説明

CRD及びSRDを用いた代謝フラックスの解析方法

本発明はCRD及びSRDを用いた代謝フラックスの解析方法に係り、さらに詳しくは、特定の対象生物を選定して代謝回路モデルを構築した後、特定の代謝フラックス間の相関を確認してその割合をCRD及びSRDにより定義し、代謝フラックスの測定実験を通じて代謝フラックス間の相関比を決定して、前記決定されたCRD、SRD及び相関比を元に化学量論マトリックスを修正した後、これを線形計画法のための代謝ネットワークモデルに適用する代謝フラックスの解析方法に関する。
本発明によれば、ゲノムレベルの代謝回路モデルが構築された対象生物(大腸菌含み)において、放射線同位元素で標識された炭素源を用いた成長実験及び酵素反応速度測定などの種々の実験から得られた有用な情報を用いて、特定の代謝産物を基準として流入または流出される代謝フラックス間の相関を相対比率により求めることができるため、種々の実験からの制限値を効率よく適用して、より正確で且つ高速にて内部代謝フラックスを定量化、解析することができて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCRD及びSRDを用いた代謝フラックスの解析方法に係り、さらに詳しくは、特定の対象生物を選定して代謝回路モデルを構築した後、特定の代謝フラックス間の相関を確認してその比をCRD及びSRDにより定義し、代謝フラックスの測定実験を通じて代謝フラックス間の相関比を決定して、前記決定されたCRD、SRD及び相関比を基に化学量論マトリックスを修正した後、これを線形計画法のための代謝ネットワークモデルに適用する代謝フラックスの解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代謝フラックス研究は、遺伝子組換え技術と関連分子生物学技術を用いて新たな代謝回路を導入したり、既存の代謝回路を除去・増幅または変更させて細胞や菌株の代謝特性を所望の方向に切り替えるのに必要となる様々な情報を提供する。この種の代謝フラックス研究は、既存の代謝産物の過量生産、新規な代謝産物の生産、非所望の代謝産物の生産阻害、安い基質の利用など生物工学全般の内容を含んでいる。これと共に新たに開発されて増大する生物情報学の支援により多種のゲノム情報から各代謝ネットワークモデルの構築が可能になっている。この代謝ネットワーク情報及び代謝フラックスの解析技術間の結合を通じて、現在、様々な1次代謝産物及び有用たんぱく質の生産はその産業的な応用可能性を示している(Hong et al., Biotech. Bioeng., 83:854, 2003; US 2002/0168654, Price et al., Nat. Rev. Microbiol.,2:886, 2004)。
【0003】
一般に、細胞代謝を解析する数学的なモデルのうち単純な生化学反応式の係数だけを考慮した上での静的モデルを用いた方法は、大きく、2種類の方法、すなわち、線形計画法に基づく方法と、非線形計画法を用いた代謝フラックスの解析方法とに大別できる。線形計画法を用いた方法は、利用が容易であって計算過程が簡単であるとはいえ、入力可能な制限値の数が少なくて正確な結果値の導出が不可能であり、非線形計画法を用いた方法は多数の制限値を用いることができることからより正確な結果値の導出が可能であるとはいえ、極めて複雑な計算過程及び簡単ではない実験過程が必要であり、また、計算をするために長時間かかるという不都合を有している(Varma et al., Bio-Technol., 12:994, 1994; Nielsen et al., Bioreaction Engineering Principles, Plenum Press, 1994; Lee et al., Metabolic Engineering, Marcel Dekker, 1999; K. Shimizu, Biotechnol. Bioprocess Eng., 7:237, 2002)。
【0004】
代謝フラックス解析は、代謝反応式の係数と様々な代謝産物の生産及び消耗量を測定することにより、内部の代謝フラックスの変化を捉える技術であって、準定常状態を想定してなされたものである。すなわち、外部の環境変化による内部の代謝産物濃度の変化は極めて即時的であるため、一般にこの変化を無視して内部の代謝産物の濃度が変化しないと仮定するのである。
【0005】
あらゆる代謝物質、代謝経路及び経路における化学量論マトリックス(stoichiometric matrix)(Sij、metabolite i in the j reaction)が既知であれば、代謝フラックスベクトル(v、flux of j pathway)を計算することができるが、代謝産物Xの経時変化はあらゆる代謝反応の流量の和として表わすことができる。なお、Xの経時変化量が一定であるとすれば、すなわち、準定常状態の仮定下において、下記の式により定義される。
【数1】

【0006】
しかしながら、経路だけが既知であり、量論値(stoichiometric value for each metabolite and pathway)及び代謝フラックス(v)が部分的に既知である場合が多く、上記の式は下記のように拡張される。
【数2】

【0007】
式中、実験的に知られている量論値(S(I×M)、I=total metabolite number、M=total stoichiometrically-known reaction number)と流量(v(M×I))との内積により定義された行列と、既知ではない量論値(S(I×M))と流量(v(M×I))との積により定義された行列と、に分離される。このとき、mは測定値、uは測定不可値に対する下付き字である。
【0008】
ここで、既知ではない流量ベクトル(S)のrank(S)がuに等しい場合、すなわち、方程式と変数の数が同じであれば、単純な行列計算により流量が求められる。但し、既知ではない流量ベクトル(S)のrank(S)がuよりも大きな場合、すなわち、重なり合う方程式が存在する場合には、より正確な値の計算のために全体の方程式の一貫性と、代謝フラックスの測定値に対する正確度および準定常状態の妥当性の検証作業が行われ、この後、直ちにパラメータ推定近似法などの非線形計画法を用いて代謝フラックス値を求めることができる。
【0009】
もし、方程式よりも変数の数が大きければ、特定の代謝反応の流量値は特定の範囲に限定可能になり、複数の物理化学的な制限式と特定の目的関数を利用する線形計画法により最適な代謝フラックス分布を求めることができる。これは、下記により計算することができる。
【数3】

