説明

C型肝炎ウイルス由来ペプチド

HLA結合モチーフを配列中に含み,かつ,C型肝炎ウイルス(HCV)患者で検出される抗体により認識されることを特徴とするC型肝炎ウイルス由来ペプチドが開示される。本発明のペプチドはC型肝炎ウイルスの診断およびC型肝炎の治療,ならびに予後の予測に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は,C型肝炎ウイルス感染の診断およびC型肝炎の治療に有用な,C型肝炎ウイルス(HCV)ペプチドに関するものである。
さらに詳細には,この発明は,HCVペプチド,HCVペプチドを含むポリペプチド,HCVペプチドもしくは前記ポリペプチドをコードするヌクレオチド,またはそれらを認識する抗体もしくは抗体類似活性物質,前記ヌクレオチドを含有するベクター,HCVペプチドもしくは前記ポリペプチドを用いて細胞傷害性T細胞を誘導する誘導方法,あるいはHCVペプチド,前記ポリペプチド,前記ヌクレオチドもしくは前記抗体・抗体類似活性物質を使用したC型肝炎ウイルスの検出方法,C型肝炎の診断,予防もしくは治療方法,および予後の予測方法,ならびにそれらを含むC型肝炎治療用医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
ウイルス性肝炎には,主としてウイルスが経口感染するA型肝炎と血液を介して感染するB型肝炎の他に,主に輸血などで感染するC型肝炎などがある。そのC型肝炎は,慢性化して肝硬変や肝癌に移行する割合が非常に高い疾患の1つである。
C型肝炎ウイルス(HCV)は,フラビウイルス科に属する1本鎖RNAウイルスであり,日本に200万人以上,世界中では1億7000万人もC型肝炎ウイルス感染者がいると言われている。
このC型肝炎に対しては,インターフェロンとリバビリン併用療法が行われているが,3〜4割の患者に対してのみ有効であり,大半の患者に対しては現在有効な治療法がないのが実状である。したがって,安全で有効かつ簡単な上に,低コストの診断ならびに治療ツールを緊急に開発することへの強い社会的要請がある。
細胞性ならびに液性免疫応答の両者はHCV感染を抑制するのに主要な役割を果たしていることを示す証拠がある(WO89/04669)。過去10余年にわたって高い免疫原性のHCVペプチドを見い出す研究が数多くなされ,細胞性または液性免疫応答を誘導することができる数多くのHCVペプチドが見出されてきた(Hunziker et al.,Mol Immunol.2001 Dec;38(6):475−84)。しかしながら,これらのペプチドのいずれも臨床的に有効ではなく,その結果,現在でも予防的にも治療的にも有効な免疫治療の手段がないのが実状である。このことは,主にこれらのペプチドの免疫原性が弱いことに基づいていると考えられる。
また,本発明者らは,いくつかの細胞傷害性Tリンパ球(CTL)により認識される抗原ペプチドが,インビトロでもインビボでも細胞性免疫応答および液性免疫応答の両方を導き出す能力を有していることをすでに報告している(Gohara et al.,J Immunother.2002 Sep−Oct;25(5):439−44,Mine et al.,Clin Cancer Res.2001 Dec;7(12):3950−62,Tanaka et al.,J Immunother.2003 Jul−Aug;26(4):357−66,Mine et al.,Cancer Sci.2003 Jun;94(6):548−56)。
さらに,細胞性ならびに液性免疫応答の両者によって認識されるHCVペプチドは,細胞性免疫応答だけによって認識されるものよりも免疫原性が高いと考えられる。
かかる社会的要請に応えるための1つの新しいアプローチとして,細胞性免疫応答ならびに液性免疫応答の両者を誘導することができるHCVペプチドが,液性免疫応答だけを有するペプチドに比べて,より一層高い免疫原性を有しているとの一連の知見が蓄積されてきているので,かかるペプチドを特定するというアプローチを挙げることができる。
そこで,かかるペプチドを同定するとともに,HCV感染を抑制するための新規な治療および診断ツールとしての候補となるかどうかを調べることは,有益であると考えられる。
したがって,本発明者らは,HLA−A2およびHLA−A24拘束性細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によって認識されるペプチドと反応性を有するIgGがHCV感染患者の血清中から検出できるかどうかを調べた結果,いくつかのCTLエピトープに特異的なIgGが,異なるHLAクラスIタイプや異なるHCVゲノタイプには関係なく、HCV感染患者の大多数に検出されることを見出した。さらに,この結果から,かかるペプチドが,ペプチドをベースとする予防および治療用の新しいツールを提供することができることを見出して,この発明を完成するに到った。
したがって,この発明は,細胞性免疫応答ならびに液性免疫応答によって認識され,かつ免疫原性が高いことを特徴とするHCVペプチドを提供することを目的とする。
【発明の開示】
上記課題を解決するために,この発明は,HLA結合モチーフを配列中に含み,かつC型肝炎ウイルス感染患者の血中抗体により認識されるC型肝炎ウイルス由来ペプチドを提供する。
この発明は,その好ましい態様として,配列表の配列番号1〜8、16、20および38のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を有するC型肝炎ウイルス由来ペプチド,該ペプチドのアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性をもつアミノ酸配列を有するC型肝炎ウイルス由来ペプチド,およびHLA−A2またはHLA−A24拘束性細胞傷害性T細胞による認識性をさらに有するC型肝炎ウイルス由来ペプチドを提供する。
この発明の別の形態は,該C型肝炎ウイルス由来ペプチドを含むポリペプチドを提供する。この形態の発明は,その好ましい態様として,該ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性をもつアミノ酸配列を有するポリペプチド,およびHLA−A2またはHLA−A24拘束性細胞傷害性T細胞による認識性をさらに有するポリペプチドを提供する。
また,この発明の別の形態は,該C型肝炎ウイルス由来ペプチドまたは該ポリペプチドをコードするヌクレオチドを提供する。
この発明のさらに別の形態は,該C型肝炎ウイルス由来ペプチドまたは該ポリペプチドを免疫学的に認識することができる抗体および抗体類似活性物質を提供する。
この発明は,さらに別の形態として,上記のヌクレオチドを含有するベクターを提供する。
また,この発明のさらに別の形態は,該C型肝炎ウイルス由来ペプチド,該ポリペプチドをコードする該ヌクレオチドを用いて細胞傷害性T細胞を誘導する誘導方法を提供する。
この発明は,さらに別の形態として,上記のC型肝炎ウイルス由来ペプチド,ポリペプチド,ヌクレオチド,または抗体もしくは抗体類似活性物質を使用する,C型肝炎ウイルスの検出方法を提供する。
また,この発明の別の形態は,上記のC型肝炎ウイルス由来ペプチド,ポリペプチド,ヌクレオチド,または抗体もしくは抗体類似活性物質を使用する,C型肝炎などのHCV感染関連疾患の診断方法を提供する。
さらに,別の形態として,この発明は,上記C型肝炎ウイルス由来ペプチド,ポリペプチド,ヌクレオチド,または抗体もしくは抗体類似活性物質を使用する,C型肝炎などのHCV感染関連疾患の治療方法を提供する。
この発明は,さらに別の形態として,上記のC型肝炎ウイルス由来ペプチド,ポリペプチド,ヌクレオチド,または抗体もしくは抗体類似活性物質を有効成分として含む医薬組成物を提供する。また,その好ましい態様として,該医薬組成物がC型肝炎ウイルスワクチンである医薬組成物が提供される。
さらに,別の形態として,この発明は,上記C型肝炎ウイルス由来ペプチド,ポリペプチド,ヌクレオチド,または抗体もしくは抗体類似活性物質を使用する,C型肝炎などのHCV感染関連疾患の予後の予測方法を提供する。
この発明は,さらに別の形態として,上記のC型肝炎ウイルス由来ペプチド,ポリペプチド,ヌクレオチド,または抗体もしくは抗体類似活性物質を含む,C型肝炎を診断または予後を予測するためのキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
図1は,本発明において,ELISA法によるHCV感染患者の血中IgG測定結果を示すグラフである。
図2は,本発明において,ELISA法によるHCV感染患者の血中IgG測定結果を示すグラフである。
図3は,本発明において,図1に示した患者血清中のC−35ペプチド反応性抗体の代表例の吸収・溶出実験結果を示すグラフである。
図4は,本発明におけるHCV由来のHLA−A24結合ペプチド6種(No3,12,13,25,32,38)のCTL誘導結果を示すグラフである。
図5は,本発明におけるHCV由来のHLA−A2結合性ペプチド(No40からNo57)のCTL誘導結果を示すグラフである。
図6は,本発明において,51Cr遊離試験によるペプチド刺激PBMCの細胞傷害活性の代表的結果を示すグラフである。
図7は,本発明において,51Cr遊離試験によるペプチド刺激PBMCの細胞傷害活性の代表的結果を示すグラフである。
図8は,本発明において,抗CD8モノクローナル抗体を用いた抑制試験によるペプチド刺激PBMCの細胞傷害性のHLAクラスI拘束性を確認したグラフである。
図9は,HCV感染患者血清における抗ペプチドIgGの検出を示すグラフである。
図10は,HCV感染患者血清における抗ペプチドIgGの検出を示すグラフである。
図11は,HCV感染患者血清中の抗ペプチドIgGの特異性を調べる吸着試験の結果を示すグラフである。
図12は,HCV感染患者血清中の抗ペプチドIgGの特異性を調べる溶出試験の結果を示すグラフである。
図13は,ペプチド刺激PBMCによるIFN−γ産生を示すグラフである。
図14は,ペプチド刺激PBMCによるIFN−γ産生を示すグラフである。
図15は,ペプチド刺激PBMCの細胞傷害性を示すグラフである。
図16は,ペプチド刺激PBMCの細胞傷害性を示すグラフである。
図17は,NS5Aを発現する細胞に対するペプチド刺激PBMCのCTL活性を示すグラフである。
図18は,NS5Aを発現する細胞に対するペプチド刺激PBMCのCTL活性を示すグラフである。
図19は,NS5Aを発現する細胞に対するペプチド刺激PBMCのCTL活性を示すグラフである。
図20は,抗NS5A−2132IgG活性の特異性を示すグラフである。
図21は,抗NS5A−2132IgGによる細胞増殖阻害のアッセイの結果を示すグラフである。
図22は,抗NS5A−2132IgGのADCC活性のアッセイの結果を示すグラフである。
図23は,種々の疾患における抗C−35抗体および抗NS5A−2132抗体の検出を示すグラフである。
図24は,抗ペプチド抗体のHLAまたはHCVゲノタイプ拘束性を示すグラフである。
図25は,抗ペプチド抗体のHLAまたはHCVゲノタイプ拘束性を示すグラフである。
図26は,患者血清における抗NS5A−2132抗体の測定の結果を示すグラフである。
図27は,患者血清における抗NS5A−2132IgGの測定の結果を示すグラフである。
図28は,患者血清における抗NS5A抗体のレベルおよびHCV RNAレベルを示すグラフである。
図29は,コホート研究における抗C−35抗体および抗NS5A−2132抗体の検出を示すグラフである。
図30は,コホート研究における抗NS5A−2132抗体の検出を示すグラフである。
図31は,本発明において,ルミネックス法によるHCV感染患者の血中IgG測定結果を示すグラフである。
図32は,本発明において,ルミネックス法によるHCV感染患者の血中IgG測定結果を示すグラフである。
図33は,本発明のペプチドを用いるC型肝炎の治療の経過を示す。
図34は,本発明のペプチドを用いるC型肝炎の治療の経過を示す。
発明の詳細な説明
この発明に係るC型肝炎ウイルス由来ペプチドは,HLA結合モチーフを配列中に含み,かつC型肝炎ウイルス感染患者の血中抗体により認識されるHCVペプチドである。
また,この発明に係るHCVペプチドは,HLA結合モチーフ,つまりHLA−A2またはHLA−A24結合モチーフをその配列中に含んでいる。さらに,このHCVペプチドは,細胞性免疫応答および液性免疫応答によって認識されるとともに,免疫原性が高いことを特徴としている。
かかるHCVペプチドとしては,例えば,下記の表1および表3に挙げられるペプチドが含まれる。本発明において特に好ましいHCVペプチドの1つは,以下のアミノ酸配列を有するHLA−A2結合性モチーフを有するペプチド:

