C/C複合材及びC/C複合材の製造方法
【課題】高密度かつ高強度で、剥離、割れの生じにくい曲面部を有するC/C複合材を提供する。
【解決手段】C/C複合材101の前記曲面部の内側面101S1と外側面101S2とが相対向し、前記C/C複合材の前記外側面101S2は、頂部が前記回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を有し、前記C/C複合材の前記内側面101S1側では前記炭素繊維が前記内側面101S1に沿って配向し、かつ前記C/C複合材の外側面101S2側では前記炭素繊維は、前記外側面の前記起伏の傾斜に沿って配向したC/C複合材。この構成によれば、あらかじめプリフォームのしわが外周面全体に分散するように起伏を形成した後、プリフォームを圧縮して製造するため、C/C複合材の外周面にしわが広く浅く分散し、しわが集中した欠陥箇所が生じることなく剥離あるいは、割れの生じにくい高密度で高強度のC/C複合材。
【解決手段】C/C複合材101の前記曲面部の内側面101S1と外側面101S2とが相対向し、前記C/C複合材の前記外側面101S2は、頂部が前記回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を有し、前記C/C複合材の前記内側面101S1側では前記炭素繊維が前記内側面101S1に沿って配向し、かつ前記C/C複合材の外側面101S2側では前記炭素繊維は、前記外側面の前記起伏の傾斜に沿って配向したC/C複合材。この構成によれば、あらかじめプリフォームのしわが外周面全体に分散するように起伏を形成した後、プリフォームを圧縮して製造するため、C/C複合材の外周面にしわが広く浅く分散し、しわが集中した欠陥箇所が生じることなく剥離あるいは、割れの生じにくい高密度で高強度のC/C複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C/C複合材及びその製造方法にかかり、特に炭素繊維と炭素質マトリックスとを含むC/C複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、高い耐熱性と強度とを備えているため、炭素マトリックスと複合化し、C/C複合材(炭素繊維強化炭素複合材料ともいう)として、耐熱性、化学的安定性、強度を必要とする様々な分野で利用されている。C/C複合材は、炭素繊維の複合化の方法により様々な種類があり、これを用いてさまざまな炭素繊維成形体を形成することができる。
【0003】
C/C複合材の製造方法の1つとして、抄造方式のC/C複合材の製造方法がある。(特許文献1及び2)。抄造方式のC/C複合材は、炭素繊維を液体中に懸濁させてスラリーを形成し、このスラリー中に孔を有する金型を浸漬し、金型の孔からスラリーを吸引することにより、この金型の表面側に炭素繊維を堆積させて成形物を成形する。その後得られた成型物を乾燥および焼成してC/C複合材を得ることができる。この抄造方式のC/C複合材は、金型の形状により、筒形状などの比較的自由な形状の成形物を作製できるという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−68851号公報
【特許文献2】特開2002−97082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のC/C複合材は、比較的自由な形状のC/C複合材が得られる半面、曲面部を有する回転体形状ではC/C複合材の高密度化が困難であり、熱分解炭素を含浸するなどの複雑な方法によってC/C複合材の高密度化及び、高強度化を行う必要がある。
本発明は前記実情に鑑みてなされたもので、高密度かつ高強度で、剥離、割れの生じにくい曲面部を有するC/C複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記C/C複合材及びその製造方法により上記課題を解決できることを見出した。
[1]
曲面部を備えた回転体状のC/C複合材であって、
前記C/C複合材は、炭素繊維と、炭素質マトリックスとを含み、
前記C/C複合材の前記曲面部の内側面と外側面とが相対向し、
前記C/C複合材の前記外側面は、頂部が前記回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を有し、
前記C/C複合材の前記内側面側では前記炭素繊維が前記内側面に沿って配向し、かつ
前記C/C複合材の前記外側面側では前記炭素繊維が、前記外側面の前記起伏の傾斜に沿って配向したC/C複合材。
[2]
[1]に記載のC/C複合材であって、
前記内側面と、前記外側面は、筒状体を構成するC/C複合材。
[3]
[1]に記載のC/C複合材であって、
前記外側面は、円錐体を構成するC/C複合材。
[4]
曲面部を備えた回転体状のC/C複合材の製造方法であって、
炭素繊維と、炭素質マトリックスの前駆体成分とを含み、相対向する内側面と外側面とを有する曲面部を備えたプリフォームを形成する工程と、
前記プリフォームの外側面に周期的な起伏を形成する工程と、
前記プリフォームを、加圧する工程と、
前記加圧成形されたプリフォームを焼成する工程とを有し、
前記C/C複合材の前記曲面部の内側面と外側面とが相対向し、
前記C/C複合材の前記外側面が、頂部が前記回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を有し、
前記C/C複合材の前記内側面側では前記炭素繊維が前記内側面に沿って配向し、かつ、
前記C/C複合材の前記外側では炭素繊維が、前記C/C複合材の前記外側面の前記起伏の傾斜に沿って配向したC/C複合材を製造することを特徴とするC/C複合材の製造方法。
[5]
[4]に記載のC/C複合材の製造方法であって、
前記起伏を形成する工程は、
前記プリフォームを被覆部材で被覆し、前記被覆部材を介して、前記外表面側に起伏を形成する工程を含むC/C複合材の製造方法。
[6]
[4]に記載のC/C複合材の製造方法であって、
前記加圧する工程は、前記プリフォームを凹凸を有する被覆部材で被覆し、前記被覆部材の凹凸を前記外側面側に転写し、前記外側面側に起伏を形成する工程と同時に加圧する工程であるC/C複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、あらかじめプリフォームのしわが外周面全体に分散するように起伏を形成した後、プリフォームを圧縮して製造するため、C/C複合材の外周面にしわが広く浅く分散し、しわが集中した欠陥箇所が生じることなく剥離あるいは、割れの生じにくい高密度で高強度のC/C複合材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材を示す斜視図
【図2】本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材の断面図
【図3】本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材の要部拡大斜視図
【図4】本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材の要部拡大断面図
【図5】(a)乃至(c)は本発明の実施の形態1のC/C複合材の筒状部の加圧成形工程を示す断面図であり、(a)は起伏が形成される前のプリフォーム、(b)は起伏が形成されたプリフォーム(成形前)、(c)は、起伏が形成されたプリフォームの成形後(成形体)を示す
【図6】(a)、(b)は本発明の実施の形態1のC/C複合材の筒状部の加圧成形工程を示す断面図であり、(a)は、起伏が形成されたプリフォームを被覆部材で覆った成形前、(b)は起伏が形成されたプリフォームを被覆部材で覆った成形後の状態を示す
【図7】(a)乃至(c)は本発明の実施の形態1のC/C複合材の筒状部の加圧成形工程の変形例を示す断面図であり、(a)は起伏が形成される前のプリフォーム、(b)は凹凸を有する被覆部材で覆った状態、(c)は起伏が形成された成形体を示す
【図8】本発明の実施の形態1のC/C複合材の筒状部に起伏の形成方法を示す断面図
【図9】(a)は、本発明の実施の形態1の筒状部を構成するC/C複合材100の斜視図、(b)乃至(d)は、それぞれ(a)の断面図、断面図の要部拡大図、更なる要部拡大図
【図10】本発明の実施の形態1のC/C複合材の製造方法の工程フロー図
【図11】(A)から(E)は本発明の実施の形態1のC/C複合材の製造方法を示す概要図であり、(A)は水に炭素繊維、バインダを分散した図、(B)は炭素繊維、バインダを凝集させフロックを形成した図、(C)は凝集したフロックを抄造しプリフォームを形成する図、(D)は得られたプリフォームを成形する図、(E)はバインダが熱硬化した成形体の図を示す
【図12】実施の形態1の変形例のフェルトの積層法のプリフォームを示す図、(A)は斜視図、(B)は断面模式図
【図13】(a)乃至(c)は本発明の実施の形態2のC/C複合材の製造工程における起伏(凹凸)形成工程を示す説明図であり、(a)は、プリフォームを被覆部材で覆い圧子を配置した図、(b)は圧子でプリフォームの周囲に起伏を形成する図、(c)は成形により起伏が形成された成形体の図を示す
【図14】(a)乃至(c)は本発明の実施の形態3のC/C複合材の製造工程における起伏(凹凸)形成工程を示す説明図であり、(a)は、抄造後の湿ったプリフォームに圧子を配置した図、(b)は凹凸が形成されたプリフォームの図、(c)は、凹凸の形成されたプリフォームが被覆部材で覆われ成形される図を示す
【図15】比較例の成形体を示し、しわが一カ所にでき大きな欠陥が形成された図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
本発明のC/C複合材は、炭素繊維と炭素質マトリックスの前駆体成分とを含むプリフォームに周期的な起伏を形成するしわ加工を施すことで得られるものである。
ここで用いられるプリフォームは、炭素繊維を抄造することで得られるプリフォームをはじめ、炭素繊維がフェルト状のもの、あるいはこれらを巻回したものなど、どのようなものでもよい。
【0010】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1では抄造法によって形成された炭素繊維のプリフォームにしわ加工を施し、周期的な起伏を形成し、成形・硬化工程、脱脂・焼成工程を経て本発明のC/C複合材を得ている。
図1に本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材の斜視図を示し、図2に本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材の断面図を示す。また図3に本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材の要部拡大図を示し、図4に本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材の要部拡大断面図を示す。
本実施の形態は、図1に示すように、C/C複合材で形成された筒状部101で構成され、例えばシリコン単結晶引き上げ装置の保温筒を構成するものである。図4に示すように、本実施の形態のC/C複合材の外側面101S2は、頂部が軸O方向に延びた波板状の周期的な起伏を有し、C/C複合材の内側面101S1側は炭素繊維1が内側面に沿って配向している。そしてC/C複合材の外側面101S2側ではこの炭素繊維1は、C/C複合材の外側面の起伏の傾斜に沿って配向されている。
【0011】
また、本実施の形態のC/C複合材は、炭素繊維と、炭素質マトリックスとを含み曲面部からなる筒状部101を備えたC/C複合材である。本実施の形態のC/C複合材の曲面部は、凹面を構成する第1の曲面としての内側面101S1と、この内側面101S1に対して並行して配設され、凸面を構成する第2の曲面としての外側面101S2とを有している。そして、C/C複合材の外側面101S2側よりも内側面101S1側の方で、より面方向の炭素繊維の配向性が高くなるように構成されている。このように本実施の形態のC/C複合材は、外側面101S2と内側面101S1とを備えた筒状体からなる筒状部で構成されている。C/C複合材の曲面部の内側面101S1と外側面101S2とが相対向し、このC/C複合材の外側面101S2は、頂部が中心軸O方向に延びた波板状の周期的な起伏を有している。そして、C/C複合材の内側面101S1側では炭素繊維1が内側面に沿って配向し、かつ、C/C複合材の外側面101S2側では炭素繊維は、外側面の起伏の傾斜に沿って配向している。
【0012】
本実施の形態では炭素繊維は直線状繊維からなる。そして、炭素繊維は、炭素質マトリックス内で炭素繊維の長手方向がC/C複合材の曲面方向に配向した薄片体を構成する。C/C複合材はこの薄片体の積層体によって構成されている。
炭素質マトリックスとは、炭素繊維間に存在し炭素繊維どうしをつなぎ止める炭素質の母材をいうものとする。薄片体については後述する。
【0013】
C/C複合材の筒状部101においては内側面側の炭素繊維が、筒状部の内表面に沿って配向しているので、切削加工しても滑らかな面を形成することが出来る。さらに、連続気孔は炭素繊維の方向に沿ってできやすいため、炭素繊維に沿ったC/C複合材の表面から厚さの方向への連続気孔ができにくい。そのためこのC/C複合材を単結晶引き上げ装置などに用いる場合、反応性ガスを流しながら引き上げを行う場合も、反応性ガスの複合材内部への浸透を抑制することができる。
【0014】
したがって、例えば、本実施の形態のC/C複合材をシリコン単結晶引き上げ装置の保温筒として使用した場合において、SiO、Si蒸気等の反応性ガス中で使用しても、C/C複合材内にガスが浸透しにくく、C/C複合材のライフを長くすることができる。また、C/C複合材において滑らかな表面が形成できるため、シリコンなどの濡れ性の高い物質の蒸着を抑制することができる。
【0015】
また、本発明の実施の形態1のC/C複合材は、筒状部全面において筒状部101の外側面101S2側から内側面101S1側に炭素繊維のC/C複合材の筒状部の周方向の配向度が徐々に大きくなるようにしても良い。本実施の形態1のC/C複合時を黒鉛材などの熱膨張係数の大きく異なる材質の部材と共に使用しても、発生する熱応力を小さくすることができる。
【0016】
例えば、本実施の形態1のC/C複合材と、黒鉛材の組み合わせでは、黒鉛材の熱膨張係数がC/C複合材の3倍以上であるため、熱膨張差によって互いに応力がかかることがある。本実施の形態1のC/C複合材では、筒状部全体に繊維配向が規則的に繰り返されているので、欠陥個所が少なくなっている。そのため、C/C複合材と黒鉛材との熱膨張係数の違いによる応力が加わったとしてもC/C複合材の欠陥箇所が少ないためクラックが発生しにくくなり、C/C複合材が破損しにくくなる。
【0017】
本実施の形態のC/C複合材は、炭素繊維の短繊維を使用しているため、炭素繊維の高弾性が発現しにくくC/C複合材全体は軟らかく低い弾性率を有する。またその反面、内表面側では炭素繊維のC/C複合材の筒状部の周方向に配向しているため、外側面101S2側よりも硬くすることができる。従って、内表面は他の部材との接触による衝撃などによる傷みの発生を防止することができる。また、C/C複合材が全周にわたって凸状の繊維配向が規則的に繰り返され分散しているため、凸状の繊維配向が局在した欠陥が無く、外部から力が加わっても破損しにくくすることができる。
【0018】
このため、本実施の形態のC/C複合材を用いたシリコン単結晶引き上げ装置の保温筒では、C/C複合材を割れにくくすることができるため、保温筒のライフを長くすることができる。
【0019】
