説明

CpGメチル化の予測的使用

好ましくは臍帯のような周産期組織サンプルにおいて、選択された遺伝子のコード化領域に対して5’側にある個々の選択されたCpGジヌクレオチド/CpG群のメチル化状態の測定は、身体組成の指数、例えば肥満または低骨ミネラル含量の指数、心血管構造または機能の障害、学習能力および認識機能の指数、神経行動学的問題およびアトピー性皮膚炎のようなアレルギー疾患のような、多様な表現型特徴の将来的な顕在化を予測するために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、エピジェネティックなマーカー、更に特定すれば、一定の遺伝子のコード化領域に対して5’側にある1以上の選択された個々のCpGまたはCpG群のメチル化の使用に関し、特に臍帯のような周産期組織において、将来の人生における個体の他種多様な表現型特徴を予測する手段としての使用に関する。更に詳細に言えば、新生児の臍帯サンプルにおけるこのようなCpG/CpG群のメチル化の測定値は、アトピー性皮膚炎、認識的および神経行動学的特徴を含む乳児期および思春期前の小児期における種々の表現型特徴、並びに疾患の発生に関連した重要な表現型指数、例えば、全体脂肪量または体脂肪率(total or percentage body fat)を含む肥満/脂肪蓄積の指数、および左心室重量、頚動脈内膜−中膜厚さ、収縮期および拡張期血圧およびパルス波速度を含む心血管の構造および機能の指数と相関し得ることが分っている。従って、本発明は、学習能力および限定されるものではないがアレルギー性、代謝性、心血管系もしくは神経行動学的な疾患の発症のリスクの予後指数を早期に与えることにおいて、特別な臨床的有用性を有している。臍帯から抽出されたDNAの分析により測定された健康な新生児における特定のCpGまたはCpG群のメチル化状態が、上記で述べたものに加えて、除脂肪体重および骨ミネラル含量を含む身体組成の指数、並びに心血管系の健康、認識機能および神経行動学的特徴の指数と関連付けられた。選択されたCpGおよび/またはCpG群のメチル化状態の決定に依拠する将来的な表現型特徴のための予測ツールとしてのエピジェネティックなプロファイリングは、発生におけるエピジェネティックな変化の役割に対する新規な洞察に依拠した新規な概念を表す。
【発明の背景】
【0002】
「エピジェネティック」の語は、遺伝子に対する核酸配列を変化させない構造的変化を意味する。特に関連があるのは、遺伝子のコード化領域の5’側、最も顕著には遺伝子プロモータにおけるCpGジヌクレオチドのメチル化、およびDNAパッケージングに影響を及ぼすクロマチンヒストン核の化学修飾である。これまで、CpGはアイランドで作用し、また遺伝子発現に影響するCpGは一定の遺伝子の転写因子結合部位に位置すると仮定されてきた。このようなCpGのメチル化は、癌研究に対する関連において特に興味が持たれてきた。しかし近年になって、DNAメチル化の変化が、初期生命における環境的影響とその後の表現型特徴の顕在化との間の関連性を提供するとの証拠が蓄積されてきた。
【0003】
疫学的所見は以前に、初期の発生を、心血管系疾患、2型糖尿病、肥満、メタボリック症候群、非アルコール性脂肪性肝炎、骨格成長障害(impaired skeletal growth)、通常の慢性疾患、骨粗鬆症、喘息を含む慢性閉塞性気道疾患(chronic obstructive airways disease)、感染感受性、精神病および感情障害、認識障害、癌、腎機能障害、生殖的健康および自己免疫疾患を含む通常の慢性疾患の病因に関連付けた。ヒトにおいて、誕生前の栄養的拘束は、メタボリック症候群および心血管系疾患の増大したリスクに関連付けられることが示された(Godfrey & Barker (2001) Public Health Nutrition 4, 611-624)。妊娠中の栄養的制限とその後の子孫の病態生理学との間での類似した因果関係が、動物モデルにおいて示されてきた。この現象は、限定された栄養利用可能性のような望ましくない生後環境を予測し、従って生存を改善する胎児生理学への適用を含む可能性がある。しかし、栄養が豊富であれば、子孫は豊富な栄養供給に適合する能力が低いかもしれず、これは最終的に病気をもたらす可能性がある(Gluckman & Hanson (2004) Science 305, 1733-1736; Gluckman et al. (2008) N. Engl. J. Med. 2008, 359, 61-73)。ヒトでは、妊娠中の栄養制限の期間が、中年晩期における肥満発症リスクを決定する可能性がある(Ravelli et al. (1999) Am. J. Clin. Nutr. 70, 811-816)。
【0004】
もっと後になって、ラットの妊娠期間の母親のタンパク質制限は、幼若子孫の肝臓における受容体の変化した発現に関連した、糖質コルチコイド受容体(GR)プロモータのメチル化における変化を誘導することが観察された(Lillycrop et al. (2005) J. Nutr. 135 1382-1386)。しかし、この肝臓での受容体発現における観察された変化は、それ自身を肥満として発現しない。本発明は、それら自身におけるエピジェネティックな変化が予後的価値を有するとの発明者等のその後の重要な発見に由来する。
【0005】
発明者等は、ラット子供の脂肪組織におけるGRプロモータの変化したメチル化を母親の栄養状態および高脂肪食餌での子供の体重と関連付けるラット研究の結果として、遺伝子メチル化の程度を表現型特徴の性向に関連付けできることを初めて認識したものである。公開された国際出願WO2007/129113(サウサンプトン大学&オークランドユニサービスリミテッド)に報告されたその後の研究は、同様に、周産期組織、例えば臍帯における特定の遺伝子プロモータのメチル化の程度が、臨床的に関連した結果および生活属性の質の両者を包含する、種々の更なる表現型特徴に関連付けできることを確認した。この特徴には、身体組成/成長の特徴[全体脂肪量および/または体脂肪率(total and/or proportionate body mass)、全除脂肪体重および/または除脂肪体重率(total and/or proportionate lean mass)、骨ミネラル含量または密度および身長]、認識発達(知能指数(IQ))、神経行動学的状態(例えば活動亢進)、並びに心血管系の構造および機能(例えば血圧、大動脈伸展性、左心室重量および冠動脈直径)が含まれるが、これらに限定されない。
【0006】
これらの発見は単独で、遺伝子プロモータに関連した全体としてのエピジェネティックな変化の程度に関連する。上記で述べたように、発明者等は今回、臍帯サンプルにおける一定の遺伝子のコード化領域に対して5’側にある個々の選択されたCpGジヌクレオチドまたはCpG群およびこれらの組合せにおけるメチル化状態の検出が、小児後期における表現型特徴の顕在化と相関し得ることを発見した。更に特定すれば、実施例で詳述するように、発明者等は始めて、臍帯における個々のCpGおよびCpG群のメチル化の程度と、9歳時における種々の表現型特徴との間の相関を考察した。性別を考慮すると、選択されたCpG/CpG群のメチル化状態は、それ以外は目立った顕在化を伴わない正常な小児における身体組成の変動、および心血管系リスクマーカーの50%までを説明できることが分かった。これらの研究は、臨床的に興味深い表現型特徴の将来的顕在化を予測する非常に異なったアプローチのための基礎をなすものであり、該アプローチは「CpGフィンガープリント」と称されてよいものである。
【発明の概要】
【0007】
従って、その最も広義の側面において、本発明はヒトまたは非ヒト動物、好ましくは新生児において1以上の表現型特徴、例えば1以上の肥満指数の将来的顕在化を予測する方法を提供するものであり、該方法は、
(a)組織サンプルから抽出された前記ヒトまたは非ヒト動物のゲノムDNAにおいて、1以上の選ばれた遺伝子のコード化領域に対して5’側にある、1以上の個々の選択されたCpGジヌクレオチドおよび/またはCpG群のメチル化状態を測定し、ここでの各々の選択されたCpGまたはCpG群が1以上の関連の表現型特徴についての性向と相関することと、
(b)上記(a)において測定された各メチル化状態を、関連のCpGまたはCpG群のメチル化状態と、選択されたより高齢の同一種の個体における少なくとも一つの関心のある表現型特徴の変動との間の相関と比較すること
を含んでなるものである。
【0008】
このような予測方法は、一般に発育の早期段階にある健康で正常な個体に対して適用されることが理解されるであろう。DNA分析のために使用されるサンプルが臍帯または他の周産期組織サンプルである場合は、比較工程(b)において、1以上の相関は一般に、乳児期または小児期におけるより遅い年齢、例えば乳児期後および思春期前のヒト小児における表現型特徴の変動に関して得られたものに依存するであろう。このような比較のために、性別を考慮するのが好ましいことが分かるであろう。
【0009】
更に特定すれば、本発明は、ヒトまたは非ヒト動物、好ましくは新生児において1以上の表現型特徴の将来的顕在化を予測する方法を提供するものであり、前記1以上の表現型特徴は
(i)全体脂肪量または体脂肪率(total or proportionate body fat)、肥満度指数、および体脂肪分布の指標としての体幹/肢脂肪比を含む指数から選択される、肥満または体脂肪蓄積の1以上の指数;または
(ii)全除脂肪体重(total lean mass)、除脂肪体重率(proportionate lean mass)、骨ミネラル含量、および身長の少なくとも一つ;または
(iii)左心室重量、大動脈根直径、冠動脈直径、頸動脈内膜−中膜厚さ、収縮期および/または拡張期血圧、脈拍、大動脈−足パルス波速度、および大動脈−大腿パルス波速度を含む指数から選択される心血管系の構造および機能の1以上の指数;
(iv)認識機能の1以上の指数;または
(v)これらに限定されないが、活動亢進、情緒的問題、行動的問題、ピア問題、向社会的行動もしくは全体的障害を含む特徴から選択される神経行動学的状態の1以上の特徴;または
(vi)これらに限定されないが、アトピー性皮膚炎を含む疾患から選択される1以上のアレルギー性疾患
から選択され、
前記方法は、
(a)組織サンプルから抽出された前記ヒトまたは非ヒト動物のゲノムDNAにおいて、1以上の選ばれた遺伝子のコード化領域に対して5’側にある、個体の選択されたCpGジヌクレオチドおよび/またはCpG群のメチル化状態を測定し、ここでの各々の選択されたCpGまたはCpG群が1以上の関連の表現型特徴についての性向と相関することと、
(b)上記(a)において決定された各メチル化状態を、関連のCpGまたはCpG群のメチル化状態と、選択されたより高齢の同一種の個体における少なくとも一つの関心のある表現型特徴の変動との間の相関と比較すること
を含んでなるものである。
【0010】
驚くべきことに、この目的のために有用なCpGまたはCpG群には、プロモータ領域の内側および外側の両方でのそのような部位が含まれることが分かった。更に、興味深いことに、異なる遺伝子のコード化領域に対して5’側にあるCpGおよび/またはCpG群の組合せのメチル化状態が、結果を予測することが分った。1以上のCpGおよび/またはCpG群のメチル化状態は、幾つかの場合、同じ遺伝子コード化領域に対して5’側近位(例えば同じプロモータ内)に依存するかも知れない。
【0011】
実施例で詳述する研究に基づいて関心のある遺伝子は、レチノイド受容体アルファ(RXRA)の遺伝子、内皮一酸化窒素シンターゼ(eNOS)、スーパーオキシドジスムターゼ−1(SOD1)、ホスホイノシチド−3−キナーゼ触媒的デルタポリペプチド(PIK3CD)、インターロイキン−8(IL−8)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARg2)およびリポタンパク質リパーゼ(LPL)を含むものとして同定された。しかし、これらは本発明に従う分析のための有用な遺伝子の単なる例示に過ぎず、網羅的な一覧と解することはできない。他の遺伝子は、更なる表現型の予測のためのものを含めて、同様にして容易に同定され得るであろう。非刷り込み遺伝子におけるエピジェネティックな変化を介して発育に影響する周産期環境に一致して、上記で述べた全ての遺伝子が親に刷り込まれた遺伝子ではないことに注目すべきである。
