説明

DNAチップの製造方法

【課題】コストの高い試料溶液の使用効率を向上させて、DNAチップの生産性の向上及び歩留まりの向上を図る。
【解決手段】基板の表面にpoly-L-lysine層を形成する前処理工程S1と、DNA断片を含む試料を調製する試料調製工程S2と、得られた試料の濃度を希釈する希釈工程S3と、希釈された試料溶液を基板上に供給してDNAチップを製造する供給工程S4とを有する。前記試料調製工程S2は、DNA断片をPCR増幅してPCR産物を調製する増幅工程と、得られたPCR産物を乾燥してDNA粉末とする粉末生成工程と、得られたDNA粉末を緩衝液に溶かす混合工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡スライドグラス等の基板上に、数千から一万種類以上の異なる種類のDNA断片をスポットとして高密度に整列固定させたDNAチップ(DNAマイクロアレイ)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における遺伝子構造の解析方法の進歩にはめざましいものがあり、ヒトの遺伝子をはじめとして、多数の遺伝子構造が明らかにされてきている。このような遺伝子構造の解析には、顕微鏡スライドグラス等の基板上に数千から一万種類以上の異なる種類のDNA断片をスポットとして整列固定させたDNAチップ(DNAマイクロアレイ)が用いられるようになってきている。
【0003】
このDNAチップの製造におけるスポットの形成方法としては、QUILL方式、ピン&リング方式、あるいはスプリングピン方式といった、いわゆるピンによる基板上へのDNA断片を含んだ試料溶液の供給(打ち込み)を行う方式が広く用いられており、いずれの方法を採用した場合であっても、各スポットの容量と形状のばらつきを低く抑えて、各スポット間の距離を一定に保つことが重要となる。
【0004】
一方、更なる高密度化に向けて、スポットの形状制御性が良好であり、生産性に優れた新しい方法の開発に対する期待も大きい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図16に示すように、基板200上に、試料溶液の滴下によるスポット202を形成した際、該スポット202は、その表面張力によって半球状となる。この場合、基板200上に固定化される実質的な試料の量としては、基板200に接する僅かな部分204だけであり、その量は、全体(半球状)のごく一部である。残りの部分206は、固定化されていないため、その後の洗浄工程で洗い流されてしまい、試料溶液の損失が多く、試料溶液の使用効率が低いという問題がある。
【0006】
DNAチップを製造する際のコストは、実質的に試料溶液の量で支配され、上述の例の場合、ほとんどの試料溶液が流されてしまい、生産効率の向上の点で不利になる。
【0007】
また、1つの基板上には、数千から一万種類以上の異なる種類の試料溶液が滴下されることになるが、種類の異なる試料溶液毎に、粘度や表面張力が異なることから、同一のスポット径を得るためには、試料溶液の滴下量を粘度や表面張力等に応じて変える必要がある。
【0008】
しかし、従来の手法では、ピンに付着した試料溶液をピンごと基板に物理的に接触させて、試料溶液を滴下するようにしているため、基板上へのスポットの形成を1回の滴下で行うようになっており、きめ細かな滴下制御(滴下量や滴下位置の制御)を行うことができず、基板上に形成されたスポットの径にばらつきが生じるという問題がある。
【0009】
また、試料溶液中のDNA断片の基板上への固定化をより確実なものとするため、試料溶液中に有機、あるいは無機ポリマーを混合させ、ポリマー架橋中にDNA断片を物理的に保持する方法も開発されているが、この場合、試料溶液の粘度が増大し、乾燥、増粘、固化しやすいものとなり、スポット形成時の試料のポットライフが短くなったり、1回の滴下量が増えてしまう問題がある。
【0010】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、コストの高い試料溶液の使用効率を向上させることができ、DNAチップの生産性の向上及び歩留まりの向上を図ることができるDNAチップの製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明の他の目的は、基板上に供給する試料溶液の種類に応じた供給制御を行うことができ、基板上に形成されるスポット径の均一化を図ることができ、DNAチップの品質並びに信頼性の向上を図ることができるDNAチップの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、試料溶液を基板上に供給して、前記基板上に試料溶液によるスポットが多数配列されたDNAチップを製造するDNAチップの製造方法において、同一スポットについて、前記試料溶液を複数回供給することを特徴とする。
【0013】
これにより、形状的に精度の高いスポットを基板上に多数配列することができ、DNAチップの歩留まりを向上させることができる。この場合、前記試料溶液をインクジェット方式で供給することが好ましい。
【0014】
インクジェット方式により、基板に非接触で高速(〜100kHz)に多数の液滴を必要量だけ高精度に基板上に供給することが可能になる。また、試料溶液は、液滴を吐出する吐出口に連結するキャビティ及び注入口を通じて連続的に供給されることから、従来のピン式のように、スポットを形成する毎に試料溶液の供給元(試料ウェル)にピンを移動して試料溶液中にピン先を浸す必要がなくなり、多数の基板上に短時間でスポットを形成することが可能になる。
【0015】
また、前記試料溶液は、DNA断片を含む試料を所定の濃度に希釈することが好ましい。この場合、前記試料溶液は、前記DNA断片を含む試料が水又は塩化ナトリウムを含む水溶液あるいはポリマーを含む水溶液で希釈されていることが好ましく、また、前記同一スポットに対する複数回の供給によって、1スポット当たりの最終所望塩基対を満足する程度の濃度に希釈されていることが好ましい。
【0016】
試料の濃度を希釈することにより、試料溶液を基板上に供給し終わった段階での供給流路パス中に付着、残留する試料溶液中の高価なDNA断片の量を相対的に減らすことができるという利点があり、また、濃い試料溶液により、溶液が乾燥、増粘、固化し、吐出口が詰まって吐出不良を引き起こすといった不良が発生することが回避できるという効果もある。更に大きな利点としては、試料溶液を基板上に供給したとき、試料溶液は半球状にはならず、平坦な形状となる。この場合、基板に供給された試料溶液のほとんどが基板上に固定化されるため、その後の洗浄工程でも試料溶液の大半以上が流されてしまうということがなく、試料溶液の使用効率を向上させることができる。
【0017】
また、試料溶液に含まれるDNA断片の種類に応じて希釈の度合いを変えて、試料溶液の粘度や表面張力を変化させることにより、基板上に形成される試料溶液のスポット径を均一化させることができる。
【0018】
更にまた、前記試料溶液は、ポリマーを含む水溶液で希釈されていることが好ましい。これにより、基板上に供給された後のスポット形状の形状保持性が増し、形状が安定すると共に、スポットの乾燥収縮による形状変化を防止できる。
【0019】
このように、本発明においては、コストの高い試料溶液の使用効率を向上させることができ、DNAチップの生産性の向上及び歩留まりの向上を図ることができる。また、滴下する試料溶液の種類に応じた滴下制御を行うことができ、基板上に形成されるスポット径の均一化を図ることができ、DNAチップの品質並びに信頼性の向上を図ることができる。
【0020】
そして、前記製造方法において、前記DNA断片をPCR増幅してPCR産物を調製する工程と、前記PCR産物を乾燥してDNA粉末とする工程と、前記DNA粉末を緩衝液に溶かす工程とを踏んで前記試料を調製するようにしてもよい。このような試料は希釈に際し、品質の変化がなく、水溶液への分散性がよく、希釈に適しており、また、希釈時の濃度管理が正確にできる。
【0021】
また、前記製造方法において、前記試料溶液を前記基板上に供給する際に、少なくとも1個以上の基体に、外部から前記試料溶液を注入するための注入口と、前記試料溶液が注入・充填されるキャビティと、前記試料溶液を吐出する吐出口とが形成され、前記キャビティを形成する前記基体の少なくとも一壁面に圧電/電歪素子を備え、前記キャビティ内において前記試料溶液が移動するように構成されたマイクロピペットが複数配列されて構成され、かつ、各マイクロピペットの吐出口からそれぞれ異なる種類の試料溶液が吐出される分注装置を用いるようにしてもよい。