C/C複合材において、全周にわたって周期的な起伏が規則的に繰り返されているようにするためには、以下のような処理を行えばよい。図5(a)乃至(c)は本発明の本実施の形態のC/C複合材の筒状部の加圧成形工程を示す断面図であり、(a)は起伏が形成される前のプリフォーム、(b)は起伏が形成されたプリフォーム(成形前)、(c)は、起伏が形成されたプリフォームの成形後(成形体)を示す。図11(A)〜(E)に示すような、筒型の抄造用金型を用いて抄造を行い成形体を得る方法が挙げられる。プリフォームの製造方法は、どのような方法でもかまわず特に限定されない。図11(A)から(E)に示す抄造法に基づいて説明する。(A)は水に炭素繊維、バインダを分散した図、(B)は炭素繊維、バインダを凝集させフロックを形成した図、(C)は凝集したフロックを抄造しプリフォームを形成する図、(D)は得られたプリフォームを成形する図、(E)はバインダが熱硬化した成形体(C/C複合材60)を示す。図11(A)〜(E)のような抄造法を用いることができるが詳細は後述する。
【0020】
本実施の形態では成形体を得る過程で成形の前にプリフォームの外側面に中心軸oに対して平行な波板状の起伏部すなわち凹凸になるように起伏を形成する。図5(a)に示すようなプリフォームに、図5(b)に示すように、プリフォームの外側面が中心軸oに対して平行な波板状の起伏部すなわち凹凸になるように起伏を形成する。さらにプリフォームを被覆部材で覆いオートクレーブなどを用いて成形する。この場合、プリフォームの内側面は、その内径とほぼ同一の内芯によって拘束されているため、凹凸は形成されない。一方、プリフォームの外側面ではプリフォームは大きく収縮するのに対し、被覆部材は気泡を含んでいないため、体積収縮はほとんどない。従って、収縮差によって被覆部材に弛みが生じるようになり、弛みはプリフォームに形成された起伏を大きくするように働き、プリフォームに形成された凹凸がそのまま成形される。
【0021】
このようにしてプリフォームが収縮する際に所定の位置に起伏(凹凸)が形成され、起伏が周方向に規則的に繰り返された成形体が得られる。図5(c)は、成形後の状態を示す模式図である。
【0022】
すなわち、プリフォームは外径が小さくなるように圧縮成形されて、成形体となる。このときに外径が小さくなった分、外表面が余剰になり弛みができる。この弛みは成形体の外表面のしわとなる。
【0023】
本実施の形態では、しわがあらかじめ決まられた箇所、数の多数の周期的な起伏を形成しているため、起伏が広く浅く分散し、深いノッチを形成することがなく欠陥の無い高強度のC/C複合材を得ることができる。
【0024】
なお、被覆部材は、どのような材質を用いてもよい。ポリプロピレン、ポリエステルフィルムなどの非弾性体の樹脂、天然ゴム、シリコーンゴムなどの弾性体の樹脂などどのような材質でも良い。弾性体の樹脂を用いる場合には成形時にプリフォームの体積収縮に合わせてフィルム(被覆部材)が収縮しないよう張力をかけずにプリフォームを被覆することが好ましい。弾性体の樹脂からなるフィルム(被覆部材)に張力をかけずに弛ませることにより、成形の過程でプリフォームの表面を被覆する被覆部材が余剰になりプリフォームに形成された起伏を成長させることができる。弾性体の樹脂からなるフィルム(被覆部材)に張力をかけて被覆しプリフォームを成形した場合には、弾性体フィルムが凹凸の頂部を圧縮し、プリフォームに形成された凹凸を無くしてしまうため、凹凸の形成を制御できず一部分に大きなしわを形成し欠陥を形成させてしまう。
【0025】
なお、図7(a)乃至(c)に示すように、Pオートクレーブ(図示せず)で成形する際に、成形体を覆う被覆部材として、しわを有するバギングフィルム24を用い、転写により予め凹ませる箇所のしわSを寄せておいてもよい。図7(a)乃至(c)は本発明の実施の形態1のC/C複合材の筒状部の成形加圧工程の変形例を示す。(a)起伏が形成される前のプリフォーム、(b)は凹凸を有する被覆部材で覆った状態、(c)は起伏が形成された成形体を示す。加圧初期段階は、プリフォームを加熱するとプリフォームが軟化し、プリフォームの収縮にほとんど圧力を必要としないため、容易に凹みを形成することができる。また成形時にプリフォームの体積は大きく収縮するのに対し、バギングフィルムはプリフォームの収縮に対してほとんど体積収縮しないため、バギングフィルムは収縮する過程でしわが深くなり、プリフォームはしわを元に僅かな凹みから図7(c)に示すように、ジグザグ状の凹凸まで形成される。
【0026】
加圧あるいは、内圧の減圧に先立ち、図8に示すようにプリフォーム101Pの外表面に冶具(圧子)Zを用いて凹凸を形成しておくようにしてもよい。図8に本発明の実施の形態1のC/C複合材の筒状部に起伏を形成する断面図を示す。プリフォームが抄造体である場合には、プリフォームが柔らかい状態、例えば、乾操に先立ち、凹部Rを形成すると容易に形成することができる。このように、炭素繊維の配向で得られた小さく多数の凸状部が筒状部の周方向に規則的に繰り返されたC/C複合材を得るためには、他の方法を用いてもよいことはいうまでもない。
【0027】
上記で説明したとおり、本実施の形態では、抄造法でプリフォームを得ている。そのため炭素の繊維長が短く、C/C複合材成形後の弾性率を小さくすることができる。例えばC/C複合材をシリコン単結晶引き上げ装置の保温筒に使用した場合、黒鉛部材とC/C複合材がシリコン融液などで接着されても、黒鉛、C/C複合材にかかる応力を小さくすることができる。
【0028】
本実施の形態1のC/C複合材で用いる炭素繊維は、特に限定されるものではない。たとえばPAN系、ピッチ系炭素繊維のいずれでも利用可能である。中でもPAN系炭素繊維は、低弾性であるため、熱応力や、部分的に表面がSiCなどに反応し、反応生成物が析出した場合にも内部応力を蓄えにくい。このため、破壊に至るのを防ぐことができ、シリコン単結晶引き上げ装置の保温筒などに好適に利用することができる。
【0029】
なお、本発明のC/C複合材は、しわ加工をすることで、プリフォームの外側面に起伏(凹凸)を有する成形体を形成した後、研磨などの方法により加工し、起伏を除去し平滑な表面を持つようにしてもよい。この場合も炭素繊維が表面に沿って配向した小さな凸状部が回転体の周方向に多数規則的に繰り返された成形体が得られ、欠陥の少ない成形体を得ることができる。
【0030】
このC/C複合材の素材すなわちプリフォームについては、炭素繊維を抄造して得られる抄造方式の他に炭素繊維フェルトを幾重にも重ねたシートワインディング方式等、後に成形して、C/C複合材の密度を上げるものであれば、種々の方式を用いた形成方法が適用可能である。
本実施の形態では、フロックの形成を経る抄造法を用いて形成する。フロックとは、ランダムに配向した炭素繊維とバインダとが均一に分散した凝集体のことをいう。
プリフォームの形成を中心に以下に本実施の形態のC/C複合材の製造方法について詳述する。
【0031】
本発明の実施の形態1の、C/C複合材は、筒状部101により構成されている。この筒状部101からなるC/C複合材について、図9に基づいて説明する。
図9(a)は、本実施の形態1の筒状部101を構成するC/C複合材100の斜視図である。そして図9(b)乃至(d)は、図9(a)の断面図、断面図の要部拡大図、更なる要部拡大図である。図9(c)および(d)に示すように、このC/C複合材100において、炭素繊維1はまとまって存在した薄片体3を形成している。薄片体は、フロックが成形されることにより形成される。本実施の形態の成形体はこの薄片体3の積層体により構成されており、抄造工程で基本となる形状を持つプリフォームを形成し、皺加工および焼成加工を経て得られるものである。
この構成によれば、薄片体3は、落ち葉がランダムに積み重なるように積層されているため、薄片体の端部が成形体としてのC/C複合材60中の多くの箇所に分散される。これにより、構造的に弱い部分となり剥離やクラックの原因となる炭素繊維の集合体の境界が存在しにくくなる。そして炭素質マトリックス2が、この薄片体3を構成する炭素繊維1間に介在し、炭素繊維間を固定するように充填されている。このようにして、薄片体3の境界が分散される。したがって、組成が均一な連続体を構成している状態となるため均一で応力歪の小さい成形体を得ることができる。そのため高温下でも残留応力が極めて小さいため、耐熱性が高く、高強度の3次元形状のC/C複合材を提供することができる。
【0032】
本実施の形態では、この炭素繊維1は直線状繊維からなる。本発明のC/C複合材は、後述するように、炭素繊維とバインダとを液体中で凝集させてフロックを形成し、このフロックを積層(抄造)してプリフォームが形成される。炭素繊維1が直線状繊維であることにより、後述するフロックの積層工程(抄造時)においてフロックを金型で濾過する際に、既に金型の表面に形成されている下層のフロックに炭素繊維が突き刺さりやすい。したがって、C/C複合材の曲面方向に対して垂直な方向(厚さ方向)の接合強度が得やすくなる。本実施の形態において「直線状繊維」とは、実質的に屈曲部を有しない繊維をいい、針状の繊維であることが好ましい。
【0033】
本実施の形態では、炭素質マトリックス2が、この薄片体3を構成する炭素繊維1間に介在し、炭素繊維間を固定するように充填され構成されている。さらにこの薄片体3は、落ち葉がランダムに積み重なるように積層されているため、薄片体の端部がC/C複合材の内部の多くの箇所に分散されて存在する。これにより、構造的に弱く剥離あるいはクラックの原因となる薄片体の境界が細かく分散される。
そのため、見かけ上均質(組成が均一)な欠陥の無いC/C複合材を得ることができる。このような構造を有しているので、高温下でも、耐熱性が高く、高強度のC/C複合材を得ることができる。
【0034】
本実施の形態では、薄片体の平均長径は、1〜10mmであることが好ましく、2〜5mmであることがさらに望ましい。薄片体の平均長径が1.0mm未満であると、対応するフロック片の大きさが小さくなるため、抄造時の、通水抵抗が大きくなり易く、厚肉のC/C複合材を得にくくなる。一方薄片体の平均長径が10mmを超えると、後述する製造工程において、薄片体の素となるフロックを積層する際に、繊維とバインダの凝集し易さが異なることからフロックの中心部とフロックの周辺部とで偏析が起こり易くなる。このため、薄片体内部のバインダ成分も偏析し易くなる。また、薄片体の平均長径が10mmを超えると、後の成形・硬化でバインダが溶けても十分に流動できず偏析が解消されにくくなる。この結果、バインダの希薄な部分ができ、その箇所を基点としたクラックが発生しやすくなり、C/C複合材の強度が低下するおそれがある。
本実施の形態において、薄片体の平均厚さは、0.05〜1.0mmであることが好ましく、0.1〜0.5mmであることがさらに好ましい。薄片体の平均厚さが0.05mm未満であると、対応するフロックの大きさが大きくなり、通水抵抗が大きくなり易く厚肉のC/C複合材が得られにくくなる。薄片体の平均厚さが1.0mmを越えると、薄片体端部に空洞が出来、空洞周辺に応力集中が生じ易くなり、C/C複合材の強度が低下するおそれがある。薄片体は、C/C複合材表面から一枚ずつであれば、薄い刃物を用いて剥がすことが出来るため、薄片体の厚さ、長径は直接測定することができる。
【0035】
本発明において炭素繊維の配向とは、炭素繊維の方向が特定の方向に偏っている状態をいい、必ずしもすべての繊維が同一方向に揃っている状態を示すものではない。
【0036】
本実施の形態のC/C複合材は、プリフォームにおける薄片体の積層方向(成形体の厚さ方向)に隣接する薄片体をつなぐ炭素繊維成分を含むことが望ましい。また、炭素繊維1のC/C複合材の厚さ方向の配向成分が成形体の厚さ方向に連続的に存在することが望ましい。上記のように、既に形成されているフロックに直線状の炭素繊維が突き刺さるように積層していく。そのためフロックの境界であっても炭素繊維が突き刺さっているため、C/C複合材の厚さ方向の配向成分が連続的に形成される。これによりC/C複合材の厚さ方向に垂直な方向にフロックの界面が存在しにくくなり剥離しにくいC/C複合材を得ることができる。
【0037】
本実施の形態の炭素繊維は平均繊維長が1.0mm未満であることが望ましい。平均繊維長が1.0mm以上であると、抄造時に炭素繊維どうしが絡まり合い、炭素繊維が互いに反発するため嵩密度の高い抄造体を形成しにくい。プリフォームである抄造体の嵩密度が低い場合には、オートクレーブなどで成形を行うと圧縮 の過程で発生するしわが多くなり,しわの発生が制御しにくくなる。このため本発明の実施の形態の特徴である、頂部が回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を形成しにくくなる。炭素繊維の平均繊維長が1.0mm未満であれば、プリフォームの内部に空隙ができにくく、抄造時に、より嵩密度の高いプリフォーム(抄造体)を得ることができるため、オートクレーブで成形する際に圧縮率を低くすることができる。圧縮率とは、(成形前の体積)/(成形後の体積)をさす。このように、プリフォームの圧縮率を低くすることができるので、しわの発生を制御し易くなり、本発明の実施の形態の特徴である頂部が回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を有するC/C複合材を得ることができる。
【0038】
また、炭素繊維の平均繊維長が1.0mm未満であれば直線状繊維となりやすく、抄造する際に既に形成されている下層のフロックに突き刺さりやすくなる。炭素繊維はフロックに突き刺さることにより成形体の厚さ方向の接合強度が得やすくなる。
【0039】
炭素繊維の平均繊維長は、0.05mm以上が望ましい。炭素繊維の平均繊維長は0.05以上0.5mm未満が更に望ましい。炭素繊維の平均繊維長が0.5mm未満であれば、C/C複合材の厚み方向の強度をより強くすることができる上に、プリフォームの抄造時に短い繊維は高い密度で充填されやすいため、特にフロックの積層時の密度を高めることができる。そのためプリフォームの、成形時の圧縮率を小さくすることができる。炭素繊維の平均繊維長が0.05mm以上であると、繊維とバインダとの充分な接着力が得られ、繊維が引き抜かれにくくなり、高強度の成形体を得ることができる。
【0040】
なお、単に炭素繊維の短繊維(例えば1〜10mm)を使用し、フロックの生成を経ることなく目の細かな型を用いて抄造した場合には、炭素繊維の絡まりが少なくなる。このため高密度の抄造体を得ることができるが、薄い抄造体が形成された段階で炭素繊維を分散させる液体(水)の通過抵抗が大きくなるため、それ以上抄造が困難になる。そのため、厚く高密度の抄造体を得ることが困難である。これに対し、本発明は、フロックを形成することで、目詰まりをなくし、効率よく薄片体を積層することで、高密度で厚い抄造体を形成する。そして、得られた高密度の厚い抄造体を圧縮することで、C/C複合材を得ることができる。
【0041】
炭素繊維の平均繊維径は、1〜20μmが好ましい。また、炭素繊維のアスペクト比は10〜1000が好ましい。炭素繊維の平均繊維径及びアスペクト比がそれぞれ上記範囲であれば炭素繊維長に対して充分に炭素繊維径を細くすることができ、繊維がマトリックスから引き抜かれにくくなるため、高強度を得ることができる。
【0042】
炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維のどちらも好適に使用することができる。PAN系炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維に比べて弾性率が低いため、例えば単結晶引き上げ装置用のるつぼ、保温筒、ルツボ受け皿、ヒーター等の柔軟性が必要な用途に好適に使用することができる。ピッチ系炭素繊維は弾性率がPAN系炭素繊維に比べ高いため、蒸着装置の基板支持プレート、搬送アームなど、撓みを抑えたい機械部品等の構造部材に好適に使用することができる。
