BACE1抑制性抗体
本発明は、BACE1に対する特異性を有する抗体に関する。より詳しくは、本発明は、BACE1に結合しBACE1の活性を抑制しうるモノクローナル抗体、およびこれらの抗体の製造方法を提供する。該抗体は研究および医学的用途に使用されうる。具体的な用途はアルツハイマー病の治療のためのBACE1特異的抗体の使用を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BACE1に対する特異性を有する抗体に関する。より詳しくは、本発明は、BACE1に結合しBACE1の活性を抑制しうるモノクローナル抗体、およびこれらの抗体の製造方法を提供する。該抗体は研究および医学的用途に使用されうる。具体的な用途はアルツハイマー病の治療のためのBACE1特異的抗体の使用を含む。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(「AD」)は、世界中で数百万人の高齢患者を冒す破壊的な神経変性疾患であり、養護施設への入所の最も一般的な原因である。ADは、記憶、定位、認知機能、判断および情緒安定性の進行性喪失により臨床的に特徴づけられる。加齢と共に、ADの発症リスクは指数関数的に増加して、85歳までに、該集団の約20〜40%が罹患する。記憶および認知機能は、軽度ないし中等度の障害の診断から最初の5年以内に急速に悪化し、疾患合併症による死亡が、避けられない結末である。ADの確定診断は、患者からの脳組織の組織病理学的検査に基づいて、死後にはじめて可能となる。
【0003】
ADの2つの組織学的特徴は、共にAD患者の大脳皮質内の、過リン酸化タウタンパク質の神経原線維タングルの、およびタンパク質性アミロイドプラークの生成である。該アミロイドプラークは、主に、ベータ−アミロイド(β−アミロイド、アミロイドベーターまたはAベータとも称される)と称される37〜43アミノ酸のペプチドから構成される。Aベータペプチドは、ベータアミロイド前駆体タンパク質(APPとも称される)と称される1型内在性膜タンパク質から2つの連続的タンパク質分解事象により誘導されることが現在明らかである。まず、APPは、ベータ−セクレターゼ(膜結合アスパルチルプロテアーゼBACE1)と称される特異的タンパク質分解酵素により膜貫通アルファヘリックスのN末端の部位で加水分解される。この切断事象の可溶性N末端産物は膜から拡散し、C99と称される膜結合C末端切断産物を後に残す。ついでタンパク質C99は、ガンマ−セクレターゼと称される特異的タンパク質分解酵素により膜貫通アルファヘリックス内で更に加水分解される。この第2切断事象はAベータペプチドを遊離し、膜結合「スタブ(stub)」を残す。このようにして生成したAベータペプチドは細胞から細胞外マトリックス内に分泌され、その場所において、それは、ADに関連したアミロイドプラークを最終的に形成する。
【0004】
過去100年間の精力的な研究にもかかわらず、AD患者の予後は現在もなお、100年前と全く同じである。なぜなら、利用可能な真の治療法が尚も存在しないからである。2つのタイプの薬物、すなわち、アセチルコリンエステラーゼ(AchE)インヒビターおよびメマンチン(Memantine)が米国食品医薬品局により承認されており、ADを治療するために臨床において現在使用されている。AD病因に特異的なアミロイドプラークの主要成分であるアミロイドベータペプチドがAD疾患の発生において中心的な役割を果たしているという豊富な証拠が当技術分野に存在する(Hardyら.2002,Goldeら.2006)。したがって、Aβを低下させるための最も好ましい方法の1つは、γ−およびβ−セクレターゼインヒビターによりその産生を減少させることである。1つの方法はガンマ−セクレターゼインヒビターの開発であったが、ガンマ−セクレターゼは少なくとも30種のタンパク質のタンパク質分解プロセッシングに関与しているため、そのようなインヒビターは、しばしば、重大な副作用を引き起こす(De Strooperら,2003)。さらにもう1つの魅力的な方法はβ−セクレターゼ(BACE1)インヒビターの開発である。なぜなら、BACE1ノックアウトマウスは生存可能であり、明らかな病的表現型を有さないからである(例えば、Roberdsら,2001、Ohnoら,2004、Ohnoら,2006)。
【0005】
BACE1はメマプシン2およびAsp2とも称され、501アミノ酸の1型膜結合型アスパルチルプロテアーゼであり、それはペプシンファミリーの真核生物アスパラギン酸プロテアーゼと相当な構造的特徴を共有する(例えば、Hussainら,1999、Linら,2000)。他のアスパラギン酸プロテアーゼと同様に、BACE1はN末端シグナルペプチド(残基1−21)およびプロ−ペプチド(22−45)を有する。該21アミノ酸シグナルペプチドは該プロテアーゼをERへ移動させ、その場所において該シグナルペプチドは切断除去され、ついでBACE1はその場所から細胞表面へと導かれる。トランス−ゴルジネットワーク(TGN)を通過した後、BACE1の一部は細胞表面に標的化され、その場所からそれは初期エンドソーム区画内にインターナリゼーションされる。ついでBACE1は細胞表面への直接的再循環経路に進入し、あるいは、リソソームまたはTGNに行くことになる後期エンドソーム小胞に標的化される。TGNにおいては、それは細胞膜へ再輸送されうるであろう。成熟BACE1は、その長い半減期および速い再循環速度を考慮すると、その寿命中に細胞表面、エンドソーム系およびTGNの間を複数回にわたって循環しうる(例えば、Huseら,2000、Wahleら,2005)。β−部位におけるAPPのBACE1媒介性切断は初期エンドソームにおいて生じ、この場所においては、その酵素活性のためには酸性環境が最適である。しかし、いわゆるシュウェディッシュ(Schwedish)突然変異を含有するAPPが細胞基質として用いられた場合、β−切断はERおよびTGNにおいて優先的に生じた(Thinakaranら,1996)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hardy,J.and Selkoe,D.J.(2002)The amyloid hypothesis of Alzheimer’s disease:progress and problems on the road to therapeutics.Science,297(5580):353-6.
【非特許文献2】Golde TE, Dickson D,Hutton M.(2006).Filling the gaps in the abeta cascade hypothesis of Alzheimer’s disease.Curr Alzheimer’s Res,3:421-430.
【非特許文献3】De strooper B (2003):Aph-1,Pen-2,and Nicastrin with Presenilin generate an active γ−secretase complex.Neuron,38:9-12.
【非特許文献4】Roberds SL,Anderson J,Basi G,Bienkowski MJ,Branstetter DG,Chen KS,Freedman SB,Frigon NL,Games D,Hu K,et al(2001):BACE knockout mice are healthy despite lacking the primary β−secretase activity in brain:implications for Alzheimer’s disease therapeutics.Hum Mol Genet,10:1317-1324.
【非特許文献5】Ohno M,Sametsky EA,Younkin LH,Oakley H,Younkin SG,Citron M,Vassar R,Disterhoft JF(2004):BACE1 Deficiency Rescues Memory Deficits and Cholinergic Dysfunction in a Mouse Model of Alzheimer’s Disease.Neuron,41:27-33.
【非特許文献6】Ohno M,Chang L,Tseng W,Oakley H,Citron M,Klein WL,Vassar R,Disterhoft JF(2006):Temporal memory deficits in Alzheimer’s mouse models:rescue by genetic deletion of BACE1.Eur J Neurosci,23:251-260.
【非特許文献7】Hussain I,Powell D,Howlett DR,Tew DG,Meek TD,Chapman C,Gloger IS,Murphy KE,Southan CD,Ryan DM,et al (1999):Identification of a novel aspartic protease(Asp 2)as β−Secretase.Mol Cell Neurosci,14:419-427.
【非特許文献8】Lin X,Koelsch G,Wu S,Downs D,Dashti A,Tang J (2000):Human aspartic protease memapsin 2 cleaves the β−secretase site of β-amyloid precursor protein.Proc Natl Acad Sci USA,97:1456-1460.
【非特許文献9】Huse JT,Pijak DS,Leslie GJ,Lee VM,Doms RW.(2000)Maturation and endosomal targeting of β−site amyloid precursor protein−cleaving enzyme.The Alzheimer’s disease β−secretase.J Biol Chem,275:33729-33737.
【非特許文献10】Wahle,T.,Prager,K.,Raffler,N.,Haass,C.,Famulok,M. and Walter,J.(2005)GGA proteins regulate retrograde transport of BACE1 from endosomes to the trans-Golgi network.Mol.Cell.Neurosci.
【非特許文献11】Thinakaran G,Teplow DB,Siman R,Greenberg B,Sisodia SS.(1996)Metabolism of the’Swedish’amyloid precursor protein variant in neuro2a(N2a)cells.Evidence that cleavage at the’beta-secretase’site occurs in the golgi apparatus.J Biol Chem.271:9390-9397
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
BACE1はADの治療のための確立された主要薬物標的となっているが、BACE1に対する有効なインヒビター薬の開発は依然としてかなりの難題である。多大な努力がBACE1に対する小分子インヒビター薬の論理的設計に寄与しているが、BACE1活性部位の大きな且つ適合しない性質、ならびに高い効力および他のアスパラギン酸プロテアーゼに対する高い選択性を有する血液脳関門(BBB)透過薬を開発する必要性のため、その進歩は困難に直面している。したがって、ADに対する可能な療法としてBACE1を標的とする代替的アプローチが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概括
本発明の第1の態様は、BACE1の活性を抑制しうることにより特徴づけられる単離された抗BACE抗体に関する。
【0009】
1つの実施形態においては、該抗体はBACE1のエクトドメインに対するものである。
【0010】
特定の実施形態においては、該抗体は更に、アクセッション番号LMBP 6871CBまたはLMBP 6872CBまたはLMBP 6873CBを有するハイブリドーマ細胞系により分泌されることにより特徴づけられる。もう1つの特定の実施形態においては、該抗体は更に、ヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体であることにより特徴づけられる。
【0011】
本発明の第2の態様は、BACE1の活性を抑制しうることにより特徴づけられる、該抗体の活性フラグメントに関する。
【0012】
本発明のもう1つの態様は、アクセッション番号LMBP 6871CBまたはLMBP 6872CBまたはLMBP 6873CBを有するハイブリドーマ細胞系に関する。
【0013】
本発明の抑制性抗BACE1抗体は、医薬として、特に、アルツハイマー病の予防または治療を要する対象におけるアルツハイマー病を予防または治療するための多数の用途において有用である。より詳しくは、本発明の抑制性抗BACE1抗体は、アミロイドベーターペプチドおよび/またはアミロイドベータ前駆体タンパク質の生成の予防および/または軽減において使用されうる。
【0014】
本発明は更に、本発明の抗体または活性フラグメントと少なくとも1つの医薬上許容される担体、アジュバント(補助剤)または希釈剤とを含む医薬組成物に関する。
【0015】
最後に、本発明はまた、
(i)非ヒト動物をBACE1で免疫化し、
(ii)BACE1の活性を抑制しうる抗体に関して複数のハイブリドーマ系をスクリーニングし、
(iii)該抗体を産生するハイブリドーマを単離することを含む、BACE1の活性を抑制しうる抗体の製造方法を含む。
【0016】
1つの実施形態においては、前記方法の工程(i)における免疫化は、BACE1のエクトドメインを使用して行われる。もう1つの実施形態においては、前記の複数のハイブリドーマ系のスクリーニングは、細胞に基づくスクリーニング方法および/または無細胞スクリーニングアッセイにおいてBACE1の抑制活性を測定することによる機能性スクリーニングである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(A)BACE1抑制性mAbに関するハイブリドーマスクリーニングの概要図。更なる分析のために3つの候補体を選択した。mca−FRETアッセイスクリーニングからmAb 5G7および14F10を特定し、細胞アッセイスクリーニングからmAb 1A11を特定した。(B)BACCE1 MBP−C125SweアッセイにおけるmAb 5G7、14F10および1A11によるBACE1の抑制。基質は、マルトース結合タンパク質(MBP)とSwedish二重突然変異を含有するヒトAPPのカルボキシ末端の125アミノ酸との融合タンパク質である。それらの3つのmAbのIC50は0,47nM(5G7)、0.46nM(14F10)および0.76nM(1A11)である。
【図2】mcaFRETアッセイにおけるBACE1活性のモジュレーション。基質は小さなFRETペプチドMCA−SEVENLDAEFRK(Dnp)−RRRR−NH2である。それらの3つのmAbのIC50(またはEC50)は0.06nM(5G7)、1.6nM(14F10)および0.38nM(1A11)である。
【図3】MAb 1A11はSH−SY5Y/APPwt細胞におけるBACE1活性を抑制する。SH−SY5Y/APPwt細胞を300nM Mab 1A11、5G7および14F10(PBSに溶解されたもの)で処理した。PBSを陰性対照として使用し、化合物BACE1インヒビターを陽性対照(CT+)として使用した。24時間の処理の後、順化培地からのAβおよびsAPPβをウエスタンブロットにより分析した。MAb 11処理はAβおよびsAPPβの生成を減少させた。
【図4】MAb 1A11はマウス初代培養ニューロンにおけるBACE1活性を抑制する。初代培養ニューロンをセムリキ森林ウイルスによりヒトAPPwtで形質導入し、100nM MAb 1A11、MAb 5G7およびMAb 14F10(PBSに溶解されたもの)で処理した。PBSを陰性対照として使用し、化合物BACE1インヒビターを陽性対照として使用した。24時間の処理の後、順化培地および細胞抽出物をウエスタンブロットにより分析した。MAb 11処理はAβ、sAPPβおよびCTFβの生成を抑制した。
【図5】マウス初代培養ニューロンにおけるBACE1活性に対するMAB 1A11の用量依存性抑制効果。マウス初代培養ニューロンをセムリキ森林ウイルスによりヒトAPPwtで形質導入し、0.031nM〜100nMの希釈度範囲のMAb 1A11で処理した。ニューロンを35S−メチオニン標識で6時間にわたり代謝標識した。APP C末端ポリクローナル抗体でのIPの後、細胞抽出物からの完全長APPおよびCTFを蛍りん光体イメージングで検出した。順化培地からのAβおよびsAPPβを直接ウエスタンブロットにより分析した(A)。BACE1活性の抑制に関してCTFβレベルを定量した(B)。
【図6】MAb 1A11の抗原結合性フラグメント(Fab)はマウス初代培養ニューロンにおけるBACE11活性を抑制する。初代培養ニューロンをセムリキ森林ウイルスによりヒトAPPwtで形質導入し、MAb 1A11、MAb 5G7およびMAb 14F10(PBSに溶解されたもの)から作製された200nM Fabで処理した。24時間の処理の後、順化培地および細胞抽出物をウエスタンブロットにより分析した。MAb 11のFabはAβ、sAPPβおよびCTFβの生成を強力に抑制した。
【図7】MAb 1A11の立体空間的投与はBACE1活性をインビボで抑制する。野生型マウスの右半球の皮質および海馬に1μlのMAb 1A11(PBSに4μg/μlで溶解)を立体空間的に注射した。対照として、PBSを左半球の皮質および海馬に注射した。注射の24時間後、該マウスを犠死させ、脳サンプルをウエスタンブロットにより分析した。MAb 1A11は海馬および皮質の両方におけるCTFβの生成を抑制した。
【図8】MAb 1A11および5G7でのHEK−BACE1細胞の免疫蛍光染色。A.4% パラホルムアルデヒドで固定され、0.1% Triton X−100中で透過性にされた細胞の染色。B.4℃における生細胞の表面染色。
【図9】ウエスタンブロットにおけるBACE1欠失突然変異体でのMAb 1A11の免疫活性。(A)完全長免疫原BACE46−460(1#)および欠失突然変異体(2#〜9#)に関するスキーム。ここで用いられているアミノ酸の番号づけは、図14に示されている完全ヒトBACE1タンパク質のアミノ酸配列に対応している。(B)抗GST抗体はこれらの組換えタンパク質の全てを認識する。(C)欠失突然変異体1#(BACE46−460)、4#(BACE240−460)および8#(BACE314−460)は免疫反応性であるが、該欠失体の残りの全てはMAb 1A11に対する免疫反応性を有さない。
【図10】BACE1触媒ドメイン残基314−446(この図におけるSer253−Asn385)のC末端の三次元構造。この図を作成するためにPDBファイル2g94を使用した。ループD上の残基332−334およびループF上の残基376−379は黒色のリボンで表されており、残りの残基は灰色のリボンで表されている。
【図11】ループF上のアミノ酸376−379の突然変異誘発(mut376−9 SQDDからWAAAへ)およびループD上のアミノ酸332−334の突然変異誘発(mut332−4 QAGからAGAへ)はウエスタンブロットにおけるBACE1に対するMAb 1A11の免疫反応性を喪失させる。抗GST抗体は野生型およびmut376−9突然変異体BACE1(A)またはmut332−4突然変異体BACE1(B)を認識するが、MAb1A11は野生型BACE1しか認識しない。
【図12】ループF上のアミノ酸376−379の突然変異誘発(mut376−9 SQDDからWAAAへ)およびループD上のアミノ酸332−334の突然変異誘発(mut332−4 QAGからAGAへ)は免疫沈降におけるBACE1に対するMAb 1A11の免疫反応性を喪失させる。BACE1の野生型および突然変異形態を哺乳類細胞内で発現させ、細胞抽出物を免疫沈降に使用した。免疫沈降物を、抗BACE1モノクローナル抗体10B8を使用するウエスタンブロットで検出した。同様の量の野生型およびmut376−9突然変異体BACE1(A)またはmut332−4突然変異体BACE1(B)を免疫沈降のための投入物質として使用した。MAb 1A11は野生型BACE1だけに結合し、mut376突然変異体BACE1(A)にもmut332−4突然変異体BACE1(B)にも結合しなかった。BACE1上のコンホメーションエピトープを認識するもう1つのMAb 5G7を陽性対照として使用した。