【0012】
特に関心のある例として、例えば臍帯DNAにおけるRXRAchr9:136355885+のメチル化は、今や小児肥満の更なる顕在化の傾向についてのエピジェネティックなマーカーとして提案される(実施例1)。
【0013】
エピジェネティックなマーカーのこのような使用は、ヒトにおける望ましくない表現型特徴、例えば肥満発生の傾向を管理することにおいてのみならず、例えば畜産動物において、更なる生産特性に関する経済的決定を可能にすることでの特別な使用である可能性がある。エピジェネティックなマーカーのこのような使用は矯正戦略のターゲッティングを可能にし、ここでは学習能力障害の傾向または望ましくない表現型特徴が同定される。
【0014】
本発明の更なる側面は、図面を参照した以下での更に詳細な説明および実施例から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
以下での図面の記載において、CpGsは、2006年3月UCSCヒトゲノム会議に従う関連の遺伝子、染色体およびゲノム座標によって同定される。全ての図において、数値は平均+SEMである。
【図1a】図1aは、実施例1に報告されたヒト研究からの、臍帯におけるRXRAchr9:136355885+およびeNOSchr7:150315553+のメチル化のパーセンテージと、9歳時における二重エネルギーX線吸収(DXA)により測定され、性別について調節された小児の体脂肪量との間の正の相関を示している。
【図1b】図1bは、実施例1に報告されたヒト研究からの、臍帯におけるRXRAchr9:136355885+およびeNOSchr7:150315553+のメチル化のパーセンテージと、9歳時におけるDXAにより測定され、性別について調節された小児の体脂肪量パーセンテージとの間の正の相関を示している。
【図1c】図1bは、実施例1に報告されたヒト研究からの、臍帯におけるRXRAchr9:136355885+およびeNOSchr7:150315553+のメチル化のパーセンテージと、9歳時におけるDXAにより測定され、性別について調節された小児の体幹/四肢脂肪比との間の正の相関を示している。
【図2a】図2aは、実施例2に報告されたヒト研究からの、臍帯におけるeNOSchr7:150315553+のメチル化のパーセンテージと、9歳時におけるDXAにより測定され、性別について調節された小児の除脂肪体重との間の正の相関、および臍帯におけるSOD1chr21:31853837+メチル化のパーセンテージと、上記と同じ方法で同じ年齢において決定された小児の除脂肪体重との間の逆の相関を示している。
【図2b】図2bは、実施例2に報告されたヒト研究からの、臍帯におけるeNOSchr7:150315553+のメチル化のパーセンテージと、性別について調節された9歳時の小児の骨ミネラル含量との間の正の相関、および臍帯におけるSOD1chr21:31853837+メチル化のパーセンテージと、上記と同じ方法で同年齢において決定された小児の除脂肪体重との間の逆の相関を示している。
【図3a】図3aは、実施例3に報告されたヒト研究からの、臍帯におけるPIK3CDchr1:9609870+のメチル化のパーセンテージと、9歳時の頸動脈内膜−中膜厚さとの間の逆の相関を示している。
【図3b】図3bは、実施例3に報告されたヒト研究からの、臍帯におけるeNOSchr7:150306798+のメチル化のパーセンテージと、9歳時の大動脈−大腿パルス波速度との間の正の相関を示している。
【図4】図4は、実施例4に報告されたヒト研究からの、臍帯におけるSOD1chr21:31953394+のメチル化のパーセンテージと、全検査IQとの間の正の相関を示している(n=30小児)。
【図5a】図5aは、実施例5に報告されたヒト研究からの、臍帯におけるPPARg2chr3:12367759+のメチル化のパーセンテージと、9歳時の活動亢進との間の相関を示している(n=67)。
【図5b】図5bは、実施例5に報告されたヒト研究からの、臍帯におけるRXRAchr9:136355885+のメチル化のパーセンテージと、9歳時の活動亢進との間の相関を示している(n=63)。
【図6】図6は、パイロシーケンシングにより決定された臍帯におけるeNOSchr7:150306792+およびeNOSchr7:150306798+の両方のメチル化のパーセンテージと、9月齢時の乳児における乳児性アトピー性皮膚炎の存在との間の関連を示している(n=74)。
【図7a】母親の食餌は、エピジェネティックな臍帯RXRAchr9:136355885+メチル化と関連しており、またこのCpG部位のメチル化のパーセンテージは、二つの独立した同齢集団における小児の後期体脂肪蓄積に関連している。図7aは、妊娠初期における母親の炭水化物摂取が低いほど、PHA妊娠研究における臍帯RXRAchr9:136355885+のメチル化は高いことを示している。
【図7b】図7bは、9歳時の小児の体脂肪量%は、PAH妊娠研究における臍帯RXRAchr9:136355885+のメチル化が高いほど増大することを示している。
【図7c】図7cは、9歳時の小児の体脂肪量は、PAH妊娠研究におけるRXRAchr9:136355885+のメチル化との間で同様の正の相関を有していることを示している。
【図7d】図7dは、SWS小児の第二の独立した同齢集団において、6歳時の小児の脂肪蓄積は、RXRAchr9:136355885+のメチル化が高いほど増大することを示している。(PAH=プリンセス・アン病院、SWS=サウサンプトン女性調査)
【図8】RXRAchr9:136355885+におけるCpG群および隣接する転写因子結合部位の位置を示すRXRAプロモータ領域の概略図。
【詳細な説明】
【0016】
上記で述べた通り、関心のあるCpGまたはCpG群のメチル化状態を決定するために使用される組織は、望ましくは生命の初期に容易に利用可能な組織である。それは新生児、乳児、小児または若年成人に由来するものであってよい。しかし、望ましくは、それは誕生前または生後まもなく(一般に、ヒトの場合には生後1月以内の新生児)採取された関心のある個体のゲノムDNAを含む周産期組織サンプル、好ましくは、例えば臍帯であろう。しかし、脂肪組織、血液(胎児血液および臍帯血を含む)、胎盤、漿膜絨毛生検体、羊水液、毛髪濾胞、頬側スメア、および筋肉生検体を含む他の組織も有用であると示される可能性がある。好ましくは、このような組織は新生児由来であるか、または生後数週間以内、より好ましくは生後数日以内(1週間未満)の乳児から採取されるであろうが、遥かに遅く採取されたサンプル、例えば6月以内またはそれより遅く採取されたサンプルも有用であることが示される可能性がある。
【0017】
エピジェネティックなメチル化について選択される部位は、実施例において特定する臍帯サンプルに依拠して9歳児において、例えば、メチル化の程度と全体脂肪量および/または体脂肪率等の関心のある表現型特徴の変動との間の関連性が同定されているかの何れかであってよい。しかし、比較工程(b)では、メチル化マーカーと、好ましくは成人前の早期年齢での個体における、関心のある表現型特徴の変動との間の1以上の予め決定された相関を用いるのが望ましいことが分かるであろうが、CpGまたはCpG群のメチル化状態の相関は、斯かる変動が明らかな何れの年齢での関心ある表現型特徴の変動と比較されてもよいことが理解されるであろう。本発明の強さは、同定された健康リスクを低減することを目標とした介入が現実の利益を得ることができる早期年齢において、肥満の発生し易さを予測する能力および疾患リスクの他の指数を提供することであることが理解されるであろう。
【0018】
例えば実施例から明らかなように、本発明は、早期年齢において採取された組織サンプル、望ましくは臍帯のような周産期組織サンプルのDNAから、好ましくは未だ小児期にあり且つ関連の表現型の健康に対する影響を修飾することを目標とした介入が可能であるような遅い年齢において、以下の表現型特徴の何れかの性向に関連付けられた健康リスクを予測するために使用することができる:
(a)2型糖尿病、メタボリック症候群、心血管系疾患、および肥満がリスク因子であると認識されている他の症状のリスクにある個体を同定することにおいて関心のある、全体脂肪量、体脂肪率、肥満度指数、体幹/肢脂肪比(体脂肪分布)および肥満度指数を含む肥満の身体組成指数(適切なメチル化マーカー部位を示すための実施例1、表1〜3、および図1および図7を参照のこと);
(b)例えばザルコペニア(sarcopenia)、筋肉機能障害、線型成長障害、および低骨ミネラル含量に関連した疾患状態(例えば骨粗鬆症)に罹患し易い可能性のある個体を同定することにおいて関心のある、全除脂肪体重、除脂肪体重率、および骨ミネラル含量のような身体組成指数、並びに身長(例えば、適切なメチル化マーカー部位を示すための実施例2、表2および表4、図2aおよび図2bを参照のこと);
(c)例えば左心室肥大、冠動脈心臓疾患、アテローム硬化症および高血圧についての性向を予測することにおいて関心のある、左心室重量、大動脈根直径、冠動脈直径、頸動脈内膜−中膜厚さ、収縮期および拡張期血圧、脈拍、大動脈−足パルス波速度、および大動脈−大腿パルス波速度を含む心血管構造および心血管機能の指数(例えば、適切なメチル化マーカー部位を示すための実施例3、表5および表6、図3を参照のこと);
(d)例えば行動障害を予測することにおいて関心のある、情緒的問題、活動亢進、行動的問題、ピア問題、または全体的困難性のような神経行動学的疾患の指数;学習能力障害を予測することにおける、特定のメチル化マーカーと関心のある言語IQおよび/または行動IQおよび/または全検査IQにより示される認識機能との間の関連性の証拠が提示される(例えば、適切なメチル化マーカー部位を示すための実施例4および5、表7および表8、図4および図5を参照のこと);
(e)アトピー性皮膚炎および他のアレルギー性疾患(例えば、適切なメチル化マーカー部位を示すための実施例6、表9、および図6を参照のこと)。
【0019】
上記で述べたように、小児肥満の将来的顕在化の性向を予測することに関連して、例えば臍帯DNAにおけるCpG部位RXRAchr9:136355885+のメチル化状態の評価が、特に好ましい可能性がある。これは、それぞれ9歳時および6歳時の二つの独立した小児同年齢集団において、小児の体脂肪量および体脂肪量%の両方と正に相関することが示されている。将来の肥満に対する予測のためのバイオマーカーとしての、このようなメチル化の提案された使用を維持することにおいては、妊娠早期における母親のより低い炭水化物摂取もまた、ここに提示されるデータによって、より高い臍帯RXRAchr9:136355885+メチル化と関連していることが示される(図7参照)。
【0020】
これもまた上記で述べたように、2以上のCpG部位のメチル化状態の決定は、これらの選択された部位が2以上の選択された遺伝子に対して5’側にあってよく、また斯かる遺伝子が異なる機構経路にあり得る場合の結果を予測するために依拠されてよい。可能なかかる組合せは、例証と共に、上記で述べた表および図から直接的に明らかであろう。
【0021】
表現型を示すことについての性向が個体において決定されたならば、該個体のライフスタイル(食餌、行動、運動等)は、骨粗鬆症に関連した肥満または母親の骨含量のような何れかの望ましくない特徴の現実の発生リスクを低減するように企画することができる。
【0022】
本発明の方法が新生児または小児における肥満の性向を同定した場合、これはかかる性向と先に同定された母親の栄養不良との間の関連性を考慮して、母親の栄養状態を調べるための契機として使用されてよく、また母親の栄養不良が発見された場合には、例えば、食餌アドバイスおよび/または食物サプリメントを与えることによって個体の食餌を改善する。
【0023】
