説明

Bcl−xL遺伝子導入による臓器の保護方法

【課題】 本発明は、Bcl-xL遺伝子導入により保護臓器を得る方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、Bcl-xL遺伝子を導入することにより移植に適した保護臓器を得る方法を提供する。また本発明は、Bcl-xL遺伝子を発現するベクターを含む臓器保護剤を提供する。また本発明は、Bcl-xL遺伝子が導入された摘出臓器を提供する。Bcl-xL遺伝子を導入することにより、摘出臓器の保存性が向上し、移植後の臓器の機能発現を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Bcl-xL遺伝子導入による臓器保護の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器移植においては、ドナーから摘出した臓器を、レシピエントに移植するまで良好な状態で保存しておくことが極めて重要である。特に、臓器の摘出と移植が異なった施設で行われる場合は、搬送のため一定時間臓器を保存することが必要となる。Core cooling法やmicrosurgeryによる血管吻合手技の確立により、移植における臓器摘出や吻合に関わる問題は解決されつつある。今後は、摘出した臓器の保存技術が、移植手術後の臓器が良好に機能するかを決める重要な要素になると予想される。
【0003】
移植臓器の摘出に現在最も多く適用されている単純冷却法では、臓器は摘出時に保存液で灌流され、摘出後に冷却した保存液に浸漬される。臓器を冷却することにより細胞膜のナトリウム・カリウムポンプの機能が低下するため、保存液には細胞内と同様の組成を持つ高カリウム・低ナトリウム溶液が用いられる。保存液としては、従来Collins液、Euro-Collins液、Sachs液などが用いられていたが、現在ではFolkert O. Belzerらにより開発されたUniversity of Wisconsin(UW)液により保存時間を大幅に延長することが可能となった (Jamieson NV, et al., Preservation of the canine liverfor 24-48 hours using simple cold storage with UW solution., Transplantation 46: 517-525, 1988; Todo S, et al., Preservation of livers with UW or Euro-Collins' solution., Transplantation 46: 925-926, 1988)。しかし、移植後の臓器をより良好な状態で機能させるためには、摘出臓器の保存状態をさらに改善する方法の開発が求められる。
【非特許文献1】Jamieson NV, et al., Preservation of the canine liverfor 24-48 hours using simple cold storage with UW solution., Transplantation 46: 517-525, 1988
【非特許文献2】Todo S, et al., Preservation of livers with UW or Euro-Collins' solution., Transplantation 46: 925-926, 1988
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、Bcl-xL遺伝子導入による臓器保護の方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
例えば心移植においては、現在のところ摘出心の保存期間は6時間が限度でありドナー不足とともに心移植の適応を狭めるひとつの要因となっている (Southard JH and Belzer FO, (1995) Annu Rev Med. 46:235-47; Stringham JC, et al. (1992) Transplantation 53: 287-94; Young JB et al. (1994) J Heart Lung Transplant 13(3):353-64)。現在の摘出心保護の中心は保護液によるものが中心であり、これらの方法による実験的心保護時間の限界は一般的に18時間である (Masters TN et al. (2002) J Heart Lung Transplant 21(5):590-9)。この長期保存摘出心移植後の移植心傷害の中心は虚血再還流 (I/R) 傷害と考えられており、移植成績・心保護時間の延長にはI/R傷害の制御が最重要課題である。
【0006】
これまでに、カルシウム流出 (Siegmund B et al., Am J Physiol. 1992; 263(4 Pt 2):H1262-9)、アシドーシス (Thatte HS et al., Ann Thorac Surg. 2004; 77(4):1376-83)、ATP欠乏 (Gores GJ, et al., Am J Physiol. 1989; 257(2 Pt 1):C347-54)、および活性酸素種 (reactive oxygen species; ROS)(Flitter WD. et al., Br Med Bull. 1993; 49(3):545-55; Freeman BA, et al., Lab Invest. 1982; 47(5):412-26) などが病因として予想されているが、未同定の因子も残されてる。実際、I/R傷害の機構としてアポトーシスが重要な役割を担っていることが報告されている (Fliss H et al., Circ Res. 1996; 79(5):949-56; Zhao ZQ et al., Cardiovasc Res. 2000; 45(3):651-60)。例えば実験的心虚血におけるI/R傷害では、ラジカルなどの発生に伴いアポトーシス実行分子のひとつであるBax分子の活性化が生じ、ミトコンドリア膜透過性が亢進するととも抗アポトーシス分子Bcl-2の低下によりアポトーシス過程が促進される。幾つかの研究において、アポトーシスの抑制により心臓の機能不全を抑制できることが報告されている (Chatterjee S et al., Circulation. 2002; 106(12 Suppl 1):I212-7; Brocheriou V et al., J Gene Med. 2000; 2(5):326-33)。また、心臓移植モデルにおいて、CoPD (cobalt protoporphyrin, HO-1インデューサー) が抗アポトーシス作用により、4℃で24時間保存まで移植心の生存を延長することが示された (Katori M et al. Transplantation. 2002; 73(2):287-92)。