【図13】BACE1 mut376−9およびmut332−4は細胞アッセイにおいて活性である。野生型APPで安定に発現されたHEK293細胞を突然変異体または野生型BACE1で一過性にトランスフェクトした。未トランスフェクト化(NT)細胞を陰性対照として使用した。sAPPβをBACE1活性に関する読出しとして検出した。未トランスフェクト化細胞と比較して、突然変異体BACE1、mut376−9(A)およびmut332−4(B)でトランスフェクトされた細胞はより高いレベルのsAPPβを生成した。このことは、該突然変異体がBACE1活性において尚も活性であることを示唆している。野生型BACE1と比較して、BACE1の突然変異形態は、BACE1レベルに対するsAPPβレベルの比による評価において同様のレベルの酵素活性を示した。
【図14】ヒトBACE1タンパク質のアミノ酸配列(アミノ酸1−501;配列番号1)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
定義
「抗原」なる語は、抗体のような免疫グロブリンが有するアフィニティーおよび特異性の対象である構造体、多くの場合はポリペプチドまたはタンパク質を意味する。「抗原決定基」、「抗原標的」および「エピトープ」なる語は全て、抗原上の、または抗体のような免疫グロブリンが有するアフィニティーおよび特異性の対象である抗原性構造体上の、特異的結合部位を意味する。
【0019】
「コンホメーションエピトープ」なる語は、抗体に厳密にフィット(嵌合)し結合することを可能にする、抗原の三次元表面特性を有するエピトープを意味する。例外は直鎖状エピトープであり、これは、タンパク質の3D形状(三次構造)ではなくアミノ酸配列(一次構造)により決定される。
【0020】
「抗体」なる語は、抗原または抗原決定基に対するアフィニティーを有するタンパク質またはポリペプチドを意味する。そのような抗体は、一般に、4本の鎖、すなわち、2本の重鎖および2本の軽鎖から構成され、したがって四量体である。その例外は、重鎖二量体から構成され軽鎖を欠くが尚も広範な抗原結合レパトワを有するラクダ抗体である。抗体は、通常、可変領域および定常領域の両方を有し、この場合、可変領域は大抵は該抗体の特異性の決定をもたらし、相補性決定領域(CDR)を含む。
【0021】
「特異性」なる語は、抗体のような免疫グロブリンが1つの抗原標的に、別の抗原標的と比べて優先的に結合する能力を意味し、必ずしも、高いアフィニティーを示唆するものではない。
【0022】
「アフィニティー」は、抗原および抗体の平衡を、それらの結合により形成される複合体が存在する方向へ移動させるように、抗体のような免疫グロブリンが抗原に結合する度合を意味する。したがって、抗原および抗体が比較的等しい濃度で合されている場合、高いアフィニティーの抗体は、生じる複合体の濃度を増加させる方向へ該平衡を移動させるように、利用可能な抗原に結合するであろう。
【0023】
「相補性決定領域」または「CDR」なる語は、H(重)鎖またはL(軽)鎖の可変領域内の可変ループ(それぞれVHおよびVLとも略称される)を意味し、抗原標的に特異的に結合しうるアミノ酸配列を含有する。これらのCDR領域は特定の抗原決定基構造に対する該抗体の基本的な特異性をもたらす。そのような領域は「超可変領域」とも称される。CDRは可変領域内の不連続的なアミノ酸伸長に相当するが、種には無関係に、可変重鎖および軽鎖領域内のこれらの決定的なアミノ酸配列の位置は該可変鎖のアミノ酸配列内の類似位置を有することが判明している。全ての正規(canonical)抗体の重鎖および軽鎖の可変領域はそれぞれ、3つのCDR領域(L1、L2、L3、H1、H2、H3と称される)を有し、それぞれは、それぞれの軽(L)鎖および重(H)鎖に関するその他のものに対して不連続的である。受け入れられているCDRはKabatら(1991)に記載されている。「対象」なる語はヒトおよび他の哺乳動物を意味する。
【0024】
発明の範囲
BACE1はアルツハイマー病(AD)治療のための確立された主要薬物標的となっているが、BACE1に対する有効なインヒビター薬の開発は依然としてかなりの難題である。多くの労力はBACE1インヒビターの論理的設計に集中している。しかし、有効なBACE1インヒビター薬の出現は遅々たるものである。ADに対する可能な療法としてのBACE1を標的とする代替的アプローチが現われることが必要とされている。
【0025】
本発明においては、BACE1に対する特異性を有するモノクローナル抗体(mAb)の作製により、BACE1の活性の代替的インヒビターを開発した。ハイブリドーマスクリーニングにおいて機能性アッセイ(BACE1 FRETアッセイおよび細胞に基づく活性アッセイ)を適用することにより、BACE1に対するmAbインヒビターが成功裏に得られた。本発明のスクリーニング法は、BACE1または他の類似プロテアーゼに関するmAbモジュレータースクリーニングに実施可能であることが実証されている。特に、BACE1活性を抑制しうるこれらのBACE1特異的モノクローナル抗体はアルツハイマー病の予防および/または治療に使用されうる。限定的なものではないが一例としては、酵素アッセイ、培養ニューロン、およびC57BL6マウスの海馬/皮質への立体空間的投与によりインビボにおいて、mAb 1A11はBACE1活性を抑制することが示された(実施例2〜6)。mAb 1A11は、非常に選択的(結合エピトープはBACE1の特有の構造体上に存在する−実施例7を参照されたい)、かつ非常に強力(ニューロン培養においてIC50 〜4nM−実施例4を参照されたい)な薬物候補であると考えられている。
【0026】
したがって、本発明の第1の態様は、BACE1の活性を抑制しうることにより特徴づけられる単離された抗BACE1抗体に関する。
【0027】
「活性の抑制」は活性の「ダウンレギュレーション」と同意義であると理解される。一般に、抑制は、BACE1の活性が少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または更には96%、97%、98%、99%または更には100%抑制されることを意味する。BACE1の抑制は、本明細書中に実施例において更に詳細に記載されているとおりに決定されうる。該抑制性抗体はBACE2または他のアスパラギン酸プロテアーゼの活性を抑制しない、すなわち言い換えると、BACE2または他のアスパラギン酸プロテアーゼに比べ選択的であることは明らかなはずである。
【0028】
もう1つの実施形態においては、該抗体は更に、アクセッション番号LMBP 6871CBまたはLMBP 6872CBまたはLMBP 6873CBを有するハイブリドーマ細胞系により分泌されることにより特徴づけられる。
【0029】
特定の実施形態においては、該抗体はBACE1のエクトドメインに特異的に結合する。より詳しくは、該抗体は、BACE1エピトープ、特にBACE1コンホメーションエピトープ、より詳しくはBACE1コンホメーションエピトープへの結合に関して特異的である。限定的なものではないが一例としては、該コンホメーションエピトープは、ループDおよびFの組合せ、より詳しくは、ループDの残基332−334(QAG)とループFの残基376−379(SQDD;配列番号11)との組合せを含みうる。ループDおよびFはHongら(2000)に記載されている。
【0030】
特定の実施形態としては、該抗体は、ヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体であることにより更に特徴づけられる。
【0031】
ポリペプチド治療用物質、特に、抗体に基づく治療用物質は、薬物としての相当な潜在性を有する。なぜなら、それらはそれらの標的に対する非常に優れた特異性および低い固有毒性を有するからである。特に、モノクローナル抗体の特徴、例えば高いアフィニティー、高い選択性、ならびに治療用運搬のためのタンパク質操作に適した特有の構造および機能ドメインは、それらを潜在的な薬物候補にする。BACE1は細胞表面を介して輸送されると報告されている(背景の節も参照されたい)。BACE1抑制性モノクローナル抗体はBACE1を細胞表面に標的化することが可能であり、インターナリゼーションされてエンドサイトーシス経路におけるAβ生成を抑制しうる。
【0032】
しかし、治療上有用な標的に対して得られた抗体は、投与の際のヒト個体における望ましくない免疫反応を回避するために、それをヒトの治療のために調製するためには、追加的な修飾を要することが当業者に公知である。該修飾過程は一般に「ヒト化」と称される。ヒト以外の種において産生された抗体は、該抗体をヒトにおいて治療上有用にするためにはヒト化を要することが、当業者に公知である((1)CDRグラフティング:Protein Design Labs:US6180370,US5693761;Genentech US6054297;Celltech:EP626390,US5859205;(2)ベニアリング(Veneering):Xoma:US5869619,US5766886,US5821123)。抗体のヒト化は組換えDNA技術を含み、HおよびL鎖をコードするげっ歯類および/またはヒトゲノムDNA配列の一部から、あるいはHおよびL鎖をコードするcDNAクローンから出発する。非ヒト抗体のヒト化のための技術は当業者に公知であり、これらは現在の技術水準の一部を構成する。非ヒト哺乳類抗体または動物抗体はヒト化されうる(例えば、WinterおよびHarris 1993を参照されたい)。本発明の抗体またはモノクローナル抗体は、例えば、げっ歯類抗体またはげっ歯類モノクローナル抗体のヒト化形態でありうる。
【0033】
本発明のもう1つの態様は、本発明の抗BACE1抗体を抑制する活性フラグメントに関する。
【0034】
「活性フラグメント」なる語は、それ自体が抗原決定基またはエピトープに対して高いアフィニティーを有する、抗体の一部を意味し、そのような特異性をもたらす1以上のCDRを含有する。非限定的な例には、Fab、F(ab)’2、scFv、重−軽鎖二量体、ナノボディ、ドメイン抗体、および一本鎖構造体、例えば完全軽鎖または完全重鎖が含まれる。本発明を考慮した場合の該フラグメントの「活性」のための追加的要件は、該フラグメントがBACE1活性を抑制しうることである。本発明の抗体またはそれらの活性フラグメントは適当な標識により標識されることが可能であり、該標識は、例えば酵素型、比色型、化学発光型、蛍光型または放射能型のものでありうる。
【0035】
本発明のもう1つの態様は、本発明の抑制性抗BACE1抗体を分泌する、アクセッション番号LMBP 6871CBまたはLMBP 6872CBまたはLMBP 6873CBを有するハイブリドーマ細胞系に関する。
【0036】
本発明の抑制性抗BACE1抗体は、医薬として、特に、アルツハイマー病の予防または治療を要する対象におけるアルツハイマー病を予防または治療するための多数の用途において有用である。さらにもう1つの実施形態においては、該抗体は、BACE1の過剰発現に関連した疾患を治療するための医薬の製造に使用されうる。BACE1の過剰発現が生じる疾患の一例はアルツハイマー病である。特定の実施形態においては、本発明の抗体またはその活性フラグメントはアミロイドベータペプチド(Aβ)および/またはアミロイドベータ前駆体タンパク質(APP)の生成の予防および/または軽減において使用されうる。
【0037】
一般に、「治療的有効量」、「治療的有効用量」および「有効量」は、所望の結果(BACE1結合の抑制;アルツハイマー病の治療または予防)を達成するのに必要な量を意味する。効力および従って「有効量」は、本発明において使用されるBACE1結合を抑制する抗体によって様々となりうる、と当業者は認識するであろう。当業者は該抗体の効力を容易に評価することが可能である。「医薬上許容される」は、生物学的にもその他においても有害でない物質に関して用いられ、すなわち、該物質は、望ましくない生物学的効果を及ぼしたり、含有されている医薬組成物の他の成分のいずれかと有害な様態で相互作用することなく、該化合物と共に個体に投与されうる。
【0038】
「治療するための医薬」なる語は、本明細書に記載されている疾患を治療または予防するための、前記の抗体と医薬上許容される担体または賦形剤(それらの両方の用語は互換的に用いられうる)とを含む組成物に関するものである。前記の抗体またはその医薬上許容される塩の投与は、経口、吸入または非経口投与によるものでありうる。特定の実施形態においては、該抗体は鞘内または脳室内投与により運搬される。該活性化合物は単独で投与されることが可能であり、あるいは好ましくは、医薬組成物として製剤化されうる。該抗体により認識される抗原を発現するアルツハイマー病を治療するのに有効な量は、通常の要因、例えば、治療される障害の性質および重症度ならびに該哺乳動物の体重に左右される。しかし、単位用量は、通常、抗体またはその医薬上許容される塩0.01から50mg、例えば、0.01から10mg、または0.05から2mgである。単位用量は、合計1日量が通常、0.0001から1mg/kgの範囲となるよう、通常、1日1回または2回以上、例えば、1日2、3または4回、より通常は、1日1から3回投与される。例えば、70kgの成人に対する適当な合計1日量は0.01から50mg、例えば、0.01から10mg、またはより通常は0.05から10mgである。該化合物またはその医薬上許容される塩は、単位投与組成物、例えば、単位投与経口、非経口または吸入組成物の形態で投与されることが非常に好ましい。そのような組成物は混合により製造され、適切には、経口、吸入または非経口投与に適合化され、したがって、錠剤、カプセル剤、経口液体製剤、散剤、顆粒剤、ロゼンジ、還元(再構成)可能な散剤、注射可能および注入可能な溶液もしくは懸濁液、または坐剤またはエアロゾル剤の形態でありうる。経口投与用の錠剤およびカプセル剤は、通常、単位用量で提供され、通常の賦形剤、例えば結合剤、充填剤、希釈剤、打錠剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、香味剤および湿潤剤を含有する。錠剤は、当技術分野におけるよく知られた方法によりコーティングされうる。使用される適当な充填剤には、セルロース、マンニトール、ラクトースおよび他の同様の物質が含まれる。適当な崩壊剤には、デンプン、ポリビニルピロリドンおよびデンプン誘導体、例えばデンプングリコール酸ナトリウムが含まれる。適当な滑沢剤には、例えば、ステアリン酸マグネシウムが含まれる。適当な医薬上許容される湿潤剤には、ラウリル硫酸ナトリウムが含まれる。これらの固体経口組成物は、混合、充填、打錠などの通常の方法により製造されうる。多量の充填剤を使用する組成物の全体にわたって活性物質を分配させるために、反復混合操作が用いられうる。そのような操作は、勿論、当技術分野における常套手段である。経口液体製剤は、例えば、水性または油性の懸濁剤、溶液剤(水剤)、乳剤(エマルション)、シロップ剤またはエリキシル剤の形態であることが可能であり、あるいは使用前に水または他の適当なビヒクルで還元するための乾燥製品として提供されうる。そのような液体製剤は、通常の添加剤、例えば懸濁化剤、例えばソルビトール、シロップ、メチルセルロース、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲルまたは硬化食用脂肪、乳化剤、例えばレシチン、ソルビタンモノオレアートまたはアカシア;非水性ビヒクル(これには食用油が含まれる)、例えばアーモンド油、分別化ヤシ油、油性エステル、例えば、グリセリン、プロピレングリコールまたはエチルアルコールのエステル;保存剤、例えばp−ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはプロピルまたはソルビン酸、そして所望により、通常の香味剤または着色剤を含有しうる。経口製剤には、通常の徐放製剤、例えば、腸溶コーティングを有する錠剤または顆粒剤も含まれる。好ましくは、吸入用の組成物は、気道への投与用に、嗅剤またはエアロゾル剤または溶液剤(ネブライザー用のもの)として、あるいは吹送法用の微細散剤として、単独で又は不活性担体、例えばラクトースと組合せて提供される。そのような場合、活性化合物の粒子は、適切には、50ミクロン未満、好ましくは10ミクロン未満、例えば1から5ミクロン、例えば2から5ミクロンの直径を有する。好ましい吸入用量は0.05から2mg、例えば0.05から0.5mg、0.1から1mg、または0.5から2mgの範囲である。非経口投与の場合には、本発明の化合物と無菌ビヒクルとを含有する流体単位用量形態を製造する。該活性化合物は、該ビヒクルおよび濃度に応じて、懸濁または溶解されうる。非経口溶液は、通常、該化合物をビヒクルに溶解し、滅菌濾過した後で適当なバイアルまたはアンプル内に充填し密封することにより製造される。有利には、補助剤、例えば局所麻酔薬、保存剤および緩衝剤も該ビヒクルに溶解される。安定性を増強するために、バイアル内への充填後、該組成物を凍結し、真空下で水を除去することが可能である。非経口懸濁剤は、該化合物を溶解する代わりにビヒクルに懸濁させエチレンオキシドにさらすことにより滅菌した後で無菌ビヒクルに懸濁させること以外は、実質的に同じ方法で製造される。有利には、該活性化合物の均一な分布を促進させるために、界面活性剤または湿潤剤を該組成物中に含有させる。適当な場合には、少量の気管支拡張薬、例えば交感神経興奮性アミン、例えばイソプレナリン、イソエタリン、サルブタモール、フェニレフリンおよびエフェドリン;キサンチン誘導体、例えばテオフィリンおよびアミノフィリン、ならびにコルチコステロイド、例えばプレドニゾロンおよび副腎刺激剤、例えばACTHが含有されうる。慣例のとおり、該組成物には、通常、関係のある医学的治療における使用のための、書面の又は印刷された説明が付属する。
【0039】
本発明の更にもう1つの実施形態においては、本発明の抗体は、血液脳関門(BBB)を越える輸送を可能にするように製剤化されうる(Pardrigde 2007)。本発明の抗体のBBB輸送は、限定的なものではないが分子トロイ木馬(molecular Trojan horse)により達成されうる。現在公知の最も有効なBBB分子トロイ木馬はヒトインスリン受容体に対するモノクローナル抗体(HIRmAb)である。アルツハイマー病に対する、抗体に基づく新規治療法として、BBBを通過させるために、抗アミロイドベータモノクローナル抗体が操作され、HIRmAbに融合されている(Boadoら,2007)。また、脳への抗体に基づく薬物の運搬を促進させるために、種々の薬物運搬系(例えば、とりわけ、ミクロスフェア、ナノ粒子、ナノゲル)が研究中であり(Patelら,2009)、これらの全ては本発明の実施において使用されうる。
【0040】
本発明は更に、本発明の抗体または活性フラグメントと少なくとも1つの医薬上許容される担体、アジュバント(補助剤)または希釈剤とを含む医薬組成物に関する。
【0041】
本発明は更に、その医薬上許容される塩またはその医薬上許容される溶媒和物と、必要に応じて、その医薬上許容される担体とを含む、本明細書に記載されている障害の治療および/または予防において使用するための医薬組成物を提供する。
【0042】
「担体」または「アジュバント」、特に「医薬上許容される担体」または「医薬上許容されるアジュバント」は、該組成物の投与を受ける個体に有害な抗体の産生をそれ自体は誘導せず、また、防御も惹起しないいずれかの適当な賦形剤、希釈剤、担体および/またはアジュバントである。好ましくは、医薬上許容される担体またはアジュバントは、抗原により惹起される免疫応答を増強する。適当な担体またはアジュバントは、典型的には、以下の非網羅的一覧に含まれる化合物の1以上を含む:大きな遅代謝巨大分子、例えばタンパク質、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、重合体アミノ酸、アミノ酸共重合体および不活性ウイルス粒子。
【0043】
「希釈剤」、特に「医薬上許容されるビヒクル」には、ビヒクル、例えば水、塩類液(食塩水)、生理的塩類液、グリセロール、エタノールなどが含まれる。補助的物質、例えば湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質、保存剤がそのようなビヒクルに含有されうる。
【0044】
アルツハイマー病に対する本発明の治療方法は、当技術分野で公知のいずれかの他のAD疾患療法、例えばガンマ−セクレターゼインヒビターまたは他のベータ−セクレターゼインヒビターと組合せて使用することも可能であることが、明らかなはずである。
【0045】
本発明は更に、BACE1の活性を抑制しうる抗BACE1抗体の単離された相補性決定領域(CDR)に関する。該CDRも、例えば担体、アジュバントまたは希釈剤を更に含む組成物中に含有されうる。該単離CDR核酸配列、ならびにそのようなCDR核酸を含むいずれかのベクターまたは組換え核酸(DNA、RNA、PNA、LNAまたはそれらのいずれかのハイブリッド;直鎖状または環状;鎖数には無関係)は、本発明の一部である。そのようなCDR核酸配列、ベクターまたは組換え核酸を含むいずれかの宿主細胞も同様に、本発明の一部である。
【0046】
