説明

CTLの媒介による抗原提示細胞の溶解を検出するためのMHC架橋系

特定の試料中の抗原特異的CTLの数を列挙するために多価性のMHC結合分子を利用し、かつその試料中のCTL集団の機能的能力も測定する架橋アッセイ法が提供される。一つの態様において、このアッセイ法は、テトラマーと共に抗体架橋を形成するように適合された単一の非MHC含有標的細胞系統を用いて、任意のテトラマー陽性CTLのエフェクター機能を測定するのに使用される。さらに、エフェクター機能および列挙は、フローサイトメトリーによって測定され得、かつ他の蛍光色素と結合させた抗体を用いて、エフェクター細胞集団または標的細胞集団のいずれかの上に存在する付加的なマーカーが検出され得る。このテトラマー結合アッセイ法は、研究者らが、市販されている試薬を用いて、非放射性アッセイ法においてCTLの溶解能および抗原特異性を容易に測定することを可能にするであろう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノアッセイ法、および特に、CTLの媒介による抗原提示細胞の溶解を検出するためのアッセイ法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、その内容全体が参照により本明細書に組み入れられる2004年5月7日に出願された米国特許出願第60/568,900号の、米国特許法第119条(e)項に基づく優先権の恩典を主張する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
細胞傷害性または細胞溶解性のTリンパ球(CTL)は、適応免疫応答の構成要素であり、ウイルスまたは他の細胞内病原体に感染している細胞の破壊を担っている。この機能を果たすために、CTLは、非自己抗原から自己抗原を区別することができなければならない。胸腺選択を成功裡に受けた成熟CTLは、クラスI MHCを結合することができる多形性のT細胞抗原受容体(TCR)を有する。クラスI MHCは、宿主の全体にわたって、大多数の有核細胞表面上で偏在的に発現されており、かつ自己または病原体のいずれかに由来する、分解された細胞内タンパク質に由来するペプチドに対する結合ポケットを有する。外来ペプチド/MHC複合体の認識は、TCRを介したCTLの活性化を誘発し、最終的に、TCRを提示している標的細胞の破壊を引き起こすと考えられる。活性化されたCTLは、サイトカインの分泌、Fas受容体(CD95/CD95L)経路、および細胞溶解性顆粒のエキソサイトーシスを含む様々なメカニズムによって、標的細胞を破壊することができる。最後のメカニズムは、接触を介した細胞障害性の主要形態である(D. Kagi et al., Annu Rev Immunol 1996; 14:207-32(非特許文献1))。理論的には、すべての成熟CTLが、標的細胞を溶解することができる。しかしながら、一部のウイルスの感染は、CTLのエフェクター機能、特に、HCVまたはHIVなどの病原体に対して抗原特異的である機能を変更し得る。
【0004】
免疫応答の大きさは、臨床家が感染の進行の追跡および予後の判定をする際の助けとなり得るため、免疫応答のレベルおよび持続性を測定するための方法を開発することに非常に多くの努力が払われてきた。体液性応答の場合は、血清中の抗体の循環レベルを測定するために、簡易な方法が利用可能である。しかしながら、細胞性免疫応答の大きさを測定するための方法は、応答に関与するT細胞の同定を一般に必要とするため、それほど簡単ではない。
【0005】
ある特定の抗原に対して応答する、個体中のT細胞の数を測定するための一般的方法は、限界希釈アッセイ法(LDA)である。この方法では、平均してただ1つの細胞が1ウェル中に存在するようになるまで、マイクロタイタープレート中でCTLを連続的に希釈し、次いで、それらの細胞を刺激して増殖させ、抗原に対する応答における細胞傷害活性について検査する。この方法は、CTLが細胞傷害活性を有していることだけでなく、その後の感染の際に不可欠となり得る、CTLが増殖できるということも示唆するため、有用である。残念ながら、CTLは一般に、細胞傷害活性を測定するのに十分な数を生じるのに数週間の増殖を必要とするため、限界希釈アッセイ法は時間がかかる。したがって、このアッセイ法は、実施するには大きな労力を要し、かつ高価であり、ハイスループットなアッセイ形式に容易に適合させることはできない。さらに、この方法は、増殖能力を有するCTLのみを同定するため、限界希釈アッセイ法は、個体中の特異的CTLの数を少なく見積もる可能性がある。
【0006】
抗原特異的なCTLを同定するのに有用である別の方法は、抗原に刺激されたCTLによるインターフェロンγなどのサイトカインの発現に依拠している。この方法では、抗原に刺激された細胞が透過化処理され、かつ例えば、検出可能となるように標識された抗インターフェロンγ抗体を用いて、細胞内免疫染色が実施される。この方法は、細胞増殖も、したがって、細胞培養工程も必要としないため、限界希釈アッセイ法より優れた利点を有し、かつハイスループットなアッセイ形式に容易に適合させることができる。しかしながら、この方法は、細胞に対して毒性であり、したがって、例えば付加的な機能試験を実施するために、抗原特異的な生細胞を選択することはできない。
【0007】
主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子のテトラマーを利用する、より最近に開発された、抗原特異的T細胞の検出方法は、T細胞解析に大変革を起こした。MHCテトラマー複合体は、ある特定のペプチド抗原を有する、4つのMHCモノマー、例えば、4つのMHCクラスI分子/β2-ミクログロブリンモノマーおよび蛍光色素などの検出可能な標識の結合によって形成され、ストレプトアビジンなど多価性の単位(multivalent entity)によって結合されている。このようなMHCクラスI分子テトラマー複合体は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を含む、CD8+T細胞のサブセット上のT細胞受容体の独特の組に結合する。CTLは、エフェクターCD8+T細胞であるが、必ずしもCD8+T細胞の抗原特異的プール全体を表さない。この点に関して、LDAおよびサイトカインアッセイ法のいずれも、CTLまたはCTLの部分集団を検出するのに対し、MHCテトラマー法はエフェクター機能を示さない、ナイーブおよびアネルギー性のCD8+T細胞を含む、すべての抗原特異的CD8+T細胞を検出することができる。MHCテトラマーを末梢血リンパ球または全血と混合し、検出システムとしてフローサイトメトリーを使用することにより、あるペプチドおよびそれに結合されたアレルに特異的なすべてのT細胞が計数される。したがって、MHCテトラマーは、特定のペプチドに対する細胞性応答の測定を可能にする。
【0008】
T細胞特異性を解析するためにMHCテトラマーを使用することは、これまでに使用されたT細胞アッセイ法と比べて著しい利点を与える。例えば、MHCテトラマー法は定量的であり、これは、放射標識の使用を必要とせず、かつハイスループットなアッセイ形式に容易に適合される。さらに、この方法は、迅速に実施することができ、したがって、新鮮な血液または組織試料を検査するのに使用することができる。MHCテトラマー複合体が蛍光標識を含む場合、T細胞を含む細胞集団を、1種または複数種の他の蛍光標識分子、例えば、他の細胞表面分子に特異的な蛍光標識分子でさらに染色し、かつフローサイトメトリーを用いて解析することができ、したがって、応答細胞のさらなる特性決定が可能となる。この場合、付加的な蛍光標識は、標識細胞を染色するために使用される1種または複数種の標識と容易に識別可能な波長で蛍光発光するように選択される。さらに、MHCテトラマー解析は、標識された細胞に対して毒性ではなく、したがって、テトラマー結合細胞を、フローサイトメトリーによって均一な集団に分別し、付加的なアッセイ法によって検査して、それらの機能的能力、例えば、抗原に応答して増殖する能力を確認することができる。
【0009】
MHCテトラマー解析の使用により、MHC-ペプチド複合体への結合の特異性に基づいて個々のT細胞を同定することが可能になる。テトラマー解析法は、HIVなどの急性ウイルス感染症のヒトにおけるCD8+T細胞応答を研究するために使用され、応答の急性期の間の抗原特異的CD8+T細胞の増加が、以前に考えられていたよりはるかに大きいことを明らかにした。MHCテトラマーはまた、エプスタイン・バーウイルス(Epstein Barr virus)単核球症、サイトメガロウイルス、ヒトパピローマウイルス、肝炎B、肝炎C、インフルエンザおよび嚢虫を含む他のウイルス感染症;寄生虫感染症のマラリア;乳癌、前立腺癌、黒色腫、結腸癌、肺癌、および子宮頸癌を含む癌;多発性硬化症および関節リウマチを含む自己免疫疾患;ならびに移植におけるCD8+T細胞応答を正確かつ効率的にモニターするためにも使用されている。
【0010】
しかしながら、MHCテトラマーアッセイ法は、抗原特異的CTLを活性化して標的細胞を溶解する(すなわち「エフェクター」機能を有する)MHCモノマーの能力に関する情報は提供しない。歴史的に、研究者らは、抗原特異的CTLの溶解能を測定することだけでなく、MHC/ペプチドリガンドを発現しない細胞系統にエフェクター機能を宛先変更する(redirect)ことにも主に関心を持っていた。CTLエフェクター機能を宛先変更するという概念は、1980年代半ばに最初に報告された。研究者らは、化学的に架橋させた抗体、いわゆるヘテロ凝集素、2本鎖異種抗体、またはハイブリッド抗体を構築した。これらの複合体は、TCRまたはCD3に特異的な抗体、および標的細胞によって発現される特有の細胞表面タンパク質に特異的な抗体で構成されていた。標的細胞は、内因的に、またはジニトロフェノールなどのハプテンによる修飾後のいずれかにタンパク質を発現した。より最近の報告では、この方法が単にCTLクローンのみに限定されないこと、および新鮮なヒト末梢血単核細胞(PBMC)のエフェクター機能を宛先変更するのに使用できることが実証された(前掲のJung G., et al., Proc Natl Acad Sci USA 1986 Jun;83(12):4479-83, Perez(非特許文献2))。他の研究室は、受容体が誘発する(receptor-triggering)抗体(すなわち抗CD3)および標的細胞表面タンパク質に特異的な抗体(Ab)の双方を発現するポリスチレンビーズを構築した。これらの方法はすべて、Ab断片の化学的架橋、またはTCRおよび腫瘍抗原の双方に対する特異性を有する分子を含む抗体混合物を分泌すると思われる細胞系統を作製するための2種のハイブリドーマの融合(「クアドローマ」と呼ばれる)を含んだ。当時、これらのタイプのアプローチは、抗体の異種混合物を生じ、同種の溶液を得るのは困難であった。
【0011】
その後、組換えアプローチが使用された。機能的な一本鎖の二重特異性Ab(SCFV2)が、大腸菌(E.coli)で発現させるために人工的に設計された。この組換え構築物は、抗TCR Abに由来するVHおよびVL遺伝子、ならびに抗フルオレセインAbに由来するVHおよびVL遺伝子を有した。結果として得られる構築物を用いて、CTLの媒介による溶解を、フルオレセイン標識された腫瘍細胞に宛先変更した。他の研究室は、二重特異性抗体を作製するために真核生物の発現/分泌系を使用したが、一方の端がTCRに、もう一方が標的細胞に特異的な抗体によって、標的にCTLを橋渡しするという概念は依然として同じであった。しかしながら、これまでに言及したこれらのアプローチのすべてにおいて、CTLの宛先変更された溶解は、TCR特異的ではない様式での、標的へのCTLの結合を含んでいた。架橋分子のCTL結合部分は、すべてのTCR、またはTCR超分子複合体の非多形性のCD3部分を結合することができた。CTLの抗原特異性は一度も示されなかった。
【0012】
Robertら(Eur J lmmunol 2000 Nov;30(11):3165-70)(非特許文献3)は、CTL溶解を宛先変更する代替アプローチを報告した。この系では、公知の溶解能を有するCTLの溶解の宛先変更を達成することができる。抗原特異的CTLは、テトラマー、または4つのビオチン結合部位を天然に有するストレプトアビジンによって共に結合されたビオチン化MHCおよびペプチドの複合体に化学的に結合された、腫瘍抗原に特異的なFab'によって、標的細胞と結合していた(図1)。標的細胞は、Fab'で修飾されたテトラマーで最初にコーティングされ、次いで、関心対象の抗原特異的なCTL系統またはクローンと共にインキュベートされた。したがって、このアプローチにおいて、この結合体は、特定の抗原特異性を有するCTLに対して選択的であり、かつ腫瘍細胞系統は、特定の抗原/MHC複合体を発現するように修飾された。他の研究室による研究は、ストレプトアビジンの結合特性を利用すること、またはストレプトアビジン自体を遺伝学的に改変することに焦点を合わせていた。Oggら(Br J Cancer 2000 Mar;82(5):1058-62)(非特許文献4)は、腫瘍抗原に特異的な抗体および単鎖MHCを搭載したテトラマーを、ストレプトアビジンに結合できるように双方の分子をビオチン化することによって連結した。この研究室によるその後の研究では、野生型ストレプトアビジンおよび抗CD20Abからなる組換え融合タンパク質を使用した。この融合タンパク質は、4つの全てのビオチン結合部位を保持していたことに加えて、標的細胞の表面で発現される抗原に対する4つの結合部位も備えていた。ビオチン化MHC/ペプチドモノマーは、この融合タンパク質に結合され、初回の刺激を受けていたPBMCのエフェクター機能を成功裡に宛先変更するのに使用された。
【0013】
他の研究者らは、HCVおよびHIVに対する免疫応答を経験している個体から単離されたCD8+Tリンパ球集団が、疾患および抗原に特異的な様式でテトラマーに結合できることを報告した。しかしながら、すべてのテトラマー陽性リンパ球がリンフォカインIFNを分泌する能力を有しているわけではなかったため、これらの集団は、「仮死状態(stunned)」またアネルギー性であると判定された(Lechner, R, et al., J. Exp. Med. (2000) 191:1499-1512)(非特許文献5)。しかしながら、リンパ球培養物内でのCTLの存在または不在は、従来エフェクター機能の存在または不在によって定義されてきた。定義によれば、CTLは、パーフォリンおよびグランザイムを含有する溶解性の顆粒を分泌することによって、抗原特異的な様式で標的細胞を溶解することができる。
【0014】
インビトロでのCD8+Tリンパ球(CTL)の存在は、通常、抗原を提示している標的細胞を溶解するそれらの機能的能力によって測定される。この機能は、関心対象の試料の全エフェクター機能を測定する放射性および非放射性の溶解性アッセイ法によって定量することができる。エフェクター機能を担うCTLの計数、およびこれらのリンパ球によるエフェクター機能の同時検出は、技術的に難易度が高く、今日まで、この課題を達成すると思われる技術は報告されていない。
【0015】
したがって、上記の点に鑑みて、CTLの抗原特異性および溶解能を測定するように開発された新しくかつより優れたアッセイ法が、様々な疾患におけるCTLの役割を判定するために、かつ抗原特異的CTLのエフェクター機能を定量するために必要とされている。本発明は、この必要を満たし、かつさらなる利点を提供する。
【0016】
【非特許文献1】D. Kagi et al., Annu Rev Immunol 1996; 14:207-32
【非特許文献2】Jung G., et al., Proc Natl Acad Sci USA 1986 Jun;83(12):4479-83, Perez