【0022】
圧電/電歪素子が駆動する毎に微小量液体が吐出口より吐出され、その容積は微小、かつばらつきがなく一定である。駆動周期は、圧電/電歪素子を用いることにより、高周波対応可能となり、吐出に要する時間も短縮される。また、試料溶液を注入してから吐出に至るまでの間、試料溶液は閉空間内を移動するため、途中で乾燥することがない。更には、基体全体を小さくコンパクトに形成可能であるため、試料溶液が移動する流路を短くでき、これにより、流路壁に試料溶液が付着するという問題は最小限に抑えられ、試料溶液の使用効率の劣化を防止することができる。
【0023】
また、前記試料溶液を前記基板上に供給する際に、少なくとも1個以上の基体に、外部から前記試料溶液を注入するための注入口と、前記試料溶液が注入・充填されるキャビティと、前記試料溶液を吐出する吐出口とが形成され、前記キャビティ内において前記試料が移動するように構成されたマイクロピペットが複数配列されて構成され、かつ、少なくとも2つ以上の吐出口から同じ種類の試料溶液が吐出され、1つのスポットを形成する分注装置を用いるようにしてもよい。
【0024】
2つ以上の吐出口から同じ種類の試料溶液が吐出され、1つのスポットを形成することにより、スポット形成速度がより速まり、スループットが向上する。
【0025】
一般に、試料溶液を複数回供給する場合、供給毎にスポット径は増大するが、供給間隔を遅く(長く)したり、後述するように基板上に供給した試料溶液を素早く乾燥、増粘、固化する処理を施せば、スポット径を増大させることなく、供給回数を増やすことができる。
【0026】
ここで、供給間隔を長くすることは、吐出口の吐出側に開口した部分での試料溶液が吐出前にある程度乾燥し、粘度が上がった状態、いわゆる半乾き状態で吐出されるため、供給を重ねてもスポット径は増加しないのであるが、この方法では、結果として、スポット形成時間を増大させることになり、好ましくない。また、このような場合、いわゆる半乾き状態を定量的に管理することは制限が多く、吐出不良のノズルを発生しやすい。
【0027】
そこで、前記2つ以上の吐出口から同じ種類の試料溶液が吐出され、1つのスポットを形成するようにすると、吐出位置まで吐出口が移動する間、即ち、吐出開始までの待機時間で、吐出口の吐出側に開口した部分での試料溶液の乾燥が進んだ吐出口が2つ以上存在することになり、これらの吐出口により同一の試料溶液を供給することができ、結果として、スポット形成時間を短縮することができる。
【0028】
また、万一、吐出不良ノズルが発生した場合は、不良が発生していないノイズだけで吐出を行うことにより、高価な試料溶液を無駄にすることが未然に防げる。更に、同じ種類の試料溶液が吐出される少なくとも2つ以上の吐出口が連結するキャビティに連通する注入口が1つである構造は、試料溶液の注入作業の回数を削減でき好ましい。
【0029】
また、2つ以上の吐出口から同じ種類の試料溶液を吐出するタイミングは、非接触のインクジェット方式の場合は、同時であってもよい。この場合、吐出される試料溶液の落下点を合わせるようにしてもよい。そうすることにより、スポット形成速度を向上させることができる。
【0030】
しかし、基板上に供給される試料溶液の位置精度をより高精度にするために、吐出タイミングをずらして、それぞれの吐出口がスポット形成位置の真上に位置されたときに供給する方法がよい。
【0031】
更にまた、前記キャビティ内を試料溶液が層流で移動するように構成されたマイクロピペットが複数配列されて構成されることが好ましい。試料溶液の移動が層流であることで、気泡等の発生が防げ、吐出不良の回避、マイクロピペットの耐久性が増加する。
【0032】
前記分注装置を使用する場合においては、それぞれ種類の異なる試料溶液を吐出する前記吐出口に対応する前記注入口からそれぞれ種類の異なる試料溶液を前記複数のキャビティ内に注入した後、前記圧電/電歪素子を駆動させることにより、前記複数のキャビティ内の種類の異なる試料溶液を前記吐出口から吐出させることが好ましい。このような構成により、複数の異なった種類の試料溶液を同じ時期に、クロスコンタミネーションを引き起こすことなく、基板上に供給できる。
【0033】
また、前記分注装置を使用する場合においては、複数のキャビティ内に予め置換液を充填し、次いで、種類の異なる試料を前記注入口から前記複数のキャビティ内で置換させながら注入した後、前記圧電/電歪素子を駆動させることにより、前記複数のキャビティ内の種類の異なる試料溶液を前記吐出口から吐出させるようにしてもよい。予め安価な置換液によりキャビティ内を確実に置換した後、高価な試料を置換することにより、吐出不良の発生が完全に防げ、高価な試料を効率よく吐出できる。
【0034】
キャビティ内の置換液から試料溶液への置換は、吐出口から真空吸引等で、置換液を吸引排出することにより行ってもよいが、前記圧電/電歪素子を駆動させながら種類の異なる試料を前記注入口から前記複数のキャビティ内で置換させながら注入することが好ましい。そうすることで、排出する置換液の量を精度よく制御でき、高価な試料溶液を無駄に排出することがない。
【0035】
置換完了の終点は、試料の移動する速度、体積を予め求めておき、置換時間、排出量等で制御してもよいが、当該キャビティ内の流体特性の変化を検知することにより把握することが、より精度よく終点が検出でき更に好ましい。
【0036】
本発明では、キャビティ内の流体特性の変化を検知して置換完了を把握するようにしているため、流路内で試料溶液と置換液が多少混合しても、その混合している部分と混合していない部分の区別が容易、かつ精度よく判別できる。その結果、置換液と混合してパージしなければならない試料溶液の量を少なくでき、試料溶液の使用効率を上げることができる。
【0037】
また、キャビティ内の流体特性の変化は、圧電/電歪素子に振動を励起する電圧を印加し、その振動に伴う電気的定数の変化を検出することにより把握するようにしてもよい。これにより、特別な検出素子等を設置する必要もなく、安価で、高精度な検出ができる。
【0038】
なお、前記置換液は、予め脱泡処理されていることが好ましい。こうすることで、置換液のキャビティ内への充填が、途中で気泡等が発生、引っかかることなくスムーズにでき、これにより、試料溶液への置換が確実に行われ、吐出が安定する。更に、キャビティ内に置換液を注入、充填した後、注入口より前記試料溶液と比重をほぼ同じくするDNA断片を含まない中間液を注入し、前記キャビティ内で置換させた後、種類の異なる試料溶液を前記注入口からキャビティ内に注入し、試料溶液の充填を行ってもよい。置換液と試料溶液の間に、安価で前記試料溶液と比重をほぼ同じくするDNA断片を含まない中間液を介することにより、高価な試料溶液が、比重の異なる置換液中に混ざり込み、結果としてパージ量を多くとらなければならないという不具合を回避できる。
【0039】
そして、本発明では、マイクロピペットを複数用いるようにしているため、一度に数多くの種類の試料を同時に供給でき、また一部不良の生じたピペットを容易に交換することができ、メンテナンスも容易である。更に、吐出口が縦横に整列配置されているため、例えば、DNAチップのように、基板上にスポットを二次元的に整列固定させる場合に最適となる。
【0040】
また、本発明においては、前記試料溶液を前記基板上に供給する際に、少なくとも前記試料溶液を乾燥もしくは増粘もしくは固化させながら行うことが好ましい。これにより、基板上に供給された試料溶液の固定化が早まり、試料溶液の希釈に伴うだれ(スポット径が拡張する現象)を効果的に防止することができる。
【0041】
乾燥もしくは増粘もしくは固化処理としては、基板を加熱すること、吐出もしくは供給された試料溶液を加熱すること等が挙げられるが、加熱方法としては、レーザ光、赤外線、電磁波等を用いることが好ましい。
【0042】
これらの方法は、特に、微小領域を選択的に加熱することが可能である。本発明のように、吐出された試料溶液によるスポットは、速やかに加熱される必要がある一方、そのスポットのすぐ近くにある吐出口において、加熱による乾燥等で吐出不良が生じることを回避しなければならない。このような場合に、上述の乾燥もしくは増粘もしくは固化処理が好適である。特に電磁波は、金属シールドにより確実に遮断できるため、不要な吐出口の加熱を防ぐ場合に好適である。また、レーザ光や赤外線を用いる場合は、これらレーザ光や赤外線を基板に照射して試料溶液を間接的に加熱してもよい。
【0043】