である。HCV感染患者においては,このペプチドに対するペプチド反応性IgG抗体の検出率およびHCV感染症特異性が,それぞれ93%と100%と非常に高い。また本発明において特に好ましい別のHCVペプチドは,以下のアミノ酸配列を有するHLA−A24結合性モチーフを有するペプチド:

である。特に,NS5A−2132は,HLA−A24陽性の多くの患者において,細胞性免疫および液性免疫の両方を誘導することができる。
この発明に係るHCVペプチドは,該ペプチドのアミノ酸配列と少なくとも70%,好ましくは80%以上,さらに好ましくは90%以上の相同性を有するペプチドであってもよい。
また,この発明に係るHCVペプチドは,HLA−A2またはHLA−A24拘束性細胞傷害性T細胞(CTL)による認識性を有するペプチドをさらに含んでいてもよい。細胞内で製造された抗原タンパクが細胞内で分解されたペプチドからなる,このHLAに結合可能な抗原ペプチドには,HLAのタイプごとにその配列にモチーフがあり,細胞傷害性T細胞(CTL)はこの抗原ペプチドとHLAとの複合体を認識してHCV感染細胞を傷害する。
この発明に係るポリペプチドは,上記のようなこの発明のペプチドのアミノ酸配列をそのアミノ酸配列中に含有しており,そのアミノ酸の総数は特に限定されるものではない。また,この発明のポリペプチドにおいて,このペプチドを構成するアミノ酸を超える残りのアミノ酸は,該ペプチドのアミノ酸のN−末端側および/またはC−末端側に,あるいはそれらの両側に位置している。したがって,このポリペプチドは,上記ペプチドの機能ならびに作用と実質的に同様の機能と作用を有している。なお,本明細書において,「ペプチド」と単に記載した場合でも,特に断りのない場合には,「ポリペプチド」をも包含して理解すべきものとする。
上記のようにして決定されたアミノ酸配列を有するペプチドは,通常の化学的合成法,タンパク分子の酵素的分解法,目的のアミノ酸配列をコードする塩基配列を発現するように形質転換した宿主を用いた遺伝子組換え技術などにより得ることができる。
目的とする該ペプチドを化学的合成法で製造する場合には,通常のペプチド化学においてそれ自体公知の慣用されている手法によって製造することができ,例えば,ペプチド合成機を使用して,固相合成法により合成することができる。このようにして得られた粗ペプチドは,タンパク質化学において通常使用されている精製方法,例えば,塩析法,限外ろ過法,逆相クロマトグラフィー法,イオン交換クロマトグラフィー法,アフィニティークロマトグラフィー法などによって精製することができる。
一方,所望の該ペプチドを遺伝子組換え技術で生産する場合には,例えば,上記により合成した目的のアミノ酸配列をコードするDNA断片を適当な発現ベクターに組込み,この発現ベクターを用いて微生物や動物細胞を形質転換して,得られた形質転換体を培養することによって,所望の該ペプチドを得ることができる。使用できる発現ベクターとしては,当該技術分野において公知であるプラスミド,ウイルスベクターなどを用いることができる。
このペプチド生産技術における発現ベクターを用いた宿主細胞の形質転換方法としては,それ自体公知の方法,例えば,塩化カルシウム法,リン酸カルシウム共沈殿法,DEAEデキストラン法,リポフェクチン法,エレクトロポレーション法などが使用でき,使用する宿主細胞に基づいて適宜選択するのがよい。得られたペプチドの精製は,培養した培地から回収した細胞抽出液もしくは培養上清から上記精製法により行うことができる。
この発明の別の形態の1つとしてのヌクレオチドは,上記のC型肝炎ウイルス由来ペプチドまたは上記のポリペプチドを含有するオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドを含んでいて,リボヌクレオチドあるいはデオキシヌクレオチドを含んでいる。また,該ヌクレオチドは,当該分野で既知の方法によって改変されていてもよい。該ヌクレオチドの改変には,例えば,公知の標識,メチル化,「caps」,アナログによる天然ヌクレオチド1つ以上の置換,ヌクレオチド内改変などが含まれる。ヌクレオチド内改変には,例えば,非イオン性改変(例えば,メチルリン酸,リン酸トリエステル,ホスホアミデートなど),イオン性改変(例えば,ホスホロチオエート,ホスホロジチオエートなど),例えばタンパク質(例えば,ヌクレアーゼ,毒素,抗体,シグナルペプチドなど)のようなペンダント部分を含む改変,キレート剤(例えば,金属,ホウ素など)による改変などが挙げられる。
上記のヌクレオチド配列は,HCVのゲノム中にコードされているHCV抗原のペプチドおよびポリペプチド配列を提供することを可能にし,また診断試験やワクチンの成分として,有用なペプチドを提供することができる。
この発明のヌクレオチドが得られると,HCV感染関連疾患を診断するのに有用な,または血液中もしくは血液製剤中のHCV感染をスクリーニングするのに有用なヌクレオチドプローブならびにペプチドの構築が可能となる。このヌクレオチド配列から,例えば24個ないし30個のヌクレオチドあるいはそれより長いDNAオリゴマーを合成することが可能である。このヌクレオチドは,被験者の血清中のHCV RNAを検出するための,また血液もしくは血液製剤中のHCVの存在をスクリーニングするためのプローブとしても使用することができる。
また,このヌクレオチド配列は,HCVに対する抗体の存在を診断する試薬としても有用なHCV特異的ペプチドの設計ならびに生産を可能にする。さらに,この配列に由来する精製ペプチドに対する抗体は,HCV感染者ならびにHCV感染血液製剤中のHCV抗原を検出するためにも使用することができる。
この発明の別の形態の1つとしての抗体は,該C型肝炎ウイルス由来ペプチド,該ポリペプチドに反応性を有するキメラ抗体,改変抗体,一価抗体,Fab,F(ab’),Fab’,単一鎖Fv(scFv)タンパク質ならびに単一ドメイン抗体が含まれる。また,この抗体は,該ペプチドまたは該ポリペプチドを免疫学的に認識することができる。
この発明の別の形態の1つとしてのベクターは,該ヌクレオチドを含有していて,選択された宿主細胞を形質転換し得る構築物であって,該宿主中で異種のコード配列を発現させることができる。この発現ベクターは,クローニングベクターあるいは組み込み用ベクターの何れであってもよい。
クローニングベクターとしては,例えば,プラスミド,ウイルス(例えば,アデノウイルスベクター)などが使用される。また該クローニングベクターは,宿主細胞を形質転換することができ,かつ,細胞内でヌクレオチドの複製を行う能力を有しているレプリコン(例えば,プラスミド,クロモソーム,ウイルス,コスミドなど)である。
他方,組み込み用ベクターは,宿主細胞中ではレプリコンとしては働かないが,宿主を安定に形質転換するために,宿主中のレプリコン(典型的には,クロモソーム)に駐留物を組み込む能力を有するベクターである。
この発明の別の形態の1つとして,該ペプチドを用いることによってHCV細胞を標的にする細胞傷害性T細胞を誘導する誘導方法が含まれる。この発明の誘導方法は,例えば,HLA−A2を発現している細胞に該ペプチドを添加してHLA−A2上に提示させ,このペプチドをHLA−A2により提示した細胞でT細胞を刺激し,このT細胞をCTLに誘導することからなっているのがよい。この方法において使用するHLA−A2発現細胞は,HCV患者の血液から採取したものでよいが,非HLA−A2発現細胞にHLA−A2をコードする遺伝子を導入して作成することもできる。したがって,この発明に係る該ペプチドは,HCVの検出ならびに診断のために使用することができるばかりではなく,C型肝炎ウイルス関連疾患のワクチンなどの医薬組成物として有用である。
また,このようにして誘導されたCTLは,HCV感染細胞を標的にして該HCV感染細胞を攻撃するので,該ペプチドと同様に,細胞療法などの医薬組成物としても使用することができる。
さらに,この発明の別の形態である該C型肝炎ウイルス由来ペプチド,ポリペプチド,ヌクレオチドおよび/または抗体・抗体類似活性物質は,HCV感染を検出・診断するのに有用である。
HCVの検出ならびにHCV関連疾患の診断は,例えば,該ペプチドをコードする核酸配列との相互作用および/または反応性を利用して,該ペプチドの存在の検出,相応する核酸配列存在量の検出,該ペプチドの個体中での生体分布の決定および/または個体由来の検体中の存在量の決定などによって行うことができる。つまり,HCVの検出ならびにHCV関連疾患の診断は,該ペプチドをマーカーとして検定することによって行うことができる。また,その測定は,それ自体公知の測定手法で行うことができ,かかる測定方法としては,例えば,抗原抗体反応系,酵素反応系,PCR反応系などを利用した方法が挙げられる。
HCV関連疾患の治療効果の確認および予後の予測は,HCV関連疾患に罹患している被験者において,該ペプチドに対する反応性を有する抗体の血中濃度をモニターすることによって行うことができる。特に好ましくは,被験者の血中の抗C−35IgGまたは抗NS5A−2132IgGのレベルを測定する。
この発明のさらに別の形態である医薬組成物としては,例えば,ワクチンが挙げられる。ワクチンは,C型肝炎ウイルス由来ペプチド,ポリペプチドおよび/またはヌクレオチドからなっていて,医薬的に許容される補助剤および/または担体を適宜含有していてもよい。補助剤としては,免疫応答を強化し得るアジュバント,例えばフロイントの不完全アジュバント,水酸化アルミニウムゲルなどを使用することができる。また,担体としては,例えば,PBS,蒸留水などの希釈剤,生理食塩水などを使用することができる。
この発明の医薬組成物は,その使用形態に応じて,例えば,経口,静脈投与や皮下投与などの非経口または経皮経路で投与することができる。その剤形としては,例えば,錠剤,顆粒剤,ソフトカプセル剤,ハードカプセル剤,液剤,油剤,乳化剤などが挙げられる。かかる医薬組成物の投与量は,投与する患者の症状などにより,適宜変動し得るが,一般的には,成人に対して1日当たり,該ペプチド量として0.1〜10mgであるのがよく,投与間隔としては数日もしくは数ヶ月に1回投与するのがよい。
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書の一部としてここに引用する。また,本出願が有する優先権主張の基礎となる出願である日本特許出願2003−330258号の明細書および図面に記載の内容は全て本明細書の一部としてここに引用する。
【実施例】
この発明を実施例によりさらに詳細に説明する。ただし,これらの実施例はこの発明をより具体的に説明するために例示的に示したものであり,この発明は以下の実施例により限定されるものではない。
なお,以下の実施例において使用したアミノ酸の略語は次の通りである。
Aはアラニン,Cはシステイン,Dはアスパラギン酸,Eはグルタミン酸,Fはフェニルアラニン,Gはグリシン,Hはヒスチジン,Iはイソロイシン,Kはリジン,Lはロイシン,Mはメチオニン,Pはプロリン,Rはアルギニン,Sはセリン,Tはトレオニン,Vはバリン,Yはチロシンをそれぞれ意味する。
[実施例1]:HCV感染患者の血清におけるHCVペプチドと反応性を有するIgGの検出
ペプチド
HCVゲノタイプ1bタンパク質の保存領域からのHLA−A2結合性モチーフまたはHLA−A24結合性モチーフを有する合成ペプチドを使用した(表1)。ネガティブコントロールとして,HLA−A2結合性モチーフを有するHIV由来ペプチドを使用した。これらのペプチドはいずれも市販品を使用し,その純度は逆相高圧液体クロマトグラフィーで分析したところ90%以上であった。