【非特許文献3】Robertら(Eur J lmmunol 2000 Nov;30(11):3165-70)
【非特許文献4】Oggら(Br J Cancer 2000 Mar;82(5):1058-62)
【非特許文献5】Lechner, R, et al., J. Exp. Med. (2000) 191:1499-1512
【発明の開示】
【0017】
発明の概要
本発明は、人工の抗原提示細胞を抗原特異的な細胞傷害性T細胞と結合しているテトラマーベースの架橋系を、放射性および非放射性の溶解性アッセイ法によって、抗原拘束性CTLのエフェクター機能または関心対象の試料の全エフェクター機能を定量するのに使用することができるという発見に基づいている。
【0018】
したがって、一つの態様において、本発明は、以下の4成分:1)表面リガンド、および溶解されていない標的細胞と比較して、溶解された標的細胞において実質的に変更されるシグナルを生成する第1の検出可能な標識を有する標的細胞;2)抗体特異的結合部位をさらに含む、試験MHC結合ペプチドが結合した、MHCモノマーまたは改変MHCモノマーの多量体複合体;3)標的細胞上のリガンドおよび抗体特異的結合部位に結合する抗体;ならびに4)ペプチド拘束性のCTL;の間の相互作用を可能にするような適切な条件下で同時インキュベートすることによって、CTLにおけるペプチド拘束性のエフェクター機能を誘導する公知の抗原のペプチドを同定するためのアッセイ法を提供する。これらの成分間の相互作用により、標的細胞の細胞溶解の近傍までペプチド拘束性のCTLをもたらす架橋複合体が形成される。複合体形成していない標的細胞によって生成されるシグナルと比較した、架橋複合体中の標的細胞によって生成されるシグナルにおいて検出される変化は、MHCクラスIモノマー中のペプチドが、CTLにおけるペプチド拘束性のエフェクター機能を誘導していることを同定する。
【0019】
別の態様において、本発明は、以下の成分:1)抗原拘束性T細胞受容体(TCR)を有する細胞傷害性T細胞(CTL);2)CTLにおけるペプチド拘束性のエフェクター機能を誘導する公知の抗原のMHC結合ペプチドが結合し、かつ抗体特異的結合部位を有する、MHCモノマーまたは改変MHCモノマーの多量体複合体;3)表面リガンドを有する標的細胞;ならびに4)抗体結合部位およびリガンドのそれぞれに結合する抗体;を含有する架橋複合体を提供する。モノマーへのTCRの免疫学的結合、ならびにリガンドおよび抗体結合部位のそれぞれへの抗体の結合により、架橋複合体が生じ、その結果、標的細胞およびCTLが、細胞溶解の近傍までもたらされる。
【0020】
さらに別の態様において、本発明は、混合したCTLを含有する試料において、公知の抗原のMHC結合ペプチドが結合したMHCモノマーを有する細胞に対するエフェクター機能を有するペプチド拘束性のCTLの存在を検出するための方法を提供する。本発明のこれらの方法の実施は、1)特異性が分かっていないCTLの混合物を含む試料;2)公知の表面リガンド、および溶解されていない細胞と比較して、溶解された細胞においてそのシグナルが実質的に減少する第1の検出可能な標識を有する標的細胞;ならびに3)公知の表面リガンドに対して特異的な抗体、および公知の抗原のMHC結合ペプチドがそれぞれ結合した複数のMHCモノマーまたは改変MHCモノマーの多価性の単位への結合によって形成されるMHC多量体複合体;の間の相互間の結合を可能にするような適切な条件下で共に接触させる工程を含む。結合前にそれから生成されるシグナルと比較して、結合の結果として生じる第1の検出可能な標識によって生成されるシグナルの減少の検出は、公知の抗原のMHC結合ペプチドが結合したMHCモノマーを有する細胞に対するエフェクター機能を有する1種または複数種のペプチド拘束性CTLが試料中に存在することを示唆する。
【0021】
さらに別の態様において、本発明は、1)Fc/FcR相互作用によって細胞に特異的に結合された抗フルオロフォア抗体を有する、FcRを有する標的細胞であって、細胞溶解が起こると実質的に減少するシグナルを有する第1の検出可能な標識で標識されている標的細胞;2)ストレプトアビジン、ストレプトアビジンに結合されたフルオロフォア、および公知の抗原のMHC結合ペプチドが結合したMHCモノマーまたは改変MHCモノマーの2〜4個の三元複合体を含むテトラマーであって、これらのモノマーが、ビオチン化され、ビオチンを介してストレプトアビジンに結合されているテトラマー;ならびに3)抗原特異的CTLのうちの少なくとも1つを、相互間の結合を可能にするような適切な結合条件下で共に接触させることによって、CTLの抗原特異的なエフェクター機能を検出するための方法を提供する。結合前にそれから生成されるシグナルと比較して、結合の結果として生じる第1の検出可能な標識によって生成されるシグナルの減少の検出は、そのCTLが、そのMHC結合ペプチドを提示する抗原提示細胞に対する抗原特異的なエフェクター機能を有することを示唆する。
【0022】
さらに別の態様において、本発明は、1)標的細胞の溶解が起こると変化するシグナルを有する第1の検出可能な標識でタグ化されている、FcRを有する標的細胞;2)MHCモノマーまたは改変MHCモノマーのMHC結合ペプチドとの少なくとも1つの複合体および少なくとも1つのFc含有抗体を含み、この少なくとも1つのモノマーおよび少なくとも1つの抗体が、特異的な結合対を介して多価性の単位に結合されている、多量体部分;ならびに、3)その複合体に特異的な抗原受容体(TCR)を有するCTL;の間の相互作用を可能にするような適切な条件下で同時インキュベートすることによって、MHC結合ペプチドが結合したMHCモノマーまたは改変MHCモノマーを提示している細胞に対する細胞傷害性T細胞リンパ球(CTL)のエフェクター機能を測定するための方法を提供する。この相互作用により、抗体のFcのFcRへの結合およびTCRの複合体への結合によって、架橋複合体が形成され、それにより、標的細胞の細胞溶解の近傍までCTLがをもたらされる。架橋複合体の形成が無い場合にそれから生成されるシグナルと比較した、架橋複合体の形成の結果として生じる、検出可能な標識からのシグナルの変化の検出は、MHCモノマーまたは改変MHCモノマーおよびMHC結合ペプチドを提示している細胞に対するCTLのエフェクター機能を示唆する。
【0023】
発明の詳細な説明
本発明は、抗原特異的CTLのエフェクター機能を検出および定量するため、およびこのようなCTLのエフェクター機能を公知の抗原のペプチドを提示している1つまたは複数のMHCモノマーを有しているまたは有していると推測される試料中の標的細胞に宛先変更するための、組成物、方法、およびキットを提供する。本発明は、多数の異なるCTL-抗原ペプチドの組み合わせを試験するために、同じ標的細胞(および、いくつかの場合では、同じ標的細胞-リガンド-抗体の組み合わせ)を使用することを可能にする架橋複合体の発見に基づいている。
【0024】
本明細書において使用される場合、「MHCモノマー」および「HLAモノマー」という用語は、集合を促進する条件下で集合して、適切なMHC結合ペプチドまたはHLA結合ペプチド、およびβ-2ミクログロブリンとの三元複合体を構築する能力を維持しているクラスI MHC重鎖を意味する。本明細書において使用される場合、「改変MHCモノマー」および「改変HLAモノマー」という用語は、前述のクラスIモノマーであるが、後述の改変を導入するために人工的に設計されたものを意味する。これらの用語はまた、復元条件下で集合して、適切なMHC結合ペプチドまたはHLA結合ペプチド、およびβ-2ミクログロブリンとの三元複合体を構築する能力、ならびに変性条件下で解離する能力を維持しているMHCモノマーの機能的断片も包含する。例えば、機能的断片は、クラスI重鎖のα1、α2、α3ドメインのみ、またはα1、α2ドメインのみ、すなわち三元複合体の形成に参加する細胞表面ドメインのみを含んでよい。別の態様において、改変MHCモノマーは、融合タンパク質中に含有される、クラスI重鎖分子もしくはその機能的断片、または「単鎖」分子でよく、かつそのモノマーの細胞表面ドメイン間のリンカー、検出可能なマーカー、または融合タンパク質中のリガンドが反応する第2のリガンドでコーティングされている固体支持体に分子を付着させるリガンドとして機能するアミノ配列をさらに含んでよい。さらに、「改変MHCモノマー」および「改変HLAモノマー」という用語は、複数の種または複数のクラスIサブクラスに由来するクラスI重鎖分子のドメインを含有するキメラを包含すると意図される。例えば、ヒトHLA-A2断片中の3つのαドメインのうちの1つをマウスH-2Kbドメインに置換することによって、キメラを調製することができる。このような分子は、サブユニット間に任意のアミノ酸リンカーを有する単鎖として、または当技術分野において公知である融合タンパク質として好都合に発現される。
【0025】
モノマーの調製
ヒトのクラスI MHCは、第6染色体上に位置し、3つの遺伝子座、HLA-、HLA-B、およびHLA-Cを有する。最初の2つの遺伝子座は、アロ抗原をコードする多数のアレルを有する。これらは、44Kdの重鎖サブユニットおよび12Kdのβ2-ミクログロブリンサブユニットからなることが判明しており、これは、すべての抗原特異性に共通している。例えば、可溶性のHLA-A2は、Turner, M. J. et al., J. Biol. Chem. (1977) 252:7555-7567によって記載されているように、ホモ接合性のヒトリンパ芽球細胞系統J〜Yに由来する形質膜のパパイン消化後に精製することができる。パパインは、膜貫通領域に近い44Kd重鎖を切断し、α1、α2、α3ドメイン、およびβ2-ミクログロブリンからなる分子を生成させる。
【0026】
MHCモノマーは、適切な細胞から単離することができ、または例えば、Paulら(Fundamental Immunology, 2d Ed., W. E. Paul, ed., Ravens Press N. Y. 1989, Chapters 16-18)によって記載されているように、組換えによって作製することができ、かつ後述するように、容易に改変することができる。
【0027】
本明細書においてMHCモノマーに適用される「単離された」という用語は、その天然の状態以外の状態にある、例えば、通常MHCを発現する細胞の細胞膜に結合していない、MHCクラスIのMHC糖タンパク質重鎖を意味する。この用語は、完全長のサブユニット鎖、ならびにMHCモノマーの機能的断片を包含する。機能的断片は、抗原結合部位、および適切なT細胞受容体によって認識されるために必要な配列を含むものである。これは、典型的には、完全長の鎖の配列の少なくとも約60〜80%、典型的には90〜95%を含む。本明細書において記述するように、「単離された」MHCサブユニット成分は、組換えによって作製しても、または適切な細胞供給源から可溶化してもよい。
【0028】
「成熟した」MHC糖タンパク質モノマーの天然型の長さは、配列中の1つまたは複数のアミノ酸の欠失、置換、および挿入または付加が原因となって、いくらか変動することは周知である。したがって、MHCモノマーは、実質的な天然の改変の影響を受けるが、それでもなお、それらの機能を保持することができる。改変されたタンパク質鎖もまた、当業者には周知であり、かつ詳細に後述する様々な組換えDNA技術を利用することによって、容易に設計および製造することができる。例えば、これらの鎖は、アミノ酸の置換、付加、欠失などによって、一次構造のレベルで、天然に存在する配列と異なり得る。これらの改変は、最終の改変タンパク質鎖を作製するために、いくつか組み合わせて使用することができる。
【0029】
一般に、MHCモノマーをコードしている遺伝子の改変は、部位特異的変異誘発など様々な周知の技術によって容易に遂行することができる。個々の任意の改変の影響は、所望の特徴に関する、適切なアッセイ法における常用のスクリーニングによって、評価することができる。例えば、サブユニットの免疫学的特徴の変化は、適切な抗体を用いた競合イムノアッセイ法によって検出することができる。モノマーのT細胞活性化能力に対する改変の影響は、標準的なインビトロの細胞アッセイ法、または以下の実施例のセクションで記述する方法を用いて、試験することができる。酸化還元安定性もしくは熱安定性、疎水性、タンパク分解に対する感受性、または凝集傾向など他の諸特性の改変はすべて、標準の技術に従って分析される。
【0030】
抗原ペプチドおよび/またはT細胞受容に対するサブユニットの親和力を増加させること、安定性を促進すること、サブユニットの精製および調製を含む、様々な目的を意図して調製される、アミノ鎖配列を改変されたMHCモノマーは、本発明の範囲内であると企図される。これらのモノマーはまた、血漿中半減期を変更し、治療有効性を改善し、または本発明の複合体を治療に使用している間の副作用の重症度もしくは発生率を低下させるようにも改変され得る。アミノ酸配列を改変されたサブユニットは、通常、天然には存在しない所定の変異体、または天然に存在するアレルである。変異体は、典型的には、天然に存在する類似体と同じ生物活性(例えば、MHCペプチド結合性)を示す。
【0031】
本発明の挿入改変は、MHCモノマー中の所定の部位中に1つまたは複数のアミノ酸残基が導入され、かつ既存の残基を置換するものである。例えば、挿入改変は、サブユニットのアミノまたはカルボキシル末端への、異種タンパク質またはポリペプチドの融合であってよい。
【0032】
当技術分野において公知であるように、他の改変には、モノマーと異種シグナル配列との融合、ならびに改善された血漿中半減期(普通は約20時間より長い)を有する、免疫グロブリン鎖またはそれらの断片などのポリペプチドへのモノマーの融合が含まれる。
【0033】
置換改変は、少なくとも1つの残基が除去され、かつ異なる残基がその場所に挿入されているものである。非天然アミノ酸(すなわち、天然タンパク質中に通常は存在しないアミノ酸)、ならびに等配電子の類似体(アミノ酸または別のもの)もまた、本発明において使用するのに適している。
【0034】
ポリペプチド主鎖の構造(例えば、シートもしくはらせん構造)の維持、標的部位での分子の電荷もしくは疎水性、または側鎖の大きさに与える影響が異なる置換残基を選択することによって、機能または免疫学的アイデンティティが実質的に変更される。機能に最大の変化をもたらすと一般に予想される置換は、(a)親水性残基、例えばセリンもしくはトレオニンで、疎水性残基、例えばロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、もしくはアラニンを置換しているもの(もしくはその逆);(b)システインもしくはプロリンで、他の任意の残基を置換しているもの(もしくはその逆);(c)電気陽性の側鎖を有する残基、例えばリジン、アルギニン、もしくはヒスチジンで、電気陰性の残基、例えばグルタミンもしくはアスパルチン(aspartine)を置換しているもの(もしくはその逆);または(d)かさ高い側鎖を有する残基、例えばフェニルアラニンで、側鎖を有していないもの、例えば、グリシンを置換しているもの(またはその逆)であると考えられる。
【0035】
モノマーの置換改変には、他のタンパク質の機能的に相同な(少なくとも約70%の相同性を有する)ドメインで、MHCサブユニットドメインの1つまたは複数を常法によって置換しているものも含まれる。この目的のために特に好ましいタンパク質は、本明細書において図9で例示したようにマウス種など他の種に由来するドメインである。
【0036】
改変の別の種類は、欠失改変である。欠失は、MHCモノマー配列からの1つまたは複数のアミノ酸残基の除去を特徴とする。典型的には、膜貫通ドメインおよび細胞質内ドメインの欠失が引き起こされる。システインまたは他の不安定な残基の欠失も、例えばMHC複合体の酸化安定性を高める際に、望ましいことがある。潜在的なタンパク分解部位、例えばArgArgの欠失または置換は、塩基性残基のうちの1つを除去すること、またはそのような残基1つをグルタミニル残基またはヒスチジル残基によって置換することによって達成される。
