説明

CFTRのLPA2受容体アゴニスト阻害因子

下痢を処置するまたは予防する方法および組成物を開示する。方法は、下痢を処置するまたは予防するために、治療的有効量のLPA2受容体アゴニストを個体に投与する段階を含む。LPA2受容体、CFTR、およびNa+/H+交換調節因子2(NHERF-2)間での巨大分子複合体の形成を阻害するのに有効な量で、少なくとも1つのLPA2受容体アゴニストを投与することによって、CFTR活性化を阻害する方法もまた開示する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、分泌性下痢を処置するための組成物および方法に関する。より特定すると、本発明は嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)を介した下痢を処置するおよびCFTRの活性化を阻害する組成物ならびに方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2005年7月19日に先に出願された米国特許仮出願第60/700,489号の優先権の恩典を主張する。
【0003】
政府権利の声明
本発明は少なくとも一部は、認可番号CA92160およびHL-61469の下、国立衛生研究所から受けた財政支援によって成された。したがって、米国政府は本発明に対して一定の権利を主張し得る。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
分泌性下痢はしばしば、コレラ菌(Vibrio cholerae)、クロストリジウム-ディフィシル(Clostridium difficile)、およびエンテロトキシン大腸菌(Escherichia coli)など感染性生物によって引き起こされる。感染性下痢疾患は、世界的にも罹患率および死亡率の主要原因であり、特に発展途上国で子供に対して特に懸念される。
【0005】
例えばコレラは、コレラ菌によって引き起こされる急性下痢疾病である。感染は無症候性である可能性もあり、または軽度から重篤まで範囲のある症状をもたらし得る。感染した個体の約5%が重篤な疾患を有する。コレラの特徴は、体液の急速な喪失、脱水症、およびショック状態につながり得る水様の下痢である。処置しなければ、罹患した個体は数時間以内に死亡する可能性がある。患者はほとんどの場合、再水和によって処置され、個体はしばしば予め包装された水で混合した糖と電解質の組み合わせを投与される。しかしながらいくつかの地域では、十分な量の飲料水が処置のために利用できないことがある。さらに、分泌性下痢の重篤な場合、再水和だけでは患者の生命を救うのに十分でない可能性がある。
【0006】
例えばコレラに関連する下痢は主に、コレラ毒素と嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)の相互作用によって誘導される。CFTRは、様々な組織で発現している細胞膜サイクリックAMP活性化Cl-チャネルである。上皮細胞において、CFTRは塩素イオンの分泌を仲介する。腸において、CFTRによるCl-分泌は、例えばコレラ菌、クロストリジウム-ディフィシル、および大腸菌感染に関連する下痢を引き起こす。
【0007】
CFTRの阻害は、分泌性下痢の予防および処置のための魅力的な標的である。必要とされるのは、CFTR活性化の結果である腸からの液体の喪失をすぐに止めることができる安全で効果的な組成物である。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明は、治療的有効量のリゾホスファチジン酸(LPA)、治療的有効量のLPAを含む食物もしくはサプリメント、治療的有効量のLPA2受容体アゴニスト、またはそれらの組み合わせを、個体に投与することによって、下痢を処置するまたは予防する方法に関する。
【0009】
本発明はまた、再水和のためおよび電解質バランスを回復するかもしくは維持するための1つまたは複数の電解質を含む水性担体、1つまたは複数のLPA2受容体アゴニストと混合された水性担体および電解質を含む、下痢を処置するための組成物に関する。
【0010】
本発明はさらに、治療的有効量のLPA2受容体アゴニストを個体に投与することによってCFTR活性を阻害する方法に関する。
【0011】
詳細な説明
本発明者らは、リゾホスファチジン酸(LPA)がCFTR依存性タンパク質相互作用を介したコレラ毒素誘導性の分泌性下痢を阻害することを開示した。さらに本発明者らは、LPAがCFTRを阻害するメカニズムがLPA2受容体に関与すること、および本発明者らが合成したLPA2受容体アゴニストがCFTRを介した分泌性下痢を予防しかつ処置するための組成物を提供することを開示した。本発明者らはまた、LPAおよびLPA2受容体アゴニストが、アデノシン活性化に応答してCFTR依存性Cl-流を阻害できることを開示した。細菌性の下痢はほとんどの場合、細菌毒素とCFTRの相互作用の結果であるが、下痢はまた、管腔因子に応答して腸粘膜炎症性細胞から分泌されるサイトカインまたはアデノシンなどの媒介物質によって引き起こされる免疫炎症反応の増加からもたらされ得る。したがって本発明は、細菌が原因の分泌性下痢、ならびにストレスおよび/または免疫炎症反応によって誘導される下痢を処置する組成物ならびに方法を提供する。
【0012】
本発明によって記載される組成物および方法は、動物、特に例えばヒト、非ヒト霊長類、ウマ、雌牛、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、およびネコなどの哺乳動物における治療法に利用してもよい。本明細書に記載される組成物は、LPA2受容体アゴニストを含む組成物として記載されるが、そのような組成物がLPA、LPAを含む食物もしくはサプリメント、1つもしくは複数のLPA2受容体アゴニスト、またはそれらの組み合わせを含んでもよいことが当業者には理解されるべきである。LPAは、例えば栄養補助食品において見出され得る。
【0013】
下痢疾病の処置は、症状の発症の前(例えば分泌性下痢を引き起こすとこが公知の1つまたは複数の生物に曝露された後)、または症状の発症の後に投与されてもよい。例えば細菌またはウイルスの伝染病が発生している地域の個体の群に、体液の喪失および関連する電解質の不均衡を防ぐために、本発明の組成物を分配してもよい。
【0014】
特定のLPA受容体に特異的であるか、比較的非特異的様式で複数のLPA受容体に結合する可能性があるか、または複数のLPA受容体に結合する可能性があるが特定のLPA受容体に優先的に結合する化合物が、本発明者らによって同定された。したがって本発明の化合物は、LPA2受容体に結合する化合物を含むが、さらにより好ましくはLPA2受容体に優先的に結合する化合物を含むであろう。本発明の化合物はLPA2受容体のアゴニストとして作用するものを含む。治療的有効量は、CFTR活性化に関連する症状(例えば腸内の体液蓄積および下痢による体液喪失)を軽減するのに十分なCFTRの阻害をもたらす量である。