ELISA
血清中のペプチド特異的IgGはELISAによって測定した。まず,各ペプチドをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し,−80℃で保存した。ペプチドを,クロスリンカーとしてのジサクシンイミジルスベレート(DSS)を含む0.1M炭酸ナトリウム/炭酸水素ナトリウム溶液で希釈した。ELISAプレートにペプチド20μg/ウェルで4℃で一夜反応させて結合させた。ウェルを0.05%Tween20−PBS(PBST)で3回洗浄し,プレートをブロックエース(登録商標)でブロックして4℃で一夜放置した。血漿または血清サンプルを0.05%Tween20−Block Aceで100倍,200倍および400倍にそれぞれ希釈し,得られたサンプルを各ウェル当り100μlずつ添加した。サンプルを37℃で2時間培養した後,プレートをPBSTで9回洗浄し,1000倍希釈ウサギ抗ヒトIgG(γ鎖特異的)を各ウェル当り100μl添加して37℃で2時間培養した。さらに,PBSTで9回洗浄した後,100倍希釈マウス抗ウサギIgGと共有結合させた西洋ワサビパーオキシダーゼ・デキストランポリマーを各ウェル当り100μl添加し,プレートを室温で40分間培養した。プレートを洗浄した後,テトラメチルベンジジン基質溶液を各ウェル当り100μl添加し,2.0Mリン酸を添加して反応を停止させた。カットオフ値を,健常者の光密度コントロールの平均±3SDとして算出した。
ペプチド特異的IgGの吸収ならびに溶出
各ウェル当り100μlの血漿または血清サンプルを0.05%Tween20−Block Ace(登録商標)で希釈し,プレートのウェル中に固定したペプチド(各ウェル当り20μg)に37℃で2時間吸収させた。この操作を3回繰り返した後,上清中のペプチド特異的IgGレベルをELISAで測定した。初回の吸着でペプチド固定プレートに結合させた抗体を,各ウェル当り30μlの5M NaCl/50mMクエン酸バッファ(pH3.0)(1.0M Tris−HClの0.05%Tween20−Block Ace(pH7.5)で中和した)によって溶出し,溶出した分画中のペプチド特異的IgGレベルをELISAで測定した。
ペプチド特異的CTLアッセイ
ペプチド特異的CTLの検出に使用する方法は当該技術分野において慣用されている方法である。PBMCをウェル当たり1x10個の細胞になるようにU底型96ウェルマイクロカルチャープレートの各ウェルに入れ,10μMのペプチドとともに200μlの培地中で培養した。この培地の組成は,45%RPMI−1640と,45%AIM−V(登録商標)と,10%ウシ胎児血清(FCS)と,100U/mlのインターロイキン2(IL−2)と,1mM MEM非必須アミノ酸溶液と,からなっている。培養3日目,6日日,そして9日目にそれぞれ培地半分を除いて,対応するペプチド(20μg/ml)を含んだ新しい培地と入れ替えた。培養12日日に,培養した細胞を採取し,対応するペプチドまたはネガティブコントロールとしてのHIVペプチドのいずれかを予め付着させたCIR−A2402細胞またはT2に応答するインターフェロンガンマ(IFN−γ)の産生能を試験した。各ペプチドに対して4個のウェルを使用し,アッセイは2回行った。HIVペプチドに応答するバックグラウンドIFN−γ産生は得られたデータ値から差し引いた。抑制アッセイには,ペプチド反応性CTLは,CD8単離キットを用いて精製し,そのペプチド特異的IFN−γ産生を,20μg/mlの抗HLAクラスI(W6/32,IgG2a)モノクローナル抗体,抗CD8(Nu−Ts/c,IgG2a)モノクローナル抗体または抗HLAクラスII(H−DR−1,IgG2a)モノクローナル抗体のいずれかの存在下において測定した。バックグラウンドIFN−γ産生は得られたデータ値から控除した。
統計
値は平均+/−SDとして示している。統計的分析は,マン・ウィットニー U検定(Mann−Whitney U)試験およびカイ2乗試験を用いて行った。P<0.05値は統計学的に有意であると考えられる。
HCVペプチドに対する抗体の検出
HCV感染患者12名と健常者(HD)10名の血清について62種類の各ペプチドに対して反応するIgGレベルを測定した(表1)。各ペプチドに対する抗体の陽性率を表1に示した。その結果,HCV感染患者の血中IgGと高率に反応し,かつ健常人血清とはほとんど反応しないペプチドが複数見い出された。
例えば,No3のNS5A−2132(HCVのNS5Aタンパクの2132番から2140番に相当,以下同様に省略する),No11(NS3−1266),No12(E2−488),No13(E1−213),No22(NS2−947),No25(NS3−1081),No32(C−176),No38(C−173),No40(C−35),No62(NS5B−2990)などが挙げられる。代表的なELISA法によるHCV感染患者の血中IgG測定結果を図1および図2に示す。
図1に示した患者血清ではC−35に対するIgG抗体が検出された。
図2の(A)−(D)に示した4名の患者血清中にはそれぞれNS5A−2132(A),NS3−1081(B),E2−488およびE1−213(C),C−176およびC−173(D)反応性IgG抗体が検出された。これらのペプチド反応性抗体のペプチド特異性は,吸収ならびに溶出試験によって確認した。
図1に示した患者血清中のC−35ペプチド反応性抗体の吸収・溶出実験結果を代表例として図3に示す。この抗体はC−35により吸収されたが,無関係なペプチドであるNS5A−2252によっては吸収されなかった(図3上段)。さらにこの抗体はC−35吸着画分より溶出された(図3下段)。
表1の中でもC−35ペプチド反応性抗体はHCV感染者では100%,一方,健常人では0%と,HCV特異性が高かった。HCVのC−35ペプチドの配列は種々のウイルス,たとえばHIV−1のtetタンパク(54−58番のアミノ酸配列)やenvタンパク(5−9,158−162,717−727のアミノ酸配列)と部分的に相同性を示した。また,HTLV−Iの種々のタンパク(pol 724−755,rex 5−9,rex 310−313,tax 70−74など)とも相同性を示した。そこで,C−35ペプチド反応性抗体をHCV感染症関連疾患60例(慢性C型肝炎22例,肝硬変20例,肝癌18例),B型肝炎ウイルス感染者24例,B型肝炎ウイルスワクチン接種者10例,健常人27例,自己免疫疾患患者22例,HTLV−I感染者10例,およびHIV感染者3例,計156例について2重盲検法で調べた。その結果を表2に示す。この結果より,C−35ペプチド反応性抗体のHCV特異性および検出率はそれぞれ88.5%および93.3%であった。
ペプチド特異的CTL活性の誘発
HLA−A24結合ペプチド6種(No3,12,13,25,32,38)およびHLA−A2結合ペプチド18種(No40からNo57まで)をHLA−A24もしくはHLA−A2陽性のHCV感染患者各5名の末梢血単核球(PBMC)と培養した。コントロールとして該PBMCをHIVペプチドと培養した。そして,それらの培養PBMCについて,対応するペプチドをパルスしたC1R−A2402細胞またはT2細胞に応答するIFN−γ産生能を調べた。その結果,HLA−A24結合ペプチド6種(No3,12,13,25,32,38)は,HLA−A24陽性HCV患者10名のPBMCからCTLを誘導することができた(図4)。また,HLA−A24結合性ペプチドによる(B)HCV由来のHLA−A2結合性ペプチド(No40からNo57)によるHLA−A2陽性HCV患者5名のPBMCからCTLを誘導することができた(図5)。
さらに,ペプチド刺激PBMCの細胞傷害活性は51Cr遊離試験によって確認した。その代表的結果を図6、および図7に示す。
図6は,HCV由来のHLA−A24結合性ペプチド(No3,12,13,25,32,38)によりHLA−A24陽性HCV患者PBMCから誘導されたCTLの細胞傷害活性を示す。誘導ペプチドを付着させたC1R−A2402細胞(図中ではC1RA2402と表示)に対する細胞傷害作用はコントロールのHIVペプチドを付着させたC1R−A2402細胞(図中ではC1RA2402HIVと表示)に比べ有意に高かった。
