説明

Ar−CO2混合ガスシールドアーク溶接用メタル系フラックス入りワイヤ

【課題】 ショートアーク溶接およびスプレーアーク溶接に使用して、スラグ生成量およびスパッタ発生量が極めて少なく、良好なビード形状が得られ、さらに溶接金属の低温靭性も良好なAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用メタル系フラックス入りワイヤを提供する。
【解決手段】 鋼製外皮にフラックスを充填してなるフラックス入りワイヤにおいて、フラックスは金属粉を97質量%以上含み、ワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.03〜0.12%、Si:0.5〜1.2%、Mn:1.5〜3.5%、S:0.005〜0.05%、酸素量が0.25%以下である鉄粉:4.0〜15.5%を含有し、アルカリ金属酸化物、アルカリ金属弗化物および金属酸化物の1種または2種以上の合計:0.35%以下で、残部は主に鋼製外皮のFe成分、鉄合金等からのFe成分および不可避的不純物からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ar−CO2混合ガスシールドアーク溶接用メタル系フラックス入りワイヤに係わるものであり、ショートアーク溶接およびスプレーアーク溶接で使用可能で、スラグ生成量およびスパッタ発生量が極めて少なく、ビード形状が良好であり、さらに溶接金属の低温靭性が良好なAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用メタル系フラックス入りワイヤ(以下、Ar−CO2溶接用メタル系フラックス入りワイヤという。)に関する。
【背景技術】
【0002】
建機・鉄骨等の分野では、すみ肉溶接や継手溶接の開先内を多層盛で連続溶接することが多く、ルチール系や塩基性系のようなスラグ生成量が多いフラックス入りワイヤは好まれず、スラグ生成量の少ないソリッドワイヤおよび高溶着高能率のメタル系フラックス入りワイヤが使用されている。メタル系フラックス入りワイヤは、連続多パス盛溶接におけるスラグ除去作業を簡便にして、また、低電流域でショートアーク溶接(短絡移行)ができるので、溶け落ちが生じやすい薄板や継手初層パスの裏波溶接にも好適である。
【0003】
さらに、Ar−CO2溶接用メタル系フラックス入りワイヤの特長は、CO2ガスシールドアーク溶接用メタル系フラックス入りワイヤに比較して、溶滴が小粒になり大粒のスパッタが発生しないこと、ビード形状がフラットで良好であること、また、MnやSiなどの合金剤・脱酸剤の酸化によるスラグ化の度合いが小さいのでスラグ生成量が少なくできることにある。さらに、溶接金属の酸素量を低くでき、衝撃靱性を向上させるにも有効である。
【0004】
従来のメタル系フラックス入りワイヤは主にCO2ガスシールドアーク溶接で使用される場合の溶接作業性改善の技術が多い。例えば、特許文献1には、フラックスに鉄粉を54〜85%含む低電流域での溶接性を改善したメタル系フラックス入りワイヤが記載されている。しかし、カルボキシメチルセルローズを含有しているために、Ar−CO2混合ガスシールドアーク溶接に適用した場合、スプレーアーク溶接でのアークが粗くスパッタ発生量が多くなる。また、特許文献2には、フラックスに金属粉を90%以上含み、低電流域での溶接性を改善したメタル系フラックス入りワイヤが記載されている。しかし、SiO2、Al23、MgOなどの金属酸化物、Ti、Al、Mgなどの強脱酸成分が相当量含有されており、Ar−CO2混合ガスシールドアーク溶接に適用した場合、アークが粗くスパッタ発生量が多く、スラグ生成量も多くなる。さらに、特許文献3には、フラックスに金属粉を94%以上含み、ヒュームの発生量を少なくしたメタル系フラックス入りワイヤが記載されている。しかし、TiまたはTi酸化物を含有しているために、Ar−CO2混合ガスシールドアーク溶接した場合、ビード表面をスラグが薄く覆いスラグ除去が困難となる。
【0005】
これらに対し、特許文献4には、スラグ生成量が少なくビード形状を改善したAr−CO2溶接用メタル系フラックス入りワイヤを提案しているが、金属粉の含有量が少ないので特にショートアーク溶接でスパッタ発生量が多く、低温靭性も得られないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−274395号公報
【特許文献2】特開昭63−215395号公報
【特許文献3】特開平6−226492号公報