【0015】
表1および表2に列挙した化合物は、本発明者らによって合成され、本明細書に記載の処置のための方法および組成物に用いてもよい化合物の例である。これらの化合物の合成方法は、米国特許第6,875,757号(Miller et al.)および米国特許出願第10/963,085号(公開番号20060009507;Miller et al.)に記載される。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
表1および表2におけるこれらの化合物のうち、チオリン酸O-ドデシルエステル、チオリン酸O-テトラデシルエステル、チオリン酸O-ドデカ-9-エニルエステル、チオリン酸O-テトラデカ-9-エニルエステル、およびチオリン酸O-オクタデカ-9-エニルエステルは、LPA2受容体への結合およびそれによるCFTR活性化の阻害に特に効果的であることが実証されている。
【0019】
治療製剤は、例えば経口、直腸、経皮、皮下、静脈内、筋肉内、および鼻腔内を含む様々な経路、ならびに鼻腔チューブを介する投与によって投与することができる。
【0020】
本発明の組成物は、許容される薬学的担体と併せて提供される少なくとも1つのLPA2受容体アゴニストを含む。一つの態様において、例えばそのような組成物は、分泌性下痢の症状が発現している個体において再水和および電解質バランスの維持または回復に適した、糖ならびに電解質を含む水性担体に混合された、少なくとも1つのLPA2受容体アゴニストを含んでもよい。別の態様において、1つまたは複数のLPA2受容体アゴニストは、1つまたは複数の電解質および任意で糖を含む粉末で提供してもよい。組成物はまた、抗生物質、抗炎症薬剤、または分泌性下痢の危険性があるか、もしくはそれを発症している個体に対して利益を提供するよう作用し得る他の薬剤を含んでもよい。本発明の組成物は、経口投与について記載され、かつ経口補水塩(ORS)と混合するかもしくはORSと併せて提供される、1つまたは複数のLPA2受容体アゴニストを含むORSを調整することは、十分に当技術分野の範囲内である。静脈内投与のための薬学的に許容される組成物が、分泌性下痢のより深刻な症例の処置のために必要とされる可能性がある。そのような組成物は例えば、治療的有効量のLPA2受容体アゴニストを含む生理食塩水、または治療的有効量のLPA2受容体アゴニストを含む乳酸リンゲル液を含む。製剤は、乾燥形態もしくは液体形態であってもよく、または経口用もしくは静脈用糖-電解質溶液もしくは乾燥組成物としてでもよい。
【0021】
経口投与のために、Rehydron(商標)(Orion Pharma International, Finland)またはPedialyte(商標)(Ross, USA)溶液を、製造業者の説明書に従って投与することができ、かつ投与の前に1つまたは複数のLPA2受容体アゴニストと混合してもよい。さらに別の態様において、非経口再水和溶液は例えば、1つまたは複数の電解質として、1つまたは複数のLPA2受容体アゴニスト、グルコース、塩化ナトリウム、および塩化カリウムを含んでもよい。再水和療法のための電解質の投与は、世界保健機関によって推奨されるように実施してもよい(例えば、世界保健機関、下痢疾患制御プログラム:A Manual For The Treatment Of Acute Diarrhea For Use By Physicians And Other Senior Health Workers. Geneva: WHO, 1984: WHO/CDD/SER/80.2(rev.l);世界保健機関;下痢の処置:A Manual For Physicians And Other Senior Health Workers、オンラインで利用可能:http://www.who.int.を参照されたい)。経口再水和療法は、例えば腸上皮の修復速度を上げるために、アラニン、アルギニン、ビタミンA、および亜鉛をさらに含んでもよい。
【0022】
本発明の組成物はまた、緩衝剤、保存剤、適合性担体、および任意で抗生物質などのさらなる治療薬など、付加的な成分を含んでもよい。適した緩衝剤は、酢酸、クエン酸、ホウ酸、リン酸、およびそれらの塩を含む。組成物はさらに、薬学的に許容される保存剤を含んでもよい。
【0023】
本発明の製剤の作製において、LPA2受容体アゴニストは通常、賦形剤と混合されるか、賦形剤中に希釈されるか、または例えばカプセル剤、サシェ剤、もしくは紙剤の形態が可能である担体内に封入される。賦形剤が希釈剤として作用する場合、これは活性成分のための媒体、担体、もしくは媒質として作用する固体、半固体、または液体材料であり得る。本明細書に提供される組成物は、錠剤、丸剤、散剤、ロゼンジ、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ、エアロゾル(固体として、または液体媒質中で)、例えば10%重量までの1つまたは複数のLPA2受容体アゴニストを含む軟膏、軟および硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、滅菌注射用溶液、および滅菌包装粉末の形態であってよい。組成物は、例えば静止状態の凍結糖剤、氷菓、アイスクリーム、フローズンヨーグルト、または他の凍結処理の形態で投与することができる。組成物はまた、果物風味の飲料、ジュース、または少なくともある割合のフルーツジュースを含む飲料などの風味のある飲料として投与してもよい。
【0024】
LPA2受容体アゴニストは、他の成分と組み合わせるかまたは混合する前に、適した粒子サイズに製粉してもよい。LPA2受容体アゴニストが実質的に不溶性である場合、200メッシュ未満の粒子サイズに製粉してもよい。LPA2受容体アゴニストが実質的に水溶性である場合、製粉によって粒子サイズを調整し、製剤内で実質的に均一な分布、例えば約40メッシュを提供してもよい。
【0025】
適した賦形剤のいくつかの例には、乳糖、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、トランガカントゴム、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、およびメチルセルロースが含まれる。本発明の組成物は、当業者に公知の手順を用いて患者に投与した後の活性成分の比較的迅速な放出、徐放、または遅延放出を提供するように製剤化することができる。
【0026】
本発明の組成物は、単位剤形で提供してもよく、または複数回投与に十分な量を含むバルク量で提供してもよく、各投与量は約2.0 mg〜約1000 mg、より通常には約20 mg〜約500 mgの少なくとも1つのLPA2受容体アゴニストを含む。「単位剤形」という用語は、ヒト対象および他の哺乳動物に関して単位投与量として適している物理的に個別の単位を指し、各単位は、適した薬学的賦形剤に関連して所望の治療効果を生じるように計算された活性物質の既定量を含む。