【0043】
本実施の形態のC/C複合材は、嵩密度が1.2g/cm3〜1.8g/cm3であることが好ましい。C/C複合材の嵩密度が1.2g/cm3未満であれば、C/C複合材の空隙が多くなるためマトリックスによる炭素繊維の接合が密になりにくくなる。そのため、炭素繊維が脱離しやすくなる。このため、緻密でより高い強度のC/C複合材を得ることができる。嵩密度が1.8g/cm3を超えると、脱脂あるいは焼成時に発生するガスにより、気泡ができやすくなり、剥離、膨れが出来、欠陥部分となる。
本実施の形態のC/C複合材は、厚さが20mm以上の湾曲した形状であっても高強度のC/C複合材を容易に形成することができる。一旦、炭素繊維とバインダとを含むフロックを形成して、抄造法により金型に堆積させて、フロックが積層したプリフォームを成形するため、肉厚のプリフォームが得られやすく20mm以上の肉厚のC/C複合材を容易に得ることができる。
【0044】
以下、本発明の実施の形態1のC/C複合材の製造方法について説明する。図10は本実施の形態のC/C複合材の製造工程フローを示す図である。
まず、工程(S1)として、プリフォームを形成する。ここでプリフォームの形成方法としては、フロックを形成して抄造し厚いプリフォームを得る抄造法、抄造し紙状の薄いシートを得た後積層する抄造シート積層法のほか、図12に示すように乾式あるいは湿式でフェルトを形成して積層するフエルト積層法などを変形例として用いることも可能である。
【0045】
次に、工程(S2)として、表面に周期的な起伏(凹凸)を形成する。起伏(凹凸)の形成方法としては、プリフォームにあらかじめ凹凸を形成し、オートクレーブで圧縮する方法、圧子とともに圧縮するなどの方法も利用可能である。
【0046】
次に、工程(S3)および工程(S4)として、凹凸の形成されたプリフォームを成形(S3)して硬化(S4)させる。ここで成形と硬化はそれぞれ別におこなってもよいし同時に行ってもよい。
【0047】
そして、工程(S5)および工程(S6)として、成形・硬化されたプリフォームを脱脂(S5)して焼成(S6)する。また、脱脂、ピッチ含浸、脱脂、焼成を順で行ってもよい。さらに含浸、脱脂は繰り返し行ってもよい。
【0048】
以下、本発明の実施の形態1のC/C複合材の製造方法について詳細に説明する。図11(A)から(C)は本実施の形態のC/C複合材形成工程におけるプリフォームの製造工程を示す概要図を示し、図11(D)から(E)は、プリフォームを加圧成形する工程を示す概要図である。また、(A)は水に炭素繊維、バインダを分散した図、(B)は炭素繊維、バインダを凝集させフロックを形成した図、(C)は凝集したフロックを抄造したプリフォームを形成する図、(D)は得られたプリフォームを成形する図、(E)はバインダが熱硬化した成形体の図を示す。
図11(A)及び(B)に示すように、炭素繊維1と、炭素質マトリックスの前駆体成分であるバインダとを液体中に懸濁させた後に凝集剤を加え、炭素繊維1とバインダとを凝集させてフロック5を形成する。炭素繊維1は、はじめ図11(A)に示すように液体中に分散してスラリーを形成するが、時間の経過と共に図11(B)に示すように凝集してフロック5を形成する。
【0049】
次に、図11(C)に示すように、フロック5が形成された液体を、多孔状型面21を有する金型20で濾過する。多孔状型面21は側面に多数の開口21Aを有する。これにより、多孔状型面21の表面にフロック5を積層し、フロック5の積層体を形成する。
本実施の形態におけるC/C複合材の製造方法では、従来のように炭素繊維が懸濁したスラリーを直接濾過(抄造)するのではなく、一旦炭素繊維をバインダと共に凝集させてフロックを形成し、フロックを濾過(抄造)することを特徴とする。これにより、多孔状型面21へのフロック5の積層が進行しても、フロック5の間を液体が透過することができる。そのためフロックは、液体の透過を遮りにくく、厚いフロック5の積層体を容易に得ることができる。また、図9(c)に拡大して示すように、水の通過抵抗が大きくならないよう多孔状型面21の開口21Aより炭素繊維1の平均繊維長が小さい場合であっても、フロック5を開口21Aより大きく形成することができる。したがって、スラリーの濾過の際に炭素繊維1が開口21Aを通過することなく、フロック5の積層体を形成することができる。得られたフロック5の積層体をプリフォーム50として用いる。
【0050】
このあとは図10の工程S2およびS3として、図5乃至図8に示すように、C/C複合材の周方向に周期的な起伏を形成しながらフロック5の積層体を加圧する。これにより、炭素繊維1は、炭素繊維の凸状の配向が成形体の周方向に規則的に繰り返され、頂部が前記回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏をもつプリフォーム101Pが得られる。そしてフロック5は薄片化して、薄片体前駆体6となる。このようにして、プリフォーム101Pを形成する。
【0051】
そして、図10(S4)に示すように、薄片体前駆体の積層体からなるプリフォーム101Pを硬化する。成形体の硬化工程は、プリフォームの成形時に十分に加熱すれば成形工程と同時に行うことができる。
次にバインダを炭化するために脱脂(S5)を行う。これにより、バインダ4を炭化して、炭素質マトリックス2が生成される。
さらに焼成(S6)を行うことにより、炭素質マトリックスの結晶化を進行させ、本発明のC/C複合材100を得ることができる。
【0052】
次に、本発明の実施の形態1のC/C複合材の製造方法において、図10のC/C複合材の製造方法の工程フロー図に基づいて各工程について下記に詳しく説明する。
【0053】
[プリフォーム形成工程(S1)]
炭素繊維は、前処理として、使用目的に応じて調整を行う。例えば釣り竿または航空部品などに用いられる炭素繊維強化プラスチック(以下「CFRP」とも称する)用の炭素繊維の表面にはサイジング剤などの被膜が形成されているため、プリフォームの抄造時に水に分散しにくくなる。このため炭素繊維はサイジング剤などの被膜のないものを選択するか、不活性ガス雰囲気あるいは還元性雰囲気下で熱処理しサイジング剤などを除去する必要がある。なお、CFRPの製造の過程で発生する端材を使用しても良い。このようなサイジング剤などの被膜は500℃以上に熱処理することで除去することができる。次に炭素繊維の平均繊維長を1.0mm未満となるようにする。炭素繊維の平均繊維長が1.0mm未満であれば前述したように、フロックの積層体(抄造体)段階での成形体の嵩密度を高め、成型時のしわの発生を制御し易い。従って、成形体の強度の弱い部分の発生をおさえることが出来る。また成形体の厚さ方向の接合強度が得られるようになり、剥離しにくい高強度の成形体を得ることができる。平均繊維長が1.0mm未満の炭素繊維は、市販の炭素繊維、CFRPの製造の過程で発生するクロス、又はストランド等の端材を粉砕することにより得ることができる。なお、炭素繊維の粉砕は、水中に分散しミキサを使用して均一に粉砕することができる。ここでサイジング剤を除去する熱処理は、有機物から発生する炭化水素ガス、水素などの還元性ガス、窒素ガス、Arガスなどの不活性ガスの雰囲気で行うことができる。
【0054】
[フロック形成工程]
フロックを調製するにあたり、液体としては水を使用することが望ましい。大量の液体を使用するために有機溶媒などに比べ水は安全に使用できる上に、排液の処理が容易であるからである。
炭素質マトリックスの前駆体成分からなるバインダ(以下、「第1バインダ」とも称する。)としては炭素繊維を懸濁する上記液体に不溶で、炭化する物であればどのような物でも利用することができる。第1バインダは、粉状であることが好ましく、第1バインダの粒子径は3〜100μmであることが好ましい。第1バインダが粉状であれば、炭素繊維間の空隙に均一に分散し、第1バインダの偏析を起こりにくくすることができる。このため、後に第1バインダが溶融し炭素繊維表面に付着した場合に、成形体中に大きな空洞ができることない。そのため、高強度のC/C複合材を得ることができる。第1バインダとしては、例えば、ピッチ、フェノール樹脂、フラン樹脂、又はイミド樹脂などの熱硬化性樹脂から選ばれる1種以上を好適に利用することができる。フェノール樹脂としては、例えば、エアウォーター社製ベルパール(登録商標)S890を好適に利用することが出来る。ベルパールは、粉末状のフェノール樹脂であり、表面に疎水性被膜が形成されているため、水中でも溶解することなく粒状を保っているので、炭素繊維と共に凝集することができる。
第1バインダの添加量は炭素繊維100重量部に対し50〜200重量部が好ましい。第1バインダの添加量が50重量部未満であると、炭素繊維を十分に縮合できず、第1バインダの添加量が200重量部を超えると、脱脂、あるいは焼成時に発生するガスにより成形体中に気泡ができ易くなる。いずれの場合もC/C複合材の強度低下の原因となる。
【0055】
本実施の形態で用いる凝集剤は、電荷の変化を利用して炭素繊維とバインダとを凝集できるものであればどのような物でもよい。凝集剤としては、炭素繊維のζ電位を±10mV以下にできる物が望ましい。例えば無機凝集剤材、有機高分子凝集剤等が利用でき、具体的には有機高分子凝集剤のパーコール292(登録商標:アライドコロイド社製)等が好適に利用できる。有機高分子凝集剤は、分子量が大きいため、架橋作用もあり、大きなフロックを得ることができるため、好ましい。フロックが形成されると、炭素繊維で黒く着色したスラリーの状態から、透明な液体中に黒いフロックが浮遊する混合液の状態に変化する。
【0056】
凝集剤の添加量としては、炭素繊維100重量部に対しに対して0.05〜5.0重量部が好ましい。凝集剤の添加量を上記範囲とすることにより崩れにくい良好なフロックを形成することができる。
また、多孔状型面の開口径の大きさは、特には限定されないが0.5〜10mmであることが好ましく、1〜3mmがさらに好ましい。多孔状型面の開口径が0.5mm未満であると、炭素繊維が多孔状型面に目詰まりし易くなり水の通過抵抗が大きくなる。多孔状型面の開口径が10mmを超えると、多孔状型面の開口部に開口面積に負圧を乗じた吸引力が発生するため、本来通過しない大きさのフロックまでも吸引され通過してしまうことがある。フロックの大きさは、濾過に用いる多孔状型面の開口径と同等以上にすることが望ましい。フロックの大きさには分布があるので、直径の大きなフロックが型面に捕捉されると、多孔状型面へのフロックの堆積が開始する。多孔状型面の開口径よりもフロックの平均直径が大きく下回ると、フロックの大部分が型面を通過してしまいフロックが型面へ堆積することができない。混合液中におけるフロックの平均直径は0.5〜10mmが好ましく、1〜5mmがより好ましい。フロックの大きさは凝集剤の量、凝集時間、撹拌の強さにより調節することができる。
【0057】
フロックを形成する液体中にはさらに、第2バインダを添加することが好ましい。前記第1バインダ成分は、抄造段階では粉末状であるため、フロック積層した抄造体の形状を保持しにくい。第2バインダは、後に得られる抄造体の形状を、後の成形工程前まで保持するために添加する成分である。第2バインダとしてはフロックの積層体の形状を保持できればどのような物であっても構わない。フロックの積層体を形成する段階で炭素繊維と第1バインダとを、また炭素繊維同士を、物理的に結合させる作用を有する物であればどのような物でも良い。第2バインダとしては例えば粘性液体、有機繊維などが挙げられる。粘性液体としては、でんぷん、またはラテックスなどが好適に利用できる。ラテックスは、水に混合すると白濁し懸濁液となる。細かく分散したラテックスの液滴は、炭素繊維と第1バインダとを粘着作用により結合させる作用がある。有機繊維としてはパルプなども好適に利用できる。パルプは水との親和性がよく、炭素繊維と絡み合って、炭素繊維と第1バインダとを結合させる作用を有する。第2バインダとして粘性液体を用いた場合の一例として、図11(D)に拡大図を示す。この場合、炭素繊維1と第1バインダ4の間に第2バインダ7aが、炭素繊維1間に第2バインダ7bが介在することで、プリフォーム50(図8では101P)の形状が保持されている。
【0058】
なお、フロックの形成にあたり、上記炭素繊維、第1バインダ、凝集剤及び第2バインダの添加順序は特に制限はなく、これらを同時に液体中に添加しても順次添加してもよい。均一かつ安定にフロックを形成する観点から下記順序で調製することがより好ましい。
a)水に炭素繊維を投入し撹拌しながら分散させる。撹拌が強すぎると気泡ができるので撹拌の強さを調製する必要がある。撹拌手段はプロペラシャフト型あるいはパドル型等を用いることができる。炭素繊維の攪拌時間は3分前後が好ましい。
b)次に第1バインダを加え、第1バインダが分散するまで攪拌する。攪拌時間は0.5〜5分間が好ましい。
c)次に第2バインダを加え、第2バインダが分散するまで攪拌する。攪拌時間は0.5〜5分間が好ましい。
d)最後に凝集剤を加える。撹拌が少ないと凝集剤が混ざらず、撹拌しすぎると形成されたフロックが壊れてしまう。そのためフロックの出来具合を確認しながら撹拌時間を調整する。攪拌時間は20〜30秒が好ましい。
【0059】
[フロックの積層体(プリフォーム)形成工程]
こうして形成されたフロック5を含む液体中に金型20を浸漬する。
金型20は、図11(C)に示すように、円筒形状の多孔状型面21と、減圧室22とを備えている。多孔状型面21には、開口21Aが設けられており、多孔状型面21にのみフロックが積層される。減圧室22は配管23により吸引ポンプ(図示せず)と連結されている。したがって、吸引ポンプを作動させると、減圧室22内の空気が排出され減圧状態となる。すると、金型20の多孔状型面側にフロック5が吸引される。フロック5の大きさは、開口21Aよりも大きいため、フロック5は開口21Aを通過せず多孔状型面21の表面に多孔状型面の面方向に連続した層として積層する。その際、フロック5は、既に形成された積層体に突き刺さるように積層する。積層したフロック5は、吸引力の影響で球形からやや扁平形状となり、フロック内の炭素繊維1の長手方向は多孔状型面21の面方向に配向するようになる。一方、液体は開口21Aを通過し、配管を介して外部に排出される。こうして、プリフォーム50を形成することができる。
【0060】
多孔状型面21は、液体を透過できる複数の開口を有する物であればどのような物で構成してもよく、構成部材としては、網、パンチングメタル、織布、又は不織布等が挙げられる。
【0061】
また、吸引濾過の際、減圧はどのような物で行っても良い。空気の他液体も一緒に吸引されるので自吸式の渦巻きポンプ、又はアスピレータなどが好適に利用できる。
【0062】
なお、濾過の方法としては、上記に示した吸引濾過の他に、加圧濾過、又は遠心濾過等の方法を採用してもよい。加圧濾過は、例えば、多孔状型面の外表面側を加圧ガスで加圧し、多孔状型面の外表面にフロックを積層させ、プリフォームを形成する方法である。遠心濾過は、例えば、内面に多孔状型面を設置した回転体の型の内部にフロックを含む混合液を供給し、回転体を回転させ、多孔状型面の内表面にフロックを積層させ、プリフォームを形成する方法である。
【0063】
[乾燥工程]
次に、前記工程で得られたプリフォームに残存する水分を除去するために金型ごと乾燥を行う。抄造法で得られたプリフォームは乾燥する必要があるが、フェルト積層法では水分を含有しないので乾燥工程は必ずしも必要ではない。乾燥は水分を除去するために40℃以上で行うことが好ましい。また、第1バインダの溶融硬化を防止するため、第1バインダの溶融温度以下で行うことが好ましい。例えば、第1バインダとしてベルパール(登録商標)を用いた場合は、70℃前後で疎水性被膜が溶解することに鑑み、60℃以下で通風しながら乾燥させることにより、容易に水分を除去することができる。
