説明

Bmi−1を用いた星状細胞の神経幹細胞への脱分化

Bmi−1を用いて星状細胞の神経幹細胞への脱分化を誘導する組成物および方法を開示する。脱分化した神経幹細胞は、星状細胞、ニューロンおよび希突起膠細胞への分化能を有する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
神経幹細胞(Neural stem cells:NSCs)は、神経系に存在する前駆細胞(progenitor cell)のサブタイプであって、星状細胞、希突起膠細胞およびニューロンへの分化能を持っている。中枢神経系(Central nervous system:CNS)と抹消神経系(peripheral nervous system:PNS)から分離してマルチセルラーニューロスフェア(Multicellular neurospheres)を作ることができ、この細胞がそれぞれの条件でグリアリニージ(glial lineage)とニューラルリニージ(neural lineage)に分化する(Sally Temple et al. 2001)。このような神経幹細胞は、難治病の治療に応用されて現在細胞治療の一つの方法として研究されており、倫理的な問題が殆どない成体幹細胞であるから多く研究されている実情である。最近、脱分化に関連した研究が行われている状況で成体幹細胞の重要性がさらに強調されている。このような成体幹細胞は、胚芽幹細胞より得易いが、実際適用するには未だ難しい部分が多い。また、別の人の成体幹細胞を使用するときには免疫拒否反応という問題も提起されるおそれがある。よって、自分の細胞を用いて脱分化を誘導する場合、現在提起されている問題を解決することができる。このような趣旨で、既に分化の進んだ細胞を用いて脱分化を誘導することが重要である。現在、細胞融合(Cell fusion)や核移植(Nuclear transfer)などの方法を用いて脱分化を誘導する研究が進行中にある。別の方法を用いたグループとして、Alexis J(Lancet 2004)は、皮膚から分離した細胞を神経幹細胞培養条件で培養したときに神経幹細胞の特性を持っていると報告した。また、Toru K.(Genes & Development 2004)は、希突起膠細胞前駆体(oligodendrocyte precursors)を神経幹細胞に脱分化させたことを報告した。このグループは、これに関連した論文を2000年から研究して発表し、2004年の論文では各分化段階で遺伝子の発現がクロマチン再構築(chromatin remodeling)とヒストン修飾(histone modification)に関連していると報告した。
【0002】
〔背景技術〕
本研究では、既存の様々な方法の問題点を解決し、さらに使用に適した方法を確立しようとした。NSCsの特性を調節している転写因子の中から一つを選別し、過発現を誘導して神経幹細胞への分化を研究した。われわれの選別したpolycombグループのBmi−1遺伝子は、ヒストン修飾と細胞周期調節因子を調節しているタンパク質の一つである(Jan W. et al. 1999)。cdkn2a/INK4A locusは、Bmi−1遺伝子のターゲットとして知られており、Bmi−1遺伝子は、このようなターゲット遺伝子を転写過程で抑制する作用を果たすと知られている。最近、Bmi−1遺伝子は、神経幹細胞で発現されており、神経幹細胞の自己再生の維持に作用していることが報告された(Anna V. M et al. 2003, 2005, In-Kyung Park et al. 2004)。
【0003】
このような背景の下に、本発明者らは、既に分化したマウス星状細胞にBmi−1遺伝子を過発現させると、自己再生能と星状細胞、ニューロンおよび希突起膠細胞への分化能を持つ神経幹細胞様の細胞に脱分化できることを確認し、本発明を完成した。
【0004】
〔発明の開示〕
本発明の目的は、Bmi−1タンパク質、またはBmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸からなる、星状細胞の神経幹細胞への脱分化を誘導する組成物を提供することにある。
【0005】
本発明の他の目的は、星状細胞をBmi−1タンパク質、またはBmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で処理する段階を含んでなる、星状細胞の神経幹細胞への脱分化を誘導する方法を提供することにある。
【0006】
本発明の別の目的は、前記方法で生産された神経幹細胞を提供することにある。
【0007】
本発明の別の目的は、前記方法で生産された神経幹細胞を星状細胞、ニューロンおよび希突起膠細胞に分化させる方法を提供することにある。
【0008】
〔図面の簡単な説明〕
