説明

E−ビームレジスト用の塩基現像可能な放電トップ層

【目的】 水性塩基可溶性の導電性ポリマーを、電気的帯電を消失させるために利用することと、これにより荷電粒子ビームを含む方法の精度を改善することに関する。
【構成】 電気伝導性の官能化ポリマーとしてポリアニリン、ポリパラフェニルビニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリ−p−フェニレンオキサイド、ポリフラン、ポリフェニレン、ポリアジン、ポリセレノフェン、ポリフェニレンサルファイドおよびポリアセチレンを用いる荷電粒子ビームからの蓄積された電荷を消失させるための組成物と、ポリ(ヒドロキシアニリン)とポリチオフェンの合成方法と、水性塩基可溶性の導電性フィルムを調製するための方法が述べられている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】本発明は水性塩基に可溶性の導電性ポリマーと、電気的帯電を消失させるためのその利用に関するもので、これにより荷電粒子ビームを含む方法の精度を改善することに関するものである。特に本発明はポリパラフェニルビニレン、ポリアニリン、ポリアジン、ポリチオフェン、ポリ−p−フェニレンサルファイド、ポリ−p−フェニレンオキサイド、ポリフラン、ポリピロール、ポリセレノフェンおよびポリアセチレンを含む、電気伝導性の官能化されたポリマーに関するものである。このポリマー類は、これを水性塩基中に可溶性とする官能基を含み、またイオン性のメカニズムというよりも電子的なそれによる電気伝導性を可能にするパイ共役系を含んでいる。
【0002】
【背景技術】リソグラフの領域において、電子ビーム(E−ビーム)直接書き込み法は、サブミクロン級のパターンの面−面オーバーレイで、高い精度をもつレジスト像を得るためのもっとも信頼できる方法の1つである。この方法はサブミクロンデバイスのマイクロ回路作成に際して好都合に用いられている。しかしながら、今日のレジストは絶縁性の誘電体物質であり、これは電荷を取り込みレジスト面上に電場を発生させる。この帯電は入射する電子ビームを偏向させ、特にレジストの下側に厚い絶縁性の基板が用いられているときは、電子ビームの到達エラーまたは焦点ずれをも生じさせる。
【0003】このレジスト中に電荷が蓄積するという問題は、取り込まれた電荷を消失させるため、レジストの上部または下側に電気伝導性金属層を付着させることにより通常処置されている。この方法は多くの欠点を有している:高価な金属付着用の装置を必要とする;方法が複雑である;レジストが時に前露光されてしまう;金属除去に際してレジスト障害を生じる;そして金属放電層は普通低収率でありまたレジスト像の線幅コントロールに大きな変動を与える。ポリマー放電層は方法を簡易化し、コストを下げまた性能を向上させるため、潜在的の関心をもたれる代替法である。
【0004】日本国特許公開昭62−113,134号(Chem. Abst. 108: 65998z)には、シクロヘキサン中に溶解した高分子ポリカチオンとテトラシアノキノジメタン(TCNQ)とからなる錯塩溶液を、電子ビーム用レジスト上に付与することを示している。大規模集積回路製造のためのサブミクロンパターンがこのレジストを用いて形成される。すなわち、メタアクリレートタイプのレジストをもつシリコン基板にポリ(ビニルベンジルトリエチルアンモニウム)−TCNQ錯塩のシクロヘキサノン溶液を塗布し、走査電子ビームによりパターン化し、現像し、そしてリンスしてレジストパターンを形成させる。このタイプのポリマー放電層は有機溶剤によってのみ除去できるものであり;溶剤現像性のものには適しているが水性塩基現像性のレジスト系には適していない。
【0005】ワタナベとトドコロ両氏〔IEEE Trans. of Electron Devices, 36, 474, (1989)〕は、ポリ(p−スチレンスルホネート)の水溶性導電層を使用する、E−ビーム直接ウエハー書き込み法を説明している。このポリマー放電層は通常の露光前にE−ビームレジスト面に付与され、その後除去され、そしてこのE−ビームレジストを現像する。両氏はこのポリ(p−スチレンスルホネート)水溶性導電層を使用後に「0.2μmの誤差(E−ビームの精度に)がなお残存する」と述べている。ポリ(p−スチレンスルホネート)は偏在されたパイシステム中の電子移動によるよりむしろイオンの移動により電荷を移動させ、そして導電層としてのその性能はこの機構により自ずと制限される。