ここで、cは重み付け値であり、vは代謝フラックスである。
【0010】
一般に、生体造成速度(biomass formation rate)、すなわち、比成長速度(specific growth rate)の最大化、代謝産物生産の最大化、副産物生産の最小化などが目的関数として使われている。αmax、i及びαmin、iは各代謝フラックスが有しうる制限値であって、各代謝フラックスが許容する最小値と最大値を指定することができる。このような線形計画法に基づく細胞内代謝フラックスの解析技術は種々の情報を提供することから極めて有用であるが、ほとんどの場合、実際の代謝フラックスネットワークモデルは変数が式の数よりも遥かに多い場合であり、これにより、内部の代謝フラックス値に対して単一値を提供することができないという欠点を有する。
【0011】
これにより、近年、放射線同位元素で標識された炭素源を用いた細胞成長実験から主な代謝産物の同位元素含有量をGCMS(Gas chromatography-mass spectrometry)により測定してこれを追加的な制限値として用いて細胞内代謝フラックスを解析する技術が開発されている。同位体分子種分析(Isotopomer analysis)と呼ばれるこの技術は、非線形計画法に基づいて計算され、主な代謝フラックスネットワークに対して実際の現状の代謝フラックス分布を提供するというメリットを有する。しかしながら、この方法は非線形計画法に基づくものであるため、その計算過程が極めて複雑であり、ユーザーの使い勝手が悪いという不都合があり、その複雑性及び実験的な数値の領域及び個数の制限のために解糖(glycolysis)、ペントフォスフェイト回路(pentosphosphate pathway)、TCA、アナプレロティック回路(anaplerotic pathway)、いくつかのアミノ酸合成回路(aminoacid synthetic pathway)をはじめとする小さなスケールのモデルにおいてのみ計算が可能になるという欠点を有している(M. M, et al., Biotechnol. Bioeng. 66:86,1999; K. Shimizu, Biotechnol. Bioprocess Eng. 7:237, 2002)。
【0012】
そこで、本発明者らはより正確で且つ容易に代謝フラックスを解析するために鋭意努力した結果、対象生物の代謝ネットワークモデルにおいて、放射線同位元素で標識された炭素源を用いた成長実験及び酵素反応速度の測定などの様々な実験データから特定の代謝フラックス間の相関比を求め、これを仮想代謝産物を用いて化学量論マトリックスに適用して線形計画法に基づく代謝フラックスを解析することにより、正確で且つ迅速な結果値が得られることを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の詳細な説明】
【0013】
《技術的課題》
本発明の目的は、特定の対象生物を選定して代謝回路モデルを構築した後、特定の代謝フラックス間の相関比をCRD及びSRDにより定義し、代謝フラックスの測定実験を通じて代謝フラックス間の相関比を決定して化学量論マトリックスに適用し、これを基に、線形計画法に基づく代謝回路全体の代謝フラックスのプロファイルを作成するステップを含む代謝フラックスの解析方法を提供することである。
【技術的解決方法】
【0014】
本発明の他の目的は、前記ステップを含む大腸菌の代謝フラックスの解析方法を提供することである。
【0015】
前記目的を達成するために、本発明は、(a)全体の代謝フラックスを測定しようとする対象生物(但し、ヒトを除く。)を選定し、選定された生物の代謝回路モデルを構築するステップと、(b)前記ステップ(a)における代謝回路モデルにおいて特定の代謝フラックス間の相関を確認して、特定の代謝フラックス間の相関比をCRD(Converging Ratio Determinant)及びSRD(Split Ratio Determinant)により定義するステップと、(c)前記選定された生物の代謝フラックスの測定実験を行い、その実験結果から前記ステップ(b)における相関比、CRD及びSRDを決定して補正するステップと、(d)前記特定の代謝フラックス間の仮想代謝産物を設定するステップと、(e)前記ステップ(d)における仮想代謝産物を用いて線形方程式を解くための化学量論マトリックスに、前記ステップ(c)における補正された相関比、CRD及びSRDを適用して追加の方程式を決定し、決定された追加の方程式を前記化学量論マトリックスに適用して修正するステップと、(f)前記ステップ(e)において修正された化学量論マトリックスを用いて、線形計画法に基づく代謝回路全体の代謝フラックスの最適値及びプロファイルを作成するステップと、を含む対象生物の代謝フラックスの解析方法を提供する。
【0016】
本発明において、前記対象生物は微生物であることを特徴とする。
【0017】
また、前記ステップ(b)における特定の代謝フラックス間の相関比は、下記の式1及び2を用いてCRD及びSRDにより定義することを特徴とする。
【数4】

【数5】

ここで、fは対象の特定の代謝フラックスpの相関比であり、fは対象の特定の代謝フラックスqの相関比であり、Cは合流点(converging pathways)における対象の特定の代謝フラックスqに対するCRDであり、Dは分岐点(split pathways)における対象の特定の代謝フラックスvに対するSRDである(但し、

ここで、Pは全ての分岐点または合流点である。)。
【0018】
また、前記ステップ(c)における前記代謝フラックスの測定実験は、放射線同位元素で標識された炭素源を用いた成長実験、酵素反応速度の測定実験、または放射線同位元素で標識された炭素源を用いた成長実験及び酵素反応速度の測定実験であることを特徴とする。
【0019】
さらに、前記ステップ(d)における仮想代謝産物は、下記の式3を用いて設定することを特徴とする。
【数6】