また、本発明においては、滴下する試料溶液の乾燥もしくは増粘もしくは固化処理として、基板又は吐出もしくは供給された試料溶液を冷却するようにしてもよい。冷却は、加熱によって、試料溶液中のDNAが損傷を受ける場合や、試料溶液中の成分が加熱により軟化してしまう場合に好適に採用される。
【0044】
また、本発明においては、前記試料溶液を前記基板上に供給する際に、供給位置をずらしながら行うようにしてもよく、供給量を変化させて行うようにしてもよい。即ち、試料溶液の種類に応じて例えば試料溶液を2〜100回ほどそれぞれ別の位置に供給して1つのスポット径を形成する。この場合、試料溶液の種類に応じて供給数を変え、更に供給位置を決定することができるため、試料溶液の種類に拘わらず、すべてのスポット径を均一に形成することができ、DNAチップの品質の向上並びに信頼性の向上を図ることができる。
【0045】
なお、供給位置をずらしながら1つのスポットを形成することは、従来のピン式スポットでは不可能であり、インクジェット方式で、1滴当たりの供給量をピン式に比して1/100〜1/10程度にできることにより、初めて可能になる手法であり、前記乾燥、増粘、固化処理と組み合わせることにより、従来の円形スポット以外のスポット形状を可能とし、DNAチップの読み取り機器(CCD撮像装置等)とのマッチングをとることができる範囲を広げることができるという利点を有する。
【0046】
更に、微小滴で供給位置をずらしながら1つのスポットを形成することは、スポットの高さ方向の形状も、その積み重ねる位置を調整することで制御可能であり、スポットから発光される蛍光強度パターンをスポット内で自由に設計することができるという利点を有する。
【0047】
また、供給量の変化は、供給数の変化に加え、インクジェット方式の場合、吐出条件、即ち、圧電/電歪素子に印加する電圧パターンの変化でも可能である。
【0048】
また、本発明においては、前記試料溶液を前記基板上に供給する際、あるいは供給するに先立って、前記試料溶液に振動を与えることが好ましい。
【0049】
この場合、試料溶液に含まれるDNA断片が沈殿することが回避され、試料溶液中にDNA断片を均一に分散させることができる。これにより、各基板に形成される同種の試料溶液について、DNA断片の含有量のばらつきをほとんどなくすことができ、基板毎の遺伝子解析のばらつきをなくすことができる。
【0050】
更にまた、本発明においては、試料溶液を基板上にインクジェット方式で供給して、前記基板上に試料溶液によるスポットが多数配列されたDNAチップを製造するDNAチップの製造方法において、前記試料溶液を前記基板上に供給する際に、前記試料溶液を吐出、供給する箇所の周りの湿度をその他の部分より選択的に高くして、前記試料溶液が乾燥もしくは増粘もしくは固化しないようにしてもよい。これにより、特に、乾燥、増粘、固化しやすい試料溶液を用いる場合に、吐出不良を回避できる。
【0051】
また、本発明においては、前記基板上に前記試料溶液が供給されてスポットが多数配列された基板を作製した後に、前記基板を0℃以下に冷却した後、湿度30%以上の十分な体積の気体が存在する室温下に戻す工程を採用してもよい。
【0052】
更に、前記基板上に前記試料溶液が供給されてスポットが多数配列された基板を作製した後に、前記基板を、湿度80%以上の十分な体積の気体が存在する雰囲気下にさらしたり、ミストを含んだ水蒸気中にさらしてもよい。
【0053】
これらの発明は、ポリマー等を混合させ、粘度を増加させた試料溶液を用い、試料溶液の滴下方法を調整し、基板上のスポットの形状を、例えばスポットの周縁部分が盛り上がり、中央部分が凹んだ、いわゆるドーナツ形状を呈するようにする場合に好適に採用される。
【0054】
このようなドーナツ形状の場合、スポットの周縁部分と基板の境界が際立って観測されやすくなり、DNA断片を含む試料溶液のように、無色透明な液体のスポットを、無色透明のガラス基板等の上に形成する場合に、そのスポット形状を観測しやすくなり、スポット形状の良否を検査しやすくなるという利点を有する。
【0055】
しかしながら、このようなドーナツ形状を呈したスポットにおいては、多くの場合、その後の固定化時の洗浄工程で周縁の盛り上がり部分の大半が洗い流されたとしても、固定化される実質的な試料は周縁部分で多く(濃く)なることから、DNAチップとして使用したときに、スポットから発せられる蛍光発光量の分布は、スポット内でドーナツ形状を呈することになり、感度の劣化、ばらつきの一因となってしまう。
【0056】
従って、検査のしやすさ(ドーナツ形状)と、スポット形状の良さ(非ドーナツ形状)を両立させるためには、基板に試料溶液を供給する際は、インクジェット方式等で吐出し、基板に試料溶液を滴下させ、その運動エネルギーと基板との疎水性の制御で試料溶液を、そのスポットの周縁部分に集中させるようにしてドーナツ形状を形成し、その後、液体の表面張力により球状にならない程度に、予め試料溶液の粘度を増加させる一方、検査終了後には、スポットを形成する試料溶液の流動性を増し、表面張力により、ドーナツ形状を非ドーナツ形状に変化させる方法が適している。本発明は、この方法を実現するために好適である。
【0057】
即ち、ドーナツ形状のスポットが形成された基板を0℃以下に冷却した後、湿度30%以上の十分な体積の気体が存在する室温下に戻すことや、前記基板を湿度80%以上の十分な体積の気体が存在する雰囲気下にさらしたり、ミストを含んだ水蒸気中にさらしたりすることで、周りの気体から試料溶液中に水分が取り込まれたり、ミストが接触して試料溶液の流動性が増し、スポット形状が非ドーナツ形状である半球状に変化し、もって、DNAチップの感度向上、感度ばらつきの低減が図られることになる。もちろん、スポット形状が、半球状になった後は、速やかに基板を乾燥工程に投入し、形状の固定化を行ってもよい。なお、水蒸気にさらす場合は、水蒸気の温度をDNA断片が変質しない程度の温度以下にしなければならないことはもちろんである。
【発明の効果】
【0058】
以上説明したように、本発明に係るDNAの製造方法によれば、コストの高い試料溶液の使用効率を向上させることができ、DNAチップの生産性の向上及び歩留まりの向上を図ることができる。また、滴下する試料溶液の種類に応じた滴下制御を行うことができ、基板上に形成されるスポット径の均一化を図ることができ、DNAチップの品質並びに信頼性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、本発明に係るDNAチップの製造方法のいくつかの実施の形態例を図1〜図15を参照しながら説明する。
【0060】
本実施の形態に係るDNAチップの製造方法は、図1に示すように、基板10の表面にpoly-L-lysine層12(図10A参照)を形成する前処理工程S1と、DNA断片を含む試料を調製する試料調製工程S2と、得られた試料の濃度を希釈する希釈工程S3と、希釈された試料溶液を基板10上に供給(滴下を含む)して、図3に示すように、基板10上に多数のスポット80が配列されたスポット済み基板を作成する供給工程S4と、基板10に熱を加えてスポット80を乾燥させる乾燥工程S5と、スポット80中のDNA断片を基板10上に固定化する固定化工程S6とからなり、図3に示すDNAチップ20を製造する。
【0061】
また、試料調製工程S2は、図2に示すように、DNA断片をPCR増幅してPCR産物を調製する増幅工程S11と、得られたPCR産物を乾燥してDNA粉末とする粉末生成工程S12と、得られたDNA粉末を緩衝液に溶かす混合工程S13とを含む。
【0062】
具体的に説明すると、前処理工程S1は、まず、基板10をアルカリ溶液に浸し、室温で少なくとも2時間ゆっくりと振盪する。前記アルカリ溶液は、例えばNaOHを蒸留水に溶かし、更にエタノールを加えて、完全に透明になるまで攪拌した溶液である。
【0063】
その後、基板10を取り出して、蒸留水中に移し、リンスして、アルカリ溶液を除去する。次いで、蒸留水中にpoly-L-lysineを加えて調製されたpoly-L-lysine液に基板10を浸し、1時間放置する。
【0064】
その後、基板10を取り出して、遠心機にかけて遠心し、余分なpoly-L-lysine液を除去する。次いで、基板10を40℃、5分ほど乾燥させて、表面にpoly-L-lysine層12が形成された基板10を得る。
【0065】
次に、試料調製工程S2は、まず、既知のPCR機で増幅したPCR産物(増幅工程S11)に、3Msodium acetateとイソプロパノールとを加え、数時間放置する。その後、このPCR産物溶液を遠心機で遠心し、DNA断片を沈殿させる。