【0037】
置換改変または欠失改変の好ましいクラスは、サブユニットの膜貫通領域を関与させるものを含む。MHCモノマーの膜貫通領域は、細胞膜の脂質二重層にまたがるのに適したサイズの、疎水性または親油性の高いドメインである。これらは、細胞膜中にMHC分子を係留していると考えられている。典型的には膜貫通ドメインのヒドロキシル化残基の欠失または置換による、膜貫通ドメインの不活性化は、細胞または膜脂質に対する親和性の低減および水溶解性の改善による復元および形成(formulation)を容易にすると考えられる。または、膜貫通ドメインおよび細胞質内ドメインに欠失を起こして、潜在的に免疫原性のエピトープの導入を避けることができる。膜結合機能の不活性化は、実質的に親水性のヒドロパシー分布をこの部位に生じさせるのに十分な残基の欠失によって、または同じ結果を実現する、異種残基での置換によって達成される。
【0038】
不活性化された膜貫通MHCモノマーの主要な利点は、組換え宿主の培養培地中にそれが分泌され得るということである。この変異体は、血液などの体液中に可溶性であり、かつ細胞膜脂質に対して感知できるほどの親和性を有しておらず、したがって、組換え細胞培養物からの回収がかなり簡易になる。典型的には、本発明の改変MHCモノマーは、機能的な膜貫通ドメインを有さず、好ましくは、機能的な細胞質配列を有さない。このような改変MHCモノマーは、本質的にMHCモノマーの細胞外ドメインの有効な部分からなると考えられる。いくつかの状況では、このモノマーは、溶解性が顕著に影響されない限りにおいて、膜貫通領域に由来する配列(最大で約10個のアミノ酸)を含む。
【0039】
例えば、膜貫通ドメインは、全体として親水性のヒドロパシー分布を示す、任意のアミノ酸配列、例えば、約5〜50個のセリン、トレオニン、リジン、アルギニン、グルタミン、アスパラギン酸、および同様の親水性残基のランダムなまたは所定の配列によって置換され得る。欠失した(短縮された)モノマーと同様に、これらのモノマーは、組換え宿主の培養培地中に分泌される。
【0040】
グリコシル化変異体は、本発明の範囲内に含まれる。これらには、グリコシル化を完全に欠いている変異体(非グリコシル化)、および天然型より少なくとも1つグリコシル化部位が少ない変異体(脱グリコシル化)、ならびにグリコシル化が変更されている変異体が含まれる。脱グリコシル化および非グリコシル化アミノ酸配列変異体、天然の未改変アミノ酸配列を有する脱グリコシル化および非グリコシル化サブユニットが含まれる。例えば、置換または欠失の変異誘発が、サブユニットのNまたはO結合型グリコシル化部位を除去するために使用される。例えば、アスパラギン残基が欠失され、またはリジンもしくはヒスジチンなど別の塩基性残基によって置換される。または、たとえアスパラギン残基が未変更のままであっても、グリコシル化認識部位を除去することによってグリコシル化を妨げるために、グリコシル化部位を構成している隣接残基が置換または欠失させられる。さらに、原核生物は、ポリペプチド中にグリコシル化を導入することができないため、天然モノマーのアミノ酸配列を有する非グリコシル化MHCモノマーは、組換え原核細胞培養で作製される。
【0041】
グリコシル化変異体は、適切な宿主細胞を選択することによって、またはインビトロの方法によって、好都合に作製される。例えば、酵母は、哺乳動物系のものとは著しく異なるグリコシル化を導入する。同様に、MHC供給源以外の異なる種(例えば、ハムスター、マウス、昆虫、ブタ、ウシ、もしくはヒツジ)または組織(例えば、肺、肝臓、リンパ、間葉、もしくは上皮)を起源とする哺乳動物細胞は、通常、例えば、高レベルのマンノース、またはマンノース、フコース、シアル酸、および哺乳動物細胞の糖タンパク質中に典型的に存在する他の糖の異なる比を特徴とする異なるグリコシル化を導入する能力に関して、スクリーニングされる。サブユニットのインビトロ処理は、典型的に、酵素的加水分解、例えば、ノイラミニダーゼ消化によって実施される。
【0042】
本発明において使用するのに適したMHC糖タンパク質は、パパインによる処理、3M KClによる処理、および界面活性剤による処理による可溶化を含む様々な技術を用いて、多種多様の細胞から単離されている。例えば、クラスIタンパク質の界面活性剤抽出とそれに続くアフニティ精製を使用することができる。次いで、透析、または選択的に結合するビーズによって、界面活性剤を除去することができる。これらの分子は、MHC Iを有する任意の細胞から、例えば、標的とする癌またはウイルス性疾患に罹患している個体からの単離よって得ることができる。
【0043】
単離されたMHC糖タンパク質からの個々の重鎖の単離は、当業者に公知の標準技術を用いて、容易に実現される。例えば、重鎖は、SDS/PAGEおよびゲルからの重鎖の電気溶出によって分離することができる(例えば、前掲のDornmair et al.およびHunkapiller, et al., Methods in Enzymol. 91:227-236 (1983)を参照されたい)。Gorga et al. J. Biol. Chem. 262:16087-16094 (1987)およびDornmair et al. Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol.54:409-416 (1989)に記載されているようにSDS/PAGEとそれに続く電気溶出によって、MHC I分子の個々のサブユニットも、単離される。イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、またはアフィニティクロマトグラフィーなど、分子を分離する他のいくつかの標準的方法を使用できることが、当業者には認識されよう。
【0044】
または、いくつかのクラスIタンパク質のアミノ酸配列が公知であり、かつそれらの遺伝子がクローニングされており、したがって、重鎖モノマーは、組換え法によって発現させることができる。これらの技術により、前述したMHCモノマーのいくつかの改変が可能になる。例えば、組換え技術は、疎水性の膜貫通ドメインを欠失させる、カルボキシ末端切断のための方法を提供する。これらのカルボキシ末端もまた、例えば分子中にシステインおよび/またはリジン残基を導入することによって、リガンドまたは標識の結合を促進するために、適宜、選択することができる。合成遺伝子は、典型的には、発現ベクター中への挿入およびその遺伝子配列の操作を助けるための制限酵素部位を含む。次いで、適切なモノマーをコードしている遺伝子が、発現ベクター中に挿入され、大腸菌、酵母、昆虫、または他の適切な細胞など適切な宿主中で発現され、組換えタンパク質が得られる。
【0045】
遺伝子を利用できることにより、配列を容易に操作することが可能となるため、第2世代の構築は、キメラ構築物を含む。クラスI重鎖のα1、α2、α3ドメインは、典型的には、クラスIのα3ドメインによってβ2-ミクログロブリンと結合し、同時発現して複合体を安定させる。クラスI遺伝子の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインも、任意で含まれ得る。
【0046】
発現ベクターの構築および適切なDNA配列からの組換え体作製は、当技術分野において公知の方法によって実施される。DNAおよびRNAの単離、増幅、およびクローニングのために、標準的技術が使用される。一般に、DNAリガーゼ、DNAポリメラーゼ、制限エンドヌクレアーゼなどを伴う酵素反応は、製造業者の仕様書に従って実施される。これらの技術および他の様々な技術は、一般に、Sambrook et al., Molecular Cloning--A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N. Y., 1989に従って実施される。その中に記載されている手順は、当技術分野において周知であると考えられる。
【0047】
発現は、原核系または真核系において実施し得る。適切な真核系には、誘導可能なプロモーターの制御下のショウジョウバエ(Drosophila)発現ベクターなど、酵母、植物、および昆虫の系が含まれる。原核生物の代表として最も頻繁に挙げられるのは、様々な大腸菌株である。しかしながら、桿菌、例えば、枯草菌(Bacillus subtilis)、シュードモナス属(Pseudomonas)の様々な種、または他の細菌株など他の微生物株も使用してよい。このような原核系において、宿主と適合性のある種に由来する複製部位および制御配列を有するプラスミドベクターが使用される。例えば、大腸菌は、典型的には、pBR322、すなわちBolivar et al., Gene (1977) 2:95によってある大腸菌種から誘導されたプラスミドの誘導体を用いて形質転換される。原核生物の制御配列が一般に使用され、本明細書において、これらは、リボソーム結合部位配列と共に、転写開始のためのプロモーターを、任意でオペレーターと共に含むものと定義され、β-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)およびラクトース(lac)プロモーターの系(Change et al., Nature (1977) 198:1056)、およびトリプトファン(trp)プロモーター系(Goeddel et al., Nucleic Acids Res. (1980) 8:4057)、ならびにλ由来PLプロモーターおよびN-遺伝子リボソーム結合部位(Shimatake et al., Nature(1981) 292:128)などの一般に使用されるプロモーターが含まれる。原核生物に適合性のある任意の利用可能なプロモーター系を使用することができる。
【0048】
真核宿主において有用な発現系は、適切な真核生物遺伝子に由来するプロモーターを含む。例えば、酵母において有用なプロモーターのクラスには、3-ホスホグリセリン酸キナーゼ(Hitzeman, et al., J. Biol. Chem. (1980) 255:2073)のためのものを含む、糖分解酵素の合成のためのプロモーターが含まれる。他のプロモーターには、例えば、エノラーゼ遺伝子(Holland, M.J., et al. J.Biol. Chem. (1981) 256:1385)またはYEp13から得られるLeu2遺伝子(Broach, J., et al., Gene(1978) 8:121)に由来するものなどが含まれる。誘導可能なプロモーターの制御下のショウジョウバエ発現系(Invitrogen, San Diego, CA)もまた使用することができる。
【0049】
適切な哺乳動物プロモーターには、SV40に由来する初期および後期プロモーター(Fiers, et al., Nature (1978) 273:113)、またはポリオーマウイルス、アデノウイルスII、ウシパピローマウイルス、もしくはトリ肉腫ウイルスに由来するものなど他のウイルスプロモーターが含まれる。適切なウイルスおよび哺乳動物のエンハンサーは、上記に挙げられている。
【0050】
発現系は、当技術分野においてよく理解されている標準的なライゲーション技術および制限技術を使用する標準方法を用いて、MHC配列に機能的に結合された前述の制御エレメントから構築される。単離されたプラスミド、DNA配列、または合成されたオリゴヌクレオチドが、所望の形態で、切断され、調整され、かつ再連結される。
【0051】
部位特異的なDNA切断は、当技術分野において一般に理解されており、かつ個々については、市販されているこれらの制限酵素の製造業者によって指定されている条件下で、適切なある制限酵素(または複数の酵素)を用いた処理によって実施される。通常、約1μgのプラスミドまたはDNA配列が、緩衝液約20μl中1ユニットの酵素によって切断される;DNA基質の完全な消化を確実にするために、過剰な制限酵素を使用してよい。各インキュベーション後に、フェノール/クロロホルムによる抽出によってタンパク質を除去し、その後エーテル抽出を行ってもよく、かつエタノール沈降によって水性画分から核酸を回収し、続いて、Sephadex G-50スピンカラムに通した。望ましいならば、切断された断片のサイズ分離を実施してもよい。
【0052】
制限切断された断片は、4種のデオキシヌクレオチド3リン酸(dNTP)の存在下で大腸菌DNAポリメラーゼI(クレノウ)のラージフラグメントで処理することによって、平滑末端化することができる。クレノウによる処理の後、この混合物をフェノール/クロロホルムで抽出し、エタノール沈降し、次いで、Sephadex G-50スピンカラムに通す。
【0053】
合成オリゴヌクレオチドは、市販されているオリゴヌクレオチド自動合成機を用いて調製される。しかしながら、本発明のタンパク質においては、合成遺伝子が都合良く使用される。遺伝子設計は、コード配列部分をコード性のこれらの類似体で置換するための容易な遺伝子操作を可能にする制限部位を含み得る。
【0054】
プラスミド構築のための正確なライゲーションは、ライゲーション混合物を用いて大腸菌株MM294(E.coli Genetic Stock Centerから入手、CGSC#6135)、または他の適切な宿主を最初に形質転換することによって、確認することができる。成功した形質転換体は、当技術分野において理解されているように、アンピシリン、テトラサイクリン、もしくは他の抗生物質抵抗性によって、またはプラスミド構築の形態に依存する他のマーカーを用いることによって、選別することができる。次いで、任意でクロラムフェニコール増幅を行った後に、形質転換体に由来するプラスミドが調製される。単離されたDNAは、制限によって解析され、かつ/またはMessing, et al., Nucleic Acids Res.(1981) 9:309によってさらに詳しく説明されているSanger, F., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1977) 74:5463のジデオキシ法によって、もしくはMaxam, et al., Methods in Enzymology (1980) 65:499の方法によって、配列決定される。
【0055】
次いで、構築されたベクターは、タンパク質を作製するのに適した宿主中へ形質転換される。形質転換は、使用される宿主細胞に応じて、それらの細胞に適した標準技術を用いて実施される。Cohen, S.N., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1972)69:2110によって記載されているような、塩化カルシウムを使用するカルシウム処理、またはManiatis, et al., Molecular Cloning:A Laboratory Manual (1982) Cold Spring Harbor Press, p.254において記載されているRbCl法が、実質的な細胞壁障壁を有する原核生物または他の細胞用に使用される。このような細胞壁を持たない哺乳動物細胞の場合、Graham and van der Eb, Virology (1978) 52:546のリン酸カルシウム沈殿法またはエレクトロポレーションが好ましい。酵母中への形質転換は、Van Solingen, P., et al., J. Bacter. (1977) 130:946およびHsiao, C. L., et al., Proc.Natl. Acad. Sci. USA (1979) 76:3829の方法に従って実施される。
【0056】
次いで、形質転換された細胞は、MHC配列、および培養物から回収される組換えによって作製されるタンパク質の発現を促進する条件下で培養される。
【0057】
MHC結合ペプチド
