説明

DNA検出用ミクロ電子工学センサ装置

本発明は、例えばDNAフラグメントのようなオリゴヌクレオチドなどの生体目標物質20の調査のためのミクロ電子工学センサ装置及び方法に関する。一実施例において、この装置は、反応面RSを有し、この面に目標特定反応物10が付されかつこの面がサンプル室部SCと選択的制御可能な加熱素子HEのアレイとの間に設けられる。サンプル室部SCの温度プロファイルは、例えばPCR及び/又は混成の被制御溶解のための条件を提供するために必要に応じて制御されることができる。反応物10及び/又は目標物質20は、目標物質20が反応物10に結合すると変化する蛍光のような可観測特性を持つラベル12を有し、当該特性は、例えば光センサSEのようなセンサ素子のアレイにより検出される。ラベル12の蛍光は、異なる蛍光ラベル22へFRETにより伝達されるのが好ましく、或いは目標物質20が結合すると消光されるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標特定反応物及びセンサ構成部の使用を有する、少なくとも1つの生物学的目標物質、特に核酸分子又はそのフラグメントの調査のためのミクロ電子工学センサ装置に関する。本発明はさらに、少なくとも1つの生物学的目標物質の調査及びミクロ電子工学センサ装置の使用のための方法を有するものである。
【背景技術】
【0002】
米国特許出願に係る文献のUS2005/0009070A1は、マルチウェルプレートを有し、そのプレートの反応ウェルにおける温度をポリメラーゼ連鎖反応(PCR;polymerase chain reaction)の最適条件を提供するよう選択的に制御することができるようにした小型バイオセンサを開示している。米国特許出願に係る文献のUS6864140B2においては、(バイオ)ケミカル反応が行われるサンプル室部の近くにある基板上の多結晶シリコン上に形成された薄膜トランジスタの形態の局部加熱素子とともにマイクロセンサが記述されている。しかしながら、サンプル室部におけるサンプルのさらなる調査は、この既知の装置では不可能である。さらに、米国特許出願に係る文献のUS6867048B2は、センサ素子のアレイを持つマイクロチップが加熱素子を持つ膜上に配されたミクロ電子工学バイオセンサを開示している。この膜は、全てのセンサ素子に対して同じようにして隣接のサンプル室部における温度を制御することを可能にしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この状況に基づいて、本発明の目的は、特にPCR処理に関しての生物学的目標物質のより正確かつコスト効率の良い調査のための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、請求項1によるミクロ電子工学センサ装置、請求項18による方法、請求項29による使用により達成される。好適な実施例は、従属請求項に開示される。
【0005】
本発明によるミクロ電子工学センサ装置は、少なくとも1つの生物学的目標物質、例えばDNAフラグメントの調査のために用いられる。「調査」なる用語は、ここでは、目標物質の或る特定の特性の質的及び/又は量的検出、及びオプションとしての例えばPCRによる当該物質の処理も含むものである。当該センサ装置は、次の構成部を有する。
【0006】
a)調査すべきサンプルが供給されるサンプル室部。このサンプル室部は、通常は、空のキャビティ又はサンプル物質を吸収しうるゲルのような何らかの物質が充填されたキャビティであり、開いたキャビティ、閉じたキャビティ、流体接続チャネルにより他のキャビティに接続されたキャビティとすることができる。サンプル室部はさらに、少なくとも1つの目標特定反応物を含み、この反応物及び/又は目標物質は、反応物が目標物質と反応すると可観測特性を変える(この変化は、当該反応の間及び/又は当該反応の後に行われ、当該特性の出現又は消失を有しうる)ラベルを有する。この反応物は、例えば、或る特定の生物学的目標分子に明確に結合するプローブ分子を有することができ、当該ラベルは、容易に検出可能な特性例えば蛍光性を備えた反応物の官能基とすることができる。このサンプル室部は、最初は固体の(乾燥した)形態で反応物を含むことができ、その後に当該反応物はサンプルの添加によって溶解させられるものである。
【0007】
b)ラベルの上述した可観測特性を検出するためのセンサ構成部。このセンサ構成部は、サンプル室部における種々の箇所を順次スキャンするためのスキャンユニットがオプションとして設けられた単一のセンサユニットを有しうる。或いは、このセンサ構成部は、サンプル室部における種々の箇所に関連した複数の単一センサユニットを有しうる。
【0008】
c)例えば電気的エネルギにより駆動されている場合、サンプル室部の少なくともサブ領域と熱交換するための加熱構成部。この加熱構成部は、好ましくは、電気的エネルギをサンプル室部内に伝達される熱に変換するのが好ましい。但し、この加熱構成部は、サンプル室部からの熱を吸収し、それをエネルギの消費の下で他のどこかに伝達するようにすることも可能である。
【0009】
d)加熱構成部を選択的に駆動するための制御ユニット(すなわち、エネルギをそれに供給するためのもの)。
【0010】
説明されるミクロ電子工学センサ装置は、ラベルの可観測特性を検出することによりサンプル室部における目標特定反応物とサンプルに含まれる生物学的な目標物質との間の反応の進行を監視することができる。反応が開始する前に当該特性を検出することは、さらに、サンプル室部における反応物又は目標物質の量を判定することを可能にする。さらに、加熱構成部は、例えば感応性の高い生体サンプルの操作のため、又は結合処理の選択性をテストするための最適状態を提供するために用いることができる。
【0011】
ミクロ電子工学センサ装置の好適実施例によれば、加熱構成部は、個々に制御されることの可能な複数の加熱素子を持つ加熱アレイを有する。最も一般的な意味では、「アレイ」なる文言は、本発明の内容において、複数の要素(例えば加熱素子)の任意の1次元、2次元又は3次元配列を指すものである。通常、このようなアレイは、2次元であり、好ましくは平面状のものでもあり、(加熱)素子は規則的なパターン、例えばグリッド又はマトリクスパターンに配列される。選択的に制御される加熱素子を持つ加熱アレイは、実用上、サンプル室部における何らかの所望される空間的及び/又は時間的温度プロファイルを発生するために用いられることが可能である。