【特許文献4】特開2000−197991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ショートアーク溶接およびスプレーアーク溶接に使用して、スラグ生成量およびスパッタ発生量が極めて少なく、良好なビード形状が得られ、さらに溶接金属の低温靭性も良好なAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用メタル系フラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、鋼製外皮にフラックスを充填してなるAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用メタル系フラックス入りワイヤにおいて、
フラックスは金属粉を97質量%以上含み、
ワイヤ全質量に対する質量%で、
C:0.03〜0.12%、
Si:0.5〜1.2%、
Mn:1.5〜3.5%、
S:0.005〜0.05%、
酸素量が0.25%以下である鉄粉:4.0〜15.5%を含有し、
アルカリ金属酸化物、アルカリ金属弗化物および金属酸化物の1種または2種以上の合計:0.35%以下で、残部は主に鋼製外皮のFe成分、鉄合金等からのFe成分および不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0009】
また、アルカリ金属酸化物およびアルカリ金属弗化物のNa換算値とK換算値の合計が0.10%以下、アルカリ金属弗化物のF換算値が0.10%以下であることを特徴とする。
【0010】
さらに、Ni:0.3〜1.5%、B:0.003〜0.010%の1種以上を含有することを特徴とするAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用メタル系フラックス入りワイヤにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明のAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用メタル系フラックス入りワイヤによれば、建機、鉄骨分野のすみ肉溶接や継手多層盛溶接に使用して、スラグやスパッタの除去作業が大幅に軽減でき、ビード形状が良好であり、さらに低温用鋼に使用した場合の溶接金属の低温靱性が良好なので、高品質の溶接部を高能率に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するためにフラックス入りワイヤを種々試作して、Ar−CO2混合ガスシールドアーク溶接でスプレーアーク溶接およびショートアーク溶接におけるアーク状態、スパッタ発生量、スラグ生成量、ビード形状、スラグ剥離性および溶接金属の機械的性質に及ぼす各成分組成の影響を調査した。
【0013】
その結果、特にスラグ生成量を増加させるアルカリ金属酸化物、アルカリ金属弗化物および金属酸化物の含有量を低くしてより極低スラグとし、かつ、鉄粉の酸素量を低く規制することにより溶接金属の酸素量を低くし安定した低温靱性が得られることを見出した。また、Na、KおよびF量を限定することによってスプレーアーク溶接およびショートアーク溶接のアーク状態を両立して極めて良好にし、スパッタ発生量を著しく低減することができることを見出した。
【0014】
さらに、NiまたはBの1種以上を含有することによって、さらに低温における溶接金属の靭性が得られることも見出した。
【0015】
以下に本発明のフラックス入りワイヤの成分限定理由について説明する。
【0016】
(フラックスの金属粉:97質量%以上)
メタル系フラックス入りワイヤの高溶着性、極低スラグで連続多層盛溶接も可能といった特性を増大させるためにスラグになる成分を最少限に抑え、フラックスの金属粉を97質量%(以下、%という。)以上とした。フラックスの金属粉が97%未満であると相対的にスラグとなる成分量が増加し、スラグ生成量が増加し多層盛溶接でスラグ除去に時間を要し溶接能率が低下する。また、スラグ生成剤が多いと特にショートアーク溶接ではアークが不安定になりスパッタ発生量が多くなる。なお、フラックスの金属粉は主にC、Si、Mn等の合金原料および鉄粉からなる。
【0017】
(C:0.03〜0.12%)
Cは、黒鉛の他、鋼製外皮、フェロマンガン、フェロシリコンマンガンおよび鉄粉に含有されるC成分等により添加され、溶接金属の強度を確保するために重要な成分である。また、アークの集中性やアーク力を強める効果を持つ。特にAr−CO2溶接用メタル系フラックス入りワイヤにおいては、C量がアーク状態に及ぼす影響が大きく、安定したアーク状態を得るためにはC量の規定範囲内であることが重要である。Cが0.03%未満では、溶接金属の強度および靭性が低下する。また、アークの集中性、アーク力が弱くなり、スプレーアーク溶接の低電流側では、大粒のスパッタが多発し母材に付着する。一方、0.12%を超えると溶接金属の強度が高くなりすぎて靭性が低下する。また、アーク力が強くなりすぎてスパッタ発生量が多くなる。