ここで、

は合流点におけるCRDのための仮想代謝産物であり、

は分岐点におけるSRDのための仮想代謝産物であり、inputMarfは仮想代謝産物Mに流れ込む代謝フラックスの総和、outputMarfは仮想代謝産物Mから流れ出る代謝フラックスの総和、v及びvは代謝フラックスp及びqの代謝フラックス速度であり、Cは特定の代謝フラックスqに対するCRDであり、Dは特定の代謝フラックスvに対するSRDである。
【0020】
また、前記ステップ(e)における修正前の化学量論マトリックスは、下記のように表わされることを特徴とする。
【数7】

【0021】
さらに、前記ステップ(e)における修正後の化学量論マトリックスは、下記のように表わされることを特徴とする。
【数8】

【0022】
さらに、前記(f)ステップにおける全体の代謝フラックスの最適値及びプロファイルは、下記の式4を用いて作成することを特徴とする。
【数9】

ここで、Sijはj番目の反応におけるi番目の代謝産物の化学量論係数であり、vはj経路の代謝フラックスベクトルであり、Iは全ての代謝産物の組であり、Jは全ての経路の代謝フラックスの組であり、Eは全ての外部流入/出代謝フラックスの組であり、cはj経路の代謝フラックスに対する重み付け値であり、bはi番目の代謝産物の純粋な輸送流量であり、l、uはi番目の代謝産物の純粋な輸送流量、α、βはj経路の代謝フラックスが有しうる制限値である。
【0023】
また、本発明は、前記方法により作成された代謝回路全体の代謝フラックスの最適値及びプロファイルを用いることを特徴とする有用物質の生産性向上のための増幅または欠失対象遺伝子をスクリーニングする方法を提供する。
【0024】
さらに、本発明は、前記スクリーニングされた増幅または欠失対象遺伝子を当該生物において増幅または欠失させることを特徴とする有用物質を生産する生物の改良方法を提供する。
【0025】
さらに、本発明は、(a)大腸菌の代謝回路モデルを構築するステップと、(b)前記ステップ(a)における代謝回路モデルにおいて特定の代謝フラックス間の相関を確認して、特定の代謝フラックス間の相関比をCRD(Converging Ratio Determinant)及びSRD(Split Ratio Determinant)により定義するステップと、(c)前記大腸菌を対象として代謝フラックス測定実験を行い、その実験結果から前記ステップ(b)における相関比、CRD及びSRDを決定して補正するステップと、(d)前記特定の代謝フラックス間の仮想代謝産物を設定するステップと、(e)前記ステップ(d)における仮想代謝産物を用いて線形方程式を解くための化学量論マトリックスに、前記ステップ(c)における補正された相関比、CRD及びSRDを適用して追加の方程式を決定し、決定された追加の方程式を前記化学量論マトリックスに適用して修正するステップと、(f)前記ステップ(e)において修正された化学量論マトリックスを用いて、線形計画法に基づく代謝回路全体の代謝フラックスの最適値及びプロファイルを作成するステップと、を含む大腸菌の代謝フラックスの解析方法を提供する。
【0026】
本発明において、前記ステップ(b)における特定の代謝フラックス間の相関比は、下記の式1及び2を用いてCRD及びSRDにより定義することを特徴とする。
【数10】

【数11】

ここで、fは対象の特定の代謝フラックスpの相関比であり、fは対象の特定の代謝フラックスqの相関比であり、Cは合流点における対象の特定の代謝フラックスqに対するCRDであり、Dは分岐点における対象の特定の代謝フラックスvに対するSRDである(但し、

である。ここで、Pは全ての分岐点または合流点である。)。
【0027】
また、前記ステップ(c)における代謝フラックスの測定実験は、放射線同位元素で標識された炭素源を用いた成長実験、酵素反応速度の測定実験、または放射線同位元素で標識された炭素源を用いた成長実験及び酵素反応速度の測定実験であることを特徴とする。
【0028】
さらに、前記ステップ(d)における仮想代謝産物は、下記の式3を用いて設定することを特徴とする。
【数12】

ここで、

は合流点におけるCRDのための仮想代謝産物であり、

は分岐点におけるSRDのための仮想代謝産物であり、inputMarfは仮想代謝産物Mに流れ込む代謝フラックスの総和、outputMarfは仮想代謝産物Mから流れ出る代謝フラックスの総和、v及びvは代謝フラックスp及びqの代謝フラックス速度であり、Cは特定の代謝フラックスqに対するCRDであり、Dは特定の代謝フラックスvに対するSRDである。
【0029】
また、前記ステップ(e)における修正前の化学量論マトリックスは、下記のように表わされることを特徴とする。
【数13】