【0012】
他の好適な実施例において、サンプル室部は、その壁部の少なくとも一部を形成する反応面を有し、その反応面が、少なくとも1つの目標特定反応物で被覆される。目標特定反応物を表面に結合することにより、センサ構成部により最適なアクセスのために規定位置においてかつ規定された濃度において不動にさせられるという利点がある。さらに、空間的情報の利用可能性により、種々の取込プローブを同じ反応区画部に設けることができることを可能にする。付加的な非不動の目標特定反応物は、オプションとして残りのサンプル室部に設けてもよいし設けなくともよい。非不動の反応物の利点は、高速運動と良好に規定された混成(表面接着の影響はない)である。
【0013】
ミクロ電子工学センサ装置のまたさらに他の好適実施例によれば、制御ユニットは、増幅処理をサンプル室部において行うことができるように加熱構成部を駆動するよう適合させられる。かかる増幅は、例えば、PCRプロセスとすることができ、これは、ヌクレオチド配列の増幅及び調査のための重要なツールであり、温度及び反復加熱サイクルの制御を必要とするものである。これは、ミクロ電子工学センサ装置の加熱構成部により提供されて好都合となりうる。かかるPCRは、プライマ及び/又は検体を持つ検出プローブの効率的な反応運動及び良好に規定された混成相互作用を保証するように溶液中で行われる。或いは、表面付着プライマ、表面付着アンピフルオール(ampifluor)プライマ、表面付着LuXプライマ又は表面付着サソリ(Scorpions)を用いてもよい。後者のアプローチの利点は、複数の反応が同じ反応区画部において存在することができることである。何故なら、空間情報が利用可能であるからである。理論的には、これは高い感応性をもたらすことができる。何故なら、各反応区画部が比較的大きく、これにより、より大きなサンプル体積を含むことができるからである。
【0014】
制御ユニットは、さらに、反応物と関連の目標物質との混成の溶融曲線に応じて加熱構成部を駆動するように適合させられるようにしてもよい。この溶融曲線は、温度に応じて目標物質と反応物との混成の崩壊を表す。この溶融曲線に沿ってゆっくりと温度を上昇させることにより、弱めに結合した目標物質と反応物との混成が先ず溶解され、目標物質と反応物との完全な合致の最も強力な結合だけを最終的には残すものとなる。これら2本鎖の溶融温度は、当該反応物のシーケンス構造を示す高度に規定された温度又は温度範囲において生じるようにデザインされるのが好ましい。したがつて、当該混成の厳重さ/特異性テストを行うことができる。
【0015】
ミクロ電子工学センサ装置は、原理的には、1種類の目標特定反応物しか有しないようにすることができるものの、より汎用性のある「多重化した」調査は、異なる種類の目標特定反応物が用いられる場合に可能となる。特定の実施例において、こうした目標特定反応物は、サンプル室部の一部である反応面上に分散させられるようにしてもよい。さらに、この分散は、上に規定したように、加熱素子の加熱アレイと位置合わせされているのが好ましい。したがって、特定の加熱素子(すなわち、当該領域における温度が主として当該加熱素子により制御される)に関連づけられている反応面上の各領域は、関連したタイプの反応物により被覆されるようにしてもよい。一般的には、「位置合わせ」なる文言は、2つの物体の位置、すなわち、この場合においては加熱アレイの加熱素子と反応面上の別々に被覆された領域との固定した(並進不変)関係を指すものである。
【0016】
サンプル室部(及び該当する場合には反応面)は、定義によれば例えば中間壁部により互いに物理的に分離した反応区画部をオプションとして有しうる。このようにして、サンプル室部に供給されるサンプルにより、異なる反応区画部における複数の異なる処理を同時に行うことができる。
【0017】
上述した反応区画部は、上に規定したように、加熱素子の加熱アレイと位置合わせした状態にあるのが好ましい。そして、加熱素子により規定される温度制御は、当該区画部と一義的に関連づけられる。各反応区画部は、特に、丁度1つの又は恐らくは数個の異なる加熱素子と関連づけられるようにしてもよい。さらに、当該区画部の壁部は、オプションとして、当該区画部の間に熱的絶縁を設けるようデザインされるようにしてもよい。
【0018】
特に、電子工学センサ装置のセンサ構成部は、センサ素子、例えば、ラベルにより発せられた蛍光の光を検出するためのフォトセンサのアレイを有するようにしてもよい。複数のセンサ素子により、反応面上の異なる領域、したがって同時に行われている複数の処理を並行に監視することができる。
【0019】
上述したセンサ素子は、上に規定したように、加熱素子の加熱アレイとの位置合わせ状態にあるようにするのが好ましい。加熱素子及びセンサ素子は、例えば、対をなして配列されるようにしてもよいし、或いは各加熱素子が幾つかセンサ素子のグループと関連づけられる(又は逆に各センサ素子が加熱素子のグループと関連づけられる)ようにしてもよい。この位置合わせは、加熱素子及びセンサ素子が異なる箇所で同様に相互作用するという利点を有する。したがって、均等/周期的な状態が当該アレイにわたり提供される。この技術は、(複数の)化学ステップを実行することも可能である。
【0020】
加熱構成部(又は該当するならばその加熱素子)は、特に、抵抗性ストリップ、薄膜トランジスタ(TFT)、透明電極、ペルチェ素子、ラジオ周波数加熱電極、又は放射加熱(IR)素子を有することができる。これら全ての素子は、電気的エネルギを熱に変換することができ、ペルチェ素子は、付加的に熱を吸収することができるので冷却機能を提供するものである。
【0021】
ミクロ電子工学センサ装置は、加熱構成部及び/又はサンプル室部と接触して冷却ユニット、例えばペルチェ素子又は冷却団塊をオプションとして有することができる。これにより、必要に応じてサンプル室部の温度を下げることができる。したがって、熱の発生のための加熱構成部との組み合わせで、冷却ユニットは、両方向における温度の完全な制御を可能にする。
【0022】
ミクロ電子工学センサ装置は、さらに、サンプル室部における温度を監視することを可能にする少なくとも1つの温度センサを有するようにしてもよい。温度センサは、好ましくは加熱構成部に統合されるようにしてもよい。特定の実施例においては、加熱構成部は、付加的なハードウェアを伴うことなく温度を測定することができる温度センサとして動作させられることができるようにデザインされた少なくとも1つの加熱素子を有する。