【0018】
(Si:0.5〜1.2%)
Siは、鋼製外皮、金属シリコン、フェロシリコンおよびフェロシリコンマンガン等により添加され、溶接金属の強度および靭性を確保するために重要な成分である。また、溶融金属の粘性を大きくしてビード形状を整える役割も果たす。Siが0.5%未満では、強度および靭性が低下し、また、溶融金属の粘性不足でビード形状が凸ビードになる。一方、1.2%を超えると溶接金属の強度が高くなり靭性が低下する。
【0019】
(Mn:1.5〜3.5%)
Mnは、鋼製外皮、金属マンガン、フェロマンガンおよびフェロシリコンマンガン等により添加され、溶接金属の強度および靭性を確保するために重要な成分である。Mnが1.5%未満では、溶接金属の強度および靭性が低下する。一方、3.5%を超えると溶接金属の強度が高くなり靭性が低下する。
【0020】
(S:0.005〜0.05%)
Sは鋼製外皮成分および硫化鉄等により添加され、スラグ凝集剤およびスラグ剥離剤として作用する。本発明のAr−CO2溶接用メタル系フラックス入りワイヤは、スラグ生成量が極めて少ないので、スラグ除去を効率的に行うためにはスラグを塊状に凝集させて、かつ剥離しやすくする必要がある。Sが0.005%未満では、スラグがビード表面に小さく散在するようになり除去が困難になる。また、0.05%を超えると高温割れが生じやすくなる。
【0021】
(鉄粉の酸素量が0.25%以下の鉄粉:4.0〜15.5%)
鉄粉は、メタル系フラックス入りワイヤの高溶着で極低スラグという特性を確保するために必須な成分である。鉄粉が4.0%未満では、高溶着性が低下してメタル系コアードワイヤの特性が十分に発揮できない。一方、15.5%を超えるとワイヤ製造段階の伸線工程でワイヤ長手方向にフラックス充填率の変動が生じるようになり、アーク状態が不安定でスパッタ発生量が多くなる。
【0022】
本発明のAr−CO2混合ガス溶接用メタル系フラックス入りワイヤでは、溶接金属の酸素量を低減して低温衝撃靱性を確保するために、低酸素量の鉄粉を用いる。鉄粉の酸素量が0.25%を超えると溶接金属の酸素量が増加して、溶接金属の衝撃靭性が低値となる。鉄粉の酸素量が0.25%以下の水素還元鉄粉、アトマイズド鉄粉等を用いることによって、Ti、Al、MgおよびZr等のようなスラグ生成量を増加させる強脱酸剤を添加することなく溶接金属の酸素量を0.05%以下まで抑えることができ低温靭性が得られる。
【0023】
(アルカリ金属酸化物、アルカリ金属弗化物および金属酸化物の1種または2種以上の合計:0.35%以下)
チタン酸カリウム、珪酸カリウム、珪酸ナトリウム等によるアルカリ金属酸化物、弗化ソーダ、珪弗化カリ、氷晶石、弗化リチウム等によるアルカリ金属弗化物およびTiO2、SiO2、Al23、MgO、ZrO2等の金属酸化物の合計が0.35%を超えると、スラグ生成量を増加させ多層盛溶接でスラグ除去に時間を要し溶接能率が低下する。また、特にショートアーク溶接ではアークが不安定になりスパッタ発生量が多くなる。さらに、溶接金属の酸素量を増加させるので靭性が低下する。
【0024】
(アルカリ金属酸化物およびアルカリ金属弗化物のNa換算値とK換算値の合計:0.10%以下)
アルカリ金属酸化物およびアルカリ金属弗化物はアーク安定剤としても作用するのでNa換算値とK換算値の合計で0.10%以下添加することができる。Na換算値とK換算値の合計が0.10%を超えると、剥離性の悪いスラグが付着する。
【0025】
(アルカリ金属弗化物のF換算値:0.10%以下)
アルカリ金属弗化物は、スプレーアーク溶接のアークの集中性を高めアーク状態を良好にし、アーク不安定に起因するアンダーカットが発生しにくくなるのでアルカリ金属弗化物のF換算値で0.10%以下添加することができる。F換算値が0.10%を超えると、アークが強くなりすぎてスパッタ発生量が多くなる。
【0026】
(Ni:0.3〜1.5%、B:0.003〜0.010%の1種以上)
NiおよびBは、溶接金属の低温における靱性をさらに向上させる。Niが0.30%未満およびBが0.003%未満であると溶接金属の靭性向上は望めない。一方、Niが1.5%超またはBが0.010%超になると高温割れが生じやすくなる。
【0027】
なお、TiO2、SiO2、Al23、MgO、ZrO2等の金属酸化物は、極力少なくすることによってアーク状態が安定し、スパッタ発生量が少なくなる。また、溶接金属の酸素量を増加させて低温靱性を低下させるので金属酸化物の合計は0.15%以下に抑えることがよい。さらに、溶接金属の酸素量低減のためにTi、Al、MgおよびZr等の強脱酸剤の添加については、それぞれそれらの金属酸化物となりスラグ生成量を増加させるので避けることが好ましい。