【0006】Angelopoulos氏他〔J. Vac. Sci. Technol. B7, 1519〜1523 (1989)〕は、イメージング用のレジストの下側に塗布した未置換ポリアニリンからなる電子ビームリソグラフのための放電層を示している。ポリアニリンは非導電性の形で塗布され、個々のウエハーを酸の中に6時間漬けるかまたはUV光に対して露光することにより活性化する。これはレジストの下側でのみ使用される。
【0007】Patil氏他〔J. Am. Chem. Soc. 109, 1858 (1987)〕は、エレクトロ重合を用いるポリ3−(4−ブタンスルホネート)チオフェンとポリ3−(2−エタンスルホネート)チオフェンのナトリウム塩および酸の形のものの合成を説明している。このポリマーはブロムによる処理後に約10 S/cmの導電性をもつと述べられている。このポリマーの有用性については論じられていない。
【0008】YueとEpstein両氏〔J. Am. Chem. Soc. 112, 2800 (1990)〕は、スルホン酸環置換ポリアニリンの合成を述べている。このポリマーは固体をpH7またはこれ以下の水溶液と平衡としたとき0.1 S/cmの導電率を有している。水溶液が塩基性(>pH7)となったとき、ポリマーは溶解するが、同時に非導電性の形に変化してしまう。このポリマーの有用性も論じられていない。
【0009】Bergeron氏他〔J. Chem. Soc. Chem. Comm. 1990, 180〕は、ポリ(アニリンプロパンスルホン酸)の合成を説明しており、このナトリウム塩は10-5 S/cmの電気伝導性を示している。著者はこのナトリウム塩はN−メチルピロリドン溶液から各種の基板上にフィルムとして塗布できると述べている。
【0010】米国特許第4,025,704号およびその分割の同第4,025,691号と同第3,963,498号は、有機溶剤中に可溶性でかつ10-3〜109オーム/cm間の抵抗値をもつポリアニリン半導体を示している。この半導体はフィルムとしてキャストすることができ帯電防止フィルムとして有用であるといわれ、そして抵抗器、キャパシター、整流器およびトランジスターなどの製作に用いることができる。末端基を除いて、このポリアニリンは未置換である。
【0011】米国特許第4,889,659号は、バッテリーの電極として使用するための〔NH−(CH=CH)nxの式をもつ「窒素化された電子伝導性ポリマー」を示している。その他多くの有用性が示唆されている。
【0012】米国特許第4,526,706号はラテックスの存在下に分散物を作ることによる、水性システムでの導電性フィルムの調製にポリアニリンを用いる一方法を示している。
【0013】米国特許第4,629,540号はフッ化物アニリンの存在下に超酸中で適切なモノマーの酸化によりポリアニリンを作る方法を示している。
【0014】このように、荷電粒子ビームからの荷電粒子の衝突により誘電体材料上に発生する、電気的帯電を消失させるため誘電体材料の表面に容易に付与することのできる、水性塩基可溶性の組成物についての必要性がいまも存在するのである。
【0015】
【発明の開示】本発明の1つの目的は、荷電粒子ビームからの荷電粒子の衝突により誘電体材料上に発生する、電気的帯電を消失させるため誘電体材料の表面に容易に付与することのできる、水性塩基可溶性の組成物を提供することである。
【0016】さらに本発明の目的は、それが付与をされる水性塩基に不溶性の表面を変化させることなしに、除去することができる帯電消失用の組成物を提供することである。
【0017】さらに本発明の目的は、誘電体材料が塩基可溶性のレジストである場合に、帯電消失用組成物の除去とレジストの現像とが一工程で達成できるような組成物を提供することである。
【0018】本発明の別の目的は、帯電消失用組成物に用いることのできる塩基可溶性の電気伝導性ポリマーを提供することである。
【0019】いま1つの目的は、金属的な帯電消失層を備える必要がない電子ビームリソグラフの精度を改善する一方法を提供することである。
【0020】組成物としての見地において、本発明は荷電粒子ビームから蓄積される電荷を消失させるために、置換および未置換のポリパラフェニルビニレン、ポリアニリン、ポリアジン、ポリチオフェン、ポリ−p−フェニレンサルファイド、ポリ−p−フェニレンオキサイド、ポリフラン、ポリピロール、ポリセレノフェンおよびポリアセチレンからなる群より選ばれた電気伝導性の、水性塩基可溶性のポリマーまたはオリゴマーの15〜100%から構成される組成物に関するものである。ポリアニリンとポリチオフェンとが好ましい。もっとも好ましいものはポリ(o−ヒドロキシアニリン)とポリ〔3−(2−エタンスルホネート)チオフェン〕である。
【0021】化合物としての見地において、本発明は特に以下の式をもつ電気伝導性ポリマーまたはオリゴマーに関するものである。
【0022】
【化4】