【0023】
温度センサが利用可能である場合、制御ユニットは、当該温度センサに結合され、サンプル室部における所定の(時間的及び/又は空間的)温度プロファイルに応じて閉ループにより加熱構成部を制御するよう適合させられるのが好ましい。これにより、例えば感度の高い生体サンプルの操作のための確実に最適な状態を提供することができる。
【0024】
ミクロ電子工学センサ装置は、さらに、サンプル室部における流体の流れ及び/又は粒子の動きを制御するための例えばポンプ又は弁などの微小機械又は電気的装置を有するようにしてもよい。サンプル又は粒子の流れを制御することは、微小流体装置におけるサンプルの汎用性のある操作にとって非常に重要である。特定の実施例において、加熱素子のうち少なくとも1つは、熱的な毛細管現象作用によりサンプル室部において流体の流れを作りだすように適合させられるようにしてもよい。このようにして、その加熱能力を、当該サンプルを動かすために利用することができる。
【0025】
電気的絶縁層及び/又は生体適合層は、サンプル室部と加熱及び/又はセンサアレイとの間に配置されるようにしてもよい。このような層は、例えば、二酸化ケイ素SiO又はフォトレジストSU8からなるものとすることができる。
【0026】
本発明によるミクロ電子工学センサ装置を実現する場合、加熱構成部(又は該当するならば複数の加熱素子)及び/又はセンサ構成部(又は該当するならば複数のセンサ構成素子)と接触するために、大面積電子素子(LAE;large area electronics)マトリクスのアプローチ、好ましくはアクティブマトリクスのアプローチを用いることができる。例えば薄膜トランジスタ(TFT)を用いたLAEの技術及び具体的にはアクティブマトリクス技術は、例えば、LCD、OLED及び電気泳動ディスプレイのようなフラットパネルディスプレイの生産に適用される。行単位アドレス指定アプローチは、オプションとして、制御ユニットにより加熱素子をアドレス指定するために用いることができる。
【0027】
反応面は、加熱構成部及び/又はセンサ構成部を有するマイクロチップの表面とすることができる。好適な実施例において、反応面は、反応物の付着のための大きな面積を提供する多孔性膜を有する。
【0028】
サンプル室部、加熱アレイ及びセンサ構成部の相互配列は、これら構成部どうしの所望の共働動作が行われている限り任意のものとすることができる。サンプル室部が反応物により被覆された反応面を有する場合、この反応面は、加熱構成部に隣接して配されるのが好ましい。このように、加熱構成部とサンプル室部の内部との間の熱交換は、反応面を介して行われ、決定的に重要な反応が行われる当該表面において最適温度制御を提供する。
【0029】
本発明は、さらに、少なくとも1つの生物学的目標物質の調査のための方法であって、次のステップを有する方法に関する。
【0030】
a)サンプル室部に少なくとも1つの目標特定反応物を供給するステップ。ここでのその目標特定反応物及び/又は目標物質は、反応物が目標物質と反応すると可観測特性を変えるラベルを有する。
【0031】
b)サンプル室部における目標特定反応物の存在を制御するステップ。ここでの「制御」なる文言は、簡単な監視処理と、オプションとしての、当該監視結果に基づいたサンプル室部における反応物の量の能動的変化を含むことを意味している。いずれにせよ、「制御する」なる文言は、例えば、反応面に結合した反応物のインペディメトリック(impedimetric)な測定といったような、サンプル室部における目標特定反応物の判定又は測定を含むことになる。オプションとして、測定自体は、例えば、当該面の温度を上昇させることにより、(例えば、当該反応物を不動にするために)反応物と表面との化学反応に影響を及ぼしうる。
【0032】
c)目標特定反応物と目標物質を反応させるステップ。ここでのこのような反応は、通常、反応物と目標物質との結合又は混成(hybridization)を含む。
【0033】
d)ステップc)すなわち目標物質と反応物との反応の間及び/又はその後におけるラベルの変化させられた可観測特性を測定するステップ。
【0034】
その一般的形態の方法は、上述した種類のミクロ電子工学センサ装置により実効可能なステップを有する。したがって、当該方法の詳細、利点及び改善点に関する多くの情報についての先の説明が参照される。
【0035】
本方法の好適実施例において、目標特定反応物は、ラベルを有し、サンプル室部における目標特定反応物の存在は、当該ラベルの可観測特性を測定することにより制御される。
【0036】
目標特定反応物は、オプションとして、サンプル室部における反応面に付着させられるようにしてもよく、これは、空間情報を提供し、これにより複数の並列測定を可能にする。
【0037】
本方法は、特に、所望の空間的及び/又は時間的温度プロファイルに応じてサンプル室部において(又は該当する場合には反応面において)微細な(好ましくは閉ループの)温度制御を含むようにしてもよい。これにより、感度の高い生体サンプルの処理、表面結合(混成)処理の選択厳密性及び温度感応性のある化学反応における制御が可能となる。
【0038】
本方法の他の好適実施例によれば、PCR処理は、サンプル室部、特にその反応面において実行される。
【0039】
さらに、上述した反応面における温度は、オプションとして、目標物質と反応物との混成の溶解曲線に応じてステップc)の後に上昇させられることが可能である。
【0040】
以下では、本発明の好適実施例をミクロ電子工学センサ装置及び上記方法の双方に適用するものとして説明する。
【0041】
ミクロ電子工学センサ装置及び/又は方法の第1の特定の実施例では、ラベルの可観測特性は、ルミネセンス(蛍光、燐光、エレクトロルミネセンスのような光学的かつ電気的なもの)、磁化、吸収性、比色分析及び/又は反射を有する。蛍光を観測するため、例えば当該ミクロ電子工学センサ装置におけるバックライトにより励起光を供給しなければならない。このような励起光は、燐光を観測するためにも用いられるようにしてもよい。
【0042】
ミクロ電子工学センサ装置又は方法の実用的に重要な実施例において、目標特定反応物が目標物質と未だ反応していない場合、ラベルの可観測特性が呈される(すなわち検出可能である)。これにより、例えば、ミクロ電子工学センサ装置の組み立ての後に反応面上のラベル付けされた反応物の適切な分散を確認することができる。
【0043】