本発明の前記および他の目的、特徴および他の利点は添付図面を参照する以降の詳細な説明からより明らかに理解可能である。
【0009】
図1は免疫細胞化学法(Immunocytochemistry)によってBmi−1遺伝子のターゲット遺伝子であるp16Ink4aとp19Arfの過発現を確認した結果を示す。
【0010】
図2は脱分化の誘導を示すもので、Aはdirect sphere形成を、Bはsphere形成を示す(direct sphereはシングルセルを神経幹細胞培養条件で培養した場合に形成されることを意味し、sphereはシングルセルを星状細胞培養条件でアタッチさせてから12時間後に安定になったとき、神経幹細胞培養条件で培養した場合に形成されることを意味する)。
【0011】
図3は神経幹細胞マーカーの発現を免疫細胞化学法によって考察した結果である。A〜Cは神経幹細胞(Neural stem cell)を、D〜Fは神経幹細胞様の細胞(Neural stem cell-like cell)を示す。
【0012】
図4は神経幹細胞特異的マーカーの発現を半定量(Semi-quantitative)PCR増幅によって考察した結果である(Ast:星状細胞、NSC:神経幹細胞、Ast−Bmi−1:星状細胞+Bmi−1、NSCLC:神経幹細胞様の細胞)。
【0013】
図5は神経細胞様細胞のインビトロ分化を誘導したときに星状細胞、ニューロン、希突起膠細胞にそれぞれ分化することを示す。A〜Cは神経幹細胞を、D〜Gは神経幹細胞様の細胞を示す。
【0014】
〔発明を実施するための最良の様態〕
一つの様態として、本発明は、Bmi−1タンパク質、またはBmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸からなる、星状細胞の神経幹細胞への脱分化を誘導する組成物に関する。
【0015】
本発明において、用語「神経幹細胞様の細胞(neural stem cell-like cell)」とは、ニューロン、星状細胞、希突起膠細胞などの細胞に分化できる多能性幹細胞(multipotent stem cell)であって、体細胞の脱分化に起源した神経幹細胞である。本発明において、神経幹細胞様の細胞は神経幹細胞として記述されることもある。
【0016】
本発明は、星状細胞でBmi−1を過発現させる場合、既に分化した細胞タイプの星状細胞が、多分化能を有する神経幹細胞様の細胞に脱分化することを開示する。
【0017】
本発明のBmi−1は、タンパク質、またはそのタンパク質をコードする核酸の形で提供される。
【0018】
本発明の組成物に使用されるBmi−1は、ヒト、馬、羊、豚、山羊、駱駝、レイヨウ、犬などの動物に由来した全てのBmi−1を含む。また、神経細胞の脱分化に使用される本発明のBmi−1タンパク質は、その野生型のアミノ酸配列を持つタンパク質だけでなく、Bmi−1タンパク質の変異体を含む。
【0019】
用語「Bmi−1タンパク質の変異体」は、Bmi−1の天然アミノ酸配列とは少なくとも一つのアミノ酸残基が欠失、挿入、非保全的もしくは保全的置換、またはこれらの組み合わせによって相異なる配列を有するタンパク質を意味する。前記変異体は、天然タンパク質と同一の生物学的活性を示す機能的等価物であってもよく、必要に応じてタンパク質の物理化学的性質が変形された変異体であってもよい。好ましくは、前記変異体は物理、化学的環境に対する構造的安定性または生理学的活性が増大した変異体である。
【0020】
好ましくは、Bmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸の形で提供される。
【0021】
Bmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、野生型または前述したような変異体型のBmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、少なくとも一つの塩基が置換、欠失、挿入またはこれらの組み合わせによって変異でき、天然から分離されるか或いは化学的合成法を用いて製造できる。
【0022】
前述したBmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、DNA分子(ゲノム、cDNA)またはRNA分子からなる単鎖または二重鎖であってもよい。
【0023】
一つの好適な様態において、Bmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、Bmi−1タンパク質を発現するベクターとしての組成物である。
【0024】
本発明において、用語「ベクター」とは、適切な宿主細胞で目的タンパク質を発現することが可能な発現ベクターであって、遺伝子挿入物が発現されるように作動可能に連結された必須的な調節要素を含む遺伝子作製物をいう。
【0025】
