説明

CPR胸部圧迫モニタ

【課題】胸部圧迫の測定及び指示を行ってCPRの効果的な実施を促進する。
【解決手段】変位検出器は、CPR被救護者の脊椎方向への胸部の変位を示す変位指示信号を生成する。信号発生機構は、胸部に加えられる胸部圧迫力と圧迫の周波数とについて指示するための胸部圧迫指示信号を提供する。CPRを被救護者に対して自動的に行うために、自動コントローラ及び自動圧迫装置が設けられてもよい。自動コントローラは、信号発生機構から胸部圧迫指示信号を受信し、これに従って圧迫の力及び周波数を制御する。システムには、装置の傾斜の程度を示す傾斜補償信号を出力する傾斜センサ機構を備えた傾斜補償器が設けられてもよく、さらに、傾斜補償信号に従って距離値を調整する調整器が設けられてもよい。CPRを実施する間に測定されたECG信号からCPRによって誘発されたアーティファクトを除去するためのECG信号プロセッサが設けられてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心肺機能蘇生法(CPR)の実施を援助するための装置に関する。特に、本発明のある態様は、CPRの試行をモニタリングしてより良いCPRの実施を促進するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の米国特許明細書には、CPRの実施を援助するためのセンサが開示されている。例えば、特許文献1(D'Antonio等)には、力のパラメータに対応する明瞭な出力信号を発生する、CPR装置のための検出システムが開示されている。このCPR装置は、被救護者の胸部にかけられている力を示す信号を利用する。
【0003】
特許文献2(Kelly)には、CPRの実施を援助するための装置が開示されている。この装置は、被救護者の胸部に配置される。圧迫及び血流の速度を確認するために、この装置によって胸部圧迫力がモニタリングされる。この情報は、CPRの適当な実施を促すため、救護者に積極的に提供される。
【0004】
CPRの実施のタイミングを援助する、特許文献3(Ward等)及び特許文献4(Pierce)を含む種々の装置が開示されている。特許文献3には、とりわけ、CPRの結果としての人工循環を向上させるために、患者の食道に使用する嚢(bladder)と共に使用される、心臓ペーシング及び心臓モニター用の電極の組み合わせが開示されている。特許文献4には、被救護者にCPRを実施する際、救護者を助けるためにタイミング及びシーケンスガイダンスを提供する、小型で、携帯でき、コンピュータ制御された装置からなるCPRシーケンサが開示されている。
【0005】
毎年、300,000人以上の心停止の犠牲者がある。1960年に導入された現在のCPR技術では、病院の内外いずれに於いても、ほんの約15%の生存率で、限定的な成功を得ているに過ぎない。また、蘇生技術を改良する重要性はいくら評価しても評価しすぎるということはない。心停止の殆どは心室細動に起因するものであり、この心室細動により心臓は即座に血液の供給を停止する。心室細動を処置するため、心筋を復極させると共に、脈動のリズムを再スタート可能とするように、胸郭に高エネルギーの電気ショックを与えることを含む細動除去が施される。しかしながら、心室細動の開始と最初の細動除去ショックの提供との間に2,3分以上経過すれば、心臓からは代謝基質が奪われて細動除去が不成功となる。
【0006】
CPRの役割は、心臓への酸素化された血液の流れを復帰させて細動除去を行わせることである。CPRのさらなる役割は、脳への酸素化された血液の流れを復帰させて、心臓が再スタート可能となるまでに、脳のダメージを抑制することである。したがって、CPRは、最初の細動除去に失敗した患者又は細動除去の候補者ではない患者等の多くの患者の処置において絶対不可欠である。
【0007】
種々の研究では、心臓の再スタートと心臓の冠血流量のより高いレベルとの間には強い相関関係が示されている。心臓を再スタートするために、最初の細動除去が失敗する(又は必要とされない)ならば、冠血流が提供されなければならない。エピネフリンの使用と共に適切に実施されたCPRにより、脳血流は恐らく通常の30−50%に到達する。しかしながら、心筋の血流はずっと制限されたものになり、すなわち通常の5−20%の範囲に制限される。患者にとって、心臓の再スタートは、圧縮と圧縮の間に得られる、大動脈と右心房との間の圧力勾配(例えば、冠動脈潅流圧)に相関関係があることが示されている。CPRは、正しく処置されると、十分な胸部圧迫力を付与し、十分な冠動脈潅流圧を提供するように設計されている。しかしながら、残念なことに、研究によれば、CPRは、実施時間中の一部のみ、例えば885名の患者について行われた研究によれば約50%の時間のみにおいて正しく実施される。これは、非特許文献1に開示されている。同じ研究によれば、CPRの後に14日にわたって意識がある状態と定義される長期生存率は、正しいCPRを施した患者の16%であるが、より少ない胸部圧迫(p<0.05)のCPRが実施されたとき、ほんの4%である。したがって、正しくCPRを実施することにより生存率を増加させることが可能である。
【0008】
CPRを正しく実施することがCPR被救護者の生存には絶対不可欠なだけではなく、最初の細動除去が不成功であるか又は必要とされないとき、CPRが即座に実施されることが必須となり得る。人を蘇生するのが早ければ早い程、神経機能の保護を伴って長期間生存する見込みが高くなる。心停止の状況下における最初の細動除去の試みにもかかわらず、本来の心臓機能への復帰に失敗したとき、医師の監督下でよりよいCPRを実施可能な望みのある病院に患者を搬送することがしばしば行われる。しかしながら、多くの研究によれば、現場で蘇生されなかった患者が病院で蘇生されて、意味のある神経機能を伴って生存することは滅多にないということが示されている。病院で使用される侵襲性介入、例えば開胸心臓マッサージでさえ、恐らくは搬送中に延期されたスキーマ(schema)によって発生する不可逆的な器官の損傷により、生存率を向上させることに失敗する。
【0009】
米国心臓協会(AHA)が公開したガイドラインには、CPR中の胸部圧迫が、1.5から2インチの深さで、毎分80−100回の速さで行われるべきであると明記されている。CPRの講習課程では、通常、受講者が行う胸部圧迫の量を測定するための装置を組み込んだマネキンが使用される。そして、その受講者は、緊急の状況下であっても同様の胸部圧迫を、フィードバックなしに、圧迫の感覚及び様子に頼りながら行うことになる。フィードバックがないことと、圧迫量の比較的に小さな変化が潅流圧に影響を及ぼし得ることとを理由として、CPRがしばしば誤って実施されることは驚きに値しない。
