説明

D−グルコースの細胞内への特異的な取り込みを評価するための方法

【課題】 D−グルコースの細胞内への特異的な取り込みを正確に評価するための方法を提供すること。
【解決手段】 蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体を、評価対象とする細胞種の別個の細胞にそれぞれ接触させ、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体が発する蛍光を比較し、両者の蛍光強度の差を、D−グルコースのL−グルコースとの対比における細胞内への特異的な取り込みとして評価することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D−グルコースの細胞内への特異的な取り込みを正確に評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコース(ブドウ糖)は、哺乳類から大腸菌・酵母に至るまで細胞の生存維持に最も重要なエネルギー源として知られ、特に脳はグルコースを唯一のエネルギー源としている。グルコースにはD−グルコースとL−グルコースの鏡像異性体が存在するが、このうち生物がエネルギー源として利用できるのはD−グルコースのみであり、生きた細胞はD−グルコースをグルコーストランスポーターなどの細胞膜中の輸送タンパク質を介して選択的に取り込んで利用する仕組みを持つ。
【0003】
従来、生物がD−グルコースをどのようにして細胞内に取り込んで利用するのかについての研究は、例えばラジオアイソトープで標識したD−グルコースやその誘導体(D−デオキシグルコースなど)を用いて細胞内のラジオアイソトープ量を測定することで行われてきた。しかしながら、この方法は定量性に優れるものの、感度が低いといった問題があることに加え、測定手法上、生きた細胞がD−グルコースを取り込む様子をリアルタイムで連続的に観察することができないという欠点を有する。従って、この方法は、生きた細胞のD−グルコースの動的な取り込みプロセスの研究には使用することができない。
【0004】
以上のような状況下、本発明者のグループは、生きた細胞のD−グルコースの動的な取り込みプロセスの研究に使用することができる方法として、D−デオキシグルコースの2位に蛍光発色団としてN−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を結合せしめた、緑色の蛍光を発する下記の構造式で示される2−[N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ]−2−デオキシ−D−グルコース(2−NBDG)を用いる方法を提案し、その有用性を哺乳動物の各種の細胞を用いて実証した(非特許文献1)。
【0005】
【化1】

【0006】
この方法は、2−NBDGが生きた細胞内に選択的に取り込まれる性質を利用したものであり、取り込みによる蛍光強度の変化を追跡することで細胞のD−グルコースの取り込みについての動的活動を定量的に知ることができることから、生物がD−グルコースをどのようにして細胞内に取り込んで利用するのかを研究する上での画期的な方法として世界中の研究者に評価され、今や、この研究分野において欠かすことができない標準的なプロトコルとして位置付けられている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yamada K. et al., J. Biol. Chem. 275:22278-22283, 2000
【非特許文献2】Yamada K. et al., Nat. Protoc. 2:753-762, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1において本発明者のグループは、低親和性(高Km値)のグルコーストランスポーターであるGLUT2を発現する代表的な細胞であるインスリン分泌細胞に2−NBDGを投与し、蛍光強度の変化から、濃度、時間ならびに温度に依存して2−NBDGが細胞内に取り込まれること、そのKm値はD−グルコースに対して報告されている値に匹敵することを明らかにした。従って、この方法によれば、高Km値のグルコーストランスポーターであるGLUT2を介するD−グルコースの取り込みについては定量的な評価が可能であるといえる。けれども、細胞膜の表面や膜中に非特異的や特異的に吸着した2−NBDGや、グルコーストランスポーターを介さずに細胞内に非特異的に取り込まれた2−NBDGなどが存在する場合、2−NBDGの投与によって得られた蛍光強度にはこれらの2−NBDGが発する蛍光が含まれていることになる。よって、D−グルコースの細胞内への特異的な取り込みを正確に評価するためには、このような2−NBDGの存在を考慮する必要があり、このことは、多くの細胞に発現する高親和性(低Km値)のグルコーストランスポーターであるGLUT1や神経細胞に発現するGLUT3などを介した2−NBDGの取り込みのキネティクスを検討する際には非常に重要となることが考えられる。しかしながら、この点を実験手法にどのように反映させるかについての報告はこれまでに存在しない。
【0009】
そこで本発明は、D−グルコースの細胞内への特異的な取り込みを正確に評価するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記の点に鑑みて鋭意研究を進めた結果、評価対象とする細胞の2−NBDGの投与前後の蛍光強度の差を計測する際、対照として細胞内への特異的な取り込みがなされない蛍光L−グルコース誘導体を用いるという概念を着想した。
【0011】
上記の着想に基づく本発明のD−グルコースのL−グルコースとの対比における細胞内への特異的な取り込みを評価するための方法は、請求項1記載の通り、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体を、評価対象とする細胞種の別個の細胞にそれぞれ接触させ、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体が発する蛍光を比較し、両者の蛍光強度の差を、D−グルコースのL−グルコースとの対比における細胞内への特異的な取り込みとして評価することを特徴とする。
また、請求項2記載の方法は、請求項1記載の方法において、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体を用いることを特徴とする。
また、請求項3記載の方法は、請求項2記載の方法において、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を2位に結合せしめたD−デオキシグルコースを用いることを特徴とする。
また、請求項4記載の方法は、請求項2記載の方法において、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体を用いることを特徴とする。
また、請求項5記載の方法は、請求項4記載の方法において、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を2位に結合せしめたL−デオキシグルコースを用いることを特徴とする。
また、請求項6記載の方法は、請求項1記載の方法において、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体を用いることを特徴とする。
また、請求項7記載の方法は、請求項6記載の方法において、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を2位に結合せしめたD−デオキシグルコースを用いることを特徴とする。
また、請求項8記載の方法は、請求項6記載の方法において、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体を用いることを特徴とする。
また、請求項9記載の方法は、請求項8記載の方法において、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を2位に結合せしめたL−デオキシグルコースを用いることを特徴とする。
また、本発明のD−グルコースのL−グルコースとの対比における細胞内への特異的な取り込みを評価するための方法は、請求項10記載の通り、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体と、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光の波長とは異なる波長の蛍光を発する蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体との混合物を評価対象とする細胞に接触させ、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光を検出することで行うことを特徴とする。
また、請求項11記載の方法は、請求項10記載の方法において、最大蛍光波長の差を少なくとも20nmとすることを特徴とする。
また、請求項12記載の方法は、請求項10記載の方法において、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体を用いることを特徴とする。
また、請求項13記載の方法は、請求項12記載の方法において、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を2位に結合せしめたD−デオキシグルコースを用いることを特徴とする。
また、請求項14記載の方法は、請求項10記載の方法において、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体を用いることを特徴とする。
また、請求項15記載の方法は、請求項14記載の方法において、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を2位に結合せしめたD−デオキシグルコースを用いることを特徴とする。
また、請求項16記載の方法は、請求項12または14記載の方法において、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光の波長とは異なる波長の蛍光を発する蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として、スルホローダミンを結合せしめたL−グルコース誘導体を用いることを特徴とする。
また、請求項17記載の方法は、請求項12記載の方法において、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光の波長とは異なる波長の蛍光を発する蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体を用いることを特徴とする。
また、請求項18記載の方法は、請求項17記載の方法において、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を2位に結合せしめたL−デオキシグルコースを用いることを特徴とする。
また、請求項19記載の方法は、請求項14記載の方法において、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光の波長とは異なる波長の蛍光を発する蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体を用いることを特徴とする。
また、請求項20記載の方法は、請求項19記載の方法において、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を2位に結合せしめたL−デオキシグルコースを用いることを特徴とする。
