説明

Al/Znベースの合金被覆製品の処理

基材上のAl/Znベースの合金コーティングを含むAl/Znベースの合金被覆製品の処理方法を開示する。この方法は、合金コーティングを非常に短時間迅速に強熱する工程、およびこの合金コーティングを迅速に冷却する工程を含み、合金コーティングの変性結晶質ミクロ構造を生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、合金の主成分としてアルミニウムおよび亜鉛を含む合金のコーティングを有する製品(以下、「Al/Znベースの合金被覆製品」と云う。)の製造に関する。
【0002】
用語「Al/Znベースの合金被覆製品」は、本明細書中、一例として、ストリップ、チューブ、および構造形材(structural section)の形態の製品であって、Al/Znベースの合金のコーティングを製品の表面の少なくとも一部に有する製品を含むと理解されるべきである。
【0003】
本発明は、より詳しくは、これに限定するわけではないが、スチールストリップの形態のAl/Znベースの合金被覆製品およびAl/Znベースの合金被覆スチールストリップから製造される製品に関する。
【0004】
Al/Znベースの合金被覆スチールストリップは、保護、審美的または別の理由で更に無機および/または有機化合物で被覆されているストリップであってもよい。
【0005】
本発明は、より詳しくは、これに限定するわけではないが、微量以上のAlとZn以外の一種類以上の元素の合金のコーティングを有するAl/Znベースの合金被覆スチールストリップに関する。
【0006】
本発明は、より詳しくは、これに限定するわけではないが、Alを20〜95%、Siを0〜5%、残りのZnと不可避の不純物を含むAl/Znベースの合金のコーティングを有するAl/Znベースの合金被覆スチールストリップに関する。このコーティングは、更にMg 0〜10%および少量の別の元素も含みうる。
【0007】
本発明は、概して、合金コーティング組成物の元素のより均質の混合物ベースの変性結晶質ミクロ構造を提供するための、製品のコーティングのAl/Znベースの合金の処理方法に関する。
【背景技術】
【0008】
薄いAl/Znベースの合金コーティング(2〜100μm)は、しばしばスチールストリップの表面に適用されて大気中腐蝕に対する保護を提供する。
【0009】
これらの合金コーティングは、概して、これらに限定されるわけではないが、元素Al、Zn、Mg、Si、Fe、Mn、Ni、Snおよび少量の別の元素、例えばV、Sr、Ca、Sbの合金のコーティングである。
【0010】
これらの合金コーティングは、概して、これらに限定されるわけではないが、ストリップを溶融合金の槽(bath)に通すことによるストリップのホット・ディップ・コーティング(hot dip coating strip)によってスチールストリップに適用される。スチールストリップを、典型的には、必ずしも限定されるわけではないが、ディップ前に加熱して合金のストリップ基材への結合を促進する。次にストリップが溶融槽から出ると、合金はストリップ上で凝固し、凝固合金コーティングを生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
合金コーティングの冷却速度は比較的低く、典型的には100℃/秒以下である。冷却速度は、ストリップの熱容量(thermal mass)および冷却媒体による熱い軟質コーティングの衝撃損傷によって制限される。
【0012】
低い冷却速度は、Al/Znベースの合金のミクロ構造が、種々の組成の相の混合物を含有する比較的粗いデンドライト構造および/またはラメラ構造であることを意味する。
【0013】
スチールストリップ上にAl/Znベースの合金コーティングを生じる別の既知の方法は、ホット−ディップ・コーティングと異なる方法で凝固する溶融合金コーティングを製造する。しかしながら、コーティングのAl/Znベースの合金は、なお、種々の組成の相の比較的粗い混合物として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
スチールストリップ上のAl/Znベースの合金コーティングのミクロ構造が、合金コーティングの非常に迅速な加熱およびその後の非常に迅速な冷却によって、上記粗い多相ミクロ構造から構造的にも化学的にも有利に変性されうることがわかった。
【0015】
特に、Al/Znベースの合金被覆ストリップの非常に迅速な強熱およびこのストリップの非常に迅速な冷却が、変性ミクロ構造、典型的にはより大きなミクロ構造特性が小さくなったかまたは均質化された改良構造を含有するミクロ構造をもたらすことがわかった。
【0016】