図7は,HCV由来のHLA−A2結合性ペプチド(No40,41)によりHLA−A2陽性HCV患者末梢血PBMCから誘導されたCTLの細胞傷害活性を示す。誘導ペプチドを付着させたT2細胞(図中ではT2と表示)に対する細胞傷害作用はコントロールのHIVペプチドを付着させたT2細胞(図中ではT2HIVと表示)に比べ有意に高かった。
その結果,これらのPBMCは,対応するペプチド(ネガティブコントロールとしてのHIVペプチド以外)を予め装填したC1R−A2402およびT2細胞に対して有意差レベルの細胞傷害性を示した。
この細胞傷害性のHLAクラスI拘束性は抗CD8モノクローナル抗体を用いた抑制試験によって確認した(図8)。図8は,CTL活性の抗CD8抗体による抑制の代表例を示す。HCV由来のHLA−A2結合性ペプチド(No40)によりHLA−A2陽性HCV患者PBMCから誘導されたCTLの細胞傷害活性は抗CD8抗体により抑制されたが,抗CD4やコントロールの抗CD14抗体では抑制されなかった。
[実施例2]:HLA−A24陽性HCV感染患者の血清におけるHCVペプチドと反応性を有するIgGの検出
被験者
さらに広範に,HLA−A24陽性のHCV感染患者において,HCVペプチドと反応性を有するIgGの検出を行った。60名のHCV1b患者は,第2世代または第3世代イムノアッセイ試験により判定して,抗HCV抗体(Ab)についてセロポジティブであった。患者の血清中のHCVのゲノタイプはRT−PCRにより判定した。血清サンプリングの際の患者の診断は,生化学的分析,超音波検査,コンピュータ連動断層撮影,および組織学的所見により行った。診断の結果は以下のとおりである:慢性肝炎(CH,n=24),肝硬変(LC,n=18),および肝細胞癌(HCC,n=18)。陰性対照としては,正常な肝機能を有し,肝炎ウイルスの病歴を有しない20名の健康なドナー(HD)からの血清サンプルを用いた。
ペプチドおよびペプチド反応性抗体の測定
HCV1bタンパク質のよく保存された領域に由来し,HLA−A24分子との高い結合スコア(Bioinformatics and Molecular Analysis Section,NIH,Bethesda,MD)に基づいて選択された44種の合成ペプチドを用いた。陰性対照としてはHLA−A24結合モチーフを有するHIV由来ペプチド(RYLRDQQLLGI(配列番号63))を用いた。結合スコアおよび配列を表3に示す。血清IgGに対するペプチドの反応性についてのスクリーニング用には,BioSyntehsis(Lewisville,TX)またはSynPep(Dublin,CA)からこれらの脱塩等級(>70%)ペプチドを購入した。その後の実験には精製したペプチド(>90%)を用いた。ペプチド特異的IgGの血漿レベルは,酵素抗体法(ELISA)により測定した。血漿サンプルにおける抗ペプチドIgGの特異性の試験は,ペプチド反応性IgGの吸収および溶出により行った。
ペプチド特異的CTLのアッセイ
ペプチド特異的CTL前駆体細胞の検出に用いた方法はHidaら(Cancer Immunol Immunother 2002;51:219−228)に記載されるとおりである。阻害試験のためには,20μg/mlの抗HLAクラスI(W6/32,IgG2a),抗CD8(Nu−Ts/c,IgG2a),抗CD4(Nu−Th/i,IgG1b),および抗HLA−クラスII(H−DR−1,IgG)モノクローナル抗体を用いた。
NS5A遺伝子でトランスフェクションした細胞に対するペプチド刺激PBMCのCTL活性
NS5A,HLA−A2402,およびHLA−A2601のcDNAは,それぞれHuh7(NNU50−1)細胞,C1R−A2402細胞,およびKE4−CTL細胞からRT−PCRにより得て,発現ベクターpCR3.1(Invitrogen,San Diego,CA)にクローニングした。Huh7(NNU50−1)細胞株は,HCV1bに感染した細胞株に由来するレプリコン細胞であり,NS3からNS5Bのタンパク質を発現する(Kishine et al.,Biochem Biophys Res Commun 2002;293:993−999)。次に,100ngのNS5A,HLA−A2402またはNS5A,およびHLA−A2601cDNA(陰性対照として)を,0.6μlのFugene6(Roche Molecular Biochemicals,Indianapolis,IN)を含む100μlのOpti−MEM(Invitrogen)中で混合し,30分間インキュベートした。次に混合物100μlをCOS−7細胞(1×10細胞)に加え,これを6時間インキュベートした。20%FCSを含む100μlのRPMI−1640培地を混合物に加え,COS−7細胞を2日間培養し,NS5A 2132−2140刺激PBMC(2x10細胞/ウェル)を加えた。18時間インキュベートした後,100μlの上清を取り出し,IFN−γ濃度を3ウェルのアッセイでELISAにより測定した。安定なトランスフェクタント細胞株を作製するために,pCR3.1−NS5AまたはpCR3.1−HLA−A3101(陰性対照)のいずれかを,Gene Pulser(BioRAD,Richmond,CA)を用いて,C1R−A2402細胞にエレクトロポレーションによりトランスフェクションした。これらの細胞をゲネテシン(G418)の存在下で30−40日間培養し,ゲネテシン耐性細胞を回収した。トランスフェクタント中のNS5Aタンパク質の発現は,抗NS5ポリクローナル抗体(Abcam Limited,Cambridge,UK)を用いるウエスタンブロット分析により行った。
増殖阻害および抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)
Huh7細胞株を,平底96ウェルマイクロカルチャープレートのウェル中で種々の血清の存在下で24,48,および72時間インキュベートした。インキュベート後,細胞計数キット−8(10μl/ウェル)(Dojindo,Japan)でHuh7細胞を数えた。ADCCアッセイのためには,HLA−A24陽性のHDから新たに単離したPBMCを,種々の患者またはHD(陰性対照として)からの非働化血清(56℃,30分間)を含む10%FCSおよびRPMI−1640培地で1.5時間プレインキュベートした。C1R−A2402細胞およびC1R細胞(陰性対照として)をNS5A 2132−2140ペプチド(10μM)とともに2時間インキュベートし,Na51CrOで1.5時間放射性標識し,洗浄し,標的細胞として用いた。ペプチド刺激PBMCを,96U底マイクロカルチャープレートのウェル中で,40,20,および10対1のエフェクター対標的細胞(E/T)比で,標的細胞とともにインキュベートした。37℃で6時間インキュベートした後,無細胞上清を回収してADCC活性を測定した(Shomura,et al.,Br J Cancer 2004;90:1563−1571)。
統計学
統計学的分析は,スチューデントt検定およびマン・ウィットニー U検定を用いて行った。P<0.05の値を統計学的に有意とした。
HCV−ペプチドに対する液性応答の検出
ペプチドに対する液性応答をスクリーニングするために,HCV−1bに感染した12名の患者の血漿において,44種のペプチドに対するそれぞれのIgG反応性のレベルを測定した。10名のHDの血漿を陰性対照として用いた。ペプチド反応性IgGのレベルは,連続希釈した血漿サンプルについてELISAにより測定し、各サンプルの吸光度(OD)値を示した。1:100の血漿希釈でのこれらのペプチドのカットオフ値を0.18OD{10名のHDの平均(0.08)+2SD(0.05x2)}とした。NS5A−2132,C−176,E2−488,E1−213,C−173,およびNS3−1081ペプチドに対する有意なレベル(1:100の血清希釈で>0.18OD)のIgG反応性は,12名の患者の血漿中,それぞれ12,11,10,9,8,および5名で検出できた(図9)。予測されたように,これらのペプチドのいずれも,10名のHDからの血漿に対しては反応性を有していなかった。ペプチド特異的IgGに対するペプチドの反応性を表3にまとめる。