当該センサ装置及び/又は方法の他の実施例においては、目標特定反応物が目標物質と反応すると、当該ラベルの蛍光が消滅する。この反応が行われる前のこの蛍光の観測により、例えば、反応面における反応物の量を確認することができる。反応物と目標特定部物質との進行する反応の間において、蛍光は、その後、当該関連の蛍光の消滅により減少することになる。これにより、反応させられた目標特定物質の量の間接的な測定が行われる。蛍光の消滅は特に、反応物がラベルを有し目標物質が官能基としての消光剤を有する場合に達成可能である。
【0044】
本発明の他の重要な実施例において、ラベルの蛍光は、目標特定反応物が目標物質と反応した場合に、一方の反応相手の被励起ラベル(例えば目標特定反応物)から他方の反応相手(例えば目標物質)の蛍光ラベルへ蛍光共鳴エネルギ移動(FRET;fluorescence resonance energy transfer)により変化させられる。したがって、第1の波長において行われる反応物のラベルの蛍光は、第2の(異なる)波長において行われる目標物質のラベルの蛍光に変えられ、或いはこの逆とされる。これにより、未反応の反応物の量と反応した目標物質との双方(或いは反応した目標物質の量と未反応の反応物)を判定することができる。反応した目標物質の直接の観測は、例えば、人が興味を示している実際に結合された目標物質と反応物ラベルの蛍光を減少させる副次的処理との間を区別することを可能にする。
【0045】
生物学的目標物質及び/又は目標特定反応物は、特に、例えばDNA,RNA,PNA(ペプチド核酸),LNA(ロックド核酸;locked nucleic acid),ANA(アラビノ核酸;arabinonucleic acid),及び/又はHNA(ヘキシトール核酸;hexitol nucleic acid)など、蛋白質及び/又はオリゴヌクレオチドを有することができる。オリゴヌクレオチド類は、多種多様の生物学的調査において非常に重要性があるものである。これらは、用途の広い温度制御の可能性があることが理由で、本発明によるミクロ電子工学センサ装置により有利に実行可能なPCR処理において形成することができる。
【0046】
本発明の他の実施例において、反応物は、PCR処理のためのプライマを有する。このプライマが不動とされ、すなわち反応面に結合されると、「固体PCR」が可能である。
【0047】
上述した実施例において、反応物は特に、PCRプライマと混成プローブの双方を有するサソリプライマ(Scorpion primer)とすることができる。この実施例は、図を参照して詳しく説明する。
【0048】
本発明はさらに、分子診断、生体サンプル分析、化学サンプル分析、食物分析、環境分析及び/又は法医学的分析のための上述したミクロ電子工学センサ装置の使用に関する。
【0049】
本発明のこれらの態様及びその他の態様は、以下に説明される実施例により明かとなる。これら実施例は、添付図面を用いて例示により説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
図中、同様の参照番号は、同一又は同様の構成部分を指している。
【0051】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR;polymerase chain reaction)は、DNAフラグメントの複合混合物からの特定遺伝子素の増幅のために用いられる一般的技術である。例えばこれは、SNPプロファイル、法医学的分析、又は病原菌の検出及び識別のような遺伝子発現プロファイルの遺伝分析のために用いることができる。このような目的のため、多数のDNAテンプレートの同時分析を必要とすることもある。但し、複数のPCRを実行し分析することは、面倒でコストのかかる作業である。
【0052】
したがって、複数のPCRの同時の実行及び/又は分析を可能にする信頼性の高いシステムを開発することが望まれる。例えばPCRによる病原菌(例えば体液又は食品生産物)の識別のために、種特定配列が分析されなければならない。これを行う1つのアプローチは、存在可能性のある種の各々について特定されるプライマによりDNAフラグメントを増幅することである。但し、これは、非常に手間がかかり(しかも高コストの)アプローチである。何故なら、各PCRは、個別に実行されなければならないからである(同じ反応管において実行することの可能なPCRの数は限られる)。もう1つのアプローチは、いわゆる広帯域PCRを行うことである。或る特定の遺伝子は、種と種との間で高度に保存される(例えば、細菌性rRNA遺伝子)。このような遺伝子がPCR目標として選ばれる場合、多数の種について同じプライマは、PCR増幅のために用いることが可能である。微生物の識別のため、種特定プローブによるポストPCR混成を行うことができる。このことは、種毎に特定のプローブがマイクロアレイ形態で固体表面上に不動とされることを意味する。広帯域PCR生産物のプールが当該アレイと混成することを許容される場合、当該プローブと相補関係にあるPCR生産物のみが結合することになる。
【0053】
以下、ミクロ電子工学センサ装置におけるマイクロアレイの形態にある反応面を用いて多数のPCRの同時の実行及び/又は分析を可能にする種々の実施例を説明する。
【0054】
図1は、本発明によるミクロ電子工学センサ装置の代表的構成を概略的に示している。この装置は、(生体)ターゲット分子20を有するサンプル流体を供給することができるサンプル室部SCを有する。サンプル室部SCの底壁は、目標特定反応物10(すなわち、この例では混成プローブ)が不動のものとされる反応面RSにより形成される。反応面RSは、オプションとして多孔性材料とすることができ、PCR生産物が結合可能な大きな領域を有して有利なものである。これにより、当該表面に対するPCR生産物の混成の可能性が高くなるので分析速度が向上するとともに、より多くのプローブ分子を不動とすることができるので当該処理のダイナミックレンジが向上する。
【0055】
反応面RSは、個別制御用の制御ユニットCUに結合される加熱素子HEの矩形配列からなる加熱アレイの上部に構成される。したがって、サンプル室部SCにおける空間的かつ時間的温度プロファイルを、必要に応じて制御することができる。
【0056】
サンプル室部SCの上部において、センサアレイは、加熱素子HEと位置合わせされた個々のセンサ素子SEの矩形配列からなるようにして配置される。センサ素子SEは、反応物10の一部であるラベル12の可観測特性を測定することができ、反応物10と対応の目標分子20との反応が行われるとその特性が変化する。