抗原提示細胞(APC)の表面上のMHC糖タンパク質による抗原の提示は、抗原タンパク質のより小型のペプチド単位への加水分解の後で起こると考えられている。抗原タンパク質内部のこれらのより小型の部分の位置は、実験的に測定することができる。これらのMHC結合ペプチドは、長さが約8〜約10、場合によっては約8〜約11、または約8〜約12残基であり、かつアグレトープ(MHC分子によって認識される)およびエピトープ(T細胞上のT細胞受容体によって認識される)の双方を有すると考えられている。エピトープは、抗原特異的なT細胞受容体(TCR)によって認識される、約5〜6個のアミノ酸の連続的または非連続的な配列である。アグレトープは、ペプチドのMHC糖タンパク質との結合を担っている連続的または非連続的な配列である。
【0058】
本発明の組成物および方法において、MHCテトラマーおよびMHC多量体は、抗原特異的な方式で、CTLと結合またはCTLを検出するのに使用されるため、抗原ペプチドは、検出しようとするCTL、または結合先として望まれるCTLの特異性に基づいて選択される。MHC分子によって結合され、かつT細胞に対して提示される抗原ペプチドは、当技術分野において周知であり、例えば、MART1特異的ペプチド、HIVgag特異的ペプチド、HIVpol特異的ペプチドなどが含まれる(実施例1を参照されたい;また、Lang and Bodinier, Transfusion 41:687-690, 2001; Pittet et al., Intl.Immunopharm. 1:12351247, 2001;米国特許第6,037,135号;国際公開公報第94/20127号;国際公開公報第97/34617号も参照されたい)。
【0059】
「MHCモノマー」は、本明細書において、MHC結合ポケット中に結合したMHC結合ペプチドを有するクラスIA分子およびクラスIB分子を含む、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子によって例示される。MHCクラスIA分子は、H2-D、H2-K、およびH2-L分子などのマウスH2分子、ならびにHLA-A、HLA-B、およびHLA-C分子などのヒトリンパ球抗原(HLA)分子によって例示され、MHCクラスIB分子は、HLA-E、HLA-F、およびHLA-G分子によって例示される。
【0060】
「MHC多量体」は、本明細書においてこの用語が使用される場合、2つまたはそれ以上、通常、4つから最大約50またはそれ以上のMHCモノマーの複合体を意味する。例えば、組換えによってその表面上で複数のMHCモノマーを発現する酵母細胞、または複数のMHCモノマーがその表面に結合するリポソームは、多量体を共に結合する多価性の単位としてその酵母細胞またはリポソームを用いることによって、MHC多量体を形成する。より一般には、MHC多量体を共に結合するのに使用される「多価性の単位」は、多価性の単位に対して特異的な結合部位を有する改変されたMHCモノマーが結合すると考えられる複数の特異的結合部位を有する、ストレプトアビジンなどの分子である。
【0061】
本明細書において使用される場合、「複合体」という用語は、「架橋複合体」とは区別され、生理的条件下で互いに特異的に結合する任意の2つの分子、特にタンパク質を広く指すために使用される。「複合体」という用語はまた、2つまたはそれ以上の分子複合体の特異的結合も含む。「MHCモノマー」という用語は、本明細書において、MHCクラスI分子、β2-ミクログロブリン、および一般にMHCクラスI分子のペプチド結合ポケット(クレフト)に特異的に結合されるMHC結合ペプチドの間で形成される複合体をより具体的に指すために使用される。MHCモノマーは、モノマーのクラスI成分中に人工的に作製されたペプチド配列、例えば、BirA酵素のためのビオチン化部位を有するシグナル配列をさらに含んでよく、かつ検出可能な標識を含んでよい。「MHC多量体」、または「MHCモノマーもしくは改変MHCモノマーの多量体複合体」という用語は、本明細書において、通常は多価性の単位を介して共に結合された、2つまたはそれ以上のMHCモノマーを有する複合体を指すために使用される。MHC多量体は、MHCダイマー、MHCトリマー、MHCテトラマーなどを含み得る(例えば、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,635,363号を参照されたい)。MHC多量体中の各MHCモノマーはまた、直接、例えば、ジスルフィド結合を介して、または間接的に、例えば、特異的結合対を介しても結合されることができ、かつ例えば、モノマーのMHCクラスI分子成分中に人工的に作製し得るロイシンジッパーなど、モノマーの2次または3次構造の間の特異的相互作用を介しても、結合されることができる。MHCテトラマーは4つのMHCモノマーの複合体であり、特異的ペプチド抗原と結合され、かつ蛍光色素を含む(米国特許第5,635,363号)。
【0062】
MHCクラスIモノマーは、重鎖の膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを、ビオチン化できるペプチド配列で置き換えることによって調製され、かつMHCクラスIテトラマーは、これらのモノマーを、4つのビオチン部分を結合できるストレプトアビジンと接触させることによって形成されており(例えば、参照によりそれぞれ本明細書に組み入れられるAltman et al.,Science 274:94-96, 1996; Ogg and McMichael, Curr. Opin. Immunol. 10:393-396, 1998を参照されたい;同様に、米国特許第5,635,363号も参照されたい)、市販されている(Immunomics/Beckman Coulter, Inc.)。
【0063】
MHCテトラマーは、細胞表面CD8へのHLA分子の結合を最小化するためのHLA-A*0201、HLA-B*3501、HLA-A*1101、HLA-B*0801、およびHLA-B*705を含む突然変異させたクラスIA HLA分子を含む、MHCクラスI分子を用いて調製されてきた(前掲のOgg and McMichael, 1998)。記号「m」は、クラスIA分子が変異体であることを示すために使用される;例えば、HLA-A*0201mは、A245V置換を導入することによって、HLA-A*0201から作製される(例えば、Bodinier et al., Nat.Med. 6:707-710, 2000を参照されたい)。変異HLA分子を有するMHCテトラマーは、CD8細胞の一般的集団への結合は大きく減少しているが、ペプチド特異的結合は保持しており、したがって希少かつ特定のT細胞(CD8+の1%未満;前掲のAltman et al., 1996)の正確な識別を容易にする。例えば、それぞれが特定のペプチドに結合され、かつフィコエリトリン(PE)と結合している、4つのHLA-A*0201 MHCクラスIA分子から構成されるMHCテトラマーが、調製されている(「iTag(商標)MHCテトラマー」;Immunomics/Beckman Coulter, Inc.)。HLA-A0201アレルが全体集団の約40%〜50%において発見されており、CD8を介した結合を最小化するように改変されている(参照により本明細書に組み入れられるBodinier et al., Nat. Med. 6:707-710, 2000)。これらの複合体は、CD8+T細胞のサブセット上のT細胞受容体(TCR)の独特の組に結合する(参照により本明細書に組み入れられるMcMichael and O'Callaghan, J. Exp. Med. 187:1367-1371, 1998)。iTag(商標)MHCテトラマー複合体は、例えば複合体中の特定のペプチドおよびHLA分子に特異的なヒトCD8+T細胞を認識する。特異的結合は、機能的経路に依存していないため、これらのテトラマーによって同定される集団は、機能的状態に関わらず、すべての特異的なCD8+細胞を含む。
【0064】
MHCテトラマーまたは他のMHC多量体の各モノマーは、共有結合的にまたは非共有結合的に、および物理的結合もしくは化学結合を介して直接的に、または特異的結合対の使用を介してもしくは特異的結合対の使用を介して多価性の単位に結合することによって間接的に、機能的に結合され得る。または、MHC多量体のモノマーは、MHCモノマーに対する複数の特異的結合部位を有する多価性の単位に機能的に結合され得る。本明細書において使用される場合、「機能的に結合される」または「機能的に連結される」という用語は、第1の分子および少なくとも第2の分子が、各分子がその本来のまたは天然の機能を実質的に維持するような方式で、共有結合的にまたは非共有結合的に、相互に結合していることを意味する。例えば、あるペプチド抗原にそれぞれが特異的に結合できる2つまたはそれ以上のMHCモノマーが、機能的に結合してMHC多量体を形成している場合、MHC多量体中の2つまたはそれ以上のMHCモノマーのそれぞれは、ペプチド抗原に特異的に結合できるその能力を維持している。MHC多量体がT細胞に抗原ペプチドを提示する能力を実質的に低減または阻害しないことを条件として、モノマーを機能的に結合するために、任意の手段を使用することができる。一般に、MHCモノマーは、各モノマーの重鎖成分を介して、相互にまたは多量体部分に連結されている。したがって、これらのモノマーは、例えば、重鎖を含むアミノ酸の反応性側鎖基の間で形成されている鎖間ペプチド結合を介して、重鎖中のシステイン残基間で形成される鎖間ジスルフィド結合を介して、またはアミノ酸側鎖を代表とする化学基間で一般に形成され得る他の任意のタイプの結合を介して、連結され得る。MHC多量体のモノマーを多価性の単位に機能的に結合するための便利な手段は、結合対をなす各部分である特異的結合部位を利用する。MHC多量体が、多量体部分へのMHCモノマーの結合によって形成される場合、これらのモノマーおよび多価性の単位は、それぞれ1つの結合対を構成する特異的結合部位のうちの一方を提供する。
【0065】
例えば、これらのモノマーの重鎖をビオチン化し、かつ4つのビオチン結合部位を天然に有するストレプトアビジンに化学的に結合させることによって、テトラマーを形成させることができる(図1)。本明細書において使用される場合、「特異的結合対」という用語は、互いに特異的に相互作用できる2つの分子を意味する。特異的結合対の2つの分子は、「特異的結合対のメンバー」または「結合相手」と呼ぶことができる。特異的結合対は、イムノアッセイ法を実施するのに一般に使用される条件下で、その相互作用が安定になるように選択される。多数の特異的結合対が当技術分野において周知であり、例えば、あるエピトープと特異的に相互作用する抗体およびそのエピトープ、例えば、抗FLAG抗体およびFLAGペプチド(Hoppet al., Bio Technology 6:1204 (1988);米国特許第5,011,912号);グルタチオンおよびグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST);ニッケルイオンまたはコバルトイオンなどの二価の金属イオンおよびポリヒスチジンペプチドなどが含まれる。
【0066】
ビオチンおよびストレプトアビジンは、MHCテトラマーを調製するのに使用されており(ストレプトアビジンが、ビオチンに対する4つの特異的結合部位を提供する多価性の単位として作用する)、かつビオチンおよびアビジンも使用することができる。これらの特異的結合対は、単一のアビジンまたはストレプトアビジン分子が、4つのビオチン部分に結合できるという利点をもたらし、したがって、テトラマーなどのMHC多量体を調製するための簡便な手段を提供する。ビオチンは、MHC重鎖のリジン残基に化学的に結合させることができ、または酵素BirAのためのビオチン化部位を含むペプチドシグナル配列を含むように重鎖が改変される酵素反応を用いて、結合させることができる(前掲のAltman et al., 1996;前掲のOgg and McMichael, 1998を参照されたい)。または、ビオチンは、リジン残基の数がMHC重鎖より少ないβ2-ミクログロブリンにも連結させることができ、または到達可能なリジン残基をただ1つしか含まないように変異誘発させられた変異β2-ミクログロブリンにも連結させることができる。
【0067】
「抗体」という用語は、本明細書において広く使用され、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ならびにFabなどこれらの抗体の抗原結合断片を含むが、ただし、本発明の構築物および方法で使用される標的細胞上のリガンドとしての腫瘍抗原に特異的に結合し、かつテトラマー複合体中の多価性の単位として使用されるストレプトアビジンに化学的に結合される抗体は、本発明から具体的には除外される。
【0068】
抗体に関連して使用される場合の「特異的に結合する」または「特異的に相互作用する」という用語は、抗体と特定のエピトープとの相互作用が、少なくとも約1×10-6、一般に少なくとも約1×10-7、通常少なくとも約1×10-8、および特に少なくとも約1×10-9もしくは1×10-10またはそれより低い解離定数を有することを意味する。そのように、β2-ミクログロブリンエピトープに対する特異的結合活性を保持している抗体のFab、F(ab')2、Fd、およびFv断片は、抗体の定義内に含まれる。「特異的に結合する」または「特異的に相互作用する」という用語は、本明細書において、特異的結合対のメンバーの相互作用、ならびにβ2-ミクログロブリンとMHCクラスI重鎖の間の相互作用を指すのにも同様に使用される。
【0069】
本発明の個々の方法によって、架橋複合体の標的細胞が抗体結合リガンドとしてFcRを発現する場合、Fc領域を有する抗体が本発明の架橋複合体を形成する際に特に有用である。
【0070】
通常、本明細書において使用される「抗体」という用語には、例えば、単鎖抗体、キメラ抗体、二機能性抗体または二重特異性抗体、およびヒト化抗体、ならびにそれらの抗原結合断片を含む、天然に存在する抗体ならびに天然に存在しない抗体が含まれる。このような天然に存在しない抗体は、固相ペプチド合成を用いて構築することができ、組換えによって作製することができ、または例えば、多様な重鎖および多様な軽鎖からなるコンビナトリアルライブラリー(Huse et al., Science 246:1275-1281, 1989を参照されたい)をスクリーニングすることによって得ることができる。例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、CDR移植抗体、単鎖抗体、および二機能性抗体または二重特異性抗体を作製するこれらおよび他の方法は、当業者には周知である(Winter and Harris, Immunol.Today 14:243-246, 1993; Ward et al., Nature 341:544-546, 1989; Harlow and Lane, Antibodies:A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988) ; Hilyard et al., ProteinEngineering:A practical approach (IRL Press 1992); Borrabeck, Antibody Engineering, 2d ed. (Oxford University Press 1995))。
【0071】