90%以上の純度を有する上述の6種の各ペプチド,ならびに陰性対照ペプチドを,60名のHCV1b患者(CH,n=24;LC,n=18;およびHCC,n=18)ならびに20名のHDの血清からの各血清サンプルに対する反応性について試験した(図10)。
これらの各サンプルについて100:1希釈の値をプロットした。IgG(OD値)の平均±SDは以下のとおりであった:NS5A−2132(0.48±0.36),E2−488(0.18±0.19),E1−213(0.10±0.21),NS3−1081(0.036±0.14),C−176(0.09±0.14)およびC−173(0.04±0.13)。*はマン・ウィットニー U検定によるP<0.05を示す。NS5A−2132,E2−488,E1−213,またはC−173に対して反応性を有するIgGの平均レベルは,HDのものより統計学的に有意に高かったが,NS3−1081またはC−176の場合にはそうではなかった。NS5A−2132,E2−488,E1−213,C−173,NS3−10810,およびC−176ペプチドに対して有意なレベルの反応性を示すIgG(1:100の血清希釈において>0.101 OD)が,試験した60名の患者の血漿のそれぞれ57(95%),44(73%),28(47%),23(38%),21(35%),および17(28%)において検出できた。これに対し,20名のHDの血清はすべて,有意なレベルのIgGは検出できなかった(図10)。
次に,これらの各ペプチドに反応性を有するIgGのペプチド特異性を,吸収および溶出試験により確認した。各血清サンプルを,対応するペプチドまたは無関係なペプチド(HIV;陰性対照として用いる)のいずれかに,37℃で3回吸収させ,ELISAによりペプチド特異的IgGを測定した(図11)。溶出試験では,第1回の吸収の後にペプチド固定化プレートに結合したIgG分子を対応するペプチドまたは無関係なペプチドで溶出した後に,ELISAにより溶出画分中のペプチド特異的IgGのレベルを測定した。代表的結果について3回の測定のOD値の平均±SDが図示される(図12)。*は両側スチューデントt検定によりP<0.05を示す。
予測されたように,6種のペプチドに対する各IgGはすべて対応するペプチドにより吸収されたが,無関係なペプチド(HIVペプチド)により吸収されなかった。さらに,このIgGは,対応するペプチドによって結合画分から溶出されたが,無関係なペプチドによっては溶出されなかった。これらの結果を合わせると,各ペプチドに反応性を有するIgGはHCV1b由来ペプチドに対して特異的であることが示唆される。
ペプチド特異的細胞性応答の誘導
HCV1bに感染しているHLA−A24陽性の患者(n=12,6名のCH,3名のLC,3名のHCC)およびHCVに感染していないHLA−A24陽性のHD(n=5)からのPBMCを,6種の各ペプチド(純度>90%)または対照HIVペプチドとともに13日間培養し,対応するペプチドでパルスしたC1R−A2402細胞に応答したIFN産生について調べた。HLA−A24陽性HCV1bの患者(n=12)およびHD(n=5)からのPBMCを6種のペプチドで,4つのウェル(15x10/ウェル)で刺激した。培養の第14日に,各ウェルからのペプチド刺激PBMC(80−120x10/ウェル)を別々に回収し,等量に4つに分割した。そのうち2つを,対応するペプチドでパルスしたC1R−A2402細胞に応答してIFN−γを産生する能力について別々に試験した。残りの2つは,陰性対照ペプチド(HIV)を用いた細胞で試験した。HIVペプチド(<50pg/ml)に応答して産生されたIFN−γをバックグラウンドとして差し引いた。*は両側スチューデントt検定によりP<0.05を示す。
C−173,C−176,E1−213,E2−488,NS3−1081,およびNS5A−2132のHCVペプチドは,12名の患者のそれぞれ1,3,4,6,2,および7名(図13,14),および5名のHDのそれぞれ0,0,1,1,1,および1名から,有意なレベル(p<0.05)のIFN−γ産生を誘導した(データ示さず)。これらの6種のペプチドのうち,NS5A−2132ペプチドは,12名の患者の7名からのPBMCおよび試験した60名のHCV1b患者の57名の血清において,細胞性免疫および液性免疫により認識された。
これらのペプチド刺激PBMCの細胞傷害性を,6時間の51Cr遊離アッセイにより確認した(図15)。IFN−γ産生アッセイ(上述)によりポジティブの応答を示すペプチド刺激PBMCを,インビトロでIL−2のみで培養して増殖させた。次に,標準的な6時間の51Cr遊離アッセイにより,対応するペプチドまたはHIVペプチド(陰性対照)でパルスしたC1R−A2402細胞に対する細胞傷害性について,3つの異なるE/T細胞比で試験した。代表的な結果を図示する。値は特異的溶解の%の平均±SDで表す。*は両側スチューデントt検定によりP<0.05を示す。NS5A−2132,E2−488,またはE1−213ペプチドで刺激したPBMCは,対応するペプチドを予め負荷したC1R−A2402細胞に対して有意なレベルの細胞傷害性を示したが,HIVペプチドでは示さなかった(図15)。
図15に示される実験において用いたペプチド刺激PBMCを,20μg/mlの抗HLA−クラスI(W6/32,IgG2a),抗HLA−クラスII(H−DR−1,IgG2a),抗CD8(Nu−Ts/c,IgG2a),および抗CD4(Nu−Th/i,IgG1)モノクローナル抗体(mAb)の存在下で,対応するペプチドでパルスしたC1R−A2402細胞に対する細胞傷害性について試験した。抗CD14(JML−H14,IgG2a)mAbを陰性対照として用いた。3つの異なるE/T比で6時間の51Cr遊離アッセイを行った。値は特異的傷害の%の平均±SDで表す(図16)。*は両側スチューデントt検定によりP<0.05を表す。
3種のペプチドのそれぞれでパルスしたC1R−A2402細胞に対する細胞傷害性は,抗HLA−クラスI(W6/32)またはCD8モノクローナル抗体(mAb)により阻害されたが,試験した他のmAbのいずれによっても阻害されなかった。このことは,ペプチド特異的細胞傷害性が,主としてCD8T細胞によりHLA−クラスI拘束性で媒介されることを示す(図16)。これに対し,残りの3種のペプチド(C−173,C−176,またはNS3−1081)で刺激したPBMCではそのような細胞傷害性は検出できなかった(データ示さず)。
次に,NS5AおよびHLA−A2401遺伝子で一過性にコトランスフェクションしたCOS−7細胞を標的細胞として用いることにより,NS5A−2132ペプチド刺激PBMCが自然にプロセスされて生じたペプチドを認識するか否かを調べた。陰性対照としては,NS5AおよびHLA−A2601遺伝子で一過性にコトランスフェクションしたCOS−7細胞を用いた。患者#1および#2からのNS5A−2132ペプチド刺激PBMCが,NS5AおよびHLA−A2401遺伝子で一過性にコトランスフェクションしたCOS−7細胞を標的細胞として認識してIFN−γを産生する活性について試験した。陰性対照としては,NS5AおよびHLA−A2601遺伝子で一過性でコトランスフェクションしたCOS−7細胞を用いた。値は,E/T比20:1での3回のアッセイにおけるIFN−γ産生の%の平均±SDを表す(図17)。*は両側スチューデントt検定によりP<0.05を示す。
予測されたように,CTL活性を示した(図13)患者#1および#2からのペプチド刺激PBMCは,NS5AおよびHLA−A2401遺伝子でコトランスフェクションしたCOS−7細胞を認識して,有意な量のIFN−γを産生した(図17)。これに対し,これらのPBMCは,陰性対照として用いたNS5AおよびHLA−A2601遺伝子を有するCOS−7細胞には反応しなかった。また,CTL活性を示さなかった他の2名の患者(#3および#4)からのペプチド刺激PBMCも,NS5AおよびHLA−A2401遺伝子でコトランスフェクションしたCOS−7細胞の認識により有意な量のIFN−γを産生しなかった(データ示さず)。
次に,NS5A遺伝子で安定にトランスフェクトし標的細胞として用いたC1R−A2402細胞に対する細胞傷害性を試験した。NS5A遺伝子で安定にトランスフェクトしたC1R−A2402細胞におけるHLA−A24分子の発現,およびHLA−A31遺伝子(陰性対照)で安定にトランスフェクトしたC1R−A2402細胞におけるHLA−A31分子の発現を,FACScanを用いるフローサイトメトリー分析により確認した(図18)。
次に,NS5A遺伝子で安定にトランスフェクトしたC1R−A2402細胞を標的細胞とする細胞傷害性を6時間の51Cr遊離アッセイにより試験した。陰性対照遺伝子(HLA−A3101)で安定にトランスフェクトしたC1R−A2402細胞を陰性対照として用い,NS5A−2132ペプチドでパルスしたC1R−A2402細胞を陽性対照として用いた。3つの異なるE/T比で6時間の51Cr遊離アッセイを行った。値は特異的溶解の%の平均±SDで表す。*は両側スチューデントt検定によりP<0.05を示す。NS5A−2132ペプチドで刺激したPBMCは,陰性対照遺伝子でトランスフェクトしたC1R−A2402細胞に対する細胞傷害性と比較して,NS5A遺伝子でトランスフェクトしたC1R−A2402細胞,および対応するペプチドで予めパルスしたトランスフェクトしていないC1R−A2402細胞の両方に対して,より高いレベルの細胞傷害性を示した(図19)。これらの結果は,NS5A−2132ペプチド刺激PBMCがHCV1b細胞のHLA−A2402分子上の自然にプロセスされて生じたペプチドを首尾よく認識したことを示唆する。
抗NS5A−2132IgGについてのさらなる研究
抗ペプチドIgGの生物学的役割の可能性をさらによく理解するために,吸収および溶出アッセイにより,抗NS5A−2132IgGが全NS5タンパク質を認識するか否かを調べた。NS5A−2132およびHIVペプチドをそれぞれ陽性対照および陰性対照として用いた(吸収試験および溶出試験の詳細は上述を参照)。その結果,抗ペプチドIgGは,全NS5タンパク質では吸収も溶出もされなかった(図20)。このことは,このペプチドIgGは全NS5タンパク質とは反応しなかったことを示唆する。
次に,Huh7細胞を,患者血清(血清が高レベルの抗NS5A−2132活性を有する2名のHCV1b患者からの血清)の存在下で3日間までインキュベートした。陰性対照としては,2名のHDからの血清およびFCSを用いた。生存可能なHuh7(NNU50−1)細胞の数を細胞計数キット8(10μl/ウェル)で数え,3回のアッセイの平均値を示す。試験した血清はいずれも,これらの培養条件下ではHuh7(NNU50−1)細胞の増殖を阻害しなかった(図21)。また,抗NS5A−2132IgGがADCC活性を媒介する能力を有するか否かを調べた。HLA−A24陽性のHDから新たに単離したPBMCを,上述の4種の非働化血清の存在下で,このペプチドで予めパルスしたC1R−A2402細胞に対する細胞傷害性について試験した。しかし,これらの条件では試験した血清のいずれもADCC活性を示さなかった(図22)。
[実施例3].HCV感染者の予後の予測
被験者
血清は,1995年から2002年のコホート研究における,HCV関連疾患を有する33名の患者から得た。33名の患者のフォローアップ調査の結果は表4に示される。慢性肝炎(CH,n=68),肝硬変(LC,n=43),および肝細胞癌(HCC,n=52)を有する患者の血清も分析に用いた。これらの患者は,最初の血清サンプリングの際に,生化学および組織学的所見,超音波検査,およびコンピュータ連動断層撮影により診断した。抗HCV抗体は,化学発光酵素イムノアッセイ(CLEIA)キット(Lumipulse II HCV,Fujirebio Inc.,Tokyo,Japan)により,または第2世代もしくは第3世代酵素イムノアッセイ試験(SRL,Tokyo,Japan)により測定した。血清中のHCV−RNAはRT−PCR(SRL,Tokyo,Japan)を用いて検出した。HCVゲノタイプは,患者の血清中のHCVをRT−PCR(SRL,Tokyo,Japan)で直接シークエンシングすることにより決定した。HCV感染していない被験者からも血清を得た。これは,自己免疫疾患を有する24名の被験者(全身性エリテマトーデスを有する6名の患者,ベーチェット病を有する1名の患者およびアトピー性皮膚炎を有する17名の患者),B型肝炎ウイルス(HBV)感染の17症例(HBV表面抗原にポジティブ),ヒト免疫不全ウイルス(HIV)を有する3名の患者,およびヒトT細胞白血病ウイルスタイプI(HTLV−1)感染を有する10症例を含む。陰性対照として,HBVの肝炎ウイルスまたはワクチン接種の履歴を有さず,正常な肝機能を有する37名からの血清を試験した。

