説明

C型肝炎ウイルスアシアロ糖タンパク質

【課題】イムノアッセイおよび治療/予防ワクチンに有用な先端切断型HCVエンベロー
プタンパク質を提供する。
【解決手段】HCVのE1領域から発現される糖タンパク質であって、該E1領域のアミノ酸330〜380(HCVポリタンパク質のはじめからの番号)にわたる領域に見出される配列の一部に欠失を含む、糖タンパク質、およびHCVのE2領域から発現される糖タンパク質であって、該E2領域のアミノ酸660〜830(HCVポリタンパク質のはじめからの番号)にわたる領域に見出される配列の一部に欠失を含む、糖タンパク質からなる群より選択されるHCV先端切断型糖タンパク質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えタンパク質の発現およびウイルス学の一般的分野に関する。さらに詳細には、本発明は、C型肝炎ウイルス(HCV)感染の診断、治療、および予防に有用な糖タンパク質、ならびにこのような糖タンパク質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非A型、非B型肝炎(NANBH)は、ウイルスによって誘発されると考えられている伝染性
疾患(あるいは疾患のファミリー)であり、A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス
(HBV)、デルタ肝炎ウイルス(HDV)、サイトメガロウイルス(CMV)、あるいはエプス
タインバーウイルス(EBV)に起因する肝疾患などの、他の形態のウイルス関連肝疾患と
は区別されている。伝染病学的証拠によりNANBHには3つの型があることが示されている
。すなわち、水に起因する伝染型;血液あるいは針に関連する型;および、散発的に発生する集団獲得型。多くの原因因子は未知である。しかし最近、新種ウイルスであるC型肝
炎ウイルス(HCV)が、血液に起因するNANBH(BB-NANBH)の主要原因(もし唯一の原因でなければ)として同定された。例えば、特許文献1を参照のこと。C型肝炎は、アメ
リカ合衆国、ヨーロッパおよび日本を含む多くの国あるいは地域で、輸血関連肝炎の主要形態であるようだ。さらに、HCVに関連する肝細胞癌の誘発の証拠も存在する。従って、HCV感染の効果的な予防法および治療法の必要性が存在する。
【0003】
HCVキャリア、およびHCVに汚染された血液あるいは血液製剤をスクリーニングおよび同定するための鋭敏で特異的な方法の要求が高まっている。輸血後肝炎(PTH)が、輸血患
者の約10%に発生し、この場合の90%まではHCVに起因する。この疾患の主要な問題は、慢
性肝障害の常習的な進行である(25−55%)。
【0004】
患者の世話、ならびに血液および血液製剤による、あるいは患者との密接な接触によるHCVの伝染の予防には、HCVに関連する核酸、抗原および抗体の検出のための信頼し得る診断ならびに予後手段が必要とされる。さらに、この疾患を予防および/あるいは治療するための有効なワクチンおよび免疫治療的治療剤の必要性が存在する。
【0005】
HCVは、他の感染性ウイルスに比較して非常に低率で感染個体の血液中に存在するよう
であり、このことはこのウイルスの検出を非常に困難にしている。このウイルスが低率で存在することが、おそらく、長い間NANB型肝炎の原因因子が検出されなかった主な理由である。現在ではクローン化されてはいるが、いまだに培養および増殖は困難である。従って、診断/治療/予防用のHCVタンパク質を生産する組換え法の必要性が強い。
【0006】
このように、HCVワクチンが非常に必要である。しかし、細胞系におけるHCVの培養には、非常な困難がある。したがって、組織/細胞の継代培養により弱毒化ウイルス株を産生することは不可能であった。
【特許文献1】国際公開第89/046699号パンフレット
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
2種のHCVタンパク質、E1およびE2は、組換え系において発現されるときには、膜結合
のアシアロ糖タンパク質であるようであることが発見された。糖タンパク質は通常、哺乳類中ではマンノース末端形態ではなく、さらに他の炭水化物で修飾されていて、マンノース末端化形態は、一般的には単に一過的なものであるので、このことは予想外のことである。E1およびE2の場合(われわれの系において発現されるとき)には、アシアロ糖タンパク質は、最終形態であるようだ。E1(エンベロープタンパク質1)は、HCVゲノムの推定E1領域から翻訳される分子量約35kDの糖タンパク質である。E2(エンベロープタンパク質
2)は、HCVフラビウイルスモデルに基づく、HCVゲノムの推定NS1(非構造タンパク質1
)から翻訳される、分子量約72kDの糖タンパク質である。ウイルス性糖タンパク質は、しばしば高免疫原性であるので、E1およびE2は、イムノアッセイおよび治療/予防ワクチンに使用されるのにまさに適したものである。
【0008】
E1およびE2がシアル化されていないことの発見は重要である。タンパク質の特定の形態は、細胞が組換え発現用の適当な宿主として働き得るように指令する。E.coliなどの原核生物は、タンパク質をグリコシル化せず、そして一般的には、抗原としての使用のために糖タンパク質を産生するのには適していない。その理由は、糖タンパク質はしばしば、タンパク質の完全な抗原性、可溶性、ならびに安定性に対して重要であるからである。酵母ならびに真菌のなどの下等真核生物は、タンパク質をグリコシル化するが、一般には、末端シアル酸を付加して炭水化物複合体になし得ない。従って、酵母由来のタンパク質は、抗原としての、それらの天然(組換え体ではない)のタンパク質とは区別され得る。組換えタンパク質のグリコシル化は野生ウイルスタンパク質のグリコシル化に非常に類似しているので、哺乳動物細胞での発現は、産生物の抗原性が重要である応用に好ましい。
【0009】
HCVウイルスが、肝細胞上に見い出されるアシアロ糖タンパク質レセプター、あるいは肝内皮細胞およびマクロファージ(特に、クッペル(Kupffer)細胞)上に見い出されるマンノースレセプターを介する感染中に、宿主細胞への入口を得ることができるという新たな証拠が示された。驚くべきことに、天然のE1およびE2塊は、末端シアル酸残基を有さず、コアグリコシル化のみなされることが発見された。さらに少画分が末端N-アセチルグルコサミンを含む。従って、本発明の目的は、全末端シアル酸残基あるいは実質的に全てのシアル酸残基を欠く、HCVエンベロープ糖タンパク質を提供することである。
【0010】
本発明の他の局面は、例えば、分泌または放出を促進する抗生物質を使用しての酵母での発現、あるいは哺乳動物細胞における発現による、末端シアル酸付加を阻害する条件下でアシアロE1あるいはE2を産生する方法である。
【0011】
