説明

C7ラクチルオキシ置換タキサン

式(I):


[式中、
X3はフリルであり;
X5はt-ブトキシカルボニルであり;
Bzはベンゾイルであり;
Acはアセチルである。]
で示されるタキサン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍剤として有用性を有する新規なタキサン類に関する。
【背景技術】
【0002】
バッカチン(baccatin)IIIおよびタキソール(一般にパクリタキセルとも称される)がそのメンバーであるテルペンのタキサンファミリーは、生物学的分野および化学的分野の両方において相当注目されている対象である。タキソール自体は癌の化学療法剤として用いられ、広範囲の腫瘍抑制活性を有している。タキソールは2'R,3'Sの立体配置を有し、下記の構造式を有する:
【化1】

式中、Acはアセチルである。
【0003】
Colinらは、いくつかのタキソール類似体がタキソールの活性よりも著しく大きな活性を有すると米国特許第4,814,470号に報告した。ドセタキセル(docetaxel)[Taxotere(登録商標)]と一般に呼ばれるこれらの類似体の1つは下記の構造式を有する:
【化2】

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タキソールおよびドセタキセルは有用な化学療法剤であるが、ある種の癌に対する限定された効力、および様々な用量で投与されたときの患者に対する毒性などの故に、その有効性には限界がある。従って、効力が改善され、かつ毒性がより低いさらなる化学療法剤が依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の様々な局面の1つは、抗腫瘍剤としての効力に関して、また毒性に関して、タキソールおよびドセタキセルと比較して優れているタキサン類を提供することである。本発明はまた、該タキサンを含有する製剤、および該タキサンを使用する処置方法にも関する。
【0006】
本発明のタキサン類は総じて、C(7)ラクチルオキシ置換基によって特徴付けられ、式(1):
【化3】