本発明はまた、BACE1の活性を抑制しうる抗BACE1抗体の単離された可変領域に関する。該可変領域も、例えば担体、アジュバントまたは希釈剤を更に含む組成物中に含有されうる。該単離可変領域核酸配列、ならびにそのような可変領域核酸を含むいずれかのベクターまたは組換え核酸(DNA、RNA、PNA、LNAまたはそれらのいずれかのハイブリッド;直鎖状または環状;鎖数には無関係)は、本発明の一部である。そのような可変領域核酸配列、ベクターまたは組換え核酸を含むいずれかの宿主細胞も同様に、本発明の一部である。
【0047】
本発明のもう1つの態様は、前記の少なくとも1つのCDRまたは前記の少なくとも1つの可変領域を含む、BACE1活性を抑制しうる化合物に関する。そのような化合物はアルツハイマー病の予防および/または治療において使用されうる。該化合物も、例えば担体、アジュバントまたは希釈剤を更に含む組成物中に含有されうる。そのような化合物の非限定的な例はタンパク質アプタマー、および二重特異性抗体またはその活性フラグメントである。
【0048】
本発明のもう1つの態様は、
(i)非ヒト動物をBACE1で免疫化し、
(ii)BACE1の活性を抑制しうる抗体に関して複数のハイブリドーマ系をスクリーニングすることを含む、BACE1の活性を抑制しうる抗体の製造または作製または選択方法を含む。
【0049】
あるいは、本発明はまた、
(i)非ヒト動物をBACE1で免疫化し、
(ii)BACE1の活性を抑制しうる抗体に関して複数のハイブリドーマ系をスクリーニングし、
(iii)該抗体を産生するハイブリドーマを単離することを含む、BACE1の活性を抑制しうる抗体の製造または作製または選択方法を含む。
【0050】
いずれかの適当な動物、例えば温血動物、特に哺乳動物、例えばウサギ、マウス、ラット、ラクダ、ヒツジ、ウシまたはブタ、あるいは鳥類、例えばニワトリまたはシチメンチョウが、免疫応答の生成に適した当技術分野でよく知られた技術のいずれかを用いて、BACE1またはその少なくとも一部、断片、抗原決定基またはエピトープで免疫化されうる。動物を免疫化するための方法は当技術分野でよく知られている。当業者により認識されるとおり、免疫原を、免疫応答を増強するためのアジュバントまたはハプテン(例えば、完全または不完全フロイントまたはリピドAアジュバント)と、あるいは担体、例えばキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)と混合することが可能である。適当な動物を免疫化し、該抗原に対する免疫応答が該動物により確立されたら、該動物からの抗体産生細胞をスクリーニングして、所望の活性を有する抗体を産生する細胞を特定する。多数の実施形態においては、これらの方法は、免疫化動物の脾臓からの細胞を適当な不死細胞と融合させてハイブリドーマ細胞を得るハイブリドーマ技術を用いる。これらのハイブリドーマ細胞からの上清をスクリーニングすることが可能であり、標準的な方法(例えば、Harlowら,1998,Antibodies:A Laboratory Manual,First edition(1998)Cold Spring Harbor,N.Y.)に従い、陽性クローンを増殖させる。
【0051】
前記方法の工程(i)の免疫化は、BACE1またはその少なくとも一部、断片、抗原決定基またはエピトープを使用して行われうる。特に、該免疫化は、BACE1のエクトドメインを使用して行われうる。工程(ii)におけるハイブリドーマ系のスクリーニングは、自体公知の1以上のスクリーニング技術を用いて行われうる。好ましい実施形態においては、実施例において非限定的に例示されているとおり、細胞に基づくスクリーニングアッセイおよび/または無細胞スクリーニングアッセイにおいてBACE1の抑制活性を測定することにより機能性スクリーニングを行う。もう1つの好ましい実施形態においては、該抗体はモノクローナル抗体である。
【0052】
特定の実施形態においては、本発明の抗体は診断アッセイの調製のために使用されうる。BACE1は、種々の細胞および組織、特に、脳細胞および組織において検出されることが可能であり、この場合、発現の度合はアルツハイマー病の重症度を裏づける。したがって、生物学的サンプルにおけるBACE1発現の局在化および分布をインシトゥ(in situ)で検出する方法を提供する。該方法は、該生物学的サンプルを、本発明の検出可能な抗BACE1抗体と反応させ、該抗体の局在化および分布を検出する工程を含む。「生物学的サンプル」なる語は、脳細胞および組織(これらに限定されるものではない)を含む細胞および組織を意味する。該用語は更に、体液を意味する。したがって、患者の体液中のBACEタンパク質の検出方法を提供する。該方法は、体液を本発明の抗BACE抗体と反応させ、該反応をモニターする工程を含む。該体液は、例えば血漿、尿、脳脊髄液、胸水または唾液である。該反応のモニターは、検出可能な部分で該抗体を標識することにより、または、検出可能部分を含む第2抗体が特異的に結合しうる固有検出可能部分としてその定常領域を使用して行われうる。CSF BACE1は、例えば、アルツハイマー病に罹患した患者において検出されうる。本発明の好ましい実施形態においては、体液と該抗BACE1抗体との反応を溶液中で行う。あるいは、体液と該抗BACE1抗体との反応を、体液中に存在するタンパク質を吸着しうる基質上で行う(全て、抗体に基づく診断の分野でよく知られている)。さらに、本発明においては、生物学的サンプル中のBACE1タンパク質の存在、非存在またはレベルの検出方法を提供する。該方法は以下の工程を含む。第1に、生物学的サンプルからタンパク質を抽出し、それにより複数のタンパク質を得る。該タンパク質抽出物は粗抽出物であることが可能であり、非タンパク質性物質をも含みうる。第2に、該タンパク質を、例えば電気泳動、ゲル濾過などにより、サイズにより分離する。第4に、該サイズ分離タンパク質を抗BACE1抗体と相互作用させる。最後に、相互作用した抗BACE1抗体の存在、非存在またはレベルを検出する。ゲル電気泳動の場合、該抗体との相互作用は、典型的には、該サイズ分離タンパク質を固体支持体(膜)上にブロットした後で行われる。
【0053】
前記抗BACE1抗体またはその活性フラグメントの製造方法は本発明の肝要な態様を構成する。特に、そのような方法は、
(i)該抗体または抗体フラグメントの組換え発現により、あるいは該抗体または抗体フラグメントの化学合成により、該抗体または抗体フラグメントの粗調製物を得、(ii)(i)において得られた粗調製物から該抗体または抗体フラグメントを精製する工程を含みうる。あるいは、
(i)該抗体の組換え発現により、あるいは該抗体の化学合成により、該フラグメントを含む抗体の粗調製物を得、
(ii)(i)において得られた粗調製物から該抗体を精製し、
(iii)(ii)において精製された抗体から活性フラグメントを単離する工程を含む方法により、本発明の抗BACE1抗体を抑制する活性フラグメントが入手または製造されうる。
【0054】
前記方法においては、組換え発現はハイブリドーマ細胞系における発現に限定されない。
【0055】
(i)本発明の抑制性抗BACE1抗体、(ii)(i)の活性フラグメント、(iii)(i)のCDRアミノ酸配列、(iv)(i)の可変領域アミノ酸配列、または(v)(i)、(ii)、(iii)または(iv)を含む化合物を含むおよび/または分泌する任意の宿主細胞も同様に、本発明の一部である。
【実施例】
【0056】
生物寄託
本明細書の全体に記載されているモノクローナル抗体を分泌する以下のハイブリドーマ細胞系はブダペスト条約に従い寄託された。
【0057】
【表1】
【0058】
該寄託機関の詳細は以下のとおりである:BCCM/LMBP Plasmid Collection:Department of Biomedical Molecular Biology Ghent University,‘Fiers−Schell−Van Montagu’building,Technologiepark 927,B−9052 Gent−Zwijnaarde,Belgium。
【0059】
「MAB−B1−1A11」および「1A11」なる表記は、本発明の全体において、対象ハイブリドーマ細胞系または該ハイブリドーマ細胞系により分泌されるモノクローナル抗体に関して互換的に用いられる。
【0060】
「MAB−B1−14F10」および「14F10」なる表記は、本発明の全体において、対象ハイブリドーマ細胞系または該ハイブリドーマ細胞系により分泌されるモノクローナル抗体に関して互換的に用いられる。
【0061】
「MAB−B1−5G7」および「5G7」なる表記は、本発明の全体において、対象ハイブリドーマ細胞系または該ハイブリドーマ細胞系により分泌されるモノクローナル抗体に関して互換的に用いられる。
【0062】
材料および方法
免疫化およびハイブリドーマの製造
5匹の9週齢BACE1−/BACE2−/−マウスに4週間隔で4回の免疫化を行った。それぞれの免疫化はフロイントアジュバントとの1:1混合物中の精製ヒトBACE1エクトドメインタンパク質(アミノ酸45−460;HEK293細胞培養から産生)の1回の腹腔内注射を含むものであった。第1の免疫化はフロイント完全アジュバントとの1:1混合物中の50μgの免疫原を含むものであった。一方、全ての後続の免疫化はフロイント不完全アジュバントとの混合物中の40μgの免疫原を使用した。4回目の免疫化の2週間後、各免疫化マウスの血清中のBACE1特異的抗体をELISAにより力価測定した。最高力価(ELISAにおいて40,000回の希釈の後で検出可能)を示す2匹のマウスをハイブリドーマの作製のために選択した。
【0063】
血清抗体価が有意に低下した、4回目の免疫化の3ヵ月後に、ハイブリドーマを製造した。30μgの免疫原を使用して、尾静脈における1回の静脈内注射からなる1回の最終追加抗原を各マウスに投与した。マウスを犠死させ、脾臓を単離し、骨髄腫細胞と4:1の比で融合させた。合計2億個の脾細胞を集め、5000万個の骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを得、細胞混合物を、マウス支持細胞層でコーティングされた27個の96ウェルプレート内に分割した。細胞を、まず、ハイブリドーマ選択のためにHAT培地内で2週間培養し、ついで、15% FCS(Hyclone)で補足された通常増殖培地DMEM(Invitrogen)への交換の前にHA培地内で更に1週間培養した。該ウェルの90%以上がハイブリドーマ選択後の細胞増殖を示している。
【0064】
ELISAによるハイブリドーマのスクリーニング
抗BACE1抗体を産生する陽性ハイブリドーマクローンのELISAスクリーニングを標準的なELISAプロトコールに従い行った。簡潔に説明すると、96ウェル塩化ポリビニルプレート(BD Falcon)を1μg/ml 精製BACE1エクトドメインタンパク質(PBS中)で50μl/ウェルで4℃で一晩コーティングした。PBS中の2% BSAで室温(RT)で1時間ブロッキングした後、50μlのハイブリドーマ上清を該プレートに加え、2時間温置した。ついで該プレートをPBS+0.05% Tween−20で洗浄し、ブロッキングバッファー中の1:5000希釈の抗マウスIgG−HRP(Innova Biosciences)と共に室温で1時間温置した。洗浄後、プレートを0.1M NaAc(pH 4.9)および0.03% H2O2中の50μlの0.2mg/ml テトラメチルベンジジン(sigma)で25分間現像した。50μlの2M H2SO4を加えることにより反応を停止させ、OD450nmでELISAリーダー上でプレートを読取った。
【0065】
mca−Fretアッセイによるハイブリドーマのスクリーニング
ハイブリドーマのmca−Fretアッセイスクリーニングを、Eli Lillyにより提供された標準的なプロトコールを幾らか変更したものにより行った。簡潔に説明すると、酵素BACE1Fcを反応バッファー(50mM 酢酸アンモニウム,pH 4.6,3% BSA,0.7% TritonX−100)中で1μg/mlの濃度で希釈し、小さなFRETペプチド基質MCA−SEVENLDAEFRK(Dnp)−RRRR−NH2を反応バッファー中で125μMの濃度で希釈した。96ウェル黒色ポリスチレンプレート(Costar)内で20μlのハイブリドーマ上清を30μlの酵素希釈液および50μlの基質希釈液と混合し、該プレートをベースラインシグナルに関してEnvision(355nm励起、430nm発光、1秒/ウェル)で直ちに読取り、ついで暗所で室温で一晩温置した。翌朝、同じ読取りプロトコールを用いて該プレートを読取った。
【0066】
免疫蛍光染色によるハイブリドーマのスクリーニング
BACE1を安定に発現するHEK293細胞を、0.2mg/ml ポリ−L−リシンで予め処理された96ウェルプレート上で増殖させた。細胞をPBSで洗浄し、ついで4% パラホルムアルデヒドで固定し、0.1% Triton X−100中で透過性亢進させた。ブロッキングバッファー(PBS中の2%FCS,2% BSAおよび0.2% ゼラチン)中で希釈された5% ヤギ血清で該細胞を4℃で一晩ブロッキングした後、50μlのハイブリドーマ上清を各ウェルの細胞に加え、室温で2時間温置した。ついで細胞を洗浄し、ブロッキングバッファー中で1:1000希釈のAlexa Fluor 488ヤギ抗マウスIgG(Invitrogen)と共に室温で1時間にわたり更に温置した。洗浄後、IN Cell Analyser 1000(Ammersham/GE Healthcare)により96ウェルプレートを読取った。
【0067】
細胞アッセイによるハイブリドーマのスクリーニング
APPを安定に発現するSH−SY5Y細胞を90%コンフルエントまで24ウェルプレート上で増殖させた。洗浄後、4.5g/L グルコース、0.11g/L ピルビン酸ナトリウムおよび15% FCSで補足された100μlの新鮮増殖培地DMEMと混合された100μlのハイブリドーマ上清で、37℃、5%CO2および70%相対湿度で細胞を処理した。新鮮培地と混合された陰性ハイブリドーマ細胞からの上清を陰性対照として使用した。24時間の処理の後、順化培地を集め、13,000rpm、4℃で5分間遠心分離し、抗体抗sAPPβポリクローナル抗体(Covance)および6E10(Signet)を使用するウエスタンブロットによりsAPPβおよびsAPPαに関して上清を分析した。
【0068】
イソタイプ決定、サブクローニングおよび抗体精製
Mouse Monoclonal Antibody Isotypingキット(Roche)を該製造業者の説明に従い使用して、1A11、5G7、14F10および2G3のイソタイプを1gG1(1A11,5G7)、1gG2b(14F10)およびIgM(2G3)と決定した。ハイブリドーマクローン1A11、5G7および14F10を限界希釈により4回サブクローニングした。4mM グルタミン、4g/L D−グルコースおよび15% FCSで補足されたDMEM培地を使用してCellineCL−1000バイオリアクター(VWR)においてハイブリドーマクローンを37℃、5%CO2および70%相対湿度で培養することにより、抗体産生を行った。該抗体を、プロテインGセファロース4(Sigma)を使用するアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、透析膜MWCO 6000−8000ダルトン(Spectrum)を使用してPBS中で透析した。それぞれの6〜7日間培養されたバイオリアクターからの抗体の収量は約4〜10mgであった。抗体のアリコートを液体窒素により急速凍結した後、−70℃で貯蔵した。
【0069】
セムリキ森林ウイルス形質導入および代謝標識を用いるmAbのニューロンアッセイ試験
野生型マウス由来の混合皮質ニューロンの初代培養を作製するために、14日齢の胚の全脳をHBSS培地(Gibco)内で解剖し、トリプシン処理し、ポリ−L−リシン(Sigma−Aldrich)で予めコーティングされたディッシュ(Nunc)上でプレーティングした。グリア細胞増殖を防ぐためにB27補足物(Gibco BRL)および5μM シトシンアラビノシドを含有する神経基礎培地(Gibco)内で培養を維持した。3日間培養された初代ニューロンを、セムリキ森林ウイルス(SFV)を使用してヒトAPP(APP野生型またはAPP Swedish)で形質導入した。1時間のSFV形質導入の後、該培地を新鮮神経基礎培地と交換し、ついで2時間の形質導入後時間に付した。2時間の形質導入後時間の後、該神経基礎培地を、100μCi/ml[35S]メチオニン(ICN Biomedicals)で補足された無メチオニンMEM(Gibco BRL)と交換し、その一方でmAb(PBS中)を該培地に加えた。6時間の代謝標識の後、該順化培地を集め、該細胞を氷冷PBS中で洗浄し、完全プロテアーゼインヒビター(Roche)で補足されたIPバッファー(20mM Tris−HCl,pH 7.4,150mM NaCl,1% Triton X−100,1% デオキシコール酸ナトリウムおよび0.1% SDS)中で細胞溶解した。25μlのプロテインGセファロースおよびAPP C末端抗体B63.9を使用して、4℃で一晩にわたり細胞抽出物を免疫沈降させた。最後に免疫沈降物をNuPageサンプルバッファー(Invitrogen)中で溶出し、ランニングバッファー(Invitorogen)中のMESおよび還元条件下で10% アクリルアミドNuPAGE Bis−Trisゲル上で電気泳動した。Phosphor Imager(Molecular Dynamics)およびlmagQuaNT4.1を使用して結果を解析した。抗sAPPβポリクローナル抗体(Covance)およびWO−2(The Genetics Company)を使用する直接ウエスタンブロットにより、順化培地からのsAPPβおよびAβを分析した。
【0070】
エピトープマッピングのためのプラスミド構築
全てのBACE1欠失突然変異体を、ヒトBACE1をコードするcDNAからのPCR増幅により作製し、pGEX4Tベクター内にサブクローニングした。全ての突然変異体をDNA配列決定により確認した。
【0071】
部位特異的突然変異誘発
QuikChange II XL Site−Directed Mutagenesis Kit(Strategene)を提供されている手順に従い使用して、ループFのSQDD(配列番号11)からWAAA(配列番号12)(アミノ酸376−379)への、およびループDのQAGからAGA(アミノ酸332−334)への突然変異誘発を行った。構築物pGEX4T−BACE46−460およびpcDNA3−BACE1−501を鋳型として使用した。全ての突然変異体をDNA配列決定により確認した。
【0072】
GST融合タンパク質の発現および精製
pGEX4T−BACE1欠失突然変異体で形質転換された大腸菌(Escherichia coli)BL21(Novagen)を対数増殖させ(100ml、A600=0,8)、0.2mM IPTG(Sigma)で3時間誘導した。ついで細胞をペレット化し、Complete Protease Inhibitor(Roche)で補足された15mlのBugBuster Master Mix(Novagen)に再懸濁させた。細菌を、回転させながら室温で15分間溶菌し、ついで20,000×g、4℃で30にわたりペレット化した。上清を300μlのグルタチオン−セファロースビーズ(Pharmacian)と4℃で1時間混合した。温置後、ビーズをPBSで洗浄し、50mM Tris−HClバッファー(pH 8.0)中の10mM L−グルタチオン(Sigma)でタンパク質を溶出した。
【0073】
結果
実施例1.ハイブリドーマのスクリーニングからの候補BACE1 mAbインヒビターの特定
抗BACE1モノクローナル抗体を作製するために、精製ヒトBACE1エクトドメインタンパク質(アミノ酸45−460)(配列番号13)でのBACE1−/−BACE2−/−マウスの一連の免疫化の後、ハイブリドーマを製造した。96ウェルプレート上での該細胞のプレーティングの2〜3週間後(このとき、該ウェルのほとんどは>80%コンフルエントとなっていた。)に、ハイブリドーマのスクリーニングを開始した。BACE1 FRETアッセイスクリーニングおよび細胞に基づくアッセイスクリーニングを含む機能性スクリーニングを初期ハイブリドーマスクリーニング段階において適用した(図1Aを参照されたい)。ハイブリドーマ上清を、まず、固定化BACEエクトドメイン(免疫原)上のELISAによりスクリーニングした。このアッセイにおいては、約2400個中377個のハイブリドーマが陽性と評価された(陽性ウェルのELISAシグナルはバックグラウンドの5から30倍であった。)。
【0074】
該ELISAスクリーニングからの陽性ハイブリドーマを更に、BACE1 mca−Fretアッセイにおいて試験した。試験した377個のウェルのうちの6個(2G3、5G7、2G6、10G1、14F10、17B12)のウェルからの上清がFretアッセイにおいてBACE1活性を抑制した。ハイブリドーマ(2G6、10G1、17B12)は、おそらく非分泌性ハイブリドーマの早期過剰増殖のため、更なるアッセイにおいて増殖もせず陰性にもならなかった。したがって、それらは更なる分析に利用できなかった。更なる特徴づけのための潜在的候補BACE1インヒビターとして、残りのウェル(2G3、5G7、14F10)を選択した。2G3はIgMであることが判明し、したがって更なる特徴づけを行わなかった。