【0007】
ところでBcl-xLはbcl-2と同じファミリーに属し、HGF (Nakamura T et al. J Clin Invest. 2000; 106(12):1511-9) およびIGF-I (Yamamura T et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2001; 280(3):H1191-200) による心保護に重要な役割を果たす。またトランスジェニックマウスを用いた実験により、Bcl-xLは網膜細胞において、Baxのミトコンドリアへの移行を阻害してミトコンドリアからサイトゾルへのチトクロームc (Cyto c) の放出を低下させ、網膜細胞のアポトーシスを抑制することが報告されている (He L, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2003; 100(3):1022-7)。本発明者らはこれまでに、Bcl-xL分子の心筋での高発現が心臓の温虚血/再還流傷害を抑制し、心機能低下の予防、さらには心筋梗塞の縮小をもたらすことをラット心I/R傷害モデルで確認してきた (Huang, J., et al. (2003). Bcl-xL gene transfer protects the heart against ischemia/reperfusion injury. Biochem Biophys Res Commun 311: 64-70)。
【0008】
これに対して、臓器の低温保存における臓器傷害のメカニズムはほとんど知られていない。低温保存では、温虚血/再還流に比べ虚血/再還流傷害を有意に抑制することが可能であるが、18時間の低温保存/再還流ではアデノシン三リン酸レベルの低下、ネクローシス、および心筋細胞のアポトーシスが起こり、臓器の機能回復の割合は50-60%であることが報告されている (Masters TN et al., J Heart Lung Transplant. 2002; 21(5):590-9) 。さらに、24時間保存では、ミトコンドリアの機能低下およびアデノシン三リン酸レベルの低下が著しく、心筋の収縮性を起こすまでに臓器を復元させることはほとんど不可能である (See YP et al., J Thorac Cardiovasc Surg. 1992 Sep;104(3):817-24)。
【0009】
低温虚血と再環流がミトコンドリアの機能不全とミトコンドリアからサイトゾルへのCyto c放出を引き起こすことから (Kuznetsov AV et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2003 Dec 23 [Epub ahead of print])、本発明者らは、温虚血/再環流傷害のみならず、低温虚血/温再環流傷害においても、Bcl-xLは臓器保護効果を発揮すると考えた。Bcl-xLに低温虚血/温再環流における臓器傷害を抑制する作用が確認できれば、Bcl-xL分子を臓器で高発現させることにより積極的に摘出臓器を保護し、低温長時間保存による低温虚血傷害および移植後の温再還流傷害の抑制が可能となる。そこでアデノウイルスベクターを用いヒトBcl-xL遺伝子をラット心に導入し、冷却保存時のBcl-xL分子の心保護効果を検討した。
【0010】
上記のように、長期間 (24時間) 低温 (4℃) で保存されたラット心は移植しても機能しないことが知られている (Akamatsu Y et al., FASEB J. 2004; 18(6):771-2) が、実際、図2に示すように、Bcl-xL遺伝子を導入しなかったコントロールの移植心は、移植後短時間で機能を失い、組織学的検査により炎症細胞が浸潤し広範囲な壊死に陥っていることが判明した。これに対して、Bcl-xL遺伝子を導入した移植心では、長期にわたって正常に機能し、組織学的にも正常で炎症細胞浸潤もごくわずかであった。このように、臓器においてBcl-xL遺伝子を発現させることによって、摘出臓器の保存性を有意に向上させることが可能であり、臓器移植の可能性を拡大すると共に、移植臓器生着の確率を高めるためことが可能となることが証明された。
【0011】
すなわち本発明は、Bcl-xL遺伝子導入による臓器保護の方法に関し、より具体的には、請求項の各項に記載の発明に関する。なお同一の請求項を引用する請求項に記載の発明の1つまたは複数の組み合わせからなる発明は、それらの請求項に記載の発現に既に意図されている。すなわち本発明は、
〔1〕保護された摘出臓器を得る方法であって、臓器摘出の前および/または後にBcl-xL遺伝子を発現するベクターを臓器に導入する工程、および摘出された該臓器を低温下で保存する工程、を含む方法、
〔2〕動脈内注入によりベクターを臓器に投与する、〔1〕に記載の方法、
〔3〕臓器が心臓である、〔1〕または〔2〕に記載の方法、
〔4〕ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の方法、
〔5〕〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の方法により得られた摘出臓器、
〔6〕Bcl-xL遺伝子を発現するベクターを有効成分とする臓器保護剤、
〔7〕ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、〔6〕に記載の臓器保護剤、に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、Bcl-xL遺伝子を発現するベクターを臓器に導入して発現させる工程を含む、摘出臓器の保護方法を提供する。ここで臓器の保護とは、移植後の臓器傷害が低減されることを言う。すなわち、本発明の方法によって得ることができる臓器は、Bcl-xL遺伝子を発現するベクターを導入しない場合に比べ、移植後の臓器傷害が低減される。本発明の方法の1つの態様は、Bcl-xL遺伝子を発現するベクターを臓器に導入して発現させる工程、および該臓器を摘出する工程、を含む。本方法により、組織学的にも移植後の臓器の機能の観点からも良好で、より移植に適した臓器を得ることができる。
【0013】