【0010】
上述のように、種々のタイプの装置が、CPRフィードバックを適用する救護者を助けるために提供されている。しかしながら、これらの装置では、胸部の変位が測定されない。むしろ、実施されたCPRの結果としての圧迫力が測定される。これは、臨床CPRに於いて、異なる患者の胸部に応じた多くの変化があり、例えば、同様な圧迫力が異なる患者において実質的に異なる胸部の変位をもたらすという問題がある。
【0011】
Gruben等は、非特許文献2の論文において、臨床のCPRの実施中に胸部の変位を測定するために位置検出変換器を組み込んだ機械的な連結機構の使用を開示する。しかしながら、この機構には、一般の臨床環境で、例えばセットアップ時の遅れ及び取り扱いのしにくさ等の問題がある。
【0012】
蘇生の進行中において、CPRを実施する医師、医療補助者、及び他のヘルスケアの専門家が、患者の心電図(ECG)における変化、特に心拍リズムの変化を連続的に認識していることはきわめて重要である。心拍リズムの不正確な評価は、不適切な治療処理の実施、又は適切な治療の抑制を引き起こし得る。しかしながら、CPRに於ける胸部圧迫は、測定されたECG信号にアーティファクトをもたらし、その解釈を困難にする。CPRを行っているときのECGの解釈を容易にするために一般に使用されるやや不十分なアプローチは、アーティファクトのないECG取得期間をもうけるために、胸部圧迫を間欠的に停止することである。このアプローチでは問題が発生する。1つには、胸部圧迫が停止したとき、血流力学的なサポートが失われる。また、いったん胸部圧迫が再開されれば、ECGの解釈は困難又は不可能なままとなる。さらに、律動の突然な変化が認識されるまでには、実質的な遅延が生じる可能性がある。さらにまた、心停止からの生存はCPR中に引き起こされる血流に関係することがわかっており、かつ、胸部圧迫の中断が血流を減少させるので、これらの中断によって生存が非常に危うくなる。
【0013】
CPR中に行われる胸部圧迫を中断することなくECGに於ける正しい解釈を可能とするように、CPRによって誘発されてECG信号に出現するアーティファクトを減少させるための手段があれば、CPRの結果は改善される。E.Witherowは、CPRによって誘発されたアーティファクトが、主に、電極の機械的な外乱によって発生した当該電極の半電池電位に於ける変化に起因することを立証する研究を行った。これは、非特許文献3の修士論文に公表され、その内容は特に参考文献としてそっくりそのまま組み入れられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5,589,639号公報。
【特許文献2】米国特許第5,496,257号公報。
【特許文献3】米国特許第5,626,618号公報。
【特許文献4】米国特許第4,863,385号公報。
【特許文献5】米国特許第4,928,674号公報。
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Hoeyweghen et al., "Quality and Efficiency of Bystander CPR", Resuscitation 26 (1993), pp. 47-52。
【非特許文献2】Gruben et al., "Sternal Force-Displacement Relationship During Cardiopulmonary Resuscitation", Journal of Biomedical Engineering, Volume 115 (May 1993), p. 195。
【非特許文献3】E.Witherow, "A Study of the Noise in the ECG During CPR", M.S. thesis, the John Hopkins University (1993)。
【非特許文献4】C. Verplaetse, "Inertial Proprioceptive Device: Self-Motion-Sensing-Toys and Tools", IBM Systems Journal, Vol. 35, Nos. 3 and 4 (1996), pp. 639-650。
【非特許文献5】Jenkins et al., "Spectral Analysis and its Applications", Holden-Day, Oakland, CA (1968)。
【非特許文献6】R. D. Berger, "Analysis of the Cardiovascular Control System Using Broad-Band Stimulation", Ph.D. Thesis, MIT (1987)。
【非特許文献7】L. Ljung et al., "Theory and Practice of Recursive Identification", the MIT Press, Cambridge, Massachusetts (1986)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
CPRの試行をモニタリングすることを目的とし、CPRの正しい実施を手助けすることを目的とし、また、例えば、良好なECG読取り値を得るためにCPRを停止する必要のないように、ECG信号からCPRによって誘発されたアーティファクトを除去することにより、蘇生の試みを成功しやすくすることを目的とする、小型で、携帯可能で、経済的なツールが必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、CPR被救護者の生存率を実質的に改善するために、種々の状況でCPRの適当な実施を援助することを目的として提供される。また、本発明は、CPRの実施と、患者のECGのモニタリング、特に患者の心拍リズムのモニタリングとを同時に行うことを含む蘇生技術を向上するために提供される。この目的を達成するため、後述する1以上の特有な目的及び利点を成し遂げるような本発明の1以上の態様を以下に説明する。
【0018】
本発明の1つの目的は、CPRの効果的な実施を促進するために、胸部圧迫を測定し、また促すためのシステム又は装置を提供することである。
【0019】
他の目的は、CPRを実施する際に胸部圧迫の速度及び深さを正確に測定する携帯型CPR胸部圧迫モニタを提供することである。本発明の一態様では、装置は、正しい圧迫を促す信号を救護者に送る。本発明の目的は、最小限のセットアップ時間だけを必要とし、操作時に直感的に分かり、しかも使いやすい装置を提供することである。その装置は、サイズが小さく、軽量で、しかも製造及び配置が安価であるのが好ましい。