本発明のもう一つの局面は、末端マンノース残基あるいは末端N-アセチルグルコサミン残基に結合する、レクチンに対する親和性によるE1あるいはE2の精製法である。
【0012】
本発明のもう一つの局面は、免疫原性組成物であり、これは、薬学的に受容可能な賦形剤と組み合わせた、HCV E1およびE2からなる群より選択される組換えアシアロ糖タンパク質を含む。所望で有れば、必要に応じて、免疫学的アジュバントが含まれ得る。
【0013】
本発明のもう一つの局面は、イムノアッセイ試薬であり、これは適切な支持体と組み合わせた、HCV E1およびE2からなる群より選択される組換えアシアロ糖タンパク質を含む。本発明の他のイムノアッセイ試薬は、適切な検出標識と組み合わせた、HCVE1およびE2か
らなる群より選択される組換えアシアロ糖タンパク質を含む。
【0014】
本発明のもう一つの局面は、E1および/あるいはE2のダイマーおよび高次凝集体(higher-order-aggregates)に関する。本発明の1種はE2複合体である。本発明の他の種は、E1:E2ヘテロダイマーである。
【0015】
本発明のもう一つの局面は、E1:E2凝集体および薬学的に受容可能なキャリアを含むHCVワクチン組成物である。
【0016】
本発明のもう一つの局面は、E1:E2複合体の精製方法である。
【0017】
本発明のもう一つの局面は、以下の(a)、(b)および(c)の工程を包含する、細胞培養物
中でのHCVの増殖の方法である:(a)マンノースレセプターおよびアシアロ糖タンパク質レセプターからなる群より選択されるレセプターを発現する細胞を供給する工程;(b)細胞
をHCVで感染させる工程;および(c)感染細胞を培養する工程。好ましくは、細胞は組換えレセプターを発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
定義
用語「アシアロ糖タンパク質」とは、実質的にシアル酸成分を含まないグリコシル化タンパク質のことである。アシアロ糖タンパク質は、組換え、あるいは、細胞培養または天然源からの精製により調製され得る。まさに、好ましいアシアロ糖タンパク質は、HCV、
好ましくは糖タンパク質E1およびE2、最も好ましくは組換えE1およびE2(rE1およびrE2)由来である。シアル酸残基の量が、実質的に糖タンパク質の、GNAのなどのマンノース結
合タンパク質への結合を阻害しない量であれば、この定義範囲内では、タンパク質は、シアル酸を「含まない」。シアル化の程度は一般的には、全N結合炭水化物の約40%未満が
シアル酸であり、より好ましくは約30%未満であり、より好ましくは約20%未満であり、より好ましくは約10%未満であり、より好ましくは約5%未満であり、最も好ましくは約2%未満である。
【0019】
本明細書に使用されている用語「E1」は、HCVポリタンパク質の最初の400アミノ酸以内に発現されるタンパク質あるいはポリペプチドのことであり、ときにはEあるいはSタンパク質と呼ばれる。これは、その天然形態において、膜に強く結合されていることが見いだされる、35kDの糖タンパク質である。ほとんどの天然のHCV株では、E1タンパク質は、
ウイルスポリタンパク質中でC(コア)タンパク質の後にコードされる。E1タンパク質は、ポリタンパク質全長の約192アミノ酸から約383アミノ酸に広がる。本明細書に使用されている用語「E1」には、天然E1と免疫学的に交差反応性であるアナログおよび先端切断型変異体もまた含まれる。
【0020】
本明細書に使用されている用語「E2」は、HCVポリタンパク質の最初の900アミノ酸以内に発現されるタンパク質あるいはポリペプチドのことであり、ときにはNS1タンパク質と
呼ばれる。これは、その天然形態において、膜に強く結合されていることが見いだされる、72kDの糖タンパク質である。ほとんどの天然のHCV株では、E1タンパク質はE1タンパク
質に続く。E2タンパク質は、約384アミノ酸から約820アミノ酸に広がる。本明細書に使用されている用語「E2」には、天然E2と免疫学的に交差反応性であるアナログおよび先端切断型変異体もまた含まれる。
【0021】
本明細書に使用されている用語「凝集体」とは、1つより多いE1あるいはE2モノマーを含むE1および/またはE2の複合体のことである。E1:E1ダイマー、E2:E2ダイマーならびにE1:E2ヘテロダイマーは、すべてこの定義内の「凝集体」である。本発明の組成物はまた
、より大きい凝集体を含み得、800kDを越える分子量を有し得る。
【0022】
本明細書に使用されている用語「粒子」とは、電子顕微鏡により見える、少なくとも20nmの直径を有する、E1、E2、あるいはE1/E2凝集体のことである。好ましい粒子は、電子顕微鏡によってみとめられる、だいたい円形形状で約40nmの直径を有する。
【0023】
本明細書中でタンパク質に適用されている用語「精製された」とは、所望のタンパク質が、組成物中の総タンパク質成分の少なくとも35%を含む組成物のことである。所望のタンパク質は、総タンパク質成分の好ましくは少なくとも40%、さらに好ましくは少なくとも約50%、さらに好ましくは約60%、さらに好ましくは約70%、さらに好ましくは約80%、さらに好ましくは約90%、および最も好ましくは約95%を構成する。この組成物は、本明細書に使用されてる純度の決定に影響しない、炭水化物、塩、脂質、溶媒などの他の化合物を含み得る。「単離された」HCVアシアロ糖タンパク質とは、純度が少なくとも35%のHCVアシアロ糖タンパク質組成物を意味する。
【0024】
本明細書に使用されている「マンノース結合タンパク質」とは、レクチンあるいはマンノース末端グリコシル化されたタンパク質(例えば、アシアロ糖タンパク質)に特異的に結合する他のタンパク質のことを意味し、これらの例には、マンノース結合レクチン、マンノース末端グリコシルに特異的な抗体、マンノースレセプタータンパク質(R.A.B.Ezekowitzら、JExp Med (1990) 176:1785-94)、アシアロ糖タンパク質レセプタータンパク質(H.Kurataら、J BiolChem (1990)265:11295-98)、血清マンノース結合タンパク質(I. Schuffeneckerら、Cytogenet Cell Genet(1991)56:99-102; K. Sastryら、J Immunol (1991) 147:692-97)、血清アシアロ糖タンパク質結合タンパク質などが含まれる。マンノース結合レクチンには、例えば、GNA、コンカナバリンA(ConA)ならびに同様の結合性を有する他のレクチンが含まれる。
【0025】
用語「GNAレクチン」とは、マンノース末端糖タンパク質に結合する市販のレクチン、Galanthus nivalusアグルチニンのことである。
【0026】