また、請求項21記載の方法は、請求項10記載の方法において、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光の波長とは異なる波長の蛍光を発する蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として、異なる蛍光発色団を分子内に有する2種類以上のL−グルコース誘導体を混合して用いることを特徴とする。
また、本発明のL−グルコース誘導体は、請求項22記載の通り、蛍光発色団を分子内に有してなることを特徴とする。
また、本発明の蛍光発色団を分子内に有してなるL−グルコース誘導体の製造方法は、請求項23記載の通り、L−マンノースの5つの水酸基をアセチル化し、1位のアセトキシ基を臭素置換し、1,2位にオルトエステル基を導入し、3,4,5位のアセチル基をベンジル基に変換し、1,2位に導入したオルトエステル基を外して1位をメトキシ基に変換するとともに2位を水酸基とし、2位の水酸基をトリフルオロメタンスルホニル化またはメタンスルホニル化した後、アジド化し、アジド基を水素還元するとともに脱ベンジル化し、最後に1位のメトキシ基を水酸基に変換することで得られるL−グルコサミンまたはその塩の2位に蛍光発色団を導入することを特徴とする。
また、本発明のL−グルコサミンまたはその塩の製造方法は、請求項24記載の通り、L−マンノースの5つの水酸基をアセチル化し、1位のアセトキシ基を臭素置換し、1,2位にオルトエステル基を導入し、3,4,5位のアセチル基をベンジル基に変換し、1,2位に導入したオルトエステル基を外して1位をメトキシ基に変換するとともに2位を水酸基とし、2位の水酸基をトリフルオロメタンスルホニル化またはメタンスルホニル化した後、アジド化し、アジド基を水素還元するとともに脱ベンジル化し、最後に1位のメトキシ基を水酸基に変換することを特徴とする。
また、本発明は、請求項25記載の通り、蛍光発色団を分子内に有してなるL−グルコース誘導体を製造するためのL−グルコサミンまたはその塩の使用である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、D−グルコースの細胞内への特異的な取り込みを正確に評価するための方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】2−NBDGと2−NBDLGのH−NMRチャートである。
【図2】実施例1における急性単離神経細胞に2−NBDGおよび2−NBDLGを投与した際の通常蛍光顕微鏡による取得画像である。
【図3】実施例2における急性単離神経細胞に2−NBDGおよび2−TRLGを投与した際のリアルタイムレーザースキャン共焦点蛍光顕微鏡による取得画像である。
【図4】同、2−TRLGと2−NBDGの混合溶液の蛍光スペクトルチャートである。
【図5】実施例4における2−NBDGと2−NBDLGを大腸菌の状態評価に適用した結果である。
【図6】実施例7における2−NBDGと2−TRLGと2−NMALGの混合溶液の蛍光スペクトルチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のD−グルコースの細胞内への特異的な取り込みを評価するための方法は、以下の2つの方法に大別することができる。
(1)蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体を、評価対象とする細胞種の別個の細胞にそれぞれ接触させ、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体が発する蛍光を比較し、両者の蛍光強度の差を、D−グルコースのL−グルコースとの対比における細胞内への特異的な取り込みとして評価する方法。
(2)蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体と、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光の波長とは異なる波長の蛍光を発する蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体との混合物を評価対象とする細胞に接触させ、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光を検出することで行う方法。
以下、上記の方法のそれぞれを説明する。
【0015】
(1)蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体を、評価対象とする細胞種の別個の細胞にそれぞれ接触させ、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体が発する蛍光を比較し、両者の蛍光強度の差を、D−グルコースのL−グルコースとの対比における細胞内への特異的な取り込みとして評価する方法。
【0016】
この方法において、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体(塩酸塩などのような塩の形態であってもよい)とは、蛍光発色団を分子内に有するD−グルコース誘導体であって、L−グルコースやその誘導体(L−グルコサミンやL−デオキシグルコースなど)との対比において細胞内に特異的に取り込まれる化合物を意味し、具体的には、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体、例えば、非特許文献1や非特許文献2に記載の2−NBDGや、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を6位に結合せしめたD−デオキシグルコース(6−[N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ]−6−デオキシ−D−グルコース:6−NBDG:Speizer L. et al., Biochim. Biophys. Acta 815:75-84, 1985)などが挙げられる。
【0017】
蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体(塩酸塩などのような塩の形態であってもよい)は、L体であるが故、本来的に細胞内への特異的な取り込みがなされないものであり、本発明において、2−NBDGなどの蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体の対照となるものである。具体的には、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体、例えば、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を2位に結合せしめたL−デオキシグルコース(2−[N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ]−2−デオキシ−L−グルコース:2−NBDLG)や、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を6位に結合せしめたL−デオキシグルコース(6−[N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ]−6−デオキシ−L−グルコース:6−NBDLG)などが挙げられる。
【0018】
例えば、2−NBDLGは、以下に示すように2−NBDGと鏡像異性体の関係にあり、旋光度の符合の違いを除いて、両者の物理化学的特性は同じである。
【0019】
【化2】

【0020】
従って、2−NBDLGの細胞膜の表面や膜中への非特異的な吸着特性や、グルコーストランスポーターを介さない細胞内への非特異的な取り込まれ方などは、2−NBDGのそれらと同一または少なくとも同等であると考えられる。よって、2−NBDGの投与によって得られた蛍光強度に、細胞膜の表面や膜中に非特異的に吸着した2−NBDGや、グルコーストランスポーターを介さずに細胞内に非特異的に取り込まれた2−NBDGなどが発する蛍光が含まれている場合、それらの蛍光強度と少なくとも同等の蛍光強度が対照とする2−NBDLGの投与によっても得られるので、2−NBDGが発する蛍光と、2−NBDLGが発する蛍光を比較し、両者の蛍光強度の差を目視や数値化などによって求めることにより、その差を2−NBDGの2−NBDLGとの対比における細胞内への特異的な取り込み、即ち、D−グルコースのL−グルコースとの対比における細胞内への特異的な取り込みとして評価することができる。
【0021】
なお、この方法においては、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が有する蛍光発色団の化学構造と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体が有する蛍光発色団の化学構造の違いによって、両者の物理化学的特性が大きく異なってしまうことは望ましくない。従って、両者の蛍光発色団の化学構造は、完全同一または側鎖として有していてもよい置換基を除いて同一であることが望ましい。
【0022】
また、この方法は、原理上、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体を、評価対象とする細胞種の別個の細胞にそれぞれ接触させて行うものであるので(1つの細胞に両者を投与したのでは蛍光強度の差を求めることはできない)、それぞれを投与する細胞の活動性は同一または少なくとも同等であることが望ましい。この条件を担保するため、実験中は細胞の活動性を確認することが望ましい。細胞の活動性を確認する方法としては、パッチクランプなどによって細胞膜電位が正常であることを確認する方法や活動電位を測定する方法(神経細胞の場合に好適である)、代謝活性を測定する方法などが挙げられる。蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体のそれぞれを接触させる細胞の数を複数とし(n≧2)、統計処理を行ってもよい。
【0023】
蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体は、L−グルコースまたはその誘導体(L−グルコサミンやL−デオキシグルコースなど)に蛍光発色団を導入することにより製造することができる。蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体の製造に有用なL−グルコサミンまたはその塩(塩酸塩など)は、例えば、L−マンノースの5つの水酸基をアセチル化し、1位のアセトキシ基を臭素置換し、1,2位にオルトエステル基を導入し、3,4,5位のアセチル基をベンジル基に変換し、1,2位に導入したオルトエステル基を外して1位をメトキシ基に変換するとともに2位を水酸基とし、2位の水酸基をトリフルオロメタンスルホニル化またはメタンスルホニル化した後、アジド化し、アジド基を水素還元するとともに脱ベンジル化し、最後に1位のメトキシ基を水酸基に変換することで得ることができる。
【0024】