【0020】
本発明の他の態様では、携帯型CPR胸部圧迫モニタは、一体型の細動除去器、及び/又は、データ記憶及び検索構成要素を備える。本発明の他の目的は、携帯型CPR胸部圧迫モニターの支援を受けてCPRを実施すると同時に、CPR被救護者からECG信号を取得するためのシステムを提供すること、また、CPRを停止することなく正確なECG及び心拍リズムの読取りを可能とするために、CPRを行う際にECG信号中に検出される、圧迫によって誘発されるアーティファクトを除去するための装置を提供することである。
【0021】
本発明は、一態様では、救護者によるCPRの効果的な実施を促進するために胸部圧迫を測定し、また促すための(携帯型装置の形をとってもよい)システムとなる。このシステムは、CPR被救護者の脊椎方向へのCPR被救護者の胸部の変位を示す出力信号を生成するための変位検出器を備える。信号発生機構は、圧迫周波数を所望の周波数帯域内に変化させて維持し、かつ、胸部の変位を所望の距離範囲内に変化させて維持するために、胸部に加えられる所定の胸部圧迫力と所定の圧迫周波数とを指示する信号を提供するために設けられている。
【0022】
本発明の態様によれば、変位検出器は、脊椎に対して胸部の動作量を決定するための動作検出器を備える。動作検出器によって生成された出力信号を距離値に変換するために、変換器を設けてもよい。信号発生機構は、前記距離値と所望距離値の範囲とを比較し、かつ、その値が所望距離値の範囲内に収まるか否かに従って胸部圧迫力及び周波数に関する指示信号を送信するための機構を備えてもよい。
【0023】
上述のように提供された携帯型CPR胸部圧迫モニターは、自動胸部圧迫機構と共に使用してもよく、このとき、携帯型CPR胸部圧迫モニターは、自動胸部圧迫機構が被救護者に対して胸部圧迫を行う方法を制御し、これにより、所定の胸部の変位及び圧迫周波数のパラメータに従って被救護者に対して効果的にCPRを実施することができる。そのような携帯型CPR胸部圧迫モニターは、さらにECGモニタと共に用いられてもよい。ECG信号の読取りを容易にするため、特に、CPRを停止することなくCPR被救護者の心拍リズムの読取りを容易にするために、胸部圧迫によって誘発されたアーティファクトをECG信号から除去するか又は抑制するために、ECG信号増加器を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】携帯型CPR胸部圧迫モニターの典型的な実施形態の説明図である。
【図2】シミュレーションのCPR被救護者の胸部に対して手動の圧迫を行うことで生じる信号であって、測定された信号及び計算された信号を比較した波形図である。
【図3】CPR胸部圧迫をモニタリングするための携帯型モジュールの典型的な機構レイアウトの斜視図である。
【図4】図3に示すモジュールの側面図である。
【図5】本発明に係るCPRモニタリング装置の種々の実施形態を利用してCPR被救護者にCPRを実施する救護者を示す。
【図6】本発明に係るCPRモニタリング装置の種々の実施形態を利用してCPR被救護者にCPRを実施する救護者を示す。
【図7】本発明に係るCPRモニタリング装置の種々の実施形態を利用してCPR被救護者にCPRを実施する救護者を示す。
【図8】種々の蘇生援助器具につながれたCPR被救護者を示す。
【図9】検出された加速度信号を変位値に変換するために、図1に示す胸部圧迫モニタによって利用されるプロセスのフローチャートである。
【図10】CPRの実施を受けるCPR被救護者を含むシステムであって、その一方で、CPR被救護者につながれたECGモニタが測定されたECG信号eを生成するシステムのモデルを示す説明図である。
【図11】測定されたECG信号eを、測定されて処理されたECG信号e´に変換するためのモデルを示す。
【図12】各波形a,e,a,e´を示す波形図である。
【図13】患者へのCPRの実施を含み、胸部圧迫をモニタリングし、測定された加速信号を生成し、かつ、測定されたECG信号を生成する他のシステムのモデルを示す。
【図14】システムを識別し、かつ、この識別されたシステムを用いて、測定されて処理されたECG信号、すなわちCPRによって誘発されたアーティファクトを除去するように処理された信号を生成する機構である、本発明の特定の態様に従って提供される機構を示す。
【図15】第1実施形態に係るECG信号プロセッサのブロック図である。
【図16】第2実施形態に係るECG信号プロセッサのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、CPRを実施する間の胸部圧迫の速度および深さを測定するための携帯型CPR胸部圧迫モニタの一つの実施形態の概略図である。図示したモニタ10は、心肺機能蘇生法(CPR)の効果的実施を促進するように胸部圧迫を測定し、かつ促すためのモニタリングシステムの特定の実施例である。このシステムは、変位検出器と信号発生機構とを備える。変位検出器は、CPR被救護者の胸部の脊椎方向への変位を示す変位指示信号を生成して出力する。信号発生機構は、周波数および胸部変位パラメータを所望の範囲内に変化させて維持するように、胸部に加えられる胸部圧迫力と圧迫の周波数とについて指示するための胸部圧迫指示信号を提供する。モニタリングシステムには、装置の傾斜の程度を示す傾斜補償信号を出力する傾斜センサ機構を備えた傾斜補償器をさらに設けてもよい。モニタリングシステムは、出力された傾斜補償信号に従って、測定された加速度信号から計算された変位値を調整する調整器をさらに有していてもよい。
【0026】
図示した実施例では、携帯型CPR圧迫モニタ10が設けられている。それは、インターフェース26を介してマイクロプロセッサ28に接続されている加速度計12を備えた変位検出器を有する。図示したインターフェース26は、パラレルまたはシリアルのインターフェースを備えてもよく、また、これは内部(マイクロプロセッサ28が一つの一体型の一部として設けられている場合)に設けられても、外部(マイクロプロセッサ28が別体の装置として設けられている場合)に設けられてもよい。前記信号発生機構は、インターフェース26を介してマイクロプロセッサ28に接続された入力を有する可聴インジケータ(すなわちスピーカ)18を備えている。直流電圧電源20は、スイッチ22とグラウンドとの間に接続され、上述した加速度計12および可聴インジケータ18を含む図示したモニタ10の種々の構成要素に給電するための直流電圧+Vを供給する。第1ジャイロスコープ24および第2ジャイロスコープ25を有する傾斜補償装置が設けられている。それらは、インターフェース26を介してマイクロプロセッサ28に接続された出力をそれぞれ有する。