本明細書に使用されている「組換え」糖タンパク質は、組換えポリヌクレオチドから発現される糖タンパク質であり、糖タンパク質をコードする構造遺伝子は、天然ではこの構造遺伝子に隣接していない調節配列の制御下に発現されるか、あるいはその構造遺伝子は改変されている。例えば、E1構造遺伝子が、酵母グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)プロモーターの機能性フラグメントの制御下に配置されたベクターを形成し得る。酵母での使用に好ましいプロモーターは、米国特許第4,880,734号に記載のハイブリッドADH2/GAPプロモーターであり、これは、アルコールデヒドロゲナーゼ2由来の上流の活性化配列と組み合わせてGAPDHプロモーターのフラグメントを利用する。構造遺伝子の改変には、縮重コドンでの別のコドンの置換(例えば、宿主に好ましいコドンの使用、制限酵素切断部位の削除あるいは形成、ヘアピン形成の制御のためになど)、ならびに異なるアミノ酸をコードする限定数のコドンの置換、挿入あるいは欠損(天然アミノ酸配列の、好ましくは約10%未満、より好ましくは約5%未満が変えられるべきである)などが含まれる。同様に、「組換え」レセプターとは、組換えポリヌクレオチドから発現されたレセプタータンパク質のことであり、レセプターをコードする構造遺伝子は、天然では構造遺伝子に隣接しない調節遺伝子の制御下に発現されるか、あるいはその構造遺伝子は改変されている。
【0027】
用語「単離されたポリペプチド」とは、他のHCVウイルス成分、特にポリヌクレオチドを実質的に含まないポリペプチドのことである。組成物中のポリペプチドの重量が、そのポリペプチドと他の成分と合わせた重量の少なくとも70%、より好ましくは約80%、さらに好ましくは約90%、そして最も好ましくは95%あるいはそれ以上である場合には、ポリペプチド組成物は、他の成分を「実質的に含まない」。例えば、100μg/mLのE1および3μg/mLのみの他のHCV成分(例えば、DNA、脂質など)を含む組成物は、「他のHCVウイルス成分」を実質的に含まず、従って、この定義の範囲内の単離ポリペプチドの組成物である。
【0028】
用語「分泌リーダー」とは、タンパク質のN末端でコードされるときに、翻訳後に宿主細胞培養培地中にそのタンパク質を分泌されるようにするポリペプチドのことである。分泌リーダーは、一般的に使用される宿主細胞に由来する。例えば、酵母での使用に適した分泌リーダーには、Saccharomyces cerevisiae α因子リーダー(米国特許第4,870,008号を参照のこと)が含まれる。
【0029】
用語「下等真核生物」とは、酵母、真菌などの宿主細胞のことである。下等真核生物は、一般的に(必ずというわけではないが)単細胞である。好ましい下等真核生物は酵母であり、特にSaccharomyces、Schizosaccharomyces、Kluveromyces、Pichia、Hansenulaなどの種である。Saccharomyces cerevisiae、S.carlsbergensisおよびK.lactisは、最も一般的に使用される酵母宿主ならびに便利な真菌宿主である。
【0030】
用語「高等真核生物」とは、哺乳類、は虫類、昆虫類などの高等動物由来の宿主細胞のことである。現に好ましい高等真核宿主細胞は、チャイニーズハムスター(例えば、CHO)、サル(例えば、COS細胞)、ヒトおよび昆虫(例えば、Spodoptera frugiperda)由来である。宿主細胞は、懸濁あるいはフラスコ培養、組織培養、器官培養などで供給され得る。
【0031】
用語「カルシウムモジュレーター」とは、小胞体内にカルシウムイオンを隠ぺいあるいは結合し得るか、あるいはカルシウム調節タンパク質(例えば、カルシウムチャンネルタンパク質、カルシウムポンプなど)に作用することによりER内のカルシウムイオン濃度に影響する化合物のことである。適切なカルシウムモジュレーターには、例えば、サプシガルジン(thapsigargin)、EGTA(エチレングリコールビス[βーアミノエチルエーテル]N,N,N',N'-テトラアセティックアッシド)が含まれる。現に好ましいモジュレーターは、サプシガルジンである(例えば、O.Thastrupら、Proc NatAcad Sci USA(1990) 87:2466-70を参照のこと)。
【0032】
用語「免疫原性」とは、アジュバントの存在あるいは非存在下で、単独あるいはキャリアと結合して、体液性および/または細胞性免疫応答をなす基質の能力のことである。「中和」とは、感染性物質の感染性を部分的に、あるいは完全に抑制する免疫応答のことである。「ワクチン」とは、HCVに対する、一部あるいは完全防御を誘起し得る、個体の治療に有用な免疫組成物のことである。
【0033】
用語「生物学的液体」とは、血清、血漿、唾液、胃分泌物、粘液などの器官から得られる流体のことである。一般的には、生物学的液体は、HCV粒子の存在に対してスクリーニングされる。ある種の生物学的流体は、血液凝固因子(例えば、因子VIII:C)、血清アルブミン、成長ホルモンなどの他の産生物源として使用される。このような場合には、生物学的液体源がHCVのなどのウイルスに汚染されていないことが重要である。
一般的な方法
HCVゲノムのE1領域は、欧州特許第388,232号に「E」領域として、そして一方E2は「NS1」として記載されている。E1領域は、全長ウイルスポリタンパク質中の約192ー383アミノ酸を有する。E2領域は、約384〜820アミノ酸を有する。これらのタンパク質の原型の全配列(HCV-1株)は、タンパク質の一般的なクローニングおよび発現法と同様に、当該分野では入手可能である(欧州特許第388、232号を参照のこと)。E1およびE2の両方は、HCVポリタンパク質の最初の850〜900アミノ酸をコードするポリヌクレオチドから発現され得る。ほとんどの真核宿主細胞中では翻訳後のプロセッシングで、最初のポリタンパク質が、C、E1およびE2に切断される。コーディング領域の5'末端を切断して、産生されるCタンパク質量を減少し得る。
【0034】
アシアロ糖タンパク質の発現は、多くの方法によりなされ得える。例えば、通常はグリコシル化タンパク質にシアル酸残基を付加しない下等真核生物(酵母など)中での発現が得れ得る。酵母発現系においては、タンパク質が翻訳後に培養培地中に発現されるように、S.cerevisiaeα因子リーダーなどの分泌リーダーを使用することが好ましい。さらに、pmr1などのグリコシル化欠損変異体を使用することが好ましい。なぜなら、これらの変異体は、コアグリコシル化のみ行い、かなり高効率に異種タンパク質を分泌するからである(H.K.Rudolphら、Cell (1989)58:133-45)。あるいは、Pichia pastorisなどの他の種の酵母を使用し得る。これは、哺乳類およびS.cerevisiaeに見られるコアグリコシル化様式に類似すると考えられている様式で、8〜9マンノース残基を有する糖タンパク質を発現する。