【0030】
さらに、前記ステップ(e)における修正後の化学量論マトリックスは、下記のように表わされることを特徴とする。
【数14】

【0031】
さらにまた、前記(f)ステップにおける全体の代謝フラックスの最適値及びプロファイルは、下記の式4を用いて作成することを特徴とする。
【数15】

ここで、Sijはj番目の反応におけるi番目の代謝産物の化学量論係数であり、vはj経路の代謝フラックスベクトルであり、Iは全ての代謝産物の組であり、Jは全ての経路の代謝フラックスの組であり、Eは全ての外部流入/出代謝フラックスの組であり、cはj経路の代謝フラックスに対する重み付け値であり、bはi番目の代謝産物の純粋な輸送流量であり、l、uはi番目の代謝産物の純粋な輸送流量、α、βはj経路の代謝フラックスが有しうる制限値である。
【0032】
また、本発明は、前記方法により作成された代謝回路全体の代謝フラックスの最適値及びプロファイルを用いることを特徴とする有用物質の生産性向上のための増幅または欠失対象遺伝子をスクリーニングする方法を提供する。
【0033】
さらに、本発明は、前記スクリーニングされた増幅または欠失対象遺伝子を大腸菌において増幅または欠失させることを特徴とする有用物質を生産する大腸菌の改良方法を提供する。
【0034】
本発明の他の特徴及び具現例は、下記の詳細な説明及び特許請求の範囲からなお一層明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による代謝フラックスの解析方法を示す図である。
【図2】本発明による放射線同位元素で標識された炭素源を用いた成長実験からCRD及びSRDを定義する方法を示す図である。
【図3】本発明により定義されたCRD及びSRDに基づいて関連する各反応式間の関係を仮想代謝産物(artificial metabolite)を用いて定義する方法を示す図である。
【図4】本発明によりメタフラックスネットを用いてCRD及びSRDを適用した作成例を示す図である。
【図5】大腸菌の代謝ネットワークモデルにCRD及びSRDを仮想代謝産物を用いて適用した例とその結果値(A)及び前記結果値の正確度(B)を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明において、特定の代謝フラックス間の「相関比」とは、種々の環境的な変化または生長曲線により代謝フラックス値または代謝フラックス値により推測可能なあらゆる実験的な数値から一定の増加または減少などの相関を示すものであり、前記相関を示しうるあらゆる条件を包括することを意味する。
【0037】
本発明による改良された代謝フラックスの解析技術を行うために、まず、全体の代謝フラックスを測定しようとする対象生物(但し、ヒトを除く。)を選定し、選定された生物の代謝回路モデルを構築した後、前記実験から相関が存在する特定の代謝フラックスを設定し、特定の代謝産物から流入ないし流出する代謝フラックスの有無を判断してCRDまたはSRDによりその代謝フラックスの強度による寄与度を定義する。また、前記選定された生物の代謝フラックスを測定するために、放射線同位元素で標識された炭素源を用いた生長実験、酵素反応速度の測定などの実験を行い、その実験値からCRDまたはSRDを決定する。その後、仮想代謝産物を用いて前記決定されたCRD及びSRDを化学量論マトリックスに適用し、線形計画法に基づいて全体の代謝フラックスの最適値及びプロファイルを作成する。前記全体の代謝フラックスの最適値及びプロファイルは下記のアルゴリズムを用いて求めることができる。
【数16】

ここで、Sijはj番目の反応におけるi番目の代謝産物の化学量論係数であり、vはj経路の代謝フラックスベクトルであり、Iは全ての代謝産物の組であり、Jは全ての経路の代謝フラックスの組であり、Eはあらゆる外部流入/出代謝フラックスの組であり、cはj経路の代謝フラックスに対する重み付け値であり、bはi番目の代謝産物の純粋な輸送流量であり、l、uはi番目の代謝産物の純粋な輸送流量、α、βはj経路の代謝フラックスが有しうる制限値である。
【0038】
図1は、前記方法により代謝フラックス解析技術を改良してより正確度の高い全体の代謝フラックスプロファイルを作成する方法の全体の過程を示すものであり、図2は、前記方法を代謝フラックスの解析方法に適用する例をサンプルモデルから概略的に示す図である。
【0039】
本発明において用いられる改良代謝フラックスの解析方法を適用するために、まず、主な合流点(A)または分岐点(B)に対するCRD及びSRDを定義しなければならない。放射線同位元素で標識された炭素源を用いた実験から主な代謝産物の放射線同位元素で標識された度合いを測定する実験及び主な分岐点ないし合流点に対する酵素反応速度の測定実験などの予備実験から特定の代謝フラックス間の相関比及びfを決定し、決定された相関比からCRD及びSRDを定義する。このとき、主な分岐点または合流点の相関比の総和は1と定義する。
【数17】

ここで、fは特定の代謝フラックスの相関比であり、Pは全ての分岐点または合流点を示す。
【0040】
次は、本発明を適用するために、図2のサンプルモデルから合流点(図2A)において特定の代謝フラックスに対するCRDを定義するための数学的な表現を示すものである。
【数18】

ここで、fは対象の特定の代謝フラックスpの相関比であり、fは対象の特定の代謝フラックスqの相関比であり、Cは合流点における対象の特定の代謝フラックスqに対するCRDを示す。
【0041】
次は、本発明を適用するために、図2のサンプルモデルから分岐点(図2B)において特定の代謝フラックスに対するSRDを定義するための数学的な表現を示すものである。
【数19】

ここで、fは対象の特定の代謝フラックスpの相関比であり、fは対象特定の代謝フラックスqの相関比であり、Dは分岐点において対象の特定の代謝フラックスvに対するSRDを示す。
【0042】
定義されたCRDまたはSRDからこれを線形計画法により解くための化学量論マトリックスに適用するために、図2に示すように、関連する代謝フラックス間に仮想代謝産物Martfを定義する。前記計算過程を通じて得られたCRD及びSRDは仮想代謝産物Martfに対する化学量論係数であって、直接的に適用可能であり、その反応式は下記の通りであり、また、準定常状態を想定してその和は0となる。
【数20】