[式中、
R7はラクチルオキシであり;
X3はフリルであり;
X5はt-ブトキシカルボニルであり;
Acはアセチルである。]
で示される。
式1で示されるタキサンは、例えば単離体、結晶または他の固体の形態でありうる。
【0007】
本発明は、式1のタキサンおよび少なくとも1種の薬学的に許容しうる担体を含有する医薬組成物にも関する。本発明の医薬組成物は例えば、タキサンを結晶または液体形態で含有する投与単位の形態でありうる。
【0008】
本発明は、医薬組成物の製造方法にも関する。そのような方法において、例えば、タキサンを溶液から結晶化しうる。その代わりに、またはそれに加えて、タキサンを薬学的に許容しうる担体と組み合わせる。
【0009】
本発明は、哺乳動物の腫瘍増殖を抑制する方法にも関する。この方法は、タキサンおよび薬学的に許容しうる担体を含有する医薬組成物を処置有効量で投与することを含んで成る。
本発明の他の課題および特徴は、以下の記載により部分的に明らかとなり、部分的に示されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のタキサンのC(7)ラクチルオキシ置換基はキラル中心を有し、したがってRジアステレオマー、Sジアステレオマー、またはRおよびSジアステレオマーの混合物として存在しうる。これら異性体形態、並びに式1の化合物の塩、エナンチオマーおよび互変異性体はいずれも、本発明の範囲に含まれる。例えば1つの実施形態において、本発明のタキサンは7-((S)-(-)-2-ヒドロキシオキシプロピオニル)-2-フリル-ドセタキセルである。他の1つの実施形態において、本発明のタキサンは7-((R)-(+)-2-ヒドロキシオキシプロピオニル)-2-フリル-ドセタキセルである。これらのジアステレオマーは、ラセミ混合物または光学活性混合物中に存在しうる。あるいは、そのようなジアステレオマーの1つが組成物中に存在して、他のジアステレオマーは実質的に存在しないということがある(例えば2つのジアステレオマーの一方と他方とのモル比が、少なくとも5:1、10:1または20:1)。
【0011】
本発明のタキサン類は、ヒトを含む哺乳動物において腫瘍増殖抑制に有用であり、好ましくは、抗腫瘍有効量の本発明化合物を少なくとも1つの薬学的または薬理学的に許容しうる担体と共に含む医薬組成物の形態で投与する。担体は、賦形剤、ビヒクル、補助剤、アジュバントまたは希釈剤としてもこの分野では知られているが、担体は、薬学的に不活性であり、好適なコンシステンシーまたは形状を組成物に付与し、そして本発明のタキサンの治療効力を損なわない任意の物質である。担体は、哺乳動物またはヒトに投与されたときに有害なアレルギー反応または他の望ましくない反応を生じさせない場合に「薬学的または薬理学的に許容しうる」。
【0012】
本発明のタキサンを含有する医薬組成物は任意の従来の方法で調製することができる。適切な調製は、選択した投与経路に依存する。本発明の組成物は、標的組織に投与経路を介して達する限り、任意の投与経路のために調製することができる。好適な投与経路には、経口投与、非経口(例えば、静脈内、動脈内、皮下、直腸内、皮下、筋肉内、眼窩内、嚢内、髄腔内、腹腔内または胸骨内)投与、局所(鼻腔、経皮、眼内)投与、ぼうこう内投与、くも膜下投与、腸内投与、肺投与、リンパ管内投与、洞内投与、膣投与、経尿道投与、皮内投与、耳投与、乳房内投与、口内投与、正位投与、気管内投与、病巣内投与、経皮投与、内視鏡的投与、経粘膜投与、舌下投与および腸管投与が含まれるが、これらに限定されない。
【0013】
本発明の組成物に使用する薬学的に許容しうる担体は当業者にはよく知られており、下記のような多数の要因に基づいて選択する:使用する特定のタキサン、ならびにその濃度、安定性および意図するバイオアベイラビリティー;組成物で処置する疾患、障害または状態;被投与体、その年齢、大きさおよび全身の健康状態;ならびに投与経路。好適な担体は当業者によって容易に決定される(例えば、J.G.Nairn、Remington's Pharmaceutical Science(A.Gennaro編)、Mack Publishing Co.、Easton、Pa.(1985年)、1492頁〜1517頁を参照のこと、その内容は参考として本明細書中に組み込まれる)。
【0014】
本発明の組成物は、錠剤、分散性粉末剤、ピル剤、カプセル剤、ゲルキャップ剤、カプレット剤、ゲル剤、リポソーム剤、顆粒剤、溶液剤、懸濁剤、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤、トローチ剤、糖衣剤、ロゼンジ剤、または経口投与し得る任意の他の投薬形態として調製しうる。本発明において有用な経口投薬形態を調製するための技術および組成物は下記の参考文献に記載されている:7 Modern Pharmaceutics、9章および10章(Banker & Rhodes編、1979年);Lieberman他、Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets(1981年);Ansel、Introduction to Pharmaceutical Dosage Forms、第2版(1976年)。
【0015】
経口投与用の組成物は通例、有効な抗腫瘍量の本発明タキサンを、薬学的に許容しうる担体内に含む。固体投薬形態に好適な担体には、糖、デンプンおよび他の従来の物質が含まれる。そのような従来の物質には、ラクトース、タルク、スクロース、ゼラチン、カルボキシルメチルセルロース、寒天、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、カオリン、アルギン酸、アラビアゴム、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、サッカリンナトリウム、炭酸マグネシウム、トラガカント、微結晶セルロース、コロイド状二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸が含まれる。さらに、そのような固体投薬形態はコーティングなしでもよく、あるいは知られている技術でコーティングして、例えば、崩壊および吸収を遅らせることができる。
【0016】
本発明のタキサンはまた、非経口投与するために調製することができ、例えば、静脈内経路、動脈内経路、皮下経路、直腸内経路、皮下経路、筋肉内経路、眼窩内経路、嚢内経路、髄腔内経路、腹腔内経路または胸骨内経路で注射するために調製しうる。非経口投与用の組成物は通例、有効な抗腫瘍量の本発明のタキサンを薬学的に許容しうる担体内に含む。非経口投与に好適な投薬形態には、溶液剤、懸濁剤、分散剤、エマルジョン剤、または非経口投与され得る任意の他の投薬形態が含まれる。非経口投与形態を調製するための技術および組成物はこの分野で知られている。
【0017】
経口的または非経口的に投与する液体の投薬形態を調製する際に使用する好適な担体には、非水性の薬学的に許容しうる極性溶媒、例えばオイル、アルコール、アミド、エステル、エーテル、ケトン、炭化水素およびこれらの混合物、ならびに水、生理食塩液、デキストロース溶液(例えばDW5)、電解質溶液または任意の他の水性の薬学的に受容可能な液体が含まれる。
【0018】
好適な非水性の薬学的に許容しうる極性溶媒には、下記のものが含まれるが、それらに限定されない:アルコール(例えば、α-グリセロールホルマール、β-グリセロールホルマール、1,3-ブチレングリコール、2個〜30個の炭素原子を有する脂肪族アルコールまたは芳香族アルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t-ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、アミレン水和物、ベンジルアルコール、グリセリン(グリセロール)、グリコール、へキシレングリコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコールまたはステアリルアルコール、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール)などの脂肪アルコールの脂肪酸エステル、ソルビタン、スクロースおよびコレステロールなど);アミド(例えば、ジメチルアセトアミド(DMA)、ベンジルベンゾアートDMA、ジメチルホルムアミド、N-(β-ヒドロキシエチル)ラクトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド_アミド、2-ピロリジノン、1-メチル-2-ピロリジノン、またはポリビニルピロリドン);
【0019】
エステル(例えば、1-メチル-2-ピロリジノン、2-ピロリジノン、アセタートエステル(モノアセチン、ジアセチンおよびトリアセチンなど)、脂肪族エステルまたは芳香族エステル、例えば、カプリル酸エチルまたはオクタン酸エチル、オレイン酸アルキル、安息香酸ベンジル、酢酸ベンジルなど、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセリンのエステル(クエン酸モノグリセリル、クエン酸ジグリセリルまたはクエン酸トリグリセリル、あるいは酒石酸モノグリセリル、酒石酸ジグリセリルまたは酒石酸トリグリセリル)、安息香酸エチル、酢酸エチル、炭酸エチル、乳酸エチル、オレイン酸エチル、ソルビタンの脂肪酸エステル、脂肪酸由来のPEGエステル、グリセリルモノステアラート、グリセリドエステル(モノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリドなど)、ミリスチン酸イソプロピルなどの脂肪酸エステル、PEGヒドロキシオレアートおよびPEGヒドロキシステアラートなどの脂肪酸由来のPEGエステル、N-メチルピロリジノン、プルロニック60、ポリオキシエチレンソルビトールオレイン酸ポリエステル(ポリ(エトキシル化)30〜60ソルビトールポリ(オレアート)2〜4、ポリ(オキシエチレン)15〜20モノオレアートなど、ポリ(オキシエチレン)15〜20モノ12-ヒドロキシステアラート、およびポリ(オキシエチレン)15〜20モノレシノレアート、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミタート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート、およびICI Americas社(Wilmington、DE)から得られるPolysorbate(登録商標)20、40、60または80など)、ポリビニルピロリドン、ポリオキシル40水素化ひまし油およびポリオキシエチル化ひまし油(例えば、Cremophor(登録商標)EL溶液またはCremophor(登録商標)RH40溶液)などのアルキレンオキシ修飾脂肪酸エステル、
