説明

D−プシコースを含有する新規二糖類化合物及びその製造方法

【課題】 D-キシロースとD-プシコースを構成糖とする新規な二糖類化合物の提供。
【解決手段】 D-キシロースとD-プシコースを構成糖とする二糖類化合物。D-プシコース存在下、キシランあるいはキシロオリゴ糖(キシロビオース以上)にエンド1,4-β-D-キシラナーゼを水性媒体中で作用させ、二糖類化合物を反応媒体から分離、あるいは精製する二糖類化合物の製造方法。上記エンド1,4-β-D-キシラナーゼが、微生物の培養物、菌体、菌体処理物、粗酵素液または精製酵素標品である。上記キシランが、植物原料から分離、精製されたもの、および/または、木材、いなわら、麦、コーンコブミールなどのキシランを含有する植物の状態のものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な二糖類化合物に関し、詳しくはD-プシコース存在下、キシランもしくはキシロオリゴ糖から酵素化学的に製造されるD-キシロースとD-プシコースを構成糖とする新規な二糖類化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
D-キシロースを構成糖に含む二糖類は、キシランの加水分解によって得られるキシロビオースと、D-キシロースを受容体あるいは供与体とする酵素反応に基づいた転移反応あるいは、加水分解酵素を触媒とした縮合反応によって生産されるものに分けられる。
特にキシランの加水分解によるオリゴ糖の製造法については、物理的方法としてオゾン処理による方法(特許文献1)、加圧加熱処理による方法(特許文献2)、マイクロ波処理による方法(特許文献3)、熱水処理による方法(特許文献4)、酸加水分解による方法(特許文献5)および飽和蒸気による方法(特許文献6)が挙げられる。また、酵素化学的な方法として、ヘミセルラーゼによる方法(特許文献7〜9)、酵素処理による方法(特許文献10)、キシラナーゼによる方法(特許文献11〜15)及びβ1,3キシラナーゼによる方法(特許文献16)が挙げられる。
【0003】
一方、D-プシコースは、フルクトースのC-3エピマーであり、天然にはほとんど存在しない希少糖である。近年、D-プシコースの大量生産技術が本発明者何森らによって確立され(非特許文献1)、その利用が広く検討されつつある。該糖は、ノンカロリーの甘味料(非特許文献2)として、食品への利用だけでなく、肥満に対する効果、動脈硬化への効果、糖尿病への効果など医療面における利用の可能性が期待される機能性の単糖類である。
【0004】
従来、単糖に機能性は期待できず、単糖をオリゴ糖あるいは配糖体化することによって、便通改善や水性溶媒への溶解度の増加など、単糖には存在しなかった機能が生ずると考えられてきた。現在まで、本単糖(D-プシコース)を構成糖に含む二糖類は、パラチノース生成酵素によるグルコシルプシコースの生成が報告されているが(非特許文献3)、その構造や生成量の検討には至っていない。またStreptomyces hygroscopicus var. decoyicusの生産する配糖体として、プシコフラニン(6-アミノ-9-D-プシコフラノシルプリン)の報告がある(非特許文献4)。しかしながら、現在、これらのオリゴ糖や配糖体を工業的に生産するには十分とはいえない状況である。
【0005】
一般に糖転移反応は特定の化合物に含まれる糖を供与体として利用し、水酸基を有する化合物、すなわち受容体に単糖を転移させる。この際、供与体となる糖類は、二糖類以上あるいは配糖体であることが必須である。また、単糖類を転移させるためには、リン酸化した単糖類やフッ化処理した単糖類を用いることが必要である。従って、これらの糖を利用するにはオリゴ糖の大量生産や応用性を狭める原因となることが考えられる。