ここでRはOH、OCH3またはCOOH;R1は水素または低級アルキル;Qは水素または低級アルキル;yは0〜1間の数;xは4〜1,100の数;そしてA-はアニオンである。
【0023】RがOHでQが水素の化合物が好ましい。特に好ましいものは、R1が水素、yが0.4〜0.6、xが50〜750そしてA-がBr-である。
【0024】方法の見地において、本発明は次の式のポリマーを作るために、
【化5】


以下の式のポリマーと48%臭化水素酸とを反応させることからなる方法に関するものである。
【0025】
【化6】


【0026】さらに方法の見地において、本発明はメチルω−(3−チエニル)アルキルスルホネートを不活性溶媒、好ましくニトロメタン中で約2〜約3当量の塩化第2鉄と反応させることからなる、以下の式のポリチオフェンを調製するための方法に関するものである。
【0027】
【化7】


ここでtは4〜6,100の整数、そしてpは1〜4の整数である。
【0028】さらになお方法の見地において、本発明は誘電体表面上に衝突する荷電粒子ビームの精度を改善するため、水性塩基可溶性の、置換および未置換ポリパラフェニルビニレン、ポリアニリン、ポリアジン、ポリチオフェン、ポリ−p−フェニレンサルファイド、ポリ−p−フェニレンオキサイド、ポリフラン、ポリピロール、ポリセレノフェンおよびポリアセチレンからなる群より選ばれた非金属性の、電気伝導性材料を、前記表面の少なくとも一部に付与することからなる方法に関するものである。
【0029】荷電粒子ビームの精度の点で特に興味をもたれるものの1つは、以下のことから構成される電子ビームリソグラフ法である:(a) 基板にレジスト、好ましく水性塩基現像可能なレジストの少なくとも1つの層を被覆し;
(b) 水性塩基可溶性の置換および未置換のポリパラフェニルビニレン、ポリアニリン、ポリアジン、ポリチオフェン、ポリ−p−フェニレンサルファイド、ポリ−p−フェニレンオキサイド、ポリフラン、ポリピロール、ポリセレノフェンおよびポリアセチレンからなる群より選ばれた非金属性の電気伝導性材料、好ましくポリ(o−ヒドロキシアニリン)により前記レジスト層の少なくとも一部分を被覆し;
(c) 前記レジストとその上の前記非金属性の電気伝導性材料とをもつ前記基板を電子ビームに照射し、前記非金属性材料は電荷の蓄積を実質上防止し;そして(d) 前記非金属性材料を除去し、前記レジストを現像する。
【0030】本発明の目的のため、低級アルキルとは6個またはそれ以下の炭素をもつ直鎖または分岐鎖炭化水素残基を意味している。可溶性とは0.01重量%以上の溶解度をもつことを意味する。導電性とは、0.2μmの厚さの層が標準的な4点プローブ法で測定したときに、10-3 S/cm以上の導電率を示すことを意味している。
【0031】〔発明の実施のための最良の態様〕現在使用されている進歩したレジスト系は大部分水性塩基現像可能なものである。本発明の水性塩基可溶性の放電層をレジストの表面上に塗布したとき、この放電層はレジストの像が現像されるのと同時に除去することができる。このことは工程を簡素化し、それ故これは導電層の好ましい配置である。ポリマー放電層は、レジスト上にポリマー溶液をスピン塗布できるようにするため、水中に可溶性であることが好ましい。放電層の厚みは0.1〜0.2μmの範囲が最適である。
【0032】本発明によれば、ホトレジストの荷電粒子ビーム(イオンビーム、電子ビーム)露光の際に使用する水性塩基現像可能な放電層に、水性塩基に溶解性の置換基を含有する電気伝導性ポリマーからなるものが提供される。ここで用いられる導電性ポリマーはパイ共役系を含んでいる。ポリマーのチェーンの長さに限度はなく、長いチェーンの高分子量のポリマー、あるいは4〜5個のくり返し単位を含む短いチェーンのオリゴマーであることができる。導電状態において、これらのポリマーはポリマーのチェーン上で電荷を保持し、そしてドーパントはその存在がパイ共役系の拡張を起こさせるカウンターイオンとして作用する。
【0033】パイ共役系は分子全体に及んでいる必要はない。個々の分子のパイ共役系が隣接分子中のパイ共役系の一部と重なり合うことができるのが必要なだけである。そこで、導電性ポリマーと絶縁性ポリマーとのコポリマー、または導電性ポリマーと絶縁性ポリマーとの混合物も、本発明に従って機能するであろうことは当業者に明らかである。ここで述べたドーパントは遊離のイオンまたは置換基としてポリマーに結合しているイオンである。これらはモノイオン、ジイオン、トリイオンであり、ポリイオンであってもよい。
【0034】本発明の実施に際し有用なポリマーの1つのタイプは以下の式をもつ置換ポリアニリンである:
【化8】