【0020】
サッカリド脂肪酸エステル(すなわち、単糖(例えば、リボース、リブロース、アラビノース、キシロース、リキソースおよびキシルロースなどのペントース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースおよびソルボースなどのヘキソース、ならびにトリオース、テトロース、ヘプトースおよびオクトース)または二糖(例えば、スクロース、マルトース、ラクトースおよびトレハロース)またはオリゴ糖またはこれらの混合物とC4〜C22脂肪酸(例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸およびステアリン酸などの飽和脂肪酸、ならびにパルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸およびリノレン酸などの不飽和脂肪酸)との縮合生成物)、またはステロイドエステル);2個〜30個の炭素原子を有するアルキルエーテル、アリールエーテルまたは環状エーテル(例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメチルイソソルビド、ジエチレングリコールモノエチルエーテル);グリコフロール(テトラヒドロフルフリルアルコールポリエチレングリコールエーテル);3個〜30個の炭素原子を有するケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン);4個〜30個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素または環状脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、ジオキソラン類、ヘキサン、n-デカン、n-ドデカン、n-ヘキサン、スルホラン、テトラメチレンスルホン、テトラメチレンスルホキシド、トルエン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、またはテトラメチレンスルホキシド);
【0021】
鉱物起源、植物起源、動物起源または合成起源のオイル(例えば、鉱油、例えば脂肪族炭化水素またはワックス型炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族系および芳香族系の混合炭化水素、および精製パラフィン油、植物油(亜麻仁油、きり油、紅花油、ダイズ油、ひまし油、綿実油、ラッカセイ油、ナタネ油、ココナッツ油、パーム油、オリーブ油、コーン油、トウモロコシ胚芽油、ゴマ油、杏仁油およびピーナツ油など)およびグリセリド(モノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリドなど)、動物油(魚油、海産油、マッコウ鯨油、タラ肝油、ハリバ油、スクアレン油、スクアラン油およびサメ肝油)、オレイック(oleic)油、およびポリオキシエチル化ひまし油);1個〜30個の炭素原子および必要に応じて1個以上のハロゲン置換基を有するハロゲン化アルキルまたはハロゲン化アリール;塩化メチレン;モノエタノールアミン;石油ベンジン;トロラミン;ω-3多不飽和脂肪酸(例えば、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸またはドコサヘキサエン酸);12-ヒドロキシステアリン酸およびポリエチレングリコールのポリグリコールエステル(BASF社(Ludwigshafen、ドイツ)から得られるSolutol(登録商標)HS-15);ポリオキシエチレングリセロール;ラウリン酸ナトリウム;オレイン酸ナトリウム;またはソルビタンモノオレアート。
【0022】
他の薬学的に許容しうる溶媒は当業者にはよく知られており、The Chemotherapy Source Book(Williams & Wilkens Publishing)、The Handbook of Pharmaceutical Excipients(American Pharmaceutical Association(Washington, D.C.)およびThe Pharmaceutical Society of Great Britain(London、英国)、1968年)、Modern Pharnmceutics(G. Banker他編、第3版)(Maecel Dekker, Inc.、New York、New York、1995年)、The Pharmacological Basis of Therapeutics(Goodman & Gilman、McGraw Hill Publishing)、Pharmaceutical Dosage Forms(H. Lieberman他編)(Maecel Dekker, Inc.、New York、New York、1980年)、Remington's Pharmaceutical Sciences(A. Gennaro編、第19版)(Mack Publishing、Easton、PA、1995年)、The United States Pharmacopeia 24、The National Formulary 19(National Publishing、Philadelphia、PA、2000年)、A.J. Spiegel他、Use of Nonaqueous Solvents in Parenteral Products、JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES、第52巻、第10号、917頁〜927頁(1963)において明らかにされている。
【0023】
好適な溶媒には、タキサンを安定化させることが知られている溶媒が含まれ、トリグリセリドが多いオイル(例えば、紅花油、ダイズ油またはそれらの混合物)、およびアルキレンオキシ修飾脂肪酸エステル(ポリオキシル40水素化ひまし油およびポリオキシエチル化ひまし油(例えば、Cremophor(登録商標)EL溶液またはCremophor(登録商標)RH40溶液)など)などが含まれる。市販のトリグリセリドが多いオイルには、Intralipid(登録商標)乳化ダイズ油(Kabi-Pharmacia Inc.、Stockholm、スェーデン)、Nutralipid(登録商標)エマルジョン(McGaw、Irvine、California)、Liposyn(登録商標)II 20%エマルジョン(1mlの溶液あたり、100mgの紅花油、100mgのダイズ油、12mgの卵ホスファチドおよび25mgのグリセリンを含有する20%の脂肪エマルジョン溶液;Abbott Laboratories、Chicago、Illinois)、Liposyn(登録商標)III 2%エマルジョン(1mlの溶液あたり、100mgの紅花油、100mgのダイズ油、12mgの卵ホスファチドおよび25mgのグリセリンを含有する2%の脂肪エマルジョン溶液;Abbott Laboratories、Chicago、Illinois)、ドコサヘキサエノイル基を総脂肪酸含有量に基づいて25重量%〜100重量%のレベルで含有する天然または合成のグリセロール誘導体(Dhasco(登録商標)(Martek Biosciences Corp.(Columbia、MD)から得られる)、DHA Maguro(登録商標)(Daito Enterprises(Los Angeles、CA)から得られる)、Soyacal(登録商標)およびTravemulsion(登録商標)が含まれる。エタノールは、タキサンを溶解して、溶液およびエマルジョンなどを調製する際に使用する好ましい溶媒である。
【0024】
さらなる補助成分を、製薬分野でよく知られている様々な目的で本発明の組成物に含ませることができる。このような成分の多くは、タキサンの投与部位での保持を向上する性質、組成物の安定性を保護する性質、pHを制御する性質、タキサンの医薬製剤への加工を容易にする性質などをもたらしうる。好ましくは、これらの成分はそれぞれが、個々に、組成物全体の約15重量%未満で存在し、より好ましくは約5重量%未満であり、最も好ましくは組成物全体の約0.5重量%未満である。充填剤または希釈剤などのいくつかの成分は、製剤分野ではよく知られているように組成物全体の90重量%までを構成することができる。
【0025】