本発明の方法は、選ばれた集団群において1以上の表現型特徴についての性向の発生を調べるために使用されてよく、それによって関心のある集団における該特徴の発生に寄与する外部因子を同定するために使用されてよい。この方法において、公衆衛生イニシャチブを、集団における望ましくない表現型特徴およびそれにより関連した疾患、例えば糖尿病、骨粗鬆症、ザルコペニア(sarcopenia)、行動障害および精神障害、高血圧および心臓障害の発生を低減させることを目的とするように向けさせることにおいて、また学習を補助することにおいて、有用な情報が得られるかもしれない。本発明の有用性は、それが最適な健康および福祉のために個体を管理する適切な方法の選択を可能にすることである。
【0024】
上記で述べたように、本発明者等は以前に、ラット脂肪組織における変化したGRプロモータのメチル化がその後の生活における肥満を予測するとの証拠を提示したが、CpGまたはCpG群の何れかの個々の構成的修飾には言及しなかった(WO2007/129113の実施例1参照)。しかし、ここに提供される本発明の例証はヒトに関するものであるが、本発明の方法は動物にも適用でき、且つ家畜および農場動物の両方において特に興味深いものであることを現時点で推定することは合理的である。例えば、本発明の適用によって家畜(例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、シカ)における肥満を早期に予測することは、農場主が生産効率を最大化し、それによって経済的リターン(赤肉の生肉収量、および繁殖または屠殺の決定)を最大化するように、動物を選択および/または管理することを可能にする。
【0025】
同様に、肥満に対する予後の早期診断は、状態を管理し、純血種産業(例えばウマ)における動物パフォーマンスを最大化し、コンパニオン動物(例えばネコおよびイヌ)における肥満を管理するための介入を可能にするであろう。
【0026】
本発明の適用を目的としたCpGまたはCpG群のメチル化の検出は、抽出されたゲノムDNAのサンプルをバイサルファイト処理して、メチル化されたシトシンをウラシルに変換することから始まる既知の方法により達成されてよい。その後にPCR増幅および配列決定、例えばバイサルファイト処理したDNAおよびバイサルファイト処理しない同等のDNAサンプルに対する、ピロマークMDシステム(Biotage)上でのパイロシーケンシングを行ってよい。或いは、同じDNAサンプルをシーケノム分析(Sequenom analysis)にかけてよく、ここではバイサルファイト処理の後にT7プロモータタグを用いたPCR増幅、RNA転写、転写物のウラシル特異的開裂、およびマトリックス支援吸着イオン化飛行時間(MALDI-TOF)質量スペクトル分析(Ehrich et al. (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. 102, 15785-90; www.Sequenom.com)による開裂生成物の解析が行われる。後者の方法を使用する幾つかの場合には、近接した個々のCpGは分解可能ではなく、その場合にはそれらは一群として解析されるであろう。
【0027】
更なる側面において、本発明は、本発明の方法を実施するためのキットであって、下記を含んでなるものを提供する:(i)任意にはDNAのバイサルファイト処理のための手段と共に、1以上の選択されたCpGジヌクレオチドおよび/またはCpG群のメチル化状態を分析するためのアンプリコンを得るのに適したプライマー;(ii)前記メチル化状態の各々と、少なくとも一つの関心のある表現型特徴の変動との間の相関に関する情報。
【0028】
以下の実施例は、臍帯サンプルにおける8つの選択された遺伝子のコード化領域の5’側にある個々のCpGおよび/またはCpG群のエピジェネティックな状態と、9歳児の主要な小児表現型との間の相関の同定を参照して、本発明を例示するものである。実施例1bは、6歳時における測定された体脂肪量および体脂肪%を用いた第二の同齢集団についてのデータを利用することにより、臍帯DNAにおける一定のCpG部位、例えばRXRAchr9:136355885+のメチル化を小児の脂肪蓄積に関連させるデータを拡張している。しかし、上記で述べたように、同定されたメチル化のマーカーは、乳児のアトピー性皮膚炎の可能性を予測することを除き、より早い年齢またはより遅い年齢(乳児期後で且つ好ましくは未だ小児期)において同じ表現型を予測する際に利用されてよい。実施例6は、本発明によれば、誕生時において、アトピー性皮膚炎のようなアレルギー性疾患の乳児期での顕在化の可能性さえも予測するために使用できることを示している。
【実施例】
【0029】
方法:
<サンプル>
臍帯サンプルを、サウサンプトン大学/UK医学研究会議プリンセス・アン病院栄養研究における妊婦から採取した。
【0030】
<患者および表現型分類>
1991〜2年に、単生児を懐妊した妊娠17週未満の少なくとも16歳の白人女性が、サウサンプトンUKのプリンセス・アン産科病院において募集された;糖尿病患者および妊娠のためのホルモン治療を受けた女性は排除された。妊娠の初期(懐妊15週)および後期(懐妊の32週)において、食餌および生活様式のアンケートが女性に与えられた。子供に関する人体計測データが誕生時に収集され、また臍帯切片が採取および保存された。妊娠年齢は、月経暦およびスキャンデータから推定された。559人の小児が9月齢時点で追跡調査され、そのときには調査看護士が身体計測データおよび乳児の食餌摂取を記録し、子供の皮膚を検査し、目視可能なアトピー性皮膚炎の形跡を探した。母親もまた子供が誕生以来乾燥肌であるか、または皮癬肌状態であるかを質問され、アトピー性皮膚炎についてのUK特別調査委員会診断基準(Williams et al., (1994), Br J Dermatol. 131, 406-16)の改変版を使用して、アトピー性皮膚炎の診断が決定された。喘息または枯草熱の履歴については、子供がこれら疾患を発症するには若年過ぎるので省略された
子供が9歳に近づいたときに、未だサウサンプトンに住んでいるこれらの親は、彼らの子供を将来研究に参加させるために招致された。招致された461人のうち216人(47%)がクリニックに通院することに同意した。これらのうちの87人は、臍帯サンプルを採取され且つ−80℃で保存されており、このサンプルが以下で報告する研究において使用された。臍帯サンプルの採取および分析、並びに子供の追跡調査は、全ての対象者の書面による告知および同意を得て、サウサンプトンおよびサウスウエストハンプシャーの合同研究倫理委員会からの施設内審査委員会承認の下に行われた。また、臍帯データおよび6歳時の脂肪蓄積データが利用可能な子供について、第二の独立した同齢子供集団が選択された(更なる詳細については実施例1bおよび表S6を参照のこと)。
【0031】
<身体組成の評価>
9歳時に、スタジオメーターを使用して身長が測定され、またデジタル体重計(SECA Model No.835)を使用して体重が測定された。DXA(二重エネルギーX線吸光光度法;特殊な小児科ソフトウエアを使用した月DPX−L器具;バージョン4.7c、GEコーポレーション、マジソン、WI、USA)によって、子供は身体組成の測定を受けた。この器具は毎日較正され、全ての走査は子供に軽い衣服を着用させて行われた。装置の短期および長期の変動率は、それぞれ0.8%および1.4%であった。
【0032】
<心臓構造、動脈コンプライアンスおよび頚動脈内膜−中膜厚さ>
子供は、サウサンプトンのプリンセス・アン病院のクリニックに通院した。該クリニックにおいて、彼らは温度制御された部屋(20±2℃)内で少なくとも10分間静かに着座した。脈拍および血圧(BP)測定が血行力学的安定性を示したとき、子供を左横向き横臥位置にして、一人の超音波検査士により経胸郭的超音波心臓検査(Acuson 128 XP and a 3.5MHz phased array transducer)を行った。二次元Mモードのドップラー超音波心臓検査図を五つの連続的心臓サイクルに亘って記録し、測定をオフラインにした。大動脈根直径、左心室重量(アメリカ超音波心臓検査学会規約に従う)、および全冠動脈直径を、先に報告されたようにして測定した(Jiang et al. (2006) Pediatrics 117, e257-61)。
【0033】
子供が横臥している間に、超音波検査士は7MHzの線型アレイ変換機を使用して、共通頚動脈の右遠位部分の内膜−中膜厚さを測定した(Gale et al. (2006) Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 26, 1877-1882)。横方向、前後方向、および斜め方向の断面の三つの長手方向図が、拡張期の終わりで記録された。遠い壁の内膜−中膜厚さは、CVIソフトウエア(National Instruments; Austin, TX, USA)を使用して、二分岐の開始点近くでは10mmと測定された。3回の測定の平均が分析において使用された。
【0034】
動脈コンプライアンスは、左心室の収縮によって生じた圧力波の結果として動脈壁を伝播する拡張波の通過時間を決定する、非侵襲的な光学的方法によって測定された。波が既知の距離だけ移動するのに要する時間の測定は、パルス波速度を計算することを可能にする。最適な方法は、圧力波速度の動脈内測定に対して実証されている(Bonner et al. (1995) Fortschitt Berichte. 107, 43-52)。
【0035】
パルス波速度は、大動脈から大腿動脈への二つの動脈切片、即ち、大動脈の弓部近傍の共通頚動脈から鼠径部靭帯直下の大腿動脈へと延びる切片、および後脛骨筋動脈へと延びる大動脈から足への切片において測定された(Gale et al. (2008) Eur. J. Clin. Nutr. 62, 68-77)。パルス波速度は、血管壁のコンプライアンスの平方根に対して逆相関する。従って、高いパルス波速度はより硬い動脈壁を示している。
【0036】
補充の表S1は、この研究に含められた87人の9歳児の身体組成的特徴および心血管状態を要約している。
【0037】
<認識機能および心理学的健康の評価>
認識機能は、ウェックスラーの短縮知能スケール(WASI:Wechsler D., Wechsler Abbreviated Scale of Intelligence. The Psychological Corporation, Sam Antonio, 1999)を使用して測定され、また心理学的健康は、母親によって完成された知力および障害のアンケート(SDQ)を用いて評価された(Goodman R. The Strengths and Difficulties Questionnaire: a research note. J. Child Psychol. Psychiatr. (1997) 38:581-586)。SDSは、向社会的行動、活動亢進、情緒的症候群、行為問題およびピア問題を評価する5つの副尺度からなっている。
【0038】
<DNAの抽出>
100〜200mgの凍結および粉砕された臍帯サンプル(これは主に二つの臍帯動脈、臍帯静脈およびワルトンのゼリーを含んでいる)から、ゲノムDNAを抽出した。
【0039】
<アレイに基づく分析>
メチル化に特異的なクロマチン沈殿の後、商業的に入手可能なマイクロアレイ(NimbleGen Human ChIP Epigenetic Promoter Tiling Array)を使用して、推定プロモータのCpGメチル化の程度のゲノム全体の評価に着手した(Rauch et al. (2007) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104, 5527-32; Weber et al. (2007) Nat. Genet. 39, 457-66)。これは、包括的なヒトゲノムについて5kbのプロモータ領域を、2アレイを横切って二つに分け(各々が〜12,000遺伝子)、110bpの間隔で領域を並べ、可変長のプローブ(〜5/プロモータ)を使用して分析する。注釈を付したスプライス変異体および選択的スプライス部位がアレイ上に表示される。アレイの高価なコストのゆえに、我々は16人の対象について測定を行った:一人の検査対象において、この予備研究における二つのアレイのうちの一つは技術的理由で失敗した。
