説明

DNAメチル化分析用DNAアレイ及びその製造方法並びにDNAメチル化分析方法

(1)修飾塩基(例えば、メチル化シトシン)又は塩基(例えば、シトシン)が露出しているDNA断片混合物を調製する工程、(2)前記DNA断片混合物を、抗修飾塩基(例えば、メチル化シトシン)抗体又は抗塩基(例えば、シトシン)抗体と接触させ、免疫複合体形成DNA断片群と未反応DNA断片群とに分離するか、あるいは、前記抗体に対して高親和性を示すDNA断片群と、前記抗体に対して低親和性を示すDNA断片群とに分離する工程、(3)前記の各DNA断片群に含まれるDNA断片の全部又は一部を同定する工程、及び(4)同定DNA断片とそれぞれハイブリダイズ可能な核酸を基板上に配置する工程を含む、DNA修飾化(例えば、メチル化)分析用DNAアレイの製造方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA修飾化(特にはDNAメチル化)分析用DNAアレイ及びその製造方法並びにDNA修飾化(特にはDNAメチル化)分析方法に関する。また、本発明は、DNA断片の精製方法(取得方法)に関する。
【背景技術】
【0002】
生物が持つ遺伝情報はDNAの中に集約されている。高等動物において、組織を構成する各細胞種間の塩基配列(遺伝情報)は同一であるが、細胞の表現型は各遺伝子の発現調節によって決定されており、ゲノムDNAのメチル化はその場面で大きな役目を担っている。卵子および精子のDNAは受精直後に一旦リセットされ、リプログラミングが行われる。個体は発生後も細胞の分裂に伴ってDNAのメチル化状態を微妙に変化させており、個体老化との関連が注目されている。ゲノムのメチル化がこのように老化に伴って好ましくない方向へ変化すると、働くべき遺伝子が抑制されたり、逆に働いてはいけない遺伝子が発現してしまうといった、生物個体には好ましくない状態が生じてしまう。このようなDNAの異常なメチル化は、がん細胞でも観察され、特にCpGアイランドのメチル化亢進によるがん抑制遺伝子群の不活性化が高頻度に観察される。
【0003】
このように、DNA鎖のメチル化は、がんをはじめとする様々な疾患の重要な指標であり、また遺伝子発現の制御に関係することから、例えば、細胞の分化の程度を把握するための指標ともなり、これまでにその測定方法が様々に検討されている。
一方、例えば、医療の現場においてDNAメチル化を測定する場合には、迅速かつ正確に判定結果が得られることが求められている。しかしながら、このような観点からは従来の各方法は、必ずしも好ましい方法ではなかった。
【0004】
現在までに行われてきたDNAのメチル化分析法、特に5−メチルシトシンの分析法には、例えば、
(1)試料DNAを酵素処理により単塩基にまで分解し、これをクロマトグラフィーやELISA法を応用して定量する方法、
(2)試料DNA中のシトシン塩基を、亜硫酸水素イオン(bisulfite)などの薬剤処理によりウラシルに変化させ、メチル化DNAに特異的にハイブリダイズする、あるいはメチル化していないDNAに特異的にハイブリダイズするPCR用プライマーを用いて、PCR増幅産物の出現のあるなしにより、プライマーがハイブリダイズする領域のメチル化を分析する方法、
(3)前記(2)の方法と同様にして亜硫酸水素イオン処理したDNAを用いて、そのDNA配列を直接シーケンシングする方法、又は
(4)亜硫酸水素イオン−PCR−SSCP(single strand conformational polymorphism)法(非特許文献1)
が知られている。
【0005】
しかし、これらの分析法のいずれも、特定のシトシンのメチル化、あるいは、特定領域に含まれる複数のシトシンのメチル化を分析することを目的としており、ゲノムDNAのメチル化の状態を網羅的に分析することはできなかった。
【0006】
これに対して、ゲノムDNA中のメチル化される可能性のある部位[以下、メチレーションサイト(methylation site)と称する。なお、実際にメチル化されているメチレーションサイトは、メチル化部位(methylated site)と称する]の網羅的な解析を可能とするDNAアレイ(例えば、DNAマイクロアレイ、DNAチップ、又はバイオチップ等の種々の別称があるが、本明細書ではこれらを総称してDNAアレイと称する)が、特許文献1に開示されている。
【0007】
この特許文献1には、同じ認識部位を切断するメチル化感受性制限酵素(例えば、SmaI)が存在するメチル化非感受性制限酵素(例えば、XmaI)でゲノムDNAを消化することにより得られる複数種類のDNA断片(あるいは、その塩基配列の一部を化学合成したオリゴヌクレオチドプローブ)を、それぞれ、基板上の異なる位置に固定したDNAアレイと、それを用いたメチル化部位のメチル化検出方法とが開示されている。なお、メチル化非感受性制限酵素とは、認識部位のメチル化の有無に関係なく、認識部位を切断可能な制限酵素であり、メチル化感受性制限酵素とは、認識部位のメチル化の有無により、切断活性が影響される制限酵素である。
【0008】
前記検出方法では、(1)分析対象であるゲノムDNAをメチル化感受性制限酵素(例えば、SmaI;平滑末端を生じさせる制限酵素であり、認識配列中にメチル化シトシンを含む場合、その配列を切断することができない)で消化した後、(2)更に、同じ認識部位を切断する(但し、消化により出現する切断末端が異なる)メチル化非感受性制限酵素(例えば、XmaI;5’突出末端を生じさせる制限酵素)で消化し、(3)続いて、両端が前記メチル化非感受性制限酵素による切断末端であるDNA断片のみを特異的に増幅した後、(4)増幅したDNA断片を、前記DNAアレイを用いて検出する。なお、前記工程(3)における特定DNA断片(すなわち、両端が前記メチル化非感受性制限酵素による切断末端であるDNA断片)のみを特異的に増幅する手段としては、XmaIアダプターを連結させた後、前記アダプターの部分塩基配列を含むプライマーを用いるPCR法が開示されている。
【0009】
特許文献1に開示の前記検出方法では、メチル化感受性制限酵素(認識配列中にメチル化シトシンを含む場合、その配列を切断することができない)で消化した後、メチル化非感受性制限酵素で消化するため、前記メチル化非感受性制限酵素で切断される認識部位は、必ずメチル化シトシンを含む。従って、工程(3)で増幅されるDNA断片の両端は、いずれも、メチル化シトシンを含む認識部位、すなわち、メチル化されたメチレーションサイト(すなわち、メチル化部位)に由来しており、工程(4)において、メチル化部位に挟まれたDNA断片のみが検出される。
【0010】
このように、特許文献1に記載の検出方法では、両端のメチレーションサイトが両方ともメチル化されているDNA断片のみが検出可能であるが、片方のみがメチル化されているDNA断片を検出することはできないため、生体内で起き得る微妙なメチル化の変化を無視してしまう欠点がある。例えば、がん細胞では、通常はメチル化率が低いCpGアイランドが高度にメチル化されてしまうことが高頻度に観察されるが、このように通常メチル化されていないDNA断片の微妙なメチル化の増加、すなわち、DNA断片の片方のみがメチル化されるような場合の検出を行うことはできない。
【0011】
また、特許文献1に記載の検出方法では、2段階の制限酵素消化を実施するため、その消化処理に時間がかかる欠点がある。また、消化後のアダプター連結処理では、塩濃度が高いとライゲーション効率が低くなるため、消化後に脱塩濃縮処理を実施することが好ましいが、その操作も煩雑である。更に、DNA増幅に一般的に使用されるPCRでは、DNA断片のサイズが異なる場合、通常、短いサイズのDNA断片が優先的に増幅されてしまうため、同じ効率で増幅を行うことが難しいという欠点がある。
【0012】
更に、特許文献1に記載のDNAアレイは、メチル化非感受性制限酵素(例えば、XmaI)でゲノムDNAを消化することにより得られる複数種類のDNA断片又は化学合成したオリゴヌクレオチドプローブを、それぞれ、基板上の異なる位置に固定しただけであり、各DNA断片又はオリゴヌクレオチドプローブには、特に特徴は見当たらない。
【0013】
【非特許文献1】エム・前川(M.Maekawa)ら,「バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochemical and Biophysical Research Communications)」,(オランダ),1999年,262巻,p.671−676
【特許文献1】特開2003―38183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の課題は、従来技術のこれらの欠点を解消し、DNA(例えば、ゲノムDNA)のメチレーションサイトの網羅的な解析を可能とするDNAメチル化分析用DNAアレイ及びその製造方法並びにDNAメチル化分析方法を提供することにある。本発明は、DNAにおけるシトシンのメチル化の分析に特に好ましく利用することができるが、それ以外の塩基における各種修飾の分析にも利用することができる。
【0015】
より具体的には、両端のメチレーションサイトが両方ともメチル化されているDNA断片だけでなく、片方のみがメチル化されているDNA断片、あるいは、両方ともメチル化されていないDNA断片を、複雑な操作を必要とすることなく、検出可能なDNAアレイ及びDNAメチル化分析方法を提供することにある。また、アレイ上に配置する各核酸を、両端のメチレーションサイトの状態に応じて適宜分類して配置可能な、DNAアレイ製造方法を提供することにある。更には、一本鎖領域(例えば、ステムループ構造、あるいは、核酸が二本鎖DNAに結合することにより形成される三本鎖構造)におけるメチレーションサイトのメチル化の状態を分析可能なDNAメチル化分析方法及びDNAアレイ製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題は、本発明による、
(1)修飾塩基(特にはメチル化シトシン)又は塩基(特にはシトシン)が露出しているDNA断片混合物を調製する工程(以下、調製工程と称する)、
(2)前記工程で得られたDNA断片混合物を、抗修飾塩基(特にはメチル化シトシン)抗体又は抗塩基(特にはシトシン)抗体と接触させ、前記抗体と反応して免疫複合体を形成したDNA断片群(以下、複合体形成DNA群と称する)と、前記抗体と反応しなかったDNA断片群(以下、未反応DNA断片群と称する)とに分離するか、あるいは、前記抗体に対して高親和性を示すDNA断片群(以下、高親和性DNA断片群と称する)と、前記抗体に対して低親和性を示すDNA断片群(以下、低親和性DNA断片群と称する)とに分離する工程(以下、抗体接触工程と称する)、
(3)前記の各DNA断片群に含まれるDNA断片の全部又は一部を同定する工程(以下、同定工程と称する)、及び
(4)前記工程で同定されたDNA断片とそれぞれハイブリダイズ可能な核酸を基板上に配置する工程(以下、配置工程と称する)
を含むことを特徴とする、DNAアレイの製造方法により解決することができる。
【0017】
本発明の製造方法の好ましい態様によれば、前記調製工程(1)で調製する修飾塩基又は塩基が露出しているDNA断片混合物が、
(a)ゲノムDNAを、「認識部位の修飾(特にはメチル化)の有無に関係なく切断可能であって、しかも、修飾塩基(特にはメチル化シトシン)又は塩基(特にはシトシン)を含む突出末端を生じさせる制限酵素」で消化することによって得られる、前記突出末端に修飾塩基(特にはメチル化シトシン)又は塩基(特にはシトシン)が露出しているDNA断片混合物[以下、DNA断片混合物(a)と称する]、
(b)ゲノムDNAを断片化し、更に、その全長又は部分領域を一本鎖化することによって得られる、前記一本鎖化領域に修飾塩基(特にはメチル化シトシン)又は塩基(特にはシトシン)が露出している一本鎖DNA断片又は部分一本鎖DNA断片の混合物[以下、DNA断片混合物(b)と称する]、あるいは、
(c)一本鎖状態の領域を含み、その一本鎖領域に修飾塩基(特にはメチル化シトシン)又は塩基(特にはシトシン)が露出しているDNA断片混合物[以下、DNA断片混合物(c)と称する]
である。
【0018】
本発明の製造方法の別の好ましい態様によれば、前記DNA断片混合物(a)において、前記制限酵素でゲノムDNAを消化する前に、一本鎖DNAを分解するヌクレアーゼで前記ゲノムDNAが前処理されている。
本発明の別の好ましい態様によれば、前記DNA断片混合物(b)において、全長又は部分領域を一本鎖化する前に、一本鎖DNAを分解するヌクレアーゼで前記ゲノムDNA又は断片化ゲノムDNAが前処理されている。
【0019】
本発明の製造方法の別の好ましい態様によれば、前記抗体接触工程(2)におけるDNA断片混合物と抗体との接触に際し、その少なくとも1つの抗原抗体反応を、「抗原抗体反応における1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下」において実施することにより、(前記抗体と反応して免疫複合体を形成したDNA断片群としての)前記抗体に2価結合で結合可能なDNA断片群と、(前記抗体と反応しなかったDNA断片群としての)前記抗体に1価結合で結合可能なDNA断片群とに分離する。
【0020】
より具体的には、例えば、調製工程で得られたDNA断片混合物を、通常の抗原抗体反応の条件下で、抗メチル化シトシン抗体(又は抗シトシン抗体)と接触させることにより、免疫複合体を形成した状態の複合体形成DNA断片群と、未反応DNA断片群とに分離した後、前記免疫複合体を、「1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる抗原抗体反応条件下」におくことにより、(複合体形成DNA断片群としての)両方の突出末端にメチル化シトシン(又はシトシン)が存在するDNA断片群と、(未反応DNA断片群としての)一方の突出末端のみにメチル化シトシン(又はシトシン)が存在するDNA断片とに分離することができる。
【0021】
本発明の製造方法の別の好ましい態様によれば、前記抗体接触工程(2)におけるDNA断片混合物と抗体との接触に際し、その少なくとも1つの抗原抗体反応を、「1価結合と2価結合との違いに基づいて、高親和性を示すDNA断片群と低親和性を示すDNA断片群とに分離することのできる条件下」において実施することにより、(高親和性を示すDNA断片群としての)前記抗体に2価結合で結合可能なDNA断片群と、(低親和性を示すDNA断片群としての)前記抗体に1価結合で結合可能なDNA断片群とに分離する。
【0022】
また、本発明は、前記製造方法により得ることのできる、DNAアレイに関する。
また、本発明は、