【0075】
mca−Fretアッセイスクリーニングと並行して、BACE1を安定に発現するHEK293細胞の免疫蛍光染色を用いて該ハイブリドーマ上清をスクリーニングした。ELISAスクリーニングにおいて最高シグナルを示したハイブリドーマの96個のウェルを試験し、それらのうちの25個のウェルが免疫蛍光染色においてBACE1に対する強力な免疫反応性を示した。
【0076】
ELISAおよび免疫蛍光染色の両方において最良シグナルを示したハイブリドーマの25個のウェルを細胞アッセイにより更にスクリーニングして、それらがBACE1活性を抑制するかどうかを調べた。APPを安定に発現するSH−SY5Y細胞をハイブリドーマ上清で24時間処理し、順化培地からのsAPPβをBACE活性の読出しとして分析した。この細胞アッセイにおいては、ウェル1A11からの上清はsAPPβの生成を減少させた。したがって、1A11をBACE1抑制のための候補の1つとして選択した。
【0077】
要約すると、BACE1 mAbインヒビターの回収の成功はmAbインヒビターのスクリーニングにおけるこの方法の実施可能性を実証した。
【0078】
実施例2.mAb 1A11、5G7および14F10は酵素アッセイにおいてBACE1活性をモジュレーションする
3つの候補BACE1インヒビター1A11、5G7および14F10を、まず、大きな基質であるAPPsweのC末端の125アミノ酸配列を基質として使用するMBP−ELISAにより特徴づけした。このMBP−ELISAアッセイにおいては、全3個のmAbはBACE1活性を完全に抑制しうる(図1B)。5G7、14F10および1A11のIC50は、それぞれ、0.47nM、0.46nMまたは0.76nMである。本発明者らはまた、小さなFRETペプチドを基質として使用するmca−Fretアッセイにおいて、それらの3つのmAbを試験した(図2)。このアッセイにおいては、5G7および14F10は、それぞれ0.06nMおよび1.6nM(14F10)のIC50で、BACE1活性を完全に抑制しうる。意外なことに、該細胞アッセイから回収されたBACE1インヒビターである1A11はBACE1活性を刺激した。
【0079】
それらの2つの酵素アッセイからの結果は、mAb 1A11がBACE1−大基質相互作用(BACE1−APP)に対する立体的インヒビターであることを示唆している。
【0080】
実施例3.mAb 1A11はヒト神経芽細胞腫細胞においてBACE1を抑制する
3つの候補mAbインヒビター5G7、14F10および1A11を細胞アッセイにおいて試験した。野生型APPを安定に発現するSH−SY5Y細胞を6ウェルプレート内で90%のコンフルエンシーまで培養し、300nM mAbと共に24時間培養した。PBSを陰性対照として使用し(mAbをPBSに溶解させた。)、PBS中で1μMに希釈されたBACE1インヒビター化合物III(Merck Company)を陽性対照として使用した。24時間の処理の後、順化培地からのAβ、sAPPβおよびsAPPαをウエスタンブロットにより分析した。図3に示されているとおり、1A11 mAbはAβおよびsAPPβの生成を抑制したが、5G7および14F10処理は細胞BACE1活性に対する抑制効果を示さなかった。
【0081】
実施例4.mAb 1A11は培養ニューロンにおいてAPPwtのBACE1切断を有意に抑制する
mAb 5G7、14F10および1A11を初代ニューロン培養において更に試験した。3日間培養されたマウス初代ニューロンをセムリキ森林ウイルス(SFV)によりヒトAPPwtで形質導入し、300nM mAb(PBS中)で24時間処理した。PBSを陰性対照として使用し、1μM BACE1インヒビター化合物III(Merck Company)を陽性対照として使用した。24時間の処理の後、順化培地からのAβ、sAPPβおよびsAPPαを、細胞ライセートからの完全長APP、CTFβおよびCTFαと共に、ウエスタンブロットにより分析した。図4に示されているとおり、1A11処理はAβ、sAPPβおよびCTFβの生成を有意に減少させたが、α−セクレターゼ切断産物であるCTFαおよびsAPPαは増加した。残りの2つのmAbである5G7および14F10はAPPwtのBACE1切断に対する抑制効果を示さなかった。
【0082】
SFV−ヒトAPPwtで形質導入され、35S−メチオニン代謝標識により6時間にわたって代謝標識された前記ニューロンを使用して、mAb 1A11に関する用量反応曲線を確定した。APP C末端ポリクローナル抗体での免疫沈降の後、細胞ライセートからの完全長APPおよびCTFをホスホルイメージングで検出した。順化培地からのAβおよびsAPPβを直接ウエスタンブロットにより分析した。CTFβレベルをBACE1活性に関して定量した。図5に示されているとおり、1A11は100nMの濃度で>90%のBACE1活性を抑制することが可能であり、このアッセイにおける見掛けIC50は3,7nMと推定された。
【0083】
BACE1は、その長い寿命において、細胞表面を介して輸送され、細胞表面、エンドソームおよびTNGを数周循環することが示されている(Huseら,2000,Wahleら,2005)。しかし、BACE1のどのくらいの割合が細胞表面輸送に付されるのかは不明であり、したがって、細胞表面BACE1を標的化することが、主要細胞BACE1活性を阻止するのに十分な程度に有効かどうかは、推測の域を出なかった。前記結果は、BACE1のエクトドメインに特異的なBACE1抑制性mAbが、細胞表面BACE1への結合を介して同時インターナリゼーションされる可能性があることを示している。さらに、前記ニューロン培養アッセイにおいて示されているとおり、細胞表面BACE1を標的化することは、主要細胞BACE1活性を阻止するのに有効である。
【0084】
実施例5.1A11の抗原結合フラグメント(Fab)は培養ニューロンにおいてBACE1を抑制する
5G7、14F10および1A11の3つのmAbからの抗原結合フラグメント(Fab)を、Fab調製キット(Pierce)を該製造業者の説明に従い使用して作製した。作製されたFabの純度をNuPAGEゲル上で青色染色により試験した。ニューロンアッセイにおいて該Fabを試験するために、3日間培養されたマウス初代ニューロンを、セムリキ森林ウイルス(SFV)を使用してヒトAPPwtで形質導入し、200nM Fab(PBS中)で処理した。24時間の処理の後、順化培地からのAβ、sAPPβおよびsAPPαを、細胞ライセートからの完全長APP、CTFβおよびCTFαと共に、ウエスタンブロットにより分析した。図6に示されているとおり、1A11 Fabは、Aβ、sAPPβおよびCTFβの生成を減少させているため、BACE1活性を抑制したが、5G7Fabおよび14F10FabはBACE1活性に対する抑制効果を示さなかった。
【0085】
実施例6.mAb 1A11の立体空間的注射は野生型マウスにおいてBACE1活性を抑制する
野生型マウスの脳内への立体空間的注射により、mAb 1A11の活性をインビボで試験した。簡潔に説明すると、3月齢の野生型マウスの脳内に立体空間座標(ブレグマ −2.46mm;外側 +/−2.6mm;腹側 −2.5mm)においてmAb 1A11を投与した。mAbサンプルを4μgの用量(合計体積1μl)で右脳内に注射し、対照として1μlのPBSを左脳内に注射した。注射の24時間後、マウスを犠死させて脳を解剖した。注射部位を含む脳薄片(〜1.5mmの厚さ)を海馬および皮質に関して更に解剖した。脳サンプルをCTFβに関してウエスタンブロットにより分析した。図7に示されているとおり、1A11の投与はCTFβの生成を減少させた。このことは、該mAbが野生型マウス脳においてBACE1活性を抑制しうることを示唆している。
【0086】
実施例7.BACE1を抑制するモノクローナル抗体のエピトープマッピング
興味深いことに、5G7および14F10の2つの候補BACE1インヒビターは、無細胞アッセイにおいては強力な活性を示すが、細胞アッセイにおいてはBACE1に対する抑制効果を示さないことが示された。本発明者らは、5G7が、細胞表面に露出したBACE1には結合しないことを見出した。免疫蛍光染色(図8)により示されているとおり、5G7は天然条件下では細胞表面BACE1に結合しなかった。5G7は、BACE1を安定に発現するHEK293細胞の順化培地からの遊離BACE1を免疫沈降させるが、膜結合完全長BACE1を免疫沈降させず、一方、1A11はBACE1の両方の形態を免疫沈降させることを、免疫沈降実験は示した。これらの結果は、5G7結合のためのエピトープが膜結合BACE1上では利用可能でないことを示唆している。これはBACEの複雑な構造に起因すると考えられ、例えば、結合部位を含むタンパク質の結合、または膜により引き起こされる立体障害によるものであると考えられうるであろう。これを更に例証するために、5G7がBACE1エクトドメインの表面上の別のコンホメーションエピトープに結合することが、エピトープマッピングにより示された(K299、E303およびQ386を含むこのエピトープ内の幾つかの残基に対する抗体反応性が突然変異誘発により確認された。)。このエピトープは、他のタンパク質と結合することが可能であるため、細胞表面においては「接近不可能」であると推定される。
【0087】
MAb 1A11の結合性エピトープを決定するために、N末端融合GSTタグを有する一連のBACE1欠失突然変異体を作製し、細菌培養から精製した。該BACE1欠失突然変異体に対するMAb 1A11の免疫反応性をウエスタンブロットにより試験した。図9に示されているとおり、MAb 1A11と反応する最短欠失突然変異体は、完全長免疫原BACE 46−460[配列番号2]に類似した免疫反応性を有するBACE 314−460[配列番号9]である。これは、MAb 1A11の結合性エピトープが完全にBACE 314−460[配列番号9]内に位置していることを示している。
【0088】
さらに、MAb 1A11に対する結合性エピトープは直鎖状エピトープではないことが示された。図9に示されているとおり、MAb 1A11はBACE314−460[配列番号9]とは反応するが、BACE329−460[配列番号10]とは反応しない。該エピトープが直鎖状である場合、それは少なくとも部分的にBACE314−329(15アミノ酸)[配列番号14]内に局在化しているはずである。直鎖状エピトープの長さは、通常、15アミノ酸以内であることを考慮すると、直鎖状である場合のMAb 1A11の完全エピトープはBACE314−344[配列番号15]内に位置するはずである。しかし、BACE314−344[配列番号115]内のエピトープを含む3つの欠失突然変異体BACE46−349[配列番号8]、BACE46−364[配列番号7]およびBACE46−390[配列番号16]は全て、MAb 1A11に対する免疫反応において陰性であった。その矛盾した結果は、MAb 1A11のエピトープが直鎖状ではなく、コンホメーションエピトープであることを示唆している。コンホメーションエピトープもウエスタンブロットにより検出されうることが既に報告されており、これは、おそらく、膜への該タンパク質の輸送の途中または後のエピトープの再生によるものであり(Zhouら,2007)、これは、コンホメーションエピトープを有するMAb 1A11がウエスタンブロットにおいてBACE1と尚も反応する理由を説明しうるであろう。
【0089】
MAb 1A11結合のコンホメーションエピトープを決定するために、本発明者らはBACE1触媒ドメイン残基314−446のC末端の3D構造を示した(図10)。該構造のN末端付近に、本発明者らは、互いに接近しておりBACE1上の潜在的コンホメーションエピトープに相当する2つの突出ループDおよびFを見出した。ループDおよびFはHongら(2000)に記載されている。これらの露出突出ループは非常に免疫原性であることが公知である。ここでは、本発明者らは、MAb 1A11のエピトープがループDおよびFに位置するかどうかを試験した。ループD上の3つのアミノ酸の突然変異誘発(アミノ酸332−334のQAGからAGAへ)およびループF上の4つのアミノ酸の突然変異誘発(アミノ酸376−379 SQDD[配列番号11]からWAAA[配列番号12]へ)をBACE46−460[配列番号2]から別々に行い、ウエスタンブロットにより試験した。図11に示されているとおり、どちらの突然変異体もMAb 1A11との免疫反応性を、野生型BACE46−460[配列番号2]と比較して検出不可能なレベルにまで低下させた。このことは、これらのアミノ酸が抗体結合に寄与することを示唆している。
【0090】
該エピトープを更に実証するために、哺乳類発現ベクター上で完全長BACE1(1−501)の同一突然変異誘発を行い、HEK293細胞においてBACE1の突然変異体を発現させた。突然変異体BACE1または野生型BACE1を含有する細胞抽出物を、MAb 1A11を使用する免疫沈降によりアッセイした。図12に示されているとおり、哺乳類細胞から作製されたBACE1のどちらの突然変異体も、MAb1A11に対する免疫反応性を、野生型BACE1と比較して検出不可能なレベルにまで低下させた。また、該突然変異誘発がタンパク質全体のフォールディングにおける変化を引き起こさないことを示すために、BACE1の2つの突然変異体の細胞活性を試験した。図13に示されているとおり、どちらの突然変異体も、βおよびβ’部位におけるAPPのプロセシングにおいて尚も活性であり、このことは、これらの突然変異体が適切にフォールディングしていることを示唆している。
【0091】
最後に、ループD上の残基332−334またはループF上の残基376−379の突然変異誘発は、BACE1タンパク質のフォールディングを変化させることなく、ウエスタンブロットおよび免疫沈降アッセイの両方において、MAb 1A11結合を完全に阻止した。このことは、MAb 1A11が、ループDおよびFの組合せを含むコンホメーションエピトープに結合することを示している。興味深いことに、ループFおよびループDはBACE1上の特有の構造として既に記載されており(Hongら,2000)、これらはペプシンファミリーの他のアスパラギン酸プロテアーゼにおいては提示されていない。該構造を共有するペプシンファミリーからの唯一の例外は、BACE1の最も近いモログであるBACE2である。該ループ構造はBACE1とBACE2とで類似しているが、ループFおよびループD上のアミノ酸配列が異なる。さらに、酵素データは、mAb 1A11がBACE2と交差反応しないことを証明した。治療上の観点からは、MAb 1A11は、BACE1の特有の構造に結合するため、BACE2および他のアスパラギン酸プロテアーゼに比べ非常に選択的である。
【0092】
【表2】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BACE1に対する特異性を有する抗体に関する。より詳しくは、本発明は、BACE1に結合しBACE1の活性を抑制しうるモノクローナル抗体、およびこれらの抗体の製造方法を提供する。該抗体は研究および医学的用途に使用されうる。具体的な用途はアルツハイマー病の治療のためのBACE1特異的抗体の使用を含む。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(「AD」)は、世界中で数百万人の高齢患者を冒す破壊的な神経変性疾患であり、養護施設への入所の最も一般的な原因である。ADは、記憶、定位、認知機能、判断および情緒安定性の進行性喪失により臨床的に特徴づけられる。加齢と共に、ADの発症リスクは指数関数的に増加して、85歳までに、該集団の約20〜40%が罹患する。記憶および認知機能は、軽度ないし中等度の障害の診断から最初の5年以内に急速に悪化し、疾患合併症による死亡が、避けられない結末である。ADの確定診断は、患者からの脳組織の組織病理学的検査に基づいて、死後にはじめて可能となる。
【0003】
ADの2つの組織学的特徴は、共にAD患者の大脳皮質内の、過リン酸化タウタンパク質の神経原線維タングルの、およびタンパク質性アミロイドプラークの生成である。該アミロイドプラークは、主に、ベータ−アミロイド(β−アミロイド、アミロイドベーターまたはAベータとも称される)と称される37〜43アミノ酸のペプチドから構成される。Aベータペプチドは、ベータアミロイド前駆体タンパク質(APPとも称される)と称される1型内在性膜タンパク質から2つの連続的タンパク質分解事象により誘導されることが現在明らかである。まず、APPは、ベータ−セクレターゼ(膜結合アスパルチルプロテアーゼBACE1)と称される特異的タンパク質分解酵素により膜貫通アルファヘリックスのN末端の部位で加水分解される。この切断事象の可溶性N末端産物は膜から拡散し、C99と称される膜結合C末端切断産物を後に残す。ついでタンパク質C99は、ガンマ−セクレターゼと称される特異的タンパク質分解酵素により膜貫通アルファヘリックス内で更に加水分解される。この第2切断事象はAベータペプチドを遊離し、膜結合「スタブ(stub)」を残す。このようにして生成したAベータペプチドは細胞から細胞外マトリックス内に分泌され、その場所において、それは、ADに関連したアミロイドプラークを最終的に形成する。
【0004】
過去100年間の精力的な研究にもかかわらず、AD患者の予後は現在もなお、100年前と全く同じである。なぜなら、利用可能な真の治療法が尚も存在しないからである。2つのタイプの薬物、すなわち、アセチルコリンエステラーゼ(AchE)インヒビターおよびメマンチン(Memantine)が米国食品医薬品局により承認されており、ADを治療するために臨床において現在使用されている。AD病因に特異的なアミロイドプラークの主要成分であるアミロイドベータペプチドがAD疾患の発生において中心的な役割を果たしているという豊富な証拠が当技術分野に存在する(Hardyら.2002,Goldeら.2006)。したがって、Aβを低下させるための最も好ましい方法の1つは、γ−およびβ−セクレターゼインヒビターによりその産生を減少させることである。1つの方法はガンマ−セクレターゼインヒビターの開発であったが、ガンマ−セクレターゼは少なくとも30種のタンパク質のタンパク質分解プロセッシングに関与しているため、そのようなインヒビターは、しばしば、重大な副作用を引き起こす(De Strooperら,2003)。さらにもう1つの魅力的な方法はβ−セクレターゼ(BACE1)インヒビターの開発である。なぜなら、BACE1ノックアウトマウスは生存可能であり、明らかな病的表現型を有さないからである(例えば、Roberdsら,2001、Ohnoら,2004、Ohnoら,2006)。
【0005】
BACE1はメマプシン2およびAsp2とも称され、501アミノ酸の1型膜結合型アスパルチルプロテアーゼであり、それはペプシンファミリーの真核生物アスパラギン酸プロテアーゼと相当な構造的特徴を共有する(例えば、Hussainら,1999、Linら,2000)。他のアスパラギン酸プロテアーゼと同様に、BACE1はN末端シグナルペプチド(残基1−21)およびプロ−ペプチド(22−45)を有する。該21アミノ酸シグナルペプチドは該プロテアーゼをERへ移動させ、その場所において該シグナルペプチドは切断除去され、ついでBACE1はその場所から細胞表面へと導かれる。トランス−ゴルジネットワーク(TGN)を通過した後、BACE1の一部は細胞表面に標的化され、その場所からそれは初期エンドソーム区画内にインターナリゼーションされる。ついでBACE1は細胞表面への直接的再循環経路に進入し、あるいは、リソソームまたはTGNに行くことになる後期エンドソーム小胞に標的化される。TGNにおいては、それは細胞膜へ再輸送されうるであろう。成熟BACE1は、その長い半減期および速い再循環速度を考慮すると、その寿命中に細胞表面、エンドソーム系およびTGNの間を複数回にわたって循環しうる(例えば、Huseら,2000、Wahleら,2005)。β−部位におけるAPPのBACE1媒介性切断は初期エンドソームにおいて生じ、この場所においては、その酵素活性のためには酸性環境が最適である。しかし、いわゆるシュウェディッシュ(Schwedish)突然変異を含有するAPPが細胞基質として用いられた場合、β−切断はERおよびTGNにおいて優先的に生じた(Thinakaranら,1996)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hardy,J.and Selkoe,D.J.(2002)The amyloid hypothesis of Alzheimer’s disease:progress and problems on the road to therapeutics.Science,297(5580):353-6.