なお、この方法において使用することができる、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体の組み合わせは、上記の緑色の蛍光を発するN−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体(2−NBDGなど)と、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体(2−NBDLGなど)の組み合わせに限定されるものではなく、青色の蛍光を発する2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体と、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体の組み合わせなどであってもよい。2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体としては、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を2位に結合せしめたD−デオキシグルコース(2−[N−2−(N’−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ]−2−デオキシ−D−グルコース:2−NMAG)などが挙げられ、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体としては、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を2位に結合せしめたL−デオキシグルコース(2−[N−2−(N’−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ]−2−デオキシ−L−グルコース:2−NMALG)などが挙げられる。
【0025】
(2)蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体と、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光の波長とは異なる波長の蛍光を発する蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体との混合物を評価対象とする細胞に接触させ、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光を検出することで行う方法。
【0026】
この方法において、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体(塩酸塩などのような塩の形態であってもよい)とは、蛍光発色団を分子内に有するD−グルコース誘導体であって、L−グルコースやその誘導体(L−グルコサミンやL−デオキシグルコースなど)との対比において細胞内に特異的に取り込まれる化合物を意味し、具体的には、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体、例えば、非特許文献1や非特許文献2に記載の2−NBDGや、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を6位に結合せしめたD−デオキシグルコース(6−[N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ]−6−デオキシ−D−グルコース:6−NBDG:Speizer L. et al., Biochim. Biophys. Acta 815:75-84, 1985)などが挙げられる。
【0027】
蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光の波長とは異なる波長の蛍光を発する蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体(塩酸塩などのような塩の形態であってもよい)としては、例えば、スルホローダミン(スルホローダミンB、スルホローダミンG、スルホローダミン101など)を結合せしめたL−グルコース誘導体、具体的には、2位にスルホローダミン101をスルホンアミド結合せしめたL−デオキシグルコース(2−TRLGと称する)などが挙げられる。
【0028】
蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体と、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光の波長とは異なる波長の蛍光を発する蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体との混合液として、2−NBDGと2−TRLGとの混合液を用いた場合を例に挙げると、前者の最大蛍光波長は540nm〜550nm、後者の最大蛍光波長は600nm〜610nmであるので、両者を混合した溶液についてそれぞれの最大蛍光波長付近の蛍光を検出した場合、2−NBDGが発する緑色の蛍光と、2−TRLGが発する赤色の蛍光をそれぞれ検出することができ、検出された両方の蛍光を合成することで結果として黄色の蛍光を検出することができる。2−NBDGと2−TRLGとの混合液を細胞に投与した後、2−NBDGが細胞内に特異的に取り込まれると、細胞内から緑色の蛍光が検出される。一方、細胞膜の一部が破壊されている場合や、破壊にまでは至らなくとも膜状態がグルコースやその誘導体が非特異的に取り込まれてしまうような状態にある場合、2−NBDGと2−TRLGの両方が細胞内に取り込まれると、細胞内から黄色の蛍光が検出される。従って、2−NBDGと2−TRLGとの混合液を細胞に投与した後の2−NBDGが発する緑色の蛍光を検出することで、D−グルコースのL−グルコースとの対比における細胞内への特異的な取り込みをリアルタイムで正確に評価することができる。
【0029】
なお、この方法は、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体が発する蛍光の波長の違いを利用するものであるので、両者の最大蛍光波長の差が大きいほどその違いを簡易かつ正確に識別することができる。従って、両者の最大蛍光波長には少なくとも20nmの差があることが望ましい。蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体として2−NBDGを用いる場合、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として、7−(N,N−ジメチルアミノスルホニル)ベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体、具体的には、7−(N,N−ジメチルアミノスルホニル)ベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を2位に結合せしめたL−デオキシグルコース(2−[N−7−(N’,N’−ジメチルアミノスルホニル)ベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ]−2−デオキシ−L−グルコース:2−DBDLG)を用いることもできる(その蛍光は黄色〜黄緑色であり最大蛍光波長は570nm〜580nmである)。また、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体、具体的には、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を2位に結合せしめたL−デオキシグルコース(2−[N−2−(N’−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ]−2−デオキシ−L−グルコース:2−NMALG)を用いることもできる(その蛍光は青色であり最大蛍光波長は450nm〜460nmである)。
【0030】
また、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体、具体的には、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を2位に結合せしめたD−デオキシグルコース(2−[N−2−(N’−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ]−2−デオキシ−D−グルコース:2−NMAG)を用いることもできる(その蛍光は青色であり最大蛍光波長は450nm〜460nmである)。この場合、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体としては、2−NBDLGや2−TRLGを用いることができる。
【0031】
また、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体が発する蛍光の間に強度の違いがある場合、それぞれが発する蛍光の強度が同程度となるように、例えば1:100〜100:1(モル比)の範囲で両者の混合比を調整することが望ましい。
【0032】
なお、この方法においては、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光の波長とは異なる波長の蛍光を発する蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として、異なる蛍光発色団を分子内に有する2種類以上のL−グルコース誘導体を混合して用いてもよい(例えば2−TRLGと2−NMALGの組み合わせなど)。異なる蛍光発色団を分子内に有する2種類以上のL−グルコース誘導体を混合して用いることで、例えば、細胞膜の悪化状態の程度の相違に基づく非特異的に取り込まれるL−グルコース誘導体の相違を検出することができ、これにより、D−グルコースのL−グルコースとの対比における細胞内への特異的な取り込みの評価とともに、細胞膜の悪化状態の程度の評価をあわせて行うことができる。
【0033】
本発明のD−グルコースの細胞内への特異的な取り込みを評価するための方法の実験条件は、公知の条件に準じればよい(必要であれば非特許文献2を参照のこと)。
【0034】
本発明のD−グルコースの細胞内への特異的な取り込みを評価するための方法は、ヒトを含めた哺乳動物のあらゆる部位の細胞(神経細胞など)の他、大腸菌や酵母などの微生物の細胞、植物の細胞、受精卵などを評価対象とすることができ、生物がD−グルコースをどのようにして細胞内に取り込んで利用するのかについての研究の発展に寄与する他、D−グルコースの取り込みの程度の違いに基づいて正常細胞と腫瘍細胞を判別するためや、微生物汚染の予防や対策のため(微生物の計数や状態評価など)といった医療分野や衛生分野などにおいてもその有用性が期待される。なお、D−グルコースの細胞内への特異的な取り込みの評価は、上記の2種類の方法のいずれかを選択して行ってもよいが、両方を組み合わせて行えば、より正確な評価を行うことができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0036】
実施例1:神経細胞への2−NBDGおよび2−NBDLGの適用例
1−1:2−NBDGの合成
非特許文献1記載の方法に準じて行った。
【0037】
1−2:2−NBDLGの合成
(A)L−グルコサミン塩酸塩の合成
以下の経路に従って行った。
【0038】
【化3】

【0039】
(1)1,2,3,4,6-ペンタ-O-アセチル-L-マンノピラノース(1)の合成
L-(-)-マンノース(9.0 g, 49.96 mmol)をピリジン(120 ml)に溶解し、氷冷した。これに無水酢酸(60 ml)を約15分間かけて滴下した。徐々に室温にもどしながら終夜攪拌した後に反応混合物を減圧濃縮し、得られた残渣にトルエンを加えて共沸する操作を2回繰り返した。残渣に酢酸エチルを加えて溶解し、得られた溶液を飽和NaHCO3水、水および飽和食塩水で順次洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後に濾過し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣を減圧下よく乾燥させて目的物を得た(粗収量:21.04 g(酢酸エチル等を含むので理論収量を越える、49.96 mmolとして次の反応を行った))。