所望の特異性を有する抗体は、周知の方法を用いて得ることができる。例えば、C21.48Aと実質的に同じ特異的結合活性を有する抗体は、Liabeufら(前掲、1981年)によって記載されている方法、またはそうでなければ、当技術分野において公知の方法を用いて調製することができる(Harlow and Lane, Antibodies:A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press1988))。例えば、細胞の表面上の特定のペプチドリガンドに特異的に結合する抗体は、腫瘍マーカーFc受容体またはそのペプチド部分を免疫原として使用し、他の抗原と結合する抗体を除去することによって得ることができる。細胞表面のマーカーは、細胞によって発現された場合に細胞表面上に存在する、特定の疾患状態と関連付けられている特定のタイプの細胞を識別するのに適した抗原ペプチドである。このような抗原ペプチドは、結晶学的データまたは周知のタンパク質モデリング法を用いて特定することができる(例えば、参照によりそれぞれ本明細書に組み入れられる、Shields et al., J.Immunol. 160:2297-2307, 1998; Pedersen et al., Eur. J. Immunol. 25:1609, 1995; Evans et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 79:1994, 1995; Garboczi et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 89:3429-3433, 1992; Fremont et al., Science 257:919, 1992を参照されたい)。
【0072】
モノクローナル抗体もまた、当技術分野において周知かつ常用の方法を用いて得ることができる(Kohler and Milstein, Nature 256:495, 1975;前掲のColigan et al., 1992、セクション2.5.1-2.6.7;前掲のHarlow and Lane, 1988)。例えば、腫瘍マーカーもしくはペプチドタグ、またはそのエピトープ断片で免疫化したマウスに由来する脾臓細胞を、SP/02骨髄腫細胞など適切な骨髄腫細胞系統に融合させて、ハイブリドーマ細胞を作製することができる。クローン化されたハイブリドーマ細胞系統は、例えば、適切な特異性を有するモノクローナル抗体を分泌するクローンを特定するための標識されたβ2-ミクログロブリンを用いて、スクリーニングすることができ、かつ望ましい特異性および親和性を有する抗体を発現しているハイブリドーマを単離して、抗体の連続的な供給源として利用することができる。ポリクローナル抗体も同様に、例えば、免疫化した動物の血清から単離することができる。このような単離された抗体を、細胞表面の腫瘍マーカーFc受容体または細胞表面上で発現されるペプチドタグに特異的に結合できないことを指標にして、さらにスクリーニングすることができる。このような抗体は、本発明の方法を実施するのに有用である上に、例えば、規格化されたキットを調製するのにも有用である。
【0073】
例えばモノクローナル抗体は、例えばProtein-A SEPHAROSEゲルを用いるアフィニティクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーを含む、様々な確立した技術によって、ハイブリドーマ培養物から単離および精製することができる(Barnes et al., in Meth. Mol. Biol.10:79-104 (Humana Press 1992);前掲のColigan et al., 1992、セクション2.7.1-2.7.12およびセクション2.9.1-2.9.3を参照されたい)。モノクローナル抗体のインビトロおよびインビボの増殖方法は周知である。例えば、インビトロの増殖は、ウシ胎児血清などの哺乳動物血清または微量元素、および正常マウスの腹腔滲出細胞、脾臓細胞、骨髄マクロファージなどの増殖維持用栄養補給物を任意で補給した、ダルベッコ改変イーグル培地またはRPMI 1640培地などの適切な培養培地中で実施することができる。インビトロでの作製は、比較的純粋な抗体調製物を提供し、かつ大量の所望の抗体を生じるためのスケールアップを可能にする。大規模のハイブリドーマ培養は、エアリフトリアクター、連続攪拌リアクターにおける均質な懸濁培養によって、または固定式もしくは閉じ込め式(entrapped)の細胞培養において実施することができる。インビボでの増殖は、親細胞と組織適合性の哺乳動物、例えば同系マウス中に細胞クローンを注射して、抗体産生腫瘍の増殖を引き起こすことによって、実施することができる。注射の前に、任意で、炭化水素、例えば、プリスタン(テトラメチルペンタデカン)などの油で動物に下処理を施してもよい。1〜3週間後、所望のモノクローナル抗体が、動物の体液から回収される。
【0074】
特定の態様において、抗体および抗体の抗原結合断片は、Fc領域、およびFabまたはF(ab')2などの抗原結合領域を含むものなど、本発明の架橋複合体を形成する際に有用である。抗体断片は、従来の方法により、抗体全体のペプシンまたはパパイン消化によって得ることができる。例えば、抗体断片は、ペプシンを用いた抗体の酵素的切断によって作製され、F(ab')2で示される5S断片を提供することができる。チオール還元剤、および任意で、ジスルフィド結合の切断の結果として生じるスルフヒドリル基に対する保護基を用いて、この断片をさらに切断して、一価の3.5S Fab'断片を作製することができる。または、ペプシンを用いた酵素的切断は、2つの一価のFab'断片および1つのFc断片を直接生じる(例えば、Goldenberg,米国特許第4,036,945号および米国特許第4,331,647号;Nisonhoff et al., Arch. Biochem.Biophys. 89:230. 1960; Porter, Biochem.J. 73:119, 1959; Edelman et al., Meth. Enzymol., 1:422 (Academic Press 1967);前掲のColigan et al., 1992,セクション2.8.1-2.8.10およびセクション2.10.1-2.10.4を参照されたい)。
【0075】
さらに、本発明の架橋複合体系で使用される抗体または断片は、2つの異なる特異的結合部位に機能的に結合するための2つの特異的結合部位を有さなければならず、一方は、標的細胞の表面上に位置し、もう一方は、架橋複合体系中に組み込まれている、多量体単位上、例えば、MHC多量体上に位置する。標的細胞は、架橋複合体中のCTLと同じ特異性を有するTCRを有してはならないことに留意されたい。したがって、特異性を示す対象である抗原と特異的結合対を形成する抗体の抗原結合部分に加えて、その抗体は、付加的な特異的結合部位を有する。例えば、MHC多量体中に含まれるストレプトアビジンまたはアビジンとの特異的結合対の役割を果たすためのビオチンを組み入れるために、抗体を改変することができる。または、当技術分野において公知であり、かつ本明細書において記述するように、Niイオンとの特異的結合対の役割を果たすためのポリヒシジン(polyhisidine)タグ(例えば6つのヒシジン(hisidine)残基)を含むように、抗体を改変することもできる。別の実施例では、抗体またはその抗原結合断片がFc領域を有する場合には、そのFc領域は、本発明の架橋複合体系および使用方法において使用される標的細胞上の細胞表面リガンドとして存在し得るようなFc受容体に対する特異的結合部位の役割を果たすことができる。
【0076】
特定の態様において、本発明の架橋複合体は、MHC多量体および標的細胞の間の「架橋」を形成する2つの特異的結合部位を有する抗体によって形成される。これらの態様において、抗体上のこれらの2つの特異的結合部位は、この機能を遂行するように選択される。例として、MHC多量体の形成において使用される多価性の単位が、ニッケルをキレート化する部分を有する脂質表面(例えば、リポソーム)を有している場合には、その脂質表面でキレート化されたニッケルに対する特異的結合の相手の役割を果たすポリヒスチジンタグを有する抗体が、標的細胞の表面上で発現される、腫瘍マーカーまたは組換えリガンドなどの抗原分子に特異的に結合する抗原結合部位を有するように選択され得る。このようにして、抗体の特異的結合の各相手との結合により、MHC多量体および標的細胞の間の「架橋」が形成される。
【0077】
他の態様において、この架橋複合体は、ペプチド特異的抗体によって認識され得るペプチドタグを発現する改変テトラマーの使用によって形成される。この態様において、抗体または抗原結合断片は、ハイブリドーマ標的細胞によって遺伝的にコードされており、したがって、内在性の細胞表面タンパク質として、発現(すなわち「結合」)される。または、抗体認識部位を有するペプチド部分を有するように、MHCモノマーを遺伝学的に構築することもできる。このアプローチによって、このペプチドに特異的な抗体を使用して、2つの様式:Fc受容体による抗体の結合、または抗体を発現するハイブリドーマ標的細胞の使用によって、多量体の間の架橋を形成させることができる。例えば、標的細胞は、ヒスチジンタグに特異的に結合するその表面上で、抗体を発現するハイブリドーマであり得、MHC多量体は、ポリヒスチジンタグを含むように、またはポリヒスチジンタグを発現するように、設計することができる。
【0078】
さらに別の態様において、抗体のFc領域または抗原結合断片は、標的細胞の表面上の(天然または組換えのいずれかによって発現された)Fc受容体に特異的に結合するために使用されることができ、一方、抗体または断片の抗原結合領域は、MHC多量体の形成において使用される多価性の単位の表面上の分子に特異的に結合するように選択される。例えば、MHC多量体の形成において使用される多価性の単位が、その表面上に複数のMHCモノマーを発現するように人工的に設計された酵母細胞である場合、抗体は酵母細胞の表面上でも発現されるタンパク質タグに特異的なものでよい。
【0079】
一価の軽鎖/重鎖断片を形成するための重鎖の分離、断片のさらなる切断、または他の酵素的、化学的、もしくは遺伝的技術など、抗体を切断する方法も、それらの断片が完全な抗体によって認識される抗原に特異的に結合するという条件で、使用することができる。例えば、Fv断片は、可変性の重(VH)鎖および可変性の軽(VL)鎖の結合を含み、これは、非共有結合性の結合でもよい(Inbar et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 69:2659, 1972)。または、これらの可変鎖は、分子間のジスルフィド結合によって連結することができ、またはグルタルアルデヒドなどの化学物質によって架橋させることができる(Sandhu,Crit. Rev.Biotechnol. 12:437, 1992)。
【0080】
インビトロで行われる本発明の方法で使用される抗体は、任意の種(例えば、ヤギ、マウス、ウサギ、ヒト、ウシ、ウマなど)に由来し得る。インビトロで使用する必要性は無いが、ヒト化モノクローナル抗体もまた、望ましいならば、本発明の架橋複合体の形成、方法、またはキットにおいて使用することができる。例えば、マウス免疫グロブリンの可変性の重鎖および軽鎖に由来するマウスの相補性決定領域をコードするヌクレオチド配列を、ヒト可変領域中に導入し、次いで、マウスの対応物のフレームワーク領域にヒト残基を代わりに入れることによって、ヒト化モノクローナル抗体を作製することができる。マウス免疫グロブリンの可変領域をクローニングするための方法は公知であり(例えば、Orlandi et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 86:3833, 1989を参照されたい)、ヒト化モノクローナル抗体を作製するための方法は周知である(例えば、Jones et al., Nature 321:522, 1986; Riechmann et al., Nature 332:323, 1988; Verhoeyen et al., Science 239:1534, 1988; Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 89:4285, 1992; Singer et al., J. Immunol. 150:2844, 1993;前掲のSandhu, 1992を参照されたい)。
【0081】
本発明の方法において有用な抗体はまた、例えば、免疫グロブリンのコンビナトリアルライブラリーから単離することができる、ヒト抗体断片から誘導することもできる(例えば、Barbas et al., Methods:A Companion to Methods in Immunology 2:119, 1991; Winter et al., Ann. Rev. Immunol.12:433, 1994を参照されたい)。ヒト免疫グロブリンのファージライブラリーを作製するのに有用なクローニングベクターおよび発現ベクターは、市販されている(Stratagene; La Jolla CA)。さらに、この抗体は、抗原誘発に応答して特異的なヒト抗体を産生するように「人工的に設計された」トランスジェニックマウスから得ることができる、ヒトモノクローナル抗体から誘導することもできる(例えば、Green et al., Nature Genet.7:13, 1994; Lonberg et al., Nature 368:856, 1994; およびTaylor et al., Int. Immunol. 6:579, 1994を参照されたい;また、Abgenix, Inc. ; Fremont CAも参照されたい)。
【0082】
本発明の方法は、サンドイッチイムノアッセイ法または競合イムノアッセイ法を含むイムノアッセイ法を実施するのに典型的に使用される任意の条件下で実施される(実施例2を参照されたい)。したがって、反応は、例えば、室温(約18℃〜23℃)を含む、約4℃〜37℃の温度で、かつ約30分〜24時間の期間、例えば、約1時間または一晩(約12〜18時間)、実施することができる。反応はまた、一般に水溶液中で実施され、この水溶液は、望ましいならば、比較的狭い範囲で、例えば、約pH5、pH7、またはpH9から約1pH単位以内で反応物のpHが維持されるように緩衝剤を含有してよく、かつ生理学的濃度とほぼ同じ塩化ナトリウムまたは他の適切な塩をさらに含有してよい。
【0083】
本発明は、このような断片が、MHCモノマーまたは改変MHCモノマーとの三元複合体中に組み込まれて、特定のCTLを活性化して標的細胞を溶解させることができるかどうかを判定するために、想定されるMHC結合ペプチドを評価するための系、キット、およびアッセイ法を提供する。
【0084】
したがって、本発明は、診断用アッセイ法、ワクチン、および他の治療様式において使用するための候補ペプチドをスクリーニングする際に使用できる、系、キット、およびスクリーニング方法を提供する。本発明の方法で使用するための想定されるMHC結合ペプチドおよび公知のMHC結合ペプチドは、当技術分野において公知の任意の方法を用いて作製することができ、アミノ酸長8〜12の断片用のペプチド合成が最も好都合である。
【0085】
テトラマー架橋
図2は、テトラマー架橋の概念を示す。図3で示されるように、フローサイトメトリー解析のために、標的細胞は、2種の蛍光定量的色素で標識される:第1の検出可能な標識として使用されるCFSEおよび第2の検出可能な標識として使用されるPKH-26。CFSEは、標的細胞の細胞膜に浸透する、非荷電性フルオレセイン誘導体であり、かつ細胞酵素によって切断されて荷電型を生じる。CFSEは溶解された細胞から漏出するため、ペプチド特異的な様式で標的細胞の溶解が起こると、標識された標的細胞から生成されるCFSEシグナルの総量は変化する(すなわち、減少する)。一方、PKH-26は、すべての標的細胞を均一に標識して、フローサイトメトリーによって容易に確認される明るくかつ明確な集団をもたらす親油性色素であり、溶解された標的細胞から漏出することも、その中で薄暗くなることもない。したがって、PKH-26シグナルは、標的細胞の溶解が起こっても、実質的に未変化のままである。したがって、細胞溶解が原因で膜損傷が発生する場合、標的細胞からの蛍光色素の全量は減少し、細胞は、もはや、荷電性の色素を取込むことも保持することもできず、かつフローサイトメトリー解析を図3で例示されるように使用して、溶解された標的細胞の数を測定することができる。