【0035】
あるいは、哺乳類細胞中の発現を調整して末端グリコシル化(シアル酸付加)をブロックし得る。組換え構築物は、タンパク質が小胞体へ方向づけられることを確実にするために、好ましくは分泌シグナルを含む。ゴルジ体への移送は、E1およびE2自身でブロックされるようである。哺乳類細胞でのE1あるいはE2の高レベルの発現は、小胞体あるいはcisゴルジ体での全ての細胞タンパク質の分泌を妨げるようである。さらに、グリコシル化欠損変異体を使用し得る。例えば、P.Stanley,AnnRev Genet (1984) 18:525-52を参照のこと。グリコシル化あるいは移送変異体が、シアル化を伴ってE1あるいはE2を発現する場合には、ノイラミニダーゼによる処理によって末端シアル酸残基を除去し得る。
【0036】
収量は、小胞体内からのタンパク質の放出を得るためのカルシウムモジュレーターの使用により増加されるべきである。
【0037】
適切なモジュレーターには、サプシガルジン、EGTA、ならびにA23817(例えば、O. Thastrupら、Proc Nat Acad Sci USA(1990)87:2466-70を参照のこと)が含まれる。例えば、組換えワクシニアウイルスベクターによるトランスフェクションにより、哺乳類細胞(例えば、CHO、COSならびにヘラ(HeLa)細胞など)の細胞内に多量のE1あるいはE2を発現させ得る。タンパク質の発現および小胞体内の蓄積後、ER内容物の放出を起こすのに十分な濃度のカルシウムモジュレーターに細胞を曝す。次に、培養培地からタンパク質を回収し、培地は次のサイクル用に取り替える。
【0038】
さらに、先端切断型のエンベロープタンパク質を発現させるのが好都合である。E1およびE2の両方は、高疎水性ドメインを有するようであり、これは明らかにタンパク質を小胞体内のとどめ、効率よい放出を妨げる。従って、E1の170〜190アミノ酸、260〜290アミノ酸あるいは330〜380アミノ酸(ポリタンパク質のはじめからの番号)の1つ以上の領域、並びにE2の660〜830アミノ酸(例えば、欧州特許第388、232号の図20-1を参照)の配列の部分を欠失することが望まれ得る。これらの疎水性ドメインの少なくとも1つは、そのタンパク質の抗原性に必須ではなく、不利な影響もなく欠失し得る、トランスメンブラン領域を形成する。欠失に最も適した領域は、通常専門家の技術による少数の欠失実験の実施により決定し得る。E2の疎水性3'末端の欠失により、発現されたE2部分の分泌の結果になる。このとき、分泌されたタンパク質のシアル化をともなう。
【0039】
発現を得るために種々の任意のベクターが使用され得る。酵母などの下等真核生物は、典型的には、カルシウムリン酸沈澱法を用いてプラスミドにより形質転換されるか、あるいは組換えウイルスにより形質転換される。ベクターは、独立して宿主細胞内で複製され得るか、あるいは宿主細胞ゲノムに組み込まれ得る。より高等な真核生物は、プラスミドにより形質転換され得るが、典型的には組換えウイルス、例えば、組換えワクシニアウイルスに感染される。ワクシニアは、宿主細胞タンパク質の発現を停止させ得るので、ワクシニアが特に好ましい。まさに好ましい宿主細胞には、ヘラならびに形質細胞腫(plasmacytoma)細胞系が含まれる。この系では、宿主ER中に主要なグリコシル化種としてE1およびE2が蓄積することを意味する。rE1およびrE2は、マンノース末端化されている主要な糖タンパク質であるので、末端マンノース残基に結合するGalanthus nivalusアグルチニン(GNA)などのレクチンを使用して細胞から容易に精製され得る。
【0040】
マンノース末端糖タンパク質として天然に発現されるタンパク質は、哺乳動物生理学上比較的まれである。ほとんどの場合において、哺乳動物の糖タンパク質は、グリコシル化経路での一過的な中間産物としてのみマンノース末端化されている。組換え的に発現されたHCVエンベロープタンパク質がマンノース末端グリコシル、あるいは(より低い程度の)N-アセチルグルコサミンを有する事実は、HCVタンパク質および全ビリオン(viron)が分離され、そして末端マンノースあるいはN-アセチルグルコサミンに特異的なレクチンを用いて、内因性タンパク質から部分的に精製され得ることを意味する。組換えタンパク質は真正であり、成熟遊離ビリオンに見いだされるエンベロープタンパク質、あるいは細胞結合エンベロープタンパク質の形態と本質的に同じであると考えられている。従って、GNAなどのレクチンを、マンノース末端タンパク質、ならびにWGA(コムギ胚芽アグルチニン)およびN-アセチルグルコサミン末端タンパク質の等価物に対して使用し得る。例えばワクチンあるいはイムノアッセイに使用するために抗原を生成するときの精製のために、E1およびE2を、細胞培養上清および他の液体から分離するために、固相に結合させたレクチンを使用し得る。
【0041】
あるいは、HCV感染が疑われる被検者からの液体あるいは組織サンプルから、E1、E2あるいはHCVビリオンを分離するために適切なレクチンを供給し得る。マンノース末端糖タンパク質は比較的まれであるので、このような方法は、実質的にバックグラウンドを減少させて、試料中に存在するタンパク質を精製するのに役立つ。レクチンに結合後、HCVタンパク質は抗HCV抗体を用いて検出され得る。あるいは、全ビリオンが存在する場合には、HCVゲノムの保存領域(例えば、5'非コーディング領域)に特異的なPCR法または他の核酸増幅法によりHCV核酸を検出し得る。この方法で、例えば、新しい株が抗体の調製に使用される株と免疫学的交差反応性でない場合には、抗原の変動あるいは変化に関わらずHCVの異なる株の分離および特徴づけができる。特定のレクチンによる、マンノース末端糖タンパク質特有の認識を都合よく利用する多くの他の方法がある。例えば、HCVビリオンあるいはタンパク質の夾雑が疑われる試料を、ビオチンあるいはアビジン標識レクチンとインキュベートして、タンパク質−レクチン複合体を沈澱させ得る。さらに、治療上の使用のために、例えば、GNAに抗ウイルス化合物を結合することにより、化合物をビリオンに標的づけるために、レクチンのHCVタンパク質に対する親和性を使用し得る。あるいは、血清または血漿からマンノース末端糖タンパク質を除去するために適切なレクチンを使用して、HCV汚染の危険性を軽減あるいは削除し得る。
【0042】