Bcl-xLは、BCL2-like 1 (isoform 1) とも呼ばれ、アポトーシス抑制性のBclファミリーのメンバーである (Boise LH et al., Cell. 1993, 74(4):597-608; Vander Heiden,M.G. et al., Cell 91 (5), 627-637 (1997); Kharbanda,S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94 (13), 6939-6942 (1997); Jaattela,M. et al., Oncogene 10 (12), 2297-2305 (1995); Boise,L.H. et al., Cell 74 (4), 597-608 (1993); Strausberg,R.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99 (26), 16899-16903 (2002))。ヒトBcl-xL遺伝子は、例えばAccession number NM_138578 (protein ID NP_612815) (配列番号:1および2)、Z23115 L20121 (LOCUS No HSBCLXL) (protein ID CAA80661)、BC019307 (protein ID AAH19307)、BX647525 等を参照できる。
【0014】
ヒト以外の哺乳動物Bcl-xL遺伝子は、例えばイヌ (Canis familiaris)(Accession number AB073983, protein ID BAB71819)、ヒツジ (Ovis aries)(Accession number AF164517, protein ID AAF89532)、ネコ (Felis catus) (Accession number AB080951, BAB85856 protein ID)、ブタ (Sus scrofa)(Accession number AF216205, protein ID AAF33212)、ウサギ (Oryctolagus cuniculus)(Accession number AY005131, protein ID AAF88137)、マウス (Mus musculus)(Accession number NM_009743, Q64373、U10101、L35049, protein ID NP_033873)、ラット (Rattus norvegicus)(Accession number P53563, U72350, protein ID AAB17353) 等の数多くの哺乳動物で知られている。
【0015】
Bcl-xL遺伝子は、上記の既知のBcl-xL cDNAおよび蛋白質の配列を基にホモロジー検索等により探し出すことができる (例えばBLAST; Altschul, S. F. et al., 1990, J. Mol. Biol. 215: 403-410)。あるいは、既知のBcl-xL cDNA塩基配列を基に設計したプライマーを用いたRT-PCRにより得ることもできるし、またはBcl-xL cDNAをプローブにしてストリンジェントな条件におけるハイブリダイゼーションにより、ヒト、マウス、ラット、およびその他の哺乳動物cDNAライブラリーをスクリーニングすることにより得ることも容易である。ハイブリダイゼーションの条件は、Bcl-xL cDNAのコード領域を含む核酸、またはハイブリダイズの対象とする核酸のどちらかからプローブを調製し、それが他方の核酸にハイブリダイズするかを検出することにより同定することができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件は、例えば 5×SSC (1×SSC は 150 mM NaCl, 15 mM sodium citrateを含む)、7%(W/V) SDS、100μg/ml 変性サケ精子DNA、5×デンハルト液(1×デンハルト溶液は0.2%ポリビニールピロリドン、0.2%牛血清アルブミン、および0.2%フィコールを含む)を含む溶液中、48℃、好ましくは50℃、より好ましくは52℃でハイブリダイゼーションを行い、その後ハイブリダイゼーションと同じ温度、より好ましくは60℃、さらにこの好ましくは65℃、最も好ましくは68℃で2×SSC中、好ましくは1×SSC中、より好ましくは0.5×SSC中、より好ましくは0.1×SSC中で、振蘯しながら2時間洗浄する条件である。
【0016】
哺乳動物Bcl-xLの塩基配列またはアミノ酸配列は、一般に既知のBcl-xLの配列(例えば配列番号:1または2)と高いホモロジーを有する配列を含んでいる。高いホモロジーとは、70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有する配列である。配列の同一性は、例えばBLASTプログラムにより決定することができる (Altschul, S. F. et al., 1990, J. Mol. Biol. 215: 403-410)。具体的には、塩基配列の同一性を決定するにはblastnプログラム、アミノ酸配列の同一性を決定するにはblastpプログラムを用い、例えばNCBI(National Center for Biothchnology Information)のBLASTのウェブページにおいて"Low complexity"などのフィルターの設定は全てOFFにして、デフォルトのパラメータを用いて計算を行う(Altschul, S.F. et al. (1993) Nature Genet. 3:266-272; Madden, T.L. et al. (1996) Meth. Enzymol. 266:131-141; Altschul, S.F. et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-3402; Zhang, J. & Madden, T.L. (1997) Genome Res. 7:649-656)。パラメータの設定は、例えばopen gapのコストはヌクレオチドは5で蛋白質は11、extend gapのコストはヌクレオチドは2で蛋白質は1、nucleotide mismatchのペナルティーは-3、nucleotide matchの報酬は1、expect valueは10、wordsizeはヌクレオチドは11で蛋白質は2、Dropoff (X) for blast extensions in bitsはblastnでは20で他のプログラムでは7、X dropoff value for gapped alignment (in bits)はblastn以外では15、final X dropoff value for gapped alignment (in bits)はblastnでは50で他のプログラムでは25 にする。アミノ酸配列の比較においては、スコアのためのマトリックスとしてBLOSUM62を用いることができる。2つの配列の比較を行うblast2sequencesプログラム(Tatiana A et al. (1999) FEMS Microbiol Lett. 174:247-250)により、2配列のアライメントを作成し、配列の同一性を決定することができる。ギャップはミスマッチと同様に扱い、コーディング配列 (CDS) の外側のギャップは無視して、Bcl-xLのCDS全体(例えば配列番号:1の全長)またはアミノ酸配列全体(例えば配列番号:2の全長)に対する同一性の値を計算する。