【非特許文献2】Golde TE, Dickson D,Hutton M.(2006).Filling the gaps in the abeta cascade hypothesis of Alzheimer’s disease.Curr Alzheimer’s Res,3:421-430.
【非特許文献3】De strooper B (2003):Aph-1,Pen-2,and Nicastrin with Presenilin generate an active γ−secretase complex.Neuron,38:9-12.
【非特許文献4】Roberds SL,Anderson J,Basi G,Bienkowski MJ,Branstetter DG,Chen KS,Freedman SB,Frigon NL,Games D,Hu K,et al(2001):BACE knockout mice are healthy despite lacking the primary β−secretase activity in brain:implications for Alzheimer’s disease therapeutics.Hum Mol Genet,10:1317-1324.
【非特許文献5】Ohno M,Sametsky EA,Younkin LH,Oakley H,Younkin SG,Citron M,Vassar R,Disterhoft JF(2004):BACE1 Deficiency Rescues Memory Deficits and Cholinergic Dysfunction in a Mouse Model of Alzheimer’s Disease.Neuron,41:27-33.
【非特許文献6】Ohno M,Chang L,Tseng W,Oakley H,Citron M,Klein WL,Vassar R,Disterhoft JF(2006):Temporal memory deficits in Alzheimer’s mouse models:rescue by genetic deletion of BACE1.Eur J Neurosci,23:251-260.
【非特許文献7】Hussain I,Powell D,Howlett DR,Tew DG,Meek TD,Chapman C,Gloger IS,Murphy KE,Southan CD,Ryan DM,et al (1999):Identification of a novel aspartic protease(Asp 2)as β−Secretase.Mol Cell Neurosci,14:419-427.
【非特許文献8】Lin X,Koelsch G,Wu S,Downs D,Dashti A,Tang J (2000):Human aspartic protease memapsin 2 cleaves the β−secretase site of β-amyloid precursor protein.Proc Natl Acad Sci USA,97:1456-1460.
【非特許文献9】Huse JT,Pijak DS,Leslie GJ,Lee VM,Doms RW.(2000)Maturation and endosomal targeting of β−site amyloid precursor protein−cleaving enzyme.The Alzheimer’s disease β−secretase.J Biol Chem,275:33729-33737.
【非特許文献10】Wahle,T.,Prager,K.,Raffler,N.,Haass,C.,Famulok,M. and Walter,J.(2005)GGA proteins regulate retrograde transport of BACE1 from endosomes to the trans-Golgi network.Mol.Cell.Neurosci.
【非特許文献11】Thinakaran G,Teplow DB,Siman R,Greenberg B,Sisodia SS.(1996)Metabolism of the’Swedish’amyloid precursor protein variant in neuro2a(N2a)cells.Evidence that cleavage at the’beta-secretase’site occurs in the golgi apparatus.J Biol Chem.271:9390-9397
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
BACE1はADの治療のための確立された主要薬物標的となっているが、BACE1に対する有効なインヒビター薬の開発は依然としてかなりの難題である。多大な努力がBACE1に対する小分子インヒビター薬の論理的設計に寄与しているが、BACE1活性部位の大きな且つ適合しない性質、ならびに高い効力および他のアスパラギン酸プロテアーゼに対する高い選択性を有する血液脳関門(BBB)透過薬を開発する必要性のため、その進歩は困難に直面している。したがって、ADに対する可能な療法としてBACE1を標的とする代替的アプローチが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概括
本発明の第1の態様は、BACE1の活性を抑制しうることにより特徴づけられる単離された抗BACE抗体に関する。
【0009】
1つの実施形態においては、該抗体はBACE1のエクトドメインに対するものである。
【0010】
特定の実施形態においては、該抗体は更に、アクセッション番号LMBP 6871CBまたはLMBP 6872CBまたはLMBP 6873CBを有するハイブリドーマ細胞系により分泌されることにより特徴づけられる。もう1つの特定の実施形態においては、該抗体は更に、ヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体であることにより特徴づけられる。
【0011】
本発明の第2の態様は、BACE1の活性を抑制しうることにより特徴づけられる、該抗体の活性フラグメントに関する。
【0012】
本発明のもう1つの態様は、アクセッション番号LMBP 6871CBまたはLMBP 6872CBまたはLMBP 6873CBを有するハイブリドーマ細胞系に関する。
【0013】
本発明の抑制性抗BACE1抗体は、医薬として、特に、アルツハイマー病の予防または治療を要する対象におけるアルツハイマー病を予防または治療するための多数の用途において有用である。より詳しくは、本発明の抑制性抗BACE1抗体は、アミロイドベーターペプチドおよび/またはアミロイドベータ前駆体タンパク質の生成の予防および/または軽減において使用されうる。
【0014】
本発明は更に、本発明の抗体または活性フラグメントと少なくとも1つの医薬上許容される担体、アジュバント(補助剤)または希釈剤とを含む医薬組成物に関する。
【0015】
最後に、本発明はまた、
(i)非ヒト動物をBACE1で免疫化し、
(ii)BACE1の活性を抑制しうる抗体に関して複数のハイブリドーマ系をスクリーニングし、
(iii)該抗体を産生するハイブリドーマを単離することを含む、BACE1の活性を抑制しうる抗体の製造方法を含む。
【0016】
1つの実施形態においては、前記方法の工程(i)における免疫化は、BACE1のエクトドメインを使用して行われる。もう1つの実施形態においては、前記の複数のハイブリドーマ系のスクリーニングは、細胞に基づくスクリーニング方法および/または無細胞スクリーニングアッセイにおいてBACE1の抑制活性を測定することによる機能性スクリーニングである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(A)BACE1抑制性mAbに関するハイブリドーマスクリーニングの概要図。更なる分析のために3つの候補体を選択した。mca−FRETアッセイスクリーニングからmAb 5G7および14F10を特定し、細胞アッセイスクリーニングからmAb 1A11を特定した。(B)BACCE1 MBP−C125SweアッセイにおけるmAb 5G7、14F10および1A11によるBACE1の抑制。基質は、マルトース結合タンパク質(MBP)とSwedish二重突然変異を含有するヒトAPPのカルボキシ末端の125アミノ酸との融合タンパク質である。それらの3つのmAbのIC50は0,47nM(5G7)、0.46nM(14F10)および0.76nM(1A11)である。
【図2】mcaFRETアッセイにおけるBACE1活性のモジュレーション。基質は小さなFRETペプチドMCA−SEVENLDAEFRK(Dnp)−RRRR−NH2である。それらの3つのmAbのIC50(またはEC50)は0.06nM(5G7)、1.6nM(14F10)および0.38nM(1A11)である。
【図3】MAb 1A11はSH−SY5Y/APPwt細胞におけるBACE1活性を抑制する。SH−SY5Y/APPwt細胞を300nM Mab 1A11、5G7および14F10(PBSに溶解されたもの)で処理した。PBSを陰性対照として使用し、化合物BACE1インヒビターを陽性対照(CT+)として使用した。24時間の処理の後、順化培地からのAβおよびsAPPβをウエスタンブロットにより分析した。MAb 11処理はAβおよびsAPPβの生成を減少させた。
【図4】MAb 1A11はマウス初代培養ニューロンにおけるBACE1活性を抑制する。初代培養ニューロンをセムリキ森林ウイルスによりヒトAPPwtで形質導入し、100nM MAb 1A11、MAb 5G7およびMAb 14F10(PBSに溶解されたもの)で処理した。PBSを陰性対照として使用し、化合物BACE1インヒビターを陽性対照として使用した。24時間の処理の後、順化培地および細胞抽出物をウエスタンブロットにより分析した。MAb 11処理はAβ、sAPPβおよびCTFβの生成を抑制した。
【図5】マウス初代培養ニューロンにおけるBACE1活性に対するMAB 1A11の用量依存性抑制効果。マウス初代培養ニューロンをセムリキ森林ウイルスによりヒトAPPwtで形質導入し、0.031nM〜100nMの希釈度範囲のMAb 1A11で処理した。ニューロンを35S−メチオニン標識で6時間にわたり代謝標識した。APP C末端ポリクローナル抗体でのIPの後、細胞抽出物からの完全長APPおよびCTFを蛍りん光体イメージングで検出した。順化培地からのAβおよびsAPPβを直接ウエスタンブロットにより分析した(A)。BACE1活性の抑制に関してCTFβレベルを定量した(B)。
【図6】MAb 1A11の抗原結合性フラグメント(Fab)はマウス初代培養ニューロンにおけるBACE11活性を抑制する。初代培養ニューロンをセムリキ森林ウイルスによりヒトAPPwtで形質導入し、MAb 1A11、MAb 5G7およびMAb 14F10(PBSに溶解されたもの)から作製された200nM Fabで処理した。24時間の処理の後、順化培地および細胞抽出物をウエスタンブロットにより分析した。MAb 11のFabはAβ、sAPPβおよびCTFβの生成を強力に抑制した。
【図7】MAb 1A11の立体空間的投与はBACE1活性をインビボで抑制する。野生型マウスの右半球の皮質および海馬に1μlのMAb 1A11(PBSに4μg/μlで溶解)を立体空間的に注射した。対照として、PBSを左半球の皮質および海馬に注射した。注射の24時間後、該マウスを犠死させ、脳サンプルをウエスタンブロットにより分析した。MAb 1A11は海馬および皮質の両方におけるCTFβの生成を抑制した。
【図8】MAb 1A11および5G7でのHEK−BACE1細胞の免疫蛍光染色。A.4% パラホルムアルデヒドで固定され、0.1% Triton X−100中で透過性にされた細胞の染色。B.4℃における生細胞の表面染色。
【図9】ウエスタンブロットにおけるBACE1欠失突然変異体でのMAb 1A11の免疫活性。(A)完全長免疫原BACE46−460(1#)および欠失突然変異体(2#〜9#)に関するスキーム。ここで用いられているアミノ酸の番号づけは、図14に示されている完全ヒトBACE1タンパク質のアミノ酸配列に対応している。(B)抗GST抗体はこれらの組換えタンパク質の全てを認識する。(C)欠失突然変異体1#(BACE46−460)、4#(BACE240−460)および8#(BACE314−460)は免疫反応性であるが、該欠失体の残りの全てはMAb 1A11に対する免疫反応性を有さない。
【図10】BACE1触媒ドメイン残基314−446(この図におけるSer253−Asn385)のC末端の三次元構造。この図を作成するためにPDBファイル2g94を使用した。ループD上の残基332−334およびループF上の残基376−379は黒色のリボンで表されており、残りの残基は灰色のリボンで表されている。
【図11】ループF上のアミノ酸376−379の突然変異誘発(mut376−9 SQDDからWAAAへ)およびループD上のアミノ酸332−334の突然変異誘発(mut332−4 QAGからAGAへ)はウエスタンブロットにおけるBACE1に対するMAb 1A11の免疫反応性を喪失させる。抗GST抗体は野生型およびmut376−9突然変異体BACE1(A)またはmut332−4突然変異体BACE1(B)を認識するが、MAb1A11は野生型BACE1しか認識しない。
【図12】ループF上のアミノ酸376−379の突然変異誘発(mut376−9 SQDDからWAAAへ)およびループD上のアミノ酸332−334の突然変異誘発(mut332−4 QAGからAGAへ)は免疫沈降におけるBACE1に対するMAb 1A11の免疫反応性を喪失させる。BACE1の野生型および突然変異形態を哺乳類細胞内で発現させ、細胞抽出物を免疫沈降に使用した。免疫沈降物を、抗BACE1モノクローナル抗体10B8を使用するウエスタンブロットで検出した。同様の量の野生型およびmut376−9突然変異体BACE1(A)またはmut332−4突然変異体BACE1(B)を免疫沈降のための投入物質として使用した。MAb 1A11は野生型BACE1だけに結合し、mut376突然変異体BACE1(A)にもmut332−4突然変異体BACE1(B)にも結合しなかった。BACE1上のコンホメーションエピトープを認識するもう1つのMAb 5G7を陽性対照として使用した。
【図13】BACE1 mut376−9およびmut332−4は細胞アッセイにおいて活性である。野生型APPで安定に発現されたHEK293細胞を突然変異体または野生型BACE1で一過性にトランスフェクトした。未トランスフェクト化(NT)細胞を陰性対照として使用した。sAPPβをBACE1活性に関する読出しとして検出した。未トランスフェクト化細胞と比較して、突然変異体BACE1、mut376−9(A)およびmut332−4(B)でトランスフェクトされた細胞はより高いレベルのsAPPβを生成した。このことは、該突然変異体がBACE1活性において尚も活性であることを示唆している。野生型BACE1と比較して、BACE1の突然変異形態は、BACE1レベルに対するsAPPβレベルの比による評価において同様のレベルの酵素活性を示した。
【図14】ヒトBACE1タンパク質のアミノ酸配列(アミノ酸1−501;配列番号1)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
定義
「抗原」なる語は、抗体のような免疫グロブリンが有するアフィニティーおよび特異性の対象である構造体、多くの場合はポリペプチドまたはタンパク質を意味する。「抗原決定基」、「抗原標的」および「エピトープ」なる語は全て、抗原上の、または抗体のような免疫グロブリンが有するアフィニティーおよび特異性の対象である抗原性構造体上の、特異的結合部位を意味する。
【0019】
「コンホメーションエピトープ」なる語は、抗体に厳密にフィット(嵌合)し結合することを可能にする、抗原の三次元表面特性を有するエピトープを意味する。例外は直鎖状エピトープであり、これは、タンパク質の3D形状(三次構造)ではなくアミノ酸配列(一次構造)により決定される。
【0020】
「抗体」なる語は、抗原または抗原決定基に対するアフィニティーを有するタンパク質またはポリペプチドを意味する。そのような抗体は、一般に、4本の鎖、すなわち、2本の重鎖および2本の軽鎖から構成され、したがって四量体である。その例外は、重鎖二量体から構成され軽鎖を欠くが尚も広範な抗原結合レパトワを有するラクダ抗体である。抗体は、通常、可変領域および定常領域の両方を有し、この場合、可変領域は大抵は該抗体の特異性の決定をもたらし、相補性決定領域(CDR)を含む。
【0021】
「特異性」なる語は、抗体のような免疫グロブリンが1つの抗原標的に、別の抗原標的と比べて優先的に結合する能力を意味し、必ずしも、高いアフィニティーを示唆するものではない。
【0022】
「アフィニティー」は、抗原および抗体の平衡を、それらの結合により形成される複合体が存在する方向へ移動させるように、抗体のような免疫グロブリンが抗原に結合する度合を意味する。したがって、抗原および抗体が比較的等しい濃度で合されている場合、高いアフィニティーの抗体は、生じる複合体の濃度を増加させる方向へ該平衡を移動させるように、利用可能な抗原に結合するであろう。
【0023】
「相補性決定領域」または「CDR」なる語は、H(重)鎖またはL(軽)鎖の可変領域内の可変ループ(それぞれVHおよびVLとも略称される)を意味し、抗原標的に特異的に結合しうるアミノ酸配列を含有する。これらのCDR領域は特定の抗原決定基構造に対する該抗体の基本的な特異性をもたらす。そのような領域は「超可変領域」とも称される。CDRは可変領域内の不連続的なアミノ酸伸長に相当するが、種には無関係に、可変重鎖および軽鎖領域内のこれらの決定的なアミノ酸配列の位置は該可変鎖のアミノ酸配列内の類似位置を有することが判明している。全ての正規(canonical)抗体の重鎖および軽鎖の可変領域はそれぞれ、3つのCDR領域(L1、L2、L3、H1、H2、H3と称される)を有し、それぞれは、それぞれの軽(L)鎖および重(H)鎖に関するその他のものに対して不連続的である。受け入れられているCDRはKabatら(1991)に記載されている。「対象」なる語はヒトおよび他の哺乳動物を意味する。
【0024】
発明の範囲
BACE1はアルツハイマー病(AD)治療のための確立された主要薬物標的となっているが、BACE1に対する有効なインヒビター薬の開発は依然としてかなりの難題である。多くの労力はBACE1インヒビターの論理的設計に集中している。しかし、有効なBACE1インヒビター薬の出現は遅々たるものである。ADに対する可能な療法としてのBACE1を標的とする代替的アプローチが現われることが必要とされている。
【0025】
本発明においては、BACE1に対する特異性を有するモノクローナル抗体(mAb)の作製により、BACE1の活性の代替的インヒビターを開発した。ハイブリドーマスクリーニングにおいて機能性アッセイ(BACE1 FRETアッセイおよび細胞に基づく活性アッセイ)を適用することにより、BACE1に対するmAbインヒビターが成功裏に得られた。本発明のスクリーニング法は、BACE1または他の類似プロテアーゼに関するmAbモジュレータースクリーニングに実施可能であることが実証されている。特に、BACE1活性を抑制しうるこれらのBACE1特異的モノクローナル抗体はアルツハイマー病の予防および/または治療に使用されうる。限定的なものではないが一例としては、酵素アッセイ、培養ニューロン、およびC57BL6マウスの海馬/皮質への立体空間的投与によりインビボにおいて、mAb 1A11はBACE1活性を抑制することが示された(実施例2〜6)。mAb 1A11は、非常に選択的(結合エピトープはBACE1の特有の構造体上に存在する−実施例7を参照されたい)、かつ非常に強力(ニューロン培養においてIC50 〜4nM−実施例4を参照されたい)な薬物候補であると考えられている。