【0040】
<特異的CpG部位における定量的なDNAメチル化分析>
ゲノムDNAは、古典的プロテイナーゼK消化およびフェノール:クロロホルム抽出により、凍結された保存臍帯サンプルから単離された。特定のCpG部位におけるDNAメチル化の定量的分析は、ピロマークMDシステム(Biotage)またはシーケノムMassARRAYコンパクトシステム(http://www.sequenom.com)を使用して行った。
【0041】
<パイロシーケンシング>
簡単に言えば、これはバイサルファイト処理されたDNAの遺伝子特異的増幅と、続いてピロマークMDを使用した四つの酵素プロセスを介しての合成による配列決定を含んでいる。2μgのDNAを、EZ・DNAメチル化−金キット(Zymo Research)を製造業者のプロトコール通りに使用して、バイサルファイト変換した。バイサルファイト変換されたDNAに特異的なPCRプライマーを、PSQアッセイ設計ソフトウエアを使用して設計した。フォワードプライマーもしくはリバースプライマーの何れかが、パイロシーケンシングプロトコールの際にPCR生成物をセファロースビーズに結合するのに必要な、5’ビオチン修飾を含んでいた。
【0042】
補充の表S2は、アンプリコン、プライマー配列(PCRおよびパイロシーケンシング)、PCRアニーリング温度、およびゲノム座標を列挙している。パイロシーケンシングが推奨する通り、Qiagen・HotStar・Taqポリメラーゼおよび10pMの最終プライマー濃度を用いて、1μLのバイサルファイト処理されたDNAを50μL反応中でPCR増幅した。PCR条件は、95℃で15分間に続いて、94℃で30秒、50〜60℃で30秒および72℃で1分の45サイクルからなっていた。最終PCR工程は、72℃で10分の延長からなっていた。PCR特異性をモニターするために、各アンプリコンについて鋳型制御は含められなかった。PCR増幅に続いて、生成物をストレプトアビジンで被覆されたセファロースビーズにアニールし、0.2MのNaOHを用いて一本鎖の生成物に変性させた。洗浄バッファー(Biotage)でクリーニングしてDNAを中和した後、パイロシーケンシング反応の初期化のために必要なパイロシーケンシングプライマーを添加した。ヌクレオチドを、ピロリン酸が放出される開いた3’DNA鎖に組込み、ATPを放出するスルフリラーゼ反応において使用した。次いで、該ATPはルシフェラーゼにより使用され、これはオキシルシフェリンに変換される。該反応の結果として光が放出され、CCDカメラによって集められる。光は読取り可能なフォーマットに構築され、ピークとして表される。ピーク検出、信号/ノイズ比の計算および定量的CpG部位メチル化を、Pyro・Q−CpGソフトウエアv1.0.9(Biotage)を使用して実行した。PPARg2chr3:12367795+およびPPARg2chr3:12367792+についての再現性データは、0.78〜0.90に亘るR値を示した。
【0043】
<シーケノム分析>
簡単に言えば、上記で述べたように、これはバイサルファイト処理されたDNAの遺伝子特異的増幅と、これに続くインビトロ転写およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析(Ehrich et al. (2005) Proc. Natl. Axcad. Sci. USA 102, 15785-90)による分析を含んでいる。EZ・DNAメチル化キット(Zymo Research)を使用し、シーケノムの推奨を用いた製造業者のプロトコール(選択的サイクリングプロトコール、100μL溶出容量)に従って、1μgのDNAをバイサルファイト変換した。バイサルファイト変換されたDNAについて特異的なPCRプライマーを、メスプライマー(Methprimer:Li and Dahiya (2002) Bioinformatics 18, 1427-31)を使用して設計した。各リバースプライマーは、インビトロ転写のためのT7プロモータタグ(5’−cagtaatacgactcactatagggagaaggct−3’)を含んでおり、またフォワードプライマーにはTmをバランスさせるために10量体(5’−aggaagagag−3’)が付けられた。
【0044】
補充の表S3には、アンプリコン、プライマー配列、PCRアニーリング温度、およびゲノム座標が列記されている。パイロシーケンシングが推奨する通り、Qiagen・HotStar・Taqポリメラーゼおよび200nMの最終プライマー濃度を用いて、1μLのバイサルファイト処理されたDNAを5μL反応中でPCR増幅した。PCR条件は、94℃で15分間に続いて、94℃で20秒、52〜62℃で30秒および72℃で1分の45サイクルからなっていた。最終PCR工程は、72℃で3分の延長からなっていた。PCR特異性をモニターするために、各アンプリコンについて鋳型制御は含められなかった。PCR増幅に続いて、反応混合物をエビ・アルカリホスファターゼ(Sequenom)で処理し、熱で不活性化し、2μLを、7μLの同時インビトロ転写/ウラシル開裂反応中において、製造業者(Sequenom)の指示に従って鋳型として使用した。転写開裂生成物を、20μLのHOおよび6mgのCLEAN樹脂(Sequenom)の添加により脱塩し、MassARRAYナノディスペンサ(Samsung)を使用して、384パッドのSpectroCHIP(Sequenom)上にスポッティングした。MassARRAY・MALDI−TOF・MS(Bruker-Sequenom)を使用して質量スペクトルを取得し、所有権にかかるEpiTyperソフトウエアv1.0(Sequenom)を使用して、ピーク検出、信号/ノイズ計算および定量的CpG部位メチル化を実施した。単一のCpG部位を含んでいる断片については、非メチル化断片に対するメチル化断片の比によってDNAメチル化状態を計算した。複数のCpG部位を含む開裂生成物については、1以上のメチル化部位を含む断片の比率が報告される。定量可能でないか、または不明瞭なCpG単位はこの分析から排除された。
【0045】
<統計的分析>
誕生時の体重は、誕生時の妊娠齢について調節された。エピジェネティックな変数は、フィッシャー・イェーツの変換を使用して正規性の統計的仮定を満たすように変換され、また結果変数は、必要な場合には対数を使用して変換された。ピアソン相関(r)および線形回帰を使用して、エピジェネティックな測定値と小児の特徴との間の相関を調べ、適切な場合には性別および検査時の年齢について調整した。臍帯におけるメチル化の程度を9歳時の小児の表現型に関連付けるために、統計学的パッケージであるStataを使用した。
【0046】
<候補遺伝子の選択>
アレイ分析を使用して、メチル化における変動、およびメチル化状態と、WO2007/129113に記載された9歳時におけるその後の身体組成、心血管の構造または機能との間の強い相関を示す遺伝子の予備的パネルを選択した。パイロシーケンシングおよび/またはシーケノム分析を使用して、個々のCpGまたはCpG群におけるメチル化の測定のための生物学的妥当性に基づき、この予備的パネルから8種の遺伝子を選んだ。
【0047】
<更なる研究のためのメチル化部位の選択>
補充の表S4およびS5は、ゲノム座標(UCSC、2006年3月ヒトゲノム会議)を参照して同定された、分析された個々のメチル化部位におけるCpGの分布を示している。研究されたCpG/CpG群の大部分について、メチル化は低く(第75百分位数<5%)、および/または僅かな変動しかないが(第5〜第95百分位数<10%)、37のCpG/CpG群は、患者の1/4超が≧5%メチル化、および第5百分位数と第95百分位数の間の絶対的メチル化において≧10%変動の両方の基準に適合した。メチル化における特に顕著な変化が、RXRAchr9:136355885+(中央値59%、第5−第95百分位数4〜99%)およびeNOSchr7:150315553+(中央値93%、第5〜第95百分位数64〜100%)を含む幾つかの部位に見られた。異なるCpGのメチル化の間の相関は一般に低かった(例えば、上記二つのCpGの間では、r=0.03、P=0.81、n=55)。上記でのべた37のCpG/CpG群では、既知の一塩基多形は存在しなかった。従って、新生児の臍帯におけるこれら部位でのメチル化のレベルを、9歳時における同じ個体の表現型特徴と比較した。
【0048】
結果の概観:
上記で述べたように、臍帯組織における個々のCpGs/CpG群およびCpGs/CpG群の組合せのエピジェネティックな状態と、9歳時点における主要な小児表現型との間に強い相関が同定された。
【0049】
・このようなCpGs/CpG群およびCpGs/CpG群の組合せは、同じ遺伝子コード化領域に対して5’側近位にあることができ、および/または単遺伝子を介してそれらの影響を及ぼすことができる。
【0050】
・このようなCpGs/CpG群の組合せは、異なる機構的経路における遺伝子のコード化領域に対して5’側であってよい。
【0051】
・このようなCpGs/CpG群は、前記近位プロモータに限定されない。
【0052】
・表現型は、健康上の結果および生活属性の質についての臨床的に関連したフェノタイプ(身体組成/成長、学習能力障害、行動/認識発達、心血管の構造および機能、アトピー性皮膚炎およびアレルギー性疾患)を含んでいる。
【0053】
・周産期のエピジェネティックなメチル化マーカーは、フェノタイプにおける変動のかなりの部分を説明する。
【0054】
・相関は一方向性ではない。
【0055】
上記で述べたように、実施例1bに提示したデータは、重要なこととして、RXRAchr9:136355885+のメチル化状態と9歳時における脂肪蓄積の間の強い正の相関が、6歳の時点でも適用されることを示している。
【0056】
実施例1a
9歳時点での小児体脂肪量、体脂肪率、体脂肪分布および肥満度指数
研究された37のCpGs/CpG群のうちの19について、9歳時点において、メチル化は子供の全体脂肪量および/または体脂肪率および/または体脂肪分布および/または肥満度指数と関連することが見出された(表1参照)。レチノイドX受容体アルファ(RXRA)chr9:136355885+および内皮一酸化窒素シンターゼ(eNOS)chr7:150315553+の臍帯メチル化は、9歳時点での小児の体脂肪量(図1a)、体脂肪量パーセント(図1b)、体幹/四肢脂肪比(図1c)および肥満度指数との強い性の関連性を有していた(それぞれ、r=0.39、P=0.001、およびr=0.26、P=0.037)。臍帯CpGメチル化の分布全体の脂肪蓄積には大きな差が存在し、例えば平均の性別調製された体脂肪量、体脂肪率、および体幹/四肢脂肪比は、それぞれRXRAchr9:136355885+の分布の最低クオーターにおける4.8kg、17.3%および0.617から、分布の最高クオーターにおける6.6kg、21.3%および0.704へと上昇した。表2は、メチル化のレベルが、小児の脂肪蓄積との有意な独立した関連を有するCpG部位の、一変量分析および多変量分析を示している。小児の性別を考慮すると、RXRAchr9:136355885+およびeNOSchr7:150315553+のメチル化レベルは、9歳時点での小児の体脂肪量および体脂肪率における変動の40%超、および体脂肪分布における変動の28%を説明した。性別とは独立に、RXRAchr9:136355885+およびeNOSchr7:150315553+およびスーパーオキシドジスムターゼ−1(SOD1)chr21:31853660/63+のメチル化もまた、小児の体幹/四肢脂肪比に逆相関していた(P=0.037)。上記で述べたように、これら部位のメチル化状態の肥満の指標との関連性は、例えば2型糖尿病、メタボリック症候群、心血管系疾患、および肥満がリスク因子であると認識されている他の症状の発症リスク状態にある個体を同定する際の補助になることが期待される。
【表1】