ペプチド
純度90%以上の次の2つのペプチドは,BIOSYNTHESIS(Lewisville,TX)から購入した;HCV1bコアタンパク質35−44(YLLPRRGPRL(配列番号1);HLA−A2拘束性CTL活性を誘導することができる),およびHCV1bNS5Aタンパク質2132−2140(RYAPACKPL(配列番号2);HLA−A24拘束性CTL活性を誘導することができる)。陰性対照としては,HLA−A2結合モチーフ(SLYNTVATL(配列番号64))およびHLA−A24結合モチーフ(RYLRDQQLLGI(配列番号63))を有するHIV由来ペプチドを用いた。
ペプチドに反応性を有する抗体の測定
ペプチド特異的IgGのレベルは,酵素抗体法(ELISA)により測定した。簡単には,各ペプチドをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し,−20℃で保存した。化学架橋剤であるジサクシンイミジルスベレート(DSS)(PIERCE,Rockford,IL)を含む0.1M炭酸バッファで希釈したペプチド(20μg/ウェル)をELISAプレートに結合させた。0.05%Tween20−PBS(PBST)でウェルを3回洗浄した。プレートをBlock Ace(Yukijirushi,Tokyo,Japan)で4℃で一晩ブロッキングした。血清サンプルを0.05%Tween20−BlockAceで100倍,200倍,400倍に希釈し,100μl/ウェルのサンプルを各ウェルに加えた。37℃で2時間インキュベートした後,プレートをPBSTで9回洗浄し,100μl/ウェルの1000倍希釈ウサギ抗ヒトIgG(γ鎖特異的)(DAKO,Glostrup,Denmark)とともに37℃で2時間インキュベートした。9回洗浄した後,100μl/ウェルの1:100希釈抗ウサギIgG結合西洋ワサビパーオキシダーゼ・デキストランポリマー(En Vision,DAKO)を各ウェルに加え,プレートを室温で40分間インキュベートした。洗浄した後,100μl/ウェルのテトラメチルベンチジン基質溶液(KPL,Guildford,UK)を加え,1.0Mのリン酸を加えることにより反応を停止させた。
統計学
統計学的分析は,χを検定を用いて行った。p<0.05の値を統計学的に有意であるとした。
交叉反応性,HLA拘束性,およびゲノタイプ拘束性
HCV1b由来ペプチドに対して反応性を有する2つの抗体の交叉反応性を調べた。60名のHCV患者,およびコホート研究に含まれていない患者(CH,n=22,LC,n=21,およびHCC,n=17)の血清を,コアの35−44(C−35)およびNS5Aの2132−2140(NS5A−2132)のペプチドに対する反応性について調べた。自己免疫疾患を有する24名の被験者,HBV感染の17症例およびHTLV−1感染の10症例からも血清を入手した。37名のHDからの血清を陰性対照として用いた。連続希釈した血清サンプルのペプチド反応性IgGのレベルをELISAにより測定した。各サンプルの吸光度(OD)の値を示した。100:1の血清希釈でのODの代表的な結果を示す。カットオフ値は0.093(HDからのODの平均+2SD)に設定した。統計学的分析はχ検定を用いて実施した。p<0.05の値を統計学的に有意とした。
その結果,HCV陽性患者の56/60(93.3%)において有意なレベルの抗C−35IgGが検出され,3群(CH,LC,およびHCC患者)の間でIgGレベルには有意な差がなかった(図23)。HTLV−1患者を除き,他の群からの血清は抗C−35抗体にポジティブではなかった。HTLV−1+被験者の8/10症例の血清において,低いが有意なレベルの抗C−35IgGが検出された。患者の45/60(75%)で有意なレベルの抗NS5A−2132IgGが検出された。IgGレベルは,3群の間では,CH患者では高く,LCでは中程度であり,HCC患者では低かった(p<0.05vsCH)(図23)。他の群からの血清についても,試験した症例の大部分で抗NS5A−2132IgGがポジティブであった。さらに,3/37のHDの血清は抗NS5A−2132IgGがポジティブであった。
次に,HCV関連疾患を有する29名の患者で,HLA−クラスIA表現型と,抗C−35IgGまたは抗NS5A−2132IgGのレベルとの間の相関を調べた。HLA−クラスIA表現型は標準的な血清学的方法により決定した。9名の患者はHLA−A2陽性,13名の患者はA24陽性,および残りの7名の患者はA2陰性,A24陰性であった。抗C−35および抗NA5A 2132は,標準的ELISAにより測定し,各患者の100:1の血清希釈でのOD値を図示した。いずれの抗体も,HLA−クラスIA表現型の相違にかかわらず,HCV感染患者の大部分で検出された(図24)。
次に,HCV−1b(n=29),HCV−2a(n=16)およびHCV−2b感染(n=3)を有する患者において,HCVゲノタイプと,抗C−35IgGまたは抗NS5A−2132IgGのレベルとの間の相関を二重盲検法で調べた。HCVゲノタイプは,患者の血清中のHCVを直接シークエンスすることにより決定した。すべての被験者の100:1希釈での結果を図25に示す。抗C−35および抗NA5A 2132は,標準的なELISAにより測定し,各患者の100:1の血清希釈でのOD値を図示した。カットオフ値は0.093(HDからのODの平均+2SD)に設定した。
抗C−35抗体は,それぞれ,26/30のHCV−1b,15/15のHCV−2a,および3/3のHCV−2b感染患者で検出された。同様に,抗NS5A−2132抗体は,それぞれ,23/30のHVC1b,10/16のHCV−2a,および3/3のHCV−2b感染患者からの血清中で検出された(図25)。これらの結果は,HCV陽性患者においては,HLA−クラスIAサブタイプの相違およびHCVゲノタイプの相違にかかわらず,抗C−35抗体および抗NS5A−2132抗体の両方が検出されたことを示す。
以上の結果は,抗NS5A−2132抗体のレベルはHCV感染個体の予後と相関するが,抗C−35抗体は相関しないことを示唆する。
次に,CH(n=24),LC(n=22),HCC(n=26),HD(n=9)の血清を新たに用意し,抗NS5A−2132IgGのレベルを測定した(図26)。CH,LC,HCCおよびHD群の平均±SDはそれぞれ0.51±0.24,0.27±0.20,0.26±0.23,0.08±0.07であった。LCおよびHCC患者における抗NS5A−2132抗体のレベルはCH患者より有意に低かったが(p<0.05),HDより高かった。これらの結果を標準的な第3世代アッセイにより測定した結果と比較するために,すべての血清について,市販のキット(第3世代アッセイ,SRL)を用いて抗HCV抗体のレベルを測定した。レベルは指数として示される(左カラム)。指数で示される抗HCVのレベルと抗NS5A−2132のレベルとの間の相関は,右カラムに示される。第3世代アッセイにより測定した抗HCV抗体のレベルは3群の間で有意に相違しなかった(CH;10±2.7,LC;11±1.4,HCC;11±1.1)(図27)。さらに,これらの血清について,市販のキット(SRL,Japan)を用いてHCV RNAレベルを測定した。HCC患者のHCV RNAレベル(360±269.6)は,CH患者(610±347.3)またはLC患者(610±246.4)より低かった(p<0.05)(図28)。しかし,抗NS5A抗体のレベルとHCV RNAレベルとの間には明らかな相関はなかった(図28)。
コホート研究の結果
抗NS5A−2132抗体とHCV陽性患者の予後との相関を個々のレベルでさらに調べるために,1990年から2002年に行われた,HCVに感染している住人を毎年スクリーニングするコホート研究からのサンプルについて2つの抗体の血清レベルを調べた。この研究のためには,1995年および2002年に同じ個体から2回採取した33名の患者からの合計66の血清を用いた。1995年の時点におけるこれらの33名の患者の診断は,CH(n=17),LC(n=1),無症候性キャリア(ASC)(n=4),およびHCV感染の過去の病歴(自然回復した個体)(n=11)であり,2002年の時点では,CH(n=13),LC(n=4),HCC(n=2),無症候性キャリア(ASC)(n=1),およびHCV感染の過去の病歴(n=13)であった。すなわち,7年間の間に,26名の患者では疾患の進行が観察されなかったが,残りの7名の患者では進行が観察された(表4)。1995年および2002年に100:1の血清希釈で測定した各患者における抗C−35抗体および抗NS5A−2132IgGのOD値を図29に示す。予測されたように,33症例の大部分においては,疾患の状態にかかわらず,1995年に測定した抗C−35抗体のレベルと2002年に測定したレベルとはほぼ等しかった。これに対し,1995年に測定した抗NS5A抗体のレベルは,疾患が進行した7名の患者すべてにおいては2002年に測定したときに減少していた。一方,疾患が進行しなかった25症例の大部分において2002年で測定した値とほぼ等しかった。疾患が進行した7名の患者の血清中の1995年の時点における抗NS5A−2132抗体の中央値±SD(0.67±0.13)は,2002年に測定した値(0.27±0.11)より有意に高かった(p<0.05)。
次に,33名の被験者を5つの群(CH,LC,HCC,HCV感染の過去の病歴[回復した個体],およびASC)に分け,2002年における100:1の血清希釈での2つの抗体のレベルをプロットした(図30)。統計学的分析は,χ検定を用いて行った。p<0.05の値を統計学的に有意とした。抗C−35抗体のレベルは,CH,LC,およびHCCではいずれも高く,治癒した個体では非常に低くなるか検出できなくなった。一方,抗NS5A−2132抗体のレベルはCH,回復した個体およびASCで高く,LCで中程度であり,HCC患者で最も低かった(p<0.05vsCH)。
[実施例4]:ルミネックス(Luminex)法によるHLA−A24+HCV感染患者の血清におけるHCVペプチドと反応性を有するIgGの検出
ELISA法より感度が高いと考えられるルミネックス(Luminex)法を用いて、実施例1と同様にして、HLA−A24+HCV感染患者の血清におけるHCVペプチドと反応性を有するIgGの検出を行った。
ペプチドの微小ビーズへの結合
ペプチドを、製造者の指示に従って各蛍光色素の含有量を識別コード(以下、カラーコード)化した微小ビーズ(Luminex社製、xMAP Multi−Analyte COOH Beads)にそれぞれ次のようにして結合した。フィルタープレートの各ウェルにカラーコード化した未調製の微小ビーズを100μlずつ入れて吸引し、その後洗浄用緩衝液(リン酸緩衝液生理食塩水(PBS)(pH7.4±0.1)、Tween(登録商標)20(0.05%v/v))で2回洗浄し各ウェルを同時に吸引した。次に0.1M MES(2−モルホリノエタンスルホン酸)緩衝液(pH7.0)50μlを入れ、EDC(N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩)(1mg/ml/0.1M MES緩衝液(pH7.0))を各ウェル10μlずつ添加した。数百μlのペプチド(1mg/ml,0.1M MES緩衝液、pH7.0)をこの洗浄した微小ビーズと各ウェル内で混合した。その後ペプチドと混合した微小ビーズを、暗所で20分間、室温で反応させた後、さらにEDC(1mg/ml/0.1M MES緩衝液(pH7.0))を各ウェル10μlずつ添加し、暗所で、20分間室温で反応させる操作を2回繰り返した。余剰液を吸引後、1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.0)を各ウェル100μlずつ添加し、暗所で、15分間室温で反応させた。次に、各ウェルのビーズを上記洗浄用緩衝液で3回洗浄し、ブロックエース(登録商標)に0.05%アジ化ナトリウムを入れて調整した保存用溶液で回収した。
微小ビーズミックスの調製
各ウェルの微小ビーズを調製するときは、上記のようにカラーコード化した微小ビーズにペプチドを結合させて得たビーズ溶液をフィルタープレートの各ウェル当たり微小ビーズが約5000個になるように入れて(各ウェル当たりビーズ1種類約1μl)調製する。また、このように調製した微小ビーズを10種類等量で混ぜて、上記洗浄用緩衝液(PBS、TWEEN(登録商標)20(0.05%v/v))で総量が約25μlになるように希釈してビーズミックスを調製した。
サンプルの調製
血清を使用した。血清を反応用緩衝液(PBS(pH7.4±0.1)、Tween(登録商標)20(0.05%v/v)、牛胎児血清アルブミン(BSA)10mg/ml)を用いて100〜1000倍希釈した血清希釈液をそれぞれ100μl調製した。
抗ペプチド抗体測定
ビオチン化二次抗体としては、ビオチン化ヤギ抗ヒトIgG(ガンマ鎖特異的)を上記反応用緩衝液で希釈して使用した。蛍光色素標識ストレプトアビジンとしては、PE(フィコエリスリン)で標識したストレプトアビジン(SRPE)1mg/mlを上記反応用緩衝液で20μlに希釈(1/50希釈)して使用した。
フィルタープレートの各ウェルに上記洗浄用緩衝液を100μl入れ、続いて吸引除去した。この洗浄操作を2回行った。次に、各ウェルに上記ビーズミックスを25μl入れた96ウェルのフィルタープレートを該洗浄用緩衝液で2回洗浄した。洗浄後、全てのウェルに上記サンプルをそれぞれ100μl入れた。次にフィルタープレートにカバーをして暗所で、2時間室温でプレートシェーカー(300rpm)を用いて振とうした後、吸引した。続いて、各ウェルに上記洗浄用緩衝液をそれぞれ100μl入れ、吸引除去した。この洗浄操作を3回行った。
次に、各ウェルにビオチン化二次抗体としてビオチン化ヤギ抗ヒトIgG(ガンマ鎖特異的)をそれぞれ100μl入れ、フィルタープレートにカバーをして暗所で1時間室温でプレートシェーカー(300rpm)を用いて振とうした。その後、吸引して、各ウェルに上記洗浄用緩衝液をそれぞれ100μl入れ、吸引除去した。この洗浄操作を3回行った。
続いて、各ウェルにSRPEをそれぞれ100μl入れて、フィルタープレートにカバーをして暗所で30分間室温でプレートシェーカー(300rpm)を用いて振とうした。その後、吸引して、各ウェルに上記洗浄用緩衝液をそれぞれ100μl入れ、吸引除去した。この洗浄操作を3回行った。その後、各ウェルに該洗浄用緩衝液をそれぞれ100μl入れて、プレートシェーカー(300rpm)を用いて2〜3分間振とうした後、得られたサンプル50μlを蛍光フローメトリーシステムで測定した。結果を図31および32、および表5に示す。