そのような添加剤には、タキサンの再沈殿を防止するための凍結防止剤、表面活性剤、湿潤化剤または乳化剤(例えば、レシチン、ポリソルベート-80、Tween(登録商標)80、プルロニック60、ポリオキシエチレンステアラート、およびポリエトキシル化ひまし油)、保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸エチル)、微生物防腐剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、クロロブタノール、ソルビン酸、チメロサールおよびパラベン)、pH調節剤または緩衝化剤(例えば、酸、塩基、酢酸ナトリウム、ソルビタンモノステアラート)、浸透圧調節剤(例えば、グリセリン)、増粘剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸、セチルアルコール、ステアリルアルコール、グアーゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、トリステアリン、セチルワックスエステル、ポリエチレングリコール)、着色剤、色素、流動補助剤、不揮発性シリコーン(例えば、シクロメチコーン)、クレイ(例えば、ベントナイト)、付着剤、増量剤、風味剤、甘味剤、吸着剤、充填剤(例えば、ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールなどの糖、セルロースあるいはリン酸カルシウム)、
【0026】
希釈剤(例えば、水、生理食塩水、電解質溶液)、結合剤(例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、米デンプンまたはジャガイモデンプンなどのデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、糖、ポリマー、アラビアゴム)、崩壊剤(例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、米デンプン、ジャガイモデンプンまたはカルボキシルメチルデンプンなどのデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはアルギン酸ナトリウムなどのその塩、クロスカルメロースナトリウムまたはクロスポビドン)、滑沢剤(例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸またはステアリン酸マグネシウムなどのその塩、あるいはポリエチレングリコール)、コーティング剤(例えば、アラビアゴムを含む濃縮糖溶液、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコールまたは二酸化チタン)、および酸化防止剤(例えば、メタ重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、デキストロース、フェノール類、およびチオフェノール類)が含まれる。
【0027】
上記経路による投薬形態の投与は、例えば、患者の生理学的状態、投与目的が治療的または予防的であるかどうか、および医師に知られ、そして医師によって評価される他の要因に依存して連続的または間断的であり得る。
【0028】
本発明の医薬組成物を投与するための投薬量および投薬計画は、癌処置において通常の技術を有する者であれば容易に決定し得る。タキサンの投薬量は、被投与体の年齢、性別、健康状態および体重、併用される処置の種類(併用される場合)、処置頻度、ならびに所望する効果の性質に依存しうると理解される。どのような投与様式の場合でも、送達されるタキサンの実際の量、そして本明細書中に記載される好都合な効果を達成するために必要な投薬スケジュールは、部分的には、タキサンのバイオアベイラビリティー、処置する障害、所望の処置用量、および当業者に明かな他の要因のような要因にも依存しうる。動物(特にヒト)に投与する用量は、本発明の範囲において、妥当な期間にわたって動物において所望する治療的応答が達成されるのに十分でなければならない。好ましくは、タキサンの有効量は、経口的または別の経路で投与されたとしても、そのような経路で投与されたときに所望する治療的応答を生じさせうる任意の量である。
【0029】
好ましくは、経口投与する組成物は、1つまたはそれ以上の経口製剤における単回用量が、患者体表面積1m2あたり少なくとも20mgのタキサンを含有するように、あるいは患者体表面積1m2あたり少なくとも50mg、100mg、150mg、200mg、300mg、400mgまたは500mgのタキサンを含有するように調製する。この場合、ヒトの平均体表面積は1.8m2である。好ましくは、経口投与する組成物の単回用量は、患者体表面積1m2あたり約20mg〜約600mgのタキサンを含有し、より好ましくは約25mg/m2〜約400mg/m2、さらにより好ましくは約40mg/m2〜約300mg/m2、そしてさらにより好ましくは約50mg/m2〜約200mg/m2のタキサンを含有する。好ましくは、非経口投与する組成物は、単回用量が、患者体表面積1m2あたり少なくとも20mgのタキサンを含有するように、あるいは患者体表面積1m2あたり少なくとも40mg、50mg、100mg、150mg、200mg、300mg、400mgまたは500mgのタキサンを含有するように調製する。好ましくは、1つまたはそれ以上の非経口製剤における単回用量は、患者体表面積1m2あたり約20mg〜約500mgのタキサンを含有し、より好ましくは約40mg/m2〜約400mg/m2、さらにより好ましくは約60mg/m2〜約350mg/m2のタキサンを含有する。しかし、投薬量は、所望する治療的効果を達成するために必要に応じて調節し得る投薬スケジュールに依存して変化し得る。本明細書中に記載する有効用量範囲は、本発明を限定するものではなく、好ましい用量範囲を表していることに留意しなければならない。最も好ましい投薬量は、被投与体毎に調節し得、そして過度な実験を行うことなく当業者が決定しうる。
【0030】
液体の医薬組成物におけるタキサンの濃度は、好ましくは組成物1mlあたり約0.01mg〜約10mgの間であり、より好ましくは約0.1mg/ml〜約7mg/mlの間であり、さらにより好ましくは約0.5mg/ml〜約5mg/mlの間であり、最も好ましくは約1.5mg/ml〜約4mg/mlの間である。タキサンは低い濃度で溶液に最も溶解し得るために、比較的低い濃度が一般には好ましい。経口投与用の固体医薬組成物におけるタキサンの濃度は、組成物の総重量に基づいて、好ましくは約5重量%〜約50重量%の間であり、より好ましくは約8重量%〜約40重量%の間であり、最も好ましくは約10重量%〜約30重量%の間である。
【0031】
1つの実施形態において、経口投与用の溶液剤を調製するために、タキサンを溶解し得る任意の薬学的に許容しうる溶媒(例えば、エタノールまたは塩化メチレン)にタキサンを溶解して、溶液とする。Cremophor(登録商標)EL溶液などの溶液である担体の適量を攪拌下に溶液に加え、患者に経口投与する薬学的に許容しうる溶液とする。所望する場合、経口用製剤においてある濃度で投与されたときに有害な生理学的作用を生じさせることが知られているエタノールを最少量で含むように、あるいはエタノールを含まないように、そのような溶液を調製しうる。
【0032】
別の実施形態において、経口投与用の粉末剤または錠剤を調製するために、タキサンを溶解し得る任意の薬学的に許容しうる溶媒(例えば、エタノールまたは塩化メチレン)にタキサンを溶解して、溶液とする。この溶媒は場合により、溶液を減圧下に乾燥する際に蒸発しうるものでありうる。Cremophor(登録商標)EL溶液などのさらなる担体を乾燥前の溶液に加えることができる。得られた溶液を減圧下に乾燥して、ガラス状物とする。その後、ガラス状物を結合剤と混合し、粉末剤とする。この粉末剤を、患者に経口投与する錠剤を形成するために、充填剤または他の従来の錠剤化剤と混合し、加工しうる。粉末剤に上記のような任意の液体担体を加えて、経口投与用の溶液、エマルジョン、懸濁剤などを調製してもよい。
【0033】
非経口投与されるエマルジョン剤を調製するために、タキサンを溶解し得る任意の薬学的に許容しうる溶媒(例えば、エタノールまたは塩化メチレン)にタキサンを溶解して、溶液としうる。Liposyn(登録商標)IIエマルジョンまたはLiposyn(登録商標)IIIエマルジョンなどのエマルジョンである担体の適量を攪拌下に溶液に加えて、患者に非経口投与するための薬学的に許容しうるエマルジョンとする。所望する場合、非経口用製剤においてある濃度で投与されたときに有害な生理学的作用を生じさせることが知られているエタノールまたはCermophor(登録商標)溶液を最少量で含むように、あるいはそれを含まないように、そのようなエマルジョンを調製しうる。
【0034】
非経口投与用の溶液剤を調製するために、タキサンを溶解し得る任意の薬学的に許容しうる溶媒(例えば、エタノールまたは塩化メチレン)にタキサンを溶解して、溶液とする。Cremophor(登録商標)溶液などの溶液である担体の適量を攪拌下に溶液に加えて、患者に非経口投与するための薬学的に許容しうる溶液とする。所望する場合、非経口用製剤においてある濃度で投与されたときに有害な生理学的作用を生じさせることが知られているエタノールまたはCremophor(登録商標)溶液を最少量で含むように、あるいはそれを含まないように、そのような溶液を調製しうる。
【0035】
所望する場合、経口投与または非経口投与用の上記エマルジョン剤または溶液剤は、この分野で知られているように、濃縮された形態で、IVバッグ、バイアルまたは他の従来の溶液に入れることができ、そして使用前に許容しうるタキサン濃度が得られるように、生理食塩水などの任意の薬学的に許容しうる液体で希釈することができる。
【0036】
式1で示されるタキサンは、(Holtonの米国特許第5,466,834号にさらに詳しく記載されているように)β-ラクタムを、タキサン四環核およびC(13)金属オキシド置換基を有するアルコキシドで処理して、C(13)にβ-アミドエステル置換基を有する化合物を形成し、その後、ヒドロキシ保護基を除去することによって得ることができる。このβ-ラクタムは式(3)で示される:
【化4】