【0066】
沈殿させたDNA断片をエタノールでリンスし、遠心の後、乾燥させてDNA粉末を生成する(粉末生成工程S12)。得られたDNA粉末に緩衝液(例えばTEバッファ溶液)を加え、数時間放置して完全に溶かすことによって(混合工程S13)、試料が調製される。この段階での試料の濃度は1〜10μg/μリットルである。
【0067】
そして、この実施の形態では、得られた試料の濃度を希釈する(希釈工程S3)。この希釈工程S3では、前記試料を水や塩化ナトリウムを含む水溶液や、ポリマーを含む水溶液等で希釈するようにしている。なお、希釈後の試料溶液は、必要に応じて1時間〜数時間放置するか、冷凍−解凍の混合を行って、試料と希釈液とをなじませてもよい。その後、前記希釈された試料溶液を遠心分離又は真空脱泡処理して溶液中の泡を取り除いた後、基板10上に供給してスポット済み基板を作成する(供給工程S4)。
【0068】
特に、この実施の形態では、供給工程S4に、図4A〜図4C及び図5に示すような分注装置30を使用する。
【0069】
この分注装置30は、矩形状の固定板32の上面に例えば10個のマイクロピペット34を5行2列に配列し、各列方向に整列されたマイクロピペット34群をそれぞれ固定治具36を介して固定板32に固定させた構成を有する。
【0070】
マイクロピペット34は、図4C及び図5に示すように、ほぼ直方体の形状を有する基体50の上面に形成された試料注入口52と、該基体50の下面に形成された試料吐出口54と、内部に試料注入口52と試料吐出口54との間に形成されたキャビティ56と、基体50を振動させたり、キャビティ56の体積を変化させたりするアクチュエータ部58とを有して構成されている。
【0071】
従って、図5に示すように、前記固定板32には、マイクロピペット34の試料吐出口54に対応する箇所にそれぞれ貫通孔40が設けられている。これにより、マイクロピペット34の試料吐出口54から吐出された試料溶液が、前記貫通孔40を通じて、例えば固定板32の下方に固定された基板10に供給されることになる。
【0072】
このマイクロピペット34は、試料注入口52から基体50の内部にかけて開口幅の大きいほぼL字状の導入穴60が形成されている。この導入穴60とキャビティ56との間には、径の小さい第1の連通孔62が形成され、試料注入口52から注入された試料溶液が導入穴60及び第1の連通孔62を通じてキャビティ56に導入されるようになっている。
【0073】
キャビティ56のうち、前記第1の連通孔62とは異なる位置に、試料吐出口54に連通し、かつ、第1の連通孔62よりも径の大きい第2の連通孔64が形成されている。本実施の形態では、キャビティ56の下面のうち、試料注入口52寄りに第1の連通孔62を形成し、同じくキャビティ56の下面のうち、試料吐出口54に対応した位置に第2の連通孔64を形成するようにしている。
【0074】
更に、この実施の形態では、基体50のうち、キャビティ56の上面が接する部分が薄肉とされ、外部応力に対して振動を受けやすい構造となっており、振動部66として機能するようになっている。振動部66の上面に前記アクチュエータ部58が形成されている。
【0075】
基体50は、複数枚のジルコニアセラミックスのグリーンシート(第1の薄板層50A、第1のスペーサ層50B、第2の薄板層50C、第2のスペーサ層50D及び第3の薄板層50E)を積層し、一体焼成して構成されている。
【0076】
つまり、基体50は、試料注入口52を構成する窓部が形成され、一部において振動部66を構成する薄肉の第1の薄板層50Aと、導入穴60の一部及びキャビティ56を構成する複数の窓部がそれぞれ形成された厚肉の第1のスペーサ層50Bと、導入穴60の一部、第1の連通孔62及び第2の連通孔64の一部を構成する複数の窓部がそれぞれ形成された薄肉の第2の薄板層50Cと、導入穴60の一部及び第2の連通孔64の一部を構成する複数の窓部がそれぞれ形成された厚肉の第2のスペーサ層50Dと、試料吐出口54を構成する窓部が形成された薄肉の第3の薄板層50Eとを積層し、一体焼成して構成されている。
【0077】
アクチュエータ部58は、前記振動部66のほか、該振動部66上に直接形成された下部電極70と、該下部電極70上に形成された圧電/電歪素子や反強誘電体等からなる圧電層72と、該圧電層72の上面に形成された上部電極74とを有して構成されている。
【0078】
下部電極70と上部電極74は、図4Cに示すように、それぞれ基体50の上面に形成された複数のパッド76及び78を通じて図示しない駆動回路に電気的に接続される。
【0079】
上記のような構成のマイクロピペット34によれば、上部電極74と下部電極70との間に電界が生じると、圧電層72が変形し、それに伴って振動部66が変形し、振動部66に接しているキャビティ(加圧室)56の容積が減少又は増加することになる。
【0080】
このキャビティ56の容積の減少によってキャビティ56内に充填された試料溶液がキャビティ56に連通する試料吐出口54から所定速度で吐出され、図3に示すように、マイクロピペット34から吐出された試料溶液が顕微鏡スライドガラス等の基体50上にスポット80として整列固定されたDNAチップ20を作製することができる。また、このキャビティ56の容積増加によって、キャビティ56内に第1の連通孔62から新たな試料溶液が注入、充填され、次の吐出に備えられる。
【0081】
なお、アクチュエータ部58の駆動によって、キャビティ56の容積が減少する構造としては、いわゆるインクジェット方式の装置構造を採用することができる(特開平6−40030号公報参照)。
【0082】
そして、キャビティ(加圧室)56は、DNA断片などを含む試料溶液が乱れの少ない状態下で移動するような流路寸法に形成されている。
【0083】
つまり、キャビティ56の寸法は、試料の種類、作成する液滴の大きさ、形成密度により異なるが、例えば、塩基対1〜10000程度のDNA断片を100μg/μリットル以下の濃度で×1TEバッファ溶液(緩衝液)に溶解させ、更に等量のポリマーを含んだ水溶液と混合させた試料を50〜600μmピッチで30〜500μmφ液滴径の滴下を行う場合においては、図6に示すように、キャビティ長(L)は、1〜5mm、キャビティ幅(W)は、0.1〜1mm、キャビティ深さ(D)は、0.1〜0.5mmが好ましい。またキャビティ56の内壁には、流れを乱す突起物がないように滑らかであることがよく、その材質は、試料溶液と親和性の良いセラミックスからなることが好ましい。
【0084】
このような形状にすることにより、キャビティ56を試料注入口52から試料吐出口54に至る流路の一部として、試料注入口52から導入穴60、第1の連通孔62を経てキャビティ56内に移動する試料溶液の流れを乱すことなく試料吐出口54に導くことができる。
【0085】
なお、基体50は、前述したように、ジルコニアセラミックスの一体積層、焼成体であるほかに、アクチュエータ部58を形成したジルコニアセラミック焼結体と金属、樹脂フィルム等との接着体であってもよい。特に、試料吐出口54を形成した第3の薄板層50Eは、その加工法とのマッチングを考慮して、PETフィルム等の有機樹脂をエキシマレーザ等で加工したシート、あるいはステンレスフィルム等の金属を金型等で打ち抜いたシートであることが好ましい。
【0086】
また、試料吐出口54と第1の連通孔62の寸法は、吐出する試料溶液の物性、吐出量、吐出速度等によって最適設計がなされるが、10〜100μmφ程度であることがよい。
【0087】
図7は、1つの試料注入口52とそれに連結する導入穴60に対し、2つの第1の連通孔62が連通し、それぞれの連通孔62には、キャビティ56、第2の連結孔64及び試料吐出口54が連続して形成された流路65がそれぞれ独立して2つ形成されている。各キャビティ56の上面には、それぞれ独立して配線、駆動するアクチュエータ部58(図示せず)が形成される。このような構成のマイクロピペット34によれば、同一の試料溶液を同時に、又はタイミングをずらして基板10上に供給することができる。
【0088】
ところで、図4Aに示すように、固定板32の上面には、マイクロピペット34を位置決め固定するための複数のピン38が設けられている。マイクロピペット34を固定板32上に固定する場合は、マイクロピペット34の基体50の両側に設けられた位置決め用孔90(図4C参照)に固定板32のピン38を挿入させながら、マイクロピペット34を固定板32に載置することで、自動的に複数のマイクロピペット34が所定の並びで配列位置決めされることになる。