【0017】
また、Bcl-xLには多型およびバリアントが存在する。例えばヒトBcl-xLのバリアントとしては、Accession number NM_138578の配列において 405部位 (T/C), 495部位 (T/G), 556部位 (G/A), 1034部位 (G/T), 1043部位 (T/C) 等に多型が見られることが知られている。アミノ酸配列のバリアントは、64部位 (Ala/Thr), 223部位 (Val/Gly), 226部位 (Pro/Leu) が知られている。また、人為的に作製したヒトBcl-xLバリアントは Manionら (Manion MK et al., Bcl-XL mutations suppress cellular sensitivity to antimycin A., J Biol Chem., 2004, 279(3):2159-65) に記載の蛋白質が知られている。抗アポトーシス活性が維持されたこれらのバリアントを本発明において使用することができる。Bcl-xLの多型およびバリアントは、一般に1つのBcl-xL分子種(例えば配列番号:1または2)の塩基配列またはアミノ酸配列において1または複数の残基が置換、欠失、および/または挿入された配列を含み得る。公知のBcl-xLの配列との違いは、通常30残基以内、好ましくは20残基以内、好ましくは10残基以内、より好ましくは5残基以内、より好ましくは3残基以内、より好ましくは2残基以内である。アミノ酸の置換は、保存的置換であってもよい。保存的に置換した蛋白質は活性が維持されやすい。保存的置換は、例えば塩基性アミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸 (例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性アミノ酸 (例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性アミノ酸 (例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐アミノ酸 (例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族アミノ酸 (例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)などの各グループ内のアミノ酸間の置換などが挙げられる。Bcl-xLの抗アポトーシス活性は周知の方法により評価することができる (例えばJerry E. Chipuk, J. Biol. Chem. 276, 26614-6621, 2001参照)。
【0018】
すなわちBcl-xL遺伝子としては、以下に記載の核酸が挙げられる。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸。
(b)配列番号:1に記載の核酸またはその相補鎖を含み、配列番号:2に記載の配列を含むポリペプチドをコードする核酸。
(c)配列番号:1に記載の核酸またはその相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、抗アポトーシス活性を有するポリペプチドをコードする核酸。
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、および/または挿入された配列を含み、抗アポトーシス活性を有するポリペプチドをコードする核酸。
(e)配列番号:1と高いホモロジーを有する配列を含む核酸であって、抗アポトーシス活性を有するポリペプチドをコードする核酸。
(f)配列番号:2と高いホモロジーを有する配列を含み、抗アポトーシス活性を有するポリペプチドをコードする核酸。
【0019】
Bcl-xL遺伝子を発現するベクターは、上記のBcl-xL遺伝子を適当なベクターに組み込むことで作製する。ベクターの種類に応じて、ベクターに搭載されるBcl-xL遺伝子はDNAまたはRNAであり得る。ベクターとしては、例えばプラスミドベクター、その他のnaked DNA、ウイルスベクターが挙げられる。
【0020】
Naked DNAとは、DNAが、ウイルスエンベロープ、リポソーム、またはカチオニック脂質などの核酸を細胞に導入する試薬と結合していないDNAを言う (Wolff et al., 1990, Science 247, 1465-1468)。この場合、DNAは生理的に許容可能な溶液、例えば滅菌水、生理食塩水、または緩衝液中に溶解して使用することができる。プラスミドなどのnaked DNAの注入は最も安全で簡便な遺伝子送達法であり、これまでに承認されている臨床プロトコルの多くを占める (Lee, Y. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 2000; 272: 230-235)。例えば、サイトメガロウイルス (CMV) プロモーターは入手可能な最も強力な転写制御配列の1つであり、CMVプロモーターを含むベクターは臨床の遺伝子治療にも広く用いられている (Foecking, M.K, and Hofstetter H. Gene 1986; 45: 101-105)。また、CMV immediately early エンハンサーおよびニワトリβアクチンプロモーターを含むキメラプロモーターであるCAGプロモーター (Niwa, H. et al. (1991) Gene. 108: 193-199) は、CMVプロモーター以上に強い発現が可能であり好適に用いられる。
【0021】
ベクターにBcl-xL遺伝子を組み込む場合は、遺伝子の発現効率を高めるため、開始コドン周辺の配列はKozakのコンセンサス配列 [例えばCC(G/A)CCATG] とすることが好ましい (Kozak, M., Nucleic Acids Res 9(20), 5233 (1981); Kozak, M., Cell 44, 283 (1986); Kozak, M. Nucleic Acids Res.15:8125 (1987); Kozak, M., J. Mol. Biol. 196, 947 (1987); Kozak, M., J. Cell Biol. 108, 229 (1989); Kozak, M., Nucl. Acids Res. 18, 2828 (1990))。
【0022】
DNAは適宜トランスフェクション試薬と組み合わせて投与することができる。例えば、リポソームまたは所望のカチオニック脂質と結合させてトランスフェクション効率を上昇させることができる。
【0023】