【0086】
本明細書において説明する実施例では、P815細胞が標的として使用され、これらの細胞は、細胞表面上でFc受容体を発現する。CTLと共にインキュベーションをする前に、抗PE抗体(Biomeda, Foster City, CA)を用いて標的細胞表面を修飾した。細胞表面上にテトラマーが結合したCTLと共にインキュベーションをすると、TCR/iTAg/Ab/Fc受容体複合体、または「架橋複合体」は、CTLによる標識された標的細胞の溶解がペプチド特異的な方式で起こるのを可能にするような近接した近さにCTLおよび標的をもたらす。
【0087】
このような方法を実施するためのキットもまた提供される。本明細書において開示するように、本発明のイムノアッセイ法は、丈夫で、正確で、感受性が高く、かつ再現性がある。
【0088】
一つの態様において、本発明は、MHCモノマーによって活性化されたCTLのエフェクター機能を標的細胞に宛先変更するための、MHC結合ペプチドを有しているMHCモノマーのエフェクター機能を検出または測定するのに有用な架橋複合体系を提供する。本発明の架橋系は、TCRへのモノマーの抗原特異的結合だけでなく、標的細胞に対する活性化CTLの抗原特異的なエフェクター機能を測定するのにも使用できるため、MHCテトラマーアッセイ法より改良されている。さらに、本発明の架橋系は、このようなモノマーによって活性化されたCTLのエフェクター機能を、架橋複合体中のCTLのTCRがペプチド特異性を示す対象の表面ペプチドを有していない標的細胞に宛先変更するために使用することもできる。
【0089】
本発明の架橋系は、MHCモノマーまたは改変MHCモノマーの結合ポケット中に結合した抗原ペプチドに特異的なT細胞受容体(TCR)を有する細胞傷害性T細胞(CTL);少なくとも1つの抗体結合部位を有するMHCモノマーまたは改変MHCモノマーの多量体複合体;ならびに、標的細胞上の結合部位(例えば、リガンドに特異的)と結合対を形成する第1の結合部位および多量体MHCモノマー複合体上の抗体結合部位と結合対を形成する第2の結合部位を有する抗体を含む複合体である。個々の結合対を介してMHCモノマー複合体に、および結合部位(またはリガンド)を介して標的細胞に、抗体が結合すると、架橋複合体が形成され、その結果、CTLは、ペプチド特異的またはモノマーによって活性化されたCTLが標的細胞を溶解するのに十分な近さにもたらされる。標的細胞を溶解するためのエフェクター活性を有する本発明の架橋複合体系において使用されるCTLの場合、そのCTLは、モノマーによって活性化されなければならない(すなわち、CTLは、いずれもエフェクター機能を示さないナイーブまたはアネルギー性のいずれかではなく、CD8+であり、かつエフェクター機能を有さなければならない)。例えば、臨床現場においては、疾患に関連付けられている抗原によってインビボで活性化されたCTLを含有する患者の試料のエフェクター機能を、このような架橋複合体が形成する本発明の方法を用いて分析することができる。
【0090】
一つの態様において、図1で例示したように、架橋系中の多価性の単位は、ストレプトアビジンまたはアビジンであり、抗原特異的CTLは、細胞表面の腫瘍抗原に特異的なFab'抗体断片によって、およびストレプトアビジンへのその抗体の化学的結合により、腫瘍抗原を発現している標的細胞と結合している。ビオチン結合部位に対する4つの特異的結合部位を天然に有するストレプトアビジンによって、少なくとも1つ、および最大4つのビオチン化MHC/ペプチド複合体(すなわち、MHCモノマー)を共に結合させることができる。本発明の架橋複合体は、任意で、抗体上の第1の結合部位と結合対を形成する細胞表面結合部位を有する標的細胞を含でんもよい。
【0091】
MHCテトラマーを末梢血リンパ球または全血と混合し、検出システムとしてフローサイトメトリーを使用することにより、試料中のすべての抗原特異的CTLの数を得ることができる。したがって、MHCテトラマーまたは多量体は、特定のペプチドに対する細胞性応答の測定を可能にする。
【0092】
この態様において、本発明の架橋系は、抗体が結合して結合対を形成する相手となる特異的細胞表面結合部位を有する標的細胞に対するCTLのエフェクター機能を検出するのに有用である。したがって、例えば、抗体が、腫瘍細胞の表面上に存在する腫瘍マーカーに対する抗原特異性を有するように選択され、かつその抗体が、多価性の単位に化学的に結合している(この場合、化学結合が2者の間の結合対を与える)場合には、例えば、患者試料中のCTLによる標的細胞の溶解を検出することによって、患者試料が腫瘍マーカーを発現する腫瘍細胞を含有するかどうかを測定するのに、本発明の系を使用することができる。
【0093】
別の態様において、表面抗原を有する標的細胞は公知のものでよく、TCRと多価性の単位上で提示されているMHCモノマーとの間の結合力が、抗原特異的な方式でT細胞を活性化するのに十分であるかどうかを測定するのに本発明の架橋系を使用することができる。
【0094】
一つの態様において、本発明の架橋複合体系は、多価性の単位としてストレプトアビジンを含み、かつ最大4つのMHCモノマーまたは改変MHCモノマーが、そのストレプトアビジンとの結合対を形成できるようにビオチン化される。抗原特異的な抗体は、ストレプトアビジンに化学的に結合させることができる。
【0095】
別の態様において、多価性の単位は、モノマーおよび抗体に対する複数の結合部位を有するリポソームの表面などの脂質表面でもよい。例えば、この多価性の単位は、ヒスチジンタグに結合するように改変された脂質を含有するリポソームでよく、それぞれがカルボキシ末端にヒスチジンタグを有する少なくとも1つのMHCモノマーまたは改変MHCモノマーおよび抗体または抗体断片を、ヒスチジンタグを介してリポソームの表面に結合させることができる。例えば、Ni-イミノ2酢酸(Ni-IDA)またはNi-ニトリロ酢酸(Ni-NTA)を含有している脂質は、ポリヒスチジンに対する結合相手である。ヒスチジンタグに結合するように改変された脂質の例は、共有結合したニッケルキレート基、N",N"-bis[カルボキシメチル]-L-リジン(ニトリロ酢酸)(DOGS-Ni-NTA)を有する1,2ジオレオイル-sn-グリセロ-3-[N-95アミノ-1-カルボキシルペンチル)イミノ2酢酸)スクシニル]である。
【0096】
別の態様において、この多価性の単位は、細胞表面上で、少なくとも1つ、および好ましくは複数のMHCモノマーまたは改変MHCモノマーを発現する酵母細胞でもよい。酵母細胞表面に抗体を結合させてもよく、または1つもしくは複数の抗体を、酵母細胞の表面上で遺伝学的に発現(すなわち「結合」)させてもよい。さらにまたは、この多価性の単位は、ハイブリドーマでもよく、ハイブリドーマの表面上でMHCモノマーまたは改変MHCモノマーを発現させてもよい。さらに別の態様において、架橋複合体中の標的細胞は、抗体が特異性を示す対象のペプチドをその細胞表面上で発現するハイブリドーマでもよい。
【0097】
本明細書において使用される「標的細胞」という用語は、架橋複合体中のCTLがペプチド特異的なエフェクター機能を示すためのペプチドをその表面上に有していないが、抗体に対する結合部位としての機能を果たす表面リガンドを有している、原核性または真核性の任意の細胞、例えば、哺乳動物、細菌、酵母、または昆虫の細胞を意味する。したがって、標的細胞は、特定の疾患に関連付けられている細胞を特定する細胞表面マーカー(リガンド)を有する腫瘍細胞でよい。または、標的細胞は、タンパク質リガンドまたはタグをコードする異種ヌクレオチド配列でトランスフェクトされた場合、標的細胞の表面上でリガンドを発現して、例えば、抗体に対する特異的結合部位を提供すると考えられるものでもよい。別の実施例では、この細胞は、形質転換されているもの、または抗体のFc領域に対する結合部位としての機能を果たす、細胞表面上のFc受容体を天然に発現するものでもよい。別の態様において、標的細胞は、その表面上で抗体または抗原が結合する抗体断片を発現するハイブリドーマまたはファージでもよい。例えば、標的細胞は、FcRを発現するように形質転換させることができるものでよい。この態様において、Fc領域を有する抗体および標的細胞上のFcRは、特異的結合対を形成し、かつその抗体が特異性を示す対象の抗原は、抗原およびFcRへの抗体の免疫学的結合により、本発明の架橋複合体を形成するために必要な第2の特異的結合対が形成されるように、多量体を共に結合する多量体単位上に位置している。この態様において、同じ標的細胞-リガンド(FcR)-抗体の組み合わせを使用して、無数の様々な組み合わせの抗原ペプチド-CTLの組み合わせを試験することができる。
【0098】
本発明の方法を実施する際に形成される架橋複合体は、例えば、アッセイ法において使用される他の標的細胞から、架橋複合体中に含まれている標的細胞(例えば、溶解された標的細胞)を識別することによって、架橋複合体が形成されたかどうかを識別するのに有用な少なくとも1つの検出可能な標識で標識される。蛍光性分子、放射性核種、発光分子、化学発光分子、酵素、またはポリヒスチジンタグ、mycエピトープ、もしくはFLAG(商標)エピトープなどのペプチドを、本発明の方法において使用されるMHCモノマーまたは多量体中に組み込んでよい。例えば、蛍光性のフィコエリトリン標識を含むMHCテトラマーが、市販されている(Immunomics)。放射性核種、特に51Crが、溶解活性を検出するためのアッセイ法において一般に使用される。
【0099】
または、ハイスループットなスクリーニング用に設計された特定の態様において、本発明の組成物、方法、およびキットにおいて使用される標的細胞は、本発明の架橋複合体中に組み込まれた場合に、標的細胞が完全であるかどうか、またはCTLによって溶解されたかどうかを識別するのに有用な少なくとも1つの検出可能な標識で標識してよい。この識別をするのに使用できる、当技術分野において公知の任意のタイプの標識を使用することができる。しかしながら、親油性色素、生細胞に対して実質的に無毒性であり、かつ溶解細胞から漏出する特定の親油性蛍光色素、または標的細胞が溶解された場合に色を変える標識が好ましい。この態様において、第1の検出可能な標識は、好ましくは、親油性であり、それゆえ、細胞を染色するのに使用することができるが、大半の哺乳動物細胞においていくらかの量で存在するエステラーゼなどの細胞内容物に曝露された場合に荷電性になり、したがって、溶解細胞から漏出する蛍光色素であるように選択される。第1の検出可能な標識を選択するための第2の判定基準は、第1および第2の検出可能な標識の発光波長が、手動で、または蛍光活性化細胞選別(FACS)アッセイ法のいずれかによって、細胞選別をするために十分に識別可能であることである。例えば、フルオレセインがジアセテートとして保護される場合、それは、生細胞の形質膜を受動的に通過するのに十分な程度非極性になる。サイトゾル中のエステラーゼ活性のために、細胞内の色素が切断されてフルオレセインに戻り、明るい緑色蛍光を発する。フルオレセイン誘導体上の極性(電荷)に応じて、これは、長い期間、サイトゾル中に閉じ込められたままでいることができる。本発明の方法において第1の検出可能な標識として使用するのに、CFSEが現時点では好ましい。CFSEはまた、科学文献においては、CSFE、CMDA-AM、およびCFDAとしても公知である。CFSEが実際に溶解細胞から漏出するかどうか、または標的細胞内のpH変化の後に「薄暗くなる」かどうかに関してはいくらかの学術的論議がある。
【0100】
複数の標的細胞を含有している試料中の標的細胞数を検出するために、標的細胞が溶解されても変化しないシグナルを有する第2の検出可能な標識で、標的細胞をさらに標識してもよい。標的細胞を容易に染色する親油性蛍光色素の非限定的な例には、親油性のカルボシアニンまたはアミノスチリルが含まれる。親油性カルボシアニンDiI(DiIC18)、DiO(DiOC18)、DiD(DiIC18)、およびDiR(DiIC18)は、水中では弱蛍光性であるが、細胞膜中に取り込まれた場合、蛍光性が高く、かつ光安定性が非常に高い。これらの蛍光色素は、脂質環境において、極めて高い吸光係数(最長波長吸収極大で125,000cm-1M-1を超える)を有するが量子収量は中程度であり、かつ励起状態での寿命が短い(約1ナノ秒)。細胞に添加されると、これらの色素は、形質膜内の側面に拡散し、細胞全体の染色をもたらす。完全な膜の間のこれらのプローブの移動は、通常、無視してよい。本発明の架橋複合体、方法、またはキットにおいて標的細胞に対する第2の検出可能な標識として使用できる親油性色素の別の例は、PKH-2およびPKH-26など膜にインターカレートする色素である。
【0101】
T細胞特異性を解析するために、本明細書において記述するMHCテトラマーおよび他のMHC多量体を使用することは、以前に使用されたT細胞アッセイ法と比べて著しい利点を与える。例えば、本発明の方法は、定量的であり、放射性色素の使用を必要とせず、かつハイスループットなアッセイ形式に容易に適合させられる。さらに、本発明の方法は、迅速に実施することができ、したがって、新鮮な血液または組織試料を検査するのに使用することができる。MHC多量体複合体が蛍光標識を含む場合、T細胞を含む細胞集団を、1種または複数種の他の蛍光標識分子、例えば、他の細胞表面分子に特異的な蛍光標識分子でさらに染色し、かつフローサイトメトリーを用いて解析することができ、したがって、応答細胞のさらなる特性決定が可能となる。この場合、付加的な蛍光標識は、架橋複合体を標識するため、または標識細胞を染色するための1種または複数種の標識と容易に識別可能な波長で蛍光発光するように選択される。さらに、本発明の方法は、標識された細胞に対して毒性ではなく、したがって、本発明の架橋複合体中に取り込まれた細胞をフローサイトメトリーによって均一な集団に分別し、付加的なアッセイ法によって検査して、それらの機能的活性、例えば、抗原に応答して増殖する能力を確認することができる。
【0102】
以下の実施例は、本発明を例示するものであって、本発明を限定することを意図しない。
【0103】
実施例1
材料および方法
試薬
これらの実施例を通じてPBMC(New England Peptide, Inc., Fitchburg, MA)のインビトロ刺激のために使用したペプチドの純度は、質量分析法および逆相HPLC分析によって測定されるように、90%より高かった。フィコエリトリン(PE)を結合させたiTAg(登録商標)テトラマーは、市販されていた(Beckman Coulter, Inc.Immunomics Operations, San Diego, CA)。
【0104】
細胞系統
HLA-A*0201(Bednarek)の場合は、インフルエンザAマトリックスペプチドのアミノ酸58〜66(GILGFVFTL)(配列番号:1)に特異的なCD8+CTLクローンHA2FLU.3およびHA2FLU.5、ならびにHLA-B7の場合は、CMV pp65ペプチドのアミノ酸417〜426(TPRVTGGGAM)(配列番号:2)に特異的なCTLクローンB7 CMV.16(Wills, M. R., et al., J Virol 1996 Nov; 70(11):7569-79)を、後述するように作製した。
【0105】
実施例2
CD8+CTLの作製