【表2】

【0057】
実施例1b:
6歳および9歳時点での脂肪蓄積に関連した特定のCpGsのメチル化状態
実施例1aに報告された上記研究の延長において、候補遺伝子から5’側にある特定のCpGのメチル化状態を、母親の妊娠中の食餌、および二重エネルギーX線吸収測定(DXA)により測定されたその後の小児期の脂肪蓄積に関連付けるために、健康な新生児由来の臍帯DNAが使用された。選択された遺伝子は、レチノイドX受容体アルファ(RXRA)、内皮一酸化窒素シンターゼ(eNOS)、スーパーオキシドジスムターゼ−1(SOD1)、インターロイキン8(IL8)、およびホスオイノシチド−3−キナーゼ触媒デルタポリペプチド(P13KCD)であった。
【0058】
シーケノムMassARRAYシステムにより測定されたメチル化は、特定のCpG部位において大きく変化した。要約すれば、9歳時のDXAデータに関連して研究された68のCpGのうち、31は平均メチル化≧5%を有し、また5〜95%範囲は≧10%であった。RXRAchr9:136355885+およびeNOSchr7:150315553+メチル化は、9歳時において性別とは独立に、小児の体脂肪量との独立の関連性(それぞれr=0.32、P=0.009、n=64およびr=0.42、P<0.001、n=66)、および体脂肪量%との独立の関連性(それぞれr=0.29、P=0.023、n=64、およびr=0.37、P=0.002、n=66)を有していた。更に、RXRAchr9:136355885+のより高いメチル化は、妊娠初期における母親の低い炭水化物摂取と関連付けられたが(以前はこの集団におけるより高い新生児脂肪蓄積と関連付けられた)、eNOSchr7:150315553+のより高いメチル化は関連付けられなかった。
【0059】
サウサンプトン女性調査(SWS; Inskip et al. (2006) 'Cohort profile; The Southampton Women's Survey' Int. J. Epidemiol. 35, 42-48)から選択された27人の小児の第二の独立した群において、臍帯DNAにおけるCpG部位のメチル化が、6歳時点での脂肪蓄積のDXA測定値と比較された。この群において、コードeNOSchr7:150315553+のメチル化は、脂肪蓄積との関連性を示さなかったが、RXRAchr9:136355885+のメチル化は、体脂肪量および体脂肪%との顕著な同様の関連性を示した(r=0.47、P=0.014、およびr=0.43、P=0.027、n=27)。性別を管理すると、誕生時に測定されたエピジェネティックマーカーは、小児後期の脂肪蓄積における変動の>20%を説明し、これは代謝性疾患リスクのかなりの部分が周産期発生の基礎を有することを示唆した。
【0060】
これらの結果は、周産期および初期生命における因子を後期の脂肪蓄積および代謝性疾患のリスクに関連させる、増大するヒトにおける疫学的証拠の観点から限りなく興味深いものである(Gluckman et al. (2001) ‘Fetal programming and adult health’, Public Health Nutrition 2(B), 611-624; Gluckman et al. (2008) Effect of in utero and early-life conditions on adult health and disease. N. Engl. J. Med. 359, 61-73)。例えば、上記で述べたように、妊娠の際の過酷な栄養制限の期間は、成人したときの子孫の肥満と関連付けられ(Ravelli et al. (1976) ‘Obesity in young men after famine exposure in utero and early infancy’, New Engl. J. Med. 295, 349-353も参照のこと)、または母体組成における正常な変動は、子供のその後の脂肪蓄積に関連している(Gale et al. (2007) ‘Maternal size in pregnancy and body composition in children’, J. Clin Endocrinol. Metab. 92, 3904-3911)。しかし、肥満に対する個人の脆弱さを生じるこのような経路の相対的重要性は知られておらず、またその基礎をなす機構の理解は限定的である。動物モデルにおいては、初期の生命環境の変化、例えば母親の食餌の操作を、成人した子孫における変化した代謝および身体組成に関連付ける広範な証拠が存在し、また最近の研究は、エピジェネティックなプロセスがこれらの関連性を実証し、機構的説明を提供している(Burdge et al (2007) Dietary protein restriction of pregnant rats in the F0 generation induces altered methylation of hepatic gene promoters in the adult male offspring in the F1 and F2 generations.’ Br. J. Nutr. 97, 435-439; Drake et al. (2005) ‘Intergenerational consequences of fetal programming by in utero exposure to glucocorticoids in rats.’ Am. J..Physiol. Regul. Integr. Comp. Physiol 288, R34-38; Champgane et al. (2007) ‘Transgenerational effects of social environment on variations in maternal care and behavioural response to novelty.’ Behav. Neurosci.121, 1353-1363)。
【0061】
ラットにおいて、妊娠中の母親のアンバランスな食餌は、親に刷り込まれたものでない特定の遺伝子の5’プロモータ領域において、DNAメチル化および共有結合ヒストン修飾における変化を誘導し、また子孫のその後の身体組成および代謝表現型に影響する(Lillycrop et al (2005) ibid; Bogdarina et al. (2007) ‘Epigenetic modification of the rennin-angiotensin system in the fetal programming of hypertension’, Circ. Res. 100, 520-526)。このような実験モデルにおいて、初期生命における内分泌的または栄養的介入は、その後の表現型の影響および関連のエピジェネティックな変化の両方を反転または妨害する可能性がある(Gluckman et al. (2007) Proc. Natl Acad. Sci. USA 104, 12796-12800; Lillycrop et al. (2008) Br. J. Nutr. 100, 278-282)。
【0062】
上記に要約した結果は、今や、特に例えばRXRAchr9:136355885+についての特定の選択されたCpGにおける周産期のエピジェネティックな分析は、その後の肥満に対する個体の脆弱さを同定することにおいて有用性をもつ可能性がある。これらの結果について、以下で更に議論する。
【0063】
補充の表S3は、PAH同齢集団研究における68人の被験者から得た臍帯サンプルから抽出されたDNAを使用した研究のために選ばれた、五つの候補遺伝子のプロモータ領域に対応するアンプリコンを記載している。
【0064】
誕生時および9歳の追跡時におけるPAH同齢集団研究の被験者の特徴が、6歳時点で追跡されたサウサンプトン女性調査からの第二の独立した小児群のそれと共に、補充の表S6に示されている。
【0065】
分析は、メチル化中央値≧5%および5〜95%範囲≧10%のCpGに限定された。正規性およびピアソン相関(r)の統計学的仮定、並びに性別を調整して、母親の食餌および子供の脂肪蓄積に関連してCpGメチル化を試験するために使用される線型回帰を満たすのに必要な場合は、Stataを使用してPAH研究の変数を変換した。より小さいSWS群において、メチル化パーセントおよび子孫の脂肪蓄積のランキングを分析した。
【0066】
研究された68のCpGおよびCpG群について、測定値はPAH被験者の29および68の間で入手可能であり、また31のCpGが更なる分析のための基準(メチル化の中央値≧5%、および5〜95%が≧10%)に合致した(補充の表S5)。メチル化の程度における特に顕著な個体間変動が、幾つかの部位で見られた(例えば、RXRAchr9:136355885+は59%の中央値を有し、第5〜第95百分位数は4〜99%であった;eNOSchr7:150315553+は93%の中央値を有し、第5〜第95百分位数は64〜100%であった)。異なるCpGのメチル化の間の相関は一般に低かった(例えば、上記二つのCpGの間で、r=0.03、P=0.81、n=55)。
【0067】
アプリオリな閾値を越える可変メチル化が臍帯DNAに見られる31のCpGのうち、7つは9歳時における小児の脂肪蓄積のDXA測定値との有意な相関を有していた(補充資料、表S7)。下記の表3は、小児の脂肪蓄積との有意な独立の関連性を持ったCpG部位の一変数分析および多変数分析の結果を示している。RXRAchr9:136355885+およびeNOSchr7:150315553+メチル化は、性別とは関係なく、小児の体脂肪量との独立した正の関連(それぞれ、r=0.32、P=0.009、n=64、およびr=0.42、P<0.001、n=66)、体脂肪量%との独立した正の関連(それぞれr=0.28、P=0.023、n=64、およびr=0.37、P=0.002、n=66)、および体幹/四肢体脂肪比との独立した正の関連(それぞれ、r=0.26、P=0.039、n=64、およびr=0.33、P=0.007、n=66)を有していた。eNOSchr7:150315553+およびRXRAchr9:136355885+のメチル化は、小児の肥満度指数と同様の正の関連を有していた(それぞれ、r=0.39、P=0.001、およびr=0.26、P=0.037)。性別とは無関係に、eNOSchr7:150315553+およびRXRAchr9:136355885+のメチル化、SOD1chr21:31853660/63+のメチル化はまた、小児の体幹/四肢脂肪比に対して逆に関連していた(P=0.037)。これらの関連性は、性別を調整した平均の体脂肪量が、RXRAchr9:136355885+メチル化の最低クオーターにおける4.8kg(17.3%体脂肪)から、分布の最高クオーターにおける6.6kg(21.3%体脂肪)へと上昇するような、脂肪蓄積における臨床的に重要なシフトを反映している。RXRAchr9:13635588+のメチル化および性別を考慮することは、PAH小児における体脂肪量の26%の変動を明らかにし、また同時の分析は、RXRAchr9:136355885+メチル化と小児の体脂肪量との間の関連が誕生時の体重および母親の肥満度指数とは無関係であることを示した。
【表3】