理論または説明として、Al/Znベースの合金被覆ストリップの非常に迅速な加熱が、加熱を基材ストリップよりもむしろ合金コーティングに制限することを可能にし、基材ストリップが合金コーティングの非常に迅速な冷却を促進するヒートシンクの役割を果たすことを可能にし、(a)高温において生じたコーティング合金の均質ミクロ構造の保持または(b)コーティング合金の非常に細かいデンドライトミクロ構造への変化または(c)コーティング合金の別の細かい分散相混合物への変化をもたらすことがわかった。
【0017】
本発明によると、基材上にAl/Znベースの合金コーティングを含むAl/Znベースの合金被覆製品の処理方法であって、
(a) 合金コーティングを非常に短時間、迅速に強熱する工程および
(b) この合金コーティングを迅速に冷却する工程
を包み、合金コーティングの変性結晶質ミクロ構造を生じる方法が提供される。
【0018】
本発明によると、更に、基材上にAl/Znベースの合金コーティングを含むAl/Znベースの合金被覆製品の処理方法であって、
(a) 基材をあまり加熱せずに合金コーティングを加熱する工程および
(b) この基材をヒートシンクとして使用することによって合金コーティングを非常に迅速に冷却する工程
を含み、合金コーティングの変性結晶質ミクロ構造を生じる方法も提供される。
【0019】
上記方法は、典型的に100℃/秒以下の冷却速度におけるAl/Znベースの合金コーティングの常套の凝固中に生じる元素の通常の再分配を防止するかまたは最小化する。
【0020】
変性結晶質ミクロ構造は、工程(a)において、合金コーティングのもとのミクロ構造の固体状態変化として生じうる。
【0021】
代わりに、工程(a)が、Al/Znベースの合金コーティングの少なくとも部分的な溶融、より好ましくは完全な溶融、を引き起こし、それによって工程(b)において合金コーティングが凝固する時に変性結晶質ミクロ構造が生じてもよい。
【0022】
好ましくは、工程(a)は、Al/Znベースのコーティングの温度を十分高く上昇させて、従来法で典型的には100℃/秒以下の冷却速度で凝固する合金コーティング中の元素または元素の化合物の細かい粒子と粗い粒子との両方を溶解させる。この再溶解は、この方法が短時間であるにも関わらず高融点化合物に関しても生じうる。
【0023】
Al/Znベースの合金コーティングの変性結晶質ミクロ構造は、単一相であってもよい。
【0024】
例えば、単一相は、固溶体のZnを有するAlリッチな相でありうる。
【0025】
Al/Znベースの合金コーティングの変性結晶質ミクロ構造は、ある相の粒子の、別の相における均一分散体であってもよい。
【0026】
例えば、変性結晶質ミクロ構造は、コーティング合金のマトリックスを形成するAlリッチな相中のZnリッチな相の細かい粒子の均一分散体でありうる。
【0027】
Al/Znベースの合金コーティングの変性結晶質ミクロ構造は、一つの相の細かい第一のデンドライト(fine primary dendrite)と別の相のデンドライト間領域との均一分散体であってもよい。
【0028】
例えば、変性結晶質ミクロ構造は、Alリッチな相の細かいデンドライトとZnリッチなデンドライト間相とアルミニウムへの溶解性が低い添加元素を含む別の相との均一分散体でありうる。
【0029】
一例として、第一の相デンドライトの核形成および成長によって凝固するAl/Znベースの合金コーティングに関して、典型的な第一の相構造間隔は、デンドライト二次アームの間隔によって決定される。本発明は、従来法で通常100℃/秒以下の速度で凝固される構造の典型的に約10〜15μmのデンドライト二次アーム間隔と比較して、5μm以下、より有益には2μm以下のデンドライト二次アーム間隔を達成する。
【0030】
好ましくは、工程(a)は、Al/Znベースの合金コーティングを非常に迅速に加熱することを含む。
【0031】
好ましくは、工程(a)は、Al/Znベースの合金コーティングを少なくとも500℃/秒、より好ましくは少なくとも10,000℃/秒の加熱速度で加熱することを含む。
【0032】
好ましくは、工程(a)は、200ミリ秒以下、より好ましくは20ミリ秒以下、より好ましくは2ミリ秒以下の加熱時間を含む。
【0033】
高出力密度の熱源を使用することによって下にある基材の温度をあまり上げずに上記Al/Znベースの合金コーティングの加熱が達成されうること、および要求される非常に高い冷却速度の達成に比較的冷たい基材が役立つことがわかった。
【0034】
用語「高出力密度の熱源」は、本明細書中、一例として、レーザー、直接プラズマ(direct plasma)、間接高密度プラズマ・アーク・ランプ(indirect high density plasma arc lamp)および常套のフィラメントベースの近赤外(NIR)システムを含むと理解されるべきである。要求される加熱速度、要求される温度および厚温度分布を達成するために、70W/mm以上、より好ましくは300W/mm以上の出力密度を放射する熱源を使用することが必要である。