[実施例5]:C型肝炎ウイルス由来ペプチドワクチンを用いるHCV感染の治療
HLA−A2陽性またはHLA−A24陽性のHCV感染者において,本発明のC型肝炎ウイルス由来ペプチドを用いたワクチンの抗ウイルス効果を調べた。被験者はいずれも,HCV1bに感染しており,インターフェロン+リバビリンによる治療に応答しなかった患者である。C型肝炎ウイルス由来ペプチドC−35,NS5A−2132,E2−488,E1−213およびNS3−1081はGMP適合下に合成し,精製し,凍結乾燥粉末として保存した。C−35,NS5A−2132,E2−488およびNS3−1081のペプチドは,少量のDMSOに溶解(1mg/10〜25μl)し,E1−213は7%炭酸水素ナトリウム注射液(メイロン)に溶解(1mg/15μl)した。これらをそれぞれ注射用生理食塩水で希釈(1〜2mg/ml)し,0.22μmのフィルタを通して滅菌した。この溶液を等量のアジュバント(Montanide ISA−51)と混合して,エマルジョン注射剤を得た。このうちHLA−A2陽性の被験者3名にはC−35注射剤を,HLA−A24陽性の被験者5名にはNS5A−2132注射剤を投与した。投与は,2週間ごとに,1回あたり0.3mgのペプチドを含むエマルジョンを側腹部に注射することにより行った。HCV RNAの量およびGOT,GPT,γ−GTP,AFPの値を継続的にモニターした。
結果を図33および図34に示す。これらの図から明らかなように,試験したほとんどの被験者において,ワクチン投与開始後HCV RNAの量が顕著に低下しており,本発明のペプチドが抗HCVワクチンとして有効であることが実証された。
産業上の利用性
この発明に係るC型肝炎ウイルス由来ペプチドは,HLA結合モチーフをその配列中に含んでいて,C型肝炎ウイルスに反応する抗体により認識されるとともに,さらにHLA−A2またはHLA−A24拘束性細胞傷害性T細胞による認識性を有している。
したがって,この発明のC型肝炎ウイルス由来ペプチドは,HCV感染に起因する疾患に対して有効なワクチンとなり得る。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】

