説明

DNA定量方法、及び遺伝子解析方法

【課題】インベーダープラス法を利用したSNP判定等において、事前に特別な装置を用いてDNA量を測定することなく、反応に持ち込まれたDNA量を推定する。
【解決手段】まず、標的DNA10を含むサンプルと、前記標的DNA10上に多数存在する所定の反復配列を特異的に検出するためのシグナルプローブ21a、インベーダーオリゴ31a、フレットプローブ41a、及び酵素クリベースを有するインベーダー反応液と、を含む混合液を調製する。その後、前記混合液の温度を制御することによりインベーダー反応を行い、該インベーダー反応による蛍光シグナルの強度を予め作成した検量線と照合することにより前記混合液中における標的DNA量を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル中のDNAを定量するためのDNA定量方法、及びそれを利用した遺伝子解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子多型とは、遺伝子を構成しているDNA配列の個体差であり、一般には集団の1%以上の頻度で出現するものと定義されている。遺伝子多型の代表的なものとして、DNA塩基配列の一塩基のみが変異する一塩基多型(SNP:single nucleotide polymorphism)がある。一塩基多型には、病気の罹り易さや薬物代謝等に影響を及ぼすものがあることが知られており、病気罹患率の診断や投与薬物の効果、副作用の予測等のためにSNP部位の塩基の判別が行われている。
【0003】
一塩基多型を判定する方法の一つにインベーダー反応を用いた方法がある。インベーダー反応では、一塩基多型が生じている部位(SNP部位)の塩基配列を認識する2種類のオリゴヌクレオチド(シグナルプローブ)、SNP部位においてハイブリダイズしたシグナルプローブの下に侵入するオリゴヌクレオチド(インベーダーオリゴ)、オリゴヌクレオチドが重なり合った構造(侵入構造)を認識して切断する酵素(クリベース:登録商標)、前記各シグナルプローブに対応した異なる蛍光物質を含む2種類のフレットプローブ(FRETプローブ)を含む反応試薬が用いられる。
【0004】
前記反応試薬を判定対象のSNPを含むDNAと混合してインベーダー反応を実行させると、各シグナルプローブに対応するSNPの有無に応じて蛍光信号が発生する。この蛍光信号の強度を蛍光検出器によって検出することにより、各シグナルプローブに対応したSNPの有無や、そのSNPがホモ接合体であるかヘテロ接合体であるかを判定することができる(特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
反応試薬には過剰なシグナルプローブやフレットプローブが含まれており、過剰なシグナルプローブ等によってインベーダー反応が繰り返され、これにより蛍光信号が増幅される。このため、インベーダー法は検出感度が高く、ゲノムDNAからでもPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)等によるDNA増幅無しに判定を行うことが可能である。
【0006】
しかしながら、DNA増幅無しでインベーダー反応を行った場合、ゲノムDNAの濃度にもよるが、判定に十分な信号強度を得るまでに4〜8時間程度、場合によっては10時間以上を要する場合がある。一方、予めPCR等によってDNA増幅を行った場合には、インベーダー反応の反応時間を10分以下と著しく短縮することができる。
【0007】
そこで、近年では上記のインベーダー法とPCR法とを組み合わせたインベーダープラス法と呼ばれる手法が開発されている。インベーダープラス法では、予め反応容器にPCR反応用の試薬類とインベーダー反応用の試薬類とを全て収容し、まずインベーダー反応用のオリゴヌクレオチド(シグナルプローブ及びインベーダーオリゴ)がアニールしない条件でPCR反応を行い、Taqポリメラーゼを高温(約99℃)で失活させた後、一定時間の間、インベーダー反応の至適温度(約63℃)に維持することによりインベーダー反応を行う(非特許文献1参照)。このようなインベーダープラス法によれば、PCR反応の後、反応容器の蓋を開けて増幅産物を取り出したり、容器中に試薬を追加したりする必要がないため、簡便且つ迅速に高感度な分析を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-300894号公報
【特許文献2】WO 2006/106867 A1
【特許文献3】特開2001-8680号公報
【特許文献4】特開2001-299356号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・クリニカル・マイクロバイオロジー(J. Clin. Microbiol.)、(米国)、2006年、第44巻、第9号、pp.3443-3447
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のようなSNP判定において正確な判定を行うためには、反応系におけるDNA濃度を適当な範囲とする必要がある。例えばサンプル中のDNA量が多すぎる場合には、上記のインベーダー反応において非特異的な反応が起こり、本来シグナルが検出されないはずのネガティブなアレルに対応する蛍光信号が上昇して誤判定を引き起こす場合がある。一方、DNA量が少なすぎる場合には、インベーダー反応が進まないか、あるいは間違った反応が進む場合がある。特に上記のインベーダープラス法のように、PCR反応とインベーダー反応とを組み合わせる場合にDNA量が少ないことが問題となる。
【0011】
例えば、2種類のアレルを持ったゲノムに対してそれぞれのSNPに対応したシグナルプローブを用いてインベーダープラス法を実施した場合、本来ならば両アレルに対応する蛍光信号の上昇速度は一致するはずである。ところが、DNA量が少ない場合には、両者の蛍光信号の上昇速度が必ずしも一致せず、まれに片側の蛍光信号のみが非常に早い時期に上昇し、他方の蛍光信号が通常の検出時間内に検出されない場合がある。この場合、ヘテロ接合体のサンプルであるにもかかわらず、ホモ接合体であると誤判定される恐れがある。
【0012】
