説明

DNAマーカーを用いたジャガイモXウイルス抵抗性検定法

【課題】 DNAマーカーを用いた抵抗性検定を利用可能にして、ジャガイモXウイルスに対する抵抗性をDNAレベルで、しかも短時間に検定できるようにすることにより、抵抗性品種育成を効率的に行うことのできる検定法を提供することにある。
【解決手段】 下記の配列番号1及び配列番号2で表されるジャガイモXウイルス抵抗性検定用プライマー。
atcttggttt gaatacatgg 1
cacaatattg gaaggattca 2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ジャガイモXウイルス抵抗性遺伝子に連鎖したDNAマーカーを用いて、ジャガイモXウイルス抵抗性又は罹病性個体を識別するジャガイモXウイルス抵抗性検定法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジャガイモXウイルス抵抗性検定は、ガラス室等で栽培した検定植物体にウイルスを接種し、種いもによる伝搬の有無や次作での茎葉のウイルス感染の有無をエライザ等検定によって識別する方法がなされている。ジャガイモXウイルスは人や管理機等によって接触伝搬するため、隔離温室での栽培が必要となり、結果を得るまで多くの労力と時間を要する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ジャガイモXウイルス感染株は病徴が不明瞭であるため、病株の抜き取りが困難であり、種いも伝搬が問題となる。このため、抵抗性品種の探索と、抵抗性遺伝子に連鎖するDNAマーカーを開発し、交配における雑種後代から抵抗性個体を効率良く選抜できる手法を開発する。
育種の早期世代でDNAマーカーを用いた抵抗性個体の選抜が可能になると、今まで以上に多くの個体を取り扱うことができ、新品種育成を効率的に行うことができる。
【0004】
この発明は、上記のような課題に鑑み、その課題を解決すべく創案されたものであって、その目的とするところは、DNAマーカーを用いた抵抗性検定を利用可能にして、ジャガイモXウイルスに対する抵抗性個体をDNAレベルで、しかも短時間に検定できるようにすることにより、抵抗性品種育成を効率的に行うことのできる検定法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の目的を達成するために、この発明は、配列番号1及び配列番号2で表されるジャガイモXウイルス抵抗性検定用プライマーよりなる。
ここで、配列番号1は“5′-ATCTTGGTTTGAATACATGG-3′”の20塩基の合成プライマーから構成され、配列番号2は“5′-CACAATATTGGAAGGATTCA-3′”の20塩基の合成プライマーから構成される。
【0006】
ジャガイモXウイルス(PVX)抵抗性四倍体品種と罹病性品種との雑種後代を作出し接種検定を行った。抵抗性10個体及び罹病性10個体から抽出したDNAをそれぞれ等量ずつ混ぜて抵抗性混合DNA試料及び罹病性混合DNA試料とした。Solanum tuberosum ssp.andigenaの「CPC1673」に由来するPVX抵抗性遺伝子Rxlの塩基配列情報を基にRxl遺伝子の一部を増幅するためのプライマーを作製した。作製したプライマーと混合DNA試料を使ってPCR増幅後、産物を制限酵素で切断し、PVX抵抗性個体に特異的なDNAバンドを得た。制限酵素認識部位の塩基配列を調査することでPVX抵抗性に特異的な塩基配列を同定し、その塩基配列を基に抵抗性系統にのみDNA断片を増幅するプライマー(RxSP−S3(センスプライマー):5′-ATCTTGGTTTGAATACATGG-3′、RxSP−A2(アンチセンスプライマー):5′-CACAATATTGGAAGGATTCA-3′)を設計・合成した。
【0007】
即ち、品種「アトランチック」のジャガイモXウイルス抵抗性に特異的な断片におけるRxl遺伝子領域の塩基配列は(・・・ATGG・・・)であるのに対し、罹病性に特異的な断片におけるRxl遺伝子領域の塩基配列は(・・・ATGC・・・)である(図3)。
また、品種「アトランチック」由来二倍性半数体系統「At-37」のジャガイモXウイルス抵抗性に特異的な断片におけるRxl遺伝子領域の塩基配列は(・・・TGAA・・・)であるのに対し、罹病性に特異的な断片におけるRxl遺伝子領域の塩基配列は(・・・CGAA・・・)である(図4)。