(1)修飾塩基(特にはメチル化シトシン)又は塩基(特にはシトシン)を含む突出末端を両端に有するDNA断片であって、両方の突出末端に修飾塩基(特にはメチル化シトシン)が存在するDNA断片、
(2)修飾塩基(特にはメチル化シトシン)又は塩基(特にはシトシン)を含む突出末端を両端に有するDNA断片であって、一方の突出末端のみに修飾塩基(特にはメチル化シトシン)が存在するDNA断片、又は
(3)修飾塩基(特にはメチル化シトシン)又は塩基(特にはシトシン)を含む突出末端を両端に有するDNA断片であって、両方の突出末端のいずれにも修飾塩基(特にはメチル化シトシン)が存在しないDNA断片
のいずれか1つのDNA断片のみを含むことを特徴とする、DNA断片群に関する。
また、本発明は、前記DNA断片群に含まれるDNA断片の全部又は一部とそれぞれハイブリダイズ可能な核酸が基板上に配置されていることを特徴とする、DNAアレイに関する。
【0023】
また、本発明は、
(1)分析対象DNAから、修飾塩基(特にはメチル化シトシン)又は塩基(特にはシトシン)が露出しているDNA断片混合物を調製する工程(以下、調製工程と称する)、
(2)前記工程で得られたDNA断片混合物を、抗修飾塩基(特にはメチル化シトシン)抗体又は抗塩基(特にはシトシン)抗体と接触させ、前記抗体と反応して免疫複合体を形成したDNA断片群と、前記抗体と反応しなかったDNA断片群とに分離するか、あるいは、前記抗体に対して高親和性を示すDNA断片群と、前記抗体に対して低親和性を示すDNA断片群とに分離する工程(以下、抗体接触工程と称する)、及び
(3)前記の各DNA断片群に含まれるDNA断片の全部又は一部を、DNAアレイで分析する工程(以下、分析工程と称する)
を含むことを特徴とする、前記分析対象DNAの修飾化(特にメチル化)分析方法に関する。
【0024】
更に、本発明は、突出末端を有する二本鎖DNA断片と、前記突出末端に含まれる塩基に対する抗体とを接触させることを特徴とする、前記DNA断片の精製方法に関する。
【0025】
本明細書において、「シトシン」とは、メチル化されていないシトシン、すなわち、非メチル化シトシンを意味する。また、「メチル化されたシトシン」とは、5−メチルシトシンを意味する。
【0026】
本明細書において、「抗メチル化シトシン抗体」とは、特に断らない限り、メチル化シトシンと特異的に反応するが、シトシンとは特異的に反応しない抗体を意味する。また、「抗シトシン抗体」とは、特に断らない限り、シトシンと特異的に反応するが、メチル化シトシンとは特異的に反応しない抗体を意味する。
【0027】
本明細書における用語「抗体」は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれであることもでき、前記「抗体」には、狭義の抗体(すなわち、免疫グロブリン分子それ自体)が含まれるだけでなく、抗体断片、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、又はFvが含まれるものとする。
【0028】
本明細書において、「塩基」とは、天然又は化学合成を問わず、核酸(天然DNA及びRNA並びにその人工的修飾体を含む)と水素結合を形成することができる塩基を意味し、例えば、シトシン、アデニン、グアニン、チミン、又はウラシルを挙げることができ、好ましくはシトシンである。また、「修飾塩基」とは、前記核酸に含まれることのできる修飾塩基を意味し、前記「修飾」としては、例えば、メチル化、酸化、二量体化、アルキル化を挙げることができ、好ましくはメチル化である。前記「修飾塩基」としては、例えば、メチル化シトシン、メチル化アデニン、メチル化グアニン、オキソグアニン(例えば、8−オキソグアニン)、ヒドロキシアデニン(例えば、2−ヒドロキシアデニン)、チミジンダイマー、アルキル化グアニンを挙げることができ、好ましくはメチル化シトシンである。例えば、オキソグアニン又はチミジンダイマーは、生物にとって望ましくない変化であり、本発明により、グアニンの酸化的修飾又はチミジンダイマー生成を分析することができる。また、アルキル化グアニンの有無は、変異誘起物質であるアルキル化剤による影響の指標として利用することができる。更に、8−オキソグアニン又は2−ヒドロキシアデニンは、活性酸素によるゲノム損傷により生じる修飾塩基であり、その有無を分析することにより、活性酸素の影響を分析することができる。
【0029】
以下、本発明のDNA修飾化分析用DNAアレイ及びその製造方法並びにDNA修飾化分析方法を、塩基及び修飾塩基がシトシン及びメチル化シトシンである場合を例にとって、DNAメチル化分析用DNAアレイ及びその製造方法並びにDNAメチル化分析方法として説明するが、本発明は、塩基及び修飾塩基がシトシン及びメチル化シトシンである場合に限定されるものではなく、任意の塩基及び修飾塩基についても、当業者であれば、本明細書の開示及び技術常識に基づいて、同様に実施することが可能である。
【発明の効果】
【0030】
本発明のメチル化分析方法によれば、各分析対象細胞におけるDNAアレイ上のポジティブスポット及び/又はネガティブスポットの傾向(すなわち、数の大小)から、前記細胞のゲノムDNAにおけるメチル化率を判定することができ、更には、ポジティブスポット及び/又はネガティブスポットのプロフィールから、その細胞の状態(例えば、がん細胞の悪性度、細胞の分化状態、疾病への罹患の有無)についても把握することができる。
【0031】
また、本発明の製造方法によれば、本発明のメチル化分析方法に用いることのできる、本発明のDNAアレイを製造することができる。本発明の製造方法によれば、分析対象細胞に由来するゲノムDNAを適当なメチル化非感受性制限酵素で消化して得られるDNA断片に関して、両端のメチレーションサイトが両方ともメチル化されているDNA断片、片方のみがメチル化されているDNA断片、及び/又は両方ともメチル化されていないDNA断片を区別して基板上に固定したDNAアレイを製造することができる。これらのDNAアレイを用いると、メチル化のわずかな変化、例えば、一方のメチレーションサイトのみがメチル化されるような変化も検出することができる。
【0032】
また、本発明によれば、一本鎖領域(例えば、ステムループ構造、あるいは、核酸が二本鎖DNAに結合することにより形成される三本鎖構造)におけるメチレーションサイトのメチル化の状態を分析することができる。これまで、このような一本鎖領域におけるメチル化状態を分析する方法が全く知られていなかっただけでなく、その課題すら認識されることはなかったが、本発明によれば、前記領域のメチル化状態を、複雑な操作を必要とすることなく、検出可能なDNAアレイ及びDNAメチル化分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】一分子の抗体が一方の抗原結合部位で二本鎖DNAと結合する1価結合の状態を示す模式図である。
【図2】一分子の抗体が2箇所の抗原結合部位で二本鎖DNAと結合する2価結合の状態を示す模式図である。
【図3】担体に固定された二分子の抗体がそれぞれ1箇所の抗原結合部位で二本鎖DNAと結合する2価結合の状態を示す模式図である。
【図4】二分子の抗体がそれぞれ1箇所の抗原結合部位で二本鎖DNAと結合している状態を示す模式図である。
【図5】MONIC法の各工程を模式的に示す説明図である。
【図6】MONIC-LoopTrap法の各工程を模式的に示す説明図である。
【図7】DNA断片混合物からMONIC法により分離取得した吸着画分に含まれるDNA断片を、電気泳動により分析した結果を示す図面である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
[1]本発明のDNAアレイ及びその製造方法
本発明のDNAアレイ製造方法は、調製工程、抗体接触工程、同定工程、及び配置工程を含む。
本発明のDNAアレイ製造方法には、抗体接触工程で用いる抗体の特異性の違いにより、少なくとも1つのメチル化シトシンが露出しているDNA断片を分析可能なDNAアレイ(以下、メチル化シトシン型アレイと称する)を得ることのできる製造方法(以下、メチル化シトシン型製造方法と称する)と、少なくとも1つのシトシンが露出しているDNA断片を分析可能なDNAアレイ(以下、シトシン型アレイと称する)を得ることのできる製造方法(以下、シトシン型製造方法と称する)とが含まれる。
また、本発明のDNAアレイ製造方法には、使用するDNA断片混合物の種類に応じて、前記DNA断片混合物(a)又はDNA断片混合物(b)を用いる態様[以下、修飾核酸免疫捕捉法(modified nuculeotide immunocapturing method; MONIC法)と称する]と、前記DNA断片混合物(c)を用いる態様[以下、修飾核酸免疫捕捉法・ループ型(modified nuculeotide
immunocapturing/loop-trap method; MONIC-Loop Trap法)と称する]とが含まれる。
【0035】
本発明の製造方法に含まれるメチル化シトシン型製造方法では、抗体接触工程で用いる抗体として、少なくとも抗メチル化シトシン抗体、すなわち、メチル化シトシンと特異的に反応するが、シトシンとは特異的に反応しない抗体を使用する。
一方、本発明の製造方法に含まれるシトシン型製造方法では、抗体接触工程で用いる抗体として、少なくとも抗シトシン抗体、すなわち、シトシンと特異的に反応するが、メチル化シトシンとは特異的に反応しない抗体を使用する。
なお、前記メチル化シトシン型製造方法又はシトシン型製造方法において、抗メチル化シトシン抗体及び抗シトシン抗体を組み合わせて使用することもできる。
以下、メチル化シトシン型製造方法及びメチル化シトシン型DNAアレイについて説明し、続いて、シトシン型製造方法及びシトシン型DNAアレイについて説明する。
【0036】
(1)メチル化シトシン型製造方法及びDNAアレイ
本発明のメチル化シトシン型製造方法における調製工程では、適当なDNA材料から、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンが露出しているDNA断片混合物を調製する。
前記調製工程で用いるDNA材料としては、本発明のメチル化分析方法において分析対象とすることのできるDNA、すなわち、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンを含む可能性のあるDNAである限り、特に限定されるものではなく、例えば、細胞(例えば、動物細胞又は植物細胞)のゲノムDNA、あるいは、生体試料又はそれに由来する試料(例えば、血液、血漿、血清、尿、リンパ液、髄液、唾液、腹水、羊水、粘液、乳汁、胆汁、胃液、又は透析実施後の人工透析液など)に存在する遊離DNA断片混合物を挙げることができる。
【0037】
細胞のゲノムDNAを使用する場合には、前記細胞として、メチル化率の高い細胞を用いることが好ましい。メチル化シトシン型製造方法では、メチル化シトシンの有無に基づいて、DNAアレイに配置するDNA断片を選択するからである。メチル化率の高い細胞を用いることにより、調製工程で得られるDNA断片混合物中に含まれる、少なくとも1つのメチル化シトシンが露出しているDNA断片の比率を高めることができる。
メチル化率の高い細胞としては、正常細胞と比較してメチル化率が高い細胞、例えば、がん細胞、精子、又は植物の種子を挙げることができる。また、1種類の細胞のみを用いることもできるし、複数種類の細胞の混合物として使用することもできる。なお、正常細胞のメチル化率は、例えば、組織若しくは器官の種類、加齢、外部要因、個体発生段階、分化、又は脱分化などの条件に応じて変動があるため、DNAアレイの使用目的(特に分析対象細胞の種類)に応じて、調製工程で用いる細胞を適宜選択することが好ましい。
【0038】
メチル化シトシン型製造方法における調製工程において、DNA材料として細胞のゲノムDNAを使用する場合、そのゲノムDNAから、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンが露出しているDNA断片混合物を調製する手段としては、例えば、
(a)認識部位のメチル化の有無に関係なく切断可能(すなわち、メチル化非感受性)であって、しかも、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンを含む突出末端(以下、C含有突出末端と称する)を生じさせる制限酵素を用いて、ゲノムDNAを消化する方法、又は
(b)ゲノムDNAを断片化し、更に、その全長又は部分領域を一本鎖化して、一本鎖DNA断片又は部分一本鎖DNA断片の混合物を調製する方法
など挙げることができる。
【0039】
調製工程において、C含有突出末端を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を使用すると、ゲノムDNAの断片化と同時に、制限酵素により生じる突出末端に、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンを露出させることができる。
高等動物では、5’−CG−3’配列におけるC(シトシン)がメチル化されるため、前記CG配列を含む突出末端(以下、CG含有突出末端と称する)を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を用いることが好ましい。このような制限酵素としては、例えば、表1に示す制限酵素を挙げることができる。表1において、下線で示すCは、メチル化される可能性のあるシトシンを意味し、記号「:」は切断箇所を示す。なお、下線は付していないが、記号Y又はNで示す塩基がCである場合、その塩基もメチル化される可能性がある。例えば、制限酵素BsaWIでは、認識配列WCCGGWのWとCとの間を切断し、5’−CCGG−3’配列からなる5’突出末端を生じさせる。また、制限酵素MspIでは、認識配列CCGGのCとCとの間を切断し、5’−CG−3’配列からなる5’突出末端を生じさせる。なお、CG配列のすべてが突出末端として1本鎖上に露出する必要はなく、この配列中のうちの、メチル化される可能性のあるシトシンが最低限、1本鎖上にあればよい。
【0040】
【表1】

【0041】
また、植物では、5’−CNG−3’配列におけるC(シトシン)がメチル化されるため、前記CNG配列を含む突出末端(以下、CNG含有突出末端と称する)を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を用いることが好ましい。このような制限酵素としては、例えば、表2に示す制限酵素を挙げることができる。なお、表2において、下線で示すCは、メチル化される可能性のあるシトシンを意味し、記号「:」は切断箇所を示す。なお、下線は付していないが、記号Y又はNで示す塩基がCである場合、その塩基もメチル化される可能性がある。また、CNG配列のすべてが突出末端として1本鎖上に露出する必要はなく、この配列中のうちの、メチル化される可能性のあるシトシンが最低限、1本鎖上にあればよい。