【0068】
この集団において、妊娠初期における母親の炭水化物摂取が低いことは、以前から、より高い新生児の脂肪蓄積と関連付けられている(Godfrey et al. (1997) 'Maternal birthweight and diet pregnancy in relation to the infant's thinness at birth', Br. J. Obset. Gynaecol. 104, 663-667)。臍帯CpGメチル化を妊娠初期における母親の炭水化物摂取に関連付けることによって、RXRAchr9:136355885+のより高いメチル化は母親のより低い炭水化物摂取に関連するが、eNOSchr7:150315553+のメチル化は関連しないことが分った(図7a)。臍帯CpGメチル化を誕生時の乳児のサイズに関連させたところ、三つのCpGのみが、性別および妊娠齢について調整された誕生時の体重と有意な相関を示した[PIK3CDchr1:9609980+(r=−0.32,P=0.013,n=58),PIK3CDchr1:9635676/79+(r=−0.36,p=0.028,n=37)、およびSOD1chr21:31853827+(r=−0.27,p=0.029,n=65)]。
【0069】
追跡したときに、利用可能な臍帯DNAおよび6歳時点の脂肪蓄積のDXA測定の両方を有することに基づいてSWS同齢集団から選択された第二の独立の小児群において、臍帯eNOSchr7:150315553+およびRXRAchr9:136355885+のCpGメチル化と、小児の脂肪蓄積との間の関連性が再現されることが分った。これら27人の被験者において、eNOSchr7:150315553+は脂肪蓄積との関連性を示さなかったが、RXRAchr9:136355885+は、PAH小児におけるものと顕著に類似した関連性を示した(図7b、c、d)。
【0070】
最後に、この分析を混乱させるRXRAchr9:136355885+の一塩基多形(SNP)の存在が、SWS被験者における配列決定によって排除された。SNP分析は、PyroMark・Q96MDを使用したパイロシーケンシングにより行った。簡単に言うと、この方法は、関心のあるアンプリコン中へのヌクレオチド取込みの結果として放出されるピロリン酸の間接的なルミノメトリック定量に基づいている(Algerhorn et al. Gen Res. 10, 1249-1258)。
【0071】
考察:
かくして、この研究は、将来の脂肪蓄積に対する発生的寄与の重要性に関する新規な証拠を提供する。更に詳細に言えば、二つの独立の同齢集団において、誕生時に測定されたRXRAchr9:136355885+のより大きなメチル化は、小児の将来のより大きな脂肪蓄積と強く相関した。
【0072】
我々が報告する遺伝子の影響は親に刷り込まれたものではないことが注目に値する。従って、インビトロの受精は刷り込み障害のリスクを増大させ、また妊娠初期の間に飢餓に曝された母親の子供での刷り込まれた遺伝子に対する影響が報告されているが、本研究は、ヒトの親環境を非刷り込み遺伝子におけるエピジェネティックな変化と結び付け、また誕生時のエピジェネティックな状態を臨床的に関連した将来の表現型変化に結び付ける証拠を加えるものである。
【0073】
全ゲノム関連研究は、固定された遺伝子変化が肥満、心疾患および糖尿病に対して相対的に小さい寄与を有することを示唆している;発明者等の発見は、発生的要素が等しく重要またはより重要であり得ることの可能性を提示する。上記で述べたように、RXRAchr9:136355885+におけるSNPの存在は配列決定により排除されたが、全ゲノム解析なしには、特定の配列のメチル化および小児の表現型の両方に影響し得る遠くのSNPの遺伝的効果を排除することは不可能である。しかし、たとえそうであったとしても、我々のデータは、誕生時におけるエピジェネティックな測定の予後的価値を明瞭に示している。
【0074】
DNAのメチル化はエピジェネティックな状態の中で最も安定なものであり、発生の間に出現するプロファイルは、遺伝子型に作用する環境因子の影響を反映する。このような変化は組織特異的であることができ、この点において、臍帯は、将来の脂肪蓄積に関係し得る胎児血管組織および間葉細胞を高い比率で含んでいるので有利である。
【0075】
非刷り込み遺伝子のメチル化の程度および将来の心血管および代謝の生理学における変化は、発生環境の操作によって、例えば妊娠の間に母親の栄養状態を変化させ、またはグルココルチコイドを投与することによって、多くは誕生時体重に対する影響とは無関係に実験的に誘導される可能性がある。幾つかのエピジェネティックなマーカーと誕生時体重の間の関連性は分っていたが、これらは将来の表現型との関連よりも弱かったし、また同じ同齢集団に関する以前の報告は、誕生時の体重と将来の身体組成の間の適度の関連のみを示したものであった(Gale et al. (2007) ibid)。ヒトにおける誕生時の体重は、母親自身の誕生時の体重および身長を含む複数の因子によって、および妊娠期間の長さによって影響されるので、エピジェネティックな変化は、胎児環境に対する環境的に誘導された影響の、誕生時体重よりも鋭敏な指標を提供する可能性がある。
【0076】
今回のデータは可能な機構的経路を示し、更なる研究のための道筋を示唆する。同じプロモータ内の隣接または近接するCpGが、小児の脂肪蓄積との関連の強さにおける差を示したとの所見は、プロモータのメチル化における一般化された変化ではなく、発生環境により誘導されたこれら遺伝子の転写調節における高度に特異的な変化を示唆する。異なる部位でのCpGの高メチル化および低メチル化は、体脂肪分布を予測し、これもまた転写制御における複雑さを示した。
【0077】
個々のCpGのメチル化と、母親の食事および子供の表現型の両者との間の関連の特異性は、エピジェネティックな過程を介しての、環境因子による発生の精密な制御の概念を支持する。RXRAによる転写の誘導はインスリン感受性、脂肪生成および脂質代謝に関与するペルオキシソーム増殖剤活性化受容体を含むリガンドに依存するので(Alvarez et al. (2000) Biochem. J. 345, 91-97; Sugden & Holness (2008) Biochem. Soc. Trans. 36, 891-900))、ここに提示されたRXRAchr9:136355885+についてのデータは、関与する一つの可能な機構的経路を示す。更に、RXRAchr9:136355885+は、転写の正の調節要素を含むと提案された領域に位置する(Li et al. (2006) Gene 372, 118-127)。図8は、XR、MAF、NFκBおよびAP1について提案された結合部位への、RXRAchr9:136355885+の近接を示している。
【0078】
独立の同齢集団で再現されたRXRAchr9:136355885+のメチル化と将来の脂肪蓄積との間の強い関連性は、深い意味を有するものである。第一に、その効果は誕生時の体重または母親の身体組成のような因子の効果よりも遙かに大きく、周産期のエピジェネティックなマーカーが将来の肥満の非常に有用な予測子であることを示唆している。第二に、CpGメチル化と小児の脂肪蓄積との間の関連は、母親の栄養状態および誕生サイズの正常な範囲内で機能する。RXRAchr9:136355885+メチル化と母親の炭水化物摂取との間の相関は、妊娠初期における状態がこの経路を介して小児の脂肪蓄積に影響し得るとの可能性を生じる。これは、出産年齢の全ての女性が、次世代の健康を改善するために適切な栄養、教育および生活様式のサポートを有するべきであるとの議論のための追加の裏付けを提供する。第三に、該データは、代謝性疾患の個体のリスクを決定する際の発生期の適応性(plasticity)についての役割をサポートする強力な証拠を提供する。
【0079】
実施例2:
9歳時における小児の除脂肪体重、骨ミネラル含量および身長
37のCpG/CpG群のうちの20について、メチル化の程度は、小児の全除脂肪体重および/または除脂肪体重率および/または骨ミネラル含量および/または身長と関連するとの証拠が見出された(表4)。図2aは、性別について調整された小児の除脂肪体重との、臍帯eNOSchr7:150315553+のメチル化の正の相関、およびSOD1chr21:31853837+のメチル化の逆相関を示している。また図2bは、性別について調整された骨量との間で、eNOSchr7:150315553+のメチル化は正の相関を有し、SOD1chr21:31853837+のメチル化は逆の相関を有することを示している。同様に、性別について調整された小児の身長は、eNOSchr7:150315553+のメチル化とは正の相関を有し、SOD1chr21:31853837+のメチル化とは逆の相関を有することを示している(それぞれ、r=0.23、P=0.062、およびr=−0.29、P=0.019)。臍帯CpGメチル化の分布全体に亘る除脂肪体重および骨量における重要な相違が存在し、例えば、平均の性別調整した除脂肪体重および骨ミネラル含量は、それぞれ23.3kgおよび1.23kgから、SOD1chr21:31853837+の最低クオーターにおいて20.9kgに低下し、また分布の最高クオーターにおいて1.09kgに低下した。表2は、メチル化レベルが小児の除脂肪体重および骨量との有意な独立した関連を有していた臍帯CPGの、一変数分析および多変数分析を示している。小児の性別を考慮したときに、eNOSchr7:150315553+およびSOD1chr21:31853837+のメチル化状態は、9歳時の小児の除脂肪体重における変動の31%および骨ミネラル含量における変動の26%を説明した。eNOSchr7:150315553+およびホスホイノシチド−3−キナーゼ触媒的デルタポリペプチド(PIK3CD)chr1:9635535/37+のメチル化の両方の測定値は、30人の小児についてのみ利用可能であったが、小児の性別を考慮すると、それらは骨ミネラル含量における変動の54%を説明した(表2)。PIK3CDchr1:9635535/37+のメチル化はまた、小児の身長と強く関連していた(r=−0.44、P=0.006、n=37)。
【表4】

【0080】
実施例3
9歳時における小児の心血管の構造および機能
左心室重量、大動脈根直径、冠動脈直径、頚動脈内膜−中膜厚さ、収縮期および拡張期血圧、脈拍、およびパルス波速度を、心血管の構造および機能の客観的指標として用い、特定のCpGのメチル化状態との相関が見出された。研究された37のCpG/CpG群のうちの30について、メチル化の程度は、上記で述べた心血管パラメータと関連するとの証拠が見出された(表5)。図3aは、PIK3CDchr1:9609870+のメチル化と小児の頚動脈内膜−中膜厚さとの間の強い逆相関を示しており、また図3bは、eNOSchr7:150306798+のメチル化と大動脈−大腿パルス波速度との間の正の相関を示している。表5は、小児の心血管構造および機能に関連した一変数分析および多変数分析の結果を示している。小児の性別を考慮すれば、SOD1chr21:31853837+のメチル化レベルは、左心室重量における変動の23%を説明し;SOD1chr21:31853837+およびPIK3CDchr1:9609870+のメチル化レベルは小児の頚動脈内膜−中膜厚さにおける変動の36%を説明し;SOD1chr21:31853837+は大動脈根直径に関連し(r=−0.33、P=0.008、n=65)、全冠動脈直径はPIK3CDchr1:9635515/87+、SOD1chr21:31953619/22+およびRXRAchr9:136355836+のメチル化に関連した(それぞれ、r=−0.42、P=0.028、n=28;r=0.46、P=0.019、n=26;およびr=0.41、P=0.004、n=48)。SOD1chr21:31853537+メチル化の測定値は、30人の小児についてのみ利用可能であったが、大動脈足パルス波速度における変動の28%を説明した。eNOSchr7:150306798+およびRXRAchr9:136355688+のメチル化レベルは、9歳時の小児の動脈−大腿パルス波速度における変動の17%を説明した。小児の性別および年齢を考慮すると、PIK3CDchr1:9609747/49/52/55/58/62+およびPIK3CDchr1:9609909/12/20+のCpG群は、拡張期血圧における変動の23%を説明した(表6)。
【表5】