本発明に用いられるより好ましいベクターはウイルスベクターである。ウイルスベクターを用いることによって、幅広い臓器において十分な量のBcl-xLを発現させることができる。ウイルスベクターとしては、一過性の発現が可能な染色体非組み込み型の所望のウイルスベクターを用いることが好ましい。このようなウイルスベクターとしては、例えばアデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、エプスタイン-バーウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、マイナス鎖RNAウイルスベクター、シンドビスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、パピローマウイルスベクターなどが挙げられる(Soifer, H. et al., 2001, Hum. Gene Ther. 12: 1417-1428; Kay, M. et al., 2001, Nat. Med. 7: 33-40)。これらのウイルスベクターは、当業者の公知の方法により調製することが可能である。ウイルスベクターは、それぞれの種類に応じて、遠心分離等により精製することができる。
【0024】
特に好ましいウイルスベクターの1つはアデノウイルスベクターである。アデノウイルスベクターは、広範囲の組織に高い効率で遺伝子を導入し、導入遺伝子を高発現させることができる。本発明において、アデノウイルスベクターは適宜公知のベクターを用いることができ、それらは例えば外来遺伝子発現の向上のため、または抗原性の減弱などのために野生型ウイルスの遺伝子が改変されていてよい。アデノウイルスベクターの作製は、例えば斎藤らにより開発されたCOS-TPC法 (Miyake, S., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 1320-1324 (1996)) を用いることができる。また、種々の改変型アデノウイルスベクターの作製方法が知られている(H. Mizuguchi et al., Hum. Gene Ther., 9, 2577-2583 (1998); H. Mizuguchi et al., Hum. Gene Ther., 10, 2013-2017 (1999); H. Mizuguchi et al., Gene Ther., 8, 730-735 (2001); H. Mizuguchi, T. Hayakawa. Gene, 285, 69-77 (2002); H. Mizuguchi, T. Hayakawa. Cancer Gene Ther., 9, 236-242 (2002); H. Mizuguchi et al., Gene Ther., 9, 769-776 (2002); H. Mizuguchi et al., BioTechniques, 30, 1112-1116 (2001); H. Mizuguchi et al., J. Gene Med., 4, 240-247 (2002))。アデノウイルス作製サービスは商業的にも提供されている(例えばBDバイオサイエンス・クロンテック社、Avior Therapeutics社等)。
【0025】
アデノウイルスベクターの中でも、ペントンのファイバーにインテグリン結合モチーフ (Arg-Gly-Asp; RGD) を組み込んだRGDファイバー改変型アデノウイルスベクターは、特に好適に用いられる。RGDファイバー改変型アデノウイルスベクターはファイバーのHIループまたはC末端等にRGD配列が組み込まれており、Coxsackie-adenovirus receptor (CAR) の発現が低い臓器にも高効率で遺伝子を導入することができる。RGDファイバー改変型アデノウイルスベクターは、Dehari et al. または他の記載に基づいて作製することができる (Dehari, H., et al., 2003, Cancer Gene Ther 10: 75-85; Mizuguchi H. et al., Gene Ther., 8, 730-735 (2001); Koizumi N. et al., J. Gene Med., 5, 267-276 (2003))。
【0026】
ベクターを臓器に導入する場合は、ベクターができるだけ臓器全体に導入されるように投与経路を選択する。ベクターは、臓器内の1箇所または複数箇所(例えば2から10箇所)に投与してよい。あるいは、臓器に通じる動脈内にベクター注入することによって、臓器全体に迅速にベクターを導入することができる。投与対象は生存体または死亡個体(脳死体および心停止体 (non-heart beating donor (NHBD)) を含む)であり、特に脳死体の臓器が対象となる。臓器はヒトまたは非ヒト動物であってよい。ベクターを投与後、臓器を低温下に移す前に、一定期間ベクターからBcl-xLを発現させることが好ましい。発現時間は例えば2〜48時間、好ましくは3〜24時間程度である。投与量は、アデノウイルスであれば、例えば臓器あたり1010〜1013 pfu、より好ましくは1011〜1013 pfuである。マイナス鎖RNAウイルスであれば、例えば 2×105 CIU〜5×1011 CIU (cell infectious unit) が望ましい。Naked DNAであれば、例えば10μg〜10 mg、より好ましくは100μg〜1 mgが望ましい。但し、ベクターの投与量は、臓器の種類、投与組成物の形態、投与方法等により異なってよく、当業者であれば適宜調整することが可能である。臓器としては、特に制限はないが、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、および膵臓を含む。また、本発明の方法は所望の細胞および組織を摘出する際の保護にも適用することが可能である。
【0027】
ベクターを臓器に導入後、該臓器は摘出され低温下で保存される。低温下とは、具体的には10℃以下、好ましくは8℃以下、より好ましくは6℃以下、より好ましくは5℃以下、より好ましくは4℃以下のことである。
【0028】