ここでRとQの少なくとも1つは水性塩基可溶性の成分を有している。R、R1およびQは独立的に水素、有機または無機の基を示し;xは4〜1,100、好ましく50〜750でありそしてyは0〜1の値を有している。有機基の例はアルキルまたはアリール基である。無機の基の例はSiとGeである。これは単に例示であって限定するものではない。もっとも好ましい具体例は、yが0.5の値をもつポリアニリンのエメラルド色の塩基形のものである。
【0035】前記の式とこれに従う類似のものの局部的な電荷と局部的の2重結合とは簡易化して書かれている。実際電荷は、区別不可能なように窒素原子がイミンとアミンとになって、窒素原子と芳香環とを通じて分布しているのである。導電性状態において、Qは隣接窒素をカチオン性とするような残基で、たとえば、Qは低級アルキル、Cu++のような金属、または水性塩基可溶性化成分をもつアルキル基である。好ましくはQはHである。水性塩基可溶性化成分の例は−OH、または−COO-+、または−SO3-+であり、ここでM+はH+、Na+、K+、NH4+、または(Me)4+などである。−COO-または−SO3-が存在するとき、これらはカウンターアニオンとなり、ポリマーは自体ドープされる。これらの置換基はポリマーを適切な導電性にドープするのに充分かも知れないし、また遊離のカウンターアニオンが必要であるかも知れない。非アニオン性の水性塩基可溶性化置換基が存在するときは、ドーパントとして遊離のアニオンを必要とする。遊離アニオンの実例は:CF3SO3-、C65SO3-、SO4--、NO3-、ClO4-、BF4-、Cl-、Br-、I-、AsF6-、SbF6-、FeCl4-、SnCl6-、ポリアクリレートおよびポリ(ベンゼンスルホネート)などである。
【0036】大部分の水性塩基可溶性のポリマーはまた中性あるいは酸性の水中に可溶性である。導電性のポリマーは水溶性でかつスピン塗布可能であることが好ましい。もしポリマーが不溶性または限定された溶解性をもつときは、この伝導性ポリマーは水溶性の絶縁性ポリマーと混合することができる。意味のある導電性を達成するために、導電性ポリマーの割合は全量の15%以上であることが好ましい。この量以上で、導電性ポリマーのチェーンが互に重なり合うチャンスが充分に高くなり、層の適切な導電性が保証される。
【0037】絶縁性ポリマーと導電性ポリマーとの使用は、低い水溶性をもつ導電性ポリマーに対し限られるものではなく、この利点は高い溶解性をもつ導電性ポリマーでも同様に得ることができる。水溶性の絶縁性ポリマーの例はポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリメタクリル酸およびカルボキシメチルセルローズなどである。
【0038】本発明においてポリチオフェンを使用することもできる。ポリチオフェンは以下の一般式をもち、ここでtは4〜6,100の整数;R2aとR2bはHまたは有機あるいは無機の基;そしてR2の少なくとも1つは水性塩基可溶性化成分を含むものである。
【0039】
【化9】


【0040】ポリチオフェンはポリアニリンよりも高い酸化電位をもつことが知られている。水性塩基可溶性の伝導性ポリチオフェンはしばしば、荷電ビーム露光の際の像の歪みを防ぐため、捕らえられている電荷のすべてを消失させるのに充分なほど導電性ではない。この場合、導電性を補強するために水溶性の酸化剤が用いられる。この手法は導電性ポリマーのすべてについて有効に実行することができる。酸化剤の例は過硫酸アンモニウム、過酸化水素、塩化第2鉄および過塩素酸などである。
【0041】本発明の実施に際して有用なポリパラフェニルビニレンは以下の一般式を有している:
【化10】


ここでsは4〜4,900の整数;R3はHまたは有機あるいは無機の基で、各R3は同一または異なることができ、少なくとも1つのR3は水性塩基可溶性化成分を有している。
【0042】本発明の実施に際して有用なポリピロールは以下の一般式を有している:
【化11】


ここでwは4〜7,500の整数;R4はHまたは有機あるいは無機の基で、各R4は同一または異なることができ、少なくとも1つのR4は水性塩基可溶性化成分を有している。
【0043】本発明の実施に際して有用なポリフランは以下の式を有している:
【化12】


ここでzは4〜7,600の整数;各R5はHまたは有機あるいは無機の基で、各R5は同一または異なることができ、少なくとも1つのR5は水性塩基可溶性化成分を有している。
【0044】本発明の実施に際して有用なポリセレノフェンは以下の一般式を有している:
【化13】


ここでvは4〜4,000の整数;各R6はHまたは有機あるいは無機の基で、各R6は同一または異なることができ、そして少なくとも1つのR6は水性塩基可溶性化成分を有している。
【0045】本発明の実施に際して有用なポリアジンは以下の一般式を有している:
【化14】