【0028】
また、フラックス充填率(ワイヤ全質量に対する充填されたフラックス質量の割合)は、低いとショートアーク溶接およびスプレーアーク溶接でスパッタ発生量が多くなり、ビード形状は凸状で母材とのなじみが悪くなる。一方、高いとスプレーアーク溶接の高電流側でアークが広がりすぎるため母材にアンダーカットが発生しやすくなる。また、アーク力が弱まるため溶け込み深さが浅くなり、すみ肉溶接で溶け込み不足が発生しやすくなる。したがって、フラックス充填率は8〜20%であることが好ましい。
【0029】
溶接時のシールドガスは、スラグ生成量および溶接金属の酸素量を低減するためにAr−5〜25%CO2の混合ガスとする。
【0030】
本発明のAr−CO2溶接用メタル系フラックス入りワイヤは、フラックス充填後の伸線加工性が良好な軟鋼または合金鋼の外皮内にフラックスを充填後、ダイス伸線やローラ圧延加工により所定のワイヤ径(1.0〜1.6mm)に縮径して製造されるものである。ワイヤの断面構造は、市販のフラックス入りワイヤと同じでよく、特に限定するものではない。
【0031】
以下、実施例により本発明の効果をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0032】
まず、鋼製外皮にJIS G3141 SPCC帯鋼を使用し、表1に示すワイヤ径1.2mmの各種成分のフラックス入りワイヤを試作した。なお、フラックス充填率は8.5〜19%とした。
【0033】
表1に示すフラックス入りワイヤを用いて、板厚12mmの鋼板(JIS G3106 SM490A)をT字すみ肉試験体(長さ500mm)とし、表2に示す溶接条件で水平すみ肉溶接を行い、スプレーアーク溶接(条件No.1)およびショートアーク溶接(条件No.2)でアーク状態を調べた。また、スプレーアーク溶接(条件No.1)でスパッタ発生量、ビード形状、スラグ生成量を調査した。スパッタ発生量の測定は発生したスパッタ全量を捕集して溶接時間1分間当たりの発生質量に換算し、0.5g/min以下を良好とした。スラグ生成量は、ビード長1m当りの生成量に換算し、6g/m以下を良好とした。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
次に、JIS Z3313に準じて、板厚20mmの鋼板(JIS G3126 SLA235A)を用いて溶着金属試験を表2に示す溶接条件No.1で行い、引張試験片と衝撃試験片を採取して試験した。なお、引張強さは520〜640N/mm2、吸収エネルギーは試験温度−40℃で3本の平均値が60J以上を良好とした。それらの結果を表3にまとめて示す。
【0037】
【表3】

【0038】
表1および表3中ワイヤNo.1〜10が本発明例、ワイヤNo.11〜19は比較例である。本発明例であるワイヤNo.1〜10は、フラックスの金属粉量、ワイヤのC、Si、Mn、S、鉄粉および鉄粉の酸素量、アルカリ金属酸化物およびアルカリ金属弗化物および金属酸化物の合計ともに適切であるので、スプレーアーク溶接およびショートアーク溶接ともにアーク状態、スパッタ発生量、ビード形状、スラグ生成量、スラグ剥離性のいずれも良好で、また、溶着金属試験における機械的性質も優れており極めて満足な結果であった。
【0039】
比較例中ワイヤNo.11は、フラックス中の金属粉が少ないので相対的にアルカリ金属酸化物およびアルカリ金属弗化物および金属酸化物(スラグ生成剤)の合計量が増加したためスラグ発生量が多くスラグ除去に時間を要し、溶着量も少なかった。また、ショートアーク溶接ではアークが不安定でスパッタ発生量が多かった。さらに、溶接金属の酸素量が多くなって吸収エネルギーが低値であった。
【0040】
ワイヤNo.12は、Cが少ないのでアーク力が弱いためスプレーアーク溶接でアークが安定せず、大粒のスパッタが多発した。また、鉄粉が少ないので溶着量が少なかった。
【0041】
ワイヤNo.13は、Cが多いので溶接金属の引張強さが高く吸収エネルギーが低値であった。また、アークが強くなりすぎてスパッタ発生量が多かった。さらに、Sが少ないのでビード上にスラグが小さく散在して除去するのが困難であった。
【0042】
ワイヤNo.14は、Siが少ないので凸ビードとなった。また、引張強さが低く吸収エネルギーも低値であった。さらに、アルカリ金属弗化物のF換算値が多いのでアークが強くなりすぎてスパッタ発生量が多かった。
【0043】
ワイヤNo.15は、Siが高いので溶接金属の引張強さが高く吸収エネルギーが低値であった。また、アルカリ金属酸化物およびアルカリ金属弗化物のNa換算値とK換算値の合計が多いのでスラグ剥離性が不良であった。