ここで、

は合流点におけるCRDのための仮想代謝産物であり、

は分岐点におけるSRDのための仮想代謝産物を示し、vは代謝フラックスqの代謝フラックス速度を示し、CとDはそれぞれ特定の代謝フラックスv及びvに対するCRDとSRDの値を意味する。この結果、前記仮想代謝産物に対する反応式は線形計画法において平等制約として適用される。
【0043】
CRD及びSRD値は種々の実験上の誤差により、場合によって、最小値と最大値との間の領域を有する値になりうる。このため、この場合において、仮想の代謝産物に対する反応式も領域を有することになり、この場合、不平等制約として適用され、その数学的な表現は下記の通りである。
【数21】

ここで、

は仮想代謝産物Mの最小の化学量論値であり、

は仮想代謝産物Mの最大の化学量論値であり、Cqminはvに対する最小CRD値、Cqmaxはvに対する最大CRD値である。
【0044】
本発明においては、仮想代謝産物を用いて線形方程式を解くための化学量論マトリックスに上記のように定義されたCRD及びSRDを適用して追加的な制限値を効率よく適用することになり、これを線形計画法に基づいて全体の代謝フラックス解析を実施する。
【0045】
代謝フラックスを計算するために、下記の如きソフトウェアが使用可能である:: FluxAnalyzer (Klamt et al., Bioinformatics, 19:216, 2003), Metabologica (Zhu et al., Metab. Eng. 5:74, 2003)などのMatlabに基づくソフトウェア、Fluxor (http://arep.med.harvard.edu/moma/biospicefluxor.html), Simpheny (Genomatica Inc., San Diago, CA), INSILICO Discovery (INSILCO biotechnology Inc., Stuttgart, Germany), FBA (http://systemsbiology.ucsd.edu/downloads/fba.htm)、メタフラックスネット(Lee et al., Bioinformatics, 19:2144, 2003)などの独立して計算可能なプログラム、Gams(GAMS Development Corporation, NW Washington, DC)、C言語、フォートランなどのコンピュータ言語パッケージツールなど。
【0046】
本発明においては、前記方法を適用するためのモデルシステムとして大腸菌モデルシステムを選定し、予備実験から大腸菌の全体の代謝フラックス解析を行っている。
【0047】
実施例
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、これらの実施例は単に本発明を一層詳しく説明するためのものであり、本発明の要旨により本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではないということは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかである。
【0048】
特に、下記の実施例においては、代謝フラックスの解析対象の菌株として大腸菌(Escherichia coli)を用いて代謝フラックスの解析技術の改良方法を例示しているが、代謝フラックスの解析対象の菌株として他の菌株を使用することと、改良された代謝フラックス解析対象として大腸菌以外の菌株を使用することは本発明の記載事項から当業者にとって自明な事項であると言えるであろう。
【0049】
また、下記の実施例においては、CRD及びSRDを定義するための予備実験として放射性同位元素で標識された炭素源を用いた実験を通じて、GCMS(Gas chromatography mass spectrometry)測定を通じて代謝フラックス間の相関比値を求めているが、CRD及びSRDを定義するための例示実験として他の酵素反応速度など、代謝フラックス間の相関を示しうる他のあらゆる実験方法もまた本発明の記載事項から当業者にとって自明であると言えるであろう。
【0050】
実施例1:サンプルモデルにおけるCRD及びSRDの適用
代謝フラックス解析のためのサンプルモデルとして図3に示すシステムを製作した。サンプルモデルは5個の反応式、3つの代謝産物及び単一のuptake(R1)を含んでおり、代謝フラックス解析において目的関数としてv6の最大値を設定した。シミュレーションはhttp://mbel.kaist.ac.kr/からダウンロード可能なメタフラックスネット1.6を用いて行った(Lee et al., Bioinformatics,19:2144, 2003)。
【0051】
一次比較を行うために、CRD及びSRDを含んでいない状態の代謝フラックス解析を行った。準定常状態を想定したとき、サンプルモデルの化学量論マトリックスは下記の通りである。
【数22】

【0052】
前記化学量論マトリックスを基準として線形計画法に基づいて代謝フラックス解析を実行した。このとき、実験的な制限値入力の類似実験のために、外部に向かう代謝フラックスの一つであるR3の代謝フラックス速度を1mmol/gDCWhに設定して制限値として入力し、炭素源の取り込み代謝フラックスとしてR1の代謝フラックス値を5mmol/gDCWhに設定した。その結果は下記の通りである。
【数23】

【0053】
このサンプルモデルにおいては、代謝産物Cを基準として1本の合流点を含んでおり、合流点に対して反応式R4とR5が相関を有することが設定されている。また、その相関比によるCRD、Cを0.5に設定した。
【0054】
CRDを適用するために相関を有する両代謝フラックス間に仮想代謝産物Martfを設定し、図3は、CRDをこのモデルに適用する方法を示すものである。また、本発明に基づいて仮想代謝産物の係数はCRD値としてのDq=0.5と定義した。これにより修正される化学量論マトリックスは下記の通りである。
【数24】

【0055】
前記化学量論マトリックスを基準として線形計画法に基づいて代謝フラックス解析を実行した。このとき、実験的な制限値入力の類似実験のために外部に向かう代謝フラックスの一つであるR3の代謝フラックス速度を1mmol/gDCWhに設定して制限値として入力し、炭素源の取り込み代謝フラックスとしてR1の代謝フラックス値を5mmol/gDCWhに設定した。その結果は下記の通りである。
【数25】