本発明において、用語「作動可能に連結された」とは、一般な機能を行うように、核酸発現調節配列と、目的のタンパク質をコードする核酸配列とが機能的に連結されていることをいう。組み換えベクターとの作動的連結は、当該技術分野における公知の遺伝子組み換え技術を用いて実現することができ、部位特異的DNA切断および連結は、当該技術分野で一般に知られている酵素などを用いて実現することができる。
【0026】
本発明のベクターは、プロモータ、オペレータ、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナル、エンハンサーなどの発現調節要素の他にも、膜標的化または分泌のためのシグナル配列またはリーダー配列を含み、目的に応じて多様に調節できる。ベクターのプロモータは構成的または誘導性であってもよい。また、発現ベクターは、ベクターを含有する宿主細胞を選択するための選択性マーカーを含み、複製可能な発現ベクターの場合には複製起源を含む。ベクターは、自己複製し、或いは宿主DNAに統合できる。
【0027】
ベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクターなどを含む。好ましくは、ウイルスベクターである。ウイルスベクターは、例えばHIV(Human immunodeficiency virus)、MLV(Murine leukemia virus)、ASLV(Avian sarcoma/leukosis)、SNV(Spleen necrosis virus)、RSV(Rous sarcoma virus)、MMTV(Mouse mammary tumor virus)などのレトロウイルス、アデノウイルス(Adenovirus)、アデノ関連ウイルス(Adeno-associated virus)、ヘルペスシンプレックスウイルス(Herpes simplex virus)などに由来したベクターを含むが、これに限定されない。本発明の具体的な様態では、MLV基盤ウイルスベクター(Moloney leukemia virus based virus vector)として、ピューロマイシンに対する選別マーカーを含むpBabe puroベクターを用いた。
【0028】
Bmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する核酸は、当該分野における公知の方法、例えばベクター形態のネイキッドDNAとして細胞内に伝達し(Wolff et al. Science, 247:1465-8, 1990: Wolff et al. J. Cell Sci. 103:1249-59, 1992)、或いはリポソーム(Liposome)、陽イオン性高分子(Cationic polymer)などを用いて細胞内に伝達することができる。リポソームは、遺伝子伝達のためにDOTMAやDOTAPなどの陽イオン性リン脂質を混合して製造したリン脂質膜であって、陽イオン性のリポソームと陰イオン性の核酸とを一定の割合で混合すると、核酸−リポソーム複合体が形成される。
【0029】
別の好適な様態として、Bmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、Bmi−1タンパク質を発現するウイルスとしての組成物である。
【0030】
本発明において、用語「ウイルス」とは、Bmi−1タンパク質をコードする核酸を含むウイルスベクターをパッケージング細胞に形質転換および感染させて製作した、Bmi−1を発現するウイルスを意味する。
【0031】
本発明のBmi−1タンパク質を発現するウイルスの製造に使用できるウイルスは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスおよびヘルペスシンプレックスウイルスを含み、これに限定されない。好ましくは、レトロウイルスである。本発明の具体的な実施では、pBabe puroベクターにBmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むベクター(pBabe puro Bmi−1)をパッケージング細胞としてのPT67細胞に形質転換し、Bmi−1タンパク質を発現するウイルスを製造した。
【0032】
別の様態として、本発明は、Bmi−1タンパク質、またはBmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で処理する段階を含んでなる、星状細胞の神経幹細胞への脱分化を誘導する方法に関する。
【0033】
より具体的に、前記方法は、(i)星状細胞を培地で培養する段階と、(ii)前記培養物をBmi−1タンパク質、またはBmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で処理する段階と、(iii)星状細胞の神経幹細胞への脱分化を誘導する段階とを含む。
【0034】
前記方法の(i)段階で星状細胞を培養する培地は、当該分野で神経幹細胞の培養に通常用いられる培地を全て含む。培養に使用される培地は、一般に、炭素源、窒素源および微量元素の成分を含む。また、培地は、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシンなどの抗生剤を含むことができる。好ましくは、bFGFを含む培地である。
【0035】
前記方法の(ii)段階で処理されるBmi−1タンパク質、またはBmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸は、前述したとおりである。
【0036】
別の様態として、本発明は、前記方法で製造された神経幹細胞に関する。
【0037】
本発明の脱分化方法で製造された神経幹細胞は、神経幹細胞特異的なマーカーである、Nestin、CD133、Sox2が神経幹細胞と同じ水準で発現し、一般な神経幹細胞と同一の分化能を有することを確認した。
【0038】
別の様態として、本発明は、前記方法で生産された神経幹細胞を星状細胞、ニューロンまたは希突起膠細胞に分化させる方法に関する。
【0039】
本発明の組成物と方法によって製造された神経幹細胞の分化を、当該分野における通常の星状細胞、ニューロンまたは希突起膠細胞分化条件で誘導する場合、それぞれの細胞への分化が誘導されることを各細胞特異的なマーカーの発現で確認することができた。
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ところが、これらの実施例は本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0041】
(実施例1:研究方法)
1.マウス星状細胞とマウス神経幹細胞の培養
マウス星状細胞(mouse astrocytes)は、E13.5日齢の中枢神経系(CNS)から分離して適切な培養条件で培養した。分離した細胞をトリプシン(Gibco0.05%)で処理した後、単細胞に作ってFBS(HyClone)10%、ペニシリン/ストレプトマイシン1%、L−グルタミン1%(Cambrex)が含まれているDMEM(高グルコース、HyClone)で培養した。培養の後、その翌日から培地交換を行い、1〜3継代間の細胞を使用した。対照群として使用された神経幹細胞は、E13.5日齢のマウスから分離してインスリン(Sigma)、apo−トランスフェリン(Sigma)、セレニウム(Sigma)、プロゲステロン(Sigma)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Cambrex)が含まれているDMEM/F12(Gibco)培地(N2)に血清代替物(serum-replacement)としてのB27(Gibco)、ヒト組み換えベイシックFGFおよびヒト組み換えEGF(R&D)を添加して培養した。
【0042】
2.レトロウイルス媒介感染
pBabe puro Bmi−1(pBabe puro vectorにヒトBmi−1(NCBI受託番号L13689)を挿入して製造)とpBabe puroをPT67パッケージングセルライン(Clontech)にリポフェクタミン(Invitrogen)を用いてトランスフェクションした後、ピューロマイシン(3μg/mL)(BD science)で選別した。こうして作られた細胞株が90%以上になったとき、上澄み液を取って0.45μm(Millipore)でフィルターリングして細胞破片(cell debris)を除去した後、ポリブレン(Sigma)を添加して10時間間隔で分離したマウス星状細胞に2回感染させた。その後、ピューロマイシン(0.5μg/mL)で選別した。
【0043】
3.ウエスタンブロット分析
それぞれの細胞をRIPAバッファとして総細胞抽出物(total cell extract)を得て、Bradford assay(Bio−rad)でタンパク質濃度を測定した後、各50μgずつ10%或いは4〜12%precasted SDS−PAGE(Invitrogen)を行った。PVDFメンブレイン(Millipore)にトランスファーした後、3〜5%Skimmed milk TBSTでブロッキングを行った。anti−Bmi−1(Upstate)、anti−p16INK4A(Santacruz)、anti−p19ARF(Novouous)、α-tubulin(Sigma)を用いて4℃一晩シェーキングを行った後、RTでHRPコンジュゲート抗マウスIgG、抗ウサギIgG(Zymed)で反応させた。Supersignal West Pico kit(Pierce)で検出した。
【0044】
それぞれの細胞からTrizol(Invitrogen)を用いてRNAを分離した後、逆転写(RT)は総RNAの500ng、oligo d(T)12〜18プライマー(Invitrogen)、superscriptaseII逆転写酵素(Invitrogen)を用いてcDNAを作った。RT−PCRは、cDNA1μL、それぞれのプライマー10pmol、PCRプレミックス(1U Tag DNAポリメラーゼ、250μM dTNPs、10mM Tris−HCl、40mM KClおよび1.5mM MgCl Bioneer、韓国)を用いて行った。使用したプライマーは、対照区とそれぞれのマーカーとして用いられるもので、mouse GAPDH、Nestin、Sox2であり、それぞれのプライマー条件に応じてPCR増幅した。使用したプライマー配列は、次のとおりである。
【0045】
mouse GAPDHプライマー
順方向プライマー5’−GATGACATCAAGAAGGTGGTGAAG−3’(配列番号1)
逆方向プライマー5’−GTTGCTGTAGCCGTATTCATTGTC−3’(配列番号2)
mouse nestin
順方向プライマー5’−GGCATCCCTGAATTACCCAA−3’(配列番号3)
逆方向プライマー5’−AGCTCATGGGCATCTGTCAA−3’(配列番号4)
mouse sox2
順方向プライマー5’−AGTGGTACGTTAGGCGCTTC−3’(配列番号5)
逆方向プライマー5’−TGCCTTAAACAAGACCACGA−3’(配列番号6)
【0046】
4.脱分化の誘導
脱分化は、神経幹細胞の培養条件と同様に培養しながら誘導した。この際、2つの方法を用いて培養した。それらの中の一つは、6ウェルプレートに1×10のセルをプレイティングし、12時間後、インスリン(Sigma)、apo− トランスフェリン(Sigma)、セレニウム(Sigma)、プロゲステロン(Sigma)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Cambrex)が含まれているDMEM/F12(Gibco)培地(N2)に血清代替物(serum-replacement)としてのB27(Gibco)、ヒト組み換えベイシックFGFおよびヒト組み換えEGF(R&D)が添加された培地に取り替えた後、毎日bFGFを処理し、培地を二日おきに取り替えながら培養する方法である。もう一つの方法は、適正培養条件で培養した細胞を、トリプシン化した後、3×10ずつ60mmのバクテリア培養プレートにシーディングしてインスリン(Sigma)、apo− トランスフェリン(Sigma)、セレニウム(Sigma)、プロゲステロン(Sigma)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Cambrex)が含まれているDMEM/F12(Gibco)培地(N2)に血清代替物(serum-replacement)としてのB27(Gibco)、ヒト組み換えベイシックFGFおよびヒト組み換えEGF(R&D)が添加された培地で培養する方法である。
【0047】
5.免疫細胞化学法によるそれぞれのマーカー確認
Neurosphereは、4%パラホルムアルデヒド(EMS)で1時間4℃で固定した後、20%スクロースを添加して4℃で一晩シェーキングを行った。その後、OCT化合物を用いて8ウェルチャンバースライド(Nunc)に低温保存した。8〜10μmでセクションした後、染色を行った。10%正常山羊血清(JacksonImmunoresearch)+0.1%BSA(Sigma)+0.3%Triton X−100(Sigma)が含まれているPBSでブロッキングを行った後、anti−nestin(Chemicon)、anti−CD133(MACS)、anti−Sox2(Sigma)を用いて4℃で一晩反応させた後、RTでanti−mouse−cy3(JacksonImmunoresearch)、anti−rabbit−FITC(Molecular probe)、anti−goat−cy3(Zymed)で反応させた後、最後にDAPI(Sigma)を用いて核染色を行った。染色の後、Zeiss Confocal(Carl Zeiss)で確認した。分化した細胞の場合、前述の方法で染色を行った。この際、使用した抗体は、anti−GFAP(Dako)、anti−S100β(Zymed)、anti−β−tubulinIII(Covance)、anti−Map2a(Sigma)、anti−TH(Sigma)、anti−O4(R&D)、およびanti−CNPase(Chemicon)であった。
【0048】
6.インビトロ分化
PLO(poly-L-ornithine)(Sigma)とラミニン或いはフィブロネクチン(Sigma)でコートした後、次の分化条件で培養を行った。
【0049】