【0042】
【表2】

【0043】
C含有突出末端を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を用いてDNA断片混合物を調製する場合、所望により、メチル化シトシンを含む突出末端を生じさせない制限酵素、例えば、C含有突出末端を生じさせない制限酵素(例えば、平滑末端を生じさせる制限酵素、又はCを含まない突出末端を生じさせる制限酵素)を併用することができる。メチル化シトシンを含む突出末端を生じさせない制限酵素を併用した場合、前記酵素により新たな切断末端が生じるが、この末端は平滑末端であるか、あるいは、突出末端であってもメチル化シトシンを含まないので、C含有突出末端のメチル化分析に影響を与えない。
【0044】
調製工程において、ゲノムDNAから一本鎖DNA断片又は部分一本鎖DNA断片の混合物を調製する場合には、ゲノムDNAの断片化の工程と一本鎖化の工程の順序は、特に限定されるものではなく、いずれを先に実施することもできるし、あるいは、同時に実施することもできる。
【0045】
ゲノムDNAを断片化する方法としては、例えば、制限酵素(平滑末端を生じさせる制限酵素及び突出末端を生じさせる制限酵素を含む)を使用する方法、物理的に切断する方法(例えば、超音波処理、紫外線照射、放射線照射、又は電子線照射)、又は化学的に切断する方法などを挙げることができる。
【0046】
DNA(ゲノムDNAである場合と断片化DNAである場合とを含む)を一本鎖化する場合には、その全長にわたって一本鎖化することもできるし、その部分領域のみを一本鎖化することもできる。なお、本明細書における「一本鎖化」とは、二本鎖DNAの内、その一方の鎖の全長又は部分領域において、残る一方の鎖(すなわち、相補鎖)とハイブリダイズすることなく、塩基が露出している状態を意味し、例えば、完全な一本鎖DNAのみからなる構造が含まれることは勿論のこと、後述する三本鎖構造や、一塩基対又は複数塩基対におけるミスマッチによって一塩基又は複数塩基が露出した構造も含まれる。
【0047】
全長にわたって一本鎖化する場合には、例えば、熱変性処理又は変性剤処理などを挙げることができる。
【0048】
部分領域を一本鎖化する場合には、例えば、一本鎖化の対象DNAにおける一方の鎖にハイブリダイズ可能な核酸(例えば、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド。以下、一本鎖化用核酸と称する)を共存させる方法などを挙げることができる。一本鎖化の対象となる二本鎖DNAと、一本鎖化用核酸とを接触させると、二本鎖DNAの一方の鎖の特定領域と一本鎖化用核酸とがハイブリダイズして二本鎖構造をとると共に、二本鎖DNAの残る一方の鎖の特定領域が一本鎖の状態になるため、三本鎖構造を形成させることができる。
前記一本鎖化用核酸は、一本鎖化の対象DNAにおいてメチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンを含む領域を標的として、適宜設計することができ、1種類だけを単独で、あるいは、複数種類を同時に使用することができる。一本鎖化用核酸を用いると、特定領域のメチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンを選択的に露出させることができるため、好ましい。
【0049】
なお、DNA断片によっては、例えば、部分的にステムループ構造をとることにより、あるいは、核酸(例えば、RNA又はDNA)が二本鎖DNAに結合して三本鎖構造をとることにより、特別な処理(例えば、一本鎖化用核酸の添加)を施すことなく、部分的に一本鎖化されている場合がある。このようなDNA断片をDNA材料として使用する場合には、特別な処理を施すことなく、そのまま、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンが露出しているDNA断片混合物として、次の抗体接触工程に用いることができる。また、部分的に一本鎖領域を有するDNAとして、ゲノムDNAを用いる場合には、適当な制限酵素を用いて断片化した後、次の抗体接触工程に用いることができる。前記制限酵素として、メチル化シトシンを含む突出末端を生じさせない制限酵素、例えば、C含有突出末端を生じさせない制限酵素(例えば、平滑末端を生じさせる制限酵素、又はCを含まない突出末端を生じさせる制限酵素)を使用すると、制限酵素処理前のゲノムDNAに始めから存在する一本鎖領域のメチル化分析に影響を与えない。更に、所望により、元から存在する一本鎖化領域に加え、人工的に一本鎖化領域(例えば、突出末端又は三本鎖構造)を更に形成させた状態で、次の抗体接触工程に用いることもできる。
【0050】
メチル化シトシン型製造方法における調製工程において、DNA材料として生体試料又はそれに由来する試料中の遊離DNA断片混合物を使用する場合、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンが露出しているDNA断片混合物を調製する手段としては、例えば、C含有突出末端(好ましくは、CG含有突出末端又はCNG含有突出末端)を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を用いる方法、あるいは、一本鎖化用核酸を用いる方法を挙げることができる。また、遊離DNA断片が全体的又は部分的に一本鎖化されている場合には、特別な処理を施すことなく、そのまま、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンが露出しているDNA断片混合物として、次の抗体接触工程に用いることができる。
【0051】
DNA材料として生体試料又はそれに由来する試料中の遊離DNA断片混合物を使用する場合、前記試料中に含まれる遊離DNA断片の量が、以下の各工程を実施するには不充分であることがある。遊離DNA断片量が不充分である場合には、DNA増幅(例えば、PCR)を行うことにより充分な量のDNA断片を確保することができる。例えば、前記試料中から精製した遊離DNA断片混合物に適当なアダプターを連結させた後、前記アダプターに対するプライマーを使用してDNA増幅を実施することができる。
【0052】
メチル化シトシン型製造方法における抗体接触工程では、前記調製工程で得られたDNA断片混合物と、抗メチル化シトシン抗体とを接触させ、前記抗体と反応して免疫複合体を形成したDNA断片群(複合体形成DNA断片群)と、前記抗体と反応しなかったDNA断片群(未反応DNA断片群)とに分離することができる。
【0053】
抗メチル化シトシン抗体は、メチル化シトシンを抗原として使用し、常法により調製することができる(例えば、特開2004-347508号公報)し、あるいは、市販品[例えば、抗5−メチルシトシン・モノクローナル抗体;和光純薬工業株式会社(大阪)cat#01519721]を購入することもできる。例えば、キーホールリンペット・ヘモシアニンに5−メチルシチジンを結合したものを免疫源とし、マウスに投与することにより作製することができる。
【0054】
DNA断片混合物と抗メチル化シトシン抗体との接触は、複合体形成DNA断片群と未反応DNA断片群とを分離することが可能な接触方法である限り、特に限定されるものではないが、例えば、抗メチル化シトシン抗体を適当な担体に担持させた状態で、DNA断片混合物と接触させることにより、あるいは、抗メチル化シトシン抗体とDNA断片混合物とを接触させた後、複合体形成DNA断片群を常法により精製することにより、これらを分離することができる。前者の具体的手法としては、例えば、抗メチル化シトシン抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより、あるいは、遠心により分離可能な粒子又は磁性粒子上に担持させた抗メチル化シトシン抗体を用いた抗原抗体反応により、複合体形成DNA断片群と未反応DNA断片群とを分離することができる。後者の具体的手法としては、例えば、プロテインA又はプロテインGを担持させたカラム又は粒子(例えば、磁性粒子)を用いることにより、複合体形成DNA断片群を精製することができる。
【0055】
調製工程で得られたメチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンが露出しているDNA断片混合物の内、メチル化シトシンが露出しているDNA断片は、抗メチル化シトシン抗体と免疫複合体を形成するため、複合体形成DNA断片群として分離される。一方、メチル化シトシンが露出していないDNA断片は、抗メチル化シトシン抗体と反応しないため、未反応DNA断片群として分離される。
【0056】
調製工程において、C含有突出末端を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を用いてDNA断片混合物を調製した場合には、前記DNA断片の両端はいずれもC含有突出末端である。抗メチル化シトシン抗体と接触させることにより分離した複合体形成DNA断片群に含まれるDNA断片は、両端のメチレーションサイトが両方ともメチル化されている(すなわち、2つのC含有突出末端の両方にメチル化シトシンが存在する)DNA断片である場合と、片方のみがメチル化されている(すなわち、2つのC含有突出末端の一方のみにメチル化シトシンが存在する)DNA断片である場合とがある。
【0057】
この場合(すなわち、C含有突出末端を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を用いてDNA断片混合物を調製した場合)、抗体接触工程におけるDNA断片混合物と抗メチル化シトシン抗体との接触を、以下に示す特定の条件下で実施することにより、両端のメチレーションサイトが両方ともメチル化されている(すなわち、2つのC含有突出末端の両方にメチル化シトシンが存在する)DNA断片のみを含む複合体形成DNA断片群と、未反応DNA断片群とに分離することができる。
【0058】
抗原抗体反応においては、抗体の2価結合は、1価結合に比べて約10(M−1)倍も強い親和性を示すことが公知である[例えば、Ivan Roitt, Jonathan Brostoff, and David Male著、多田富雄監訳、免疫学イラストレイテッド(原書第5版)、2000年2月10日発行、南江堂、第110頁(原著名:IMMUNOLOGY,
FIFTH EDITION)]。ここで、2価結合とは、一分子の抗体、あるいは、1つの担体に固定されている二分子の抗体が、2箇所の抗原結合部位で抗原に結合することを意味し、1価結合とは、一分子の抗体が1箇所の抗原結合部位で抗原に結合することを意味する。
【0059】
この点について、図1〜図4に沿って更に説明する。図1〜図4は、両端に突出末端を有する一分子の二本鎖DNA(1)と、一分子又は二分子の抗メチル化シトシン抗体(2)との結合の状態を示す模式図である。二本鎖DNA(1)の突出末端に記載の黒丸(図1〜図4)はメチル化シトシンを意味し、白丸(図1)はシトシンを意味する。
図1〜図4に示すように、一分子の抗体(2)には2箇所の抗原結合部位が存在している。1価結合では、その内の一方の抗原結合部位で、抗原である二本鎖DNA(1)と結合する(図1)。それに対して、2価結合では、一分子の抗体(2)がその2箇所の抗原結合部位を利用して一分子の抗原(1)に結合する(図2)か、あるいは、担体(3)に固定されている2分子の抗体(2)がそれぞれ1箇所の抗原結合部位を利用して一分子の抗原(1)に結合する(図3)。なお、図4では、二分子の抗体(2)がそれぞれの抗原結合部位1箇所を利用して一分子の抗原(1)に結合しているが、この場合の親和性は1価結合と同じであることが公知である。
【0060】
前述のように、2価結合と1価結合とでは親和性に差があるため、抗原抗体反応系における種々の条件を変化させることにより、1価結合を解離させると共に、2価結合を維持させることが可能である。抗原抗体間の結合は、例えば、静電気力による結合、水素結合、又は疎水結合などに基づくものであり、静電気力による結合は、例えば、塩濃度又はpHにより、水素結合は、例えば、尿素又はグアニジン塩酸濃度により、疎水結合は、例えば、ポリエチレングリコール濃度により、影響を受けることが知られている。
【0061】
例えば、抗原抗体反応系における塩(例えば、NaCl)濃度に関して、2価結合は維持されるが、1価結合は排除される(なお、2価結合及び1価結合が混在し、その割合において1価結合よりも2価結合の方が優位である場合も含む)条件は、用いる抗体又は塩の種類により変化することがあるが、例えば、後述の実施例に示す実験系を用いることにより、使用抗体毎に塩濃度範囲を容易に決定することができる。
また、塩濃度以外にも親和性に影響を与えることのできる条件、例えば、尿素、グアニジン塩酸、若しくはポリエチレングリコール濃度、又はpHについても、同様にして、2価結合は維持されるが、1価結合は排除される条件を、使用抗体毎に容易に決定することができる。
【0062】
また、抗体接触工程において、抗メチル化シトシン抗体と抗シトシン抗体とを組み合わせて用いることにより、一方の末端におけるメチレーションサイト(シトシン)のみがメチル化されている(すなわち、2つのC含有突出末端の一方のみにメチル化シトシンが存在する)DNA断片群を、複合体形成DNA断片群として取得することができる。
すなわち、調製工程で得られたDNA断片混合物と、抗メチル化シトシン抗体とを接触させ、前記抗メチル化シトシン抗体と反応して免疫複合体を形成したDNA断片群(複合体形成DNA断片群)と、前記抗メチル化シトシン抗体と反応しなかったDNA断片群(未反応DNA断片群)とに分離し、続いて、得られた複合体形成DNA断片群と抗シトシン抗体とを接触させ、前記抗シトシン抗体と反応して免疫複合体を形成したDNA断片群(複合体形成DNA断片群)と、前記抗シトシン抗体と反応しなかったDNA断片群(未反応DNA断片群)とに分離することにより、目的のDNA断片群を複合体形成DNA断片群として取得することができる。なお、抗メチル化シトシン抗体と抗シトシン抗体の接触順序は、逆であっても構わない。
あるいは、抗メチル化シトシン抗体を用いて、通常の条件下で抗体接触工程を実施した後、抗原抗体反応における1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で溶出することにより、一方の末端におけるメチレーションサイト(シトシン)のみがメチル化されているDNA断片群を取得することもできる。