【0056】
図3に示すように、CRDを適用していない通常の代謝フラックス解析の例において単純な組み合わせの内部代謝フラックス分布図を示し、特に、代謝産物Cの合流点の一つであるR4はその値を有さないことを確認することができた。これは、実際の細胞の代謝ネットワークを用いて線形計画法に基づいて代謝フラックス解析を実行するに当たって、複数の個所に存在する合流点ないし分岐点に対する代謝フラックス分布図において頻繁に現れる現象であり、確かに実際的な現象ではないことは自明である。
【0057】
しかしながら、上記の場合とは異なり、合流点を構成する両代謝フラックス間の相関比をCRD及び仮想代謝産物により定義して実行した代謝フラックス分布図は目的関数の値が同じであるにも拘わらず、合流点の代謝フラックス分布が相関比によって区別されて現れるが、この相関比はその他の実験的な根拠によるものであるため、より実際の現象に近い代謝フラックス分布図を示すという優秀さを示している。
【0058】
実施例2:大腸菌代謝回路モデルにおけるCRD適用ケース
大腸菌の場合、新たな代謝回路は979個の生化学反応から構成されており、814個の代謝産物を代謝回路上に考慮している。このシステムは大腸菌のほとんどの代謝回路を含んでおり、代謝フラックス解析において目的関数として用いる菌株の生体造成速度式を構成するための大腸菌の生体造成は、下記の通りである(Neidhardt et al., Cellular and Molecular Biology, 1996):
55%タンパク質、20.5%RNA、3.1%DNA、9.1%脂質、3.4%脂多糖類、2.5%ペプチドグリカン、2.5%グリコゲン、0.4%ポリアミン、3.5%その他の代謝産物、補酵素及びイオン。
【0059】
一般に成長するために細胞構成成分を最大とすると見られ、これは、比増殖速度により表わされる。このため、これを目的関数として線形計画法に基づいて代謝フラックス解析を実行した。
【0060】
一次的に大腸菌において、放射線同位元素を標識した炭素源を用いた実験から相関比値を定義可能な実験的数値を得た。GCMS(Gas chromatography-mass spectrometry)測定値から関連する代謝フラックス間の相関比を求めるために、E.Fischerらの方法論(E. Fischer et al., Eur. J. Biochem. 270:880, 2003)に準拠しており、これに代表される数式は下記の通りである。
【0061】
自然状態の放射線同位元素量の測定値を除去して修正された主な代謝産物の同位元素含有量の度合いによってこれをMDV(mass distribution vector)により定義し、これらの各元素の和を1と定義する。
【数26】

【0062】
主な合流点に位置する代謝産物の元素の同位元素の含有量はそれ以前の前駆体に存在する同位元素の含有量に基づいており、これは代謝フラックスネットワークに基づく代謝フラックスの強度に依存し、特に、各代謝産物の同位元素の含有量を定義するMDVの元素の和が1であるという点を考慮して、各代謝産物のMDVから合流点に位置して関係を有する各代謝フラックス間の相関比を下記のように定義する。
【数27】

ここで、Mは合流点に存在する対象代謝産物であり、p1及びp2はM代謝産物の前駆体の役割を果たす代謝産物であり、fp1は代謝産物p2からの代謝フラックスに対するp1からの代謝フラックスの相関比を意味する。このとき、関連する代謝フラックス間の相関比の総和は1と定義しており、下記の数式により表わされる。
【数28】

ここで、Pは合流点において対象の代謝産物に対する関連する前駆体に対する代謝フラックスの集まりであり、pはその元素を意味する。
【0063】
本発明を適用するために特定の代謝フラックスに対するCRDを定義しており、下記の数式により表わされる。
【数29】

ここで、fは対象の特定の代謝フラックスpの相関比であり、fは対象特定の代謝フラックスqの相関比であり、Cは合流点における対象の特定の代謝フラックスqに対するCRDを示す。
【0064】
大腸菌の代謝フラックスネットワークにおいて、解糖(glycolysis)、ペントフォスフェイト回路(phentosphosphate pathway)、TCA、アナプレロティック回路(anaplerotic pathway)などをはじめとする主な中心代謝フラックスネットワーク中において5箇所の合流点に対する相関を定義し、これを、図4に示すように、主な合流点の対象の代謝産物と反応式の名前により表現した。実験データから関連代謝フラックス間の相関比を適用するために、関連代謝フラックス間に仮想代謝産物を用いて追加的な反応式を定義し、準定常状態を想定するとき、それぞれの仮想代謝産物に対する反応式は下記の通りである。
【数30】

図4を参照すれば、vfbaはF6PからT3Pへのfba反応のフラックスの流量、vtk2はE4P及びP5PからF6P及びT3Pへのtk2反応のフラックスの流量、vtk1はP5PからS7P及びT3Pへのtk1反応のフラックスの流量、vtaはS7P及びT3PからF6P及びE4Pへのta反応のフラックスの流量、vppcはPEPからOAAへのppc反応のフラックスの流量、vedaは6−P−グルコネイトからT3P及びPYRへのeda反応のフラックスの流量、vmdhはMALからOAAへのmdh反応のフラックスの流量、vpykはPEPからPYRへのpyk反応のフラックスの流量、vmezはMALからPYRへのmez反応のフラックスの流量であり、Cα及びMαはそれぞれ特定の合流点αに対するCRD及び仮想の代謝産物、Cβ及びMβはそれぞれ特定の合流点βに対するCRD及び仮想の代謝産物、Cγ及びMγはそれぞれ特定の合流点γに対するCRD及び仮想の代謝産物、Cδ及びMδはそれぞれ特定の合流点δに対するCRD及び仮想の代謝産物を示す。
【0065】
合計で5本の合流点に対する総5個の仮想代謝産物が決定され、これに対する反応式が定義され、実験的な数値による相関比の値が領域を有するかどうかによって3つの平等制限と2個の不平等制限が定義された。
【0066】
各仮想の代謝産物に対する反応式において各CRD値を求めるための実際の実験からの各代謝産物のMDV値とこれからの相関比はE.Fischerらの実験的なデータにより計算され(E. Fischer et al., Anal. Biochem. 325:308, 2004)、20/80%[U−13C]グルコース/[1−13C]グルコースで標識された炭素源を用いた実験的な数値に準拠している。前記方法により定義された各CRD値は下記表1の通りである。
【表1】