【0035】
工程(a)は、Al/Znベースの合金コーティングを周囲以上の温度から加熱することを含みうる。例えば、ホット・ディップ・コーティング・ラインにおいて製造されたAl/Znベースの合金被覆スチールストリップの形態のAl/Znベースの合金被覆製品を処理する場合、熱いAl/Znベースの合金被覆スチールストリップを工程(a)への供給材料として使用することは、総エネルギー消費量を最小にし、必要な冷却速度を維して、意図されるAl/Znベースの合金コーティングミクロ構造および完全性が製造されることを可能にする。
【0036】
工程(a)に入るストリップ温度は、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下である。
【0037】
この方法を両面に同時に適用してもそれぞれの表面に別々に適用してもよい。任意の時点でこの方法によって処理される対側のAl/Znベースの合金コーティングの軟化を最小にするために、かつ冷却速度を上げるために、裏面は一定の温度、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下に維持されうる。
【0038】
好ましくは、工程(a)は、合金コーティングを250〜910℃の範囲、より好ましくは380〜800℃の範囲、より好ましくは450〜800℃の範囲の温度に加熱することを含む。
【0039】
好ましくは、工程(a)は、Al/Znベースの合金コーティングを、合金コーティングと基材との界面における金属間化合物合金層の成長がわずかになるように選択された所定の温度にかつ/または所定の時間加熱することを含む。
【0040】
好ましくは、金属間化合物合金層は、0〜5μm、好ましくは0〜3μm、より好ましくは0〜1μmの範囲内に維持される。
【0041】
好ましくは、工程(a)は、基材が十分低い温度であるようにして基材特性に悪影響を及ぼすリカバリー・アニール基材(recovery annealed substrate)の再結晶化や基材の相変化を防ぎながらAl/Znベースの合金コーティングを加熱することを含む。
【0042】
工程(a)におけるAl/Znベースの合金コーティングの加熱後、工程(b)において比較的冷たい基材が合金コーティングから熱を奪い、基材はヒートシンクの役割を果たし、変性結晶質ミクロ構造を保持するかまたは生じる非常に高い冷却速度を合金コーティングにもたらす。
【0043】
本明細書において、用語「非常に迅速な冷却」は、均質溶融Al/Znベースの合金コーティングもしくは固体状態の均質化単一相構造からの元素の再分配を最小化する速度での冷却または合金コーティングの形態の溶融物の制御された凝固を可能にする速度での冷却を意味すると理解されるべきである。
【0044】
要求される冷却速度は、少なくとも100℃/秒、好ましくは少なくとも500℃/秒、より好ましくは少なくとも2000℃/秒である。
【0045】
厚いスチールストリップの形態の基材(5mm以下)および更に非常に薄いスチールストリップの形態の基材であって通常より小さいヒートシンクを提供する基材に好適な処理条件を明らかにした。
【0046】
加熱速度が低い場合、基材の要求される温度は高く、工程(b)は所望の変性ミクロ構造を保持するための強制的な冷却を含みうる。
【0047】
冷却がより冷たい基材によっても達成されるので、変性結晶質ミクロ構造を保持するのに要求される強制的な冷却のレベルは従来法の処理に関するよりも低い。要求される強制的な冷却の程度は、合金コーティングの表面を破壊せずに達成されうる。
【0048】
本発明によると、上記方法に従って処理されたAl/Znベースの合金被覆製品が提供される。
【0049】
本発明によると、スチールストリップの形態の基材をAl/Znベースの合金でホット・ディップ・コーティングする工程およびこの被覆スチールストリップを上記処理方法に従って処理する工程を含む、Al/Znベースの合金被覆製品の製造方法が提供される。
【0050】
この方法は、上記処理方法が基材のホット・ディップ・コーティング直後に行われるインライン(in−line)で行ってもよい。
【0051】
代わりに、この方法は、処理方法を基材のホット・ディップ・コーティングによって製造されたコイル状に巻かれたストリップに行う別々のラインで行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】上記本発明の方法との関連で出願人によってなされた実験研究において試験されたサンプルの顕微鏡写真
【図2】上記本発明の方法との関連で出願人によってなされた実験研究において試験されたサンプルの顕微鏡写真
【図3】上記本発明の方法との関連で出願人によってなされた実験研究において試験されたサンプルの顕微鏡写真