なお、本明細書において「抗原抗体反応における通常の条件下」とは、抗原抗体反応で一般的に用いられる条件を意味し、特には、1価結合を維持可能な条件を意味する。
【0063】
これまで述べたように、抗体接触工程では、抗原抗体反応の実施条件を適宜選択することにより、あるいは、使用する抗体を適宜選択又は組み合わせることにより、DNA断片における両端のC含有突出末端におけるシトシンのメチル化状態の異なるDNA断片群を取得することができる。
例えば、抗メチル化シトシン抗体を使用し、通常条件下で抗原抗体反応を実施することにより、少なくとも一方の末端におけるメチレーションサイト(シトシン)がメチル化されている(すなわち、2つのC含有突出末端の少なくとも一方にメチル化シトシンが存在する)DNA断片群を、複合体形成DNA断片群として取得することができる。
また、抗メチル化シトシン抗体を使用し、1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で抗原抗体反応を実施することにより、両端のメチレーションサイト(シトシン)が両方ともメチル化されている(すなわち、2つのC含有突出末端の両方にメチル化シトシンが存在する)DNA断片群を、複合体形成DNA断片群として取得することができる。
更には、抗メチル化シトシン抗体及び抗シトシン抗体を組み合わせて使用し、1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で抗原抗体反応を実施することにより、一方の末端におけるメチレーションサイト(シトシン)のみがメチル化されている(すなわち、2つのC含有突出末端の一方のみにメチル化シトシンが存在する)DNA断片群を、複合体形成DNA断片群として取得することができる。
【0064】
メチル化シトシン型製造方法における抗体接触工程では、これまで述べたとおり、複合体形成DNA断片群と未反応DNA断片群とに分離することもできるが、前記抗体に対して高親和性を示すDNA断片群(高親和性DNA断片群)と、前記抗体に対して低親和性を示すDNA断片群(低親和性DNA断片群)とに分離することができる。例えば、抗体固定化カラム(抗体アフィニティーカラム)を用いたアフィニティークロマトグラフィーでは、抗原と抗体とが親和性を提示することができる条件を有する移動層(例えば、免疫複合体を解離させるために一般的に用いられる特定の塩濃度の緩衝液)中に抗原混合物を溶解し、これを、抗体固定化担体中を移動させることにより、親和性の差を利用して分離する技術が周知である(日本生化学会編、続生化学実験講座5「免疫生化学実験法」(1986年)、東京化学同人、東京都文京区千石3丁目36−7;Current Protocols in Immunology、WILEY社、8.2.1〜8.2.5)。
【0065】
本発明においても、例えば、用いる抗体及び担体、並びに分離対象のDNA混合物に応じて、クロマトグラフィーの条件(特に、親和性に関する条件)を適宜選択することにより、所望のDNA画分を得ることができる。適当な条件を有する移動層に、調製工程で得られたDNA断片混合物を溶解し、これを、抗メチル化シトシン抗体を固定化したアフィニティーカラム中を移動させることにより、例えば、(高親和性DNA断片群としての)前記抗体に2価結合で結合可能なDNA断片群と、(低親和性DNA断片群としての)前記抗体に1価結合で結合可能なDNA断片群とに分離することができる。
【0066】
親和性に影響を与える因子としては、例えば、共存化合物[例えば、塩(例えば、塩化ナトリウム)、グリセリン、ポリエチレングリコール、チオシアン酸塩(例えば、ナトリウム塩又はカリウム塩)、尿素、ハプテン]の種類又は濃度、pH等を挙げることができる。
【0067】
例えば、塩として塩化ナトリウムを用いる場合には、通常、0.05〜3mol/L、好ましくは0.15〜2mol/Lで実施することができる。グリセリンを用いる場合には、通常、0〜50%、好ましくは0〜30%で実施することができる。ポリエチレングリコールを用いる場合には、通常、0〜50%、好ましくは0〜20%で実施することができる。チオシアン酸塩を用いる場合には、通常、0〜3mol/L、好ましくは0〜1mol/Lで実施することができる。尿素を用いる場合には、通常、通常、0〜4mol/L、好ましくは0〜2mol/L、より好ましくは0〜1mol/Lで実施することができる。ハプテン(抗メチル化シトシン抗体を用いる場合には、メチル化シトシン)を用いる場合には、通常、0〜100mmol/L、好ましくは0〜20mmol/Lで実施することができる。これらの共存化合物濃度は、一定濃度で実施することもできるし、あるいは、連続的(すなわち、グラジエント溶出)又は断続的(すなわち、ステップワイズ溶出)に変化させながら実施することもできる。
【0068】
また、pHは、通常、pH2〜pH11.5、好ましくはpH4〜pH9、より好ましくはpH6〜pH8の範囲で実施することができる。また、pHグラジエントにより実施することもでき、例えば、pH7.5(結合時のpH)からpH4までのグラジエント、あるいは、pH7.5(結合時のpH)からpH11.5までのグラジエントにより実施することもできる。具体的には、例えば、10mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.5)/0.15mol/L−NaClから10mmol/L酢酸緩衝液(pH4.0)/0.15mol/L−NaClまでのグラジエント、あるいは、10mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.5)/0.15mol/L−NaClから50mmol/L−N−トリエタノールアミン(pH11.5)/0.15mol/L−NaClにより実施することができる。
【0069】
メチル化シトシン型製造方法における同定工程では、前記抗体接触工程で得られた各DNA断片群(好ましくは、複合体形成DNA断片群)に含まれるDNA断片を同定する。前記同定工程では、少なくとも、続いて実施する配置工程で使用する核酸を調製することができる程度まで、各DNA断片の情報を取得する。一般的には、前記核酸を設計可能な程度まで、各DNA断片の塩基配列を決定することが好ましく、常法に従って、各DNA断片をクローニングした後、あるいは、DNA断片群のまま直接、塩基配列を決定することができる。
【0070】
前記抗体接触工程を、抗原抗体反応における1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で実施した場合、抗体接触工程で得られた複合体形成DNA断片群には、両端のメチレーションサイトが両方ともメチル化されている(すなわち、2つのC含有突出末端の両方にメチル化シトシンが存在する)DNA断片のみが含まれる(図2又は図3)。この場合、同定工程では、両端のメチレーションサイトが両方ともメチル化されているDNA断片の情報を取得することができる。
なお、前記特定条件における抗原抗体反応を、抗体を担体に固定せずに実施した場合には、2価結合を維持することができるのは図2に示す場合だけであるので、両端のメチレーションサイトが両方ともメチル化されており、しかも、塩基長が約40bp(一分子の免疫グロブリンにおける2箇所の抗原結合部位間の距離に相当)であるDNA断片の情報のみを取得することができる。
【0071】
一方、通常の条件下で抗体接触工程を実施した場合、抗体接触工程で得られた複合体形成DNA断片群には、両端のメチレーションサイトが両方ともメチル化されている(すなわち、2つのC含有突出末端の両方にメチル化シトシンが存在する)DNA断片と、片方のみがメチル化されている(すなわち、2つのC含有突出末端の一方のみにメチル化シトシンが存在する)DNA断片とが混在している。この状態のままで同定工程を実施した場合、各DNA断片の情報を取得することができるが、各DNA断片が、両端のメチレーションサイトが両方ともメチル化されているDNA断片であるか、あるいは、片方のみがメチル化されているDNA断片であるかは区別することができない。
【0072】
同定工程においても、2価結合と1価結合における親和性の差を利用すると、両端のメチレーションサイトが両方ともメチル化されているDNA断片と、片方のみがメチル化されているDNA断片とを分離し、片方のみがメチル化されているDNA断片の情報を取得することができる。例えば、通常の条件下で抗体接触工程を実施した後、抗原抗体反応における1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で溶出するDNA断片を同定することにより、片方のみがメチル化されているDNA断片の情報を取得することができる。
【0073】
メチル化シトシン型製造方法における配置工程では、前記同定工程で同定されたDNA断片とそれぞれハイブリダイズ可能な核酸(例えば、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド)を基板上に配置する。
前記核酸は、同定工程で同定された各DNA断片の情報に基づいて設計すること以外は、DNAアレイの製造に関する常法に従って、設計及び調製することができる。
例えば、基板上に配置する全ての核酸に関してTmを揃えることができる点で、各DNA断片の塩基配列に基づいて化学合成したオリゴヌクレオチドを用いることが好ましい。あるいは、前記同定工程でクローニングした各DNA断片又はその部分断片を、そのまま、基板上に配置することもできる。更には、前記抗体接触工程で得られた複合体形成DNA群に含まれるDNA断片をそのまま、あるいは、その増幅物を基板上に配置することもできる。
【0074】
また、前記核酸は、DNAアレイの製造に関する常法に従って、基板上に配置することができる。基板上に核酸を配置する方法としては、例えば、基板上で直接オリゴヌクレオチドを合成する方法、あるいは、予め調製した核酸を基板上にスポットし、共有結合又はイオン結合等により基板上に固定する方法などを挙げることができる。
【0075】
本発明のメチル化シトシン型製造方法により製造したDNAアレイ、すなわち、本発明のメチル化シトシン型DNAアレイにおいては、調製工程で調製したDNA断片の内、特定領域にメチル化シトシンを含むDNA断片(すなわち、特定領域の少なくとも1つのシトシンがメチル化されているDNA断片)とハイブリダイズ可能な核酸が基板上に配置されている。なお、前記特定領域とは、例えば、C含有突出末端を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を用いた場合には、両端のC含有突出末端であり、一本鎖化用核酸を用いた場合には、一本鎖化用核酸の標的領域であり、ステムループ構造を含むDNA断片である場合には、ループ領域である。
【0076】
より具体的には、C含有突出末端を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を用いてDNA断片混合物を調製するメチル化シトシン型製造方法により製造したDNAアレイでは、両端に位置するC含有突出末端の少なくとも一方にメチル化シトシンを含むDNA断片(すなわち、C含有突出末端の少なくとも一方において、少なくとも1つのシトシンがメチル化されているDNA断片)とハイブリダイズ可能な核酸が基板上に配置されている。特に、抗体接触工程におけるDNA断片混合物と抗メチル化シトシン抗体との接触を、抗原抗体反応における1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で実施した場合には、両端に位置するC含有突出末端の両方にメチル化シトシンを含むDNA断片とハイブリダイズ可能な核酸が基板上に配置されている。また、抗メチル化シトシン抗体と抗シトシン抗体とを組み合わせて使用した場合、あるいは、通常の条件下で抗体接触工程を実施した後、抗原抗体反応における1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で溶出するDNA断片を同定した場合には、両端のC含有突出末端の一方のみにメチル化シトシンを含むDNA断片とハイブリダイズ可能な核酸が基板上に配置されている。
【0077】
また、一本鎖化用核酸を用いてDNA断片混合物を調製するメチル化シトシン型製造方法により製造したDNAアレイでは、一本鎖化した領域にメチル化シトシンを含むDNA断片(すなわち、一本鎖化した領域の少なくとも1つのシトシンがメチル化されているDNA断片)とハイブリダイズ可能な核酸が基板上に配置されている。特に、抗体接触工程におけるDNA断片混合物と抗メチル化シトシン抗体との接触を、抗原抗体反応における1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で実施した場合には、一本鎖化した領域に2つ以上のメチル化シトシンを含むDNA断片とハイブリダイズ可能な核酸が基板上に配置されている。なお、一本鎖化用核酸を用いてDNA断片混合物を調製する場合には、両端に露出するメチル化シトシン又はシトシンの影響を受けないように、両端を平滑末端にする処理を実施することが好ましい。
【0078】
更に、本発明のメチル化シトシン型DNAアレイにおいては、後述のシトシン型DNAアレイで用いることのできる、特定領域にシトシンを含むDNA断片(すなわち、特定領域の少なくとも1つのシトシンがメチル化されていないDNA断片)とハイブリダイズ可能な核酸を基板上に配置することができる。本発明のDNAアレイにおいて、特定領域にメチル化シトシンを含むDNA断片とハイブリダイズ可能な核酸と、特定領域にシトシンを含むDNA断片とハイブリダイズ可能な核酸とを、適宜分類して同時に基板上に配置すると、メチル化の程度が異なる複数のメチレーションサイトのメチル化について、一度に包括的に分析することができる。
【0079】
(2)シトシン型製造方法及びDNAアレイ
本発明のシトシン型製造方法における調製工程では、適当なDNA材料から、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンが露出しているDNA断片混合物を調製する。
前記調製工程で用いるDNA材料としては、メチル化シトシン型製造方法における調製工程で先述したDNA材料を用いることができる。
【0080】
但し、細胞のゲノムDNAを使用する場合には、前記細胞として、メチル化率の低い細胞を用いることが好ましい。シトシン型製造方法では、シトシンの有無に基づいて、DNAアレイに配置するDNA断片を選択するからである。メチル化率の低い細胞を用いることにより、調製工程で得られるDNA断片混合物中に含まれる、少なくとも1つのシトシンが露出しているDNA断片の比率を高めることができる。