【発明の効果】
【0008】
ジャガイモXウイルス抵抗性検定用プライマーの開発によって抵抗性個体を育種の早期世代で選抜することが可能となり、抵抗性品種育成が効率的にできる。
抵抗性品種の育成によって種いもによる伝搬を防止でき、次作での発生源を断つことができる。
現在、暖地で栽培されている品種はPVX抵抗性遺伝子を有していないため、開発したDNAマーカーおよび既に開発されているジャガイモシストセンチュウやジャガイモYウイルス抵抗性DNAマーカーを併せて用いることで、複合抵抗性品種の効率的な育成が可能となる。
さらに、複合抵抗性品種の育成によって採種栽培におけるウイルス検定や圃場での抜き取り作業の省力化が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(バレイショDNA簡易抽出法(CTAB−LiCl法))
(1)50mg組織を1.5mlチューブに入れ、ペッスルですりつぶす。
(2)175μlの2%CATBと175μl 8M LiClを加えて、優しく撹拌する。
(3)65℃で5分間インキュベートする(時々撹拌する)。
(4)350μlクロロホルム/イソアミルアルコールを加えて、優しく撹拌する。
(5)12,000rpmで3分間遠心分離する。
(6)上澄みを新しい1.5mlチューブに移す。
(7)(4)〜(6)を後1回繰り返す。
(8)0.7〜1倍容の冷イソプロパノールを加えて、優しく撹拌する。
(9)白いDNAの糸が見えたら、8,000rpmで10分間遠心分離する。
(10)1mlの70%冷エタノールを加えて、すぐに吸い出す。
(11)1mlの冷エタノールを加えて、すぐに吸い出す。
(12)蓋を開けたまま、キムタオルの上に逆さまにして5〜10分間置き、エタノールをとばす。
(13)50μlのTE Buffer(10μg/ml RNaseA入り)を加え、55℃で溶解する。
【0010】
(DNA濃度測定)
(1)Low Range(A)またはHigh Range(B)*)2mlをキュベットに入れ、「ZERO」を押し、0点調整を行う。
(2)DNA Standard solution(250μg/ml)を1μl加え、「CALIB」を押し、「1」「2」「5」と入力後、「ENTER」を押す。
(3)Calibration終了後、キュベットの液を捨て、新しいLow Range(A)を2ml入れ、「ZERO」を押し0点調整後、DNAサンプルの2μlを加え濃度を測定する。
*Low Range(A)(0.1μg/ml H33258,0.2M NaCl2,10mM Tris−HCl,lmM EDTA;pH7.4)(25回分)
H33258 stock solution 5μl
10×TNE buffer 5ml
超純水 45ml
約50ml
High Range(B)(1μg/ml H33258,0.2M NaCl2,10mM Tris−HCl,1mM EDTA;pH7.4)(25回分)
H33258 stock solution 50μl
10×TNE buffer 5ml
超純水 45ml
約50ml
使用機器:DyNA Quant 200(ファルマシア製)
【0011】
(PCR反応条件)
94℃3分 1サイクル
94℃30秒→58.0℃ 30秒→72℃75秒 35サイクル
72℃5分 1サイクル
【0012】
(電気泳動)
(1)アガロース560mgを耐熱ビンに入れ、1×TAE buffer(40mM Tris、40mM 氷酢酸、1mM EDTA、pH8.0)40mlを加えて電子レンジで加熱し撹拌しながら完全に溶かす。
(2)溶液の温度が約40℃に冷えたら、10mg/mlエチジウムブロマイド(臭化エチジウム)を2.5μl加えてゲルトレイに注ぎコームを差し込む。ゲルが固まったら泳動槽にセットする。
(3)Loading buffer(0.25% bromophenol blue、0.25% xylene cyanol FF、1mM EDTA、30%グリセロール)1μl取り、PCR反応させたチューブに直接加えて混合し、そこから9μl取る。
(4)9μlのサンプルを泳動槽にセットしたアガロースゲルの注入穴に静かに注入する。
(5)100Vで、30分間泳動し、ゲルをトランスイルミネーターにのせ、紫外線を照射してカメラで撮影する。