これは、ごく微量のDNAを増幅することができるPCR法と、ゲノムDNAから直接検出できる程の感度を持ったインベーダー法とを同一容器内で連続して行うことによって生じる問題であると考えられる。すなわち、PCR反応において鋳型となるDNA量が少なすぎることで両アレルの増幅量に偏りが生じ、更に、これらのPCR産物をそのままインベーダー反応に用いることでPCR産物量の偏りによるシグナルの差が増幅されたものと推定される。
【0013】
このため、従来こうしたインベーダープラス法を利用したSNP解析等を行う場合には、反応前に予めサンプル中のDNA量を測定し、必要に応じてサンプルの希釈又はエタノール沈殿等によるサンプル濃縮を行ってDNA濃度が所定の範囲内になるよう調節した上で、インベーダープラス法による解析に供するのが一般的である。しかしながら、こうしたDNAの濃度測定や濃度調節には多くの手間とコストが掛かり、作業効率を低下させると共に、解析のスループット向上の妨げとなっていた。
【0014】
また、近年では血液等の生体試料からDNA抽出を行うことなく直接PCR増幅を行う手法が開発されている(特許文献3、4参照)。このような手法を上記インベーダープラス法に適用すれば、血液等を直接反応液に添加してPCR反応及びインベーダー反応を行うことができるため、より簡便且つ迅速な解析を実現することができる。しかしながら、このような血液直接分析によるインベーダープラス法では反応系に持ち込まれるDNAの絶対量が不明であるため、上述のようにサンプル中のDNA量が少なすぎたことにより誤反応が生じたとしても問題の発見が困難な場合がある。
【0015】
本願発明は上記のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、インベーダープラス法などを利用した遺伝子解析において、事前に特別な装置を用いてDNA量を測定することなしに、反応に持ち込まれたDNA量を推定することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するためになされた本発明に係るDNA定量方法は、
a) 標的DNAを含むサンプルと、インベーダー反応によって前記標的DNA上の所定の反復配列を特異的に検出するためのインベーダー反応液と、を含む混合液を調製する調製工程と、
b) 前記混合液の温度を制御することによりインベーダー反応を行う反応工程と、
c) 前記インベーダー反応による、前記所定の反復配列の検出結果に基づいて前記混合液中における標的DNA量を推定するDNA量推定工程と、
を有することを特徴としている。
【0017】
ここで前記DNA量推定工程は、例えば前記インベーダー反応における所定の反復配列の検出信号に基づいて、所定時点における信号強度、又は信号強度の上昇速度から前記標的DNA量を推定するものなどとすることができる。
【0018】
反復配列とはゲノム上に繰り返し出現する塩基配列の総称であり、前記所定の反復配列としては、100-400塩基程度から成る短い散在性の反復配列であってゲノム中に極めて多量に存在するSINE(short interspersed nuclear element:短鎖散在反復配列)を利用することが望ましい。このようなSINEとしては、例えばAluファミリーの配列を利用することができる。Aluファミリーは約300塩基から成るSINEの一種であって、ヒトゲノム中には100万以上のコピーが存在している。なお、SINEとしては他にサケ・マス類に存在するHpaIファミリー、SmaIファミリー、及びFokIファミリーなど種々のものが知られており、定量対象とする標的DNAの種類に応じて適当なものを選択する。
【0019】
本発明で定量対象とする標的DNAは、反復配列を含むものであればいかなる生物種由来のものであってもよく、ヒトの他、種々の動物から取得されたDNAの定量に本発明を適用することができる。
【0020】
インベーダー反応の反応速度はサンプル中のDNA濃度に依存することが知られており、例えば前記のDNA量推定工程では、インベーダー反応による反復配列の検出結果を、予め濃度既知の標的DNAに基づいて作成した検量線と照合することによってサンプル中の標的DNA量を推定することができる。本発明に係るDNA定量方法によれば、ゲノム中に多数のコピーが存在する反復配列をインベーダー反応の検出対象とすることにより、PCR反応等によるDNA増幅を行うことなく比較的短い反応時間で定量を行うことが可能である。
【0021】
以上のような特性から、上記本発明のDNA定量方法はインベーダープラス法による遺伝子解析(例えばSNP判定)において、反応系に持ち込まれたDNAの量が適切であったか否かを判定し、これにより該遺伝子解析の結果の信頼性を評価するために利用することができる。
【0022】
すなわち、本発明に係る遺伝子解析方法は、標的DNAを含むサンプルを複数の反応容器に分注し、前記複数の反応容器のうち一部の反応容器においてインベーダープラス法による該標的DNAの遺伝子解析を行うと共に、前記複数の反応容器のうち他の反応容器において上述のDNA定量方法による標的DNAの定量を行い、該定量結果に基づいて前記遺伝子解析の信頼性を評価することを特徴とするものである。
【0023】
なお、上記本発明に係る遺伝子解析方法は、上記一部の反応容器と前記他の反応容器とを同時に温度制御することにより、前記一部の反応容器においてPCR反応及びインベーダー反応を行うと共に前記他の反応容器においてインベーダー反応を行うものとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明のDNA定量方法によれば、事前に特別な装置を用いてサンプル中のDNA量を測定することなく、反応に持ち込まれたDNA量を推定することが可能となる。また、上記本発明に係る遺伝子解析方法によれば、インベーダープラス法の手法の中で反応に持ち込まれたDNA量が適切であったか否かを知ることができ、信頼性の高い遺伝子解析を簡便且つ迅速に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るDNA定量方法を説明するための概念図。
【図2】本発明に係る遺伝子解析方法を説明するための概念図。
【図3】実験例4におけるFAM及びREDシグナルの測定値の経時変化。
【図4】実験例5におけるインベーダー反応開始後の各時刻の蛍光強度。