メチル化率の低い細胞としては、例えば、正常細胞、ES細胞、又は組織幹細胞などを挙げることができる。また、1種類の細胞のみを用いることもできるし、複数種類の細胞の混合物として使用することもできる。
【0081】
シトシン型製造方法における調製工程において、DNA材料から、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンが露出しているDNA断片混合物を調製する手段としては、メチル化シトシン型製造方法における調製工程で先述したDNA断片混合物の調製手段を用いることができ、メチル化シトシン型製造方法の調製工程における前記調製手段に関する説明(但し、C含有突出末端を生じさせるメチル化非感受性制限酵素に関する説明を除く)が、そのまま、シトシン型製造方法における調製工程にも当てはまる。
【0082】
シトシン型製造方法における調製工程において、C含有突出末端を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を使用すると、ゲノムDNAの断片化と同時に、制限酵素により生じる突出末端に、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンを露出させることができる。
【0083】
高等動物では、5’−CG−3’配列におけるC(シトシン)がメチル化されるため、CG含有突出末端を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を用いることが好ましい。なお、シトシン型製造方法では、シトシンの有無に基づいて、DNAアレイに配置するDNA断片を選択するため、C含有突出末端にメチル化されないシトシンが含まれると、全てのDNA断片にシトシンが存在するため、DNA断片の選択ができない。このような制限酵素としては、表1に示すBsaWI、BsoBI、又はXmaIを挙げることができ、好ましくない。高等動物で用いることのできる酵素としては、例えば、表1に示すBssSI、MspI、又はTaqIを挙げることができる。
【0084】
また、植物では、5’−CNG−3’配列におけるC(シトシン)がメチル化されるため、CNG含有突出末端を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を用いることが好ましい。このような制限酵素としては、例えば、表2に示す制限酵素を挙げることができる。なお、表2に示すBsaWI又はXmaIでは、表2に示すように、下線で示すメチル化される可能性のあるCがそれぞれ2箇所存在する。これらの酵素を用いた場合、2箇所のCが同時にメチル化されている場合に、抗シトシン抗体と反応することができなくなる。
【0085】
シトシン型製造方法における抗体接触工程では、前記調製工程で得られたDNA断片混合物と、抗シトシン抗体とを接触させ、前記抗体と反応して免疫複合体を形成したDNA断片群(複合体形成DNA断片群)と、前記抗体と反応しなかったDNA断片群(未反応DNA断片群)とに分離するか、あるいは、前記抗体に対して高親和性を示すDNA断片群(高親和性DNA断片群)と、前記抗体に対して低親和性を示すDNA断片群(低親和性DNA断片群)とに分離することができる。
【0086】
抗シトシン抗体は、シトシンを抗原として使用し、常法により調製することができるし、あるいは、市販品を購入することもできる。例えば、キーホールリンペット・ヘモシアニンにシチジンを結合したものを免疫源とし、マウスに投与することにより作製することができる。
【0087】
DNA断片混合物と抗シトシン抗体との接触は、複合体形成DNA断片群と未反応DNA断片群とを分離することが可能な接触方法である限り、特に限定されるものではないが、例えば、抗シトシン抗体を適当な担体に担持させた状態で、DNA断片混合物と接触させることにより、あるいは、抗シトシン抗体とDNA断片混合物とを接触させた後、複合体形成DNA断片群を常法により精製することにより、これらを分離することができる。前者の具体的手法としては、例えば、抗シトシン抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより、あるいは、遠心により分離可能な粒子又は磁性粒子上に担持させた抗シトシン抗体を用いた抗原抗体反応により、複合体形成DNA断片群と未反応DNA断片群とを分離することができる。後者の具体的手法としては、例えば、プロテインA又はプロテインGを担持させたカラム又は粒子(例えば、磁性粒子)を用いることにより、複合体形成DNA断片群を精製することができる。
【0088】
調製工程で得られたメチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンが露出しているDNA断片混合物の内、シトシンが露出しているDNA断片は、抗シトシン抗体と免疫複合体を形成するため、複合体形成DNA断片群として分離される。一方、シトシンが露出していないDNA断片は、抗シトシン抗体と反応しないため、未反応DNA断片群として分離される。
【0089】
調製工程において、C含有突出末端を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を用いてDNA断片混合物を調製した場合には、前記DNA断片の両端はいずれもC含有突出末端である。抗シトシン抗体と接触させることにより分離した複合体形成DNA断片群に含まれるDNA断片は、両端のメチレーションサイトが両方ともメチル化されていない(すなわち、2つのC含有突出末端の両方にシトシンが存在する)DNA断片である場合と、片方のみがメチル化されていない(すなわち、2つのC含有突出末端の一方のみにシトシンが存在する)DNA断片である場合とがある。
【0090】
この場合(すなわち、C含有突出末端を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を用いてDNA断片混合物を調製した場合)、抗体接触工程におけるDNA断片混合物と抗シトシン抗体との接触を、所定の条件下で実施することにより、両端のメチレーションサイトが両方ともメチル化されていない(すなわち、2つのC含有突出末端の両方にシトシンが存在する)DNA断片のみを含む複合体形成DNA断片群と、未反応DNA断片群とに分離することができる。
前記条件については、メチル化シトシン型製造方法の抗体接触工程で先述した、抗原抗体反応系において1価結合を解離させると共に、2価結合を維持させることが可能な条件に関する説明が、そのまま、シトシン型製造方法における前記条件に当てはまる。
【0091】
抗体接触工程では、抗原抗体反応の実施条件を適宜選択することにより、あるいは、使用する抗体を適宜選択又は組み合わせることにより、DNA断片における両端のC含有突出末端におけるシトシンのメチル化状態の異なるDNA断片群を取得することができる。 例えば、抗シトシン抗体を使用し、通常条件下で抗原抗体反応を実施することにより、少なくとも一方の末端におけるメチレーションサイト(シトシン)がメチル化されていない(すなわち、2つのC含有突出末端の少なくとも一方にシトシンが存在する)DNA断片群を、複合体形成DNA断片群として取得することができる。
また、抗シトシン抗体を使用し、1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で抗原抗体反応を実施することにより、両端のメチレーションサイト(シトシン)が両方ともメチル化されていない(すなわち、2つのC含有突出末端の両方にシトシンが存在する)DNA断片群を、複合体形成DNA断片群として取得することができる。
更には、抗シトシン抗体及び抗メチル化シトシン抗体を組み合わせて使用し、1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で抗原抗体反応を実施することにより、一方の末端におけるメチレーションサイト(シトシン)のみがメチル化されていない(すなわち、2つのC含有突出末端の一方のみにシトシンが存在する)DNA断片群を、複合体形成DNA断片群として取得することができる。
【0092】
シトシン型製造方法における同定工程及び配置工程は、メチル化シトシン型製造方法における同定工程及び配置工程と同様にして実施することができる。すなわち、メチル化シトシン型製造方法における同定工程及び配置工程に関する説明が、そのまま、シトシン型製造方法における同定工程及び配置工程にも当てはまる。
【0093】
本発明のシトシン型製造方法により製造したDNAアレイ、すなわち、本発明のシトシン型DNAアレイにおいては、調製工程で調製したDNA断片の内、特定領域にシトシンを含むDNA断片(すなわち、特定領域の少なくとも1つのシトシンがメチル化されていないDNA断片)とハイブリダイズ可能な核酸が基板上に配置されている。なお、前記特定領域とは、例えば、C含有突出末端を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を用いた場合には、両端のC含有突出末端であり、一本鎖化用核酸を用いた場合には、一本鎖化用核酸の標的領域であり、ステムループ構造を含むDNA断片である場合には、ループ領域である。
【0094】
より具体的には、C含有突出末端を生じさせるメチル化非感受性制限酵素を用いてDNA断片混合物を調製するシトシン型製造方法により製造したDNAアレイでは、両端に位置するC含有突出末端の少なくとも一方にシトシンを含むDNA断片(すなわち、C含有突出末端の少なくとも一方において、少なくとも1つのシトシンがメチル化されていないDNA断片)とハイブリダイズ可能な核酸が基板上に配置されている。特に、抗体接触工程におけるDNA断片混合物と抗シトシン抗体との接触を、抗原抗体反応における1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で実施した場合には、両端に位置するC含有突出末端の両方にシトシンを含むDNA断片とハイブリダイズ可能な核酸が基板上に配置されている。また、抗シトシン抗体と抗メチル化シトシン抗体とを組み合わせて使用した場合、あるいは、通常の条件下で抗体接触工程を実施した後、抗原抗体反応における1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で溶出するDNA断片を同定した場合、両端のC含有突出末端の一方のみにシトシンを含むDNA断片とハイブリダイズ可能な核酸が基板上に配置されている。
【0095】
また、一本鎖化用核酸を用いてDNA断片混合物を調製するシトシン型製造方法により製造したDNAアレイでは、一本鎖化した領域にシトシンを含むDNA断片(すなわち、一本鎖化した領域の少なくとも1つのシトシンがメチル化されていないDNA断片)とハイブリダイズ可能な核酸が基板上に配置されている。特に、抗体接触工程におけるDNA断片混合物と抗シトシン抗体との接触を、抗原抗体反応における1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で実施した場合には、一本鎖化した領域に2つ以上のシトシンを含むDNA断片とハイブリダイズ可能な核酸が基板上に配置されている。なお、一本鎖化用核酸を用いてDNA断片混合物を調製する場合には、両端に露出するメチル化シトシン又はシトシンの影響を受けないように、両端を平滑末端にする処理を実施することが好ましい。
【0096】
更に、本発明のシトシン型DNAアレイにおいては、先述のメチル化シトシン型DNAアレイで用いることのできる、特定領域にメチル化シトシンを含むDNA断片(すなわち、特定領域の少なくとも1つのシトシンがメチル化されているDNA断片)とハイブリダイズ可能な核酸を基板上に配置することができる。本発明のDNAアレイにおいて、特定領域にメチル化シトシンを含むDNA断片とハイブリダイズ可能な核酸と、特定領域にシトシンを含むDNA断片とハイブリダイズ可能な核酸とを、適宜分類して同時に基板上に配置すると、メチル化の程度が異なる複数のメチレーションサイトのメチル化について、一度に包括的に分析することができる。
【0097】
(3)MONIC法
本発明のDNAアレイ製造方法の一態様であるMONIC法について、図5に沿って説明する。なお、以下の説明は、抗メチル化シトシン抗体を用いる態様(すなわち、メチル化シトシン型製造方法)を例にとって説明するが、抗シトシン抗体を用いても実施することが可能である。
【0098】
本発明のMONIC法では、出発材料であるゲノムDNA(又はその断片)1を、突出末端を生じさせる制限酵素で消化する前に、一本鎖DNAを分解するヌクレアーゼで処理することができる(工程1)。一般に、生体試料から調製したゲノムDNA(又はその断片)1は、処理前から存在するか、あるいは、操作中の人為的要因に由来する一本鎖構造、例えば、ステムループ構造1a又は突出末端1bを含んでおり、前記工程1の操作を実施することにより、これらの一本鎖構造を含まない、両端が完全に平滑化されたDNA断片2a,2bの混合物を得ることができる。一本鎖DNAを分解するヌクレアーゼとしては、例えば、マングビーン(Mung Bean)ヌクレアーゼ又はS1ヌクレアーゼを使用することができる。
【0099】
次に、得られた平滑化DNA断片混合物を、メチル化シトシン又はシトシンを含む突出末端を生じさせる制限酵素で消化することにより、突出末端にメチル化シトシン4又はシトシンが露出しているDNA断片3a,3b,3cの混合物を得ることができる(工程2)。前記DNA断片混合物には、両方の突出末端のいずれにもメチル化シトシンが存在しないDNA断片3a、一方の突出末端のみにメチル化シトシン4が存在するDNA断片3b、及び両方の突出末端にメチル化シトシン4が存在するDNA断片3cが含まれる。
【0100】
次に、DNA断片3a,3b,3cの混合物を、抗メチル化シトシン抗体と接触させることにより、免疫複合体を形成するDNA断片群と、未反応のDNA断片群とに分離する(工程3)。例えば、抗メチル化シトシン抗体を担持させたカラムに、前記混合物を通過させることにより、例えば、前記DNA断片3b,3cを含むカラム吸着画分と、前記DNA断片3aを含むカラム非吸着画分とに分離することができる。カラムの条件を適宜選択することにより、それ以外の組合せ、例えば、DNA断片3cを含むカラム吸着画分と、前記DNA断片3a,3bを含むカラム非吸着画分とに分離することができる。
【0101】
得られた各画分は、常法に基づいて、DNA断片の分析を実施し、それに基づいてDNAアレイを製造することができる。
【0102】
本発明のMONIC法では、ゲノムDNAを、一本鎖DNAを分解するヌクレアーゼで処理するため、ステムループ構造を有するゲノムDNAであっても、ステムループ構造上に存在するメチレーションサイトの影響を受けることなく、DNA断片の突出末端(又は一本鎖化領域)のメチル化の状態に応じて、DNA断片を分離することができる。