【0089】
また、各固定治具36は、複数のマイクロピペット34を固定板32に押さえ付ける押さえ板100を有する。押さえ板100の両端には、それぞれネジ102が挿通される挿通孔が形成され、この挿通孔にネジ102を挿通して、固定板32にねじ込むことによって、前記押さえ板100で複数のマイクロピペット34を一度に固定板32に押さえ付けることができるようになっている。そして、1つの押さえ板100で押さえ付けた複数のマイクロピペット34で1つのユニットが構成される。図4Aの例では列方向に配列された5つのマイクロピペット34で1つのユニットが構成された例を示している。
【0090】
また、押さえ板100には、複数のマイクロピペット34を押さえ付けたときに、各マイクロピペット34の試料注入口52に対応する箇所にそれぞれ試料溶液を供給するための導入孔104(図4B参照)が形成されており、各導入孔104の上端部にはそれぞれ試料溶液を導入孔104に導くためのチューブ106が保持されている。
【0091】
なお、押さえ板100の幅は、配線作業の効率化を考慮すると、複数のマイクロピペット34を固定板32に押さえ付けた際に、アクチュエータ部58の各電極70及び74につながるパッド76及び78が上方に臨むような寸法であることが好ましい。
【0092】
このように、上述の分注装置30は、試料注入口52及び試料吐出口54を有するマイクロピペット34の複数個をそれぞれ試料吐出口54を下方向に向けた状態で立設させて構成されている。
【0093】
即ち、各マイクロピペット34は、それぞれの試料注入口52を上側とし、試料吐出口54を下側とし、かつ、各試料吐出口54が縦横に配列配置されて、試料吐出口54からそれぞれ種類の異なる試料溶液が吐出されるようになっている。
【0094】
このような構成を有する分注装置30において、各試料注入口52に対応してそれぞれ種類の異なる試料溶液を供給する方法としては、図8に示すように、例えば多数の断面ほぼV字状の凹部(溜め部)110が配列されたカートリッジ112を使用する方法がある。この方法は、カートリッジ112の各凹部110にそれぞれ種類の異なる試料溶液を入れ、該カートリッジ112を各凹部110とチューブ106とがそれぞれ対応するように取り付け、針等で各凹部110の底を開封することによって、各凹部110にあった試料溶液をチューブ106を介して各マイクロピペット34に供給する方法等が考えられる。
【0095】
また、チューブ106を用いない場合は、カートリッジ112を各凹部110と固定治具36の各導入孔104とがそれぞれ対応するように取り付け、針等で各凹部110の底を開封することによって、各凹部110にあった試料溶液を導入孔104を介して各マイクロピペット34に供給する方法のほか、予め、固定治具36における各導入孔104の近傍に針等を形成し、カートリッジ112を固定治具36に取り付けると同時に各凹部110が開封されるようにしてもよい。
【0096】
なお、開封後に気体等を圧送し、試料溶液を強制的に押し出す機構を加えてもよい。また、各マイクロピペット34の基体50内に形成された試料注入口52から試料吐出口54に至る空間を洗浄する機構を備えることは、数千から数万種類という多種類のDNA断片などを汚染なく、しかも純度よくスポット80として吐出するために望ましい。
【0097】
図4Aの例では、押さえ板100の両端をネジ102で固定板32に締め付けることで行っているが、押さえ板100の固定法は、ネジ、バネ等で機械的に行うほか、接着剤等で行ってもよい。
【0098】
また、マイクロピペット34を構成する基体50は、上述したように、セラミックスで形成されており、例えば、安定化ジルコニアや部分安定化ジルコニア、アルミナ、マグネシア、窒化珪素等を用いることができる。
【0099】
このうち、安定化/部分安定化ジルコニアは、薄板においても機械的強度が大きいこと、靱性が高いこと、圧電層72や電極材との反応性が小さいことから最も好適に採用される。
【0100】
そして、基体50等の材料として安定化/部分安定化ジルコニアを使用する場合には、少なくとも、アクチュエータ部58が形成される部分(振動部66)には、アルミナあるいはチタニア等の添加物が含有されることが好ましい。
【0101】
また、アクチュエータ部58を構成する圧電層72は、圧電セラミックスとして、例えば、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、マグネシウムタンタル酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、マンガンタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛、チタン酸バリウム等やこれらのいずれかを組み合わせた成分を含有する複合セラミックスを用いることができるが、本実施の形態においては、ジルコン酸鉛とチタン酸鉛及びマグネシウムニオブ酸鉛からなる成分を主成分とする材料が好適に用いられる。
【0102】
これは、このような材料が、高い電気機械結合係数と圧電定数を有することに加え、圧電層72の焼結時における基体材料との反応性が小さく、所定の組成のものを安定に形成することができることに基づくからである。
【0103】
更に、本実施の形態では、前記圧電セラミックスに、ランタン、カルシウム、ストロンチウム、モリブデン、タングステン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガン、セリウム、カドミウム、クロム、コバルト、アンチモン、鉄、イットリウム、タンタル、リチウム、ビスマス、スズ等の酸化物、もしくはこれらいずれかの組合せ、又は他の化合物を適宜、添加したセラミックスを用いてもよい。
【0104】
例えば、ジルコン酸鉛とチタン酸鉛及びマグネシウムニオブ酸鉛を主成分とし、これにランタンやストロンチウムを含有するセラミックスを用いることもまた好ましい。
【0105】
一方、アクチュエータ部58における上部電極74及び下部電極70は、室温で、固体であって導電性の金属で構成されていることが好ましく、例えば、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、銀、スズ、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、鉛等の金属単体あるいはこれらのいずれかを組み合わせた合金が用いられ、更に、これらに圧電層72や基体50と同じ材料を分散させたサーメット材料を用いてもよい。
【0106】
次に、この実施の形態では、上記のような分注装置30を用い、試料溶液を基板10上に供給したスポット済み基板を80℃の恒温槽に1時間程度放置してスポット80を乾燥させた(乾燥工程S5)後、120mJのUV照射、NaBr液中への20分浸漬(ブロッキング処理)、煮沸2分、エタノール置換(脱水)を行って、DNA断片を基板10上に固定化して(固定化工程S6)、DNAチップ20を製造する。
【0107】
次に、この分注装置30を使って基板10上に試料溶液を供給し、スポット80を形成するいくつかの方法について図9〜図15を参照しながら説明する。
【0108】
まず、第1の方法は、図9に示すように、各チューブ106からそれぞれ固定治具36の導入孔104を介して各マイクロピペット34のキャビティ56内にそれぞれ種類の異なる試料溶液(希釈済み)を充填し、次いで、各アクチュエータ部58を駆動して、各マイクロピペット34の試料吐出口54から試料溶液を吐出させる。
【0109】
ここで、アクチュエータ部58の各電極70及び74に印加する電圧波形のうち、アクチュエータ部58がオン動作して、キャビティ56の容積を減少させる場合、各電極70及び74にはパルス的な電圧が印加されることになる。この場合、パルスの振幅(電圧)、単位時間当たりの変化量(電圧波形の立ち上がり角度)、パルス幅等を変化させることで、振動部66の変形量、変形速度等が変化し、これにより、試料溶液の吐出量が制御できる。また、一定期間に発生させるパルス数を変化させることで、単位時間当たりの試料溶液の滴下回数を変更することができる。
【0110】
試料溶液を複数回供給して1つのスポット80を形成する場合、通常、供給位置を固定して、供給回数を重ねるが、供給毎に供給位置をずらしてもよい。例えば図10A及び図10Bに示すように、試料溶液の供給位置を適宜変えることによって、形成されるべき1つのスポット80(二点鎖線で示す)内に複数の試料溶液による微小スポット80aが形成され、これら微小スポット80aが基板10上で組み合わされることで(合体)、図11A及び図11Bに示すように、1つのスポット80が形成されることになる。この場合、供給する試料溶液の種類に応じて、供給回数、供給位置及び1回の供給量を制御することで、基板10上に形成される各スポット80の径の均一化を図ることができる。