【表6】

【0081】
実施例4
9歳時における小児のIQ
37のCpG/CpG群のうちの16について、メチル化の程度が小児のIQに関連するとの証拠が見出された(表7)。小児の言語IQとの関連性は、SOD1chr21:31953511+(スピアマンの相関係数r=−0.43、P=0.015、n=32)およびIL8chr4:74705162+(r=−0.36、P=0.017、n=45)について特に強かった。小児の動作IQとの関連は、eNOSchr7:150306792+(スピアマンの相関係数r=−0.29、P=0.015、n=72)、PIK3CDchr1:9609980+(r=0.27、P=0.04、n=56)およびSOD1chr21:31953394+(r=0.44、P=0.015、n=30)について特に強かった。小児の全検査IQとの相関は、NOSchr7:150306792+(スピアマンの相関係数r=−0.27、P=0.022、n=72)、PIK3CDchr1:9635535/37+(r=−0.34、P=0.037、n=37)、SOD1chr21:31953394+(r=0.39、P=0.033、n=30、図4)、SOD1chr21:31953511+(r=−0.36、P=0.042、n=32)およびRXRAchr9:136355885+(r=0.25、P=0.049、n=63)について特に強かった。
【表7】

【0082】
実施例5
9歳時の小児の神経行動学的状態
結果はまた、特定のCpG/CpG群のメチル化の程度が、神経行動学的障害(活動亢進、情緒的問題、行動問題、ピア問題および/または全体的障害を含むが、これらに限定されない)についての有用なマーカーとして使用できることを示した。研究された37のCpG/CpG群のうちの23について、メチル化の程度は、活動亢進、情緒問題、行動問題、ピア問題および/または全体的障害の尺度上における小児のスコアと相関するとの証拠が見出された(表8)。活動亢進スコアとの関連は、PPARg2chr3:12367759+(r=−0.41、P<0.001、n=67;図5a)およびRXRAchr9:136355885+(r=−0.38、P=0.002、n=63;図5b)について特に強かった。また、全体的スコアとの同様の関連が存在した:PPARg2chr3:12367759+(r=−0.36P=0.003n=66)およびRXRAchr9:136355885+(r=−0.44P<0.001n=62)。行動問題スコアとの関連は、PIK3CDchr1:9609980+(r=−0.38、P=0.003、n=58)、RXRA、 chr9:136355688+(r=−0.27、P=0.030、n=64)およびRXRAchr9:136357196+(r=0.28P=0.035n=59)について特に強かった。ピア問題との関連は、RXRAchr9:136355836+(r=−0.28、P=0.026、n=63)、RXRAchr9:136355885+(r=−0.29、P=0.021、n=63)およびRXRAchr9:136357082/85/87+(r=−0.26、P=0.038、n=62)について特に強かった。向社会的行動は、IL8chr4:74705094+のメチル化と特に関連した(r=−0.36、P=0.014、n=46)。
【表8】

【0083】
実施例6
アトピー性皮膚炎およびアレルギー性疾患のリスク
4以上のアトピー性皮膚炎の症例におけるメチル化測定を伴った13のCpG/CpG群のうちの5個について、メチル化の程度(パイロシーケンシングにより決定されたもの)は、アトピー性皮膚炎についてのUK特別調査委員会診断基準に従ってアトピー性皮膚炎の診断が下された乳幼児におけるアトピー性皮膚炎と関連していた(表9)。アトピー性皮膚炎との関連は、eNOSchr7:150306792+およびeNOSchr7:150306798+について特に強かった(図6)。従って、特定のCpG/CpG群のメチル化状態は、アトピー性皮膚炎および他のアレルギー性疾患についての性向を予測することにおいて、興味深いものである。このような関連の同定は、かかる障害の発生リスクまたは重篤度を低減するための介入を可能にする可能性がある。
【表9】

【0084】
<発見の要約−特異性およびCpG「フィンガープリント法」>
結果との関連性が、候補遺伝子の出発部位に対して5’側にある特定のCpGに結び付けられた。隣接または近接したCpGが、小児の表現型との関連性の強さにおける相違だけでなく、方向性においても相違を示した例が存在する:eNOSchr7:150315553+(eNOSchr7:150315604+)に最も近いCpGは、実質的な変化を示したが、小児の体脂肪量(r=0.01、P=0.94)、体脂肪率(r=0.03、P=0.83)、および体幹/四肢脂肪比(r=0.09、P=0.50)との関連性はなかった;SOD1chr21:31953511+は、体幹/四肢脂肪比と逆に関連していたのに対して、SOD1chr21:31953619/22+は、この比と正に関連していた(補充の表S7);SOD1chr21:31953511+は、小児の全検査IQと逆に関連していた(r=−0.36,P=0.042)のに対して、隣接するCpGであるSOD1chr21:31953394+は全検査IQと正に関連していた(r=0.39、P=0.033)。これは、プロモータのメチル化における一般化された変化よりも、発生環境により誘導されたこれら遺伝子の転写調節における高度に特異的な変化を示唆している。両者共に結果に優位に関連しているCpGの高メチル化および低メチル化は、ここでも転写制御における複雑さを示している。これらの単純な関連を越えて、多変数分析は、該関連が性別および誕生時の体重とは無関係であることを示し、結果が、同一および異なる遺伝子に亘る特定のCpG/CpG群におけるDNAメチル化レベルの組合された影響に起因したであろう程度を確立した(表2および表6)。報告された高度の相関は、疾患リスクに対する重要な発生の寄与を示差する。
【0085】
表2および表6に示したCpGのうち、RXRAchr9:136355885+、RXRAchr9:136355688+、eNOSchr7:150315553+、eNOSchr7:150306798+、およびPIK3CDchr1:9635535/37+は、近位プロモータ内であるか、またはそれに近接している。遺伝子間領域における他のCpGは、他の遺伝子の調節を介して影響を及ぼし得るが、それにもかかわらず、データは可能な機構的経路を示し、更なる研究のための道筋を示唆している。試験された遺伝子の各々は、測定された結果に関して生物学的に尤もらしいものである。スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)は、酸化的ストレスに対する防御に寄与し、血管病理の病因論にかかわっている(Cai and Harrison (2000) Cir. Res. 87, 840-844)。eNOSは血管拡張を調節し、高血圧の発生的誘導の動物モデルでは発現が減少する(Torrens et al (2006) Hypertension 47, 982-987)。ホスホイノシチド−3−キナーゼは、インスリン作用を含む複数の細胞シグナリング系を媒介し、デルタポリペプチドが触媒サブユニットである(Marone et al. (2008) Biochimica et Biophysica Acta 1784, 159-185)。先に上記で述べた通り、RXRAはリガンド依存性の転写因子であり、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体αおよびγを含むリガンドと共に、インスリン感受性、脂肪生成および脂肪代謝に関与する(Alvarez et al (2000) Biochem. J. 345, 91-97; Sugden et al. (2008) Biochem. Soc. Trans. 36, 891-900)。インターロイキン8(IL−8)は、血管新生活性を有するケモカインであり、代謝性疾患および血管機能障害において役割を果たす可能性がある(Waugh and Wilson (2008) Clin. Cancer Res. 14, 6735-41; Kim et al. (2006) Int. J. Obes. (Lond.) 30, 1347-55)。これらの遺伝子が、親から刷り込まれた遺伝子でないことは注目に値する。従って、インビトロでの受精は刷り込み障害のリスクを増大させ、また親の飢餓は刷り込まれた遺伝子に対するエピジェネティックな影響を生じることができるが、上記で報告した研究は、周産期環境を非刷り込み遺伝子におけるエピジェネティックな変化に結びつけた最初の研究である。
【0086】
上記で述べたように、誕生時におけるメチル化の測定値と、将来の小児における代謝性疾患および心血管系疾患の種々の表現型先駆体との間に強い関連が同定された。複数の比較を考慮するために優位性のレベルを0.005に取ると、以下の関連が特に注意を引く:即ち、RXRAchr9:136355885+のメチル化状態と体脂肪量、除脂肪体重および骨ミネラル含量との関連;eNOSchr7:150315553+のメチル化状態と体脂肪量、体幹/四肢脂肪比および骨密度含量との関連;SOD1chr21:31853837+のメチル化状態と、除脂肪体重および左心室重量との関連;SOD1chr21:31853537+のメチル化状態とパルス波速度との関連;およびPIK3CDchr1:9609870+のメチル化状態と、頚動脈内膜−中膜厚さとの関連である。
【0087】
上記で報告された研究の意味するところは、思春期前の小児の身体組成、心血管の構造および機能における変動の50%までは、誕生時のエピジェネティックな測定によって説明することができ、発生環境が将来の慢性疾患の予後に対して強い影響を及ぼすことを示唆することである。従って、誕生時に測定されたエピジェネティックなメチル化のマーカーは、将来における疾患への罹り易さを示す非常に価値のある妊娠初期の指標を提供すると想定され、これは介入を考案およびモニターするために使用できるであろう。
【表S1】

【表S2】

【表S3−1】

【表S3−2】

【表S4−1】

【表S4−2】

【表S5−1】

【表S5−2】

【表S5−3】

【表S6】

【表S7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは非ヒト動物における1以上の表現型特徴の将来的顕在化を予測する方法であって、前記1以上の表現型特徴は
(i)全体脂肪量または体脂肪率(total or proportionate body fat)、肥満度指数、および体脂肪分布の指標としての体幹/肢脂肪比を含む指数から選択される、肥満または体脂肪蓄積の1以上の指数;または
(ii)全除脂肪体重(total lean mass)、除脂肪体重率(proportionate lean mass)、骨ミネラル含量、および身長の少なくとも一つ;または
(iii)左心室重量、大動脈根直径、冠動脈直径、頸動脈内膜−中膜厚さ、収縮期および/または拡張期血圧、脈拍、大動脈−足パルス波速度、および大動脈−大腿パルス波速度を含む指数から選択される心血管系の構造および機能の1以上の指数;
(iv)認識機能の1以上の指数;または
(v)これらに限定されないが、活動亢進、情緒的問題、行動的問題、ピア問題、向社会的行動もしくは全体的障害を含む特徴から選択される1以上の神経行動学的状態の特徴;または
(vi)限定されるものではないが、アトピー性皮膚炎を含む疾患から選択される1以上のアレルギー性疾患
から選択され、
前記方法は、
(a)組織サンプルから抽出された前記ヒトまたは非ヒト動物のゲノムDNAにおいて、1以上の選ばれた遺伝子のコード化領域に対して5’側にある、1以上の個々の選択されたCpGジヌクレオチドおよび/またはCpG群のメチル化状態を測定し、ここでの各々の選択されたCpGまたはCpG群が1以上の関連の表現型特徴についての性向と相関することと、
(b)上記(a)において測定された各メチル化状態を、関連のCpGまたはCpG群のメチル化状態と、選択されたより高齢の同一種の個体における少なくとも一つの関心のある表現型特徴の変動との間の相関と比較すること
を含んでなる方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、ヒトにおける1以上の表現型特徴の将来的顕在化を予測する方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、前記組織サンプルが臍帯または別の周産期組織サンプルである方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の方法であって、工程(b)において、それぞれの前記メチル化状態が、乳児期または小児期におけるより遅い年齢における、関連のCpGまたはCpG群のメチル化状態と少なくとも一つの関心のある表現型特徴の変動との間の相関と比較される方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の方法であって、前記比較する工程(b)が性別を考慮に入れる方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の方法であって、前記1以上の表現型特徴が、全体脂肪量または体脂肪率、肥満度指数、および全体脂肪量または体脂肪率、肥満度指数、および体脂肪分布の指標としての体幹/肢脂肪比を含む指数から選択される、肥満または体脂肪蓄積の1以上の指数の1以上の指数である方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、2006年3月UCSCヒトゲノム会議に従うゲノム座標によって同定された、レチノイドX受容体アルファ(RXRA)遺伝子、内皮一酸化窒素シンターゼ(eNOS)遺伝子、ホスホイノシチド−3−キナーゼ、触媒、デルタポリペプチド(PIK3CD)遺伝子、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子、またはインターロイキン−8(IL−8)遺伝子のコード化領域に対して5’側にある下記の1以上のCpG部位のメチル化状態が測定される方法。
【表1】