【0044】
ワイヤNo.16は、Mnが少ないので引張強さが低く吸収エネルギーも低値であった。また、鉄粉が多いのでアークが不安定でスパッタ発生量が多かった。
【0045】
ワイヤNo.17は、Mnが多いので溶接金属の引張強さが高く吸収エネルギーが低値であった。また、Sが多いのでクレータ割れが生じた。
【0046】
ワイヤNo.18は、鉄粉の酸素量が多いので溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0047】
ワイヤNo.19は、アルカリ金属酸化物およびアルカリ金属弗化物および金属酸化物(スラグ生成剤)の合計量が多いのでスラグ量が多くスラグ除去に時間を要した。また、ショートアーク溶接ではアークが不安定でスパッタ発生量が多かった。さらに、溶接金属の酸素量が多くなって吸収エネルギーも低値であった。
【実施例2】
【0048】
鋼製外皮にJIS G3141 SPCC帯鋼を使用し、表4に示すワイヤ径1.2mmの各種成分のフラックス入りワイヤを試作した。表4に示すフラックス入りワイヤを用いて、JIS Z3313に準じて、板厚20mmの鋼板(JIS G3126 SLA235B)を用いて溶着金属試験を表2に示す溶接条件No.1で行い、引張試験片と衝撃試験片を採取して試験した。なお、引張強さは520〜640N/mm2、吸収エネルギーは試験温度−60℃で3本の平均値が60J以上を良好とした。それらの結果も表4にまとめて示す。
【0049】
【表4】

【0050】
表4中ワイヤNo.20〜25が本発明例、ワイヤNo.26〜29は比較例である。本発明例であるワイヤNo.20〜25は、ワイヤのNiまたはBの1種以上を適量含有しているので溶着金属試験における機械的性質が非常に優れていた。また、フラックスの金属粉量、ワイヤのC、Si、Mn、S、鉄粉および鉄粉の酸素量、アルカリ金属酸化物およびアルカリ金属弗化物および金属酸化物の合計ともに適切であるので、別途すみ肉溶接試験をしたスプレーアーク溶接およびショートアーク溶接のアーク状態、スパッタ発生量、ビード形状、スラグ生成量、スラグ剥離性のいずれも良好な結果であった。
【0051】
比較例中ワイヤNo.26はNiおよびBともに少ないので、ワイヤNo.28はBが少ないので、いずれも溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0052】
ワイヤNo.27はNiが多いので、ワイヤNo.29はBが多いので、いずれもクレータ割れが生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製外皮にフラックスを充填してなるAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用メタル系フラックス入りワイヤにおいて、
フラックスは金属粉を97質量%以上含み、
ワイヤ全質量に対する質量%で、
C:0.03〜0.12%、
Si:0.5〜1.2%、
Mn:1.5〜3.5%、
S:0.005〜0.05%、
酸素量が0.25%以下である鉄粉:4.0〜15.5%を含有し、
アルカリ金属酸化物、アルカリ金属弗化物および金属酸化物の1種または2種以上の合計:0.35%以下で、残部は主に鋼製外皮のFe成分、鉄合金等からのFe成分および不可避的不純物からなることを特徴とするAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用メタル系フラックス入りワイヤ。
【請求項2】
アルカリ金属酸化物およびアルカリ金属弗化物のNa換算値とK換算値の合計が0.10%以下、アルカリ金属弗化物のF換算値が0.10%以下であることを特徴とする請求項1に記載のAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用メタル系フラックス入りワイヤ。
【請求項3】
Ni:0.3〜1.5%、B:0.003〜0.010%の1種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のAr−CO2混合ガスシールドアーク溶接用メタル系フラックス入りワイヤ。

【公開番号】特開2009−255164(P2009−255164A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7865(P2009−7865)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(302040135)日鐵住金溶接工業株式会社 (172)
【Fターム(参考)】