正常な健常志願者から得たPBMCを、Histopaque(登録商標)1077媒体(Sigma Diagnostics, St. Louis, MO)上に載せて遠心分離して単離した。ATCCからIM-9細胞およびP815細胞を得、RPMI-FC(2mM L-グルタミン、1M HEPES、1mMピルビン酸ナトリウム、0.1mM非必須アミノ酸(すべてInvitrogen Life Technologies, Carlsbad, CAから入手)および最終濃度10%のFetal Clone(HyClone Laboratories, Logan, UT)を添加したRPMI)中で週に1度継代して培養した。抗原提示細胞(APC)については、RPMI-AB(5×10-5M 2-メルカプトエタノール(Sigma, St. Louis, MO)、および(Fetal Cloneの代わりに、ヒト血清(最終濃度10%、Valley Biomedical, Winchester, VA)を使用したことを除いて)RPMI-FCの場合に記載した補給物、ホルマリンで固定した黄色ブドウ球菌(staphylococcus aureus)Cowan(最終濃度0.0017%、Sigma Diagnostics)、ならびにIL-4 500ng(BD Pharmingen, San Diego, CA)を添加したRPMI)中に、1000万個の細胞を再懸濁させた。24ウェルプレート中に4×106細胞/mlの密度で細胞を播種し、37℃、5% CO2中で2日間、インキュベートした。CD8+リンパ球については、さらに1000万個の細胞から、DYNABEADS(登録商標)ビーズ(Dynal Biotech, Lake Success, NY)を用いて、製造業者の取扱い説明書に従って、CD4+細胞を除去した。
【0106】
除去済みの細胞を2×106/mlの濃度で、100U/mlのIL-2(R&D)を添加したRPMI-AB中に再懸濁させた。24ウェルプレートの各ウェル中にウェル当たり1mlを添加し、37℃、5% CO2中で2日間、インキュベートした。CTL刺激を与える日に、APCを採取し、6×106/mlの濃度でRPMI(添加物無し)中に再懸濁させた。APCにペプチドを40mg/mlの濃度で添加し、37℃で45分間、インキュベートした。次いで、等体積量の2×RPMI-AB(20%ヒト血清および2倍量の添加物を含有するRPMI-AB)を添加し、96ウェルの丸底プレートの各ウェルに100mlずつAPCを添加した。CD4の無い除去されたPBMCを採取し、計数し、3×105細胞/mlの濃度でRPMI-AB中に再懸濁させた。APCを含む各ウェルに、100マイクロリットルの細胞を添加した。
【0107】
2日後、最終濃度が100U/mlになるように、組換えIL-2をプレートに添加した。12〜18日後に、増殖しているウェルをスクリーニングし、限界希釈によって、陽性のウェルをサブクローニングした。手短に言えば、陽性のウェルから得た段階的な数のリンパ球を、2×105個の放射済みPBMCおよび最終濃度5ug/mlのPHAと共にテリサキ(Terisaki)プレート中で共培養した。2週間後、陽性のウェルは増殖されており、それらをテトラマー結合についてスクリーニングした。常法通り、PHAおよび5×105個の放射済みIM-9細胞と共に24ウェルプレート中で培養することによって、CTLクローンを増殖させた。
【0108】
実施例3
テトラマー染色
CTLを採取し、計数し、様々な濃度でPBS 0.1% BSA中に再懸濁させ、最終体積を100μlにした。10マイクロリットルの特異的または無関係なテトラマー(iTAg(登録商標)試薬、Beckman Coulter Immunomics, San Diego, CA)を添加し、4℃で20〜30分間、試料をインキュベートした。このインキュベーション工程の間、表現型分析に使用するための試料をCD8-FITCで共染色した。Becton Dickinson FASC caliber(登録商標)またはBeckman Coulter EPICS XL(登録商標)フローサイトメトリーを用いて解析する前に、フローサイトメトリー用緩衝液(アジドおよびBSA)中に試料を再懸濁させた。
【0109】
実施例4
細胞エフェクター(Cytoeffector)機能を解析するための方法
刺激後16〜21日目にCTLを解析した。Sheehyら(J. Immunol.Methods (2001) 249:99-110)によって記載されているように、PKH-26色素(Sigma)およびカルボキシフルオレセインジアセテート・スクシンイミジルエステル(CFSE)(Molecular Probes, Eugene, OR)で細胞を染色することによって、標的細胞を調製した。手短に言えば、添加物を含まないRPMI中でP815細胞を洗浄し、1mlのDiluent C中に再懸濁させた。体積1mlのDiluent C (Sigma Chemicals)中PKH-26を細胞に添加して、最終濃度を2.5×1-7Mとし、5分間インキュベートした。等体積のウシ胎児血清(FBS)を添加することによって、反応を停止させた。細胞を洗浄し、1ml PBS中に再懸濁させ、かつCFSEを最終濃度が2.5×10-7Mになるように添加した。反応を停止させるために、等体積のFBSを直ちに細胞に添加した。細胞を洗浄し、0.1%BSA含有PBS中に再懸濁させた。100マイクロリットルの標的を、100ngの抗フィコエリトリンAbまたはイソタイプの対照と共に氷上で30分間インキュベートした。次いで、標的を洗浄し、計数し、1×105/mlの濃度でRPMI-AB中に再懸濁させた。1×104個の標的を含有する100マイクロリットルを、適切なエフェクター:標的比(E:T)を与えるように滴定された量のテトラマー標識CTLを含む96ウェルの丸底プレートの各ウェルに添加した。37℃、5% CO2中で4時間、プレートをインキュベートした。次いで試料を採取し、洗浄し、1%パラホルムアルデヒドで固定した後に、フローサイトメトリー解析を行った。各データポイントに関して、3〜4回の反復測定を実施し、解析する前に合算した。
【0110】
エフェクター機能を検出するために、Sheehyらによって記載されているように、FATAL(Tリンパ球抗原特異的溶解の蛍光定量的評価)解析を用いて、解析を実施した。CFSEおよびPKH-26の双方とも、488nmで励起された。CFSE蛍光は、530/25フィルターを使用するフローサイトメーターのFL1検出器によって、505〜555nmで検出された。PKH-26蛍光は、585/40フィルターを使用するフローサイトメーターのFL2検出器によって、545〜625nmで検出された。フローサイトメトリー解析の間、標的細胞は、PKH-26色素によって各試料中のCTLから識別される(図3)。CFSEhi標的細胞に印をつけ、かつ残存CFSEの量を測定することによって測定されるように、CTLの不在下でインキュベートされた標的細胞と比較して、標的細胞中で残存しているCFSEの量を定量化するために、PKH-26陽性細胞にゲートがかけられる(材料および方法を参照されたい)。
【0111】
CTLクローンによる架橋の媒介による溶解の検出
HA2FLU.3は、HLA-A*0201の場合にインフルエンザマトリックスペプチドを認識するように作製されたCTLクローンである。これらのCTLを、A2/Fluテトラマーまたは無関係なペプチドを有するMHCが結合されたテトラマー(A2/gagテトラマー、図4)と共にインキュベートした。これらの結果は、このCTLクローンがCD8+であり、かつA2/Fluテトラマーに高い結合力で特異的に結合することを示した。架橋の概念の有効性を判定するために、HA2FLU.3培養物をA2/FluまたはA2/CMVテトラマーで標識し、次いで、この時は、3つの異なるエフェクター:標的比で、抗PE修飾し、色素で標識したP815標的と共に試料を同時インキュベートした。これらの試料のフローメトリー解析により、最も高いエフェクター:標的比で、標的細胞からのCFSEシグナルが有意に減少することが明らかになり、かつこのシグナルは、エフェクター:標的比が減少するにつれ徐々に増加した(図5)。重要なことには、CFSEシグナルとエフェクター:標的の比とのこの逆相関は、特異的テトラマーとインキュベートされたCTLと共に標的細胞がインキュベートされた場合にのみ観察された。無関係なテトラマーと共にインキュベートされたCTLは、CFSEシグナルの減少を引き起こさなかった。溶解活性を算出した場合、そのデータは、A2/Fluテトラマーで染色したCTLのみが、無関係なA2/CMVテトラマーと反応させたCTLで観察されたレベルより有意に高いレベルで、架橋を介して標的の溶解を引き起こせることを示した(図6)。これらの実験は、総合して、HLA-A*0201アレルに拘束されているCTLクローンが、MHCテトラマーに特異的に結合する能力によって、標的細胞の溶解を媒介できることを示した。
【0112】
B.混合したCTLによる架橋の媒介溶解
次の実験は、2つの疑問:1)架橋を介して標的を溶解するように、異なるアレルのCTLを誘導することができるかどうか、および2)架橋アッセイ法は、特異的テトラマーで相反的に染色された試料のCTL混合集団中のエフェクター機能を検出することができるかどうか、に答えるために設計された。実施例2で上述したように、CTLクローンのB7CMV.16およびHA2FLU.5を調製した。CTLクローンB7CMV.16は、HLA-B*0702の場合にCMVpp65ペプチドに拘束されるCTLクローンであり、かつMHCが結合した無関係なテトラマーB7/gp41と共にインキュベートされたCTLと比較して、高い結合力で特異的テトラマーに結合する(図7A)。HA2FLU.5は、以前の実験で使用した姉妹クローンHA2FLU.3と同様の挙動を示し、かつ高い結合力で関連するテトラマーに結合するCTLクローンである(図7B)。これらの2種のCTLクローンを、1:0のHA2FLU.5:B7CMV.16比で始まり、反対の比(0:1)で終わる比で混合した。試料を混合し、2つのグループに分けた。1つのグループをA2/Fluテトラマーで染色し、もう一方のグループを相反的なB7/CMVで染色した。
【0113】
この混合集団の染色実験(図8)は、CTLが各試料中で異なる比で存在し、かつ相反的なテトラマーとのCTLの交差反応性はほとんどないことを示した。各試料をまた、抗PEAbで修飾したP815標的と共にインキュベートし、かつ他のCTLと混合していないCTL試料の開始時のE:Tを、以前の架橋実験で使用したE:Tよりかなり高い、60:1とした。この実験の結果は、A2/Fluを含有する試料の大半が、おそらくは初期の高いE:T比が理由で、高いレベルで標的を溶解し、タイトレーションはほとんどないことを示した(図9)。興味深いことに、B7/CMV CTLのみを含有している試料(0:1)は、A2/Fluテトラマーを結合することができなかったが、約30%の特異的溶解率で、標的を溶解することができた。B7テトラマーと共にインキュベートされたCTL混合物のグループは、より良いタイトレーションを示し、かつバックグラウンドは有意に低かった。HA2FLU.5のみを含有している試料(E:T比=1:0)は、B7/CMVテトラマーの存在下で標的細胞を溶解することが出来ず、かつバックグラウンドレベルは、姉妹クローンCTL HA2FLU.3で観察されたレベルに匹敵していた。
【0114】
この実施例で使用した高いE:T比は、エフェクター機能の最適なタイトレーションを可能にはしなかった。さらに、B7/CMV CTLクローンの交差反応性は、FcRに加えて、ヒトCTLが交差反応性を示す対象となり得るマウスのクラスI MHCを発現する、P815標的細胞におそらくは向けられていた。これらの結果は、異なるFcR+標識、またはA2/Flu CTLクローンがそうであるように、低い交差反応性を有する異なるCTLクローンの使用によって、より明確になり得る。
【0115】
上記の実施例を参照して本発明を説明したが、修正および変更は、本発明の精神および範囲内に包含されることが理解されるであろう。したがって、本発明は、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】腫瘍抗原を発現している標的細胞に特異的なFab'抗体断片によって、かつ天然に4つのビオチン結合部位を有するストレプトアビジン(SA)によって共に結合された4つのビオチン化MHC/ペプチド複合体の複合体である架橋テトラマーへのその抗体の化学的結合によって、抗原特異的CTLが、腫瘍抗原を発現している標的細胞と結合している、架橋系を示す模式図である。
【図2】テトラマー架橋分子によって、エフェクター活性を有するCTLと結合するようにもたらされた標的細胞の溶解を引き起こすための本発明の方法を例示する模式図である。標的細胞は、Fc/FcR相互作用を介して細胞表面に結合された蛍光性の抗フィコエリトリン(PE)Fabを有する。PEは、テトラマーのストレプトアビジン部分に化学的に結合される。テトラマーでコーティングされたCTLは、テトラマー架橋に結合するCTLの能力によって測定されるように、抗原特異的に標的細胞を溶解する。
【図3】2種の蛍光色素((PKH-26)およびカルボキシフルオレセインジアセテート・スクシンイミジルエステル(CFSE))を用いて標的細胞を標識することによって、CTLから標的細胞を識別するためのフローサイトメトリー解析を例示する概略図である。後者の色素は、溶解された細胞から漏出することが公知であるが、前者は漏出しない。標的細胞による蛍光の生成を測定するために、染色陽性の細胞にゲート(Rl)をかける(PKH-26およびCFSEを含む)。次いで、標的細胞中に残存する漏出可能な色素の量を定量するために、CFSE(M1)のみを含有する細胞の数を測定する。減算によって、エフェクター機能を有するCTLによって溶解された細胞の数を算出することができる。
【図4】flu iTAgPEテトラマー(図4A)および無関係なA2/Gag iTAgテトラマー(図4B)を用いた、HA2FLU.3、すなわちHLA-A*0201の場合にインフルエンザマトリックスペプチドを認識および結合するように作製された、CD8+CTLクローンの蛍光染色を示すドットプロットである。
【図5】A2/fluに特異的なCTLと共にインキュベートした、CFSE色素で標識し、抗PEAbでコーティングしたP815標的細胞の一連のヒストグラムの一覧である。点状の薄い記録線=A2/gag iTAgと反応させたCTL;濃い実線の記録線=A2/flu iTagと反応させたもの。エフェクター:標的の比(E:T)が増加するにつれ、A2/Gagと反応させたCTLを含有する試料において、CFSEで標識された標的の有意な減少が検出された。
【図6】図5A〜5Dで記述した条件のE:Tで得られた細胞溶解率(%)を示すグラフである。
【図7】本発明の架橋系および方法を用いた、混合されたCTLクローンの特異的染色を示す一連のドットプロットである。図7Aは、特異的なCMV pp65テトラマー(図7Aの左図)またはMHCが結合した無関係なテトラマーB7/gp41(図7Aの右図)と共にインキュベートされた場合の、HLA-B*0701の場合にCMV pp65に拘束される、B7CMV.16CTLクローンの染色を示す。図7Bは、HA2FLU.5、すなわち、以前の実験で使用した姉妹クローンHA2FLU.3と同様の挙動を示し、かつ関連するテトラマーA2/fluに高い結合力で結合するCTLクローンの染色を示す(図7B、左)。これらの2種のCTLクローンを、1:0で始まり、反対の比(0:1)で終わるHA2FLU.5:B7CMV.16比で混合した。
【図8】1:0、5:1、3:1、1:3、1:5、および0:1のE:T比を有する、図7A〜7BのクローンのHA2FLU.5とB7CMV.16の混合物の染色を示す一連のグラフである。試料を混合し、2つのグループに分けた。1つのグループをA2/Fluテトラマーで染色し(図8A、C、E、G、I、およびK)、もう一方のグループを相互的なB7/CMVテトラマーで染色した(図8B、D、F、H、J、およびL)。