【0064】
[起伏(凹凸)形成工程(S2)]
まずフロックの積層体からなるプリフォーム50の外側面に、圧子からなる冶具を用いて、凹部を形成する。ここでプリフォームの外表面に凹部を形成する際、変形させ易くするために、プリフォームをあらかじめ加熱しておくことが好ましい。この加熱はプリフォームが軟化しさえすればよく、例えば、50〜120℃で好適に行うことができる。フロックの積層体を加熱すれば50℃以上であれば樹脂を十分に軟化させることができ、120℃以下であれば成形前に樹脂が硬化しない。
[成形工程S3]
図11(D)に示すように、プリフォーム50をバギングフィルム24で覆い、オートクレーブ(図示せず)を用いて熱と圧力を加え成形し、成形体を得る。まずバギングフィルム24内の空気を吸引し真空引きした後、圧力をかける。成形圧は1MPa以上が好ましい。成形圧が1MPa以上であれば、高い密度の成形体を得ることができる。特に、成形圧に上限はないが、熱を加えて第1バインダを軟化させているため、10MPaの圧力をかければ十分な成形体の密度を得ることができる。このとき、プリフォーム50の金型20面側を、支持材25で支持しながら成形することが好ましい。支持材25で支持することにより、加熱によりプリフォームが軟化し、変形することを防ぐことができる。ここで用いる支持材25はプリフォームの形成工程(S1)で使用した金型20とは異なり、多孔状型面を有さない、表面が平滑なものである。
【0065】
[硬化工程(S4)]
熱硬化性樹脂である第1バインダを用いているので、上記加圧成形工程において十分に圧力を上げた後、加熱し、フロック内に含まれる熱硬化性樹脂を溶融硬化させることが好ましい。これにより、成形体が変形しないように形状を固定化させることができる。熱硬化性樹脂の硬化温度は、例えば一般に150℃以上で行うことが出来る。温度が高ければ高いほど熱硬化性樹脂の硬化が進行する。前記の成形工程をオートクレーブで行う場合等、成形工程で充分に加熱できれば、硬化工程は成形工程と同時に行うこともできる。硬化温度の上限は特にないが、200℃の温度をかければ熱硬化性樹脂を十分に硬化させることができるため、この程度である。
【0066】
[脱脂工程(S5)]
焼成工程の前に、成形体内部の有機成分を揮発させるために脱脂を行うことが好ましい。この脱脂工程を経て、第1バインダは炭化し、第2バインダはその大部分が分解し揮散する。このため、脱脂工程以降で結合作用を有するのは、第1バインダ成分を由来とする炭化物である。脱脂工程の後にピッチ含浸及び、樹脂含浸を行う場合には、成形体に含浸を行うための気孔を形成しておく必要があるので、500℃以上で脱脂することが好ましい。脱脂が500℃以上で行われれば、樹脂の炭化が充分に進行し、後の含浸工程で樹脂あるいはピッチの含浸される充分な大きさの気孔を形成することができる。脱脂温度の上限は、特に制限はないが、1000℃の高温下に置くことで大部分の脱脂を完了させることができる。脱脂は、炭素繊維及び(第1)バインダが酸化するのを防ぐため、還元性雰囲気で行うことが好ましい。有機物から発生する炭化水素ガス、水素などを用いた還元性雰囲気のほか、窒素ガス、Arガスなどを用いた不活性ガス雰囲気で行うことができる。
【0067】
[含浸工程]
脱脂後の成形体の気孔内部に、樹脂、ピッチなどを含浸することによりC/C複合材60を高密度化することが好ましい。脱脂後のC/C複合材60をオートクレーブに入れ、真空引きした後に、オートクレーブ(図示せず)中に液状の樹脂又はピッチを導入し、浸漬した後圧力を加える。液状の樹脂は、水や有機溶媒で溶液にしたもの又は、熱を加え溶融した物でも良い。溶液に樹脂を用いる場合には、使用を繰り返しても重合が進みにくいので、安定して使用することができる。ピッチを用いる場合には、オートクレーブを軟化点以上に加熱して、ピッチを液状にして使用する。
含浸が終了した後、上記脱脂工程と同様に脱脂を行うことにより、より高密度の成形体を得ることができる。含浸工程はC/C複合材の密度を上げ高密度化することができるが、本発明の実施の形態のC/C複合材の成形において、必ずしも必要ではない。
【0068】
[焼成工程(S6)]
成形体にさらに熱を加え焼成することにより、第1バインダは十分に炭化し、炭素質マトリックスとなる。焼成により本発明実施の形態のC/C複合材100を得ることができる。
焼成工程においては、温度の上昇と共に支持材は熱膨張し、成形体は熱収縮する。焼成工程で発生する支持材25と成形体との熱膨張差による応力を回避するため成形体から支持材25を外し、焼成炉内で、非酸化性雰囲気で加熱することが好ましい。焼成工程の焼成温度は、1500〜2800℃が好ましく1800〜2500℃がより好ましい。焼成温度が1500℃以上であれば、C/C複合材中の水素などの不純物を充分に除去できる。水素などの不純物が残留すると、C/C複合材を使用する際に炭化水素ガス等が発生する。C/C複合材を半導体製造装置などで使用する際に、C/C複合材から発生する炭化水素ガスが半導体に混入し、半導体の純度を低下させる。焼成温度が2800℃以下であれば、C/C複合材の結晶化の進行を押さえることができ、C/C複合材の強度を維持することができる。このようにしてC/C複合材60が得られる。
【0069】
なお、C/C複合材60の密度を高めるため、焼成工程の前に成形体への含浸工程を複数回繰り返しても良い。
【0070】
そして、本発明の実施の形態のC/C複合材は、プリフォーム形成工程、起伏(凹凸)形成工程、成形工程、脱脂工程、含浸工程、焼成工程を経て、炭素繊維の凸状の配向が回転体の周方向に規則的に繰り返され、頂部が前記回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を有することができる。この円筒状のC/C複合材100は、炭素繊維の凸状の配向が周方向に規則的に繰り返されているため、大きなしわに起因する大きな凸状の配向部が形成されず、高強度のC/C複合材を得ることができる。
【0071】
<実施例>
図1に示すような円筒状のC/C複合材を以下の工程で作製する。
[プリフォーム形成工程]
(1)炭素繊維の調整工程
平均繊維長150μm、平均繊維直径7μmのCFRP用のPAN系炭素繊維を準備する。ここでは、水への分散性を向上させるために繊維の表面に塗布されているサイジング剤を還元性雰囲気下550℃で焼成し除去する。この後、炭素繊維を水に分散させ、平均繊維長150μmになるまでミキサで粉砕した後、脱水し乾燥させる。
【0072】
(2)フロック形成工程
(a)前記炭素繊維調整工程で得られた炭素繊維を水に投入し撹拌しながら分散させた。撹拌は約3分間行う。
(b)次に炭素繊維100質量部に対し第1バインダとしてフェノール樹脂(エアウォーター社製「ベルパール」(登録商標)S890(200質量部)を加え、上記(a)同様に1分間撹拌する。
(c)次に第2バインダとしてラテックス(5質量部)を加え、上記(a)同様に1分間撹拌する。
(d)さらに、凝集剤としてカチオン系凝集剤(アライドコロイド社製「パーコール(登録商標)292」)(0.3質量部)を加え、20秒間撹拌し、フロックを形成する。
【0073】
(3)抄造工程
フロックの形成された水を、外表面に開口1.0mmの金網を備えた円筒形の型を用いて内側から吸引し、金網の表面にフロックを積層し、円筒形の積層体を形成する。開口1.0mmの金網を用いているが、炭素繊維はフロックを形成しているため、金網を通過する炭素繊維はほとんど無い。そのまましばらく円筒形の積層体を放置し、重力で水分が除去されてから、乾燥機を用いて60℃で乾燥させ、プリフォームを作製する。
【0074】
[凹凸形成工程]
前記工程で得られたプリフォームの内側に、表面が平滑な円筒形の金型を挿入し、プリフォームを80℃にあたため、図5(b)に示したように、冶具を用いてあらかじめ起伏(凹凸)を形成する。
[成形工程]
更にプリフォームの表面を密閉フィルムで覆い、オートクレーブに入れ150℃の熱を加えながら加圧する。このとき回転体の中心軸が水平となるように横向きに成形した。加圧圧力は2MPaで行う。
【0075】
[硬化工程]
前記工程に引き続き、プリフォームをオートクレーブで最大圧力(2MPa)のまま2時間放置する。この工程により、第1バインダ(フェノール樹脂)を硬化する。
【0076】
[脱脂工程]
前記硬化工程で得られた成形体の金型から外し、還元性雰囲気炉で加熱する。加熱は70℃/hの昇温速度で、炉内の最高温度550℃となった時点で1時間保持し脱脂を行う。その後、室温(25℃)まで放冷する。なおこの脱脂工程は、有機物から発生する炭化水素ガス、水素などを用いた還元性雰囲気で行う、窒素ガス、Arガスなどを用いた不活性ガス雰囲気で行うこともできる。
【0077】
[含浸工程]
脱脂工程までに、所望の嵩密度が得られていない場合には、更に含浸工程を行う。
本実施例では、脱脂後の成形体を200℃に加熱したオートクレーブの中に入れ、真空引きした後に軟化点80℃のピッチを流入し、4MPaで加圧し、脱脂された成形体中にピッチを含浸する。
【0078】
含浸された成形体は前記脱脂工程と同様の脱脂処理を行う。
【0079】
[焼成工程]
脱脂された成形体(含浸された成形体も含む)は、焼成を行う。還元性雰囲気下で、150℃/hの昇温速度で加熱し、炉内の最高温度2000℃となった時点で15分保持して焼成を行う。その後室温(25℃)まで放冷する。この焼成工程により、第1バインダから炭素質マトリックスを形成する。炭素質マトリックスの存在により、炭素繊維どうしの接着力が強まり、強度を発現することが出来る。このようにして、内直径1000mm、高さ1000mm、厚さ25mmのC/C複合材を得る。なお上記の還元性雰囲気は、成形体を焼成容器に詰め、成形体に含まれる有機物から得られる炭化水素ガスでパージすることによって得られる。また水素などの環元性ガスを用いる。あるいは、Arや窒素などの不活性ガスを用いることもできる。
【0080】
<比較例1>
実施例1において、凹凸を形成する工程を省略し、他の工程は前記実施例と同様に行う。
【0081】
図15に本比較例1で得られたC/C複合材の断面図を示す。実施例1のC/C複合材では、起伏が広く浅く分散し、大きなしわを形成していない。これに対し本比較例1で得られたC/C複合材の外表面は平滑な領域が大部を占めるが大きなしわの形成された領域が部分的に存在する。比較例1のC/C複合材の平滑な領域では構造的な欠陥はほとんど存在しないのに対し、大きなしわの形成された領域には深いノッチ(N)が形成される。そのためノッチが形成される部分はC/C複合材の強度を著しく低下させる。比較例1の成形工程では、回転体の中心軸が水平となるように成形したため、プリフォームを加熱したときに発生する外表面の弛みが重力によって下側に集まり、大きなしわが下側に発生した。
【0082】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2のC/C複合材について説明する。本実施の形態2ではC/C複合材の製造方法における加圧工程のしわ加工の変形例について説明する。
図13(a)乃至(c)は本発明の実施の形態2のC/C複合材の製造方法のおける凹凸形成工程を示す説明図であり(a)はプリフォームを被覆部材で覆い圧子を配置した図、(b)は圧子でプリフォームの周囲に起伏を形成する図、(c)は成形により起伏が形成された成形体の図を示す。
図13(a)に示すように、まず、加圧工程に先立ち、圧子Zをプリフォーム101Pを覆うバギングフィルム24(被覆部材)の外側面全体に均一に配置し、バギングフィルム24を圧子Zで押さえる。このとき、変形させやすくするため、プリフォームを加熱することが好ましい。例えば、50〜120℃で好適に行うことができる。プリフォームの加熱が50℃以上であれば樹脂を十分に軟化させることができ、プリフォームの加熱が120℃以下であれば成形前に樹脂が硬化することがない。そして、図13(b)に示すように、プリフォーム101Pに凹部を形成する。ここで25は支持材である。このようにして図13(c)に示すように、プリフォームの外側面に波板状の周期的な起伏を有するC/C複合材を得ることができる。本実施の形態2のC/C複合材においても、外側面は、頂部が軸O方向に延びた波板状の周期的な起伏を有している。そして、C/C複合材の内側面側では炭素繊維1が内側面の長手方向に対して垂直な方向に沿って配向し、かつ炭素繊維は、外側面の起伏の傾斜に沿って配向している。
【0083】
(実施の形態3)
次に本発明の実施の形態3のC/C複合材について説明する。本実施の形態3は、抄造法のプリフォームにしわを加工する変形例である。図14(a)乃至(c)は本発明の実施の形態3のC/C複合材の製造工程における凹凸形成工程を示す説明図であり、(a)は抄造後の湿ったプリフォームに圧子を配置した図、(b)は凹凸が形成されたプリフォームの図、(c)は凹凸の形成されたプリフォームが被覆部材で覆われ成形される図を示す。本実施の形態3において、抄造後のプリフォームは水分を含有しているため、熱することなく容易に外側面に起伏(凹凸)を形成することができる。抄造後のプリフォームに圧子Zを用いて凹凸を形成し、そのまま本発明の実施の形態1と同様に乾燥し凹凸の形成されたプリフォームを形成することができる。このようにして得られたプリフォームを本発明の実施の形態1と同様に成形、硬化、脱脂、焼成工程を経ることにより、本実施の形態3のC/C複合材を得ることができる。なお、この圧子を一部に選択的に形成してもよい。
【符号の説明】
【0084】
100 C/C複合材
101 筒状部
1 炭素繊維
2 炭素質マトリックス
3 薄片体
4 バインダ、第1バインダ
5 フロック
50、101P プリフォーム
60 C/C複合材(成形体)
7 第2バインダ
20 金型
21 多孔状型面
21A 開口
22 減圧室
23 配管
24 被覆部材(バギングフィルム)
25 支持材
100s1 内側面
100s2 外側面
【技術分野】
【0001】
本発明は、C/C複合材及びその製造方法にかかり、特に炭素繊維と炭素質マトリックスとを含むC/C複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、高い耐熱性と強度とを備えているため、炭素マトリックスと複合化し、C/C複合材(炭素繊維強化炭素複合材料ともいう)として、耐熱性、化学的安定性、強度を必要とする様々な分野で利用されている。C/C複合材は、炭素繊維の複合化の方法により様々な種類があり、これを用いてさまざまな炭素繊維成形体を形成することができる。
【0003】
C/C複合材の製造方法の1つとして、抄造方式のC/C複合材の製造方法がある。(特許文献1及び2)。抄造方式のC/C複合材は、炭素繊維を液体中に懸濁させてスラリーを形成し、このスラリー中に孔を有する金型を浸漬し、金型の孔からスラリーを吸引することにより、この金型の表面側に炭素繊維を堆積させて成形物を成形する。その後得られた成型物を乾燥および焼成してC/C複合材を得ることができる。この抄造方式のC/C複合材は、金型の形状により、筒形状などの比較的自由な形状の成形物を作製できるという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−68851号公報
【特許文献2】特開2002−97082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のC/C複合材は、比較的自由な形状のC/C複合材が得られる半面、曲面部を有する回転体形状ではC/C複合材の高密度化が困難であり、熱分解炭素を含浸するなどの複雑な方法によってC/C複合材の高密度化及び、高強度化を行う必要がある。