【0027】
図示したモニタは可聴インジケータを使用するが、別のタイプのインジケータが追加で、または代替として使用されてもよい。例えば、インジケータは、振動機構や可視インジケータ(例えば点滅するLED)などを備えてもよい。
【0028】
図示したモニタ10は、加速度計12により生成された加速度信号を2回積分することによって胸部の変位を決定する。マイクロプロセッサ28は、加速度信号を2回積分することを含む、図示したモニタ10の種々の機能を実行するために必要な計算を処理するために設けられている。加速度計12は、Analog Devices ADXL05のような高品質で安価な加速度計であるのが好ましい。
【0029】
ADXL05加速度計は、単一モノリシックICに設けられた完全な加速度測定システムを有する。それは、ポリシリコンの表面を有するマイクロマシン構成のセンサと、信号調整回路とを備え、これらの構成要素は力均衡コントロールループを実装する。加速度計は、最大で±5gのレベルまでの正負両方の加速度を測定できる。前記センサは、46個の単位セルと、共通のビーム(common beam)とを有する。単位セルは、独立した複数の固定プレートと、加えられた加速度に応じて移動するメインビームに取り付けられた中央プレートとを有する、差動コンデンサ(differential capacitor)を構成する。これらのプレートは、直列に接続された2つのコンデンサを形成する。センサの固定コンデンサプレートは、2つの1MHzの矩形波により差動的に駆動される。これら2つの矩形波の振幅は等しいが、それらの位相は互いに180度ずれている。静止しているとき、2つのコンデンサの値は同じであり、それゆえ、それらの電気的中心(すなわち中央プレート)での電圧出力はゼロである。加速度が加えられたとき、共通の中央プレートまたは“ビーム”は、固定プレートの一方に接近しかつ他方から離れるように移動する。このことは、2つの静電容量に不一致を生じさせ、その結果、中央プレートで出力信号を生じる。前記出力信号の振幅は、前記センサが受ける加速度の量に応じて変化する。
【0030】
TTL“高”レベル電圧(>+2.0Vdc)を加速度計の自己試験ピンに印加することによりADXL05加速度計で自己試験を開始できる。これにより、チップは、−5g(装置の最大負出力)に相当する量でビームを移動させる偏向電圧(deflection voltage)を当該ビームに印加する。
【0031】
動作中に、圧迫モニタ10の加速度計は、単なる垂直方向だけの移動に限られず種々の方向に移動することになる。換言すれば、モニタ10は、CPRの実施中にCPR被救護者の胸部上で傾くことになり、これにより、加速度計12により示される直線運動が、傾斜によって誘発される非線形運動(non-linear tilt-induced movements)により変えられることになる。したがって、図示した実施形態では、胸部に対する装置の傾斜で誤差を生じることなく、被救護者の脊椎に対する胸部の正確な変位の決定を容易にするために、上述した傾斜センサ機構が設けられている。第1ジャイロスコープ24は、第1水平縦軸の周囲で測定される角速度を示す角速度信号を生成する。第2ジャイロスコープ25は、前記第1水平縦軸と直交して位置する第2水平縦軸の周囲で測定される角速度を示す角速度信号を出力する。これらの角速度信号が積分されて角変位信号が得られ、これらの角変位信号は、測定された直線変位をモニタ10の傾斜について補正するのに使用可能である。
【0032】
第1および第2ジャイロスコープ24,25は、Murata Gyrostar(圧電ジャイロスコープ(ENC05E))で構成されてもよい。この商業的に入手可能なジャイロスコープは、約20×8×5mmの大きさで、カムコーダの映像の安定化のような大量のアプリケーションのために設計されている。このジャイロスコープはコリオリの原理を利用しており、このことは回転座標系(rotational framework)における直線運動がその直線運動に直交する幾らかの力を有することを意味する。コリオリ力は、検出された後、プリズムバーに取り付けられた圧電変換素子により電圧出力に変換される。前記電圧出力は、検出される角速度に比例する。図示した実施形態では、2つのジャイロスコープは、干渉を避けるために僅かに異なる周波数で駆動される。
【0033】
インターフェース26は、シリアルまたはパラレルのインタフェースを備えたことに加えて、A/DおよびD/A変換器をさらに備えてもよく、この場合、変位量を指示して正しい速度(毎分80−100回の圧迫)でCPRを促すための音変換器18を駆動するD/A変換器が含まれる。加速度計12からの出力は、デジタル化と、マイクロプロセッサ28によるその後の解析のために、インターフェース26の一部として設けられたA/D変換器を介して送られる。同様に、第1および第2ジャイロスコープ24,25のそれぞれからの出力は、インターフェース26の一部として設けられたA/D変換器を介してマイクロプロセッサ28に送られる。
【0034】
マイクロプロセッサ28は、モニタ10を含む携帯型一体モジュールの一部として設けられている。あるいは、ラップトップコンピュータのような分離したコンピュータが、図示したモニタ10の(外部インターフェースとして機能する)インターフェース26に接続されて設けられてもよい。
【0035】
加速度計およびジャイロスコープを利用した別のタイプの慣性固有受容装置(Inertial Proprioceptive Device)に関するさらなる情報は、非特許文献4において提供され、その内容はここにおいて完全なる引用により明白に組み込まれている。
【0036】
図2は、シミュレーションの被救護者胸部アセンブリにより生成された信号を示す。このシミュレーションの模造胸部アセンブリは、しっかりと支持されたベースにブロックを連結するスプリングを備えて構成されていた。ブロックを垂直な位置に整列した状態に維持するとともにブロックの垂直移動を容易にするために、シャフトに取り付けたブロックの内部に直線ベアリングが設けてあった。胸部のコンプライアンスに似せてブロックの移動をゆっくりにするために、ダンパーがブロックに連結されていた。ブロックの垂直変位は、位置変換器(LVDT)により測定された。力変換器が、アルミニウムブロックの頂部に取り付けられ、CPRのような圧迫の結果としての出力の力を示す信号を提供した。前記アセンブリは、人間の胸部の粘弾特性によく似せるように、設計されかつ較正された。力変換器は標準重量をもって較正され、変位変換器は定規をもって較正された。加速度計(ANALOG DEVICESR ADXL-05)は適当な付勢およびフィルタリング構成要素によって回路基板に取り付けられ、回路基板はアルミニウムホルダに取り付けられた。加速度計アセンブリが模造胸部上に配置され、手による圧迫が実施された。