【0027】
錠剤などの固形組成物を調製するために、1つまたは複数のLPA2受容体アゴニストを、薬学的賦形剤と混合して、好ましくは1つまたは複数のLPA2受容体アゴニストの均一な混合物を含む固形製剤を形成し、本発明の組成物を形成する。製剤を均一と称する場合、組成物が等しく有効な単位剤形に容易に細分され得るように、LPA2受容体アゴニストが組成物全体に比較的均一に分散されていることを意味する。いくつかの態様において、例えば錠剤またはカプレットの4分の1、半分などの使用を容易にするよう刻み目を入れた錠剤またはカプレットを提供してもよい(例えば子供への使用のため)。
【0028】
本発明の錠剤もしくは丸剤はコーティングしてもよく、またはそうでなければ改変された放出もしくは持続放出という利点を提供する剤形を提供するよう調合してもよい。例えば、錠剤または丸剤は、内部投薬成分および外部投薬成分を含むことができ、後者は前者を覆う被膜の形状である。2つの成分は、胃内の崩壊に耐え、かつ内部成分が十二指腸へと無傷で移行できるか、または放出を遅延できるように作用する腸溶層により分離することができる。様々な材料を、このような腸溶層またはコーティングに使用でき、このような材料には多くのポリマー酸、ならびにシェラック、セチルアルコール、および酢酸セルロースなどの材料とポリマー酸との混合物が含まれる。
【0029】
LPA2受容体アゴニストはまた、経皮送達デバイスの形態で提供してもよい。そのような経皮「パッチ」を用いて、制御された量でLPA2受容体アゴニストの連続的または非連続的注入を提供してもよい。薬剤の送達のための経皮パッチの構成および使用は当技術分野で周知であり、例えば米国特許第5,023,252号に記載される。そのようなパッチを、薬剤の連続的、拍動性、または応需型送達のために構成してもよい。
【0030】
注射可能薬物製剤は、例えば溶液、懸濁液、ゲル、微粒子、およびポリマーの注射剤を含み、かつ溶解性変更薬剤(例えばエタノール、プロピレングリコール、およびスクロース)ならびにポリマー(例えばポリカプリラクトンおよびPLGA)などの賦形剤を含むことができる。
【0031】
非経口投与に適した組成物は、好ましくはレシピエントの血液と等張であるLPA2受容体アゴニストの滅菌水性調整物を含んでもよい。この水性調整物は、これらの適した分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を用いて公知の方法に従って調製してもよい。滅菌注射用調製物はまた、非毒性の非経口的に許容される希釈剤もしくは溶媒における滅菌注射用溶液または懸濁液、例えば1,3-ブタンジオールの溶液としてでもよい。用いることができる許容される媒体および溶媒の中には、水、リンゲル液、および等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、滅菌固定油が溶媒または懸濁化媒質として通常用いられる。この目的のため、合成モノグリセリドまたは合成ジグリセリドを含む任意の無菌性の固定油を用いてもよい。加えて、オレイン酸などの脂肪酸も注射剤の調製に用いてもよい。経口、皮下、静脈内、筋肉内などに適した担体製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Paに見出すことができる。
【0032】
持続放出、遅延放出、または徐放送達システムは、本発明によって提供されるように投与の容易性および組成物の有効性を増大し得る。そのような送達システムは市販されており、当業者に公知である。それらは、ポリ乳酸およびポリグリコール酸、ポリ無水物およびポリカプロラクトンなどのポリマーベースのシステム;コレステロール、コレステロールエステルなどのステロール、ならびに脂肪酸またはモノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドなどの中性脂肪を含む脂質であるナノポリマーシステム;ヒドロゲル放出システム;シラスティックシステム;ペプチドベースのシステム;ワックスコーティング、従来の結合剤および賦形剤を用いた圧縮錠剤、部分的に融合されたインプラントなどを含む。特定の例には以下のものが含まれるが、これらに限定されない:(a)Kentに対する米国特許第4,452,775号;Nestor et al.に対する米国特許第4,667,014号;およびLeonardに対する米国特許第4,748,034号および米国特許第5,239,660号に見出される、多糖がマトリックス内の形状に含まれる浸食システム;ならびに(b)Higuchi et al.に対する米国特許第3,832,253号およびZaffaroniに対する米国特許第3,854,480号に見出される、活性成分が制御された速度でポリマーへ浸透する拡散システム。さらにポンプベースのハードウェア送達システム(pump-based hardware delivery system)を用いることができ、そのいくつかはインプランテーションに適合する。
【0033】
長期徐放性インプラントの使用は特に、本発明の組成物の連続した投与を必要とする可能性のある免疫不全患者における下痢の処置に適している可能性がある。本明細書において用いるように、「長期」放出は、薬剤の治療レベルで少なくとも30日間、および好ましくは60日間、治療薬を送達することを意味する。長期徐放性組成物およびデバイスは当業者に周知である。
【0034】
LPA2受容体アゴニスト、または1つもしくは複数のLPA2受容体アゴニストを含む製剤の投与は、適するならば単回投薬処置または例えば一定間隔で繰り返される複数回の投薬のいずれかで提供することができる。定期的投与は、1日に2回以上、継続してまたは非継続的に2日以上行うことができる。
【0035】
本発明はまた、cAMP活性化クロライドチャネル(CFTR)の活性を阻害する方法も提供する。本方法は、治療的有効量の少なくとも1つのLPA2受容体アゴニストを個体に提供する段階を含み、その量のLPA2受容体アゴニストは、LPA2受容体と、CFTRと、Na+/H+交換調節因子2(NHERF-2)との間での巨大分子複合体の形成を阻害し、それによってCFTRの活性を阻害するのに効果的である。
【0036】
本発明はまた、CFTRを介する細胞機能および経路を研究するための研究試薬ならびにキットを提供する。キットは、例えば1つもしくは複数のLPA2受容体アゴニストの1つもしくは複数のアリコート、細胞培養培地、緩衝液、または少なくとも1つのLPA2受容体アゴニストを用いた細胞培養もしくは1つもしくは複数のLPA2受容体アゴニストの細胞環境への導入を促進するその他の試薬を含んでもよい。
【0037】
実施例
本発明を以下の非限定的な実施例の手段によってさらに説明する。
【0038】
組織培養およびトランスフェクション