ここでnは4〜9,700の整数;R7はHまたは有機あるいは無機の基で、各R7は同一または異なることができ、そして少なくとも1つのR7は水性塩基可溶性化成分を有している。
【0046】本発明の実施に際して有用なポリチオフェン、ポリフラン、ポリピロールおよびポリセレノフェンの組み合わせの実例は以下の式により示される:
【化15】


ここでR2、R4、R5およびR6は前の定義のとおり;a、b、cおよびdの少なくとも2つは1またはそれ以上であり;mは4〜7,500の整数そしてQ1、Q2およびQ3はビニレン基または隣接成分間の直接結合である。
【0047】本発明の実施に際して有用なポリ−p−フェニレンサルファイドは以下の一般式を有している:
【化16】


ここでfは4〜4,700の整数;R8はHまたは有機あるいは無機の基で、各R8は同一または異なることができ、そして少なくとも1つのR8は水性塩基可溶性化成分を有している。
【0048】本発明の実施に際して有用なポリ−p−フェニレンオキサイドは以下の一般式を有している:
【化17】


ここでgは4〜5,500の整数;R9はHまたは有機あるいは無機の基で、各R9は同一または異なることができ、そして少なくとも1つのR9は水性塩基可溶性化成分を有している。
【0049】本発明の実施に際して有用なポリアセチレンは以下の一般式を有している:
【化18】