【0037】
図2は、模造胸部を手によって圧迫する間の、(LVDTにより測定された)実際の変位と、加速度計アセンブリからの加速度信号を用いて計算された変位との比較を示す。加速度信号は2回積分され、測定された変位および加速度とともに図示した。図示した信号波形は、時間の経過を表す横座標と、ミリメータの変位または加速度gのいずれかの値を表す縦座標とに関して表示されている。図示した波形は、加速度信号30、測定された距離信号(distance signal)32、および計算された距離信号34を含む。図2は、計算された変位と測定された変位の一致度または近似度、特に、重要なパラメータである最大変位の一致度または近似度を示す。
【0038】
図3,4は、例えば図1に示す概略図に従って実装された圧迫モニタ10を有する携帯型モジュールの例示的な機械的構成を示す。図示したモジュール11は、外側フランジ部37を有する円形ベース36を備える。ベース36上には、回路基板38が取り付けられている。回路基板38は、留め具40によりベース36に固定されている。第1および第2ジャイロスコープ24,25、加速度計12、インジケータ18、電源20、およびインターフェース26を含む複数の構成要素が基板38上に直に取り付けられている。
【0039】
図示したモジュールは、直径が約3インチで、高さが約0.5インチである。図3は、回路基板38上に互いに対して直角に取り付けられた第1および第2ジャイロスコープ24,25を示す。第1および第2ジャイロスコープ24,25は、各縦軸のそれぞれの周囲の角速度を測定する。図示した加速度計12は、TO−100パッケージ(10ピン缶)内に収容され、加速度を検出する軸(垂直軸)が回路基板38の平面に直交する。加速度計12は、堅固な取付面を与えるとともに回路基板38との電気的接続を与える直角サポート43に取り付けられている。
【0040】
図5−7は、ここに開示する図示した圧迫モニタ10に関連して利用できる携帯型装置の種々の実装を示す。
【0041】
図5は、被救護者47に対してCPRを実施する救護者46を示す。救護者の手は、被救護者の胸部に対して、適当な位置で接触して置かれている。圧迫モニタ10は、救護者がCPRの間に被救護者の胸部に力を加える位置に近接した位置で、救護者の手首の一方に取り付けられている。図示したモニタ10は、モニタのハウジング部に連結されたマウント(mount)を有する。図示した実施形態では、マウントは、取り外し可能な固定機構、すなわち(図1に示すようなモニタ10の種々の構成要素を収容する)ハウジング部50を救護者の腕(手首)に取り外し可能に固定するバンド48を有する。
【0042】
図6では、圧迫モニタ10は、ハウジング50と、その下に位置させた圧迫力伝達部(translating piece)52とを備え、圧迫力伝達部52は、救護者により所望領域においてCPR被救護者の胸部に対して下向きに加えられる力を、被救護者の脊椎に向かう方向に集中させる。図6に示す携帯型モニタ10は、前記携帯型装置から離れた計算装置(図示せず)に測定された信号を送るためのケーブル44を有していてもよい。あるいは、プロセッサがハウジング50内に一体的に設けられてもよく、その場合にはケーブル44は必要なくなる。
【0043】
図7では、携帯型モニタ10は一つのディスク状ハウジング50を有し、そのハウジングの上に救護者46が手を置く。このように、図6,7に示す圧迫モニタ10のバージョンのそれぞれによれば、救護者46がCPRの間に被救護者の胸部に力を加える位置に近接した位置で、救護者46の手から下向きに作用する力を直接受けるための受け部を、ハウジング50の上部に設けてある。ハウジング50がマイクロプロセッサを既に収容しているかどうかに応じて、ハウジング50内の電気要素を、例えば外部の信号モニタリングシステムまたはコンピュータに接続するための外部ケーブル44を設けてもよい。ECG電極54がECG信号線56およびECGモニタリング装置(図示せず)のそれぞれに接続されている。
【0044】
ECG信号を表示および/または処理するために、図示した圧迫モニタ10内に所定の機構(例えば、それ自体で完備したECGディスプレイ)が設けられてもよく、したがって、その場合にはECG信号線56が圧迫モニタ10に接続されてもよい。
【0045】
動作中に、図5−7に示す実施形態のいずれかの図示した圧迫モニタ10は、被救護者の脊椎方向への被救護者の胸部の変位を示す変位指示信号を生成することによりCPRの効果的実施を促進することになる。具体的には、装置10内に設けた可聴インジケータは、適正な胸部変位が達成されたときを示すために変調される。すなわち、所望の範囲内の胸部変位が救護者46により達成されたとき、可聴インジケータは第1ピッチを有する変調信号を出力することになり、一方、変位が前記範囲外であれば、変調信号の周波数は第2ピッチになる。可聴な指示信号の振幅は、胸部圧迫の所望の周波数に一致するようにパルス化されてもよい。あるいは、可聴インジケータは、適当な信号処理構成要素と共に、救護者に対することばの指示、すなわち救護者に対する音声指示を提供できる。あるいは、適当な速度で圧迫するようにユーザに促すためにビープ音を発する音変換器を設けてもよい。
【0046】
図8は、被救護者にCPRを自動的に実施するための自動圧迫装置59を含む、種々の蘇生補助装置に接続されたCPR被救護者を示す。より具体的には、自動圧迫装置59は、所望の胸部圧迫周波数で被救護者の脊椎に向かう方向に所望の胸部変位を生じさせるために、被救護者の胸部に対して内方径方向の力を加える。
【0047】
被救護者に接続される追加の装置は、エアーチューブ60に連結された換気マスク58と、ECG電極及びこれに対応するECG信号線56と、細動除去電極62と、CPR胸部圧迫モニタ10´とを含み、CPR胸部圧迫モニタ10´は、検出された加速度信号を含む、それにより生成された信号を伝送するためのケーブル44に接続される。
【0048】
全体のアセンブリは、自動化された方法で被救護者47の蘇生を促進する。このような構成は、例えば被救護者が救急車で搬送されている場合を含む種々の状況において特に有効である。被救護者が搬送される間も蘇生の試みが継続されることになれば、被救護者を病院に搬送する間にできるだけ早く蘇生の試みを行うことにより助かる可能性が増加する。
【0049】