【図4】上記本発明の方法との関連で出願人によってなされた実験研究において試験されたサンプルの顕微鏡写真
【図5】上記本発明の方法との関連で出願人によってなされた実験研究において試験されたサンプルの顕微鏡写真
【図6】上記本発明の方法との関連で出願人によってなされた実験研究において試験されたサンプルの顕微鏡写真
【図7】上記本発明の方法との関連で出願人によってなされた実験研究において試験されたサンプルの顕微鏡写真
【図8】上記本発明の方法との関連で出願人によってなされた実験研究において試験されたサンプルの顕微鏡写真
【図9】実験研究において試験されたサンプルに対する腐蝕試験の結果を示すグラフ
【図10】実験研究において試験されたサンプルのボルタ電位マップ(Volta Potential Map)
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明を、更に、一例として、図1〜10を参照して説明する。
【0054】
Al/Znベースの合金でホット・ディップ・コートされたスチールストリップの試験サンプルに実験研究を行った。この実験研究は、サンプルの合金コーティングをレーザーの形態の高出力密度熱源および近赤外照射(NIR)によって加熱し、その後、この合金コーティングを冷却することを含んだ。
【0055】
従来法のホット−ディップAl/Zn合金ベースの被覆スチールストリップのミクロ構造の例を図1に示す。このミクロ構造は、主に二種類の別々の相、すなわちAlリッチなデンドライト相とZnリッチなデンドライト間相混合物を含有する。このミクロ構造は、更に、少数の粗いケイ素粒子も含有する。
【0056】
このサンプルの合金コーティングを種々の熱プロフィール−温度および保持時間−の範囲で迅速に加熱し、その後、本発明の方法に従って迅速に冷却した。
【0057】
多量のAlおよびZnを含む合金コーティングに関して、本発明の方法による迅速な加熱および迅速な冷却後のコーティングミクロ構造は、主にAlが占める相の第一のマトリックスと第二のZnリッチな相の細かい均一分散体とを含有した。
【0058】
加熱条件および冷却条件に依存して、第二のZnリッチな相は、(a)デンドライト間のZnリッチな相の混合物の相互連結ゾーンまたは(b)5μm以下、理想的には2μm以下、より理想的には0.5μm以下のサイズの不連続のZnリッチな粒子を構成した。
【0059】
デンドライト間のZnリッチな相の混合物の例を図2に示す。Znリッチな粒子の例を図3、4、および5に示す。
【0060】
従来法のホット−ディップAl/Zn合金ベースの被覆スチールストリップであってコーティング合金がSiを含む被覆スチールストリップのミクロ構造の例を図6に示す。Siはミクロ構造中に比較的粗いニードル形の粒子の形態で存在するかまたは粗い金属間化合物粒子として存在する(例えば、Mgが更にコーティング合金中に存在する場合−図6中の矢印Bによって示される領域参照。)。
【0061】
実験研究において、本発明の方法による処理後、Siを含むAl/Znコーティング合金中のSiは、第一のマトリックス中に有利にSiもしくはSi金属間化合物の細かい不連続粒子の形態で存在し(例えばMgが更にコーティング合金中に存在する場合。)、かつ/または原子として存在することがわかった−図7および8参照。
【0062】
実験研究において、典型的にはコーティングの腐蝕をもたらし、かつコーティングの形成性に悪影響を及ぼす非常に粗い粒子としてAl/Znベースのコーティング合金中に存在する元素、例えばMgとZn、の別の金属間化合物も、更に、本発明の処理方法によって改良され、細かい粒子の均一分散体として合金コーティング全体に分配されることがわかった。図6中の矢印Aは、非処理コーティング合金中のMgとZnとの非常に粗い金属間粒子を示している。図7および8は、処理コーティングを示している。
【0063】
元素分析によって、Al/Znベースの合金コーティングであって、別の元素、例えばSiおよびMg、を含んで性能を高めていてもよい合金コーティングの組成がこの処理方法によって変えられないことを測定した。
【0064】
利点
電気化学試験、加速腐蝕試験、および長期大気暴露試験によって、本発明の方法に従って製造される変性結晶質ミクロ構造が、従来法で製造される粗いミクロ構造Al/Znベースの合金被覆スチールストリップよりも耐蝕性であることがわかった。腐蝕試験の結果を図9に示す。図9中のサンプル「R」が、本発明の方法に従って処理されたサンプルである。別のサンプルは、従来法で製造されたサンプルである。
【0065】
より腐蝕しやすい相、例えば亜鉛および/またはマグネシウムもしくは別の反応性元素リッチな相、のサイズおよび連続性を減らすことによって耐蝕性が高まることがわかった。
【0066】