現在、多くのオリゴ糖は本糖転移反応を経て生産されている。糖転移反応には、糖転移反応を触媒する新規な酵素をコードする遺伝子及びその製造法(特許文献17)、糖転移反応によって得られた糖脂質(特許文献18)、糖転移反応を利用した飲食物の製造方法(特許文献19、20)、糖転移反応及びそれを利用したナフトール型―糖結合物質の製造法(特許文献21)が挙げられる。また、藤田らによるβフルクトフラノシダーゼの転移反応による乳果オリゴ糖の生産(非特許文献5)やβフルクトフラノシダーゼによるフルクトオリゴ糖の生産(非特許文献6)、新規オリゴ糖及びその製造方法(特許文献22)などに実用化試験結果が報告されている。
【0006】
【特許文献1】特公平7-55957号公報
【特許文献2】特公平7-4280号公報
【特許文献3】特公平6-4663号公報
【特許文献4】特開2000-236899号公報
【特許文献5】特開2003-183303号公報
【特許文献6】特開平6-197800号公報
【特許文献7】特許第2643368号公報
【特許文献8】特開2000-333692号公報
【特許文献9】特開2001-226409号公報
【特許文献10】特許第2629006号公報
【特許文献11】特許第3522264号公報
【特許文献12】特開平10-215866号公報
【特許文献13】特開平6-343486号公報
【特許文献14】特開平6-261750号公報
【特許文献15】特許第3022962号公報
【特許文献16】特開2001-86999号公報
【特許文献17】特開2003-250559号公報
【特許文献18】特開平6-25275号公報
【特許文献19】特開平9-187289号公報
【特許文献20】特開昭63-39697号公報
【特許文献21】特開2003-33176号公報
【特許文献22】特開平6-228180号公報
【非特許文献1】Hiromichi ら:J. Ferment. Bioeng. , 80, 101-103(1995)
【非特許文献2】Matsuoら:J.Nutr.Sci.Vitaminol., 48, 512-516, (2002)
【非特許文献3】中島ら:澱粉科学 35, 131-139 (1988)
【非特許文献4】Ebleら:AntibiotChemother ,9, 419-420 (1959)
【非特許文献5】澱粉科学39,p135-142(1992)
【非特許文献6】中村道徳・貝沼圭二編 生物化学実験法25澱粉・関連糖質酵素実験法 学会出版センター
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
D-プシコースの大量生産技術が確立され、D-プシコースに機能性が存在することが明らかになったことで、単糖の状態で機能を有するD-プシコースをオリゴ糖あるいは配糖体化することにより、既存のオリゴ糖よりもさらに高い機能を備えた新規オリゴ糖の創成が期待されるが、D-キシロースのD-プシコースへの転移反応を検討した例は見当たらない。
本発明は、D-キシロースとD-プシコースを構成糖とする新規な二糖類化合物の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、D-プシコースを構成糖とした二糖類を製造する方法について研究を進める過程において、Aspergillus sojae No.3の生産するエンド1,4-β-D-キシラナーゼをD-プシコース存在下、キシロオリゴ糖あるいはキシランに反応させることによって、全く新しい二糖類化合物の生産ができることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち本発明は、下記の(1)〜(4)の二糖類化合物を要旨としている。
(1)下記構造式1で示されるD-キシロースとD-プシコースを構成糖とする二糖類化合物。
【化9】