【0067】
以上述べたように、追加的に定義された仮想の代謝産物の反応式とCRD値を用いて、準定常状態を想定し、且つ、線形計画法に基づいて大腸菌の代謝フラックス解析を実行した。その結果のうち、主な中心代謝フラックスネットワークの代謝フラックス分布例を図5に示す。また、主な中心代謝フラックスネットワークに対する非線形計画法に基づいて得られた代謝フラックス分布図を基準として、本発明を使用した場合(図5A、上位値)と使用しなかった場合(図5A、下位値)における結果値の正確度を示す(図5B)。
【0068】
前記結果を基に、追加的な実験により新たに得られた多数の数値を効率よく線形計画法に基づく追加的な制限値として適用することにより、より正確な細胞内代謝フラックス分布図が得られるということを確認することができた。
【0069】
実施例3:本発明を用いた有用物質の生産性向上のための遺伝子スクリーニング及び生物の改良
有用物質の生産性を高めるために、前記実施例1及び2により作成された代謝回路全体の代謝フラックスの最適値及びプロファイルを用いて有用物質の生産性を高める増幅対象遺伝子をスクリーニングした。前記増幅対象遺伝子のスクリーニングは、大韓民国特許出願第10−2005−0086119号公報に記載の方法に従い実施した。
【0070】
また、前記大韓民国特許出願第10−2005−0086119号公報に記載の方法によりスクリーニングされた増幅対象遺伝子を当該生物に導入したり増幅させたりして当該生物の変異体を製作することができる。
【0071】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は単なる好適な実施様態に過ぎず、これにより本発明の範囲が制限されることはないという点は明らかであろう。よって、本発明の実質的な範囲は特許請求の範囲とこれらの等価物により定まると言えるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上、詳述したように、本発明は、代謝フラックスの解析方法及び大腸菌の代謝フラックスの解析方法を提供する効果がある。本発明によれば、ゲノムレベルの代謝回路モデルが構築された対象生物において、放射線同位元素で標識された炭素源を用いた成長実験及び酵素反応速度測定などの種々の実験から得られた有用な情報を用いて、特定の代謝産物を基準として流入または流出される代謝フラックス間の相関を相対比率により求めることができるため、種々の実験からの制限値を効率よく適用して、より正確で且つ高速にて内部代謝フラックスを定量化・解析することができて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを含む対象生物の代謝フラックスの解析方法:
(a)全体の代謝フラックスを測定しようとする対象生物(但し、ヒトを除く)を選定し、選定された生物の代謝回路モデルを構築するステップと、
(b)前記ステップ(a)における代謝回路モデルにおいて特定の代謝フラックス間の相関を確認して、特定の代謝フラックス間の相関比をCRD(Converging Ratio Determinant)及びSRD(Split Ratio Determinant)により定義するステップと、
(c)前記選定された生物の代謝フラックスの測定実験を行い、その実験結果から前記
ステップ(b)における相関比、CRD及びSRDを決定して補正するステップと、
(d)前記特定の代謝フラックス間の仮想代謝産物を設定するステップと、
(e)前記ステップ(d)における仮想代謝産物を用いて線形方程式を解くための化学量論マトリックスに、前記ステップ(c)における補正された相関比、CRD及びSRDを適用して追加の方程式を決定し、決定された追加の方程式を前記化学量論マトリックスに適用して修正するステップと、
(f)前記ステップ(e)において修正された化学量論マトリックスを用いて、線形計画法に基づく代謝回路全体の代謝フラックスの最適値及びプロファイルを作成するステップ。
【請求項2】
前記対象生物は微生物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(b)における特定の代謝フラックス間の相関比は、下記の式1及び2を用いてCRD及びSRDにより定義することを特徴とする請求項1に記載の方法:
【数1】

【数2】

ここで、fは対象の特定の代謝フラックスpの相関比であり、fは対象の特定の代謝フラックスqの相関比であり、Cは合流点における対象の特定の代謝フラックスqに対するCRDであり、Dは分岐点における対象の特定の代謝フラックスvに対するSRDである(但し、

ここで、Pは全ての分岐点または合流点である)。
【請求項4】
前記ステップ(c)における前記代謝フラックスの測定実験は、放射線同位元素で標識された炭素源を用いた成長実験、酵素反応速度の測定実験、または放射線同位元素で標識された炭素源を用いた成長実験及び酵素反応速度の測定実験であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(d)における仮想代謝産物は、下記の式3を用いて設定することを特徴とする請求項1に記載の方法:
【数3】

ここで、

は合流点におけるCRDのための仮想代謝産物であり、

は分岐点におけるSRDのための仮想代謝産物であり、inputMarfは仮想代謝産物Mに流れ込む代謝フラックスの総和、outputMarfは仮想代謝産物Mから流れ出る代謝フラックスの総和、v及びvは代謝フラックスp及びqの代謝フラックス速度であり、Cは特定の代謝フラックスqに対するCRDであり、Dは特定の代謝フラックスvに対するSRDである。
【請求項6】
前記ステップ(e)における修正前の化学量論マトリックスは、下記のように表わされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【数4】