【図5】実験例6におけるインベーダー反応開始後の各時刻の蛍光強度。
【図6】実験例7におけるAlu1を標的とした場合のシグナル測定値の経時変化。
【図7】同実験例におけるAlu2を標的とした場合のシグナル測定値の経時変化。
【図8】実験例8におけるFAMシグナルの測定値の経時変化。
【図9】同実験例における150秒と300秒時点でのシグナル値を抽出したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施態様におけるDNA定量方法について、図面を参照しながら説明する。図1は本実施態様のDNA定量方法におけるインベーダー反応の様子を示す概念図である。
【0027】
<混合液の調製>
本方法では、まず、反応容器に定量対象とする標的DNA10を含むサンプルとインベーダー反応液を所定量ずつ添加し、これらを混合した混合液を調製する。
【0028】
上記標的DNA10は特に限定されるものではないが、例えば、ヒトやその他の生物のゲノムDNAなどとすることができる。また、こうした標的DNA10を含むサンプルとしては、体液や動植物組織などの生体試料から抽出したDNAを含んだDNA溶液のほか、DNA抽出操作を施していない生体試料を用いることもできる。なお、後者の場合には、予め界面活性剤処理等の前処理を行って生体試料を均質化しておくことが望ましい(特許文献3、4参照)。
【0029】
インベーダー反応液は、上記標的DNA10上に多数存在する所定の反復配列(例えばAlu配列)を特異的に検出するための各種オリゴヌクレオチド、及び酵素クリベース(Cleavase:構造特異的DNA分解酵素)を含んでいる。ここで各種オリゴヌクレオチドとは、上記反復配列に特異的にハイブリダイズするシグナルプローブ21aと、該シグナルプローブ21aの下に侵入するようにして上記標的DNA10にハイブリダイズするインベーダーオリゴ31a、及び前記シグナルプローブ21aに対応したフレット(FRET)プローブ41aを含む。
【0030】
シグナルプローブ21aは3’末端側に検出しようとする反復配列の少なくとも一部と相補的な領域を有し、5’末端側に検出しようとする配列とは無関係な配列から成るフラップ(flap)領域22aを有している。また、フレットプローブ41aは前記シグナルプローブ21aのフラップ領域22aと相補的な配列から成る領域を有しており、蛍光色素Fと消光剤(クエンチャー)Qが結合している。
【0031】
<インベーダー反応>
続いて、上記混合液をインベーダー反応の至適温度(例えば63℃)に維持することによってインベーダー反応を行わせる。
【0032】
この反応では、標的DNA10上に存在する所定の反復配列にシグナルプローブ21aがハイブリダイズする。また、このときインベーダーオリゴ31aも標的DNA10にハイブリダイズし、シグナルプローブ21aと1塩基がオーバーラップした構造をとる。これにより形成される三塩基重複構造を酵素クリベースが構造特異的に認識してシグナルプローブ21aのフラップ領域22aを切断する(以上、第1反応)。
【0033】
前記第1反応によって遊離したフラップ断片22aは、フレットプローブ41aにハイブリダイズして再び三塩基の重複構造を形成する。この構造を再び酵素クリベースが認識してフレットプローブ41aを所定の位置で切断する(以上、第2反応)。フレットプローブ41a上では蛍光色素Fと消光剤Qとが近接しており、消光剤Qによって蛍光が抑制された状態になっているが、クリベースによってフレットプローブ41aが切断されると蛍光色素Fが消光剤Qから離れて蛍光シグナルを生じるようになる。
【0034】
なお、上記の第1反応においてフラップ領域22aが切除されたシグナルプローブ21aは標的DNA10から遊離し、そこに新たなシグナルプローブ21aがハイブリダイズして同様の反応が繰り返される。これにより、フラップ断片22aが経時的に蓄積されて蛍光シグナルが増幅される。また、本発明で検出対象とする反復配列は標的DNA10上に多数存在しており、上記第1反応は標的DNA10上の複数箇所で同時に進行するため、予めPCR等によるDNA増幅を行わなくても、数分〜数十分程度の短い反応時間で十分な蛍光シグナルを得ることができる。
【0035】
ここで得られる蛍光シグナルは標的DNA10の存在量を反映しているため、該蛍光シグナルの上昇速度又は所定の時点における蛍光シグナルの強度を、予め濃度既知の標的DNA10を用いて作成した検量線(シグナル上昇速度又はシグナル強度と標的DNA濃度との関係を示すもの)と照合することにより、サンプル中の標的DNA量を推定することができる。
【0036】
上記のような本実施形態に係るDNA定量方法を利用すれば、インベーダープラス法を用いたSNP判定等の遺伝子解析において、事前にサンプル中のDNA量を測定すること無しに、反応系に持ち込まれたDNA量が適切であったか否かを推定することができる。以下、これについて図2を用いて説明する。
【0037】
まず、SNP判定の対象とする単一のサンプル(例えば血液等の生体試料やそこから単離したDNAの溶液)を複数の反応容器(複数の反応チューブ又はマイクロプレート上の複数のウェル)に分注し、その内少なくとも1つの反応容器(以下、DNA定量用の反応容器と呼ぶ)に上述のDNA定量方法のためのインベーダー反応液を添加し、他の反応容器(以下、SNP判定用の反応容器と呼ぶ)にはSNP判定のためのPCR反応液及びインベーダー反応液を添加する。
【0038】
前記SNP判定のためのPCR反応液とは、判定対象とするSNP部位を挟むように設計されたプライマー対(フォワードプライマー51及びリバースプライマー52)と、Taqポリメラーゼ等のDNA合成酵素、及び4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)を少なくとも含むものである。また、SNP判定のためのインベーダー反応液とは、検出しようとするSNPに特異的にハイブリダイズするシグナルプローブ21bと、該シグナルプローブ21bの下に侵入するようにして標的DNAのPCR産物11にハイブリダイズするインベーダーオリゴ31b、及び前記のシグナルプローブ21bから遊離するフラップ断片22bと結合して蛍光を発するフレットプローブ41b、及び酵素クリベースを含んでいる。なお、SNP判定においては1つの反応容器内で2種類のSNPを検出することも可能である。その場合には、各SNPに対応した2種類のシグナルプローブと各シグナルプローブに対応した異なる蛍光を発する2種類のフレットプローブとをインベーダー反応液中に存在させることで、蛍光波長の違いにより各SNPに起因する蛍光シグナルを区別して検出することができる。