ここでhは4〜12,500の整数;R10はHまたは有機あるいは無機の基で、各R10は同一または異なることができ、そして少なくとも1つのR10は水性塩基可溶性化成分を有している。
【0050】本発明の第1の面は水性塩基現像可能なレジスト系用のポリマー放電層の提供である。本発明のポリマーはレジスト上に水性溶液からスピン塗布される。レジストを荷電粒子ビームによって露光した後、放電層は水性塩基にさらすことによりレジストが現像されるのと同時に除去される。
【0051】水性塩基可溶性の放電層は、また有機溶剤現像可能なレジスト系にも好都合に使用することができる。この場合ポリマー放電層は、レジスト画像が有機溶剤により現像される前に水または水性塩基によってとり除かれる。しかしながら、水性溶液はレジスト上に放電層をスピン塗布する工程中、レジストに何の妨害もしないということは明白な利点である。そこで、本発明の第2の面は有機溶剤現像可能なレジスト系用のポリマー放電層の提供である。
【0052】さらに本発明の第3の面は電子顕微鏡のための可溶性放電層の提供である。この場合に、観察をされる物体は前述のように導電性ポリマーを塗布され、そして観察後この放電層はポリマーの溶解によりとり除かれる。物体はその後の利用のために回収される。この可溶性放電層の使用は、観察をされる物体がその後の利用のため不適切なものとされないため、金属性の伝導体を利用する可視化方法より大きな著るしい改善を与えるのである。
【0053】〔実施例1〕メチル2−(3−チエニル)エタンスルホネートを、A.O. Patil氏他〔J. Am.Chem. Soc. 109, 1858 (1987)〕により報告されたようにして2−(3−チエニル)メタノールから合成した。この「モノマー」は、文献中で報じられている低収量の電気化学的な方法の代わりに開発された、化学的重合法により重合させた。ニトロメタン中の2.3当量の塩化第2鉄溶液を、ニトロメタン中1当量のメチル2−(3−チエニル)エタンスルホネートに対して撹拌しながら0℃で添加した。添加終了後、ゆっくりと周囲温度にまで温めて反応させ、そして反応を一晩継続させた。ついでこの溶液をエーテルで希釈し、黒色沈殿のポリマー生成物を濾別した。
【0054】このスルホニルエステルポリマーは、前記の文献中で報じられているように、アセトン中のヨウ化ナトリウムを用いてナトリウム塩に変化させた。メチル2−(3−チエニル)エタンスルホネートモノマーからの、ポリ3−(2−エタンスルホネート)チオフェンナトリウム塩の収率は90%以上であった。酸型のポリマーは、ポリマーのナトリウム塩水溶液を、アンバーライトIR 120のような強酸イオン交換樹脂中を通過させて得ることができる。ポリマーのアンモニウム塩は、このポリマーの酸溶液をアンモニウムヒドロオキサイドで中和することにより得ることができる。
【0055】〔実施例2〕ポリアニシジンは、Huang氏他〔J. Chem. Soc. Faraday Trans. 1, 82, 2385(1986)〕と類似の方法により調製した。アニシジン(o−メトキシアニリン)は過硫酸アンモニウムの存在下に水性の酸性媒体中で重合させた。ポリアニシジン塩はアンモニウムヒドロオキサイドで処理することにより塩基性の形に変えられた。ポリマー収率は15〜25%であった。
【0056】ポリヒドロキシアニリンはポリアニシジンのエーテル開裂により得られる。ボロントリブロマイド、トリメチルシリコンアイオダイド、ピリジンヒドロクロライドおよびピリジンヒドロブロマイドなどを使用した実験では、部分的な塩基可溶性の物質を与えるだけであった(多分不完全なエーテル開裂のため)。完全な塩基可溶性のポリ(o−ヒドロキシアニリン)は、48%臭化水素酸でポリアニシジンのエーテル基を開裂することにより得られた。
【0057】ポリアニシジン塩基を48%臭化水素酸中でスラリーとし、撹拌しながら一晩還流した。粉末は甚だしく粘性となり濾過するのが著るしく困難となった。この酸と固体との混合物を水と大量のアセトンとで希釈し、固体を濾別し吸引して乾かした。乾燥ポリマーの収量は40〜60%で、このものはKOH現像液およびテトラメチルアンモニウムヒドロオキサイド現像液中に可溶性である。純水中では非常に低い溶解度を有している。
【0058】〔実施例3〕実施例2の方法に従って、ポリカルボキシアニリンを、メチルアンスラニレートから重合により作ったものを、ついでアルコール性水酸化カリウムによるメチルエステルのケン化により合成することを行った。
【0059】〔実施例4〕対照E−ビーム露光中のレジスト上の帯電効果を試験するために、Angelopoulos氏他〔J. Vac. Sci. Technol. B7, 1519〜1523 (1989)〕により述べられたようにして「ホンタス(Hontas)放電テスト」を行った。このテストは25Kevで25μC/cm2の作用量で行った。簡単に、このテストは以下のようにして行われる:
【0060】電子ビームを右から左に、ついで左から右にと連続的な方式で移動させる。このビームは1つの5mmウエハー上の2つのチップの各々の上に400個の小正方形(2×2μm)を書き込む。この正方形は両方向に250μm離れて位置しており、6.4×10-3%の密度を与えている。密度が低いためこれらの正方形上に帯電は生じない。ついで電子ビームは上部の右すみに移動し、そして2μmの各小正方形のまわりの10μm角を除く全チップ面の露光を開始する。このパターンは99.85%の密度を有している。
【0061】このテストにおいて、内側の正方形は参照として作動する。帯電効果がないとき、2μmの正方形は10μm角の中央に常に位置するであろう。もしレジスト上に帯電効果があるならば、2μm正方形は中央からずれて現われるであろう。一般に、上部右すみの最初の正方形は小さな露光区域により帯電からの効果が非常に少ないことを示している。一方、下部左すみにある最後の正方形(第400番目)は露光区域の高い密度による帯電に強く影響されよう。10μm角の中心からの2μm正方形のずれはレジスト上の帯電の程度を示している。この帯電現象はレジスト上に捕捉された電子からの結果、表面上に電位の蓄積が始まるものと考えられる。このネガチブの電場はついで決められた目標点から電子ビームをそらすように反発し、その結果レジスト上の画像パターンを歪ませることになる。
