ)−エチル]−ビフェニル−4−カルボン酸(80%)を得た。MS(ES):m/z=385.1[M−H]。
【0032】
式Iの化合物が、グルタミン酸受容体媒介性反応を増強する能力は、当業者によって測定できる。例えば、米国特許第6,303,816号を参照のこと。具体的には、以下の試験を利用してもよい。
【0033】
ヒトiGluR4を安定的に発現するHEK293細胞(欧州特許出願公開番号EP−A1−0583917に記載されるように得られる)を、AMPA受容体増強剤の電気生理学的キャラクタリゼーションに用いる。細胞外レコーディング溶液は、以下を含有する:NaCl140mM、KCl5mM、HEPES10mM、MgCl1mM、CaCl2mM、グルコース10mM、NaOHを用いてpH=7.4、295mOsm kg−1。細胞内レコーディング溶液は、以下を含有する:CsCl140mM、MgCl1mM、HEPES10mM、(N−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N1−[2−エタンスルホン酸])10 EGTA(エチレン−ビス(オキシエチレン−ニトリロ)テトラ酢酸)、CsOHを用いてpH=7.2、295mOsm kg−1。これらの溶液を用いると、レコーディングピペットは2〜3Mオームの抵抗を有する。全細胞電位固定法(Hamillら、(1981)Pflugers Arch.,391:85〜100)を使用して、細胞を−60mVで電位固定し、1mMグルタミン酸に対するコントロール電流反応を誘発する。次いで、1mMグルタミン酸に対する反応を、試験化合物の存在下で測定する。この試験において、10μM以下の試験濃度で、1mMグルタミン酸により誘発される電流値に10%より高い増加が生じれば、化合物は活性であるとみなす。
【0034】
試験化合物の効力を測定するために、浴溶液(bathing solution)中およびグルタミン酸と同時に適用した両方の試験化合物の濃度は、最大効果が見出されるまで半対数単位で増加させる。この様式で回収したデータをHillの式に当てはめ、EC50値を求め、試験化合物の効力の指標とする。試験化合物の活性の可逆性は、コントロールのグルタミン酸1mM反応を評価することにより測定する。グルタミン酸適用(challenge)に対するコントロール反応が再度確立されると、100μMシクロチアジドによるこれらの反応の増強は、浴溶液およびグルタミン酸含有溶液の両方を包含することにより測定される。この様式で、シクロチアジドの有効性と比較して、試験化合物の効力を測定することができる。実施例1に記載の化合物を、上記のように本質的に試験し、187.8±15.3nMの活性を有することを見出した。このように、実施例1に記載した化合物は、強力なAMPA増強剤である。
【0035】
さらに、本発明の化合物を評価するために当業者が実施し得る、特定の行動絶望(behavioral despair)動物モデルは、ヒトにおける抗うつ活性を予測するものである(例えば、強制水泳試験および尾部懸垂試験)。例えば、「Experimental Approaches to Anxiety and Depression」、J.M.Elliottら編、(1992)、John Wiley&Sons Ltd.,第5章、Behavioural Models of Depression,Porsolt and Lenegre、73〜85ページを参照のこと。
【0036】
本発明の医薬組成物は、周知および容易に利用可能な成分を用いて公知の方法によって調製される。本発明の組成物を作製する際に、活性成分は、通常、担体と混合されるか、または担体によって希釈されるか、あるいは担体内に封入され、カプセル、小袋、紙、または他の容器の形態であってもよい。担体が希釈剤として役立つ場合、それは、活性成分についてのビヒクル、賦形剤、または媒体として作用する固体、半固体、または液体材料であってもよい。組成物は、錠剤、丸薬、粉末剤、トローチ剤、分包剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁液剤、乳剤、液剤、シロップ剤、エアロゾル剤、例えば、10重量%までの活性化合物を含む軟膏、軟および硬ゼラチンカプセル剤、座剤、滅菌注射剤、および滅菌包装粉末剤の形態であってもよい。
【0037】
適切な担体、賦形剤、および希釈剤のいくつかの例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、ガム、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチルおよびプロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱油が挙げられる。製剤は、潤滑剤、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、保存料、甘味料、または香味料をさらに含んでもよい。本発明の組成物は、当該分野において周知の方法を用いて、患者への投与後に、活性成分の放出が、速放性、持続放出性、または遅延放出性となるよう調剤することができる。
【0038】
組成物は、好ましくは単位剤形として調剤されており、各剤形には、約0.1mg〜約300mg、好ましくは約0.1mg〜約100mg、最も好ましくは約1.0mg〜約100mgの式Iの化合物が含まれている。用語「単位剤形」とは、ヒト検体および他の哺乳動物への単回投与に適した物理的に不連続な単位を指し、各単位は、所望の治療効果を生み出すために計算された所定量の活性成分を、適切な薬理学的な担体、希釈剤、または賦形剤と共に含んでいる。
【0039】