【0103】
(4)MONIC-Loop Trap法
本発明のDNAアレイ製造方法の一態様であるMONIC-Loop Trap法について、図6に沿って説明する。なお、以下の説明は、抗メチル化シトシン抗体を用いる態様(すなわち、メチル化シトシン型製造方法)を例にとって説明するが、抗シトシン抗体を用いても実施することが可能である。
【0104】
本発明のMONIC-Loop Trap法では、出発材料であるゲノムDNA(又はその断片)1を、平滑末端を生じさせる制限酵素で消化する(工程1)。前記工程1の操作を実施することにより、ステムループ構造1aを維持した状態で、両端が平滑末端であるDNA断片12,13,14の混合物を得ることができる。前記DNA断片混合物には、ステムループ構造を有するDNA断片と、ステムループ構造を有しないDNA断片13とが含まれる。なお、ステムループ構造を有するDNA断片には、ループ領域にメチル化シトシン4が露出しているDNA断片12と、ループ領域にメチル化シトシンが存在しないDNA断片14とが含まれる。
【0105】
次に、DNA断片混合物を、抗メチル化シトシン抗体と接触させることにより、免疫複合体を形成するDNA断片群と、未反応のDNA断片群とに分離する(工程2)。例えば、抗メチル化シトシン抗体を担持させたカラムに、前記混合物を通過させることにより、例えば、前記DNA断片12を含むカラム吸着画分と、前記DNA断片13,14を含むカラム非吸着画分とに分離することができる。
得られた各画分は、常法に基づいて、DNA断片の分析を実施し、それに基づいて所望のDNAアレイを製造することができる。
【0106】
[2]本発明のメチル化分析方法
本発明のメチル化分析方法は、調製工程、抗体接触工程、及び分析工程を含む。本発明のメチル化分析方法では、本発明のDNAアレイを用いることもできるし、それ以外のDNAアレイを用いることもできる。
本発明のメチル化分析方法には、抗体接触工程で用いる抗体の特異性の違いにより、少なくとも1つのメチル化シトシンが露出しているDNA断片を分析可能な方法(以下、メチル化シトシン型分析方法と称する)と、少なくとも1つのシトシンが露出しているDNA断片を分析可能な方法(以下、シトシン型分析方法と称する)とが含まれる。
【0107】
本発明のメチル化分析方法に含まれるメチル化シトシン型分析方法では、抗体接触工程で用いる抗体として、少なくとも抗メチル化シトシン抗体、すなわち、メチル化シトシンと特異的に反応するが、シトシンとは特異的に反応しない抗体を使用し、好ましくは、分析工程で用いるDNAアレイとして、本発明のメチル化シトシン型DNAアレイを使用する。
【0108】
一方、本発明のメチル化分析方法に含まれるシトシン型分析方法では、抗体接触工程で用いる抗体として、少なくとも抗シトシン抗体、すなわち、シトシンと特異的に反応するが、メチル化シトシンとは特異的に反応しない抗体を使用し、好ましくは、分析工程で用いるDNAアレイとして、本発明のシトシン型DNAアレイを使用する。
なお、前記メチル化シトシン型分析方法又はシトシン型分析方法において、抗メチル化シトシン抗体及び抗シトシン抗体を組み合わせて使用することもできる。
以下、メチル化シトシン型分析方法について説明し、続いて、シトシン型分析方法について説明する。
【0109】
(1)メチル化シトシン型分析方法
本発明のメチル化シトシン型分析方法における調製工程では、分析対象DNAから、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンが露出しているDNA断片混合物を調製する。
本発明のメチル化シトシン型分析方法において分析対象とすることのできるDNAは、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンを含む可能性のあるDNAである限り、特に限定されるものではなく、例えば、細胞(例えば、動物細胞又は植物細胞)のゲノムDNA、あるいは、生体試料又はそれに由来する試料(例えば、血液、血漿、血清、尿、リンパ液、髄液、唾液、腹水、羊水、粘液、乳汁、胆汁、胃液、又は透析実施後の人工透析液など)に存在する遊離DNA断片混合物を挙げることができる。
【0110】
前記DNA断片混合物を調製する手段としては、メチル化シトシン型製造方法における調製工程で先述したDNA断片混合物の調製手段を用いることができ、メチル化シトシン型製造方法の調製工程における前記調製手段に関する説明が、そのまま、メチル化シトシン型分析方法における調製工程にも当てはまる。
【0111】
本発明のメチル化シトシン型分析方法における抗体接触工程では、前記調製工程で得られたDNA断片混合物と、抗メチル化シトシン抗体とを接触させ、前記抗体と反応して免疫複合体を形成したDNA断片群(複合体形成DNA断片群)と、前記抗体と反応しなかったDNA断片群(未反応DNA断片群)とに分離するか、あるいは、前記抗体に対して高親和性を示すDNA断片群(高親和性DNA断片群)と、前記抗体に対して低親和性を示すDNA断片群(低親和性DNA断片群)とに分離することができる。
メチル化シトシン型分析方法における抗体接触工程は、メチル化シトシン型製造方法における抗体接触工程と同様にして実施することができる。すなわち、メチル化シトシン型製造方法における抗体接触工程に関する説明が、そのまま、メチル化シトシン型分析方法における抗体接触工程にも当てはまる。
【0112】
本発明のメチル化シトシン型分析方法における分析工程では、前記抗体接触工程で得られた複合体形成DNA断片群に含まれるDNA断片及び/又は未反応DNA断片群に含まれるDNA断片を、分析目的に応じて適宜選択可能なDNAアレイで分析する。
メチル化シトシン型製造方法又はシトシン型製造方法における抗体接触工程において先述したとおり、DNA断片群として、種々のDNA断片群、例えば、
少なくとも一方の末端におけるメチレーションサイト(シトシン)がメチル化されている(すなわち、2つのC含有突出末端の少なくとも一方にメチル化シトシンが存在する)DNA断片群、
両端のメチレーションサイト(シトシン)が両方ともメチル化されている(すなわち、2つのC含有突出末端の両方にメチル化シトシンが存在する)DNA断片群、
一方の末端におけるメチレーションサイト(シトシン)のみがメチル化されている(すなわち、2つのC含有突出末端の一方のみにメチル化シトシンが存在する)DNA断片群、少なくとも一方の末端におけるメチレーションサイト(シトシン)がメチル化されていない(すなわち、2つのC含有突出末端の少なくとも一方にシトシンが存在する)DNA断片群、
両端のメチレーションサイト(シトシン)が両方ともメチル化されていない(すなわち、2つのC含有突出末端の両方にシトシンが存在する)DNA断片群、又は
一方の末端におけるメチレーションサイト(シトシン)のみがメチル化されていない(すなわち、2つのC含有突出末端の一方のみにシトシンが存在する)DNA断片群
を取得することができる。本発明では、分析目的に応じて、これらのDNA断片群を適宜選択して使用することができる。
【0113】
また、本発明のメチル化シトシン型分析方法で用いることのできるDNAアレイとしては、例えば、本発明のメチル化シトシン型DNAアレイ若しくはシトシン型DNAアレイ、又は公知のDNAアレイを用いることができる。公知のDNAアレイとしては、例えば、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンを含む突出末端(例えば、CG含有突出末端)を生じさせるメチル化非感受性制限酵素(例えば、XmaI)でゲノムDNAを消化することにより得られるDNA断片とハイブリダイズ可能な核酸を基板上に配置したDNAアレイを挙げることができる。
【0114】
前記複合体形成DNA断片群に含まれるDNA断片は、DNAアレイによる分析に影響を与えない限り、免疫複合体を形成したままで、あるいは、抗メチル化シトシン抗体から分離した状態で、分析を実施することができる。一般的には、抗メチル化シトシン抗体は、適当な担体に担持させた状態で使用することが好ましい。
【0115】
DNAアレイによる分析は、常法に従って実施することができる。例えば、被検試料である前記DNA断片を、適当な標識物質(例えば、蛍光物質又は放射性物質)で予め標識した後、DNAアレイ上に配置した各核酸とハイブリダイズさせ、DNAアレイ上の各核酸と結合した標識化DNA断片に由来する各シグナルを分析(測定又は検出)することにより、各核酸とハイブリダイズ可能なDNA断片の存在の有無を網羅的に確認することができる。あるいは、複合体形成DNA断片群に含まれるDNA断片と、未反応DNA断片群に含まれるDNA断片とを、それぞれ別々の標識物質で標識して、DNAアレイにかけることもできる。
【0116】
本発明のメチル化シトシン型分析方法において、本発明のメチル化シトシン型DNAアレイを用いる場合には、例えば、抗体接触工程においてDNA断片混合物を抗メチル化シトシン抗体と接触させることにより、メチル化シトシンが露出しているDNA断片(複合体形成DNA断片群)と、メチル化シトシンが露出していないDNA断片(未反応DNA断片群)とを分離した後、メチル化シトシンが露出しているDNA断片のみを用いてDNAアレイによる分析を行うことができる。この場合、分析対象細胞におけるゲノムDNAのメチル化率が高い場合には、メチル化シトシンが露出しているDNA断片の割合が高くなるため、DNAアレイ上のポジティブスポットの数が多くなる(すなわち、ネガティブスポットの数が少なくなる)。それに対して、メチル化率が低い場合には、メチル化シトシンが露出しているDNA断片の割合が低くなるため、ポジティブスポットの数が少なくなる(すなわち、ネガティブスポットの数が多くなる)。
このように、各分析対象細胞におけるポジティブスポット及び/又はネガティブスポットの傾向(すなわち、数の大小)から、前記細胞のゲノムDNAにおけるメチル化率を判定することができ、更には、ポジティブスポット及び/又はネガティブスポットのプロフィールから、その細胞の状態(例えば、がん細胞の悪性度、細胞の分化状態、疾病への罹患の有無)についても把握することができる。
【0117】
また、本発明のメチル化シトシン型分析方法において、DNAアレイとして、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンを含む突出末端(例えば、CG含有突出末端)を生じさせるメチル化非感受性制限酵素(例えば、XmaI)でゲノムDNAを消化することにより得られるDNA断片とハイブリダイズ可能な核酸を基板上に配置したDNAアレイを用いる場合には、例えば、抗体接触工程においてDNA断片混合物を抗メチル化シトシン抗体と接触させることにより、メチル化シトシンが露出しているDNA断片(複合体形成DNA断片群)と、メチル化シトシンが露出していないDNA断片(未反応DNA断片群)とを分離した後、いずれか一方を前記DNAアレイにかけることにより、あるいは、前記分離後、別々の標識物質で標識し、両方を前記DNAアレイにかけることにより、メチル化の状態を把握することができる。なお、DNAアレイにかけるDNA断片量が不充分である場合には、予めDNA増幅(例えば、PCR)を実施し、充分量のDNA断片量を確保してから、DNAアレイによる分析を実施することもできる。
なお、抗体接触工程を、通常の条件下で実施した後、抗原抗体反応における1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で溶出させた場合、複合体形成DNA断片群には、両端のメチレーションサイトが両方ともメチル化されているDNA断片のみが含まれ、溶出された未反応DNA断片群には、片方のみがメチル化されているDNA断片のみが含まれる。これらのDNA断片群(いずれか一方又は両方)を前記DNAアレイにかけることによっても、メチル化の状態をより詳細に把握することができる。
【0118】
これらの分析方法を用いると、細胞ごとにメチル化の状態を調べることが可能であり、あるいは、細胞種をマッピングすることができる。
例えば、ゲノムDNAをXmaIで消化したDNA断片のうちの多くは、細胞種毎にメチル化が変動しないDNAであると考えられる。特に遺伝子領域でなく、パラサイト遺伝子などは、常に不活化されている必要性があると考えられる。がん細胞ではカラムに捕獲されるが、正常細胞では捕獲されないDNA断片か、あるいは逆で、正常細胞では捕獲されるが、がん細胞では捕獲されなくなるようなDNA断片に注目することが好ましい。
【0119】
(2)シトシン型分析方法
本発明のシトシン型分析方法における調製工程では、分析対象DNAから、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンが露出しているDNA断片混合物を調製する。
本発明のシトシン型分析方法において分析対象とすることのできるDNAは、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンを含む可能性のあるDNAである限り、特に限定されるものではなく、例えば、細胞(例えば、動物細胞又は植物細胞)のゲノムDNA、あるいは、生体試料又はそれに由来する試料(例えば、血液、血漿、血清、尿、リンパ液、髄液、唾液、腹水、羊水、粘液、乳汁、胆汁、胃液、又は透析実施後の人工透析液など)に存在する遊離DNA断片混合物を挙げることができる。
【0120】
前記DNA断片混合物を調製する手段としては、メチル化シトシン型製造方法における調製工程で先述したDNA断片混合物の調製手段を用いることができ、メチル化シトシン型製造方法の調製工程における前記調製手段に関する説明が、そのまま、シトシン型分析方法における調製工程にも当てはまる。
【0121】
本発明のシトシン型分析方法における抗体接触工程では、前記調製工程で得られたDNA断片混合物と、抗シトシン抗体とを接触させ、前記抗体と反応して免疫複合体を形成したDNA断片群(複合体形成DNA断片群)と、前記抗体と反応しなかったDNA断片群(未反応DNA断片群)とに分離するか、あるいは、前記抗体に対して高親和性を示すDNA断片群(高親和性DNA断片群)と、前記抗体に対して低親和性を示すDNA断片群(低親和性DNA断片群)とに分離することができる。
シトシン型分析方法における抗体接触工程は、シトシン型製造方法における抗体接触工程と同様にして実施することができる。すなわち、シトシン型製造方法における抗体接触工程に関する説明が、そのまま、シトシン型分析方法における抗体接触工程にも当てはまる。
【0122】
本発明のシトシン型分析方法における分析工程では、前記抗体接触工程で得られた複合体形成DNA断片群に含まれるDNA断片及び/又は未反応DNA断片群に含まれるDNA断片を、分析目的に応じて適宜選択可能なDNAアレイで分析する。