本発明の方法によって処理されるAl/Zn合金ベースのコーティングの表面耐蝕性の改善を図10に示すボルタ電位マップによって示す。この図の左側は、一部のセクションが本発明の方法によって処理されており、別のセクションが処理されていないAl/Znベースのコーティング合金を含有するサンプルの上面図を含む。この図の右側は、このサンプルのボルタ電位マップを含む。
【0067】
例えばMgおよびSiを含むAl/Zn合金ベースのコーティングにおいて、表面腐蝕は、Mg含有化合物の粗い金属間化合物(IMC)粒子に沿って迅速に進行することがわかった。そのような大きな粒子が本発明の処理方法によって改良され、腐蝕経路がなくされることがわかった。
【0068】
ホット−ディップ・プロセスまたは別の熱プロセスによって従来法で製造されるAl/Znベースの合金コーティングの耐蝕性は、コーティングの厚さがミクロ構造の粗さ、例えば5〜10μm、に達すると、明確な腐蝕経路のために大きく低下する。そのような腐蝕経路が本発明の処理方法によって製造される変性結晶質ミクロ構造においてなくされることがわかった。
【0069】
Al/Znベースの合金被覆スチールストリップを次に無機化合物および/または有機ベースのポリマーの組み合わせで被覆した場合、本発明の処理方法によって製造される変性結晶質ミクロ構造が更により耐蝕性になることが加速腐蝕試験、および長期大気暴露試験によってわかった。
【0070】
ペイントされたAl/Znベースの合金被覆スチールストリップの腐蝕は、一般的に、ストリップの端またはストリップ中の穴からより迅速に進行する。ペイントされたAl/Znベースの合金被覆スチールストリップの端からの腐蝕は、完全ストリップ面を覆う全合金コーティングにおいて変性結晶質ミクロ構造を生じずに(a)ストリップの端の合金コーティングの細いバンドおよび/または(b)ストリップ表面にわたる様々な規則的なパターンや不規則なパターンで本発明の処理方法によって製造される変性結晶質ミクロ構造を生じることによって減少しうることがわかった。
【0071】
更に、Al/Znベースの合金コーティングの一部を部分的に処理することによって部分的な利益も得られうる。スチールストリップを、同時にまたは順次、両面処理しても片面だけ処理してもよい。
【0072】
Al/Znベースの合金コーティングの延性に悪影響を及ぼすことが知られている元素および金属間化合物の粗い粒子がなくされたことがわかった。
【0073】
本発明の精神および範囲から逸脱せずに上記本発明に多くの変更が行われうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) Al/Znベースの合金コーティングを非常に短時間、迅速に強熱する工程および
(b) 該合金コーティングを迅速に冷却する工程
を含み、合金コーティングの変性結晶質ミクロ構造を生じる、基材上にAl/Znベースの合金コーティングを含むAl/Znベースの合金被覆製品の処理方法。
【請求項2】
(a) 基材をあまり加熱せずに合金コーティングを加熱する工程および
(b) 該基材をヒートシンクとして使用することによって該合金コーティングを非常に迅速に冷却する工程
を含み、合金コーティングの変性結晶質ミクロ構造を生じる、基材上にAl/Znベースの合金コーティングを含むAl/Znベースの合金被覆製品の処理方法。
【請求項3】
該変性結晶質ミクロ構造が工程(a)において該合金コーティングのもとのミクロ構造の固体状態変化として生じる、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)が該Al/Znベースの合金コーティングを少なくとも部分的に溶融することを包含し、それによって工程(b)において該合金コーティングが凝固する時に該変性結晶質ミクロ構造が生じる、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)が該Al/Znベースの合金コーティングを完全に溶融することを包含し、それによって工程(b)において該合金コーティングが凝固する時に該変性結晶質ミクロ構造が生じる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)が該Al/Znベースのコーティングの温度を十分高い温度に上げて、従来法で典型的に100℃/秒以下の冷却速度で凝固する合金コーティング中の元素または元素の化合物の細かい粒子と粗い粒子の両方を溶解させることを包含する、従前請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
該Al/Znベースの合金コーティングの変性結晶質ミクロ構造が単一相である、従前請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