本発明は前記実情に鑑みてなされたもので、高密度かつ高強度で、剥離、割れの生じにくい曲面部を有するC/C複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記C/C複合材及びその製造方法により上記課題を解決できることを見出した。
[1]
曲面部を備えた回転体状のC/C複合材であって、
前記C/C複合材は、炭素繊維と、炭素質マトリックスとを含み、
前記C/C複合材の前記曲面部の内側面と外側面とが相対向し、
前記C/C複合材の前記外側面は、頂部が前記回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を有し、
前記C/C複合材の前記内側面側では前記炭素繊維が前記内側面に沿って配向し、かつ
前記C/C複合材の前記外側面側では前記炭素繊維が、前記外側面の前記起伏の傾斜に沿って配向したC/C複合材。
[2]
[1]に記載のC/C複合材であって、
前記内側面と、前記外側面は、筒状体を構成するC/C複合材。
[3]
[1]に記載のC/C複合材であって、
前記外側面は、円錐体を構成するC/C複合材。
[4]
曲面部を備えた回転体状のC/C複合材の製造方法であって、
炭素繊維と、炭素質マトリックスの前駆体成分とを含み、相対向する内側面と外側面とを有する曲面部を備えたプリフォームを形成する工程と、
前記プリフォームの外側面に周期的な起伏を形成する工程と、
前記プリフォームを、加圧する工程と、
前記加圧成形されたプリフォームを焼成する工程とを有し、
前記C/C複合材の前記曲面部の内側面と外側面とが相対向し、
前記C/C複合材の前記外側面が、頂部が前記回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を有し、
前記C/C複合材の前記内側面側では前記炭素繊維が前記内側面に沿って配向し、かつ、
前記C/C複合材の前記外側では炭素繊維が、前記C/C複合材の前記外側面の前記起伏の傾斜に沿って配向したC/C複合材を製造することを特徴とするC/C複合材の製造方法。
[5]
[4]に記載のC/C複合材の製造方法であって、
前記起伏を形成する工程は、
前記プリフォームを被覆部材で被覆し、前記被覆部材を介して、前記外表面側に起伏を形成する工程を含むC/C複合材の製造方法。
[6]
[4]に記載のC/C複合材の製造方法であって、
前記加圧する工程は、前記プリフォームを凹凸を有する被覆部材で被覆し、前記被覆部材の凹凸を前記外側面側に転写し、前記外側面側に起伏を形成する工程と同時に加圧する工程であるC/C複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、あらかじめプリフォームのしわが外周面全体に分散するように起伏を形成した後、プリフォームを圧縮して製造するため、C/C複合材の外周面にしわが広く浅く分散し、しわが集中した欠陥箇所が生じることなく剥離あるいは、割れの生じにくい高密度で高強度のC/C複合材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材を示す斜視図
【図2】本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材の断面図
【図3】本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材の要部拡大斜視図
【図4】本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材の要部拡大断面図
【図5】(a)乃至(c)は本発明の実施の形態1のC/C複合材の筒状部の加圧成形工程を示す断面図であり、(a)は起伏が形成される前のプリフォーム、(b)は起伏が形成されたプリフォーム(成形前)、(c)は、起伏が形成されたプリフォームの成形後(成形体)を示す
【図6】(a)、(b)は本発明の実施の形態1のC/C複合材の筒状部の加圧成形工程を示す断面図であり、(a)は、起伏が形成されたプリフォームを被覆部材で覆った成形前、(b)は起伏が形成されたプリフォームを被覆部材で覆った成形後の状態を示す
【図7】(a)乃至(c)は本発明の実施の形態1のC/C複合材の筒状部の加圧成形工程の変形例を示す断面図であり、(a)は起伏が形成される前のプリフォーム、(b)は凹凸を有する被覆部材で覆った状態、(c)は起伏が形成された成形体を示す
【図8】本発明の実施の形態1のC/C複合材の筒状部に起伏の形成方法を示す断面図
【図9】(a)は、本発明の実施の形態1の筒状部を構成するC/C複合材100の斜視図、(b)乃至(d)は、それぞれ(a)の断面図、断面図の要部拡大図、更なる要部拡大図
【図10】本発明の実施の形態1のC/C複合材の製造方法の工程フロー図
【図11】(A)から(E)は本発明の実施の形態1のC/C複合材の製造方法を示す概要図であり、(A)は水に炭素繊維、バインダを分散した図、(B)は炭素繊維、バインダを凝集させフロックを形成した図、(C)は凝集したフロックを抄造しプリフォームを形成する図、(D)は得られたプリフォームを成形する図、(E)はバインダが熱硬化した成形体の図を示す
【図12】実施の形態1の変形例のフェルトの積層法のプリフォームを示す図、(A)は斜視図、(B)は断面模式図
【図13】(a)乃至(c)は本発明の実施の形態2のC/C複合材の製造工程における起伏(凹凸)形成工程を示す説明図であり、(a)は、プリフォームを被覆部材で覆い圧子を配置した図、(b)は圧子でプリフォームの周囲に起伏を形成する図、(c)は成形により起伏が形成された成形体の図を示す
【図14】(a)乃至(c)は本発明の実施の形態3のC/C複合材の製造工程における起伏(凹凸)形成工程を示す説明図であり、(a)は、抄造後の湿ったプリフォームに圧子を配置した図、(b)は凹凸が形成されたプリフォームの図、(c)は、凹凸の形成されたプリフォームが被覆部材で覆われ成形される図を示す
【図15】比較例の成形体を示し、しわが一カ所にでき大きな欠陥が形成された図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
本発明のC/C複合材は、炭素繊維と炭素質マトリックスの前駆体成分とを含むプリフォームに周期的な起伏を形成するしわ加工を施すことで得られるものである。
ここで用いられるプリフォームは、炭素繊維を抄造することで得られるプリフォームをはじめ、炭素繊維がフェルト状のもの、あるいはこれらを巻回したものなど、どのようなものでもよい。
【0010】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1では抄造法によって形成された炭素繊維のプリフォームにしわ加工を施し、周期的な起伏を形成し、成形・硬化工程、脱脂・焼成工程を経て本発明のC/C複合材を得ている。
図1に本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材の斜視図を示し、図2に本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材の断面図を示す。また図3に本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材の要部拡大図を示し、図4に本発明の実施の形態1の筒状のC/C複合材の要部拡大断面図を示す。
本実施の形態は、図1に示すように、C/C複合材で形成された筒状部101で構成され、例えばシリコン単結晶引き上げ装置の保温筒を構成するものである。図4に示すように、本実施の形態のC/C複合材の外側面101S2は、頂部が軸O方向に延びた波板状の周期的な起伏を有し、C/C複合材の内側面101S1側は炭素繊維1が内側面に沿って配向している。そしてC/C複合材の外側面101S2側ではこの炭素繊維1は、C/C複合材の外側面の起伏の傾斜に沿って配向されている。
【0011】
また、本実施の形態のC/C複合材は、炭素繊維と、炭素質マトリックスとを含み曲面部からなる筒状部101を備えたC/C複合材である。本実施の形態のC/C複合材の曲面部は、凹面を構成する第1の曲面としての内側面101S1と、この内側面101S1に対して並行して配設され、凸面を構成する第2の曲面としての外側面101S2とを有している。そして、C/C複合材の外側面101S2側よりも内側面101S1側の方で、より面方向の炭素繊維の配向性が高くなるように構成されている。このように本実施の形態のC/C複合材は、外側面101S2と内側面101S1とを備えた筒状体からなる筒状部で構成されている。C/C複合材の曲面部の内側面101S1と外側面101S2とが相対向し、このC/C複合材の外側面101S2は、頂部が中心軸O方向に延びた波板状の周期的な起伏を有している。そして、C/C複合材の内側面101S1側では炭素繊維1が内側面に沿って配向し、かつ、C/C複合材の外側面101S2側では炭素繊維は、外側面の起伏の傾斜に沿って配向している。
【0012】
本実施の形態では炭素繊維は直線状繊維からなる。そして、炭素繊維は、炭素質マトリックス内で炭素繊維の長手方向がC/C複合材の曲面方向に配向した薄片体を構成する。C/C複合材はこの薄片体の積層体によって構成されている。
炭素質マトリックスとは、炭素繊維間に存在し炭素繊維どうしをつなぎ止める炭素質の母材をいうものとする。薄片体については後述する。
【0013】
C/C複合材の筒状部101においては内側面側の炭素繊維が、筒状部の内表面に沿って配向しているので、切削加工しても滑らかな面を形成することが出来る。さらに、連続気孔は炭素繊維の方向に沿ってできやすいため、炭素繊維に沿ったC/C複合材の表面から厚さの方向への連続気孔ができにくい。そのためこのC/C複合材を単結晶引き上げ装置などに用いる場合、反応性ガスを流しながら引き上げを行う場合も、反応性ガスの複合材内部への浸透を抑制することができる。
【0014】
したがって、例えば、本実施の形態のC/C複合材をシリコン単結晶引き上げ装置の保温筒として使用した場合において、SiO、Si蒸気等の反応性ガス中で使用しても、C/C複合材内にガスが浸透しにくく、C/C複合材のライフを長くすることができる。また、C/C複合材において滑らかな表面が形成できるため、シリコンなどの濡れ性の高い物質の蒸着を抑制することができる。
【0015】
また、本発明の実施の形態1のC/C複合材は、筒状部全面において筒状部101の外側面101S2側から内側面101S1側に炭素繊維のC/C複合材の筒状部の周方向の配向度が徐々に大きくなるようにしても良い。本実施の形態1のC/C複合時を黒鉛材などの熱膨張係数の大きく異なる材質の部材と共に使用しても、発生する熱応力を小さくすることができる。
【0016】
例えば、本実施の形態1のC/C複合材と、黒鉛材の組み合わせでは、黒鉛材の熱膨張係数がC/C複合材の3倍以上であるため、熱膨張差によって互いに応力がかかることがある。本実施の形態1のC/C複合材では、筒状部全体に繊維配向が規則的に繰り返されているので、欠陥個所が少なくなっている。そのため、C/C複合材と黒鉛材との熱膨張係数の違いによる応力が加わったとしてもC/C複合材の欠陥箇所が少ないためクラックが発生しにくくなり、C/C複合材が破損しにくくなる。
【0017】
本実施の形態のC/C複合材は、炭素繊維の短繊維を使用しているため、炭素繊維の高弾性が発現しにくくC/C複合材全体は軟らかく低い弾性率を有する。またその反面、内表面側では炭素繊維のC/C複合材の筒状部の周方向に配向しているため、外側面101S2側よりも硬くすることができる。従って、内表面は他の部材との接触による衝撃などによる傷みの発生を防止することができる。また、C/C複合材が全周にわたって凸状の繊維配向が規則的に繰り返され分散しているため、凸状の繊維配向が局在した欠陥が無く、外部から力が加わっても破損しにくくすることができる。
【0018】
このため、本実施の形態のC/C複合材を用いたシリコン単結晶引き上げ装置の保温筒では、C/C複合材を割れにくくすることができるため、保温筒のライフを長くすることができる。
【0019】
C/C複合材において、全周にわたって周期的な起伏が規則的に繰り返されているようにするためには、以下のような処理を行えばよい。図5(a)乃至(c)は本発明の本実施の形態のC/C複合材の筒状部の加圧成形工程を示す断面図であり、(a)は起伏が形成される前のプリフォーム、(b)は起伏が形成されたプリフォーム(成形前)、(c)は、起伏が形成されたプリフォームの成形後(成形体)を示す。図11(A)〜(E)に示すような、筒型の抄造用金型を用いて抄造を行い成形体を得る方法が挙げられる。プリフォームの製造方法は、どのような方法でもかまわず特に限定されない。図11(A)から(E)に示す抄造法に基づいて説明する。(A)は水に炭素繊維、バインダを分散した図、(B)は炭素繊維、バインダを凝集させフロックを形成した図、(C)は凝集したフロックを抄造しプリフォームを形成する図、(D)は得られたプリフォームを成形する図、(E)はバインダが熱硬化した成形体(C/C複合材60)を示す。図11(A)〜(E)のような抄造法を用いることができるが詳細は後述する。
【0020】
本実施の形態では成形体を得る過程で成形の前にプリフォームの外側面に中心軸oに対して平行な波板状の起伏部すなわち凹凸になるように起伏を形成する。図5(a)に示すようなプリフォームに、図5(b)に示すように、プリフォームの外側面が中心軸oに対して平行な波板状の起伏部すなわち凹凸になるように起伏を形成する。さらにプリフォームを被覆部材で覆いオートクレーブなどを用いて成形する。この場合、プリフォームの内側面は、その内径とほぼ同一の内芯によって拘束されているため、凹凸は形成されない。一方、プリフォームの外側面ではプリフォームは大きく収縮するのに対し、被覆部材は気泡を含んでいないため、体積収縮はほとんどない。従って、収縮差によって被覆部材に弛みが生じるようになり、弛みはプリフォームに形成された起伏を大きくするように働き、プリフォームに形成された凹凸がそのまま成形される。
【0021】
このようにしてプリフォームが収縮する際に所定の位置に起伏(凹凸)が形成され、起伏が周方向に規則的に繰り返された成形体が得られる。図5(c)は、成形後の状態を示す模式図である。
【0022】
すなわち、プリフォームは外径が小さくなるように圧縮成形されて、成形体となる。このときに外径が小さくなった分、外表面が余剰になり弛みができる。この弛みは成形体の外表面のしわとなる。
【0023】
本実施の形態では、しわがあらかじめ決まられた箇所、数の多数の周期的な起伏を形成しているため、起伏が広く浅く分散し、深いノッチを形成することがなく欠陥の無い高強度のC/C複合材を得ることができる。
【0024】
なお、被覆部材は、どのような材質を用いてもよい。ポリプロピレン、ポリエステルフィルムなどの非弾性体の樹脂、天然ゴム、シリコーンゴムなどの弾性体の樹脂などどのような材質でも良い。弾性体の樹脂を用いる場合には成形時にプリフォームの体積収縮に合わせてフィルム(被覆部材)が収縮しないよう張力をかけずにプリフォームを被覆することが好ましい。弾性体の樹脂からなるフィルム(被覆部材)に張力をかけずに弛ませることにより、成形の過程でプリフォームの表面を被覆する被覆部材が余剰になりプリフォームに形成された起伏を成長させることができる。弾性体の樹脂からなるフィルム(被覆部材)に張力をかけて被覆しプリフォームを成形した場合には、弾性体フィルムが凹凸の頂部を圧縮し、プリフォームに形成された凹凸を無くしてしまうため、凹凸の形成を制御できず一部分に大きなしわを形成し欠陥を形成させてしまう。
【0025】