HT29-CL19A(ヒト結腸上皮起源)、Calu-3(漿液腺上皮細胞)、およびBHK(仔ハムスター腎臓細胞)を、(26)に記載するように培養した。ウッシングチャンバー実験のため、HT29-CL19AおよびCalu-3を透過性フィルター上で増殖させた。EVOM Epithelial Voltohmmeter(World Precision Instruments; Sarasota, FL)を用いて、経上皮耐性を毎日測定した。ワクシニアウイルス発現システムを用いて、BHK細胞にFlag-LPA受容体を一時的にトランスフェクションした(27)。
【0039】
抗体、試薬、および構築物
CFTR抗体R1104モノクローナルマウス抗体およびNBD-Rポリクローナルウサギ抗体は、以前に記載されている(28)。本発明者らは、プロテインAカラムを用いてアフィニティー精製したLPA2(Genemed Synthesis, CA)の最後の11アミノ酸(アミノ酸341〜351)に対するペプチド特異的抗LPA2抗体(ウサギ-2143)を生成した。抗NHERF2抗体は、Dr. Emanuel Strehler(Mayo Clinic, Rochester, MN)によって寄贈された。本発明者らはまた、プロテインAカラムおよびNHERF2抗原自体を用いてアフィニティー精製した全長NHERF2タンパク質(Genemed Synthesis, CA)に対する本発明者ら独自のNHERF2特異的抗体(ウサギ-2346)を生成した。NHERF2に対するこのアイソフォーム特異的抗体は、NHERF2と約50%の配列同一性を共有するNHERFlとは交差反応しない(図1G、図の左上パネル)。抗Flag mabはSigma Chem. Co.(St. Louis, MO)から入手した。LPA受容体のC末端尾部、すなわちLPA1(アミノ酸316〜364)、LPA2(アミノ酸298〜351)、およびLPA3(アミノ酸298〜353)に対するマルトース結合タンパク質(MBP)融合タンパク質を、pMALベクター(New England Biolabs; Beverly, MA)を用いて生成した。Flagタグ付加LPA2、LPA2-ΔSTL、およびLPA2-L351Aを、pCDNA-3ベクター(Invitrogen; Carlsbad, California)およびQuickChange変異誘発キット(Strategene; La Jolla, CA)を用いて生成した。ペプチド送達システム(Chariot(商標))は、Active Motif(Carlsbad, CA)から入手した。LPA(18:1)、S1P、およびPAは、Avanti Polar Lipids, Inc.(Alabaster, AL)から購入した。他の脂質、LPA(20:4)およびLPA(18:2)は、(29)に記載されている。コレラ毒素および百日咳毒素はSigmaから入手した。他の試薬は以前に記載されている(26)。
【0040】
ヨウ化物流出測定
ヨウ化物流出は(30)に記載のように実施した。Calu-3およびHT29-CL19A細胞を、60-mmディッシュ内でコンフルエントまで増殖させ、次いでLPA 18:1、18:2、20:4(BSAと複合体形成)もしくは構造的に関連するリゾリン脂質、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)でまたはそれらなしで、ヨウ化物流出測定の前に20分間、前処理した。最初の4つのアリコートを用いて、流出緩衝液単独中で、安定なベースラインを確立した。アゴニスト、cpt-cAMP(200μM)、またはアデノシン(2μM)を、様々なLPAを伴うまたは伴わない流出緩衝液に添加し、かつアゴニストおよびLPAの持続的な存在下で(すなわちその後交換のため用いた流出緩衝液もまた、同じ濃度でアゴニストおよびLPAを含んだ)、試料を毎分6分間の間回収した。ヨウ化物感受性電極(Orion Research Inc., Boston, MA)を用いて各アリコートのヨウ化物濃度を決定し、ヨウ化物含有量(すなわち1分間隔の間に放出されたナノモルでのヨウ化物の量)に変換した。いくつかの研究のため、ヨウ化物の流出ピーク(5分の時点)を対照のパーセンテージとして提示した。百日咳毒素(PTX)実験のため、ヨウ化物流出測定の前に、細胞を100 ng/mlまたは200 ng/mlのPTXで24時間37℃インキュベータで前処理した。
【0041】
短絡電流(Isc)測定
Calu-3およびHT29-CL19A極性細胞の単層を、Costar Transwell透過性支持体(フィルター面積は0.33 cm2)上でコンフルエントまで増殖させた。フィルターをウッシングチャンバー内に取り付け、CFTR Cl-チャネルを介した短絡電流(Isc)を以前に記載されたように行った(31)。リンゲル液(mM)(漿膜/基底面:140 NaCl、5 KCl、0.36 K2HPO4、0.44 KH2PO4、1.3 CaCl2、0.5 MgCl2、4.2 NaHCO3、10 Hepes、10グルコース、pH 7.2、[Cl-]=149)および低Cl-リンゲル液(mM)(内腔/頂端:133.3 Na-グルコン酸、5 K-グルコン酸、2.5 NaCl、0.36 K2HPO4、0.44 KH2PO4、5.7 CaCl2、0.5 MgCl2、4.2 NaHCO3、10 Hepes、10マンニトール、pH 7.2、[Cl-]=14.8)内37℃で上皮を洗い、95%O2および5%)でガスを供給し、ウッシングチャンバーに取り付ける前に、漿膜および平滑筋層を取り除いた(32)。単離したマウスの腸の内腔(頂端)側および漿膜(基底面)側の両方に、LPA(20:4;0〜35μM)を30分間添加した。cpt-cAMP(0〜100μM)またはADO(0〜100μM)の濃度を上げながら、両面に適用し、CFTR依存性Cl流反応を誘発した。DPC(500μM、内腔側へ添加)を用いて、実験の終了近くにCl流を阻害した。CO2。アデノシン(ADO)を内腔/頂端側に添加する前に、細胞単層の内腔(頂端)側および漿膜(基底面)側の両方に、LPA(20:4)を30分間添加した。並行して、ADO添加前に、いくつかのフィルターを同様に、ホスファチジン酸(PA;0〜35μM)およびスフィンゴシン-1-リン酸(S1P;0〜35μM)で30分間前処理した。CFTR Cl-チャネル阻害剤であるジフェニルアミン-2-カルボン酸(DPC;500μM:内腔側に添加)を用いて、実験の終了近くにCl-流を阻害した。粘膜におけるLPAのCl-輸送に対する効果を実証するために、マウス腸のパッチ(0.112 cm2)。
【0042】
腸液分泌(インビボ)実験