(2)下記構造式2で示されるD-キシロースとD-プシコースを構成糖とする二糖類化合物。
【化10】


(3)下記構造式3で示されるD-キシロースとD-プシコースを構成糖とする二糖類化合物。
【化11】


(4)下記構造式4で示されるD-キシロースとD-プシコースを構成糖とする二糖類化合物。
【化12】

【0009】
また、本発明は、下記の(5)の二糖類化合物の混合物を要旨としている。
(5)(1)ないし(4)の二糖類からなる群から選ばれる二糖類を1以上含有する二糖類化合物の混合物。
【0010】
また、本発明は、下記の(6)〜(8)の二糖類化合物の製造方法を要旨としている。
(6)D-プシコース存在下、キシランあるいはキシロオリゴ糖(キシロビオース以上)にエンド1,4-β-D-キシラナーゼを水性媒体中で作用させ、下記構造式1、2、3および4で示される二糖類化合物を反応媒体から分離、あるいは精製することを特徴とする二糖類化合物の製造方法。
【化13】


【化14】


【化15】


【化16】


(7)上記エンド1,4-β-D-キシラナーゼが、微生物の培養物、菌体、菌体処理物、粗酵素液または精製酵素標品である(6)の二糖類化合物の製造方法。
(8)上記キシランが、植物原料から分離、精製されたもの、および/または、木材、いなわら、麦、コーンコブミールなどのキシランを含有する植物の状態のものである(6)または(7)の二糖類化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
大量生産技術が確立され、機能性が存在することが明らかになったD-プシコースについて、オリゴ糖あるいは配糖体化することにより、D-キシロースとD-プシコースを構成糖とする新規な二糖類化合物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の新規二糖類化合物は、D-プシコース存在下、キシラン及びキシロオリゴ糖を酵素分解することにより生産される。キシラン及びキシロオリゴ糖の分解酵素としてAspergillus sojae No.3 (アスペルギルス ソーヤ)(ATCC 200440) の生産するエンド1,4-β-D-キシラナーゼがあげられるが、表1に示すような市販酵素剤及び自然界から分離したキシラナーゼ生産菌にも当該二糖類化合物生産性を有するものが認められる(図1)。
アスペルギルス ソーヤNo.3株はフスマやコーンコブミールなどのキシランを含有する固体培地あるいは液体培地で培養することにより、容易に増殖することができる。固体培地をそのまま、作用させてもよいし、蒸留水で抽出し酵素液として作用させる。あるいは菌体あるいは酵素液を固定化等をおこない作用させてもよい。さらに本粗酵素液を各種クロマトグラフフィーで精製し、精製酵素として作用させてもよい。
【0013】
菌体そのものを作用させる場合、例えば炭素源としてキシランあるいはキシロオリゴ糖を約0.5〜10%含有し、その他、窒素源として、大豆粉、小麦胚芽、コーンスティ−プリカー、綿実滓、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、硫酸アンモニウム、硝酸ソーダー、尿素等、さらに必要に応じナトリウム、カリウム、マグネシウム、塩素、リン酸、硫酸及びその他のイオンを生成する事のできる無機塩類等を添加した培地に、培養炭素源と同濃度のD-プシコースを無菌的に添加した後、本菌を接種し振とう培養をおこなう。この際、培養温度は20〜37℃が、また、培養時間は12〜120時間が好適である。得られた培養液を遠心分離機により除菌し、その上清中の酵素を加熱処理によって失活させる。そしてろ過をおこない、例えばこれを活性炭カラムに吸着させる。