シトシン型分析方法における分析工程は、メチル化シトシン型分析方法における分析工程と同様にして実施することができ、メチル化シトシン型分析方法における分析工程に関する説明が、そのまま、シトシン型分析方法における分析工程にも当てはまる。
【0123】
本発明のシトシン型分析方法において、本発明のシトシン型DNAアレイを用いる場合には、例えば、抗体接触工程においてDNA断片混合物を抗シトシン抗体と接触させることにより、シトシンが露出しているDNA断片(複合体形成DNA断片群)と、シトシンが露出していないDNA断片(未反応DNA断片群)とを分離した後、シトシンが露出しているDNA断片のみを用いてDNAアレイによる分析を行うことができる。この場合、分析対象細胞におけるゲノムDNAのメチル化率が高い場合には、シトシンが露出しているDNA断片の割合が低くなるため、DNAアレイ上のポジティブスポットの数が少なくなる(すなわち、ネガティブスポットの数が多くなる)。それに対して、メチル化率が低い場合には、シトシンが露出しているDNA断片の割合が高くなるため、ポジティブスポットの数が多くなる(すなわち、ネガティブスポットの数が少なくなる)。
このように、各分析対象細胞におけるポジティブスポット及び/又はネガティブスポットの傾向(すなわち、数の大小)から、前記細胞のゲノムDNAにおけるメチル化率を判定することができ、更には、ポジティブスポット及び/又はネガティブスポットのプロフィールから、その細胞の状態(例えば、がん細胞の悪性度、細胞の分化状態、疾病への罹患の有無)についても把握することができる。
【0124】
また、本発明のシトシン型分析方法において、DNAアレイとして、メチル化シトシン又はメチル化される可能性のあるシトシンを含む突出末端(例えば、CG含有突出末端)を生じさせるメチル化非感受性制限酵素(例えば、XmaI)でゲノムDNAを消化することにより得られるDNA断片とハイブリダイズ可能な核酸を基板上に配置したDNAアレイを用いる場合には、例えば、抗体接触工程においてDNA断片混合物を抗シトシン抗体と接触させることにより、シトシンが露出しているDNA断片(複合体形成DNA断片群)と、シトシンが露出していないDNA断片(未反応DNA断片群)とを分離した後、いずれか一方を前記DNAアレイにかけることにより、あるいは、前記分離後、別々の標識物質で標識し、両方を前記DNAアレイにかけることにより、メチル化の状態を把握することができる。なお、DNAアレイにかけるDNA断片量が不充分である場合には、予めDNA増幅(例えば、PCR)を実施し、充分量のDNA断片量を確保してから、DNAアレイによる分析を実施することもできる。
なお、抗体接触工程を、通常の条件下で実施した後、抗原抗体反応における1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で溶出させた場合、複合体形成DNA断片群には、両端のメチレーションサイトが両方ともメチル化されていないDNA断片のみが含まれ、溶出された未反応DNA断片群には、片方のみがメチル化されていないDNA断片のみが含まれる。これらのDNA断片群(いずれか一方又は両方)を前記DNAアレイにかけることによっても、メチル化の状態をより詳細に把握することができる。
【0125】
一例として、本発明のメチル化分析方法におけるメチル化シトシン型分析方法(メチル化シトシン型アレイを用いる態様)及びシトシン型分析方法(シトシン型アレイを用いる態様)の主な特徴を、表3に示す。
【表3】

【0126】
[3]本発明のDNA精製方法
本発明のDNA精製方法では、突出末端を有する二本鎖DNA断片を、前記突出末端に含まれる塩基に対する抗体を用いて取得する。本発明のDNA精製方法は、例えば、本発明の製造方法又は本発明のメチル化分析方法における抗体接触工程に利用することができる。
【0127】
突出末端を有するDNA断片、例えば、制限酵素で消化して得られるDNA断片の公知の精製方法としては、例えば、ゲル電気泳動により分離した後、ゲルから溶出する方法が一般的である。しかしながら、この方法では、電気泳動を実施するため、必ずしも迅速にDNA断片を精製することはできなかった。
【0128】
一方、DNAを構成する各塩基に対する抗体は公知であるが、それを用いて一本鎖DNAを分離する方法は公知であるものの、前記抗体を用いて、制限酵素で消化して得られるDNA断片を分離する試みは全く行われていなかった。この理由は、本発明者が推測するに、二本鎖DNAでは各塩基が主鎖の内側に位置するため、抗塩基抗体が塩基に結合することが妨げられること、また、制限酵素により生じる突出末端の塩基長は、通常、2〜4塩基であり、抗塩基抗体が突出末端の塩基に結合することは立体障害等から困難と考えられていたためと思われる。
【0129】
本発明者は、本発明の製造方法における抗体接触工程に関する各種態様を検討していく過程において、DNA断片の突出末端の塩基に注目し、それに対する抗体を用いることにより、前記DNA断片を分離することが可能であることを見出した。このような短い突出末端における塩基に対して、立体障害等の影響を受けずに、抗原抗体反応が可能であることは、予想外の結果であった。
【0130】
本発明のDNA精製方法を適用することのできる二本鎖DNA断片は、突出末端を有する限り、特に限定されるものではなく、例えば、突出末端を生じさせる制限酵素で消化して得られるDNA断片、エキソヌクレアーゼで消化して得られるDNA断片、二種類の一本鎖DNAをハイブリダイズして得られる二本鎖DNA断片などを挙げることができる。突出末端の塩基長は、特に限定されるものではないが、例えば、10塩基以下であり、好ましくは制限酵素の消化により生じる突出末端の塩基長(通常、5塩基以下、好ましくは4塩基以下、より好ましくは3塩基以下、更に好ましくは2塩基以下)である。
【0131】
突出末端に含まれる塩基としては、天然のDNAに含まれる通常の塩基、例えば、シトシン、メチル化シトシン、アデニン、グアニン、又はチミン以外にも、酸化による化学修飾若しくは化学変換された塩基(例えば、グアニンのプリン環の8位が酸化された8−オキソグアニン)、あるいは、紫外線により架橋された塩基(例えば、チミジンダイマー)などを挙げることができる。突出末端に含まれる塩基に対する抗体としては、例えば、抗シトシン抗体、抗メチル化シトシン抗体、抗アデニン抗体、抗グアニン抗体、抗チミン抗体、抗8−オキソグアニン抗体、又は抗チミジンダイマー抗体などを挙げることができ、精製対象であるDNA断片の突出末端の塩基配列に応じて適宜選択することができる。
前記抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれであることもでき、狭義の抗体(すなわち、免疫グロブリン分子それ自体)が含まれるだけでなく、抗体断片、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、又はFvを用いることができる。
【0132】
精製対象であるDNA断片と抗塩基抗体との接触は、一般的な抗原抗体反応と同様にして実施することができる。前記接触を、抗原抗体反応における1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下で実施すると、両端が同一の突出末端であるDNA断片を、それ以外のDNAと分離することができる。例えば、2種類以上の制限酵素を用いてDNA消化を行った場合、制限酵素の種類に応じた種々の突出末端を有するDNA断片混合物が得られるが、前記条件下で抗原抗体反応を実施すると、両端が同一の突出末端であるDNA断片を、それ以外のDNA断片(例えば、両端が異なる突出末端であるDNA断片)と分離することができる。
【0133】
本発明のDNA精製方法によれば、例えば、ゲル電気泳動を実施することなく、突出末端に存在する特定塩基の有無を利用して、突出末端に前記塩基を含むDNA断片のみを精製することができる。
例えば、或るDNA断片をクローニングしたプラスミドから、2種類の制限酵素A及びBで前記DNA断片を切り出し、精製した後、更に、前記DNA断片(一端が制限酵素Aによる突出末端であり、他端が制限酵素Bによる突出末端を有する)を第3の制限酵素Cで2つの小断片に切断した場合、制限酵素A又はBにより生じる塩基配列中の特定塩基の有無に基づいて、ゲル電気泳動を実施することなく、前記小断片の一方のみを取得することができる。
また、本発明のDNA精製方法を利用すると、突出末端に特定塩基を含むDNA断片(1種類のDNA断片である場合と、複数種類のDNA断片の混合物である場合とを含む)のみを増幅することもできる。以下、本発明のDNA精製方法を利用した本発明のDNA増幅方法について説明する。
【0134】
本発明のDNA増幅方法では、例えば、DNA試料を突出末端を生じる制限酵素で消化した後、抗体を用いて目的のDNAのみを精製する。精製されたDNAは突出末端を有しているため、DNAリガーゼにより、前記DNAを再結合し、高分子量のDNAにすることができる。この場合、精製されたDNAが1種類のDNA断片であっても、あるいは、複数種類のDNA断片の混合物であっても構わない。得られた高分子量DNAを適当なDNA増幅系により増幅した後、最初に使用した制限酵素で再び断片化することにより、先に抗体で精製したDNAのみを選択的に増幅することができる。
【0135】
前記DNA増幅系としては、例えば、GenomiPhiを用いた増幅系(例えば、GenomiPhi DNA Amplification Kit, Cat. #25-6600-01; Amersham社)を挙げることができる。この増幅系は、50kbp以上で効率よくDNAを増幅することができ、例えば、数ナノグラムのDNAを数マイクログラムまで増幅することができる。また、ランダムプライマーを使用しているので、前記の抗体による精製で得られたDNAの全てを一様に増幅することが可能である。このように、前記DNA増幅系は、得られたDNAを一度に全て増幅可能な方法であればいずれの方法でも良く、特にこの方法に限定されることはない。例えば、抗体で精製したDNAにリンカーアダプターを接合(Ligate)し、前記リンカーアダプターに特異的に結合するオリゴDNAプライマーを用いてPCR法で増幅しても、同様な結果を得ることができる。
【0136】
本発明のDNA増幅方法を用いると、ゲノムDNAなどの、種々の遺伝子が含まれるDNAをそのまま鋳型にしてDNA増幅を行うよりも、目的のDNAを濃縮して増幅する方が高いS/N比を得ることができる。すなわち、これは、増幅したDNA中に目的のDNAがどの位含まれているかの判定が容易であることを意味する。
現在のところ、鋳型DNAのシトシンのメチル化をそのまま反映したDNA増幅産物を得ることは実現されていない。しかし、本発明によれば、制限酵素消化で作出されたDNA両端の突出部分、すなわち、突出した1本鎖DNA中のシトシンのメチル化を指標に前記抗体を用いて濃縮精製し、DNA増幅を行うことができるので、結果的には前記メチル化DNAのみをDNA増幅することができる。
このように、検査対象とするDNA試料中に、突出した1本鎖DNA中のシトシンがメチル化されていないDNA断片が多量に存在する場合であっても、突出した1本鎖DNA中のシトシンがメチル化されているDNA断片を効率よくDNA増幅することが可能となる。
【0137】
例えば、がんに罹患している患者では、がん組織から、がん特異的にメチル化されたDNA断片が血液中に微量流出している。しかし、がんに罹患していない正常な人であっても、血清中には数ナノグラム/mLの正常細胞由来のDNA断片が流れている。従って、被験者ががんに罹患しているか否かを分析するためには、前記の正常細胞由来のDNA断片に埋没したがん由来の異常なメチル化DNA断片を検出しなくてはならない。
本発明によれば、がん特異的にメチル化されたDNA断片を、先ず、抗体を用いて濃縮することができる。この濃縮精製されたDNA画分には、がん化によって異常なメチル化を受けたDNA断片が濃縮して存在することとなる。
【実施例】
【0138】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
《実施例1:メチル化シトシン型DNAアレイの製造》
(1)XmaI消化DNA画分の分離
ヒト正常繊維芽細胞であるTIG−1細胞[細胞集団倍化数(PDL)29〜30]から、常法に従ってゲノムDNAを抽出し、その0.5μgを制限酵素XmaI(10U)で2時間消化した。得られたDNA消化断片を10mmol/Lリン酸バッファー(PB)/50mmol/L−NaCl/0.05%ツイーン(Tween)20(pH7.15)1mLで希釈し、制限酵素用緩衝液に含まれる還元剤を希釈した。これに抗5−メチルシトシン・マウスモノクローナル抗体(特開2004-347508号公報;又は第25回日本分子生物学会年会プログラム・講演要旨集、2002年11月25日発行、演題番号2P-0111、p.717)10μgを添加し、室温で5分間放置した。反応後、前記反応液をプロテインAカラム[CIM
monolithic column Protein A HLD; BIA Separations d.o.o. (Slovenia) ;
http://www.monoliths.com/]に通し、10mmol/L−PB/0.15mol/L−NaCl/0.05%ツイーン20(2.5mL)でカラムを2回洗浄し、非吸着DNAをカラムから洗浄除去した。次に、前記カラムに10mmol/L−PB/0.4mmol/L−NaCl/0.05%ツイーン20(4mL)を通し、前記条件で解離するDNA断片をカラムから溶出させ、その画分を保存した(第1DNA画分)。更に、同緩衝液(5mL)でカラムを洗浄した後、0.3mol/L酢酸ナトリウム(pH4.5)2mLでカラムに吸着しているDNAをすべて溶出した(第2DNA画分)。
【0139】
得られた各DNA画分を定量したところ、第1DNA画分は総量16.7ngであり、第2DNA画分は総量7.2ngであった。なお、前記実施例では10μgの抗体を使用したが、この抗体添加量を増やすことにより、DNAのカラムへの結合量を増加させ、DNAの回収率を改善することができる。また、カラム長を長くすることによっても回収率を高めることができる。
【0140】
(2)DNA断片の増幅及びクローニング並びにDNAアレイの製造
前記実施例1(1)で得られた各画分に、3mol/L酢酸ナトリウムを10分の1容量加え、2.5倍量のエタノールを加え、−20℃で1時間放置し、遠心分離によりDNAを回収する。沈殿したDNAを常法により連結(ligate)して高分子量DNAとし、市販の増幅系(GenomiPhi DNA Amplification Kit, Cat.