1H-NMRスペクトル(400 MHz、重クロロホルム、δ、ppm):6.10 (d, 1H, J=1.9 Hz, H-1), 5.26-5.36 (m, 3H, H-2, H-3, and H-4), 4.29 (dd, 1H, J=5.0 and 12.3 Hz, H-6a), 4.11 (dd, 1H, J=2.4 Hz and 12.3 Hz, H-6b), 4.06 (m, 1H, H-5), 2.19 (s, 3H, Ac), 2.18 (s, 3H, Ac), 2.11 (s, 3H, Ac), 2.06 (s, 3H, Ac), 2.02 (s, 3H, Ac)
【0040】
(2)2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-α-L-マンノピラノシル ブロマイド(2)の合成
1,2,3,4,6-ペンタ-O-アセチル-L-マンノピラノース(1)(21.04 g)を脱水ジクロロメタン(150 ml)に溶解し、氷冷した。これに30%HBr/AcOH(27.5 ml)を約10分間かけて滴下した。滴下終了後に氷浴からはずし、室温で3時間攪拌した。反応混合物を減圧濃縮し、得られた残渣にトルエンを加えて共沸する操作を2回繰り返した。残渣に酢酸エチルを加えて溶解し、得られた溶液を飽和NaHCO3水、水および飽和食塩水で順次洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後に濾過し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣を減圧下よく乾燥させて目的物を得た(粗収量:21.45 g(酢酸エチルおよびトルエンを含むので理論収量を越える、49.96 mmolとして次の反応を行った))。
1H-NMRスペクトル(400 MHz、重クロロホルム、δ、ppm):6.30 (d, 1H, J=1.5 Hz, H-1), 5.72 (dd, 1H, J=3.6 Hz and 10.3 Hz, H-3), 5.46 (dd, 1H, J=1.5 Hz and 3.6 Hz, H-2), 5.38 (dd, 1H, J=10.3 Hz and 10.3 Hz, H-4), 4.34 (dd, 1H, J=4.9 Hz and 12.5 Hz, H-6a), 4.22 (ddd, 1H, J=2.1 Hz, 4.9 Hz, and 10.3 Hz, H-5), 4.15 (dd, 1H, J=2.1 Hz and 12.5 Hz, H-6b), 2.18 (s, 3H, Ac), 2.11 (s, 3H, Ac), 2.08 (s, 3H, Ac), 2.02 (s, 3H, Ac)
【0041】
(3)3,4,6-トリ-O-アセチル-β-L-マンノピラノース 1,2-(メチルオルトアセテート)(3)の合成
2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-α-L-マンノピラノシル ブロマイド(2)(21.45 g)を脱水ジクロロメタン(120 ml)に溶解した。アルゴン雰囲気下で2,6-ルチジン(15.73 ml)/脱水メタノール(120 ml)を約30分間かけて滴下した。アルゴン雰囲気下、室温で終夜攪拌した。24時間後にジクロロメタンで希釈した後、得られた溶液を飽和NaHCO3水、水で順次洗浄した。有機層を減圧濃縮し、得られた残渣にトルエンを加えて共沸する操作を3回繰り返した。残渣をメタノール(100 ml)に溶解し、水(800 ml)を少量ずつ加えて析出した結晶を濾取し、水で洗浄後に減圧下よく乾燥させた(1st, 8.92 g)。続いて(1st)の濾液と洗浄液を合わせて減圧濃縮し、液量を減らした。析出した結晶を濾取し、水で洗浄後に減圧下よく乾燥させ(2nd, 2.62 g)、目的物を得た(総収量:11.54 g(L-(-)-マンノースより3工程の総収率:64 %))。
1H-NMRスペクトル(400 MHz、重クロロホルム、δ、ppm):5.50 (d, 1H, J=2.8 Hz, H-1), 5.31 (dd, 1H, J=9.4 Hz and 10.0 Hz, H-4), 5.15 (dd, 1H, J=3.9 Hz and 10.0 Hz, H-3), 4.62 (dd, 1H, J=2.8 Hz and 3.9 Hz, H-2), 4.24 (dd, 1H, J=4.9 Hz and 12.2 Hz, H-6a), 4.15 (dd, 1H, J=3.0 Hz and 12.2 Hz, H-6b), 3.69(ddd, 1H, J=3.0 Hz, 4.9 Hz and 9.4 Hz, H-5), 2.13 (s, 3H, Ac), 2.08 (s, 3H, Ac), 2.06 (s, 3H, Ac), 1.75 (s, 3H, Me)
【0042】
(4)3,4,6-トリ-O-ベンジル-β-L-マンノピラノース 1,2-(メチルオルトアセテート)(4)の合成
3,4,6-トリ-O-アセチル-β-L-マンノピラノース 1,2-(メチルオルトアセテート)(3)(11.52 g)をメタノール(200 ml)に溶解し、5.2M-NaOMeのメタノール溶液(184 μl)を加えた。室温で1時間攪拌した後にアンバーリスト15を加えて中和し、濾過した後、樹脂をメタノールで洗浄し、濾液と洗浄液を合わせて減圧濃縮した。得られた残渣を減圧下よく乾燥させた。乾燥させた残渣の全量を乾燥DMF(100 ml)に溶解し、氷冷した。これに水素化ナトリウム(NaH)(60% oil suspension, 7.38 g)を少量ずつ加えた。水素の発生による発泡が収まった後に臭化ベンジル(12.1 ml)を滴下した。徐々に室温に戻しながら終夜攪拌した。反応混合物を氷冷し、過剰のNaHを分解させるため、メタノールを少量ずつ発泡しなくなるまで加えた。クロロホルムを加えて希釈し、得られた溶液を水および飽和食塩水で順次洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後に濾過し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣を減圧下よく乾燥させ、フリーザー内で終夜保存した。翌朝、沈殿とオイルに分離した。パスツールピペットを用いてオイル(不要物)を除去した。沈殿(湿重量:17.97 g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して目的物を得た(収量:11.98 g、収率:74 %)。
1H-NMRスペクトル(400 MHz、重クロロホルム、δ、ppm):7.22-7.41 (m, 15H, Ph), 5.35 (d, 1H, J=2.5 Hz), 4.79 (ABq, 2H, J=12.4 Hz, CH2-Ph), 4.75 (ABq, 2H, J=11.0 Hz, CH2-Ph), 4.58 (ABq, 2H, J=12.4 Hz, CH2-Ph), 4.40 (dd, 1H, J=2.5 Hz and 4.1 Hz, H-2), 3.92 (dd, 1H, J=9.7 Hz and 9.7 Hz, H-4), 3.69-3.77 (m, 3H, H-3, H-6a, and H-6b), 3.42 (ddd, 1H, J=2.3 Hz, 4.5 Hz, and 9.7 Hz, H-5), 3.29 (s, 3H, OMe), 1.74 (s, 3H, Me)
【0043】
(5)メチル 3,4,6-トリ-O-ベンジル-α-L-マンノピラノシド(5)の合成
3,4,6-トリ-O-ベンジル-β-L-マンノピラノース 1,2-(メチルオルトアセテート)(4)(11.98 g)を脱水メタノール(240 ml)に溶解し、65℃で加熱攪拌した。これに塩化アセチル(6.73 ml)を滴下した。滴下終了後にオイルバスの設定温度を75℃にして加熱還流した。3時間後にオイルバスのスイッチを切り、終夜攪拌した。反応混合物を減圧濃縮し、得られた残渣にクロロホルムを加えて溶解し、得られた溶液を飽和NaHCO3水、水および飽和食塩水で順次洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後に濾過し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して目的物を得た(収量:9.74 g、収率:89 %)。
1H-NMRスペクトル(400 MHz、重クロロホルム、δ、ppm):7.24-7.36 (m, 15H, Ph), 4.80 (d, 1H, J=1.6 Hz, H-1), 4.69 (ABq, 2H, J=11.9 Hz, CH2-Ph), 4.67 (ABq, 2H, J=11.3 Hz, CH2-Ph), 4.60 (ABq, 2H, J=12.4 Hz, CH2-Ph), 4.03 (m, 1H, H-2), 3.70-3.88 (m, 5H, H-3, H-4, H-5, H-6a and H-6b), 3.37 (s, 3H, OMe), 2.49 (br.d, 1H, J=2.5 Hz, C2-OH)
【0044】
(6)メチル 3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-O-トリフルオロメタンスルホニル-α-L-マンノピラノシド(6)の合成
メチル 3,4,6-トリ-O-ベンジル-α-L-マンノピラノシド(5)(9.74 g)を脱水ジクロロメタン(220 ml)に溶解し、ピリジン(4.24 ml)を加えてアルゴン雰囲気下で−15℃に冷却した。これにトリフルオロメタンスルホン酸無水物(5.29 ml)を加え、室温で攪拌した。1時間後に反応混合物に飽和NaHCO3水を加え、ジクロロメタンで抽出した。有機層を合わせ、飽和NaHCO3水、水および飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後に濾過し、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣にトルエンを加えて共沸する操作を3回繰り返した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して目的物を得た(収量:12.23 g、収率:98 %)。
1H-NMRスペクトル(400 MHz、重クロロホルム、δ、ppm):7.10-7.38 (m, 15H, Ph), 5.11 (m, 1H, H-2), 4.90 (d, 1H, J=1.9 Hz, H-1), 4.69 (ABq, 2H, J=12.0 Hz, CH2-Ph), 4.64 (ABq, 2H, J=10.7 Hz, CH2-Ph), 4.61 (ABq, 2H, J=11.7 Hz, CH2-Ph), 4.00 (dd, 1H, J=2.9 Hz and 8.9 Hz, H-3), 3.69-3.84 (m, 4H, H-4, H-5, H-6a and H-6b), 3.40 (s, 3H, OMe)
【0045】
(7)メチル 2-アジド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-α-L-グルコピラノシド(7)の合成
メチル 3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-O-トリフルオロメタンスルホニル-α-L-マンノピラノシド(6)(12.23 g)を脱水ベンゼン(400 ml)に溶解し、テトラブチルアンモニウム アジド[(n-Bu)4NN3](29.16 g)をアルゴン雰囲気下で加えた。3日後に(n-Bu)4NN3(3.61 g)を追加した。さらに11日間(計14日間)室温で攪拌した。反応混合物をそのままシリカゲルカラムにチャージして、シリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび、調製的薄層クロマトグラフィーを併用することにより精製して目的物を得た(収量:3.58 g、収率:36 %)。
1H-NMRスペクトル(400 MHz、重クロロホルム、δ、ppm):7.15-7.38 (m, 15H, Ph), 4.87 (ABq, 2H, J=12.4 Hz, CH2-Ph), 4.83 (d, 1H, J=3.5 Hz, H-1), 4.66 (ABq, 2H, J=10.7 Hz, CH2-Ph), 4.57 (ABq, 2H, J=12.4 Hz, CH2-Ph), 3.98 (dd, 1H, J=8.9 Hz and 10.2 Hz, H-3), 3.66-3.80 (m, 4H, H-4, H-5, H-6a, and H-6b), 3.45 (dd, 1H, J=3.5 Hz and 10.4 Hz, H-2), 3.43 (s, 3H, OMe)
【0046】
(8)メチル 2-アミノ-2-デオキシ-α-L-グルコピラノシド塩酸塩(8)の合成
メチル 2-アジド-3,4,6-トリ-O-ベンジル-2-デオキシ-α-L-グルコピラノシド(7)(1.98 g, 4.04 mmol)をメタノール(70 ml)に溶解し、1M-HCl(4.85 ml)およびパラジウム-黒(500 mg)を加えて、8気圧で加圧接触還元した。22時間後に常圧に戻し、TLCで1スポットに収束したことを確認した後に触媒を濾過した。触媒をメタノールで洗浄し、濾液と洗浄液を合わせて減圧濃縮した。得られた残渣に水を加えて減圧濃縮する操作を2回繰り返した。残渣を水に溶解して凍結乾燥して目的物を得た(粗収量:963 mg(水および塩酸を含むので理論収量を越える、1H-NMR測定に使った残り960 mgを4.03 mmolとして最終脱保護となる次の反応を行った))。
1H-NMRスペクトル(400 MHz、重水、δ、ppm):4.89 (d, 1H, J=3.7Hz, H-1), 3.75 (dd, 1H, J=2.5 Hz and 12.3 Hz, H-6a), 3.72 (dd, 1H, J=9.2 Hz and 10.5 Hz, H-3), 3.66 (dd, 1H, J=5.2 Hz and 12.3 Hz, H-6b), 3.57 (ddd, 1H, J=2.5 Hz, 5.2 Hz, and 9.8 Hz, H-5), 3.35 (dd, 1H, J=9.2 Hz and 9.8 Hz, H-4), 3.31 (s, 3H, OMe), 3.20 (dd, 1H, J=3.7 Hz and 10.5 Hz, H-2)
【0047】
(9)L-グルコサミン塩酸塩(L-GlcNH2・HCl)の合成
メチル 2-アミノ-2-デオキシ-α-L-グルコピラノシド塩酸塩(8)(960 mg, 4.03 mmol相当として計算)を6N-HCl(40 ml)に溶解し、100℃で加熱攪拌した。計30時間反応させた後に室温に戻して減圧濃縮した。得られた残渣に水を加えて減圧濃縮する操作を5回繰り返した。残渣を水に溶解して凍結乾燥した。得られた残渣をCHP-20に通し、素通り部分を集めて凍結乾燥し(粗収量:805 mg(3.73 mmol、相当粗収率:93 %))、さらに531 mg(2.46 mmol相当)を順相のHPLC(TSK-Gel Amide-80)により精製し、目的の画分を集めて減圧濃縮した。残渣に水を加えて凍結乾燥する操作を3回繰り返して目的物を得た(収量: 474 mg(2.20 mmol)、収率:83 %)。
1H-NMRスペクトル(400 MHz、重水、δ、ppm):5.36 [d, 0.7H, J=3.5 Hz, H-1(α体), 4.85 [d, 0.3H, J=8.3 Hz, H-1(β体)], 3.36-3.84 [m, 5H, H-3, H-4, H-5, H-6a, and H-6b(α体およびβ体), 3.21 [dd, 0.7H, J=3.5 Hz and 10.6 Hz, H-2(α体), 2.92 [dd, 0.3H, J=8.3 Hz and 10.6 Hz, H-2(β体)]
(元素分析結果)
計算値:C;33.42(%), H;6.54(%), N;6.50(%)
実測値(1回目):C;33.31(%), H;6.46(%), N;6.36(%)
実測値(2回目):C;33.30(%), H;6.48(%), N;6.36(%)
(20℃における [α]D)
実測値:-72.05(c1.0, H2O)(水に溶解して24時間後)
(参考データ:市販品のD-グルコサミン塩酸塩の20℃における[α]D)
実測値:+72.20(c1.0, H2O)(水に溶解して24時間後)
【0048】
(B)2−NBDLGの合成(その1)
【0049】
【化4】

【0050】
褐色フラスコに4-クロロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール(NBD-Cl)(483 mg)を入れ、メタノール(14.0 ml)に溶解した。アルゴン雰囲気下、L-グルコサミン塩酸塩(280 mg)を0.3M-NaHCO3水(5.57 ml)に溶解したものを加え、室温で攪拌した。24時間後に減圧濃縮によりメタノールを除き、生じた沈殿(NBD-Cl由来の不要物)を濾過した後、沈殿を水で洗浄した。濾液と洗浄液を合わせてHPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥して目的物を得た(収量:102 mg、収率:23 %)
1H-NMRスペクトル(400 MHz、重水、δ、ppm):8.52 (d, 1H, J=9.1 Hz, H6’), 6.56 and 6.54 (d x 2, 0.5H x 2, J=9.1 Hz and J=9.1 Hz, H5’), 5.38 [d, 0.5H, J=2.8 Hz, H-1(α体)], 4.89 [d, 0.5H, J=8.1 Hz, H-1 (β体)], 3.50-4.02 (m, 6H, H-2, H-3, H-4, H-5, H-6a, and H-6b(α体およびβ体)](図1参照)
ESI-MS:calcd for C12H15N4O8 [M+H]+343.1, found 343.1
【0051】
(C)2−NBDLGの合成(その2)
褐色フラスコにL-グルコサミン塩酸塩(40.0 mg)およびNaHCO3(26.0 mg)を入れ、水(800 μl)に溶解した。ここにメタノール(4.0 ml)に溶解した4-フルオロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール(NBD-F)(92.0 mg)を加え、アルゴン雰囲気下、浴温(37℃)で2時間攪拌し、その後、さらに室温で40分間攪拌した。減圧濃縮によりメタノールを除き、生じた沈殿(NBD-F由来の不要物)を濾過した後、沈殿を水で洗浄した。濾液と洗浄液を合わせてHPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥して目的物を得た(収量:48.7 mg、収率:76 %)。
【0052】
1−3:急性単離神経細胞への2−NBDGおよび2−NBDLGの適用(通常蛍光顕微鏡による画像取得)
(適用方法)
(A)急性単離神経細胞の調製
(1)マウス脳スライスの作製
生後13-15日令(幼若期)もしくは33-45日令(成熟期)のC57BL/6Jマウスにウレタン深麻酔(i.p. 1.6g/kg)を施行し、常法に従い断頭後、脳を取り出し、冷リンガー液注1)中(0℃)に1-2分浸漬して冷やした後、マイクロスライサー(堂阪Zero1)にて厚さ400μmの冠状断脳スライスを作製した。次いで95%O2-5%CO2を通気したリンガー液が循環するチャンバー(ハーバード社製アクリルインキュベーションチャンバー)中にて室温で1時間回復させた。
(2)脳スライスの酵素処理
蛋白分解酵素Pronase(10mg/60mL)を上記リンガー液に溶解して作製した酵素液(31℃;95%O2-5%CO2通気によりpH7.4に保持したもの)に脳スライスを浸漬して酵素処理を行った(浸漬時間は幼若マウスの脳の場合には18-20分、成熟マウスの脳の場合には50-70分)。所定時間経過後、直ちに室温にて100mLの10mM glucose含有HEPES溶液注2)に脳スライスを浸漬して酵素反応を停止させた。
(3)中脳黒質網様部の分離
底部にシリコンを貼付した60mmプラスチックディッシュに10mM glucose含有HEPES溶液注2)(室温)を満たしておき、上記脳スライスを液中に浸漬した。二本の27G注射針で脳スライスを固定した上、顕微鏡下にて左右の中脳黒質網様部を18G注射針の先端を楕円形にしたものでパンチアウトし、室温で上記HEPES溶液注2)(35mmカルチャーディッシュ)中に保存した。
(4)黒質網様部神経細胞の単離
各種先端径に調整したガラスピペットにてtriturationにより神経細胞を単離し、poly-L-lysineコート注3)したガラスボトムカルチャーディッシュ注4)(35mm)に付着させた。
注1)単離用リンガー液
NaCl 124mM, NaHCO3 26mM, KCl 5mM, KH2PO4 1.24mM, CaCl2 2.4mM, MgSO4・7H2O 1.3mM, Glucose 10mM, 95%O2-5%CO2通気によりpH7.4に保持。
注2)HEPES溶液
NaCl 150mM, KCl 5mM, MgCl2 1mM, CaCl2 2mM, HEPES 10mM, 1M Tris(2-amino-2-hydroxymethyl-1,3-propanediol)溶液にてpH7.4に調整。Glucose 濃度はサンプル調製時は10mM。2-NBDGおよび2-NBDLG溶液はglucose-free溶液を使用。
注3)カバースリップのpoly-L-lysineコート(神経細胞用)
5mgのpoly-L-lysine hydrobromide(SIGMA P6282)を50mLの0.15Mホウ酸(NaOHにてpH 8.4に調整)に溶解したものをストックし、冷蔵保存する。本ストック溶液を0.15Mホウ酸 で1/1000に希釈したものをカバースリップ(13mm x 22mm松浪No.0ガラス)の中心部に滴下し、室温にて20分放置した後、蒸留水ですすぎ、自然乾燥させる。
注4)ガラスボトムカルチャーディッシュの作製
上面をpoly-L-lysineコート注3)した上記ガラスカバースリップを、底部に楕円形穴に空いた35mmカルチャーディッシュ(松浪code D109501)の楕円形穴(5mm x 14mm)に、シリコングリース(Dow Corning111Sealant)を用いて裏面から張り、水が漏れないように固定する。
(B)2-NBDG溶液および2-NBDLG溶液の調製
(1)凍結乾燥品の調製
HPLCで精製して純度をNMRおよびHPLCで確認し、元素分析で含量を確認した2-NBDG(もしくは2-NBDLG)を秤量し、水に溶解し、1バイアルあたり正味0.5mgが含まれるように分注したものを凍結乾燥し、-20℃以下で遮光保存した。
(2)2-NBDG(もしくは2-NBDLG)溶液の作製
使用時は、上記2-NBDG(もしくは2-NBDLG)バイアル一本全量をglucose-free HEPES溶液注2)7.3mLに溶解することで、終濃度200μMの2-NBDG(もしくは2-NBDLG)溶液とした。
(C)通常型蛍光顕微鏡を使用した際の2-NBDG(もしくは2-NBDLG)溶液灌流装置および蛍光検出装置
Zeiss倒立型蛍光顕微鏡 Axiovert 135(100W Xenon光源)の加温式XYステージ上(Zeiss Tempcontrol37-2)に載せた自家製灌流チャンバー(非特許文献2)に35mmガラスボトムカルチャーディッシュ注4)をセットし、ディッシュ内にセットされているガラスカバースリップ((A)の方法で神経細胞を載せたもの)上に記録用HEPES溶液を1.3mL/分の速度で灌流した。
灌流液の導入は、メジウムビンから伸ばしたチューブ(ステンレス配管とPharmedチューブを組み合わせ、ガス分圧が変化しないようにした)をペリスタルティックポンプ(Ismatec社 MCPポンプ12 rollers)を用いて、35mmガラスボトムカルチャーディッシュ注4)に導入した。溶液の切り替えはペリスタルティックポンプ直前に配置した3方活栓を使用した。なお上記チューブは、チャンバーに導入する前のステンレス配管部分で温度調節用のニクロム線を通して、チャンバー中での灌流液の温度が36-37℃になるように灌流速度にあわせてあらかじめ直流電源により加温制御した。
35mmガラスボトムカルチャーディッシュ注4)に導入した灌流液は、圧力調整を行った真空ポンプを用いて緩やかに吸引し、吸引口の調整により細胞上にある溶液の液面高を調節し、また色素溶液および極細サーミスタープローブ(Physitemp社IT-23)を用いてあらかじめ流れの均一性と再現性、還流液温度を各実験前に確認した(非特許文献2)。
蛍光検出には、Zeiss社製の標準的な450-490nmの励起用バンドパスフィルター、510nmのダイクロイックミラー、515-565nmのエミッションフィルターを使用し、NDフィルターは使用せず、対物レンズはZeiss Plan Neofluar x20レンズ(NA 0.50)を使用した。コンデンサーにはlong working distanceタイプを使用し、透過光はNDフィルターで強度を調整した。画像取得には浜松ホトニクス社製SITカメラC2400-08および同カメラコントローラーC2400、画像取得ソフトウェアArgus50を使用した。
(D)2-NBDG溶液および2-NBDLG溶液の投与法および画像取得プロトコル
(1)2-NBDG溶液の投与法と画像取得プロトコル
SITカメラのシャッターを閉じた状態で画像(512X483, 16bit)を取得し、用いたSITカメラに特有のバックグラウンドノイズパターンを取得した(図は省略)。
次いでSITカメラへの光路のシャッターを開け、2-NBDG投与前の細胞の位相差像および自家蛍光像を取得した。
ペリスタルティックポンプ前の三方活栓を2-NBDG溶液側に倒し、200μMの2-NBDG溶液を1分間投与して2-NBDGを取り込ませた後、すみやかに2-NBDGを含まないHEPES溶液に戻して10分間および30分間洗い流した後の蛍光像を取得した。なおこの30分間に細胞形態に変化のないことを30分後に位相差像を取得して確認した。
蛍光画像データ処理法は以下の方法を採用した。
(a)バックグラウンド減算(Background subtraction)
SITカメラへの光路のシャッターを開けて取得した蛍光取得画像を表示する際には、シャッターを閉じた状態で取得したバックグラウンドノイズパターンを差し引いた画像として表示した。
(b)シェーディング補正(Shading Correction)
細胞の無いディッシュに200μMの2-NBDG溶液を流し、実験時と同一の画像取得条件で蛍光画像を取得したものを標準シェーディング補正用スタンダード画像とした。本画像は、光源ムラならびにレンズ・カメラを含めた光学システムの特性に起因する取得蛍光強度の二次元分布の様子を示す。2-NBDGの細胞への投与結果が、上記の光学ムラ等の影響を受けないように、各蛍光取得画像と、上記シェーディング補正用スタンダード画像とを、Argus50のシェーディング補正アルゴリズム注5)に適用し、補正後の蛍光画像をシェーディング補正済み蛍光画像として保存した。
(c)ディッシュ内位置の違いによる洗い流し(wash)の程度の補正
ディッシュのカバースリップ部分の大きさ(5mm x 14mm)は細胞の大きさの1000倍程度あり、観察に供する細胞がディッシュ内のどの位置に存在するかによって、2-NBDG溶液の灌流および洗い流し(wash)の時間経過に若干の差異を生じる。そこで細胞内への2-NBDGの取り込みの程度の評価に対するこうした灌流の部位的差異による影響を軽減するため、以下の補正を行った。すなわちSITカメラで観察している画面のほぼ中央(x,y)=(256, 242)に、30pixel x 30pixelの大きさのエリアを設定し、それぞれの蛍光取得画像について、このエリアの平均蛍光強度B0を検出した。ただし画面中央に細胞が来ないようあらかじめ画像取得時にはxyステージ位置を調整した。次いで各点の蛍光強度B(x,y)をこのB0で割った値B(x,y)/B0をそれぞれの(x,y)の地点における蛍光強度とした。
(d)蛍光強度のガンマによる強調(Enhance)
画像は32回の積算(duration 1sec)により取得した。また2-NBDGによる蛍光画像は、退色を最低限におさえるためにレーザーのExcitation強度を下げているため、部位による強度差がわかりやすいようにガンマ0.3をかけて強調し、画像処理の目的で16bitから8bitに落として表示した。
注5)Argus50のシェーディング補正アルゴリズム
C(x,y) = A(x,y) x [Bmax / B(x,y)]
C(x,y) = 補正後の画像
A(x,y) = 補正前の画像
B(x,y) = シェーディングスタンダード画像
Bmax = B(x,y)の最大輝度
A, Bにはバックグラウンドノイズ分を差し引いた後の画像を使用する。
(2)2-NBDLG溶液の投与法と画像取得プロトコル
2-NBDG溶液の投与法と画像取得プロトコルと全く同じものとした。
【0053】
(適用結果)
図2に示す。図2から明らかなように、この実験では、2−NBDGの投与によっては細胞からの緑色の蛍光が認められたが、2−NBDLGの投与によっては細胞からの緑色の蛍光はほとんど認められなかった。従って、この差は、2−NBDGの細胞内への特異的な取り込みに基づくものであると評価することができた。なお、実験中、2−NBDGを投与した細胞と2−NBDLGを投与した細胞のパッチクランプを行ってそれぞれの活動電位を調べ、その同等性を確認することで、細胞の活動性の違いが蛍光強度に影響する可能性を排除し、評価の妥当性を確保することができた。以上の結果から、2−NBDGの対照として2−NBDLGを投与することで、D−グルコースの細胞内への特異的な取り込みを正確に評価することができることがわかった。
【0054】
実施例2:神経細胞への2−NBDGおよび2−TRLGの適用例
2−1:2−NBDGの合成
非特許文献1記載の方法に準じて行った。
【0055】
2−2:2−TRLGの合成
【0056】
【化5】

【0057】
褐色フラスコにL-グルコサミン塩酸塩(51.9 mg)を入れ、水(300 μl)に溶解し、脱水DMF(1.70 ml)を加えた。アルゴン雰囲気下、これにジイソプロピルエチルアミン(84.1 μl)を加え、さらにスルホローダミン 101 クロリド(30.0 mg)を脱水DMF(1.50 ml)に溶解したものを加えた後、室温で攪拌した。35分後に50%酢酸(6.00 ml)を加え、HPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥した。ここで蛍光試薬のスルホローダミン 101 クロリドはオルトとパラの2種類の異性体の混合物であることから、生成物もまたオルトとパラの2種類の異性体の混合物となり、HPLCにおける保持時間の短いもの(高極性2-TRLG)およびHPLCにおける保持時間の長いもの(低極性2-TRLG)を分離・精製した。
高極性2-TRLGの収量:10.3 mg
低極性2-TRLGの収量: 6.0 mg
総収量:16.3 mg
総収率:44 %
(高極性2-TRLG)
1H-NMR (400 MHz、重メタノール、δ、ppm):8.57 [d, 0.7H, J=1.7 Hz, H3’of Ph (α体)], 8.49 [d, 0.3H, J=1.7Hz, H3’of Ph (β体)], 8.02 [dd, 0.7H, J=1.7 Hz and 8.0 Hz, H5’ of Ph (α体)], 7.98 [dd, 0.3H, J=1.7 Hz and 8.0 Hz, H5’of Ph (β体)], 7.24 [d, 0.7H, J=8.0 Hz, H6’of Ph (α体)], 7.19 [d, 0.3H, J=8.0 Hz, H6’of Ph (β体)], 6.84 and 6.68 [s x 2, 0.3H x 2, H8’’and H10’’(β体)], 6.73 and 6.55 [s x 2, 0.7H x 2, H8’’and H10’’(α体)], 4.35 [d, 0.3H, J=8.5 Hz, H1 (β体)], 2.60-3.72 [m, 21H, H3, H4, H5, H6a, and H6b, H1’’, H3’’, H5’’, H7’’, H11’’, H13’’, H15’’ and H17’’ (α体およびβ体) ], 2.01 and 1.86 [m, 8H, H2’’, H6’’, H12’’and H16’’ (α体およびβ体) ]
ESI-MS:calcd for C37H42N3O11S2[M+H]+ 768.2, found 768.2
(低極性2-TRLG)
1H-NMR (400 MHz、重メタノール、δ、ppm):8.58 [d, 0.75H, J=1.8 Hz, H3’of Ph (α体)], 8.54 [d, 0.25H, J=1.8 Hz, H3’of Ph (β体)], 8.02 [dd, 0.75H, J=1.8 Hz and 8.0 Hz, H5’of Ph (α体)], 7.98 [dd, 0.25H, J=1.8 Hz and 8.0 Hz, H5’of Ph (β体)], 7.27 [d, 0.75H, J=8.0 Hz, H6’of Ph (α体)], 7.23 [d, 0.25H, J=8.0 Hz, H6’of Ph (β体)], 6.56 and 6.54 [br.s x 2, 2H, H8’’and H10’’(α体およびβ体)], 4.90 [d, 0.75H, J=3.4 Hz, H1 (α体)], 4.42 [d, 0.25H, J=8.3 Hz, H1 (β体)], 2.60-3.70 [m, 21H, H3, H4, H5, H6a, H6b, H1’’, H3’’, H5’’, H7’’, H11’’, H13’’, H15’’ and H17’’ (α体およびβ体) ], 2.00 and 1.85 [m, 8H, H2’’, H6’’, H12’’and H16’’ (α体およびβ体) ]
ESI-MS:calcd for C37H42N3O11S2[M+H]+ 768.2, found 768.2
【0058】
2−3:急性単離神経細胞への2−NBDGおよび2−TRLGの適用(リアルタイムレーザースキャン共焦点蛍光顕微鏡による画像取得)
(A)急性単離神経細胞の調製
実施例1と同様にして行った。
(B)2-TRLG + 2-NBDG混合溶液の調製
2-TRLGは水に不溶性のため、1.54mgのTRLGを30%アセトニトリル-70%H2O液に溶解してまず2mM 2-TRLG溶液とした後、この2mM溶液10μLを、100μMの2-NBDGを含有するglucose-free HEPES buffer溶液注6)1mLに溶解することで100倍に希釈し、20μM 2-TRLG + 100μM 2-NBDG混合溶液を得た。