摘出した臓器にベクターを導入する方法も複数知られており、これらの方法に従って、臓器を摘出後にBcl-xL遺伝子発現ベクターの導入を行うこともできる (Griscelli F, et al., J Gene Med. 2003, 5(2):109-19; Shiraishi M, et al., Surg Today. 1996;26(8):624-8)。すなわち本発明においては、臓器摘出の前または後、あるいはその両時点でBcl-xL遺伝子を発現するベクターを臓器に導入し、摘出された該臓器を低温下で保存することにより実施することができる。臓器はベクターの導入前または後に低温に冷却してよい。臓器へのベクターの導入は、具体的には、摘出前の臓器筋組織(例えば心臓であれば心筋)へのベクターの直接的な局所投与 (direct i.m. injectiton) または動脈注入 (Muhlhauser J et al., Gene Ther. 1996, 3(2):145-53)、カテーテルを介した摘出前臓器の動脈還流 (例えば心臓であれば冠動脈還流) (Logeart D, et al., Hum Gene Ther. 2000, 11(7):1015-22)、摘出後の臓器動脈 (例えば心臓であれば冠動脈) への低温下でのex vivo還流 (ex vivo perfusion) (Griscelli F, et al., J Gene Med. 2003, 5(2):109-19; Shiraishi M, et al., Surg Today. 1996;26(8):624-8)。ぺリスタポンプなどのポンプを用いた低温下での摘出後の臓器の動脈還流 (Pellegrini C, et al., J Thorac Cardiovasc Surg. 2000 Mar;119(3):493-500) などの方法で行えばよい。
【0029】
また本発明は、Bcl-xL遺伝子を発現するベクターを有効成分とする臓器保護剤を提供する。また本発明は、Bcl-xL遺伝子を発現するベクターを有効成分とする低温虚血傷害抑制剤を提供する。本発明の臓器保護の方法は、低温虚血/再還流傷害を抑制するためにも有用である。また本発明は、摘出臓器の保護におけるBcl-xL遺伝子を発現するベクターの使用を提供する。また本発明は、臓器の低温虚血傷害の抑制におけるBcl-xL遺伝子を発現するベクターの使用を提供する。また本発明は、摘出臓器の保護剤の製造における、Bcl-xL遺伝子を発現するベクターの使用を提供する。さらに本発明は、臓器の低温虚血傷害抑制剤の製造における、Bcl-xL遺伝子を発現するベクターの使用を提供する。Bcl-xL遺伝子を発現するベクターは、臓器への局所投与のために製剤化されることが好ましく、例えば注射剤として製剤化される。Bcl-xL遺伝子を発現するベクターは、好ましくはBcl-xL遺伝子を搭載するウイルスベクターまたはnaked DNAである。ウイルスベクターとしては特に制限はないが、特にアデノウイルスベクターが好ましい。naked DNAとしてはプラスミドが挙げられる。プラスミドは環状でも直鎖化されていてもよい。
【0030】
また本発明は、(a)Bcl-xL遺伝子を発現するベクター、および(b)臓器保存液、を含むキットに関する。本キットは、臓器移植等のための臓器摘出および保存のためのキットである。臓器保存液としては特に制限はなく、Collins液、Euro-Collins液、Sachs液、University of Wisconsin(UW)液、ET-Kyoto液等が挙げられる (Jamieson NV, Sundberg R, Lindel S et al., Transplantation 1988; 46: 517-525; Todo S et al., Transplantation. 1988 Dec;46(6):925-6; Transplantation 74:1231, 2002)。ベクターは薬学的に許容できる所望の担体および/または添加物等を含む組成物であってよい。例えば、滅菌水、生理食塩水、慣用の緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、安定剤、塩、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、界面活性剤、懸濁剤、等張化剤、または保存剤などを含んでよい。また、バイオポリマーなどの有機物、ハイドロキシアパタイトなどの無機物、具体的にはコラーゲンマトリックス、ポリ乳酸ポリマーまたはコポリマー、ポリエチレングリコールポリマーまたはコポリマーおよびその化学的誘導体などと組み合わせることもできる。好ましい態様においては、ベクターは注射に適当な剤型に調製される。このためには、ベクターは薬学的に許容される水溶液中に溶解されているか、または溶解できるように例えば凍結乾燥製剤であることが好ましい。キットには、ベクターを溶解または希釈するために用いることができる、薬学的に許容できる所望の担体をさらに含んでもよい。このような担体としては、例えば蒸留水、生理食塩水などが挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。なお、本明細書中に引用された文献は、本明細書の一部として組み込まれる。
[実施例1] Bcl-xL遺伝子導入による臓器保護効果
ヒトBcl-xL遺伝子をアデノウイルスベクターを用いてラット心に導入し、24時間冷却保存時のBcl-xL分子の心保護効果を検討した。ヒトBcl-xLを発現するアデノウイルスベクターAxCAhBclxL (Shinoura, N., et al. (1999) Oncogene 18: 5703-5713) は293細胞にて増幅し、その後CsCl不連続密度勾配を用いた超遠心法により精製した。対照として、大腸菌β-ガラクトシダーゼ (LacZ) を発現するアデノウイルスベクターを同様にして精製した (Dehari H, et al. (2003) Cancer Gene Ther.10: 75-85; Takahashi K, et al. (2003) Mol Ther. 8(4):584-92)。精製ウイルスは10% glycerol添加PBSにて透析をした (Kanegae, Y., et al. (1995) Nucleic Acids Res. 23: 3816-3821)。精製アデノウイルスベクターの濃度 (opu/ml, optical particle units/ml) は0.1% SDS存在下でのA260により測定し以下の式を用い決定した (Nyberg-Hoffman, C. et al. (1997) Nat Med. 3: 808-811)。
opu = A260 x (1.1x1012)
なお、アデノウイルスベクター濃度は、pu/ml (particle units/ml) とも表記する (Maizel JV Jr et al., (1968) Virology 36(1):115-25)。また、ストック中に複製能を持つアデノウイルスが含まれていないことの確認を行った。ウイルス力価 (pfu:plaque forming units) は293細胞を用いたLD50により決定した (Dehari, H., et al. (2003). Enhanced antitumor effect of RGD fiber-modified adenovirus for gene therapy of oral cancer. Cancer Gene Ther 10: 75-85)。
【0032】