なお、図7(a)乃至(c)に示すように、Pオートクレーブ(図示せず)で成形する際に、成形体を覆う被覆部材として、しわを有するバギングフィルム24を用い、転写により予め凹ませる箇所のしわSを寄せておいてもよい。図7(a)乃至(c)は本発明の実施の形態1のC/C複合材の筒状部の成形加圧工程の変形例を示す。(a)起伏が形成される前のプリフォーム、(b)は凹凸を有する被覆部材で覆った状態、(c)は起伏が形成された成形体を示す。加圧初期段階は、プリフォームを加熱するとプリフォームが軟化し、プリフォームの収縮にほとんど圧力を必要としないため、容易に凹みを形成することができる。また成形時にプリフォームの体積は大きく収縮するのに対し、バギングフィルムはプリフォームの収縮に対してほとんど体積収縮しないため、バギングフィルムは収縮する過程でしわが深くなり、プリフォームはしわを元に僅かな凹みから図7(c)に示すように、ジグザグ状の凹凸まで形成される。
【0026】
加圧あるいは、内圧の減圧に先立ち、図8に示すようにプリフォーム101Pの外表面に冶具(圧子)Zを用いて凹凸を形成しておくようにしてもよい。図8に本発明の実施の形態1のC/C複合材の筒状部に起伏を形成する断面図を示す。プリフォームが抄造体である場合には、プリフォームが柔らかい状態、例えば、乾操に先立ち、凹部Rを形成すると容易に形成することができる。このように、炭素繊維の配向で得られた小さく多数の凸状部が筒状部の周方向に規則的に繰り返されたC/C複合材を得るためには、他の方法を用いてもよいことはいうまでもない。
【0027】
上記で説明したとおり、本実施の形態では、抄造法でプリフォームを得ている。そのため炭素の繊維長が短く、C/C複合材成形後の弾性率を小さくすることができる。例えばC/C複合材をシリコン単結晶引き上げ装置の保温筒に使用した場合、黒鉛部材とC/C複合材がシリコン融液などで接着されても、黒鉛、C/C複合材にかかる応力を小さくすることができる。
【0028】
本実施の形態1のC/C複合材で用いる炭素繊維は、特に限定されるものではない。たとえばPAN系、ピッチ系炭素繊維のいずれでも利用可能である。中でもPAN系炭素繊維は、低弾性であるため、熱応力や、部分的に表面がSiCなどに反応し、反応生成物が析出した場合にも内部応力を蓄えにくい。このため、破壊に至るのを防ぐことができ、シリコン単結晶引き上げ装置の保温筒などに好適に利用することができる。
【0029】
なお、本発明のC/C複合材は、しわ加工をすることで、プリフォームの外側面に起伏(凹凸)を有する成形体を形成した後、研磨などの方法により加工し、起伏を除去し平滑な表面を持つようにしてもよい。この場合も炭素繊維が表面に沿って配向した小さな凸状部が回転体の周方向に多数規則的に繰り返された成形体が得られ、欠陥の少ない成形体を得ることができる。
【0030】
このC/C複合材の素材すなわちプリフォームについては、炭素繊維を抄造して得られる抄造方式の他に炭素繊維フェルトを幾重にも重ねたシートワインディング方式等、後に成形して、C/C複合材の密度を上げるものであれば、種々の方式を用いた形成方法が適用可能である。
本実施の形態では、フロックの形成を経る抄造法を用いて形成する。フロックとは、ランダムに配向した炭素繊維とバインダとが均一に分散した凝集体のことをいう。
プリフォームの形成を中心に以下に本実施の形態のC/C複合材の製造方法について詳述する。
【0031】
本発明の実施の形態1の、C/C複合材は、筒状部101により構成されている。この筒状部101からなるC/C複合材について、図9に基づいて説明する。
図9(a)は、本実施の形態1の筒状部101を構成するC/C複合材100の斜視図である。そして図9(b)乃至(d)は、図9(a)の断面図、断面図の要部拡大図、更なる要部拡大図である。図9(c)および(d)に示すように、このC/C複合材100において、炭素繊維1はまとまって存在した薄片体3を形成している。薄片体は、フロックが成形されることにより形成される。本実施の形態の成形体はこの薄片体3の積層体により構成されており、抄造工程で基本となる形状を持つプリフォームを形成し、皺加工および焼成加工を経て得られるものである。
この構成によれば、薄片体3は、落ち葉がランダムに積み重なるように積層されているため、薄片体の端部が成形体としてのC/C複合材60中の多くの箇所に分散される。これにより、構造的に弱い部分となり剥離やクラックの原因となる炭素繊維の集合体の境界が存在しにくくなる。そして炭素質マトリックス2が、この薄片体3を構成する炭素繊維1間に介在し、炭素繊維間を固定するように充填されている。このようにして、薄片体3の境界が分散される。したがって、組成が均一な連続体を構成している状態となるため均一で応力歪の小さい成形体を得ることができる。そのため高温下でも残留応力が極めて小さいため、耐熱性が高く、高強度の3次元形状のC/C複合材を提供することができる。
【0032】
本実施の形態では、この炭素繊維1は直線状繊維からなる。本発明のC/C複合材は、後述するように、炭素繊維とバインダとを液体中で凝集させてフロックを形成し、このフロックを積層(抄造)してプリフォームが形成される。炭素繊維1が直線状繊維であることにより、後述するフロックの積層工程(抄造時)においてフロックを金型で濾過する際に、既に金型の表面に形成されている下層のフロックに炭素繊維が突き刺さりやすい。したがって、C/C複合材の曲面方向に対して垂直な方向(厚さ方向)の接合強度が得やすくなる。本実施の形態において「直線状繊維」とは、実質的に屈曲部を有しない繊維をいい、針状の繊維であることが好ましい。
【0033】
本実施の形態では、炭素質マトリックス2が、この薄片体3を構成する炭素繊維1間に介在し、炭素繊維間を固定するように充填され構成されている。さらにこの薄片体3は、落ち葉がランダムに積み重なるように積層されているため、薄片体の端部がC/C複合材の内部の多くの箇所に分散されて存在する。これにより、構造的に弱く剥離あるいはクラックの原因となる薄片体の境界が細かく分散される。
そのため、見かけ上均質(組成が均一)な欠陥の無いC/C複合材を得ることができる。このような構造を有しているので、高温下でも、耐熱性が高く、高強度のC/C複合材を得ることができる。
【0034】
本実施の形態では、薄片体の平均長径は、1〜10mmであることが好ましく、2〜5mmであることがさらに望ましい。薄片体の平均長径が1.0mm未満であると、対応するフロック片の大きさが小さくなるため、抄造時の、通水抵抗が大きくなり易く、厚肉のC/C複合材を得にくくなる。一方薄片体の平均長径が10mmを超えると、後述する製造工程において、薄片体の素となるフロックを積層する際に、繊維とバインダの凝集し易さが異なることからフロックの中心部とフロックの周辺部とで偏析が起こり易くなる。このため、薄片体内部のバインダ成分も偏析し易くなる。また、薄片体の平均長径が10mmを超えると、後の成形・硬化でバインダが溶けても十分に流動できず偏析が解消されにくくなる。この結果、バインダの希薄な部分ができ、その箇所を基点としたクラックが発生しやすくなり、C/C複合材の強度が低下するおそれがある。
本実施の形態において、薄片体の平均厚さは、0.05〜1.0mmであることが好ましく、0.1〜0.5mmであることがさらに好ましい。薄片体の平均厚さが0.05mm未満であると、対応するフロックの大きさが大きくなり、通水抵抗が大きくなり易く厚肉のC/C複合材が得られにくくなる。薄片体の平均厚さが1.0mmを越えると、薄片体端部に空洞が出来、空洞周辺に応力集中が生じ易くなり、C/C複合材の強度が低下するおそれがある。薄片体は、C/C複合材表面から一枚ずつであれば、薄い刃物を用いて剥がすことが出来るため、薄片体の厚さ、長径は直接測定することができる。
【0035】
本発明において炭素繊維の配向とは、炭素繊維の方向が特定の方向に偏っている状態をいい、必ずしもすべての繊維が同一方向に揃っている状態を示すものではない。
【0036】
本実施の形態のC/C複合材は、プリフォームにおける薄片体の積層方向(成形体の厚さ方向)に隣接する薄片体をつなぐ炭素繊維成分を含むことが望ましい。また、炭素繊維1のC/C複合材の厚さ方向の配向成分が成形体の厚さ方向に連続的に存在することが望ましい。上記のように、既に形成されているフロックに直線状の炭素繊維が突き刺さるように積層していく。そのためフロックの境界であっても炭素繊維が突き刺さっているため、C/C複合材の厚さ方向の配向成分が連続的に形成される。これによりC/C複合材の厚さ方向に垂直な方向にフロックの界面が存在しにくくなり剥離しにくいC/C複合材を得ることができる。
【0037】
本実施の形態の炭素繊維は平均繊維長が1.0mm未満であることが望ましい。平均繊維長が1.0mm以上であると、抄造時に炭素繊維どうしが絡まり合い、炭素繊維が互いに反発するため嵩密度の高い抄造体を形成しにくい。プリフォームである抄造体の嵩密度が低い場合には、オートクレーブなどで成形を行うと圧縮 の過程で発生するしわが多くなり,しわの発生が制御しにくくなる。このため本発明の実施の形態の特徴である、頂部が回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を形成しにくくなる。炭素繊維の平均繊維長が1.0mm未満であれば、プリフォームの内部に空隙ができにくく、抄造時に、より嵩密度の高いプリフォーム(抄造体)を得ることができるため、オートクレーブで成形する際に圧縮率を低くすることができる。圧縮率とは、(成形前の体積)/(成形後の体積)をさす。このように、プリフォームの圧縮率を低くすることができるので、しわの発生を制御し易くなり、本発明の実施の形態の特徴である頂部が回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を有するC/C複合材を得ることができる。
【0038】
また、炭素繊維の平均繊維長が1.0mm未満であれば直線状繊維となりやすく、抄造する際に既に形成されている下層のフロックに突き刺さりやすくなる。炭素繊維はフロックに突き刺さることにより成形体の厚さ方向の接合強度が得やすくなる。
【0039】
炭素繊維の平均繊維長は、0.05mm以上が望ましい。炭素繊維の平均繊維長は0.05以上0.5mm未満が更に望ましい。炭素繊維の平均繊維長が0.5mm未満であれば、C/C複合材の厚み方向の強度をより強くすることができる上に、プリフォームの抄造時に短い繊維は高い密度で充填されやすいため、特にフロックの積層時の密度を高めることができる。そのためプリフォームの、成形時の圧縮率を小さくすることができる。炭素繊維の平均繊維長が0.05mm以上であると、繊維とバインダとの充分な接着力が得られ、繊維が引き抜かれにくくなり、高強度の成形体を得ることができる。
【0040】
なお、単に炭素繊維の短繊維(例えば1〜10mm)を使用し、フロックの生成を経ることなく目の細かな型を用いて抄造した場合には、炭素繊維の絡まりが少なくなる。このため高密度の抄造体を得ることができるが、薄い抄造体が形成された段階で炭素繊維を分散させる液体(水)の通過抵抗が大きくなるため、それ以上抄造が困難になる。そのため、厚く高密度の抄造体を得ることが困難である。これに対し、本発明は、フロックを形成することで、目詰まりをなくし、効率よく薄片体を積層することで、高密度で厚い抄造体を形成する。そして、得られた高密度の厚い抄造体を圧縮することで、C/C複合材を得ることができる。
【0041】
炭素繊維の平均繊維径は、1〜20μmが好ましい。また、炭素繊維のアスペクト比は10〜1000が好ましい。炭素繊維の平均繊維径及びアスペクト比がそれぞれ上記範囲であれば炭素繊維長に対して充分に炭素繊維径を細くすることができ、繊維がマトリックスから引き抜かれにくくなるため、高強度を得ることができる。
【0042】
炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維のどちらも好適に使用することができる。PAN系炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維に比べて弾性率が低いため、例えば単結晶引き上げ装置用のるつぼ、保温筒、ルツボ受け皿、ヒーター等の柔軟性が必要な用途に好適に使用することができる。ピッチ系炭素繊維は弾性率がPAN系炭素繊維に比べ高いため、蒸着装置の基板支持プレート、搬送アームなど、撓みを抑えたい機械部品等の構造部材に好適に使用することができる。
【0043】
本実施の形態のC/C複合材は、嵩密度が1.2g/cm3〜1.8g/cm3であることが好ましい。C/C複合材の嵩密度が1.2g/cm3未満であれば、C/C複合材の空隙が多くなるためマトリックスによる炭素繊維の接合が密になりにくくなる。そのため、炭素繊維が脱離しやすくなる。このため、緻密でより高い強度のC/C複合材を得ることができる。嵩密度が1.8g/cm3を超えると、脱脂あるいは焼成時に発生するガスにより、気泡ができやすくなり、剥離、膨れが出来、欠陥部分となる。
本実施の形態のC/C複合材は、厚さが20mm以上の湾曲した形状であっても高強度のC/C複合材を容易に形成することができる。一旦、炭素繊維とバインダとを含むフロックを形成して、抄造法により金型に堆積させて、フロックが積層したプリフォームを成形するため、肉厚のプリフォームが得られやすく20mm以上の肉厚のC/C複合材を容易に得ることができる。
【0044】
以下、本発明の実施の形態1のC/C複合材の製造方法について説明する。図10は本実施の形態のC/C複合材の製造工程フローを示す図である。
まず、工程(S1)として、プリフォームを形成する。ここでプリフォームの形成方法としては、フロックを形成して抄造し厚いプリフォームを得る抄造法、抄造し紙状の薄いシートを得た後積層する抄造シート積層法のほか、図12に示すように乾式あるいは湿式でフェルトを形成して積層するフエルト積層法などを変形例として用いることも可能である。
【0045】
次に、工程(S2)として、表面に周期的な起伏(凹凸)を形成する。起伏(凹凸)の形成方法としては、プリフォームにあらかじめ凹凸を形成し、オートクレーブで圧縮する方法、圧子とともに圧縮するなどの方法も利用可能である。
【0046】
次に、工程(S3)および工程(S4)として、凹凸の形成されたプリフォームを成形(S3)して硬化(S4)させる。ここで成形と硬化はそれぞれ別におこなってもよいし同時に行ってもよい。
【0047】
そして、工程(S5)および工程(S6)として、成形・硬化されたプリフォームを脱脂(S5)して焼成(S6)する。また、脱脂、ピッチ含浸、脱脂、焼成を順で行ってもよい。さらに含浸、脱脂は繰り返し行ってもよい。
【0048】
以下、本発明の実施の形態1のC/C複合材の製造方法について詳細に説明する。図11(A)から(C)は本実施の形態のC/C複合材形成工程におけるプリフォームの製造工程を示す概要図を示し、図11(D)から(E)は、プリフォームを加圧成形する工程を示す概要図である。また、(A)は水に炭素繊維、バインダを分散した図、(B)は炭素繊維、バインダを凝集させフロックを形成した図、(C)は凝集したフロックを抄造したプリフォームを形成する図、(D)は得られたプリフォームを成形する図、(E)はバインダが熱硬化した成形体の図を示す。
図11(A)及び(B)に示すように、炭素繊維1と、炭素質マトリックスの前駆体成分であるバインダとを液体中に懸濁させた後に凝集剤を加え、炭素繊維1とバインダとを凝集させてフロック5を形成する。炭素繊維1は、はじめ図11(A)に示すように液体中に分散してスラリーを形成するが、時間の経過と共に図11(B)に示すように凝集してフロック5を形成する。
【0049】
次に、図11(C)に示すように、フロック5が形成された液体を、多孔状型面21を有する金型20で濾過する。多孔状型面21は側面に多数の開口21Aを有する。これにより、多孔状型面21の表面にフロック5を積層し、フロック5の積層体を形成する。