【0039】
続いて、上記の各反応容器を所定の装置によって同時に温度調節することによってPCR反応の温度サイクル及びインベーダー反応の至適温度で処理し、各反応容器から発生する蛍光シグナルを測定する。
【0040】
PCR反応の温度サイクルは、変性工程、プライマー付着(アニーリング)工程、及びプライマー伸長工程の3工程、又は変性工程と、プライマー付着及びプライマー伸長を同時に行うプライマー付着・伸長工程との2工程を含み、インベーダー反応用のオリゴヌクレオチド(シグナルプローブ21a、b及びインベーダーオリゴ31a、b)がアニールしない条件とする。このようなPCR温度サイクルとしては、例えば、変性工程が94℃で1分間、プライマー付着工程が65℃で1分間、プライマー伸長工程が72℃で1分間、もしくは変性工程が94℃で1分間、プライマー付着・伸長工程が68℃で1分間などとすることができる。
このようなサイクルを所定の回数繰り返すことにより、前記SNP判定用の反応容器内において、プライマー対51、52で挟まれる標的DNA10上の領域が増幅される。なお、DNA定量用の反応容器にはPCR反応液が添加されていないため、前記温度サイクルによる処理の間もPCR反応は起こらず、標的DNA10は増幅されない。
【0041】
PCRの温度サイクルを所定の回数繰り返した後、各反応容器を高温(例えば99℃)で加熱することによってSNP判定用の反応容器内のポリメラーゼを失活させ、その後、一定時間に亘って、インベーダー反応の至適温度(例えば63℃)に維持することによってインベーダー反応を行わせる。このとき、SNP判定用の反応容器内では標的DNA由来の各PCR産物11にSNP判定用のシグナルプローブ21b及びインベーダーオリゴ31bがハイブリダイズし、これにより形成される三塩基重複構造をクリベースが認識してシグナルプローブ21bのフラップ領域22bを切断する。これにより、遊離したフラップ断片22bはフレットプローブ41bにハイブリダイズして再び三塩基重複構造を形成する。これを再び酵素クリベースが認識してフレットプローブ41bを切断することによって蛍光シグナルが発生する。一方、DNA定量用の反応容器内では、標的DNA上に多数存在する所定の反復配列(例えばAlu配列)の部位にそれぞれシグナルプローブ21a及びインベーダーオリゴ31aがハイブリダイズし、上記と同様の反応によって遊離したフラップ断片22aがフレットプローブ41aにハイプリダイズして最終的に蛍光シグナルが発生する。
【0042】
その後、DNA定量用の反応容器からの蛍光シグナルの測定結果に基づいて初期の標的DNA量、すなわち各反応容器に持ち込まれたサンプル由来のDNA量を推定する。そして、その結果に基づいて、SNP判定用の反応容器からの蛍光シグナルに基づくSNP判定の信頼性を評価する。例えば、標的DNA量について所定の閾値を設定し、上記DNA定量による濃度推定の結果がこの閾値よりも低かった場合には、同じサンプルを用いて得られたSNP判定の結果を破棄するようにすることで誤った判定結果の利用を防止することができる。
【0043】
なお、本発明のDNA定量方法は、上記のSNP判定のみならず、インベーダープラス法を用いた遺伝子解析全般に適用可能であり、例えば、インベーダープラス法による細菌やウイルスの同定、検出等の妥当性を評価するために利用することもできる。
【0044】
また、本発明のDNA定量方法ではゲノム中に大量に存在する反復配列を利用するため、PCRによるDNA増幅を経ることなく短い反応時間で定量に十分な強度のシグナルを得ることができる。その結果、PCR反応の影響を受けることなくDNA量を推定することができるため、インベーダープラス法を行う過程で何らかの不具合が生じた場合にもその原因を特定しやすくなる。すなわち、インベーダープラス法を利用したSNP判定等において本来得られるべきシグナルが得られなかった場合や、本来検出されるはずのシグナルが得られなかった場合には、当初のDNA量が不十分であるとか、何らかの阻害物質の影響等によりPCR反応が適切に行われていないなどの原因が考えられる。このような場合に、該SNP判定と同時に行われた上記のDNA定量によってDNA量は適切であったとの結果が得られた場合には、PCR反応の段階で何らかの不具合が生じていることが予想される。
【0045】
以上の通り、本実施形態に係るDNA定量方法によれば、遺伝子解析のためのインベーダープラス法の操作の中でサンプル中のDNAを定量し、反応に持ち込まれたDNA量が適切であったか否かを知ることができるため、解析効率を向上させることができる。
【0046】
なお、上記のPCR反応、インベーダー反応、及び蛍光検出は個別の装置で行ってもよく、あるいは、サーマルサイクラーと蛍光検出器の機能を兼ね備えた一台の装置(例えば、温調機能付きマイクロプレートリーダ等)で行ってもよい。また、上記のインベーダープラス法による遺伝子解析及びDNA定量を行う際の反応容器としては、汎用的なPCR用のシングルチューブや連結チューブ、又はマイクロプレート等を用いることができるほか、基板上に多数のウェルを形成して成るマイクロチップ(例えば特開2003-070456、WO/2008/053751)を利用することもできる。
【実施例】
【0047】
以下、従来技術が有する課題及び本発明の作用効果を検証するために行った実験例について説明する。
【0048】
[実験例1]
本実験例は、合成オリゴヌクレオチド(以下、「合成オリゴ」と略称する)をテンプレートとしてインベーダープラス法の検出感度を調べたものである。
【0049】
(サンプルの準備)
まず、インベーダープラス法における標的DNAとするため、以下の配列1、2から成る2種類の合成オリゴからPCRによって2本鎖のDNAを合成した。
配列1:AAACTCAAAGGAATTGACGGGGGCTGTGTCATGTCAAGCAGACTGAGCTCGATGGCTAGACGAACTGT
配列2:AGAAAGGAGGTGATCCAGCCGCAGCTGTGAGAGTGTCGCCGACATGAGACAGTTCGTCTAGCCATCGA