【実施例】
【0013】
開発したジャガイモXウイルス(PVX)抵抗性遺伝子に連鎖するPCR−RFLPマーカーのマーカーバンドの塩基配列を決定し、PCR反応のみでPVX抵抗性個体を識別できるように、PCRプライマーを設計・作製し、雑種後代集団を使って開発したPCRマーカーの有効性を検討した。
【0014】
1)供試材料
PVX抵抗性品種「アトランチック」にPVX罹病性品種「デジレー」を花粉親として交配(2001年春作)して得られた交配組合せ「01−17」の後代集団を使い、PVX−0(普通系統:独立行政法人種苗管理センター雲仙農場保持系統)の接種検定で得られた抵抗性38個体と罹病性39個体。
2)PCR分析
(1)DNA抽出:CTAB−LiCl法。
(2)PCR反応:PVX抵抗性遺伝子に連鎖するPCR−RFLPマーカーから作製したPCRプライマー(RxSP−S3:5′-ATCTTGGTTTGAATACATGG-3′、RxSP−A2:5′-CACAATATTGGAAGGATTCA-3′)を使用。
(3)増幅DNAの検出:PCR産物を1.4%アガロースゲルで電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色し、UV照射下でバンドの有無を観察。
【0015】
(結果の概要及び考察)
「01−17」後代集団77個体について、PCRプライマー(RxSP−S3:5′-ATCTTGGTTTGAATACATGG-3′、RxSP−A2:5′-CACAATATTGGAAGGATTCA-3′)を使い、DNAバンドの有無を調査した結果、接種検定で抵抗性であった38個体中37個体でDNAバンドを検出し、1個体は検出されなかった。接種検定で罹病性であった39個体はいずれからもDNAバンドは検出されなかった(表1、図2)。また、親品種の「アトランチック」(PVX抵抗性)でDNAバンドが検出され、「デジレー」(PVX罹病性)では検出されなかった(図2)。
以上の結果、PCRプライマー(RxSP−S3:5′-ATCTTGGTTTGAATACATGG-3′、RxSP−A2:5′-CACAATATTGGAAGGATTCA-3′)を使ってPCR分析を行うと、「アトランチック」のPVX抵抗性遺伝子に連鎖したDNA領域を検出することができた。接種検定結果とPCR検定との間で98.7%の相関があり(表1)、「アトランチック」を交配母本としてPVX抵抗性個体を選抜する際に有効なDNAマーカー(PVX抵抗性を識別するPCRマーカー)となり得る。
【0016】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】開発したジャガイモXウイルス抵抗性検定用PCRプライマーを示す図である。
【図2】プライマー(RxSP−S3(センスプライマー):5′-ATCTTGGTTTGAATACATGG-3′、RxSP−A2(アンチセンスプライマー):5′-CACAATATTGGAAGGATTCA-3′)を使ったPCRによる抵抗性、罹病性個体の識別(→で表示)を示す図である。
【図3】プライマー(RxSP−S3(センスプライマー):5′-ATCTTGGTTTGAATACATGG-3′)を使った抵抗性又は罹病性の特異的な断片におけるRxl遺伝子領域の塩基配列の比較を示す図である。
【図4】プライマー(RxSP−A2(アンチセンスプライマー):5′-CACAATATTGGAAGGATTCA-3′)を使った抵抗性又は罹病性の特異的な断片におけるRxl遺伝子領域の塩基配列の比較を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0018】
配列番号1:合成DNA
配列番号2:合成DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1及び配列番号2で表されるジャガイモXウイルス抵抗性検定用プライマー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−141306(P2006−141306A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336922(P2004−336922)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【Fターム(参考)】