該Al/Znベースの合金コーティングの変性結晶質ミクロ構造が、一つの相の粒子が別の相の中にある均一分散体である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
該Al/Znベースの合金コーティングの変性結晶質ミクロ構造が、一つの相の細かい第一のデンドライトと別の相のデンドライト間領域との均一分散体である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(a)が該Al/Znベースの合金コーティングを非常に迅速に加熱することを含む、従前請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程(a)が該Al/Znベースの合金コーティングを少なくとも500℃/秒、好ましくは少なくとも10,000℃/秒の加熱速度で加熱することを含む、従前請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(a)が200ミリ秒以下、好ましくは20ミリ秒以下、より好ましくは2ミリ秒以下の加熱時間を含む、従前請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(a)が該Al/Znベースの合金コーティングを周囲温度以上の温度から加熱することを含む、従前請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(a)が該合金コーティングを250〜910℃の範囲、好ましくは380〜800℃の範囲、より好ましくは450〜800℃の範囲の温度に加熱することを含む、従前請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程(a)が該Al/Znベースの合金コーティングを所定の選択温度にかつ/または所定の選択時間加熱して合金コーティングと基材との界面における金属間化合物合金層の成長をわずかにすることを含む、従前請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
該金属間化合物合金層を0〜5μm、好ましくは0〜3μm、より好ましくは0〜1μmの範囲内に維持する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
工程(a)が、該基材が十分低い温度であるようにしながら該Al/Znベースの合金コーティングを加熱して基材特性に悪影響を及ぼすリカバリー・アニール基材の再結晶化や該基材の相変化を防ぐことを含む、従前請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程(a)において該Al/Znベースの合金コーティングを加熱した後に、工程(b)において該比較的冷たい基材が該合金コーティングから熱を奪い、該基材が、ヒートシンクの役割を果たし、該変性結晶質ミクロ構造を保持するかまたは生じる非常に高い冷却速度を該合金コーティングにもたらす、従前請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
該冷却速度が少なくとも100℃/秒、好ましくは少なくとも500℃/秒、より好ましくは少なくとも2000℃/秒である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
従前請求項のいずれか一項に記載の方法に従って処理されたAl/Znベースの合金被覆製品。
【請求項21】
スチールストリップの形態の基材をAl/Znベースの合金でホット・ディップ・コーティングする工程および該被覆スチールストリップを従前請求項のいずれか一項に記載の方法に従って処理する工程を含む、Al/Znベースの合金被覆製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−537701(P2009−537701A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511303(P2009−511303)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際出願番号】PCT/AU2007/000711
【国際公開番号】WO2007/134400
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(505132312)ブルースコープ・スティール・リミテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】BLUESCOPE STEEL LIMITED
【住所又は居所原語表記】Level 11, 120 Collins Street, Melbourne, Victoria 3000, Australia
【Fターム(参考)】