ラット心への遺伝子投与と心冷却保存は以下のように行った。Lewisラット (雄、体重250-300g)(Sankyo Labo Service, Tokyo, Japan) をジエチルエーテル吸入およびケタミン40 mg/kg,キシラジン 4 mg/kgを筋肉内投与にて麻酔後,挿管した。その後、分時換気量 200〜250 ml、1回換気量 3 ml、呼吸回数 60〜80回/min、O2 1 l/min、ハロセン 0.5〜2.0%の条件で吸入麻酔を行い、左側胸部より開胸した。大動脈、肺動脈を一時的 (30sec) にクランプし大動脈より冠状動脈に1010 opu (100μl) のアデノウイルス液 (AxCAhBclxLを含む0.9% 生理食塩水) を投与した (Bcl-xL群, n=10) (Champion HC et al. (2003) Circulation 108:2790-7)。コントロールとして同量 (100μl) の0.9% 生理食塩水を投与した(生食群, n=10)。ウイルス投与後、クランプを開放し、肺を傷つけないように肋間を閉じた後,筋層,皮膚と連続縫合にて閉創した。4日後、深麻酔下に再開胸し、冷 (4℃) 臓器冷却保存液 (ViaSpan (登録商標)) を還流し心停止を行い摘出した。摘出心は冷 (4℃) ViaSpan (登録商標) 内にて24時間保存した。
【0033】
以下のように摘出心の異所性移植を実施した (Ono K. (1969) Thorac Cardiovasc Surg. 57: 225-229)。Lewisラット (雄、体重250-300g) をジエチルエーテル吸入およびケタミン40 mg/kg,キシラジン 4 mg/kgを筋肉内投与にて麻酔後、開腹を行った。腹部大動脈、下大静脈を露出した。摘出心大動脈とレシピエント腹部大動脈を端側吻合、摘出心肺動脈とレシピエント下大静脈を端側吻合し異所性心移植を行った。クランプを開放し移植心に再還流させた。移植心は毎日触診を行った。
【0034】
心保護効果の評価
腹部移植心の拍動を連日観察し移植心拍動期間を移植14日後まで観察評価し、拍動期間を記録した。また拍動停止後、または移植14日後に心を摘出し肉眼所見を観察した。
組織所見評価
拍動停止直後、または移植後24時に移植心を摘出し、ヘマトキシリン・エオシン (HE) 染色にて染色し移植心の組織所見の評価を行った。
Langedorff還流およびCPK測定
摘出心を24時間4℃で保存した後、心臓をLangendorff還流系に移し、95% 酸素、5% CO2 の混合ガスを通気した改変Krebs-Henseleit溶液で85 mmHg圧で大動脈から逆行性還流を行った (Huang J (2003) Biochem Biophys Res Commun. 311:64-70)。37℃で2時間心臓を還流し、冠状動脈からの流出液を回収してCPK (creatine phosphokinase) (creatine kinase (CK) とも言う) 値を測定し、グループ内で比較した (Dvid J et al. PNAS. 2004,101: 1321-1326)。CPK活性は酵素アッセイで測定した。
TTC染色
2時間のLangendorff還流後、心臓を4つに横断し、1% TTC (2,3,5-triphenyltetrazolium chloride) (Sigma-Aldrich) を含むPBSに37℃で30分浸漬し、10%中和ホルマリンで反応を停止させた。心臓切片を写真撮影し、デジタル画像として取り込んだ。梗塞サイズをNIHソフトウェアで解析し、梗塞サイズ%を、梗塞領域 (白色領域) / 全領域 (赤レンガ色領域 + 白色領域) として算出した (Huang J (2003) Biochem Biophys Res Commun. 311:64-70)。
ウェスタンブロッティング
心移植の15分後、心臓を回収し、液体窒素中にsnap-frozenさせ、-80℃で保存した。24時間冷保存後の心臓、および移植15分後の心臓のBcl-xL発現のウェスタンブロット解析は以前記載したように行った (Huang J (2003) Biochem Biophys Res Commun. 311:64-70)。Baxの局在変化およびチトクロームc (cyto c) 放出を調べるため、250mM sucrose, 20 mM HEPES, 10 mM KCl, 1 mM MgCl2, 1 mM EDTA, 1 mM EGTA, 1 mM DTT, および 1 mM PMSF (pH 7.5) を含む4 mlのリシスバッファー中で心臓を5 min氷上でインキュベートした (Shiraishi J et al. (2001) Am J Physiol Heart Circ Physiol. 281:H1637-47)。Mixing homogenizer (Kinematica AG) で心臓をホモジェナイズし、懸濁液を750 gで10分、4℃で遠心して沈殿を核画分とした。上清を12000 gで10分、4℃で遠心し、沈殿をミトコンドリア画分とした。さらに上清を14000 gで10分、4℃で遠心し、0.2μmのultra-filter (Millipore) でろ過して精製サイトゾル画分を得た (Deng Y, et al. (2000) Proc Natl Acad Sci U S A. 97(22):12050-5)。
イムノブロッティングは標準的な方法により実施した。蛋白質濃度はBCA (Pierce, Rockford, IL) 法により測定した。各サンプル 40μg を15% SDS-PAGEで泳動し、ニトロセルロース膜に転写した。5% milk、0.1% Tween 20を含むTBS中で4℃で一晩ブロッキングした膜を、Bax (sc-526, Santa, Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA) またはcytochrome c (7H8.2C12, PharMingen; San Diego, CA) に特異的な抗体をインキュベートし、西洋ワサビperoxidase結合抗マウスIgG (Zymed, South San Francisco, CA) または抗ウサギIgG (Amersham Biosciences UK, Bucking-Hamshire, England) で室温で1時間インキュベートした。COXIV (COX, A-6431; Molecular Probe, Hercules, CA) をミトコンドリアマーカーとして、またα-tubulin (B-5-1-2, Sigma-Aldrich) を内部標準として使用した。ECL-Plus kit (Amersham Biosciences UK, Little Chalfont, UK) を用いて化学発光を検出した。
統計解析