【0057】
図1に示される実施例において、ラベル12の可観測特性は蛍光である。これらラベルの蛍光は、(透明な)加熱アレイの下に配されるバックライトBLにより励起される。高い励起強度を得るため、バックライトは、LED又はレーザを有するのが好ましい。ラベル12により発せられる蛍光の光は、空間的に分解された形態で関連のセンサ素子SEにより検出可能である。目標物質20が存在しない場合、蛍光の測定は、反応面RS上に不動のものとされた反応物10の分布及び量の検証を可能にする。
【0058】
ラベル付けされた反応物10及び目標特定物質20は、当該目標物質が、反応物に結合されるとラベル12の蛍光を停止する消光剤24を有するようにして構成されることをオプションとしている。そして、結果として得られる蛍光の減退は、結合された目標物質の量の測定をなすことになる。
【0059】
ディスクリートの加熱アレイとともに光センサSEのディスクリートアレイを含むことによって、フルに統合された「画素化」システムを得ることができる。光センサのアレイは、CCD又はCMOS技術に基づいたものとすることができ、また、一般的には反応面RSの下又は上に位置づけられるようにしてもよい。或いは、光センサは、フォトダイオード又はフォトTFT(透明なゲート金属を持つ薄膜トランジスタ)を有するようにしてもよい。好適実施例において、加熱アレイ及び光センサアレイは、大面積エレクトロニクス技術及びアクティブマトリクス方式(例えば、低温ポリシリコン(LTPS))に基づいている。アクティブマトリクス方式に基づくアレイは、例えば、センシング装置の構成部として組み込まれることができる。このような装置は、a−Si(アモルファスシリコン)、LTPS又は有機半導体技術のような周知の大面積エレクトロニクス技術のうちの1つによって製造されるのが好ましい。TFT、ダイオード又はMIM(金属−絶縁物−金属)は、能動素子として用いることができる。アクティブマトリクス技術は、例えばLCD、OLED及び電気泳動ディスプレイなどの数多くの表示効果の駆動をなすためにフラットパネルディスプレイの分野において一般的に用いられ、例えばセンサアレイ及び熱的処理アレイを有する使い捨て生化学モジュールを製造するコスト効率の良い方法を提供する。また、アクティブマトリクス技術は、温度制御及び光学センシングのために用いられるもの以外の構成部(例えば、電気的粒子操作のための温度センサ、電極)のコスト効率の良い集積を可能にする。これは、バイオチップ又はこれと同様のシステムが非常に多くの構成部を含みうるものでありその数が当該装置がより効果的かつより汎用性のあるものとなるにつれてしか増加しないことになるので、有利である。
【0060】
光センサSE及び加熱素子HEは、オプションとして同じ基板の上部上に位置づけられる。
【0061】
集積アレイ形態センサ装置の利点は、電気的外部接続部(高い堅牢性)しか必要としないフルに集積化された被封止PCRカートリッジを製造する可能性である。これにより、例えば手持ち式の読取装置などの携帯型の用途を見越すこととなる。さらに、読取マザー装置における複雑で高価な光学部品はもはや必要ではなくなり、素早いリアルタイムの検出が可能であり、サンプル室部内の全ての領域は、連続的かつ同時に監視可能である。
【0062】
プローブに対する核酸フラグメント生産物の混成は温度依存性があるので、完全な混成を、臨界温度において単一ヌクレオチド不整合と区別することができる。したがって、高精度な温度制御は、混成マイクロセンサにおいて必須である。結合の特異性は、いわゆる溶融曲線を形成することによって判定可能である。混成は、最適温度よりも低いところで行われる(ほぼ完全な整合が可能となる)。そして、温度は、蛍光信号が常に測定されながらゆっくりと増加させられる。各不整合は、プローブと完全に相補関係にある核酸フラグメントだけが結合を保つまで特定の温度において無くなることになる。これにより、結合の特異性の判定が可能となる。
【0063】
上述した処理は、特に、アレイ形態の温度制御を有する図1によるミクロ電子工学センサ装置により行うことができる。この装置アレイの各素子は、異なる核酸プローブ10により被覆されるのが好ましい。そして、核酸フラグメント20のプールは、混成室部SCに適用可能であり、プローブ分子10に結合することができる。当該アレイの各素子の温度がプローブ毎に最適温度に上昇させられると、結合されていない核酸フラグメントは、洗い落とされることが可能である。
【0064】
好適実施例において、加熱アレイは、装置アレイの素子(すなわち、反応面上の一義的に被覆された領域)毎に加熱素子HE(例えば抵抗性加熱素子、TFT、ペルチェ素子など)を有する。また、1つ又は複数の温度センサ(例えば、抵抗、p−n接合特性、TFT特性、熱電対などの変化に基づくもの)は、当該アレイに集積させることができる。このセンサ又はこれらセンサは、実際の温度の読み取りをなすことができる。さらに、当該アレイにおける閉フィードバックループは、外部コントローラの必要性を伴うことなく温度を制御するために用いることができる。
【0065】
他の実施例において、ポンプ作用/混合作用素子(例えば電極)は、粒子操作のため、及び/又は例えば電気機械的原理に基づいた局部変換(例えば電気泳動、電気浸透、誘電泳動など)を誘導するため、温度制御されるミクロ電子工学センサ装置に集積可能である。これは、反応面に対する核酸フラグメントの結合運動を向上させることができ好都合である。
【0066】
したがって、画素化温度制御の利点は、混成アレイ形式における高精度溶融曲線分析を行うことができることである。これにより、特定の結合と不特定な結合との区別をすることができる。さらに、最適温度は、各プローブにつき個別に調整可能であり、良好な分析物運動及び迅速な混成を保証する。最後に、画素化された温度制御によって、図4を参照して以下に説明するように、表面結合型の(「固体」)多重PCRを行うことができる。
【0067】
図2は、壁部WAにより分離される区画部CPへの反応面RSの可能性のある小分けを示している。壁部WAは、区画部間のサンプル流体の制御されない混合を回避する。条件によっては、以下の実施例が可能である。すなわち、(i)マイクロセンサチップのサンプル室部SC全体が単一の室部として構成される。(ii)1つの加熱素子/センサ素子に関連した各ユニットが単一室部として構成される。(iii)規定数の上記ユニットが単一室部として構成される。室部SCにおける種々の区画部を用いることによって、同じチップにおいて同時に異なるPCR(バッファ)状態を選択することができる。