【0026】
したがって、本発明の第1の態様は、BACE1の活性を抑制しうることにより特徴づけられる単離された抗BACE1抗体に関する。
【0027】
「活性の抑制」は活性の「ダウンレギュレーション」と同意義であると理解される。一般に、抑制は、BACE1の活性が少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または更には96%、97%、98%、99%または更には100%抑制されることを意味する。BACE1の抑制は、本明細書中に実施例において更に詳細に記載されているとおりに決定されうる。該抑制性抗体はBACE2または他のアスパラギン酸プロテアーゼの活性を抑制しない、すなわち言い換えると、BACE2または他のアスパラギン酸プロテアーゼに比べ選択的であることは明らかなはずである。
【0028】
もう1つの実施形態においては、該抗体は更に、アクセッション番号LMBP 6871CBまたはLMBP 6872CBまたはLMBP 6873CBを有するハイブリドーマ細胞系により分泌されることにより特徴づけられる。
【0029】
特定の実施形態においては、該抗体はBACE1のエクトドメインに特異的に結合する。より詳しくは、該抗体は、BACE1エピトープ、特にBACE1コンホメーションエピトープ、より詳しくはBACE1コンホメーションエピトープへの結合に関して特異的である。限定的なものではないが一例としては、該コンホメーションエピトープは、ループDおよびFの組合せ、より詳しくは、ループDの残基332−334(QAG)とループFの残基376−379(SQDD;配列番号11)との組合せを含みうる。ループDおよびFはHongら(2000)に記載されている。
【0030】
特定の実施形態としては、該抗体は、ヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体であることにより更に特徴づけられる。
【0031】
ポリペプチド治療用物質、特に、抗体に基づく治療用物質は、薬物としての相当な潜在性を有する。なぜなら、それらはそれらの標的に対する非常に優れた特異性および低い固有毒性を有するからである。特に、モノクローナル抗体の特徴、例えば高いアフィニティー、高い選択性、ならびに治療用運搬のためのタンパク質操作に適した特有の構造および機能ドメインは、それらを潜在的な薬物候補にする。BACE1は細胞表面を介して輸送されると報告されている(背景の節も参照されたい)。BACE1抑制性モノクローナル抗体はBACE1を細胞表面に標的化することが可能であり、インターナリゼーションされてエンドサイトーシス経路におけるAβ生成を抑制しうる。
【0032】
しかし、治療上有用な標的に対して得られた抗体は、投与の際のヒト個体における望ましくない免疫反応を回避するために、それをヒトの治療のために調製するためには、追加的な修飾を要することが当業者に公知である。該修飾過程は一般に「ヒト化」と称される。ヒト以外の種において産生された抗体は、該抗体をヒトにおいて治療上有用にするためにはヒト化を要することが、当業者に公知である((1)CDRグラフティング:Protein Design Labs:US6180370,US5693761;Genentech US6054297;Celltech:EP626390,US5859205;(2)ベニアリング(Veneering):Xoma:US5869619,US5766886,US5821123)。抗体のヒト化は組換えDNA技術を含み、HおよびL鎖をコードするげっ歯類および/またはヒトゲノムDNA配列の一部から、あるいはHおよびL鎖をコードするcDNAクローンから出発する。非ヒト抗体のヒト化のための技術は当業者に公知であり、これらは現在の技術水準の一部を構成する。非ヒト哺乳類抗体または動物抗体はヒト化されうる(例えば、WinterおよびHarris 1993を参照されたい)。本発明の抗体またはモノクローナル抗体は、例えば、げっ歯類抗体またはげっ歯類モノクローナル抗体のヒト化形態でありうる。
【0033】
本発明のもう1つの態様は、本発明の抗BACE1抗体を抑制する活性フラグメントに関する。
【0034】
「活性フラグメント」なる語は、それ自体が抗原決定基またはエピトープに対して高いアフィニティーを有する、抗体の一部を意味し、そのような特異性をもたらす1以上のCDRを含有する。非限定的な例には、Fab、F(ab)’2、scFv、重−軽鎖二量体、ナノボディ、ドメイン抗体、および一本鎖構造体、例えば完全軽鎖または完全重鎖が含まれる。本発明を考慮した場合の該フラグメントの「活性」のための追加的要件は、該フラグメントがBACE1活性を抑制しうることである。本発明の抗体またはそれらの活性フラグメントは適当な標識により標識されることが可能であり、該標識は、例えば酵素型、比色型、化学発光型、蛍光型または放射能型のものでありうる。
【0035】
本発明のもう1つの態様は、本発明の抑制性抗BACE1抗体を分泌する、アクセッション番号LMBP 6871CBまたはLMBP 6872CBまたはLMBP 6873CBを有するハイブリドーマ細胞系に関する。
【0036】
本発明の抑制性抗BACE1抗体は、医薬として、特に、アルツハイマー病の予防または治療を要する対象におけるアルツハイマー病を予防または治療するための多数の用途において有用である。さらにもう1つの実施形態においては、該抗体は、BACE1の過剰発現に関連した疾患を治療するための医薬の製造に使用されうる。BACE1の過剰発現が生じる疾患の一例はアルツハイマー病である。特定の実施形態においては、本発明の抗体またはその活性フラグメントはアミロイドベータペプチド(Aβ)および/またはアミロイドベータ前駆体タンパク質(APP)の生成の予防および/または軽減において使用されうる。
【0037】
一般に、「治療的有効量」、「治療的有効用量」および「有効量」は、所望の結果(BACE1結合の抑制;アルツハイマー病の治療または予防)を達成するのに必要な量を意味する。効力および従って「有効量」は、本発明において使用されるBACE1結合を抑制する抗体によって様々となりうる、と当業者は認識するであろう。当業者は該抗体の効力を容易に評価することが可能である。「医薬上許容される」は、生物学的にもその他においても有害でない物質に関して用いられ、すなわち、該物質は、望ましくない生物学的効果を及ぼしたり、含有されている医薬組成物の他の成分のいずれかと有害な様態で相互作用することなく、該化合物と共に個体に投与されうる。
【0038】
「治療するための医薬」なる語は、本明細書に記載されている疾患を治療または予防するための、前記の抗体と医薬上許容される担体または賦形剤(それらの両方の用語は互換的に用いられうる)とを含む組成物に関するものである。前記の抗体またはその医薬上許容される塩の投与は、経口、吸入または非経口投与によるものでありうる。特定の実施形態においては、該抗体は鞘内または脳室内投与により運搬される。該活性化合物は単独で投与されることが可能であり、あるいは好ましくは、医薬組成物として製剤化されうる。該抗体により認識される抗原を発現するアルツハイマー病を治療するのに有効な量は、通常の要因、例えば、治療される障害の性質および重症度ならびに該哺乳動物の体重に左右される。しかし、単位用量は、通常、抗体またはその医薬上許容される塩0.01から50mg、例えば、0.01から10mg、または0.05から2mgである。単位用量は、合計1日量が通常、0.0001から1mg/kgの範囲となるよう、通常、1日1回または2回以上、例えば、1日2、3または4回、より通常は、1日1から3回投与される。例えば、70kgの成人に対する適当な合計1日量は0.01から50mg、例えば、0.01から10mg、またはより通常は0.05から10mgである。該化合物またはその医薬上許容される塩は、単位投与組成物、例えば、単位投与経口、非経口または吸入組成物の形態で投与されることが非常に好ましい。そのような組成物は混合により製造され、適切には、経口、吸入または非経口投与に適合化され、したがって、錠剤、カプセル剤、経口液体製剤、散剤、顆粒剤、ロゼンジ、還元(再構成)可能な散剤、注射可能および注入可能な溶液もしくは懸濁液、または坐剤またはエアロゾル剤の形態でありうる。経口投与用の錠剤およびカプセル剤は、通常、単位用量で提供され、通常の賦形剤、例えば結合剤、充填剤、希釈剤、打錠剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、香味剤および湿潤剤を含有する。錠剤は、当技術分野におけるよく知られた方法によりコーティングされうる。使用される適当な充填剤には、セルロース、マンニトール、ラクトースおよび他の同様の物質が含まれる。適当な崩壊剤には、デンプン、ポリビニルピロリドンおよびデンプン誘導体、例えばデンプングリコール酸ナトリウムが含まれる。適当な滑沢剤には、例えば、ステアリン酸マグネシウムが含まれる。適当な医薬上許容される湿潤剤には、ラウリル硫酸ナトリウムが含まれる。これらの固体経口組成物は、混合、充填、打錠などの通常の方法により製造されうる。多量の充填剤を使用する組成物の全体にわたって活性物質を分配させるために、反復混合操作が用いられうる。そのような操作は、勿論、当技術分野における常套手段である。経口液体製剤は、例えば、水性または油性の懸濁剤、溶液剤(水剤)、乳剤(エマルション)、シロップ剤またはエリキシル剤の形態であることが可能であり、あるいは使用前に水または他の適当なビヒクルで還元するための乾燥製品として提供されうる。そのような液体製剤は、通常の添加剤、例えば懸濁化剤、例えばソルビトール、シロップ、メチルセルロース、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲルまたは硬化食用脂肪、乳化剤、例えばレシチン、ソルビタンモノオレアートまたはアカシア;非水性ビヒクル(これには食用油が含まれる)、例えばアーモンド油、分別化ヤシ油、油性エステル、例えば、グリセリン、プロピレングリコールまたはエチルアルコールのエステル;保存剤、例えばp−ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはプロピルまたはソルビン酸、そして所望により、通常の香味剤または着色剤を含有しうる。経口製剤には、通常の徐放製剤、例えば、腸溶コーティングを有する錠剤または顆粒剤も含まれる。好ましくは、吸入用の組成物は、気道への投与用に、嗅剤またはエアロゾル剤または溶液剤(ネブライザー用のもの)として、あるいは吹送法用の微細散剤として、単独で又は不活性担体、例えばラクトースと組合せて提供される。そのような場合、活性化合物の粒子は、適切には、50ミクロン未満、好ましくは10ミクロン未満、例えば1から5ミクロン、例えば2から5ミクロンの直径を有する。好ましい吸入用量は0.05から2mg、例えば0.05から0.5mg、0.1から1mg、または0.5から2mgの範囲である。非経口投与の場合には、本発明の化合物と無菌ビヒクルとを含有する流体単位用量形態を製造する。該活性化合物は、該ビヒクルおよび濃度に応じて、懸濁または溶解されうる。非経口溶液は、通常、該化合物をビヒクルに溶解し、滅菌濾過した後で適当なバイアルまたはアンプル内に充填し密封することにより製造される。有利には、補助剤、例えば局所麻酔薬、保存剤および緩衝剤も該ビヒクルに溶解される。安定性を増強するために、バイアル内への充填後、該組成物を凍結し、真空下で水を除去することが可能である。非経口懸濁剤は、該化合物を溶解する代わりにビヒクルに懸濁させエチレンオキシドにさらすことにより滅菌した後で無菌ビヒクルに懸濁させること以外は、実質的に同じ方法で製造される。有利には、該活性化合物の均一な分布を促進させるために、界面活性剤または湿潤剤を該組成物中に含有させる。適当な場合には、少量の気管支拡張薬、例えば交感神経興奮性アミン、例えばイソプレナリン、イソエタリン、サルブタモール、フェニレフリンおよびエフェドリン;キサンチン誘導体、例えばテオフィリンおよびアミノフィリン、ならびにコルチコステロイド、例えばプレドニゾロンおよび副腎刺激剤、例えばACTHが含有されうる。慣例のとおり、該組成物には、通常、関係のある医学的治療における使用のための、書面の又は印刷された説明が付属する。
【0039】
本発明の更にもう1つの実施形態においては、本発明の抗体は、血液脳関門(BBB)を越える輸送を可能にするように製剤化されうる(Pardrigde 2007)。本発明の抗体のBBB輸送は、限定的なものではないが分子トロイ木馬(molecular Trojan horse)により達成されうる。現在公知の最も有効なBBB分子トロイ木馬はヒトインスリン受容体に対するモノクローナル抗体(HIRmAb)である。アルツハイマー病に対する、抗体に基づく新規治療法として、BBBを通過させるために、抗アミロイドベータモノクローナル抗体が操作され、HIRmAbに融合されている(Boadoら,2007)。また、脳への抗体に基づく薬物の運搬を促進させるために、種々の薬物運搬系(例えば、とりわけ、ミクロスフェア、ナノ粒子、ナノゲル)が研究中であり(Patelら,2009)、これらの全ては本発明の実施において使用されうる。
【0040】
本発明は更に、本発明の抗体または活性フラグメントと少なくとも1つの医薬上許容される担体、アジュバント(補助剤)または希釈剤とを含む医薬組成物に関する。
【0041】
本発明は更に、その医薬上許容される塩またはその医薬上許容される溶媒和物と、必要に応じて、その医薬上許容される担体とを含む、本明細書に記載されている障害の治療および/または予防において使用するための医薬組成物を提供する。
【0042】
「担体」または「アジュバント」、特に「医薬上許容される担体」または「医薬上許容されるアジュバント」は、該組成物の投与を受ける個体に有害な抗体の産生をそれ自体は誘導せず、また、防御も惹起しないいずれかの適当な賦形剤、希釈剤、担体および/またはアジュバントである。好ましくは、医薬上許容される担体またはアジュバントは、抗原により惹起される免疫応答を増強する。適当な担体またはアジュバントは、典型的には、以下の非網羅的一覧に含まれる化合物の1以上を含む:大きな遅代謝巨大分子、例えばタンパク質、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、重合体アミノ酸、アミノ酸共重合体および不活性ウイルス粒子。
【0043】
「希釈剤」、特に「医薬上許容されるビヒクル」には、ビヒクル、例えば水、塩類液(食塩水)、生理的塩類液、グリセロール、エタノールなどが含まれる。補助的物質、例えば湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質、保存剤がそのようなビヒクルに含有されうる。
【0044】
アルツハイマー病に対する本発明の治療方法は、当技術分野で公知のいずれかの他のAD疾患療法、例えばガンマ−セクレターゼインヒビターまたは他のベータ−セクレターゼインヒビターと組合せて使用することも可能であることが、明らかなはずである。
【0045】
本発明は更に、BACE1の活性を抑制しうる抗BACE1抗体の単離された相補性決定領域(CDR)に関する。該CDRも、例えば担体、アジュバントまたは希釈剤を更に含む組成物中に含有されうる。該単離CDR核酸配列、ならびにそのようなCDR核酸を含むいずれかのベクターまたは組換え核酸(DNA、RNA、PNA、LNAまたはそれらのいずれかのハイブリッド;直鎖状または環状;鎖数には無関係)は、本発明の一部である。そのようなCDR核酸配列、ベクターまたは組換え核酸を含むいずれかの宿主細胞も同様に、本発明の一部である。
【0046】
本発明はまた、BACE1の活性を抑制しうる抗BACE1抗体の単離された可変領域に関する。該可変領域も、例えば担体、アジュバントまたは希釈剤を更に含む組成物中に含有されうる。該単離可変領域核酸配列、ならびにそのような可変領域核酸を含むいずれかのベクターまたは組換え核酸(DNA、RNA、PNA、LNAまたはそれらのいずれかのハイブリッド;直鎖状または環状;鎖数には無関係)は、本発明の一部である。そのような可変領域核酸配列、ベクターまたは組換え核酸を含むいずれかの宿主細胞も同様に、本発明の一部である。
【0047】
本発明のもう1つの態様は、前記の少なくとも1つのCDRまたは前記の少なくとも1つの可変領域を含む、BACE1活性を抑制しうる化合物に関する。そのような化合物はアルツハイマー病の予防および/または治療において使用されうる。該化合物も、例えば担体、アジュバントまたは希釈剤を更に含む組成物中に含有されうる。そのような化合物の非限定的な例はタンパク質アプタマー、および二重特異性抗体またはその活性フラグメントである。
【0048】
本発明のもう1つの態様は、
(i)非ヒト動物をBACE1で免疫化し、
(ii)BACE1の活性を抑制しうる抗体に関して複数のハイブリドーマ系をスクリーニングすることを含む、BACE1の活性を抑制しうる抗体の製造または作製または選択方法を含む。
【0049】
あるいは、本発明はまた、
(i)非ヒト動物をBACE1で免疫化し、
(ii)BACE1の活性を抑制しうる抗体に関して複数のハイブリドーマ系をスクリーニングし、
(iii)該抗体を産生するハイブリドーマを単離することを含む、BACE1の活性を抑制しうる抗体の製造または作製または選択方法を含む。
【0050】
いずれかの適当な動物、例えば温血動物、特に哺乳動物、例えばウサギ、マウス、ラット、ラクダ、ヒツジ、ウシまたはブタ、あるいは鳥類、例えばニワトリまたはシチメンチョウが、免疫応答の生成に適した当技術分野でよく知られた技術のいずれかを用いて、BACE1またはその少なくとも一部、断片、抗原決定基またはエピトープで免疫化されうる。動物を免疫化するための方法は当技術分野でよく知られている。当業者により認識されるとおり、免疫原を、免疫応答を増強するためのアジュバントまたはハプテン(例えば、完全または不完全フロイントまたはリピドAアジュバント)と、あるいは担体、例えばキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)と混合することが可能である。適当な動物を免疫化し、該抗原に対する免疫応答が該動物により確立されたら、該動物からの抗体産生細胞をスクリーニングして、所望の活性を有する抗体を産生する細胞を特定する。多数の実施形態においては、これらの方法は、免疫化動物の脾臓からの細胞を適当な不死細胞と融合させてハイブリドーマ細胞を得るハイブリドーマ技術を用いる。これらのハイブリドーマ細胞からの上清をスクリーニングすることが可能であり、標準的な方法(例えば、Harlowら,1998,Antibodies:A Laboratory Manual,First edition(1998)Cold Spring Harbor,N.Y.)に従い、陽性クローンを増殖させる。
【0051】
前記方法の工程(i)の免疫化は、BACE1またはその少なくとも一部、断片、抗原決定基またはエピトープを使用して行われうる。特に、該免疫化は、BACE1のエクトドメインを使用して行われうる。工程(ii)におけるハイブリドーマ系のスクリーニングは、自体公知の1以上のスクリーニング技術を用いて行われうる。好ましい実施形態においては、実施例において非限定的に例示されているとおり、細胞に基づくスクリーニングアッセイおよび/または無細胞スクリーニングアッセイにおいてBACE1の抑制活性を測定することにより機能性スクリーニングを行う。もう1つの好ましい実施形態においては、該抗体はモノクローナル抗体である。
【0052】