#25-6600-01; Amersham社)を用いてDNA増幅を行う。増幅されたDNAを再びXmaIで切断し、これに含まれるDNA断片をそれぞれクローニングした後、各DNA断片の塩基配列を決定する。決定した塩基配列に基づいて、Tmを考慮しながら、DNAアレイに配置するオリゴヌクレオチドを設計し、化学合成する。合成したオリゴヌクレオチドを常法に基づいて基板上に配置することにより、本発明のDNAアレイを製造することができる。
【0141】
《実施例2:MONIC法によるDNA断片の分離》
(1)DNA断片混合物の調製
ヒトB細胞系がん細胞株(Burkitt
lymphoma Raji細胞;JCRB9012,JCRB細胞バンク)から常法に従ってゲノムDNAを精製し、これを10mmol/L−Tris−HCl(pH8.0)/100mmol/L−NaCl/25mmol/L−EDTA/0.5%SDS(30μL)に溶解した。このDNA溶液に、プロテイナーゼKの50%グリセリン溶液(20mg/mL)を、プロテイナーゼKの終濃度が0.4mg/mLとなるように添加し、55℃で2時間処理した。その後、反応液を常法に従ってフェノール/クロロホルム抽出、続いてエタノール沈殿を行った。得られたDNAの内、30μgを緩衝液[30mmol/L酢酸ナトリウム(pH5.0),1000mmol/L−NaCl,1mmol/L酢酸亜鉛,10%グリセロール]に溶かし、それに1U/μgDNAの割合でマングビーン(Mung
Bean)ヌクレアーゼ(タカラバイオ社)を加えて37℃にて30分間処理した。この処理によりゲノムDNAの1本鎖領域は除去され、完全平滑化される。
【0142】
次に、反応液をTE緩衝液[10mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH8.0),0.5mmol/L−EDTA]300μLで希釈後、タンパク質吸着フィルター(MicropureEZ;MILLIPORE社)にかけて短時間ろ過し、マングビーンヌクレアーゼを除去した。次に、回収したろ液を限外濾過膜(MicroconYM-5;MILLIPORE社)で10μL程度まで濃縮した後、2Unit/1μgDNAの割合になるように制限酵素BsaJI(New
England Biolab社)を用いて60℃で1時間半消化し、DNAを断片化した。
【0143】
(2)DNA断片の分離
得られたDNA断片混合物を、常法に従って、抗5−メチルシトシン抗体を担持させたアフィニティーカラムにかけ、所望のDNA画分を取得することができる。
【0144】
《実施例3:MONIC-Loop
Trap法によるDNA断片の分離》
磁気ビーズ(Dynabeads;Dynal biotech社)懸濁液500μL(4×10個ビーズ含有)を1.5mLチューブに入れ、PBS[10mmol/Lリン酸緩衝(pH7.5),0.15mol/L−NaCl]で数回洗浄した。実施例1で用いたのと同じ抗5−メチルシトシン・マウスモノクローナル抗体(clone
1-5GB4A5)4μg及び0.1% ウシ血清アルブミン(BSA)を添加したPBS(500μL)をビーズに加え、ローテーターを用いて室温で30分間反応させた。マグネットでビーズを回収し、上清を除去した。
【0145】
実施例2で調製したゲノムDNAを制限酵素AluIで消化したDNA断片(2μg)に、PBSを加えて500μLとし、これを回収したビーズに加えて、室温にて1時間反応させた。上清を除去後、集めたビーズにPBS500μLを加え、ローテーターで穏やかに転倒混和しながら10分間洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した。溶出バッファー[10mmol/Lリン酸緩衝(pH6.5),0.15mol/L−NaCl]500μを加え、ビーズを穏やかに懸濁し、マグネットでビーズを集めて上清を吸着画分として回収した。比較のために、マングビーンヌクレアーゼ処理したDNAを制限酵素AluI(平滑末端を生じさせる制限酵素)で消化したものを、前記ビーズと接触させたところ、ビーズに捕捉されたDNA断片は認められなかった。
【0146】
《実施例4:磁気ビーズを用いるMONIC法によるDNA断片の分離》
実施例2(1)で得られたDNA断片混合物(マグビーンヌクレアーゼ処理した後、制限酵素BsaJIで消化したもの)について、実施例3に記載の手順に従って、マグネットビーズを用いる分離工程を実施することにより、吸着画分を取得した。吸着前のDNA断片混合物、及び得られた吸着画分をそれぞれ鋳型として、配列番号1(センスプライマー)及び配列番号2(リバースプライマー)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーセットA、又は配列番号3(センスプライマー)及び配列番号4(リバースプライマー)で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーセットBを用いてPCRを実施した後、その増幅産物を8%アクリルアミドゲル電気泳動で分析した。
【0147】
なお、前記プライマーセットA及びBは、それぞれ、ヒトE−カドヘリン遺伝子のプロモーター領域の70bp(−238番〜−169番の塩基からなる配列)及び50bp(+11番〜+60番の塩基からなる配列)のDNA断片を増幅することができる。なお、前記塩基番号は、エキソン1の開始塩基を「+1」と表記した場合の番号である。プライマーセットAにより増幅される70bpのDNA断片は、両末端にCpG配列を含まないため、いずれの末端にもメチル化シトシンを含まない。一方、プライマーセットBにより増幅される50bpのDNA断片は、両末端にCpG配列を含み、両方の末端にメチル化シトシンを含む。なお、前記CpG配列がメチル化されていることは、本実施例で使用した細胞株におけるヒトE−カドヘリン遺伝子プロモーター領域が高度にメチル化されていることが既に報告されており、更に、別法によって、本発明者により予め確認済みである。
【0148】
電気泳動の結果を図7に示す。図7において、レーン1及び2は、吸着前のDNA断片混合物を鋳型として用い、レーン3及び4は、吸着画分を鋳型として用いた結果である。また、レーン1及び3は、プライマーセットA(両端のCpG配列の合計:0個)を用い、レーン2及び4は、プライマーセットB(両端のCpG配列の合計:2個)を用いた結果である。
【0149】
図7に示すとおり、吸着前のDNA断片混合物には、両端にメチル化シトシンを含まないDNA断片(70bp)と、両端にメチル化シトシンを含むDNA断片(50bp)とが含まれていた。一方、吸着画分には、両端にメチル化シトシンを含むDNA断片(50bp)が含まれていたが、両端にメチル化シトシンを含まないDNA断片(70bp)は含まれておらず、本発明方法により、両端にメチル化シトシンを含むDNA断片(50bp)と、両端にメチル化シトシンを含まないDNA断片(70bp)とを分離可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明のDNAアレイ及びメチル化分析方法は、DNAメチル化分析の用途に適用することができる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)修飾塩基又は塩基が露出しているDNA断片混合物を調製する工程、
(2)前記工程で得られたDNA断片混合物を、抗修飾塩基抗体又は抗塩基抗体と接触させ、前記抗体と反応して免疫複合体を形成したDNA断片群と、前記抗体と反応しなかったDNA断片群とに分離するか、あるいは、前記抗体に対して高親和性を示すDNA断片群と、前記抗体に対して低親和性を示すDNA断片群とに分離する工程、
(3)前記の各DNA断片群に含まれるDNA断片の全部又は一部を同定する工程、及び
(4)前記工程で同定されたDNA断片とそれぞれハイブリダイズ可能な核酸を基板上に配置する工程
を含むことを特徴とする、DNAアレイの製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)で調製する修飾塩基又は塩基が露出しているDNA断片混合物が、
(a)ゲノムDNAを、認識部位の修飾の有無に関係なく切断可能であって、しかも、修飾塩基又は塩基を含む突出末端を生じさせる制限酵素で消化することによって得られる、前記突出末端に修飾塩基又は塩基が露出しているDNA断片混合物、
(b)ゲノムDNAを断片化し、更に、その全長又は部分領域を一本鎖化することによって得られる、前記一本鎖化領域に修飾塩基又は塩基が露出している一本鎖DNA断片又は部分一本鎖DNA断片の混合物、あるいは、
(c)一本鎖状態の領域を含み、その一本鎖領域に修飾塩基又は塩基が露出しているDNA断片混合物
である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記DNA断片混合物(a)において、前記制限酵素でゲノムDNAを消化する前に、一本鎖DNAを分解するヌクレアーゼで前記ゲノムDNAが前処理されている、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記DNA断片混合物(b)において、全長又は部分領域を一本鎖化する前に、一本鎖DNAを分解するヌクレアーゼで前記ゲノムDNA又は断片化ゲノムDNAが前処理されている、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程(2)におけるDNA断片混合物と抗体との接触に際し、その少なくとも1つの抗原抗体反応を、抗原抗体反応における1価結合を解離させ、且つ2価結合を維持することのできる条件下において実施することにより、前記抗体と反応して免疫複合体を形成したDNA断片群として、前記抗体に2価結合で結合可能なDNA断片群と、前記抗体と反応しなかったDNA断片群として、前記抗体に1価結合で結合可能なDNA断片群とに分離する、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)におけるDNA断片混合物と抗体との接触に際し、その少なくとも1つの抗原抗体反応を、1価結合と2価結合との違いに基づいて、高親和性を示すDNA断片群と低親和性を示すDNA断片群とに分離することのできる条件下において実施することにより、高親和性を示すDNA断片群として、前記抗体に2価結合で結合可能なDNA断片群と、低親和性を示すDNA断片群として、前記抗体に1価結合で結合可能なDNA断片群とに分離する、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法により得ることのできる、DNAアレイ。
【請求項8】
(1)修飾塩基又は塩基を含む突出末端を両端に有するDNA断片であって、両方の突出末端に修飾塩基が存在するDNA断片、
(2)修飾塩基又は塩基を含む突出末端を両端に有するDNA断片であって、一方の突出末端のみに修飾塩基が存在するDNA断片、又は
(3)修飾塩基又は塩基を含む突出末端を両端に有するDNA断片であって、両方の突出末端のいずれにも修飾塩基が存在しないDNA断片
のいずれか1つのDNA断片のみを含むことを特徴とする、DNA断片群。
【請求項9】
請求項8に記載のDNA断片群に含まれるDNA断片の全部又は一部とそれぞれハイブリダイズ可能な核酸が基板上に配置されていることを特徴とする、DNAアレイ。
【請求項10】
(1)分析対象DNAから、修飾塩基又は塩基が露出しているDNA断片混合物を調製する工程、
(2)前記工程で得られたDNA断片混合物を、抗修飾塩基抗体又は抗塩基抗体と接触させ、前記抗体と反応して免疫複合体を形成したDNA断片群と、前記抗体と反応しなかったDNA断片群とに分離するか、あるいは、前記抗体に対して高親和性を示すDNA断片群と、前記抗体に対して低親和性を示すDNA断片群とに分離する工程、及び
(3)前記の各DNA断片群に含まれるDNA断片の全部又は一部をDNAアレイで分析する工程
を含むことを特徴とする、前記分析対象DNAの修飾化分析方法。
【請求項11】
突出末端を有する二本鎖DNA断片と、前記突出末端に含まれる塩基に対する抗体とを接触させることを特徴とする、前記DNA断片の精製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/080565
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510228(P2006−510228)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002490
【国際出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(594053121)財団法人 東京都高齢者研究・福祉振興財団 (9)
【Fターム(参考)】