固定化マンノース結合タンパク質、特にConAあるいはGNAなどのレクチンとのインキュベーションにより、粗細胞溶解物からE1および/またはE2アシアロ糖タンパク質を単離するのがまさに好ましい。例えば、細胞を低張緩衝液中で機械的に破砕して溶解し、その後遠心分離して核溶解物を調製し、さらに遠心分離して粗ミクロソーム膜画分を得る。次に、粗膜画分をトリトンX-100、NP40などの界面活性剤を含む緩衝液に溶解する。この界面活性剤抽出物をさらに遠心分離して不溶性粒子を沈降させ、得られた透明溶解物を、固定化マンノース結合タンパク質、好ましくはアガロースあるいはセファロース(「登録商標」)などに結合されたGNAを有するクラマトグラフィーカラム中で、結合に十分な時間の間、典型的には16〜20時間インキュベートする。次に、この懸濁物を、E1/E2が溶出液中に現れるまでカラムにかけ、次に、結合に十分な時間の間、典型的には約12〜24時間の間カラム中でインキュベートする。次に、結合された物質を界面活性剤(トリトンX-100、NP40など)を含む別の緩衝液で洗浄し、マンノースで溶出して、精製アシアロ糖タンパク質を供給する。溶出に際しては、タンパク質が溶出物中に現れはじめるまでのみ溶出することが好ましく、その時点で溶出を停止し、そしてタンパク質の溶出を進める前にカラムを2ー3時間平衡化させる。このことで、大きなタンパク質凝集体が徐々に離脱する速度に対して十分な時間を与えると考えられる。E1およびE2が天然形態(すなわち、膜結合ドメインの切断なしに)でいっしょに発現される場合には、アシアロ糖タンパク質の実質的な画分は、E1:E2凝集体として現れる。電子顕微鏡での試験では、この凝集体の有意部分は、
直径約40nmのだいたい球状の粒子であり、これは完全なウイルスと予測される大きさである。これらの粒子は、自己構成サブウイルス粒子(self-assemmbling subviral particles)であるようだ。これらの凝集体は、真正HCVビリオン粒子に非常に類似した四次構造を示すことが予測され、従って、高免疫原性ワクチンとして作用することが予測される。
【0043】
E1/E2複合体はさらに、例えば、Fractogel-DEAEあるいはDEAE-Sepharose(「登録商標」)の塩基性媒体上でのゲルクロマトグラフィーにより精製され得る。Fractogel-DEAEゲルクロマトグラフィーを使用して、純度約60〜80%のE1/E2複合体が得られる。さらに、E1は0〜1のLys残基を有するので、リシンプロテアーゼ処理により精製され得る。複合体のリシンプロテアーゼ処理は、E2を破壊してE1を容易に分離する。
【0044】
HCVの組織特異性は、HCVエンベロープ糖タンパク質がマンノース末端化されていることの観察と組み合わせて、そのウイルスが宿主細胞への入口を得るために、マンノースレセプターあるいはアシアロ糖タンパク質レセプター(ASGR)を使用することを示唆する。マンノースレセプターは、マクロファージおよび肝ジヌソイド細胞(sinusoidal cells)上に、一方、ASGRは実質肝細胞(parenchymal hepatocytes)上に見られる。従って、これらのレセプターの1つあるいは両方を発現する宿主細胞の使用により、HCVを培養するこ
とが可能である。レセプターが維持される条件を用いて、天然にレセプターを発現する一次細胞培養物を使用するか、あるいは、レセプター発現用のベクターで、ヘラ、CHO、COSなどの他の細胞系をトランスフェクトし得る。マンノースレセプターのクローニングならびにそのトランスフェクション、および線維芽細胞での発現は、M.E.Taylorら、J Biol Chem(1990) 265:12156-62に実証されている。ASGRのクローニングおよび配列決定は、K. Drickamerら、J BiolChem(1984)259:770-78ならびにM. Spiessら、Proc Nat Acad Sci USA (1985) 82:6465-69に、ラットHTC細胞での、機能性ASGRのトランスフェクションおよび発現は、M.McPhaulおよびP.Berg,Proc Nat Acad Sci USA (1986) 83:8863-67ならびにM. McPhaulおよびP.Berg, Mol Cell Biol(1987) 7:1841-47に記載されている。従って、1つあるいは両方のレセプターを適切な細胞系にトランスフェクトすることは可能であり、得られた細胞をHCVの培養での増殖のために宿主として使用することが可能である。このような培養でのHCVの継代により、生ワクチンとしての使用に適した弱毒化株の開発がなされる。レセプターが維持される条件を用いて、天然にレセプターを発現する一次細胞培養物を使用するか、あるいは、レセプター発現用のベクターで、ヘラ、CHO、COSなどの他の細胞系をトランスフェクトし得る。マンノースレセプターのクローニングならびにそのトランスフェクション、および線維芽細胞での発現は、Taylorら、上記で示されており、一方、ラットHTC細胞での機能性ASGRのトランスフェクションおよび発現は、McPhaulら、上記に記載されている。1つあるいは両方の組換えレセプターでトランスフェクトされた固定化細胞系を使用するのが好ましい。
【0045】
免疫原性組成物は、当該分野に公知の方法に従って調製され得る。この組成物は、ポリペプチド、例えば、E1、E2、あるいはE1/E2粒子組成物の免疫原性量を、通常は薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせて含有し、好ましくはさらにアジュバントを含有する。「カクテル"cocktail"」が所望である場合には、例えば、E1にE2を加えた抗原など、HCVポリペプチドの組み合わせ物を、効果を高めるためにともに混合し得る。E1/E2凝集体のウイルス様粒子は、ことに有用なワクチン抗原を提供すると考えられる。免疫原性組成物は、抗体の産生を誘発するために、抗体原の提供あるいは動物内に防御免疫性を誘導するために、動物に投与され得る。
【0046】
薬学的に受容可能なキャリアには、組成物を受け入れる個体に対して、それ自身が有害な抗体産生を誘発しない任意のキャリアが含まれる。適切なキャリアは、典型的には、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマーなどの、大きな、徐々に代謝される高分子および不活性ウイルス粒子である。このようなキャリアは、当業者には公知である。
【0047】
組成物の効果を促進する好ましいアジュバントには、限定はされないが、水酸化アルミニウム(alum)、米国特許第4,606,918号に記載されているN-アセチル-ムラミル-L-スレオニル-D-イソグルタミン(thr-MDP)、N-アセチル-ノルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(nor-MDP)、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミニル-L-アラニン-2-(1'-2'-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ヒドロキシホスホリルオキシ)-エチルアミン(MTP-PE)およびRIBIが含まれ、これには、2%squalene/Tween(「登録商標」)80乳液中に細菌から抽出された3つの成分、モノホスホリルリピッドA、トレハロースジマイコレートおよび細胞壁組織(MPL+TDM+CWS)が含まれる。さらに、Stimulon(Cambridge Bioscience,Worcester,MA)などのアジュバントが使用され得る。そのうえに、完全フロイントアジュバント(CFA)および不完全フロイントアジュバント(IFA)が、ヒト以外の適用ならびに研究用に使用され得る。