特定の実施形態においては、本発明の抗体は診断アッセイの調製のために使用されうる。BACE1は、種々の細胞および組織、特に、脳細胞および組織において検出されることが可能であり、この場合、発現の度合はアルツハイマー病の重症度を裏づける。したがって、生物学的サンプルにおけるBACE1発現の局在化および分布をインシトゥ(in situ)で検出する方法を提供する。該方法は、該生物学的サンプルを、本発明の検出可能な抗BACE1抗体と反応させ、該抗体の局在化および分布を検出する工程を含む。「生物学的サンプル」なる語は、脳細胞および組織(これらに限定されるものではない)を含む細胞および組織を意味する。該用語は更に、体液を意味する。したがって、患者の体液中のBACEタンパク質の検出方法を提供する。該方法は、体液を本発明の抗BACE抗体と反応させ、該反応をモニターする工程を含む。該体液は、例えば血漿、尿、脳脊髄液、胸水または唾液である。該反応のモニターは、検出可能な部分で該抗体を標識することにより、または、検出可能部分を含む第2抗体が特異的に結合しうる固有検出可能部分としてその定常領域を使用して行われうる。CSF BACE1は、例えば、アルツハイマー病に罹患した患者において検出されうる。本発明の好ましい実施形態においては、体液と該抗BACE1抗体との反応を溶液中で行う。あるいは、体液と該抗BACE1抗体との反応を、体液中に存在するタンパク質を吸着しうる基質上で行う(全て、抗体に基づく診断の分野でよく知られている)。さらに、本発明においては、生物学的サンプル中のBACE1タンパク質の存在、非存在またはレベルの検出方法を提供する。該方法は以下の工程を含む。第1に、生物学的サンプルからタンパク質を抽出し、それにより複数のタンパク質を得る。該タンパク質抽出物は粗抽出物であることが可能であり、非タンパク質性物質をも含みうる。第2に、該タンパク質を、例えば電気泳動、ゲル濾過などにより、サイズにより分離する。第4に、該サイズ分離タンパク質を抗BACE1抗体と相互作用させる。最後に、相互作用した抗BACE1抗体の存在、非存在またはレベルを検出する。ゲル電気泳動の場合、該抗体との相互作用は、典型的には、該サイズ分離タンパク質を固体支持体(膜)上にブロットした後で行われる。
【0053】
前記抗BACE1抗体またはその活性フラグメントの製造方法は本発明の肝要な態様を構成する。特に、そのような方法は、
(i)該抗体または抗体フラグメントの組換え発現により、あるいは該抗体または抗体フラグメントの化学合成により、該抗体または抗体フラグメントの粗調製物を得、(ii)(i)において得られた粗調製物から該抗体または抗体フラグメントを精製する工程を含みうる。あるいは、
(i)該抗体の組換え発現により、あるいは該抗体の化学合成により、該フラグメントを含む抗体の粗調製物を得、
(ii)(i)において得られた粗調製物から該抗体を精製し、
(iii)(ii)において精製された抗体から活性フラグメントを単離する工程を含む方法により、本発明の抗BACE1抗体を抑制する活性フラグメントが入手または製造されうる。
【0054】
前記方法においては、組換え発現はハイブリドーマ細胞系における発現に限定されない。
【0055】
(i)本発明の抑制性抗BACE1抗体、(ii)(i)の活性フラグメント、(iii)(i)のCDRアミノ酸配列、(iv)(i)の可変領域アミノ酸配列、または(v)(i)、(ii)、(iii)または(iv)を含む化合物を含むおよび/または分泌する任意の宿主細胞も同様に、本発明の一部である。
【実施例】
【0056】
生物寄託
本明細書の全体に記載されているモノクローナル抗体を分泌する以下のハイブリドーマ細胞系はブダペスト条約に従い寄託された。
【0057】
【表1】
【0058】
該寄託機関の詳細は以下のとおりである:BCCM/LMBP Plasmid Collection:Department of Biomedical Molecular Biology Ghent University,‘Fiers−Schell−Van Montagu’building,Technologiepark 927,B−9052 Gent−Zwijnaarde,Belgium。
【0059】
「MAB−B1−1A11」および「1A11」なる表記は、本発明の全体において、対象ハイブリドーマ細胞系または該ハイブリドーマ細胞系により分泌されるモノクローナル抗体に関して互換的に用いられる。
【0060】
「MAB−B1−14F10」および「14F10」なる表記は、本発明の全体において、対象ハイブリドーマ細胞系または該ハイブリドーマ細胞系により分泌されるモノクローナル抗体に関して互換的に用いられる。
【0061】
「MAB−B1−5G7」および「5G7」なる表記は、本発明の全体において、対象ハイブリドーマ細胞系または該ハイブリドーマ細胞系により分泌されるモノクローナル抗体に関して互換的に用いられる。
【0062】
材料および方法
免疫化およびハイブリドーマの製造
5匹の9週齢BACE1−/BACE2−/−マウスに4週間隔で4回の免疫化を行った。それぞれの免疫化はフロイントアジュバントとの1:1混合物中の精製ヒトBACE1エクトドメインタンパク質(アミノ酸45−460;HEK293細胞培養から産生)の1回の腹腔内注射を含むものであった。第1の免疫化はフロイント完全アジュバントとの1:1混合物中の50μgの免疫原を含むものであった。一方、全ての後続の免疫化はフロイント不完全アジュバントとの混合物中の40μgの免疫原を使用した。4回目の免疫化の2週間後、各免疫化マウスの血清中のBACE1特異的抗体をELISAにより力価測定した。最高力価(ELISAにおいて40,000回の希釈の後で検出可能)を示す2匹のマウスをハイブリドーマの作製のために選択した。
【0063】
血清抗体価が有意に低下した、4回目の免疫化の3ヵ月後に、ハイブリドーマを製造した。30μgの免疫原を使用して、尾静脈における1回の静脈内注射からなる1回の最終追加抗原を各マウスに投与した。マウスを犠死させ、脾臓を単離し、骨髄腫細胞と4:1の比で融合させた。合計2億個の脾細胞を集め、5000万個の骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを得、細胞混合物を、マウス支持細胞層でコーティングされた27個の96ウェルプレート内に分割した。細胞を、まず、ハイブリドーマ選択のためにHAT培地内で2週間培養し、ついで、15% FCS(Hyclone)で補足された通常増殖培地DMEM(Invitrogen)への交換の前にHA培地内で更に1週間培養した。該ウェルの90%以上がハイブリドーマ選択後の細胞増殖を示している。
【0064】
ELISAによるハイブリドーマのスクリーニング
抗BACE1抗体を産生する陽性ハイブリドーマクローンのELISAスクリーニングを標準的なELISAプロトコールに従い行った。簡潔に説明すると、96ウェル塩化ポリビニルプレート(BD Falcon)を1μg/ml 精製BACE1エクトドメインタンパク質(PBS中)で50μl/ウェルで4℃で一晩コーティングした。PBS中の2% BSAで室温(RT)で1時間ブロッキングした後、50μlのハイブリドーマ上清を該プレートに加え、2時間温置した。ついで該プレートをPBS+0.05% Tween−20で洗浄し、ブロッキングバッファー中の1:5000希釈の抗マウスIgG−HRP(Innova Biosciences)と共に室温で1時間温置した。洗浄後、プレートを0.1M NaAc(pH 4.9)および0.03% H2O2中の50μlの0.2mg/ml テトラメチルベンジジン(sigma)で25分間現像した。50μlの2M H2SO4を加えることにより反応を停止させ、OD450nmでELISAリーダー上でプレートを読取った。
【0065】
mca−Fretアッセイによるハイブリドーマのスクリーニング
ハイブリドーマのmca−Fretアッセイスクリーニングを、Eli Lillyにより提供された標準的なプロトコールを幾らか変更したものにより行った。簡潔に説明すると、酵素BACE1Fcを反応バッファー(50mM 酢酸アンモニウム,pH 4.6,3% BSA,0.7% TritonX−100)中で1μg/mlの濃度で希釈し、小さなFRETペプチド基質MCA−SEVENLDAEFRK(Dnp)−RRRR−NH2を反応バッファー中で125μMの濃度で希釈した。96ウェル黒色ポリスチレンプレート(Costar)内で20μlのハイブリドーマ上清を30μlの酵素希釈液および50μlの基質希釈液と混合し、該プレートをベースラインシグナルに関してEnvision(355nm励起、430nm発光、1秒/ウェル)で直ちに読取り、ついで暗所で室温で一晩温置した。翌朝、同じ読取りプロトコールを用いて該プレートを読取った。
【0066】
免疫蛍光染色によるハイブリドーマのスクリーニング
BACE1を安定に発現するHEK293細胞を、0.2mg/ml ポリ−L−リシンで予め処理された96ウェルプレート上で増殖させた。細胞をPBSで洗浄し、ついで4% パラホルムアルデヒドで固定し、0.1% Triton X−100中で透過性亢進させた。ブロッキングバッファー(PBS中の2%FCS,2% BSAおよび0.2% ゼラチン)中で希釈された5% ヤギ血清で該細胞を4℃で一晩ブロッキングした後、50μlのハイブリドーマ上清を各ウェルの細胞に加え、室温で2時間温置した。ついで細胞を洗浄し、ブロッキングバッファー中で1:1000希釈のAlexa Fluor 488ヤギ抗マウスIgG(Invitrogen)と共に室温で1時間にわたり更に温置した。洗浄後、IN Cell Analyser 1000(Ammersham/GE Healthcare)により96ウェルプレートを読取った。
【0067】
細胞アッセイによるハイブリドーマのスクリーニング
APPを安定に発現するSH−SY5Y細胞を90%コンフルエントまで24ウェルプレート上で増殖させた。洗浄後、4.5g/L グルコース、0.11g/L ピルビン酸ナトリウムおよび15% FCSで補足された100μlの新鮮増殖培地DMEMと混合された100μlのハイブリドーマ上清で、37℃、5%CO2および70%相対湿度で細胞を処理した。新鮮培地と混合された陰性ハイブリドーマ細胞からの上清を陰性対照として使用した。24時間の処理の後、順化培地を集め、13,000rpm、4℃で5分間遠心分離し、抗体抗sAPPβポリクローナル抗体(Covance)および6E10(Signet)を使用するウエスタンブロットによりsAPPβおよびsAPPαに関して上清を分析した。
【0068】
イソタイプ決定、サブクローニングおよび抗体精製
Mouse Monoclonal Antibody Isotypingキット(Roche)を該製造業者の説明に従い使用して、1A11、5G7、14F10および2G3のイソタイプを1gG1(1A11,5G7)、1gG2b(14F10)およびIgM(2G3)と決定した。ハイブリドーマクローン1A11、5G7および14F10を限界希釈により4回サブクローニングした。4mM グルタミン、4g/L D−グルコースおよび15% FCSで補足されたDMEM培地を使用してCellineCL−1000バイオリアクター(VWR)においてハイブリドーマクローンを37℃、5%CO2および70%相対湿度で培養することにより、抗体産生を行った。該抗体を、プロテインGセファロース4(Sigma)を使用するアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、透析膜MWCO 6000−8000ダルトン(Spectrum)を使用してPBS中で透析した。それぞれの6〜7日間培養されたバイオリアクターからの抗体の収量は約4〜10mgであった。抗体のアリコートを液体窒素により急速凍結した後、−70℃で貯蔵した。
【0069】
セムリキ森林ウイルス形質導入および代謝標識を用いるmAbのニューロンアッセイ試験
野生型マウス由来の混合皮質ニューロンの初代培養を作製するために、14日齢の胚の全脳をHBSS培地(Gibco)内で解剖し、トリプシン処理し、ポリ−L−リシン(Sigma−Aldrich)で予めコーティングされたディッシュ(Nunc)上でプレーティングした。グリア細胞増殖を防ぐためにB27補足物(Gibco BRL)および5μM シトシンアラビノシドを含有する神経基礎培地(Gibco)内で培養を維持した。3日間培養された初代ニューロンを、セムリキ森林ウイルス(SFV)を使用してヒトAPP(APP野生型またはAPP Swedish)で形質導入した。1時間のSFV形質導入の後、該培地を新鮮神経基礎培地と交換し、ついで2時間の形質導入後時間に付した。2時間の形質導入後時間の後、該神経基礎培地を、100μCi/ml[35S]メチオニン(ICN Biomedicals)で補足された無メチオニンMEM(Gibco BRL)と交換し、その一方でmAb(PBS中)を該培地に加えた。6時間の代謝標識の後、該順化培地を集め、該細胞を氷冷PBS中で洗浄し、完全プロテアーゼインヒビター(Roche)で補足されたIPバッファー(20mM Tris−HCl,pH 7.4,150mM NaCl,1% Triton X−100,1% デオキシコール酸ナトリウムおよび0.1% SDS)中で細胞溶解した。25μlのプロテインGセファロースおよびAPP C末端抗体B63.9を使用して、4℃で一晩にわたり細胞抽出物を免疫沈降させた。最後に免疫沈降物をNuPageサンプルバッファー(Invitrogen)中で溶出し、ランニングバッファー(Invitorogen)中のMESおよび還元条件下で10% アクリルアミドNuPAGE Bis−Trisゲル上で電気泳動した。Phosphor Imager(Molecular Dynamics)およびlmagQuaNT4.1を使用して結果を解析した。抗sAPPβポリクローナル抗体(Covance)およびWO−2(The Genetics Company)を使用する直接ウエスタンブロットにより、順化培地からのsAPPβおよびAβを分析した。
【0070】
エピトープマッピングのためのプラスミド構築
全てのBACE1欠失突然変異体を、ヒトBACE1をコードするcDNAからのPCR増幅により作製し、pGEX4Tベクター内にサブクローニングした。全ての突然変異体をDNA配列決定により確認した。
【0071】
部位特異的突然変異誘発
QuikChange II XL Site−Directed Mutagenesis Kit(Strategene)を提供されている手順に従い使用して、ループFのSQDD(配列番号11)からWAAA(配列番号12)(アミノ酸376−379)への、およびループDのQAGからAGA(アミノ酸332−334)への突然変異誘発を行った。構築物pGEX4T−BACE46−460およびpcDNA3−BACE1−501を鋳型として使用した。全ての突然変異体をDNA配列決定により確認した。
【0072】
GST融合タンパク質の発現および精製
pGEX4T−BACE1欠失突然変異体で形質転換された大腸菌(Escherichia coli)BL21(Novagen)を対数増殖させ(100ml、A600=0,8)、0.2mM IPTG(Sigma)で3時間誘導した。ついで細胞をペレット化し、Complete Protease Inhibitor(Roche)で補足された15mlのBugBuster Master Mix(Novagen)に再懸濁させた。細菌を、回転させながら室温で15分間溶菌し、ついで20,000×g、4℃で30にわたりペレット化した。上清を300μlのグルタチオン−セファロースビーズ(Pharmacian)と4℃で1時間混合した。温置後、ビーズをPBSで洗浄し、50mM Tris−HClバッファー(pH 8.0)中の10mM L−グルタチオン(Sigma)でタンパク質を溶出した。
【0073】
結果
実施例1.ハイブリドーマのスクリーニングからの候補BACE1 mAbインヒビターの特定
抗BACE1モノクローナル抗体を作製するために、精製ヒトBACE1エクトドメインタンパク質(アミノ酸45−460)(配列番号13)でのBACE1−/−BACE2−/−マウスの一連の免疫化の後、ハイブリドーマを製造した。96ウェルプレート上での該細胞のプレーティングの2〜3週間後(このとき、該ウェルのほとんどは>80%コンフルエントとなっていた。)に、ハイブリドーマのスクリーニングを開始した。BACE1 FRETアッセイスクリーニングおよび細胞に基づくアッセイスクリーニングを含む機能性スクリーニングを初期ハイブリドーマスクリーニング段階において適用した(図1Aを参照されたい)。ハイブリドーマ上清を、まず、固定化BACEエクトドメイン(免疫原)上のELISAによりスクリーニングした。このアッセイにおいては、約2400個中377個のハイブリドーマが陽性と評価された(陽性ウェルのELISAシグナルはバックグラウンドの5から30倍であった。)。
【0074】
該ELISAスクリーニングからの陽性ハイブリドーマを更に、BACE1 mca−Fretアッセイにおいて試験した。試験した377個のウェルのうちの6個(2G3、5G7、2G6、10G1、14F10、17B12)のウェルからの上清がFretアッセイにおいてBACE1活性を抑制した。ハイブリドーマ(2G6、10G1、17B12)は、おそらく非分泌性ハイブリドーマの早期過剰増殖のため、更なるアッセイにおいて増殖もせず陰性にもならなかった。したがって、それらは更なる分析に利用できなかった。更なる特徴づけのための潜在的候補BACE1インヒビターとして、残りのウェル(2G3、5G7、14F10)を選択した。2G3はIgMであることが判明し、したがって更なる特徴づけを行わなかった。
【0075】
mca−Fretアッセイスクリーニングと並行して、BACE1を安定に発現するHEK293細胞の免疫蛍光染色を用いて該ハイブリドーマ上清をスクリーニングした。ELISAスクリーニングにおいて最高シグナルを示したハイブリドーマの96個のウェルを試験し、それらのうちの25個のウェルが免疫蛍光染色においてBACE1に対する強力な免疫反応性を示した。
【0076】
ELISAおよび免疫蛍光染色の両方において最良シグナルを示したハイブリドーマの25個のウェルを細胞アッセイにより更にスクリーニングして、それらがBACE1活性を抑制するかどうかを調べた。APPを安定に発現するSH−SY5Y細胞をハイブリドーマ上清で24時間処理し、順化培地からのsAPPβをBACE活性の読出しとして分析した。この細胞アッセイにおいては、ウェル1A11からの上清はsAPPβの生成を減少させた。したがって、1A11をBACE1抑制のための候補の1つとして選択した。
【0077】
要約すると、BACE1 mAbインヒビターの回収の成功はmAbインヒビターのスクリーニングにおけるこの方法の実施可能性を実証した。
【0078】
実施例2.mAb 1A11、5G7および14F10は酵素アッセイにおいてBACE1活性をモジュレーションする
3つの候補BACE1インヒビター1A11、5G7および14F10を、まず、大きな基質であるAPPsweのC末端の125アミノ酸配列を基質として使用するMBP−ELISAにより特徴づけした。このMBP−ELISAアッセイにおいては、全3個のmAbはBACE1活性を完全に抑制しうる(図1B)。5G7、14F10および1A11のIC50は、それぞれ、0.47nM、0.46nMまたは0.76nMである。本発明者らはまた、小さなFRETペプチドを基質として使用するmca−Fretアッセイにおいて、それらの3つのmAbを試験した(図2)。このアッセイにおいては、5G7および14F10は、それぞれ0.06nMおよび1.6nM(14F10)のIC50で、BACE1活性を完全に抑制しうる。意外なことに、該細胞アッセイから回収されたBACE1インヒビターである1A11はBACE1活性を刺激した。
【0079】
それらの2つの酵素アッセイからの結果は、mAb 1A11がBACE1−大基質相互作用(BACE1−APP)に対する立体的インヒビターであることを示唆している。