【0068】
目標特定反応物(プローブ分子)を有する反応面RSの被覆は、例えば、インクジェットプリント又はリソグラフ技術を用いて行うことができる。したがって、反応面RSの各スポットにおいて堆積される材料の量を制御することを可能にすることが望ましい。既に述べたように、これは、蛍光染料をラベルとしてプローブ分子に付着させることによって達成可能である。第二に、反応面に対するラベル付けされたPCR生産物の不特定結合(粘着)のための制御をすることを可能にすることも望ましい。これは、図3に示されるFRET(蛍光共鳴エネルギ移動;fluorescence resonance energy transfer)方式の利点を使うことによって達成可能である。目標特定反応物10は、この場合、反応面RSに対するリンク13を介して付着され蛍光ラベル12を担持する混成プローブ11からなる。
【0069】
目標物質20は、テンプレートストランド23に結合する蛍光ラベル22を担持するプライマ21によりPCR増幅によってステージAを始めとして形成される。そして、結果として得られる二重ストランド化DNAのPCR生産物は、ステージCにおける検出処理の目標物質である当該増幅されたストランド20を解放するようステージBにおいて溶融させられる。ストランド20は、反復PCRサイクル又は線形増幅の反復サイクルによりさらに増幅させられることができる。ストランド20は、プローブ分子11と混成することができ、2つの染料分子12及び22を緊密に接触させる。プローブ付着染料分子12を励起することによって、プライマ付着染料分子22は、FRETを介して励起され、検出可能光を発する。(或いは、FRETは、逆に用いられてもよく、すなわち、プライマ21の蛍光ラベル22が励起させられ、プローブ付着染料分子12が検出される。これは、PCR生産物が存在する場合のみフルオロフォア22が存在する(そしてこれにより励起可能となる)ので、少なめのバックグラウンドしか付与しないことになるのが普通である。
【0070】
よって、ラベル付けされた目標特定反応物10と、FRETを介してプローブ付着染料分子12を励起することによって励起されることが可能な、ラベル付けされたプライマ21とを使用することによって、組立工程の間において反応面RS上にスポット形成されるプローブ分子の量の制御と、当該反応面に対する不特定に結合されたPCR生産物の大幅に低減された検出との双方を可能にする。
【0071】
付加的な実施例において、ラベル付けされたプライマ21は、染料分子(22)に代わる消光剤を有し、反応面に対するPCR生産物の(特定の)結合により、ラベル付けされたプローブ10の蛍光が消されるようにしてもよい。
【0072】
局所化された温度制御により「固体」(表面結合)PCRを行うことができることは既に述べたところである。プローブのオリゴヌクレオチドを付着させることに代えて、1つ(又は両方)のPCRプライマは、この場合は固体表面に付される。このアプローチの例は、図4に示され、ここではサソリプライマが反応面に付される。このタイプのプライマは、PCRプライマと混成プローブの双方として機能し、(シングルベース不整合の)非常に区別的な電力による高速なリアルタイムPCR検出に非常に適している。サソリは、当該プローブの5´及び3´側における相補ステムシーケンスによりヘアピンループ形態において保持される特定プローブシーケンスからなる。(ラベルを担う)フルオロフォア12は、当該ループの3´端部に付される。かかるヘアピンループ構造は、PCRストッパ14を介してプライマ15の5´端部に結合される。PCRストッパは、フルオロフォア13の消光剤として機能する。当該サソリは、PCRストッパ14に付されるリンカ部分13を介して固体反応面RSに結合される。
【0073】
ステージAにおいて、テンプレート分子20は、プライマ15に結合し、PCR増幅の間に伸張させられる。かかる伸張が終了したのち(ステージB)、テンプレート20は、単位複製配列(amplicon)16から溶かされる。温度が低くなると、特定プローブシーケンス11は、単位複製配列16においてその補完体を結合させることができる(ステージC)。この混成は、当該ヘアピンループを開放してラベル12の蛍光がもはや消光させられなくなり、蛍光信号が測定可能となる。PCRストッパ14は、特定テンプレートがない場合に当該ヘアピンループの開口をもたらすことができるリードスルー(read-through)を提供する。これにより、プライマ二重体のような不特定PCR生産物からの疑似信号又は下塗りミスが回避される。反応面RSに付されるサソリプライマの数(例えば、平均密度×表面積)は、少なくとも、リアルタイムPCR分析について設定された閾値信号のものよりも大きな蛍光信号を生じさせるために必要なフルオロフォアの数を超過するのが良い。
【0074】
説明した方法の利点には次のものが含まれる。
【0075】
・サソリプライマの使用は、当該システムに二重の特異性をもたらす。すなわち、プライマシーケンス及びプローブシーケンスの双方は、信号を与えるために合致していなければならない。プライマとプローブは1つの分子において組み合わされているので、サソリプライマは、高速サイクリング条件の下では、他のリアルタイム検出方法(例えばタクマン(Taqman)プローブ又は分子ビーコン)に対して優れた性能を呈する。
【0076】
・各画素上方のPCR空間の小さな体積は、極めて高速なサイクリングを可能とし、分析全体に必要な時間を短縮する。また、生化学材料(プライマ、酵素)のコストが低減する。
【0077】
・固体PCRは、画素化検出センサと簡単に組み合わせることができ、集積化されたPCRシステムを形成することができる。
【0078】
・当該表面上の異なるフルオロフォア又は異なる位置を用いることにより、多重化された検出(すなわち、異なる目標の検出)を可能にする。
【0079】