【0048】
免疫原性組成物は、典型的には、水、生理食塩水、グリセロール、エタノールなどの薬学的に受容可能な賦形剤を含有する。さらに、加湿剤あるいは乳化剤、pH緩衝剤などの補助物質がこのような賦形剤に含有され得る。
【0049】
典型的には、免疫原性組成物は、注射し得るように液体あるいは懸濁液のいずれかに調製され得、注射前の液体賦形剤に、溶液または懸濁液にするのに適した固形もまた調製され得る。この調製物はさらに、アジュバントの効果を促進するために乳化あるいはリポソーム中にカプセル化され得る。
【0050】
ワクチンとして使用される免疫原性組成物は、免疫原性的に有効な量のHCVポリペプチド、および必要に応じて上記の任意の成分を含有する。「免疫原性的に有効な量」とは、単回投与量あるいは一連の投与量の一部において、個体に投与される量が、上記定義のように、治療に有効であることを意味する。この量は、治療される個体の健康および生理的条件、治療される個体の分類学上の群(例えば、ヒト以外の霊長類、霊長類など)、抗体を合成するための個体免疫系の能力、所望の防御の程度、ワクチンの調剤、治療医の医学上の評価、感染させるHCVの株、ならびに他の関連要因に依存して変化する。この量は、
比較的に広範囲にあるので、所定の試験により決定されることが期待される。
【0051】
自己構成E1/E2凝集体はまた、ワクチンキャリアとして働き、B型肝炎表面抗原と同様の様式で、異種(非HCV)ハプテンを提供し得る(欧州特許第174,444号を参照のこと)。この使用においては、E1/E2凝集体は、その凝集体に結合されたハプテンあるいは抗原に対して免疫応答を刺激し得る免疫原性キャリアを提供する。抗原は、従来の化学的方法により結合されるか、あるいはE1および/またはE2をコードする遺伝子へ、そのタンパク質の親水性領域に相当する配置に、クローン化され得る。
【0052】
免疫原性組成物は、典型的には皮下注射あるいは筋肉内注射などによって、通常非経口的に投与される。さらに、他の投与形態に適した処方剤には、経口処方剤あるいは坐薬が含まれる。投薬処置は、単回投与計画あるいは複数回投与計画であり得る。ワクチンは、他の免疫調節剤と組み合わせて投与され得る。
【実施例】
【0053】
以下に示されている実施例は、当該分野の専門家にさらに説明するために提供されていて、いかなる方法においても限定することを意味していない。
実施例1
(クローニングおよび発現)
(A)ベクターを、欧州特許第318,216号および欧州特許第388,232号に記載されているように、HCVゲノムの5'部分を有するプラスミドから構築した。カセットHCV(S/B)は、Met1にあたる−63ヌクレオチドから始まる、Met1からLeu906までのポリタンパク質の5'末端をコードするStuI-BglII DNAフラグメントを有する。これには、コアタンパク質(C)、E1タンパク質(またときにはSと言う)、E2タンパク質(またときにはNS1と言う)、ならびにNS2a領域の5'部分が含まれる。構築物の発現に際しては、個々のC、E1およびE2タンパク質がタンパク質分解プロセッシングにより産生される。
【0054】
カセットHCV(A/B)は、Met1にあたる−6ヌクレオチドから始まる、Met1からLeu906までのポリタンパク質の5'末端をコードするApaLI-BglII DNAフラグメントを有する。これには、コアタンパク質(C)、E1タンパク質(またときにはSと言う)、E2タンパク質(またときにはNS1と言う)、ならびにNS2a領域の5'部分が含まれる。構築物の発現に際しては、個々のC、E1およびE2タンパク質がタンパク質分解プロセッシングにより産生される。
【0055】
カセットC-E1(S/B)(StuI-BamHI部分)は、Met1からIle340までの5'末端(遺伝子中のBamHI部位)を有する。このカセットの発現で、Cおよび多少の先端切断型のE1(E1')が発現される。3'末端から切りだされた部分は、トランスロケーションシグナルとして作用すると考えられている疎水性領域である。
【0056】
カセットNS1(B/B)(BamHI-BglII部分)は、E1の小さな3'部分(Met364から)、全E2、ならびにNS2a部分(Leu906まで)を有する。この構築では、E1フラグメントはトランスロケーションシグナルとして作用する。
【0057】
カセットTPA-NS1は、ヒト組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)リーダーを、E1の3'部分のかわりにトランスロケーションシグナルとして使用する。このカセットは、Gly406からGlu661までのE2の先端切断型を有し、ここでは疎水性3'末端は欠失されている。
【0058】
各カセットを、T7およびインビトロにおけるウサギ網状赤血球発現による転写および翻訳のための、合成β-グロビン5'非コーディング配列をともなったベクターpGEM3Zと、この配列を伴わないベクターとに挿入した。組換えワクシニアウイルス(rVV)ベクターを、Charkrabartyら、Mol Cell Biol(1985) 5:3403ー09に記載されているように、そのカセットをプラスミドpSC11(Dr. B. Moss, NIHから得た)に挿入し、その後ワクシニアウイルスと再度組み合わせて調製した。
【0059】
(B)かわりの発現ベクターを、Charkrabartyら、Mol Cell Biol (1985) 5:3403-09に記載されているように、pSC59(Dr.B.Moss,NIHから得た)のStuI部位とSpeI部位との間にHCV(A/B)を挿入し、その後ワクシニアウイルスと再度組み合わせて構築した。
【0060】
(C)ヘラS3細胞を、500mLの滅菌遠心ボトル(JA-10ローター)中で、室温にて、2000rpm、7分間遠心分離して回収した。ペレットを、別の培養培地(Joklik改変MEM撹拌培地(Spinner medium)+5%ウマ血清およびゲンタマイシン)(「撹拌培地」)中に最終濃度2×107細胞/mLに再懸濁した。音波処理した粗vv/SC59-HCVウイルスのストックを、細胞あたり8pfuの複数回感染で加え、混合物を37℃で30分間撹拌した。次に、感染細胞を8Lの撹拌培地を入れた撹拌フラスコに移し、37℃で3日間インキュベートした。