【0080】
実施例3.mAb 1A11はヒト神経芽細胞腫細胞においてBACE1を抑制する
3つの候補mAbインヒビター5G7、14F10および1A11を細胞アッセイにおいて試験した。野生型APPを安定に発現するSH−SY5Y細胞を6ウェルプレート内で90%のコンフルエンシーまで培養し、300nM mAbと共に24時間培養した。PBSを陰性対照として使用し(mAbをPBSに溶解させた。)、PBS中で1μMに希釈されたBACE1インヒビター化合物III(Merck Company)を陽性対照として使用した。24時間の処理の後、順化培地からのAβ、sAPPβおよびsAPPαをウエスタンブロットにより分析した。図3に示されているとおり、1A11 mAbはAβおよびsAPPβの生成を抑制したが、5G7および14F10処理は細胞BACE1活性に対する抑制効果を示さなかった。
【0081】
実施例4.mAb 1A11は培養ニューロンにおいてAPPwtのBACE1切断を有意に抑制する
mAb 5G7、14F10および1A11を初代ニューロン培養において更に試験した。3日間培養されたマウス初代ニューロンをセムリキ森林ウイルス(SFV)によりヒトAPPwtで形質導入し、300nM mAb(PBS中)で24時間処理した。PBSを陰性対照として使用し、1μM BACE1インヒビター化合物III(Merck Company)を陽性対照として使用した。24時間の処理の後、順化培地からのAβ、sAPPβおよびsAPPαを、細胞ライセートからの完全長APP、CTFβおよびCTFαと共に、ウエスタンブロットにより分析した。図4に示されているとおり、1A11処理はAβ、sAPPβおよびCTFβの生成を有意に減少させたが、α−セクレターゼ切断産物であるCTFαおよびsAPPαは増加した。残りの2つのmAbである5G7および14F10はAPPwtのBACE1切断に対する抑制効果を示さなかった。
【0082】
SFV−ヒトAPPwtで形質導入され、35S−メチオニン代謝標識により6時間にわたって代謝標識された前記ニューロンを使用して、mAb 1A11に関する用量反応曲線を確定した。APP C末端ポリクローナル抗体での免疫沈降の後、細胞ライセートからの完全長APPおよびCTFをホスホルイメージングで検出した。順化培地からのAβおよびsAPPβを直接ウエスタンブロットにより分析した。CTFβレベルをBACE1活性に関して定量した。図5に示されているとおり、1A11は100nMの濃度で>90%のBACE1活性を抑制することが可能であり、このアッセイにおける見掛けIC50は3,7nMと推定された。
【0083】
BACE1は、その長い寿命において、細胞表面を介して輸送され、細胞表面、エンドソームおよびTNGを数周循環することが示されている(Huseら,2000,Wahleら,2005)。しかし、BACE1のどのくらいの割合が細胞表面輸送に付されるのかは不明であり、したがって、細胞表面BACE1を標的化することが、主要細胞BACE1活性を阻止するのに十分な程度に有効かどうかは、推測の域を出なかった。前記結果は、BACE1のエクトドメインに特異的なBACE1抑制性mAbが、細胞表面BACE1への結合を介して同時インターナリゼーションされる可能性があることを示している。さらに、前記ニューロン培養アッセイにおいて示されているとおり、細胞表面BACE1を標的化することは、主要細胞BACE1活性を阻止するのに有効である。
【0084】
実施例5.1A11の抗原結合フラグメント(Fab)は培養ニューロンにおいてBACE1を抑制する
5G7、14F10および1A11の3つのmAbからの抗原結合フラグメント(Fab)を、Fab調製キット(Pierce)を該製造業者の説明に従い使用して作製した。作製されたFabの純度をNuPAGEゲル上で青色染色により試験した。ニューロンアッセイにおいて該Fabを試験するために、3日間培養されたマウス初代ニューロンを、セムリキ森林ウイルス(SFV)を使用してヒトAPPwtで形質導入し、200nM Fab(PBS中)で処理した。24時間の処理の後、順化培地からのAβ、sAPPβおよびsAPPαを、細胞ライセートからの完全長APP、CTFβおよびCTFαと共に、ウエスタンブロットにより分析した。図6に示されているとおり、1A11 Fabは、Aβ、sAPPβおよびCTFβの生成を減少させているため、BACE1活性を抑制したが、5G7Fabおよび14F10FabはBACE1活性に対する抑制効果を示さなかった。
【0085】
実施例6.mAb 1A11の立体空間的注射は野生型マウスにおいてBACE1活性を抑制する
野生型マウスの脳内への立体空間的注射により、mAb 1A11の活性をインビボで試験した。簡潔に説明すると、3月齢の野生型マウスの脳内に立体空間座標(ブレグマ −2.46mm;外側 +/−2.6mm;腹側 −2.5mm)においてmAb 1A11を投与した。mAbサンプルを4μgの用量(合計体積1μl)で右脳内に注射し、対照として1μlのPBSを左脳内に注射した。注射の24時間後、マウスを犠死させて脳を解剖した。注射部位を含む脳薄片(〜1.5mmの厚さ)を海馬および皮質に関して更に解剖した。脳サンプルをCTFβに関してウエスタンブロットにより分析した。図7に示されているとおり、1A11の投与はCTFβの生成を減少させた。このことは、該mAbが野生型マウス脳においてBACE1活性を抑制しうることを示唆している。
【0086】
実施例7.BACE1を抑制するモノクローナル抗体のエピトープマッピング
興味深いことに、5G7および14F10の2つの候補BACE1インヒビターは、無細胞アッセイにおいては強力な活性を示すが、細胞アッセイにおいてはBACE1に対する抑制効果を示さないことが示された。本発明者らは、5G7が、細胞表面に露出したBACE1には結合しないことを見出した。免疫蛍光染色(図8)により示されているとおり、5G7は天然条件下では細胞表面BACE1に結合しなかった。5G7は、BACE1を安定に発現するHEK293細胞の順化培地からの遊離BACE1を免疫沈降させるが、膜結合完全長BACE1を免疫沈降させず、一方、1A11はBACE1の両方の形態を免疫沈降させることを、免疫沈降実験は示した。これらの結果は、5G7結合のためのエピトープが膜結合BACE1上では利用可能でないことを示唆している。これはBACEの複雑な構造に起因すると考えられ、例えば、結合部位を含むタンパク質の結合、または膜により引き起こされる立体障害によるものであると考えられうるであろう。これを更に例証するために、5G7がBACE1エクトドメインの表面上の別のコンホメーションエピトープに結合することが、エピトープマッピングにより示された(K299、E303およびQ386を含むこのエピトープ内の幾つかの残基に対する抗体反応性が突然変異誘発により確認された。)。このエピトープは、他のタンパク質と結合することが可能であるため、細胞表面においては「接近不可能」であると推定される。
【0087】
MAb 1A11の結合性エピトープを決定するために、N末端融合GSTタグを有する一連のBACE1欠失突然変異体を作製し、細菌培養から精製した。該BACE1欠失突然変異体に対するMAb 1A11の免疫反応性をウエスタンブロットにより試験した。図9に示されているとおり、MAb 1A11と反応する最短欠失突然変異体は、完全長免疫原BACE 46−460[配列番号2]に類似した免疫反応性を有するBACE 314−460[配列番号9]である。これは、MAb 1A11の結合性エピトープが完全にBACE 314−460[配列番号9]内に位置していることを示している。
【0088】
さらに、MAb 1A11に対する結合性エピトープは直鎖状エピトープではないことが示された。図9に示されているとおり、MAb 1A11はBACE314−460[配列番号9]とは反応するが、BACE329−460[配列番号10]とは反応しない。該エピトープが直鎖状である場合、それは少なくとも部分的にBACE314−329(15アミノ酸)[配列番号14]内に局在化しているはずである。直鎖状エピトープの長さは、通常、15アミノ酸以内であることを考慮すると、直鎖状である場合のMAb 1A11の完全エピトープはBACE314−344[配列番号15]内に位置するはずである。しかし、BACE314−344[配列番号115]内のエピトープを含む3つの欠失突然変異体BACE46−349[配列番号8]、BACE46−364[配列番号7]およびBACE46−390[配列番号16]は全て、MAb 1A11に対する免疫反応において陰性であった。その矛盾した結果は、MAb 1A11のエピトープが直鎖状ではなく、コンホメーションエピトープであることを示唆している。コンホメーションエピトープもウエスタンブロットにより検出されうることが既に報告されており、これは、おそらく、膜への該タンパク質の輸送の途中または後のエピトープの再生によるものであり(Zhouら,2007)、これは、コンホメーションエピトープを有するMAb 1A11がウエスタンブロットにおいてBACE1と尚も反応する理由を説明しうるであろう。
【0089】
MAb 1A11結合のコンホメーションエピトープを決定するために、本発明者らはBACE1触媒ドメイン残基314−446のC末端の3D構造を示した(図10)。該構造のN末端付近に、本発明者らは、互いに接近しておりBACE1上の潜在的コンホメーションエピトープに相当する2つの突出ループDおよびFを見出した。ループDおよびFはHongら(2000)に記載されている。これらの露出突出ループは非常に免疫原性であることが公知である。ここでは、本発明者らは、MAb 1A11のエピトープがループDおよびFに位置するかどうかを試験した。ループD上の3つのアミノ酸の突然変異誘発(アミノ酸332−334のQAGからAGAへ)およびループF上の4つのアミノ酸の突然変異誘発(アミノ酸376−379 SQDD[配列番号11]からWAAA[配列番号12]へ)をBACE46−460[配列番号2]から別々に行い、ウエスタンブロットにより試験した。図11に示されているとおり、どちらの突然変異体もMAb 1A11との免疫反応性を、野生型BACE46−460[配列番号2]と比較して検出不可能なレベルにまで低下させた。このことは、これらのアミノ酸が抗体結合に寄与することを示唆している。
【0090】
該エピトープを更に実証するために、哺乳類発現ベクター上で完全長BACE1(1−501)の同一突然変異誘発を行い、HEK293細胞においてBACE1の突然変異体を発現させた。突然変異体BACE1または野生型BACE1を含有する細胞抽出物を、MAb 1A11を使用する免疫沈降によりアッセイした。図12に示されているとおり、哺乳類細胞から作製されたBACE1のどちらの突然変異体も、MAb1A11に対する免疫反応性を、野生型BACE1と比較して検出不可能なレベルにまで低下させた。また、該突然変異誘発がタンパク質全体のフォールディングにおける変化を引き起こさないことを示すために、BACE1の2つの突然変異体の細胞活性を試験した。図13に示されているとおり、どちらの突然変異体も、βおよびβ’部位におけるAPPのプロセシングにおいて尚も活性であり、このことは、これらの突然変異体が適切にフォールディングしていることを示唆している。
【0091】
最後に、ループD上の残基332−334またはループF上の残基376−379の突然変異誘発は、BACE1タンパク質のフォールディングを変化させることなく、ウエスタンブロットおよび免疫沈降アッセイの両方において、MAb 1A11結合を完全に阻止した。このことは、MAb 1A11が、ループDおよびFの組合せを含むコンホメーションエピトープに結合することを示している。興味深いことに、ループFおよびループDはBACE1上の特有の構造として既に記載されており(Hongら,2000)、これらはペプシンファミリーの他のアスパラギン酸プロテアーゼにおいては提示されていない。該構造を共有するペプシンファミリーからの唯一の例外は、BACE1の最も近いモログであるBACE2である。該ループ構造はBACE1とBACE2とで類似しているが、ループFおよびループD上のアミノ酸配列が異なる。さらに、酵素データは、mAb 1A11がBACE2と交差反応しないことを証明した。治療上の観点からは、MAb 1A11は、BACE1の特有の構造に結合するため、BACE2および他のアスパラギン酸プロテアーゼに比べ非常に選択的である。
【0092】
【表2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BACE1の活性を抑制しうることにより特徴づけられる単離された抗BACE1抗体。
【請求項2】
BACE1のエクトドメインに対する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
アクセッション番号LMBP 6871CBまたはLMBP 6872CBまたはLMBP 6873CBを有するハイブリドーマ細胞系により分泌されることにより更に特徴づけられる、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
ヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体であることにより更に特徴づけられる、請求項1から3のいずれかに記載の抗体。
【請求項5】
BACE1の活性を抑制しうることにより特徴づけられる、請求項1から4のいずれかに記載の抗体の活性フラグメント。
【請求項6】
アクセッション番号LMBP 6871CBまたはLMBP 6872CBまたはLMBP 6873CBを有するハイブリドーマ細胞系。
【請求項7】
医薬として使用するための、請求項1から4のいずれかに記載の抗体または請求項5に記載の活性フラグメント。
【請求項8】
アミロイドベータペプチドおよび/またはアミロイドベータ前駆体タンパク質の生成の予防および/または軽減において使用するための、請求項1から4のいずれかに記載の抗体または請求項5に記載の活性フラグメント。
【請求項9】
アルツハイマー病の予防および/または治療において使用するための、請求項1から4のいずれかに記載の抗体または請求項5に記載の活性フラグメント。
【請求項10】
請求項1から4のいずれかに記載の抗体または請求項5に記載の活性フラグメントと少なくとも1つの医薬上許容される担体、アジュバントまたは希釈剤とを含む医薬組成物。
【請求項11】
アルツハイマー病を予防および/または治療するための医薬の製造のための、請求項1から4のいずれかに記載の抗体または請求項5に記載の活性フラグメントまたは請求項10記載の医薬組成物の使用。
【請求項12】
(i)非ヒト動物をBACE1で免疫化し、
(ii)BACE1の活性を抑制しうる抗体に関して複数のハイブリドーマ系をスクリーニングすることを含む、BACE1の活性を抑制しうる抗体の製造方法。
【請求項13】
該抗体を産生するハイブリドーマ系を単離する工程を更に含む、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(i)において、BACE1のエクトドメインを使用して該免疫化を行う、請求項12または13に記載の製造方法。
【請求項15】
該スクリーニングが、細胞に基づくスクリーニングアッセイおよび/または無細胞スクリーニングアッセイにおいてBACE1の抑制活性を測定することによる機能性スクリーニングである、請求項12から14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項1】
BACE1の活性を抑制しうることにより特徴づけられる単離された抗BACE1抗体。
【請求項2】
BACE1のエクトドメインに対する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
アクセッション番号LMBP 6871CBまたはLMBP 6872CBまたはLMBP 6873CBを有するハイブリドーマ細胞系により分泌されることにより更に特徴づけられる、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
ヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体であることにより更に特徴づけられる、請求項1から3のいずれかに記載の抗体。
【請求項5】
BACE1の活性を抑制しうることにより特徴づけられる、請求項1から4のいずれかに記載の抗体の活性フラグメント。
【請求項6】
アクセッション番号LMBP 6871CBまたはLMBP 6872CBまたはLMBP 6873CBを有するハイブリドーマ細胞系。
【請求項7】
医薬として使用するための、請求項1から4のいずれかに記載の抗体または請求項5に記載の活性フラグメント。
【請求項8】
アミロイドベータペプチドおよび/またはアミロイドベータ前駆体タンパク質の生成の予防および/または軽減において使用するための、請求項1から4のいずれかに記載の抗体または請求項5に記載の活性フラグメント。
【請求項9】
アルツハイマー病の予防および/または治療において使用するための、請求項1から4のいずれかに記載の抗体または請求項5に記載の活性フラグメント。
【請求項10】
請求項1から4のいずれかに記載の抗体または請求項5に記載の活性フラグメントと少なくとも1つの医薬上許容される担体、アジュバントまたは希釈剤とを含む医薬組成物。
【請求項11】
アルツハイマー病を予防および/または治療するための医薬の製造のための、請求項1から4のいずれかに記載の抗体または請求項5に記載の活性フラグメントまたは請求項10記載の医薬組成物の使用。
【請求項12】
(i)非ヒト動物をBACE1で免疫化し、
(ii)BACE1の活性を抑制しうる抗体に関して複数のハイブリドーマ系をスクリーニングすることを含む、BACE1の活性を抑制しうる抗体の製造方法。
【請求項13】
該抗体を産生するハイブリドーマ系を単離する工程を更に含む、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(i)において、BACE1のエクトドメインを使用して該免疫化を行う、請求項12または13に記載の製造方法。
【請求項15】
該スクリーニングが、細胞に基づくスクリーニングアッセイおよび/または無細胞スクリーニングアッセイにおいてBACE1の抑制活性を測定することによる機能性スクリーニングである、請求項12から14のいずれかに記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2012−530105(P2012−530105A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515465(P2012−515465)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058403
【国際公開番号】WO2010/146058
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(509333933)
【出願人】(511304453)カソリーケ・ユニベルシタイト・ルーベン・カー・ユー・ルーベン・エル・エン・デー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058403
【国際公開番号】WO2010/146058
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(509333933)
【出願人】(511304453)カソリーケ・ユニベルシタイト・ルーベン・カー・ユー・ルーベン・エル・エン・デー (1)
【Fターム(参考)】
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