図示するように、被救護者は換気マスク58を含む換気装置に接続され、これにより呼吸の試行を実施することを可能にする。ECGモニタ装置(図示せず)に接続されたECG信号線56によって患者の心電図および関連する心拍リズム情報をモニタリングすることができる。CPRは、自動圧迫装置59により自動的に実施可能である。細動除去装置(図示せず)に細動除去線64を介して接続された細動除去電極62の使用により、適切なタイミングで細動除去を実施できる。自動圧迫装置59は圧迫モニタ10´により生成される信号によって制御可能であり、これにより適当な圧迫力を適当な周波数で被救護者の胸部に加えることができる。
【0050】
また、圧迫モニタ10´により生成された加速度信号は、ケーブル44を介して読み出すことができ、CPRの実施と同時に、ECG信号線56を介して得られるECG信号を処理するために使用可能である。より具体的には、CPRが実施されるとき、ECG信号はその影響を受けて、CPRによって誘発されたアーティファクト(CPR-induced artifact)を含む可能性がある。ECG信号を処理するためにECGプロセッサ(詳細後述)が設けられてもよく、これにより、CPRによって誘発されたアーティファクトが除去され、結果として得られる処理されたECG信号を、意味があり、かつ、理解可能なものにする。
【0051】
自動圧迫装置59は、例えば、Dr. Henry Halperinの名前で本出願と同時かつ同日に出願され、本願と共通の譲受人に譲渡された同時係属特許出願に開示されるCPRベスト装置(CPR vest apparatus)を備えていてもよく、または、特許文献5(Halperin等)に開示されるような自動CPRシステム(Automated CPR system)を備えていてもよい。これら各文献の内容は、ここにおいて完全なる引用により明白に組み込まれている。
【0052】
図8に示すアセンブリでは、自動圧迫装置とともに自動圧迫コントローラ(図示せず)が設けられ、前記自動圧迫コントローラの制御の下で被救護者47の胸部に圧迫力を加えることにより被救護者S47に対してCPRが実施される。自動圧迫コントローラは、圧迫モニタ10´から胸部圧迫指示信号を受信し、その胸部圧迫指示信号に従って、CPR被救護者の胸部に加えられる圧迫の力および周波数を制御する。
【0053】
図9は、図1に示す圧迫モニタ10により生成された加速度信号および傾斜信号を変位指示信号に変換するとともに前記変換を較正する処理を示すフローチャートである。図示した処理は、例えば、図1に示す実施形態におけるマイクロプロセッサ28により実行されてもよい。
【0054】
最初のステップS2では、加速度信号が直線変位xに変換される。そして、ステップS4では、第1および第2ジャイロスコープ24,25のそれぞれにより出力された角速度信号が角変位θおよびθにそれぞれ変換される。ステップS6では、前記変位xが傾斜について補償され、これにより、傾斜について補償された直線変位値xが生成され、この値はx+a×θ+b×θに等しい。
【0055】
各胸部圧迫サイクル(通常600−700ms)の間に、装置は2度すなわち圧迫の頂点と底で静止することになる。これら2つの時点は、垂直加速度が0になるとともに速度の方向の変化があるので容易に特定できる。したがって、ステップS8で、装置が頂点または底にあるかどうかについて決定がなされる。もしそうであれば、ステップS10で直線変位変換が較正される。もしそうでなければ、処理はステップS2に戻る。ステップS10で直線変位変換を較正する際に、休止点で測定を行うことにより、システムを再較正して、加速度を直線変位xに変換するのに利用される(後述の)等式から成分v,xを消去する。
【0056】
(加速度計からの)加速度信号を直線変位に変換するためのアルゴリズム、および(ジャイロスコープからの)角速度信号を角変位に変換するためのアルゴリズムはよく知られている。一般に、慣性航法システムは、並進運動および回転運動のための基本運動方程式から位置と向き(orientation)を決定できる。ある物体について、各時間ステップ(time step)tにおいて回転速度wが検出された場合、当該物体の向きは、次式(1)によって与えられる。
【0057】
(1) θ=θ+wt
ここで、θは方向角度に等しく、tは時間ステップに等しく、wはジャイロスコープにより出力された回転速度である。
【0058】
同様に、位置は並進運動の運動方程式により見出される。
(2) x=x+v×t+(0.5)a×t
ここで、xは位置に等しく、vは速度に等しく、aは加速度計により出力された加速度に等しい。
【0059】
等式(1),(2)により運動と位置を推定できる。あるいは、カルマンフィルタ状態推定アルゴリズムを用いて運動および位置を推定してもよい。システムの時間依存の運動および位置がいったん推定されると、ニューラルネットワーク、隠れマルコフモデル(hidden Markov model)、または整合フィルタ(matched filter)のようなパターン認識スキームが、その運動データを使って実行されてもよい。真の垂直変位x´は、一つの並進(translational)変位と2つの角変位x,θ,θの組合せとして推定されてもよい。垂直から±30度の予想される角偏差範囲内では、以下の簡単な等式(3)が成り立つことが期待される。
(3) x=x+a×θ+b×θ
【0060】
係数a,bは、最良の線形あてはめの方法(linear fit methods)と、より複雑な非線形モデルとのうちの適当なものを使って経験的に決定されてもよい。
【0061】
熱ドリフト(thermal drift)が一要因である場合には、温度補償のために追加の回路構成を圧迫モニタの一部として設けてもよい。
【0062】
蘇生が進行中である間、ヘルスケア担当者が患者のECGの変化、特に患者の心拍リズムの変化を連続的に認識していることがきわめて重要である。心拍リズムの不正確な評価は、不適当な治療につながり得る。しかしながら、CPRが実施されるとき、測定されるECG信号には、CPRによって誘発されたアーティファクトが存在することになり、これは解釈を難しくする。図10−16は、この問題に対処するための種々のシステムモデル、解析波形図、および提案されるECG処理の実施形態を示す。
【0063】
図10に示すように、例えばECG信号線56上で得られる測定されたECG信号eは、真のECG信号eと真のCPRノイズ信号a(CPRによって誘発されたアーティファクト)との合計に等しいと仮定できる。本発明の目的は、測定されたECG信号eが入力されるサブシステムであって、CPRによって誘発されたアーティファクトを含まない、測定されて処理されたECG信号e´を出力するサブシステムを提供することにある。
【0064】