PCRは、10mM Tris-HCl、50mM KCl、5mM MgCl2、各0.8μMの合成オリゴ、各160μMのdATP、dCTP、dGTP、及びdTTP、2.5 unitsのHybriPol DNA Polymerase(バイオライン社、英国)を含む反応液を使用し、94℃で1分間のプレヒーティングの後、94℃で5秒間、59℃で5秒間、72℃で5秒間の条件で20サイクル、最後に72℃で1分間のポリメライゼーションを行った。上記2種類の合成オリゴの3'端側には、相補的な配列が含まれており、PCR反応によって、互いを鋳型及びプライマーとしたDNA合成が行われ、反応液中の合成オリゴの数だけ2本鎖のPCR産物が得られる。
以上により得られたPCR産物をDW(蒸留水)で10の10乗倍希釈及び10の11乗倍希釈したものを、それぞれ後述のインベーダープラス法におけるPCR反応及びインベーダー反応(以下、インベーダープラス反応と呼ぶ)のサンプルとした。
【0050】
(反応液の調製)
反応液は、10mM Tris-HCl、50mM KCl、10mM MgCl2、各0.5μMのプライマー、各0.6μMのシグナルプローブ、各0.3μMのインベーダーオリゴ、各40μMのdATP、dCTP、dGTP及びdTTP、0.3 unitsのHybriPol DNA Polymerase(バイオライン社、英国)、90unitsのCleavase、FRETプローブ(Third Wave Technologies社)を含んだ反応液(2.5μl)を用いた。なお、FRETプローブは蛍光色素(FAM)で標識されている。
プライマーは、それぞれ以下の配列3,4のものを合成して使用した。
配列3:AAACTCAAAGGAATTGACGGGGGC
配列4:AGAAAGGAGGTGATCCAGCCGCA
上記プライマーによるPCR産物を検出するためのシグナルプローブ、インベーダーオリゴとしては、Universal Invader(Third Wave Technologies社、米国)プログラムにて設計したものをそれぞれ使用した。
【0051】
(インベーダープラス反応)
マイクロプレートの各ウェルに上記反応液とサンプル0.1μlを加えて全量2.5μlの混合液とし、95℃、1分間のプレヒーティングの後、94℃ 3秒間、68℃ 5秒間の条件で32サイクルでPCR反応を行った。その後、ポリメラーゼを失活させるために、99℃で3分間処理を行った後、63℃でインベーダー反応させた。なお、インベーダープラス反応及び蛍光測定には、MX3000P(ストラタジーン社)を使用した。
【0052】
表1に上記のインベーダー反応開始後、0秒、150秒、300秒の3点におけるFAMシグナルの測光結果を示す。なおテスト1〜12はマイクロプレートの各ウェルに収容された各混合液に相当し、サンプルの希釈倍率以外の組成はいずれも同一となっている。表中では、3000以上のシグナル上昇が認められたものを増幅有(○)とした。
【0053】
【表1】

【0054】
10乗希釈の反応系(表中のテスト1, 2)では、2つのウェルで共にシグナル上昇が認められ、11乗希釈の反応系(表中のテスト3〜12)では10ウェル中4ウェルでシグナルの上昇が認められた。本例において各混合液中に存在する標的DNAの個数は、10乗希釈の反応系で推定6個、11乗希釈の反応系で0.6個となる。従って、11乗希釈の反応系に着目すると、反応液中に標的DNAが1個あるかないかの反応系において10ウェル中4ウェルで標的DNAを検出できたこととなる。
【0055】
[実験例2]
本実験例は、インベーダープラス反応によるSNP判定において標的DNAが低濃度の場合に、サンプルがヘテロ接合体であるのに一方のシグナルしか上がらず、ホモ接合体のようになる現象が起こることを示したものである。
【0056】
(サンプルの準備)
サンプルには、コリエル研究所のDNAパネルのうち、PD35、PD18を選択して使用した。前者はCYP2C9の*2アレルを、後者はCYP2C9の*3アレルをそれぞれへテロで持つものである。各サンプルの吸光度を測定してDNA濃度がそれぞれ1.9ng/μl、及び7.8ng/μlであることを確認し、これらをそれぞれ5倍ずつ段階希釈したものをインベーダープラス反応のサンプルとして使用した。
【0057】
(反応液の調製)
本実験例では1つのウェルで2種類の塩基配列(すなわち、各SNP部位の野生型と変異型)を同時に検出できるよう、各反応液には、2種類のシグナルプローブ、及びインベーダーオリゴと、各シグナルプローブに対応した異なる蛍光物質(FAM、RED)を含む2種類のFRETプローブとを添加した。それ以外の点は、実験例1と同様にして反応液を調製した。
プライマーは、CYP2C9*2の検出用として以下の配列5、6のものを、CYP2C9*3の検出用として以下の配列7、8のものをそれぞれ合成して使用した。
配列5:TCCTGTTAGGAATTGTTTTCAGCAATGGAAAGAA
配列6:AGTAGTCCAGTAAGGTCAGTGATATGGAGTAGGG
配列7:GGAGCCCCTGCATGCAAGACAGGA
配列8:TGGGGACTTCGAAAACATGGAGTTGCAG
CYP2C9*2検出用、及びCYP2C9*3の検出用のシグナルプローブ及びインベーダーオリゴは、実験例1と同様のプログラムにて設計したものを使用した。
【0058】
(インベーダープラス反応)
マイクロプレートの各ウェルに上記反応液とサンプル0.1μlを加えて全量2.5μlの混合液とした。インベーダープラス反応は、95℃、10秒間のプレヒーティングの後、94℃ 1秒間、68℃ 1秒間の条件で32サイクルのPCR反応を行い、その後、ポリメラーゼを失活させるために99℃で3分間処理を行った後、63℃でインベーダー反応を行った。なお、インベーダープラス反応及び蛍光測定は実験例1と同様の装置にて行った。
【0059】
表2に、インベーダー反応開始後、0秒、150秒、300秒、450秒の4点におけるFAMシグナル(野生型に相当)及びREDシグナル(変異型に相当)の測光結果を示す。ここでは段階的な蛍光強度の上昇が認められたものを、シグナル有りと判断した。なお、表中の「2C9*2」、「2C9*3」はそれぞれCYP2C9*2、CYP2C9*3を意味している。また、表中の「Both Signals」は、FAM及びREDが共にシグナル有りと判断されたことを意味し、「Grey(Both Signals)」は両シグナルともその有無が不明であったことを、「No Signals」は両方ともシグナル無しと判断されたことを意味している。