動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)の承認を得て、Verkmanのグループの方法に変更を加えた(33)。ペントバルビタール(60 mg/kg)を用いて麻酔を導入する前に24時間、CDlマウスに餌を与えなかった。手術の間、循環水加温パッドを用いて、マウスの体温を36〜38℃に維持した。小腸を露出させるために腹部小切開を行った。盲腸に隣接する回腸ループ(〜20 mm)を体外に出し、単離した(マウス1匹当たり2つのループ:1つのループはPBS、1つのループはPBS+毒素)。100μlのPBSのみまたはコレラ毒素(1〜100μg)を含むPBSを、次いでループに注射した。対照およびコレラ毒素を注射したループの両方を、LPA(10〜40μM)の存在下および非存在下で試験した。腹部切開および皮膚切開を創傷クリップで閉じ、マウスを回復させた。手順の終わりから6時間後に腸ループを回収した。PA(10〜100μM)およびS1P(10〜100μM)はまた、上記のように並行実験に用いた。
【0043】
巨大分子複合体アセンブリー
アミロースビーズ(20μl)上に固定し、GST-NHERF2と共にインキュベートしたマルトース結合タンパク質(MBP)-CFTR-C末端尾部融合タンパク質(1μM)を用いて、本アッセイ(34)を実施した。対結合と称されるこの工程を、200μlの溶解緩衝液中(PBS-0.2% Triton-X 100+プロテアーゼ阻害剤)で行い、22℃で2時間混合した。複合体を同じ緩衝液で1回洗浄し、受容体を発現するBHK細胞の溶解物由来のFlagタグ付加LPA2を結合させた。混合を続けながら、4℃で3時間、結合を行った。複合体を溶解緩衝液で洗浄し、試料緩衝液で溶出し、抗Flagモノクローナル抗体を用いて免疫ブロット法により分析した。
【0044】
LPA2受容体特異的ペプチドの送達および免疫染色
Chariot(商標)システムを用いて、製造業者の説明書(Active Motif;Carlsbad, CA)に従い、LPA2特異的ペプチドの送達を実施した(35)。簡潔には、LPA2のPDZモチーフを含む1.2μMペプチド(最後の11アミノ酸;アミノ酸341〜351、ENGHPLMDSTL)を、室温で30分間Chariot溶液と混合し(総容積:400μl)、次いで透過性支持体上で増殖した極性Calu-3およびHT29-CL19A細胞の内腔ならびに漿膜側の両方に、Chariot-ペプチド複合体を添加し、ウッシングチャンバーに取り付ける前に、5%CO2を含む加湿雰囲気下で1時間37℃でインキュベートした。実験の最後に、上皮細胞を固定し、このLPA2特異的ペプチドも同様に認識する抗LPA2抗体(LPA2の最後の11アミノ酸に対して作製された)を用いてペプチド送達の効率について免疫染色し、固定した細胞を免疫蛍光共焦点顕微鏡に供した。他のペプチド(CFTRアミノ酸107〜117)もまた、陰性対照として上記のように送達した。
【0045】
データ解析
結果は、示された実験の回数について平均±SEMで表される。2つの実験群間の平均値の統計的比較のために、独立スチューデントt検定を用いた。P<0.05、P<0.01、またはP<0.001の値を統計学的に有意とみなした。
【0046】
実施例1 腸組織におけるLPA受容体の局在
LPA1およびLPA2の転写物はマウス腸組織に存在するが、LPA3の転写物は存在せず(図1、AおよびB)、LPA2に対するヒト配列特異的オリゴを用いて、HT29-CL19A(結腸上皮細胞)およびCalu-3(漿液腺上皮細胞)もまたLPA2を発現することを見出した(図1C)。LPA2特異的抗体を用いて(図1D、左)、HT29-CL19AおよびCalu-3細胞から調製した原形質膜中のLPA2の発現(13)を実証した。LPA2は〜50 kDの主要な免疫反応性バンドとして現れた(図1D、右)。
【0047】
次に蛍光共焦点顕微鏡を用いて(14)、HT29-CL19Aの頂端表面に一部、LPA2を共局在化させた(図1E、上)。LPA2の頂端局在はまた、表面ビオチン化を用いて確認した(図1F、上)(13)。LPA2の相互作用パートナーNHERF2(15)は、上皮細胞(HT29-CL19A、Calu-3など)において様々なレベルで発現し、〜50-kDの免疫反応性バンドとして現れた(図1G、右上)。NHERF2はまた、HT29-CL19A細胞において頂端表面に局在化し(図1G、下)、ここにCFTRおよびLPA2があることが示される(図1、EおよびF)。
【0048】
実施例2 NHERF2およびCFTRとのLPA2受容体相互作用
LPA1およびLPA2のC末端尾部は、PDZタンパク質のPDZ結合ドメイン(通常約70〜90アミノ酸配列)と特異的に相互作用する短いCOOH末端タンパク質配列である、PDZ(PSD95/Dlg/ZO-1)モチーフに対するコンセンサスを含むが、LPA3は含まない(16)(図1H、上、囲んだ領域)。したがってLPA1およびLPA2は、相互作用し受容体機能を調節するタンパク質を含むPDZドメインの候補である可能性が高い。プルダウンアッセイは、LPA2がNHERF2に最も高い親和性で結合し、一方LPA1はそれより弱い親和性で結合したことを示した(図1H)(15)。LPA2のC末端尾部とNHERF2との間の直接相互作用もまた実証された(図1I)。
【0049】
3つのLPA受容体(LPA1、LPA2、およびLPA3)全てがLPAに反応するが、LPA2が脂質に対する最も高い親和性を有し(17)、それによって少なくとも3つの異なるGタンパク質経路:Gi、Gq、およびG12/13が活性化される(6、7)。LPAによる受容体の活性化は、アデニル酸シクラーゼ経路の阻害をもたらし、それがcAMPレベルの減少につながる(5〜7)。受容体のGi活性化経路を図1Jにまとめる。LPA2がNHERF2に結合すること(図1、HおよびI)、ならびにNHERF2がCFTRと巨大分子複合体を形成することができるという本発明者らの以前の実証(18)から、本発明者らは、LPA2がCFTR Cl-チャネル機能を調節するという仮説を立てた。これを検証するために、ヨウ化物流出測定を用いて、LPAのCFTRに対する効果をモニターした(19)。LPA前処理によりcpt-cAMP刺激に対するCalu-3細胞の反応が減少し、一方LPAのみではCFTRチャネル機能に影響を与えなかった(図2A)。これらの結果は、上皮細胞においてLPAがCFTR機能を特異的に阻害できることを明らかに示す。
【0050】
実施例3 受容体を介するCFTR機能のLPA阻害
LPAによるCFTR機能の阻害が受容体を介するという仮説を検証するために、GαiサブユニットのADPリボシル化を触媒し、したがってGi経路を特異的に乱すことが実証されている百日咳毒素(PTX)でCalu-3細胞を前処理した(21)。PTX前処理が、用量依存性の様式でCFTR機能のLPA依存性阻害を逆転させた(図2B)。したがって、LPAによるCFTR機能の阻害が受容体を介してGi経路を通る可能性が高い。アデノシンをCFTRアゴニストとして用いた場合、LPAによるCFTR活性の用量依存性阻害もまた観察された(図2C)。対照的に、関連する脂質である、LPA受容体に対するリガンドではないホスファチジン酸(PA)(5)は、CFTR機能に対していかなる有意な効果も示さなかった(図2C)。LPAのいくつかの脂肪酸類似体をスクリーニングし、阻害の順序はLPA 20:4>LPA 18:2>LPA 18:1(図2D)であり、これはヒト血清においてこれらの類似体が比較的豊富であることに一致する(22)。