説明した実施例において(但しこの開示内容において説明される他の実施例においても)、両方のプライマは、シーケンス特定のものとすることができ、或いは一方のプライマを広帯域プライマとすることができる。さらに、当該プライマのうちの一方を表面付着のものとし、他方のプライマを溶融可能なものとすることができ、或いは両方のプライマを表面付着のものとすることができる。付加的な実施例において、前進プライマ(例えばサソリ)及び逆進プライマの混合物は、反応面上に(例えばインクジェットプリントにより)堆積させられる。これにより、PCR生産物の前進及び逆進ストランドの双方が当該面に付着されたままなので、PCRアレイの区画部形成の必要性が回避される。区画部が形成されないPCR室部は、構成がより簡単であり、サンプルが非常に低いテンプレート密度を含むようにして良好な感度を呈することとなる。
【0080】
本発明の全ての実施例に対して、次の付加的な説明が当て嵌まる。
【0081】
・プローブ分子10は、DNA,RNA,PNA(ペプチド核酸),LNA(ロックド核酸),ANA(アラビノ核酸),又はHNA(ヘキシトール核酸(hexitol nucleic acid))オリゴヌクレオチドを有することができる。
【0082】
・RNA,PNA,LNA及びHNAは、DNA:DNAホモデュプレックス類(homoduplexes)よりも安定したDNAを持つヘテロ2本鎖を形成することができる。これにより、シーケンス不整合(より具体的な混成)のための弁別能力を確実に高めることになる。かかるヘテロ2本鎖のより高い安定性によって、所与の温度におけるより短いオリゴヌクレオチドプローブの使用も可能とし、不特定の結合の可能性を減らすこととなる。
【0083】
・フォーメーションPNA:DNA二本鎖は、混成バッファのイオン強度とは独立して形成される。これにより、dsDNAのPCR単位複製配列の望ましくない変性を回避する低塩バッファを用いることができる。
【0084】
・各実施例を主に微生物のDNA識別について例証したが、本方法は、遺伝子型決定、遺伝子発現プロファイルなどの如き他のPCR多重対象にも適用可能である。
【0085】
・さらに、各実施例は、主に蛍光検出により例証した。明らかに、他の検出の手段(磁気的なもの、ルミネセンス的なもの、吸収性のもの、反射性のもの)も、当該実施例の幾つかに対して(FRETに基づく検出を除き)実現可能である。
【0086】
要約すると、本発明は、マイクロアレイタイプのPCR検出のための幾つかの高度な特徴を用いることの可能性を開示するものである。かかる特徴とはすなわち次のものである。
【0087】
・疑似の正極信号を減らすことによる反応面製造及び高い特異性を確実することを可能にするという主要な利点を持つFRETを基礎とした検出
・反応面のアレイの素子毎に最適混成温度を制御することにより特異性を向上させることができること及び固体PCRを行うことができることといった主要な利点を持つ局所化された温度制御
・集積化されるシステムにおける小型化したリアルタイム多重PCRを行うことのできる主要な利点を持つ固体PCR
・洗練された光学部品を備えた読取マザー機器を必要としないフルに集積化されかつ堅牢なPCRカートリッジを形成することができるという主要な利点を有する集積された被画素化検出器
【0088】
最後に、本願において、「有する」なる文言は、他の要素又はステップを排除するものではなく、「1つ」又は「1の」なる文言は複数を排除するものではなく、単一の処理器又は他のユニットは幾つかの手段の機能を満たすことができるものであることを注記する。本発明は、あらゆる新規な特徴的事項及び特徴的事項のあらゆる新規な組み合わせに存するものである。さらに、請求項における参照符号は、それらの範囲を制限するものと解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明による加熱アレイ及び蛍光反応物を備えたミクロ電子工学センサ装置を概略的に示す透視図。
【図2】反応面の異なる区画部への小分けを示す図。
【図3】FRETに基づく測定を示す図。
【図4】反応物として単分子のサソリプライマの使用に基づく測定を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの生体目標物質の調査のためのミクロ電子工学センサ装置であって、
a)少なくとも1つの目標特定反応物を含むサンプル室部であって、前記反応物及び/又は当該目標特定物質が、前記反応物が前記目標物質と反応すると可観測特性を変えるラベルを有するものとしたサンプル室部と、
b)前記ラベルの可観測特性を検出するセンサ構成部と、
c)少なくとも前記サンプル室部の小領域により熱を交換するための加熱構成部と、
d)加熱構成部を選択的に駆動するための制御ユニットと、
を有するミクロ電子工学センサ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記加熱構成部は、複数の加熱素子を備えた加熱アレイを有する、装置。
【請求項3】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記サンプル室部は、前記目標特定反応物により被覆されている反応面を有する、装置。
【請求項4】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記制御ユニットは、PCR処理が前記サンプル室部において実行されるように前記加熱構成部を駆動するよう適合させられている、装置。
【請求項5】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記制御ユニットは、前記目標物質と前記反応物との混成の溶融曲線に応じて前記加熱構成部を駆動するよう適合させられている、装置。
【請求項6】
請求項2に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記サンプル室部は、反応面を有し、異なる種類の目標特定反応物は、前記加熱アレイと位置合わせされたパターンにより前記反応面にわたって分散させられている、装置。
【請求項7】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記サンプル室部は、反応区画部を有する、装置。
【請求項8】
請求項2又は7に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記反応区画部は、前記加熱素子と位置合わせされている、装置。
【請求項9】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記センサ構成部は、個別センサ素子のアレイを有する、装置。
【請求項10】
請求項2又は9に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記センサ素子は、前記加熱素子と位置合わせされている、装置。