【0062】対照として、多層レジスト系でE−ビーム放電をテストした。5000オングストロームのSiO2層をシリコンウエハーの表面上に熱的に生成させた。このSiO2の表面上に平滑層として2.8μmのAZ 4210レジストをスピン塗布し、230℃で30分間ベークした。この硬くベークしたAZ 4210ホトレジストの表面上に、1μmのジアゾナフトキノン−ノボラックポジチブレジストをスピン塗布し、85℃で30分間ベークした。このイメージレジスト上に放電層は設けなかった。ついで、このレジストについて「ホンタス放電テスト」を行った。
【0063】このレジストは0.255N KOH現像液中で9.5分現像をした。最後の2μm正方形の画像は10μm角の中心から著るしくずれていた。この像の歪みはレジスト表面上の強い帯電によるものである。中心からの2μm正方形のずれはほぼ5μmである。この実験を放電テスト用の対照例にする。
【0064】〔実施例5〕ポリ(o−ヒドロキシアニリン)は蒸留水中で非常に限定された溶解度しか持たないが、溶液に対して等量のポリビニルアルコールを加えることにより水中に溶解させることができる。シエレックスR(エトキシル化イソステアリルアルコール)およびテトロニックR(エチレンジアミンとエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドのブロックコポリマー)のようなポリエーテル界面活性剤は、水中でのこのポリマーの溶解を改良すると思われるが、ポリビニルアルコールほど効果的ではない。水中の1.2%ポリ(o−ヒドロキシアニリン)と1.2%ポリビニルアルコールとの組成物を、実施例4で述べたような多層レジスト系の表面上にスピン塗布した。
【0065】2500rpmで約1000オングストロームの放電層のうすい塗膜が得られた。この放電層の導電率は約0.1 S/cmであった。ウエハーを90℃で1分間熱板でベークし、そして「ホンタス放電テスト」(実施例4)を行った。現像したレジストは像の歪みを何等示さなかった。2μm正方形は10μm角の中心にとどまっていた。これは表面上に導電性ポリマーのうすい層を付与したとき、レジスト表面上に帯電が生じないことを示している。
【0066】〔実施例6〕実施例4および5と同様のテストを、対照と対照の表面上に放電層をもつものの両方で、25℃において50KeVを使用して行った。テストの領域は50KeV用ツールの3.46×3.46mmのチップ上の5×5μm区画中の1×1μm正方形に縮小させた。放電層のないレジストは25KeVでのときよりも50KeVで像のずれは小さかったが、放電層をもつ試料と対照との間の差はなお著るしくまたレジストの表面上に帯電のないことが示された。
【0067】〔実施例7〕実施例1で説明したようにして合成した、ポリ3−(2−エタンスルホネート)チオフェンの酸型とアンモニウム塩型の両者は、4プローブ法で測定して10-3S/cm以下の導電率を示した。このポリマーをそこで以下のように過硫酸アンモニウムで処理した:前記ポリマーの水中4.375重量%のサスペンションに対して、過硫酸アンモニウムの0.125重量%を加え最終の全固体含有量を4.5%とした。この水溶液を実施例4で述べたようにして多層レジストの表面上にスピン塗布した。スピン速度は2000rpm、レジストの厚みは1200オングストロームである。ポストベークは熱板上90℃で1分間行った。この酸化されたポリマーは10-2〜10-1 S/cm間の導電率を示した。E−ビーム露光は実施例4で述べたように行った。最終レジスト像は中心からの像のずれを示さなかった。換言すれば、レジスト上の帯電作用は認められなかった。
【0068】安定性のテストとして、このチオフェンポリマーを水性溶液中塩化第2鉄の存在下に1週間放置し、ついでアンモニウム塩の形に変換しそして微量の硫酸を添加した。このポリマーから調製したウエハーについてのホンタス放電テストでは再び帯電作用のないことが示された。
【0069】〔実施例8〕ポリ(エトキシアニリン)は水−アセトン混合液中に可溶性であるが、水性塩基中には溶解しない。ポリ(エトキシアニリン)から調製された多層レジスト系は、ホンタス放電テストに合格するほど充分に導電性ではなく、またこの層は塩基性現像液によって除去されない。
【0070】〔実施例9〕YueおよびEpstein両氏(前出)のスルホン化されたポリアニリンは、その非導電性塩基の形においてのみ可溶性である。アンモニウムヒドロオキサイド溶液から、このポリマーを塗布しようとする試みは一様な塗膜を与えなかった。
【0071】〔実施例10〕ワタナベとトドコロ両氏のポリスチレンスルホネートアンモニウム塩を多層レジスト系の表面上に被覆し、そして実施例4で述べたようにしてテストをした。2μm正方形の像は10μm角の中心から2〜4μmずれていた。このことは帯電作用が減少はするが除去されてはいないことを示し、ポリマーがイオン的の機構によってのみ伝導することから予想された通りである。
【0072】本発明をその好ましい具体例を参照して特に示しかつ説明をしたが、本発明の精神と目的から逸脱することなしに、その態様の変更をなし得ることが当業者に理解されよう。
【0073】以上、本発明を詳細に説明したが、本発明はさらに次の実施態様によってこれを要約して示すことができる。
【0074】1) 置換および未置換のポリパラフェニルビニレン、ポリアニリン、ポリアジン、ポリチオフェン、ポリ−p−フェニレンサルファイド、ポリ−p−フェニレンオキサイド、ポリフラン、ポリピロール、ポリセレノフェンおよびポリアセチレンからなる群より選ばれた電気伝導性で、水性塩基可溶性のポリマーまたはオリゴマーの15〜100%を包含する、荷電粒子ビームからの蓄積された電荷を消失させるための組成物。
2) ポリマーまたはオリゴマーがポリアニリンまたはポリチオフェンである、前項1に記載の組成物。
3) ポリアニリンがポリ(o−ヒドロキシアニリン)である、前項2に記載の組成物。
4) ポリチオフェンがポリ〔3−(2−エタンスルホネート)チオフェン〕である、前項2に記載の組成物。
【0075】5) 以下の式を有するものである電気伝導性ポリマーまたはオリゴマー。
【化19】