式中、P2はヒドロキシ保護基であり、X3はフリルであり、X5はt-ブトキシカルボニルである。
【0037】
また、アルコキシドは式(4)で示される:
【化5】

式中、Mは金属またはアンモニウムであり、P10はヒドロキシ保護基であり、Rは前記に定義されている通りである。
【0038】
アルコキシド(4)は、10-デアセチルバッカチンIII(またはその誘導体)から、C(10)ヒドロキシル基の選択的保護、C(7)ヒドロキシ基のエステル化、そして金属アミドでの処理によって合成しうる。本発明の1つの実施形態においては、シリル化剤として例えばシリルアシドまたはビスシリルアミドを用いて、シリル基によって、10-デアセチルバッカチンIIIのC(10)ヒドロキシル基を選択的に保護する。好ましいシリル化剤は、トリ(ヒドロカルビル)シリル-トリフルオロメチルアセトアミドおよびビストリ(ヒドロカルビル)-シリルトリフルオロメチルアセトアミド(ここで、ヒドロカルビル部分は置換または不置換のアルキルまたはアリールである)、例えばN,O-ビス-(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O-ビス-(トリエチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N-メチル-N-トリエチルシリルトリフルオロアセトアミド、およびN,O-ビス(t-ブチルジメチルシリル)トリフルオロアセトアミドを包含する。シリル化剤は、単独で、または触媒量の塩基(例えばアルカリ金属塩基)と組み合わせて使用しうる。通例、アルカリ金属アミド、例えばリチウムアミド触媒が好ましく、リチウムヘキサメチルジシラジドが特に好ましい。選択的シリル化反応用の溶媒は、好ましくはエーテル型溶媒、例えばテトラヒドロフランである。しかし、その代わりに他の溶媒、例えばエーテルまたはジメトキシエタンを使用してもよい。C(10)選択的シリル化を行う温度は、狭い範囲に限定的ではない。しかし通例、0℃またはそれ以上の温度で行う。
【0039】
C(10)保護タキサンのC(7)ヒドロキシル基の選択的エステル化は、通常用いられる様々なアシル化剤のいずれかを使用して行いうる。そのようなアシル化剤は、置換および不置換のカルボン酸およびカルボン酸誘導体、例えばカルボン酸のハロゲン化物、無水物、ジカーボネート、イソシアネート並びにハロホルメートを包含するが、それらに限定されない。1つの実施形態においては、例えば、10-保護-10-デアセチルバッカチンIIIのC(7)ヒドロキシル基を、2-ベンジルオキシプロピオン酸で選択的にアシル化して、7-(2-ベンジルオキシプロピオニル)-10-保護-10-デアセチルバッカチンIIIとし、これをHFまたは他の適当な酸で処理して7-(2-ヒドロキシプロピオニル)-10-保護-10-デアセチルバッカチンIIIを得る。通常、C(10)保護タキサンのC(7)ヒドロキシル基のアシル化は、7,10-ジヒドロキシタキサン(例えば10-DAB)のC(7)アシル化よりも効率的かつ選択的である。換言すれば、C(10)ヒドロキシル基を保護すると、残るC(7)、C(13)およびC(1)のヒドロキシル基の反応性に明らかな差が生じる。このようなアシル化反応は場合により、アミン塩基の存在下または不存在下に行いうる。
合成が完了したら、式1で示されるタキサンを、当分野で知られた再結晶方法によって分離しうる。
【0040】
β-ラクタムの出発物質の合成方法および分割方法は一般によく知られている。例えば、β-ラクタムは、Holtonの米国特許第5,430,160号に記載されているようにして合成することができ、β-ラクタムの得られたエナンチオマー混合物は、例えば、Patelの米国特許第5,879,929号、Patelの米国特許第5,567,614号に記載されているようなリパーゼまたは酵素、あるいは例えば、PCT特許出願第00/41204号に記載されているような肝臓ホモジネートを使用する立体選択的な加水分解によって分割することができる。β-ラクタムがC(4)位においてフリル置換されている本発明の実施形態において、β-ラクタムは、下記の反応スキームに例示されているようにして合成することができる。
【0041】
【化6】