また酵素を作用させる場合、例えば前記方法により培養をおこなった培養液を遠心分離により除菌し得られたろ液を作用させてもよいし,あるいは当該ろ液をさらに硫安(65%飽和)塩析してもよい。もとより、精製酵素を作用させてもよく、精製酵素はMacro-prep-High Q(バイオラッド株式会社)によるイオン交換クロマトグラフィーの後、Sephacryl
S-200HR(アマシャム)を用いてゲルろ過をおこない、Bio gel HPT(バイオラッド株式会社)ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーをおこなうことにより、電気泳動的に均一な精製酵素標品を得ることができる。
【0014】
次に本発明の新規二糖類化合物の製造法について説明する。
本発明の新規二糖類化合物の生産は、D-プシコース存在下、キシラン及びキシロオリゴ糖を酵素分解することによりおこなわれる。キシラン及びキシロオリゴ糖分解酵素はエンド1,4-β-D-キシラナーゼであり、本酵素生産菌の菌体外あるいは菌体内酵素を用いる。エンド1,4-β-D-キシラナーゼ生産菌は、それ自体公知のエンド1,4-β-D-キシラナーゼ生産菌であればよい。例えば、前述のようなアスペルギルス ソーヤーNo.3 等があげられるが、当該エンド1,4-β-D-キシラナーゼ活性が高いキシラナーゼ生産菌、たとえばAspergillusTricodermaIrpexPenicillumRhizopusCephrosporiumShizophyllumTalaromycesTrametesSterptomycesBacillusClostridiumCryptococcus属等があげられる。菌体自体の安全性や環境への影響を考慮すれば、アスペルギルス ソーヤーNo.3株の使用が好ましい。
【0015】
菌体は上記の培養法で培養し、粗酵素液を得る。酵素を作用させる場合、粗酵素液としてフスマ抽出液をそのまま用いてもよいし、また固定化して用いてもよい。もとより精製酵素を作用させてもよく。かかる精製酵素は例えば、Macro-prep-High Q(バイオラッド株式会社)によるイオン交換クロマトグラフィーの後、Sephacryl S-200HR(アマシャム)を用いてゲルろ過をおこない、Bio gel HPT(バイオラッド株式会社)ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーをおこなうことにより、電気泳動的に均一な精製酵素標品を得ることができる。
【0016】
エンド1,4-β-D-キシラナーゼをD-プシコース存在下、キシラン及びキシロオリゴ糖に作用させる場合、例えばpH5.5に調整した0.01〜0.1M酢酸緩衝液中でD-プシコースを15.0%存在下、キシロオリゴ糖(和光純薬株式会社:キシロビオース及びキシロトリオース3:1混合物)あるいはキシランを15.0%で20〜50℃10分以上作用させること等によって反応液中に二糖類化合物が得られる。得られた反応液から、常法に従い、カラムクロマトグラフィー等の処理により、本発明の新規二糖類化合物を精製することができる。
【0017】
以下に実施例をあげて本発明の方法をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらに限定されるものではない。
【0018】
試験に用いた市販酵素剤及び分離菌を表1に示す。
【表1】