ここでRはOH、OCH3またはCOOH;R1は水素または低級アルキル;Qは水素または低級アルキル;yは0〜1の数;xは4〜1,100の数;そしてA-はアニオンである。
6) QがHでありまたRがOHである、前項5に記載のポリマー。
7) R1が水素、yが0.4〜0.6、xが50〜750そしてA-がBr-である、前項6に記載のポリマー。
【0076】8) 以下の式のポリマーを48%臭化水素酸と反応させることからなる、前項6に記載のポリマーを調製するための方法。
【化20】


9) メチルω−(3−チエニル)アルキルスルホネートを不活性溶媒中で約2〜約3当量の塩化第2鉄と反応させることからなる、以下の式のポリチオフェンを調製するための方法。
【化21】


ここでtは4〜6,100の整数そしてpは1〜4の整数である。
【0077】10) 水性塩基可溶性で、置換および未置換のポリパラフェニルビニレン、ポリアニリン、ポリアジン、ポリチオフェン、ポリ−p−フェニレンサルファイド、ポリ−p−フェニレンオキサイド、ポリフラン、ポリピロール、ポリセレノフェンおよびポリアセチレンからなる群より選ばれた非金属性の、電気伝導性材料を前誘電体表面の少なくとも一部に付与することからなる、誘電体表面上に衝突する荷電粒子ビームの精度を改善するための方法。
11)(a) 基板にレジストの少なくとも1つの層を塗布し;
(b) 水性塩基可溶性で、置換および未置換のポリパラフェニルビニレン、ポリアニリン、ポリアジン、ポリチオフェン、ポリ−p−フェニレンサルファイド、ポリ−p−フェニレンオキサイド、ポリフラン、ポリピロール、ポリセレノフェンおよびポリアセチレンからなる群より選ばれた非金属性の、電気伝導性材料によって、前記レジスト層の少なくとも一部分を被覆し;
(c) 前記レジストとその上の前記非金属性の電気伝導性材料とをもつ前記基板を電子ビームに照射し、前記非金属性材料は電荷の蓄積を実質上防止し;そして(d) 前記非金属性材料を除去し、前記レジストを現像することからなる電子ビームリソグラフ方法。
12) 前記レジストが水性塩基現像可能なレジストであり、また前記の非金属性材料がポリ(o−ヒドロキシアニリン)である、前項11に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 置換および未置換のポリパラフェニルビニレン、ポリアニリン、ポリアジン、ポリチオフェン、ポリ−p−フェニレンサルファイド、ポリ−p−フェニレンオキサイド、ポリフラン、ポリピロール、ポリセレノフェンおよびポリアセチレンからなる群より選ばれた電気伝導性で、水性塩基可溶性のポリマーまたはオリゴマーの15〜100%を包含する、荷電粒子ビームからの蓄積された電荷を消失させるための組成物。
【請求項2】 以下の式を有するものである電気伝導性ポリマーまたはオリゴマー。
【化1】


ここでRはOH、OCH3またはCOOH;R1は水素または低級アルキル;Qは水素または低級アルキル;yは0〜1の数;xは4〜1,100の数;そしてA-はアニオンである。
【請求項3】 以下の式のポリマーを48%臭化水素酸と反応させることからなる、請求項2に記載のポリマーを調製するための方法。
【化2】


【請求項4】 メチルω−(3−チエニル)アルキルスルホネートを不活性溶媒中で約2〜約3当量の塩化第2鉄と反応させることからなる、以下の式のポリチオフェンを調製するための方法。
【化3】


ここでtは4〜6,100の整数そしてpは1〜4の整数である。
【請求項5】 水性塩基可溶性で、置換および未置換のポリパラフェニルビニレン、ポリアニリン、ポリアジン、ポリチオフェン、ポリ−p−フェニレンサルファイド、ポリ−p−フェニレンオキサイド、ポリフラン、ポリピロール、ポリセレノフェンおよびポリアセチレンからなる群より選ばれた非金属性の、電気伝導性材料を前誘電体表面の少なくとも一部に付与することからなる、誘電体表面上に衝突する荷電粒子ビームの精度を改善するための方法。
【請求項6】 (a) 基板にレジストの少なくとも1つの層を塗布し;
(b) 水性塩基可溶性で、置換および未置換のポリパラフェニルビニレン、ポリアニリン、ポリアジン、ポリチオフェン、ポリ−p−フェニレンサルファイド、ポリ−p−フェニレンオキサイド、ポリフラン、ポリピロール、ポリセレノフェンおよびポリアセチレンからなる群より選ばれた非金属性の、電気伝導性材料によって、前記レジスト層の少なくとも一部分を被覆し;
(c) 前記レジストとその上の前記非金属性の電気伝導性材料とをもつ前記基板を電子ビームに照射し、前記非金属性材料は電荷の蓄積を実質上防止し;そして(d) 前記非金属性材料を除去し、前記レジストを現像することからなる電子ビームリソグラフ方法。

【公開番号】特開平5−226238
【公開日】平成5年(1993)9月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−259348
【出願日】平成4年(1992)9月29日
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレイション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION