説明

C−CCKR−5,CC−ケモカインレセプタ、その誘導体及びこれらの利用

【課題】ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のレセプターとなるペプチドと結合する薬剤のスクリーニング方法および得られる薬剤を提供する。
【解決手段】特定のペプチド(ケモカインレセプター)をコードする核酸分子を発現するベクターで形質移入された細胞を薬剤(アンチリガンド)と接触させ、前記ペプチドとHIVウイルスまたはその一部であるリガンドとの結合を抑制するかどうかを判定する。前記アンチリガンドは、好ましくは前記ペプチドのエピトープに対して作られた抗体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のペプチドと前記ペプチドをコードする核酸分子、前記核酸分子から成るベクター、前記ベクターによって形質転換される細胞、前記ペプチドまたは前記核酸分子に対する阻害物質、前記生成物を含む製剤組成物及び診断及び/または投薬装置、及び本発明のペプチドまたは前記ペプチドをコードする核酸分子を発現するヒト以外のトランスジェニック動物に係わる。本発明は、リガンド結合の確定、発現の検出、特に前記ペプチドと結合する薬剤のスクリーニング、及び本発明のペプチドまたは核酸分子を利用する治療の方法をも提供する。
【背景技術】
【0002】
走化性のサイトカインまたはケモカインは、最初の2つの保存システインの相対位置に応じて2の亜科(CC−及びCXC−ケモカイン)に分けることができる小さいシグナルタンパクである。インターロイキン−8(IL−8)は、この種のプロテインのうち最も良く知られたものであるが、多数のケモカイン、即ち、正常T細胞が発現分泌すると調節される物質(Regulated on Activation Normal T−Cell Expressed and Secreted,RANTES:ランテス)、単球化学誘引性タンパク1(Monocyte Chemoattractant Protein 1,MCP−1)、単球化学誘引性タンパク2(MCP−2)、単球化学誘引性タンパク3(MCP−3)、成長関連遺伝子産物α(Growth−Related gene product α,GROα)、成長関連遺伝子産物β(GROβ)、成長関連遺伝子産物γ(GROγ)、マクロファージ炎症タンパク1α(Macrophage Inflammatory Protein 1
α,MIP−1α)、マクロファージ炎症タンパク1β(MIP−1β)などが報告されている[4]。([]内の数字は参考文献リストの番号を表す。)
【0003】
ケモカインは、特定の白血球サブセットを誘引し、シミュレートすることにより、急性及び慢性炎症発生の生理学やこれらの炎症の病理学的調節障害に基本的な役割を果す[32]。例えば、RANTESは単球、メモリーT細胞、好酸球に対して親和力を有し、好塩基性細胞によってヒスタミンを遊離させる。動脈硬化性障害の状態にある平滑筋細胞から放出されるMCP−1はマクロファージ誘引の、従って、障害の悪化を惹き起こす因子(または因子の1つ)と考えられる[4]。
【0004】
MIP−1α,MIP−1β及びRANTESケモカインは、CD8T細胞によって生産される重要なHIV抑制因子として最近報告された[9]。ヒトの骨髄形成細胞増殖の調節にはCC−ケモカインも関与する[6,7]。
CC−及びCXC−ケモカインの作用がGタンパク結合レセプタの亜科によって仲介されることが、最近の研究で立証された。ケモカインの機能は多く、生物学的活性リガンドの数は増える一方であるにも拘らず、ヒトに関しては、現在までに6つの機能レセプタが同定されているに過ぎない。
【0005】
インターロイキン−8(IL−8)に関しては、2つのレセプタが報告されている[20,29]。その1つ(IL−8RA)は特異的にIL−8と結合し、他の1つ(IL−8RB)はIL−8のほか、GROのような他のCXC−ケモカインと結合する。CC−ケモカインと結合するレセプタのうち、CC−ケモカインレセプタ1(CCR1)と呼ばれるレセプタは、RANTESともMIP−1αとも結合し[31]、CC−ケモカインレセプタ2(CCR2)は、MIP−1及びMCP−3と結合する[8,44,15]。
【0006】
最近、さらに2つのCC−ケモカインレセプタがクローニングされた:CC−ケモカインレセプタ3(CCR3)は、RANTES,MIP−1α及びMIP−1βによって活性化されることが判明した[10];CC−ケモカインレセプタ4(CCR4)は、MIP−1,RANTES及びMCP−1に応答する[37]。これら6つの機能レセプタに加えて、構造的にはCC−またはCXC−ケモカインレセプタと関連する多数のオーファンレセプタがヒト及びその他の種からクローニングされている。例えば、ヒトBLR1[13],EBI1[5],LCR1[21],マウスMIP−1 RL1及びMIP−1 RL2[17]及びウシPPR1[25]などである。ただし、これらオーファンレセプタのリガンド及び機能は、現時点では解明されていない。
【発明の開示】
【0007】
本発明は、配列識別番号No.1で表わされるアミノ酸配列との間に80%以上の、好ましくは90%以上の、さらに好ましくは95%以上の相同性を示す、少なくとも1つのアミノ酸配列を有するペプチドに係わる。
好ましくは、前記ペプチドは、配列識別番号No.2で表わされるアミノ酸配列との間にも80%以上の、好ましくは90%以上の、さらに好ましくは95%以上の相同性を示す、少なくとも1つのアミノ酸配列を有する。
【0008】
本発明の他の実施例では、前記ペプチドが配列識別番号No.3で表わされるアミノ酸配列との間に80%以上の、好ましくは90%以上の、さらに好ましくは95%以上の相同性を示す、少なくとも1つのアミノ酸配列を有する。
本発明は、配列識別番号No.1,No.2,No.3のアミノ酸配列、またはその一部(図1)で表わされるアミノ酸配列にも係わる。
“アミノ酸配列の一部”とは、本発明の完全ペプチドと同じまたはそれ以上の結合性能を有する1つまたは2つ以上のアミノ酸セグメントを意味する。前記部分としては、前記ペプチドの例えば既知“ナチュラルリガンド”と特異的に結合するエピトープ、または前記リガンドのアゴニストまたは類似体、または(ペプチドに対する前記リガンドのアンタゴニストを含めて)ペプチドと前記リガンドとの結合を競合的に阻害することができる阻害剤が考えられる。
【0009】
アミノ酸配列の前記部分及びその製法の具体例は、参考のため本願明細書に引用したRucker J.et al.の論文(Cell,vol.87,pp437−446(1996))に記述されている。
本発明では、本発明のペプチドの前記アミノ酸配列部分がN−末端セグメント及びペプチドの第1細胞外ループから成る。
従って、本発明では、配列識別番号No.1で表わされるアミノ酸配列は配列識別番号No.2及びNo.3の共通アミノ酸配列である(図1)。従って、前記アミノ酸配列の第1の用途は、前記アミノ酸配列間の相同性識別、上記アミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列をコードする種々の突然変異体のスクリーニング及び以下に述べる障害に対する疾病素質または耐性を示す患者タイプの識別である。
【0010】
本発明のペプチドは、活性CC−ケモカインレセプタであることが好ましい。
本発明のCC−ケモカインレセプタは、10nmまたはそれ以下の濃度のMIP−1βケモカインによって刺激されることが好ましく、MIP−1αまたはRANTESケモカインによっても刺激されることが好ましい。ただし、前記ケモカインレセプタは、MCP−1,MCP−2,MCP−3,IL−8及びGROαケモカインによって刺激されることはない。
【0011】
また、本発明のペプチドまたはその一部は、HIVウィルスまたは前記HIVウィルスの一部のレセプタでもある。
“HIVウィルス”とは、HIV−1またはHIV−2のほか、エイズの発生に関与するすべてのHIVウィルス株を意味する。“HIVウィルスの一部”という場合、前記レセプタと特異的に相互作用できる前記ウィルスのエピトープを意味する。本発明のペプチドとの相互作用に関与できる前記ウィルス部分には、ENV及びGAGウィルス遺伝子によってコードされるペプチドも含まれる。
【0012】
好ましくは、HIVウィルスの前記部分は、グリコペプチドgp120/160(膜結合gp160またはgp160から誘導される遊離gp)またはその一部である。
“グリコペプチドgp120/160の一部”という場合、エピトープ、好ましくは、本発明のペプチドと特異的に相互作用できる前記グリコペプチドの免疫優性エピトープ、例えば、V3ループ(第3超可変領域)を意味する。
本発明の他の実施例では、本発明のペプチドが不活性CC−ケモカインレセプタである。このような不活性CC−ケモカインレセプタの1例は、配列識別番号No.2で表わされるアミノ酸配列によってコードされる。
【0013】
“不活性CC−ケモカインレセプタ”とは、既知のCC−ケモカイン、特にMIP−1β,MIP−1αまたはRANTESケモカインによって刺激されないレセプタである。
本発明の配列識別番号No.3のペプチドは、HIVウィルスまたは前記HIVウィルスの一部のレセプタではない不活性レセプタであり、このことは前記不活性レセプタが、前記不活性レセプタを表面に有する細胞への前記HIVウィルスの侵入を許さないことを意味する。
本発明のペプチドは、ヒトレセプタであることが好ましい。
【0014】
本発明は、図1に示す配列識別番号NO.1,No.2及びNo.3の核酸配列の1つと80%以上の、好ましくは90%以上の相同性を有する核酸分子にも係わる。
好ましくは、前記核酸分子は、少なくとも図1に示す配列識別番号No.1,No.2またはNo.3の核酸配列またはその一部を有する。
“前記核酸分子の一部”という場合、前記核酸分子またはその相補的な鎖の検出及び/または再構成に使用できる15個以上のヌクレオチドから成る核酸配列を意味する。この部分としては、例えば、PCR,LCR,NASBAまたはCPR技術を応用する遺伝子増幅において使用できるプローブまたはプライマーを挙げることができる。
本発明は特に、本発明のペプチドをコードする核酸分子に係わる。
前記核酸分子は、RNAまたはDNA分子、例えばcDNA分子またはゲノムDNA分子である。
【0015】
本発明は、本発明の核酸分子から成るベクターにも係わる。
好ましくは、前記ベクターは、細胞中に発現することができ、本発明の核酸配列と結合する前記細胞中にアミノ酸分子を発現させるのに必要な調節因子を含む。
好ましくは、前記細胞を細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞及び哺乳類細胞から成るグループから選択する。本発明のベクターは、プラスミド、好ましくはpcDNA3プラスミド、またはウィルス、好ましくは、バキュロウィルス、アデノウィルスまたはセムリキ森林熱ウィルスである。
本発明は、本発明のベクターによって形質転換された細胞、好ましくは哺乳類細胞、例えばCHO−K1またはHEK293細胞にも係わる。好ましくは、前記細胞は、非ニューロン系であり、CHO−K1,HEK293,BHK21,COS−7細胞から成るグループから選択する。
【0016】
本発明はまた、本発明のベクター及び前記細胞内での機能的応答を促進するタンパクをコードする他のベクターによって形質転換された細胞(好ましくはCHO−K1細胞のような哺乳類細胞)にも係わる。前記タンパクは、Gα15またはGα16(G:タンパク、α:サブユニット)であることが好ましい。前記細胞はCHO−K1−pEFIN
hCCR5−1/16細胞であることが好ましい。
本発明はまた、本発明の核酸分子の配列内に含まれるユニーク配列(unique sequence:非反復配列)と特異的にハイブリッド形成できる少なくとも15個のヌクレオチドから成る核酸分子を含む核酸プローブにも係わる。前記核酸プローブとして、DNAまたはRNAを使用することができる。
本発明は、本発明のペプチドをコードするmRNA分子と特異的にハイブリッド形成することによって前記mRNA分子の翻訳を阻止できる配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド、または本発明のペプチドをコードするcDNA分子と特異的にハイブリッド形成できる配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドにも係わる。
【0017】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ヌクレオチドの化学的類似体、またはmRNAを不活性化する物質を含むか、またはリボザイム活性を有するRNA分子に組込まれることができる。
本発明は、MIP−1β,MIP−1α,RANTESケモカイン,HIVウィルス及び前記HIVウィルスの一部から成るグループから選択された、既知“ナチュラルリガンド”以外のリガンドまたはアンチリガンド(好ましくは抗体)にも係わり、前記リガンドは本発明のレセプタと結合でき、前記アンチリガンドは、前記既知“ナチュラルリガンド”または本発明のリガンドが本発明のペプチドと結合するのを(好ましくは競合的に)阻害できる。
【0018】
公知のケモカインとして、HIVウィルスまたはその部分を挙げたが、例えば遺伝子工学によって得られ、前記ウィルス及びその部分と本発明のペプチドとの相互作用をシミュレートできる前記“ナチュラル”ウィルスまたは前記“ナチュラル”部分の変異種を除外するものではない。
前記抗体は、好ましくは本発明のペプチドのエピトープに向けられ、前記ペプチドを発現する細胞の表面に存在するモノクローナル抗体であることが好ましい。
前記抗体は、ハイブリドーム細胞AchCCR5−SAB1A7によって生産されることが好ましい。
【0019】
本発明は、(哺乳類細胞の表面に存在するナチュラルペプチドからHIVウィルスを誘引して前記哺乳類細胞がHIVウィルスに感染するのを阻止するのに)有効量の本発明のペプチド、または有効量の上記リガンド及び/またはアンチリガンド、または細胞膜を通過して細胞内で本発明のペプチドをコードするmRNAと特異的に結合して前記ペプチドの活性を低下させ、その翻訳を阻止できるのに有効な量の本発明のオリゴヌクレオチドを含む製剤組成物にも係わる。この製剤組成物は、製剤上妥当なキャリヤ、好ましくは前記細胞膜を通過できるキャリヤをも含む。
【0020】
前記製剤組成物において、オリゴヌクレオチドは、本発明のペプチドをコードしているmRNAを不活性化する、例えば、リボザイムのような物質と結合していることが好ましい。
製剤上妥当なキャリヤは、細胞上のレセプタと結合し、結合後、細胞によって吸収される構造から成ることが好ましい。前記製剤組成物中の前記製剤上妥当なキャリヤは、所与の細胞タイプに特異なレセプタと結合可能であることが好ましい。
本発明はまた、本発明のペプチドをコードする核酸分子を過剰発現(または異所発現)するヒト以外のトランスジェニック哺乳類にも係わる。
【0021】
本発明はまた、本発明のナチュラルペプチドの相同組換えノックアウトから成るヒト以外のトランスジェニック哺乳類にも係わる。
本発明の好ましい実施例では、本発明のペプチドをコードするmRNAと相補関係にあって、前記ペプチドをコードするmRNAとハイブリッド形成することによってその翻訳を軽減するアンチセンスmRNAへ転写されるように本発明の核酸と相補関係に配置されたアンチセンス核酸をゲノム中に含むヒト以外のトランスジェニック哺乳類にも係わる。本発明のヒト以外のトランスジェニック哺乳類は、本発明のペプチドをコードする核酸分子を含むとともに、誘導プロモーターまたは組織特異調節因子をも含むことが好ましい。
ヒト以外のトランスジェニック哺乳類は、マウスであることが好ましい。
【0022】
本発明は、リガンドが本発明のペプチドと特異的に結合可能であるかどうかを判定する方法において、前記ペプチドをコードする核酸分子を発現するベクターを移入された細胞を、リガンドと前記ペプチドとの結合を可能にする条件下で前記リガンドと接触させ、前記ペプチドと特異的に結合した前記リガンドの存在を検出することによって、リガンドが前記ペプチドと特異的に結合するかどうかを判定するステップから成ることを特徴とする前記方法に係わる。
【0023】
本発明はまた、リガンドが本発明のペプチドと特異的に結合可能であるかどうかを判定する方法において、前記ペプチドをコードする核酸分子を発現するベクターを移入された細胞から細胞抽出物を調製し、細胞抽出物から膜部分を分離し、前記ペプチドとリガンドとの結合を可能にする条件下で、リガンドを膜部分と接触させ、前記ペプチドと結合しているリガンドの存在を検出することにより、化合物が前記ペプチドと特異的に結合可能であるかどうかを判定するステップから成ることを特徴とする前記方法に係わる。
【0024】
本発明は、リガンドが本発明のペプチドのアゴニストであるかどうかを判定する方法において、前記ペプチドをコードする核酸分子を発現するベクターを移入された細胞を、細胞からの機能的レセプタ応答を可能にする条件下でリガンドと接触させ、第二メッセンジャー濃度(好ましくはカルシウムイオンまたはIP3のようなリン酸イノシトール)の変化、または細胞代謝(好ましくは培地の酸性化率に基づいて測定)の変化などのような生物学的定量法によってペプチド活性の増大を検出して、リガンドがペプチドのアゴニストであるかどうかを判定するステップから成ることを特徴とする前記方法にも係わる。
【0025】
本発明は、リガンドが本発明のペプチドのアゴニストであるかどうかを判定する方法において、前記ペプチドをコードする核酸分子を発現するベクターを移入された細胞から細胞抽出物を調製し、細胞抽出物から膜部分を分離し、官能ペプチド応答の活性化を可能にする条件下で膜部分をリガンドと接触させ、第二メッセンジャー(好ましくはIP3のようなリン酸イノシトール)生成の変化のような生物学的定量法によってペプチド活性の増大を検出することで、リガンドがペプチドのアゴニストであるかどうかを判定するステップから成ることを特徴とする前記方法にも係わる。
【0026】
本発明は、リガンドが本発明のペプチドのアンタゴニストであるかどうかを判定する方法において、前記ペプチドをコードする核酸分子を発現するベクターを移入された細胞を、官能ペプチド応答の活性化を可能にする条件下で、既知ペプチドアゴニストの存在においてリガンドと接触させ、第二メッセンジャー(好ましくはカルシウムイオンまたはIP3のようなリン酸イノシトール)の濃度変化、または細胞代謝(好ましくは培地の酸性化率に基づいて測定)の変化のような生物学的定量法によってペプチド活性の低下を検出することでリガンドがペプチドのアンタゴニストであるかどうかを判定するステップからなることを特徴とする前記方法にも係わる。
【0027】
本発明は、リガンドが本発明のペプチドのアンタゴニストであるかどうかを判定する方法において、前記ペプチドをコードする核酸分子を発現するベクターを移入された細胞から細胞抽出物を調製し、細胞抽出物から膜部分を分離し、官能ペプチド応答の活性化を可能にする条件下で、膜部分を既知ペプチドアゴニストの存在においてリガンドと接触させ、第二メッセンジャー生成の変化のような生物学的定量法によってペプチド活性の低下を検出することでリガンドがペプチドのアンタゴニストであるかどうかを判定するステップから成ることを特徴とする前記方法にも係わる。
【0028】
第二メッセンジャー定量法は、カルシウムイオンまたはIP3のようなリン酸イノシトールの測定であることが好ましい。
前記方法に使用する細胞は、CHO−K1,HEK293,BHK21,COS−7細胞のような非ニューロン系の哺乳類細胞であることが好ましい。
前記方法において、リガンドは既知リガンドではない。
本発明は、上記方法のいずれかによって分離され、検出されるリガンドにも係わる。
本発明は、本発明のペプチド活性を弱めるのに有効な量の前記ペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストと、製剤上妥当なキャリヤとから成る製剤組成物にも係わる。
“本発明のペプチドのアゴニストまたはアンタゴニスト”という場合、上記ペプチドの既知“ナチュラルリガンド”のあらゆるアゴニストまたはアンタゴニストを意味する。
従って、上記方法を、本発明のペプチドと特異的に結合する薬剤を同定するためのスクリーニングに利用することができる。
【0029】
本発明は、上記方法のいずれかによって分離され、検出される薬剤にも係わる。
本発明は、前記薬剤及び製剤上妥当なキャリヤから成る製剤組成物にも係わる。
本発明は、ペプチドをコードしているmRNAの存在を検出することによって本発明のペプチドの発現を検出する方法において、細胞から全RNAまたは全mRNAを得、得られたRNAまたはmRNAを、ハイブリッド形成条件下で本発明の核酸プローブと接触させ、プローブとハイブリッド形成するmRNAの存在を検出することによって細胞によるペプチド発現を検出するステップから成ることを特徴とする前記方法にも係わる。
前記ハイブリッド形成条件は、ストリンジェントな条件である。
【0030】
本発明は、慢性関節リウマチ、糸球体腎炎、喘息、特発性肺線維症及び乾せん症のような炎症、ヒト免疫不全ウィルス1及び2(HIV−1及びHIV−2)による感染のようなウィルス感染症、白血病のような癌、アテローム硬化症及び/または自己免疫症から成るグループから選択された疾病の治療及び/または予防を目的とする本発明の製剤組成物の利用にも係わる。
【0031】
本発明はまた、本発明のペプチドの活性及び/または被験体内に存在するHIVウィルスのような感染要因に関連する障害に対する疾病素質または耐性を診断する方法にも係わる。この方法は、a)被験体の細胞から前記ペプチドをコードする核酸分子を得、b)好ましくは、前記核酸分子を制限酵素群で制限消化し、c)好ましくは、得られた核酸フラグメントを、サイズドゲル上で電気泳動分離し、d)得られたゲルまたは核酸分子を、検出可能なマーカーを有し、かつ前記核酸分子と特異的にハイブリッド形成できる核酸プローブと接触させ、e)標識帯、または検出可能なマーカーで標識された前記核酸分子とハイブリッド形成することによってユニークな帯パターンまたは被験体に特異なin situマーキングを形成するin situ核酸分子を検出し、f)ステップa)〜e)による診断のため、他の被験体の細胞から得られた前記ペプチドをコードする他の核酸分子を調製し、g)障害のある被験体についてステップe)において得られた核酸分子にユニークな帯パターンを、ステップf)において診断のために得られた核酸分子の帯パターンと比較することにより、それぞれのパターンが同じであるか異なるかを判定し、この判定に基づいて障害に対して疾病素質であるか耐性であるかを診断するステップから成る。
【0032】
本発明は、本発明のペプチドの特異対立遺伝子の活性または細胞表面上における前記ペプチドの存在に関連し、及び/または被験体中に存在するHIVウィルスのような感染要因に関連する障害に対する疾病素質または耐性を診断する方法にも係わる。この方法は:a)被験体から、抗原を有する細胞を含む体液、好ましくは血液の試料を得、b)前記試料に、本発明のリガンド及び/またはアンチリガンドを加え、c)前記リガンド及び/または前記アンチリガンドと特異ペプチドとの間の交差反応を検出し、d)ペプチドがレセプタまたは不活性レセプタに対応するかどうかを判定することにより、被験体の体液中に存在するペプチドのタイプに応じて、障害に対する疾病素質または耐性を診断するステップから成る。
【0033】
本発明は、ペプチド、核酸分子、核酸プローブ、リガンド及び/またはアンチリガンド、その部分(例えば、プライマー、プローブ、エピトープ、…)またはこれらの混合物から成り、必要に応じて検出可能なマーカーで標識されている診断及び/または投薬装置、好ましくはキットにも係わる。
【0034】
前記診断及び/または投薬装置は、フィルタ、固形支持体、溶液、“サンドイッチ”、ゲル、ドットブロットハイブリッド形成、ノーザンブロットハイブリッド形成、サザーンブロットハイブリッド形成、同位体または非同位体標識化(例えば、免疫蛍光法またはビオチン化法)、低温プローブ技術、遺伝子増幅、特にPCR,LCR,NASBAまたはCPR,二重免疫拡散法、逆免疫電気泳動法、血球凝集及び/またはこれらの方法の組合わせを使用するin situハイブリッド形成、ハイブリッド形成、または標識特異抗体、特に商品名ELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay,酵素結合イムノソルベント検定法)または商品名RIA(Radio Immunoassay,放射線免疫検定法)による認識から成るグループから選択された方法によって抗原、抗体または核酸配列を検出及び/または投与するための反応体をも含む。
【0035】
本発明は、本発明のペプチドを製造する方法において、a)好ましくは、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞及び哺乳類細胞から成るグループから選択した細胞中に、前記ペプチドをコードする核酸分子と結合して前記ペプチドの発現を可能にするのに必要な調節因子を含み、前記細胞中に発現するベクターを構成し、b)ステップa)で得たベクターを適当な宿主細胞に挿入し、c)本発明のペプチドの発現を可能にする条件下で、ステップb)の細胞をインキュベートし、d)得られたペプチドを回収し、e)好ましくは、回収されたペプチドを精製するステップから成ることを特徴とする前記方法にも係わる。
【0036】
微生物AchCCR5−SAB1A7及びCHO−K1−pEFIN hCCR5−1/16の寄託は、ブタペスト条約に従い、ベルギー,ベ−9000,ヘント,ケイ.エル.レーデハンクストラート,ウニフェルシタイト ヘント,ラボラトリウム ホール モレクレーレ バイオロフィー(エルエムベーペー),ザ ベルジャム コオーディネイティド コレクション オブマイクロ−オーガニズムズ(ビーシーシーエム)(the Belgium Coordinated Collection of Micro−organism(BCCM),Laboratorium voor Moleculaire Biologie(LMBP),Universiteit Gent,K.L.Ledeganckstraat35,B−9000GENT,BELGIUM)においてなされた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
1.実験
<材料>
MCP−1,MIP−1α,MIP−1β,RANTES,IL−8及びGROαを含む組換えヒトケモカインをR&Dシステム社(London,UK)から入手した。[125I]MIP−1α(比活性、2200Ci/mmol)をデュポン(Dupont)
NEN社(Brussels,Belgium)から入手した。R&Dシステム社から入手したケモカインは、同社からのデータによれば、その純度がSDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動)の結果、97%以上であり、各リガンドに特異な生物学的定量法の結果、生物学的に活性であるとのことであった。
【0038】
凍結乾燥したケモカインを無菌リン酸塩緩衝食塩水に溶かして100μg/ml溶液を調製し、アリクオットに分けて−20℃で貯蔵した。使用直前に、ケモカインを有効濃度にまで希釈した。この実験に使用された細胞系は、すべてATCC社(Rockville,MD,USA)から入手した。
【0039】
<クローニング及び配列決定>
すでに報告されているように[24,34]、ゲノムDNAを鋳型に利用して、低緊縮(低ストリンジェント)ポリメラーゼ連鎖反応により、マウスMOP020クローンを得た。λDASHベクター中に構成したヒトゲノムDNAライブラリー(Stratagene,La Jolla,CA)をMOP020(511bp)プローブによって低緊縮(低ストリンジェント)[39]でスクリーニングした。正クローンを等質性に精製し、サザーンブロッティングによって分析した。遺伝子座の制限地図を確定し、関連のXbaIフラグメント4,400bpをpブルースクリプトSK+(Stratagene)中でサブクローニングした。M13mp誘導体中でのサブクローニングのあと、蛍光プライマー及び自動DNAシーケンサー(Applied Biosystem370A)を使用して双方の鎖について配列決定した。DNASIS/PROSISソフトウェア(日立)及びGCGソフトウェアパッケージ(Genetics Computer Group,Wisconsin)を使用して配列処理及びデータ分析を実施した。
【0040】
<細胞系における発現>
BamHI及びXbaI認識配列をそれぞれ含むプライマーを使用して、全コード領域をPCRによって1056bpフラグメントとして増幅し、真核発現ベクターpcDNA3(Invitrogen,San Diego,CA)の対応部位に制限したのち、クローニングした。得られた構造を、文献[35]に記述されているように、配列決定し、CHO−K1細胞へ移入することによって立証した。移入の2日後に、400μg/mlのG418(Gibco)を添加することによって、安定的に移入が行われた細胞系を選択し、10日目に耐性クローンを分離した。文献[35,11]に記述されているように、Ham’s F12培地を使用してCHO−K1細胞を培養した。種々の細胞クローンにおける活性CCR5レセプタの発現を、(後述する)細胞から調製した全RNAに対するノーザンブロッティングによる比転写レベルの測定によって評価した。
【0041】
<結合測定法>
安定的に移入された、活性CCR5レセプタを発現するCHO−K1細胞を、1mM EDTAを加えたリン酸塩緩衝食塩水中でインキュベートすることによって密集成長させ、培養皿から分離させた。低速遠心分離によって細胞を回収し、ノイバイエル・セルでカウントした。結合測定は、0.2%ウシ血清アルブミン(BSA)及び10個の細胞を含有する最終容積200μlのPBSが入ったポリエチレン製ミニソープ・チューブ(Nunc)中で、[125I]−MIP−1αの存在において実施された。10nMの無標識MIP−1αを添加しても、特異な結合は観察されなかった。標識リガンドの濃度は、0.4nM(約100000cpm/チューブ)であった。インキュベーションを4℃で2時間続け、4mlの氷冷緩衝液を急激に添加することによって停止させ、あらかじめ0.5%ポリエチレンイミン(Sigma)に浸漬したGF/Bグラスファイバーフィルタ(Whatmann)で真空濾過することによって細胞を一気に回収した。フィルタを4ml氷冷緩衝液で3回洗浄し、γカウンタでカウントした。
【0042】
<生物学的活性>
pcDNA3/CCR5構造を安定的に移入されたCHO−K1細胞系または(対象として使用される)野性型CHO−K1細胞をTranswell細胞カプセル(Molecular Devices社)の膜上で、Ham’s F12培地中に2.5×10個細胞/ウェルの密度で平板培養した。翌日、カプセルをマイクロフィジオメーター(Cytosensor,Molecular Devices社)に移し、0.2%BSAを含有する1mMリン酸塩緩衝液(pH7.4)RPMI−1640培地を灌流することによって、約2時間にわたって細胞を平衡させた。次いで、同じ培地で希釈した種々のケモカインを約2分間にわたって細胞に作用させた。1分間ごとに酸性化率を測定した。
【0043】
<ノーザンブロッティング>
移入CHO−K1細胞系、ヒト造血細胞系及びイヌ組織から、RNeasyキット(Qiagen)を使用して全RNAを分離した。グリオキサルの存在において[26]RNA試料(10μg/レーン)を変性させ、1%アガロースゲルを含有する10mMリン酸塩緩衝液(pH7.0)で分画し、文献[42]に記述されているようにナイロン膜(Pall Biodyne A,Glen Cove,NY)に移した。ベーキング処理したのち、下記成分から成る42℃の溶液中で4時間にわたってブロットを前ハイブリッド形成させた。
【0044】
前記溶液は、50%ホルムアミド、5×デンハート溶液(1×デンハート:0.02%フィコール、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%BSA)、5×SSPE(1×SSPE:0.18M NaCl,10mMリン酸ナトリウム,1mM EDTA pH8.3)、0.3%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及びヘリングテストからの250μg/ml変性DNAから成る。DNAプローブをランダムプライミング[14]によって(α32p)−標識した。前ハイブリッド形成は、10%(wt/vol)硫酸デキストラン及び熱変性プローブを含有する同じ溶液中において、42℃で12時間わたって行われた。フィルタを0.1×SSC(1×SSC:150mM NaCl,15mMクエン酸ナトリウムpH7.0)、60℃の0.1%SDSで洗浄し、Amershamβ−マックスフィルムを使用して−70℃でオートラジオグラフィー観察をした。
【0045】
2.結果及び検討
<クローニング及び構造分析>
Gタンパク共役レセプタをコードする遺伝子は配列の相同性がその特徴であるから、低緊縮ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってこの遺伝子ファミリーの新しいメンバーのクローニングができた[24,34]。マウスのゲノムDNAから増幅されたクローンの1つであるMOP020は、特徴的なケモカインレセプタという点で強い類似性を示し、MCP−1レセプタ(CCR2)とは80%[8]、MIP−1α/RANTESレセプタ(CCR1)と65%[31],IL−8レセプタとは51%[20,30]の同一性を分け合った。
【0046】
クローンをプローブとして使用することによって、ヒトゲノムライブラリーをスクリーニングした。合計16個のλファージクローンを分離した。各クローンの制限パターン及び部分配列データから、すべてのクローンが、2つのコーディング配列を含む単一の整列群に属することが推測された。コーディング配列の1つはCCR2レセプタをコードすると報告されている[8,44]cDNAと全く同じであった。ハイブリッド形成の第2領域を含む代表的なクローンの4.400pb XbaIフラグメントをpブルースクリプトSK+中でサブクローニングした。
【0047】
配列決定の結果、CCR5と仮称される新規遺伝子が発見された。この遺伝子は、MOP020プローブと84%の同一性を共有し、MOP020がCCR5と同じ遺伝子座を占めるマウスの遺伝子であることを示唆した。MOP020は、最近クローニングされた3つのマウスケモカインレセプタ遺伝子のいずれにも対応せず[16]、第4のマウスケモカインレセプタの存在を証明した。
【0048】
CCR5の配列は、40,600Daのタンパクをコードする352コドンの単一読取枠を明らかにした。提案されている開始コドンを囲む配列は、Kozak[22]が記述しているようなコンセンサスと一致する。なぜなら、−3におけるヌクレオチドがプリンだからである。推定されるアミノ酸のハイドロパシープロフィルは、7個の貫膜セグメントの存在と一致する。CCR5アミノ酸配列と他の機能的に特徴のあるヒトCC−ケモカインレセプタの配列との整列を図2に示す。
【0049】
CCR2レセプタ[8]との類似性が最も高く、75.8%の全く同じ残基を共有する。CCR1レセプタ[31]とは56.3%の、CCR3[10]とは58.4%の、CCR4[37]とは49.1%の同じ残基を共有する。従って、CCR5は、CC−ケモカインレセプタ群の新規メンバーである[30]。関連のCCR1及びIL−8レセプタ[20,29,31,16]と同様に、CCR5のコーディング領域にはイントロンが存在しないと考えられる。発明者の部分的配列決定データによれば、CCR2遺伝子も、そのコーディング領域の最初の2/3にはイントロンが含まれていない。
【0050】
ケモカインレセプタファミリー内での配列類似性は、貫膜域及び細胞内ループにおいて比較的高い。例えば、貫膜セグメントだけに限って云えば、CCR5とCCR2との一致率は92%である。これに反して、N−末端細胞外領域及び細胞外ループにおいては類似性が比較的低い。IL−8及びCCR2レセプタのN−末端域は、リガンドとの相互作用に重要な役割を果すことが報告されている[19,18]。CC−ケモカインレセプタは、種類に応じてこの領域が異なり、このことがファミリーの種々のリガンドに対して特異性を示す原因であると考えられる。
【0051】
N−結合グリコシル化が行われる単一の部位が、CCR5の第3細胞外ループに発見された(図1)。レセプタのN−末端域にはグリコシル化部位は発見されず、N−末端域ではGタンパク共役レセプタがグリコシル化する。他のケモカインレセプタCCR1及びCCR2は、このようなN−結合グリコシル化部位をそれぞれのN−末端域に示す[31,8]。これとは対照的に、CCR3レセプタ[10]は、N−末端域にも細胞外ループにもグリコシル化部位を持たない。活性CCR5レセプタは、その細胞外セグメントに4個のシステインを有し、4個はすべて他のCC−及びCXC−ケモカインレセプタ中に保持される(図2)。
【0052】
第1及び第2細胞外ループに位置するシステインは、Gタンパク共役レセプタの大部分に存在し、レセプタ構造のジスルフィド架橋を形成すると考えられる[41]。他の2個のシステイン、即ち、N−末端セグメントと第3細胞外ループに位置するシステインも同様にケモカインレセプタファミリーに特異な架橋を形成すると考えられる。CCR5の細胞内領域は、タンパクキナーゼC(protein kinase C,PKC)またはタンパクキナーゼAによるリン酸化の部位を含まない。
【0053】
異種脱感作に関与するPKC部位は多くの場合、Gタンパク結合レセプタの第3細胞内ループ及びC−末端に存在する。CCR1にもPKC部位は存在しない。これに反して、CC−ケモカインレセプタは、例外なくC−末端域にセリン及びトレオニン残基を豊富に含む。これらの残基は、Gタンパク共役レセプタキナーゼのファミリーによるリン酸化部位であり、相同的脱感作に関与すると考えられる[41]。これらのS/T残基のうちの5個は、5つのレセプタのすべてにおいて完全に整列する(図2)。
【0054】
<CCR5及びCCR2遺伝子の物理的リンケージ>
上述したように、MOP020プローブで分離された16個のクローンは、CCR5及びCCR2遺伝子を含む単一の整列群に対応した。ヒトゲノムにおける2つのレセプタ遺伝子の物理的リンケージを解明するため、この整列群の構成を検討した。制限地図、サザーンブロッティング、フラグメントのサブクローニング及び部分的配列決定を組合わせることによって、すべてのクローンのそれぞれの境界及びオーバーラップを検出することができた。
【0055】
16個のクローンのうち、9個は特異な制限地図が特徴的であり、図3に示すような構成を有することが判明した。4個のクローン(#11,18,21,22)はCCR2遺伝子だけを含み、4個のクローン(#7,13,15,16)はChemiR13遺伝子だけを含み、1個のクローン(#9)は両コード配列の一部を含む。CCR2及びCCR5遺伝子は縦列構成であり、CCR5がCCR2の下流側に位置する。CCR2及びCCR5読取り枠間の間隔は、17.5kbである。縦列の染色体位置は、今のところ明らかではない。ただし、ヒトゲノムには他のケモカインレセプタが位置検出されている、即ち、蛍光in situハイブリッド形成により、ヒト染色体3のp21領域にCCR1遺伝子が検出された[16]。2個のIL−8レセプタ遺伝子及びその偽遺伝子が、ヒト2q34−q35領域に密集していることが判明した[1]。
【0056】
<活性CCR5レセプタの機能発現及び薬理学>
活性CCR5レセプタを発現する安定CHO−K1細胞系を樹立し、ノーザンブロッティングによるCCR5転写レベル測定値に基づいてスクリ−ニングした。3個のクローンを選出し、種々のCC−及びCXC−ケモカインをポテンシャルアゴニストとして使用することによって、マイクロフィジオメーターでの生理学的応答をテストした。観察される応答が移入レセプタに特異であって、内在レセプタの活性化に起因しないようにするため、野性型CHO−K1細胞を対照として使用した。マイクロフィジオメーターを使用すれば、細胞内カスケードの刺激に起因する細胞代謝の変化を測定することによって、レセプタ活性化をリアルタイムで検出することかできる[33]。ケモカインレセプタの分野におけるマイクロフィジオメーターの有効性は、すでにいくつかの研究で立証されている。
【0057】
CC−ケモカインに応答するヒト単球の代謝活性変化が、このシステムを利用してモニターされた[43]。MCP−1及びMCP−3に応答するTHP−1細胞(ヒト単球細胞系)の酸性化率変化も同様に測定されている[36]。
この方法を利用する両タンパクのEC30評価値は、他の研究[8,15]において細胞内カルシウムのモニターで得られた値と一致した。
【0058】
CC−及びCXC−ケモカイン分類に属するリガンドをCCR5移入CHO−K1細胞でテストした。MIP−1α,MIP−1β及びRANTESは、新規レセプタのポテンシャル活性化因子であることが判明したが、CC−ケモカインであるMCP−1,MCP−2,MCP−3と、CXC−ケモカインであるGROα及びIL−8は、最高テスト濃度(30nM)においても代謝活性に全く影響を示さなかった。CCR5が応答しないケモカインの1つ(IL−8)の生物学的活性は、IL−8Aインターロイキンレセプタを移入されたCHO−K1細胞系で立証することができた(Mollereau et al.,1993):即ち、IL−8はマイクロフィジオメーターによる測定結果として160%の代謝活性増大を示した。
【0059】
J.Van Dammeによって提供されたMCP−2及びMCP−3試料の生物学的活性は、種々の文献で取上げられている[2,40]。MIP−1α,MIP−1β及びRANTESを、野性型CHO−K1細胞を使用して30nM濃度でテストしたが、代謝応答を示したものは皆無であった。CCR5移入CHO−K1細胞系では、これら3つの活性リガンド(MIP−1α,MIP−1β及びRANTES)は、いずれもリガンド灌流後2または3分間までに酸性化率を最大値まで急上昇させた。
【0060】
酸性化率は10分間以内に基本値にまで戻った。細胞応答のタイミングは、ヒト単球の自然レセプタに対するケモカインに関して観察されたタイミングと同様である[43]。同じ細胞に繰返しアゴニストを加えると、応答は最初の刺激よりも著しく弱くなり、レセプタの脱感作を示唆した。従って、測定値はすべて各カプセルの最初の刺激に基づいて得られた。
【0061】
3つの活性リガンドに関して0.3〜30nMの範囲で濃度と効果の関係を評価した(図3B及び3C)。効力の順位は、MIP−1α>MIP−1β=RANTESであった。30nMの濃度では、MIP−1αの効果は飽和レベル(ベースラインレベルの156%)となるのに対して、MIP−1β及びRANTESは未だ上昇の余地を残した。しかし、これ以上高濃度のケモカインは使用できない。MIP−1αに関して、約3nMでEC50を測定した。マイクロフィジオメーターによる測定に基づく生物学的応答を得るのに必要な濃度は、CCR1[31],CCR2AとCCR2B[8]、及びCCR3[10]レセプタに関して細胞内カルシウム代謝に基づいて測定される濃度範囲と同じであった。
【0062】
CCR5のリガンド特異性は、CCR3に関して報告されているリガンド特異性と類似している[10]。CCR3は、MIP−1βに応答する最初にクローニングされたレセプタとして説明した。しかし、10nMのMIP−1βは、CCR5に対して顕著な効果を示すものの、同じ濃度でもCCR3移入細胞には効果4を示さない[10]。これらのデータは、CCR5がMIP−1βに対する生理学的レセプタであろうことを示唆している。
【0063】
125I]−ヒトMIP−1αをリガンドとして使用する結合実験では、放射性リガンドの濃度を0.4nM、移入細胞数を1000000個/チューブとした場合でも、CHO−K1細胞を発現するCCR53との特異結合を立証することができなかった。結合データが得られなかったのは、レセプタのMIP−1αに対する比較的低い親和性によるのであろう。
【0064】
<ノーザンブロッティング分析>
イヌの組織に対して行われたノーザンブロッティングでは、CCR5転写を検出できなかった。ケモカインレセプタファミリーが炎症及び免疫反応に関与する各種細胞の親和及び活性化を仲介すると想定して、ヒト造血細胞系への特異な転写を検出するため、プローブを使用した(図5)。分析の対象とした前記ヒト細胞系は、リンパ芽球(Raji)及びTリンパ芽球(Jurkat)細胞系、前骨髄芽球(KG−1A)及び前骨髄球(HL−60)細胞系、単球(THP−1)細胞系、赤白血病(HEL92.1.7)細胞系、巨核芽球(MEG−10)細胞系、及び骨髄性白血病(K−562)細胞系などであった。
【0065】
成熟単球及びリンパ球を含むヒト末梢血単核細胞(PBMC)もテストされた。CCR5転写(4.4kb)が検出されたのはKG−1A前骨髄芽球細胞系だけであり、前骨髄球細胞系HL−60,PBMC,及び分析対象となったその他のどの細胞系でも検出されなかった。この結果に照らして、活性CCR5レセプタは顆粒球系の前駆体中に発現できると考えられる。CC−ケモカインは、成熟顆粒球を刺激すると報告されている[27,38,23,2]。しかし、最新のデータは、CC−及びCXC−ケモカインがマウス及びヒトの骨髄前駆細胞の増殖を調節することも立証している[6,7]。
【0066】
CCR5は、MIP−1α,MIP−1β及びRANTESに応答することが明らかになった。この3種のケモカインは、CD8T細胞によって生産される主要なHIV−抑制因子であり[9]、感染してはいないが、ひんぱんにHIVウィルスと接触している個人からCD4Tリンパ球によって大量に放出される[51]。CCR5は、マクロファージ親和(M−親和)HIV−1の一次分離物及び株に対する主要なコレセプタである[45,50]。
【0067】
感染した個人の無症候段階ではM−親和株が優勢であり、HIV−1の透過に関与すると考えられる。形質転換されたT−細胞系(T−親和株)中で成長する株は、コレセプタとしてLESTR(またはfusin)を使用する[50]。これもケモカインレセプタファミリに属するが、機能的に特徴のないオーファンレセプタである[21,52,53]。
【0068】
感染の後期段階において過渡的形状を示す双方向親和ウィルス[54]は、コレセプタとしてCCR5及びLESTRのほか、CC−ケモカインレセプタCCR2b及びCCR3をも使用することが明らかになっている[47]。双方向親和ウィルスが広範囲にわたるコレセプタを使用するということは、感染した個人の体内で、ウィルスが種々の細胞タイプに発現する多様なコレセプタを選択できることが進化の一因であることを示唆している。
【0069】
<不活性ΔCCR5レセプタの同定>
繰返しHIV−1と接触しても、個人によっては感染しないままの場合があることは公知である[55,56,51]。このように、接触しても感染しない個人のうちには、ウィルスと1回だけ接触し、汚染のリスクが比較的低かったことが原因の場合もあるが、真に耐性である個人も存在すると考えられている。事実、ウィルスに接触しながらも感染しない個人から分離されたCD4リンパ球は、一次M−親和HIV−1株による感染に対して高い耐性を示すが、T−親和HIV−1株に対してはそのような高い耐性を示さない。また、種々のドナーからの末梢血単核細胞(PBMC)は、どのHIV−1株でも感染しない[57−59]。
【0070】
M−親和ウィルスによる感染を仲介する融合にCCR5が重要な役割を果すと仮定すると、一部の個人が示すHIV−1感染に対する相対的または絶対的耐性には変異型のCCR5が関与し、感染患者の病状進行のばらつきにも関与するのではないかと考えられる[66]。発明者らは、進行が遅い3名のHIV−1感染患者を選出し、4名の陰性の個人を対照として選出した。これらの被験者のCCR5の全コーディング領域をPCRによって増幅し、配列決定した。
【0071】
予想に反して、進行の遅い患者の1名だけでなく、非感染の対象2名もCCR5遺伝子座に対立遺伝子多形性のための異型接合性を示した。ひんぱんに現われる対立遺伝子は、公知のCCR5配列と一致したが、小さい対立遺伝子は32bpの欠失を示し、その領域はレセプタの第2細胞外ループに相当する領域であった(図6)。図6は、ヒトCC−ケモカインレセプタ5の突然変異形成の構造を示す。
【0072】
a)は非官能Δccr5タンパクのアミノ酸配列を示す。貫膜構造は野性型CCR5の予想される貫膜構造との類比によって与えられる。黒く塗りつぶして示すアミノ酸は欠失に起因するフレームシフトの結果としての不自然な残基に対応する。突然変異タンパクにはCCR5の最後の3つの貫膜セグメント、及びGタンパク結合に関与する領域が欠けている。b)は欠失領域を囲むCCR5遺伝子のヌクレオチド配列と、正常なレセプタ(上段)または不完全な突然変異体(ccr5,下段)への翻訳を示す。10−bp直列反復をイタリックで示してある。
【0073】
CCR5遺伝子の完全サイズコーディング領域を、5’−TCGAGGATCCAAGATGGATTATCAAGT−3’及び5’−CTGATCTAGAGCCATGTGCACAACTCT−3’をそれぞれ正及び逆プライマーとして使用するPCRによって増幅した。
【0074】
同じオリゴヌクレオチドをプライマー及び内部プライマーとして、蛍光色素標識ジデオキシヌクレオチドをターミネータとして使用してPCR生成物をその双方の鎖について配列決定した。配列決定用産物をApplied Biosystemシーケンサーで分析し、コーディング配列に沿ってあいまいな位置を探した。直接配列決定から欠失の存在が疑われた場合には、BamHI及びXbaIエンドヌクレアーゼでpcDNA3に制限したのち、PCR産物をクローンした。
【0075】
いくつかのクローンを配列決定することによって欠失を確認した。配列決定によって検査された3名の互いに血縁関係にない個人において、欠失は全く同じであった。
PCR生成物のクローニングといくつかのクローンの配列決定によって欠失が確認された。欠失がフレームシフトの原因となり、このフレームシフトの結果として、翻訳の早過ぎる終結が起こると考えられる。
【0076】
従って、この突然変異対立遺伝子(Δccr5)によってコードされるタンパクは、レセプタの最後の3つの貫膜セグメントを欠くことになる。欠失領域(図6b)を両側から挟む10−bp直列反復は、組換え事象を促進して欠失を発生させると考えられる。ケモカインレセプタを含む多様なGタンパク結合レセプタに関して行われた多くの突然変異誘発の研究によって、このような不完全タンパクが、ケモカインによって誘発される信号導入に関与できないことが明らかになっている。即ち、不完全タンパクは、Gタンパク結合に重要な役割を果す2つの領域である第3細胞内ループとC−末端細胞質領域を欠いているからである[41]。
【0077】
不完全タンパクがHIV−1コレセプタとして機能できるかどうかをテストするため、発明者らは一次M−親和及び双方向親和ウィルスENVタンパクによって膜融合を支持できるかどうかをテストした。ウズラQT6細胞中に、組換えタンパクがヒトCD4と一緒に発現した。次いで、QT6細胞を、上記ウィルスENVタンパクを発現するHeLa細胞と混合し、高感度の、かつ定量的な遺伝子レポーター測定法によって細胞間融合の範囲を測定した。野性型CCR5とは対照的に、不完全レセプタはM−親和または双方向親和ウィルスからのENVタンパクを発現する細胞との融合を許さなかった(図7)。図7はルシフェラーゼ定量法によるENVタンパク仲介融合の測定結果を示す。
【0078】
細胞間融合事象を定量化するため、日本ウズラQT6線維肉腫細胞に、野性型CCR5に対応するコーディング配列を含むpcDNA3ベクター(Invitrogen)、不完全ccr5突然変異体、CCR2bまたはダッフィケモカインレセプタを形質移入または同時形質移入するか、またはpcDNA3ベクターだけを形質移入した。ターゲット細胞には、T7プロモーターの制御下に、CMVプロモーター及びルシフェラーゼ遺伝子から発現するヒトCD4をも移入した。HeLaエフェクタ細胞に、T7−ポリメラーゼ(vTF1.1)及びJR−FL(vCB28)または89.6(vBD3)エンベローブタンパクを発現するワクシニアベクターを感染させた(M0I=10)。
【0079】
細胞融合に起因するルシフェラーゼの活性は、野性型CCR5について得られる活性%(相対光単位)で表わされる。形質移入は、必要に応じてpcDNA3をキャリヤとして使用し、同量のプラスミドDNAで実施した。融合を開始させるため、ターゲット細胞とエフェクタ細胞を、シトシンアラビノシド(ara−C)及びリファンピシンの存在において、37℃の温度で24ウェル・プレート上で混合し、8時間にわたって融合させた。細胞を150μlのレポーター溶解緩衝液(Promega社)で溶解し、メーカー(Promega)の指示に従ってルシフェラーゼ活性を測定した。
【0080】
CCR5単独の場合と比較して、Δccr5を野性型CCR5と同時発現させた場合には、JR−FLエンベロープについても89.6エンベロープについても融合効率が低下した。このような試験管内抑制効果(対照として使用されたダッフィケモカインレセプタでは観察されない)が生体内でも起こるのかどうかは今のところ判明していない。CCR5と最も密接な関係にあるCC−ケモカインレセプタでありなからM−親和HIV−1株[48]による融合を促進しないCCR2bレセプタ[31]と同時発現させた場合、ハイブリッド分子形成による突然変異は起こらなかった(図7)。
【0081】
図8は、PCR及びCEPHファミリーにおけるCCR5対立遺伝子分離による個人の遺伝子型特定を示す。a)は、ホモ接合体である野性型CCR5対立遺伝子(CCR5/CCR5)、ヌルΔccr5対立遺伝子(Δccr5/Δccr5)及びヘテロ接合体(CCR5/ccr5)に対するPCR増幅及びEcoRI切断の結果得られたパターンを示すオートラジオグラフィーである。
【0082】
双方の対立遺伝子に対しては、735bpPCR産物をいずれも332bp帯に切断し、野性型及び突然変異体遺伝子に対しては403及び371bp帯にそれぞれ切断した。b)は、CEPHが被験対象とした2つのファミリーにおけるCCR5対立遺伝子分離の結果を示す。半分を黒く塗りつぶした記号と白抜きの記号とは、それぞれヘテロ接合体と野性型ホモ接合体とを示す。各家系中の数名については、DNAが得られなかった(ND:未鑑定)。
【0083】
5’−CCTGGCTGTCGTCCATGCTG−3’、及び5’−CTGATCTAGAGCCATGTGCACAACTCT−3’をそれぞれ正及び逆プライマーとして使用し、ゲノムDNA試料に対してPCRsを実施した。反応混合物は、30μlの10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に50mMのKCl,0.75mMのMgCl,0.2mMのdCTP,dGTP及びdTTP,0.1mMのdATP,0.5μi[α−32P]−dATP,0.01%ゼラチン、5%DMSO,200ngのターゲットDNA,60ngの各プライマー及び1.5UTaqポリメラーゼを混入した混合物であった。
【0084】
PCR条件:93℃で2分30秒;93℃で1分間;60℃で1分間;72℃で1分間、30サイクル;72℃で6分間。PCR反応後、試料を10U EcoRIと一緒に37℃で60分間インキュベートし、2μlの変性した反応混合物を、35%ホルムアミド及び5.6M尿素を含む変性剤としての5%ポリアクリルアミドゲルに加えた。次いで、オートラジオグラフィーによって帯を検出した。
【0085】
最初の実験でテストされた14個の染色体に基づいて、白色人種では欠失Δccr5対立遺伝子が比較的ひんぱんに現れることが判明した。正確な頻度を算出するため、広範囲にわたる白色人種集団をテストした(図8a)が、この集団には、CEPH(Centre d’Etude des Polymorphismes Humains:ヒトの多形現象研究センター)が被検対象としたファミリーのうち互いに血縁関係にないメンバー、IRIBHNスタッフの一部及びブリュッセルのErasme病院遺伝学部が採集した健常者からの匿名DNA試料が含まれた。
【0086】
700名以上の健常者から得られた結果として、対立遺伝子頻度が、野性型対立遺伝子については0.908、突然変異体対立遺伝子については0.092であることが判明した(表I)。この母集団で観察された遺伝子型頻度は、予想されたHardy−Weinberg分布(CCR5/CCR5については0.827:0.824;CCR5/Δccr5については0.162:0.167;Δccr5/Δccr5については0.011:0.008,p>0.999)と大差は無く、ヌル対立遺伝子が適合性にさほど影響しないことを示唆している。
【0087】
2つのCEPHファミリーを利用することで、野性型CCR5遺伝子とそのΔccr5変異型とが対立遺伝子であり、メンデルの法則通りに分離することが判明した(図8b)。興味深い所見として、中央アフリカ(Zaire,Burkina Fasso,Cameroun,Senegal及びBenin)及び日本から採集された124個のDNA試料では、突然変異体対立遺伝子が全く発見されず、東洋人やアフリカの黒人にはこの対立遺伝子が全く存在しないか、極めて稀であることを示唆している(表I)。
【0088】
健常な白色人種にCCR5のヌル対立遺伝子が存在することがHIV−1に感染し易いことと関連があると考えられた。予想されるように、もしCCR5が細胞への問題ウィルスの侵入に重要な(重複的でない)役割を果すとすれば、試験管内でも生体内でもΔccr5/Δccr5を持つ個人は、HIV−1のチャレンジに対して特に耐性であるということになる。従って、Δccr5/Δccr5遺伝子型の頻度はHIV−1感染患者では極めて低く、接触しても感染しない個人において高い。
【0089】
また、もし白血球における官能レセプタの数が少ないか、または突然変異体対立遺伝子の性質が陰性に近いため、ヘテロ接合体が統計的に有利であるとすれば、HIV−感染集団ではヘテロ接合体(及び突然変異体対立遺伝子)の頻度は低いということになる。ブリュッセル、リエージュ及びパリの各種病院に属する多数の白人陽性患者(n=645)の遺伝子型を調べることによって、上記仮説を検討した(表I)。
【0090】
その結果、この集団では、ヌルΔccr5対立遺伝子の頻度は著しく低く、0.092〜0.053(p<10−5)であった。ヘテロ接合体の頻度も0.162〜0.106(p<0.001)と低く、Δccr5/Δccr5の個人は皆無であった(p<0.01)。
機能的データと統計的データは、CCR5がM−親和HIV−1株による自然感染の要因となる重要なコレセプタであることを示唆している。ヌルΔccr5対立遺伝子に対してホモ接合性の個人(白色人種の約1%)は、感染に極めて強い耐性を持つと考えられる。
【0091】
現時点では、HIV−1に対する耐性が絶対的なものか、相対的なものであるかは不明であり、耐性がウィルス汚染の態様に応じて変化するものかどうかも不明である。この点を解明するには、もっと多くの陽性患者をテストしなければならない。ヘテロ接合体には、目立たないが有意義な長所がある。HIVと接触する確率が等しいと仮定すると、表Iから明らかなように、野性型CCR5対立遺伝子に対してホモ接合型の個人と比較して、ヘテロ接合型の個人では陽性に転ずる可能性は39%低くなる。
【0092】
官能CCR5レセプタ数が少ないことも、生体内でのΔccr5の陰性効果も、試験管内実験の結果(図7)に照らして相対的防御作用を裏付ける要因と考えることができる。ヒトにおける自然のノックアウトと考えられる突然変異体対立遺伝子は、ホモ接合型の個人において明確な表現型を伴わない。しかし、明確な表現型の欠除は、ヘテロ接合型被験者を特徴づける相対的防御能力を併せ考えると、CCR5を補助因子として利用するHIV−1の能力を選択的に阻止する医薬は、HIV−1感染を予防するのに有効であり、CCR5不活性化に起因する重大な副作用を伴わないであろう。
【0093】
このような医薬は、他の細胞を感染させるためHIV−次分離体がコレセプタとして利用する他のケモカインレセプタを阻止する他の化合物と併用することができるであろう[47]。白色人種におけるヌル対立遺伝子の高保有率は、HIV(または同じコレセプタを利用する関連ウィルス)の流行が人類進化の過程でこのような高頻度で突然変異体ccr5対立遺伝子を選択することによって安定に寄与して来たのかどうかという問題を提起する。
【0094】
<抗体アンチ−CCR5の生産>
遺伝子免疫法によって抗体を生産した。生後6週間の雌balb/cマウスを使用した。ヒトCCR5レセプタのDNAコーディングを、CMVプロモーターの制御下に発現ベクターpcDNA3に挿入し、前脛骨筋に100μgDNAを注射し、5日後、この筋肉を(Naja Nigricolisの毒液から得た)心臓で前処理した。3週間隔で注射を2回繰返した。最後の注射から15日後にそれぞれのマウスから採血し、アンチ−CCR5抗体の存在を検出するため血清をテストした。
【0095】
<蛍光活性化細胞選別装置(Fluorescence Activated Cell Sarter,FACS)による血清テスト>
CCR5レセプタを発現する組換えCHO細胞を使用する蛍光活性化細胞選別によって血清をテストした。要約すれば、PBS−EDTA−EGTA溶液を利用して細胞を脱離させ、100,000個細胞/試験管の割合で、5μlの血清と一緒に、室温で30分間、PBS−BSA培地中でインキュベーションした。
【0096】
次いで、細胞を洗浄し、フルオレセインで標識されたアンチマウス抗体と一緒に、氷中で30分間インキュベートした。細胞を洗浄し、200μlのPBS−BSA溶液中に移し、FACS(FACSCAN,Becton−Dickinson社)によって蛍光を分析した。10,000個の細胞がカウントされた。対照として、ヒトCCR2bを発現する野性型CHOまたは組換えCHO細胞を使用した。
【0097】
FASS分析の際、最後の注射から2週間後(図9)、CCR5 cDNAで免疫化されたマウス血清はすべてCHO細胞上に発現した生来レセプタであることが確認され(蛍光の平均値=200)、CCR2bを発現する制御細胞との目立った交差反応は観察されていなかった(蛍光の平均値=20)。
高レベルのCCR5レセプタ(黒く塗りつぶしたヒストグラム)を発現するCHO細胞系または負対照としてのCCR2bレセプタ(白抜きのヒストグラム)を発現するCHO細胞系について血清をテストした。それぞれの血清を個別にテストした。
【0098】
<抗体アンチ−CCR5とHIVの感染力>
ホモ接合型ドナーからの末梢血単球細胞(PBMC)を野性型CCR5遺伝子から分離し、PHAの存在において3日間インキュベートした。
4日目に、800μlの細胞(10個の細胞/ml)を、CCR5 cDNAで免疫化したマウスから採取した8μlの血清と一緒に、37℃で30分間インキュベートした。次いで1mlのウィルス溶液(JRCSF HIV株)を加え、2時間にわたって、インキュベートした。次いで、細胞を2回洗浄し、15日間インキュベートした。
0日目、4日目、7日目、10日目及び14日目に培地アリクオットで採取し、抗原p24を投与した。
実験開始から14日後、1つの血清試料(血清BO)はp24の生産を完全に阻害し、リンパ球がこのHIV株に感染するのを阻害できることを示した(図10)。他の血清試料(血清A2及びB1)もこの感染に対する部分的または全体的な効果を示した。その他の血清試料は、この感染に対して何らかの効果を示さなかった。
【0099】
<モノクローン抗体の生産>
モノクローン抗体生産のため、最高位のCCR5抗体を有するマウスを選択し、ヒトCCR5レセプタを発現する10個の組換えCHO−K1細胞を静脈内注射した。3日後、マウスを殺し、注射部位に近いリンパ節からの細胞または脾臓細胞をSP2/0骨髄腫細胞と融合させた。採用した融合プロトコールはGalfre et al.のプロトコールであった(Nature 266,550(1997))。ハイブリドーマを選択するため、選択的HAT(hypoxanthine/aminopterin/thymidin,ハイポキサンチン/アミノプテリン/チミジン)を使用し、血清に対して実施したのと同様に、ヒトCCRレセプタを発現する組換えCHO細胞を使用するFACSによって上澄みをテストした。限界希釈によって正のハイブリドーマをクローニングした。FACS分析の結果、正と判明したクローンはbalb/Cマウスの腹水中で増殖し、生産される。
【0100】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1a】本発明のペプチドの基本的な構造を示す。
【図1b】本発明のペプチドの基本的な構造を示す。
【図1c】本発明のペプチドの基本的な構造を示す。
【図1d】本発明のペプチドの基本的な構造を示す。
【図1e】本発明のペプチドの基本的な構造を示す。
【図2】ヒトのCCR1,CCR2b,CCR3及びCCR4レセプタのアミノ酸配列と整列する本発明の活性ヒトCCR5ケモカインレセプタのアミノ酸配列を示す。活性CCR5配列と同じアミノ酸をボックスで囲んである。
【図3】ヒトのCCR2及びCCR5ケモカインレセプタ遺伝子の染色体体制を示す。
【図4】CHO−K1細胞系におけるヒト活性CCR5レセプタの機能的発現を示す。
【図5】ヒト造血細胞における、CCR5レセプタをコードするmRNAの分布を示す。
【図6】ヒトCCR5レセプタからの突然変異体の構造を示す。
【図7】ルシフェラーゼ定量法によるENVタンパク仲介融合の定量を示す。
【図8】PCR、及びCEPH科中のCCR5対立遺伝子分離による個体の遺伝子型の特定を示す。
【図9】本発明のCCR5−CHO細胞系における血清アンチCCR5のFACS分析を示す。
【図10】アンチCCR5抗体によるHIV感染の阻害を示す。
【参考文献】
【0102】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチリガンドが、図1に示す配列識別番号NO.2のアミノ酸配列を有するペプチドに対するHIVウィルスまたはその一部であるリガンドの結合を抑制できるかどうかを判定する方法において、前記方法が、前記ペプチドをコードする核酸分子を発現するベクターで形質移入された細胞を前記ペプチドに対するアンチリガンドの結合を可能にする条件下でアンチリガンドと接触させ、前記アンチリガンドが前記ペプチドに対する前記リガンドの結合を抑制するかどうかを判定するステップを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項2】
アンチリガンドが、図1に示す配列識別番号NO.2のアミノ酸配列を有するペプチドに対するHIVウィルスまたはその一部であるリガンドの結合を抑制できるかどうかを判定する方法において、以下のステップから成ることを特徴とする前記方法:
−前記ペプチドをコードする核酸分子を発現するベクターで形質移入された細胞から細胞抽出物を調製し、
−細胞抽出物から膜画分を分離し、
−前記ペプチドに対するアンチリガンドの結合を可能にする条件下でアンチリガンドを膜画分と接触させ、
−前記アンチリガンドが前記ペプチドに対する前記リガンドの結合を抑制するかどうかを判定する。
【請求項3】
以下のステップを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法:
−図1に示す配列識別番号NO.2のアミノ酸配列を有するペプチドをコードする核酸分子で形質移入された細胞またはその細胞の抽出物を調製し、
−可能なら、細胞抽出物から膜画分を分離し、
−前記ペプチドの前記リガンドが存在し、機能性ペプチド応答の活性化を可能にする条件下で、細胞または膜画分を前記アンチリガンドと接触させ、
−バイオアッセイにより、ペプチド活性の変化を検出することによって、前記アンチリガンドが前記ペプチドに対する前記リガンドの結合を抑制するかどうかを判定する。
【請求項4】
図1に示す配列識別番号NO.2、またはその一部のアミノ酸配列を含むペプチドと特異的に結合し、HIVウィルス感染の治療及び/または予防に利用できる薬剤を同定するために薬剤をスクリーニングする方法において、前記方法が、前記ペプチドをコードする核酸分子を発現するベクターで形質移入された細胞を前記ペプチドに対する前記薬剤の結合を可能にする条件下で薬剤と接触させ、前記薬剤が形質移入された細胞に特異的に結合するかどうかを判定し、それによって、前記ペプチドと特異的に結合し、HIVウィルス感染の治療及び/または予防に利用できる薬剤を同定するステップを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項5】
図1に示す配列識別番号NO.2、またはその一部のアミノ酸配列を含むペプチドと特異的に結合し、HIVウィルス感染の治療及び/または予防に利用できる薬剤を同定するために薬剤をスクリーニングする方法において、前記方法が、前記ペプチドをコードする核酸分子を発現するベクターで形質移入された細胞から細胞抽出物を調製し、細胞抽出物から膜画分を分離し、前記ペプチドに対する前記薬剤の結合を可能にする条件下で膜画分を薬剤と接触させ、前記薬剤が膜画分に特異的に結合するかどうかを判定し、それによってHIVウィルス感染の治療及び/または予防に利用できる薬剤を同定するステップを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項6】
図1に示す配列識別番号NO.2、またはその一部のアミノ酸配列を含むペプチドと結合するアゴニストまたはアンタゴニストがHIVウィルス感染の治療及び/または予防に利用可能かどうかを判定する方法において、前記方法が、前記ペプチドをコードする核酸分子を発現するベクターで形質移入された細胞を前記ペプチドに対するアゴニストまたはアンタゴニストの結合を可能にする条件下でアゴニストまたはアンタゴニストと接触させ、前記アゴニストまたはアンタゴニストが前記ペプチドに対するHIVウィルスの結合を抑制するかどうかを判定するステップを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項7】
図1に示す配列識別番号NO.2、またはその一部のアミノ酸配列を含むペプチドと結合するアゴニストまたはアンタゴニストがHIVウィルス感染の治療及び/または予防に利用可能かどうかを判定する方法において、前記方法が、前記ペプチドをコードする核酸分子を発現するベクターで形質移入された細胞から細胞抽出物を調製し、細胞抽出物から膜画分を分離し、前記ペプチドに対するアゴニストまたはアンタゴニストの結合を可能にする条件下で膜画分をアゴニストまたはアンタゴニストと接触させ、前記アゴニストまたはアンタゴニストが前記ペプチドに対する前記HIVウィルスの結合を抑制するかどうかを判定するステップを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項8】
前記HIVウィルスがヒト免疫不全ウィルス1(HIV1)、ヒト免疫不全ウィルス2(HIV2)または前記HIVウィルスの一部から成るグループから選択されることを特徴とする請求項1から請求項7項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記アンチリガンド、薬剤、アゴニストまたはアンタゴニストが前記HIV株による感染性を低下させる細胞において細胞のHIV株による感染性を測定するステップをも含むことを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
細胞がリンパ系細胞であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
HIV株がヒト免疫不全ウィルス1(HIV−1)であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の方法。
【請求項12】
HIV株がヒト免疫不全ウィルス2(HIV−2)であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の方法。
【請求項13】
HIV感染性の低下をHIVタンパク質の投与によって測定することを特徴とする請求項9から請求項12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記HIVタンパク質がHIV抗原P24であることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ペプチドのアミノ酸配列が、図1に示されたアミノ酸配列識別番号NO.2の少なくともN−末端セグメントと第1細胞外ループとを含む図1に示すアミノ酸配列識別番号NO.2であることを特徴とする請求項1から請求項14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
ペプチド活性の変化が、第二メッセンジャーの生成の変化に基づくバイオアッセイによって検出されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項17】
バイオアッセイがカルシウムイオンまたはイノシトールリン酸(例えばIP3)の濃度の測定に基づくことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
細胞が、非ニューロン系を起源とする哺乳類細胞であることを特徴とする請求項1から請求項17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
アンチリガンド、薬剤、アゴニストまたはアンタゴニストが抗体であることを特徴とする請求項1から請求項18までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
抗体がモノクローン抗体であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
モノクローン抗体が、細胞表面に存在する前記ペプチドのエピトープに対して作られたことを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
図1に示す配列識別番号NO.2によって特徴付けられるアミノ酸配列を有するペプチドに対するヒト免疫不全ウィルス1(HIV1)またはヒト免疫不全ウィルス2(HIV2)の結合を抑制または減少させる、請求項1から請求項21までのいずれか1項に記載の方法によって同定される抗体。
【請求項23】
細胞のHIV株による感染性を低下させることを特徴とする請求項22に記載の抗体。
【請求項24】
細胞がリンパ系細胞であることを特徴とする請求項23に記載の抗体。
【請求項25】
HIV株がヒト免疫不全ウィルス1(HIV−1株)であることを特徴とする請求項23または請求項24に記載の抗体。
【請求項26】
HIV株がヒト免疫不全ウィルス2(HIV−2株)であることを特徴とする請求項23または請求項24に記載の抗体。
【請求項27】
適正な製剤用キャリヤと請求項22から請求項26のいずれか1項に記載の充分量の抗体とを含むことを特徴とする製剤組成物。
【請求項28】
IKDSHLGAGPAAACHGHLLLGNPKNSASVSKのアミノ酸配列を有するペプチドのエピトープに対して作られたことを特徴とする抗体。
【請求項29】
モノクローン抗体であることを特徴とする請求項28に記載の抗体。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−179639(P2008−179639A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11942(P2008−11942)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【分割の表示】特願平9−530477の分割
【原出願日】平成9年2月28日(1997.2.28)
【出願人】(501011129)
【Fターム(参考)】