【実施例1】
【0019】
50 mM酢酸緩衝液pH5.5中に50% (w/w)の各重合度のキシロオリゴ糖(キシロビオース、キシロトリオース、キシロテトラオース、キシロペンタオースあるいはキシロヘキサオース)あるいはキシラン懸濁液10マイクロリットル及び50%(w/w)D-プシコース10マイクロリットルを含む溶液に、アスペルギルス ソーヤ由来のエンド-1,4-β-D-キシラナーゼの精製酵素標品10マイクロリットルを加え(1.2U相当量)、40℃で12時間反応させた。反応終了後、反応液を沸騰湯浴中で5分間加熱処理し、反応液を遠心分離(10000xg, 5分間)した後、上清を50倍希釈した。本上清溶液にイオン交換樹脂AG501(バイオラッド株式会社)を添加し20分放置した後、0.45ミクロンのメンブランフィルターでろ過した溶液を高速液体クロマトグラフィーを用いて同定した。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の分析条件は以下のとおりである。
カラム:Shodex KS-802 X 2 (昭和電工株式会社製)
溶離液:蒸留水
流速:1ml/分
検出器:示差屈折計(日立製作所製)
キシラン及びD-プシコースの反応液をHPLCで分析したクロマトグラム及び各重合度のキシロオリゴ糖による二糖類化合物の生成結果をそれぞれ、図2及び図3に示した。図2における保持時間16.679のピーク成分は、D-プシコースとキシランあるいは、キシロオリゴ糖を混合した場合にのみ生成することがわかった。また、本ピーク成分を等量の0.2N塩酸と混合し、100℃で3時間加水分解、中和後、再びHPLCで分析したところ、D-プシコースとキシロースに相当する溶出位置にそれぞれピークが認められた。このことから、D-プシコースとキシランあるいはキシロオリゴ糖の酵素反応によって、D-プシコースを構成糖とした二糖類化合物が特異的に生産されることがわかった。本二糖類化合物はキシランで生成量が低いものの、いずれのキシロオリゴ糖も0.9〜1.4 mg/ml濃度で新規二糖類を生成していた(図3)。
【実施例2】
【0020】
50 mM酢酸緩衝液pH5.5中に50% (w/w)のキシロトリオース10マイクロリットル及び50% (w/w)D-プシコース10マイクロリットルを含む溶液に、アスペルギルス ソーヤ由来のエンド-1,4-β-D-キシラナーゼの精製酵素標品, アスペルギルス ソヤーの小麦ふすま培養物抽出粗酵素及びコーンコブミール培養物抽出粗酵素液をそれぞれ10マイクロリットルを加え(1.2U相当量)、40℃で12時間反応させた。反応終了後の溶液は実施例1の分析方法に従って、新規二糖化合物の生成量を分析した。
新規二糖類化合物は、エンド-1,4-β-D-キシラナーゼの精製酵素標品だけでなく、小麦フスマやコーンコブミール培養麹抽出粗酵素液によっても生産されることがわかった(図4)。
【実施例3】
【0021】
50 mM酢酸緩衝液pH5.5中に50% (w/w)のキシロトリオースを段階的に希釈したもの10マイクロリットル及び50% (w/w)D-プシコースを段階的に希釈したもの10マイクロリットルを含む溶液に、アスペルギルス ソーヤ由来のエンド-1,4-β-D-キシラナーゼの精製酵素標品10マイクロリットルを加え(1.2U相当量)、40℃で12時間反応させた。反応終了後の溶液は実施例1の分析方法に従って、新規二糖化合物の生成量を分析した。
D-プシコースの濃度を一定(16.6%)にした場合、新規二糖類化合物は、キシロトリオースの濃度に比例して増大し、13%から平衡に達する傾向を示した。(図5)。一方、キシロトリオースの濃度を一定(16.6%)にし、D-プシコース濃度を段階的に変えた場合、D-プシコースが6%を越えた段階で新規二糖類化合物の生産性が高まり、10%で平衡に達した(図6)。
【実施例4】
【0022】
シャーレに小麦フスマ10gをはかり採り、8 mlの水道水を加え良く混合した。小麦フスマ50 gを用いて同様の処理をおこなった。これを121℃で20分間蒸気滅菌した。この滅菌した固体培地にアスペルギルス ソーヤーNo.3菌を接種し、30℃で3日間培養した。培養終了後の91 gの麹に、約5倍量500 mlの蒸留水を加え、4℃で時々撹拌しながら4時間抽出した。この溶液を4層のガーゼでろ過した後、遠心分離によって粗酵素液410mlを得た。本溶液に硫酸アンモニウム271gを加え、(90 %飽和)完全に溶解した後、30分間放置し、遠心分離(9000 x g、15分)によって沈殿を回収した。この沈殿を最小量の蒸留水に溶解し、40mlの酵素液を得た。さらに本溶液を0.05 M 酢酸緩衝液pH 5.5の透析外液で透析した。透析処理によって、最終的に部分精製酵素標品65mlを回収した。次に本部分精製酵素標品をKimuraらの方法(J.Ferment. Bioeng., 80, 334-339 (1995))で精製し、電気泳動的に均一な精製酵素標品を粗酵素液の5〜9%の回収率で精製した。