【請求項7】
前記ステップ(e)における修正後の化学量論マトリックスは、下記のように表わされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【数5】

【請求項8】
前記(f)ステップにおける全体の代謝フラックスの最適値及びプロファイルは、下記の式4を用いて作成することを特徴とする請求項1に記載の方法:
【数6】

ここで、Sijはj番目の反応におけるi番目の代謝産物の化学量論係数であり、vはj経路の代謝フラックスベクトルであり、Iは全ての代謝産物の組であり、Jは全ての経路の代謝フラックスの組であり、Eは全ての外部流入/出代謝フラックスの組であり、cはj経路の代謝フラックスに対する重み付け値であり、bはi番目の代謝産物の純粋な輸送流量であり、l、uはi番目の代謝産物の純粋な輸送流量、α、βはj経路の代謝フラックスが有しうる制限値である。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法により作成された代謝回路全体の代謝フラックスの最適値及びプロファイルを用いることを特徴とする有用物質の生産性向上のための増幅または欠失対象遺伝子をスクリーニングする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法によりスクリーニングされた増幅または欠失対象遺伝子を当該生物において増幅または欠失させることを特徴とする有用物質を生産する生物の改良方法。
【請求項11】
以下のステップを含む大腸菌の代謝フラックスの解析方法:
(a)大腸菌の代謝回路モデルを構築するステップと、
(b)前記ステップ(a)における代謝回路モデルにおいて特定の代謝フラックス間の相関を確認して、特定の代謝フラックス間の相関比をCRD(Converging Ratio Determinant)及びSRD(Split Ratio Determinant)により定義するステップと、
(c)前記大腸菌を対象として代謝フラックス測定実験を行い、その実験結果から前記ステップ(b)における相関比、CRD及びSRDを決定して補正するステップと、
(d)前記特定の代謝フラックス間の仮想代謝産物を設定するステップと、
(e)前記ステップ(d)における仮想代謝産物を用いて線形方程式を解くための化学量論マトリックスに、前記ステップ(c)における補正された相関比、CRD及びSRDを適用して追加の方程式を決定し、決定された追加の方程式を前記化学量論マトリックスに適用して修正するステップと、
(f)前記ステップ(e)において修正された化学量論マトリックスを用いて、線形計画法に基づく代謝回路全体の代謝フラックスの最適値及びプロファイルを作成するステップ。
【請求項12】
前記ステップ(b)における特定の代謝フラックス間の相関比は、下記の式1及び2を用いてCRD及びSRDにより定義することを特徴とする請求項11に記載の方法:
【数7】

【数8】

ここで、fは対象の特定の代謝フラックスpの相関比であり、fは対象の特定の代謝フラックスqの相関比であり、Cは合流点における対象の特定の代謝フラックスqに対するCRDであり、Dは分岐点における対象の特定の代謝フラックスvに対するSRDである(但し、

である。ここで、Pは全ての分岐点または合流点である)。
【請求項13】
前記ステップ(c)における代謝フラックスの測定実験は、放射線同位元素で標識された炭素源を用いた成長実験、酵素反応速度の測定実験、または放射線同位元素で標識された炭素源を用いた成長実験及び酵素反応速度の測定実験であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップ(d)における仮想代謝産物は、下記の式3を用いて設定することを特徴とする請求項11に記載の方法:
【数9】

ここで、

は合流点におけるCRDのための仮想代謝産物であり、

は分岐点におけるSRDのための仮想代謝産物であり、inputMarfは仮想代謝産物Mに流れ込む代謝フラックスの総和、outputMarfは仮想代謝産物Mから流れ出る代謝フラックスの総和、v及びvは代謝フラックスp及びqの代謝フラックス速度であり、Cは特定の代謝フラックスqに対するCRDであり、Dは特定の代謝フラックスvに対するSRDである。
【請求項15】
前記ステップ(e)における修正前の化学量論マトリックスは、下記のように表わされることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【数10】

【請求項16】
前記ステップ(e)における修正後の化学量論マトリックスは、下記のように表わされることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【数11】

【請求項17】
前記(f)ステップにおける全体の代謝フラックスの最適値及びプロファイルは、下記の式4を用いて作成することを特徴とする請求項11に記載の方法:
【数12】

ここで、Sijはj番目の反応におけるi番目の代謝産物の化学量論係数であり、vはj経路の代謝フラックスベクトルであり、Iは全ての代謝産物の組であり、Jは全ての経路の代謝フラックスの組であり、Eは全ての外部流入/出代謝フラックスの組であり、cはj経路の代謝フラックスに対する重み付け値であり、bはi番目の代謝産物の純粋な輸送流量であり、l、uはi番目の代謝産物の純粋な輸送流量、α、βはj経路の代謝フラックスが有しうる制限値である。
【請求項18】
請求項11〜17のいずれか一項に記載の方法により作成された代謝回路全体の代謝フラックスの最適値及びプロファイルを用いることを特徴とする有用物質の生産性向上のための増幅または欠失対象遺伝子をスクリーニングする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法によりスクリーニングされた増幅または欠失対象遺伝子を大腸菌において増幅または欠失させることを特徴とする有用物質を生産する大腸菌の改良方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−534028(P2009−534028A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506400(P2009−506400)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【国際出願番号】PCT/KR2006/003578
【国際公開番号】WO2007/123295
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(502318478)コリア アドバンスド インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジィ (27)
【Fターム(参考)】