CPRによって誘発されたアーティファクトを除去するための最初の方法として、図11に示すような帯域通過フィルタ66が使用されてもよい。この方法では、測定されたECG信号eは、真のECG信号eとCPRノイズの重ね合わせとして見られる。フィルタ66は、アーティファクトをできるだけ抑えながら、できるだけ多くのECG信号を選択的に保つ。この方法による問題は、CPRによって誘発されたアーティファクトから真のECG信号を分離するのが、それら各信号の成分が周波数領域の同じ部分に同時に存在するので困難であるということにある。
【0065】
図12は、CPRに影響されたECG信号の処理に関係のある幾つかの波形を示す。最初の波形aは、CPRによって誘発されたアーティファクトを“表す”測定可能な信号を表す。その信号は、力、加速度、距離、速度、運動、またはベスト(vest)の信号で構成されてもよく、これらのうちのそれぞれは、CPRによって誘発されたアーティファクトに係る何らかの様相を表す。図示した実施形態では、信号aは、図1に示す装置の加速度計12により生成された加速度信号からなる。
【0066】
次の波形は、CPRの実施中に測定された測定ECG信号eである。さらに次の波形aは、予測されるアーティファクトである。最後の波形e´は、CPRによって誘発されたアーティファクトを除去するように処理されている、測定されて処理されたECG信号である。図12に示す測定されて処理されたECG信号e´は、後述するような線形予測フィルタリング(linear predictive filtering)を用いて生成された。
【0067】
真のECG信号eとアーティファクト成分aが時間領域および周波数領域の両方で重なっているとき、前記アーティファクトに相関する別個の信号が利用できるのであれば、真のECG信号eとアーティファクト成分aとを区別することはなお可能である。測定されたECG信号eを生じさせるシステムは、真のECG信号eとアーティファクト波形aとの合計としてモデル化される。このモデルを図13に示す。真のCPRノイズ信号aは、測定可能な入力aにより乱される線形システムHの出力として処理される。
【0068】
ここに開示する実施形態による線形予測フィルタリングの目的は、加速度信号aを、測定されたECG信号e内のアーティファクト成分すなわちaからなる波形に変換する線形システムHを特定する(identify)ことにある。このシステムが特定されれば、入力として加速度信号aを用いてシミュレーションのシステムHの出力aをとることにより、線形予測フィルタリングを用いてアーティファクト成分を予想することができる。この線形予測信号aを測定されたECG信号eから減算したときに結果として得られる信号が、処理されたECG信号e´として図14のシステムの出力において示した、推定された真のECG信号である。
【0069】
図15は、図14の実施形態に示すシステム特定プロセス(system identification process)70の特定の例示の実施形態を示す。このシステム特定ブロック70は、相関する信号入力a86と相関しない信号入力e88を有する。相関する信号入力86は、第1のFFT76に入力される一方、相関しない信号入力88は第2のFFT78を介して入力される。第1のFFT76の出力は、自己スペクトル計算機80と、クロススペクトル(cross-spectrum)計算機82とに入力される。第2のFFT78の出力は、クロススペクトル計算機82に入力される。
【0070】
第1のFFT76の出力は、測定された信号aの周波数領域表現であり、第2のFFT78の出力は、測定されたECG信号eの周波数領域表現である。自己スペクトル計算機80は、入力信号の自己スペクトルSAAを出力する一方、クロススペクトル82は、観測された入力信号および出力信号の間のクロススペクトルSAEを出力する。これらは、例えば、非特許文献5及び6で開示されるようなフーリエ変換技術を用いて計算可能であり、これらの文献の内容はここにおいて完全なる引用により明白に組み込まれている。
【0071】
それから、入力信号の自己スペクトルSAAは、複素除算器(complex divider)84の分母入力に入力される一方、(観測された入力信号および出力信号の間の)クロススペクトルSAEは、前記除算器84の分子入力に入力される。除算器84は、その入力信号に対して複素除算を実行することにより、その出力90において、推定される伝達関数(transfer function)Hの複素表現を生成する。伝達関数Hは、加速度計により出力された加速度信号や測定されたECG信号を含んでもよい入力信号の新しい短いセグメントから周期的に更新可能である。図14に示すシステムにより出力される、処理されたECG信号e´は、重ね合わせおよび加算の技術を利用して生成される。
【0072】
線形システムであるシステムHに代えて、測定されたECG信号からCPRによって誘発されたアーティファクトを減ずるために非線形システムが代わりに使用されてもよい。
【0073】
図14,15に示すシステムに代えて、逐次最小二乗(RLS)サブシステム90が図16に示すように設けられてもよい。
【0074】
逐次最小二乗法によれば、新しいデータサンプルがサブシステムの入力のそれぞれに入力される毎に、逐次モデルが処理の進行とともに変更される。図16に示すようなRLSサブシステムをつくるために逐次最小二乗法を利用する技術は、その技術分野において公知である。例えば、非特許文献7を参照してもよく、その文献の内容はここにおいて完全なる引用により明白に組み込まれている。
【0075】
以下は、RSLサブシステムを使用するための基礎を形成することができる例示のプログラムリストである。
ここで、xは入力(加速度)、yは測定される出力、zは予測される出力である。
【0076】















【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は例示の実施形態の方法で説明されてきたが、ここで使用されている言葉は、限定の言葉ではなく説明の言葉であると理解される。そのより広い態様において本発明の範囲および精神から逸脱することなく、添付の請求の範囲の範囲内で変更がなされてもよい。本発明はここにおいて特定の構造、材料、および実施形態を参照して説明されてきたが、本発明は説明された特定のものに限定されない。むしろ、本発明はすべての適当な均等の構造、機構および用途に広がる。
【符号の説明】
【0078】
10…携帯型CPR圧迫モニタ、
12…加速度計、
18…可聴インジケータ、
24,25…ジャイロスコープ、
26…インターフェース、
28…マイクロプロセッサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心肺機能蘇生法(CPR)の効果的な実施を促進するために胸部圧迫の測定及び指示を行うシステムであって、