【0023】
キシラン(稲わら起源)10g、D-プシコース10 g、上記の部分精製酵素標品30 ml及び0.5 M酢酸緩衝液pH 5.5を混合し、40℃で3日間反応させた。反応液を100℃で10分間加熱処理することにより、酵素を失活させ、およそ10gのAG501イオン交換樹脂(バイオラッド株式会社)を添加し1時間放置した。イオン交換樹脂を除いた溶液に活性炭1 gを添加し1時間撹拌した。ろ紙およびメンブランフィルターで活性炭を除去した後、本溶液を約25mlになるまで減圧濃縮した。本溶液をTyopearl HW 40S カラムクロマトグラフィー(カラム:5 x 90 cm)に供した。分離条件は、蒸留水を溶離液とし、カラム温度は40℃、さらに流速0.75ml/minでおこなった。溶離液を10mlずつフラクションコレクターで分画し、屈折率計(アタゴPR-100)で糖濃度を測定した(図7)。2糖類に相当する画分を回収し再度、減圧濃縮した後、Dowex50W(Ca型)カラムクロマトグラフィー(カラム:2.6 x 90 cm)に供した。分離条件は、蒸留水を溶離液とし、カラム温度25℃、流速1ml/minでおこなった。溶離液を7mlずつフラクションコレクターで分画し、屈折率計(アタゴFP-100)で糖濃度を測定した(図8)。二糖類化合物に相当する溶出ピークを回収し、減圧濃縮した後、凍結乾燥によって0.52gの白色粉末を得た。
【実施例5】
【0024】
得られた新規二糖類化合物の性状が明らかになった。
構成糖
2.6 mgの新規二糖類化合物を0.2N塩酸0.2mlに溶解し、減圧下2時間98℃で加水分解した。加水分解試料を中和した後、一定量を上記HPLCで分析したところ、D-キシロース及びD-プシコースに相当する位置に、同じ割合でピークが認められた。このことから、本新規二糖化合物は、D-キシロースとD-プシコースが1:1の割合で結合していることがわかった。
【0025】
分子量
新規二糖類化合物の分子量は、TSKgel Oligo-PWカラム(東ソー株式会社)を用いてHPLC分析した。なおグルコースオリゴマー(1-20)(生化学工業株式会社)を標準物質として用いた。
HPLC分析によって算出される新規二糖類化合物の分子量は、298と見積もられた。これはD-キシロースとD-プシコースがグリコシド結合した場合の理論値312にほぼ等しい値となった。
【0026】
融点
新規二糖類化合物の融点は、パーキンエルマーPyris1を用いて分析した。なお対象物質としてしょ糖及びキシロビオースを用いた。分析の結果、新規二糖類化合物、しょ糖及びキシロビオースの融点は、それぞれ233.7℃,178.9℃及び219.2℃となった。
【0027】
NMR測定
試料12mgを650マイクロリットルのDMSO-d6に溶解し、1HNMRスペクトルを測定した。ついで50マイクロリットルのD2Oを添加し、H-D交換後の1H NMR、13C NMR及びDEPTスペクトルを測定した。
NMR測定の条件は、以下のとおりである。
装置:Varian
UNITY INOVA 500型
観測周波数:1H:499.8 MHz, 13C:125.7 MHz
基準:TMS
温度:25℃
上記測定条件における結果を図9及び図10に示した。
測定結果から、二糖類の結合様式はキシロースの還元末端1位がβ結合でプシコースに結合してことが考えられたが、結合部位が異なった複数の混合物であることがわかった。
【0028】
メチル化分析
常法に従って、新規二糖類化合物を部分メチル化した後、トリフルオロ酢酸を用いて加水分解し、生成したメチル化単糖類をアルジトールアセテート誘導体化し、ガスクロマトグラフ質量分析計で測定した。
ガスクロマトグラフ質量分析計の測定条件は以下の通りである。
装置:日本電子 JMSDX-303 質量分析計
Hewlett-Packard HP5890A ガスクロマトグラフ
ガスクロ部
装置 Hewlett-Packard HP5890A
カラム 液相:SPB-5(スペルコジャパン)
タイプ:fused silica capillary 25m x 0.25 mm I.D.
キャリアーガス:He
カラム温度:60℃, 1分 → 280℃
8℃/min
注入口温度:280℃
注入量:1マイクロリットル
注入モード: splitless