【0111】
更に、この実施の形態では、試料溶液を基板10上に供給する際に、図12A〜図13に示すように、該試料溶液の部分を乾燥、増粘、固化するようにしている。この処理は、例えば基板10を加熱することで実現できる。
【0112】
基板10を加熱する方法としては、図13に示すように、赤外線ランプ122から出射された赤外線を基板10の裏面に照射して加熱する方法がある。また、試料溶液を直接加熱する方法としては、図12A、図12Bに示すように、レーザ光源120、電磁波発生源121から出射されたレーザ光L、電磁波Eを、試料溶液に焦点を合わせて照射、加熱する方法がある。試料溶液は、基板10上に供給された状態で加熱してもよいが、供給の際の形状の安定性、スポット80の広がり防止の観点から、試料吐出口54から吐出されて、基板10上に落下する間に、照射、加熱することが望ましい。
【0113】
また、電磁波Eは、試料溶液のように、水分を含んだものを選択的に加熱できるため、スポット80を形成する試料溶液(供給中の試料溶液)のみを加熱でき、より好ましい。なお、加熱に際しては、吐出を終えた試料吐出口54は、乾燥による吐出不良を回避するため、金属シールド板等で遮蔽してもよい。
【0114】
更にまた、この実施の形態では、試料溶液を基板10上に供給する際に、試料溶液及び基板10を冷却するようにしている。冷却方法は、試料溶液が供給される基板10を予め室温以下に冷却しておいてもよいし、試料溶液自体に、代替フロンや液体窒素等からなる冷却剤をふきかけてもよい。但し、このような冷却処理は、冷却に際し、周りの気体からの水分の露結による水滴の付着が起こり、スポット80自体を流してしまうおそれがあるため、周りの気体の湿度管理、冷却、常温復帰の速度管理等が必要である。
【0115】
また、キャビティ56に試料溶液を充填した後に、アクチュエータ部58に振動を励起する程度の電圧を印加することが好ましい。これにより、キャビティ内に充填された試料溶液に含まれるDNA断片が均一に分散され、滴下毎のDNA断片の量にばらつきは生じなくなる。
【0116】
次に、分注装置30を使った第2の方法について説明する。この第2の方法は、図14に示すように、各チューブ106からそれぞれ固定治具36の導入孔104を介して各マイクロピペット34のキャビティ56内に精製水や緩衝液などの置換液を充填し、次いで、予め希釈した試料を試料注入口52からキャビティ56内に置換させながら注入する。そして、アクチュエータ部58を駆動させて、試料溶液を基板10上に吐出供給させる。なお、置換液と試料溶液の間に、試料溶液と比重をほぼ同じくするDNA断片を含まない中間液(例えば、緩衝液とポリマーを含んだ水溶液の混合液)を介してもよい。
【0117】
キャビティ56内における試料の層流置換の完了は、キャビティ56内の流体特性の変化を検知することにより把握することが好ましい。
【0118】
なお、キャビティ56内の置換液と試料の置換は層流で行われることが好ましいが、試料の種類が変わった場合や、液体の移動速度が非常に速い場合においては、キャビティ56のうち、第1の連通孔62の近辺部分は、必ずしも層流でなくてもよい。この場合、試料溶液と置換液の混合により試料溶液のパージ量は増大するが、キャビティ56内の流体特性の変化を検知することにより置換完了を判断することで、パージ量の増大を最小にできる。
【0119】
ここで、キャビティ56内の流体特性の変化は、アクチュエータ部58に振動を励起する程度の電圧を印加し、その振動に伴う電気的定数の変化を検出することにより把握する。このような流体特性の変化の検知は、例えば、特開平8−201265号公報に記載されており、この内容が参照できる。
【0120】
具体的には、アクチュエータ部58に対して、所定の間隔で、吐出駆動用の電源からの電気的接続をリレーで切り離し、同時に、共振周波数を測定する手段をリレーにより接続し、その時点でのインピーダンスあるいは共振周波数を電気的に測定する。
【0121】
これにより、液体の粘度、比重等が目的の試料(DNA断片などを含む液体)であるかどうかを把握することができる。即ち、各マイクロピペット34においては、マイクロピペット34自体がセンサとして機能するため、マイクロピペット34の構成も単純化することができる。
【0122】
そして、前記置換が済んだ後、アクチュエータ部58を、求められるスポット径に応じた液適量に対応した駆動条件にて駆動し、試料溶液の基板10上への供給を繰り返すことにより、DNAチップ20を製造する。通常、1つのスポット80を形成するのに、マイクロピペット34から1〜数百滴を吐出して行う。
【0123】
なお、試料注入口52中の試料の量が減少したら、緩衝液や精製水や塩化ナトリウムを含む水溶液を追加して、流路中に気泡が入らないようにし、吐出を続けることにより、試料溶液をマイクロピペット34内に残すことなく使い切ることができる。試料から置換液への置換の完了(試料吐出の終了)は、同じく、アクチュエータ部58を用いた液体の粘度、比重の検出で行う。
【0124】
また、使用する置換液、中間液、試料溶液としては、予め脱気操作を通して溶液中の溶存気体を取り除いたものを使用することが好ましい。そのような溶液を用いることにより、マイクロピペット34の流路内に試料溶液を充填する際に、流路途中で気泡がひっかかってしまい、充填の不備が生じた場合でも、その気泡を試料溶液中に溶かし込んで不具合を回避できると共に、吐出の途中において、流体中に気泡が発生することがなく、吐出の不具合を生じることもない。
【0125】
また、上述の第2の方法において、試料溶液を吐出しつつ、緩衝液や精製水や塩化ナトリウムを含む水溶液のような置換液を試料注入口52からキャビティに注入し、同様に、層流置換によりキャビティ56内に残留する試料溶液を完全に吐出し、次の試料注入に備えることができる。
【0126】
そして、キャビティ56内に試料溶液が残留しているかどうか(試料溶液として吐出できるかどうか)を検知するのにも、同じく、キャビティ56内の流体特性の変化を検知することにより把握できる。この場合、層流置換あるいは置換完了検出機構により使用に供しない試料のパージ量を極めて少なくすることができると共に、試料溶液の使用効率を向上することができる。
【0127】
また、試料を試料注入口52からキャビティ56に充填する際に、アクチュエータ部58を駆動させながら試料を試料注入口52からキャビティ56内に層流置換させてもよい。この場合、予め安価な置換液によりキャビティ56内を確実に置換後、高価な試料を層流置換することにより、吐出不良の発生が完全に防止でき、高価な試料溶液を効率よく吐出できる。
【0128】
次いで、前記試料溶液が供給された基板10上のスポット80の厚みの形状が、図15に示すように、周縁部分130で盛り上がった、いわゆるドーナツ形状になった場合は、基板10を0℃に冷却した後、湿度30%以上の十分な体積の気体が存在する室温下に戻す処理を行う。こうすることで、ドーナツ形状になったスポット80に水分が供給され、スポット80中の試料溶液の流動性が増し、表面張力により半球状に変化し、周縁部分130の盛り上がりがなくなる。
【0129】
ドーナツ形状の場合、スポット80の周縁部分130と基板10の境界が際立って観測されやすくなり、DNA断片を含む試料溶液のように、無色透明な液体のスポット80を、無色透明のガラス基板等の上に形成する場合に、そのスポット形状を観測しやすくなり、スポット形成の良否を検査しやすくなるという利点を有する。
【0130】
しかしながら、このようなドーナツ形状を呈したスポット80においては、多くの場合、その後の固定化時の洗浄工程において、前記周縁部分130(盛り上がり部分)の大半が洗い流されたとしても、固定化される実質的な試料132は周縁部分130で多く(濃く)なることから、DNAチップ20として使用したときに、スポット80から発せられる蛍光発光量の分布は、スポット80内でドーナツ形状を呈することになり、感度の劣化、ばらつきの一因となってしまう。
【0131】
従って、検査のしやすさ(ドーナツ形状)と、スポット形状の良さ(非ドーナツ形状)を両立させるためには、基板10に試料溶液を供給する際に、インクジェット方式等で吐出して、基板10に試料溶液を供給し、その運動エネルギーと基板10との疎水性の制御によって、試料溶液を、そのスポット80の周縁部分130に集中させるようにしてドーナツ形状を形成する。