注6)100μMの2-NBDGを含有するglucose-free HEPES buffer溶液の調製
実施例1の1-3の(B)の(1)に記載した方法で調製された0.5mgの2-NBDGバイアルに、glucose-free HEPES溶液注2)14.6mLを加えて調製した。
(C)リアルタイムレーザースキャン共焦点顕微鏡を使用した場合の2-TRLG + 2-NBDG 混合溶液の投与法および画像取得プロトコル
(1) 20μM 2-TRLG + 100μM 2-NBDG混合溶液の投与法
(a)マイクロピペットの作製
市販の1mm管ガラスキャピラリー(Sutter社B100-75-15)をプラー(Sutter社P-97)で引き、2本の先端を閉じた状態のガラスピペットを作製した。次いでマイクロフォージ(ナリシゲ社製MF-90)を利用して、その白金ヒーター先端部に付着させた小さなガラス球をガラス球が赤くならない程度に加熱し、ガラスピペット先端に瞬間的に接触させると同時にヒーターの加熱を切ることで、先端外径が3-4ミクロン(内径3ミクロン以下1.5ミクロン以上)でかつ先端部が開口したマイクロピペットを得た。
(b)2-TRLG + 2-NBDG混合溶液の充填
(B)で調製した20μM 2-TRLG + 100μM 2-NBDG混合溶液をマイクロチューブの蓋部に100μL取っておき、(a)で作製したマイクロピペット後端部に細いタイゴンチューブ(Tygon)を接続して3方活栓を介して10ccシリンジを接続した。次いでこのマイクロピペットの先端部を、マイクロマニピュレーターを利用して上記混合溶液中に漬け、シリンジで急速に引くことでマイクロピペット先端部に混合溶液を充填した。次にマイクロピペット後端部から、細いシリンジニードル(WPI社製MicroFil)を用いて混合溶液を充填した。
(c)マイクロインジェクタへのマイクロピペットの接続
市販のマイクロインジェクタ(Eppendorf社製Transjector5246)のユニバーサルホルダーに、混合溶液を充填したマイクロピペットを接続した。次いでユニバーサルホルダーを、共焦点顕微鏡ステージ上のマイクロマニピュレーター(ナリシゲ社3次元ジョイスティック方式水圧マニピュレーター)に接続した。細胞を含まないディッシュを用意し、HEPES溶液注2)中にマイクロピペットを漬けて、インジェクションモードで陽圧(1500hPa)をかけて先端部からの色素溶液の吐出を蛍光により確認した。次いでマイクロインジェクタの自動圧力調節機能を利用してマイクロピペットに補正圧をかけることで、マイクロピペット先端部からの混合溶液の漏出、あるいは先端部への外液の吸引が無い状態に保持した。
(d)ガラスピペットの細胞近傍へのアプローチ
神経細胞をガラスボトム部に付着させた35mmガラスボトムカルチャーディッシュ注4)に、3mLのHEPES溶液注2)を加え、更にミネラルオイル(SIGMA M8410)を3mL積層した。次いでこのガラスボトムカルチャーディッシュを共焦点顕微鏡のステージ上のユニバーサルフレーム(Leica 11600234)に固定し、Liveモードで観察しながらマイクロマニピュレーターを操作して、x63レンズの視野内(Zoom1.7)に入るようにマイクロピペットを細胞近傍(ピペット先端部から細胞中心部まで80ミクロンとなるように)に近づけ、ピペットから吐出される蛍光溶液が細胞全体を一様に覆うようなxyz位置にピペットを固定した。
(2)画像取得条件の詳細
Leica製TCS-SP5リアルタイムレーザースキャン共焦点顕微鏡(本体はDMI6000 CS trino)を高速(8000Hz)レゾナントスキャンモードで使用した。
使用レーザーは488nmアルゴンレーザー、出力は15%で使用した。レンズはx63のoilレンズ(HCX PL APO Lambda Blue, NA1.40)を使用し、500nmのダイクロイックミラー(RSP500)を用いた。
緑の波長領域用photomultiplier検出器(PMT1)と赤の波長領域用検出器(PMT2)、これに透過光用検出器(PMTTrans)を加えた合計三つの検出器(チャネル)を同時に使用して、512x512の画素数で画像取得した。検出感度はPMT1(868V)、PMT2(868V)、PMTtrans(245V)とした。なお緑(500-580nm)と赤(580-740nm)の蛍光検出波長領域はEmissionフィルター方式によらず、プリズム分光とスリットを組み合わせた方式(Leica社TCS-SP5の標準)によって最適値を選択した。
緑と赤、ならびに透過光のレーザースキャンは同時に行った。透過光画像取得については微分干渉方式(DIC)を用いるとポラライザーやアナライザーを光路に入れる為の切り替え時間が必要となるため、本スキャン時には単純明視野画像とした。
ズームはレゾナントモードにおける最低値である1.7倍、Pinhole sizeはx63レンズを使用した場合の最大値である6.28を使用した。このpinhole sizeでもz軸方向に細胞内の核と細胞質を実用的に区別し得ることが取得画像で確認された。3回のスキャニングによって平均画像を取得した。
(3)2-TRLG + 2-NBDG混合溶液の投与法
投与は24時間一定室温(24℃)に保持された部屋で行った。
(a)投与前画像の取得
混合溶液投与直前の緑、赤の各波長領域の蛍光像、および透過光像を上記(2)に記した方法で取得した。
(b)混合溶液の投与
20μM 2-TRLG + 100μM 2-NBDG混合溶液を、神経細胞全体を完全に覆うように1500hPaの吐出圧を用いて1分間投与(投与量0.6μL)した。投与液が細胞全体にかかっていることは投与中の緑、赤の各波長領域の蛍光像、および透過光像の取得により毎回かならず確認した。混合溶液の吐出を停止すると、混合溶液は速やかにHEPES溶液全体(3mL)に拡散して5000倍に希釈されるため、1分後には背景の蛍光は無視できる程度となった。また細胞内に取り込まれる量も実験時間内(最長1時間)では装置の検出限界より十分低い濃度であると考えられた。
(c)投与後画像の取得
混合溶液投与停止後、5分おきに緑、赤の各波長領域の蛍光像、および透過光像を(2)に記した方法で取得した。
【0059】
(適用結果)
図3に投与停止1分後の蛍光取得画像および透過光像を示す。図3から明らかなように、この実験では、2−TRLGの細胞内への取り込みに基づく黄色〜赤色の蛍光は認められず、2−NBDGによる緑色の蛍光のみが認められることから、この細胞においては、細胞膜の一部が破壊されていたり、膜状態が2−NBDGと2−TRLGの両方が非特異的に取り込まれてしまうような状態にあったりすることはなく、2−NBDGが細胞内に特異的に取り込まれたと評価することができた(例えば細胞膜のヘミチャンネルは開口していると分子量が約1000以下の分子を通過させるので、分子量が768の2−TRLGも細胞内に取り込まれるが、2−TRLGの取り込みが認められないことはヘミチャンネルを介した分子の取り込みはないことを意味する)。なお、この評価結果の妥当性は、20μMの2−TRLGと100μMの2−NBDGの混合溶液を使用すれば、540nm付近の蛍光を検出することで2−NBDGが発する緑色の蛍光を、610nm付近の蛍光を検出することで2−TRLGが発する赤色の蛍光をそれぞれ検出することができることから裏付けられている(pH7.4の場合、2−NBDGの最大蛍光波長は540nmであり、2−TRLGの最大蛍光波長は610nmである:図4参照)。また、共焦点顕微鏡を用いれば、細胞の内と外を区別できるので、共焦点顕微鏡は本発明において有効な装置であるといえる。
【0060】
実施例3:2−DBDLGの合成
【化6】

【0061】
褐色フラスコに4-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)-7-フルオロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール(DBD-F)(100 mg)を入れ、メタノール(2.00 ml)およびTHF(2.00 ml)の混合溶媒に溶解した。アルゴン雰囲気下、L-グルコサミン塩酸塩(49.8 mg)を0.3M-NaHCO3水(1.08 ml)に溶解したものを加えた後、室温で攪拌した。48時間後に減圧濃縮によりメタノールを除き、生じた沈殿(DBD-F由来の不要物)を濾過した後、沈殿を水で洗浄した。濾液と洗浄液を合わせてHPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥して目的物を得た(収量:35.8 mg、収率:38 %)。
1H-NMRスペクトル(400 MHz、重水、δ、ppm):7.82 and 7.84 (d x 2, 0.5H x 2, J=8.3 Hz and 8.3 Hz, H-6’), 6.42 and 6.46 (d x 2, 0.5H x 2, J=8.3 Hz and 8.3 Hz, H-5’), 5.31 [br.d, 0.5H, J=2.7 Hz, H-1(α体)], 4.79 [br.d, 0.5H, J=8.3 Hz, H-1(β体)], 3.43-3.90 [m, 6H, H-2, H-3, H-4, H-5, H-6a, and H-6b(α体およびβ体)], 2.65 (s, 6H, Me2NSO2-)
ESI-MS:calcd for C14H21N4O8S [M+H]+405.1, found 405.1
【0062】
実施例4:大腸菌の状態評価への適用
大腸菌Escherichia coli K12を一晩37℃で振とう培養し、その1mLを遠心分離して集菌し、1mLのPhosphate Buffer Saline (PBS;0.01Mリン酸バッファーと0.137MのNaClの混合液、pH 7.4)に懸濁した。懸濁液の90μLを分取し、これに2-NBDG溶液もしくは2-NBDLG溶液を10μL加えて終濃度50μMとなるように調製した後、37℃にて10分間取り込み反応を行なわせた。反応後、遠心分離した菌体をPBSに再懸濁し、顕微鏡観察し(対物レンズx10)、顕微鏡観察用CCDカメラで記録した。結果を図5に示す。図5から明らかなように、2-NBDGの細胞内への取りこみによる顕著な蛍光は検出することができたが、2-NBDGの測定条件と同じ測定条件では2-NBDLGの細胞内への取り込みによる蛍光は検出することができなかった。なお、生菌に対して70%エタノール処理を室温で10分間行うことで調製した死菌について同様の実験を行った場合、2-NBDGと2-NBDLGのそれぞれの蛍光検出の結果に差は認められなかった(別途の実験より)。
【0063】
実施例5:2−NMAGの合成
【化7】

【0064】
褐色フラスコにD-グルコサミン塩酸塩(215 mg)を入れ、水(1.0 ml)に溶解し、DMF(9.0 ml)を加えた。アルゴン雰囲気下、ここにN-メチルアントラニル酸(別名:2-(メチルアミノ)ベンゼンカルボン酸)(151 mg)と1-ヒドロキシベンゼントリアゾール(135 mg)を加えて氷冷した。さらに1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(187 μl)を加え、0℃で攪拌した。2時間後に減圧濃縮し、得られた残渣に水を加えて凍結乾燥した。凍結乾燥物に水を加え、水に難溶である試薬由来の不要物を濾過した後、不要物を水で洗浄した。濾液と洗浄液を合わせてHPLCで精製した。目的の画分を集めて凍結乾燥して目的物を得た(収量:140 mg、収率:45%)。