星状細胞への分化は、10%FBS(HyClone)が含まれているDMEM(HyClone、高グルコース)にヒト組み換えbFGFとEGF(R&D)を添加し、或いはCNTF(recombinant rat ciliary neurotrophic factor(upstate))で5〜7日間培養することにより誘導した。
【0050】
ニューロンへの分化は、血清代替物としてのB27(Gibco)が含まれているN2培養液にヒト組み換えFGFを4日間処理した後、8日間FGFのない培地で培養することにより誘導した。他の方法では、濃度1〜10μMのRA(retinoic acid)(Sigma)を添加して7〜14日間培養することにより、分化を誘導した。別の方法では、濃度1〜10MmのVPA(Valproic acid)(Sigma)を濃度1〜10μMのRA(Sigma)と共に添加して7〜14日間培養することにより、分化を誘導した。
【0051】
希突起膠細胞への分化は、血清代替物としてのB27が添加されているN2培養液にPDGF−AA(platelet derived growth factor-AA)(R&D)、T3(3,3,5-triiodo-L-thyronine)(Sigma)、およびヒト組み換えベイシックFGFとEGF(R&D)を共に添加して20日間培養することにより誘導した。
【0052】
前述した条件で培養を行い、それぞれの分化した細胞の形態を観察しながら、それぞれの分化マーカーとして使用される抗体を用いて免疫細胞化学法によって確認した。
【0053】
(実施例2:研究結果)
既に分化の進んだマウス星状細胞をE13.5日齢から分離し、レトロウイルス導入システム(retroviral transduction system)を用いてBmi−1遺伝子を過発現させた。ウエスタンブロット分析によって過発現を確認することができ、また、Bmi−1遺伝子の目的遺伝子として知られているp16Ink4aとp19Arfが発現されていないことを確認することができた(図1)。
【0054】
その後、神経幹細胞の培養条件を用いて脱分化を誘導した。まず、一定の数(1×10)の細胞を6ウェルプレートにシーディングした後、12時間後から神経幹細胞培養条件で培養した結果、培養3〜4日目に神経幹細胞と同じ形態を示すことを観察することができた。また、一定の数(3×10)の細胞を60mmバクテリアプレートに神経幹細胞と同一の培養条件で培養した結果、依然として神経幹細胞と同じ形態を示していることを観察することができた。一方、対照区ベクターであるpBabe puroが感染した細胞では、neurosphereが形成されていない(図2)。6日目のneurosphereを他のディッシュに別途に移した後、培養し続けたときにも、神経幹細胞と同一の形態を示した。Bmi−1遺伝子を用いて作られた細胞が自己再生の特性を持っているかを調べるためにsubsphere formation assayを行った結果、単細胞でsphereを形成することを1週間経過後から観察することができた(データを示さず)。
【0055】
この細胞が神経幹細胞と同一の細胞であるかを確認するために、それぞれのマーカーを用いて免疫細胞化学法を使用した。神経幹細胞で最も多く発現されているマーカーNestin、CD133、Sox2を用いて染色した結果、神経幹細胞で発現されているのと同様に神経幹細胞様の細胞でも発現されていた。この際、作られたneurosphereもcryo−sectionして確認した結果、Nestin、CD133、Sox2の発現を確認することができた(図3)。
【0056】
RT−PCRによってもう1回検証した結果、神経幹細胞で発現されている遺伝子としてのNestinとSox2がやはり同一の様相でわれわれの作った細胞でも発現されており、神経幹細胞様の細胞を作ったものと判断することができた(図4)。
【0057】
神経幹細胞様の細胞が神経幹細胞のように分化能力を持つかを確認するために、星状細胞、ニューロン、希突起膠細胞への分化を前述の方法によって誘導した。分化有無をそれぞれの分化マーカーに特異的な抗体を用いて確認した結果、神経幹細胞のように3つのタイプに分化がなされることを確認することができた。まず、星状細胞への分化はGFAPとS100の発現によって確認し、ニューロンへの分化はβ−tubulin III(Tuj1)とMap2aの発現によって確認した。また、希突起膠細胞のマーカーであるO4とCNPaseも希突起膠細胞への分化条件を与えたときに発現されていることを確認することができた(図5)。
【0058】
この研究によって、Bmi−1遺伝子は星状細胞の神経幹細胞様細胞への脱分化に関連した重要な遺伝子であり、このように脱分化した神経幹細胞様の細胞は星状細胞、ニューロン、希突起膠細胞にさらに分化することを確認することができた。
【0059】
〔産業上の利用可能性〕