【0051】
CFTR依存性短絡電流(Isc)に対するLPAの効果を、極性上皮単層上でモニターした(18)。HT29細胞(図2E)およびCalu-3細胞(図2F)においてアデノシン活性化に応答したCFTR依存性Cl-流を、LPAは有意に阻害した。cpt-cAMP刺激に応答して測定されたIscは、LPAで前処理し単離した腸組織(図2G、下)において、用量依存性様式(図2H)で阻害された。
【0052】
実施例4 CTX誘導性下痢のLPA阻害
LPAを治療設定で用いることができるという構想の証拠を提供するために、LPAの効果をマウスにおけるコレラ毒素(CTX)誘導性下痢モデルで検証した(図3A)(23)。CTX処理した回腸ループにおいて(図3B)、用量依存性様式で(図3C)顕著な液体蓄積があり、一方隣接した対照ループ(PBSのみ)はいかなる液体の蓄積も示さなかった。LPA処理は、毒素処理した腸ループ内の液体蓄積を効果的に減少させ(図3D、下)、これはLPAがCTXによる腸液分泌に対して有意な阻害効果を有することを示唆する。本発明者らの結果は、40μMのLPAが液体蓄積をPBS対照ループのレベルまで有意に減少させることを伴う、CTXが誘発するCFTR依存性腸液分泌に対するLPAの用量依存性阻害を示す。
【0053】
実施例5 LPA2によるクロライドチャネルの阻害に必要とされるLPA2-NHERF2-CFTR巨大分子複合体
本発明者らは、CFTRとLPA2の間の相互作用がNHERF2によって媒介される可能性が高いという仮説を立てた。これを検証するために、本発明者らはインビトロでLPA2、NHERF2、およびCFTRの巨大分子複合体を構築した(図4A)(13)。巨大分子複合体はMBP-C-CFTR、GST-NHERF2、およびLPA2間で形成された(図4B)。MBP-C-CFTRは直接LPA2に結合せず、GSTまたはMBPのみの存在下では複合体は形成されなかった(図4B)。複合体形成はPDZモチーフ依存性であった。LPA2の最後のアミノ酸を変異させると(L351A)、複合体形成が減少し、一方LPA2の最後の3アミノ酸を欠失させると(ΔSTL)、巨大分子複合体形成が完全に除去された(図4C)。インビトロ巨大分子複合体アセンブリーは、複合体が天然の膜に存在するかどうかを示さず;そのため、架橋実験を実施し過剰発現細胞における複合体を捕捉した(18)。図4Dは、内因性NHERF2を発現するBHK細胞における、CFTRおよびLPA2を含む架橋された複合体を示す。本発明者らは次に、Calu-3細胞からCFTRを免疫沈降させ、LPA2およびNHERF2が複合体内に存在することを実証した(図4E)。これらの研究は、LPA2-NHERF2-CFTRの巨大分子複合体が上皮細胞の頂端表面に存在する可能性が高いことを示唆する。
【0054】
本発明者らは次に、NHERF2を介したLPA2およびCFTRの物理的会合がLPA2によるCl-チャネルの阻害に重要であるかどうかを判定した。複合体を分離するために、本発明者らは、短絡電流測定の前に、Chariotシステムを用いて(24)、PDZモチーフを含むLPA2アイソフォーム特異的ペプチドを極性上皮細胞内に送達した。LPAの存在下でアデノシン(0〜20μM)に応答したIscをモニターした。LPA2特異的ペプチドは、CFTR依存性Cl-流に対するLPA誘発性阻害を有意に逆転させた(図4F、下)。実験の終了時に、上皮細胞を固定し、免疫染色した。本発明者らは、ペプチドを送達した細胞内で蛍光のより強い強度を観察した(図4G、下)。本発明者らは、LPA2ペプチドが、NHERF2への結合について用量依存性様式でLPA2と競合し得ることを確認した(図4H)。
【0055】
LPA2受容体が消化管で発現し(図1、A〜D)、頂端表面に局在し(図1、EおよびF)、かつGi経路を活性化し、それがcAMPの蓄積を減少させる(図1J)ことから、本発明者らは新規モデルを提案する(図4I)。本発明者らの仮説に従って、LPA2およびCFTRをNHERF2と物理的に会合させ、それが上皮細胞の頂端原形質膜で、LPA2およびCFTRを集めて巨大分子複合体となる。この巨大分子複合体は、LPA2シグナル伝達とCFTRを介したCl-流出の間の機能的な共役の基礎である。モデルは、物理的会合が妨害された場合、機能性活性は同様に損なわれるであろうことを予測する。受容体のLPA刺激の際、アデニル酸シクラーゼはGi経路を介して阻害され、それによってcAMPレベルが減少する。この減少した局所的または区画化されたcAMPの濃度は、CFTRアゴニスト(例えばADO)に応答したCl-チャネルの活性化を低下させる。本発明者らの知見は、LPA2アゴニストの伝達経路の基礎を成す詳細なメカニズムを明らかにするだけでなく、どのようにLPAがCFTR依存性Cl-チャネル活性を阻害するかを解明するのに役立ち、これら全ては下痢症状の緩和につながるであろう。LPAが食品の特定の形態で豊富に利用可能であることから(3、4)、本発明者らの概念研究の証拠は、下痢を制御するための特定の治療食の使用のために道を開いたであろう。
【0056】
実施例6 CTX誘導性クロライドチャネル分泌を阻害するLPA2アゴニスト
コレラ毒素誘導性Cl-分泌に対する脂肪族アルコールチオリン酸18:ld9(FAP)の効果を判定するために、開ループマウスモデルを用いた。動物プロトコールは、UTHSCの動物実験委員会によって検査され承認された。約8週齢のオスC57BL/6マウスをHarlan(Indianapolis, IN)から購入し、12:12時間の明暗サイクルで維持し、標準的な実験マウス用の餌および水を適宜与えた。順応の2週間後、開ループ実験の前24時間、水を自由に飲める以外はマウスを絶食させた。口から胃へ餌を与えるニードルを用いて、100μM LPA(18:1)もしくは100μM FAPの存在下または非存在下で、10μg/mlのCTXを含む100μlの7%NaHCO3緩衝液でマウスを洗浄し、6時間後に屠殺した。幽門から盲腸までの小腸全体を体外に出し、腸間膜および結合組織を取り除き、次いで計量した。その内容物を洗い流した後、小腸を再度計量した。腸の重量比および腸液蓄積は、Werkman et al.(20)によって記載されたように算出した。内腔液の除去の前後の腸重量の比を用いて、腸内腔へのCl-分泌を決定した。図5に示すように、LPAおよびFAP 18:ld9処理の両方が、その比率の統計的に有意な低下をもたらした。図6に示すように、FAP 18:1d9は腸液蓄積を有意に減少させた(右パネル)。
【0057】
本発明の様々な態様を本明細書において記載してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、改変、付加、および置換が行われ得ることは当業者に明らかであろう。
【0058】
引用した参考文献リスト