本明細書で用いる場合、用語「患者」とは、マウス、モルモット、ラット、イヌ、またはヒトなどの哺乳動物を指す。好ましい患者はヒトであると理解される。本明細書で用いる場合、用語「治療」または「治療すること」あるいは「治療する」とは、それぞれ、特定の疾患の症状の軽減、一時的または恒久的のいずれかに基づく原因の除去、あるいは症状の発現の予防または遅延を意味する。このように、本発明の方法は、治療的および予防的投与の両者を含む。
【0040】
本明細書で用いる場合、用語「有効量」とは、特定の疾患に罹患している患者の治療において、一回または複数回用量で患者に投与した場合に有効な式Iの化合物の量を指す。
【0041】
有効量は、公知の技法、および同様の状況下で観測された結果を用いることによって、当業者としての診断医により、容易に決定することができる。有効量または用量の決定に際しては、診断医によって、哺乳動物の種;その大きさ、年齢、および全身の健康状態;関連する具体的な疾患または障害;疾患または障害の関与度または重篤度;個々の患者の応答;投与される特定の化合物;投与形態;投与される調製物のバイオアベイラビリティ特性;選択された投与計画;併用薬の使用;および他の関連する状況を含むが、これらに限定されない多くの因子が考慮される。
【0042】
式Iの化合物は、経口投与、直腸投与、経皮投与、皮下投与、血管内投与、筋内投与、口腔投与、または経鼻投与を含む種々の投与経路により投与することができる。あるいは、式Iの化合物は、持続点滴により投与することができる。通常の1日量には、約0.005mg/kg〜約10mg/kgの式Iの化合物が含まれる。好ましくは、1日量には、約0.005mg/kg〜約5mg/kg、より好ましくは、約0.005mg/kg〜約2mg/kgである。
【0043】
本明細書に示した組み合わせにおいて用いられる薬剤の用量も、最終分析において、症例を担当している医師により、その薬剤、臨床試験で決定された組み合わせにおける薬剤の性質、および医師がその患者について処置の対象しているもの以外の疾患を含む、患者の特性に関する知識を用いて設定しなければならない。
【0044】
不活性成分、および医薬組成物補助剤の調剤方法は、通常用いられているものである。ここで、薬科学分野で用いられる通常の製剤方法を用いてもよい。錠剤、チュアブル錠剤、カプセル剤、液剤、点滴製剤、点鼻スプレーまたは粉末剤、トローチ剤、座剤、経皮パッチ、および懸濁剤を含む、通常の種類の組成物の全てを用いることができる。一般に、組成物は、望ましい用量および用いられる組成物の種類に応じて、組成物全体の約0.5%〜約50%の化合物を含んでいる。しかし、化合物の量は、有効量、すなわち、このような治療を必要とする患者に対する望ましい用量をもたらす個々の化合物の量として最適に定義される。
【0045】
例えば、製剤は、経口経路を介して、1%のカルボキシメチルセルロースナトリウム、0.25%のポリソルベート80、および0.05%のDow Corning(登録商標)Antifoam 1510−US(精製水溶液)を含んでいてもよい。血管内投与のためには、多くの製剤は、5%のPharmasolve、1.8%の1N NaOH、93.2%のデキストロース5%水溶液の組成物、または5%Pharmasolve、2:1モル比のNaOH:活性成分のデキストロース5%溶液の組成物などを用いてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式
【化1】

で示される化合物またはその製薬的に許容できる塩。
【請求項2】
製薬的に許容できる担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて、次式
【化2】

で示される化合物またはその製薬的に許容できる塩を含有する組成物。
【請求項3】
医薬として使用するための請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
パーキンソン病を治療する医薬の製造のための、請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項5】
うつ病を治療する医薬の製造のための、請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項6】
統合失調症を治療する医薬の製造のための、請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項7】
かかる治療を必要とする哺乳動物に有効量の請求項1に記載の化合物を投与する過程からなる、哺乳動物においてグルタミン酸受容体の機能を増強する方法。
【請求項8】
パーキンソン病を治療する方法であって、かかる治療を必要とする哺乳動物に有効量の請求項1に記載の化合物を投与することを含んでなる方法。
【請求項9】
うつ病を治療する方法であって、かかる治療を必要とする哺乳動物に有効量の請求項1に記載の化合物を投与することを含んでなる方法。
【請求項10】
統合失調症を治療する方法であって、かかる治療を必要とする哺乳動物に有効量の請求項1に記載の化合物を投与することを含んでなる方法。

【公表番号】特表2010−512339(P2010−512339A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540465(P2009−540465)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/086567
【国際公開番号】WO2008/073789
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】