質量分析計部
イオン化方式:EI
電子加速電圧:70V
イオン化電流: 300マイクロA
イオン源温度:250℃
イオン加速電圧:3.0KV
走査範囲: m/z35〜500(1sec/scan)
走査間隔:1sec
【0029】
新規二糖類をメチル化し加水分解後、メチル化単糖をアルジトールアセテート(部分メチル化アルジトールアセテート)に変換し、ガスクロマトグラフ質量分析計により、糖鎖結合位置を解析した。トータルイオンクロマトグラフを図11に示し、図12から図14に各ピークのマススペクトルを示した。
以上の性状より以下の構造式が得られた。
【0030】
【化17】


【化18】


【化19】


【化20】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明化合物は新規物質であり、ビフィズス菌の増殖や植物の代謝に効果のある糖として、食品及び農林分野、さらに輸液等の糖質としての医療分野への適用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】市販酵素剤及び分離菌による新規二糖類の生産量を示している図面である。
【図2】キシラン及びD-プシコースを原料として、エンド1,4-β-D-キシラナーゼを作用させ、生産された新規二糖類化合物を確認したHPLCクロマトグラムの図面である。
【図3】キシラン及び各重合度のキシロオリゴ糖並びにD-プシコースを原料として、エンド1,4-β-D-キシラナーゼを作用させ、新規二糖類化合物の生成量を調べた図面である。
【図4】キシロトリオース及びD-プシコースにエンド1,4-β-D-キシラナーゼ精製酵素標品及びフスマ麹抽出粗酵素液並びにコーンコブミール麹抽出粗酵素液を作用させ、新規二糖類化合物の生成量を調べた図面である。
【図5】D-プシコースの濃度を一定(16.6%)にし、キシロトリオースの濃度を変化させ、エンド1,4-β-D-キシラナーゼ精製酵素標品をこれらに作用させ、新規二糖類化合物の生成量を調べた図面である。
【図6】キシロトリオースの濃度を一定(16.6%)にし、D-プシコースの濃度を変化させ、エンド1,4-β-D-キシラナーゼ精製酵素標品をこれらに作用させ、新規二糖類化合物の生成量を調べた図面である。
【図7】キシラン及びD-プシコースをエンド1,4-β-D-キシラナーゼの部分精製酵素標品で反応させ、二糖類と単糖類をToyopearlHW40Sカラムクロマトグラフによって分離したクロマトグラムを示した図面である。
【図8】ToypopearlHW40Sカラムクロマトによって回収した二糖類画分をDowex 50W(Ca型)で分離したクロマトグラムを示した図面である。
【図9】本発明の新規二糖類化合物の1H NMRのケミカルシフトを表す図面である。
【図10】本発明の新規二糖類化合物の13CNMRのケミカルシフトを表す図面である。
【図11】本発明の新規二糖類化合物の部分メチル化アルジトールアセテート誘導体のトータルイオンクロマトグラムを表す図面である。
【図12】本発明の新規二糖類化合物の部分メチル化アルジトールアセテート誘導体ピーク1のマススペクトルを表す図面である。
【図13】本発明の新規二糖類化合物の部分メチル化アルジトールアセテート誘導体ピーク2のマススペクトルを表す図面である。
【図14】本発明の新規二糖類化合物の部分メチル化アルジトールアセテート誘導体ピーク3のマススペクトルを表す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式1で示されるD-キシロースとD-プシコースを構成糖とする二糖類化合物。
【化1】

【請求項2】
下記構造式2で示されるD-キシロースとD-プシコースを構成糖とする二糖類化合物。
【化2】

【請求項3】
下記構造式3で示されるD-キシロースとD-プシコースを構成糖とする二糖類化合物。
【化3】

【請求項4】
下記構造式4で示されるD-キシロースとD-プシコースを構成糖とする二糖類化合物。
【化4】

【請求項5】
請求項1ないし4の二糖類からなる群から選ばれる二糖類を1以上含有する二糖類化合物の混合物。
【請求項6】
D-プシコース存在下、キシランあるいはキシロオリゴ糖(キシロビオース以上)にエンド1,4-β-D-キシラナーゼを水性媒体中で作用させ、下記構造式1、2、3および4で示される二糖類化合物を反応媒体から分離、あるいは精製することを特徴とする二糖類化合物の製造方法。
【化5】


【化6】


【化7】


【化8】

【請求項7】
上記エンド1,4-β-D-キシラナーゼが、微生物の培養物、菌体、菌体処理物、粗酵素液または精製酵素標品である請求項6の二糖類化合物の製造方法。
【請求項8】
上記キシランが、植物原料から分離、精製されたもの、および/または、木材、いなわら、麦、コーンコブミールなどのキシランを含有する植物の状態のものである請求項6または7の二糖類化合物の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−169124(P2006−169124A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359759(P2004−359759)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(592167411)香川県 (40)
【Fターム(参考)】