【図9】図8Aから8Lまでの実験で得られた結果のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、CTLにおけるペプチド拘束性のエフェクター機能を誘導する公知の抗原のペプチドを同定するためのアッセイ法:
a)以下の相互作用を可能にするような適切な条件下で同時インキュベートする工程であって、
1)表面リガンドを有し、かつ溶解されていない標的細胞と比較して、溶解された標的細胞において実質的に変更されるシグナルを有する第1の検出可能な標識でタグ化されている、標的細胞;
2)抗体特異的結合部位をさらに含む、試験MHC結合ペプチドが結合したMHCモノマーまたは改変MHCモノマーの多量体複合体;
3)標的細胞上のリガンドおよび抗体特異的結合部位に結合する抗体;ならびに
4)ペプチド拘束性のCTL、
ここで、その相互作用により、標的細胞の細胞溶解の近傍までペプチド拘束性のCTLをもたらす架橋複合体が形成される工程;ならびに
b)複合体形成していない標的細胞によって生成されるシグナルと比較した、架橋複合体中の標的細胞によって生成されるシグナルの変化を検出する工程であって、ここでその変化が、MHCクラスIモノマー中のペプチドがCTLにおけるペプチド拘束性のエフェクター機能を誘導することを同定する工程。
【請求項2】
リガンドが、標的細胞の表面上で発現されるFc受容体であり、その結果、抗体が、抗体結合部位に、およびFc/FcR相互作用を介してFc受容体に結合することにより、架橋複合体が形成される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
標的細胞が疾患に関連付けられている細胞であり、かつリガンドが、その疾患の表面マーカーである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
標的細胞が腫瘍細胞であり、かつリガンドが、細胞表面の腫瘍マーカーである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
検出可能な標識が、蛍光色素または放射標識である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
変化が、第1の検出可能な標識からのシグナルの実質的な減少である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
MHC多量体複合体が、2〜4個のビオチン化MHCモノマーが結合したストレプトアビジンを含み、抗体結合部位がストレプトアビジンに結合されたPEであり、かつリガンドが抗PE Fabであって、ここで架橋複合体が、PEへのFabの特異的結合およびストレプトアビジンへのPEの化学結合によって形成する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
4つのビオチン化モノマーが、ストレプトアビジンに結合している、請求項7記載の方法。
【請求項9】
検出工程が、シグナル強度が実質的に減少した標的細胞の量を測定するためのフローサイトメトリー解析を含み、それによってエフェクター機能を有するCTLの量を検出する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
第1の検出可能な標識が、カルボキシフルオレセインジアセテート・スクシンイミジルエステル(CFSE)である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
標的細胞が、標的細胞の溶解が起こっても変化しないシグナルを有する第2の検出可能な標識によっても標識されており、かつフローサイトメトリー解析が、第1の検出可能な標識を保持している標的細胞の量を測定するために、標的細胞中の第1の標識および第2の標識の量を比較する工程を含み、それによってエフェクター機能を有するCTLの量を測定する、請求項9記載の方法。
【請求項12】
MHC多量体複合体が、複数のモノマーに対する特異的結合部位を有する多価性の単位を含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
多価性の単位が、複数の特異的結合部位を有する脂質表面である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
多価性の単位が、モノマーの表面発現を有する酵母細胞である、請求項11記載の方法。
【請求項15】
以下を含む架橋複合体であって:
a)抗原拘束性T細胞受容体(TCR)を含む細胞傷害性T細胞(CTL);
b)CTLにおけるペプチド拘束性のエフェクター機能を誘導する抗原を含有するMHC結合ペプチドが結合したMHCモノマーまたは改変MHCモノマーの多量体複合体であって、ここで抗体特異的結合部位をさらに含む、複合体;
c)表面リガンドを有する標的細胞;ならびに
d)抗体結合部位およびリガンドのそれぞれに結合する抗体
ここで、モノマーへのTCRの免疫学的結合、ならびにリガンドおよび抗体結合部位のそれぞれへの抗体の結合により、架橋複合体が生じ、その結果、標的細胞およびCTLが、細胞溶解の近傍までもたらされる、架橋複合体。
【請求項16】
多量体複合体が、ストレプトアビジンを含み、かつMHCモノマーまたは改変MHCモノマーのうちの2〜4個が、ビオチン化され、ビオチンを介してストレプトアビジンに結合されている、請求項15記載の架橋複合体。
【請求項17】
モノマーのうちの4つが、ストレプトアビジンに結合されている、請求項15記載の架橋複合体。
【請求項18】
モノマーのうちの3つが、ストレプトアビジンに結合されている、請求項15記載の架橋複合体。
【請求項19】
モノマーのうちの2つが、ストレプトアビジンに結合されている、請求項15記載の架橋複合体。
【請求項20】
モノマーが結合する複数のモノマー結合部位を有する多価性の単位を含む、請求項15記載の架橋複合体。
【請求項21】
多価性の単位が、ポリヒスチジンタグに対する特異的結合部位を提供するように改変された脂質を含むリポソームであり、かつモノマーがポリヒスチジンタグを提供するように改変されている、請求項20記載の架橋複合体。
【請求項22】
リポソームが、Ni-イミノ2酢酸(Ni-IDA)またはNi-ニトリロ酢酸(Ni-NTA)を含有する脂質を含む、請求項21記載の架橋複合体。
【請求項23】
リポソームが、共有結合したニッケルキレート基、N",N"-bis[カルボキシメチル]-L-リジン(ニトリロ酢酸)(DOGS-Ni-NTA)を有する1,2ジオレオイル-sn-グリセロ-3-[N-95アミノ-1-カルボキシルペンチル)イミノ2酢酸)スクシニル]を含む、請求項21記載の架橋複合体。
【請求項24】
多価性の単位が酵母細胞であり、かつ複数のMHCモノマーまたは改変MHCモノマーが、酵母細胞の表面で発現される、請求項20記載の架橋複合体。
【請求項25】
多価性の単位がハイブリドーマであり、かつ少なくとも1つのMHCモノマーまたは改変MHCモノマーが、ハイブリドーマの表面で発現される、請求項20記載の架橋複合体。
【請求項26】
リガンドが、標的細胞の表面で発現されるペプチドであり、かつ抗体がそれに特異的に結合する、請求項15記載の架橋複合体。
【請求項27】
抗体が二重特異性抗体である、請求項26記載の架橋複合体。
【請求項28】
第1の検出可能な標識をさらに含む、請求項15記載の架橋複合体。
【請求項29】
第1の検出可能な標識が蛍光性である、請求項28記載の架橋複合体。
【請求項30】
標的細胞が、溶解されていない標的細胞と比較して、溶解された標的細胞においてそのシグナルが実質的に変化する第1の検出可能な標識でタグ化されている、請求項29記載の架橋複合体。
【請求項31】
第1の検出可能な標識が、カルボキシフルオレセインジアセテート・スクシンイミジルエステル(CFSE)である、請求項30記載の架橋複合体。
【請求項32】
標的細胞が、溶解された細胞においてそのシグナルが実質的に減少する親油性の第1の蛍光標識、および溶解された細胞においてそのシグナルが実質的に未変化のままである第2の蛍光標識で染色される、請求項15記載の架橋複合体。
【請求項33】
多価性の単位がストレプトアビジンであり、かつ抗体が、Fc/FcR特異的結合対の形成を介して標的細胞の表面に結合されるFab断片である、請求項19記載の架橋複合体。
【請求項34】
最大4つのモノマーが、ストレプトアビジンに結合されている、請求項32記載の架橋複合体。
【請求項35】
以下の工程を含む、混合したCTLを含有する試料において、公知の抗原のMHC結合ペプチドが結合したMHCモノマーを有する細胞に対する細胞傷害活性を有するペプチド拘束性のCTLの存在を検出するための方法:
a)以下をの間の結合を可能にするような適切な条件下で共に接触させる工程;
1)特異性が分かっていないCTLの混合物を含む試料;
2)公知の表面リガンドを有し、かつ第1の検出可能な標識および第2の検出可能な標識でタグ化されている標的細胞であって、ここで第1の検出可能な標識のシグナルは、溶解されていない細胞と比較して、溶解された細胞において実質的に減少し、かつ第2の検出可能な標識のシグナルは、溶解されていない細胞と比較して、溶解された細胞において実質的に未変化である、標的細胞;ならびに
3)公知の表面リガンドに対して特異的な抗体、および公知の抗原のMHC結合ペプチドがそれぞれ結合した複数のMHCモノマーまたは改変MHCモノマーの多価性の単位への結合によって形成されるMHC多量体複合体;
b)結合前にそれから生成されるシグナルと比較して、結合の結果として生じる第1の検出可能な標識によって生成されるシグナルの減少を検出する工程であって、ここでその減少が公知の抗原のMHC結合ペプチドが結合したMHCモノマーを有する細胞に対するエフェクター機能を有する1種または複数種のペプチド拘束性のCTLが試料中に存在することを示唆する工程。
【請求項36】
検出工程が、第1の検出可能な標識および第2の検出可能な標識によって生成される検出可能なシグナルを合計する工程を含み、かつ第1の検出可能な標識からのシグナルの減少が、第1の検出可能な標識および第2の検出可能な標識によって生成されるシグナルの合計の減少によって測定される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
減少量が、公知の抗原のMHC結合ペプチドが結合したMHCモノマーを有する細胞に対するエフェクター機能を有する試料中のCTLの数を示す、請求項36記載の方法。
【請求項38】
アッセイ法における、エフェクター機能を有するCTLと標的細胞との比が、0.5:1〜約60:1の範囲である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
アッセイ法における、エフェクター機能を有するCTLと標的細胞との比が、0.5:1〜約50:1の範囲である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
以下の工程を含む、TLの抗原特異的なエフェクター機能を検出するための方法:
a)以下の間の結合を可能にするような適切な結合条件下で共に接触させる工程;
1)Fc/FcR相互作用によって細胞に特異的に結合された抗フルオロフォア抗体を有する、FcRを有する標的細胞であって、ここで細胞溶解が起こると細胞中で実質的に減少するシグナルを有する第1の検出可能な標識、および第2の検出可能な標識で標識されている、標的細胞;
2)ストレプトアビジン、ストレプトアビジンに結合されたフルオロフォア、および公知の抗原のMHC結合ペプチドが結合したMHCモノマーまたは改変MHCモノマーの2〜4個の三元複合体を含むテトラマーであって、ここでこれらのモノマーが、ビオチン化され、ビオチンを介してストレプトアビジンに結合されているテトラマー;および
3)抗原特異的CTLのうちの少なくとも1つ;ならびに
b)結合前にそれから生成されるシグナルと比較して、結合の結果として生じる第1の検出可能な標識によって生成されるシグナルの減少を検出する工程であって、ここでシグナルの減少が、そのCTLが、抗原特異的なエフェクター機能を有することを示唆する工程。
【請求項41】
4つのモノマーが抗原に結合し、かつ少なくとも1つのCTLと架橋を形成している、請求項40記載の方法。
【請求項42】
適切な条件が、少なくとも1つのCTLに結合するためのモル過剰のテトラマーを含む、請求項40記載の方法。
【請求項43】
複数のテトラマーが、抗原架橋を介して各標的細胞に結合している、請求項42記載の方法。
【請求項44】
検出工程が、第1の検出可能な標識および第2の検出可能な標識によって生成される検出可能なシグナルを合計する工程を含み、かつ第1の検出可能な標識からのシグナルの減少が、第1の検出可能な標識および第2の検出可能な標識によって生成されるシグナルの合計の減少によって測定される、請求項40記載の方法。
【請求項45】
減少量が、抗原特異的CTLのエフェクター機能のレベルを示す、請求項42記載の方法。
【請求項46】
以下の工程を含む、MHC結合ペプチドが結合したMHCモノマーまたは改変MHCモノマーを提示している細胞に対する細胞傷害性T細胞リンパ球(CTL)のエフェクター機能を測定するための方法:
a)以下の間の相互作用を可能にするような適切な条件下で同時インキュベートする工程であって、
1)標的細胞の溶解が起こると変化するシグナルを有する第1の検出可能な標識でタグ化されている、FcRを有する標的細胞;
2)MHCモノマーまたは改変MHCモノマーのMHC結合ペプチドとの少なくとも1つの複合体および少なくとも1つのFc含有抗体を含む多量体部分であって、ここでこの少なくとも1つの複合体モノマーおよび少なくとも1つの抗体が、特異的結合対を介して多価性の単位に結合されている、多量体部分;および、
3)その複合体に特異的な抗原受容体(TCR)を有するCTL;
ここで、その相互作用が、抗体のFcRへの結合およびTCRの複合体への結合による架橋複合体の形成を含み、それによって標的細胞の細胞溶解の近傍までCTLをもたらす工程;ならびに、
b)架橋複合体の形成が無い場合にそれから生成されるシグナルと比較した、架橋複合体の形成の結果として生じる、検出可能な標識からのシグナルの変化を検出する工程であって、ここでそのシグナルの変化が、MHCモノマーまたは改変MHCモノマーおよびMHC結合ペプチドを提示している細胞に対するCTLのエフェクター機能を示唆する工程。
【請求項47】
多価性の単位が、抗体に対する特異的結合部位としてペプチドタグを発現する細胞であり、かつ標識細胞が、そのペプチドタグに特異的な抗体を発現するハイブリドーマである、請求項46記載の方法。
【請求項48】
複数の異なるMHC結合ペプチド-CTLの組み合わせを有する同じ標的細胞を用いて繰り返される、請求項46記載の方法。
【請求項49】
標的細胞が、Fc受容体(FcR)を発現し、かつ抗体に対する特異的結合部位が、FcRに特異的に結合するFc領域である、請求項46記載の方法。
【請求項50】
1種または複数種の異なるMHC結合ペプチド-CTLの組み合わせを有する同じ標的細胞を用いて繰り返される、請求項48記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−536522(P2007−536522A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511590(P2007−511590)
【出願日】平成17年5月5日(2005.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2005/015637
【国際公開番号】WO2005/111624
【国際公開日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(504346307)ベックマン コールター インコーポレーティッド (5)
【Fターム(参考)】