【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1A〜図1Jは、LPA2およびNHERF2が腸の上皮細胞で発現し、主に頂端細胞表面にまたはその近傍に局在することを図示する。(A)LPA1およびLPA2転写物がマウス空腸で検出され、一方LPA3転写物は検出されなかった。βアクチンは陽性対照として用いられた。(B)LPA1およびLPA2転写物はマウス回腸で検出された。室温、逆転写酵素。(C)HT29-CL19AおよびCalu-3細胞は、LPA2転写物を発現する。(D)HT29-CL19AおよびCalu-3細胞から調製した粗製原形質膜におけるLPA2発現。(E)極性HT29-CL19A細胞におけるLPA2の頂端局在。CFTR免疫局在性は陽性対照として用いられ、免疫前は陰性対照として用いられた。AP=頂端、BL=基底面。(F)LPA2は、CFTRもまた属するHT29-CL19A細胞の頂端膜において発現する。(G)腸上皮細胞におけるNHERF2発現および頂端局在。核はヨウ化プロビジウムによって染色された(下図)。(H)LPA受容体におけるPDZモチーフ構造およびNHERFとのそれらの相互作用。(I)GST-NHEFR2はマルトース結合タンパク質(MBP)-C-LPA2に直接結合する。(J)LPA受容体上のLPA作用のメカニズム。AC、アデニル酸シクラーゼ。
【図2】図2A〜2Hは、LPAがLPA2受容体を介したメカニズムによるCFTR依存性Cl-流を阻害することを図示する。(A)代表的なcpt-cAMPは、LPA 18:1(20μM)で処理したCalu-3細胞内でヨウ化物流出を活性化した。(B)百日咳毒素(PTX)によって前処理したCalu-3細胞内でのヨウ化物流出。*スチューデントt検定についてP<0.05(平均±SEM、n=3)。(C)LPA(18:1)で処理したCalu-3細胞における、アデノシンに応答したヨウ化物の流出ピーク。*P<0.05(n=3)。(D)様々なLPA類似体(20μM)で処理したCalu-3細胞における、アデノシンに応答したヨウ化物の流出ピーク。*P<0.05;**P<0.01(n=3)。(E)LPA(20:4)で前処理していない(上図)または前処理した(下図)HT29-CL19A細胞における、アデノシン(ADO)に応答した短絡電流(Isc)の代表的なトレース。(F)Calu-3細胞におけるADOに応答したIsc。(G)単離したマウス腸におけるcAMPに応答したIsc。(H)LPA(20:4)の存在下での単離したマウス腸におけるCFTRを介したピーク電流(%対照)。**P<0.01(n=4)。
【図3】図3A〜3Eは、LPAが、コレラ毒素によって誘導されるCFTR依存性腸液分泌を阻害することを実証する。(A)マウス回腸ループ形成の外科手術。(B)内腔注射後6時間で摘出した回腸ループ。(C)CTXによる内腔注射後6時間の代表的なループ(1〜100μg、上図)。棒グラフ(下図)は平均した回腸ループ重量を示す。**P<0.01;***P<0.001(n=3)。(D)40μM LPA(20:4)を伴わない(上図)または伴う(下図)、1.0μg CTXの内腔注射後6時間の単離したマウス回腸ループ。(E)CTXおよびLPA(20:4)による注射後6時間の回腸ループ重量。*P<0.05;**P<0.01(n=3)。
【図4】図4A〜4Iは、LPA2がNHERF2を介してCFTRと巨大分子複合体を形成すること、およびLPA2特異的ペプチドを用いて複合体を分離するとLPA2を介したCFTR阻害が逆転することを実証した。(A)巨大分子複合体アッセイの説明図。(B)MBP-C-CFTR、GST-NHERF2、およびフラグタグ付加LPA2の巨大分子複合体。(C)MBP-C-CFTR、GST-NHERF2、およびフラグタグ付加LPA2、LPA2-ΔSTL、またはLPA2-L351Aの巨大分子複合体。WT、野生型。(D)LPA2を一時的にトランスフェクトしたBHKまたはBHK-CFTR細胞を、1 mM DSPを用いて架橋し、抗CFTR抗体(NBD-R)を用いて共免疫沈降し、LPA2について探索した。(E)Calu-3細胞溶解物を抗CFTR抗体(R1104)を用いて共免疫沈降し、NHERF2およびLPA2について探索した。(F)Isc測定の前に送達したLPA2特異的ペプチドを伴わない(上図)または伴う(下図)Calu-3細胞におけるADOに応答したIsc。両群における細胞は、ADOによる活性化の前に25μM LPA(20:4)で30分間前処理した。(G)由来するLPA2特異的ペプチドを示す図4FからのCalu-3細胞の免疫蛍光顕微鏡写真(下図)。注記:Calu-3細胞は内因性LPA2を発現する(上図)。(H)LPA2特異的ペプチドの存在下でLPA2に結合するNHERF2。対照と比較して、*P<0.05;**P<0.01(n=3)。(I)CFTR依存性Cl-輸送におけるLPA阻害の模式図。
【図5】その内容物を流す前および流した後の小腸の重量比によって測定するように、CTX誘導性分泌の効果を図示するグラフである。4つの群について測定を行い、割合を算出した:緩衝液のみ、コレラ毒素(CTX)を伴う緩衝液、CTXおよびLPAを伴う緩衝液、ならびにCTXおよびFAP 18:1d9を伴う緩衝液。*P<0.05。
【図6】コレラ毒素(CTX)を伴う緩衝液ならびにCTXおよびFAP 18:1d9を伴う緩衝液に対する腸の重量比および腸の分泌量を図示するグラフである。*P<0.05。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】