本実施の形態におけるC/C複合材の製造方法では、従来のように炭素繊維が懸濁したスラリーを直接濾過(抄造)するのではなく、一旦炭素繊維をバインダと共に凝集させてフロックを形成し、フロックを濾過(抄造)することを特徴とする。これにより、多孔状型面21へのフロック5の積層が進行しても、フロック5の間を液体が透過することができる。そのためフロックは、液体の透過を遮りにくく、厚いフロック5の積層体を容易に得ることができる。また、図9(c)に拡大して示すように、水の通過抵抗が大きくならないよう多孔状型面21の開口21Aより炭素繊維1の平均繊維長が小さい場合であっても、フロック5を開口21Aより大きく形成することができる。したがって、スラリーの濾過の際に炭素繊維1が開口21Aを通過することなく、フロック5の積層体を形成することができる。得られたフロック5の積層体をプリフォーム50として用いる。
【0050】
このあとは図10の工程S2およびS3として、図5乃至図8に示すように、C/C複合材の周方向に周期的な起伏を形成しながらフロック5の積層体を加圧する。これにより、炭素繊維1は、炭素繊維の凸状の配向が成形体の周方向に規則的に繰り返され、頂部が前記回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏をもつプリフォーム101Pが得られる。そしてフロック5は薄片化して、薄片体前駆体6となる。このようにして、プリフォーム101Pを形成する。
【0051】
そして、図10(S4)に示すように、薄片体前駆体の積層体からなるプリフォーム101Pを硬化する。成形体の硬化工程は、プリフォームの成形時に十分に加熱すれば成形工程と同時に行うことができる。
次にバインダを炭化するために脱脂(S5)を行う。これにより、バインダ4を炭化して、炭素質マトリックス2が生成される。
さらに焼成(S6)を行うことにより、炭素質マトリックスの結晶化を進行させ、本発明のC/C複合材100を得ることができる。
【0052】
次に、本発明の実施の形態1のC/C複合材の製造方法において、図10のC/C複合材の製造方法の工程フロー図に基づいて各工程について下記に詳しく説明する。
【0053】
[プリフォーム形成工程(S1)]
炭素繊維は、前処理として、使用目的に応じて調整を行う。例えば釣り竿または航空部品などに用いられる炭素繊維強化プラスチック(以下「CFRP」とも称する)用の炭素繊維の表面にはサイジング剤などの被膜が形成されているため、プリフォームの抄造時に水に分散しにくくなる。このため炭素繊維はサイジング剤などの被膜のないものを選択するか、不活性ガス雰囲気あるいは還元性雰囲気下で熱処理しサイジング剤などを除去する必要がある。なお、CFRPの製造の過程で発生する端材を使用しても良い。このようなサイジング剤などの被膜は500℃以上に熱処理することで除去することができる。次に炭素繊維の平均繊維長を1.0mm未満となるようにする。炭素繊維の平均繊維長が1.0mm未満であれば前述したように、フロックの積層体(抄造体)段階での成形体の嵩密度を高め、成型時のしわの発生を制御し易い。従って、成形体の強度の弱い部分の発生をおさえることが出来る。また成形体の厚さ方向の接合強度が得られるようになり、剥離しにくい高強度の成形体を得ることができる。平均繊維長が1.0mm未満の炭素繊維は、市販の炭素繊維、CFRPの製造の過程で発生するクロス、又はストランド等の端材を粉砕することにより得ることができる。なお、炭素繊維の粉砕は、水中に分散しミキサを使用して均一に粉砕することができる。ここでサイジング剤を除去する熱処理は、有機物から発生する炭化水素ガス、水素などの還元性ガス、窒素ガス、Arガスなどの不活性ガスの雰囲気で行うことができる。
【0054】
[フロック形成工程]
フロックを調製するにあたり、液体としては水を使用することが望ましい。大量の液体を使用するために有機溶媒などに比べ水は安全に使用できる上に、排液の処理が容易であるからである。
炭素質マトリックスの前駆体成分からなるバインダ(以下、「第1バインダ」とも称する。)としては炭素繊維を懸濁する上記液体に不溶で、炭化する物であればどのような物でも利用することができる。第1バインダは、粉状であることが好ましく、第1バインダの粒子径は3〜100μmであることが好ましい。第1バインダが粉状であれば、炭素繊維間の空隙に均一に分散し、第1バインダの偏析を起こりにくくすることができる。このため、後に第1バインダが溶融し炭素繊維表面に付着した場合に、成形体中に大きな空洞ができることない。そのため、高強度のC/C複合材を得ることができる。第1バインダとしては、例えば、ピッチ、フェノール樹脂、フラン樹脂、又はイミド樹脂などの熱硬化性樹脂から選ばれる1種以上を好適に利用することができる。フェノール樹脂としては、例えば、エアウォーター社製ベルパール(登録商標)S890を好適に利用することが出来る。ベルパールは、粉末状のフェノール樹脂であり、表面に疎水性被膜が形成されているため、水中でも溶解することなく粒状を保っているので、炭素繊維と共に凝集することができる。
第1バインダの添加量は炭素繊維100重量部に対し50〜200重量部が好ましい。第1バインダの添加量が50重量部未満であると、炭素繊維を十分に縮合できず、第1バインダの添加量が200重量部を超えると、脱脂、あるいは焼成時に発生するガスにより成形体中に気泡ができ易くなる。いずれの場合もC/C複合材の強度低下の原因となる。
【0055】
本実施の形態で用いる凝集剤は、電荷の変化を利用して炭素繊維とバインダとを凝集できるものであればどのような物でもよい。凝集剤としては、炭素繊維のζ電位を±10mV以下にできる物が望ましい。例えば無機凝集剤材、有機高分子凝集剤等が利用でき、具体的には有機高分子凝集剤のパーコール292(登録商標:アライドコロイド社製)等が好適に利用できる。有機高分子凝集剤は、分子量が大きいため、架橋作用もあり、大きなフロックを得ることができるため、好ましい。フロックが形成されると、炭素繊維で黒く着色したスラリーの状態から、透明な液体中に黒いフロックが浮遊する混合液の状態に変化する。
【0056】
凝集剤の添加量としては、炭素繊維100重量部に対しに対して0.05〜5.0重量部が好ましい。凝集剤の添加量を上記範囲とすることにより崩れにくい良好なフロックを形成することができる。
また、多孔状型面の開口径の大きさは、特には限定されないが0.5〜10mmであることが好ましく、1〜3mmがさらに好ましい。多孔状型面の開口径が0.5mm未満であると、炭素繊維が多孔状型面に目詰まりし易くなり水の通過抵抗が大きくなる。多孔状型面の開口径が10mmを超えると、多孔状型面の開口部に開口面積に負圧を乗じた吸引力が発生するため、本来通過しない大きさのフロックまでも吸引され通過してしまうことがある。フロックの大きさは、濾過に用いる多孔状型面の開口径と同等以上にすることが望ましい。フロックの大きさには分布があるので、直径の大きなフロックが型面に捕捉されると、多孔状型面へのフロックの堆積が開始する。多孔状型面の開口径よりもフロックの平均直径が大きく下回ると、フロックの大部分が型面を通過してしまいフロックが型面へ堆積することができない。混合液中におけるフロックの平均直径は0.5〜10mmが好ましく、1〜5mmがより好ましい。フロックの大きさは凝集剤の量、凝集時間、撹拌の強さにより調節することができる。
【0057】
フロックを形成する液体中にはさらに、第2バインダを添加することが好ましい。前記第1バインダ成分は、抄造段階では粉末状であるため、フロック積層した抄造体の形状を保持しにくい。第2バインダは、後に得られる抄造体の形状を、後の成形工程前まで保持するために添加する成分である。第2バインダとしてはフロックの積層体の形状を保持できればどのような物であっても構わない。フロックの積層体を形成する段階で炭素繊維と第1バインダとを、また炭素繊維同士を、物理的に結合させる作用を有する物であればどのような物でも良い。第2バインダとしては例えば粘性液体、有機繊維などが挙げられる。粘性液体としては、でんぷん、またはラテックスなどが好適に利用できる。ラテックスは、水に混合すると白濁し懸濁液となる。細かく分散したラテックスの液滴は、炭素繊維と第1バインダとを粘着作用により結合させる作用がある。有機繊維としてはパルプなども好適に利用できる。パルプは水との親和性がよく、炭素繊維と絡み合って、炭素繊維と第1バインダとを結合させる作用を有する。第2バインダとして粘性液体を用いた場合の一例として、図11(D)に拡大図を示す。この場合、炭素繊維1と第1バインダ4の間に第2バインダ7aが、炭素繊維1間に第2バインダ7bが介在することで、プリフォーム50(図8では101P)の形状が保持されている。
【0058】
なお、フロックの形成にあたり、上記炭素繊維、第1バインダ、凝集剤及び第2バインダの添加順序は特に制限はなく、これらを同時に液体中に添加しても順次添加してもよい。均一かつ安定にフロックを形成する観点から下記順序で調製することがより好ましい。
a)水に炭素繊維を投入し撹拌しながら分散させる。撹拌が強すぎると気泡ができるので撹拌の強さを調製する必要がある。撹拌手段はプロペラシャフト型あるいはパドル型等を用いることができる。炭素繊維の攪拌時間は3分前後が好ましい。
b)次に第1バインダを加え、第1バインダが分散するまで攪拌する。攪拌時間は0.5〜5分間が好ましい。
c)次に第2バインダを加え、第2バインダが分散するまで攪拌する。攪拌時間は0.5〜5分間が好ましい。
d)最後に凝集剤を加える。撹拌が少ないと凝集剤が混ざらず、撹拌しすぎると形成されたフロックが壊れてしまう。そのためフロックの出来具合を確認しながら撹拌時間を調整する。攪拌時間は20〜30秒が好ましい。
【0059】
[フロックの積層体(プリフォーム)形成工程]
こうして形成されたフロック5を含む液体中に金型20を浸漬する。
金型20は、図11(C)に示すように、円筒形状の多孔状型面21と、減圧室22とを備えている。多孔状型面21には、開口21Aが設けられており、多孔状型面21にのみフロックが積層される。減圧室22は配管23により吸引ポンプ(図示せず)と連結されている。したがって、吸引ポンプを作動させると、減圧室22内の空気が排出され減圧状態となる。すると、金型20の多孔状型面側にフロック5が吸引される。フロック5の大きさは、開口21Aよりも大きいため、フロック5は開口21Aを通過せず多孔状型面21の表面に多孔状型面の面方向に連続した層として積層する。その際、フロック5は、既に形成された積層体に突き刺さるように積層する。積層したフロック5は、吸引力の影響で球形からやや扁平形状となり、フロック内の炭素繊維1の長手方向は多孔状型面21の面方向に配向するようになる。一方、液体は開口21Aを通過し、配管を介して外部に排出される。こうして、プリフォーム50を形成することができる。
【0060】
多孔状型面21は、液体を透過できる複数の開口を有する物であればどのような物で構成してもよく、構成部材としては、網、パンチングメタル、織布、又は不織布等が挙げられる。
【0061】
また、吸引濾過の際、減圧はどのような物で行っても良い。空気の他液体も一緒に吸引されるので自吸式の渦巻きポンプ、又はアスピレータなどが好適に利用できる。
【0062】
なお、濾過の方法としては、上記に示した吸引濾過の他に、加圧濾過、又は遠心濾過等の方法を採用してもよい。加圧濾過は、例えば、多孔状型面の外表面側を加圧ガスで加圧し、多孔状型面の外表面にフロックを積層させ、プリフォームを形成する方法である。遠心濾過は、例えば、内面に多孔状型面を設置した回転体の型の内部にフロックを含む混合液を供給し、回転体を回転させ、多孔状型面の内表面にフロックを積層させ、プリフォームを形成する方法である。
【0063】
[乾燥工程]
次に、前記工程で得られたプリフォームに残存する水分を除去するために金型ごと乾燥を行う。抄造法で得られたプリフォームは乾燥する必要があるが、フェルト積層法では水分を含有しないので乾燥工程は必ずしも必要ではない。乾燥は水分を除去するために40℃以上で行うことが好ましい。また、第1バインダの溶融硬化を防止するため、第1バインダの溶融温度以下で行うことが好ましい。例えば、第1バインダとしてベルパール(登録商標)を用いた場合は、70℃前後で疎水性被膜が溶解することに鑑み、60℃以下で通風しながら乾燥させることにより、容易に水分を除去することができる。
【0064】
[起伏(凹凸)形成工程(S2)]
まずフロックの積層体からなるプリフォーム50の外側面に、圧子からなる冶具を用いて、凹部を形成する。ここでプリフォームの外表面に凹部を形成する際、変形させ易くするために、プリフォームをあらかじめ加熱しておくことが好ましい。この加熱はプリフォームが軟化しさえすればよく、例えば、50〜120℃で好適に行うことができる。フロックの積層体を加熱すれば50℃以上であれば樹脂を十分に軟化させることができ、120℃以下であれば成形前に樹脂が硬化しない。
[成形工程S3]
図11(D)に示すように、プリフォーム50をバギングフィルム24で覆い、オートクレーブ(図示せず)を用いて熱と圧力を加え成形し、成形体を得る。まずバギングフィルム24内の空気を吸引し真空引きした後、圧力をかける。成形圧は1MPa以上が好ましい。成形圧が1MPa以上であれば、高い密度の成形体を得ることができる。特に、成形圧に上限はないが、熱を加えて第1バインダを軟化させているため、10MPaの圧力をかければ十分な成形体の密度を得ることができる。このとき、プリフォーム50の金型20面側を、支持材25で支持しながら成形することが好ましい。支持材25で支持することにより、加熱によりプリフォームが軟化し、変形することを防ぐことができる。ここで用いる支持材25はプリフォームの形成工程(S1)で使用した金型20とは異なり、多孔状型面を有さない、表面が平滑なものである。
【0065】
[硬化工程(S4)]
熱硬化性樹脂である第1バインダを用いているので、上記加圧成形工程において十分に圧力を上げた後、加熱し、フロック内に含まれる熱硬化性樹脂を溶融硬化させることが好ましい。これにより、成形体が変形しないように形状を固定化させることができる。熱硬化性樹脂の硬化温度は、例えば一般に150℃以上で行うことが出来る。温度が高ければ高いほど熱硬化性樹脂の硬化が進行する。前記の成形工程をオートクレーブで行う場合等、成形工程で充分に加熱できれば、硬化工程は成形工程と同時に行うこともできる。硬化温度の上限は特にないが、200℃の温度をかければ熱硬化性樹脂を十分に硬化させることができるため、この程度である。
【0066】
[脱脂工程(S5)]
焼成工程の前に、成形体内部の有機成分を揮発させるために脱脂を行うことが好ましい。この脱脂工程を経て、第1バインダは炭化し、第2バインダはその大部分が分解し揮散する。このため、脱脂工程以降で結合作用を有するのは、第1バインダ成分を由来とする炭化物である。脱脂工程の後にピッチ含浸及び、樹脂含浸を行う場合には、成形体に含浸を行うための気孔を形成しておく必要があるので、500℃以上で脱脂することが好ましい。脱脂が500℃以上で行われれば、樹脂の炭化が充分に進行し、後の含浸工程で樹脂あるいはピッチの含浸される充分な大きさの気孔を形成することができる。脱脂温度の上限は、特に制限はないが、1000℃の高温下に置くことで大部分の脱脂を完了させることができる。脱脂は、炭素繊維及び(第1)バインダが酸化するのを防ぐため、還元性雰囲気で行うことが好ましい。有機物から発生する炭化水素ガス、水素などを用いた還元性雰囲気のほか、窒素ガス、Arガスなどを用いた不活性ガス雰囲気で行うことができる。
【0067】
[含浸工程]
脱脂後の成形体の気孔内部に、樹脂、ピッチなどを含浸することによりC/C複合材60を高密度化することが好ましい。脱脂後のC/C複合材60をオートクレーブに入れ、真空引きした後に、オートクレーブ(図示せず)中に液状の樹脂又はピッチを導入し、浸漬した後圧力を加える。液状の樹脂は、水や有機溶媒で溶液にしたもの又は、熱を加え溶融した物でも良い。溶液に樹脂を用いる場合には、使用を繰り返しても重合が進みにくいので、安定して使用することができる。ピッチを用いる場合には、オートクレーブを軟化点以上に加熱して、ピッチを液状にして使用する。