【0042】
式中、Acはアセチルであり、NEt3はトリエチルアミンであり、CANは硝酸セリウムアンモニウムであり、p-TsOHはp-トルエンスルホン酸である。ウシ肝臓による分割は、例えば、β-ラクタムのエナンチオマー混合物をウシ肝臓懸濁物(例えば、20gの凍結ウシ肝臓をブレンダーに加え、次いでpH8の緩衝液を加え、1Lの総容量にすることによって調製)と一緒にすることによって行うことができる。
【0043】
定義
単独でまたは別の基の一部として本明細書中で使用されている用語「アシルオキシ」は、酸素結合(-O-)を介して結合した前記のようなアシル基、例えば、RC(O)O-を表す。この場合、Rは、用語「アシル」に関連して定義される通りである。
【0044】
本明細書中で使用されている用語「ヒドロキシル保護基」および「ヒドロキシ保護基」は、保護が用いられる反応に続いて、分子の残部を乱すことなく除くことができる、遊離ヒドロキシル基(「保護ヒドロキシル」)を保護し得る基を表す。ヒドロキシル基の様々な保護基およびその合成が“Protective Groups in Organic Synthesis”(T.W. Greene、John Wiley and Sons、1981)またはFieser & Fieserに記載されている。例示的なヒドロキシル保護基には、メトキシメチル、1-エトキシエチル、ベンジルオキシメチル、(β-トリメチルシリルエトキシ)メチル、テトラヒドロピラニル、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル、t-ブチル(ジフェニル)シリル、トリアルキルシリル、トリクロロメトキシカルボニルおよび2,2,2-トリクロロエトキシルメチルが含まれる。
【0045】
本明細書中で使用される場合、「Ac」はアセチルを意味する;「Bz」はベンゾイルを意味する;「t-Bu」はt-ブチルを意味する;「R」は、別途定義されない場合には低級アルキルを意味する;「Py」はピリジンまたはピリジルを意味する;「TMS」はトリメチルシリルを意味する;「10-DAB」は10-デスアセチルバッカチンIIIを意味する;「THF」はテトラヒドロフランを意味する;「DMAP」は4-ジメチルアミノピリジンを意味する;「LHMDS」はリチウムヘキサメチルジシラザニドを意味する;「CBZ」はベンジルオキシカルボニルを意味する;「MOP」はメトキシフェニルを意味する;「TESCl」はトリエチルシリルクロリドを意味する。
下記の実施例は本発明を例示する。
【実施例1】
【0046】
7-((S)-(-)-2-ヒドロキシオキシプロピオニル)-2-フリル-ドセタキセルの合成
【化7】

【0047】
10-TMS-10-DAB
THF(650ml)中の10-DAB(25g、0.0459モル)の溶液に、N,O-ビストリメチルシリル-トリフルオロメチルアセトアミド(9.75ml、0.0367モル)を室温で加えた。溶液を-10℃に冷却し、THF中のリチウムヘキサメチルジシラジドの1M溶液(2ml)を加えた。15分後、溶液をメタノール(2ml)で反応停止し、10分間撹拌した。溶液を酢酸(2ミリモル)で処理し、酢酸エチル(500ml)で希釈し、室温に昇温させ、シリカゲルの2インチパッド(50g)で濾過し、減圧下に濃縮して、白色固体31.5gを得た。高温のアセトニトリルから再結晶して、標記生成物26.3g(93%)を得た。融点189〜191℃;[α]Hg -70°(CHCl3, c=0.55)。
【0048】

【0049】
7-CBZ-10-TMS-10-DAB
250ml丸底フラスコ内の無水ジクロロメタン(81.1ml)中の10-トリメチルシリル-10-デアセチルバッカチンIII(10g、16.2ミリモル)の溶液に、窒素雰囲気中、22℃で、4-ジメチルアミノピリジン(4.16g、34.0ミリモル)を加えた。次いで、無水トルエン(71.1ml)中のベンジルクロロホルメート(4.05ml、28.4ミリモル)の溶液を、22時間にわたってゆっくりと加えた。反応混合物にメタノール(1ml)を加えて反応を停止した。酢酸エチルで希釈し、飽和NaHCO3水溶液およびブラインで洗った。有機相をNa2SO4で乾燥し、濾過し、蒸発させて、粗生成物12.3gを得、これを、50/50 酢酸エチル/ヘキサンを用いるフラッシュシリカゲル(20g)でのプラグ濾過によって精製した。濾液を蒸発させて生成物12.17gを得、これを酢酸エチル(1.2ml/g)およびヘキサンを1:2で用いて再結晶して、7-ベンジルカーボネート-10-トリメチルシリル-10-デアセチルバッカチンIII(12.16g、99%)を得た。融点198〜200℃。
【0050】