【0132】
その後、液体の表面張力により球状にならない程度に、予め試料溶液の粘度を増加させる一方、検査終了後には、スポット80を形成する試料溶液の流動性を増すようにして、表面張力により、ドーナツ形状を非ドーナツ形状に変化させる方法が適している。
【0133】
本実施の形態に係る方法(基板10を0℃に冷却した後、湿度30%以上の十分な体積の気体が存在する室温下に戻す処理)は、上述の方法を簡単に実現することができる。
【0134】
そして、スポット80への水分の供給は、ミスト等を含む蒸気を直接あてるようにしてもよいが、前記冷却後、室温に戻す工程で、基板10上に露結する水分を利用することが、過剰水分でスポットを流してしまうことなく、また、均一に細かい水滴が供給される点で好ましい。
【0135】
その後、基板10を80℃で1時間ベークすることにより、スポット80を乾燥させる。80℃で1時間ベークした後に、冷却−室温に戻す工程を施してもよいが、その場合は、再度ベーク処理が必要となる。
【0136】
このように、本実施の形態に係るDNAチップの製造方法においては、試料溶液の基板10上への供給に先立って、試料溶液の濃度を希釈するようにしているため、該試料溶液を基板10上に供給したとき、図11Aに示すように、試料溶液によるスポット80は半球状にはならず、平坦な形状となる。この場合、供給された試料溶液のほとんどが固定化されるため、その後の洗浄工程でも試料溶液の大半以上が流されてしまうということがなく、試料溶液の使用効率を向上させることができる。
【0137】
また、試料溶液に含まれるDNA断片の種類に応じて希釈の度合いを変えて、試料溶液の粘度や表面張力を変化させることにより、基板10上に形成されるスポット80の径を均一化させることができる。
【0138】
更にまた、基板10上に試料溶液を供給してスポット80を形成した後、該スポット80に水分を供給する工程を付加することにより、スポット80の厚み方向の形状を更に均一にすることができる。
【0139】
このように、本実施の形態においては、コストの高い試料溶液の使用効率を向上させることができ、DNAチップ20の生産性の向上及び歩留まりの向上を図ることができる。また、供給する試料溶液の種類に応じた供給制御を行うことができ、基板10上に形成されるスポット径の均一化を図ることができ、DNAチップ20の品質並びに信頼性の向上を図ることができる。
【0140】
なお、この発明に係るDNAチップの製造方法は、上述の実施の形態に限らず、この発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本実施の形態に係るDNAチップの製造方法を示す工程ブロック図である。
【図2】試料調製工程の内訳を示す工程ブロック図である。
【図3】製造されるDNAチップを示す斜視図である。
【図4】図4Aは本実施の形態に係るDNAチップの製造方法で使用される分注装置の構成を示す平面図であり、図4Bはその正面図であり、図4Cは、分注装置を構成する1つのマイクロピペットを示す拡大平面図である。
【図5】マイクロピペットの構成を示す縦断面図である。
【図6】マイクロピペットの基体内に形成されるキャビティを含む流路の形状を示す斜視図である。
【図7】マイクロピペットの基体内に形成されるキャビティを含む流路の他の形状を示す斜視図である。
【図8】カートリッジと共に示す分注装置の分解斜視図である。
【図9】分注装置を使用してDNAチップを製造する場合の第1の方法を示す説明図である。
【図10】図10Aは基板上に試料溶液を供給して、形成されるべき1つのスポット内に多数の微小スポットが形成されていく過程を示す断面図であり、図10Bはその平面図である。
【図11】図11Aは基板上において、多数の微小スポットが合体して1つのスポットが形成された状態を示す断面図であり、図11Bはその平面図である。
【図12】図12Aは試料溶液又は基板を加熱する方法の一例を示す説明図であり、図12Bはその他の方法を示す説明図である。
【図13】基板を加熱する方法の一例を示す説明図である。
【図14】分注装置を使用してDNAチップを製造する場合の第2の方法を示す説明図である。
【図15】ドーナツ形状のスポットの例を示す断面図である。
【図16】従来例に係るDNAチップの製造方法によって基板上に形成されたスポットの形状を示す断面図である。
【符号の説明】
【0142】
10…基板 20…DNAチップ
30…分注装置 34…マイクロピペット
50…基体 52…試料注入口
54…試料吐出口 56…キャビティ
58…アクチュエータ部 80…スポット
80a…微小スポット 112…カートリッジ
120…レーザ光源 122…赤外線ランプ
S1…前処理工程 S2…試料調製工程
S3…希釈工程 S4…供給工程
S5…乾燥工程 S6…固定化工程
S11…増幅工程 S12…粉末生成工程
S13…混合工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液を基板上に供給して、前記基板上に試料溶液によるスポットが多数配列されたDNAチップを製造するDNAチップの製造方法において、
同一スポットについて、前記試料溶液を複数回供給することを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のDNAチップの製造方法において、
前記試料溶液をインクジェット方式で供給することを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のDNAチップの製造方法において、
前記試料溶液は、DNA断片を含む試料が所定の濃度に希釈されていることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のDNAチップの製造方法において、
前記試料溶液は、前記DNA断片を含む試料が水又は塩化ナトリウムを含む水溶液で希釈されていることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4記載のDNAチップの製造方法において、
前記試料溶液は、ポリマーを含む水溶液で希釈されていることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記試料溶液は、前記同一スポットに対する複数回の供給によって、1スポット当たりの最終所望塩基対を満足する程度の濃度に希釈されていることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記DNA断片を含む試料は、
前記DNA断片をPCR増幅してPCR産物を調製する工程と、
前記PCR産物を乾燥してDNA粉末とする工程と、
前記DNA粉末を緩衝液に溶かす工程とを踏んで調製されることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記試料溶液を前記基板上に供給する際に、
少なくとも1個以上の基体に、外部から前記試料溶液を注入するための注入口と、前記試料溶液が注入・充填されるキャビティと、前記試料溶液を吐出する吐出口とが形成され、前記キャビティを形成する前記基体の少なくとも一壁面に圧電/電歪素子を備え、前記キャビティ内において前記試料溶液が移動するように構成されたマイクロピペットが複数配列されて構成され、かつ、各マイクロピペットの吐出口からそれぞれ異なる種類の試料溶液が吐出される分注装置を用いることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記試料溶液を前記基板上に供給する際に、少なくとも1個以上の基体に、外部から前記試料溶液を注入するための注入口と、前記試料溶液が注入・充填されるキャビティと、前記試料溶液を吐出する吐出口とが形成され、前記キャビティ内において前記試料が移動するように構成されたマイクロピペットが複数配列されて構成され、かつ、少なくとも2つ以上の吐出口から同じ種類の試料溶液が吐出され、1つのスポット形成する分注装置を用いることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項10】
請求項9記載のDNAチップの製造方法において、
前記同じ種類の試料溶液が吐出される前記少なくとも2つ以上の吐出口が連結するキャビティに連通する注入口が1つであることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のDNAチップの製造方法において、