含浸が終了した後、上記脱脂工程と同様に脱脂を行うことにより、より高密度の成形体を得ることができる。含浸工程はC/C複合材の密度を上げ高密度化することができるが、本発明の実施の形態のC/C複合材の成形において、必ずしも必要ではない。
【0068】
[焼成工程(S6)]
成形体にさらに熱を加え焼成することにより、第1バインダは十分に炭化し、炭素質マトリックスとなる。焼成により本発明実施の形態のC/C複合材100を得ることができる。
焼成工程においては、温度の上昇と共に支持材は熱膨張し、成形体は熱収縮する。焼成工程で発生する支持材25と成形体との熱膨張差による応力を回避するため成形体から支持材25を外し、焼成炉内で、非酸化性雰囲気で加熱することが好ましい。焼成工程の焼成温度は、1500〜2800℃が好ましく1800〜2500℃がより好ましい。焼成温度が1500℃以上であれば、C/C複合材中の水素などの不純物を充分に除去できる。水素などの不純物が残留すると、C/C複合材を使用する際に炭化水素ガス等が発生する。C/C複合材を半導体製造装置などで使用する際に、C/C複合材から発生する炭化水素ガスが半導体に混入し、半導体の純度を低下させる。焼成温度が2800℃以下であれば、C/C複合材の結晶化の進行を押さえることができ、C/C複合材の強度を維持することができる。このようにしてC/C複合材60が得られる。
【0069】
なお、C/C複合材60の密度を高めるため、焼成工程の前に成形体への含浸工程を複数回繰り返しても良い。
【0070】
そして、本発明の実施の形態のC/C複合材は、プリフォーム形成工程、起伏(凹凸)形成工程、成形工程、脱脂工程、含浸工程、焼成工程を経て、炭素繊維の凸状の配向が回転体の周方向に規則的に繰り返され、頂部が前記回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を有することができる。この円筒状のC/C複合材100は、炭素繊維の凸状の配向が周方向に規則的に繰り返されているため、大きなしわに起因する大きな凸状の配向部が形成されず、高強度のC/C複合材を得ることができる。
【0071】
<実施例>
図1に示すような円筒状のC/C複合材を以下の工程で作製する。
[プリフォーム形成工程]
(1)炭素繊維の調整工程
平均繊維長150μm、平均繊維直径7μmのCFRP用のPAN系炭素繊維を準備する。ここでは、水への分散性を向上させるために繊維の表面に塗布されているサイジング剤を還元性雰囲気下550℃で焼成し除去する。この後、炭素繊維を水に分散させ、平均繊維長150μmになるまでミキサで粉砕した後、脱水し乾燥させる。
【0072】
(2)フロック形成工程
(a)前記炭素繊維調整工程で得られた炭素繊維を水に投入し撹拌しながら分散させた。撹拌は約3分間行う。
(b)次に炭素繊維100質量部に対し第1バインダとしてフェノール樹脂(エアウォーター社製「ベルパール」(登録商標)S890(200質量部)を加え、上記(a)同様に1分間撹拌する。
(c)次に第2バインダとしてラテックス(5質量部)を加え、上記(a)同様に1分間撹拌する。
(d)さらに、凝集剤としてカチオン系凝集剤(アライドコロイド社製「パーコール(登録商標)292」)(0.3質量部)を加え、20秒間撹拌し、フロックを形成する。
【0073】
(3)抄造工程
フロックの形成された水を、外表面に開口1.0mmの金網を備えた円筒形の型を用いて内側から吸引し、金網の表面にフロックを積層し、円筒形の積層体を形成する。開口1.0mmの金網を用いているが、炭素繊維はフロックを形成しているため、金網を通過する炭素繊維はほとんど無い。そのまましばらく円筒形の積層体を放置し、重力で水分が除去されてから、乾燥機を用いて60℃で乾燥させ、プリフォームを作製する。
【0074】
[凹凸形成工程]
前記工程で得られたプリフォームの内側に、表面が平滑な円筒形の金型を挿入し、プリフォームを80℃にあたため、図5(b)に示したように、冶具を用いてあらかじめ起伏(凹凸)を形成する。
[成形工程]
更にプリフォームの表面を密閉フィルムで覆い、オートクレーブに入れ150℃の熱を加えながら加圧する。このとき回転体の中心軸が水平となるように横向きに成形した。加圧圧力は2MPaで行う。
【0075】
[硬化工程]
前記工程に引き続き、プリフォームをオートクレーブで最大圧力(2MPa)のまま2時間放置する。この工程により、第1バインダ(フェノール樹脂)を硬化する。
【0076】
[脱脂工程]
前記硬化工程で得られた成形体の金型から外し、還元性雰囲気炉で加熱する。加熱は70℃/hの昇温速度で、炉内の最高温度550℃となった時点で1時間保持し脱脂を行う。その後、室温(25℃)まで放冷する。なおこの脱脂工程は、有機物から発生する炭化水素ガス、水素などを用いた還元性雰囲気で行う、窒素ガス、Arガスなどを用いた不活性ガス雰囲気で行うこともできる。
【0077】
[含浸工程]
脱脂工程までに、所望の嵩密度が得られていない場合には、更に含浸工程を行う。
本実施例では、脱脂後の成形体を200℃に加熱したオートクレーブの中に入れ、真空引きした後に軟化点80℃のピッチを流入し、4MPaで加圧し、脱脂された成形体中にピッチを含浸する。
【0078】
含浸された成形体は前記脱脂工程と同様の脱脂処理を行う。
【0079】
[焼成工程]
脱脂された成形体(含浸された成形体も含む)は、焼成を行う。還元性雰囲気下で、150℃/hの昇温速度で加熱し、炉内の最高温度2000℃となった時点で15分保持して焼成を行う。その後室温(25℃)まで放冷する。この焼成工程により、第1バインダから炭素質マトリックスを形成する。炭素質マトリックスの存在により、炭素繊維どうしの接着力が強まり、強度を発現することが出来る。このようにして、内直径1000mm、高さ1000mm、厚さ25mmのC/C複合材を得る。なお上記の還元性雰囲気は、成形体を焼成容器に詰め、成形体に含まれる有機物から得られる炭化水素ガスでパージすることによって得られる。また水素などの環元性ガスを用いる。あるいは、Arや窒素などの不活性ガスを用いることもできる。
【0080】
<比較例1>
実施例1において、凹凸を形成する工程を省略し、他の工程は前記実施例と同様に行う。
【0081】
図15に本比較例1で得られたC/C複合材の断面図を示す。実施例1のC/C複合材では、起伏が広く浅く分散し、大きなしわを形成していない。これに対し本比較例1で得られたC/C複合材の外表面は平滑な領域が大部を占めるが大きなしわの形成された領域が部分的に存在する。比較例1のC/C複合材の平滑な領域では構造的な欠陥はほとんど存在しないのに対し、大きなしわの形成された領域には深いノッチ(N)が形成される。そのためノッチが形成される部分はC/C複合材の強度を著しく低下させる。比較例1の成形工程では、回転体の中心軸が水平となるように成形したため、プリフォームを加熱したときに発生する外表面の弛みが重力によって下側に集まり、大きなしわが下側に発生した。
【0082】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2のC/C複合材について説明する。本実施の形態2ではC/C複合材の製造方法における加圧工程のしわ加工の変形例について説明する。
図13(a)乃至(c)は本発明の実施の形態2のC/C複合材の製造方法のおける凹凸形成工程を示す説明図であり(a)はプリフォームを被覆部材で覆い圧子を配置した図、(b)は圧子でプリフォームの周囲に起伏を形成する図、(c)は成形により起伏が形成された成形体の図を示す。
図13(a)に示すように、まず、加圧工程に先立ち、圧子Zをプリフォーム101Pを覆うバギングフィルム24(被覆部材)の外側面全体に均一に配置し、バギングフィルム24を圧子Zで押さえる。このとき、変形させやすくするため、プリフォームを加熱することが好ましい。例えば、50〜120℃で好適に行うことができる。プリフォームの加熱が50℃以上であれば樹脂を十分に軟化させることができ、プリフォームの加熱が120℃以下であれば成形前に樹脂が硬化することがない。そして、図13(b)に示すように、プリフォーム101Pに凹部を形成する。ここで25は支持材である。このようにして図13(c)に示すように、プリフォームの外側面に波板状の周期的な起伏を有するC/C複合材を得ることができる。本実施の形態2のC/C複合材においても、外側面は、頂部が軸O方向に延びた波板状の周期的な起伏を有している。そして、C/C複合材の内側面側では炭素繊維1が内側面の長手方向に対して垂直な方向に沿って配向し、かつ炭素繊維は、外側面の起伏の傾斜に沿って配向している。
【0083】
(実施の形態3)
次に本発明の実施の形態3のC/C複合材について説明する。本実施の形態3は、抄造法のプリフォームにしわを加工する変形例である。図14(a)乃至(c)は本発明の実施の形態3のC/C複合材の製造工程における凹凸形成工程を示す説明図であり、(a)は抄造後の湿ったプリフォームに圧子を配置した図、(b)は凹凸が形成されたプリフォームの図、(c)は凹凸の形成されたプリフォームが被覆部材で覆われ成形される図を示す。本実施の形態3において、抄造後のプリフォームは水分を含有しているため、熱することなく容易に外側面に起伏(凹凸)を形成することができる。抄造後のプリフォームに圧子Zを用いて凹凸を形成し、そのまま本発明の実施の形態1と同様に乾燥し凹凸の形成されたプリフォームを形成することができる。このようにして得られたプリフォームを本発明の実施の形態1と同様に成形、硬化、脱脂、焼成工程を経ることにより、本実施の形態3のC/C複合材を得ることができる。なお、この圧子を一部に選択的に形成してもよい。
【符号の説明】
【0084】
100 C/C複合材
101 筒状部
1 炭素繊維
2 炭素質マトリックス
3 薄片体
4 バインダ、第1バインダ
5 フロック
50、101P プリフォーム
60 C/C複合材(成形体)
7 第2バインダ
20 金型
21 多孔状型面
21A 開口
22 減圧室
23 配管
24 被覆部材(バギングフィルム)
25 支持材
100s1 内側面
100s2 外側面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面部を備えた回転体状のC/C複合材であって、
前記C/C複合材は、炭素繊維と、炭素質マトリックスとを含み、
前記C/C複合材の前記曲面部の内側面と外側面とが相対向し、
前記C/C複合材の前記外側面は、頂部が前記回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を有し、
前記C/C複合材の前記内側面側では前記炭素繊維が前記内側面に沿って配向し、かつ
前記C/C複合材の前記外側面側では前記炭素繊維が、前記外側面の前記起伏の傾斜に沿って配向したC/C複合材。
【請求項2】
請求項1に記載のC/C複合材であって、
前記内側面と、前記外側面は、筒状体を構成するC/C複合材。
【請求項3】
請求項1に記載のC/C複合材であって、
前記外側面は、円錐体を構成するC/C複合材。
【請求項4】
曲面部を備えた回転体状のC/C複合材の製造方法であって、
炭素繊維と、炭素質マトリックスの前駆体成分とを含み、相対向する内側面と外側面とを有する曲面部を備えたプリフォームを形成する工程と、
前記プリフォームの外側面に周期的な起伏を形成する工程と、
前記プリフォームを、加圧する工程と、
前記加圧成形されたプリフォームを焼成する工程とを有し、
前記C/C複合材の前記曲面部の内側面と外側面とが相対向し、
前記C/C複合材の前記外側面が、頂部が前記回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を有し、
前記C/C複合材の前記内側面側では前記炭素繊維が前記内側面に沿って配向し、かつ、
前記C/C複合材の前記外側では炭素繊維は、前記C/C複合材の前記外側面の前記起伏の傾斜に沿って配向したC/C複合材を製造することを特徴とするC/C複合材の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載C/C複合材の製造方法であって、
前記起伏を形成する工程は、
前記プリフォームを被覆部材で被覆し、前記被覆部材を介して、前記外表面側に起伏を形成する工程を含むC/C複合材の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載C/C複合材の製造方法であって、
前記加圧する工程は、前記プリフォームを凹凸を有する被覆部材で被覆し、前記被覆部材の凹凸を前記外側面側に転写し、前記外側面側に起伏を形成する工程と同時に加圧する工程であるC/C複合材の製造方法。
【請求項1】
曲面部を備えた回転体状のC/C複合材であって、
前記C/C複合材は、炭素繊維と、炭素質マトリックスとを含み、
前記C/C複合材の前記曲面部の内側面と外側面とが相対向し、
前記C/C複合材の前記外側面は、頂部が前記回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を有し、
前記C/C複合材の前記内側面側では前記炭素繊維が前記内側面に沿って配向し、かつ
前記C/C複合材の前記外側面側では前記炭素繊維が、前記外側面の前記起伏の傾斜に沿って配向したC/C複合材。
【請求項2】
請求項1に記載のC/C複合材であって、
前記内側面と、前記外側面は、筒状体を構成するC/C複合材。
【請求項3】
請求項1に記載のC/C複合材であって、
前記外側面は、円錐体を構成するC/C複合材。
【請求項4】
曲面部を備えた回転体状のC/C複合材の製造方法であって、
炭素繊維と、炭素質マトリックスの前駆体成分とを含み、相対向する内側面と外側面とを有する曲面部を備えたプリフォームを形成する工程と、
前記プリフォームの外側面に周期的な起伏を形成する工程と、
前記プリフォームを、加圧する工程と、
前記加圧成形されたプリフォームを焼成する工程とを有し、
前記C/C複合材の前記曲面部の内側面と外側面とが相対向し、
前記C/C複合材の前記外側面が、頂部が前記回転体の中心軸方向に延びた波板状の周期的な起伏を有し、
前記C/C複合材の前記内側面側では前記炭素繊維が前記内側面に沿って配向し、かつ、
前記C/C複合材の前記外側では炭素繊維は、前記C/C複合材の前記外側面の前記起伏の傾斜に沿って配向したC/C複合材を製造することを特徴とするC/C複合材の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載C/C複合材の製造方法であって、
前記起伏を形成する工程は、
前記プリフォームを被覆部材で被覆し、前記被覆部材を介して、前記外表面側に起伏を形成する工程を含むC/C複合材の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載C/C複合材の製造方法であって、
前記加圧する工程は、前記プリフォームを凹凸を有する被覆部材で被覆し、前記被覆部材の凹凸を前記外側面側に転写し、前記外側面側に起伏を形成する工程と同時に加圧する工程であるC/C複合材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【公開番号】特開2012−96954(P2012−96954A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245520(P2010−245520)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】
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