【図1F】

【図1G】

【図1H】

【図1I】

【図1J】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図2E】

【図2F】

【図2G】

【図2H】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

【図3E】

【図4A】

【図4B】

【図4C】

【図4D】

【図4E】

【図4F】

【図4G】

【図4H】

【図4I】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
LPA、1つもしくは複数のLPA2受容体アゴニスト、またはそれらの組み合わせを含む治療的有効量の組成物を個体に投与する段階を含む、下痢を処置するまたは予防する方法。
【請求項2】
1つまたは複数のLPA2受容体アゴニストが、リン酸モノデシルエステル、リン酸モノドデシルエステル、リン酸モノデカ-9-エニルエステル、リン酸モノドデカ-9-エニルエステル、リン酸モノテトラデカ-9-エニルエステル、リン酸モノテトラデカ-11-エニルエステル、チオリン酸O-デシルエステル、チオリン酸O-ドデシルエステル、チオリン酸O-テトラデシルエステル、チオリン酸O-ドデカ-9-エニルエステル、チオリン酸O-テトラデカ-9-エニルエステル、チオリン酸O-オクタデカ-9-エニルエステル、(R)-オクタン酸1-オクタノイルオキシメチル-2-チオホスホノオキシ-エチルエステル、(S)-オクタン酸1-オクタノイルオキシメチル-2-チオホスホノオキシ-エチルエステル、(R)-チオリン酸O-(2,3-ビス-オクチルオキシ-プロピル)エステル、モノカリウムチオリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、モノカリウムリン酸O-(2-ヘプタデカ-9,12,15-トリエニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、(2R,4S)モノカリウムチオリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、(2S,4S)モノカリウムチオリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、(2R,4R)モノカリウムチオリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、(2R,4R)モノカリウムリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、(2S,4R)モノカリウムチオリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
組成物が水性担体をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
担体が1つまたは複数の電解質を含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
投与する段階が経口摂取用の組成物を提供することによって実施される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
投与する段階が静脈内投与用の組成物を提供することによって実施される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
投与する段階が下痢症状の発症の前に実施される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
投与する段階が下痢症状の発症の後に実施される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
下痢が細菌感染によって誘導される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
細菌感染が、コレラ菌(Vibrio cholerae)、大腸菌(Escherichia coli)、またはクロストリジウム-ディフィシル(Clostridium difficile)によって引き起こされる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
下痢が免疫炎症反応によって誘導される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
有効量のLPA、1つもしくは複数のLPA2受容体アゴニスト、またはそれらの組み合わせを含む組成物を細胞に接触させる段階を含む、細胞のCFTR活性を阻害する方法。
【請求項13】
組成物が、有効量のLPAを含む食品または栄養補助食品を含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
化合物が、リン酸モノデシルエステル、リン酸モノドデシルエステル、リン酸モノデカ-9-エニルエステル、リン酸モノドデカ-9-エニルエステル、リン酸モノテトラデカ-9-エニルエステル、リン酸モノテトラデカ-11-エニルエステル、チオリン酸O-デシルエステル、チオリン酸O-ドデシルエステル、チオリン酸O-テトラデシルエステル、チオリン酸O-ドデカ-9-エニルエステル、チオリン酸O-テトラデカ-9-エニルエステル、チオリン酸O-オクタデカ-9-エニルエステル、(R)-オクタン酸1-オクタノイルオキシメチル-2-チオホスホノオキシ-エチルエステル、(S)-オクタン酸1-オクタノイルオキシメチル-2-チオホスホノオキシ-エチルエステル、(R)-チオリン酸O-(2,3-ビス-オクチルオキシ-プロピル)エステル、モノカリウムチオリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、モノカリウムリン酸O-(2-ヘプタデカ-9,12,15-トリエニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、(2R,4S)モノカリウムチオリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、(2S,4S)モノカリウムチオリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、(2R,4R)モノカリウムチオリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、(2R,4R)モノカリウムリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、(2S,4R)モノカリウムチオリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、およびそれらの組み合わせの群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項15】
水性担体、1つまたは複数のLPA2受容体アゴニスト、および1つまたは複数の電解質を含む、組成物。
【請求項16】
1つまたは複数のLPA2受容体アゴニストが、リン酸モノデシルエステル、リン酸モノドデシルエステル、リン酸モノデカ-9-エニルエステル、リン酸モノドデカ-9-エニルエステル、リン酸モノテトラデカ-9-エニルエステル、リン酸モノテトラデカ-11-エニルエステル、チオリン酸O-デシルエステル、チオリン酸O-ドデシルエステル、チオリン酸O-テトラデシルエステル、チオリン酸O-ドデカ-9-エニルエステル、チオリン酸O-テトラデカ-9-エニルエステル、チオリン酸O-オクタデカ-9-エニルエステル、(R)-オクタン酸1-オクタノイルオキシメチル-2-チオホスホノオキシ-エチルエステル、(S)-オクタン酸1-オクタノイルオキシメチル-2-チオホスホノオキシ-エチルエステル、(R)-チオリン酸O-(2,3-ビス-オクチルオキシ-プロピル)エステル、モノカリウムチオリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、モノカリウムリン酸O-(2-ヘプタデカ-9,12,15-トリエニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、(2R,4S)モノカリウムチオリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、(2S,4S)モノカリウムチオリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、(2R,4R)モノカリウムチオリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、(2R,4R)モノカリウムリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、(2S,4R)モノカリウムチオリン酸O-(2-ヘプタデカ-9-エニル-(1,3)-ジオキソラン-4-イルメチル)エステル、およびそれらの組み合わせの群より選択される、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
水性担体および1つまたは複数の電解質が食塩水を含む、請求項15記載の組成物。
【請求項18】
水性担体および1つまたは複数の電解質が乳酸リンゲル液を含む、請求項15記載の組成物。
【請求項19】
少なくとも1つの抗生物質をさらに含む、請求項15記載の組成物。

【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−502790(P2009−502790A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−522878(P2008−522878)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【国際出願番号】PCT/US2006/027765
【国際公開番号】WO2007/011905
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(507301165)ザ ユニバーシティー オブ テネシー リサーチ ファウンデーション (5)
【Fターム(参考)】