前記同じ種類の試料溶液を前記少なくとも2つ以上の吐出口からほぼ同時に吐出することを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項12】
請求項9又は10に記載のDNAチップの製造方法において、
前記同じ種類の試料溶液を前記少なくとも2つ以上の吐出口からそれぞれ吐出タイミングをずらして吐出することを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
マイクロピペットは、前記キャビティ内において前記試料溶液が層流で移動するように構成されていることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記試料溶液を前記基板上に供給する際に、
それぞれ種類の異なる試料溶液を吐出する前記吐出口に対応する前記注入口からそれぞれ種類の異なる試料溶液を前記複数のキャビティ内に注入した後、前記圧電/電歪素子を駆動させることにより、前記複数のキャビティ内の種類の異なる試料溶液を前記吐出口から吐出させることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項15】
請求項8記載のDNAチップの製造方法において、
前記試料溶液を前記基板上に供給する際に、
前記複数のキャビティ内に予め置換液を充填し、次いで、種類の異なる試料溶液を前記注入口から前記複数のキャビティ内で置換させながら注入した後、前記圧電/電歪素子を駆動させることにより、前記複数のキャビティ内の異なる種類の試料溶液を前記吐出口から吐出させることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項16】
請求項15記載のDNAチップの製造方法において、
前記複数のキャビティ内に予め置換液を充填し、前記圧電/電歪素子を駆動させながら種類の異なる試料溶液を前記注入口から前記複数のキャビティ内で置換させながら注入することを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記複数のキャビティ内における試料溶液の注入又は置換完了を、前記キャビティ内の流体特性の変化を検知することにより把握することを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記置換液が脱泡処理されていることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記複数のキャビティ内に予め置換液を充填し、次いで、前記試料溶液と比重をほぼ同じくするDNA断片を含まない中間液を前記注入口から前記キャビティ内で置換させながら注入した後、種類の異なる試料溶液を前記注入口から前記キャビティ内に注入し、前記圧電/電歪素子を駆動させることにより、前記複数のキャビティ内の異なる種類の試料溶液を前記吐出口から吐出させることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記試料溶液を前記基板上に供給する際に、少なくとも前記試料溶液を乾燥もしくは増粘もしくは固化させながら行うことを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項21】
請求項20記載のDNAチップの製造方法において、
前記乾燥もしくは増粘もしくは固化処理として、前記基板を加熱することを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項22】
請求項20記載のDNAチップの製造方法において、
前記乾燥もしくは増粘もしくは固化処理として、吐出もしくは供給された前記試料溶液を加熱することを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項23】
請求項20〜22のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記乾燥もしくは増粘もしくは固化処理として、レーザ光を用いることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項24】
請求項20〜22のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記乾燥もしくは増粘もしくは固化処理として、赤外線を用いることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項25】
請求項20〜22のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記乾燥もしくは増粘もしくは固化処理として、電磁波を用いることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項26】
請求項20記載のDNAチップの製造方法において、
前記乾燥もしくは増粘もしくは固化処理として、基板又は吐出もしくは供給された前記試料溶液を冷却することを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項27】
請求項1〜26のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記試料溶液を前記基板上に供給する際に、供給位置をずらしながら供給し、1つのスポットを形成することを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記試料溶液を前記基板上に供給する際に、供給量を変化させて供給し、1つのスポットを形成することを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項29】
請求項1〜28のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記試料溶液を前記基板上に供給する際、あるいは供給するに先立って、前記試料溶液に振動を与えることを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項30】
試料溶液を基板上にインクジェット方式で供給して、前記基板上に前記試料溶液によるスポットが多数配列されたDNAチップを製造するDNAチップの製造方法において、
前記試料溶液を前記基板上に供給する際に、前記試料溶液を吐出、供給する箇所の周りの湿度をその他の部分より選択的に高くして、前記試料溶液を乾燥もしくは増粘もしくは固化しないようにしたことを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項31】
請求項1〜30のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記基板上に前記試料溶液が供給されてスポットが多数配列された基板を作製した後に、前記基板を0℃以下に冷却した後、湿度30%以上の十分な体積の気体が存在する室温下に戻す工程を含むことを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項32】
請求項1〜30のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記基板上に前記試料溶液が供給されてスポットが多数配列された基板を作製した後に、前記基板を湿度80%以上の十分な体積の気体が存在する雰囲気下にさらす工程を含むことを特徴とするDNAチップの製造方法。
【請求項33】
請求項1〜30のいずれか1項に記載のDNAチップの製造方法において、
前記基板上に前記試料溶液が供給されてスポットが多数配列された基板を作製した後に、前記基板をミストを含んだ水蒸気中にさらす工程を含むことを特徴とするDNAチップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−151798(P2008−151798A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−744(P2008−744)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【分割の表示】特願2000−69285(P2000−69285)の分割
【原出願日】平成12年3月13日(2000.3.13)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】