【0060】
【表2】

【0061】
表2から明らかなように、本例ではいずれのウェルにおいてもFAM及びREDの両方のシグナルが立ち上がらなければならないにも関わらず、希釈倍率が上がるに従って一方のシグナルのみが上昇する頻度が高くなっている。ここで、CYP2C9*2のサンプル濃度0.12pg/μlのケースのように、両方のシグナルが立ち上がらない場合は反応に何らかの不具合が生じたことが明らかであるため誤判定を招くおそれはないが、一方のシグナルのみが立ち上がった場合には、そのサンプルはヘテロ接合体であると誤判定されることになる。
【0062】
[実験例3]
本実験例では、インベーダープラス反応を利用したSNP判定において、PCRによるDNA増幅が多すぎる場合に正しい判定が困難になる例を示す。
【0063】
(サンプルの準備)
血液10μlを界面活性剤を含む前処理液100μlと混合することによって前処理(詳細は特開2001-299356号を参照)を行い、これを水で20倍に希釈したものをサンプルとした。なお、本例では、後述の各SNP部位が野生型のホモ接合体である2名のボランティアの血液を使用した。
【0064】
(反応液の調製)
本実験例ではサンプルとして上記のような血液の希釈液を使用するため、反応液としては、10mM Tris-HCl、50mM KCl、10mM MgCl2 、各0.5μMのプライマー、各0.6μMのプローブ、各0.3μMのインベーダーオリゴ、各40μM のdATP、dCTP、dGTPm及びdTTP、0.3 units のHybriPol DNA Polymerase(バイオライン社、英国)、90 unitsのCleavase、FRETプローブ(Third Wave Technologies社)に加え、ポリアミン、硫酸化多糖、界面活性剤、及びDTTを含む反応液を使用した。
【0065】
判定対象とする標的SNPとしては、前述のCYP2C9の二つのSNPに加えてVKORC1のSNP(rs9934438)を用いた。CYP2C9の二つのSNP部位を増幅、又は検出するためのプライマー、シグナルプローブ、及びインベーダーオリゴとしては、実験例2と同様のものを使用した。
VKORC1のSNP部位(rs9934438)を増幅するためのプライマーとしては、以下の配列9、10のものを合成して使用した。
配列9:TGGACCCTGCCCGAGAAAGGTGATT
配列10:CATGGAATCCTGACGTGGCCAAAGG
また、このSNP部位(rs9934438)を検出するためのシグナルプローブ及びインベーダーオリゴは、実験例1と同様のプログラムにて設計したものを使用した。
【0066】
(インベーダープラス反応)
上記の反応液にサンプル1μlを加えて全量2.5μlとし、実験例1に準じてインベーダープラス反応及び測光を行った。
【0067】
表3にインベーダー反応開始後、0秒、150秒、300秒の3点におけるFAM及びREDシグナルの強度、及び各シグナルの上昇割合を示す。表中の「2C9*2」、「2C9*3」はそれぞれCYP2C9*2、CYP2C9*3を意味している。なお、CYP2C9の*2, *3は、いずれもFAMが野生型、REDが変異型に相当し、VKORC1はREDが野生型、FAMが変異型に相当する。表中の150/0、300/0、300/150は、各測光時点におけるシグナルの上昇割合を表しており、例えば「150/0」の列は、反応開始後0秒と150秒とにおけるシグナル強度の比率を表している。また、表中のSample1、2はそれぞれ各血液提供者の血液を用いた試行を表している。
【0068】
【表3】

【0069】
この表から、CYP2C9の2つのSNP(*2, *3)については、野生型に対応するFAMのシグナルのみが上昇し、変異型に対応するREDのシグナル上昇はわずかであることが認められるが、VKORC1(rs9934438)については、Sample1の150/0比及びSample2の300/0比から明らかなように、野生型に対応するREDのシグナルだけでなく、本来シグナルが上がらないはずのFAMについてもシグナルの上昇が認められる。
【0070】
上記のようなバックグラウンドの上昇はPCRのサイクル数が多いことに起因するものと考えられる。なお、通常のインベーダープラス反応ではPCRのサイクル数が30回であるところ、本例では32回としている(実験例1、2でもPCRのサイクル数は32回であるが、これは低濃度のサンプルを使用しているためである)。なお、同様の現象は、混合液中の当初のDNA量が多い場合にも観察される。
【0071】
[実験例4]
本実験例では、インベーダープラス法における標的DNA量と反応液量の関係に着目した試験を行った。サンプルとしては前述のPD35を使用し、CYP2C9*2を標的SNPとした。
【0072】
実験条件は実験例2に準じるが、上記混合液の総量を、2.5、7.5、15μlの3通りに変化させた。また、サンプルは希釈せずに添加量を2通り(上記各混合液の総量の1/25量、又は1/125量)設定し、合計6通りの条件で4回の試行(n1〜n4)を行った。
【0073】
図3に、本実験例におけるFAM及びREDシグナルの測定値の経時変化を示す。各グラフ中の黒色の線がFAMシグナルを、灰色の線がREDシグナルを表している。混合液の液量が2.5μlの場合(左端の2列)には、サンプル濃度が高いもの(25倍希釈:左側の列)でも高頻度で誤反応が観察された(すなわち、本来ならFAMとREDの両方のシグナルが立ち上がるべきところ、一方のシグナルのみが上昇していた)。また、混合液の液量が7.5μlの場合(中央の2列)には、サンプル濃度が低いもの(125倍希釈:右側の列)で誤反応が見られた。一方、混合液の液量が15μlのもの(右端の2列)では、全試行中1試行のみ(n4:一番下の行)で誤反応があったものの、その頻度は著しく低かった。
【0074】