【請求項11】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記加熱構成部は、抵抗性ストリップ、薄膜トランジスタ、透光性電極、ペルチェ素子、高周波加熱電極又は放射加熱電極を有する、装置。
【請求項12】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記加熱構成部内に統合される少なくとも1つの温度センサを有する装置。
【請求項13】
請求項12に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記制御ユニットは、前記温度センサに結合され、前記サンプル室部における所定の温度プロファイルに応じて閉ループにおいて前記加熱構成部を制御するよう適合させられる、装置。
【請求項14】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記サンプル室部における流体の流れ及び/又は粒子の動きを制御するためのポンプ又は弁を含むマイクロメカニカル又は電気的装置を有する装置。
【請求項15】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記加熱構成部及び/又は前記センサ構成部と接触するために、アクティブマトリクス方式を含む大面積エレクトロニクスマトリクス方式が用いられる、装置。
【請求項16】
請求項3に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記反応面は、多孔性膜の表面を有する、装置。
【請求項17】
請求項3に記載のミクロ電子工学センサ装置であって、前記反応面は、前記加熱構成部に隣接して存在する、装置。
【請求項18】
少なくとも1つの生体目標物質の調査のための方法であって、
a)サンプル室部に少なくとも1つの目標特定反応物を供給し、その目標特定反応物及び/又は当該目標物質が、前記反応物が目標物質と反応すると可観測特性を変えるラベルを有するようにしたステップと、
b)前記サンプル室部における前記目標特定反応物の存在を制御するステップと、
c)目標物質を前記反応物と反応させるステップと、
d)ステップc)の間及び/又はステップc)の後に前記ラベルの可観測特性を測定するステップと、
を有する方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、前記目標特定反応物は、前記ラベルを有し、前記サンプル室部におけるその存在は、前記ラベルの可観測特性を測定することによって制御される、方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法であって、前記目標特定反応物は、前記サンプル室部における反応面に付される、方法。
【請求項21】
請求項18に記載の方法であって、前記サンプル室部における温度は、閉ループその他の手段により所定温度プロファイルに応じて制御される、方法。
【請求項22】
請求項18に記載の方法であって、前記サンプル室部において、又は反応面においてPCR処理が行われる、方法。
【請求項23】
請求項20に記載の方法であって、前記反応面における温度は、前記目標物質と前記目標特定反応物との混成の溶融曲線に応じてステップc)の後に上昇させられる、方法。
【請求項24】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置又は請求項18に記載の方法であって、前記ラベルの可観察特性は、蛍光、燐光又はエレクトロルミネセンスを含むルミネセンス、磁化特性、吸収特性、比色特性及び/又は反射特性を含む、装置又は方法。
【請求項25】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置又は請求項18に記載の方法であって、前記ラベルの可観測特性は、前記目標特定反応物が前記目標物質と反応しないと発現するものである、装置又は方法。
【請求項26】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置又は請求項18に記載の方法であって、前記ラベルの蛍光は、前記目標特定反応物が前記目標物質と反応すると消光させられる、装置又は方法。
【請求項27】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置又は請求項18に記載の方法であって、前記ラベルの蛍光は、前記目標特定反応物が前記目標物質と反応すると前記目標物質及び/又は目標特定反応物の蛍光ラベルへ蛍光共鳴エネルギ移動(FRET)により変化させられる、装置又は方法。
【請求項28】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置又は請求項18に記載の方法であって、前記生体目標物質及び/又は前記目標特定反応物は、DNA、RNA、PNA、PNA、LNA、ANA又はHNAを含む、蛋白質及び/又はオリゴヌクレオチドを有する、装置又は方法。
【請求項29】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置又は請求項18に記載の方法であって、前記目標特定反応物は、PCR処理のプライマを有する、装置又は方法。
【請求項30】
請求項1に記載のミクロ電子工学センサ装置又は請求項18に記載の方法であって、前記目標特定反応物は、PCRプライマ及び混成プローブの双方を有するサソリプライマである、装置又は方法。
【請求項31】
分子診断、生体サンプル分析、化学サンプル分析、食品分析、環境解析又は法医学的分析のための、請求項1ないし30のうちいずれか1つに記載のミクロ電子工学センサ装置の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−540290(P2009−540290A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513812(P2009−513812)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際出願番号】PCT/IB2007/051960
【国際公開番号】WO2007/141700
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】