【0061】
次に、培養細胞を遠心分離して回収し、ペレットを緩衝液(10mM トリス-HCl、pH 9.0、152mL)に再懸濁させた。次に、細胞を40mLのDounce Homogenizer(50ストローク)によりホモジナイズし、核を遠心分離(5分間、1600rpm、4℃、JA-20ローター)してペレットにした。核ペレットをトリス緩衝液(24mL)に再懸濁し、再度ホモジナイズしてペレットにし、全上清を集めた。
【0062】
集めた溶解物を、10mLずつにわけ、カップホルンソニケーター(cuphorn sonicator)で、中程度の出力で、3×30分音波処理した。音波処理された溶解物(15mL)を、SW28遠心チューブ中で、17mLのスクロースクッション(36%)に重ねて、4℃で80分間、13,500rpmで遠心分離してウイルスをペレットにした。そのウイルスペレットを1mLのトリス緩衝液(1mMトリスHCl、pH9.0)に再懸濁し、−80℃で凍結した。
実施例2
(インビトロ産生物とインビボ産生物との比較)
(A)E1およびE2を、上記実施例1に記載のベクターを用いて、インビトロおよびインビボの両方で発現させ、35S-Met標識した。BSC-40およびヘラ細胞を、インビボ発現用にrVVベクターに感染させた。培地および細胞溶解物を組換えタンパク質について試験した。産生物は、ヒトHCV免疫血清により免疫沈降させ、一方、インビトロタンパク質は直接分析した。得られたタンパク質をSDS-PAGEにより分析した。
【0063】
網状赤血球(reticulocyte)発現系(HCV(S/B)あるいはHCV(A/B)を有するpGEM3Z)は、それぞれ分子量18kD、35kDおよび72kDを有するC、E1およびE2を産生した。BSC-40およびヘラ細胞の溶解物を、同じタンパク質を提示するHCV(S/B)、HCV(A/B)あるいはC-E1(S/B)を有するrVVでトランスフェトした。網状赤血球系は効率のよいゴルジプロセッシングを供給せず、従ってシアル酸を供給しないので、インビトロおよびインビボ産生物が等しい移動度を示す事実は、タンパク質がインビボにおいてシアル化されていないことを示唆する。TPA-NS1を有するrVVベクターは、E2の細胞外分泌を促し、これはシアル化に一致する移動度の変化を示した。
【0064】
(B)HCV(S/B)を、インビトロで発現させ、ビオチン化レクチンのパネルとインキュベートした。すなわち、GNA、SNA、PNA、WGAおよびConA。インキュベーションの後、複合体をアビジン−アクリルビーズ上に集めて、洗浄し、Laemmli試料緩衝液で溶出し、SDS-PAGEで分析した。結果は、E1およびE2がGNAおよびConAに結合したことを示した。このことはマンノースの存在を示している。GNAは末端マンノース基に結合し、一方、ConAはα結合マンノースに結合する。SNA、PNAおよびWGAに結合しないことは、タンパク質がシアル酸、ガラクトース-N-アセチルガラクトサミン、あるいはN-アセチルグルコサミンを含まないことを示す。
【0065】
(C)放射標識E1およびE2を、HCV(S/B)(vv/SC11-HCV)を有するrVVに感染させることによりBSC-40中に産生し、ヒトHCV+免疫血清で免疫沈降させた。免疫沈降させた物質の半分をノイラミニダーゼで一晩処理して、すべてのシアル酸を除去した。処理後、処理および未処理タンパク質をSDS-PAGEで分析した。移動度には有意な差は観察されなかった。このことはインビボではシアル化はされていないことを示す。
【0066】
(D)放射標識E1およびE2を、HCV(A/B)(vv/SC59-HCV)を有するrVVに感染させることによりBSC-40細胞中に産生し、コントロールとしてHCV配列を含まないvv/SC11を用いて、ヒトHCV+血清で免疫沈降させるか、あるいはアクリルビーズに結合されたビオチン化GNAレクチンにより沈澱させた。沈澱物をSDS-PAGEで分析した。データは、E1およびE2が、vv/SC59-HCV感染細胞中の主要なマンノース末端タンパク質種であることを実証した。GNAは、E1およびE2を細胞培養培地から沈澱させるのに、ヒト抗血清と同程度に有効である。25kDの成分が観察されたが、これはワクシニア感染細胞に特異的であるようだ。
実施例3
(レクチンを用いた精製)
(A)ヘラS3細胞に、精製高力価vv/SC59-HCVウイルスのストックを、5pfu/細胞の感染多重度で接種し、混合物を37℃で30分間撹拌した。次に、感染細胞を8Lの撹拌培地を入れた撹拌フラスクコに移し、37℃で3日間インキュベートした。再度、細胞を遠心分離により集めて、氷上で低張緩衝液(20mM HEPES、10mM NaCl、1mM MgCl2、120mL)に再懸濁させた。次に、細胞をDounceHomogenizer(50ストローク)でホモジナイズし、核を遠心分離(5分間、1600rpm、4℃、JA-20ローター)してペレットにした。ペレットを集めて、48mLの低張緩衝液に再懸濁し、再度ホモジナイズし、再度遠心分離し、再度集めて、−80℃で凍結した。
【0067】
次に、凍結上清を解凍して、核溶解後のミクロソーム膜画分を、JA-20ローターでの13、500rpm、4℃における20分間の遠心分離により単離した。上清を吸引して除去した。
【0068】
ペレットを、96mLの界面活性剤緩衝液(20mMトリス-HCl、100mM NaCl、1mM EDTA、1mM DDT、0.5%トリトンX-100、pH7.5)に取り出し、ホモジナイズ(50ストローク)した。生成物を、13、500rpm、4℃における20分間の遠心分離により透明にし、上清を集めた。
【0069】
GNA-アガロースカラム(1cm×3cm、3mg GNA/mLビーズ、6mLベッド容量、Vector Labs, Burlingame, CA)を界面活性剤緩衝液で予め平衡化した。上清試料を4℃で16〜20時間、流速1mL/分で繰り返し循環(recirculation)によりカラムにかけた。次に、カラムを界面活性剤緩衝液で洗浄した。
【0070】
精製E1/E2タンパク質を、流速0.5mL/分でα-D-マンノシド(界面活性剤緩衝液中0.9M)により溶出した。E1/E2が溶出液中に出現したとき溶出を停止し、カラムを2〜3時間再度平衡化した。画分をウエスタンブロットおよび銀染色により分析した。ピーク画分を集め、UV照射して残存するワクシニアウイルスを不活性化した。
【0071】