CPR被救護者の脊椎方向への胸部の変位を示す変位指示信号を生成する変位検出器と、
圧迫周波数を所望の周波数帯域内に変化させて維持し、かつ、胸部の変位を所望の距離範囲内に変化させて維持するために、上記胸部に加えられる所定の胸部圧迫力と所定の圧迫周波数とを指示する胸部圧迫指示信号を提供する信号発生機構とを備えたシステム。
【請求項2】
上記システムは、
自動コントローラと、
上記自動コントローラの制御下で上記CPR被救護者の胸部に圧迫力を加えることにより被救護者にCPRを実施する自動圧迫装置とをさらに備え、
上記自動コントローラは、上記信号発生機構から上記胸部圧迫指示信号を受信し、上記胸部圧迫指示信号に従って上記CPR被救護者の胸部に加えられる圧迫の力および周波数を制御する請求項1記載のシステム。
【請求項3】
上記変位検出器は、動作信号を生成する動作検出器を備え、
上記システムは、上記動作信号を距離値に変換する変換器をさらに備え、
上記信号発生機構は、上記距離値を所望範囲と比較する比較器を備えた請求項1記載のシステム。
【請求項4】
上記動作検出器は、測定された加速度信号を生成する加速度計を備え、
上記変換器は、上記加速度信号を直線変位値に変換する積分器を備えた請求項3記載のシステム。
【請求項5】
上記システムは、
装置の傾斜の程度を示す傾斜補償信号を出力する傾斜センサ機構を備えた傾斜補償器と、
上記傾斜補償信号に従って上記距離値を調整する調整器とをさらに備えた請求項4記載のシステム。
【請求項6】
上記システムは、上記変位検出器を少なくとも備える携帯型装置を備えた請求項1記載のシステム。
【請求項7】
上記携帯型装置は、ハウジング部に連結されたマウントを備え、
上記マウントは、救護者がCPRを実施する間に上記CPR被救護者の胸部に力を作用させる位置に最も近い上記救護者の腕に上記ハウジング部を取り外し可能に固定するための取り外し可能な固定機構を備えた請求項6記載のシステム。
【請求項8】
上記携帯型装置は、救護者がCPRを実施する間に上記CPR被救護者の胸部に力を作用させる位置に最も近い上記救護者の手からの下向きに作用する力を直に受けるための、救護者の手の受け部を備えた請求項1記載のシステム。
【請求項9】
上記携帯型装置は胸部接触部をさらに備え、
上記救護者の手の受け部は、上記救護者の手からの下向きに作用する力を上記胸部接触部に伝え、これによりCPRを実施する間に上記胸部接触部は上記CPR被救護者の胸部に上記伝えられた力を作用させる請求項8記載のシステム。
【請求項10】
救護者がCPR被救護者にCPRを実施する間におけるCPR被救護者の脊椎方向へのCPR被救護者の胸部の動作を示す、測定された動作信号を受信する第1入力と、
CPRを実施する間における測定されたECG信号を受信する第2入力と、
上記測定された動作信号および上記測定されたECG信号を受信し、上記測定されたECG信号に含まれるCPRによって誘発されたアーティファクトを特定するCPR誘発アーティファクト特定器と、
上記測定されたECG信号から上記CPRによって誘発されたアーティファクトを除去することにより、処理されたECG信号を生成するCPR誘発アーティファクト除去器とを備えたECG信号プロセッサ。
【請求項11】
上記CPR誘発アーティファクト特定器は、推定される線形システムHを特定するシステム特定器を備えた請求項10記載のECG信号プロセッサ。
【請求項12】
心肺機能蘇生法(CPR)の効果的な実施を促進するために胸部圧迫の測定及び指示を行う方法であって、
CPR被救護者の脊椎方向への胸部の変位を示す変位指示信号を生成することと、
圧迫周波数を所望の周波数帯域内に変化させて維持し、かつ、胸部の変位を所望の距離範囲内に変化させて維持するために、上記胸部に加えられる所定の胸部圧迫力と所定の圧迫周波数とを指示する胸部圧迫指示信号を提供することとを含む方法。
【請求項13】
上記方法は、
自動コントローラと、上記自動コントローラの制御下でCPR被救護者の胸部に圧迫力を加えることにより被救護者にCPRを実施する自動圧迫装置とを用いることと、
上記自動コントローラにおいて上記胸部圧迫指示信号を受信することと、
上記胸部圧迫指示信号に従って上記CPR被救護者の胸部に加えられる圧迫の力および周波数を上記自動コントローラを用いて制御することとを含む請求項12記載の方法。
【請求項14】
上記変位指示信号を生成することは、
動作信号を生成する動作検出器を使用することと、
上記動作信号を距離値に変換することと、
上記距離値を所望の範囲と比較することとを含む請求項12記載の方法。
【請求項15】
上記動作信号を生成することは、測定された加速度信号を生成することを含み、
上記変換することは、上記加速度信号を積分して直線変位値を生成することを含む請求項14記載の方法。
【請求項16】
上記方法は、
上記動作検出器の傾斜の程度を示す傾斜補償信号を生成することと、
上記傾斜補償信号に従って上記距離値を調整することとをさらに含む請求項15記載の方法。
【請求項17】
救護者がCPR被救護者にCPRを実施する間におけるCPR被救護者の脊椎方向へのCPR被救護者の胸部の動作を示す、測定された動作信号を受信することと、
CPRを実施する間における測定されたECG信号を受信することと、
上記測定された動作信号および上記測定されたECG信号を受信し、上記測定されたECG信号に含まれるCPRによって誘発されたアーティファクトを特定することと、
上記測定されたECG信号から上記CPRによって誘発されたアーティファクトを除去することにより、処理されたECG信号を生成することとを含むECG信号処理方法。
【請求項18】
上記CPRによって誘発されたアーティファクトの特定は、推定される線形システムHを特定することを含む請求項17記載のECG信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−156371(P2011−156371A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−60387(P2011−60387)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【分割の表示】特願2009−203659(P2009−203659)の分割
【原出願日】平成11年11月8日(1999.11.8)
【出願人】(500087017)ゾール・サーキュレイション・インコーポレイテッド (13)
【氏名又は名称原語表記】Zoll Circulation, Inc.
【Fターム(参考)】