1H-NMRスペクトル(400MHz、重水、δ、ppm):7.44 (m, 2H, Ar), 6.86 (d, 1H, J=8.2 Hz, Ar), 6.78(dd, 1H, J=7.5 and 7.5 Hz, Ar), 5.29(d, 0.5H, J=3.7Hz, H-1α), 4.80(d, 0.5H, J=8.3Hz, H-1β), 3.48-4.05(m, 6H, H-2, H-3, H-4, H-5, H-6, H-6), 2.78(s, 3H, Me)
ESI-MS: calcd for C14H21N4O8S [M+H]+ 313.1, found 313.1
【0065】
実施例6:2−NMALGの合成
D−グルコサミン塩酸塩のかわりにL−グルコサミン塩酸塩を用いること以外は2−NMAGの合成方法と同様にして2−NMALGを合成した。
【0066】
実施例7:2−NBDGと2−TRLGと2−NMALGを混合して使用した場合の有用性
蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体として2−NBDGを、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として2−TRLGと2−NMALGを1:1:25(モル比)で混合した溶液を405nmのレーザー光で励起した場合の蛍光スペクトルのチャートを図6に示す。図6から明らかなように、この組み合わせによれば、2−NMALGの最大蛍光波長である450nm付近では2−NMALGが発する青色の蛍光を、2−NBDGの最大蛍光波長である540nm付近では2−NBDGが発する緑色の蛍光を、2−TRLGの最大蛍光波長である610nm付近では2−TRLGが発する赤色の蛍光をそれぞれ検出することができる。2−TRLGと2−NMALGはいずれもL−グルコース誘導体であるので、細胞内へは非特異的にしか取り込まれないが、両者の蛍光発色団は大きさ(かさ高さ)が異なることから、例えば、細胞膜の悪化状態の程度が小さい場合には小さな蛍光発色団を有する2−NMALGのみが取り込まれ、大きな蛍光発色団を有する2−TRLGは細胞膜の悪化状態の程度が大きくなってはじめて取り込まれる(別途のモデル実験によって確認済み)。従って、細胞膜の悪化状態の程度の相違に基づく非特異的に取り込まれるL−グルコース誘導体の相違を検出することができ、これにより、D−グルコースのL−グルコースとの対比における細胞内への特異的な取り込みの評価とともに、細胞膜の悪化状態の程度の評価をあわせて行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、D−グルコースの細胞内への特異的な取り込みを正確に評価するための方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−グルコースのL−グルコースとの対比における細胞内への特異的な取り込みを評価するための方法であって、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体を、評価対象とする細胞種の別個の細胞にそれぞれ接触させ、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光と、蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体が発する蛍光を比較し、両者の蛍光強度の差を、D−グルコースのL−グルコースとの対比における細胞内への特異的な取り込みとして評価することを特徴とする方法。
【請求項2】
蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体を用いることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を2位に結合せしめたD−デオキシグルコースを用いることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体を用いることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項5】
N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を2位に結合せしめたL−デオキシグルコースを用いることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体を用いることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を2位に結合せしめたD−デオキシグルコースを用いることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体を用いることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項9】
2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を2位に結合せしめたL−デオキシグルコースを用いることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
D−グルコースのL−グルコースとの対比における細胞内への特異的な取り込みを評価するための方法であって、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体と、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光の波長とは異なる波長の蛍光を発する蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体との混合物を評価対象とする細胞に接触させ、蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光を検出することで行うことを特徴とする方法。
【請求項11】
最大蛍光波長の差を少なくとも20nmとすることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体を用いることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項13】
N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を2位に結合せしめたD−デオキシグルコースを用いることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体を用いることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項15】
2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するD−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を2位に結合せしめたD−デオキシグルコースを用いることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光の波長とは異なる波長の蛍光を発する蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として、スルホローダミンを結合せしめたL−グルコース誘導体を用いることを特徴とする請求項12または14記載の方法。
【請求項17】
蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光の波長とは異なる波長の蛍光を発する蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体を用いることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項18】
2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体として、2−(N−メチルアミノ)ベンゾイルアミノ基を2位に結合せしめたL−デオキシグルコースを用いることを特徴とする請求項17記載の方法。
【請求項19】
蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光の波長とは異なる波長の蛍光を発する蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体を用いることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項20】
N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を分子内に有するL−グルコース誘導体として、N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ基を2位に結合せしめたL−デオキシグルコースを用いることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項21】
蛍光発色団を分子内に有してなる細胞内に特異的に取り込まれるD−グルコース誘導体が発する蛍光の波長とは異なる波長の蛍光を発する蛍光発色団を分子内に有するL−グルコース誘導体として、異なる蛍光発色団を分子内に有する2種類以上のL−グルコース誘導体を混合して用いることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項22】
蛍光発色団を分子内に有してなることを特徴とするL−グルコース誘導体。
【請求項23】
L−マンノースの5つの水酸基をアセチル化し、1位のアセトキシ基を臭素置換し、1,2位にオルトエステル基を導入し、3,4,5位のアセチル基をベンジル基に変換し、1,2位に導入したオルトエステル基を外して1位をメトキシ基に変換するとともに2位を水酸基とし、2位の水酸基をトリフルオロメタンスルホニル化またはメタンスルホニル化した後、アジド化し、アジド基を水素還元するとともに脱ベンジル化し、最後に1位のメトキシ基を水酸基に変換することで得られるL−グルコサミンまたはその塩の2位に蛍光発色団を導入することを特徴とする蛍光発色団を分子内に有してなるL−グルコース誘導体の製造方法。
【請求項24】
L−マンノースの5つの水酸基をアセチル化し、1位のアセトキシ基を臭素置換し、1,2位にオルトエステル基を導入し、3,4,5位のアセチル基をベンジル基に変換し、1,2位に導入したオルトエステル基を外して1位をメトキシ基に変換するとともに2位を水酸基とし、2位の水酸基をトリフルオロメタンスルホニル化またはメタンスルホニル化した後、アジド化し、アジド基を水素還元するとともに脱ベンジル化し、最後に1位のメトキシ基を水酸基に変換することを特徴とするL−グルコサミンまたはその塩の製造方法。
【請求項25】
蛍光発色団を分子内に有してなるL−グルコース誘導体を製造するためのL−グルコサミンまたはその塩の使用。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−57484(P2010−57484A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185010(P2009−185010)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、重点地域研究開発推進プログラム(育成研究)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【出願人】(595125362)株式会社ペプチド研究所 (2)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】