このことから、サンプルのDNA濃度が低くても反応系全体の液量が多ければ、標的DNAの絶対量が稼げるために反応時の問題が起こりにくく、液量が少ない場合には、標的DNAの絶対量が少なくなるために誤反応が起こりやすくなると考えられる。
【0075】
[実験例5]
本実験例では、標的DNAの濃度によって、インベーダープラス法の反応速度が変化する例を示す。
【0076】
(サンプルの準備)
界面活性剤を含む前処理液100μlに血液を5μl、3μl又は、1μl添加して前処理を行い、それぞれを水で20倍に希釈したものをサンプルとした。なお、血液は実験例3の2名のボランティアのうちの1名のものを使用した。
【0077】
(反応液の調整)
反応液は実験例3に準じて調製した。標的SNPとしては、VKORC1のSNP(rs9923231)と上述のCYP2C9*3を使用し、CYP2C9*3部位を増幅、又は検出するためのプライマー、シグナルプローブ、及びインベーダーオリゴとしては、実験例2と同様のものを使用した。
VKORC1のSNP部位(rs9923231)を増幅するためのプライマーとしては、以下の配列11と配列12のものを合成して使用した。
配列11:CACCTCGGCCTCCCAAAATGCTAGG
配列12:GGGATCCCTCTGGGAAGTCAAGCAA
また、このSNP部位(rs9923231)を検出するためのシグナルプローブ及びインベーダーオリゴは、実験例1と同様のプログラムにて設計したものを使用した。
【0078】
(インベーダープラス反応)
上記の反応液にサンプル1μlを加えて総量2.5μlの混合液とし、インベーダープラス反応を行った。インベーダープラス反応は、まずPCRとして、95℃ 10秒間プレヒーティングの後、94℃ 3秒間、68℃ 5秒間の条件で30サイクル行い、その後、ポリメラーゼを失活させるために、99℃ 3分間処理した後、63℃でインベーダー反応させた。測光は、実験例1に準じて行った。
【0079】
図4に、インベーダー反応開始後の各時刻における蛍光強度を示す。図中の「2C9*3」、「VK4」は、それぞれCYP2C9*3、VKORC1(rs9923231)を意味している。CYP2C9*3は反応開始後、0秒、150秒、及び300秒の3点で測光し(図4(a)の0、15、30のグラフ)、VKORC1(rs9923231)は、反応開始後、0秒、100秒、及び200秒の3点で測光を行った(図4(b)の0、10、20のグラフ)。
【0080】
図から明らかなように、血液量が少なくなるに従って各測光タイミングでの蛍光強度が低下していることが観察された。
【0081】
以上の結果から、インベーダープラス法におけるインベーダー反応の速度は、血液量、すなわちサンプル中のDNA濃度に依存して変化するものと考えられる。
【0082】
[実験例6]
本実験例は、実験例5と同様の実験をサンプルの濃度を変えて行ったものである。なお、ここでは標的SNPとして、VKORC1の2種類のSNP(rs9923231及びrs9934438)を使用した。
【0083】
(サンプルの準備)
界面活性剤を含む前処理液100μlに実験例5と同一人の血液を10μl添加して前処理を行い、それぞれを水で20倍に希釈したもの(これを「基本サンプル」と呼ぶ)、及びこれを更に、2倍、10倍、40倍に希釈したものをサンプルとした。
【0084】
(反応液の調整及びインベーダープラス反応)
反応液の調製及びインベーダープラス反応は実験例5に準じて行った。但し、上記2つの標的SNPの領域を増幅するためのプライマー、及びこれらを検出するためのシグナルプローブ、及びインベーダーオリゴとしては、それぞれ実験例3、5に記載のものを使用した。
【0085】
図5に本実験例におけるインベーダー反応開始から0、150、300秒後の蛍光強度を示す。なお、図中ではVKORC1(rs9934438)を「VK1」、VKORC1(rs9923231)を「VK4」と表記している。図5(a)はVKORC1(rs9934438)を、図5(b)はVKORC1(rs9923231)を標的とした際の結果を示しており、図中の*1, *1/2, *1/10, *1/40は、それぞれ上記の基本サンプル、及び該基本サンプルを2倍、10倍、40倍に希釈したサンプルに相当する。
【0086】
この図から明らかなように、希釈倍率を大きくした場合でも、実験例5と同様にDNA濃度に依存して反応速度が変化していることが確認できた。すなわち、インベーダープラス法の反応速度は、所定のDNA濃度範囲においてはその濃度に依存して変化するが(実験例5、6)、極端にDNA量が少ない場合には、意図しないシグナルが上昇する場合がある(実験例2、4)。
【0087】
[実験例7]
本実験例は、本発明に係るDNA定量方法の効果を検証するために行ったものである。
【0088】
(サンプルの準備)
標的DNAとしてコリエル研究所のDNAパネルのうちPD22を使用し、該DNAの濃度が3000pg/μl、600pg/μl、125pg/μl、25pg/μlとなるよう調製した4種類のDNA溶液を本実験例におけるサンプルとして使用した。
【0089】
(反応液の調製)
反応液の組成は実験例2に準じるが、プライマー、ポリメラーゼ、及びdNTPは含まないものとした。
【0090】
インベーダー反応の検出対象となる標的部位としては、
Alu配列(配列13): GGCCGGGTGCGGTGGCTCACGCCTGTAATCCCAGCACTTTGGGAGGCCGAGGCGGGCGGATCACGAGGTCAAGAGATCGAGACCATCCCGGCTAAAACGGTGAAACCCCGTCTCTACTAAAAATACAAAAAAATTAGCCGGGCGTAGTGGCGGGCGCCTGTAGTCCCAGCTACTTGGGAGGCTGAGGCAGGAGAATGGCGTGAACCCGGGAGGCGGAGCTTGCAGTGAGCCGAGATCCCGCCACTGCACTCCAGCCTGGGCGACAGAGCGAGACTCCGTCTCAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGAAAAAAAA
の中からランダムに選択した下記の2つの部位(Alu1、Alu2)を使用した。
Alu1(配列14):GGCCGGGCGCGGTGGCTCACGCCTGTAATCCCAGCACTTTGGGAGGCCGAGGCGGGCGGA