【0051】
7-CBZ-10-TMS-2'-MOP-3'-(2-フリル)-ドセタキセル
THF(75ml)中の7-CBZ-10-TMS-10-DAB(11.2g、14.9ミリモル)の溶液に、Irelandis: JOC, 1991, Vol 56, Iss 14, pp 4566-4568の方法に従って1.0M滴定したLHMDS(リチウムヘキサメチルジシラジド)のTHF溶液(16.5ml、16.5ミリモル)を-45℃で5分間にわたって滴下した。-45℃で1時間後、THF(30ml)中のラセミシス-N-t-ブトキシカルボニル-4-(2-フリル)-3-(2-メトキシ-2-プロピルオキシ)-アゼチジン-2-オン(12.1g、37.2ミリモル)の溶液を、5分間にわたって反応混合物に加えた。-27℃で1.5時間後、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液(40ml)を加えて反応を停止した。混合物を酢酸エチル(300ml)で希釈し、分液漏斗に移し、相を分離した。水相を酢酸エチル(100ml×2)で抽出した。有機相を合し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧下に濃縮して、泡状物25.6gを得た。ヘキサン(120ml)を加え、トリチュレートして、白色固体(15.2g、95%)を濾取した。この固体を、還流酢酸エチル(40ml)に溶解した。溶液にヘキサン(120ml)を撹拌しながら10分間にわたってゆっくりと加えた。14時間撹拌を続けた。濾過し、20%酢酸エチル/ヘキサン(20ml)で洗って、標記化合物を白色固体として得た(13.6g、収率84.8%)。融点135〜138℃。
【0052】

【0053】
10-TMS-2'-MOP-3'-(2-フリル)-ドセタキセル
酢酸エチル(250ml)中の7-CBZ-10-TMS-2'-MOP-3'-(2-フリル)-ドセタキセル(13.6g)およびピリジン(2ml)の溶液に、10%Pd/C(2g)を加えた。混合物を、水素雰囲気中、周囲温度で1.5時間撹拌した。混合物を、酢酸エチルを用いてセライト/シリカゲルの3インチパッドで濾過し、濃縮して、標記生成物を白色固体として得た(11.85g、99%)。融点115〜117℃。
【0054】

【0055】
7-((S)-(-)-2-ベンジルオキシプロピオニル)-10-TMS-2'-MOP-3'-(2-フリル)-ドセタキセル
ピリジン(7.5ml)中の、10-TMS-2'-MOP-3'-(2-フリル)-ドセタキセル(1.41g、1.49ミリモル)、(S)-(-)-2-ベンジルオキシプロピオン酸(0.65g、3.6ミリモル)および4-ジメチルアミノピリジン(189mg、1.55ミリモル)の溶液に、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミドヒドロクロリド(115mg、0.6ミリモル)を加えた。混合物を室温で14時間撹拌し、酢酸エチル(100ml)で希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(30ml×2)で洗った。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下に濃縮して、ゴム状物1.85gを得、それを次の工程にそのまま使用した。
【0056】

【0057】
7-((S)-(-)-2-ヒドロキシオキシプロピオニル)-2-フリル-ドセタキセル
アセトニトリル(20ml)およびピリジン(10ml)中の7-((S)-(-)-2-ベンジルオキシプロピオニル)-10-TMS-2'-MOP-3'-(2-フリル)-ドセタキセル(1.85g)の溶液に、48%HF水溶液(10ml)を0℃で滴下した。溶液を室温で6時間撹拌し、酢酸エチル(150ml)で希釈し、水(70ml×2)で洗い、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50ml)で洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下に濃縮して、ゴム状物1.45gを得た。
【0058】
2-プロパノール(100ml)中の上記ゴム状物の溶液に、20%水酸化パラジウム(1g)を加えた。混合物を水素雰囲気中、室温で4.5時間撹拌し、セライトパッドで濾過し、減圧下に濃縮して、ゴム状物1.1gを得た。カラムクロマトグラフィー(50%および63%酢酸エチル/ヘキサン)により、標記化合物650mgを得、これを高温のCH2Cl2/ヘキサン(4/1)から再結晶して、式(13)で示される純粋な物質450mgを得た。融点174〜176℃。元素分析:C44H55NO17・1/2 H2Oとして、理論値 C 60.13、H 6.42; 実測値 C 60.14、H 6.44。
【0059】

【実施例2】
【0060】
7-((R)-(+)-2-ヒドロキシオキシプロピオニル)-2-フリル-ドセタキセルの合成
【化8】

S-(-)-2-ベンジルオキシプロピオン酸の代わりにR-(+)-2-ベンジルオキシプロピオン酸を用いて、実施例1の手順を繰り返した。
【0061】
7-((R)-(+)-2-ベンジルオキシプロピオニル)-10-TMS-2'-MOP-3'-(2-フリル)-ドセタキセル
無水ジクロロメタン(7.5ml)中の、10-TMS-2'-MOP-3'-(2-フリル)-ドセタキセル(1.175g、1.25ミリモル)の溶液に、4-ジメチルアミノピリジン(226mg、1.85ミリモル)を加えた。均質な溶液が生成したら、(R)-(+)-2-ベンジルオキシプロピオン酸(0.42g、1.85ミリモル)およびジシクロヘキシルカルボジイミド(0.644g、3.125ミリモル)を加えた。混合物を室温で30分間撹拌し、酢酸エチル(100ml)で希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(30ml×2)で洗った。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、シリカゲルの2インチパッドで濾過し、減圧下に濃縮して、ゴム状物1.57gを得、それを次の工程にそのまま使用した。
【0062】