【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、工程(b)において、下記の相関の1以上が、乳児期後のある年齢においてヒトの表現型特徴の変動に関して依存する方法:
(a)RXRAchr9:136355885+のメチル化状態と、性別について調整された1以上の全体脂肪量、体脂肪率、体幹/肢脂肪比、および肥満度指数のとの間の正の相関;および
(b)SOD1chr21:31853660/63+のメチル化状態と、性別について調整された体幹/肢脂肪比との間の逆の相関。
【請求項9】
請求項7に記載の方法であって、正の相関が、RXRAchr9:136355885+のメチル化状態と、性別について調整された肥満または脂肪蓄積の1以上の指数の変動との間に依存する方法。
【請求項10】
請求項1〜5の何れか1項に記載の方法であって、前記1以上の表現型特徴が、1以上の全除脂肪体重、除脂肪体重率、骨ミネラル含量および身長のである方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、2006年3月UCSCヒトゲノム会議に従うゲノム座標によって同定された、レチノイドX受容体アルファ(RXRA)遺伝子、内皮一酸化窒素シンターゼ(eNOS)遺伝子、ホスホイノシチド−3−キナーゼ、触媒的、デルタポリペプチド(PIK3CD)遺伝子、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子、レチノイドX受容体アルファ(RXRA)遺伝子、インターロイキン−8(IL−8)遺伝子、またはリポタンパク質リパーゼ(LPL)遺伝子のコード化領域に対して5’にある、下記のCpG部位の1以上のメチル化状態が測定される方法。
【表2】

【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、工程(b)において、1以上の下記の相関が、乳児期後のある年齢において、且つ性別を考慮に入れて、ヒトの表現型特徴の変動に関して依存する方法:
(a)eNOSchr7:150315553+のメチル化状態と、全除脂肪体重、および/または骨ミネラル含量および/または身長との間の正の相関;および
(b)SOD1chr21:31853837+のメチル化状態と、全除脂肪体重、および/または骨ミネラル含量および/または身長との間の逆の相関。
(c)PIK3CD chr1:9635535/37+のメチル化状態と、骨ミネラル含量および/または身長との正の相関。
【請求項13】
請求項1〜5の何れか1項に記載の方法であって、前記1以上の表現型特徴が、左心室重量、大動脈根直径、冠動脈直径、頸動脈内膜−中膜厚さ、収縮期および/または拡張期血圧、脈拍、大動脈−足パルス波速度、および大動脈−大腿パルス波速度を含む指数から選択される心血管系の構造および機能の1以上の指数である方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、2006年3月UCSCヒトゲノム会議に従うゲノム座標によって同定された、内皮一酸化窒素シンターゼ(eNOS)遺伝子、ホスホイノシチド−3−キナーゼ、触媒的、デルタポリペプチド(PIK3CD)遺伝子、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子、レチノイドX受容体アルファ(RXRA)遺伝子、インターロイキン−8(IL−8)遺伝子、またはペリオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ2(PPARg2)遺伝子のコード化領域に対して5’側にある、下記のCpG部位の1以上のメチル化状態が測定される方法。
【表3】

【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、工程(b)において、1以上の下記の相関が、乳児期後のある年齢において、且つ性別を考慮に入れて、ヒトの表現型特徴の変動に関して依存する方法:
(a)PIK3CDchr1:9609870+のメチル化状態と、頸動脈内膜−中膜厚さとの間の逆の相関;
(b)eNOSchr7:150306798+のメチル化状態と、大動脈大腿パルス波速度との間の正の相関;
(c)SOD1chr21:31853837+のメチル化状態と、左心室重量および/または大動脈根直径との間の相関;
(d)SOD1chr21:31853837+および/またはPIK3CDchr1:9609870+のメチル化状態と、頸動脈内膜−中膜厚さとの間の相関;
(e)PIK3CDchr1:9635515,9635587+および/またはSOD1chr21:31953619,31953622+および/またはRXRAchr9:136355836+のメチル化状態と、冠動脈直径との間の相関;
(f)SOD1chr21:31853537+のメチル化状態と、大動脈−足パルス波速度との間の相関;
(g)eNOSchr7:150306798+およびRXRAchr9:136355688+のメチル化状態と、大動脈−大腿パルス波速度との間の相関;および
(h)PIK3CD・CpG群、
chr1:9609747,9609749,9609752,9609755,9609758,9609762+およびchr1:9609909,9609912,9609920+と、収縮期血圧との間の相関。
【請求項16】
請求項1〜5の何れか1項に記載の方法であって、前記1以上の表現型特徴が1以上の認識機能の指数である方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、2006年3月UCSCヒトゲノム月会議に従うゲノム座標によって同定された、内皮一酸化窒素シンターゼ(eNOS)遺伝子、ホスホイノシチド−3−キナーゼ、触媒的、デルタポリペプチド(PIK3CD)遺伝子、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子、レチノイドX受容体アルファ(RXRA)遺伝子、インターロイキン−8(IL−8)遺伝子、またはペリオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ2(PPARg2)遺伝子のコード化領域に対して5’側にある、下記のCpG部位の1以上のメチル化状態が測定される方法。
【表4】

【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、工程(b)において、1以上の下記の相関が、乳児期後のある年齢において、ヒトの表現型特徴の変動に関して依存する方法:
(a)SOD1chr21:31953511+および/またはIL8chr4:74705162+のメチル化状態と、言語IQとの間の正の相関;
(b)eNOSchr7:150306792+および/またはPIK3CDchr1:9609980+および/またはSOD1chr21:31953394+のメチル化状態と、動作IQ(performance IQ)との間の正の相関;および
(c)eNOSchr7:150306792+および/またはPIK3CDchr1:9635535/37+および/またはSOD1chr21:31953394+および/またはSOD1chr21:31953511+および/またはRXRAchr9:136355885+のメチル化状態と、全検査IQとの間の正の相関。
【請求項19】
請求項1〜5の何れか1項に記載の方法であって、前記1以上の表現型特徴が、限定されるものではないが、活動亢進、行動的問題、ピア問題、向社会的行動もしくは全体的障害を含む特徴から選択される神経行動学的状態の1以上の特徴である方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、2006年3月UCSCヒトゲノム会議に従うゲノム座標によって同定された、内皮一酸化窒素シンターゼ(eNOS)遺伝子、ホスホイノシチド−3−キナーゼ、触媒的、デルタポリペプチド(PIK3CD)遺伝子、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子、レチノイドX受容体アルファ(RXRA)遺伝子、インターロイキン−8(IL−8)遺伝子、またはペリオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ2(PPARg2)遺伝子のコード化領域に対して5’側にある、1以上の下記のCpG部位のメチル化状態が測定される方法。
【表5】

【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、工程(b)において、1以上の下記の相関が、乳児期後のある年齢において、ヒトの表現型特徴の変動に関して依存する方法:
(a)PPARg2chr3:12367759+および/またはRXRAchr9:136355885+のメチル化状態と、過活動および/または全体的障害スコアとの相関;
(b)PIK3CDchr1:9609980+および/またはRXRAchr9:136355688+および/またはRXRAchr9:136357196+のメチル化状態と、行動的問題スコアとの相関;および
(c)RXRAchr9:136355836+および/またはRXRAchr9:136355885+および/またはRXRAchr9:136357082/85/87+のメチル化状態と、ピア問題スコアとの相関;および
(d)IL8chr4:74705094+のメチル化状態と、向社会的行動スコアとの相関。
【請求項22】
請求項1〜5の何れか1項に記載の方法であって、前記1以上の表現型特徴は、限定されるものではないが、アトピー性皮膚炎を含む障害から選択される1以上のアレルギー性障害である方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、アトピー性皮膚炎の発症リスクが、2006年3月UCSCヒトゲノム会議に従うゲノム座標によって同定された、内皮一酸化窒素シンターゼ(eNOS)遺伝子、ホスホイノシチド−3−キナーゼ、触媒的、デルタポリペプチド(PIK3CD)遺伝子、またはレチノイドX受容体アルファ(RXRA)遺伝子のコード化領域に対して5’側にある、1以上の下記のCpG部位のメチル化状態に依拠して測定される方法。
【表6】

【請求項24】
請求項23に記載の方法であって、CpG部位eNOSchr7:150306792+および/またはCpG部位eNOSchr7:150306798+のメチル化状態が、臍帯サンプルにおいて測定される方法。
【請求項25】
先行する全ての請求項の何れか1項に記載の方法であって、表現型特徴の顕在化を予測するために、異なった機構経路において、異なる遺伝子のコード化領域に対して5’側にある少なくとも二つのCpGのメチル化状態が測定される方法。
【請求項26】
先行する全ての請求項の何れか1項に記載の方法を実施するためのキットであって:(i)任意にDNAの亜硫酸水素処理のための手段と共に、前記1以上の選択されたGpGジヌクレオチドおよび/またはCpG群のメチル化状態を分析するための単位複製配列を得るのに適したプライマー;および(ii)それぞれの前記メチル化状態と、比較する工程(b)のために必要とされる表現型特徴の変動との間の相関に関する情報を含んでなるキット。
【請求項27】
ヒトまたは非ヒト動物における1以上の表現型特徴の将来的顕在化を予測する方法であって:
(a)組織サンプルから抽出された前記ヒトまたは非ヒト動物のゲノムDNAにおいて、1以上の選択された遺伝子のコード化領域に対して5’側にある1以上の選択されたCpGジヌクレオチドおよび/またはCpG群のメチル化状態を測定し、ここでの各々の選択されたCpGまたはCpG群が1以上の関連の表現型特徴についての性向と相関することと、
(b)上記(a)における各メチル化状態を、関連のCpGまたはCpG群のメチル化状態と、選択されたより高齢の同一種の個体における少なくとも一つの関心のある表現型特徴の変動との間の相関と比較すること
を含んでなる方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図7d】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−516148(P2012−516148A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546971(P2011−546971)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国際出願番号】PCT/GB2010/050141
【国際公開番号】WO2010/086663
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(506148936)ユニヴァーシティ オブ サウサンプトン (4)
【氏名又は名称原語表記】University of Southampton
【出願人】(501281607)オークランド ユニサービシズ リミテッド (2)
【出願人】(511187199)アグリサーチ・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】