【図26】

【図27】

【図28】

【図29】

【図30】

【図31】

【図32】

【図33】

【図34】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA結合モチーフを配列中に含み,かつ,C型肝炎ウイルス患者で検出される抗体により認識されることを特徴とするC型肝炎ウイルス由来ペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドが配列番号1〜8、16、20および38のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1に記載のC型肝炎ウイルス由来ペプチド。
【請求項3】
配列番号1〜8、16、20および38のいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性をもつアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1または2に記載のC型肝炎ウイルス由来ペプチド。
【請求項4】
HLA−A2またはHLA−A24拘束性細胞傷害性T細胞による認識性をさらに有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のC型肝炎ウイルス由来ペプチド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のC型肝炎ウイルス由来ペプチドを含むことを特徴とするポリペプチド。
【請求項6】
請求項5に記載のポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性をもつアミノ酸配列を有することを特徴とするポリペプチド。
【請求項7】
HLA−A2またはHLA−A24拘束性細胞傷害性T細胞による認識性をさらに有することを特徴とする請求項5または6に記載のポリペプチド。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のC型肝炎ウイルス由来ペプチド,または請求項5〜7のいずれか1つに記載のポリペプチドをコードすること,またはこれらに対して相補的な配列を有することを特徴とするヌクレオチド。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のC型肝炎ウイルス由来ペプチド,または請求項5〜7のいずれか1つに記載のポリペプチドを認識することを特徴とする抗体または抗体類似活性物質。
【請求項10】
請求項8に記載のヌクレオチドを含有することを特徴とするベクター。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のC型肝炎ウイルス由来ペプチド,または請求項5〜7のいずれか1つに記載のポリペプチドを用いて細胞傷害性T細胞を誘導することを特徴とする細胞傷害性T細胞の誘導方法。
【請求項12】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のC型肝炎ウイルス由来ペプチド,請求項5〜7のいずれか1つに記載のポリペプチド,請求項8に記載のヌクレオチド,または請求項9に記載の抗体もしくは抗体類似活性物質を使用することを特徴とする肝炎ウイルスの検出方法。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のC型肝炎ウイルス由来ペプチド,請求項5〜7のいずれか1つに記載のポリペプチド,請求項8に記載のヌクレオチド,あるいは請求項9に記載の抗体または抗体類似活性物質を使用することを特徴とするC型肝炎ウイルス感染症の診断方法。
【請求項14】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のC型肝炎ウイルス由来ペプチド,請求項5〜7のいずれか1つに記載のポリペプチド,請求項8に記載のヌクレオチド,あるいは請求項9に記載の抗体または抗体類似活性物質を使用することを特徴とするC型肝炎ウイルス感染症の予防または治療方法。
【請求項15】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のC型肝炎ウイルス由来ペプチド,請求項5〜7のいずれか1つに記載のポリペプチド,請求項8に記載のヌクレオチド,あるいは請求項9に記載の抗体または抗体類似活性物質を有効成分として含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項16】
医薬組成物がC型肝炎ウイルスワクチンであることを特徴とする請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のC型肝炎ウイルス由来ペプチド,請求項5〜7のいずれか1つに記載のポリペプチド,請求項8に記載のヌクレオチド,あるいは請求項9に記載の抗体または抗体類似活性物質を使用することを特徴とするC型肝炎ウイルス感染症の予後の予測方法。
【請求項18】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のC型肝炎ウイルス由来ペプチド,請求項5〜7のいずれか1つに記載のポリペプチド,請求項8に記載のヌクレオチド,あるいは請求項9に記載の抗体または抗体類似活性物質を含むことを特徴とするC型肝炎ウイルス感染症を診断または予後を予測するためのキット。

【国際公開番号】WO2005/028503
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514147(P2005−514147)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014312
【国際出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(304058240)株式会社グリーンペプタイド (10)
【Fターム(参考)】