【0063】
7-((R)-(+)-2-ヒドロキシオキシプロピオニル)-2-フリル-ドセタキセル
アセトニトリル(5ml)およびピリジン(5ml)中の7-((R)-(+)-2-ベンジルオキシプロピオニル)-10-TMS-2'-MOP-3'-(2-フリル)-ドセタキセル(1.57g)の溶液に、48%HF水溶液(2.5ml)を0℃で滴下した。溶液を室温で16時間撹拌し、酢酸エチル(100ml)で希釈し、水(50ml×2)で洗い、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50ml)で洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下に濃縮して、ゴム状物1.35gを得た。
【0064】
酢酸エチル(20ml)中の上記ゴム状物の溶液に、10%Pd/C(81mg)を加えた。混合物を水素雰囲気中、室温で30分間撹拌し、セライトパッドで濾過し、減圧下に濃縮して、ゴム状物1.09gを得た。カラムクロマトグラフィー(40/60/1 酢酸エチル/ヘキサン/メタノール)により、S異性体を10%含有する標記化合物905mgを得た。
【0065】
ピリジン(8ml)中の上記合成した化合物(R/S=10)の溶液に、TESCl(0.086ml、0.51ミリモル)を-10℃で滴下した。溶液を-10℃で1時間撹拌し、酢酸エチル(80ml)で希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50ml)で洗い、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下に濃縮して、ゴム状物870mgを得た。カラムクロマトグラフィー(65/35 酢酸エチル/ヘキサン)により、S異性体を5%含有する式(14)で示される標記化合物370mgを得た。融点161〜163℃。
【0066】

【実施例3】
【0067】
細胞コロニー形成アッセイによって測定したインビトロ細胞毒性
400個の細胞(HCT116)を、2.7mLの培地(10%ウシ胎児血清および100単位/mLのペニシリンおよび100g/mLのストレプトマイシンを含有する改変マッコイ5a培地)を含有する60mmのペトリ皿に置床した。細胞をペトリ皿の底へ付着させるため、CO2インキュベーターにおいて37℃で5時間インキュベートした。実施例1の化合物を最終濃度の10倍で培地中に新しく調製し、その後、この原液の0.3mLを皿の2.7mLの培地に加えた。その後、細胞を薬物とともに37℃で72時間インキュベートした。インキュベーションが終了したとき、薬物含有培地をデカントし、皿を4mLのハンクス平衡塩溶液(HBSS)により洗浄し、5mLの新鮮な培地を加え、コロニー形成のために皿をインキュベーターに戻した。細胞コロニーを、7日間のインキュベーションの後、コロニーカウンターを使用して計数した。細胞生存を計算し、IC50値(コロニー形成の50%阻害をもたらす薬物濃度)をそれぞれの試験化合物について求めた。
【0068】
VM46結腸細胞系を使用して、同じ試験を行った。
また、実施例2の化合物を用いて、上記アッセイを行った。このアッセイの結果を、パクリタキセルおよびドセタキセルのデータと比較して次表に示す。
【0069】

【0070】
本発明の要素またはその好ましい実施形態を記載するとき、冠詞の「ある」、「1つの」、「その」、「そのような」、「前記」、「該」および「本発明の」は、1つまたはそれ以上の要素の存在を意味する。「含む」、「から成る」、「包含する」、「有する」および「持つ」なる用語は、それに係る要素を含んで、それ以外にも要素が存在しうることを意味する。
【0071】
上記説明により、本発明の複数の課題が解決され、他の有利な結果が得られることが理解されるであろう。
本発明の範囲を外れることなく、前記の生成物および方法に様々な変更が可能であるから、上記説明に含まれ、添付図面に示される事項はすべて、説明のためのものであって、制限的な意味は持たないと解釈すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化1】

[式中、
X3はフリルであり;
X5はt-ブトキシカルボニルであり;
Bzはベンゾイルであり;
Acはアセチルである。]
で示される単離されたタキサンから成る組成物。
【請求項2】
X3が2-フリルである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
7-((S)-(-)-2-ヒドロキシオキシプロピオニル)-2-フリル-ドセタキセルおよび7-((R)-(+)-2-ヒドロキシオキシプロピオニル)-2-フリル-ドセタキセルのジアステレオマー混合物から成る請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
混合物が、7-((S)-(-)-2-ヒドロキシオキシプロピオニル)-2-フリル-ドセタキセルおよび7-((R)-(+)-2-ヒドロキシオキシプロピオニル)-2-フリル-ドセタキセルのラセミ混合物である請求項3に記載のタキサン。
【請求項5】
混合物中のジアステレオマーのモル比が少なくとも5:1である請求項3に記載のタキサン。
【請求項6】
混合物中のジアステレオマーのモル比が少なくとも10:1である請求項3に記載のタキサン。
【請求項7】
混合物中のジアステレオマーのモル比が少なくとも20:1である請求項3に記載のタキサン。
【請求項8】
タキサンが結晶形態である請求項1に記載のタキサン。
【請求項9】
タキサンを溶液から結晶化することを含んで成る、請求項1に記載の組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物および少なくとも1種の薬学的に許容しうる担体を含有する医薬組成物。
【請求項11】
液体形態である請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
固体である請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
投与単位形態である請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1に記載の組成物を、薬学的に許容しうる非水性溶媒と混合することを含んで成る、医薬の製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載の医薬組成物を処置有効量で投与することを含んで成る、哺乳動物の腫瘍増殖を抑制する方法。
【請求項16】
医薬組成物を経口投与する請求項15に記載の方法。
【請求項17】
医薬組成物を非経口投与する請求項15に記載の方法。

【公表番号】特表2007−527432(P2007−527432A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502013(P2007−502013)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/007100
【国際公開番号】WO2005/087222
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(501304467)フロリダ・ステイト・ユニバーシティ・リサーチ・ファウンデイション・インコーポレイテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】Florida State University Research Foundation, Inc.
【Fターム(参考)】