前述したように、Bmi−1を用いて星状細胞の神経幹細胞への脱分化を誘導することができ、脱分化した神経幹細胞は多様な疾病治療に使用できる。
【0060】
〔従来の技術の文献情報〕
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【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】免疫細胞化学法(Immunocytochemistry)によってBmi−1遺伝子のターゲット遺伝子であるp16Ink4aとp19Arfの過発現を確認した結果を示す。
【図2】脱分化の誘導を示すもので、Aはdirect sphere形成を、Bはsphere形成を示す(direct sphereはシングルセルを神経幹細胞培養条件で培養した場合に形成されることを意味し、sphereはシングルセルを星状細胞培養条件でアタッチさせてから12時間後に安定になったとき、神経幹細胞培養条件で培養した場合に形成されることを意味する)。
【図3】神経幹細胞マーカーの発現を免疫細胞化学法によって考察した結果である。A〜Cは神経幹細胞(Neural stem cell)を、D〜Fは神経幹細胞様の細胞(Neural stem cell-like cell)を示す。
【図4】神経幹細胞特異的マーカーの発現を半定量(Semi-quantitative)PCR増幅によって考察した結果である(Ast:星状細胞、NSC:神経幹細胞、Ast−Bmi−1:星状細胞+Bmi−1、NSCLC:神経幹細胞様の細胞)。
【図5】神経細胞様細胞のインビトロ分化を誘導したときに星状細胞、ニューロン、希突起膠細胞にそれぞれ分化することを示す。A〜Cは神経幹細胞を、D〜Gは神経幹細胞様の細胞を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bmi−1タンパク質、またはBmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を含む、星状細胞の神経幹細胞への脱分化を誘導する組成物。
【請求項2】
Bmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸が、Bmi−1タンパク質を発現するベクターである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Bmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸が、Bmi−1タンパク質を発現するウイルスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記脱分化した神経幹細胞が、星状細胞、ニューロンおよび希突起膠細胞への分化能を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
星状細胞をBmi−1タンパク質、またはBmi−1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で処理する段階を含んでなる、星状細胞の神経幹細胞への脱分化を誘導する方法。
【請求項6】
前記脱分化した神経幹細胞が、星状細胞、ニューロンおよび希突起膠細胞への分化能を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、(i)星状細胞を培地で培養する段階と、(ii)前記星状細胞を前記Bmi−1タンパク質または前記核酸で処理する段階と、(iii)星状細胞を神経幹細胞への脱分化に誘導する段階とを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
(i)段階で星状培養を培養する培地が、bFGFを含む培地である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項5の方法で生産された神経幹細胞。
【請求項10】
請求項5の方法で生産された神経幹細胞を星状細胞、ニューロンおよび希突起膠細胞に分化させる方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−528050(P2009−528050A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557196(P2008−557196)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【国際出願番号】PCT/KR2006/001350
【国際公開番号】WO2007/097494
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(507322584)イムジェン カンパニー リミテッド (4)
【Fターム(参考)】