データは平均±標準偏差 (SD) として表した。統計解析にはANOVAを用い、Bonferroni/Dunn testion法による検定を行った。0.05未満のp値を統計学的有意とした。
【0035】
[結果]
図1(A)および(B)に示したように、コントロール移植心 (生食群) の約70%は24時間の冷却保存、異所性移植後15分以内にその拍動を停止した。一方、Bcl-xL導入心での心拍動は80%の移植心で2週間以上持続した。心停止したコントロール移植心は黒色に変色し広範な壊死に陥っていた(図2A)。HE染色の結果でも移植24時間後のコントロール移植心では後半な壊死像と著明な炎症細胞浸潤を認めた(図2B)。移植24時間後のBcl-xL導入心切片では大部分の心筋細胞は正常であり、炎症細胞浸潤はごくわずかであった(図2(A)および(B))。
【0036】
アデノウイルスベクターを介したBcl-xL遺伝子導入の梗塞サイズおよびCK放出に対する効果を、単離ラット心のLangendorffモードにおける還流で測定した。図3(AおよびB)に示したように、UW液中で24時間4℃で保存し、37℃で2時間再還流した場合、梗塞サイズはBcl-xL遺伝子導入群では23.0±2.6%、対照の生理食塩水群では47.7±7.0%、LacZ遺伝子導入群では48.6±6.1% (各群n=4, p<0.01) であった。このように、生理食塩水またはAxCAZ3導入群と比べ、Bcl-xL処理群では梗塞サイズは有意に縮小した (p<0.01)。再還流の最初の15分間の冠動脈流出液を回収し、心筋障害の指標として全CKレベルを測定した。図3(C) に示したように、AxCAhBclxL処理した心臓のCKレベルは0.82±0.27 international units (IU) であったのに対し、生理食塩水処理心のCKレベルは1.57±0.33 IU、AxCAZ3処理心では1.50±0.37 IU であった (各n=4)。このように、Bcl-xL により還流液中のCKレベルは有意に減少した (p<0.05)。
【0037】
低温保存および低温保存後の温再環流時のBcl-xL発現を調べるため、24時間低温保存後の心臓、およひ24時間低温保存後に移植して15分間後の心臓のウェスタンブロット解析を行った。図4に示したように、Bcl-xL遺伝子を導入しない対照では、24時間低温保存後に移植して15分間後の移植心のBcl-xL発現は低下したが、Bcl-xL遺伝子を導入した場合、24時間低温保存後移植して15分間経過した移植心でも、Bcl-xL発現の非常に高い発現が見られた。このことから、Bcl-xL遺伝子の導入により、保存中および移植時の心臓では十分に高いレベルのBcl-xL蛋白質量が維持されることが判明した。
【0038】
低温虚血および再環流はミトコンドリアの機能不全を起こし、Cyto cを放出させる。低温保存後の心臓、およびその後の移植心におけるBax および Cyto cに対するBcl-xL過剰発現の効果を調べるため、Bax および Cyto cの細胞内局在をウェスタンブロットにより解析した。図5に示したように、Bcl-xL遺伝子を導入しない対照群では、24時間低温保存後に移植して15分間再環流を行った移植心で、サイトゾルにおけるBaxの低下およびミトコンドリアからサイトゾルへのチトクロームc放出が見られた。これに対して、アデノウイルスベクター導入によりBcl-xLを過剰発現させた心臓ではサイトゾルからのBaxの喪失が阻害され、チトクロームc放出の減少した。この結果から、低温保存および再環流はサイトゾルからミトコンドリアへのBaxの移動を引き起こし、ミトコンドリアからサイトゾルへのCyto c放出を増加させるが、Bcl-xLの過剰発現はこのBaxの移動を阻害することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により、摘出臓器を保護する方法が提供された。本発明の方法により、摘出臓器の長時間保護による虚血傷害および移植後の再還流傷害が抑制される。現在、摘出臓器の保存可能期間は短く、ドナー不足とともに移植の適応を狭めるひとつの要因となっているが、本発明により移植適応の拡大が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】24時間4℃で保存後に移植した異所移植心の生存曲線を示す図である。
【図2】摘出心の生存に対するBcl-xL遺伝子導入の効果を示す図および写真である。
【図3】Bcl-xLの過剰発現による梗塞サイズの減少とCPK放出の阻害効果を示す写真および図である。Aは、偽導入心 (生理食塩水)(上段)、AxCAZ3導入心 (中段)、AxCAhBclxL導入心 (下段) の4つにスライスした心臓のTTC染色を示す。Bは各心臓の梗塞サイズ、Cは各心臓のCPK活性を示す。
【図4】摘出心のBcl-xL発現をウェスタンブロッティングにより調べた結果を示す写真である。レーン1:正常心 (遺伝子導入なし)、レーン2:24時間低温保存後の心臓 (Bcl-xL遺伝子導入)、レーン3:24時間低温保存し、心移植後15分を経過した心臓 (Bcl-xL遺伝子導入)。
【図5】Baxの細胞内局在およびCyto c放出を調べた結果を示す写真である。aおよびe:正常心、bおよびf:偽導入心 (生理食塩水のみ導入)、cおよびg:LacZ発現アデノウイルスベクター導入心、dおよびh:Bcl-xL発現アデノウイルスベクター (AxCAhBclxL) 導入心。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護された摘出臓器を得る方法であって、臓器摘出の前および/または後にBcl-xL遺伝子を発現するベクターを臓器に導入する工程、および摘出された該臓器を低温下で保存する工程、を含む方法。
【請求項2】
動脈内注入によりベクターを臓器に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
臓器が心臓である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法により得られた摘出臓器。
【請求項6】
Bcl-xL遺伝子を発現するベクターを有効成分とする臓器保護剤。
【請求項7】
ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、請求項6に記載の臓器保護剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−254286(P2007−254286A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−135347(P2004−135347)
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【出願人】(595155107)株式会社ディナベック研究所 (22)
【Fターム(参考)】