(B)GNA-アガロース精製のE1およびE2アシアロ糖タンパク質を20〜60%グリセロールグラジェントで沈澱させた。グラジェントにかけたものを分画し、タンパク質をSDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングにより分析した。ブロットをGNAでプローブしてE1およびE2を同定した。得られた結果により、E1:E2ヘテロダイマーの存在が示され、これは予測された速度で沈澱する(すなわち、110kDタンパク質の位置の特徴)。HCVエンベロープタンパク質のより大きな凝集体もまた出現する。E2:E2ホモダイマーもまた出現した。分別したE1:E2種もまた検出されたが、E2が、E1に比較してより大きな種であって、重なって再出現したようであった。より大きな凝集体は、チログロブリンマーカーより有意に速く沈澱した。
【0072】
(C)GNA-アガロース精製のE1およびE12を、1mM EDTAを含有する20〜60%グリセロールグラジェントにより沈澱させた。画分を、β-メルカプトエタノール(βME)の存在および不存在でSDS-PAGEにより分析した。βMEの存在あるいは不存在でのE1およびE2の外見上の量には、ほとんどあるいは全く相違は観察されなかった。このことは、ヘテロダイマー間のジスルフィド結合がないことを示す。
【0073】
(D)E1/E2複合体(純度約40%)を、Coulter DM-4サブミクロン粒子分析機で分析した。20〜60nmレンジで物質を検出した。
【0074】
(E)E1/E2複合体(純度約40%)を、ホスホタングステン酸によるネガティブ染色で電子顕微鏡により分析した。電子顕微鏡写真は、直径約40nmの球状形の粒子の存在を示した。E1/E2複合体をHCV+ヒト免疫血清とインキュベートし、次に、ネガティブ染色でEMにより分析をした。大きな凝集体を有する抗体複合体および小さな粒子を観察した。
実施例4
(クロマトグラフフィーによる精製)
(A)実施例3に記載のように調製したGNAレクチン精製物質(0.5〜0.8mL)を10×緩衝液A(20mMリス-Cl緩衝液、pH 8.0、1mM EDTA)で希釈し、緩衝液Aで平衡化した、1.8×1.5cmのFractogel EMDDEAE-650(EM Separations, Gibbstown, New Jersey, カタログ番号16883)にかけた。E1/E2を含むタンパク質画分を、同じ緩衝液で流速0.2mL/分で溶出し、1mLずつの画分を集めた。E1およびE2を含む画分(SDS-PAGEで決定した)を集めて、−80℃で凍結した。
【0075】
(B)上記パート(A)で精製した物質は、SDS-PAGEによる評価で、60〜80%の純度を有する。推定E1およびE2のバンドの同定は、転移法(transfer technique)を用いた後のN-末端配列分析により確認した。実際には、fractogel-DEAE精製のE1/E2物質を、Laemmli緩衝液(pH6.8、0.06Mトリス-Cl、2.3%SDS、10%グリセロール、0.72M β-メルカプトエタノール)を加えて還元し、3分間煮沸した。次に、試料を10%ポリアクリルアミドゲルにのせた。SDS-PAGE後、タンパク質を、0.2μmのポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜(Bio-Rad Laboratories,Richmond,CA)に移した。予測される推定E1およびE2タンパク質のバンドをブロットから切り出し、N-末端アミノ酸分析を行った。物質の調製の間のアミノ末端のブロックを妨げることは特別にはしなかった。最初の15サイクルで、E1試料は、Tyr-Gln-Val-Arg-X-Ser-Thr-Gly-X-Tyr-His-Val-X-Asn-Aspの配列を有し、一方、E2の配列は、Thr-His−Val-Thr-Gly-X-X-Ala-Gly-His-X-Val-X-Gly-Pheであることを示した。このアミノ酸配列のデータは、DNA配列に対して予測された配列と一致する。
【0076】
上記のfractogel-DEAEクロマトグラフィーによる精製E1/E2産物は、ゲル透過クロマトグラフィーBioSil TSK-4000 SWカラムの排除容積領域に、多量のE1およびE2がともに溶出する事実によって明確にされるように、凝集されると考えられる。このことは、天然条件下では、有意量のE1/E2複合体は、少なくとも800kDの分子量を有することを示す。分子量約650kDのE1/E2物質もまた観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HCVのE1領域から発現され、そして該E1領域のアミノ酸260〜290およびアミノ酸330〜380(HCVポリタンパク質のはじめからの番号)にわたる領域の欠失を含む、アシアロ糖タンパク質。
【請求項2】
精製されたC型肝炎ウイルス(HCV)糖タンパク質であって、該糖タ
ンパク質は、E1領域のアミノ酸260〜290およびアミノ酸330〜380(HCVポリタンパク質の開始からの番号)の欠失を含むHCVのE1領域から発現される糖タンパク質であって、該糖タンパク質は、以下の工程:
該HVC糖タンパク質を含むと疑われる組成物と、マンノース末端形態糖タンパク質に特
異的なマンノース結合タンパク質とを接触させる工程;および
該マンノース結合タンパク質に結合する該組成物の一部を単離する工程、
を包含する方法により生成される、
精製されたC型肝炎ウイルス(HCV)糖タンパク質。
【請求項3】
マンノース末端形態グリコシル化を有する、単離されたC型肝炎ウイルス(HCV)糖タンパク質であって、該HCV糖タンパク質上の全N 結合型炭水化物の10%未満はシアル酸であり、該HCV糖タンパク質は、該E1領域のアミノ酸260〜290およびアミノ酸330〜380(HCVポリタンパク質の開始からの番号)の欠失を含むHCVのE1領域から発現される糖タンパク質であって、該HCV糖タンパク質は、以下の工程:
該糖タンパク質をコードする構造遺伝子で形質転換された哺乳動物宿主細胞を、適切な培養培地で増殖する工程;
該構造遺伝子を、シアル化を阻害する条件下で発現させる工程;および
該糖タンパク質を、マンノース末端形態糖タンパク質に特異的なマンノース結合タンパク質に接触させることにより、該糖タンパク質を該細胞培養物から単離する工程、
を包含する方法により生成される、
単離された、C型肝炎ウイルス糖タンパク質。
【請求項4】
HCVのE1領域から発現されるアシアロ糖タンパク質を含むHCVワクチンを投与する工程を包含する、ヒトを処置する方法。

【公開番号】特開2008−31181(P2008−31181A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267258(P2007−267258)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【分割の表示】特願2006−145982(P2006−145982)の分割
【原出願日】平成3年11月7日(1991.11.7)
【出願人】(591076811)カイロン コーポレイション (265)
【Fターム(参考)】