Alu2(配列15):GCCTGTAGTCCCAGCTACTTGGGAGGCTGAGGCAGGAGAATGGCGTG
【0091】
前記のAlu 1を検出するためのシグナルプローブ、インベーダーオリゴは、それぞれ実験例1と同様のプログラムにて設計した以下の配列16、17のものを合成して使用した(なお、下記のFlapはフラップ領域を表している)。
配列16:Flap-CGCGCCGAGGATCCCAGCACTTTGG
配列17:GGTGGCTCACGCCTGTAA
また、前記のAlu 2を検出するためのシグナルプローブ、インベーダーオリゴは、それぞれ前記プログラムにて設計した以下の配列18、19のものを合成して使用した。
配列18:Flap-CGCGCCGAGGGGCTGAGGCAGGA
配列19:TGTAGTCCCAGCTACTTGGGAG
なお、FRETプローブは、FAM標識されたものを使用し、Alu1の検出とAlu2の検出はそれぞれ異なる反応容器で行った。
【0092】
(インベーダープラス反応)
マイクロプレートの各ウェルに上記の反応液とサンプル0.1μlを加えて全量2.5μlの混合液とし、実験例2と同様の温度条件で処理し、インベーダー反応の開始時点から10秒おきにFAMシグナルを測定した。なお、ここではインベーダープラス反応の温度条件で処理をおこなっているが、本例の反応液中にはPCR用の試薬類は含まれていないため、実際には、PCR反応は起こらずにインベーダー反応のみが進行する。
【0093】
Alu1を検出対象とした場合の測定結果を図6に、Alu2を検出対象とした場合の測定結果を図7に示す。いずれも、シグナル上昇が無くなった時(即ちプラトー到達時)の値を100として値を補正してある。同図から明らかなように、濃度の高い3000pg/μlと600pg/μlの比較では、大きな差は認められないものの、Alu1、Alu2のどちらを検出対象とした場合においても濃度依存的に反応速度が変化することが確認できた。
【0094】
[実験例8]
本実験例は、実験例7と同様の実験をサンプルのDNA濃度をより細かく設定して行ったものである。
【0095】
本例では、サンプルのDNA濃度を300pg/μl、150pg/μl、75pg/μl、25pg/μl、12.5pg/μlの4種類とした点以外は実施例7と同様の試薬組成及び反応条件で実験を行った。但し、本例ではAlu2のみを検出対象とした。
【0096】
本例によるFAMシグナルの測定結果を図8に、同図のグラフから150秒と300秒時点でのシグナル値を抽出したグラフを図9に示す。なお、いずれもプラトー到達時の値を100として値を補正してある。
【0097】
これらの図から明らかなように、300pg/μlから12.5pg/μlにかけて、DNA量が少なくなるに従って反応速度が遅くなることが確認できた。以上により、本発明の定量方法によれば反応系中のDNA量が少ない場合であっても、DNA増幅を行うことなく濃度推定が可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0098】
10…標的DNA
11…標的DNA由来のPCR産物
21a、21b…シグナルプローブ
22a、22b…フラップ断片
31a、31b…インベーダーオリゴ
41a、41b…フレットプローブ
51、52…プライマー
F…蛍光物質
Q…消光剤
【配列表フリーテキスト】
【0099】
配列1:合成オリゴヌクレオチド
配列2:合成オリゴヌクレオチド
配列3:PCRプライマー
配列4:PCRプライマー
配列5:PCRプライマー
配列6:PCRプライマー
配列7:PCRプライマー
配列8:PCRプライマー
配列9:PCRプライマー
配列10:PCRプライマー
配列11:PCRプライマー
配列12:PCRプライマー
配列16:インベーダー反応用のシグナルプローブ
配列17:インベーダー反応用のインベーダーオリゴ
配列18:インベーダー反応用のシグナルプローブ
配列19:インベーダー反応用のインベーダーオリゴ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 標的DNAを含むサンプルと、インベーダー反応によって前記標的DNA上の所定の反復配列を特異的に検出するためのインベーダー反応液と、を含む混合液を調製する調製工程と、
b) 前記混合液の温度を制御することによりインベーダー反応を行う反応工程と、
c) 前記インベーダー反応による、前記所定の反復配列の検出結果に基づいて前記混合液中における標的DNA量を推定するDNA量推定工程と、
を有することを特徴とするDNA定量方法。
【請求項2】
前記所定の反復配列がSINE(short interspersed nuclear element)であることを特徴とする請求項1に記載のDNA定量方法。
【請求項3】
前記SINEがAluファミリーの配列であることを特徴とする請求項2に記載のDNA定量方法。
【請求項4】
前記DNA量推定工程が、前記インベーダー反応における所定の反復配列の検出信号に基づいて、所定時点における信号強度、又は信号強度の上昇速度から前記標的DNA量を推定するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のDNA定量方法。
【請求項5】
標的DNAを含むサンプルを複数の反応容器に分注し、一部の反応容器においてインベーダープラス法による該標的DNAの遺伝子解析を行うと共に、他の反応容器において請求項1〜4のいずれかに記載のDNA定量方法による標的DNAの定量を行い、該定量結果に基づいて前記遺伝子解析の信頼性を評価することを特徴とする遺伝子解析方法。
【請求項6】
前記一部の反応容器と前記他の反応容器とを同時に温度制御することにより、前記一部の反応容器においてPCR反応及びインベーダー反応を行うと共に前記他の反応容器においてインベーダー反応を行うことを特徴とする請求項5に記載の遺伝子解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−158183(P2010−158183A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1118(P2009−1118)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】